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特開2024-121626インクジェットインク組成物、炭化物の製造方法、及び記録方法
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  • 特開-インクジェットインク組成物、炭化物の製造方法、及び記録方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121626
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】インクジェットインク組成物、炭化物の製造方法、及び記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/324 20140101AFI20240830BHJP
   C09C 1/44 20060101ALI20240830BHJP
   C09C 1/56 20060101ALI20240830BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240830BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240830BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20240830BHJP
【FI】
C09D11/324
C09C1/44
C09C1/56
B41M5/00 120
B41M5/00 100
B41J2/01 501
C09D11/322
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028829
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100080953
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 克郎
(72)【発明者】
【氏名】菊池 健太
(72)【発明者】
【氏名】粂田 宏明
(72)【発明者】
【氏名】青山 哲也
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J037
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FA13
2C056FC01
2H186AB05
2H186BA08
2H186DA12
2H186FB11
2H186FB13
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB55
2H186FB58
4J037AA01
4J037BB12
4J037CC01
4J037DD24
4J037EE33
4J037EE43
4J037FF28
4J039BC09
4J039BC10
4J039BC11
4J039BE12
4J039BE22
4J039CA05
4J039EA44
4J039EA45
4J039EA46
4J039FA01
4J039FA02
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】異物抑制性及び吐出安定性に優れる水系インクジェットインク組成物を提供する。
【解決手段】水系のインクジェットインク組成物であって、天然物由来の炭化物と、分散剤と、水溶性有機溶剤と、を含有し、炭化物は、処理前炭化物に錯体分離処理及び酸溶解処理を行って得られる炭化物であり、錯体分離処理が、処理前炭化物とキレート剤とを混合し、得られた錯体物を除去する処理であり、酸溶解処理が、処理前炭化物と酸とを混合し、得られた水溶性塩を除去する処理である、インクジェットインク組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系のインクジェットインク組成物であって、
天然物由来の炭化物と、分散剤と、水溶性有機溶剤と、を含有し、
前記炭化物は、処理前炭化物に錯体分離処理及び酸溶解処理を行って得られる炭化物であり、
前記錯体分離処理が、前記処理前炭化物とキレート剤とを混合し、得られた錯体物を除去する処理であり、
前記酸溶解処理が、前記処理前炭化物と前記酸とを混合し、得られた水溶性塩を除去する処理である、
インクジェットインク組成物。
【請求項2】
前記炭化物は、前記錯体分離処理の後に前記酸溶解処理を経た炭化物である、
請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項3】
前記錯体分離処理において、前記処理前炭化物と前記キレート剤との混合を水系溶液中で行い、かつ、
前記キレート剤が、アミノカルボン酸系キレート剤を含む、
請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項4】
前記酸溶解処理において、前記処理前炭化物と前記酸との混合を水系溶液中で行い、かつ、
前記酸が、硝酸を含む、
請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項5】
前記炭化物は、植物由来の炭化物を含む、
請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項6】
前記処理前炭化物の体積平均粒子径D50が、0.5μm以上100μm以下である、
請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項7】
P、S、Si、Cl、Mg、Al、K、Na、Ca、Cr、Ti、Mn、Fe、Ni、及びCuからなる群より選ばれる1種以上の元素Aを含み、
前記元素Aの含有量が、前記炭化物の全量に対し、10質量ppm以上5000質量ppm以下である、
請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項8】
前記分散剤は、リグニン化合物を含む、
請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のインクジェットインク組成物に用いられる炭化物の製造方法であって、
処理前炭化物に、錯体分離処理を行う工程と酸溶解処理を行う工程と、を含み、
前記錯体分離処理は、前記処理前炭化物とキレート剤とを混合し、得られた錯体物を除去する処理であり、
前記酸溶解処理は、前記処理前炭化物と酸とを混合し、得られた水溶性塩を除去する処理である、
炭化物の製造方法。
【請求項10】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のインクジェットインク組成物を、インクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させる工程を含む、
