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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121602
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】積層型電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 19/06 20060101AFI20240830BHJP
   H01F 27/00 20060101ALI20240830BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20240830BHJP
   H03H 7/09 20060101ALI20240830BHJP
   H03H 7/42 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
H01F19/06
H01F27/00 S
H01F17/00 D
H03H7/09 Z
H03H7/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028790
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芦田 裕太
(72)【発明者】
【氏名】照井 智理
(72)【発明者】
【氏名】立松 雅大
(72)【発明者】
【氏名】澤口 修平
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 敬悟
(72)【発明者】
【氏名】後藤 哲三
【テーマコード(参考)】
5E070
5J024
【Fターム(参考)】
5E070AA05
5E070AA16
5E070CB13
5J024AA01
5J024CA02
5J024CA03
5J024CA06
5J024CA10
5J024DA04
5J024DA29
5J024DA31
5J024DA33
5J024DA35
5J024EA03
5J024KA03
5J024KA04
(57)【要約】
【課題】バランを含む積層型電子部品であって、小型化が可能な積層型電子部品を実現する。
【解決手段】電子部品1は、フィルタ10と、第1の移相回路21と、第2の移相回路22と、積層体50とを備えている。第1の移相回路21は、不平衡端子2と第1の平衡端子3とを接続する第1の経路5に設けられた第1のインダクタL21と、回路構成上第1の経路5とグランドとの間に設けられた第1のキャパシタC21とを含んでいる。第2の移相回路22は、不平衡端子2と第2の平衡端子4とを接続する第2の経路6に設けられた第2のキャパシタC22と、回路構成上第2の経路6とグランドとの間に設けられた第2のインダクタL22とを含んでいる。第1のインダクタL21と第2のインダクタL22は、積層方向Tに平行な方向に並んでいる。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不平衡端子と、
第1の平衡端子と、
第2の平衡端子と、
前記不平衡端子と前記第1の平衡端子とを接続する第1の経路に設けられた第1のインダクタと、回路構成上前記第1の経路とグランドとの間に設けられた第1のキャパシタとを含む第1の移相回路と、
前記不平衡端子と前記第2の平衡端子とを接続する第2の経路に設けられた第2のキャパシタと、回路構成上前記第2の経路と前記グランドとの間に設けられた第2のインダクタとを含む第2の移相回路と、
前記不平衡端子、前記第1の平衡端子、前記第2の平衡端子、前記第1の移相回路および前記第2の移相回路を一体化するための積層体であって、積層された複数の誘電体層と複数の導体とを含む積層体とを備え、
前記第1のインダクタと前記第2のインダクタは、前記複数の誘電体層の積層方向に平行な方向に並んでいることを特徴とする積層型電子部品。
【請求項2】
前記第1のインダクタと前記第2のインダクタは、前記積層方向から見て、互いに重なっていることを特徴とする請求項1記載の積層型電子部品。
【請求項3】
前記複数の誘電体層は、第1の誘電体層と、前記第1の誘電体層よりも比誘電率が大きい第2の誘電体層とを含み、
前記複数の導体は、前記第1のキャパシタおよび前記第2のキャパシタを構成するための複数のキャパシタ用導体層を含み、
前記複数のキャパシタ用導体層の少なくとも1つは、前記第2の誘電体層に接していることを特徴とする請求項1記載の積層型電子部品。
【請求項4】
前記積層体は、被実装体に対向する第1の面と、前記第1の面とは反対側の第2の面とを有し、
前記第1のインダクタ、前記第2のインダクタおよび前記第1の誘電体層は、前記第2の誘電体層と前記第2の面との間に設けられていることを特徴とする請求項3記載の積層型電子部品。
【請求項5】
前記複数の導体は、前記第1のインダクタを構成するための第1のインダクタ用導体と、前記第2のインダクタを構成するための第2のインダクタ用導体とを含み、
前記第1のインダクタ用導体は、回路構成上、前記第1の平衡端子に最も近い第1端と、前記第1端とは反対側の第2端と、前記第1端と前記第2端との間に位置する第1の巻線部分とを有し、
前記第2のインダクタ用導体は、回路構成上、前記第2の平衡端子に最も近い第3端と、前記第3端とは反対側の第4端と、前記第3端と前記第4端との間に位置する第2の巻線部分とを有し、
前記第1の巻線部分は、前記積層方向に平行な第1の軸の周りに巻回され、
前記第2の巻線部分は、前記積層方向に平行な第2の軸の周りに巻回され、
前記第1のインダクタ用導体において前記第1端から前記第2端に向かうときの、前記積層方向から見たときの前記第1の巻線部分における方向と、前記第2のインダクタ用導体において前記第3端から前記第4端に向かうときの、前記積層方向から見たときの前記第2の巻線部分における方向は、同じ方向であることを特徴とする請求項1記載の積層型電子部品。
【請求項6】
更に、第3のキャパシタを含むと共に、回路構成上、前記不平衡端子と前記第1の移相回路および前記第2の移相回路との間に設けられたフィルタを備えたことを特徴とする請求項1記載の積層型電子部品。
【請求項7】
更に、前記第2のインダクタが接続される第1のグランド端子と、
前記第3のキャパシタが接続される第2のグランド端子とを備え、
前記第1のグランド端子と前記第2のグランド端子は、前記積層体内において互いに電気的に接続されていないことを特徴とする請求項6記載の積層型電子部品。
【請求項8】
更に、前記第1の経路に設けられた第3のインダクタを含むローパスフィルタを備えたことを特徴とする請求項1記載の積層型電子部品。
【請求項9】
更に、第3のインダクタを含むと共に、回路構成上、前記不平衡端子と前記第1の移相回路および前記第2の移相回路との間に設けられたフィルタを備え、
前記第1のインダクタと前記第2のインダクタの少なくとも一方の一部と前記第3のインダクタの一部は、前記積層方向から見て互いに重なっていることを特徴とする請求項1記載の積層型電子部品。
