IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ いすゞ自動車株式会社の特許一覧

特開2024-121579ファン制御装置、車両、およびファン制御方法
<>
  • 特開-ファン制御装置、車両、およびファン制御方法 図1
  • 特開-ファン制御装置、車両、およびファン制御方法 図2
  • 特開-ファン制御装置、車両、およびファン制御方法 図3
  • 特開-ファン制御装置、車両、およびファン制御方法 図4
  • 特開-ファン制御装置、車両、およびファン制御方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121579
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】ファン制御装置、車両、およびファン制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60K 11/02 20060101AFI20240830BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20240830BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
B60K11/02
B60L3/00 H
H02K9/19 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028745
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅田 奨平
【テーマコード(参考)】
3D038
5H125
5H609
【Fターム(参考)】
3D038AA05
3D038AA06
3D038AB01
3D038AC14
5H125AA01
5H125AC12
5H125CD06
5H125EE05
5H125EE52
5H609BB01
5H609PP02
5H609QQ04
5H609RR52
5H609SS20
5H609SS21
5H609SS22
5H609SS23
(57)【要約】
【課題】電動車両EVにおいて、ファンの回転によって生じる騒音を抑えつつ、冷却回路の冷却性能を確保することができるファン制御装置、車両、およびファン制御方法を提供する。
【解決手段】本開示のファン制御装置は、車両の走行速度情報、および、前記車両の電装部品を冷却する冷却回路を流れる冷媒の温度を示す冷媒温度情報を取得する取得部と、前記冷却回路のラジエータに送風するファンの回転数の第1候補値を前記走行速度情報に基づいて決定し、前記回転数の第2候補値を前記冷媒温度情報に基づいて決定し、前記第1候補値および前記第2候補値のうち、低い方の候補値を前記回転数として決定する制御部と、を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行速度情報、および、前記車両の電装部品を冷却する冷却回路を流れる冷媒の温度を示す冷媒温度情報を取得する取得部と、
前記冷却回路のラジエータに送風するファンの回転数の第1候補値を前記走行速度情報に基づいて決定し、前記回転数の第2候補値を前記冷媒温度情報に基づいて決定し、前記第1候補値および前記第2候補値のうち、低い方の候補値を前記回転数として決定する制御部と、
を備える、ファン制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記冷媒温度情報が示す冷媒温度が所定閾値以上である場合、前記第2候補値を前記回転数として決定する、
請求項1に記載のファン制御装置。
【請求項3】
前記電装部品は、前記車両を走行させるモータであり、
前記冷媒温度情報は、前記冷却回路に設けられたラジエータの流入口における前記冷媒温度を示している、
請求項1または2に記載のファン制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載のファン制御装置と、
前記冷却回路と、
を備える、車両。
【請求項5】
車両に搭載されたコンピューターが実行するファンの制御方法であって、
前記車両の走行速度情報、および、前記車両の電装部品を冷却する冷却回路を流れる冷媒の温度を示す冷媒温度情報を取得し、
前記冷却回路のラジエータに送風するファンの回転数の第1候補値を前記走行速度情報に基づいて決定し、
