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特開2024-121601パーフルオロポリエーテル誘導体、潤滑剤及び磁気記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121601
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】パーフルオロポリエーテル誘導体、潤滑剤及び磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/337 20060101AFI20240830BHJP
   G11B 5/725 20060101ALI20240830BHJP
   G11B 5/70 20060101ALI20240830BHJP
   G11B 5/78 20060101ALI20240830BHJP
   C10M 107/38 20060101ALI20240830BHJP
   C07C 69/40 20060101ALI20240830BHJP
   C07C 69/34 20060101ALI20240830BHJP
   C10N 40/18 20060101ALN20240830BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240830BHJP
【FI】
C08G65/337
G11B5/725
G11B5/70
G11B5/78
C10M107/38
C07C69/40
C07C69/34
C10N40:18
C10N30:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028789
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000146180
【氏名又は名称】株式会社MORESCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】近藤 洋文
(72)【発明者】
【氏名】木村 彰憲
(72)【発明者】
【氏名】黒田 光範
【テーマコード(参考)】
4H006
4H104
4J005
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AB60
4H104CD04A
4H104LA03
4H104PA16
4J005AA02
4J005BA00
4J005BD02
(57)【要約】
【課題】磁気記録媒体の耐久性を改善可能な潤滑剤を提供する。
【解決手段】下記式(2)または(6)の構造を含む特定の式で表される、パーフルオロポリエーテル誘導体。
【化1】
(式(2)中、mは0~10の整数であり、Rは炭素数9以下の炭化水素または水素であり、R’は環状炭化水素であり、Rは炭素数30以下の炭化水素または水素である。)
【化2】
(式(6)中、tは0~10の整数であり、Rは炭素数7以下の炭化水素または水素であり、R’は環状炭化水素であり、Rは炭素数30以下の炭化水素または水素である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される、パーフルオロポリエーテル誘導体。
【化1】
式(1)中、
Xは下記式(2)で示され、
【化2】
(式(2)中、mは0~10の整数であり、Rは炭素数9以下の炭化水素または水素原子であり、R’は環状炭化水素であり、Rは炭素数30以下の炭化水素または水素原子である。)
は、下記式(3)で示される。
【化3】
(式(3)中、j、k、p、q、r、およびsはそれぞれ、3~70の実数である。)
【請求項2】
下記式(4)で表される、パーフルオロポリエーテル誘導体。
【化4】
式(4)中、
Xはそれぞれ独立して下記式(2)または任意の置換基であり、Xの少なくとも一方は下記式(2)であり、
【化5】
(式(2)中、mは0~10の整数であり、Rは炭素数9以下の炭化水素または水素原子であり、R’は環状炭化水素であり、Rは炭素数30以下の炭化水素または水素原子である。)
は、下記式(3)で示される。
【化6】
(式(3)中、j、k、p、q、r、およびsはそれぞれ、3~70の実数である。)
【請求項3】
下記式(5)で表される、パーフルオロポリエーテル誘導体。
【化7】
式(5)中、
Yはそれぞれ独立して下記式(6)または任意の置換基であり、Yの少なくとも一方は下記式(6)であり、
【化8】
(式(6)中、tは0~10の整数であり、Rは炭素数7以下の炭化水素または水素原子であり、R’は環状炭化水素であり、Rは炭素数30以下の炭化水素または水素原子である。)
は、下記式(3)で示される。
【化9】
(式(3)中、j、k、p、q、r、およびsはそれぞれ、3~70の実数である。)
【請求項4】
下記式(7)で示される、パーフルオロポリエーテル誘導体。
【化10】
式(7)中、
Xはそれぞれ独立して下記式(2)または任意の置換基であり、Xの少なくとも1つは下記式(2)であり、
【化11】
(式(2)中、mは0~10の整数であり、Rは炭素数9以下の炭化水素または水素原子であり、R’は環状炭化水素であり、Rは炭素数30以下の炭化水素または水素原子である。)
は、下記式(3)で示される。
【化12】
(式(3)中、j、k、p、q、r、およびsはそれぞれ、3~70の実数である。)
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のパーフルオロポリエーテル誘導体のうち少なくとも一種類を含む、パーフルオロポリエーテル組成物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載のパーフルオロポリエーテル誘導体を含む、潤滑剤。
【請求項7】
非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に積層された磁性層とを備え、前記磁性層は、請求項6に記載の潤滑剤を含む、磁気記録媒体。
【請求項8】
非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に積層された磁性層と、前記磁性層上に積層された潤滑剤層とを備え、前記潤滑剤層は、請求項6に記載の潤滑剤を含む、磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパーフルオロポリエーテル誘導体、潤滑剤及び磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