【請求項10】
前記第1の移相回路と前記第2の移相回路は、バランを構成することを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の積層型電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バランを含む積層型電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機やスマートフォンに代表される小型移動体通信機器、テレビジョン放送用通信機器、無線LAN通信機器等の通信機器に使用され得る電子部品の1つとして、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、バンドパスフィルタ等のフィルタがある。通信機器では、不平衡信号を扱うフィルタに対して、平衡信号を扱う回路を接続したい場合がある。この場合、一般的には、フィルタと、平衡信号を扱う回路の間に、不平衡信号と平衡信号との間の変換を行うバランが設けられる。
【0003】
近年、特に小型移動体通信機器では、多機能化、小型化が進み、それに伴い、電子部品の小型化および実装の高密度化が進んでいる。実装の高密度化が可能な電子部品として、フィルタとバランとを一体化した電子部品が知られている。
【0004】
特許文献1には、ローパスフィルタとバランを内蔵した積層型電子部品が開示されている。特許文献1のバランは、互いに接続された第1のコイルと第2のコイルと、一端が接地され且つ第1のコイルに電磁気的に結合した第3のコイルと、一端が接地され且つ第2のコイルに対して電磁気的に結合した第4のコイルとを含んでいる。このバランは、いわゆるマーチャントバランである。
【0005】
特許文献2には、バンドパスフィルタとバランを含む積層型電子部品が開示されている。特許文献2のバランは、それぞれインダクタとキャパシタとを含む第1および第2の移相回路を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-273685号公報
【特許文献2】特開2019-050460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2では、バランを構成する2つのインダクタと2つのキャパシタを、積層体の空間を有効に利用して配置することで、積層型電子部品を小型化している。しかし、特許文献2では、2つのインダクタの配置を工夫することで、積層型電子部品を小型化することは考慮されていなかった。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、バランを含む積層型電子部品であって、小型化することが可能な積層型電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の積層型電子部品は、不平衡端子と、第1の平衡端子と、第2の平衡端子と、不平衡端子と第1の平衡端子とを接続する第1の経路に設けられた第1のインダクタと、回路構成上第1の経路とグランドとの間に設けられた第1のキャパシタとを含む第1の移相回路と、不平衡端子と第2の平衡端子とを接続する第2の経路に設けられた第2のキャパシタと、回路構成上第2の経路とグランドとの間に設けられた第2のインダクタとを含む第2の移相回路と、不平衡端子、第1の平衡端子、第2の平衡端子、第1の移相回路および第2の移相回路を一体化するための積層体であって、積層された複数の誘電体層と複数の導体とを含む積層体とを備えている。第1のインダクタと第2のインダクタは、複数の誘電体層の積層方向に平行な方向に並んでいる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の積層型電子部品では、第1のインダクタと第2のインダクタは、複数の誘電体層の積層方向に平行な方向に並んでいる。これにより、本実施の形態によれば、小型化することが可能な積層型電子部品を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の回路構成を示す回路図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の外観を示す斜視図である。
図3】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の積層体における1層目ないし3層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図4】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の積層体における4層目ないし6層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図5】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の積層体における7層目ないし9層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図6】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の積層体における10層目ないし12層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図7】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の積層体における13層目ないし15層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図8】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の積層体における16層目ないし118層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図9】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の積層体の内部を示す斜視図である。
図10】本発明の一実施の形態における第1のインダクタ用導体を示す平面図である。
図11】本発明の一実施の形態における第2のインダクタ用導体を示す平面図である。
図12】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の挿入損失の周波数特性を示す特性図である。
図13】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の反射損失の周波数特性を示す特性図である。
図14】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の振幅バランス特性を示す特性図である。