前記回転数の第2候補値を前記冷媒温度情報に基づいて決定し、
前記第1候補値および前記第2候補値のうち、低い方の候補値を前記回転数として決定する、
ファン制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載される冷却回路に設けられたファンを制御するファン制御装置、車両、およびファン制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両はバッテリに蓄えられた電力を用いてモータを回転させることで駆動力を得る。モータを動作させる際に熱が発生するため、モータを冷却する冷却回路を搭載した電動車両が開発されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-028323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、冷却回路において、冷却回路を流れる冷媒(例えば、冷却水)の温度に基づいて、ラジエータに送風するファンの回転数を決定する制御が行われている。このような制御により、冷媒をより冷却させたい場合はファンの回転数を多くしてラジエータによる冷却効果を高めることができる。
【0005】
しかしながら、電動車両の停止時、または低速走行時など、走行音が比較的小さい場合、ファンの回転によって生じる騒音が相対的に大きくなり、搭乗者が耳障りに感じることがある。
【0006】
本開示は、電動車両において、ファンの回転によって生じる騒音を抑えつつ、冷却回路の冷却性能を確保することができるファン制御装置、車両、およびファン制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係るファン制御装置は、車両の走行速度情報、および、前記車両の電装部品を冷却する冷却回路を流れる冷媒の温度を示す冷媒温度情報を取得する取得部と、前記冷却回路のラジエータに送風するファンの回転数の第1候補値を前記走行速度情報に基づいて決定し、前記回転数の第2候補値を前記冷媒温度情報に基づいて決定し、前記第1候補値および前記第2候補値のうち、低い方の候補値を前記回転数として決定する制御部と、を備える。
【0008】
本開示の一態様に係る車両は、上記のファン制御装置と、前記冷却回路と、を備える。
【0009】
本開示の一態様に係るファン制御方法は、車両に搭載されたコンピューターが実行するファンの制御方法であって、前記車両の走行速度情報、および、前記車両の電装部品を冷却する冷却回路を流れる冷媒の温度を示す冷媒温度情報を取得し、前記冷却回路のラジエータに送風するファンの回転数の第1候補値を前記走行速度情報に基づいて決定し、前記回転数の第2候補値を前記冷媒温度情報に基づいて決定し、前記第1候補値および前記第2候補値のうち、低い方の候補値を前記回転数として決定する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、電動車両において、ファンの回転によって生じる騒音を抑えつつ、冷却回路の冷却性能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の実施の形態に係るファン制御装置を含む冷却回路の構成の一例を説明するための図
図2】ファン制御装置の構成を説明するための図
図3】第1テーブルを例示した図
図4】第2テーブルを例示した図
図5】制御部による、ファンの回転数を決定する場合のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の各実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明、例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明等は省略する場合がある。
【0013】
<冷却回路100>
図1は、本開示の実施の形態に係るファン制御装置を含む冷却回路100の構成の一例を説明するための図である。冷却回路100は、駆動用モータ1と、ラジエータ2と、ファン3と、ファン制御装置4と、ポンプ5と、温度センサ6と、速度センサ7と、を有する。冷却回路100は、電動車両EVに搭載される。
【0014】
