(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121610
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】工作機械、ブレーキ異常判断方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
B23Q 3/155 20060101AFI20240830BHJP
B23Q 11/08 20060101ALI20240830BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20240830BHJP
G05B 19/18 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
B23Q3/155 F
B23Q11/08 Z
B23Q17/00 A
G05B19/18 W
G05B19/18 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028804
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】石野 ちあき
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 優伍
(72)【発明者】
【氏名】入江 武志
【テーマコード(参考)】
3C002
3C011
3C029
3C269
【Fターム(参考)】
3C002AA03
3C002BB07
3C002DD14
3C002HH01
3C002HH06
3C002KK04
3C002LL01
3C011DD02
3C029EE01
3C269AB01
3C269BB12
3C269CC02
3C269CC15
3C269MN07
3C269MN14
3C269MN16
3C269MN27
3C269PP02
(57)【要約】
【課題】ブレーキ試験を速やかに終えることができる工作機械、ブレーキ異常判断方法、及びコンピュータプログラムを提供する。
【解決手段】本開示に係る工作機械は、ワークを加工する為の工具を着脱可能に保持する主軸と、前記主軸に装着させる前記工具を保持可能な工具保持部が設けられた工具交換装置と、前記工具保持部が移動するように前記工具交換装置を駆動する第一モータと、前記第一モータの回転を制動する第一ブレーキと、前記第一ブレーキの異常の有無を判断する為に、前記第一ブレーキが作動した状態の前記第一モータに負荷をかける第一負荷付与試験を、前記ワークを加工する為の加工領域に前記主軸が位置する場合に行なう試験部とを備えることを特徴とする。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを加工する為の工具を着脱可能に保持する主軸と、
前記主軸に装着させる前記工具を保持可能な工具保持部が設けられた工具交換装置と、
前記工具保持部が移動するように前記工具交換装置を駆動する第一モータと、
前記第一モータの回転を制動する第一ブレーキと、
前記第一ブレーキの異常の有無を判断する為に、前記第一ブレーキが作動した状態の前記第一モータに負荷をかける第一負荷付与試験を、前記ワークを加工する為の加工領域に前記主軸が位置する場合に行なう試験部と
を備えることを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記試験部は、前記主軸に装着された前記工具を前記工具保持部との間で工具交換する為の工具交換領域に前記主軸が位置する場合にエラーを報知することを特徴とする請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記工具交換装置を覆い、開口を有するカバーと、
前記開口を開閉するシャッタと
を更に備え、
前記シャッタは工具交換時に前記開口を開放し、ワーク加工時に前記開口を閉鎖し、
前記試験部は前記第一負荷付与試験を前記シャッタが閉じている場合に行なうことを特徴とする請求項1又は2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記主軸が移動する為の第二モータと、
前記第二モータの回転を制動する第二ブレーキと
を更に備え、
前記試験部は、前記第二ブレーキの異常の有無を判断する為に、前記加工領域に前記主軸が位置する場合に、前記第二ブレーキが作動した状態の前記第二モータに負荷をかける第二負荷付与試験を行なうことを特徴とする請求項1又は2に記載の工作機械。
【請求項5】
前記試験部は、前記第一負荷付与試験及び前記第二負荷付与試験をまとめて行なうことを特徴とする請求項4に記載の工作機械。
【請求項6】
前記試験部は、前記第一負荷付与試験及び前記第二負荷付与試験の終了後、前記第一ブレーキ及び前記第二ブレーキの異常の有無の判断をまとめて行なうことを特徴とする請求項5に記載の工作機械。
【請求項7】
前記ワークを固定する加工テーブルと、
前記加工テーブルを取り付けてある揺動台と、
前記揺動台が揺動する為の第三モータと、
前記第三モータの回転を制動する第三ブレーキと、
前記加工領域の所定位置への前記主軸の移動を命令する移動命令を受け付ける受付部と
を更に備え、
前記試験部は、前記第三ブレーキの異常の有無を判断する為に、前記第三ブレーキが作動した状態の前記第三モータに負荷をかける第三負荷付与試験を行ない、
前記受付部が前記移動命令を受け付けた場合の前記第一負荷付与試験、前記第二負荷付与試験、及び前記第三負荷付与試験の実行順は、前記受付部が前記移動命令を受け付けなかった場合の前記実行順とは異なることを特徴とする請求項4に記載の工作機械。
【請求項8】
前記受付部が前記移動命令を受け付けなかった場合、前記試験部は、前記第一負荷付与試験、前記第二負荷付与試験、及び前記第三負荷付与試験をまとめて行なうことを特徴とする請求項7に記載の工作機械。
【請求項9】
前記受付部が前記移動命令を受け付けなかった場合、前記試験部は、前記第一負荷付与試験、前記第二負荷付与試験、及び前記第三負荷付与試験の終了後、前記第一ブレーキ、前記第二ブレーキ、及び前記第三ブレーキの異常の有無の判断をまとめて行なうことを特徴とする請求項8に記載の工作機械。
【請求項10】
前記主軸が上下方向に交差する方向に移動する為の第四モータと、
前記主軸が前記所定位置に位置するか否かを判定する判定部と
を更に備え、
前記第一モータの駆動により、前記工具保持部が上下方向と交差する方向に延びる旋回軸を中心に回転移動し、
前記第二モータの駆動により、前記主軸が上下方向に移動し、
前記受付部が前記移動命令を受け付けた場合、前記試験部は、
前記第一負荷付与試験及び前記第二負荷付与試験をまとめて行ない、
前記第一負荷付与試験及び前記第二負荷付与試験の終了後、前記判定部が、前記主軸が前記所定位置に位置しないと判定したときに、前記主軸が前記所定位置に移動するよう前記第二モータ又は前記第四モータの動作を制御し、
前記第一負荷付与試験及び前記第二負荷付与試験の終了後、前記判定部が、前記主軸が前記所定位置に位置すると判定したときに前記第三負荷付与試験を行なうことを特徴とする請求項7に記載の工作機械。
【請求項11】
前記受付部が前記移動命令を受け付けた場合、前記試験部は、前記第三負荷付与試験の終了後、前記第一ブレーキ、前記第二ブレーキ、及び前記第三ブレーキの異常の有無の判断をまとめて行なうことを特徴とする請求項10に記載の工作機械。
【請求項12】
前記主軸の軸方向は水平方向であることを特徴とする請求項1又は2に記載の工作機械。
【請求項13】
ワークを加工する為の工具を着脱可能に保持する主軸に装着させる前記工具を保持可能な工具保持部が移動するように、前記工具保持部が設けられた工具交換装置を駆動するモータの回転を制動するブレーキの異常の有無を判断する為に、前記ブレーキが作動した状態の前記モータに負荷をかける負荷付与試験を、前記ワークを加工する為の加工領域に前記主軸が位置する場合に行なうことを特徴とするブレーキ異常判断方法。
【請求項14】
ワークを加工する為の工具を着脱可能に保持する主軸に装着させる前記工具を保持可能な工具保持部が移動するように、前記工具保持部が設けられた工具交換装置を駆動するモータの回転を制動するブレーキの異常の有無を判断する為に、前記ブレーキが作動した状態の前記モータに負荷をかける負荷付与試験を、前記ワークを加工する為の加工領域に前記主軸が位置する場合に行なう