記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク組成物、炭化物の製造方法、及び記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、比較的単純な装置で、高精細な画像の記録が可能であり、各方面で急速な発展を遂げている。その中でも、近年は、環境問題が懸念されており、天然物由来の材料を用いることで環境問題に配慮したインクの開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、水と、植物由来の炭化色材と、リグニン樹脂と、を含む、インクジェットインク組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-167623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インクに用いる天然物由来の材料としては、例えば、竹炭、木炭などの植物炭が挙げられる。
これらの炭化物を顔料としてインクに用いる場合には、異物の発生及び吐出不良が発生し得る。上記の点において、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のインクジェットインク組成物は、水系のインクジェットインク組成物であって、天然物由来の炭化物と、分散剤と、水溶性有機溶剤と、を含有し、前記炭化物は、処理前炭化物に錯体分離処理及び酸溶解処理を行って得られる炭化物であり、前記錯体分離処理が、前記処理前炭化物とキレート剤とを混合し、得られた錯体物を除去する処理であり、前記酸溶解処理が、前記処理前炭化物と酸とを混合し、得られた水溶性塩を除去する処理である。
【0007】
本発明の記録方法は、上記のインクジェットインク組成物に用いられる炭化物の製造方法であって、処理前炭化物に、錯体分離処理を行う工程と酸溶解処理を行う工程と、を含み、前記錯体分離処理は、前記処理前炭化物とキレート剤とを混合し、得られた錯体物を除去する処理であり、前記酸溶解処理は、前記処理前炭化物と酸とを混合し、得られた水溶性塩を除去する処理である。
【0008】
本発明の記録方法は、上記のインクジェットインク組成物を、インクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させる工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の記録方法で用いる記録装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0011】
1.インクジェットインク組成物
本実施形態に係るインクジェットインク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう。)は、水系のインクジェットインク組成物であって、天然物由来の炭化物と、分散剤と、水溶性有機溶剤と、を含有し、炭化物は、処理前炭化物に錯体分離処理及び酸溶解処理を行って得られる炭化物であり、錯体分離処理が、処理前炭化物とキレート剤とを混合し、得られた錯体物を除去する処理であり、酸溶解処理が、処理前炭化物と酸とを混合し、得られた水溶性塩を除去する処理である。
【0012】
近年、環境問題への配慮から、インクに用いる天然由来の色材として、竹炭、木炭等の植物炭を顔料とするブラックインクが検討されている。従来石油由来の顔料の一種であるカーボンブラックは不純物として含む金属の量が少ない一方で、植物に由来する色材の場合、特段の処理をしなければ金属が不可避的に含まれ得る。インク組成物中に不要な金属が混入すると、分散安定性が損なわれて異物が生じたり、さらに、ノズル抜けなどが生じ吐出安定性が低下したりする問題があることがわかってきた。
【0013】
本実施形態に係るインク組成物は、上記構成を含むことで、不純物金属を効率的に除去することができ、異物抑制性及び吐出安定性に優れる。
【0014】
以下、本実施形態に係るインク組成物において、含まれ得る成分、物性及び製造方法について説明する。
【0015】
1.1.天然物由来の炭化物
インク組成物は、天然物由来の炭化物を含む。天然物由来の炭化物は色材として用いられてもよい。インク組成物は、天然物由来の炭化物以外の色材を含んでいてもよい。
天然物由来の炭化物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0016】
天然物由来の炭化物の含有量は、特に限定されず、例えば、インク組成物の総量に対し、1.0質量%以上30質量%以下である。インク組成物の異物抑制性及び吐出安定性を一層向上させる観点から、天然物由来の炭化物の含有量は、インク組成物の総量に対し、2.0質量%以上20質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、4.0質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0017】
天然物由来の炭化物の累積度50%に対応する体積平均粒子径D50は、特に限定されず、例えば、0.1μm以上1000μm以下であってもよい。インク組成物の異物抑制性及び吐出安定性を向上する観点から、天然物由来の炭化物の体積平均粒子径D50は、0.3μm以上500μm以下であることが好ましく、0.5μm以上100μm以下であることがより好ましく、0.5μm以上50μm以下であることがさらに好ましく、0.5μm以上25μm以下であることがよりさらに好ましい。
【0018】
本実施形態の体積平均粒子径は、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定することができる。または動的及び電気泳動光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定することができる。このような粒度分布測定装置としては、例えば、周波数解析法としてホモダイン光学系を採用した大塚電子株式会社製の「ELSZ-2000ZS」(商品名)等が挙げられる。なお、本実施形態において、天然物由来の炭化物の平均粒子径は、インク組成物の平均粒子径を測定することにより測定してもよいものとする。
【0019】
1.1.1.植物由来の炭化物
天然物由来の炭化物は、植物由来の炭化物(本明細書において、植物炭ともいう。)を含むことが好ましい。植物由来の炭化物としては、特に限定されず、例えば、備長炭、竹炭、活性炭、白炭、黒炭、成形木炭、オガ炭、梅炭、活性炭、樫炭、米松炭、海藻炭、マングローブ炭、ヤシガラ炭、植物油ベースカーボンブラック等を用いることができる。なお、本実施形態において、「天然物由来」とは、石油や石炭由来ではなく、動植物由来であることをいう。
