(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121569
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】集合住宅
(51)【国際特許分類】
E04H 1/04 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
E04H1/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028731
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004673
【氏名又は名称】パナソニックホームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】辻 正雄
(72)【発明者】
【氏名】中川 浩
(57)【要約】
【課題】 屋内共用部の快適性を向上することができる集合住宅を提供する。
【解決手段】 集合住宅1である。この集合住宅1は、複数の住戸2と、複数の住戸2に面し、かつ、外気から区画された共用空間である屋内共用部3と、屋内共用部3に空調された空気を供給するための空気調和機4とを含む。複数の住戸2のそれぞれは、床断熱構造21を有する。屋内共用部3は、屋内共用部3を囲む共用部基礎23を含む。共用部基礎23には、共用部基礎23の少なくとも一部を断熱するための断熱材25が設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集合住宅であって、
複数の住戸と、
前記複数の住戸に面し、かつ、外気から区画された共用空間である屋内共用部と、
前記屋内共用部に空調された空気を供給するための空気調和機とを含み、
前記複数の住戸のそれぞれは、床断熱構造を有し、
前記屋内共用部は、前記屋内共用部を囲む共用部基礎を含み、
前記共用部基礎には、前記共用部基礎の少なくとも一部を断熱するための断熱材が設けられている、
集合住宅。
【請求項2】
前記共用部基礎は、前記屋内共用部と屋外とを区画する第1部分と、前記屋内共用部と前記複数の住戸とを区画する第2部分とを含み、
前記断熱材は、前記第1部分に設けられている、請求項1に記載の集合住宅。
【請求項3】
前記断熱材は、前記第2部分に設けられている、請求項2に記載の集合住宅。
【請求項4】
前記第1部分の外周長L1と、前記第2部分の外周長L2との比L1/L2は、0.4~1.0であり、
前記断熱材は、前記第1部分のみに設けられている、請求項2に記載の集合住宅。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集合住宅に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の住戸を含む集合住宅が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、集合住宅において、各住戸に面する廊下や階段室等の共用部を、外気から区画されるように設けて屋内共用部とすることが検討されている。このような屋内共用部は、防犯等の観点では優れるが、屋外からの熱や冷気等がこもりやすく、快適性の向上ついて改善の余地があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、屋内共用部の快適性を向上することができる集合住宅を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、集合住宅であって、複数の住戸と、前記複数の住戸に面し、かつ、外気から区画された共用空間である屋内共用部と、前記屋内共用部に空調された空気を供給するための空気調和機とを含み、前記複数の住戸のそれぞれは、床断熱構造を有し、前記屋内共用部は、前記屋内共用部を囲む共用部基礎を含み、前記共用部基礎には、前記共用部基礎の少なくとも一部を断熱するための断熱材が設けられている、集合住宅である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の集合住宅は、上記の構成を採用することで、屋内共用部の快適性を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図4】本発明の他の実施形態の集合住宅での基礎の拡大図である。