処理をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作機械、ブレーキ異常判断方法、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の工作機械は主軸及び工具マガジン(工具交換装置)を備える。
主軸は工具を着脱可能に保持し、上下前後左右に移動可能である。ワークを加工する為の加工領域にて、主軸が保持した工具はワークを加工する。
工具マガジンは複数の工具保持部を備える。各工具保持部は工具を保持可能であり、マガジンモータが工具マガジンを駆動することにより、所定の経路を循環移動する。工具を交換する為の工具交換領域にて、主軸が保持した工具を一の工具保持部に装着し、他の工具保持部が保持した工具を主軸に装着することにより、工具の交換が成立する。
【0003】
マガジンモータの停止中にブレーキがマガジンモータの回転を制動することにより、工具保持部は確実に静止する。ブレーキの異常によって工具保持部が位置ずれすることを防ぐ為に、工作機械はブレーキの異常の有無を判断するブレーキ試験を行なう。ブレーキ試験では、工作機械はブレーキが作動した状態でマガジンモータに負荷をかけ、マガジンモータの回転量が許容範囲以内であるか否かを判定する。マガジンモータの回転量が許容範囲から外れた場合、ブレーキに異常があるので、工作機械は使用者にエラーを報知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の工作機械の場合、主軸が工具交換領域に移動した後でマガジンモータに負荷をかけるので、ブレーキ試験を速やかに終えることができない。
【0006】
本開示の目的は、ブレーキ試験を速やかに終えることができる工作機械、ブレーキ異常判断方法、及びコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る工作機械は、ワークを加工する為の工具を着脱可能に保持する主軸と、前記主軸に装着させる前記工具を保持可能な工具保持部が設けられた工具交換装置と、前記工具保持部が移動するように前記工具交換装置を駆動する第一モータと、前記第一モータの回転を制動する第一ブレーキと、前記第一ブレーキの異常の有無を判断する為に、前記第一ブレーキが作動した状態の前記第一モータに負荷をかける第一負荷付与試験を、前記ワークを加工する為の加工領域に前記主軸が位置する場合に行なう試験部とを備えることを特徴とする。
【0008】
本開示にあっては、ワークを加工する為の工具を主軸が着脱可能に保持する。工具交換装置には工具保持部が設けられる。工具保持部は、主軸に装着させる工具を保持可能である。第一モータは、工具保持部が移動するように工具交換装置を駆動する。第一ブレーキは第一モータの回転を制動する。
試験部は、第一ブレーキの異常の有無を判断する為に、主軸が加工領域に位置する場合に第一負荷付与試験を行なう。第一負荷付与試験では、試験部は、第一ブレーキが第一モータの回転を制動した状態の第一モータに負荷をかける。
【0009】
加工領域はワークを加工する為の領域なので、加工領域に位置する主軸は工具保持部から離れた位置にある。故に、工具保持部、主軸、及び工具が干渉し合う虞はない。
加工領域に位置する主軸が加工領域の外側の領域まで移動する必要がないので、主軸の移動時間を短縮することができる。故に、ブレーキ試験を速やかに終えることができる。
【0010】
本開示に係る工作機械は、前記試験部は、前記主軸に装着された前記工具を前記工具保持部との間で工具交換する為の工具交換領域に前記主軸が位置する場合にエラーを報知することを特徴とする。
【0011】
本開示にあっては、主軸が工具交換領域に位置する場合、試験部がエラーを報知する。試験部は例えば第一負荷付与試験の実行前に主軸の現在地を求め、現在地が工具交換領域であればエラーを報知する。
工具交換領域は、主軸に装着された工具を工具保持部との間で工具交換する為の領域なので、工具交換領域に位置する主軸は工具保持部に近い位置にある。また、工具交換領域は空間的な余裕に乏しいことがある。使用者に対するエラーの報知により、望ましくない状況下でのブレーキ試験の実行を防止することができる。
【0012】
本開示に係る工作機械は、前記工具交換装置を覆い、開口を有するカバーと、前記開口を開閉するシャッタとを更に備え、前記シャッタは工具交換時に前記開口を開放し、ワーク加工時に前記開口を閉鎖し、前記試験部は前記第一負荷付与試験を前記シャッタが閉じている場合に行なうことを特徴とする。
【0013】
本開示にあっては、工具交換装置をカバーが覆い、カバーが有する開口をシャッタが開閉する。シャッタはカバーの開口を工具交換時に開放し、ワーク加工時に閉鎖する。故に、主軸が加工領域に位置する場合、シャッタは閉じている可能性が大きい。
試験部は第一負荷付与試験をシャッタが閉じている場合に行なう。即ち、閉じているシャッタをブレーキ試験の為に開く必要がなく、開いたシャッタを再び閉じる必要もない。故に、ブレーキ試験を速やかに終えることができる。
【0014】
本開示に係る工作機械は、前記主軸が移動する為の第二モータと、前記第二モータの回転を制動する第二ブレーキとを更に備え、前記試験部は、前記第二ブレーキの異常の有無を判断する為に、前記加工領域に前記主軸が位置する場合に、前記第二ブレーキが作動した状態の前記第二モータに負荷をかける第二負荷付与試験を行なうことを特徴とする。
【0015】
本開示にあっては、第二モータが駆動することにより主軸が移動する。第二ブレーキは第二モータの回転を制動する。
試験部は、第二ブレーキの異常の有無を判断する為に、主軸が加工領域に位置する場合に第二負荷付与試験を行なう。第二負荷付与試験では、試験部は、第二ブレーキが第二モータの回転を制動した状態の第二モータに負荷をかける。第二負荷付与試験の終了後、試験部は第二ブレーキの異常の有無を判断することができる。
【0016】
工作機械の構成によっては、主軸が位置ずれした場合、位置ずれした主軸を、使用者が元の位置に戻す必要がある。このとき、主軸の周囲に空間的な余裕がないと、位置ずれした主軸を元の位置に戻す作業が難化することが懸念される。
加工領域はワークを加工する為の領域なので、工具交換領域に比べて加工領域の空間的な余裕は大きい。故に、第二負荷付与試験の結果、負荷に起因する第二モータの回転により主軸が位置ずれしたとしても、位置ずれした主軸を元の位置に戻す際に主軸又は主軸が保持した工具が他部材に干渉する可能性が低い。従って、位置ずれした主軸を元の位置に戻す作業が容易なので、ブレーキ試験後の原状復帰を簡単に行なうことができる。
【0017】
本開示に係る工作機械は、前記試験部は、前記第一負荷付与試験及び前記第二負荷付与試験をまとめて行なうことを特徴とする。
【0018】
本開示にあっては、試験部が第一負荷付与試験及び第二負荷付与試験をまとめて行なうので、ブレーキ試験を速やかに終えることができる。
ここで、複数の負荷付与試験をまとめて行なうこととは、例えば複数の負荷付与試験を並行して行なうこと、又は、一の負荷付与試験と他の負荷付与試験との間に他の作業を行なうことなく複数の負荷付与試験を順に行なうことである。
【0019】
本開示に係る工作機械は、前記試験部は、前記第一負荷付与試験及び前記第二負荷付与試験の終了後、前記第一ブレーキ及び前記第二ブレーキの異常の有無の判断をまとめて行なうことを特徴とする。
【0020】
本開示にあっては、第一負荷付与試験及び第二負荷付与試験の終了後、試験部が第一ブレーキ及び第二ブレーキの異常の有無の判断をまとめて行なうので、ブレーキ試験を速やかに終えることができる。
ここで、複数のブレーキの異常の有無の判断をまとめて行なうこととは、例えば負荷付与試験による各モータの回転量が所定の許容範囲以内であるか否かの判定を並行して又は連続して行なうことである。
【0021】
本開示に係る工作機械は、前記ワークを固定する加工テーブルと、前記加工テーブルを取り付けてある揺動台と、前記揺動台が揺動する為の第三モータと、前記第三モータの回転を制動する第三ブレーキと、前記加工領域の所定位置への前記主軸の移動を命令する移動命令を受け付ける受付部とを更に備え、前記試験部は、前記第三ブレーキの異常の有無を判断する為に、前記第三ブレーキが作動した状態の前記第三モータに負荷をかける第三負荷付与試験を行ない、前記受付部が前記移動命令を受け付けた場合の前記第一負荷付与試験、前記第二負荷付与試験、及び前記第三負荷付与試験の実行順は、前記受付部が前記移動命令を受け付けなかった場合の前記実行順とは異なることを特徴とする。
