(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121594
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】組合せ加飾成形体およびその製法
(51)【国際特許分類】
A45D 33/18 20060101AFI20240830BHJP
B23K 26/36 20140101ALI20240830BHJP
B65D 25/20 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
A45D33/18 B
B23K26/36
B65D25/20 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028774
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000158781
【氏名又は名称】紀伊産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 親典
【テーマコード(参考)】
3E062
4E168
【Fターム(参考)】
3E062AA01
3E062AB01
3E062AB08
3E062AB20
3E062AC09
3E062BB06
3E062BB09
3E062DA01
3E062DA05
4E168AD00
4E168DA23
4E168DA24
4E168JA03
(57)【要約】
【課題】美麗な外観を有する組合せ加飾成形体およびその製法を提供する。
【解決手段】
板状の加飾成形体23と、上記加飾成形体23を保持する凹部24、もしくは開口部を有する枠状体25とを備えた組合せ加飾成形体であって、上記加飾成形体25が、透明部材からなる透明層30と、上記透明層30の裏面の略全面に直接、もしくは他の層を介して設けられる金属薄膜層33とを有し、上記加飾成形体23の裏面側における周縁部に、レーザ照射によって上記金属薄膜層33、もしくは上記金属薄膜層と他の層を所定幅Wで除去してなる除去領域Qが形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の加飾成形体と、上記加飾成形体を保持する凹部、もしくは開口部を有する枠状体とを備えた組合せ加飾成形体であって、
上記加飾成形体が、透明部材からなる透明層と、上記透明層の裏面の略全面に直接、もしくは他の層を介して設けられる金属薄膜層とを有し、
上記加飾成形体の裏面側における周縁部に、レーザ照射によって上記金属薄膜層、もしくは上記金属薄膜層と他の層を所定幅で除去してなる除去領域が形成されていることを特徴とする組合せ加飾成形体。
【請求項2】
上記除去領域が、上記加飾成形体の裏面側における周縁部の全周もしくは少なくとも一対の部分に形成されている、請求項1記載の組合せ加飾成形体。
【請求項3】
上記レーザ照射による除去領域の幅が、0.1~1.5mmである、請求項1または2記載の組合せ加飾成形体。
【請求項4】
上記透明層の厚みが、0.7~3.5mmである、請求項1または2記載の組合せ加飾成形体。
【請求項5】
板状の加飾成形体と、上記加飾成形体を保持する凹部、もしくは開口部を有する枠状体とを備えた組合せ加飾成形体を製造する方法であって、
上記板状の加飾成形体を準備する工程と、上記枠状体を準備する工程とを備え、
上記板状の加飾成形体を準備する工程が、透明部材からなる透明層の裏面全面に直接、もしくは他の層を介して金属薄膜層を設ける工程と、上記加飾成形体の裏面側における周縁部にレーザ照射を行うことにより、上記金属薄膜層、もしくは上記金属薄膜層と他の層の周縁部を、所定幅で除去して除去領域を形成する工程とを有することを特徴とする組合せ加飾成形体の製法。
【請求項6】
上記除去領域を形成する工程において、上記加飾成形体の裏面側における周縁部の全周もしくは少なくとも一対の部分に除去領域を形成するようにした、請求項5記載の組合せ加飾成形体の製法。
【請求項7】
上記レーザ照射による除去領域の幅が、0.1~1.5mmである、請求項5または6記載の組合せ加飾成形体の製法。