インク組成物の異物抑制性及び吐出安定性を一層向上させる観点から、植物由来の炭化物は、備長炭、オガ炭、又は植物油ベースカーボンブラックの少なくとも1種が好ましい。
【0020】
本明細書において、「天然物由来の炭化物」とは、動植物を高温条件下で処理し、炭化した炭化物であってもよい。ここで、「高温条件」としては、植物を炭化させられる条件であれば特に限定されない。例えば竹、木等の植物を灰とすることが可能な「炭焼き」として知られる250℃以上の高温条件、未炭化成分が消失するとされる350℃以上の高温条件、或いは炭窯等を用いた700℃以上の高温条件を採用することができる。
【0021】
1.1.1.1.元素A
インク組成物は、P、S、Si、Cl、Mg、Al、K、Na、Ca、Cr、Ti、Mn、Fe、Ni、及びCuからなる群より選ばれる1種以上の元素Aを含んでもよい。
元素Aは、化合物の状態で存在していても、イオンの状態で存在していても、単体の状態で存在していてもよい。このなかでも、水溶性塩やイオンなどの状態で存在することが好ましい。なお、インク組成物に含まれる元素Aは、炭化物由来のものであってもよく、その他の成分に由来するものであってもよく、インク組成物の調製する工程において添加したものであってもよい。
【0022】
上記元素Aの含有量は、炭化物の全量に対し、1質量ppm以上5000質量ppm以下であることが好ましい。元素Aの含有量が上記範囲内にあることにより、インク組成物の異物抑制性及び吐出安定性に優れる。
同様の観点から、上記元素Aの含有量は、炭化物の全量に対し、5質量ppm以上3800質量ppm以下であることがより好ましく、10質量ppm以上3300質量ppm以下であることがさらに好ましく、25質量ppm以上1300質量ppm以下であることが特に好ましく、50質量ppm以上1000質量ppm以下であることがより一層好ましい。
【0023】
インク組成物における元素Aの質量を調べる方法としては、特に限定されず、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)等が挙げられる。本実施形態のインク組成物においては、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)が好ましい。
【0024】
1.1.2.炭化物の製造方法
本実施形態のインクジェットインク組成物に用いられる炭化物の製造方法は、処理前炭化物に、錯体分離処理を行う工程と酸溶解処理を行う工程と、を含み、錯体分離処理は、処理前炭化物とキレート剤とを混合し、得られた錯体物を除去する処理であり、酸溶解処理は、処理前炭化物と酸とを混合し、得られた水溶性塩を除去する処理である。
【0025】
1.1.2.1.天然物由来の炭化物の精製
上記炭化物は、処理前炭化物に錯体分離処理及び酸溶解処理を行って得られる炭化物(以下、「処理済炭化物」ともいう。)であり、錯体分離処理が、処理前炭化物とキレート剤とを混合し、得られた錯体物を除去する処理であり、酸溶解処理が、処理前炭化物と酸とを混合し、得られた水溶性塩を除去する処理である。
【0026】
例えば、植物には、植物の生育に必要な金属(ミネラル)成分が含まれているため、植物由来の炭化物にも多様な金属成分が含まれ得る。よって、インク組成物に含まれる天然物由来の炭化物は、上記錯体分離処理及び酸溶解処理により精製されることで、インク組成物に含まれる元素Aを所定の範囲内に調整することが可能になる。
【0027】
天然物由来の炭化物は、処理前炭化物が錯体分離処理の後に酸溶解処理を経た処理済炭化物であることが好ましい。
この理由は、特に限定されないが、酸溶解処理は水不溶性塩の除去に優れる一方で、処理前炭化物を凝集しやすい。処理前炭化物が凝集すると、凝集物内部に残留した水溶性塩やイオン及び水不溶性塩が取り除きにくくなる。一方で、錯体分離処理では処理前炭化物を凝集させずに、水溶性塩やイオンを除去することができる。そのため、先に、錯体分離処理を行って水溶性塩やイオンを除去し、その後に、酸溶解処理を行って水不溶性塩を除去することで、酸溶解処理によって処理前炭化物が凝集するとしても、効率的に水溶性塩やイオン及び水不溶性塩を除去することが可能となり、精製効率がより向上する。また、その結果として、異物抑制性及び吐出安定性がより向上する傾向にある。
【0028】
以下各処理について詳説する。
【0029】
1.1.2.2.錯体分離処理
錯体分離処理は、処理前炭化物とキレート剤とを混合し、得られた錯体物を除去する処理である。処理前炭化物は元素Aなどを水溶性塩やイオン又は水不溶性塩などの形態で含み得る。錯体分離処理では、例えば、キレート剤と水溶性塩やイオンとを反応して錯体物を形成し、その錯体物を炭化物と分離する。これによって、処理前炭化物から水溶性塩やイオンを除去することができ、精製された炭化物を得ることができる。
【0030】
処理前炭化物とキレート剤との混合は、水系溶液中で行ってもよい。錯体分離処理において用いる水系溶液は、水を主溶剤とした溶液であり、必要に応じて水溶性有機溶剤が添加されてもよいし、塩基や酸などの他の成分が添加されていてもよい。例えば、水系溶液には、キレート剤の種類に応じて、pHを調製するための塩基や酸が添加されてもよい。一例として、錯体分離処理中における炭化物の増粘や凝集を抑制し、錯体物の分離処理効率を向上する観点から、水系溶液は塩基性条件下であることが好ましい。具体的には、水系溶液としてNaOH水溶液を使用してもよい。
【0031】
処理前炭化物とキレート剤との混合温度は、好ましくは、20℃以上100℃以下であり、40℃以上95℃以下であり、60℃以上95℃以下である。また、混合時間は、好ましくは、1時間以上12時間以下であり、2時間以上10時間以下であり、3時間以上8時間以下である。
【0032】
炭化物とキレート剤との混合液からの錯体物の除去方法は、特に限定されないが、例えば、濾別や遠心分離などの公知の固液分離方法を用いることができる。このとき、錯体分離処理された炭化物は固体として分取され、錯体物は液体に溶解した状態で分離されてもよい。また、錯体分離処理された炭化物は分離後に、純水などによって一又は複数回洗浄されてもよい。また、塩基や酸を添加した場合には、洗浄の際に中和処理を行ってもよい。
【0033】
錯体分離処理においては、処理前炭化物とキレート剤との混合と、得られた錯体物の除去を一サイクルとして、一又は複数サイクルの処理を実行してもよい。
【0034】
なお、上述した試薬の種類、質量比、加熱温度、加熱時間、サイクル数等を調整することで、精製後の炭化物における元素Aの量を適宜調整することが可能である。
【0035】