図15】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の位相バランス特性を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、図1を参照して、本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品(以下、単に電子部品と記す。)1の構成の概略について説明する。図1は、電子部品1の回路構成を示す回路図である。
【0013】
電子部品1は、不平衡端子2と、第1の平衡端子3と、第2の平衡端子4と、フィルタ10と、第1の移相回路21と、第2の移相回路22とを備えている。フィルタ10、第1の移相回路21および第2の移相回路22は、回路構成上、不平衡端子2と第1および第2の平衡端子3,4との間に配置されている。なお、本出願において、「回路構成上」という表現は、物理的な構成における配置ではなく、回路図上での配置を指すために用いている。
【0014】
フィルタ10は、回路構成上、不平衡端子2と第1および第2の移相回路21,22との間に配置されている。フィルタ10は、ローパスフィルタであってもよいし、バンドパスフィルタ等のローパスフィルタ以外のフィルタであってもよい。
【0015】
第1の移相回路21と第2の移相回路22は、不平衡信号と平衡信号との間の変換を行うバランを構成する。第1の移相回路21は、フィルタ10の通過帯域内の周波数の信号の位相を、90度またはそれに近い値だけ遅らせるように設計されている。第2の移相回路22は、フィルタ10の通過帯域内の周波数の信号の位相を、90度またはそれに近い値だけ進ませるように設計されている。
【0016】
第1の移相回路21は、不平衡端子2と第1の平衡端子3とを接続する第1の経路5に設けられた第1のインダクタL21と、回路構成上第1の経路5とグランドとの間に設けられた第1のキャパシタC21とを含んでいる。
【0017】
第2の移相回路22は、不平衡端子2と第2の平衡端子4とを接続する第2の経路6に設けられた第2のキャパシタC22と、回路構成上第2の経路6とグランドとの間に設けられた第2のインダクタL22とを含んでいる。
【0018】
不平衡端子2にフィルタ10の通過帯域内の周波数の信号が入力された場合、第1の平衡端子3から出力される第1の平衡要素信号と第2の平衡端子4から出力される第2の平衡要素信号との位相差は、180度またはそれに近い値になる。
【0019】
以下、図1を参照して、電子部品1の回路構成の一例について説明する。本実施の形態では、フィルタ10は、ローパスフィルタである。フィルタ10は、インダクタL11,L12と、キャパシタC11,C12,C13,C14,C15とを含んでいる。
【0020】
インダクタL11の一端は、不平衡端子2に接続されている。インダクタL12の一端は、インダクタL11の他端に接続されている。キャパシタC11は、インダクタL11に対して並列に接続されている。キャパシタC12は、インダクタL12に対して並列に接続されている。
【0021】
キャパシタC13の一端は、インダクタL11の一端に接続されている。キャパシタC14の一端は、インダクタL11とインダクタL12との接続点に接続されている。キャパシタC15の一端は、インダクタL12の他端に接続されている。キャパシタC13~C15の各他端は、グランドに接続されている。
【0022】
第1の移相回路21の第1のインダクタL21の一端は、フィルタ10のインダクタL12の他端に接続されている。第1のインダクタL21の他端は、第1の平衡端子3に接続されている。第1の移相回路21の第1のキャパシタC21の一端は、第1のインダクタL21の他端に接続されている。第1のキャパシタC21の他端は、グランドに接続されている。
【0023】
第2の移相回路22の第2のキャパシタC22の一端は、フィルタ10のインダクタL12の他端に接続されている。第2のキャパシタC22の他端は、第2の平衡端子4に接続されている。第2の移相回路22の第2のインダクタL22の一端は、第2のキャパシタC22の他端に接続されている。第2のインダクタL22の他端は、グランドに接続されている。
【0024】
フィルタ10では、第1の経路5と第2の経路6は、共通の経路になっている。フィルタ10のインダクタL11,L12は、この共通の経路に設けられている。本実施の形態では特に、第1の経路5は、不平衡端子2と第1の平衡端子3とを電気的に接続している。なお、本出願において、「電気的に接続」という表現は、金属導体(インダクタを含む)を介して電気的に接続する場合を含むが、キャパシタを介して接続する場合を含まない。インダクタL11,L12は、実質的に、不平衡端子2と第1の平衡端子3とを電気的に接続する第1の経路5に設けられていると言える。
【0025】
フィルタ10は、回路構成上不平衡端子2に最も近い第1端10aと、回路構成上不平衡端子2から最も遠い第2端10bとを有している。第1の経路5と第2の経路6は、回路構成上、フィルタ10の第2端10bと第1および第2の移相回路21,22との間において分岐する。第1のインダクタL21は、回路構成上、第1の経路5と第2の経路6の分岐点Pと、第1の平衡端子3との間に設けられている。第2のキャパシタC22は、回路構成上、第1の経路5と第2の経路6の分岐点Pと、第2の平衡端子4との間に設けられている。
【0026】
次に、図2を参照して、電子部品1のその他の構成について説明する。図2は、電子部品1の外観を示す斜視図である。
【0027】
電子部品1は、更に、積層体50を備えている。積層体50は、積層された複数の誘電体層と、複数の導体(複数の導体層および複数のスルーホール)とを含んでいる。積層体50は、不平衡端子2、第1の平衡端子3、第2の平衡端子4、フィルタ10、第1の移相回路21および第2の移相回路22を一体化するためものである。
【0028】
積層体50は、複数の誘電体層の積層方向Tの両端に位置する第1の面50Aおよび第2の面50Bと、第1の面50Aと第2の面50Bを接続する4つの側面50C~50Fとを有している。側面50C,50Dは互いに反対側を向き、側面50E,50Fも互いに反対側を向いている。側面50C~50Fは、第1の面50Aおよび第2の面50Bに対して垂直になっている。
【0029】
ここで、図2に示したように、X方向、Y方向、Z方向を定義する。X方向、Y方向、Z方向は、互いに直交する。本実施の形態では、積層方向Tに平行な一方向を、Z方向とする。また、X方向とは反対の方向を-X方向とし、Y方向とは反対の方向を-Y方向とし、Z方向とは反対の方向を-Z方向とする。また、「積層方向Tから見たとき」という表現は、Z方向または-Z方向に離れた位置から対象物を見ることを意味する。
【0030】
図2に示したように、第1の面50Aは、積層体50における-Z方向の端に位置する。第1の面50Aは、積層体50の底面でもある。第1の面50Aは、基板等の図示しない被実装体に対向する。第2の面50Bは、積層体50におけるZ方向の端に位置する。第2の面50Bは、積層体50の上面でもある。側面50Cは、積層体50における-X方向の端に位置する。側面50Dは、積層体50におけるX方向の端に位置する。側面50Eは、積層体50における-Y方向の端に位置する。側面50Fは、積層体50におけるY方向の端に位置する。