【請求項8】
上記透明層の厚みが、0.7~3.5mmである、請求項5または6記載の組合せ加飾成形体の製法。
【請求項9】
上記除去領域を形成する工程におけるレーザ照射が、YAGレーザまたはCO2レーザを用いて行われる、請求項5または6記載の組合せ加飾成形体の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、枠状体とその内側に保持される加飾成形体とを組み合わせてなる組合せ加飾成形体、およびその製法に関するものである。
【0002】
化粧料を収容したコンパクト容器や口紅容器等に用いられる樹脂成形体には、単に機能性だけでなく、見栄えがよい、商品イメージを反映したデザインである、といった意匠性も要求される。このため、容器表面に、奇抜なデザインの着色模様を付与したり、緻密な凹凸模様を付与したりして、アイキャッチ効果を高め、他社商品との差別化を図ることが重要な課題となっている。
【0003】
このような、樹脂成形体に加飾を施した成形体をコンパクト容器の蓋体に適用した例として、例えば
図6(a)およびそのY-Y’断面図である
図6(b)に示すようなコンパクト容器をあげることができる(特許文献1を参照)。
【0004】
上記コンパクト容器は、化粧料を収容する凹部2とパフ等を収容する凹部3とが設けられた容器本体1と、上記容器本体1にヒンジ連結を介して、鎖線で示すように上方に開閉自在に取り付けられる蓋体4とを有している。なお、上記蓋体4の前端面には、蓋体4を容器本体1に係合するための係合片8が設けられている。
【0005】
上記蓋体4は、透明アクリル樹脂成形体からなる透明部材で構成されており、その裏面全体に、金属薄膜層5が形成されている。また、その表面には、水玉模様からなる模様層6が形成されている。この構成によれば、上記表面側に設けられた模様層6の裏面が、透明な蓋体4を透かして光沢のある金属薄膜層5に映って陰影模様7となり、印象深い外観を与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
また、最近では、コンパクト容器等において、さまざまなデザインを付与した蓋体を、短時間で多品種小ロット生産できるように、例えば
図7(a)に示すように、板状の加飾成形体(天板)4aと、これを保持するための枠状体4b(天板に対して共通仕様)とを組み合わせて蓋体4’とするものが多用されている。他の構成は
図6と同じであり、同一部分に同一番号を付けてその説明を省略する。なお、上記加飾成形体4aは、通常、枠状体4bの凹部9内に粘着剤、両面テープ等を介して一体的に取り付けられる。
【0008】
このような加飾成形体4aとしては、通常、透明な樹脂板10の裏面側に、金属薄膜層12(着色層11等と金属薄膜層12とを組み合わせる場合も含む)を設け、上記金属薄膜層12の光沢を、樹脂板10の表面側から透かして見せるようにしたものが多い。そして、上記金属薄膜層12の形成は、例えば、ベースシート上に金属薄膜層12が形成された転写シートから、上記金属薄膜層12を樹脂板10に転写することによって行う。また、インモールド成形を用い、金型内に上記転写シートを配置して金属薄膜層12と樹脂板10とを一体化した状態で得ることもできる。
【0009】
しかしながら、上記転写シートは、一般に長尺ロールとして供給されており、加熱された転写ローラによって樹脂板10側に押し付けられることにより、金属薄膜層12を含む転写層がベースシート側から剥がれて樹脂板10側に転写されるか、あるいはインモールド成形によって樹脂板10と一体化されるようになっている。そして、転写された部分以外の層は、ベースシートとともに回収除去されるようになっている。
【0010】
このため、上記ベースシート側から樹脂板10側に転写層が剥がれる際、転写層の端面に引っ張り応力がかかり、場合によっては、転写層、とりわけ伸縮性のない金属薄膜層12の周縁部が引っ張られて千切れ、
図7(b)において太矢印で示すように、微小な欠けを生じることがある。
【0011】
