(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121599
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】電源システム
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20240830BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20240830BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240830BHJP
H02J 7/04 20060101ALI20240830BHJP
H02H 7/18 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
H02J7/00 S
H01M10/44 P
H01M10/48 301
H01M10/48 P
H02J7/00 X
H02J7/04 L
H02H7/18
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028787
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 大地
(72)【発明者】
【氏名】荻原 泰史
(72)【発明者】
【氏名】山田 保雄
【テーマコード(参考)】
5G053
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
5G053AA14
5G053FA05
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB01
5G503CB11
5G503FA06
5G503FA18
5H030AA01
5H030AS08
5H030BB01
5H030BB21
5H030FF22
5H030FF41
(57)【要約】
【課題】バッテリパックの温度を使用上限温度よりも低い温度に維持しつつ、バッテリパックのバッテリ性能をより高効率に活用可能な電源システムを提供する。
【解決手段】電源システム10は、固体電池セル21、及び、固体電池セル21を拘束するクッション部材22、を有するバッテリパック20と、バッテリECU30と、を備える。バッテリパック20の充電時、固体電池セル21の膨張によってクッション部材22が圧縮して固体電池セル21にかかる面圧が上昇し、バッテリパック20の放電時、固体電池セル21の収縮によってクッション部材22が復元して固体電池セル21にかかる面圧が低下する。バッテリECU30は、昇温抑制出力制限制御を実行可能である。バッテリECU30は、昇温抑制出力制限制御において、バッテリパック20の使用状態と、バッテリパック20のバッテリ状態と、に基づいて、制御開始温度Tsを設定する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電池セル、及び、前記固体電池セルを拘束する拘束部材、を有するバッテリパックと、
前記バッテリパックの充放電電力を制御するバッテリ制御装置と、
を備える、電源システムであって、
前記バッテリパックの充電時、前記固体電池セルの膨張によって前記拘束部材が圧縮して、前記固体電池セルにかかる面圧が上昇し、
前記バッテリパックの放電時、前記固体電池セルの収縮によって前記拘束部材が復元して、前記固体電池セルにかかる面圧が低下し、
前記バッテリ制御装置は、
前記バッテリパックの温度が制御開始温度以上になった場合に、前記バッテリパックの出力開放率を制限する、昇温抑制出力制限制御を実行可能であり、
前記昇温抑制出力制限制御において、前記バッテリパックの使用状態と、前記バッテリパックのバッテリ状態と、に基づいて、前記制御開始温度を設定する、
電源システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電源システムであって、
前記バッテリパックの前記使用状態は、前記バッテリパックの充放電状態を含み、
前記バッテリパックの前記バッテリ状態は、前記バッテリパックの充電残量を含む、
電源システム。
【請求項3】
請求項2に記載の電源システムであって、
前記バッテリ制御装置は、
前記バッテリパックの充放電状態に基づいて、前記バッテリパックの前記使用状態を放電状態と充電状態とに分類し、
前記バッテリパックの充電残量に基づいて、前記バッテリパックの前記バッテリ状態を高充電残量状態と低充電残量状態とに分類し、
前記バッテリパックの前記使用状態が、前記放電状態であるか前記充電状態であるかと、
前記バッテリパックの前記バッテリ状態が、前記高充電残量状態であるか前記低充電残量状態であるかと、
に基づいて、前記昇温抑制出力制限制御における前記制御開始温度を設定する、
電源システム。
【請求項4】
請求項3に記載の電源システムであって、
前記バッテリ制御装置は、前記昇温抑制出力制限制御において、
前記バッテリパックの前記使用状態が前記充電状態である場合の前記制御開始温度を、前記バッテリパックの前記使用状態が前記放電状態である場合の前記制御開始温度よりも高く設定する、
電源システム。
【請求項5】
請求項4に記載の電源システムであって、
前記バッテリ制御装置は、前記昇温抑制出力制限制御において、
前記バッテリパックの前記使用状態が前記放電状態であるとき、
前記バッテリパックの前記バッテリ状態が前記高充電残量状態である場合の前記制御開始温度を、前記バッテリパックの前記バッテリ状態が前記低充電残量状態である場合の前記制御開始温度よりも高く設定する、
電源システム。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の電源システムであって、
前記バッテリ制御装置は、前記昇温抑制出力制限制御において、
前記バッテリパックの前記使用状態が前記充電状態であるとき、
前記バッテリパックの前記バッテリ状態が前記低充電残量状態である場合の前記制御開始温度を、前記バッテリパックの前記バッテリ状態が前記高充電残量状態である場合に設定される前記制御開始温度よりも高く設定する、
