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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121625
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】気化装置及び蒸着装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20240830BHJP
   C23C 16/448 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
C23C14/24 A
C23C16/448
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028828
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100201455
【弁理士】
【氏名又は名称】横尾 宏治
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 弘晃
(72)【発明者】
【氏名】大槻 恭平
(72)【発明者】
【氏名】久保 寿太
(72)【発明者】
【氏名】根市 正弘
【テーマコード(参考)】
4K029
4K030
【Fターム(参考)】
4K029CA01
4K029DA04
4K029DB12
4K029DB15
4K029DB18
4K030EA01
4K030EA05
(57)【要約】
【課題】本発明は、従来に比べて薄膜形成材料を効率的に気化できる気化装置及び従来に比べて高品質の薄膜を製膜できる蒸着装置を提供する。
【解決手段】薄膜形成材料を含み、鉛直方向の層流の材料ガスを鉛直配管部に供給する材料供給部と、鉛直配管部を加熱する加熱部と、鉛直方向の層流の材料ガスを、少なくとも水平方向成分を持った乱流の材料ガスに変換する層乱変換部を有し、層乱変換部は、鉛直配管部の中央側から鉛直配管部の内壁に向かって流れる乱流を形成する構成とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜形成材料を含み、鉛直方向の層流の材料ガスを鉛直配管部に供給する材料供給部と、
前記鉛直配管部を加熱する加熱部と、
前記鉛直方向の層流の材料ガスを、少なくとも水平方向成分を持った乱流の材料ガスに変換する層乱変換部を有し、
前記層乱変換部は、前記鉛直配管部の中央側から前記鉛直配管部の内壁に向かって流れる乱流を形成する、気化装置。
【請求項2】
前記層乱変換部は、前記鉛直配管部の中央側から前記鉛直配管部の内壁に向かって流れ、さらに前記鉛直配管部の内壁側から前記鉛直配管部の中央側に向かって流れる乱流を形成する、請求項1に記載の気化装置。
【請求項3】
前記材料ガスは、固体状又は液体状の薄膜形成材料と、前記薄膜形成材料に対して不活性の不活性ガスを含む、請求項1又は2に記載の気化装置。
【請求項4】
前記層乱変換部と前記鉛直配管部の内壁との間には隙間がある、請求項1又は2に記載の気化装置。
【請求項5】
前記層乱変換部は、スタティックミキサーである、請求項1又は2に記載の気化装置。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の気化装置を有する気化部と、製膜部と、前記気化部と前記製膜部を接続するガス供給流路を有し、
前記気化装置は、前記材料ガスの薄膜形成材料を気化した材料気化ガスを含む材料含有ガスを生成可能であり、
前記製膜部は、製膜室内に、製膜ガス放出部と、基材保持部を有し、前記基材保持部に保持された基材に対して、前記製膜ガス放出部から製膜ガスを放出可能であり、
前記製膜ガスは、前記気化装置が生成した前記材料含有ガスを含む、蒸着装置。
【請求項7】
前記気化部は、不活性のキャリアガスを前記製膜ガス放出部に供給可能なキャリアガス供給部を有し、
前記製膜ガスは、前記材料含有ガスと前記キャリアガスを含む、請求項6に記載の蒸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜形成材料を加熱する気化装置及び薄膜を蒸着する蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、有機EL装置の各層の製造には、真空蒸着装置が使用されている(例えば、特許文献1)。