【0022】
本開示にあっては、加工テーブルがワークを固定する。加工テーブルは揺動台に取り付けてある。第三モータが駆動することにより揺動台が揺動する。第三ブレーキは第三モータの回転を制動する。
試験部は、第三ブレーキの異常の有無を判断する為に第三負荷付与試験を行なう。第三負荷付与試験では、試験部は、第三ブレーキが第三モータの回転を制動した状態の第三モータに負荷をかける。
【0023】
第三負荷付与試験の結果、負荷に起因する第三モータの回転により揺動台が位置ずれすることがある。揺動台が位置ずれした場合、加工テーブル(及び加工テーブル上のワーク)も位置ずれする。
主軸が保持した工具は、加工テーブル上のワークを加工するので、少なくとも加工テーブル上のワークは加工領域に位置する。加工テーブルは揺動台に取り付けてあるので、加工領域に位置する主軸が加工テーブル上のワークに近いところにあると、第三負荷付与試験の結果として位置ずれした揺動台、加工テーブル、又は加工テーブル上のワークが、主軸に干渉する虞がある。
【0024】
受付部は、加工領域の所定位置への主軸の移動の移動命令を受け付ける。この所定位置は、揺動台、加工テーブル、及びワークと主軸との干渉が起きない位置であることが望ましい。
例えば使用者が所定位置への主軸の移動の要否を判断し、必要であれば移動命令を受付部に与える。受付部が移動命令を受け付けた場合、前述の干渉が起きる虞があり、受付部が移動命令を受け付けなかった場合、前述の干渉が起きる虞がない。故に、受付部が移動命令を受け付けた場合と受け付けなかった場合とで第一負荷付与試験、第二負荷付与試験、及び第三負荷付与試験の実行順を変えることで、前述の干渉が起きることを効果的に防止することができる。
【0025】
本開示に係る工作機械は、前記受付部が前記移動命令を受け付けなかった場合、前記試験部は、前記第一負荷付与試験、前記第二負荷付与試験、及び前記第三負荷付与試験をまとめて行なうことを特徴とする。
【0026】
本開示にあっては、受付部が移動命令を受け付けなかった場合、試験部が第一負荷付与試験、第二負荷付与試験、及び第三負荷付与試験をまとめて行なう。
受付部が移動命令を受け付けなかったので前述の干渉が起きる虞がない。故に、ブレーキ試験の為に主軸の所定位置への移動を行なう必要がない。
以上の結果、ブレーキ試験を速やかに終えることができる。
【0027】
本開示に係る工作機械は、前記受付部が前記移動命令を受け付けなかった場合、前記試験部は、前記第一負荷付与試験、前記第二負荷付与試験、及び前記第三負荷付与試験の終了後、前記第一ブレーキ、前記第二ブレーキ、及び前記第三ブレーキの異常の有無の判断をまとめて行なうことを特徴とする。
【0028】
本開示にあっては、受付部が移動命令を受け付けなかった場合、第一負荷付与試験、第二負荷付与試験、及び第三負荷付与試験の終了後、試験部が第一ブレーキ、第二ブレーキ、及び第三ブレーキの異常の有無の判断をまとめて行なう。故に、ブレーキ試験を速やかに終えることができる。
【0029】
本開示に係る工作機械は、前記主軸が上下方向に交差する方向に移動する為の第四モータと、前記主軸が前記所定位置に位置するか否かを判定する判定部とを更に備え、前記第一モータの駆動により、前記工具保持部が上下方向と交差する方向に延びる旋回軸を中心に回転移動し、前記第二モータの駆動により、前記主軸が上下方向に移動し、前記受付部が前記移動命令を受け付けた場合、前記試験部は、前記第一負荷付与試験及び前記第二負荷付与試験をまとめて行ない、前記第一負荷付与試験及び前記第二負荷付与試験の終了後、前記判定部が、前記主軸が前記所定位置に位置しないと判定したときに、前記主軸が前記所定位置に移動するよう前記第二モータ又は前記第四モータの動作を制御し、前記第一負荷付与試験及び前記第二負荷付与試験の終了後、前記判定部が、前記主軸が前記所定位置に位置すると判定したときに前記第三負荷付与試験を行なうことを特徴とする。
【0030】
本開示にあっては、第一モータが工具交換装置を駆動することにより、工具保持部が旋回軸を中心に回転移動する。旋回軸は上下方向と交差する方向に延びるので、工具保持部は旋回軸を中心とする回転移動により上下方向の位置が変わる。故に、ブレーキに異常がある場合、重力の作用により工具保持部が位置ずれしやすい。同様に、主軸は第二モータの駆動により上下方向に移動するので、ブレーキに異常がある場合に位置ずれしやすい。以上のことから、第一負荷付与試験及び第二負荷付与試験は特に重要である。
ところで、主軸は第四モータの駆動により上下方向に交差する方向に移動する。判定部は主軸が所定位置にあるか否かを判定する。
【0031】
受付部が移動命令を受け付けた場合、試験部は第一負荷付与試験及び第二負荷付与試験をまとめて行なう。これらの実行時には第三負荷付与試験を行なわないので、前述の干渉が起きる虞はない。故に、主軸の所定位置への移動を行なう必要がない。つまり、特に重要なブレーキに関する複数の負荷付与試験をまとめて優先的に行なうので、ブレーキ試験を速やかに終えることができる。
【0032】
第一負荷付与試験及び第二負荷付与試験の終了後、主軸が所定位置に位置しないと判定部が判定した場合に、試験部は、主軸が所定位置に移動するよう第二モータ又は第四モータの動作を制御する。第一負荷付与試験及び第二負荷付与試験の終了後、主軸が所定位置に位置すると判定部が判定した場合に、試験部は、第三負荷付与試験を行なう。即ち、第三負荷付与試験の実行前に主軸が所定位置に位置しない場合は主軸が所定位置に移動する。以上の結果、前述の干渉が起きることを防止することができる。
【0033】
本開示に係る工作機械は、前記受付部が前記移動命令を受け付けた場合、前記試験部は、前記第三負荷付与試験の終了後、前記第一ブレーキ、前記第二ブレーキ、及び前記第三ブレーキの異常の有無の判断をまとめて行なうことを特徴とする。
【0034】
本開示にあっては、受付部が移動命令を受け付けた場合、第三負荷付与試験の終了後、試験部が第一ブレーキ、第二ブレーキ、及び第三ブレーキの異常の有無の判断をまとめて行なうので、ブレーキ試験を速やかに終えることができる。
【0035】
本開示に係る工作機械は、前記主軸の軸方向は水平方向であることを特徴とする。
【0036】
本開示にあっては、主軸の軸方向が水平方向である。つまり、本開示に係る工作機械は、いわゆる横形の工作機械である。
【0037】
本開示に係るブレーキ異常判断方法は、ワークを加工する為の工具を着脱可能に保持する主軸に装着させる前記工具を保持可能な工具保持部が移動するように、前記工具保持部が設けられた工具交換装置を駆動するモータの回転を制動するブレーキの異常の有無を判断する為に、前記ブレーキが作動した状態の前記モータに負荷をかける負荷付与試験を、前記ワークを加工する為の加工領域に前記主軸が位置する場合に行なうことを特徴とする。
【0038】
本開示にあっては、主軸、工具交換装置、モータ、及びブレーキを備える装置にて、主軸が加工領域に位置する場合に負荷付与試験を行なうことができる。故に、ブレーキ試験を速やかに終えることができる。
【0039】
本開示に係るコンピュータプログラムは、ワークを加工する為の工具を着脱可能に保持する主軸に装着させる前記工具を保持可能な工具保持部が移動するように、前記工具保持部が設けられた工具交換装置を駆動するモータの回転を制動するブレーキの異常の有無を判断する為に、前記ブレーキが作動した状態の前記モータに負荷をかける負荷付与試験を、前記ワークを加工する為の加工領域に前記主軸が位置する場合に行なう処理をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0040】
上記コンピュータプログラムが記憶された、コンピュータによって読取可能な記憶媒体も新規で有用である。
【0041】
本開示にあっては、主軸、工具交換装置、モータ、及びブレーキを備える装置にて、コンピュータが前述の処理を実行することにより、本開示に係るブレーキ異常判断方法を実現することができる。
【発明の効果】
【0042】
本開示の工作機械、ブレーキ異常判断方法、及びコンピュータプログラムによれば、ブレーキ試験を速やかに終えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】実施の形態に係る工作機械を上方前側から見た斜視図である。