上記微小な欠けは、ざっと見てもわかりにくく、また、加飾成形体4aの周端縁は枠状体4bの凹部9の内周面で隠れるため、「バリ取り」のような手当ては講じられていないのが実情である。
【0012】
ところで、近年、上記コンパクト容器等の加飾成形体は、加飾技術の進化に伴い、より微細な模様や繊細な色の変化を特徴とするものが増え、加飾成形体に対して目線の角度を変えることによって色味や模様の変化を楽しむものも多く提案されている。
【0013】
このため、
図7(a)に示すような、枠状体4bと組み合わせられる板状の加飾成形体4aにおいて、金属薄膜層12の周縁部に微小な欠けが存在すると、固定された視線では気にならなくても、視線を動かすと、加飾成形体4aの周縁部において、透明な樹脂板10のレンズ効果によって、樹脂板10の裏面側にある金属薄膜層12の微小な欠けが、表面側に拡大されて映り込み、場合によってはせっかくの美麗な外観を損なうことが判明した。
【0014】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、枠状体と加飾成形体とを組み合わせた組合せ加飾成形体において、加飾成形体の裏面側に形成された金属薄膜層が、製造工程で微小な欠けを生じる等の不具合を生じても、美麗な外観が維持されている組合せ加飾成形体とその製法の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するため、本発明は、以下の[1]~[9]を提供する。
[1] 板状の加飾成形体と、上記加飾成形体を保持する凹部、もしくは開口部を有する枠状体とを備えた組合せ加飾成形体であって、上記加飾成形体が、透明部材からなる透明層と、上記透明層の裏面の略全面に直接、もしくは他の層を介して設けられる金属薄膜層とを有し、上記加飾成形体の裏面側における周縁部に、レーザ照射によって上記金属薄膜層、もしくは上記金属薄膜層と他の層を所定幅で除去してなる除去領域が形成されている組合せ加飾成形体。
[2] 上記除去領域が、上記加飾成形体の裏面側における周縁部の全周もしくは少なくとも一対の部分に形成されている、[1]記載の組合せ加飾成形体。
[3] 上記レーザ照射による除去領域の幅が、0.1~1.5mmである、[1]または[2]記載の組合せ加飾成形体。
[4] 上記透明層の厚みが、0.7~3.5mmである、[1]または[2]記載の組合せ加飾成形体。
[5] 板状の加飾成形体と、上記加飾成形体を保持する凹部、もしくは開口部を有する枠状体とを備えた組合せ加飾成形体を製造する方法であって、上記板状の加飾成形体を準備する工程と、上記枠状体を準備する工程とを備え、上記板状の加飾成形体を準備する工程が、透明部材からなる透明層の裏面全面に直接、もしくは他の層を介して金属薄膜層を設ける工程と、上記加飾成形体の裏面側における周縁部にレーザ照射を行うことにより、上記金属薄膜層、もしくは上記金属薄膜層と他の層の周縁部を、所定幅で除去して除去領域を形成する工程とを有する組合せ加飾成形体の製法。
[6] 上記除去領域を形成する工程において、上記加飾成形体の裏面側における周縁部の全周もしくは少なくとも一対の部分に除去領域を形成するようにした、[5]記載の組合せ加飾成形体の製法。
[7] 上記レーザ照射による除去領域の幅が、0.1~1.5mmである、[5]または[6]記載の組合せ加飾成形体の製法。
[8] 透明層の厚みが、0.7~3.5mmである、[5]または[6]記載の組合せ加飾成形体の製法。
[9] 上記除去領域を形成する工程におけるレーザ照射が、YAGレーザまたはCO2レーザを用いて行われる、[5]または[6]記載の組合せ加飾成形体の製法。
【0016】
なお、本発明において「S~T」(S,Tは任意の数字)と表現する場合、特に断らない限り「S以上T以下」の意ととともに、「好ましくはSより大きい」または「好ましくはTより小さい」の意も包含する。