冷却回路100は、電動車両EVに搭載される。駆動用モータ1は、図示しないバッテリに充電された電力により電動車両EVの走行のための駆動力を発生させる高電圧モータである。駆動用モータ1は動作時に熱を発するため、冷却回路100は、冷媒(冷却水)を駆動用モータ1に供給し、駆動用モータ1を冷媒との熱交換により冷却する。つまり、冷却回路100は駆動用モータ1用の冷却回路である。特に図示などはしないが、電動車両EVは冷却回路100以外にも他の冷却回路を備えていてもよい。他の冷却回路としては、例えば、バッテリ用の冷却回路、または冷暖房設備用の冷却回路などが挙げられる。
【0015】
ラジエータ2は、冷却回路100に設けられたラジエータであり、冷媒と外気とを熱交換させて冷媒を冷却する。ファン3は、ファン制御装置4の制御に基づいて回転し、ラジエータ2に送風する。ファン3がラジエータ2に送風することにより、ラジエータ2内を通過する冷媒が効果的に冷却される。
【0016】
ファン3は、例えば電動車両EVの前後方向において、ラジエータ2の後ろ側に設けられている。ファン3が回転することにより、例えば電動車両EVの前側から空気が取り込まれ、ラジエータ2に送風される。
【0017】
ファン制御装置4は、ファン3の回転を制御する。より詳細には、ファン制御装置4は、外気温や電動車両EVの状態などの各種情報に基づいて、ファン3を回転させるタイミング、および回転数などの各種パラメータを決定し、決定したパラメータに基づく回転制御を行う。
【0018】
ポンプ5は、冷却回路100における冷媒の流れを発生させる。ポンプ5は、例えば図示しないポンプ制御装置の制御に基づいて動作する。ポンプ5の動作により、ラジエータ2から流れ出た冷媒は、ポンプ5、駆動用モータ1、温度センサ6の順に通過してラジエータ2に流れ込む。
【0019】
温度センサ6は、ラジエータ2に流れ込む冷媒の温度を検知する。温度センサ6はファン制御装置4に接続されており、ファン制御装置4は温度センサ6から冷媒温度に関する情報を取得することができる。以下の説明において、冷媒温度に関する情報を冷媒温度情報と記載する。なお、図1に示す例では、温度センサ6はラジエータ2の入口側に設置されており、ラジエータ2に流れ込む冷媒の温度を検知しているが、本開示はこれに限定されず、温度センサは冷却回路100の他の位置、例えばラジエータ2の出口側などに設置されていてもよい。
【0020】
速度センサ7は、電動車両EVの走行速度を検知する。速度センサ7は、例えば電動車両EVの図示しない車輪の時間当たり回転数などに基づいて走行速度を検知する。速度センサ7はファン制御装置4に接続されており、ファン制御装置4は速度センサ7から走行速度に関する情報を取得することができる。以下の説明において、走行速度に関する情報を走行速度情報と記載する。
【0021】
<ファン制御装置4>
図2は、ファン制御装置4の構成を説明するための図である。ファン制御装置4は、取得部41と、制御部42と、記憶部43と、を備える。なお、記憶部43はファン制御装置4の内部に設けられていなくてもよく、ファン制御装置4の外部に独立して設けられてもよい。ファン制御装置4は、CPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備える、いわゆるコンピューターである。
【0022】
取得部41は、電動車両EVの走行速度情報、および、電動車両EVの電装部品を冷却する冷却回路100を流れる冷媒温度情報を取得する。取得部41は、速度センサ7から走行速度情報を、温度センサ6から冷媒温度情報を、それぞれ取得する。
【0023】
制御部42は、走行速度情報および冷媒温度情報に基づいて、ファン3の回転を制御する。具体的には、制御部42は、走行速度情報および冷媒温度情報に基づいて、ファン3を回転させるか否かを常時判断する。制御部42は、ファン3を回転させると判断した場合、次にファン3の回転数を決定する。
【0024】
制御部42は、冷却回路100のラジエータ2に送風するファン3の回転数の第1候補値を走行速度情報に基づいて決定し、回転数の第2候補値を冷媒温度情報に基づいて決定し、第1候補値および第2候補値に基づいて、ファン3の回転数を最終的に決定する。制御部42がファン3の回転数を決定する方法の詳細については、後述する。
【0025】
記憶部43は、制御部42によるファン3の回転制御に必要な各種情報を記憶する。
【0026】
<制御部42によるファン3の回転数の決定方法>