特許文献1の蒸着装置は、粉体状の薄膜形成材料を高温のキャリアガスで気化室内に導入するとともに、気化室内で薄膜形成材料を加熱し、気化又は昇華させて蒸気を生成し、キャリアガスで蒸気を製膜室まで流送し、製膜室内においてキャリアガスと蒸気の混合ガスを基材に対して吹き付ける構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-112316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の蒸着装置は、薄膜形成材料が第1接続経路の合流部でキャリアガスと合流した後に、キャリアガスとともに第1接続経路の第2鉛直管部から気化室内に導入される。このとき、薄膜形成材料とキャリアガスの混合ガスは、気化室内では層流となって第2鉛直管部から導入され、最短距離を経て供給経路から気化室の外部に送り出される。そのため、気化室内において中心側と内壁側で温度勾配が生じてしまい、中央側を通過する混合ガスでは、加熱が十分でなく、薄膜形成材料が完全に気化せずに粉体のまま基材に到達する場合があり、内壁側を通過する混合ガスでは温度が高く、薄膜形成材料が劣化してしまう場合がある。また、気化室の角部では、混合ガスが留まる滞留部分が生じてしまい、その滞留部分に留まる薄膜形成材料は蒸着されない問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、従来に比べて薄膜形成材料を効率的に気化できる気化装置及び従来に比べて高品質の薄膜を製膜できる蒸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するための本発明の一つの様相は、薄膜形成材料を含み、鉛直方向の層流の材料ガスを鉛直配管部に供給する材料供給部と、前記鉛直配管部を加熱する加熱部と、前記鉛直方向の層流の材料ガスを、少なくとも水平方向成分を持った乱流の材料ガスに変換する層乱変換部を有し、前記層乱変換部は、前記鉛直配管部の中央側から前記鉛直配管部の内壁に向かって流れる乱流を形成する、気化装置である。
【0007】
本様相によれば、層乱変換部によって乱流の材料ガスとなるので、鉛直配管部の内部空間に材料ガスを行き渡らせることができ、鉛直配管部内での温度勾配が小さくなり、薄膜形成材料を均一に加熱できる。また、鉛直配管部内において材料ガスの滞留部分の発生を抑制でき、効率的に加熱できる。
【0008】
好ましい様相は、前記層乱変換部は、前記鉛直配管部の中央側から前記鉛直配管部の内壁に向かって流れ、さらに前記鉛直配管部の内壁側から前記鉛直配管部の中央側に向かって流れる乱流を形成する。
【0009】
本様相によれば、鉛直配管部内での温度勾配をより小さくでき、薄膜形成材料を均一に加熱できる。
【0010】
好ましい様相は、前記材料ガスは、固体状又は液体状の薄膜形成材料と、前記薄膜形成材料に対して不活性の不活性ガスを含む。
【0011】
本様相によれば、不活性ガスの流量を調整することで鉛直配管部を通過する薄膜形成材料の速度や薄膜形成材料の気化量を調整できる。
【0012】
好ましい様相は、前記層乱変換部と前記鉛直配管部の内壁との間には隙間がある。
【0013】
本様相によれば、鉛直配管部の内壁に沿って材料ガスの滞留部の発生をより抑制できる。
【0014】
好ましい様相は、前記層乱変換部は、スタティックミキサーである。
【0015】
本様相によれば、層流の材料ガスを乱流の材料ガスに変換するのが容易である。
【0016】
本発明の一つの様相は、上記した気化装置を有する気化部と、製膜部と、前記気化部と前記製膜部を接続するガス供給流路を有し、前記気化装置は、前記材料ガスの薄膜形成材料を気化した材料気化ガスを含む材料含有ガスを生成可能であり、前記製膜部は、製膜室内に、製膜ガス放出部と、基材保持部を有し、前記基材保持部に保持された基材に対して、前記製膜ガス放出部から製膜ガスを放出可能であり、前記製膜ガスは、前記気化装置が生成した前記材料含有ガスを含む、蒸着装置である。
【0017】
