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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121598
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】塗布針および塗布装置
(51)【国際特許分類】
   B05C 1/02 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
B05C1/02 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028781
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】尾関 佑斗
(72)【発明者】
【氏名】大庭 博明
【テーマコード(参考)】
4F040
【Fターム(参考)】
4F040AA02
4F040AC01
4F040BA04
4F040CA01
4F040CA02
4F040CA03
4F040CA09
4F040CA13
(57)【要約】
【課題】塗布量を一定化すると共にタクトタイムの短縮を図ることができる塗布針および塗布装置を提供する。
【解決手段】塗布針24は、対象材の表面に塗布材料を塗布する塗布針である。塗布針24の先端部24aは、側面部分31と、この側面部分31の長手方向先端縁に繋がる先端部分32とを含み、先端部分32を除く側面部分31に、撥水性または撥油性を有する皮膜33が設けられている。側面部分31は、円筒部31aと、この円筒部31aの先端縁に繋がるテーパ部31bとを有し、このテーパ部31bは、先端側に向かうに従って小径となるテーパ形状に形成されている。先端部分32は、この塗布針24の長手方向に直交する平坦面32aに形成されている。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象材の表面に塗布材料を塗布する塗布針であって、
この塗布針の先端部は、側面部分と、この側面部分の長手方向先端縁に繋がる先端部分とを含み、前記先端部分を除く前記側面部分に、撥水性または撥油性を有する皮膜が設けられている塗布針。
【請求項2】
請求項1に記載の塗布針において、前記側面部分は、円筒部と、この円筒部の先端縁に繋がるテーパ部とを有し、このテーパ部は、先端側に向かうに従って小径となるテーパ形状に形成されている塗布針。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の塗布針において、前記先端部分は、外径側縁部から中心部に向かうに従って凹む凹み面に形成されている塗布針。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の塗布針において、前記先端部分は、この塗布針の長手方向に直交する平坦面に形成されている塗布針。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の塗布針と、この塗布針を前記対象材の表面に対し垂直な方向に駆動するための駆動源と、前記塗布材料を貯留し前記塗布針を前記塗布材料内に浸漬させる塗布材料容器と、前記塗布針、前記駆動源および前記塗布材料容器を支持する架台と、を含む塗布機構を備えた塗布装置。
【請求項6】
請求項5に記載の塗布装置において、前記対象材に対し前記塗布機構を直交3軸方向に相対移動する直動ユニットを備えた塗布装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布量を一定化して安定性、再現性の高い塗布針および塗布装置を実現する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、RFID(Radio Frequency Identification)タグなどの微細な回路を印刷(塗布)方式で描画して形成するプリンテッドエレクトロニクス技術が急速に発展してきている。微細な回路のパターンおよび電極パターンを形成する方式としては、インクジェット方式、ディスペンサ方式等が一般的であるが、塗布針を用いた方式も、広範囲の粘度の材料を用いて微細な塗布が可能な点で注目されている。
【0003】