以下では、制御部42によるファン3の回転数の決定方法について詳細に説明する。制御部42は、電動車両EVの走行速度に基づいて、ファン3の回転数の第1候補値を決定するとともに、冷却回路100の冷媒温度に基づいてファン3の回転数の第2候補値を決定する。そして、制御部42は、第1候補値および第2候補値に基づいて、ファン3の回転数を最終的に決定する。
【0027】
[第1候補値の決定方法]
まず、電動車両EVの走行速度に基づく回転数の候補値である、第1候補値の決定方法について説明する。制御部42は、記憶部43に予め記憶されている、電動車両EVの走行速度と第1候補値との関係を示す第1テーブルに基づいて、第1候補値を決定する。第1テーブルは、予め生成され、記憶部43に記憶されている。
【0028】
図3は、第1テーブルを例示した図である。図3に示す第1テーブルにおいて、ファン3の回転数がデューティ比で示されている。
【0029】
第1テーブルに示される第1候補値は、走行速度が低速であるほど、ファン3の回転数が小さくなるように設定されている。また、第1テーブルに示される第1候補値は、走行速度が一定速度(45km/h)より高速では、最大値である90%に設定されている。
【0030】
図3に示される第1テーブルに含まれる第1候補値は一例であり、本開示はこれに限定されない。第1テーブルに含まれる第1候補値の決定方法としては、例えば以下のような方法が挙げられる。すなわち、各走行速度で内燃機関車(例えば、ディーゼル車)を実際に走行させたときに計測された騒音を計測し、計測値に補正を掛けるなどして走行速度毎に許容できる音量を設定し、設定した音量を超えないように第1候補値を設定する方法である。
【0031】
図3に示す例では、走行速度が0km/hであるときの候補値は、内燃機関がアイドリング状態にあるときの内燃機関車の車外で計測した騒音値に基づき、適宜の補正値を減じることにより設定されている。このようにして候補値を設定するのは、例えば内燃機関車の走行速度が0km/hであるとき、ラジエータを冷却するファンの回転数によっては、車外において、内燃機関が出す騒音よりもファンの騒音の方が大きい場合があるからである。
【0032】
また、図3に示す例では、走行速度が5km/h以上であるときの候補値は、実際に内燃機関車がその速度で走行しているときの内燃機関車の車内で計測した騒音値に基づき、適宜の補正値を減じることにより設定されている。このように候補値を設定するのは、車両が停止しているときは、運転者が車外に出ることがあるのに対し、車両が走行しているときは運転者が車外に出ることが基本的にないからである。なお、補正値は速度にかかわらず同じであってもよいし、速度毎に異なる値であってもよい。
【0033】
また、図3に示す例において、走行速度が45km/h以上である場合、第1候補値は最大値である90%に設定されている。これは、車内で計測される騒音値が、ラジエータを冷却するファンを最大回転数で回転させたときに車内で聞こえる騒音値を超えることを示している。
【0034】
図3に示すように、第1候補値は、電動車両EVの走行速度に対応するように設定された候補値である。このため、第1候補値は、冷却回路100に求められる冷却性能を考慮しない候補値であると言える。
【0035】
このように、制御部42は、速度センサ7から取得した走行速度情報に基づいて、第1テーブルを参照し、現在の走行速度と対応する第1候補値を読み出す。これにより、制御部42は、第1候補値を決定することができる。
【0036】
[第2候補値の決定方法]
次に、冷媒温度に基づく回転数の候補値である、第2候補値の決定方法について説明する。制御部42は、記憶部43に予め記憶されている、冷媒温度と第2候補値との関係を示す第2テーブルに基づいて、第2候補値を決定する。第2テーブルは、予め生成され、記憶部43に記憶されている。
【0037】
図4は、第2テーブルを例示した図である。図4に例示される第2テーブルでは、駆動用モータ1に電力を供給するバッテリのパック数毎に、冷媒温度と第2候補値との関係が設定されている。これは、パック数が多いほどモータの出力が増大し、冷媒温度が上がりやすくなることを考慮したためである。
【0038】
図4に示す第2テーブルにおいて、冷媒温度が比較的低い(例えば、65℃以下)場合、冷媒を積極的に冷却する必要性が低いため、回転数の第2候補値は25%以下の値に設定されている。そして、冷媒温度が高くなるにつれて、第2候補値が大きな値に設定されている。
【0039】