【0031】
電子部品1は、更に、電極111,112,113,114,115,116を備えている。電極111~113は、側面50F上において-X方向にこの順に並んでいる。本実施の形態では特に、電極111~113の各々は、第1の面50Aから側面50Cを経由して第2の面50Bにかけて配置されている。また、電極114~116は、側面50E上においてX方向にこの順に並んでいる。本実施の形態では特に、電極114~116の各々は、第1の面50Aから側面50Dを経由して第2の面50Bにかけて配置されている。
【0032】
電極111は、不平衡端子2に対応する。電極113は、第1の平衡端子3に対応する。電極114は、第2の平衡端子4に対応する。電極112,115,116の各々は、グランドに接続される。
【0033】
次に、図3(a)ないし図8(c)を参照して、積層体50を構成する複数の誘電体層および複数の導体(複数の導体層および複数のスルーホール)の一例について説明する。この例では、積層体50は、積層された18層の誘電体層を有している。以下、この18層の誘電体層を、下から順に1層目ないし18層目の誘電体層と呼ぶ。また、1層目ないし18層目の誘電体層を符号51~68で表す。なお、以下の説明において、複数のスルーホールの接続関係については、1層目ないし18層目の誘電体層51~68が積層された状態における接続関係について説明している。
【0034】
図3(a)は、1層目の誘電体層51のパターン形成面を示している。誘電体層51のパターン形成面には、導体層およびスルーホールは形成されていない。
【0035】
図3(b)は、2層目の誘電体層52のパターン形成面を示している。誘電体層52のパターン形成面には、導体層521,522,523が形成されている。導体層521は、図2に示した電極114に接続される。導体層522は、図2に示した電極112に接続される。導体層523は、図2に示した電極116に接続される。
【0036】
また、誘電体層52には、それぞれ導体層521,522,523に接続されたスルーホール52T1,52T2,52T3が形成されている。
【0037】
図3(c)は、3層目の誘電体層53のパターン形成面を示している。誘電体層53のパターン形成面には、導体層531,532が形成されている。スルーホール52T1は、導体層532に接続されている。スルーホール52T2,52T3は、導体層531に接続されている。
【0038】
図4(a)は、4層目の誘電体層54のパターン形成面を示している。誘電体層54のパターン形成面には、導体層541,542,543,544が形成されている。導体層544は、導体層543に接続されている。図4(a)では、導体層543と導体層544の境界を点線で示している。
【0039】
また、誘電体層54には、それぞれ導体層541,542,543に接続されたスルーホール54T1,54T3,54T5が形成されている。
【0040】
図4(b)は、5層目の誘電体層55のパターン形成面を示している。誘電体層55のパターン形成面には、導体層551が形成されている。また、誘電体層55には、スルーホール55T1,55T3,55T4,55T5が形成されている。スルーホール54T1,54T3は、それぞれスルーホール55T1,55T3に接続されている。スルーホール54T5,55T4,55T5は、導体層551に接続されている。
【0041】
図4(c)は、6層目の誘電体層56のパターン形成面を示している。誘電体層56のパターン形成面には、導体層561が形成されている。また、誘電体層56には、スルーホール56T1,56T2,56T3,56T4,56T5が形成されている。スルーホール55T1,55T4,55T5は、それぞれスルーホール56T1,56T4,56T5に接続されている。スルーホール55T3,56T2,56T3は、導体層561に接続されている。
【0042】
図5(a)は、7層目の誘電体層57のパターン形成面を示している。誘電体層57のパターン形成面には、導体層571,572が形成されている。また、誘電体層57には、スルーホール57T1,57T2,57T3,57T4,57T5,57T6が形成されている。スルーホール56T2~56T5は、それぞれスルーホール57T2~57T5に接続されている。スルーホール56T1,57T1は、導体層571に接続されている。スルーホール57T6は、導体層572に接続されている。
【0043】
図5(b)は、8層目の誘電体層58のパターン形成面を示している。誘電体層58のパターン形成面には、導体層581が形成されている。導体層581は、図2に示した電極113に接続される。スルーホール57T6は、導体層581に接続されている。また、誘電体層58には、スルーホール58T1,58T2,58T3,58T4,58T5が形成されている。スルーホール57T1~57T5は、それぞれスルーホール58T1~58T5に接続されている。
【0044】
図5(c)は、9層目の誘電体層59のパターン形成面を示している。誘電体層59のパターン形成面には、導体層591が形成されている。導体層591は、図2に示した電極111に接続される。また、誘電体層59には、スルーホール59T1,59T2,59T3,59T4,59T5が形成されている。スルーホール58T1,59T1は、導体層591に接続されている。スルーホール58T2~58T5は、それぞれスルーホール59T2~59T5に接続されている。
【0045】
図6(a)は、10層目の誘電体層60のパターン形成面を示している。誘電体層60のパターン形成面には、導体層601が形成されている。導体層601は、導体層601の長手方向において互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。スルーホール59T5は、導体層601の第1端の近傍部分に接続されている。
【0046】
また、誘電体層60には、スルーホール60T1,60T2,60T3,60T4,60T5が形成されている。スルーホール59T1~59T4は、それぞれスルーホール60T1~60T4に接続されている。スルーホール60T5は、導体層601の第2端の近傍部分に接続されている。
【0047】
図6(b)は、11層目の誘電体層61のパターン形成面を示している。誘電体層61のパターン形成面には、導体層611が形成されている。導体層611は、導体層611の長手方向において互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。スルーホール60T5は、導体層611の第1端の近傍部分に接続されている。
【0048】
また、誘電体層61には、スルーホール61T1,61T2,61T3,61T4,61T5が形成されている。スルーホール60T1~60T4は、それぞれスルーホール61T1~61T4に接続されている。スルーホール61T5は、導体層611の第2端の近傍部分に接続されている。
