(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121631
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】石材調建材パネル
(51)【国際特許分類】
C04B 41/71 20060101AFI20240830BHJP
E04F 13/08 20060101ALI20240830BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20240830BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
C04B41/71
E04F13/08 A
C04B28/02
C04B24/26 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028836
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】517302860
【氏名又は名称】鶴見 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】110000073
【氏名又は名称】弁理士法人プロテック
(74)【代理人】
【識別番号】100108051
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 生央
(72)【発明者】
【氏名】鶴見 伸二
【テーマコード(参考)】
2E110
4G028
4G112
【Fターム(参考)】
2E110AA02
2E110AA47
2E110AA48
2E110AA57
2E110AB04
2E110BA03
2E110BA04
2E110BB02
2E110CB02
2E110EA09
2E110GB16Z
2E110GB17Z
2E110GB24Z
2E110GB32Z
2E110GB45Z
4G028FA04
4G112PB30
(57)【要約】 (修正有)
【課題】(1)実用的な接着性・表面強度、不燃性、意匠性を兼ね備えた乾式建材パネルを提供する。(2)さらに、柔軟性のある基材を用いて、十分な曲げ性能及び不燃性を有し、非平面の壁面にも適用可能な乾式建材パネルを提供する。(3)さらに、それらの乾式建材パネル表面に石材調の装飾を施したものを提供する。
【解決手段】(1)セメントに水と酢酸ビニル系樹脂を所定範囲の割合で混合することにより、所望の接着性・表面強度、不燃性、意匠性を兼ね備えた建材パネルを作製できることを確認した。(2)セメントに水と酢酸ビニル系樹脂を所定範囲の割合で混合することにより、不燃性の柔軟性のある基材に塗布してもなお、所望の接着性・表面強度、不燃性、曲げ性能、意匠性を兼ね備えた建材パネルを作製できることを確認した。(3)これら建材パネル表面にUV印刷により石材調の装飾を施す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸カルシウム板からなるパネル基材と、
当該パネル基材上に形成された、下記の配合で混合された塗布材料が固化された厚さ0.1~3.0mmの塗布層とを有する建材パネルであって、
当該塗布層の上面に、UV印刷による石材調の装飾層を有する建材パネル。
セメント材料:700重量部
骨材:700重量部
水:290重量部
酢酸ビニル系樹脂からなるバインダー:116~174重量部
【請求項2】
石膏にガラス繊維を混入した芯材の表裏面付近において当該表裏面に沿ってガラス繊維不織布を埋設した可撓性を有する石膏ボードからなるパネル基材と、
当該パネル基材上に形成された、下記の配合で混合された塗布材料が固化された厚さ0.1~3.0mmの塗布層とを有する建材パネルであって、
当該塗布層の上面に、UV印刷による石材調の装飾層を有する建材パネル。
セメント材料:700重量部
骨材:700重量部
水:290重量部
酢酸ビニル系樹脂からなるバインダー:116~174重量部
【請求項3】