塗布針を用いて液体材料の微細な塗布を行なう方法については、例えば、特許文献1に開示されている塗布ユニットを用いる方法が提案されている。このような塗布ユニットは、微細パターンの欠陥を修正することを目的とするもので、広範囲な粘度の塗布材料を用いて微細な塗布を行なうことが可能である。塗布動作の際、塗布材料を保持する材料容器の底部に形成された貫通孔から、1本の塗布針を突出させる。塗布針は、先端に付着している塗布材料を対象物に接触させて塗布を行なう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4802027号公報
【特許文献2】特開2008-119641号公報
【特許文献3】特開2008-155180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記塗布装置では、基板への材料転写量を一定化させるために、塗布針先端に付着した材料を基板に接触させ、先端に付着した材料のみを転写する場合がある。
材料を転写する対象物の表面に傾斜または凹凸がある場合、塗布針先端と対象物との距離が一定しない。このため、塗布針先端に付着した材料と対象物との接触時間がばらつき、転写量が安定しない。
【0006】
この解決策として、例えば、対象物との距離を測定し、この距離に基づいて塗布針先端の位置を補正してから、塗布する方法が考えられる。この方法では、塗布針先端の位置を検出するために高精度な変位センサ等の搭載が必要となり装置のコストがアップすること、塗布する場所の高さをあらかじめ測定しなければならずタクトタイムが長くなる等の問題がある。
【0007】
上記問題点の解決策として、塗布針表面に撥水または撥油の性質を有する皮膜を設ける技術(特許文献2,3)が提案されている。
特許文献2では、図10Aに示すように、塗布針34の先端部における側面に、撥水撥油性を有する被膜35が帯状に形成されている。かかる被膜35を設けることにより、図10Bのように、修正剤36は先端平坦面37から被膜35に至る領域にのみ付着する。
【0008】
図11のように、特許文献3の塗布針38は、ピン先端部全体を覆うように、撥水性を有する樹脂素材を含む撥水加工層39が形成されている。撥水加工層39が形成された部分においては、強撥水性が得られるため、インクの乾燥固着を防ぐことが可能となる。また、塗布針38表面におけるインクの流動性が高くなり、基板などの塗布対象物へのインク転写の際、一定量のインクの流し込みという機能が高められる。
【0009】
特許文献2,3ともに、先端平坦面のみに付着した材料を転写することが難しい場合がある。このため、特許文献2,3では、例えば、段落0006に記載の方法で塗布針先端の位置を補正してから、塗布針先端に付着した材料のみを対象物に接触させて転写する方法がある。しかしながら、この方法では、対象物との教理を測定するための高精度なセンサが必要でありコストが掛かること、対象物との距離を測定する必要があるためタクトタイムを増加させるという問題がある。
【0010】
本発明の目的は、塗布量を一定化すると共にタクトタイムの短縮を図ることができる塗布針および塗布装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の塗布針は、対象材の表面に塗布材料を塗布する塗布針であって、
この塗布針の先端部は、側面部分と、この側面部分の長手方向先端縁に繋がる先端部分とを含み、前記先端部分を除く前記側面部分に、撥水性または撥油性を有する皮膜が設けられている。
【0012】
この構成によると、塗布針の先端部のうち、先端部分を除く側面部分に、撥水性または撥油性を有する皮膜が設けられている。このため塗布針の先端部において、側面部分には、撥水性または撥油性を有する皮膜により塗布材料が付着せず、先端部分のみに塗布材料を付着することができる。したがって、塗布針の先端部分を対象材の表面に近接させ、先端部分のみに付着した塗布材料を対象材の表面に転写することができる。よって、塗布量を一定化すると共に、前述の先行技術よりもタクトタイムの短縮を図ることができる。
【0013】
前記側面部分は、円筒部と、この円筒部の先端縁に繋がるテーパ部とを有し、このテーパ部は、先端側に向かうに従って小径となるテーパ形状に形成されてもよい。このテーパ部により先端部分の直径を所望の寸法にすることが可能となる。これにより塗布量の一定化をさらに図ることができる。