処理前炭化物としては、錯体分離処理及び酸溶解処理を行う前のものであれば、特に制限なく用いることができる。
【0036】
処理前炭化物の体積平均粒子径D50は、水溶性塩やイオンの除去性、並びに、異物抑制性及び吐出安定性に優れる観点から、好ましくは、0.1μm以上1000μm以下であり、0.3μm以上500μm以下であり、0.5μm以上100μm以下であり、0.5μm以上50μm以下であり、0.5μm以上25μm以下である。
【0037】
1.1.2.2.1.キレート剤
キレート剤としては、特に限定されず、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エデト酸二塩、ニトリロ三酢酸(NTA)、メチルグリシン二酢酸(MGDA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、グルタミン酸二酢酸(GLDA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、1,3-プロパンジアミン四酢酸(PDTA)、1,3-ジアミノ-2-ヒドロキシプロパン六酢酸(DPTA-OH)、アスパラギン酸二酢酸(ASDA)、エチレンジアミンコハク酸(EDDS)等のアミノカルボン酸系キレート剤;ピロリン酸塩、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)、ニトリロトリメチレンホスホン酸(NTMP)、ホスホノブタントリカルボン酸(PBTC)、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTMP)等のホスホン酸系キレート剤;ヘキサメタリン酸塩、トリポリリン酸等のリン酸系キレート剤;クエン酸、酒石酸、グルコン酸等のヒドロキシカーボネート系キレート剤が挙げられる。なお、キレート剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
このなかでも、アミノカルボン酸系キレート剤が好ましく、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)がより好ましい。このようなキレート剤を用いることにより、処理前炭化物が含む水溶性塩やイオンの除去性、並びに、異物抑制性及び吐出安定性がより向上する傾向にある。
【0039】
キレート剤の含有量は、特に限定されず、例えば、処理前炭化物100質量部に対し、1.0質量部以上20.0質量部以下であることが好ましい。処理前炭化物が含む水溶性塩やイオンの除去性、インク組成物の異物抑制性及び吐出安定性を一層向上させる観点から、キレート剤の含有量は、処理前炭化物100質量部に対し、3.0質量部以上15.0質量部以下であることがより好ましく、5.0質量部以上10.0質量部以下であることがさらに好ましい。
【0040】
1.1.2.3.酸溶解処理
酸溶解処理が、処理前炭化物と酸とを混合し、得られた水溶性塩を除去する処理である。処理前炭化物は元素Aなどを水溶性塩やイオン又は水不溶性塩などの形態で含みうる。酸溶解処理では、例えば、酸により水不溶性塩を溶解して水溶性塩を形成し、その水溶性塩を炭化物と分離する。これによって、処理前炭化物から水不溶性塩を除去することができ、精製された炭化物を得ることができる。
【0041】
酸溶解処理において、処理前炭化物と酸との混合は、水系溶液中で行うことが好ましい。酸溶解処理において用いる水系溶液は、水を主溶剤とした溶液であり、必要に応じて水溶性有機溶剤が添加されてもよいし、他の成分が添加されていてもよい。
【0042】
処理前炭化物とキレート剤との混合温度は、好ましくは、20℃以上100℃以下であり、40℃以上90℃以下であり、50℃以上80℃以下である。また、混合時間は、好ましくは、1時間以上12時間以下であり、2時間以上10時間以下であり、3時間以上8時間以下である。
【0043】
炭化物と酸との混合液からの水溶性塩の除去方法は、特に限定されないが、例えば、濾別、遠心分離、フィルタープレスなどの公知の固液分離方法を用いることができる。このとき、酸溶解処理された炭化物は固体として分取され、水溶性塩は液体に溶解した状態で分離されてもよい。また、酸溶解処理された炭化物は分離後に、純水などによって一又は複数回洗浄されてもよい。また、洗浄の際に中和処理を行ってもよい。
【0044】
酸溶解処理においては、処理前炭化物と酸との混合と、得られた水溶性塩の除去を一サイクルとして、一又は複数サイクルの処理を実行してもよい。
【0045】
なお、上述した試薬の種類、質量比、加熱温度、加熱時間、サイクル数等を調整することで、精製後の炭化物における元素Aの量を適宜調整することが可能である。
【0046】
1.1.2.3.1.酸
酸としては、特に制限なく用いることができる。例えば、硝酸、硫酸、ケイ酸、塩酸、次亜塩素酸、過酸化水素等が挙げられる。上記の中でも、酸としては、精製の精度に優れる観点から、硝酸が好ましい。このような酸を用いることにより、処理前炭化物が含む水不溶性塩の除去性、並びに、異物抑制性及び吐出安定性がより向上する傾向にある。
【0047】
酸の含有量は、特に限定されず、例えば、処理前炭化物100質量部に対し、0.01質量部以上5.0質量部以下であることが好ましい。処理前炭化物が含む水不溶性塩の除去性、インク組成物の異物抑制性及び吐出安定性を一層向上させる観点から、酸の含有量は、処理前炭化物100質量部に対し、0.05質量部以上3.0質量部以下であることがより好ましく、0.1質量部以上1.0質量部以下であることがさらに好ましい。
【0048】
1.1.3.その他の色材
インク組成物は、植物由来の炭化物以外の色材を含んでいてもよい。すなわち、植物由来の炭化物以外の植物由来の色材、動物由来の色材、合成色材等を含むことを妨げない。
植物由来の炭化物以外の植物由来の色材としては、例えば、アントシアニン系色素、カロチノイド系色素、キノン系色素、フラボノイド系色素、ベタイン系色素等が挙げられる。また、動物由来の色材としては、例えば、イカ墨(セピア)、コチニール、チリアンパープル等が挙げられる。さらに、合成色材としては、例えば、イソインドリノン、ジケトピロロピロール、キナクリドン、ジオキサジン、フタロシアニン等が挙げられる。環境問題への配慮の観点からは、インク組成物が植物由来の炭化物以外の色材として、植物由来の色材、又は動物由来の色材から選ばれるものを含むことが好ましく、植物由来の色材を含むことがより好ましい。
【0049】
また、インク組成物において、植物由来の炭化物以外の色材の含有量は、特に限定されず、例えば、インク組成物の総量に対し、0質量%以上10質量%以下であり、好ましくは0質量%以上8.0質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上7.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.3質量%以上5.0質量%以下である。