【
図6】工具交換時の主軸の動作(加工領域から工具交換領域へ)を示す説明図である。
【
図7】工具交換時の主軸の動作(工具交換領域から加工領域へ)を示す説明図である。
【
図8】工作機械の制御系の構成を示すブロック図である。
【
図9】工作機械が実行するブレーキ異常判断処理の手順を示すフローチャートである。
【
図10】工作機械が実行するブレーキ異常判断処理の手順を示すフローチャートである。
【
図11】工作機械が実行するブレーキ異常判断処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本開示の実施の形態について説明する。以下の説明では、図において矢符で示す上下、前後、及び左右を使用する。また、実施の形態に記載する「NC」とは「Numerical Control 」の略称である。
【0045】
図1は実施の形態に係る工作機械1を上方前側から見た斜視図である。
工作機械1は基台10を備える。基台10は、例えば鉄製であり、工場の床に設置してある。基台10は平面視矩形状をなす。
工作機械1のX軸方向は基台10の上面の短辺に沿い、左右方向に対応する。工作機械1のY軸方向は上下方向に対応する。工作機械1のZ軸方向は基台10の上面の長辺に沿い、前後方向に対応する。
【0046】
図2は工作機械1を下方前側から見た斜視図である。
図3は工作機械1を上方後側から見た斜視図である。
図4は工作機械1の右側面図である。
図1~
図4に示す如く工作機械1はX軸移動機構11、Z軸移動機構12、及びY軸移動機構13を備える。
X軸移動機構11は基台10の上面の後部に設けてある。X軸移動機構11は移動体111を有する。移動体111は、左右方向に延びる不図示のガイドレールに沿って移動可能である。
Z軸移動機構12は移動体111の上部に設けてある。Z軸移動機構12はコラム121を有する。コラム121は上下に延びる柱状をなし、前後方向に延びる不図示のガイドレールに沿って移動可能である。
コラム121は、コラム121を前後に貫通する貫通口122を有する(
図3参照)。貫通口122は上下に長い矩形状をなす。
【0047】
工作機械1は主軸ヘッド2を備える。主軸ヘッド2は貫通口122を前後に貫通する柱状をなす。主軸ヘッド2の前端部は貫通口122から前方に突出しており、主軸ヘッド2の後端部は貫通口122から後方に突出している。
Y軸移動機構13はコラム121の前面に設けてあり、主軸ヘッド2を、上下方向に延びる不図示のガイドレールに沿って移動可能に支持する。
【0048】
工作機械1はワーク支持装置14を備える。ワーク支持装置14は基台10の上面の前部に設けてある。
図1に示す如くワーク支持装置14は揺動台141及び加工テーブル142を備える。
【0049】
揺動台141は、左右方向に延びる不図示の揺動軸(以下、A軸という)を中心に揺動可能である。加工テーブル142は、不図示の治具を用いてワークWを固定する固定面14aを有する。固定面14aはA軸に平行をなし、A軸を中心とする揺動台141の揺動により、水平面に対する固定面14aの傾斜が変化する。固定面14aが鉛直又は下向きになることはない。加工テーブル142は、固定面14aに垂直な不図示の回転軸を中心に回転可能に揺動台141に取り付けてある。ワーク支持装置14は加工テーブル142を駆動するモータを更に備えるが、これに関する詳述は省略する。
【0050】
図1~
図3に示す如く基台10の上面の左右両端部に各1本の前側支柱101が立設してある。前側支柱101の前後方向の位置はワーク支持装置14よりも後側、且つコラム121よりも前側である(
図4参照)。前側支柱101の上部の上下方向の位置は主軸ヘッド2よりも上側である。2本の前側支柱101の上部同士を、左右方向に延びる連結部102が連結している(
図3参照)。
【0051】
図1~
図4に示す如く工作機械1は箱状のカバー31を備える。カバー31は連結部102の前面に固定してある。
図2に示す如くカバー31は開口311を有する。開口311はカバー31の底壁31aから後壁にわたる(後述の
図6及び
図7参照)。
工作機械1はシャッタ32を備える。シャッタ32は開口311を開閉可能である。カバー31の内側には、シャッタ32が開閉するようシャッタ32を駆動するアクチュエータ(例えばエアシリンダ)があるが、これに関する詳述は省略する。
【0052】
図5は工作機械1の拡大斜視図である。
図5には、カバー31を省略した状態の連結部102の近傍の構成が示してある。
主軸ヘッド2は、後端部に主軸モータ21を有し(
図1~
図4参照)、前端部に主軸22を有する。主軸22は主軸ヘッド2の移動に伴って移動する。主軸22は軸周りに回転可能である。主軸モータ21は、主軸22が回転するように、主軸22を駆動する。主軸22の軸方向は前後方向に沿う。
本実施の形態に係る工作機械1は、主軸22が前後方向に延び、コラム121が前後左右方向に移動するコラムトラバース構造である横形の工作機械である。
【0053】
図6及び
図7は工具交換時の主軸22の動作を示す説明図である。
主軸22は、ワークWを加工する為の工具Tを着脱可能に保持する。工具Tは、例えば棒状をなし、先端部に切削用の刃を有する工具本体と、工具本体の基端部を保持するホルダとを有する。主軸22は、工具Tのホルダが進入可能な穴221を有し、主軸22の穴221は主軸ヘッド2の前端にて前向きに開口している。主軸22は、主軸22の穴221に主軸22の前側から主軸22に相対的に進入した工具Tのホルダを保持する。主軸22が保持した工具Tは、主軸22の回転に伴って回転する。一方、工具Tから主軸22が相対的に後進することにより、工具Tは主軸22から外れる。
【0054】
工作機械1は工具交換装置4を備え、カバー31は工具交換装置4を覆っている。
図5に示す如く工具交換装置4は工具マガジン41及びM軸モータ42(第一モータ)を備える。工具マガジン41はマガジンベース411と複数のグリップアーム412(工具保持部)とを備える。各グリップアーム412は工具Tを着脱可能に保持する。
【0055】
マガジンベース411は円盤状をなし、軸方向が前後方向に沿う。複数のグリップアーム412はマガジンベース411の外周部に等配してあり、マガジンベース411の径方向外側に向けて放射状に延びる。工具マガジン41はマガジンベース411の中心位置に不図示の旋回軸(以下、M軸という)を有する。M軸は前後方向に延び、連結部102の左右方向の中心に位置している。連結部102は、マガジンベース411がM軸を中心に周方向に回転可能に、マガジンベース411を支持している。
【0056】
M軸モータ42は、マガジンベース411がM軸を中心に周方向に回転するように、マガジンベース411を駆動する。マガジンベース411の回転に伴い、複数のグリップアーム412(及びグリップアーム412が保持した工具T)夫々はM軸を中心に周方向に回転移動(旋回)する。
【0057】
図6及び
図7に示す如くカバー31の開口311の少なくとも一部は、マガジンベース411の最下部(以下、工具交換位置という)にあるグリップアーム412の直下にある。
図6及び
図7夫々には工具交換位置にあるグリップアーム412のみが図示してある。工具交換位置にあるグリップアーム412の先端部は下向きである。
グリップアーム412の先端部が下向きの場合に、グリップアーム412の先端部に工具Tを上向きに装着することにより、グリップアーム412は工具Tを保持する。グリップアーム412の先端部が下向きの場合に、グリップアーム412が保持している工具Tを下向きに引っ張ることにより、工具Tはグリップアーム412から外れる。
【0058】
加工テーブル142に固定したワークWを加工する為の領域を加工領域AWという。
図4、
図6、及び
図7に示す如く、加工領域AWはカバー31の底壁31aの下面よりも下側の領域である。加工領域AWに位置する主軸22が保持した工具Tが、ワークWを加工する。
主軸22とグリップアーム412との間で工具交換する為の領域を工具交換領域ATという。工具交換領域ATは、カバー31の底壁31aの下面よりも上側の領域であり、カバー31の内部空間の下部を含む。工具交換領域ATは、平面視において加工領域AWの左右方向の中央部に位置し、側面視において加工領域AWの後部(少なくとも加工テーブル142よりも後側の部分)に位置している。