また、「S以上」(Sは任意の数字)または「T以下」(Tは任意の数字)と表現した場合、「Sより大きいことが好ましい」または「T未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、板状の加飾成形体と、上記加飾成形体を保持する凹部、もしくは開口部を有する枠状体とを備えた組合せ加飾成形体において、上記加飾成形体が、透明部材からなる透明層と、上記透明層の裏面の略全面に直接、もしくは他の層を介して設けられる金属薄膜層とを有するものであり、上記加飾成形体の裏面側の周縁部において、上記金属薄膜層(もしくは上記金属薄膜層と他の層)が、所定幅で除去されている。
【0018】
この構成によれば、加飾成形体の裏面側に形成された金属薄膜層等のうち、製造工程で微小な欠けを生じる等の不具合を生じやすい部分である、上記金属薄膜層等の周縁部が、所定幅でレーザ照射によって除去されて、欠けや歪みのない滑らかな端面となっているため、加飾成形体の美麗な外観が損なわれることがない。
【0019】
そして、本発明の組合せ加飾成形体の製法によれば、上記組合せ加飾成形体を、効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施の形態を示す外観斜視図である。
【
図3】上記実施の形態における加飾成形体の製法の説明図である。
【
図4】上記実施の形態における加飾成形体の製法の説明図である。
【
図5】上記実施の形態における加飾成形体の製法の説明図である。
【
図6】(a)は従来技術の一例を示す斜視図、(b)はそのY-Y’断面図である。
【
図7】(a)は従来技術の他の例を示す分解斜視図、(b)はその課題の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
つぎに、本発明を実施するための形態について説明する。ただし、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0022】
図1は、本発明の一実施の形態である組合せ加飾成形体を蓋体22に適用したコンパクト容器の斜視図であり、
図2は、そのX-X’断面の部分拡大図である。
このコンパクト容器は、容器本体21と、蓋体22とを備え、上記蓋体22は、板状の加飾成形体(天板)23と、これを保持するための凹部24を有する枠状体25とで構成されている。なお、上記加飾成形体23は、枠状体25の凹部24内に粘着剤、両面テープ等を介して一体的に取り付けられている。
【0023】
上記枠状体25は、黒色に着色されたアクリル樹脂の一体成形体品からなり、上記凹部24が形成された面とは反対側の面にも凹部26が設けられており、この凹部26内に、粘着剤、両面テープ等を介して鏡27が一体的に取り付けられている。そして、上記枠状体25の前端部には、蓋体22を容器本体21に係合するための係合片28が突設されている。
【0024】
一方、上記枠状体25の凹部24内に保持される加飾成形体23は、平面視長方形状の透明アクリル樹脂板からなる透明層30をベースとし、その裏面に、透明接着層31、着色層32、金属薄膜層33、透明保護層34がこの順で形成されている。そして、上記着色層32と金属薄膜層33とが重なった独特の色合いが、その上の透明層30を透かして、加飾成形体23の表面側から視認されるようになっている。なお、上記透明接着層31、着色層32、金属薄膜層33、透明保護層34は、後述するように、所定の転写シートから一体的に転写される層であり、この重なった四層をまとめて「転写層40」と称する。
【0025】
上記転写層40の一部は、平面視において所定の幾何模様を形成するように線状に切り欠かれており、その切欠き部35を通して、上記透明層30の表面側から枠状体25の黒色が見えるため、加飾成形体23の表面に、シャープな黒い線からなる幾何模様が付与されているかのように見えるようになっている。
【0026】
なお、上記転写層40は、上記透明層30の裏面の略全面に形成されているが、
図2に示すように、その透明層30の裏面の周縁部の全周にわたって、所定幅Wの領域Qには形成されていない。すなわち、上記透明層30の周端面より内側に所定幅Wで入り込んだ領域Qは、後述するように、レーザ照射によって、この部分に形成されていた転写層40が溶融気化して除去されており、その除去跡である転写層40の周端面40aが、滑らかな、凹凸のないきれいな垂直面になっている。この構成によれば、従来の課題となっていた、転写層40の周縁部における金属薄膜層33の欠け等の不具合がない。