【0050】
1.2.分散剤
本実施形態のインク組成物は、分散剤を含有する。分散剤は、リグニン化合物を含むことが好ましい。また、分散剤としては、従来公知の高分子分散剤などを使用してもよい。
インク組成物がリグニン化合物を含むことにより、植物由来の炭化物がインク組成物中に安定に分散し、インク組成物の吐出安定性の向上に寄与する。その要因は明らかではないが、リグニン化合物及びその誘導体は、多価の金属イオンを捕捉し錯体を形成しやすい。そのため、インク組成物中の金属成分と複数のリグニン化合物とが結合した上で、植物炭表面にリグニン化合物及びその誘導体が安定的に被覆することにより、分散安定性をより向上することができ、保存安定性も向上すると推察される。インク組成物中においてリグニン化合物は、金属成分と錯体を形成していてもよい。
【0051】
リグニン化合物は、リグニンスルホン酸塩を含むことが好ましい。
リグニンスルホン酸塩としては、リグニン又はリグニン分解物であって、少なくとも1つのスルホン基を有するものであれば特に限定されず、リグニンスルホン酸塩及びその誘導体を含む。リグニンスルホン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、リグニンスルホン酸ナトリウム塩、リチウム、カリウム等のリグニンスルホン酸アルカリ金属塩、リグニンスルホン酸アンモニウム塩が挙げられる。また、リグニンスルホン酸塩は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0052】
リグニンスルホン酸塩の重量平均分子量は、例えば、1000以上80000以下であってもよい。インク組成物の異物抑制性及び吐出安定性を一層向上させる観点から、リグニンスルホン酸塩の重量平均分子量は、3000以上70000以下であることが好ましく、5000以上60000以下であることがより好ましく、10000以上50000以下であることがさらに好ましく、15000以上40000以下であることがよりさらに好ましく、20000以上35000以下であることが特に好ましい。
【0053】
リグニンスルホン酸塩又はその誘導体としては、特に限定されず、例えば、製品名として、パールレックスNP(日本製紙株式会社製)、パールレックスDP(日本製紙株式会社製)、バニレックスN(日本製紙株式会社製)、471038-100G(シグマアルドリッチ社製)、ニューカルゲンWG-4(竹本油脂株式会社製)、サンエキスP252(日本製紙株式会社製)等が挙げられる。本発明のインク組成物による効果を一層向上させる観点から、リグニンスルホン酸塩としては、パールレックスNP、バニレックスN、パールレックスDP、471038-100G、ニューカルゲンWG-4、及びサンエキスP252が好ましく、パールレックスNP、バニレックスN、パールレックスDP、471038-100G、及びニューカルゲンWG-4がより好ましい。
【0054】
リグニンスルホン酸塩又はその誘導体としては、精製された高純度のものを用いることが好ましい。精製済みの高純度リグニンスルホン酸塩を用いることにより、炭化物のキレート化を促進し、インク組成物の異物抑制性及び吐出安定性の向上を図ることができる。
【0055】
炭化物の含有量(B)に対する、リグニン化合物の含有量(C)の比(C/B)は、特に限定されず、例えば、0.2以上4.2以下であってもよい。インク組成物の吐出安定性を向上させる観点から、上記含有量の比(C/B)は、0.3以上3.5以下であることが好ましく、0.5以上3.0以下であることがより好ましく、0.7以上2.5以下であることがさらに好ましく1.0以上2.0以下あることがよりさらに好ましい。
【0056】
リグニン化合物の含有量は、特に限定されず、例えば、インク組成物の総量に対し、0.1質量%以上40質量%以下であってもよい。本発明による効果を一層有効かつ確実に奏する観点から、リグニン化合物の含有量は、インク組成物の総量に対し、0.3質量%以上35質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上25質量%以下であることがさらに好ましく、3.0質量%以上18質量%以下であることがより一層好ましい。
【0057】
1.3.水
本実施形態のインク組成物は、水を含む水系インク組成物である。水系インク組成物は、インクの主要な溶媒成分として少なくとも水を含むインク組成物である。
【0058】
水の含有量は、インクの総量に対して、好ましくは、30質量%以上90質量%以下であり、40質量%以上85質量%以下であり、50質量%以上80質量%以下である。
水の含有量が上記の値以上であることにより、水の一部が蒸発した際でもインクの粘度上昇が抑制され、沈降性が抑制される傾向にある。また、水の含有量が上記の値以下であることにより、カールがより抑制される傾向にある。
【0059】
1.4.水溶性有機溶剤
本実施形態のインク組成物は、水溶性有機溶剤を含有する。インク組成物が水溶性有機溶剤を含有することにより、保存安定性が一層向上する傾向にある。なお、水溶性有機溶剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0060】
水溶性有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、グリセリン、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキシレングリコール等が挙げられる。このなかでも、保湿効果という観点から、グリセリンが好ましい。なお、水溶性有機溶剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0061】
水溶性有機溶剤の含有量は、特に限定されず、例えば、インク組成物の総量に対し、1.0質量%以上50質量%以下である。本発明による効果を一層有効かつ確実にする観点から、水溶性有機溶剤の含有量は、インク組成物の総量に対し、3.0質量%以上40質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、8.0質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0062】
1.5.界面活性剤