データ記録方法の一つである磁気テープシステムは、単位体積当たりの記録密度が高いため、大容量のデータを記録する媒体として広く使用されている。磁気テープの記録再生特性の向上には、磁気テープ表面を平滑化させ、磁気ヘッド-磁気テープ(メディア)間のスペーシングをできるだけ低下させることが必要となる。近年、テープ表面の平滑化が進んでいるため、磁気ヘッドと磁気テープとの摩擦が大きくなっている。そのため、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間の摩擦係数を改善し、磁気記録媒体耐久性を向上させることができる潤滑剤の開発が求められている。
【0003】
従来の磁気記録媒体では潤滑剤として、長鎖炭化水素系のエステル、カルボン酸、またはそれらの混合物が使用されてきた。しかしながら、これらを磁気記録媒体表面に塗布した場合、表面が平滑化された磁気記録媒体での摩擦係数は高く、また熱安定性もよくないために長期保存における潤滑剤の劣化が避けられない。そのため、ハードディスクのような表面平滑性が高い薄膜磁気記録媒体に用いられる潤滑剤としては、パーフルオロポリエーテル(PFPE)誘導体を主とする潤滑剤が分子設計および合成されている。
【0004】
その中で、磁気記録媒体用潤滑剤として特許文献1には、部分フッ化アルキル系化合物が、薄膜磁気記録媒体の潤滑剤として提案されている。特許文献2には、カルボン酸と部分フッ化アルキルとを有するモノエステルモノカルボン酸誘導体が開示されている。特許文献3には、パーフルオロポリエーテル誘導体であって、カルボン酸とエステル基を持ち、末端が脂肪族炭化水素基である化合物が薄膜磁気記録媒体の潤滑剤として提案されている。また、特許文献4には、長鎖アルキル基を持つコハク酸無水物との反応によるパーフルオロポリエーテル誘導体化合物が、薄膜磁気記録媒体の潤滑剤として提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-300938号公報
【特許文献2】特開平11-328658号公報
【特許文献3】特開2002-226574号公報
【特許文献4】特開平4-270243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、以上のように、磁気記録媒体の分野においては、特に平滑化された塗布型磁気記録媒体では、使用される潤滑剤との摩擦が大きく、例えば走行試験において再生出力がレベルダウンする等、実用特性に不満を残している。また長期にわたっての信頼性に不安が残る。
【0007】
本発明の一態様は、前記問題点を鑑みなされたものであり、その目的は、磁気記録媒体の耐久性を改善可能な潤滑剤を提供することである。またそれ以外のアプリケーション例えば耐久性を改善した高分子フィルムへの適用を視野に入れた潤滑特性の向上を目指す。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有する化合物が、従来技術よりも磁気記録媒体の摩擦係数を低下させ、耐久性を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の構成を含む。
【0009】
<1>
下記式(1)で表される、パーフルオロポリエーテル誘導体。
【化1】
式(1)中、
Xは下記式(2)で示され、
【化2】
(式(2)中、mは0~10の整数であり、Rは炭素数9以下の炭化水素または水素原子であり、R’は環状炭化水素であり、Rは炭素数30以下の炭化水素または水素原子である。)
は、下記式(3)で示される。
【化3】
(式(3)中、j、k、p、q、r、およびsはそれぞれ、3~70の実数である。)
<2>
下記式(4)で表される、パーフルオロポリエーテル誘導体。
【化4】
式(4)中、
Xはそれぞれ独立して下記式(2)または任意の置換基であり、Xの少なくとも一方は下記式(2)であり、
【化5】
(式(2)中、mは0~10の整数であり、Rは炭素数9以下の炭化水素または水素原子であり、R’は環状炭化水素であり、Rは炭素数30以下の炭化水素または水素原子である。)
は、下記式(3)で示される。
【化6】
(式(3)中、j、k、p、q、r、およびsはそれぞれ、3~70の実数である。)
<3>
下記式(5)で表される、パーフルオロポリエーテル誘導体。
【化7】
式(5)中、
Yはそれぞれ独立して下記式(6)または任意の置換基であり、Yの少なくとも一方は下記式(6)であり、
【化8】
(式(6)中、tは0~10の整数であり、Rは炭素数7以下の炭化水素または水素原子であり、R’は環状炭化水素であり、Rは炭素数30以下の炭化水素または水素原子である。)
は、下記式(3)で示される。
【化9】
(式(3)中、j、k、p、q、r、およびsはそれぞれ、3~70の実数である。)
<4>
下記式(7)で示される、パーフルオロポリエーテル誘導体。
【化10】
式(7)中、
Xはそれぞれ独立して下記式(2)または任意の置換基であり、Xの少なくとも1つは下記式(2)であり、
【化11】
(式(2)中、mは0~10の整数であり、Rは炭素数9以下の炭化水素または水素原子であり、R’は環状炭化水素であり、Rは炭素数30以下の炭化水素または水素原子である。)
は、下記式(3)で示される。
【化12】
(式(3)中、j、k、p、q、r、およびsはそれぞれ、3~70の実数である。)
<5>
<1>~<4>のいずれか1つに記載のパーフルオロポリエーテル誘導体のうち少なくとも一種類を含む、パーフルオロポリエーテル組成物。
<6>
<1>~<4>のいずれか1つに記載のパーフルオロポリエーテル誘導体、または<5>に記載のパーフルオロポリエーテル組成物を含む、潤滑剤。
<7>
非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に積層された磁性層とを備え、前記磁性層は、<6>に記載の潤滑剤を含む、磁気記録媒体。
<8>
非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に積層された磁性層と、前記磁性層上に積層された潤滑剤層とを備え、前記潤滑剤層は、<6>に記載の潤滑剤を含む、磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、磁気記録媒体の耐久性を改善可能な潤滑剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る磁気テープの断面模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る摩擦測定に用いた磁気テープに潤滑剤が塗布されたサンプルの断面模式図である。