このように、本発明において、「転写層40が透明層30の裏面の略全面に形成されている」とは、透明層30の裏面のうち、その周縁部の所定幅Wの領域Qには転写層40が形成されておらず、それに加えて上記のような切欠き部35が形成されている場合は上記切欠き部35等において転写層40が除かれている、その状態を示す趣旨である。
【0027】
上記蓋体22によれば、上記加飾成形体23の表面、すなわち蓋体22の表面を視認する際、視線の方向を動かしても、上記透明層30を透かして視認される、裏面側の独特の色合いと、その色合いを背景とした、上記切欠き部35によるシャープな幾何模様が、転写層40の端面における不具合によって損なわれることがなく、表面全体の美麗な印象がそのまま維持されている。
【0028】
上記蓋体22は、例えばつぎのようにして得ることができる。
すなわち、まず、加飾成形体23の透明層30となる樹脂板を射出成形によって得る。また、同様に、枠状体25を射出成形によって得る。
【0029】
一方、
図3に示すように、ベースシート50の上(図では下向き)に、透明保護層34と、金属薄膜層33と、着色層32と、転写用の透明接着層31とが、この順に積層された転写層40を形成することにより、転写シート51を得る。そして、上記転写シート50の転写層40の表面を、透明層30に対峙させる。なお、上記透明接着層31の表面は、転写作業の直前まで剥離シート(図示せず)で保護しておき、転写作業前に、これを剥がして、転写層40を露出させる。
【0030】
そして、上記転写シート51を、転写ロールによって加熱しながら透明層30に圧接し、転写層40を透明層30側に転写する。転写された部分以外の転写層40は、ベースシート50側に残った状態で回収される。
【0031】
上記転写動作時に、金属薄膜層33の上の透明保護層34が、離れていくベースシート50に引っ張られて少し延びるため、その下の、伸縮性がなく引っ張り強度も低い金属薄膜層33が、上記透明保護層34に追従して引っ張られ、転写される転写層40の端面よりも内側部分が千切れて微小な欠けを生じることがある。場合によっては、その下の着色層32も同様に欠けることがある。また、
図4に示すように、転写層40の周端面が、滑らかな垂直面ではなく歪んだ凹凸面になることもある。
【0032】
そこで、このような転写層40の周端面の不具合を解消するために、
図4において矢印で示すように、転写層40が形成された透明層30に対し、その転写層40が形成された側の面の、周縁部の全周にわたって、レーザ照射を行うことにより、転写時の周端面から内側に所定幅Wだけ入り込んだ所定領域Qの転写層40を溶融気化除去する。レーザによる照射領域を、
図4の平面図である
図5において、斜線部Pで示す。そして、上記レーザ照射によって除去された後の、転写層40の周端面40aは、
図2に示すような、不具合のない滑らかな垂直面になる。
【0033】
なお、上記レーザ照射を行うと同時に、あるいはその前、もしくはその後に、同じく上記透明層30上の転写層40を線状に切り欠くレーザ照射を行い、幾何模様となる切欠き部35を形成する。
【0034】
上記一連の工程を経由することにより、切欠き部35による幾何模様が付与された加飾成形体23を得ることができる。この加飾成形体23を、枠状体25の凹部24内に取り付けて保持するとともに、上記枠状体25の凹部26内に鏡27を貼付することにより、
図2に示す、本実施形態の蓋体22を得ることができる。
【0035】
なお、上記の例において、蓋体22の透明層30の材質は、従来から容器等の成形品に用いられる透明部材であれば、どのようなものであってもよく、アクリル樹脂の他、例えばポリエステル(PET)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)等があげられる。そして、上記透明層30は、その裏面側に形成された着色層32とその下の金属薄膜層33とが重なった色を、その反対側から透かして見せるために透明でなければならないが、必ずしも無色である必要はなく、多少着色されていても、反対側が透けて見えていれば問題ない。以下に述べる「透明」も、特に断らない限り、着色の有無を問わず、その反対側が透けて見える程度に透明であればよい。