本実施形態のインク組成物は、好ましくは、界面活性剤を含む。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤が挙げられる。このなかでも、インク組成物の保存安定性の観点からは、アセチレングリコール系界面活性剤が好ましい。なお、界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0063】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物から選択される一種以上が好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、オルフィン104シリーズやオルフィンE1010等のEシリーズ(エアープロダクツ社製商品名)、サーフィノール61、104、465(日信化学工業社製商品名)などが挙げられる。このなかでも、本発明の効果を一層有効かつ確実に奏する観点から、界面活性剤としてオルフィンE1010を含むことが好ましい。
【0064】
界面活性剤の含有量は、特に限定されず、例えば、インク組成物の総量に対し、0.01質量%以上5.0質量%以下である。界面活性剤の含有量は、好ましくは、インク組成物の総量に対し、0.05質量%以上3.0質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上1.0質量%以下である。
【0065】
1.6.インクジェットインク組成物の製造方法
本実施形態のインクジェットインク組成物の製造方法は、特に限定されず、処理前炭化物に錯体分離処理及び酸溶解処理を行って得られる天然物由来の炭化物と、分散剤と、水溶性有機溶剤と、を混合する方法が挙げられる。なお、分散剤は、精製済みものを用いてもよいし、未精製のものを用いてもよい。
【0066】
2.記録方法
本実施形態の記録方法は、本実施形態のインクジェットインク組成物を、インクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させる吐出工程を含む。
本実施形態に係るインクジェット方法は、さらに、記録媒体を搬送する搬送工程を含んでもよい。なお、吐出工程と搬送工程は同時に行ってもよいし、交互に行ってもよい。
【0067】
2.1.吐出工程
吐出工程では、インクジェットヘッドからインクを吐出して記録媒体に付着させる。より具体的には、インクジェットヘッド内に設けられた圧力発生手段を駆動させて、インクジェットヘッドの圧力発生室内に充填されたインクをノズルから吐出させる。このような吐出方法をインクジェット法ともいう。
【0068】
吐出工程において用いるインクジェットヘッドとしては、ライン方式により記録を行うラインヘッドと、シリアル方式により記録を行うシリアルヘッドが挙げられる。
【0069】
ラインヘッドを用いたライン方式では、例えば、記録媒体の記録幅以上の幅を有するインクジェットヘッドを記録装置に固定する。そして、記録媒体を副走査方向(記録媒体の搬送方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録する。
【0070】
シリアルヘッドを用いたシリアル方式では、例えば、記録媒体の幅方向に移動可能なキャリッジにインクジェットヘッドを搭載する。そして、キャリッジを主走査方向(記録媒体の幅方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録する。
【0071】
2.2.搬送工程
搬送工程では、記録装置内で所定の方向に記録媒体を搬送する。より具体的には、記録装置内に設けられた搬送ローラーや搬送ベルトを用いて、記録装置の給紙部から排紙部へと記録媒体を搬送する。その搬送過程において、インクジェットヘッドから吐出されたインクが記録媒体に付着し、記録物が形成される。搬送は、連続的に行ってもよいし断続的に行ってもよい。
【0072】
2.3.記録媒体
本実施形態で用いる記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、吸収性又は非吸収性の記録媒体が挙げられる。
【0073】
吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、インクの浸透性が高い電子写真用紙などの普通紙、インクジェット用紙(シリカ粒子やアルミナ粒子から構成されたインク吸収層、あるいは、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドン(PVP)等の親水性ポリマーから構成されたインク吸収層を備えたインクジェット専用紙)から、インクの浸透性が比較的低い一般のオフセット印刷に用いられるアート紙、コート紙、キャスト紙等が挙げられる。
【0074】
非吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン等のプラスチック類のフィルムやプレート;鉄、銀、銅、アルミニウム等の金属類のプレート;又はそれら各種金属を蒸着により製造した金属プレートやプラスチック製のフィルム、ステンレスや真鋳等の合金のプレート;紙製の基材にポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン等のプラスチック類のフィルムを接着(コーティング)した記録媒体等が挙げられる。
【0075】
3.記録装置
本実施形態の記録装置は、インクジェットインク組成物を記録媒体に対して吐出するノズルを有するインクジェットヘッドと、記録媒体を搬送する搬送手段と、を備える。インクジェットヘッドは、インクが供給される圧力室と、インクを吐出するノズルと、を備える。また、搬送手段は、記録装置内に設けられた搬送ローラーや搬送ベルトから構成される。
【0076】
以下、本実施形態に係る記録装置について、図1を参照して説明する。なお、図1において示すX-Y-Z座標系はX方向が記録媒体の長さ方向、Y方向が記録装置内の搬送経路における記録媒体の幅方向、Z方向が装置高さ方向を示している。
【0077】
記録装置10は一例として、高速及び高密度の印刷が可能なライン型インクジェットプリンターである。記録装置10は、用紙等の記録媒体Pを収納する給送部12と、搬送部14と、ベルト搬送部16と、記録部18と、「排出部」としてのFd(フェイスダウン)排出部20と、「載置部」としてのFd(フェイスダウン)載置部22と、「反転搬送機構」としての反転経路部24と、Fu(フェイスアップ)排出部26と、Fu(フェイスアップ)載置部28とを備えている。
【0078】
給送部12は、記録装置10において装置下部に配置されている。給送部12は、記録媒体Pを収納する給送トレイ30と、該給送トレイ30に収納された記録媒体Pを搬送経路11に送り出す給送ローラー32とを備えている。
【0079】
給送トレイ30に収納された記録媒体Pは、給送ローラー32により搬送経路11に沿って搬送部14に給送される。搬送部14は、搬送駆動ローラー34と搬送従動ローラー36とを備えている。搬送駆動ローラー34は、図示しない駆動源により回転駆動される。搬送部14において、記録媒体Pは、搬送駆動ローラー34と搬送従動ローラー36との間に狭持(ニップ)されて搬送経路11の下流側に位置するベルト搬送部16へと搬送される。