ここでいう「気化」とは、液体が気体に変わる現象(蒸発、沸騰)だけではなく、固体が液体を経ずに直接気体に変わる現象(昇華)も含む。以下、同様とする。
【0018】
本様相によれば、気化装置において従来に比べて薄膜形成材料を均等に加熱して気化できるので、基材に対して高品質な膜を製膜できる。
本様相によれば、気化装置において従来に比べて薄膜形成材料の滞留部が生じにくいので、材料ロスが少なく、効率的に膜を製膜でき、コストを低減できる。
【0019】
好ましい様相は、前記気化部は、不活性のキャリアガスを前記製膜ガス放出部に供給可能なキャリアガス供給部を有し、前記製膜ガスは、前記材料含有ガスと前記キャリアガスを含む。
【0020】
本様相によれば、キャリアガスによって製膜ガスの製膜ガス放出部からの放出量及び放出速度を調整可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の気化装置によれば、従来に比べて薄膜形成材料を効率的に気化できる。
本発明の蒸着装置によれば、従来に比べて高品質の薄膜を製膜できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1実施形態の蒸着装置を模式的に示した構成図である。
図2図1の気化装置の要部を模式的に示した断面図である。
図3図2の気化装置において製膜時の状態を示す断面図であり、薄膜形成材料とキャリアガスの流れを矢印で示している。
図4】本発明の実施形態の蒸着装置の構成図であり、(a)は図1とは異なる実施形態の蒸着装置の構成図であり、(b)は(a)とは異なる実施形態の蒸着装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0024】
本発明の第1実施形態の蒸着装置1は、図1のように、製膜部2と、製膜ガス供給部3(3a~3c)と、ガス供給流路5a~5cを備えた真空蒸着装置である。
具体的には、蒸着装置1は、製膜ガス供給部3a~3cの気化装置30で薄膜形成材料を気化又は昇華させて薄膜形成材料の蒸気(以下、材料気化ガスともいう)を生成し、材料気化ガスを含む製膜ガスを製膜部2で基材100に吹き付けることで、基材100上に有機EL装置を構成する薄膜を製膜するガスキャリア蒸着装置である。
本実施形態の蒸着装置1は、製膜ガス供給部3の気化装置30の構造に主な特徴の一つを有している。
このことを踏まえながら、以下、蒸着装置1の各構成部について説明する。
【0025】
(製膜部2)
製膜部2は、図1のように、製膜室20と、基材保持部21と、マスク部22と、製膜ガス放出部23と、排気系統部25を備えており、製膜室20内に配された基材100に対して製膜ガス放出部23から製膜ガスを噴霧して基材100上に薄膜を製膜するものである。
基材保持部21は、被製膜面を製膜ガス放出部23と対向するように基材100を保持する部位である。
マスク部22は、基材100への製膜部分を制限する部位であり、開口を有し、開口によって基材100上に製膜される薄膜をパターニングする部位である。
製膜ガス放出部23は、基材100に対して製膜ガスを放出する部位であり、具体的には蒸着ヘッドである。
製膜ガス放出部23は、ガス放出口を有し、ガス放出口が基材保持部21に保持された基材100と対面し、ガス放出口から製膜ガスを基材100に吹き付ける部位である。
本実施形態の製膜ガス放出部23は、内部に空間があり、各製膜ガス供給部3a~3cから供給された製膜ガスを空間内で混合してガス放出口から製膜ガスを噴霧可能となっている。
排気系統部25は、製膜室20内のガスを外部に排気し、製膜室20内を実質的に真空状態に維持する部位である。
【0026】
(製膜ガス供給部3)
製膜ガス供給部3は、材料気化ガスを含む材料含有ガスを発生させ、発生した材料含有ガスを含む製膜ガスをガス供給流路5a~5cに供給するものである。
製膜ガス供給部3は、図1のように、気化装置30と、キャリアガス供給部31と、ガス排気部32と、材料ガス接続経路33と、キャリアガス接続経路34と、排気接続経路35を備えている。
【0027】
(気化装置30)
気化装置30は、材料供給部40と、気化側ガス供給部41と、気化部42と、材料供給経路43と、ガス供給経路44を備えている。
【0028】
(材料供給部40)