【0059】
シャッタ32が開くことにより、開口311を介して加工領域AWと工具交換領域ATとが互いに連通する。
工具交換は、工具交換領域ATに位置する主軸22と、工具交換位置にあるグリップアーム412との間で成立する。主軸22が保持した工具Tを、工具Tを保持していないグリップアーム412に装着し、グリップアーム412が保持した工具Tを、工具Tを保持していない主軸22に装着することにより、工具交換が完了する。
【0060】
主軸22が保持した工具Tによる加工が終了した場合、主軸22は、工具交換の為、加工領域AWから開口311を通って工具交換領域ATに移動し、工具交換の後、工具交換領域ATから開口311を通って加工領域AWに移動する。
【0061】
例えば主軸22は
図6に示す如く後進によってワークWから十分に離れ、後進及び上昇によってカバー31の開口311に移動する。開口311に位置した主軸22は、上昇によって工具交換領域ATに進入し、工具交換位置にあるグリップアーム412に近づく。工具交換位置には、工具Tを保持していないグリップアーム412が予め配してある。上昇した主軸22は、保持した工具Tを工具交換位置にあるグリップアーム412に装着する。グリップアーム412が工具Tを保持した後で、主軸22は後進する。主軸22の後進により、主軸22から工具Tが外れると共に、主軸22が工具マガジン41から十分に離れる。
【0062】
主軸22から工具Tが外れた後でグリップアーム412が旋回し、次に使用すべき工具Tを保持したグリップアーム412が工具交換位置に移動する。
主軸22は、
図7に示す如く前進によって工具交換位置にあるグリップアーム412に近づく。主軸22の前進により、グリップアーム412が保持した工具Tは主軸22の穴221に進入する。主軸22が工具Tを保持した後で、主軸22は下降によってグリップアーム412から工具Tを取り外し、カバー31の開口311に移動する。開口311に位置した主軸22は、下降及び前進によって加工領域AWに進入してワークWの後方に位置し、更に前進によってワークWに近づく。
【0063】
主軸22のワークWへの接近後、主軸22が保持した工具TでのワークWの加工が始まる。
シャッタ32は工具交換時に開口311を開放し、ワークWの加工時に開口311を閉鎖する。更に詳細には、シャッタ32は、主軸22が工具交換の為に加工領域AWから工具交換領域ATに移動する場合に開口311を開放し、主軸22がワークWの加工の為に工具交換領域ATから加工領域AWに移動した場合に開口311を閉鎖する。シャッタ32が閉じることにより、工具交換領域ATと加工領域AWとの連通が絶たれ、カバー31及びシャッタ32は工具交換装置4及びグリップアーム412が保持した工具TをワークWの加工中に飛散する切削液及び切粉等から保護する。
【0064】
工具交換時には主軸22が一定の経路で移動するので工具交換領域ATには空間的な余裕を設ける必要がない。工具交換領域ATの広さを最小限にすることにより、工作機械1の小型化を図ることができる。
【0065】
図1~
図4に示す如く基台10の後部から2本の後側支柱103夫々が上向きに延びる。2本の後側支柱103は互いに左右方向に離隔している。
工作機械1は制御装置5を備える。制御装置5は2本の後側支柱103夫々の上部に固定してある。
【0066】
図8は工作機械1の制御系の構成を示すブロック図である。
制御装置5は、制御部51、揮発性の主記憶部52、及び不揮発性の補助記憶部53を備える。
制御部51は、CPU、MPU、又はGPU等の1又は複数のプロセッサを有する。制御部51は例えば不図示のバスを介して主記憶部52及び補助記憶部53に接続してある。制御部51は主記憶部52を作業領域として用い、補助記憶部53が記憶しているコンピュータプログラム5a(プログラム製品)に従って、各種の演算処理及び制御処理等を実行する。
主記憶部52は、例えばRAMである。
【0067】
補助記憶部53は、EEPROM、FlashROM、ハードディスク等の記録媒体を有する。補助記憶部53は、ワークWを加工する為のNCプログラム、ブレーキ試験を行なう為のプログラム等を含むコンピュータプログラム5aを記憶する。補助記憶部53が記憶するコンピュータプログラム5aは、例えばネットワークを介してサーバからダウンロードしたものでもよく、可搬型記録媒体50(CD-ROM又はフラッシュメモリ等)から読み取ったものでもよい。なお、補助記憶部53が可搬型記録媒体50を有してもよい。この場合、制御部51は、可搬型記録媒体50からコンピュータプログラム5aを読み出して実行する。
【0068】
工作機械1は操作パネル6を備える。
操作パネル6は、情報を表示する表示部、及び、使用者が工作機械1に対して所定の命令を入力する場合に操作する操作部を有する。制御部51は操作パネル6を制御することにより、所定の情報(例えばエラーメッセージ)を操作パネル6の表示部に表示する。使用者が操作パネル6の操作部を操作することにより、制御部51は所定の命令(例えば後述の移動命令)を受け取る。
【0069】
工作機械1は、X軸モータ112(第四モータ)、Z軸モータ123(第四モータ)、Y軸モータ131(第二モータ)、及びA軸モータ143(第三モータ)を備える。
X軸モータ112はX軸移動機構11を構成し、X軸モータ112が駆動することにより移動体111が左右に移動する。X軸モータ112は不図示のボールねじを介して移動体111を駆動する。Z軸モータ123はZ軸移動機構12を構成し、Z軸モータ123が駆動することによりコラム121が前後に移動する。Z軸モータ123は不図示のボールねじを介してコラム121を駆動する。Y軸モータ131はY軸移動機構13を構成し、Y軸モータ131が駆動することにより主軸ヘッド2が上下に移動する。Y軸モータ131は不図示のボールねじを介して主軸ヘッド2を駆動する。
A軸モータ143はワーク支持装置14を構成し、A軸モータ143が揺動台141を駆動することにより、揺動台141がA軸を中心に周方向に揺動する。
【0070】
X軸モータ112の駆動により移動体111が左右に移動し、Z軸モータ123の駆動によりコラム121が前後に移動し、Y軸モータ131の駆動により主軸ヘッド2が上下に移動する。この結果、主軸22(及び主軸22が保持した工具T)は上下前後左右に移動する。
A軸モータ143の駆動により揺動台141が揺動することにより、加工テーブル142が固定したワークWの傾斜角度が変化する。
【0071】
M軸モータ42の駆動により、M軸を中心としてマガジンベース411が回転(及び各グリップアーム412が旋回)し、工具Tを保持していないグリップアーム412又は所定の工具Tを保持したグリップアーム412が工具交換位置に移る。
【0072】
M軸モータ42は、M軸モータ42の回転を制動するブレーキ421(第一ブレーキ)を有する。M軸モータ42の停止中にブレーキ421が作動することにより、ブレーキ421に異常がなければ、グリップアーム412(及びグリップアーム412が保持した工具T)は確実に静止し、旋回方向に位置ずれすることはない。
Y軸モータ131は、Y軸モータ131の回転を制動するブレーキ132(第二ブレーキ)を有する。Y軸モータ131の停止中にブレーキ132が作動することにより、ブレーキ132に異常がなければ、少なくとも上下方向について主軸22(及び主軸22が保持した工具T)は確実に静止し、上下方向に位置ずれすることはない。
【0073】
A軸モータ143は、A軸モータ143の回転を制動するブレーキ144(第三ブレーキ)を有する。A軸モータ143の停止中にブレーキ144が作動することにより、ブレーキ144に異常がなければ、揺動台141(と揺動台141が直接的又は間接的に固定した加工テーブル142及びワークWと)が確実に静止し、揺動方向に位置ずれすることはない。
X軸モータ112、Z軸モータ123、及び主軸モータ21夫々もブレーキを有するが、これらのブレーキについての詳述は省略する。
なお、各モータとブレーキとは別体でもよい。
【0074】
制御部51は、X軸モータ112、Z軸モータ123、Y軸モータ131、A軸モータ143、主軸モータ21、M軸モータ42、及びブレーキ132,144,421夫々の動作を制御する。
【0075】