【0036】
そして、上記透明層30の厚みは、この加飾成形体23の用途や要求される強度等に応じて、適宜に設定されるが、裏面側に形成される、切欠き部35による幾何模様やその背景となる色の奥行き感を考慮すると、通常、0.3~5mmであり、なかでも、0.7~3.5mmであることが好ましく、1.5~2.8mmであることが特に好ましい。上記透明層30の厚みが厚すぎると、加飾成形体23全体が嵩高いものになって取り扱いにくくなる傾向があり、逆に、上記厚みが薄すぎると、色や模様の奥行き感が乏しくなる傾向がある。
【0037】
また、上記透明層30の裏面に透明接着層31を介して形成される着色層32は、その下に形成される金属薄膜層33の光沢色に色味をつけるためのもので、その材質は、インク、塗料等、樹脂成形体の加飾に用いられるものであれば、どのようなものであってもよい。ただし、上記金属薄膜層33の光沢色と重なった色を、上記透明層30から見せる必要から、完全に不透明な層ではなく、上記金属薄膜層33の光沢色を見せる程度の透過性が必要である。そのため、上記着色層32は、透明もしくは半透明のパール等の粒子を分散含有するものであることが好ましい。
【0038】
なお、上記着色層32は、上記の例では、転写層40の一部として、他の層とともに転写シート50から転写したものであり、転写用の透明接着層31を介して透明層30の裏面に形成されるが、転写シート50を用いない場合、上記透明接着層31を用いることなく、透明層30の裏面に直接、印刷したり、塗工したりすることによって、着色層32を得ることができる。また、場合によっては、必ずしも上記着色層32を設ける必要はなく、透明層30の裏面に直接、金属薄膜層33を形成することができる。
【0039】
上記着色層32を設ける場合、その厚みは、特に限定されないが、例えば、上記の例のように、コンパクトタイプの化粧料容器の蓋体22に用いる場合、0.01~100μmであることが好ましく、0.04~50μmがより好ましい。すなわち、上記着色層32の厚みが薄すぎると、十分な色味を発現させることが難しく、逆に厚すぎると、加飾成形体全体が嵩高くなるとともに、転写工程や他の取り扱い工程において、その周縁部に、ひび割れや欠けが生じるおそれがあり、好ましくない。
【0040】
上記金属薄膜層33の材質は、加飾に用いられるものであれば、特に限定されず、通常、アルミニウム薄膜が用いられる。そして、上記の例では、金属薄膜層33は、着色層32とともに転写層40の一部として転写シート50から転写したものであるが、金属薄膜層33のみを単独で転写シートから転写してもよい。また、転写シート50等を用いない場合、上記着色層32の表面、もしくは着色層32を設けない場合は上記透明層30の裏面に直接、蒸着、スパッタリング、メッキ、ホットスタンプ等の適宜の方法で、金属薄膜層33を形成することができる。なお、上記金属薄膜層33についても、完全に不透明である必要はなく、ハーフ蒸着等によって半透明な層としてもよい。
【0041】
上記金属薄膜層33の厚みは、特に限定されないが、例えば、上記の例のように、コンパクトタイプの化粧料容器の蓋体22に用いる場合、0.01~100μmであることが好ましく、0.04~50μmがより好ましい。すなわち、上記金属薄膜層33の厚みが薄すぎると、層を均一に形成することが容易でなく、逆に厚すぎると、加飾成形体全体が嵩高くなるとともに、転写工程や他の取り扱い工程において、その周縁部に、より大きな欠けや歪み等が生じるおそれがあり、好ましくない。
【0042】