【0049】
図6(c)は、12層目の誘電体層62のパターン形成面を示している。誘電体層62のパターン形成面には、導体層621が形成されている。導体層621は、導体層621の長手方向において互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。スルーホール61T5は、導体層621の第1端の近傍部分に接続されている。
【0050】
また、誘電体層62には、スルーホール62T1,62T2,62T3,62T4,62T5が形成されている。スルーホール61T1~61T4は、それぞれスルーホール62T1~62T4に接続されている。スルーホール62T5は、導体層621の第2端の近傍部分に接続されている。
【0051】
図7(a)は、13層目の誘電体層63のパターン形成面を示している。誘電体層63のパターン形成面には、導体層631が形成されている。導体層631は、導体層631の長手方向において互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。スルーホール62T5は、導体層631の第1端の近傍部分に接続されている。導体層631の第2端は、図2に示した電極113に接続される。
【0052】
また、誘電体層63には、スルーホール63T1,63T2,63T3,63T4が形成されている。スルーホール62T1~62T4は、それぞれスルーホール63T1~63T4に接続されている。
【0053】
図7(b)は、14層目の誘電体層64のパターン形成面を示している。誘電体層64には、スルーホール64T1,64T2,64T3,64T4が形成されている。スルーホール63T1~63T4は、それぞれスルーホール64T1~64T4に接続されている。
【0054】
図7(c)は、15層目の誘電体層65のパターン形成面を示している。誘電体層65のパターン形成面には、導体層651,652,653が形成されている。
【0055】
導体層651は、導体層651の長手方向において互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。スルーホール64T2は、導体層651の第1端の近傍部分に接続されている。
【0056】
導体層652は、導体層652の長手方向において互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。スルーホール64T3は、導体層652の第1端の近傍部分に接続されている。
【0057】
導体層653は、導体層653の長手方向において互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。導体層653の第1端は、図2に示した電極114に接続される。
【0058】
また、誘電体層65には、スルーホール65T1,65T2,65T3,65T4,65T5が形成されている。スルーホール64T1,64T4は、それぞれスルーホール65T1,65T4に接続されている。スルーホール65T2は、導体層651の第2端の近傍部分に接続されている。スルーホール65T3は、導体層652の第2端の近傍部分に接続されている。スルーホール65T5は、導体層653の第2端の近傍部分に接続されている。
【0059】
図8(a)は、16層目の誘電体層66のパターン形成面を示している。誘電体層66のパターン形成面には、導体層661,662,663が形成されている。
【0060】
導体層661は、導体層661の長手方向において互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。スルーホール65T1は、導体層661の第1端の近傍部分に接続されている。スルーホール65T2は、導体層661の第2端の近傍部分に接続されている。
【0061】
導体層662は、導体層662の長手方向において互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。スルーホール65T3は、導体層662の第1端の近傍部分に接続されている。スルーホール65T4は、導体層662の第2端の近傍部分に接続されている。
【0062】
導体層663は、導体層663の長手方向において互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。スルーホール65T5は、導体層663の第1端の近傍部分に接続されている。また、誘電体層66には、導体層663の第2端の近傍部分に接続されたスルーホール66T5が形成されている。
【0063】
図8(b)は、17層目の誘電体層67のパターン形成面を示している。誘電体層67のパターン形成面には、導体層673が形成されている。導体層673は、導体層673の長手方向において互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。スルーホール66T5は、導体層673の第1端の近傍部分に接続されている。導体層673の第2端は、図2に示した電極115に接続される。
【0064】
図8(c)は、18層目の誘電体層68のパターン形成面を示している。誘電体層68のパターン形成面には、マーク681が形成されている。
【0065】
図2に示した積層体50は、1層目の誘電体層51のパターン形成面が積層体50の第1の面50Aになり、18層目の誘電体層68のパターン形成面とは反対側の面が積層体50の第2の面50Bになるように、1層目ないし18層目の誘電体層51~68が積層されて構成される。
【0066】
図9は、1層目ないし18層目の誘電体層51~68が積層されて構成された積層体50の内部を示している。図9に示したように、積層体50の内部では、図3(a)ないし図8(b)に示した複数の導体層と複数のスルーホールが積層されている。なお、図9では、マーク681を省略している。
【0067】
本実施の形態では、積層体50を構成する複数の誘電体層は、第1の誘電体層と、第1の誘電体層よりも比誘電率が大きい第2の誘電体層とを含んでいる。第1の誘電体層の比誘電率(以下、第1の比誘電率と言う。)は、例えば6~15の範囲内である。第2の誘電体層の比誘電率(以下、第2の比誘電率と言う。)は、例えば20~100の範囲内である。第1の誘電体層を構成する誘電体材料としては、例えば、第1の比誘電率を有するセラミックが用いられる。同様に、第2の誘電体層を構成する誘電体材料としては、例えば、第2の比誘電率を有するセラミックが用いられる。
【0068】
本実施の形態では特に、誘電体層51,52,57~68が第1の誘電体層に対応し、誘電体層53~56が第2の誘電体層に対応する。
【0069】
以下、図1に示した電子部品1の回路の構成要素と、図3(a)ないし図8(b)に示した積層体50の内部の構成要素との対応関係について説明する。始めに、フィルタ10の構成要素について説明する。インダクタL11は、導体層651,661と、スルーホール65T2とによって構成されている。インダクタL12は、導体層652,662と、スルーホール65T3とによって構成されている。