建材パネルの製造方法であって、
施工対象壁面に応じた所定寸法のケイ酸カルシウム板からなるパネル基材を準備し、
下記の配合で混合された塗布材料を混錬して、モルタル材料を作製し、
セメント材料:700重量部
骨材:700重量部
水:290重量部
酢酸ビニル系樹脂からなるバインダー:116~174重量部
前記パネル基材表面に前記モルタル材料を厚さ0.1~3.0mmで塗布し、乾燥させ、
当該塗布層の上面に、UV印刷により石材調の装飾を施し、
前記装飾後のパネルを所定寸法に切断し、
当該パネル上の塗布材が所定の接着性・表面強度を有することを検査し、
当該検査に合格したものを完成品として得る
建材パネルの製造方法。
【請求項4】
前記接着性・表面強度の検査は、完成品として得られた建材パネルを切断し、切断片に衝撃を与えた際の塗布材のこぼれ・剥がれの程度に基づくことを特徴とする請求項3に記載の建材パネルの製造方法。
【請求項5】
建材パネルの製造方法であって、
施工対象壁面に応じた所定寸法の、石膏にガラス繊維を混入した芯材の表裏面付近において当該表裏面に沿ってガラス繊維不織布を埋設した可撓性を有する石膏ボードからなるパネル基材を準備し、
下記の配合で混合された塗布材料を混錬して、モルタル材料を作製し、
セメント材料:700重量部
骨材:700重量部
水:290重量部
酢酸ビニル系樹脂からなるバインダー:116~174重量部
前記パネル基材表面に前記モルタル材料を厚さ0.1~3.0mmで塗布し、乾燥させ、
当該塗布層の上面に、UV印刷により石材調の装飾を施し、
前記装飾後のパネルを所定寸法に切断し、
当該パネル上の塗布材が所定の接着性・表面強度を有することを検査し、
当該パネルを所定の曲率半径で曲げた際に、当該パネル上の塗布材が所定の曲げ性能を有することを検査し、
当該2つの検査に合格したものを完成品として得る
建材パネルの製造方法。
【請求項6】
前記接着性・表面強度の検査は、完成品として得られた建材パネルを切断し、切断片に衝撃を与えた際の塗布材のこぼれ・剥がれの程度に基づくものであり、
前記曲げ性能の検査は、完成品として得られた建材パネルを所定の曲率半径まで曲げた際の塗布材表面のひび割れ、脱落、欠けの程度に基づくものであることを特徴とする請求項5に記載の建材パネルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パネル状の基材の表面にセメント、樹脂等からなる塗り材を塗布した建材パネルに関するものである。さらには、その建材パネル表面に石材調の装飾を施した建材パネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物の壁面は、セメントに骨材、砂、水等を混合したスラリー状のモルタルを塗布(左官工事)し、自然乾燥させる工法が一般的であった(湿式工法)。
一方で、所定寸法の板状部材の表面に予めこれらを塗布して乾燥・固定させた乾式建材パネル(装飾パネル)を現場に持ち込んで施工する工法も採用されている。建材表面が塗り上がった状態で製品として流通するため、湿式工法に比べると外壁内壁問わず施工が容易で施工期間が短いという利点、並びに、建材表面の仕上り具合が施工前に確認できるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
乾式建材パネルには、以下の2つないし3つの性能が求められる。
(A)接着性・表面強度
パネル基材とその上に塗られる材料との接着性(剥がれにくさ)と、塗布した表面にひび割れ、脱落、欠けなどが生じないような表面強度とが必要とされる。運搬・施工時に受ける振動等にも耐え得る接着性・表面強度が求められる。パネル基材の材質と必要な接着性・表面強度の程度に応じて、無機材料・有機材料のバインダーを適宜選定して利用する。
(B)不燃性
パネル基材及び塗布材料からなる建築材料として、可能な限り高い不燃性を有することが望ましく、法令等に規定する不燃材料、防火材料といった基準に適合することは尚好ましい。