材料供給部40は、材料供給経路43を介して気化部42に固体状又は液体状の薄膜形成材料を定量的に供給する材料供給機構であり、薄膜形成材料を一時的に保管する保管容器でもある。
本実施形態で使用する薄膜形成材料は、粉末状の固形材料であり、主に有機EL装置の発光機能層を構成する有機EL材料であり、常温で粉末状の固形材料である。
【0029】
本実施形態の材料供給部40は、薄膜形成材料を第1キャリアガスで分散させた材料分散ガスを材料供給経路43に供給可能となっている。
第1キャリアガスは、薄膜形成材料に対して反応しない不活性ガスであり、窒素ガスやアルゴンガス等の希ガスであることが好ましく、アルゴンガスであることがより好ましい。
【0030】
(気化側ガス供給部41)
気化側ガス供給部41は、材料供給経路43に第2キャリアガスを供給し、気化部42における薄膜形成材料の気化量を調節する部位である。
第2キャリアガスは、材料分散ガスの温度以上に加熱された加熱キャリアガスであり、材料分散ガスの温度よりも高い。
気化側ガス供給部41から供給する第2キャリアガスの温度は、薄膜形成材料の沸点等によって適宜変更されるものであり、例えば、摂氏100度以上摂氏700度以下であることが好ましい。
第2キャリアガスは、材料分散ガスに対して反応しない不活性ガスであり、窒素ガスやアルゴンガス等の希ガスであることが好ましく、アルゴンガスであることがより好ましい。
本実施形態の第2キャリアガスは、第1キャリアガスと同種のガスである。
【0031】
(気化部42)
気化部42は、図2のように、気化室50と、加熱部材51a,51bと、層乱変換部材52を備えている。
気化室50は、断面形状が円形状で鉛直方向に直線状に延びた鉛直直管部を含み、薄膜形成材料を気化又は昇華させて材料気化ガスを生成する部位である。
本実施形態の気化室50は、鉛直直管部で構成されており、内部に断面形状が円形状で鉛直方向に直線状に延びた内部空間60を備えている。
【0032】
加熱部材51a,51bは、材料供給経路43から気化室50の内部空間60内に供給される材料分散ガス(薄膜形成材料及び第1キャリアガス)と第2キャリアガスの混合ガス(以下、材料混合ガスともいう)を加熱する部材である。
加熱部材51a,51bは、図2のように、気化室50の周囲を囲繞し、気化室50を包み込んで加熱する部材である。
加熱部材51a,51bには、例えば、マントルヒーターが使用でき、気化室50を加熱及び保温が可能となっている。
【0033】
層乱変換部材52は、材料供給経路43から層流となって供給される材料混合ガスを乱流の材料混合ガスに変換し、気化室50の内部空間60内で材料混合ガスを撹拌させる撹拌部材である。
層乱変換部材52は、長方形状の板材を180度捩じった形状の一又は複数の第1エレメント70と一又は複数の第2エレメント71が長手方向において交互に並んだスタティックミキサーである。
第1エレメント70は、長方形状の板材の中央部分が180度捩じられた右エレメントである。
第2エレメント71は、長方形状の板材の両端部分が180度捩じられた左エレメントである。
層乱変換部材52は、各エレメント70,71において、気化室50を通過する材料混合ガスを分割する分割機能と、気化室50を通過する材料混合ガスの流れ方向を気化室50の中央側から内壁側、又は内壁側から中央側に転換する転換機能と、材料混合ガスの回転方向を変更させる反転機能を備えている。そのため、層乱変換部材52は、気化室50の内部空間60内の材料混合ガスをまんべんなく撹拌することが可能となっている。
層乱変換部材52は、熱伝導率が高い材質で構成されていることが好ましく、例えば、ステンレス鋼などで構成できる。
【0034】
ここで、気化部42の各部位の位置関係について説明する。
【0035】
気化室50は、図2のように、上部側に材料供給経路43が接続されており、下部側にガス供給流路5の材料ガス接続経路33が接続されている。具体的には、気化室50は、天面壁部64に材料供給経路43が接続されており、周壁部65に材料ガス接続経路33が接続されている。
加熱部材51a,51bは、気化室50の周囲を囲繞し、気化室50を包み込んで鉛直方向(上下方向)に並んでいる。