【0070】
キャパシタC11は、導体層561,571と、これらの導体層の間の誘電体層56とによって構成されている。キャパシタC12は、導体層542,551と、これらの導体層の間の誘電体層54とによって構成されている。
【0071】
キャパシタC13は、導体層531,541と、これらの導体層の間の誘電体層53とによって構成されている。キャパシタC14は、導体層531,542と、これらの導体層の間の誘電体層53とによって構成されている。キャパシタC15は、導体層531,543と、これらの導体層の間の誘電体層53とによって構成されている。
【0072】
次に、第1の移相回路21の構成要素について説明する。第1のインダクタL21は、導体層601,611,621,631と、スルーホール60T5,61T5,62T5とによって構成されている。第1のキャパシタC21は、導体層531,572と、これらの導体層の間の誘電体層53~56とによって構成されている。
【0073】
次に、第2の移相回路22の構成要素について説明する。第2のインダクタL22は、導体層653,663,673と、スルーホール65T5,66T5とによって構成されている。第2のキャパシタC22は、導体層532,544と、これらの導体層の間の誘電体層53とによって構成されている。
【0074】
次に、本実施の形態に係る電子部品1の構造上の特徴について説明する。図9に示したように、本実施の形態では、第1の移相回路21の第1のインダクタL21と第2の移相回路22の第2のインダクタL22は、積層方向Tに平行な方向に並んでいる。第1のインダクタL21と第2のインダクタL22は、積層方向Tから見て、互いに重なっている。
【0075】
積層体50の複数の導体は、第1のインダクタL21を構成するための第1のインダクタ用導体210と、第2のインダクタL22を構成するための第2のインダクタ用導体220とを含んでいる。本実施の形態では特に、第1のインダクタ用導体210は、導体層601,611,621,631と、スルーホール60T5,61T5,62T5とによって構成された導体であり、第2のインダクタ用導体220は、導体層653,663,673と、スルーホール65T5,66T5とによって構成された導体である。
【0076】
図10は、第1のインダクタ用導体210(第1のインダクタL21)を示す平面図である。第1のインダクタ用導体210は、回路構成上、第1の平衡端子3に最も近い第1端210aと、第1端210aとは反対側の第2端210bと、第1端210aと第2端210bとの間に位置する第1の巻線部分210cとを有している。第1の巻線部分210cは、積層方向Tに平行な第1の軸A1の周りに巻回されている。
【0077】
第1端210aは、具体的には、導体層631の第2端である。導体層631の第2端は、第1の平衡端子3に対応する電極113に接続される。第2端210bは、具体的には、導体層601のうちのスルーホール59T5(図5(c)参照)が接する部分である。
【0078】
図11は、第2のインダクタ用導体220(第2のインダクタL22)を示す平面図である。第2のインダクタ用導体220は、回路構成上、第2の平衡端子4に最も近い第3端220aと、第3端220aとは反対側の第4端220bと、第3端220aと第4端220bとの間に位置する第2の巻線部分220cとを有している。第2の巻線部分220cは、積層方向Tに平行な第2の軸A2の周りに巻回されている。
【0079】
第3端220aは、具体的には、導体層653の第1端である。導体層653の第1端は、第2の平衡端子4に対応する電極114に接続される。第4端220bは、具体的には、導体層673の第2端である。導体層673の第2端は、グランドに接続される電極115に接続される。
【0080】
図10において、記号D1を付した矢印は、第1のインダクタ用導体210において第1端210aから第2端210bに向かうときの、積層方向Tから見たときの第1の巻線部分210cにおける方向を示している。方向D1は、第1の軸A1の周りを回る方向として表される。また、図11において、記号D2を付した矢印は、第2のインダクタ用導体220において第3端220aから第4端220bに向かうときの、積層方向Tから見たときの第2の巻線部分220cにおける方向を示している。方向D2は、第2の軸A2の周りを回る方向として表される。図10および図11から理解されるように、方向D1と方向D2は、同じ方向である。
【0081】
また、本実施の形態では、第2のインダクタL22を構成する導体層673は、電極115に接続されている。電極115は、グランドに接続される。以下、電極115を、第1のグランド端子とも言う。また、キャパシタC13~C15を構成する導体層531は、スルーホール52T2および導体層522を介して、電極112に接続されている。電極112は、グランドに接続される。以下、電極112を、第2のグランド端子とも言う。本実施の形態では、第1のグランド端子115と第2のグランド端子112は、積層体50内において互いに電気的に接続されていない。
【0082】
また、本実施の形態では、第2のインダクタL22を構成する導体層673の一部と、インダクタL22を構成する導体層652,662の各々の一部は、積層方向Tから見て互いに重なっている。
【0083】
次に、シミュレーションによって求めた電子部品1の特性の一例について説明する。図12は、不平衡端子2に不平衡信号を入力したときの電子部品1の挿入損失の周波数特性を示している。図12において、横軸は周波数を示し、縦軸は減衰量を示している。
【0084】
図13は、電子部品1の反射損失の周波数特性を示している。図13において、横軸は周波数を示し、縦軸は減衰量を示している。また、図13において、符号81を付した曲線は、不平衡端子2の反射損失を示し、符号82を付した曲線は、第1の平衡端子3の反射損失を示している。
【0085】
図12および図13から、電子部品1は、3300~3800MHzの周波数帯域を含む通過帯域を有するローパスフィルタとして機能していることが分かる。
【0086】
図14は、電子部品1の振幅バランス特性を示している。ここでは、電子部品1の振幅バランス特性を、不平衡端子2に不平衡信号を入力したときに第1および第2の平衡端子3,4から出力される第1および第2の平衡要素信号の振幅の差(以下、振幅差と言う。)を用いて表す。振幅差は、第2の平衡要素信号の振幅が第1の平衡要素信号の振幅よりも大きい場合には正の値で表し、第2の平衡要素信号の振幅が第1の平衡要素信号の振幅よりも小さい場合には負の値で表す。図14において、横軸は周波数を示し、縦軸は振幅差を示している。
【0087】
図14に示したように、前述の周波数帯域における振幅差は0(dB)に近い。従って、電子部品1の振幅バランス特性は良好である。
【0088】