図3】本発明の一実施形態に係る図1の磁性層1の構造である。
図4】本発明の一実施形態に係る図1の非磁性層2の構造である。
図5】本発明の一実施形態に係る磁気ディスクの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意図する。
【0013】
〔1.パーフルオロポリエーテル誘導体〕
本発明の一実施形態に係るパーフルオロポリエーテル誘導体は、下記式(1)で表される。
【0014】
【化13】
式(1)中、Xは下記式(2)で示される。
【化14】
式(2)中、mは0~10の整数であり、後に述べる合成上の観点から、mは0~8の整数であることが好ましい。
【0015】
式(2)中、Rは、炭素数9以下の炭化水素または水素原子である。炭化水素の炭素数は好ましくは8以下であり、より好ましくは5以下である。Rの炭素数の下限値は特に限定されず、通常は1以上である。溶媒への溶解性の観点から、Rは炭素数が3以上の炭化水素であることが好ましい。Rの炭素数がこれらの範囲を満足することにより、得られるパーフルオロポリエーテル誘導体の溶解性が良好で、摩擦係数を低減し潤滑特性を向上させることができる。なお、Rの炭素数は、得られるパーフルオロポリエーテル誘導体の溶媒への溶解性を考慮して決定することができる。また、Rが炭化水素である場合、Rは直鎖状であってもよく、分岐鎖、二重結合、フッ素、芳香環、複素環等を含んでいてもよいが、摩擦係数の低減の観点から直鎖状であることが好ましい。
【0016】
式(2)中、R’は、環状炭化水素である。環状炭化水素としては、芳香環または脂環式炭化水素が挙げられる。芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環等が挙げられる。脂環式炭化水素としては、シクロヘキサン、シクロペンタン等が挙げられる。Rは、炭素数30以下の炭化水素または水素原子である。溶解性の観点から、Rは、好ましくは炭素数20以下の炭化水素または水素原子であり、より好ましくは炭素数12以下の炭化水素または水素原子であり、さらに好ましくは炭素数6以下の炭化水素または水素原子である。
【0017】
式(1)中、Rは、下記式(3)で示される。
【化15】
【0018】
式(3)中、j、k、p、q、r、およびsはそれぞれ平均重合度を表し、3~70の実数である。j、k、p、q、r、および/またはsが3未満では分子量が小さく、潤滑効果が望めない。また70を超えると炭化水素系溶媒に溶解しにくくなる。j、k、p、q、r、およびsは、好ましくは5~50の実数であり、より好ましくは5~30の実数である。式(3)で示される骨格は、上から順にフォンブリン骨格、C2骨格、デムナム骨格、クライトックス骨格、C4骨格とも称される。
【0019】
また、本発明の他の一実施形態に係るパーフルオロポリエーテル誘導体は、下記式(4)で表される。
【化16】
式(4)中、Xはそれぞれ独立して上記式(2)または任意の置換基であり、少なくとも一方は式(2)である。任意の置換基としては、例えば、水素原子、水酸基、アルコキシ基、チオール基、ハロゲン原子、およびエーテル結合、エステル結合を有する基等が挙げられる。式(4)中、Rは、上記式(3)で示される。
【0020】
本発明のさらに他の一実施形態に係るパーフルオロポリエーテル誘導体は、下記式(5)で表される。
【化17】
式(5)中、少なくとも一つのYは下記式(6)で示される。
【化18】
式(6)中、tは0~10の整数であり、後に述べる合成上の観点からは0~8の整数であることが好ましい。
【0021】
式(6)中、Rは炭素数7以下の炭化水素または水素原子である。炭化水素の炭素数は好ましくは5以下である。Rの炭素数の下限値は特に限定されない。溶媒への溶解性の観点から、Rは水素原子または炭素数1以上の炭化水素であることが好ましい。Rの炭素数がこれらの範囲を満足することにより、得られるパーフルオロポリエーテル誘導体の溶解性が良好で、摩擦係数を低減し潤滑特性を向上させることができる。なお、Rの炭素数は、得られるパーフルオロポリエーテル誘導体の溶媒への溶解性を考慮して決定することができる。また、Rが炭化水素である場合、Rは直鎖状であってもよく、分岐鎖、二重結合、フッ素、芳香環、複素環等を含んでいてもよいが、摩擦係数の低減の観点から直鎖状であることが好ましい。
【0022】
式(6)中、R’の定義は上述した通りである。式(6)中、Rは、炭素数30以下の炭化水素または水素原子である。Rは、好ましくは炭素数20以下の炭化水素または水素原子であり、より好ましくは炭素数12以下の炭化水素または水素原子であり、さらに好ましくは炭素数6以下の炭化水素または水素原子である。
【0023】
式(5)中、Yはそれぞれ独立して上記式(6)または任意の置換基であり、Yの少なくとも一方は上記式(6)である。任意の置換基としては、例えば、水素原子、水酸基、アルコキシ基、チオール基、ハロゲン原子、およびエーテル結合、エステル結合を有する基等が挙げられる。式(5)中、Rは、上記式(3)で示される。
【0024】
本発明のさらにまた他の一実施形態に係るパーフルオロポリエーテル誘導体は、下記式(7)で表される。
【化19】
式(7)中、Xはそれぞれ独立して上記式(2)または任意の置換基であり、Xの少なくとも1つは上記式(2)である。任意の置換基としては、上述したものが挙げられる。式(7)中、Rは、上記式(3)で示される。
【0025】
以下、前記式(1)で表されるパーフルオロポリエーテル誘導体を誘導体A、前記式(4)で表されるパーフルオロポリエーテル誘導体を誘導体B、前記式(5)で表されるパーフルオロポリエーテル誘導体を誘導体C、前記式(7)で表されるパーフルオロポリエーテル誘導体を誘導体Dとも称する。
【0026】
従来、下記式(8)、下記式(9)及び下記式(10-1)~(10-3)で表されるパーフルオロポリエーテル化合物が知られている。この下記式(8)で表されるパーフルオロポリエーテル化合物はD2M、下記式(9)で表されるパーフルオロポリエーテル化合物はDDOHとも称される。
【化20】
【化21】
【化22】
前記式(8)および式(9)において、kは3~70の実数である。前記式(10-1)~(10-3)において、j、k、p、qは3~70の実数である。
【0027】