【
図5】屋内共用部の熱損失量の差と、第1部分の外周長と第2部分の外周長との比との関係を示すグラフである。
【
図6】(a)、(b)は、第1部分の外周と第2部分の外周長との比が、互いに異なる集合住宅の基礎を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態が図面に基づき説明される。図面は、発明の内容の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれることが理解されなければならない。また、各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0010】
[集合住宅(第1実施形態)]
図1は、本実施形態の集合住宅1を示す概念図である。集合住宅1は、例えば、アパートやマンションとして構成される。本実施形態では、2階建ての集合住宅1である場合が例示されるが、例えば、1階建ての集合住宅であってもよいし、3階建て以上の集合住宅であってもよい。
【0011】
集合住宅1は、複数の住戸2と、屋内共用部3と、空気調和機4とを含んで構成されている。複数の住戸2及び屋内共用部3は、例えば、従来の集合住宅1と同様に、基礎5、外壁6、内壁7、床8、天井9及び屋根10等を含んで構成されている。
【0012】
[住戸]
各住戸2は、集合住宅1の一戸一戸であり、居住者の専有部である。各住戸2は、住居として必要な機能を具えており、例えば、居室16、トイレ17及び浴室(図示省略)等を含んで構成される。
【0013】
本実施形態の複数の住戸2は、1階の住戸2Aと、2階の住戸2Bとを含んでいる。1階の住戸2A及び2階の住戸2Bのそれぞれは、1戸のみであっても良いし、複数戸が含まれていてもよい。なお、1階の住戸2A及び2階の住戸2Bのそれぞれに、複数戸が含まれる場合には、それらの住戸2は、界壁(図示省略)によって区画される。
【0014】
[屋内共用部]
屋内共用部3は、複数の住戸2に面し、かつ、外気から区画された共用空間である。このような屋内共用部3は、外壁6によって、屋外(集合住宅1の外部)19と隔てられるため、防犯性が向上する。本実施形態の屋内共用部3は、各住戸2に面する廊下や階段室等として構成される。
【0015】
本実施形態の屋内共用部3は、1階の屋内共用部3Aと、2階の屋内共用部3Bとを含んでいる。これらの1階の屋内共用部3A及び2階の屋内共用部3Bは、廊下である場合が例示される。1階の屋内共用部3Aは、1階の住戸2Aに面している。一方、2階の屋内共用部3Bは、2階の住戸2Bに面している。
【0016】
本実施形態の屋内共用部3には、1階の屋内共用部3Aと、2階の屋内共用部3Bとの間で昇降可能な階段を有する階段室3Cが含まれる。この階段室3Cを介して、1階の屋内共用部3Aと、2階の屋内共用部3Bとの間で、空気の行き来が可能とされている。
【0017】
[空気調和機]
空気調和機4は、屋内共用部3に、空調された空気(以下、「空調空気」ということがある。)A1を供給するためのものである。本実施形態の空気調和機4は、室内機4Aと、集合住宅1の外部(屋外19)に設置された室外機(図示省略)とをセットとして含んでいる。
【0018】
本実施形態の室内機4Aは、集合住宅1の小屋裏14に設置されており、2階の天井9Bに吹出グリル4a及び吸込グリル(図示省略)が設けられている。このような室内機4Aにより、空調空気A1が、2階の屋内共用部3Bに供給され、さらに、階段室3Cを介して、1階の屋内共用部3Aに供給される。これにより、屋内共用部3の全体が空調される。したがって、屋外からの熱や冷気等がこもりやすい屋内共用部3において、快適性が向上しうる。
【0019】
本実施形態の室内機4Aは、空調空気A1を2階の屋内共用部3Bに供給しているが、このような態様に限定されない。空調空気A1は、例えば、1階の屋内共用部3に供給されてもよいし、1階の屋内共用部3及び2階の屋内共用部3の双方に供給されてもよい。
【0020】
[基礎]
図2は、