加熱部材51a,51bには、低温側加熱部材51a、高温側加熱部材51bがあり、高温側加熱部材51bは、低温側加熱部材51aに比べて、出力が高く、気化室50を高温となるように加熱可能となっている。
すなわち、気化室50の内部空間60は、図2のように、鉛直方向において、低温側加熱部材51aによって加熱される低温加熱領域61aと、高温側加熱部材51bによって加熱される高温加熱領域61bが形成されている。
層乱変換部材52は、気化室50の内部空間60の中間部に設けられ、低温加熱領域61aと高温加熱領域61bに跨って配されており、層乱変換部材52の上方側と下方側に空間62,63が形成されている。
また、層乱変換部材52は、気化室50の内壁を構成する周壁部65によって囲繞されており、周壁部65との間に隙間が形成されている。
【0036】
(材料供給経路43)
材料供給経路43は、図1のように、材料供給部40と気化室50を接続する接続配管である。
【0037】
(ガス供給経路44)
ガス供給経路44は、図1のように、気化側ガス供給部41と材料供給経路43の中途を接続する接続配管である。言い換えると、ガス供給経路44は、材料供給経路43から上流側部分が分岐した分岐経路である。
【0038】
(キャリアガス供給部31)
キャリアガス供給部31は、ガス供給流路5a~5c内に第3キャリアガスを供給する部位であり、製膜ガス放出部23から放出される製膜ガスの総流量を調節し、製膜速度を調整する部位である。
第3キャリアガスは、材料含有ガスに対して反応しない不活性ガスであり、窒素ガスやアルゴンガス等の希ガスであることが好ましく、アルゴンガスであることがより好ましい。
本実施形態の第3キャリアガスは、第1キャリアガス及び第2キャリアガスと同種のガスである。
【0039】
(ガス排気部32)
ガス排気部32は、ガス供給流路5a~5c内のガスを外部に排気する部位である。
【0040】
(材料ガス接続経路33)
材料ガス接続経路33は、ガス供給流路5と連続し、気化装置30の気化室50とガス供給流路5を接続する接続配管であり、気化装置30の気化室50から供給された材料含有ガスをガス供給流路5に導く材料ガス供給流路を構成する部位である。
【0041】
(キャリアガス接続経路34)
キャリアガス接続経路34は、キャリアガス供給部31と材料ガス接続経路33の中途を接続する接続配管であり、キャリアガス供給部31から供給された第3キャリアガスをガス供給流路5に導くキャリアガス供給流路を構成する部位である。
【0042】
(排気接続経路35)
排気接続経路35は、ガス排気部32と材料ガス接続経路33の中途又はガス排気部32とキャリアガス接続経路34の中途を接続する接続配管であり、ガス供給流路5内を通過するガスをガス排気部32に導く排気流路を構成する部位である。
【0043】
(ガス供給流路5)
ガス供給流路5は、製膜部2と製膜ガス供給部3を接続し、製膜ガス供給部3から製膜部2に材料含有ガスと第3キャリアガスの混合ガスである製膜ガスを送り出す流路である。
【0044】
続いて、蒸着装置1を使用した薄膜の製造方法の一例について説明する。
【0045】
材料供給部40から薄膜形成材料が第1キャリアガスで分散された材料分散ガスを材料供給経路43に供給し、気化側ガス供給部41からガス供給経路44を介して第2キャリアガスを材料供給経路43に供給する。
【0046】
このとき、材料供給部40から供給された材料分散ガスは、材料供給経路43とガス供給経路44の合流部分において第2キャリアガスと混合され、材料供給経路43の下流側端部から材料混合ガスとして気化室50に供給される。
【0047】
材料供給経路43から材料混合ガスが気化室50に導入されると、材料混合ガスは、鉛直方向の層流となって上流側空間62を通過し、層乱変換部材52によって図3の矢印のように二重螺旋状の乱流に変換され、内部空間60内で撹拌されながら加熱されて層乱変換部材52を通過し、下流側空間63に至る。その際に、材料混合ガス内に含まれる薄膜形成材料が気化して材料気化ガスとなり、材料気化ガスと第1キャリアガスと第2キャリアガスの混合ガスである材料含有ガスとして気化室50内から材料ガス接続経路33に導入される。
【0048】