誘導体A、誘導体B、および誘導体Cはそれぞれ、D2M、DDOH及び式(10-1)~(10-3)で表される化合物が有する、水酸基の少なくとも一部を変性した構造を有する。具体的には、誘導体AではD2Mの水酸基が、エステル基及び/またはカルボキシル基を有する官能基によって置換されている。誘導体BではDDOHの2個の水酸基のうち少なくとも一つが、エステル基及び/またはカルボキシル基を有する官能基によって置換されている。つまり、誘導体Bは、DDOHの水酸基の一方のみを変性した化合物、または水酸基の2個を変性した化合物である。
【0028】
前記パーフルオロポリエーテル誘導体は、極性基であるエステル基およびカルボキシル基を分子内の片末端に合計2個以上含有している。それゆえ、前記パーフルオロポリエーテル誘導体を含む潤滑剤を磁性層に塗布すると、D2M(式(8))、DDOH(式(9))または式(10-1)~(10-3)で表される化合物のように2個以下の水酸基を有する化合物を含む従来の潤滑剤と比較して、磁性層により強く配向吸着する。そのため、前記パーフルオロポリエーテル誘導体を含む潤滑剤は、従来の潤滑剤よりも磁気記録媒体の摩擦係数をより低下させることができる。また、前記パーフルオロポリエーテル誘導体を含む潤滑剤は、低い摩擦係数を維持することができる。よって、磁気記録媒体の耐久性、特に現在求められている高密度記録を可能にする平滑性を持った高い電磁変換特性を有する磁気記録媒体の耐久性を向上させることができる。
【0029】
〔2.パーフルオロポリエーテル誘導体の製造方法〕
前記式(1)、式(4)、式(5)、および式(7)で表される、パーフルオロポリエーテル誘導体の製造方法については特に限定されるものではない。例えば、前記パーフルオロポリエーテル誘導体は、パーフルオロポリエーテル化合物と、コハク酸等のジカルボン酸無水物とを反応させること等により得られる。
【0030】
前記パーフルオロポリエーテル化合物としては例えば、上述のD2M、DDOH及び式(10-1)~(10-3)の化合物が挙げられる。ジカルボン酸無水物としては、コハク酸無水物、メチルコハク酸無水物、エチルコハク酸無水物、プロピルコハク酸無水物、ブチルコハク酸無水物、ペンチルコハク酸無水物、へキシルコハク酸無水物、ヘプチルコハク酸無水物、オクタデシルコハク酸無水物、無水マレイン酸、マロン酸無水物、グルタル酸無水物、アジピン酸無水物等が挙げられる。このコハク酸無水物誘導体の側鎖は、上述の誘導体A、B、及びDではRで表される炭化水素基に相当し、誘導体CではRで表される炭化水素基に相当する。
【0031】
誘導体Aは、具体的には以下の方法により合成され得る。まず、D2Mとコハク酸無水物誘導体1等量とを油浴下で加熱撹拌しながら反応させる。反応終了後、得られた反応生成物を溶媒に溶解させて、不純物を濾過し、さらに溶媒を除去し、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製して誘導体Aが得られる。油浴温度は好ましくは、110~150℃である。反応時間は2時間以上であり、好ましくは2~24時間である。反応終了後に溶解させる溶媒としては例えば、ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、VertrelTM-XF(三井・デュポンフロロケミカル製)等が挙げられる。
【0032】
得られた化合物の同定は、例えばフーリエ変換赤外分光(FTIR)測定によって行うことができる。FTIR測定により同定する場合、水酸基、エステル基、またはカルボキシル基に帰属されるIRピークを測定することで、目的の化合物であるかどうかを確認することができる。
【0033】
誘導体Bは、DDOHとコハク酸無水物誘導体を1等量~2等量とを用いることで得られる。1等量を用いた場合には、誘導体Bの片方のXは水酸基である。また、式(4)において、Xが式(2)の構造を一つまたは二つ有する化合物が混在するパーフルオロポリエーテル組成物は、DDOHとコハク酸無水物誘導体のモル比率を1~2等量の範囲で変更することによって得ることができる。
【0034】
誘導体Cは、式(10-1)~(10-3)で表される化合物と、コハク酸無水物誘導体1~2等量とを用いることにより得られる。誘導体Bと同様、式(5)においてYが式(2)の構造を一つまたは二つ有する化合物が混在するパーフルオロポリエーテル組成物は、原料である式(10-1)~(10-3)で表される化合物、およびコハク酸無水物誘導体のモル比率を1~2等量の範囲で変更することによって得ることができる。
【0035】
誘導体Dは、後述する実施例9で記載した合成方法によって得ることができる。
【0036】
本発明の一実施形態には、誘導体A、B、C、及び/またはDを含む組成物も包含される。本明細書では、当該組成物をパーフルオロポリエーテル組成物とも称する。複数のパーフルオロポリエーテル誘導体を混合する場合、混合比率は特に限定されない。パーフルオロポリエーテル組成物は、誘導体A~Dの性能を損なわない範囲でその他成分を含んでいてもよい。前記パーフルオロポリエーテル組成物に誘導体A~D以外の化合物を含む場合、誘導体A~Dの含有率は50wt%超が好ましく、80wt%以上がより好ましく、90wt%以上がさらに好ましい。
【0037】
〔3.潤滑剤〕
本発明の一実施形態に係る潤滑剤は、上述のパーフルオロポリエーテル誘導体、または上述のパーフルオロポリエーテル組成物を含む。本発明の一実施形態に係る潤滑剤は、誘導体A~Dのうち、通常一種類の化合物を用いるが、複数種類の化合物を混合して用いてもよい。また、誘導体A~Dのうち、少なくとも一種類を含んでいれば、それ以外の化合物を混合して用いてもよい。
【0038】
特に表面が平滑化された磁気記録媒体においては、表面に潤滑剤が塗布される。従来、この潤滑剤の能力不足に起因して、例えば走行試験において磁気テープの再生出力が低下することがあった。この場合、実用特性に不満が残る。また、繰り返しの使用により摩擦係数が上昇する場合、長期にわたっての信頼性にも不安が残る。これらの観点から、本発明者らは、磁気記録媒体の耐久性を改善し得る潤滑剤を検討した。
【0039】
本発明の一実施形態に係る潤滑剤を磁気記録媒体に用いることにより、各種使用条件下において優れた潤滑性が保たれるとともに、長期間にわたって潤滑効果が持続される。これにより、優れた走行性、耐摩耗性、耐久性等を提供できる。また、前記磁気記録媒体以外にも、磁性層を含まない例えば耐久性を改善した高分子フィルム等の潤滑特性の向上も可能となる。
【0040】