電源システム。
【請求項7】
請求項3に記載の電源システムであって、
前記昇温抑制出力制限制御において、
前記バッテリパックの前記使用状態が前記放電状態、且つ、前記バッテリパックの前記バッテリ状態が前記高充電残量状態である場合の前記制御開始温度をT1、
前記バッテリパックの前記使用状態が前記放電状態、且つ、前記バッテリパックの前記バッテリ状態が前記低充電残量状態である場合の前記制御開始温度をT2、
前記バッテリパックの前記使用状態が前記充電状態、且つ、前記バッテリパックの前記バッテリ状態が前記低充電残量状態である場合の前記制御開始温度をT3、
前記バッテリパックの前記使用状態が前記充電状態、且つ、前記バッテリパックの前記バッテリ状態が前記高充電残量状態である場合の前記制御開始温度をT4、としたとき、
T2<T1<T4<T3となるように前記制御開始温度を設定する、
電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリパックとバッテリ制御装置とを備える電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人々が手ごろで信頼でき、持続可能且つ先進的なエネルギーへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギーの効率化に貢献する二次電池に関する研究開発が行われている。二次電池においては、電解質の少なくとも一部に固体材料が用いられた固体電池に関する研究が近年特に盛んに行われている。
【0003】
ところで、バッテリパックとバッテリ制御装置とを備える電源システムにおいては、安全性の確保の観点からバッテリパックの温度を使用上限温度よりも低い温度に維持する必要がある。例えば、特許文献1には、固体電池の温度が所定温度以上となった場合に、固体電池を冷却する固体電池システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、バッテリパックとバッテリ制御装置とを備える電源システムにおいては、バッテリパックの温度を使用上限温度よりも低い温度に維持する必要がある一方、バッテリパックのバッテリ性能をより高効率に活用することが求められる。
【0006】
本発明は、バッテリパックの温度を使用上限温度よりも低い温度に維持しつつ、バッテリパックのバッテリ性能をより高効率に活用可能な電源システムを提供する。そして、延いてはエネルギーの効率化に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
固体電池セル、及び、前記固体電池セルを拘束する拘束部材、を有するバッテリパックと、
前記バッテリパックの充放電電力を制御するバッテリ制御装置と、
を備える、電源システムであって、
前記バッテリパックの充電時、前記固体電池セルの膨張によって前記拘束部材が圧縮して、前記固体電池セルにかかる面圧が上昇し、
前記バッテリパックの放電時、前記固体電池セルの収縮によって前記拘束部材が復元して、前記固体電池セルにかかる面圧が低下し、
前記バッテリ制御装置は、
前記バッテリパックの温度が制御開始温度以上になった場合に、前記バッテリパックの出力開放率を制限する、昇温抑制出力制限制御を実行可能であり、
前記昇温抑制出力制限制御において、前記バッテリパックの使用状態と、前記バッテリパックのバッテリ状態と、に基づいて、前記制御開始温度を設定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、バッテリパックの温度を使用上限温度よりも低い温度に維持しつつ、バッテリパックのバッテリ性能をより高効率に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態の電源システムを備える車両のブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態の電源システムにおけるバッテリパックの模式図である。
【
図3】
図2のバッテリパックにおいて、放電時及び充電時における固体電池セルの充電残量と固体電池セルにかかる面圧との関係を示したグラフである。
【
図4】(a)は、
図2のバッテリパックにおいて、使用状態に応じた固体電池セルの充電残量と固体電池セルの放電DCIRとの関係、及び、発熱量の関係性を示したグラフであり、(b)は、
図2のバッテリパックにおいて、使用状態に応じた固体電池セルの充電残量と固体電池セルの放電DCIRとの関係、及び、発熱量の関係性を示したグラフである。
【
図5】
図2のバッテリパックにおいて、バッテリパックの使用状態を放電状態と充電状態とに分類し、バッテリパックのバッテリ状態を高充電残量状態(高SOC状態)と低充電残量状態(低SOC状態)とに分類した場合の各状態と、各状態での発熱量及び昇温抑制出力制限制御の制御開始温度と、を示した表である。
【
図6】本発明の一実施形態の電源システムにおけるバッテリ温度と出力開放率との関係、及び、
図5の各状態における昇温抑制出力制限制御の制御開始温度と、を示したグラフである。
【
図7】
図5の各状態における昇温抑制出力制限制御の制御開始温度を
図6に示すように設定した場合において、(a)は、状態2におけるバッテリパックの温度及び入出力電流の時系列推移を示した図であり、(b)は、状態3におけるバッテリパックの温度及び入出力電流の時系列推移を示した図である。
【
図8】本発明の一実施形態の電源システムにおける昇温抑制出力制限制御に用いる制御開始温度の設定フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の電源システムの一実施形態を、添付図面に基づいて説明する。なお、図面は、符号の向きに見るものとする。
【0011】
<電源システム>
本実施形態の電源システム10は、車両に搭載されている。
【0012】
図1に示すように、電源システム10は、バッテリパック20と、バッテリECU30と、を備える。
【0013】
本実施形態では、電源システム10は、2つのバッテリパック20を備え、2つのバッテリパック20は、直列に接続されている。
【0014】