上述したように、第2候補値は、冷媒温度に基づく候補値である。このため、第2候補値は、冷却回路100が必要な冷却性能を発揮するために設定された候補値であると言える。
【0040】
図4に示される第2テーブルに含まれる第2候補値は一例であり、本開示はこれに限定されない。第2テーブルに含まれる第2候補値の決定方法としては、例えば以下のような方法が挙げられる。すなわち、駆動用モータ1の仕様上要求される冷媒温度の上限値を超えず、かつ消費電力ができるだけ少なくなるように、実際の装置を用いた実験、またはシミュレーションなどによって第2候補値を設定する方法である。
【0041】
このように、制御部42は、温度センサ6から取得した冷媒温度情報に基づいて、第2テーブルを参照し、現在の冷媒温度と対応する第2候補値を読み出す。これにより、制御部42は、第2候補値を決定することができる。
【0042】
[回転数の最終的な決定方法]
制御部42は、第1候補値および第2候補値に基づいて、冷媒温度が所定温度未満である場合、第1候補値と第2候補値のうち、低い方の候補値を回転数とする。冷媒温度が所定温度以上である場合、制御部42は、第1候補値にかかわらず、第2候補値を回転数とする。これにより、駆動用モータ1が高温であって比較的大きな冷却性能が必要であるにもかかわらず、冷却性能に左右されない第1候補値が採用されてしまうことで、駆動用モータ1が好適に冷却されない事態を回避することができる。
【0043】
なお、所定温度は、例えば予め設定された閾値温度である。所定温度は、例えば、駆動用モータ1の仕様(定格出力など)に基づいて実験的に、またはシミュレーションにより決定されればよく、例えば74℃である。また、所定温度は、駆動用モータ1に電力を供給するバッテリを考慮してもよい。例えば、バッテリが有するパック数によってバッテリの定格出力は変動するが、パック数が多いほど定格出力も大きくなるので、これに合わせて所定温度を高く(例えば、2パックで74℃、3パックで93℃、5パック以上で98℃など)設定してもよい。
【0044】
このような決定方法により、電動車両EVの状態に応じて、適切なファン3の回転数を決定することができる。
【0045】
このようなファン3の回転数の決定方法により、以下の効果が得られる。電動車両EVが停止または低速で走行している場合、電動車両EVの走行音(風切り音、ロードノイズ、モータの駆動音など)は比較的小さいため、ファン3の回転による騒音が相対的に大きくなり、運転者にとって耳障りとなりやすい状況であると言える。このような状況において、制御部42は、第1候補値と第2候補値のうち、より低い方を回転数として採用しているので、ファン3の回転数をできるだけ低くすることができ、ひいてはファン3の回転による騒音を抑えることができる。
【0046】
なお、電動車両EVが停止または低速で走行している場合、駆動用モータ1に大きな負荷が掛かっていないので、冷却回路100に求められる冷却性能は比較的小さいと言える。このため、第2候補値より第1候補値の方が小さい場合、第1候補値を回転数として採用しても、冷却回路100が必要な冷却性能を発揮できないという事態は生じにくいと考えられる。
【0047】
例えば電動車両EVが比較的高速で走行した後、停止または低速走行に遷移した場合など、停止または低速走行中にもかかわらず駆動用モータ1が高温である場合、冷媒温度は上昇し、第1候補値よりも第2候補値の方が大きくなる。第2候補値は、冷却回路100が必要な冷却性能を発揮するために設定された候補値であるため、このような状況において、より低い第1候補値を回転数として採用してしまうと、冷却回路100が駆動用モータ1に対して必要な冷却性能を発揮できないことがある。制御部42は、冷媒温度が所定温度以上である場合、第1候補値に関わらず第2候補値を回転数として採用するため、冷却回路100は駆動用モータ1に対して必要な冷却性能を確保することができる。
【0048】
電動車両EVが比較的高速で走行する(例えば、走行速度が45km/h以上である)場合、電動車両EVの走行音が大きくなるため、ファン3の回転による騒音は相対的に小さくなる。このような状況では、冷却回路100が必要な冷却性能を発揮するため、ファン3を最大限に回転させればよい。第1テーブルによれば、走行速度が45km/h以上では第1候補値が最大値である90%となっており、第2テーブルにより決まる、冷却回路100が必要な冷却性能を発揮するために設定された第2候補値が回転数として採用されやすい。従って、上述したファン3の回転数の決定方法により、冷却回路100が十分に冷却性能を発揮できる回転数を決定することができる。