上記(A)、(B)は、建材として必須の性能である。しかしながら、接着性・表面強度に優れる有機材料のバインダーを用いると不燃性が低下するというトレードオフの関係にある。また、これらの性能を保ちつつ、建材パネル表面の外観、意匠性を損なわないことも商品としては重要である。
(C)曲げ性能
平らな壁面のみならず、曲がった壁面にもモルタル仕上げを要する場合がある。この場合、あらかじめ施工する壁面に合った湾曲形状のパネル基材を用意して乾式建材パネルを作製することは技術的に可能であるが、採寸の精度や加工の手間といった問題から実用的な方法ではなかった。一方、柔軟性のある基材を用いて建材パネルを作製し、施工現場で壁面に沿った形状に湾曲させて施工する方法が考えられるが、塗布材料の接着性・表面強度が十分でないと、湾曲させた際に塗布したモルタルにひび割れ、脱落、欠けなどが生じてしまう恐れがある。これを防ぐためにバインダーを増量すれば、不燃性が低下するというトレードオフがある。また、パネル基材として、柔軟性がありかつ不燃性を有する材料はこれまで知られていなかった。
【0005】
そこで、本発明は、以下の課題を解決することを目的とする。
(1)実用的な接着性及び表面強度、不燃性、意匠性を兼ね備えた乾式建材パネルを提供する。
(2)さらに、柔軟性のあるパネル基材を用いて、十分な曲げ性能及び不燃性を有し、非平面の壁面にも適用可能な乾式建材パネルを提供する。
(3)さらに、上記(1)、(2)の乾式建材パネル表面に石材調の装飾を施したものを提供する。石材調の建材パネルを提供するには、パネル基材に本石や擬石を薄くスライスしたものを貼り合わせる方法があるが、重量がかさむ上、強力な接着剤が必要なため不燃性を損なってしまう。パネル基材に石材調のセラミックシート、塩化ビニルシートなどを貼付する方法もあるが、本石より風合いが大幅に劣ってしまう。そこで、石材調の良好な風合いと不燃性を兼ね備えた石材調の建材パネルを提供する方法を模索した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記3つの課題を解決するため、本発明者は以下の知見を得た。
(1)セメントに水と酢酸ビニル系樹脂(酢酸ビニルエチレン共重合体;Ethylene-vinyl acetate, EVA)を所定範囲の割合で混合することにより、所望の接着性・表面強度、不燃性、意匠性を兼ね備えた建材パネルを作製できることを確認した。
(2)セメントに水と酢酸ビニル系樹脂(酢酸ビニルエチレン共重合体;Ethylene-vinyl acetate, EVA)を所定範囲の割合で混合することにより、不燃性の柔軟性のある基材に塗布してもなお、所望の接着性・表面強度、不燃性、曲げ性能、意匠性を兼ね備えた建材パネルを作製できることを確認した。
(3)また、上記(1)、(2)で作製した乾式建材パネル表面にUV印刷(紫外線硬化性インクを用いた印刷)で石材調の装飾を施すことで、本石を用いた場合に劣らない風合いを有し、かつ、軽量で不燃性ある石材調の建材パネルを簡単な工程で作製できることを確認した。
以下に、具体的な材料と配合について説明する。
【0007】
(1)第1の発明
パネル基材
ケイ酸カルシウム板を用いる。施工対象壁面に応じて所定寸法のものを用意する。
不燃性、軽量、耐湿性、加工容易、低価格といった利点がある。
セメント・骨材等
セメントは、ポルトランドセメント、白セメント等を混合して利用する。
骨材は、寒水石などを利用する。
バインダー
酢酸ビニル系樹脂を用いる。
以上の材料を所定割合で混合してパネル基材に塗布し乾燥・固定することで、所望の水準の接着性・表面強度、不燃性、意匠性を兼ね備えた乾式建材パネルを作製できることが確認された。
性能試験
製品としての信頼性担保のため、作製した乾式建材パネルのうち、パネル上の塗布材が所定の接着性・表面強度を有することを検査し、不良品を排除することとした。
(2)第2の発明
パネル基材
可撓性石膏ボードを用いる。石膏にガラス繊維を混入した芯材の表裏面付近にガラス繊維不織布を埋設したボードである。施工対象壁面に応じて所定寸法、所定曲率のものを用意する。
不燃性、軽量、加工容易といった利点がある。