バッテリパック20は、配電部91に接続している。配電部91は、車両に搭載された駆動装置92、充電器93、補機類94等に接続している。駆動装置92は、例えば、車両を駆動する車両駆動用の電動機を有する。車両は、この電動機の動力によって走行可能となっている。充電器93は、車両外部の電源装置からの交流電力を受け付け、所定の電圧の直流の電力に変換する電力変換装置を有する。バッテリパック20は、この充電器93で変換された車両外部の電源装置からの電力を充電可能となっている。補機類94は、車両空調装置等を含む。バッテリパック20の電力は、補機類94に供給可能であり、補機類94は、バッテリパック20から供給される電力で動作可能となっている。
【0015】
バッテリパック20には、バッテリパック20の入出力電圧を検出するバッテリ電圧センサ41と、バッテリパック20の温度を検出するバッテリ温度センサ42と、が取り付けられている。
【0016】
バッテリECU30は、バッテリパック20と接続している。バッテリECU30は、バッテリパック20の充放電電力を制御する。
【0017】
バッテリ電圧センサ41とバッテリ温度センサ42とは、バッテリECU30に接続している。バッテリ電圧センサ41とバッテリ温度センサ42とは、検出信号をバッテリECU30に出力する。
【0018】
図2に示すように、バッテリパック20は、複数の固体電池セル21と、複数の固体電池セル21を拘束するクッション部材22と、エンドプレート23と、を備える。
【0019】
固体電池セル21は、電解質の少なくとも一部に固体材料が用いられた二次電池である。固体電池セル21は、電解質に固体電解質のみを使用した全固体電池に限らず、半固体電池であってもよい。固体電池セル21は、例えば、高分子ゲルに電解液を含有させたゲルポリマー型の半固体電池であってもよいし、正極/負極の電極材料に電解液を練り込んだ粘土(クレイ)状の材料を用いたクレイ型の半固体電池であってもよいし、固体電解質に流動性のある液体材料や柔軟性をもったゲルポリマーを少量添加した液添加型の半固体電池であってもよい。
【0020】
固体電池セル21は、角型又はラミネート型である。バッテリパック20は、複数の固体電池セル21が第1方向に積層されている。固体電池セル21は、第1方向に所定の厚みを有しており、第1方向と垂直な面が略平面状となっている。
【0021】
クッション部材22は、複数の固体電池セル21を拘束する拘束部材である。第1方向に隣り合う固体電池セル21の間は、クッション部材22で埋められている。
【0022】
エンドプレート23は、積層した複数の固体電池セル21の集合体における第1方向の一方側と他方側とに一対設けられている。したがって、積層した複数の固体電池セル21の集合体は、第1方向において、一対のエンドプレート23の間に配置される。第1方向において最も一方側に配置された固体電池セル21とエンドプレート23との間、及び、第1方向において最も他方側に配置された固体電池セル21とエンドプレート23との間は、いずれもクッション部材22で埋められている。
【0023】
図2の(a)に示すように、バッテリパック20の放電時に各固体電池セル21は収縮するのに対し、
図2の(b)に示すように、バッテリパック20の充電時に各固体電池セル21は膨張する。そのため、バッテリパック20の充電時、固体電池セル21の膨張によってクッション部材22が圧縮して、固体電池セル21にかかる面圧が上昇する。一方、バッテリパック20の放電時、固体電池セル21の収縮によってクッション部材22が復元して、固体電池セル21にかかる面圧が低下する。
【0024】
このとき、固体電池セル21の充電残量を横軸、固体電池セル21にかかる面圧を縦軸とした場合における固体電池セル21の充電残量と固体電池セル21にかかる面圧との関係は、
図3に示すようになる。
【0025】
図3に示すように、バッテリパック20の充電残量(SOC:State of Charge)が0%のとき、固体電池セル21にかかる面圧は、バッテリ性能保証下限値以上となっている。固体電池セル21にかかる面圧が所定値以下の場合、固体電解質界面と電極活物質との接触抵抗が高くなり、必要なバッテリ性能を確保できない。そのため、バッテリ性能保証下限値は、バッテリ性能を確保できる下限電圧として設定されている。一方、バッテリパック20の充電残量が100%のとき、固体電池セル21にかかる面圧は、エンドプレート23の強度上限値以下となっている。
【0026】
そして、バッテリパック20の充電時は、固体電池セル21の充電残量が増加するにしたがって、上に凸の曲線を描いて固体電池セル21にかかる面圧が上昇する。これに対し、バッテリパック20の放電時は、固体電池セル21の充電残量が減少するにしたがって、下に凸の曲線を描いて固体電池セル21にかかる面圧が低下する。
【0027】
このように、固体電池セル21の充電残量と固体電池セル21にかかる面圧との関係は、充電時と放電時においてヒステリシス特性を示す。
【0028】
さらに、固体電池セル21の充電残量に応じた固体電池セル21にかかる面圧が、充電時と放電時においてヒステリシス特性を示すため、固体電池セル21の直流内部抵抗(以下、DCIR:Direct Current Internal Resistance ともいう)もヒステリシス特性を示す。
【0029】
図4は、固体電池セル21の充電残量を横軸、固体電池セル21の放電DCIR又は充電DCIRを縦軸とした場合における、固体電池セル21の充電残量と固体電池セル21の放電DCIR又は充電DCIRとの関係を示した図である。なお、
図4の(a)と(b)とは、放電DCIRと充電DCIRが異なることを考慮した上で、発熱量が同じとなるように固体電池セル21の充電残量と基準電流値とを調整した図となっている。
【0030】
図4の(a)に示すように、放電により固体電池セル21の充電残量が減少するにしたがって、放電DCIRは、太線で示すように、上に凸の曲線を描いて上昇する。参考として、充電により固体電池セル21の充電残量が増加すると、放電DCIRは、点線で示すように、下に凸の曲線を描いて低下する。なお、細線は、固体電池セル21にかかる面圧がヒステリシス特性を持たないと仮定した場合の放電DCIRを示したものであり、詳細は電池構成に依存するものの一般的には充電残量に対して負の相関関係を示す。