このとき、層乱変換部材52は、図3の矢印のように、気化室50の径方向において、第1エレメント70によって材料混合ガスを二分割にしつつ気化室50の中央側から内壁を構成する周壁部65側に材料混合ガスを導き、第2エレメント71によって材料混合ガスを周壁部65側から気化室50の中央側を経て反対側の周壁部65側に導く。層乱変換部材52は、各エレメント70,71でこれを繰り返し、内部空間60内で材料混合ガスを攪拌する。
すなわち、材料混合ガスは、層乱変換部材52で撹拌されながら、低温加熱領域61aと高温加熱領域61bの順に通過し、材料混合ガス内の薄膜形成材料が気化して薄膜形成材料のみが気化した材料気化ガスを含む材料含有ガスとなる。
【0049】
気化室50内から材料ガス接続経路33に導入された材料含有ガスは、キャリアガス供給部31から供給された第3キャリアガスと材料ガス接続経路33の中途で混合されて製膜ガスとなってガス供給流路5に導入され、製膜ガスは、ガス供給流路5を通過して製膜室20内で製膜ガス放出部23から基材保持部21に固定された基材100上に放出される。基材100上に吐出された製膜ガスは、基材100上で冷却され、析出することで基材100上に薄膜が着膜する。
【0050】
第1実施形態の蒸着装置1によれば、気化装置30において従来に比べて薄膜形成材料を均等に加熱して気化できるので、基材100に対して高品質の薄膜を製膜できる。
また、第1実施形態の蒸着装置1によれば、気化装置30において従来に比べて薄膜形成材料の滞留部が生じにくいので、材料ロスが少なく、効率的に膜を製膜でき、コストを低減できる。
【0051】
第1実施形態の気化装置30によれば、気化室50内に鉛直方向の層流の材料混合ガスを水平方向成分と鉛直方向成分を持った乱流の材料混合ガスに変換する層乱変換部材52を有しており、材料混合ガスを気化室50の中央側から気化室50の内壁たる周壁部65に向かって流れる乱流を形成する。そのため、気化室50の内部空間60全体に材料混合ガスを行き渡らせることができ、内部空間60での温度勾配が小さくなり、薄膜形成材料を均一に加熱できる。また、気化室50内において材料混合ガスの滞留部分の発生を抑制でき、効率的に加熱できる。
【0052】
第1実施形態の気化装置30によれば、気化室50を通過する材料混合ガスが薄膜形成材料と薄膜形成材料に対して不活性の第1キャリアガス及び第2キャリアガスを含むため、第2キャリアガスの流量を調整することで気化室50を通過する薄膜形成材料の速度や薄膜形成材料の気化量を調整できる。
【0053】
第1実施形態の気化装置30によれば、気化室50を通過する材料混合ガスが薄膜形成材料と薄膜形成材料に対して不活性の第1キャリアガス及び第2キャリアガスのみで構成されているため、薄膜形成材料のみが気化した材料気化ガスを含む材料含有ガスを生成できる。
【0054】
第1実施形態の気化装置30によれば、層乱変換部材52と気化室50の周壁部65との間に隙間があるため、気化室50の周壁部65に沿って材料混合ガスが流れやすく材料混合ガスの滞留部の発生をより抑制できる。
【0055】
第1実施形態の気化装置30によれば、層乱変換部材52がスタティックミキサーで構成されているため、層流の材料混合ガスを乱流の材料混合ガスに変換することが容易であり、材料混合ガスが均等に加熱されて気化効率を向上できる。また、材料混合ガスに含まれる薄膜形成材料が固体の場合、水平方向成分によって材料供給経路43から材料ガス接続経路33に至るまでの通過速度を抑制でき、材料混合ガスが乱流になることで分散効果を奏し、薄膜形成材料の表面積増加による揮発しやすくできる。一方、材料混合ガスに含まれる薄膜形成材料が液体の場合は、エレメント70,71や気化室50の内壁に付着した際に液伸びして表面積が増加し、揮発しやすくできる。
また、第1実施形態の気化装置30によれば、層乱変換部材52を熱伝導性の高い材質のスタティックミキサーで構成することで、加熱部材51a,51bの輻射熱によって層乱変換部材52が加熱され、層乱変換部材52自体が材料混合ガスを加熱する熱源として機能する。そのため、材料混合ガスが層乱変換部材52に接触して撹拌されることで徐々に温度が上昇し、薄膜形成材料が揮発しやすくなる。また、層乱変換部材52自体が高温となるため、材料混合ガスに含まれる未昇華の薄膜形成材料が層乱変換部材52の表面に付着して固化しにくい。その結果、従来に比べて薄膜形成材料を効率的に気化できる。