図1の基礎5の拡大図である。基礎5は、例えば、鉄筋コンクリートで形成されている。基礎5は、地中で水平に延びるベース部5aと、ベース部5aの幅方向の中央から上方へ延びかつ地面Gから突出する立ち上がり部5bとを含んで構成されている。基礎5で区画される領域には、例えば、土間(土間コンクリート)11が設けられている。
【0021】
[外壁・内壁]
図1に示されるように、外壁6は、集合住宅1の内部の空間(本例では、複数の住戸2及び屋内共用部3を含む)と、屋外19との間を区画するためのものである。一方、内壁7は、複数の住戸2と屋内共用部3とを区画するためのものである。これらの外壁6及び内壁7は、例えば、基礎5の上に配されている。また、外壁6及び内壁7には、従来のものと同様に、断熱材(図示省略)が配されていてもよい。
【0022】
[床]
本実施形態の床8は、1階の床8Aと、2階の床8Bとを含んで構成されている。
【0023】
1階の床8Aは、1階の住戸2Aの床を構成しており、例えば、基礎5の上に配されている。これにより、本実施形態の集合住宅1には、1階の床8Aと、基礎5と、土間11とで区画された床下空間12が設けられる。
【0024】
本実施形態の1階の床8Aは、複数の板パネルが並べられたフローリングで構成されている。一方、1階の屋内共用部3Aの床は、土間床11A(土間11)で構成されている。
【0025】
2階の床8Bは、2階の住戸2Bの床と、2階の屋内共用部3Bの床とを構成している。2階の住戸2Bの床は、例えば、1階の床8Aと同様に、フローリングで構成されている。一方、2階の屋内共用部3Bの床は、例えば、セメント板等で構成されている。
【0026】
[天井]
本実施形態の天井9は、1階の天井9Aと、2階の天井9Bとを含んで構成されている。本実施形態では、1階の天井9Aと2階の床8Bとの間に、階間13が形成されている。また、2階の天井9Bと屋根10との間に、小屋裏14が形成されている。
【0027】
[床断熱構造]
本実施形態の複数の住戸2のそれぞれは、床断熱構造21を有している。本実施形態では、複数の住戸2の床8に、床断熱材22が配置されることで、床断熱構造21が構成される。本実施形態の床断熱材22は、1階の住戸2Aの床8A及び2階の住戸2の床8Bのそれぞれの下面に配されているが、例えば、1階の住戸2Aの床8Aの下面のみに配されていてもよい。
【0028】
本実施形態の集合住宅1は、床断熱構造21によって、1階の住戸2Aと床下空間12との間、及び、2階の住戸2Bと階間13との間において、熱の出入りを抑制できる。これにより、複数の住戸2において、夏は涼しく、冬は暖かい状態が維持されうる。したがって、複数の住戸2の快適性が向上する。さらに、各住戸2が空気調和機(図示省略)によって空調される場合には、各住戸2の断熱性の向上により、空気調和機の空調効率が高められる。これにより、各住戸2において、空気調和機の空調コストが低減されうる。
【0029】
床断熱材22には、従来の断熱材を採用することができ、例えば、ポリスチレンフォーム、ウレタンフォーム、又は、フェノールフォーム等の板状体が採用されうるが、これに限られない。
【0030】
[共用部基礎]
図3は、基礎5の平面図である。
図3は、
図1のA-A断面図に相当する。
図1ないし
図3に示されるように、本実施形態の屋内共用部3は、屋内共用部3を囲む共用部基礎23を含んでいる。
図3において、共用部基礎23が、色付けして示されている。
【0031】
本実施形態の共用部基礎23は、集合住宅1に設けられた基礎5のうち、屋内共用部3を囲んでいる(1階の屋内共用部3Aを区画している)部分の基礎である。本実施形態において、共用部基礎23で区画される部分を除いて、各1階の住戸2Aを区画している基礎は、住戸基礎24として特定される。これらの共用部基礎23及び住戸基礎24は、
図2に示したベース部5aと立ち上がり部5bとを含んで構成されている。
【0032】
本実施形態の共用部基礎23は、第1部分23Aと、第2部分23Bとを含んで構成されている。
図3において、第2部分23Bは、第1部分23Aよりも、濃い色で示されている。
【0033】