【0031】
図4の(b)に示すように、充電により固体電池セル21の充電残量が増加するにしたがって、放電DCIRは、太線で示すように、下に凸の曲線を描いて上昇する。参考として、放電により固体電池セル21の充電残量が減少すると、充電DCIRは、点線で示すように、上に凸の曲線を描いて低下する。なお、細線は、固体電池セル21にかかる面圧がヒステリシス特性を持たないと仮定した場合の充電DCIRを示したものであり、詳細は電池構成に依存するものの一般的には充電残量に対して正の相関関係を示す。
【0032】
図5に示すように、バッテリパック20の使用状態を放電状態と充電状態とに分類し、バッテリパック20のバッテリ状態を高充電残量状態(高SOC状態)と低充電残量状態(低SOC状態)とに分類して、バッテリパック20の使用状態が放電状態、且つ、バッテリパック20のバッテリ状態が高SOC状態である状態を状態1、バッテリパック20の使用状態が放電状態、且つ、バッテリパック20のバッテリ状態が低SOC状態である状態を状態2、バッテリパック20の使用状態が充電状態、且つ、バッテリパック20のバッテリ状態が低SOC状態である状態を状態3、バッテリパック20の使用状態が充電状態、且つ、バッテリパック20のバッテリ状態が高SOC状態である状態を状態4、とする。
【0033】
そして、状態1での固体電池セル21の発熱量をW1、状態2での固体電池セル21の発熱量をW2、状態3での固体電池セル21の発熱量をW3、状態4での固体電池セル21の発熱量をW4、として、固体電池セル21にかかる面圧がヒステリシス特性を持たないと仮定した場合の固体電池セル21の発熱量をWAとすると、固体電池セル21の発熱量は、固体電池セル21の内部抵抗値に略比例するので、
図4の(a)に示すように、WA<W1<W2となり、
図4の(b)に示すように、W3<W4<WAとなる。したがって、状態1から状態4の固体電池セル21の発熱量W1からW4と、固体電池セル21にかかる面圧がヒステリシス特性を持たないと仮定した場合の固体電池セル21の発熱量をWAとの関係は、W3<W4<WA<W1<W2となる。
【0034】
そのため、状態1から状態4の場合について、バッテリパック20は、(状態2)>(状態1)>(固体電池セル21にかかる面圧がヒステリシス特性を持たないと仮定した場合)>(状態4)>(状態3)の順で昇温しやすい。
【0035】
図1に戻って、バッテリECU30は、バッテリパック20と接続している。バッテリECU30は、バッテリパック20の充放電電力を制御する。
【0036】
バッテリECU30は、バッテリパック20の温度が制御開始温度Ts以上になった場合に、バッテリパック20の出力開放率を制限する、昇温抑制出力制限制御を実行可能である。
図6は、昇温抑制出力制限制御の一例を示している。
【0037】
バッテリECU30は、バッテリ温度取得部31と、バッテリ電圧取得部32と、バッテリ充電残量算出部33と、目標入出力電力設定部34と、出力開放率設定部35と、出力制限制御開始温度設定部36と、を備える。
【0038】
本実施形態では、バッテリECU30は、車両に搭載された車両制御装置90に接続されている。車両制御装置90は、多数のECU(Electronic Control Unit)を備え、車両の運転制御及び補機類の統合制御等を行う。車両制御装置90は、バッテリECU30にバッテリパック20の制御に関する信号を出力する。
【0039】
バッテリECU30は、車両制御装置90から出力されたバッテリパック20の制御に関する信号に基づき、目標入出力電力設定部34において、バッテリパック20の目標入出力電力を設定する。そして、バッテリECU30は、目標入出力電力設定部34で設定した目標入出力電力を示す信号をバッテリパック20に出力し、バッテリパック20の入出力電力が目標入出力電力設定部34で設定した目標入出力電力となるように制御する。
【0040】
バッテリ温度取得部31は、バッテリ電圧センサ41から出力された検出信号に基づいて、バッテリパック20の温度を取得する。
【0041】
バッテリ電圧取得部32は、バッテリ温度センサ42から出力された検出信号に基づいて、バッテリパック20の入出力電圧を取得する。
【0042】
バッテリ充電残量算出部33は、バッテリ温度取得部31で取得したバッテリパック20の温度、及び、バッテリ電圧取得部32で取得したバッテリパック20の入出力電圧に基づいて、バッテリパック20の充電残量を算出する。
【0043】
出力開放率設定部35は、バッテリ温度取得部31で取得したバッテリパック20の温度に基づいて、バッテリパック20の出力開放率を設定する。本実施形態では、バッテリECU30は、
図6に示すようなバッテリパック20の温度に対応する出力開放率を示すテーブルを予め記憶しており、出力開放率設定部35は、バッテリ温度取得部31で取得したバッテリパック20の温度に基づいて、バッテリパック20の出力開放率を設定する。
【0044】
出力開放率設定部35は、バッテリ温度取得部31で取得したバッテリパック20の温度が制御開始温度Ts以上になった場合に、
図6に示すバッテリパック20の温度に対応する出力開放率を示すテーブルにしたがってバッテリパック20の出力開放率を制限する。このようにして、バッテリECU30は、バッテリ温度取得部31で取得したバッテリパック20の温度が制御開始温度Ts以上になった場合に、バッテリパック20の出力開放率を制限する、昇温抑制出力制限制御を実行可能である。
【0045】
昇温抑制出力制限制御を実行し、バッテリパック20の温度が制御開始温度Ts以上になった場合に、バッテリパック20の出力開放率を制限することによって、バッテリパック20が使用上限温度Tmaxに到達することを防止できる。これにより、バッテリパック20の温度を使用上限温度Tmaxよりも低い温度に維持できる。
【0046】
出力制限制御開始温度設定部36は、昇温抑制出力制限制御における制御開始温度Tsを設定する。出力制限制御開始温度設定部36は、バッテリパック20の使用状態と、バッテリパック20のバッテリ状態と、に基づいて、制御開始温度Tsを設定する。