潤滑剤はその性能を損なわない範囲で、誘導体A~D以外のその他の成分を含んでいてもよい。例えば、本発明の一実施形態に係る潤滑剤は、さらに、溶媒を含んでいてもよい。前記溶媒の例としては、ジイソプロピルエーテル、n-ヘキサン、メチルエチルケトン、トルエン、もしくはシクロヘキサノン等の炭化水素系溶媒、またはVertrelTM-XF(三井・デュポンフロロケミカル製)等のフッ素系溶媒が挙げられる。前記パーフルオロポリエーテル誘導体および前記パーフルオロポリエーテル組成物は通常、溶媒に希釈した状態で磁気テープの製造に用いられる。例えば、磁気記録媒体表面にトップコートする場合には、VertrelTM-XFのようなフッ素系溶媒が磁性層を侵食しないために好ましい。また磁気記録媒体の磁性層内に潤滑剤を内添する場合には、メチルエチルケトン、トルエン、またはシクロヘキサノンに溶解させることが好ましい。
【0041】
前記溶媒で希釈した潤滑剤中の誘導体A~Dの含有量は、潤滑剤の性能を損なわない範囲であれば特に限定されるものではないが、0.05~40.0g/Lであることが好ましく、0.1~20.0g/Lであることがより好ましく、0.2~10.0g/Lであることがさらに好ましい。
【0042】
〔4.磁気記録媒体〕
本発明の一実施形態に係る磁気記録媒体は、非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に積層された磁性層とを備え、前記磁性層は、上述の潤滑剤を含む。または、本発明の一実施形態に係る磁気記録媒体は、非磁性支持体と、前記非磁性支持体上に積層された磁性層と、前記磁性層上に積層された潤滑剤層とを備え、前記潤滑剤層は、上述の潤滑剤を含んでいてもよい。
【0043】
本明細書において「磁気記録媒体」としては、磁気テープ、磁気ディスク等が挙げられる。摩擦係数を低下させ、耐久性を向上しやすい観点から、磁気記録媒体は磁気テープおよび磁気ディスクであることが好ましい。
【0044】
図1および図2は本発明の一実施形態に係る磁気テープの構成を示す断面模式図である。図1の磁気テープ15は、磁性層1と、非磁性層2と、支持体であるベースフィルム3およびバックコート層4とがこの順に積層されてなる。図1の磁気テープは、潤滑剤が磁性層1および非磁性層2に内添されている。図3に磁性層1の構造を示すが、磁性層1は研磨剤等の顔料6と、磁性粉末7と、バインダー、潤滑剤等を含む有機層8とを含んでいる。そのため、磁性層1の内部から表面へ潤滑剤が染み出し、磁気テープ表面の摩擦係数を継続的に低下させる。図4に非磁性層2の構造を示すが、非磁性層2は顔料6と、非磁性粉末9と、バインダー、潤滑剤等を含む有機層8とを含んでいる。なお、磁性層1のみに潤滑剤が内添されていてもよい。
【0045】
図2の磁気テープ15では、磁性層1の上に、前記潤滑剤を含む潤滑剤トップコート層5が形成されている。この場合、潤滑剤トップコート層5が磁性層1に強く配向吸着することにより、摩擦係数を低下させ、磁気テープ15の耐久性を維持することができる。この場合、磁性層1に潤滑剤が内添されていても、内添されていなくもよい。
【0046】
顔料6としては例えば、アルミナ等の研磨剤やカーボンブラック粉末等が挙げられる。磁性粉末7としては例えば、γ-Fe、コバルト被着γ-Fe等の強磁性酸化鉄系粒子、強磁性二酸化クロム系粒子、Fe、Co、Ni等の金属、これらを含んだ合金からなる強磁性金属系粒子、六角板状の六方晶系フェライト微粒子、イプシロン型酸化鉄(ε酸化鉄)、Co含有スピネルフェライト等が挙げられる。
【0047】
前記有機層8に含まれるバインダーとしては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、塩化ビニリデン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、アクリロニトリル等の重合体、またはこれら二種以上を組み合わせた共重合体、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等が例示される。前記バインダーには、磁性粉末の分散性を改善するために、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基等の親水性極性基が導入されてもよい。バインダーは一般に磁気記録媒体に使用されるものであれば特に限定されず、例えば、架橋反応が行われたポリウレタン系樹脂または塩化ビニル系樹脂、熱硬化性樹脂、または反応型樹脂等が挙げられる。
【0048】
ベースフィルム3は、磁気テープの支持体として機能する層である。ベースフィルム3の材料としては例えば、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリエチレン-p-オキシベンゾエート(PEB)、アラミド(芳香族ポリアミド)およびポリエチレンビスフェノキシカルボキシレート等の1種類以上が挙げられる。
【0049】
バックコート層4は、磁気テープの走行性を改善するための層である。バックコート層4の材料としては例えば、カーボン及び炭酸カルシウム等を含んだポリウレタン系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、が挙げられる。
【0050】
図5は、本発明の一実施形態に係る磁気ディスクの構成を示す断面模式図である。磁気ディスク16は潤滑剤層10と、保護層11と、磁性層12と、下地層13と、基板14とがこの順に積層されてなり、前記潤滑剤層10が前記潤滑剤を含む。別の実施形態においては、磁性層の下に下層、下層の下に配置される軟磁性下層および1層以上の軟磁性層の下に配置される接着層を含んでいてもよい。
【0051】
潤滑層以外の磁気ディスクの各層は、磁気ディスクの個別の層に好適であると当該技術分野において知られている材料を含むことができる。例えば、保護層11としては、カーボン膜が挙げられる。
【0052】
潤滑層以外の層を得る方法は特に限定されず、公知の技術に基づいて合成してもよいし、市販品を用いてもよい。
【実施例0053】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明の一態様をより詳細に説明するが、本発明の態様はこれらに限定されるものではない。
【0054】
<磁気テープサンプルの作製>
図2に示す構造を有する磁気テープサンプルを以下のように作製した。市販の磁気テープであるUltrium7(富士フイルム社製)を用意した。また、表1に記載の化合物を前記のVertrelTM-XF溶媒に0.1wt%の濃度で含む溶液を調製した。前記磁気テープ表面に平均隙間5μmのバーコーターを用いて、当該溶液を塗布することで、磁気テープサンプルを得た。比較化合物1~3はVertrelTM-XFに溶解しないため、比較化合物1~3をジイソプロピルエーテルに0.1wt%の濃度で溶解させた溶液を調整して、同様の方法で塗布した。