工具マガジン41のM軸は非鉛直方向に延びるので、M軸を中心に旋回するグリップアーム412の上下方向の位置は変化する。M軸モータ42のブレーキ421に異常がある場合、グリップアーム412(又はグリップアーム412及び工具T)の自重により、グリップアーム412がマガジンベース411の周方向に沿って下向きに位置ずれする虞がある。
ブレーキ421の異常によってグリップアーム412が位置ずれすることを防ぐ為に、制御部51はブレーキ421の異常の有無を判断する第一のブレーキ試験を行なう。
【0076】
第一のブレーキ試験では、制御部51はブレーキ421が作動した状態のM軸モータ42に所定の負荷をかける第一負荷付与試験を行なう。つまり、制御部51はブレーキ421がM軸モータ42の回転を制動している状態で、M軸モータ42が回転するようM軸モータ42を制御する。ブレーキ421が正常であれば、負荷がかかることによるM軸モータ42の回転量は所定の許容範囲以内である。ブレーキ421に異常があれば、負荷がかかることによるM軸モータ42の回転量は許容範囲を超過するので、グリップアーム412が位置ずれする。第一負荷付与試験の結果としてグリップアーム412が位置ずれした場合、位置ずれしたグリップアーム412を、使用者が元の位置(第一負荷付与試験の開始直前の現在地)に戻す。
【0077】
同様に、Y軸モータ131のブレーキ132に異常がある場合、主軸22(又は主軸22及び工具T)の自重により、主軸22が下向きに位置ずれする虞がある。
ブレーキ132の異常によって主軸22が位置ずれすることを防ぐ為に、制御部51はブレーキ132の異常の有無を判断する第二のブレーキ試験を行なう。
【0078】
第二のブレーキ試験では、制御部51はブレーキ132が作動した状態のY軸モータ131に所定の負荷をかける第二負荷付与試験を行なう。ブレーキ132が正常であれば、負荷がかかることによるY軸モータ131の回転量は所定の許容範囲以内である。ブレーキ132に異常があれば、負荷がかかることによるY軸モータ131の回転量は許容範囲を超過するので、主軸22が位置ずれする。第二負荷付与試験の結果として主軸22が位置ずれした場合、位置ずれした主軸22を、使用者が元の位置(第二負荷付与試験の開始直前の現在地)に戻す。
【0079】
主軸22が加工領域AWに位置している場合に第一負荷付与試験を行なうことが望ましい。何故ならば第一負荷付与試験の結果としてグリップアーム412が位置ずれしたとしても、グリップアーム412(又はグリップアーム412が保持した工具T)は、加工領域AWに位置する主軸22(又は主軸22が保持した工具T)には干渉し得ないからである。
【0080】
主軸22が加工領域AWに位置している場合、シャッタ32は閉まっている。第一負荷付与試験を行なう為だけにシャッタ32を開けることは非効率的なので、シャッタ32を閉じたまま第一負荷付与試験を行なうことが望ましい。この場合、M軸モータ42にかける負荷は、第一負荷付与試験の結果としてグリップアーム412が位置ずれしたとしても、グリップアーム412(又はグリップアーム412が保持した工具T)がシャッタ32に干渉しない程度の負荷であることが望ましい。
【0081】
主軸22が加工領域AWに位置している場合に第二負荷付与試験を行なうことが望ましい。何故ならば、第二負荷付与試験の結果として主軸22が位置ずれしたとしても、位置ずれした主軸22を使用者が元の位置に戻す際に、主軸22(又は主軸22が保持した工具T)がグリップアーム412に干渉し得ないからである。また、ワークWの加工時に主軸22が様々な経路で移動する為に、加工領域AWには空間的な余裕が設けてあるからである。
【0082】
ただし、第二負荷付与試験の結果として主軸22がワーク支持装置14の近傍で位置ずれした場合、主軸22(又は主軸22が保持した工具T)が、揺動台141、加工テーブル142、又は加工テーブル142が固定したワークWに干渉する虞がある。また、基台10の近傍で主軸22が位置ずれした場合、主軸22(又は主軸22が保持した工具T)が基台10に干渉する虞がある。
【0083】
故に、第二負荷付与試験は、主軸22が加工領域AWに位置し、且つ、基台10及びワーク支持装置14夫々から十分に離れている場合に行なうことが好適である。本実施の形態の制御部51は、主軸22が加工領域AWに位置し、且つ、所定のZ軸実施位置及びY軸実施位置に位置している場合に第二負荷付与試験を行なう。Z軸実施位置は、ワーク支持装置14から後方に十分に離隔した位置である。Y軸実施位置は、例えば基台10の上面から上方に十分に離隔した位置である。なお、Z軸実施位置及びY軸実施位置夫々は製造者が設定したものでもよく、使用者が設定したものでもよい。以下ではZ軸実施位置としてZ軸原点を例示する。Z軸原点は、例えば工具交換位置の前後方向の位置に等しい。
【0084】
揺動台141のA軸は非鉛直方向に延びる。故に、A軸モータ143のブレーキ144に異常がある場合、揺動台141及び加工テーブル142(並びに加工テーブル142が固定したワークW)の自重より、揺動台141が揺動方向に沿って下向きに位置ずれする虞がある。
ブレーキ144の異常によって揺動台141が位置ずれすることを防ぐ為に、制御部51はブレーキ144の異常の有無を判断する第三のブレーキ試験を行なう。
【0085】
第三のブレーキ試験では、制御部51はブレーキ144が作動した状態のA軸モータ143に所定の負荷をかける第三負荷付与試験を行なう。ブレーキ144が正常であれば、負荷がかかることによるA軸モータ143の回転量は所定の許容範囲以内である。ブレーキ144に異常があれば、負荷がかかることによるA軸モータ143の回転量は所定の許容範囲を超過するので、揺動台141が位置ずれする。第三負荷付与試験の結果として揺動台141が位置ずれした場合、位置ずれした揺動台141を、使用者が元の位置に戻す。
【0086】
以下では、第一のブレーキ試験、第二のブレーキ試験、及び第三のブレーキ試験を区別しない場合、単にブレーキ試験という。また、第一負荷付与試験、第二負荷付与試験、及び第三負荷付与試験をまとめて第一~第三の負荷付与試験といい、第一負荷付与試験及び第二負荷付与試験をまとめて第一及び第二の負荷付与試験という。
【0087】
制御部51は、所定のタイミングでブレーキ試験の実行を開始する。所定のタイミングとは、例えば工作機械1の電源投入時、又はワークWの加工開始前である。なお、所定の時間間隔で繰り返し(例えば工作機械1と共に使用者が作業する場合は8時間毎に、ロボットが作業する場合は48時間毎に)ブレーキ試験を実行することも可能である。
ブレーキ異常があれば、揺動台141、主軸22、及びグリップアーム412夫々の位置ずれは重力の作用により常に生じ得る。ブレーキ試験を速やかに終えるには、第一~第三の負荷付与試験をまとめて行なうことが望ましい。
【0088】
ところが、加工領域AWにおけるZ軸原点且つY軸実施位置に主軸22が位置していたとしても、ワークWの形状又はサイズによっては、第三負荷付与試験を行なった場合に、ワークWと主軸22(又は主軸22が保持した工具T)との干渉が起きる虞がある。この場合、第三負荷付与試験の開始前に、部材同士の干渉が起きない位置へ主軸22が移動(退避)する必要がある。
【0089】
使用者は、第三負荷付与試験を行なった場合に部材同士の干渉が起き得るか否かを判断し、部材同士の干渉が起き得ると判断した場合は、主軸22の退避(加工領域AWの所定位置への主軸22の移動)を命令する移動命令を、操作パネル6に入力する。制御部51は、使用者が入力した移動命令を受け付ける。このとき、制御部51は実施の形態における受付部として機能する。以下では加工領域AWの所定位置を退避位置という。
【0090】
ところで、ワーク支持装置14は不図示のクランプ機構を備え、制御部51はクランプ機構の動作を制御する。例えば揺動台141のA軸となる2つの部材が互いに同軸に、揺動台141の左右両側に1つずつ固定してあり、クランプ機構は揺動台141のA軸をクランプすることにより揺動台141の揺動を阻止する。揺動台141が揺動する必要がある場合のみ、クランプ機構はA軸のクランプを解除(アンクランプ)する。従って、第三負荷付与試験は第一及び第二の負荷付与試験に比べれば重要度が低い。
以上のことから、制御部51が移動命令を受け付けた場合は、先に第一及び第二の負荷付与試験をまとめて行ない、後から第三負荷付与試験を行なうことが望ましい。
【0091】
図9~