【0014】
前記先端部分は、外径側縁部から中心部に向かうに従って凹む凹み面に形成されてもよい。この場合、凹み面に塗布材料を保持するため、先端部分が平坦面に形成される塗布針よりも、塗布材料を多く保持することができる。したがって、塗布針から一度に転写させる塗布量を多くし前述の先行技術よりもタクトタイムの短縮をさらに図ることができる。
【0015】
前記先端部分は、この塗布針の長手方向に直交する平坦面に形成されてもよい。この場合、例えば、塗布針の先端部全体に皮膜を形成した後、先端部分に付着した皮膜のみを平坦に除去することで、容易に平坦面を形成し得る。先端部分を平坦面に形成することで、先端部分の直径を所望の寸法により確実に定めることができる。
【0016】
本発明の塗布装置は、塗布針と、この塗布針を前記対象材の表面に対し垂直な方向に駆動するための駆動源と、前記塗布材料を貯留し前記塗布針を前記塗布材料内に浸漬させる塗布材料容器と、前記塗布針、前記駆動源および前記塗布材料容器を支持する架台と、を含む塗布機構を備えている。この場合、広範囲の粘度の塗布材料を用いて微細なパターンを対象材の表面に形成することができる。
【0017】
前記対象材に対し前記塗布機構を直交3軸方向に相対移動する直動ユニットを備えてもよい。この場合、対象材に対し塗布機構を直動ユニットにより直交3軸方向に相対移動させ、塗布材料の転写を連続的に行うことが可能となる。これにより作業効率の向上を図れる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の塗布針は、塗布針の先端部のうち、先端部分を除く側面部分に、撥水性または撥油性を有する皮膜が設けられている。このため、塗布量を一定化すると共にタクトタイムの短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施形態に係る塗布装置の斜視図である。
図2A】同塗布装置の塗布機構の正面を拡大して示す拡大正面図である。
図2B】同塗布機構の側面を拡大して示す拡大側面図である。
図3A】同塗布機構のカム等を部分的に拡大して示す部分拡大図である。
図3B】同カムのカム面を含むフランジ部を側面から見た展開図である。
図4A】同塗布機構の塗布針ホルダの斜視図である。
図4B】同塗布針ホルダの分解斜視図である。
図5A】同塗布機構の要部の断面図である。
図5B】同塗布機構の塗布針をZ軸方向に移動させた状態の断面図である。
図6】同塗布針の先端部の縦断面図である。
図7A】同塗布針の先端部に付着した塗布材料の転写メカニズムを示す図である。
図7B】同塗布針の先端部分が基板に接触するように下降させたときの塗布材料の状態を示す図である。
図8】同塗布針の下降速度と溶液付着状態との関係を示す図である。
図9A】本発明の第2の実施形態に係る塗布針の先端部の縦断面図である。
図9B】本発明の第3の実施形態に係る塗布針の先端部の縦断面図である。
図9C】本発明の第4の実施形態に係る塗布針の先端部の縦断面図である。
図9D】本発明の第5の実施形態に係る塗布針の先端部の縦断面図である。
図9E】本発明の第6の実施形態に係る塗布針の先端部の縦断面図である。
図10A】従来例における塗布針の先端部の縦断面図である。
図10B】同塗布針に修正剤が付着した状態を示す縦断面図である。
図11】他の従来例における塗布針の先端部の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1の実施形態]
本発明の実施形態に係る塗布装置を図1ないし図8と共に説明する。
<塗布装置の全体構成>
図1のように、塗布装置は、処理室PRと、直動ユニットDUと、塗布機構4と、観察光学系6と、観察光学系6に接続されたCCDカメラ7と、制御部CUとを備える。処理室PRの内部に、対象材である基板5が支持され、基板5に対し塗布機構4等を用いた処理が行われる。
制御部CUは、塗布機構4の駆動源を制御すると共に、基板5に対する塗布機構4の相対位置を制御する。また制御部CUは観察光学系6を制御する。観察光学系6は、基板5の塗布位置を観察するためのものである。CCDカメラ7は、観察光学系6で観察した画像を電気信号に変換する。基板5は、例えば、柔軟性を有する樹脂から成る薄板状である。