【0055】
<摩擦試験方法>
摩擦係数は、トライボギア摩擦摩耗試験機 TYPE:40(Heidon製)を用いて測定した。具体的な測定方法としては、25℃において、ガラスプレート上に潤滑剤を塗布した磁気テープを固定し、磁気テープに10mmφのSUS球を接触させ、荷重50gをかけた。その状態でSUS球をサンプル上にて移動速度1mm/sで、走行距離5mmを5回および20回(10往復)走行させ、その際に生じた摩擦力をひずみゲージによって測定した。
【0056】
<FTIR測定>
FTIR測定は、フーリエ変換赤外分光装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、商品名:Nicolet iS10 FTIR)を用いてATR法(ダイヤモンドプリズム)で行った。
【0057】
〔実施例1〕
化合物1の合成を、以下の式(11)の通りに行った。
【0058】
【化23】
【0059】
末端に1個の水酸基を持つ分子量2030のパーフルオロポリエーテル(D2M)29.60gと、それに対して1等量の無水コハク酸1.55gとを温度140℃の油浴下で攪拌しながら22時間反応させた。反応終了後、VertrelTM-XFに溶解させて不溶物を濾過した。留出溶媒として、n-ヘキサン/VertrelTM-XF=50/50の溶媒を用い、シリカゲルカラムクロマトにより不純物を除去した。その後、n-ヘキサン/VertrelTM-XF/エチルアルコール=50/50/3を用いて目的物を取り出し、溶媒を除去して化合物1を得た。
【0060】
得られた化合物をFTIR測定によって同定した。後述のピークが観察されたことから、得られた化合物にはエステル基、カルボキシル基及びパーフルオロポリエーテル基が存在していることがわかった。これにより得られた化合物が、化合物1であることが同定された。化合物1においてはk=11.3であった。なお、水酸基のIR吸収は、原料であるD2Mでも確認されなかったため、本実施例における同定には用いなかった。
エステル基に帰属されるカルボニル基のピーク:1768cm-1
カルボキシル基に帰属されるカルボニル基のピーク:1723cm-1
CF伸縮振動に帰属されるピーク:1119~1250cm-1
【0061】
〔実施例2〕
化合物2の合成を、以下の式(12)の通りに行った。
【0062】
【化24】
【0063】
実施例1と同様のD2M27.35gと、それに対して1等量のオクチルコハク酸無水物2.90gとを化合物1と同様の方法により反応させ、精製して化合物2を得た。
【0064】
得られた化合物をFTIR測定によって同定した。後述のピークが観察されたことから、得られた化合物には炭化水素基、エステル基、カルボキシル基及びパーフルオロポリエーテル基が存在していることがわかった。これにより得られた化合物が、化合物2であることが同定された。化合物2はk=11.3であった。
CH伸縮振動に帰属されるピーク:波数2932cm-1、2860cm-1
エステル基に帰属されるカルボニル基のピーク:1763cm-1
カルボキシル基に帰属されるカルボニル基のピーク:1714cm-1
CF伸縮振動に帰属されるピーク:1118~1260cm-1
【0065】
〔実施例3〕
化合物3の合成を、以下の式(13)の通りに行った。
【0066】
【化25】
【0067】
末端に2個の水酸基を持つ分子量2010のパーフルオロポリエーテル(DDOH)30.75gとそれに対して1等量のコハク酸無水物1.53gを化合物1と同様の方法により反応させ、精製して、化合物3を得た。
【0068】
得られた化合物をFTIR測定によって同定した。後述のピークが観察されたことから、得られた化合物には水酸基、炭化水素基、エステル基、カルボキシル基及びパーフルオロポリエーテル基が存在していることがわかった。これにより得られた化合物が、化合物3であることが同定された。化合物3においてはk=10.8であった。
水酸基に帰属されるピーク:3443cm-1
CH伸縮振動に帰属されるピーク:2937cm-1
エステル基に帰属されるカルボニル基のピーク:1739cm-1
カルボキシル基に帰属されるカルボニル基のピーク1712cm-1
CF伸縮振動に帰属されるピーク:1110~1250cm-1
【0069】
〔実施例4〕
化合物4の合成を、以下の式(14)の通りに行った。
【0070】
【化26】
【0071】
実施例3で用いたDDOH56.43gとそれに対して2等量のコハク酸無水物5.65gを化合物1と同様の方法により反応させ、精製して、化合物4を得た。
【0072】
得られた化合物をFTIR測定によって同定した。後述のピークが観察されたことから、得られた化合物には炭化水素基、エステル基、カルボキシル基及びパーフルオロポリエーテル基が存在していることがわかった。これにより得られた化合物が、化合物4であることが同定された。化合物4においてはk=10.8であった。
CH伸縮振動に帰属されるピーク:2941cm-1
エステル基に帰属されるカルボニル基のピーク:1743cm-1
カルボキシル基に帰属されるカルボニル基のピーク:1714cm-1
CF伸縮振動に帰属されるピーク:1110~1255cm-1
【0073】
〔実施例5〕
化合物5の合成を、以下の式(15)の通りに行った。
【0074】
【化27】
【0075】
実施例3で用いたDDOH20.50gとそれに対して2等量のブチルコハク酸無水物3.19gを化合物1と同様の方法により反応させ、精製して、化合物5を得た。
【0076】
得られた化合物をFTIR測定によって同定した。後述のピークが観察されたことから、得られた化合物には炭化水素基、エステル基、カルボキシル基及びパーフルオロポリエーテル基が存在していることがわかった。これにより得られた化合物が、化合物5であることが同定された。化合物5はk=10.8であった。
CH伸縮振動に帰属されるピーク:2935cm-1、2860cm-1
エステル基に帰属されるカルボニル基のピーク:1738cm-1
カルボキシル基に帰属されるカルボニル基のピーク:1712cm-1
CF伸縮振動に帰属されるピーク:1117~1255cm-1
【0077】
〔実施例6〕
化合物6の合成を、以下の式(16)の通りに行った。
【0078】
【化28】
【0079】
実施例3で用いたDDOH24.10gとそれに対して2等量のオクチルコハク酸無水物5.09gを化合物1と同様の方法により反応させ、精製して、化合物6を得た。
【0080】