セメント・骨材等
セメントは、ポルトランドセメント、白セメント等を混合して利用する。
骨材は、寒水石を利用する。
バインダー
酢酸ビニル系樹脂を用いる。
以上の材料を所定割合で混合してパネル基材に塗布し乾燥・固定することで、所望の水準の接着性・表面強度、不燃性、曲げ性能、意匠性を兼ね備えた乾式建材パネルを作製できることが確認された。
性能試験
製品としての信頼性担保のため、作製した乾式建材パネルのうち、パネル上の塗布材が所定の接着性・表面強度を有することを検査し、さらに所定の曲げ性能の検査し、不良品を排除することとした。
【0008】
(3)第3の発明
上記(1)、(2)で作製した乾式建材パネル表面にUV印刷(紫外線硬化性インクを用いた印刷)で石材調の装飾を施すことで、本石を用いた場合に劣らない、凹凸有する素材感ある風合いを有し、かつ、軽量で不燃性ある石材調の建材パネルを簡単な工程で作製できる。
UV印刷に用いるインクは建材パネル全体に比べると微量であり、UV印刷を施したことにより建材パネルの不燃性が損なわれることはない。
【発明の効果】
【0009】
以上、説明したように、本発明の建材パネルによれば、
(1)実用的な接着性及び表面強度、不燃性、意匠性を兼ね備えた乾式建材パネル
(2)さらに、柔軟性のあるパネル基材を用いて、十分な曲げ性能及び不燃性を有し、非平面の壁面にも適用可能な乾式建材パネル
(3)さらに、上記(1)、(2)の乾式建材パネル表面に石材調の装飾を施したもの
が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】第1形態の試験体に塗布された材料の配合を示す表。
【
図3】塗布材の接着性・表面強度、パネル全体の不燃性の試験結果を示す表。
【
図4】第2実施形態の試験体に塗布された材料の配合を示す表。
【
図5】塗布材の接着性・表面強度、パネル全体の不燃性、曲げ性能の試験結果を示す表。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の建材パネルを実施するための最良の形態を詳細に説明する。
【0012】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態の乾式建材パネルは、以下のようにして作製することができる。
(1)パネル基材
実用的な寸法として、厚さ4~10mmのケイ酸カルシウム板(JIS A 5430規格に準ずる繊維強化セメント板又は化粧繊維強化セメント板)を用いる。建築基準法に基づく国土交通省の不燃材料認定(NM-8576、NM-8577等)を受けた市販材料又はこれと同等の性状を有するものを用いる。
ケイ酸カルシウム板は、JIS規格で認定された不燃性を有し、軽量で施工現場への持ち運びが容易であり、耐湿性があるため外気に触れる場所にも施工でき、切断等の加工が容易であり、低価格であるといった利点がある。
(2)セメント・骨材
セメントは、ポルトランドセメント(JIS R 5210規格のもの又はこれと同等の性状を有するもの)、白セメント(白色ポルトランドセメント、同じくJIS R 5210規格に準拠して製造されたもの)のいずれかからなる又はこれらを混合してなるセメント材料を利用する。ホワイトセメントは、ポルトランドセメントから呈色成分である金属酸化物を除去して白色化したセメントであり、化学的性質はポルトランドセメントと同等であるが白みがかった塗り上がりとなる。セメントとホワイトセメントの混合割合は、所望の仕上がり具合(意匠性)に応じて決定すればよい。
骨材は、所望の仕上がり具合、風合い(意匠性)が得られるような色、質感等を有するもので、塗り材の強度や不燃性に悪影響を与えないものを用いる。好ましくは、寒水石、珪砂等を利用する。寒水石は結晶質石灰岩、珪砂は二酸化ケイ素を主成分としたものであり、所望の粒度に粉砕・分級したものを骨材として用いる。仕上がり具合(意匠性)と強度維持の観点からすると、平均粒径が0.3mmを超えないものが好ましい。
(3)バインダー