【0021】
<直動ユニット>
処理室PRの内部には、直動ユニットDUが設置されている。直動ユニットDUは、基板5に対し塗布機構4を直交3軸方向に相対移動するいわゆるXYZステージである。直動ユニットDUは、移動駆動用のアクチュエータであるX,YおよびZ軸用の直動アクチュエータ11,12,13を有する。各直動アクチュエータ11,12,13は制御部CUにより制御される。処理室PRの底部上に、装置本体の奥行き方向であるY軸用の直動アクチュエータ12が設置されている。
【0022】
Y軸用の直動アクチュエータ12は、処理室PRの底部上においてY軸方向に沿って延びるガイド部12aと、ガイド部12aに沿って摺動するY軸テーブル2と、駆動部材であるモータ12bと、モータ12bの回転を直線往復動作に変換するボールねじ等の変換機構12cとを有する。Y軸テーブル2の上部には、基板5が支持される。モータ12bにより変換機構12cを動作させることにより、Y軸テーブル2がガイド部12aに沿ってY軸方向に移動可能になっている。
【0023】
X軸用の直動アクチュエータ11は、装置本体の左右方向であるX軸方向に沿って延びるガイド部11aと、ガイド部11aに沿って摺動するX軸テーブル1と、駆動部材であるモータ11bと、モータ11bの回転を直線往復動作に変換するボールねじ等の変換機構11cとを有する。処理室PRの底部上に門型の構造体14が設置され、構造体14は、Y軸テーブル2をX軸方向に跨ぐように架設されている。構造体14の上部に、前記ガイド部11aが設置されている。モータ11bにより変換機構11cを動作させることにより、X軸テーブル1がガイド部11aに沿ってX軸方向に移動可能になっている。
【0024】
Z軸用の直動アクチュエータ13は、X軸およびY軸方向にそれぞれ直交するZ軸方向(この例では上下方向)に進退する。Z軸用の直動アクチュエータ13は、X軸テーブル1に支持される。Z軸用の直動アクチュエータ13は、Z軸方向に沿って延びるガイド部13aと、ガイド部13aに沿って摺動するZ軸テーブル3と、駆動部材であるモータ13bと、モータ13bの回転を直線往復動作に変換するボールねじ等の変換機構13cとを有する。X軸テーブル1に連結された立板状の連結部15に、前記ガイド部13aが設置されている。モータ13bにより変換機構13cを動作させることにより、出力部となるZ軸テーブル3がガイド部13aに沿ってZ軸方向に移動可能になっている。Z軸テーブル3には、塗布機構4および観察光学系6が支持されている。
【0025】
<塗布機構>
図2Aの塗布機構4は、塗布針24をZ軸方向に駆動するための駆動源であるサーボモータ41、塗布針24、駆動力変換機構部16および架台17を含む。図1のZ軸テーブル3に、図2Aの架台17を介してサーボモータ41が支持されている。サーボモータ41は、基板5の表面に対し垂直な方向に駆動するための駆動源である。サーボモータ41はZ軸方向に延び且つZ軸心回りに回転する図示外の回転軸を有する。架台17に、サーボモータ41、駆動力変換機構部16および塗布針24が支持される。塗布機構4は、市場において独立して取引可能である。
【0026】
<駆動力変換機構部>
駆動力変換機構部16は、サーボモータ41の回転駆動力を、基板5の表面に対し垂直な方向であるZ軸方向の力に変換する機構部である。駆動力変換機構部16は、カム43、軸受44、カム連結板45、可動部46、塗布針ホルダ固定部47、塗布針ホルダ収納部48、塗布針ホルダ20および塗布材料容器21を有する。サーボモータ41の前記回転軸にはカム43が連結され、カム43は前記回転軸を中心に回転可能である。カム43は、中心部43aと、フランジ部43bとを含む。
【0027】
中心部43aは、前記回転軸の先端部に同軸に連結された中空円筒状の部材である。中心部43aにおけるZ軸方向下端部に、フランジ部43bが設けられている。図3Aのように、フランジ部43bの上面はカム面61となっている。カム面61は、中心部43aの外周に沿って円環状に形成され、フランジ部43bの底面からの距離が変動するようにスロープ状に形成されている。具体的には、図3Bのように、カム面61は、上端フラット領域62と、下端フラット領域63と、スロープ部Spとを含む。
【0028】