【0056】
第1実施形態の気化装置30によれば、複数の製膜ガス供給部3a~3cが各ガス供給流路5a~5cを介して製膜ガス放出部23に接続されている。そのため、各製膜ガス供給部3a~3cから異なる薄膜形成材料を用いた製膜ガスを製膜ガス放出部23に供給することで、複数種類の製膜ガスが製膜ガス放出部23で混合され、基材100上に共蒸着膜を共蒸着できる。
【0057】
ところで、第1実施形態の蒸着装置1では、気化室50には薄膜形成材料が固体状又は液体状のまま第1キャリアガスとともに導入されるが、仮に気化室50が水平方向のみに延びる水平直管部で構成されている場合、一般的に、薄膜形成材料の比重が第1キャリアガスに比べて重いため、第1キャリアガスが水平直管部の中心部分を層流のまま通過し、薄膜形成材料が重力によって水平直管部の下面に堆積してしまう。
そこで、本実施形態の蒸着装置1では、気化室50が鉛直方向に直線状に延びた鉛直直管部で構成されているので、薄膜形成材料を重力によって昇華・蒸発を促しながら効率良く下流へ落下させることができ、効率良く薄膜形成材料を材料気化ガスに変換できる。
【0058】
第1実施形態の蒸着装置1によれば、気化室50内において鉛直方向の層流の材料混合ガスを水平方向成分と鉛直方向成分をもった乱流の材料混合ガスに変換する。
第1実施形態の蒸着装置1によれば、気化室50内を通過する材料混合ガスが鉛直方向成分をもっているので、材料混合ガスの搬送を促し、薄膜形成材料を微細化でき、さらに通過する材料混合ガスが水平方向成分ももっているので、薄膜形成材料を微細化でき、材料供給経路43から材料ガス接続経路33に至るまでの通過距離を長くでき、材料混合ガスを均熱化できる。
【0059】
第1実施形態の蒸着装置1によれば、気化室50において材料気化ガスとキャリアガスが均一に混合されて材料含有ガスとして材料ガス接続経路33に導入されるため、製膜ガスが製膜ガス放出部23に到達時の環境中の濃度勾配を抑制できる。
【0060】
上記した実施形態では、各製膜ガス供給部3が個別に製膜ガス放出部23に接続され、共蒸着する際には、製膜ガス放出部23内で各製膜ガス供給部3から供給される製膜ガスを混合していたが、本発明はこれに限定されるものではない。図4(a)のように、製膜ガス放出部23の上流側に各製膜ガス供給部3から供給される製膜ガスを混合する混合部80を設け、共蒸着する際に、混合部80で混合した製膜ガスを製膜ガス放出部23に供給してもよい。また、図4(b)のように、各製膜ガスを二段階に混合してもよい。すなわち、各製膜ガス供給部3d,3eと製膜ガス放出部23の間に混合部81を設け、さらに製膜ガス放出部23内で別の製膜ガス供給部3b,3cと混合してもよい。
【0061】
上記した実施形態では、気化室50は、鉛直方向に延びた鉛直配管部のみで構成されていたが、本発明はこれに限定されるものではない。気化室50は、鉛直配管部を含んでいれば、鉛直配管部の上流側及び鉛直配管部の下流側の部位の延び方向は鉛直方向でなくてもよい。
【0062】
上記した実施形態では、製膜部2は一つの製膜室20で構成されていたが、本発明はこれに限定されるものではない。製膜部2は複数の製膜室20で構成されていてもよい。複数の製膜室20を設け、一つの気化装置30から各製膜室20に製膜ガスを供給することで、各製膜室20で同時に基材100の製膜を進めることができ、生産性を向上できる。
【0063】
上記した実施形態では、材料供給部40から材料供給経路43に対して薄膜形成材料とともに第1キャリアガスを供給していたが、本発明はこれに限定されるものではない。材料供給部40から材料供給経路43に対して薄膜形成材料のみを供給してもよい。
【0064】
上記した実施形態は、本発明の技術的範囲に含まれる限り、各実施形態間で各構成部材を自由に置換や付加できる。
【符号の説明】
【0065】
1 蒸着装置
2 製膜部
3,3a~3c 製膜ガス供給部
21 基材保持部
23 製膜ガス放出部
30 気化装置
31 キャリアガス供給部
40 材料供給部
50 気化室(鉛直配管部)
51a 低温側加熱部材(加熱部)
51b 高温側加熱部材(加熱部)
52 層乱変換部材(層乱変換部)
60 内部空間
100 基材
図1
図2
図3
図4