【0049】
以上説明したように、上述したファン3の回転数の決定方法により、ファン3の回転による騒音が運転者にとって耳障りとなりやすい状況では、回転数を比較的少なくして騒音を抑えることができる。また、ファン3の回転による騒音が問題とならない状況では、回転数を比較的大きくして必要な冷却性能を確保することができる。これにより、冷却回路100における騒音と冷却性能とを両立させることができる。
【0050】
[ファン3の回転数を決定する場合の動作フロー]
図5は、制御部42による、ファン3の回転数を決定する場合のフローチャートである。
【0051】
ステップS1において、制御部42は、走行速度情報および冷媒温度情報を取得する。
【0052】
ステップS2において、制御部42は、走行速度情報に基づいて第1テーブルを参照し、第1候補値を決定する。
【0053】
ステップS3において、制御部42は、冷媒温度情報に基づいて第2テーブルを参照し、第2候補値を決定する。
【0054】
ステップS4において、制御部42は、冷媒温度が所定温度以上であるか否かを判断する。所定温度以上であると判断した場合(ステップS4:YES)、制御部42は、動作をステップS5に進め、そうでない場合(ステップS4:NO)、ステップS6に進める。
【0055】
冷媒温度が所定温度以上である場合、ステップS5において、制御部42は、第2候補値をファン3の回転数として決定する。
【0056】
冷媒温度が所定温度未満である場合、ステップS6において、制御部42は、第1候補値と第2候補値のうち、低い方をファン3の回転数として決定する。
【0057】
ステップS5またはステップS6の後、ステップS7において、制御部42は、決定した回転数でファン3を回転させる。
【0058】
このような動作により、冷却回路100における騒音と冷却性能とを両立させることができる。
【0059】
<変形例>
以上、本開示の実施の形態について説明したが、本開示は、上述の形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0060】
上述した実施の形態では、冷却回路100は駆動用モータ1を冷却する回路であるとしたが、本開示はこれに限定されない。本開示の冷却回路の冷却対象は、駆動用モータ以外の他の高電圧部品であってもよい。また、本開示において、駆動用モータと他の高電圧部品の両方が冷却回路100の冷却対象であってもよい。
【0061】
また、上述した実施の形態では、冷媒温度が所定温度以上である場合、制御部42は、第1候補値に関わらず、第2候補値を採用する。本開示の変形例として、冷媒温度が所定温度以上である場合でも、駆動用モータ1の温度が仕様上設定されている許容温度(定格温度)未満であって、かつ、電動車両EVが駆動していない場合、制御部42は、第1候補値と第2候補値のうち、より低い方をファン3の回転数として採用してもよい。その理由は、電動車両EVが駆動していない場合、駆動用モータ1はそれ以上発熱しないため、ファン3の回転数として低い値を採用したとしても、駆動用モータ1の温度が低下する時間が増えるだけで、駆動用モータ1に温度による不具合は生じにくいからである。
【0062】
このような変形例を実現するためには、制御部42は、冷媒温度と、駆動用モータ1の温度と、駆動用モータ1の駆動状態に関する情報と、を取得し、冷媒温度が所定温度以上であっても、駆動用モータ1の温度が許容温度以下であり、かつ駆動用モータ1が駆動していないと判断した場合には、より低い方の候補値を採用すればよい。
【0063】
このような変形例によれば、例えば高速で走行する電動車両EVが停止した直後など、冷媒温度が比較的高い状況においても、駆動用モータ1の温度が許容温度未満であれば、ファン3の回転数を比較的低く抑えることができる。これにより、電動車両EVが停止している状態において、運転者がファン3の回転音を耳障りと感じる事態を低減することができるので、より好適である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本開示は、冷却回路に設けられファンの回転を制御するファン制御装置に有用である。
【符号の説明】
【0065】
100 冷却回路
1 駆動用モータ
2 ラジエータ
3 ファン
4 ファン制御装置
41 取得部
42 制御部
43 記憶部