カム面61のうち上端フラット領域62は、フランジ部43b(図3A)の底面からの距離が最も大きい領域である。下端フラット領域63は、円周方向に間隔を隔てて設けられ、フランジ部43b(図3A)の底面からの距離が最も小さい領域である。スロープ部Spは、上端フラット領域62と下端フラット領域63との間を接続するスロープ状である。図2Bのように、カム43のカム面61に、軸受44の外輪外周面が接する。
【0029】
架台17には、Z軸方向に延びるリニアガイド49が設置されている。リニアガイド49に、可動部46、塗布針ホルダ固定部47および塗布針ホルダ収納部48がZ軸方向に移動可能に支持されている。可動部46に、Z軸方向に延びるカム連結板45の基端部が固定されている。図2Aのように、カム連結板45の先端部には、軸受44がX軸方向の回転軸心回りに回転自在に支持されている。
【0030】
可動部46には、塗布針ホルダ固定部47および塗布針ホルダ収納部48が連結されている。塗布針ホルダ収納部48に、塗布針ホルダ20の大部分が収納されている。塗布針24は、塗布針ホルダ20の下面において同塗布針ホルダ20からZ軸方向に突出するように配置されている。塗布針24は、基板5の表面に対し垂直な方向つまりZ軸方向に移動可能である。
【0031】
図2Bのように、可動部46に第1の固定ピン52が設けられ、架台17に第2の固定ピン51が設けられている。第1,第2の固定ピン52,51間に、引張りコイルばねから成るバネ50が設けられている。可動部46は、バネ50によりZ軸方向下方に向けた引張り力を受けた状態になっている。バネ50による引張り力は、可動部46およびカム連結板45を介して軸受44に作用する。したがって、軸受44は、バネ50の引張り力によって、カム43のカム面61に押圧された状態を維持する。
【0032】
架台17のZ軸方向下端部には、塗布材料容器21が支持されている。塗布針ホルダ20に対しZ軸方向下方に所定間隔を隔てて塗布材料容器21が配置され、塗布針24は、塗布材料容器21に挿入された状態で保持されている。
図5Aのように、塗布材料容器21は、塗布材料70を貯留し塗布針24を塗布材料70内に浸漬させる。図5Bのように、塗布材料容器21の底部には、塗布材料70に浸漬された塗布針24の先端部24aが突出可能な貫通孔21aが設けられている。制御部CU(図1)は、塗布材料容器21の貫通孔21aから塗布針24の先端部24aを突出させるように、図2Aのサーボモータ41を制御する。塗布針24は、基板5の表面に対し垂直な方向であるZ軸方向に移動可能である。よって、塗布針24は基板5の表面に塗布材料70を塗布し得る。
【0033】
<塗布針ホルダについて>
図4Aのように、塗布針ホルダ20は、ホルダベース22と、塗布針24の基端部24bを支持する塗布針固定板25と、ホルダ蓋23とを有する。図4Bのように、ホルダベース22の内部には凹部22aが形成され、凹部22aに略直方体形状の塗布針固定板25が支持される。塗布針固定板25のZ軸方向下端部に、塗布針24の基端部24bが接着等により固定されている。ホルダベース22の凹部22aには、塗布針固定板25の移動方向を規定するリニアガイド26が設けられている。塗布針固定板25は、リニアガイド26に接触した状態でホルダベース22に対しZ軸方向に移動自在に保持されている。
【0034】
塗布針固定板25のZ軸方向上端部には、弾性部材としてのバネ27が設けられている。バネ27は圧縮コイルばねから成る。塗布針固定板25のZ軸方向上端部と、ホルダ蓋23におけるバネ受け28との間に、バネ27が配置される。バネ27は所定長さ圧縮された状態で配置されることで、塗布針固定板25をZ方向下方つまり塗布針24側へ押圧した状態とし得る。
【0035】
このため、塗布針24をZ軸方向に上下動させたときに、ホルダベース22に対して、塗布針24が上下方向に変動する(換言すれば、塗布針24のZ方向位置がずれる)ことを防止できる。さらに、塗布針24が基板5(図5B)の表面に接触したときに前記塗布針24に過大な応力が加わった場合に、バネ27が弾性変形することで前記応力を吸収する。塗布針24が基板5(図5B)の表面に接触したときに塗布針24に加わる応力の値は、バネ27からの力に影響される。このため、バネ27が塗布針固定板25に対して加える力は、塗布針24を基板側のZ方向位置に保持するために必要な最低限の値となるように調整されることが好ましい。