【0047】
したがって、出力制限制御開始温度設定部36は、バッテリパック20の使用状態と、バッテリパック20のバッテリ状態と、に基づいて、バッテリパック20にかかる面圧が大きくバッテリパック20の発熱量が小さい場合には制御開始温度Tsを高い温度に設定し、バッテリパック20にかかる面圧が小さくバッテリパック20の発熱量が大きい場合には、制御開始温度Tsを低い温度に設定することが可能になる。
【0048】
これにより、バッテリパック20の使用状態と、バッテリパック20のバッテリ状態と、に基づいて、最適な制御開始温度Tsを設定することができるので、バッテリパック20の温度を使用上限温度Tmaxよりも低い温度に維持しつつ、バッテリパック20のバッテリ性能をより高効率に活用することができる。
【0049】
出力制限制御開始温度設定部36において、制御開始温度Tsを設定する際に用いるバッテリパック20の使用状態は、バッテリパック20の充放電状態を含み、バッテリパック20のバッテリ状態は、バッテリパック20の充電残量を含む。
【0050】
これにより、バッテリパック20の充放電状態と、バッテリパック20の充電残量と、に基づいて、バッテリパック20にかかる面圧によって変化するバッテリパック20の発熱量に応じて制御開始温度Tsを設定することができるので、バッテリパック20の発熱量に応じたより最適な制御開始温度Tsを設定することができる。
【0051】
出力制限制御開始温度設定部36において、制御開始温度Tsを設定する際、バッテリパック20の充放電状態に基づいて、バッテリパック20の使用状態を放電状態と充電状態とに分類し、バッテリパック20の充電残量に基づいて、バッテリパック20のバッテリ状態を高SOC状態と低SOC状態とに分類する。そして、バッテリパック20の使用状態が、放電状態であるか充電状態であるかと、バッテリパック20のバッテリ状態が、高SOC状態であるか低SOC状態であるかと、に基づいて、制御開始温度Tsを設定する。
【0052】
これにより、バッテリパック20にかかる面圧によって変化するバッテリパック20の発熱量に応じた最適な制御開始温度Tsをシンプルな制御で設定することができる。
【0053】
そして、出力制限制御開始温度設定部36は、昇温抑制出力制限制御において、バッテリパック20の使用状態が充電状態である場合の制御開始温度Tsを、バッテリパック20の使用状態が放電状態である場合の制御開始温度Tsよりも高く設定する。
【0054】
前述したように、バッテリパック20の充電時は、固体電池セル21の充電残量が増加するにしたがって、上に凸の曲線を描いて固体電池セル21にかかる面圧が上昇する。これに対し、バッテリパック20の放電時は、固体電池セル21の充電残量が減少するにしたがって、下に凸の曲線を描いて固体電池セル21にかかる面圧が低下する(
図3参照)。そのため、固体電池セル21の充電残量が同じ場合、バッテリパック20の充電時の方が放電時よりもバッテリパック20にかかる面圧が高くなるので、バッテリパック20の充電時の方が放電時よりもバッテリパック20の内部抵抗値が低くなり発熱量が小さくなる。したがって、バッテリパック20の使用状態が充電状態である場合、バッテリパック20の使用状態が放電状態である場合の制御開始温度Tsよりも高く設定しても、バッテリパック20の温度を使用上限温度Tmaxよりも低い温度に維持できる。
【0055】
これにより、昇温抑制出力制限制御において、バッテリパック20の使用状態が充電状態である場合の制御開始温度Tsを、バッテリパック20の使用状態が放電状態である場合の制御開始温度Tsよりも高く設定することで、バッテリパック20の温度を使用上限温度Tmaxよりも低い温度に維持しつつ、バッテリパック20のバッテリ性能をより高効率に活用することができる。
【0056】
より詳細には、
図5を参照して前述したのと同様に、バッテリパック20の使用状態を放電状態と充電状態とに分類し、バッテリパック20のバッテリ状態を高充電残量状態(高SOC状態)と低充電残量状態(低SOC状態)とに分類して、バッテリパック20の使用状態が放電状態、且つ、バッテリパック20のバッテリ状態が高SOC状態である状態を状態1、バッテリパック20の使用状態が放電状態、且つ、バッテリパック20のバッテリ状態が低SOC状態である状態を状態2、バッテリパック20の使用状態が充電状態、且つ、バッテリパック20のバッテリ状態が低SOC状態である状態を状態3、バッテリパック20の使用状態が充電状態、且つ、バッテリパック20のバッテリ状態が高SOC状態である状態を状態4、とする。
【0057】
そして、出力制限制御開始温度設定部36は、バッテリパック20の充放電状態と、バッテリパック20の充電残量と、に基づいて、バッテリパック20の状態が状態1から状態4のどれに属するかを判定し、状態1である場合、制御開始温度TsをT1、状態2である場合、制御開始温度TsをT2、状態3である場合、制御開始温度TsをT3、状態4である場合、制御開始温度TsをT4、に設定(更新)する。
【0058】
前述したように、状態1から状態4の固体電池セル21の発熱量W1からW4と、固体電池セル21にかかる面圧がヒステリシス特性を持たないと仮定した場合の固体電池セル21の発熱量をWAとの関係は、W3<W4<WA<W1<W2となるので、状態1から状態4の場合について、バッテリパック20は、(状態2)>(状態1)>(固体電池セル21にかかる面圧がヒステリシス特性を持たないと仮定した場合)>(状態4)>(状態3)の順で昇温しやすい。
【0059】
そして、出力制限制御開始温度設定部36は、
図6に示すように、固体電池セル21にかかる面圧がヒステリシス特性を持たないと仮定した場合の制御開始温度Tsを基準制御開始温度TAとしたとき、T2<T1<TA<T4<T3となるように、制御開始温度Tsを設定する。
【0060】
したがって、出力制限制御開始温度設定部36は、バッテリパック20の使用状態が放電状態であるとき、バッテリパック20のバッテリ状態が高SOC状態である場合の制御開始温度Ts、すなわちT1を、バッテリパック20のバッテリ状態が低SOC状態である場合の制御開始温度Ts、すなわちT2よりも高く設定する。