5 ポンプ
6 温度センサ
7 速度センサ
EV 電動車両
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2024-06-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行速度情報、および、前記車両を走行させるモータを冷却する冷却回路を流れる冷媒の温度を示す冷媒温度情報を取得する取得部と、
前記冷却回路のラジエータに送風するファンの回転数の第1候補値を前記走行速度情報に基づいて決定し、前記回転数の第2候補値を前記冷媒温度情報に基づいて決定し、
前記冷媒温度情報が示す冷媒温度が所定閾値未満である場合、または、前記冷媒温度情報が示す冷媒温度が所定閾値以上であって、前記モータの温度が所定の許容温度未満、かつ前記モータが駆動していない場合に、前記第1候補値および前記第2候補値のうち、低い方の候補値を前記回転数として決定し、
前記冷媒温度情報が示す冷媒温度が所定閾値以上、かつ、前記モータの温度が所定の許容温度以上である場合に、前記第2候補値を前記回転数として決定する制御部と、
を備える、ファン制御装置。
【請求項2】
記冷媒温度情報は、前記冷却回路に設けられたラジエータの流入口における前記冷媒温度を示している、
請求項1に記載のファン制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のファン制御装置と、
前記冷却回路と、
を備える、車両。
【請求項4】
車両に搭載されたコンピューターが実行するファンの制御方法であって、
前記車両の走行速度情報、および、前記車両を走行させるモータを冷却する冷却回路を流れる冷媒の温度を示す冷媒温度情報を取得し、
前記冷却回路のラジエータに送風するファンの回転数の第1候補値を前記走行速度情報に基づいて決定し、
前記回転数の第2候補値を前記冷媒温度情報に基づいて決定し、
前記冷媒温度情報が示す冷媒温度が所定閾値未満である場合、または、前記冷媒温度情報が示す冷媒温度が所定閾値以上であって、前記モータの温度が所定の許容温度未満、かつ前記モータが駆動していない場合に、前記第1候補値および前記第2候補値のうち、低い方の候補値を前記回転数として決定し、
前記冷媒温度情報が示す冷媒温度が所定閾値以上、かつ、前記モータの温度が所定の許容温度以上である場合に、前記第2候補値を前記回転数として決定する
ファン制御方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本開示の一態様に係るファン制御装置は、車両の走行速度情報、および、前記車両を走行させるモータを冷却する冷却回路を流れる冷媒の温度を示す冷媒温度情報を取得する取得部と、前記冷却回路のラジエータに送風するファンの回転数の第1候補値を前記走行速度情報に基づいて決定し、前記回転数の第2候補値を前記冷媒温度情報に基づいて決定し、前記冷媒温度情報が示す冷媒温度が所定閾値未満である場合、または、前記冷媒温度情報が示す冷媒温度が所定閾値以上であって、前記モータの温度が所定の許容温度未満、かつ前記モータが駆動していない場合に、前記第1候補値および前記第2候補値のうち、低い方の候補値を前記回転数として決定し、前記冷媒温度情報が示す冷媒温度が所定閾値以上、かつ、前記モータの温度が所定の許容温度以上である場合に、前記第2候補値を前記回転数として決定する制御部と、を備える。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
本開示の一態様に係るファン制御方法は、車両に搭載されたコンピューターが実行するファンの制御方法であって、前記車両の走行速度情報、および、前記車両を走行させるモータを冷却する冷却回路を流れる冷媒の温度を示す冷媒温度情報を取得し、前記冷却回路のラジエータに送風するファンの回転数の第1候補値を前記走行速度情報に基づいて決定し、前記回転数の第2候補値を前記冷媒温度情報に基づいて決定し、前記冷媒温度情報が示す冷媒温度が所定閾値未満である場合、または、前記冷媒温度情報が示す冷媒温度が所定閾値以上であって、前記モータの温度が所定の許容温度未満、かつ前記モータが駆動していない場合に、前記第1候補値および前記第2候補値のうち、低い方の候補値を前記回転数として決定し、前記冷媒温度情報が示す冷媒温度が所定閾値以上、かつ、前記モータの温度が所定の許容温度以上である場合に、前記第2候補値を前記回転数として決定する