【0036】
ホルダベース22に、ホルダ蓋23がネジSrにより着脱自在に固定される。ホルダベース22に、ネジSrのねじ部が螺合する雌ねじが形成され、ホルダ蓋23には、前記ねじ部を貫通させる長孔29が形成されている。ホルダ蓋23をホルダベース22に組み付けた場合に、長孔29は、リニアガイド26が延びる方向に沿ったZ方向に長軸を有する。よって、ホルダベース22に対するホルダ蓋23のZ方向位置を、長孔29の長軸方向に沿って変更したうえで、ホルダベース22にホルダ蓋23をネジSrにより固定し得る。
ホルダベース22に対するホルダ蓋23のZ方向位置を変更する。これにより、バネ受け28と、塗布針固定板25のZ軸方向上端部との間の距離を変更し得る。したがって、塗布針ホルダ20を組み立てるときに、例えば、バネ27により塗布針24の先端部に加えられる力を測定しながらホルダ蓋23をホルダベース22に固定してもよい。
【0037】
<塗布針>
図5Bのように、塗布針24は、例えば、鉄またはステンレス等から成り、基板5に対向する先端部24aと、図4Bのように、先端部24aとは反対側に位置する基端部(「付根部」とも言う)24bと、塗布針24の長手方向中間部に位置する中間部24cとを含む。基端部24bおよび中間部24cは、例えば、同一径に形成され、先端部24aは、基端部24bおよび中間部24cよりも小径に形成されている。塗布針24は、この塗布針24を長手方向に直交する平面で切断して見た断面が円形状に設けられているが、例えば、断面長孔形状または断面多角形状であってもよい。
【0038】
<塗布針の先端部の皮膜について>
図6のように、塗布針24の先端部24aは、側面部分31と、この側面部分31の長手方向先端縁に繋がる先端部分32とを含む。側面部分31は、円筒部31aと、この円筒部31aの先端縁に繋がるテーパ部31bとを有する。このテーパ部31bは、先端側に向かうに従って小径となるテーパ形状に形成されている。先端部分32は、この塗布針24の長手方向に直交する平坦面32aに形成されている。
【0039】
前記先端部分32を除く側面部分31に、撥水性または撥油性を有する皮膜33が設けられている。前記皮膜33としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等のフッ素系樹脂が適用される。本実施形態では、先端部24aの全表面にフッ素系樹脂の皮膜33を形成した後、先端部分32の平坦面32aの皮膜を研摩等の機械加工により除去した。皮膜33の膜厚tは、塗布針先端の直径にもよるが、例えば、5μm以上30μm以下に設定される。
【0040】
皮膜33の膜厚tが5μm未満と薄すぎる場合、皮膜33の剥がれまたは早期摩耗等の問題が生じることが懸念される。皮膜33の膜厚tが厚い場合、転写量に影響する可能性がある。たとえば、先端直径がφ100μmの塗布針で、膜厚30μmより厚くなると、塗布した材料の転写径は100μmよりも大きくなる。これを抑制するために、使用する塗布針に適した膜厚をあらかじめ実験的に求めておく方が好ましい。たとえば、コーティング剤に浸す時間や回数の適正値を実験で求めていく。
【0041】
<塗布機構の動作について>
図2Bの塗布機構4において、サーボモータ41を駆動することにより前記回転軸を回転させてカム43を回転させる。カム面61に接触している軸受44は、サーボモータ41の回転に応じて、Z軸方向における位置が変動する。軸受44のZ軸方向での位置変動に応じて、可動部46、塗布針ホルダ固定部47および塗布針ホルダ収納部48がZ軸方向に移動する。この結果、塗布針ホルダ収納部48に保持されている塗布針ホルダ20もZ軸方向に移動するので、塗布針ホルダ20に設けられた塗布針24を、Z軸方向に変化させることができる。
【0042】
具体的には、図3Bに示すカム面61の上端フラット領域62に、図2Bの軸受44が接している場合には、図5Aのように、塗布針24が上端位置に配置される。このとき、塗布針24の先端部24aは、塗布材料容器21内に保持されている塗布材料70内に浸漬された状態になっている。
【0043】