また、上記金属薄膜層33を保護する透明保護層34の材質も、金属薄膜(いわゆる箔)の保護に従来用いられているものであれば、特に限定されず、例えばアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂等が好適に用いられる。そして、上記透明保護層34も、上記の例では、金属薄膜層33等とともに、転写シート50から転写層40の一部として転写されるが、転写シート50を用いない場合は、上記金属薄膜層33の表面に、塗工等によって形成される。そして、上記金属薄膜層33自体が、剥がれにくい処理を施したものであったり、さらに他の層や他の部材と組み合わせられたりする場合には、上記透明保護層34は必ずしも必要ない。ただし、上記透明保護層34を設ける場合、その厚みは、特に限定されないが、通常、1~100μmであることが好ましく、1~10μmであることがより好ましい。上記厚みが厚すぎると金属薄膜層32対する保護機能が過剰になるとともに転写層40全体が硬くなるおそれがあり、上記厚みが薄すぎると、金属薄膜層33に対する保護機能が不十分になるおそれがある。
【0043】
そして、このように、透明層30の裏面に少なくとも金属薄膜層33を有する加飾成形体23全体の厚みは、この加飾成形体23の用途や要求される強度等に応じて、適宜に設定されるが、上記の例のようにコンパクト容器の蓋体22に用いる場合、通常、0.5~6mmであり、なかでも、0.7~4mmであることが好ましく、1.5~3mmであることが特に好ましい。
【0044】
また、上記の例において、レーザ照射によって、転写層40の周縁部を所定幅Wだけ除去する工程において(
図2、
図5を参照)、上記の幅Wは、0.1~1.5mmであることが好ましく、なかでも、0.3~1mmであることがより好ましい。すなわち、上記の幅Wが狭すぎると、転写シート50からの転写層40の転写時に生じやすい転写層40端面の不具合、特に金属薄膜層33の欠け部分を完全に除去することが難しくなるおそれがある。また、上記所定幅Wが広すぎると、透明層30の表面側から視認される金属薄膜層33等が、透明層30の外周端面より内側に入り込んでいることが認識されやすく、美観上好ましくない。
【0045】
なお、上記転写層40の周縁部を、レーザ照射によって除去する工程において、用いるレーザの種類は、除去対象とする層の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、上記の例のように、着色層32と金属薄膜層33とを含む層を除去する場合は、両者を効率よく除去することのできるCO2レーザを用いることが好適である。また、上記着色層32を含まず、金属薄膜層33のみを除去する場合は、樹脂表面を荒らすことのないYAGレーザを用いることが好適である。
【0046】
また、上記の例では、レーザ照射によって、透明層30の裏面に形成された転写層40の周縁部を、その全周にわたって所定幅Wで除去することにより、透明層30の裏面周縁部全周に除去領域Qを設けたが(
図5を参照)、上記除去領域Qは、必ずしも全周に連続して形成する必要はなく、加飾成形体23の形状や、加飾模様における金属薄膜層33の欠けが生じやすい部分等を勘案して、間隔をあけて部分的に形成しても差し支えない。
【0047】
例えば、上記の例のように加飾成形体23が平面視矩形状の場合、その周縁部のうち、互いに向かい合う少なくとも一対の部分に除去領域を形成することができる。また同様に、加飾成形体23の平面視形状が、円形状、偶数辺を有する多角形状のものにおいても、同様に、その互いに向かい合う少なくとも一対の部分に除去領域を形成することができる。
【0048】
さらに、加飾成形体23の平面視形状が、三角形状やそれより多い奇数辺を有する多角形状からなる場合も、それらの、向きの異なる辺同士(必ずしも平行に向かい合う辺にはならない)において、部分的に除去領域を形成してもよい。もちろん、いずれの形状であっても、その周縁部全周にわたって除去領域を形成してもよい。
【0049】
そして、上記の例では、加飾成形体23と組み合わせる枠状体25として、上記加飾成形体23を保持するための凹部24を有する略浅皿状のものを用いたが、加飾成形体23を保持するための凹部24は必ずしも必要ではなく、底部が大きく開口した、枠部分のみからなる枠状体であってもよい。その場合、枠部分の内周側部分と加飾成形体23の外周部分とを互いに係合させる係合手段を設けることが望ましい。
【0050】