得られた化合物をFTIR測定によって同定した。後述のピークが観察されたことから、得られた化合物には炭化水素基、エステル基、カルボキシル基及びパーフルオロポリエーテル基が存在していることがわかった。これにより得られた化合物が、化合物6であることが同定された。化合物6はk=10.8であった。
CH伸縮振動に帰属されるピーク:2928cm-1、2858cm-1
エステル基に帰属されるカルボニル基のピーク:1741cm-1
カルボキシル基に帰属されるカルボニル基のピーク:1712cm-1
CF伸縮振動に帰属されるピーク:1119~1250cm-1
【0081】
〔実施例7〕
化合物7の合成を、以下の式(17)の通りに行った。
【0082】
【化29】
【0083】
式(10-2)で表される、分子量1048のパーフルオロポリエーテル14.49gとそれに対して2等量のコハク酸無水物2.77gを化合物1と同様の方法により反応させ、精製して、化合物7を得た。
【0084】
得られた化合物をFTIR測定によって同定した。後述のピークが観察されたことから、得られた化合物には炭化水素基、エステル基、カルボキシル基及びパーフルオロポリエーテル基が存在していることがわかった。これにより得られた化合物が、化合物7であることが同定された。化合物7はj=7.5であった。
CH伸縮振動に帰属されるピーク:2976cm-1
エステル基に帰属されるカルボニル基のピーク:1753cm-1
カルボキシル基に帰属されるカルボニル基のピーク:1704cm-1
CF伸縮振動に帰属されるピーク:1110~1250cm-1
【0085】
〔実施例8〕
化合物8の合成を、以下の式(18)の通りに行った。
【0086】
【化30】
【0087】
式(10-3)で表される、分子量2000のパーフルオロポリエーテル24.10gとそれに対して2等量のコハク酸無水物2.41gを化合物1と同様の方法により反応させ、精製して、化合物8を得た。
【0088】
得られた化合物をFTIR測定によって同定した。後述のピークが観察されたことから、得られた化合物には炭化水素基、エステル基、カルボキシル基及びパーフルオロポリエーテル基が存在していることがわかる。これにより得られた化合物が、前記式(18)の右辺に示される化合物8であることが同定された。化合物8においてはk=10.4であった。
CH伸縮振動に帰属されるピーク:2970cm-1
エステル基に帰属されるカルボニル基のピーク:1741cm-1
カルボキシル基に帰属されるカルボニル基のピーク:1714cm-1
CF伸縮振動に帰属されるピーク:1115~1250cm-1
【0089】
〔実施例9〕
化合物9の合成を、以下の式(19)の通りに行った。
【0090】
【化31】
【0091】
上記式の原料の分子量2000のパーフルオロポリエーテル21.10gとそれに対して4等量のコハク酸無水物4.22gを化合物3と同様の方法により反応させ、精製して、化合物9を得た。
【0092】
得られた化合物をFTIR測定によって同定した。下記ピークが観察されたことから、得られた化合物には炭化水素基、エステル基、カルボキシル基及びパーフルオロポリエーテル基が存在していることがわかる。これにより得られた化合物が、前記式(19)の右辺に示される化合物9であることが同定された。化合物9においてはk=9.7であった。
CH伸縮振動に帰属されるピーク:2960cm-1
エステル基に帰属されるカルボニル基のピーク:1745cm-1
カルボキシル基に帰属されるカルボニル基のピーク:1715cm-1
CF伸縮振動に帰属されるピーク:1115~1250cm-1
【0093】
〔比較例1〕
比較化合物1の合成を、以下の式(20)の通りに行った。この化合物は、D2Mを長鎖の炭化水素(炭素数18)で置換されたコハク酸で修飾した化合物である。当該化合物と、無置換のコハク酸で修飾した実施例1、および短鎖の炭化水素で置換されたコハク酸で修飾した実施例2の化合物とを比較した。
【0094】
【化32】
【0095】
末端に1個の水酸基を持つ分子量2030のパーフルオロポリエーテル(D2M)19.96gとオクタデシルコハク酸無水物4.92gとを、温度150℃の油浴下で攪拌しながら11時間反応させた。反応終了後冷却し、過剰に加えたオクタデシルコハク酸無水物を取り除いた。ジイソプロピルエーテルに溶解させて不溶物を濾過し、溶媒を除去して、比較化合物1を得た。
【0096】
得られた化合物を、FTIR測定によって同定した。カルボニル基に帰属されるピークが2個現れることにより、得られた化合物が比較化合物1であることが同定された。比較化合物1においてはk=11.3であった。なお、比較化合物1は特許文献4に開示されている化合物である。
【0097】
〔比較例2〕
比較化合物2の合成を、以下の式(21)の通りに行った。この化合物は、長鎖の炭化水素(炭素数18)で置換されたコハク酸で修飾した化合物である。当該化合物と、無置換のコハク酸で修飾した実施例4、および短鎖の炭化水素で置換されたコハク酸修飾した5,6の化合物とを比較した。
【0098】
【化33】
【0099】
末端に2個の水酸基を持つ分子量2030のパーフルオロポリエーテル(DDOH)20.28gと、2等量のオクタデシルコハク酸無水物7.04gとを温度150℃の油浴下で攪拌しながら3時間反応させた。反応終了後、ジイソプロピルエーテルに溶解させて不溶物を濾過し、溶媒を除去して、比較化合物2を得た。
【0100】
得られた比較化合物2をFTIR測定によって同定した。エステル基に帰属されるカルボニル基のピークが1738cm-1に観察され、カルボキシル基に帰属されるカルボニル基のピークが1704cm-1に観察された。このことから得られた化合物にはエステル基およびカルボキシル基が存在していることがわかった。これにより得られた化合物が、比較化合物2であることが同定された。比較化合物2においてはk=11.3であった。
【0101】
〔比較例3〕
比較化合物3の合成を、特許文献4と同様にして以下の式(22)の通りに行った。
【化34】
なお、比較化合物3は特許文献4に開示されている化合物であり、p=1~9、q=1~9である。
【0102】
〔比較例4〕
比較例4では、式(8)のD2Mを用いた。
【0103】
〔比較例5〕
比較例5では、式(9)のDDOHを用いた。
【0104】
〔比較例6〕
比較例6では、ステアリン酸ブチルおよびミリスチン酸を重量比率1:1で含む比較混合物6を用いた。比較混合物6は磁気テープの潤滑剤として一般的に使用されている。
【0105】
化合物の構造式と比較化合物の構造式をそれぞれ表1及び表2に示す。