図15は、電子部品1の位相バランス特性を示している。ここでは、電子部品1の位相バランス特性を、不平衡端子2に不平衡信号を入力したときに第1および第2の平衡端子3,4から出力される第1および第2の平衡要素信号の位相の差(以下、位相差と言う。)を用いて表す。位相差は、第1の平衡要素信号の位相に対して第2の平衡要素信号の位相が進んでいる大きさを表している。図15において、横軸は周波数を示し、縦軸は位相差を示している。
【0089】
図15に示したように、前述の周波数帯域における位相差は180度(deg)に近い。従って、電子部品1の位相バランス特性は良好である。
【0090】
次に、本実施の形態に係る電子部品1の作用および効果について説明する。本実施の形態では、第1のインダクタL21と第2のインダクタL22は、積層方向Tに平行な方向に並んでいる。これにより、本実施の形態によれば、第1のインダクタL21と第2のインダクタL22が積層方向Tに直交する方向に並んでいる場合に比べて、電子部品1の平面形状(積層方向Tから見た形状)を小さくすることができる。
【0091】
また、本実施の形態では、積層体50は、誘電体層51,52,57~68と、誘電体層51,52,57~68よりも比誘電率が大きい誘電体層53~58とを含んでいる。積層体50は、更に、キャパシタC11~C15,C21,C22を構成するための複数のキャパシタ用導体層を含んでる。複数のキャパシタ用導体層の各々は、誘電体層53~58のいずれかに接している。本実施の形態によれば、キャパシタC11~C15,C21,C22を、複数のキャパシタ用導体層と、比誘電率が大きい誘電体層53~58とによって構成することにより、複数のキャパシタ用導体層の各々の面積を小さくすることができる。これにより、本実施の形態によれば、電子部品1を小型化することができる。
【0092】
また、本実施の形態では、第1および第2のインダクタL21,L22(第1および第2のインダクタ用導体210,220)は、積層体50内において誘電体層53~58と積層体50の第2の面50Bとの間に配置されている。第2の面50Bは、被実装体に対向する第1の面50Aとは反対側の面である。これにより、本実施の形態によれば、被実装体に含まれる導体に起因して第1および第2のインダクタL21,L22のQ値が低下することを抑制することができる。
【0093】
また、本実施の形態では、第2の移相回路22の第2のインダクタL22を構成する導体層673は、第1のグランド端子115に接続され、フィルタ10のキャパシタC13~C15を構成する導体層531は、第2のグランド端子112に接続される。第1のグランド端子115と第2のグランド端子112は、積層体50内において互いに電気的に接続されていない。これにより、本実施の形態によれば、フィルタ10と第2の移相回路22とが結合して、電子部品1の特性が劣化することを防止することができる。
【0094】
また、本実施の形態では、第2のインダクタL22を構成する導体層673の一部と、は、インダクタL22を構成する導体層652,662の各々の一部は、積層方向Tから見て互いに重なっている。すなわち、本実施の形態では、フィルタ10の一部と第2の移相回路22(バラン)の一部は、積層方向Tから見て互いに重なっている。これにより、本実施の形態によれば、フィルタ10のバランが重ならない場合に比べて、電子部品1を小型化することができる。
【0095】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、実施の形態では、フィルタ10はローパスフィルタであるが、フィルタ10は、バンドパスフィルタ等のローパスフィルタ以外のフィルタであってもよい。また、電子部品1は、フィルタ10の代わりに、不平衡信号を扱う任意の回路を含んでいてもよい。
【0096】
以上説明したように、本発明の積層型電子部品は、不平衡端子と、第1の平衡端子と、第2の平衡端子と、不平衡端子と第1の平衡端子とを接続する第1の経路に設けられた第1のインダクタと、回路構成上第1の経路とグランドとの間に設けられた第1のキャパシタとを含む第1の移相回路と、不平衡端子と第2の平衡端子とを接続する第2の経路に設けられた第2のキャパシタと、回路構成上第2の経路とグランドとの間に設けられた第2のインダクタとを含む第2の移相回路と、不平衡端子、第1の平衡端子、第2の平衡端子、第1の移相回路および第2の移相回路を一体化するための積層体であって、積層された複数の誘電体層と複数の導体とを含む積層体とを備えている。第1のインダクタと第2のインダクタは、複数の誘電体層の積層方向に平行な方向に並んでいる。
【0097】
本発明の積層型電子部品において、第1のインダクタと第2のインダクタは、積層方向から見て、互いに重なっていてもよい。
【0098】
また、本発明の積層型電子部品において、複数の誘電体層は、第1の誘電体層と、第1の誘電体層よりも比誘電率が大きい第2の誘電体層とを含んでいてもよい。複数の導体は、第1のキャパシタおよび第2のキャパシタを構成するための複数のキャパシタ用導体層を含んでいてもよい。複数のキャパシタ用導体層の少なくとも1つは、第2の誘電体層に接していてもよい。
【0099】
また、本発明の積層型電子部品において、積層体は、被実装体に対向する第1の面と、第1の面とは反対側の第2の面とを有していてもよい。第1のインダクタ、第2のインダクタおよび第1の誘電体層は、第2の誘電体層と第2の面との間に設けられていてもよい。
【0100】
また、本発明の積層型電子部品において、複数の導体は、第1のインダクタを構成するための第1のインダクタ用導体と、第2のインダクタを構成するための第2のインダクタ用導体とを含んでいてもよい。第1のインダクタ用導体は、回路構成上、第1の平衡端子に最も近い第1端と、第1端とは反対側の第2端と、第1端と第2端との間に位置する第1の巻線部分とを有していてもよい。第2のインダクタ用導体は、回路構成上、第2の平衡端子に最も近い第3端と、第3端とは反対側の第4端と、第3端と第4端との間に位置する第2の巻線部分とを有していてもよい。第1の巻線部分は、積層方向に平行な第1の軸の周りに巻回されていてもよい。第2の巻線部分は、積層方向に平行な第2の軸の周りに巻回されていてもよい。第1のインダクタ用導体において第1端から第2端に向かうときの、積層方向から見たときの第1の巻線部分における方向と、第2のインダクタ用導体において第3端から第4端に向かうときの、積層方向から見たときの第2の巻線部分における方向は、同じ方向であってもよい。
【0101】
また、本発明の積層型電子部品は、更に、第3のキャパシタを含むと共に、回路構成上、不平衡端子と第1の移相回路および第2の移相回路との間に設けられたフィルタを備えていてもよい。本発明の積層型電子部品は、更に、第2のインダクタが接続される第1のグランド端子と、第3のキャパシタが接続される第2のグランド端子とを備えていてもよい。第1のグランド端子と第2のグランド端子は、積層体内において互いに電気的に接続されていなくてもよい。
【0102】
また、本発明の積層型電子部品は、更に、第1の経路に設けられた第3のインダクタを含むローパスフィルタを備えていてもよい。
【0103】