なお、これらの例は、本発明をコンパクト容器の蓋体に適用したものであるが、上記蓋体は、上記の例のように完全に平たい板状である必要はなく、緩やかに湾曲したものであってもよい。したがって、上記蓋体に用いられる加飾成形体も湾曲していてもよい。すなわち、本発明において、「板状の加飾成形体」とは、湾曲したものや多少凹凸を有するものも含む趣旨であり、全体として概ね板状であればよい。そして、上記の例のように、平面視形状が長方形である必要はなく、円形や楕円形、多角形等であってもよい。
【0051】
ただし、単純な形状であるものの方が、周縁部における金属薄膜層の欠け等による不具合が目立ちやすいため、本発明の構成を適用することによる効果が大きい。そして、本発明を適用する成形体は、コンパクト容器に限らず、各種の、加飾成形体と枠状体とを組み合わせて印象的な外観を与える組合せ加飾成形体であれば、特に限定するものではない。例えば、携帯電話や各種携帯端末のケース、文房具、家電製品等に広く適用することができる。
【実施例0052】
つぎに、本発明の実施例について、比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
[実施例1~6]
上記実施の形態に従い、
図1、
図2に示すコンパクト容器と同様の構成のコンパクト容器を準備した。すなわち、蓋体22の加飾成形体23は、透明アクリル樹脂板(平面視縦70mm、横96mmの長方形状)を透明層30とし、その裏面に転写シート50から転写した転写層40を設けることによって加飾を施したものである。なお、上記透明層30の厚みは、後記の表1に示すとおりである。また、上記転写層40の構成は、下記のとおりである。
【0054】
<転写層40の構成>
透明接着層31 厚み2μm
着色層32 厚み2μm
金属薄膜層33 アルミニウム蒸着層、厚み0.05μm
透明保護層34 アクリル系樹脂層、厚み2μm
そして、透明層30の裏面に転写層40を転写した後、その周縁部を、CO2レーザによって、溶融気化除去加工を行った。上記転写層40の周縁部のレーザ照射による除去幅Wは、後記の表1に示すとおりである。
【0055】
[実施例7]
転写層40として、着色層32のない、下記の構成のものを用いた。また、転写層40周縁部をレーザ照射によって除去する際、CO2レーザに代えてYAGレーザを用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、目的とするコンパクト容器を準備した。
<転写層40の構成>
透明接着層31 厚み2μm
金属薄膜層33 アルミニウム蒸着層、厚み2μm
透明保護層34 アクリル系樹脂層、厚み2μm
【0056】
[比較例1]
基本的には実施例1のコンパクト容器と同様の構成であるが、転写層40の周縁部をレーザ照射によって除去していないものを準備した。
【0057】
上記実施例1~7品、比較例1品について、以下のとおり外観評価を行い、その結果を、後記の表1に併せて示した。
【0058】
[外観評価]
各実施例品、比較例品の蓋体22を、真上から観察するとともに、容器を前後左右に傾けて、周縁部に不自然な陰影等の不具合が映り込んで全体の印象を損なっていないかどうかを確認した。評価は、専門モニター5名が各例3個ずつ外観観察を行い、下記の評価基準に従って評価した。
○…詳細に観察しても、3個とも美麗な外観であり、不具合は視認されない。
△…詳細に観察すると、少なくとも1個にごく小さな不具合があることがわかる。
×…詳細に観察するまでもなく、少なくとも1個に明らかな不具合があることがわかる。
【0059】
【0060】
上記の結果から、実施例1~7品は、全く外観が損なわれていないか、詳細な観察でなければ気付かないごく小さな映り込みを有する程度のものであり、いずれも美麗な外観を維持している。これに対して、比較例1品は、容器を動かすだけで明らかに不具合が視認されるため、実用上好ましくないことがわかる。
本発明は、枠状体と加飾成形体とを組み合わせた組合せ加飾成形体において、加飾成形体の裏面側に形成された金属薄膜層が、製造工程で微小な欠けを生じる等の不具合を生じても、美麗な外観を有するため、見栄えが重視される各種の組合せ加飾成形体として有用である。