図11は工作機械1が実行するブレーキ異常判断処理の手順を示すフローチャートである。制御部51がコンピュータプログラム5aに従ってブレーキ異常判断処理を行なうことにより、本開示に係るブレーキ異常判断方法を実現することができる。ブレーキ異常判断処理を行なう制御部51は、実施の形態における試験部として機能する。
【0092】
図9に示す如く制御部51は、主軸22が加工領域AWに位置しているか否かを判定する(S11)。S11における制御部51は、例えばY軸モータ131に設けた不図示のエンコーダの検出値に基づいて主軸22の上下方向の現在地を求め、主軸22の上下方向の現在地が所定のY軸原点以下であるか否かを判定する。ここで、Y軸原点は、加工領域AWと工具交換領域ATとの境界の上下方向の位置に等しい。
【0093】
主軸22が加工領域AWに位置していない場合(S11:NO)、主軸22は工具交換領域ATに位置しているので、制御部51は、使用者にエラーを報知する(S12)。S12における制御部51は、例えば操作パネル6に所定のエラーメッセージを表示し、不図示のブザーが鳴るようにする。
S12の処理終了後、制御部51は、ブレーキ異常判断処理を終了する。
S12の処理の結果、使用者は、操作パネル6が表示したエラーメッセージを視認し、異常の原因を究明する。
【0094】
主軸22が加工領域AWに位置している場合(S11:YES)、制御部51は、主軸22がZ軸原点に移動するようZ軸モータ123の動作を制御する(S13)。S13の処理を行なう前に、制御部51は主軸22の現在地(元の位置)を主記憶部52に書き込んでもよい。この為に、制御部51は、例えばZ軸モータ123に設けた不図示のエンコーダの検出値に基づいて主軸22のZ軸方向の現在地を求める。同様に、制御部51は、例えばX軸モータ112及びY軸モータ131夫々に設けた不図示のエンコーダの検出値に基づいて主軸22のX軸方向及びY軸方向夫々の現在地を求める。
【0095】
制御部51は移動命令を受け付けたか否かを判定する(S14)。使用者が移動命令を操作パネル6に入力するタイミングはブレーキ異常判断処理の実行開始前でも実行開始後でもよい。
移動命令を受け付けた場合(S14:YES)、制御部51は、第一及び第二の負荷付与試験をまとめて行なってから第三負荷付与試験を行なう為に、後述のS21以降の処理を実行する。移動命令を受け付けていない場合(S14:NO)、制御部51は、第一~第三の負荷付与試験をまとめて行なう為に、次に述べるS15以降の処理を実行する。つまり、第一~第三の負荷付与試験の実行順は、移動命令を受け付けた場合と移動命令を受け付けていない場合とで互いに異なる。
【0096】
移動命令を受け付けていない場合(S14:NO)、制御部51は主軸22がY軸実施位置に移動するようにY軸モータ131の動作を制御すると共に、揺動台141のA軸をアンクランプする(S15)。
A軸のアンクランプ後、制御部51は、揺動台141がA軸実施角度まで揺動するようA軸モータ143の動作を制御する(S16)。A軸実施角度は、例えば固定面14aが水平になる角度である。S16の処理を行なう前に、制御部51は揺動台141の元の角度を主記憶部52に書き込んでもよい。制御部51は、例えば揺動台141の角度としてA軸の回転角度を用い、A軸モータ143に設けた不図示のエンコーダの検出値に基づいてA軸の元の回転角度を求める。
【0097】
次いで、制御部51は、M軸モータ42のブレーキ421、Y軸モータ131のブレーキ132、及びA軸モータ143のブレーキ144夫々が作動するように制御する(S17)。図中、ブレーキ421,132,144は「M軸ブレーキ」、「Y軸ブレーキ」、「A軸ブレーキ」と表記してある。
【0098】
次に、制御部51は、M軸モータ42、Y軸モータ131、及びA軸モータ143夫々に負荷をかけ(S18)、各モータの回転量を検出する。S18における制御部51は、例えばM軸モータ42に設けた不図示のエンコーダの検出量に基づいて、M軸モータ42の回転量を検出する。同様に、制御部51はY軸モータ131及びA軸モータ143夫々に設けたエンコーダの検出量に基づいて、各モータの回転量を検出する。
【0099】
S17及びS18において、制御部51はブレーキ421,132,144を同時にオンにし、M軸モータ42、Y軸モータ131、及びA軸モータ143に同時に負荷をかけることにより、第一~第三の負荷付与試験をまとめて実行している。
【0100】
移動命令を受け付けた場合(S14:YES)、制御部51は、
図10に示す如く主軸22がY軸実施位置に移動するようにY軸モータ131の動作を制御する(S21)。制御部51は、M軸モータ42のブレーキ421及びY軸モータ131のブレーキ132夫々が作動するように制御する(S22)。次に、制御部51は、M軸モータ42及びY軸モータ131夫々に負荷をかけ(S23)、各モータの回転量を検出する。
【0101】
S23の処理終了後、制御部51は、主軸22が退避位置に移動するように、X軸モータ112及びY軸モータ131の動作を制御すると共に、揺動台141のA軸をアンクランプする(S24)。なお、主軸22の退避は上下方向及び左右方向の移動に限定しない。例えば主軸22の退避は上下方向及び左右方向の一方のみの移動でもよく、上下方向、前後方向、及び左右方向の移動でもよい。
【0102】
揺動台141のアンクランプ後、制御部51は、揺動台141がA軸実施角度まで揺動するようA軸モータ143の動作を制御する(S25)。
次いで、制御部51は、主軸22が退避位置に位置するか否かを判定する(S26)。S26における制御部51は実施の形態における判定部として機能する。主軸22が退避位置に位置していない場合(S26:NO)、制御部51は再びS26の処理を実行する。
主軸22が退避位置に位置する場合(S26:YES)、制御部51は、A軸モータ143のブレーキ144が作動するように制御し(S27)、A軸モータ143に負荷をかけ(S28)、A軸モータ143の回転量を検出する。
【0103】
S22及びS23において、制御部51は第一及び第二の負荷付与試験をまとめて実行している。S26~S28において、制御部51は主軸22が退避位置に位置しないと判定した場合に主軸22の退避を継続し、主軸22が退避位置に位置すると判定した場合に第三負荷付与試験を実行している。なお、制御部51はS24の処理開始前に主軸22が退避位置に位置するか否かを判定し、この時点で主軸22が退避位置に位置する場合はS24における主軸22を退避する処理を省略してもよい。
【0104】
S28の処理終了後、又は
図9に示すS18の処理終了後、制御部51は
図11に示す如くM軸モータ42、Y軸モータ131、及びA軸モータ143夫々の回転量が、何れも所定の許容範囲以内であるか否かを判定する(S31)。例えば制御部51は回転量θ1とモータ毎の許容値θ2(θ2>0)とを比較し、|θ1|≦θ2であれば回転量が許容範囲以内であると判定し、|θ1|>θ2であれば、回転量が許容範囲を超過していると判定する。モータ毎の許容範囲は製造者が設定したものでもよく、使用者が設定したものでもよい。
【0105】
S31における制御部51は、M軸モータ42、Y軸モータ131、及びA軸モータ143のブレーキ421,132,144の異常の有無の判断をまとめて行なう。制御部51はモータ毎の回転量と許容量との比較を順次実行してもよく、制御部51が有する複数の演算子が複数のモータ夫々の回転量と許容量との比較を同時に実行してもよい。
【0106】
M軸モータ42、Y軸モータ131、及びA軸モータ143夫々の回転量の内、少なくとも1つの回転量が許容範囲を超過している場合(S31:NO)、ブレーキ異常が生じているので、制御部51は、使用者にエラーを報知する(S32)。S32における制御部51は、例えば操作パネル6に所定のエラーメッセージを表示し、不図示のブザーが鳴るようにする。
S32の処理終了後、制御部51は、ブレーキ異常判断処理を終了する。
【0107】
S32の処理の結果、使用者は、操作パネル6が表示したエラーメッセージを視認し、ブレーキ異常が生じているモータの修理又は交換等を手配する。また、使用者は、ブレーキ異常により位置ずれした揺動台141、主軸22、又はグリップアーム412を正常な位置に戻す。
【0108】