【0061】
このように、バッテリパック20の使用状態が放電状態であるとき、バッテリパック20の発熱量が小さい高SOC状態である場合に、バッテリパック20の発熱量が大きい低SOC状態である場合よりも制御開始温度Tsを高い温度に設定することによって、バッテリパック20の温度を使用上限温度Tmaxよりも低い温度に維持しつつ、バッテリパック20のバッテリ性能を活用することができる。
【0062】
また、出力制限制御開始温度設定部36は、バッテリパック20の使用状態が充電状態であるとき、バッテリパック20のバッテリ状態が低SOC状態である場合の制御開始温度Ts、すなわちT3を、バッテリパック20のバッテリ状態が高SOC状態である場合の制御開始温度Ts、すなわちT4よりも高く設定する。
【0063】
このように、バッテリパック20の使用状態が充電状態であるとき、バッテリパック20の発熱量が小さい低SOC状態である場合に、バッテリパック20の発熱量が大きい高SOC状態である場合よりも制御開始温度Tsを高い温度に設定することによって、バッテリパック20の温度を使用上限温度Tmaxよりも低い温度に維持しつつ、バッテリパック20のバッテリ性能をより高効率に活用することができる。
【0064】
そして、出力制限制御開始温度設定部36において、バッテリパック20の使用状態及びバッテリ状態を状態1から状態4に分類し、状態1から状態4に応じてT2<T1<TA<T4<T3となるように、制御開始温度Tsを設定することによって、バッテリパック20の使用状態及びバッテリ状態に応じたバッテリパック20にかかる面圧の変化に伴うバッテリパック20の発熱量の変化を考慮して、バッテリパック20の温度を使用上限温度Tmaxよりも低い温度に維持しつつ、バッテリパック20のバッテリ性能をより高効率に活用することができる。
【0065】
具体的には、例えば、
図7の(a)に示すように、バッテリパック20の使用状態が放電状態、且つ、バッテリパック20のバッテリ状態が低SOC状態(前述した状態2)である場合、固体電池セル21にかかる面圧がヒステリシス特性を持たないと仮定した場合の固体電池セル21の発熱量WAよりも発熱量W2が大きいため、制御開始温度Tsを基準制御開始温度TAに設定すると、
図7の(a)において破線で示したように、想定よりも早く使用上限温度Tmaxに到達してしまう。そこで、制御開始温度Tsを基準制御開始温度TAよりも低い温度であるT2に設定することで、
図7の(a)において実線で示したように、使用上限温度Tmaxに到達することなく、バッテリパック20を継続して使用することができる。
【0066】
また、例えば、
図7の(b)に示すように、バッテリパック20の使用状態が充電状態、且つ、バッテリパック20のバッテリ状態が低SOC状態(前述した状態3)である場合、固体電池セル21にかかる面圧がヒステリシス特性を持たないと仮定した場合の固体電池セル21の発熱量WAよりも発熱量W3が小さいため、制御開始温度Tsを基準制御開始温度TAに設定すると、
図7の(b)において破線で示したように、想定よりも低い温度までしか上昇せず、使用上限温度Tmaxに対して過大な出力制限をかけてしまうこととなり、バッテリパック20の充電量が不十分となってしまう場合がある。そこで、制御開始温度Tsを基準制御開始温度TAよりも高い温度であるT3に設定することで、
図7の(b)において実線で示したように、使用上限温度Tmaxにより近い温度に到達するまでバッテリパック20を活用し、バッテリパック20の十分な充電量を確保することが可能となる。
【0067】
<昇温抑制出力制限制御に用いる制御開始温度の設定フロー>
続いて、昇温抑制出力制限制御に用いる制御開始温度Tsの設定フローについて、
図8を参照して説明する。
【0068】
バッテリECU30は、まず、バッテリ充電残量算出部33において、バッテリパック20の充電残量SOC[%]を算出により取得する(ステップS101)。
【0069】
続いて、ステップS102へと進み、バッテリECU30は、車両制御装置90から車両状態信号を受信する。車両状態信号は、車両が電動走行中であるか、回生等による充電中であるか、等の情報を含む。車両がハイブリッド車両である場合には、さらに、電動アシスト走行中であるかの情報を含んでいてもよい。
【0070】
続いて、ステップS103へと進み、バッテリECU30は、所定時間t1以上、バッテリパック20が放電状態を継続しているか否かを判定する。そして、バッテリECU30は、所定時間t1以上、バッテリパック20が放電状態を継続している場合(ステップS103:YES)は、ステップS104へと進み、所定時間t1以上、バッテリパック20が放電状態を継続していない場合(ステップS103:NO)は、ステップS107へと進む。所定時間t1以上、バッテリパック20が放電状態を継続している場合(ステップS103:YES)、バッテリパック20は放電状態であると判定する。一方、所定時間t1以上、バッテリパック20が放電状態を継続していない場合(ステップS103:NO)、車両は、例えば、回生充電中や短時間電動アシスト走行中等の状態である。
【0071】
ステップS104では、ステップS101で取得したバッテリパック20の充電残量SOC[%]が、所定のSOC1[%]より小さいか否かを判定する。SOC1は、バッテリパック20のバッテリ特性に応じて予め設定された任意の値である。
【0072】
ステップS104において、ステップS101で取得したバッテリパック20の充電残量SOC[%]が、所定のSOC1[%]より小さい場合(ステップS104:YES)、ステップS105へと進み、制御開始温度TsをT2に更新して、一連の設定フローを終了する。T2は、前述した状態2である場合、すなわち、バッテリパック20の使用状態が放電状態、且つ、バッテリパック20のバッテリ状態が低SOC状態である場合に設定する制御開始温度Tsである。
【0073】
ステップS104において、ステップS101で取得したバッテリパック20の充電残量SOC[%]が、所定のSOC1[%]以上である場合(ステップS104:NO)、ステップS106へと進み、制御開始温度TsをT1に更新して、一連の設定フローを終了する。T1は、前述した状態1である場合、すなわち、バッテリパック20の使用状態が放電状態、且つ、バッテリパック20のバッテリ状態が高SOC状態である場合に設定する制御開始温度Tsである。