次に、図2Aのサーボモータ41が回転軸を回転させることにより、カム43が回転する。図3Bに示すカム面61の下端フラット領域63が、図2Bの軸受44に接する位置に到達した場合には、図5Bのように、塗布針24は、塗布材料容器21の底部に形成された貫通孔21aを通り塗布材料容器21の底面からZ軸方向下向きに突出した状態になる。このとき突出した塗布針24の先端部分32には、塗布材料70の一部が付着した状態となっている。そして、図1のZ軸テーブル3が塗布機構4を基板5側に移動させる。これにより、図5Bのように、基板5の表面に塗布針24の先端部24aが接触して、塗布材料70を基板5の表面に塗布し得る。図1のZ軸テーブル3を先に移動させた後に、図2Aのサーボモータ41を駆動させてよいし、図1のZ軸テーブル3と図2Aのサーボモータ41との動作を略同時に実施してもよい。
このように塗布機構4では、サーボモータ41の回転運動を塗布針24のZ軸方向における運動(上下運動)に変換し得る。このような構成とすることにより、塗布針24を迅速かつ正確にZ軸方向に移動させ得る。
【0044】
<制御部>
図1のように、制御部CUは、制御用コンピュータ10と、操作パネル8と、モニタ9とを含む。制御用コンピュータ10は、直動ユニットDU、観察光学系6および塗布機構4を制御する。制御用コンピュータ10、操作パネル8およびモニタ9は、処理室PRの外部に設置されている。操作パネル8は、制御用コンピュータ10への指令を入力するために用いられる。モニタ9は、CCDカメラ7で変換された画像データ、および制御用コンピュータ10からの出力データを表示する。
【0045】
<塗布方法について>
以上説明した塗布装置を用いた塗布方法は、順次、図5Aに示す浸漬工程と、図5Bに示す突出工程と、接触工程と、図7A(4)に示す離脱工程とを含む。図5Aの浸漬工程では、前述の側面部分31に皮膜33が設けられた塗布針24を塗布材料容器21に浸漬させる。図5Bの突出工程では、塗布材料容器21の貫通孔21aから塗布針24を突出させる。接触工程では、塗布針24を対象材である基板5に近付けて先端部分32に付着した塗布材料70または塗布針24を基板5に接触させる。図7A(4)の離脱工程では、塗布針24を基板5から遠ざける。
【0046】
<塗布針先端に付着した塗布材料の転写メカニズム>
図7A(1)は、X軸テーブル1、Y軸テーブル2、Z軸テーブル3(図1)を制御し、塗布機構4(図1)を塗布点の直上に位置合わせした状態で、塗布針24を塗布材料容器21の貫通穴から突出(下降)させた直後、塗布針24を側方から見た図である。
図7A(2)は、さらに塗布針24を下降させたときの図である。塗布針24の側面には撥水または撥油の性質を有する皮膜33が形成されているため、(1)および(2)において、塗布針24の側面に塗布材料70は付着していない。
【0047】
図7A(3)は、さらに塗布針24を下降させ、塗布針24先端の平坦面32aに付着した塗布材料70が基板5に接触する位置で停止させたときの図である。塗布針24先端の平坦面32aに付着した材料が基板5に接触し、塗布材料70は基板5に転写される(接触工程)。この際、塗布針24を少なくともあらかじめ指定した時間(例えば、T秒(数十mm秒~1秒))だけ停止させても良い。これにより塗布針24先端の平坦面32aに塗布材料70が残ることなく、基板5に転写できる。
図7A(4)は、塗布針24が上昇し始めた状態を示しており、塗布針24先端の平坦面32aに付着していた塗布材料70が基板5に転写されることがわかる。
【0048】
図7Bは、塗布針24の先端部分32が基板5に接触するように下降させたときの塗布材料70の状態を示す図である。同図左側の図は、塗布針24の平坦面32aが基板5に接触したとき、塗布材料70が塗布針24の側面部分31に回り込む様子を示している。塗布針24の側面部分31には、撥水性または撥油性を有する皮膜33が設けられているため、塗布針24に塗布材料70が再付着することはない。
【0049】
<塗布針下降時の針表面の溶液付着状態>
図8は、塗布針24が下降し最下点に達したときの針表面の状態を撮影した写真である。塗布針24の材質はステンレス、先端部分32の直径はφ70μmである。塗布材料は墨汁である。同図8の「速度」は、塗布針24の下降速度であり、「速度1」が最も高速である。
撥水処理ありの写真は最高速の「速度1」から低速の「速度1/8」まですべてにおいて、針表面の正反射光(中央部の白部分)を観測できた。