M軸モータ42、Y軸モータ131、及びA軸モータ143夫々の回転量が何れも許容範囲以内である場合(S31:YES)、ブレーキ異常は生じていない。制御部51は、揺動台141がブレーキ試験開始前の元の角度まで揺動するように(A軸が元の回転角度まで戻るように)、A軸モータ143の動作を制御する(S33)。また、制御部51は、主軸22がX軸方向及びY軸方向についてブレーキ試験開始前の元の位置に戻るようX軸モータ112及びY軸モータ131の動作を制御すると共に、揺動台141のA軸をクランプする(S34)。更に、制御部51は、主軸22が前後方向についてブレーキ試験開始前の元の位置まで揺動するようZ軸モータ123の動作を制御し(S35)、ブレーキ異常判断処理を終了する。
【0109】
ワークWの加工開始前にブレーキ異常判断処理を実行した場合、制御部51はS35の処理を経てブレーキ異常判断処理を終了したとき、ワークWの加工処理を自動的に開始してもよい。
S34,S35の処理により、主軸22がブレーキ試験開始前の元の位置に戻るのではなく、所定の位置又はワークWの加工開始位置等に移動してもよい。S33の処理により、揺動台141がブレーキ試験開始前の元の角度に戻るのではなく、所定の角度又はワークWの加工開始角度等まで揺動してもよい。
ブレーキ試験において各モータにかける負荷は工作機械1の製造者が設定したものでもよく、使用者が設定したものでもよい。
【0110】
以上のような工作機械1、ブレーキ異常判断方法、及びコンピュータプログラム5aによれば、制御部51は、主軸22が加工領域AWに位置する場合に少なくとも第一負荷付与試験及び第二負荷付与試験をまとめて行なう。加工領域AWに位置する主軸22が工具交換領域ATまで移動する必要がないので、主軸22の移動時間を短縮することができる。また、制御部51はブレーキ異常判断処理の実行中にシャッタ32を開閉しない。第一負荷付与試験及び第二負荷付与試験の開始前に主軸22はZ軸原点且つY軸実施位置に移動する。以上の結果、ブレーキ試験を速やかに終えることができる。
【0111】
加工領域AWに位置する主軸22はグリップアーム412から遠い位置にある。故に、グリップアーム412、主軸22、及び工具Tが干渉し合う虞はない。また、工具交換領域ATに比べて加工領域AWの空間的な余裕は大きい。故に、第二負荷付与試験の結果として主軸22が位置ずれしたとしても、位置ずれした主軸22を元の位置に戻す際に主軸22又は主軸22が保持した工具Tが他部材(ワーク支持装置14又はワークW等)に干渉する可能性が低い。従って、位置ずれした主軸22を元の位置に戻す作業が容易なので、ブレーキ試験後の原状復帰を簡単に行なうことができる。
【0112】
主軸22が工具交換領域ATに位置する場合、制御部51がエラーを報知する。使用者に対するエラーの報知により、望ましくない状況下でのブレーキ試験の実行を防止することができる。
【0113】
制御部51が移動命令を受け付けた場合と受け付けなかった場合とで第一負荷付与試験、第二負荷付与試験、及び第三負荷付与試験の実行順が変わるので、第三負荷付与試験の結果として部材同士の干渉が起きることを効果的に防止することができる。
具体的には移動命令を受け付けなかった場合、制御部51は第一~第三の負荷付与試験をまとめて行なう。故に、主軸22の退避位置への移動を行なう必要がなく、しかも3種類の負荷付与試験をまとめて行なうので、ブレーキ試験を速やかに終えることができる。
【0114】
移動命令を受け付けた場合、制御部51は第一及び第二の負荷付与試験をまとめて行なう。これらの実行時には第三負荷付与試験を行なわないので、主軸22の退避位置への移動を行なう必要がない。つまり、特に重要なブレーキに関する2種類の負荷付与試験をまとめて優先的に行ない、速やかに終えることができる。
【0115】
第一及び第二の負荷付与試験の終了後、主軸22が退避位置にないと判定した場合に、制御部51は、主軸22が退避位置に移動するようX軸モータ112及びY軸モータ131の動作を制御する。第一及び第二の負荷付与試験の終了後、主軸22が退避位置にあると判定した場合に、制御部51は、第三負荷付与試験を行なう。故に、第三負荷付与試験の結果として部材同士の干渉が起きることを効果的に防止することができる。
移動命令を受け付けた場合でも移動命令を受け付けなかった場合でも、制御部51はM軸モータ42、Y軸モータ131、及びA軸モータ143のブレーキの異常の有無の判断をまとめて行なうので、ブレーキ試験を速やかに終えることができる。
【0116】
本実施の形態では、制御部51が複数のブレーキを同時にオンにし、複数のモータに同時に負荷をかけることにより、複数の負荷付与試験をまとめて実行している。各モータの回転量の検出後、制御部51は、複数のモータに負荷をかけることを同時に終了し、複数のブレーキを同時にオフにすることが望ましい。
しかしながら、複数の負荷付与試験をまとめて実行することとは、同一の制御処理(制御部51がブレーキのオン/オフ、モータへの負荷の印加等夫々を制御する処理)を同時に行なうことに限定しない。複数の負荷付与試験をまとめて実行することとは、一の負荷試験の開始から終了までの期間の少なくとも一部と、他の負荷試験の開始から終了までの期間の少なくとも一部とが同時であればよい。例えば、制御部51は複数のブレーキを順にオンにしてもよい。
【0117】
本実施の形態では、制御部51は、複数の負荷付与試験が全て終了した後で、複数のブレーキの異常の有無の判断をまとめて実行する。しかしながら、制御部51は、モータの回転量の検出後、ブレーキをオフにする前に(即ち負荷付与試験の終了前に)、ブレーキの異常の有無の判断を開始してもよい。或いは制御部51は、S14にて移動命令を受け付けた場合、第一及び第二の負荷付与試験が全て終了した後で、第三の負荷付与試験の開始前に、ブレーキ421,132の異常の有無の判断をまとめて行なってもよい。
複数のブレーキの異常の有無の判断をまとめて実行しない場合、制御部51は、例えば一のモータの回転量を検出する都度、他のモータの回転量を検出する前に、ブレーキの異常の有無の判断を開始する。
【0118】
なお、工具保持部はグリップアーム412に限定しない。工具交換装置4は、工具保持部がM軸を中心とする円環に沿って旋回する構成に限定しない。例えば工具交換装置4は、円環とは異なる連続的な経路に沿って工具保持部が循環移動する構成でもよく、工具保持部が往復直線移動する構成でもよい。
制御部51は、X軸モータ112及びZ軸モータ123夫々の負荷付与試験を第三負荷付与試験と同じタイミングで行なってもよい。制御部51は工作機械1が備える他の駆動装置(例えば加工テーブル142を駆動するモータ、シャッタ32を駆動するエアシリンダ、又はワークWを搬入出する装置のモータ)の負荷付与試験を第三負荷付与試験と同じタイミングで行なってもよい。
【0119】
第一~第三の負荷付与試験の実行順は、移動命令を受け付けた場合と移動命令を受け付けなかった場合とで異なるが、本実施の形態の実行順に限定されない。
工作機械1は、軸方向が前後方向に沿う横形の工作機械であるが、主軸22の軸方向が上下方向に沿う立形の工作機械が、主軸22が加工領域AWに位置する場合に少なくとも第一負荷付与試験を行なう本開示のブレーキ異常判断方法を実施してもよい。
【0120】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲と均等の意味及び特許請求の範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
特許請求の範囲に記載した独立請求項及び従属請求項は、引用形式に関わらず全てのあらゆる組み合わせにおいて、相互に組み合わせることが可能である。更に、特許請求の範囲には他の2以上のクレームを引用するクレームを記載する形式(マルチクレーム形式)を用いているが、これに限るものではない。マルチクレームを少なくとも一つ引用するマルチクレーム(マルチマルチクレーム)を記載する形式を用いて記載してもよい。
【符号の説明】
【0121】
1 工作機械
112 X軸モータ(第四モータ)
123 Z軸モータ(第四モータ)
131 Y軸モータ(第二モータ)
132 ブレーキ(第二ブレーキ)
141 揺動台
142 加工テーブル
143 A軸モータ(第三モータ)
144 ブレーキ(第三ブレーキ)
22 主軸
31 カバー
311 開口
32 シャッタ
4 工具交換装置
412 グリップアーム(工具保持部)
42 M軸モータ(第一モータ)
421 ブレーキ(第一ブレーキ)
5a コンピュータプログラム
51 制御部(試験部、受付部、判定部)
AT 工具交換領域
AW 加工領域
T 工具
W ワーク