【0074】
一方、ステップS107では、バッテリECU30は、所定時間t2以上、バッテリパック20が充電状態を継続しているか否かを判定する。そして、バッテリECU30は、所定時間t2以上、バッテリパック20が充電状態を継続している場合(ステップS107:YES)は、ステップS108へと進み、所定時間t2以上、バッテリパック20が充電状態を継続していない場合(ステップS107:NO)は、制御開始温度Tsを変更、更新せずに一連の設定フローを終了する。所定時間t2以上、バッテリパック20が充電状態を継続している場合(ステップS107:YES)、バッテリパック20は充電状態であると判定する。一方、所定時間t2以上、バッテリパック20が充電状態を継続していない場合(ステップS107:NO)、車両は、例えば、短時間回生充電状態である。
【0075】
ステップS108では、ステップS101で取得したバッテリパック20の充電残量SOC[%]が、所定のSOC2[%]より小さいか否かを判定する。SOC2は、バッテリパック20のバッテリ特性に応じて予め設定された任意の値である。なお、SOC2は、前述したSOC1と同じ値であってもよいし、SOC1とは異なる値であってもよい。
【0076】
ステップS108において、ステップS101で取得したバッテリパック20の充電残量SOC[%]が、所定のSOC2[%]より小さい場合(ステップS108:YES)、ステップS109へと進み、制御開始温度TsをT3に更新して、一連の設定フローを終了する。T3は、前述した状態3である場合、すなわち、バッテリパック20の使用状態が充電状態、且つ、バッテリパック20のバッテリ状態が低SOC状態である場合に設定する制御開始温度Tsである。
【0077】
ステップS108において、ステップS101で取得したバッテリパック20の充電残量SOC[%]が、所定のSOC2[%]以上である場合(ステップS108:NO)、ステップS110へと進み、制御開始温度TsをT4に更新して、一連の設定フローを終了する。T4は、前述した状態4である場合、すなわち、バッテリパック20の使用状態が充電状態、且つ、バッテリパック20のバッテリ状態が高SOC状態である場合に設定する制御開始温度Tsである。
【0078】
このように、制御開始温度の設定フローを実行することによって、バッテリパック20の充放電状態に基づいて、バッテリパック20の使用状態を放電状態と充電状態とに分類し、バッテリパック20の充電残量に基づいて、バッテリパック20のバッテリ状態を高SOC状態と低SOC状態とに分類する。そして、バッテリパック20の使用状態が放電状態、且つ、バッテリパック20のバッテリ状態が高SOC状態である場合の制御開始温度TsをT1、バッテリパック20の使用状態が放電状態、且つ、バッテリパック20のバッテリ状態が低SOC状態である場合の制御開始温度TsをT2、バッテリパック20の使用状態が充電状態、且つ、バッテリパック20のバッテリ状態が低SOC状態である場合の制御開始温度TsをT3、バッテリパック20の使用状態が充電状態、且つ、バッテリパック20のバッテリ状態が高SOC状態である場合の制御開始温度TsをT4として、T2<T1<T4<T3となるように、制御開始温度Tsが設定される。
【0079】
これにより、バッテリパック20の使用状態及びバッテリ状態に応じたバッテリパック20にかかる面圧の変化に伴うバッテリパック20の発熱量の変化を考慮して、バッテリパック20の温度を使用上限温度Tmaxよりも低い温度に維持しつつ、バッテリパック20のバッテリ性能をより高効率に活用することができるように、シンプルな制御で制御開始温度Tsを設定することができる。
【0080】
以上、本発明の一実施形態について、添付図面を参照しながら説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0081】
例えば、電源システム10が搭載される車両は、バッテリ電動車両であってもよいし、ハイブリッド車両であってもよい。
【0082】
また、例えば、固体電池セル21を拘束する拘束部材は、クッション部材22に限らず、バッテリパック20の充電時、固体電池セル21の膨張によって拘束部材が圧縮して、固体電池セル21にかかる面圧が上昇し、バッテリパック20の放電時、固体電池セル21の収縮によって拘束部材が復元して、固体電池セル21にかかる面圧が低下する任意の部材であってよい。
【0083】
また、例えば、本実施形態では、バッテリECU30は、ステップS102において、車両制御装置90から車両状態信号を受信し、ステップS103において、所定時間t1以上、車両が電動走行状態を継続しているか否かを判定するものとしたが、バッテリパック20にバッテリECU30と接続する電流センサが取り付けられており、ステップS102を省略して、ステップS103において、バッテリパック20の出力電流値Iが所定時間t1以上I>0であるか否かを判定してもよい。バッテリパック20の出力電流値Iが所定時間t1以上I>0である場合、バッテリパック20は放電状態である。この場合、ステップS107において、バッテリパック20の出力電流値Iが所定時間t2以上I<0であるか否かを判定してもよい。バッテリパック20の出力電流値Iが所定時間t2以上I<0である場合、バッテリパック20は充電状態である。
【0084】
本明細書には少なくとも以下の事項が記載されている。括弧内には、上記した実施形態において対応する構成要素等を一例として示しているが、これに限定されるものではない。
【0085】
(1) 固体電池セル(固体電池セル21)、及び、前記固体電池セルを拘束する拘束部材(クッション部材22)、を有するバッテリパック(バッテリパック20)と、
前記バッテリパックの充放電電力を制御するバッテリ制御装置(バッテリECU30)と、
を備える、電源システム(電源システム10)であって、
前記バッテリパックの充電時、前記固体電池セルの膨張によって前記拘束部材が圧縮して、前記固体電池セルにかかる面圧が上昇し、