【0050】
これに対し、撥水処理なしでは、「速度1」において針表面の正反射光を観測できない。また、「速度1/2」から徐々に正反射光を観測することができるが、コントラストは低く、針表面に墨汁が付着していることがわかる。
以上より、撥水処理を施すことにより、最高速で針を下降させても針先端の平坦部のみに溶液を付着させることができ、タクトタイムを冗長化させることはない。
【0051】
<作用効果>
以上説明した塗布装置によれば、図6のように、塗布針24の先端部24aのうち、先端部分32を除く側面部分31に、撥水性または撥油性を有する皮膜33が設けられている。このため塗布針24の先端部24aにおいて、側面部分31には、撥水性または撥油性を有する皮膜33により塗布材料が付着せず、先端部分32のみに塗布材料を付着することができる。したがって、塗布針24の先端部分32を対象材の表面に近接させ、先端部分32のみに付着した塗布材料を対象材の表面に転写することができる。よって、塗布量を一定化すると共に、前述の先行技術よりもタクトタイムの短縮を図ることができる。
【0052】
側面部分31は、円筒部31aと、この円筒部31aの先端縁に繋がるテーパ部31bとを有し、このテーパ部31bは、先端側に向かうに従って小径となるテーパ形状に形成されている。このテーパ部31bにより先端部分32の直径を所望の寸法にすることが可能となる。これにより塗布量の一定化をさらに図ることができる。
先端部分32は、この塗布針24の長手方向に直交する平坦面32aに形成されている。この場合、例えば、塗布針24の先端部全体に皮膜33を形成した後、先端部分32に付着した皮膜のみを平坦に除去することで、容易に平坦面32aを形成し得る。先端部分32を平坦面32aに形成することで、先端部分32の直径を所望の寸法により確実に定めることができる。
【0053】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している実施形態と同様とする。同一の構成は同一の作用効果を奏する。各実施形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0054】
図9Aのように、塗布針24の先端部分32は、外径側縁部32bから中心部に向かうに従って凹む凹み面32cに形成されていてもよい。この場合、凹み面32cに塗布材料を保持するため、先端部分32が平坦面に形成される塗布針よりも、塗布材料を多く保持することができる。したがって、塗布針24から一度に転写させる塗布量を多くし前述の先行技術よりもタクトタイムの短縮をさらに図ることができる。
【0055】
図9Bのように、塗布針24の先端部分32は、外径側縁部32bから中心部に向かうに従って凸となる凸面32dに形成されていてもよい。この場合、前述の各実施形態よりも塗布針24から一度に転写させる塗布量は少なくなるものの、塗布針24先端の凸面32dに付着した塗布材料を、基板に精密に転写し得る。
【0056】
図9C図9D図9Eに示すように、塗布針24の先端部24aは、テーパ部のない円筒部から成る側面部分31と、この側面部分31の長手方向先端縁に繋がる先端部分32とを含むストレート形状であってもよい。但し、塗布針24としての必要な剛性を満たし、先端部分32の直径を所望の寸法に形成できることが条件である。
【0057】
先端部24aの側面部分31だけでなく、図4Bに示す基端部24bおよび中間部24cに、皮膜を設けてもよい。
第1の実施形態では、図6の先端部分32の皮膜を研摩等の機械加工により除去しているが、塗布針24の先端部分32をマスキングしておき、先端部24aの側面部分31のみに皮膜33を設けてもよい。
【0058】
以上、本発明の実施形態を説明したが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0059】
4…塗布機構、5…基板(対象材)、17…架台、21…塗布材料容器、24…塗布針、24a…先端部、31…側面部分、31a…円筒部、31b…テーパ部、32…先端部分、32a…平坦面、32c…凹み面、41…サーボモータ、70…塗布材料、DU…直動ユニット
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図10A
図10B
図11