第1部分23Aは、屋内共用部3と屋外19とを区画するためのものである。一方、第2部分23Bは、屋内共用部3と複数の住戸2とを区画するためのものである。本実施形態では、屋内共用部3の外周長(立ち上がり部5bの幅中心線Cに沿った水平長さ)Lのうち、第1部分23Aの外周長L1が、第2部分23Bの外周長L2よりも大きく設定されている。したがって、外周長L1と外周長L2との比L1/L2は、1.0よりも大きくなっている。
【0034】
[共用部基礎の断熱材]
共用部基礎23には、共用部基礎23の少なくとも一部を断熱するための断熱材25が設けられている。この断熱材25は、従来の基礎断熱材と同様のものが採用され、例えば、上述の床断熱材22(
図1に示す)と同様の材料で形成されうる。
図2に示されるように、断熱材25の厚さWは、適宜設定され、例えば、40~80mm程度に設定されうる。
【0035】
本実施形態の断熱材25は、共用部基礎23の立ち上がり部5bに沿って配置されている。さらに、本実施形態の断熱材25は、立ち上がり部5bの上端から下端(ベース部5aの上端)まで連続して延びている。
【0036】
本実施形態の集合住宅1では、共用部基礎23に設けられた断熱材25により、屋外19からの熱や冷気等が、共用部基礎23や、共用部基礎23に隣接する1階の屋内共用部3Bの床(土間床11A)を介して、屋内共用部3に伝わるのが抑制される。これにより、屋内共用部3において、夏は涼しく、冬は暖かい状態が維持される。したがって、屋内共用部3の快適性が向上する。
【0037】
さらに、
図1に示した空気調和機4によって屋内共用部3が空調される場合には、屋内共用部3の断熱性の向上により、空気調和機4の空調効率が高められる。これにより、空気調和機4の空調コストが低減されうる。
【0038】
図2及び
図3に示されるように、断熱材25は、屋内共用部3と屋外19とを区画する第1部分23Aに設けられているのが好ましい。これにより、屋外19からの熱や冷気等が、第1部分23Aや土間床11A(
図2に示す)を介して、屋内共用部3に伝わるのが抑制される。したがって、屋内共用部3の快適性が向上する。このような作用を効果的に発揮させるために、断熱材25は、
図3に示した第1部分23Aの全外周に配置されるのが好ましい。
【0039】
断熱材25は、屋内共用部3と複数の住戸2とを区画する第2部分23Bに設けられてもよい。これにより、住戸2の床下空間12の熱や冷気等が、第2部分23Bや土間床11Aを介して、屋内共用部3に伝わるのが抑制される。したがって、屋内共用部3の快適性が向上する。このような作用を効果的に発揮させるために、断熱材25は、第2部分23Bの全外周に配置されるのが好ましい。
【0040】
本実施形態の集合住宅1は、住戸2が有する床断熱構造21により、住戸2の断熱性が確保されているため、住戸基礎24に断熱材25が設けられていない。これにより、断熱材25が必要以上に増大するのが抑制され、集合住宅1の建築コストが低減されうる。
【0041】
[集合住宅(第2実施形態)]
ところで、
図1及び
図2に示した床下空間12を区画する土間11には、一年を通じて温度変化の少ない地中の熱(土間11の下方の地熱)が伝わっている。このため、床下空間12の空気は、土間11を介して、地中の熱と熱交換される。また、床下空間12は、基礎5及び1階の床8で区画されているため、太陽光から遮断されている。このため、夏季において、床下空間12の温度は、冷房された屋内共用部3の温度と同程度に低くなる場合がある。したがって、このような床下空間12の冷気を、第2部分23Bや土間床11Aを介して、屋内共用部3に伝えることができれば、屋内共用部3を冷却することができるため、屋内共用部3の快適性が向上すると考えられる。
【0042】
図4は、本発明の他の実施形態の集合住宅1での基礎5の拡大図である。この実施形態では、第1部分23Aのみに、断熱材25が設けられている。したがって、第2部分23Bには、断熱材25(
図2に示す)が設けられていない。
【0043】