前記バッテリパックの放電時、前記固体電池セルの収縮によって前記拘束部材が復元して、前記固体電池セルにかかる面圧が低下し、
前記バッテリ制御装置は、
前記バッテリパックの温度が制御開始温度(制御開始温度Ts)以上になった場合に、前記バッテリパックの出力開放率を制限する、昇温抑制出力制限制御を実行可能であり、
前記昇温抑制出力制限制御において、前記バッテリパックの使用状態と、前記バッテリパックのバッテリ状態と、に基づいて、前記制御開始温度を設定する、
電源システム。
【0086】
(1)によれば、バッテリパックの使用状態と、バッテリパックのバッテリ状態と、に基づいて、最適な制御開始温度を設定することができるので、バッテリパックの温度を使用上限温度よりも低い温度に維持しつつ、バッテリパックのバッテリ性能をより高効率に活用することができる。
【0087】
(2) (1)に記載の電源システムであって、
前記バッテリパックの前記使用状態は、前記バッテリパックの充放電状態を含み、
前記バッテリパックの前記バッテリ状態は、前記バッテリパックの充電残量を含む、
電源システム。
【0088】
(2)によれば、バッテリパックの充放電状態と、バッテリパックの充電残量と、に基づいて、バッテリパックにかかる面圧によって変化するバッテリパックの発熱量に応じて制御開始温度を設定することができるので、バッテリパックの発熱量に応じたより最適な制御開始温度を設定することができる。
【0089】
(3) (2)に記載の電源システムであって、
前記バッテリ制御装置は、
前記バッテリパックの充放電状態に基づいて、前記バッテリパックの前記使用状態を放電状態と充電状態とに分類し、
前記バッテリパックの充電残量に基づいて、前記バッテリパックの前記バッテリ状態を高充電残量状態と低充電残量状態とに分類し、
前記バッテリパックの前記使用状態が、前記放電状態であるか前記充電状態であるかと、
前記バッテリパックの前記バッテリ状態が、前記高充電残量状態であるか前記低充電残量状態であるかと、
に基づいて、前記昇温抑制出力制限制御における前記制御開始温度を設定する、
電源システム。
【0090】
(3)によれば、バッテリパックにかかる面圧によって変化するバッテリパックの発熱量に応じた最適な制御開始温度をシンプルな制御で設定することができる。
【0091】
(4) (3)に記載の電源システムであって、
前記バッテリ制御装置は、前記昇温抑制出力制限制御において、
前記バッテリパックの前記使用状態が前記充電状態である場合の前記制御開始温度を、前記バッテリパックの前記使用状態が前記放電状態である場合の前記制御開始温度よりも高く設定する、
電源システム。
【0092】
(4)によれば、昇温抑制出力制限制御において、バッテリパックの使用状態が充電状態である場合の制御開始温度を、バッテリパックの使用状態が放電状態である場合の制御開始温度よりも高く設定することで、バッテリパックの温度を使用上限温度よりも低い温度に維持しつつ、バッテリパックのバッテリ性能をより高効率に活用することができる。
【0093】
(5) (4)に記載の電源システムであって、
前記バッテリ制御装置は、前記昇温抑制出力制限制御において、
前記バッテリパックの前記使用状態が前記放電状態であるとき、
前記バッテリパックの前記バッテリ状態が前記高充電残量状態である場合の前記制御開始温度を、前記バッテリパックの前記バッテリ状態が前記低充電残量状態である場合の前記制御開始温度よりも高く設定する、
電源システム。
【0094】
(5)によれば、バッテリパックの使用状態が放電状態であるとき、バッテリパックの発熱量が小さい高充電残量状態である場合に、バッテリパックの発熱量が大きい低充電残量状態である場合よりも制御開始温度を高い温度に設定することによって、バッテリパックの温度を使用上限温度よりも低い温度に維持しつつ、バッテリパックのバッテリ性能を活用することができる。
【0095】
(6) (4)又は(5)に記載の電源システムであって、
前記バッテリ制御装置は、前記昇温抑制出力制限制御において、
前記バッテリパックの前記使用状態が前記充電状態であるとき、
前記バッテリパックの前記バッテリ状態が前記低充電残量状態である場合の前記制御開始温度を、前記バッテリパックの前記バッテリ状態が前記高充電残量状態である場合に設定される前記制御開始温度よりも高く設定する、
電源システム。
【0096】
(6)によれば、バッテリパックの使用状態が充電状態であるとき、バッテリパックの発熱量が小さい低充電残量状態である場合に、バッテリパックの発熱量が大きい高充電残量状態である場合よりも制御開始温度を高い温度に設定することによって、バッテリパックの温度を使用上限温度よりも低い温度に維持しつつ、バッテリパックのバッテリ性能をより高効率に活用することができる。
【0097】
(7) (3)に記載の電源システムであって、
前記昇温抑制出力制限制御において、
前記バッテリパックの前記使用状態が前記放電状態、且つ、前記バッテリパックの前記バッテリ状態が前記高充電残量状態である場合の前記制御開始温度をT1、
前記バッテリパックの前記使用状態が前記放電状態、且つ、前記バッテリパックの前記バッテリ状態が前記低充電残量状態である場合の前記制御開始温度をT2、
前記バッテリパックの前記使用状態が前記充電状態、且つ、前記バッテリパックの前記バッテリ状態が前記低充電残量状態である場合の前記制御開始温度をT3、
前記バッテリパックの前記使用状態が前記充電状態、且つ、前記バッテリパックの前記バッテリ状態が前記高充電残量状態である場合の前記制御開始温度をT4、としたとき、
T2<T1<T4<T3となるように前記制御開始温度を設定する、
電源システム。
【0098】
(7)によれば、バッテリパックの使用状態及びバッテリ状態に応じたバッテリパックにかかる面圧の変化に伴うバッテリパックの発熱量の変化を考慮して、バッテリパックの温度を使用上限温度よりも低い温度に維持しつつ、バッテリパックのバッテリ性能をより高効率に活用することができる。
【符号の説明】
【0099】
10 電源システム
20 バッテリパック
21 固体電池セル
22 クッション部材(拘束部材)
30 バッテリECU(バッテリ制御装置)
Ts 制御開始温度