また、本発明の積層型電子部品は、更に、第3のインダクタを含むと共に、回路構成上、不平衡端子と第1の移相回路および第2の移相回路との間に設けられたフィルタを備えていてもよい。第1のインダクタと第2のインダクタの少なくとも一方の一部と第3のインダクタの一部は、積層方向から見て互いに重なっていてもよい。
【0104】
また、本発明の積層型電子部品において、第1の移相回路と第2の移相回路は、バランを構成してもよい。
【符号の説明】
【0105】
1…電子部品、2…不平衡端子、3…第1の平衡端子、4…第2の平衡端子、5…第1の経路、6…第2の経路、10…フィルタ、21…第1の移相回路、22…第2の移相回路、50…積層体、51~68…誘電体層、111~116…電極、C21…第1のキャパシタ、C22…第2のキャパシタ、L21…第1のインダクタ、L22…第2のインダクタ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【手続補正書】
【提出日】2024-05-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の回路構成を示す回路図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の外観を示す斜視図である。
図3】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の積層体における1層目ないし3層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図4】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の積層体における4層目ないし6層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図5】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の積層体における7層目ないし9層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図6】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の積層体における10層目ないし12層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図7】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の積層体における13層目ないし15層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図8】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の積層体における16層目ないし18層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図9】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の積層体の内部を示す斜視図である。
図10】本発明の一実施の形態における第1のインダクタ用導体を示す平面図である。
図11】本発明の一実施の形態における第2のインダクタ用導体を示す平面図である。
図12】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の挿入損失の周波数特性を示す特性図である。
図13】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の反射損失の周波数特性を示す特性図である。
図14】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の振幅バランス特性を示す特性図である。
図15】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の位相バランス特性を示す特性図である。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0082
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0082】
また、本実施の形態では、第2のインダクタL22を構成する導体層673の一部と、インダクタL12を構成する導体層652,662の各々の一部は、積層方向Tから見て互いに重なっている。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0091
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0091】
また、本実施の形態では、積層体50は、誘電体層51,52,57~68と、誘電体層51,52,57~68よりも比誘電率が大きい誘電体層53~56とを含んでいる。積層体50は、更に、キャパシタC11~C15,C21,C22を構成するための複数のキャパシタ用導体層を含んでいる。複数のキャパシタ用導体層の各々は、誘電体層53~56のいずれかに接している。本実施の形態によれば、キャパシタC11~C15,C21,C22を、複数のキャパシタ用導体層と、比誘電率が大きい誘電体層53~58とによって構成することにより、複数のキャパシタ用導体層の各々の面積を小さくすることができる。これにより、本実施の形態によれば、電子部品1を小型化することができる。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0092
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0092】
また、本実施の形態では、第1および第2のインダクタL21,L22(第1および第2のインダクタ用導体210,220)は、積層体50内において誘電体層53~56と積層体50の第2の面50Bとの間に配置されている。第2の面50Bは、被実装体に対向する第1の面50Aとは反対側の面である。これにより、本実施の形態によれば、被実装体に含まれる導体に起因して第1および第2のインダクタL21,L22のQ値が低下することを抑制することができる。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0094
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0094】
また、本実施の形態では、第2のインダクタL22を構成する導体層673の一部と、インダクタL12を構成する導体層652,662の各々の一部は、積層方向Tから見て互いに重なっている。すなわち、本実施の形態では、フィルタ10の一部と第2の移相回路22(バラン)の一部は、積層方向Tから見て互いに重なっている。これにより、本実施の形態によれば、フィルタ10バランが重ならない場合に比べて、電子部品1を小型化することができる。