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
各種試験結果を表3にまとめる。
【表3】
【0108】
<化合物の溶解性試験結果>
磁気記録媒体へ潤滑剤を形成させる方法としては、磁性層に内添する方法と磁性層上にトップコートする方法がある。実際の磁気テープの製造では、磁性層に内添する方法が広く使用されている。磁気記録媒体の磁性層内に潤滑剤を添加する(内添)場合には磁気テープの製造に使用される磁性塗料に使用される溶媒に溶解しなければならない。溶媒として、メチルエチルケトン(MEK)、トルエン、あるいはシクロヘキサノンが一般的に使用される。潤滑剤を磁気記録媒体表面にトップコートする場合には、磁性層に内添する場合と異なり、磁性層内部から潤滑剤を補充できないため、記録媒体表面に潤滑成分が存在することが重要となる。トップコートする場合には、溶媒が磁性層を浸食する等の影響を及ぼさないことが必要であり、使用される溶媒はフッ素系に限定される。そこで、MEK及びフッ素系溶媒のVertrelTM-XFを選択して、25℃において化合物及び比較化合物の0.1wt%溶解性について試験を行った。
【0109】
パーフルオロポリエーテル誘導体がD2MまたはDDOHの無水コハク酸誘導体である、化合物1、化合物3及び化合物4は、実施例1、実施例3及び実施例4に示すようにMEKには溶解しなかったがフッ素系溶媒であるVertrelTM-XFには溶解した。同様にD2Mのオクチルコハク酸誘導体である化合物2も、実施例2に示すようにMEKに溶解しなかったがVertrelTM-XFに溶解した。DDOHのブチルコハク酸誘導体である化合物5、両末端に極性基を持つPFPEの誘導体である化合物7~9は、実施例5及び実施例7~9に示すように、MEK及びVertrelTM-XFのいずれにも溶解し、溶解性が大きく改善した。比較化合物1~3は、いずれの溶媒にも溶解しなかった。比較例4(D2M)及び比較例5(DDOH)は、MEKには溶解しないがVertrelには溶解した。比較例6はいずれの溶媒にも溶解した。
【0110】
つまり実施例5は、ブチル基のような短鎖の炭化水素を持つ無水コハク酸でDDOHを修飾した化合物であり、いずれの溶媒にも溶解させることができた。また、両末端に水酸基を有する化合物を無水コハク酸で変性した化合物7~9は、MEK及びVertrelTM-XFに溶解性があり、溶解特性が大きく改善され、磁気テープの潤滑層形成方法を問わずに使用することができる。
【0111】
実施例1~4は、原料のD2MまたはDDOHを短鎖の炭化水素を有するコハク酸無水物、または無置換の無水コハク酸で修飾した化合物である。原料のD2MまたはDDOHに長鎖の炭化水素を導入した比較化合物1~3と比較すると、VertrelTM-XFに溶解する点で、優れた溶解性を示した。
【0112】
つまり長鎖の炭化水素を持つ無水コハク酸で修飾するよりも、短鎖の炭化水素基を有する無水コハク酸、または無置換の無水コハク酸で修飾したほうが、溶解性に優れていることがわかった。
【0113】
この結果から、原料のパーフルオロポリエーテル誘導体に含まれる少なくとも一つの水酸基を、ブチルまたはオクチルなどの炭素数が9以下の炭化水素で置換された無水コハク酸、または無置換の無水コハク酸で修飾した化合物は、炭素数が18の長鎖炭化水素で修飾した比較化合物よりも、MEKまたはフッ素系溶媒への溶解性が改善されることがわかる。これにより、比較化合物1~3では磁気記録媒体への塗布が困難であるが、化合物1~4は磁気記録媒体に塗布することが可能となる。
【0114】
<磁気テープ摩擦試験の結果>
実施例1~9と、比較例1~6とをそれぞれ潤滑剤として塗布した磁気テープの摩擦試験の5回目と20回目の摩擦係数の結果を表3に示す。ここで、実施例1~9は、それぞれ化合物1~9を磁性層上に塗布したサンプルである。比較例1~6は、それぞれ比較化合物1~6を塗布したサンプルである。比較例1~3は、VertrelTM-XFまたはMEKのいずれにも溶解しなかったので、ジイソプロピルエーテルに溶解させて磁気テープに塗布した。
【0115】
実施例は比較例に対して、摩擦係数が低く抑えられており、磁気テープの耐久性に優れていることがわかる。具体的には、D2M変性品を塗布した実施例1及び2は、D2Mを塗布した比較例4と比較して5回目及び20回目の摩擦係数が低く抑えられている。
【0116】
特にDDOH変性品ではその効果が顕著に現れている。変性前のDDOHは比較例5に示すように5回目と20回目の摩擦係数は、それぞれ0.453と0.431であるが、コハク酸誘導体の変性品である実施例3~6、特に実施例3~5では、5回目の摩擦係数と20回目の摩擦係数は0.155以下で、摩擦係数の上昇が小さく、変性することによる摩擦低減効果が顕著である。コハク酸誘導体のアルキル基の炭素数は小さいほうが摩擦低減には効果があることがわかる。
【0117】
両末端を変性した実施例7及び8でも、比較例に対して5回目の摩擦係数は低く、また20回走行した後でも摩擦係数の上昇が小さかった。また、いずれの実施例も、比較例6の一般的な磁気テープの潤滑剤であるミリスチン酸とステアリン酸ブチルの1:1の重量比の混合物を塗布したサンプルよりも摩擦係数が低かった。
【0118】
したがって、化合物が分子内の片末端または両末端の水酸基の一部あるいはすべてを、無置換または炭素数9以下の短鎖のアルキル基を持つ無水コハク酸誘導体で変性することは、磁気テープの摩擦係数の低減に効果的であることがわかる。
【0119】
比較例1、比較例5、及び比較例6はでは初期(5回目)から摩擦係数が高く0.3を超えていた。また、比較例2では初期の摩擦係数は低いが走行回数が増えると摩擦係数が大きく増加した。比較例1~3は、比較化合物1~3を塗布したことにより、20回目の摩擦係数は0.47を超えて大きく上昇した。つまり長鎖の炭化水素を持つコハク酸誘導体での変性は、溶解性に劣るばかりでなく摩擦係数も上昇させ、磁気テープへの応用は難しい。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明は、磁気記録媒体用の潤滑剤として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0121】
1 磁性層
2 非磁性層
3 ベースフィルム
4 バックコート層
5 潤滑剤トップコート層
6 顔料
7 磁性粉末
8 有機層
9 非磁性粉末
10 潤滑剤層
11 保護層
12 磁性層
13 下地層
14 基板
15 磁気テープ
16 磁気ディスク
図1
図2
図3
図4
図5