この実施形態の集合住宅1では、第1部分23Aに断熱材25が設けられているため、これまでの実施形態と同様に、屋外19からの熱等が、第1部分23Aや土間床11Aを介して、屋内共用部3に伝わるのが抑制される。一方、第2部分23Bには、断熱材25が設けられていないため、夏季において、屋内共用部3に比べて温度が低くなる床下空間12の冷気が、第2部分23Bや土間床11Aを介して、屋内共用部3に伝えられる。これにより、この実施形態では、床下空間12からの冷気によって、屋内共用部3が冷却されるため、屋内共用部3の快適性が向上し、さらに、空気調和機4の空調効率(冷房効率)が高められる。さらに、第2部分23Bの断熱材25が省略されるため、集合住宅1の建築コストが低減されうる。
【0044】
一方、冬季においては、床下空間12の空気と地熱とが熱交換されるものの、床下空間12が太陽光から遮断されており、かつ、住戸基礎24に断熱材25が設けられていないため、屋内共用部3の温度に比べて、床下空間12の温度が低くなる傾向がある。さらに、夏季での床下空間12と屋内共用部3との温度差に比べると、冬季での床下空間12と屋内共用部3の温度との差が大きくなりやすい。このため、第2部分23Bに断熱材25が設けられないと、冬季での床下空間12の冷気が、第2部分23Bや土間床11Aを介して屋内共用部3に伝わり、屋内共用部3の快適性や、空気調和機4の空調効率(暖房効率)を、十分に向上できない場合がある。
【0045】
このように、第1部分23Aのみに、断熱材25が一律に設けられると、夏季においては、屋内共用部3の快適性や、空気調和機4の空調効率の向上できたとしても、冬季においては、これらを十分に向上させることができない場合がある。
【0046】
なお、第1部分23Aのみに断熱材25が設けられた屋内共用部3(
図4に示す)の熱損失量W1と、第1部分23A及び第2部分23Bの双方に断熱材25が設けられた屋内共用部3(
図2に示す)の熱損失量W2との差(W1-W2)が小さい場合には、第2部分23Bの断熱材25による断熱性能の向上分(熱損失量の低下分)が小さい。この場合、屋内共用部3の熱損失量に対しては、第1部分23Aの断熱材25による断熱性能が支配的となる。ここで、各熱損失量W1、W2のそれぞれは、屋内共用部3の夏季での熱流入量と、冬季での熱流出量との合計値として特定される。
【0047】
このように、差(W1-W2)が小さい屋内共用部3では、第2部分23Bの断熱材25による断熱性能の向上分が小さいため、第2部分25Bの断熱材25が省略されたとしても、冬季での屋内共用部3の快適性の悪化が抑えられうる。さらに、第2部分25Bの断熱材25が省略されることで、夏季の屋内共用部3の快適性が向上する。
【0048】
また、発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、上記の熱損失量の差(W1-W2)と、第1部分23Aの外周長L1と第2部分23Bの外周長L2との比L1/L2との間に相関があることを知見した。そして、熱損失量の差(W1-W2)が予め定められた基準値S以下となる比L1/L2で構成された共用部基礎23において、第1部分23Aのみに断熱材25が設けられることで、冬季での快適性の悪化を抑えつつ、夏季での快適性を向上させることを見出した。なお、基準値Sは、屋内共用部3の大きさや、屋内共用部3に求められる熱損失量の上限値等に応じて適宜設定され、例えば、50~150W(本例では、100W)に設定される。
【0049】
図5は、屋内共用部3の熱損失量の差(W1-W2)と、第1部分23Aの外周長L1と第2部分23Bの外周長L2との比L1/L2との関係を示すグラフである。
図6(a)~(b)は、第1部分23Aの外周長L1と第2部分23Bの外周長L2との比L1/L2が、互いに異なる集合住宅1の基礎5を示す平面図である。
図6(a)の比L1/L2は、0.16である。
図6(b)の比L1/L2は、0.44である。なお、
図3に示した集合住宅1の比L1/L2は、1.30である。
【0050】
この実施形態では、
図6(a)に示した集合住宅(比L1/L2:0.16)、
図6(b)に示した集合住宅(比L1/L2:0.44)及び
図3に示した集合住宅(比L1/L2:1.30)を対象に、第1部分23Aのみに断熱材25が設けられたときの熱損失量W1と、第1部分23A及び第2部分23Bに断熱材25が設けられたときの熱損失量W2がそれぞれ計算された。これらの熱損失量W1、W2は、コンピュータを用いたシミュレーションで計算された。そして、各集合住宅について、外周長の比L1/L2と、熱損失量の差(W1-W2)とに基づいてプロットされ、さらに、それらの近似曲線が特定されることで、