【0080】
ベルト搬送部16は、搬送経路11において上流側に位置する第1ローラー38と、下流側に位置する第2ローラー40と、第1ローラー38及び第2ローラー40に回転移動可能に取り付けられた無端ベルト42と、第1ローラー38と第2ローラー40との間において無端ベルト42の上側区間42aを支持する支持体44とを備える。
【0081】
無端ベルト42は、図示しない駆動源により駆動された第1ローラー38または第2ローラー40により上側区間42aにおいて+X方向から-X方向に移動するように駆動される。このため、搬送部14から搬送された記録媒体Pは、ベルト搬送部16においてさらに搬送経路11の下流側に搬送される。
【0082】
記録部18は、ライン型のインクジェットヘッド48と、該インクジェットヘッド48を保持するヘッドホルダー46とを備えている。尚、該記録部18は、Y軸方向に往復移動するキャリッジにインクジェットヘッドが設けられたシリアル型のものであってもよい。インクジェットヘッド48は、支持体44に支持された無端ベルト42の上側区間42aと対向するように配置されている。インクジェットヘッド48は、無端ベルト42の上側区間42aにおいて記録媒体Pが搬送される際、記録媒体Pに向けてインクを吐出し、記録を実行する。記録媒体Pは、記録が行われつつベルト搬送部16により搬送経路11の下流側に搬送される。
【0083】
なお、「ライン型のインクジェットヘッド」とは、記録媒体Pの搬送方向と交差する方向に形成されたノズルの領域が、記録媒体Pの交差方向全体をカバー可能なように設けられ、ヘッド又は記録媒体Pの一方を固定し他方を移動させて画像を形成する記録装置に用いられるヘッドである。なお、ラインヘッドの交差する方向のノズルの領域は、記録装置が対応している全ての記録媒体Pの交差方向全体をカバー可能でなくてもよい。
【0084】
また、ベルト搬送部16の搬送経路11の下流側には、第1分岐部50が設けられている。第1分岐部50は、記録媒体PをFd排出部20またはFu排出部26へ搬送する搬送経路11と、記録媒体Pの記録面を反転させて再度記録媒体Pを記録部18に搬送する反転経路部24の反転経路52とに切り替え可能に構成されている。尚、第1分岐部50により反転経路52に切り替えられて搬送される記録媒体Pは、反転経路52における搬送過程において記録面が反転され、最初の記録面と反対側の面がインクジェットヘッド48と対向するように記録部18に再度搬送される。
【0085】
搬送経路11に沿って第1分岐部50の下流側には、さらに第2分岐部54が設けられている。第2分岐部54は、記録媒体PをFd排出部20へ向けて搬送し、または記録媒体PをFu排出部26へ向けて搬送するように記録媒体Pの搬送方向を切り替え可能に構成されている。
【0086】
第2分岐部54においてFd排出部20へ向けて搬送される記録媒体Pは、Fd排出部20から排出され、Fd載置部22に載置される。このとき、記録媒体Pの記録面は、Fd載置部22に対向するように載置される。また、第2分岐部54においてFu排出部26へ向けて搬送される記録媒体Pは、Fu排出部26から排出され、Fu載置部28に載置される。このとき、記録媒体Pの記録面は、Fu載置部28と反対側に向くように載置される。
【0087】
なお、上記では、ライン型のインクジェットヘッドを用いる場合の例について説明したが、本実施形態に係る記録装置は、シリアル型のインクジェットヘッドを用いるプリンタ(シリアルプリンタ)であってもよい。シリアルプリンタでは、記録媒体を搬送方向に搬送させつつ、インクジェットヘッドを当該搬送方向と交差する方向に移動させることにより、印刷が行われる。
【0088】
4.記録物
本実施形態の記録物は、記録媒体に、上記インク組成物を付着させて得られる。上記インク組成物が吐出安定性に優れるため、繰り返し記録を行う場合にも安定的に記録物を得ることができる。
【実施例0089】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0090】
1.処理済炭化物の調製
表1~表3において、処理前炭化物の種類、処理前炭化物に対して行った処理の種類と順序、各処理において用いた処理剤、及び処理後炭化物に含まれる元素Aの組成を示す。なお、表1~表3中、処理の欄における「-」は、当該処理を行わなかったことを意味する。また、表1~表3中、処理の欄において、Aは錯体分離処理を、Bは酸溶解処理をそれぞれ表す。
【0091】
1.1.処理A:錯体分離処理
錯体分離処理では、キレート剤として、EDTA(エチレンジアミン四酢酸塩)又はHEDP(1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸)を用いた。まず、処理前炭化物とキレート剤とを水中で混合し、90℃、4時間で攪拌を行い、その後、遠心分離で固液分離を行い、炭化物を回収した。この操作を1回繰り返し、錯体分離処理後の炭化物を得た。なお、表1に記載の炭化物2の調製では、上記操作は3回繰り返した。
【0092】
上記操作において、キレート剤としてEDTA(エチレンジアミン四酢酸塩)を用いた際には、水中に濃度0.5質量%となるように水酸化ナトリウムを添加した。
処理Aにおいて、精製分離処理後の炭化物に純水を加えてスラリーとして、NaOH溶液(濃度は酸のモル濃度と同じ値で調整してもよい)を滴下・混合して、pHが8~9になった点を終点とした。その後再び固液分離を実施して、炭化物を回収した。
【0093】
1.2.処理B:酸溶解処理
酸溶解処理では、硝酸又は塩酸を用いた。まず、処理前炭化物と酸とを水中で混合し、60℃、6時間で攪拌を行い、その後、遠心分離で固液分離を行い、炭化物を回収した。この操作を1回繰り返し、錯体分離処理後の炭化物を得た。
処理Bにおいて、精製分離処理後の炭化物に純水を加えてスラリーとして、硝酸溶液(濃度はアルカリのモル濃度と同じ値で調整してもよい)を滴下・混合して、pHが8~9になった点を終点とした。その後再び固液分離を実施して、炭化物を回収した。
【0094】
1.3.高温水蒸気処理
表3に記載の炭化物16においては、錯体分離処理及び酸溶解処理を行わず、水酸化ナトリウムを用いて高温水蒸気処理により精製処理を行った。具体的には、流通式反応筒に炭化物を充填して筒内を窒素で満たした。600℃に加熱された水蒸気を30分流通させた。反応筒内を室温まで冷却して、炭化物を回収した。
【0095】
1.4.測定方法
1.4.1.粒子径D50の測定
処理前炭化物の平均粒子径は、粒度分布測定器(ELSZ-1000、大塚電子株式会社製)により測定した。散乱強度分布基準でD50径を「D50粒子径」として表1~表3に示す。