図5のグラフが作成された。計算条件は、次のとおりである。
集合住宅:
3階建て(階高:2.4m)
夏季:
外気の温度:35℃
屋内共用部の温度:26℃
床下空間の温度:25℃
地盤の温度:62℃
小屋裏の温度:45℃
外壁の外面の温度:44℃
冬季:
外気の温度:5℃
屋内共用部の温度:20℃
床下空間の温度:10.5℃
地盤の温度:5℃
小屋裏の温度:10℃
外壁の外面の温度:5℃
【0051】
図5に示されるように、比L1/L2が0.4~1.0となる範囲では、熱損失量の差(W1-W2)が小さくなっており、基準値Sを満たしている。
【0052】
比L1/L2が1.0以下の屋内共用部3(
図6(b)に示す)は、比L1/L2が1.0以上の屋内共用部3(
図3に示す)に比べると、第2部分23Bの外周長L2が相対的に大きく設定されている。このような屋内共用部3において、第2部分23Bの断熱材25が省略されることで、夏季の床下空間12の冷気が、屋内共用部3に効果的に伝えられるため、夏季での熱流入量が小さくなる。
【0053】
一方、比L1/L2が0.4以上の屋内共用部3(
図6(b)に示す)は、比L1/L2が0.4未満の屋内共用部3(
図6(a)に示す)に比べると、第2部分23Bの外周長L2が必要以上に大きくなるのが抑制されている。これにより、第2部分23Bの断熱材25が省略されても、冬季の床下空間12の冷気が、屋内共用部3に伝わるのを最小限に抑えることができるため、冬季での熱流出量が小さくなる。
【0054】
したがって、比L1/L2が0.4~1.0の屋内共用部3を有する集合住宅1では、
図4に示されるように、第1部分23Aのみに断熱材25が設けられるのが好ましい。これにより、冬季の屋内共用部3の快適性を維持しつつ、夏季の屋内共用部3の快適性が向上する。さらに、第2部分23Bの断熱材25の省略に伴って、集合住宅1の建築コストが低減されうる。このような作用を効果的に発揮させるために、比L1/L2が0.5~0.8である屋内共用部3において、断熱材25が第1部分23Aのみに設けられるのが好ましい。
【0055】
なお、比L1/L2が上記の範囲外となる屋内共用部3(
図3及び
図6(a)に示す)を有する集合住宅1では、これまでの実施形態と同様に、
図1ないし
図3に示されるように、第1部分23Aと第2部分23Bとの双方に、断熱材25が設けられるのが好ましい。これにより、夏季及び冬季での屋内共用部3の快適性の悪化が抑制されうる。したがって、屋内共用部3の快適性や、空気調和機4の空調効率の向上を図ることが可能となる。
【0056】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【0057】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0058】
[本発明1]
集合住宅であって、
複数の住戸と、
前記複数の住戸に面し、かつ、外気から区画された共用空間である屋内共用部と、
前記屋内共用部に空調された空気を供給するための空気調和機とを含み、
前記複数の住戸のそれぞれは、床断熱構造を有し、
前記屋内共用部は、前記屋内共用部を囲む共用部基礎を含み、
前記共用部基礎には、前記共用部基礎の少なくとも一部を断熱するための断熱材が設けられている、
集合住宅。
[本発明2]
前記共用部基礎は、前記屋内共用部と屋外とを区画する第1部分と、前記屋内共用部と前記複数の住戸とを区画する第2部分とを含み、
前記断熱材は、前記第1部分に設けられている、本発明1に記載の集合住宅。
[本発明3]
前記断熱材は、前記第2部分に設けられている、本発明2に記載の集合住宅。
[本発明4]
前記第1部分の外周長L1と、前記第2部分の外周長L2との比L1/L2は、0.4~1.0であり、
前記断熱材は、前記第1部分のみに設けられている、本発明2に記載の集合住宅。
【符号の説明】
【0059】
1 集合住宅
2 住戸
3 屋内共用部
4 空気調和機
23 共用部基礎
25 断熱材