【0096】
1.4.2.元素Aの質量分析
処理後炭化物における元素Aの質量分析は、ICP-OES(G8015AA,アジレント・テクノロジー株式会社製)により測定した。
【0097】
また、上述の元素Aの質量分析によって得られる処理後炭化物中の元素Aの総含有量を、以下の評価基準に従って評価した。結果は表1~表3に示す。
(評価基準)
AA:元素Aの総量が0質量ppm以上100質量ppm未満であった。
A :元素Aの総量が100質量ppm以上1000質量ppm未満であった。
B :元素Aの総量が1000質量ppm以上3000質量ppm未満であった。
C :元素Aの総量が3000質量ppm以上5000質量ppm未満であった。
D :元素Aの総量が5000質量ppm以上であった。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【0101】
表1~表3で使用した略号や製品成分の詳細は以下のとおりである。
[炭化物(色材)]
・備長炭(キリヤ化学株式会社製)
・オガ炭(奈良炭化工業株式会社製)
・植物油ベース カーボンブラック(Orion Engineered Carbons社製)
・粒状備長炭(奈良炭化工業株式会社製)
[炭化物以外の色材]
・PB-15:1(フタロシアニン)
[キレート剤]
・EDTA エチレンジアミン四酢酸塩
・HEDP 1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸
[酸]
・硝酸
・塩酸
[水蒸気賦活アルカリ添加剤]
・水酸化ナトリウム(1.0M)
【0102】
2.インク組成物の調製
表4~表6に記載の組成となるように、混合物用タンクに各成分を入れ、混合攪拌し、さらにメンブランフィルターでろ過することにより各例のインクジェットインク組成物を得た。
なお、表中の各例に示す各成分の数値は特段記載のない限り質量%を表す。また、表中において、色材の数値は、固形分の質量%を表す。
【0103】
表4~表6で使用した略号や製品成分の詳細は以下のとおりである。なお、高純度精製とは、精製済の化合物を言う。
[分散剤]
・精製リグニンスルホン酸Na(市販品)
[溶剤(水溶性有機溶剤)]
・プロピレングリコール(市販品)
・グリセリン(市販品)
[界面活性剤]
・オルフィンE1010(日信化学工業株式会社製)
【0104】
2.1.微量元素(元素A)の質量分析
インクにおける微量元素(元素A)の質量分析は、ICP-OES(G8015AA,アジレント・テクノロジー株式会社製)により測定した。元素Aの総含有量を表4~表6に示す。
【0105】
3.評価方法
3.1.異物抑制性
インクを10mLのガラス瓶に入れ、気液界面が存在する状態で、60℃の環境で5日間放置した。その後、金属メッシュフィルター(口径10μm)を用いてインクをろ過し、金属メッシュフィルター上に残留した固形物の1mm四方あたりの個数を数え、以下の評価基準に従って評価した。
(評価基準)
AA:1mm四方あたりの固形物の個数が5個未満であった。
A:1mm四方あたりの固形物の個数が5個以上20個未満であった。
B:1mm四方あたりの固形物の個数が20個以上30個未満であった。
C:1mm四方あたりの固形物の個数が30個以上50個未満であった。
D:1mm四方あたりの固形物の個数が50個以上であった。
【0106】
3.2.吐出安定性
インクをインク収容容器に充填し、60℃の環境で5日間放置した。その後、上記収容容器を、記録装置(PX-H6000、セイコーエプソン株式会社製)に装着し、インクを吐出し、普通紙に、横1440dpi、縦720dpiの解像度で、Duty100%でベタパターンの印字を実施した。なお、記録装置の動作環境は40℃、20RH%とした。連続で50枚の印字を実施した後のノズル抜けの本数を数えた。
なお、本明細書において、「Duty」とは、下記の式により算出される値である。
Duty(%)=実印字ドット数/(縦解像度×横解像度)×100
(式中、「実印時ドット数」は単位面積当たりの実印時ドット数であり、「縦解像度」及び「横解像度」はそれぞれ単位面積当たりの解像度である。また、「Duty100%」とは、単位画素当たりの単色の最大インク重量を意味する。)
(評価基準)
AA:ノズル抜け本数が0本であった。
A:ノズル抜け本数が1本以上9本以下であった。
B:ノズル抜け本数が10本以上19本以下であった。
C:ノズル抜け本数が20本以上29本以下であった。
D:ノズル抜け本数が30本以上であった。
【0107】
【表4】

【0108】
【表5】
【0109】
【表6】
【0110】
5.評価結果
表1~表6に示すとおり、水系のインクジェットインク組成物であって、天然物由来の炭化物と、分散剤と、水溶性有機溶剤と、を含有し、炭化物は、処理前炭化物に錯体分離処理及び酸溶解処理を行って得られる炭化物であるインク組成物を用いた実施例は、異物抑制性及び吐出安定性の評価が良好であった。そのため、実施例のインク組成物は異物抑制性及び吐出安定性に優れていた。
【0111】
これに対して、錯体分離処理及び酸溶解処理を行っていない炭化物12、酸溶解処理を行っていない炭化物13、錯体分離処理を行っていない炭化物14をそれぞれ用いた比較例1、比較例2、比較例3は、異物抑制性及び吐出安定性に劣っていた。
また、炭化物を含まない顔料15を用いた比較例4は、異物抑制性及び吐出安定性に劣っていた。この理由は、炭化物中の微量元素は少量であるものの、精製工程中で溶出した金属イオンが還元剤として働き、色材の化学結合を一部分解して不純物(つまり異物)が発生したためと考えられる。
錯体分離処理及び酸溶解処理を行わず、水酸化ナトリウムを用いて高温水蒸気処理により精製処理を行った炭化物16を用いた比較例5は、異物抑制性及び吐出安定性に劣っていた。この理由は、水蒸気処理で新たにOHなどの官能基が生成して分散剤の吸着阻害が起こり、かつ比表面積が増大して分散剤の枯渇が起こったために、分散性が低下し凝集異物が発生したためと考えられる。
【符号の説明】
【0112】
10…記録装置、11…搬送経路、12…給送部、14…搬送部、16…ベルト搬送部、18…記録部、20…Fd排出部、22…Fd載置部、24…反転経路部、26…Fu排出部、28…Fu載置部、30…給送トレイ、32…給送ローラー、34…搬送駆動ローラー、36…搬送従動ローラー、38…第1ローラー、40…第2ローラー、42…無端ベルト、42a…無端ベルトの上側区間、44…支持体、46…ヘッドホルダー、48…インクジェットヘッド、50…第1分岐部、52…反転経路、54…第2分岐部、56…排出ローラー対、64…排出駆動ローラー、68…駆動軸、76…載置面、78…凸状部、80…第1付勢部材、82…第2付勢部材、84、86…支持軸、P…記録媒体。
図1