接着性・表面強度の向上のため、上記材料に加えて、樹脂系材料のバインダーを用いて、いわゆるポリマーセメントモルタルとする。
具体的には、酢酸ビニル系樹脂(酢酸ビニルエチレン共重合体;Ethylene-vinyl acetate copolymer, EVA)を用いる。EVAは、酢酸ビニルエチレン共重合体を取り扱い容易な水性エマルジョン(乳化剤)としたものが市販されている。EVAを用いたポリマーセメントモルタルは、硬化すると、後述するように優れた接着性及び表面強度を呈する。
このような材料を用いることで、後述するように、所望の接着性・表面強度並びに不燃性を兼ね備える乾式建材パネルを作製できるに至った。また、バインダーが仕上げの意匠性にも悪影響を与えないことが確認されている。
【0013】
以上の材料を用いて乾式建材パネルを作製する。
(4)製造工程
上記のセメント・骨材、バインダー、水を所定割合で混錬し、モルタル材料を作る。
パネル基材表面にモルタル材料を厚さ0.1~3.0mmで塗布し、乾燥させて固定する。塗り厚さは、塗布層の強度確保、意匠性、経済性といった複数の観点から、経験的にこの範囲が好ましいとされている。
モルタル塗布されたパネルを所望の寸法(施工用途による)に切断する。切断の際のカットこぼれ・剥がれの程度でパネル塗布材の接着性・表面強度を検査可能である。例えば、試験用に作製した小片のパネルを切断し、切断片に軽度の衝撃を与えた際の塗布材のこぼれ具合を観察するなどの試験をして、パネル塗布材の接着性・表面強度を検定しておくことができる。
表面にひび割れ、脱落、欠け等の欠陥がないかを検査して、乾式建材パネルの完成品となる。
【0014】
以上の工程を経て、所望水準の接着性・表面強度、不燃性、意匠性を兼ね備えた乾式建材パネルを作製できる。
このようにして製造された乾式建材パネルは、建築物の施工現場に運搬され、現場で壁面に容易に施工することが可能である。施工された乾式建材パネルは、製造時の風合いをそのまま保持する。
【0015】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態の乾式建材パネルは、以下のようにして作製することができる。
(1)パネル基材
可撓性石膏ボードを用いる。この可撓性石膏ボードの構造を
図1に示す。石膏にガラス繊維を混入した芯材を厚さ約5mm程度の板状部材とし、その表裏面付近に沿ってガラス繊維を埋設した構造とし、表面シートを貼付したものである。施工対象壁面に応じて所定寸法のものを用意する。
この可撓性石膏ボードは、石膏にガラス繊維を混入したことにより、必要な強度を保ちながら柔軟性を有するという特性がある。さらに、表裏面付近に沿ってガラス繊維不織布を埋設したことにより、ボードを曲げた際に表面が裂けないように補強されている。
この可撓性石膏ボードは、予め所定寸法に切断して、施工現場の曲がった壁面に合わせて容易に施工が可能である。厚さ約5mmのボードの場合、曲率半径600mmまでの曲面に対応可能なものを用いる。
有機材料を使用していないため、高い不燃性を有する、軽量で施工現場への持ち運びが容易であり、切断等の加工が容易といった利点がある。
(2)セメント・骨材
第1実施形態と同様である。
(3)バインダー
第1実施形態と同様である。
このような材料を用いることで、後述するように、所望の接着性・表面強度、不燃性並びに曲げ強度を兼ね備える乾式建材パネルを作製できるに至った。また、バインダーが仕上げの意匠性にも悪影響を与えないことが確認されている。
【0016】
以上の材料を用いて乾式建材パネルを作製する。
(4)製造工程
上記のセメント・骨材、バインダー、水を所定割合で混錬し、モルタル材料を作る。
パネル基材表面にモルタル材料を厚さ0.1~3.0mmで塗布し、乾燥させて固定する。塗り厚さは、塗布層の強度確保、意匠性、経済性といった複数の観点から、経験的にこの範囲が好ましいとされている。
モルタル塗布されたパネルを所望の寸法(施工用途による)に切断する。切断の際のカットこぼれ・剥がれの程度でパネル塗布材の接着性・表面強度を検査可能である。例えば、試験用に作製した小片のパネルを切断し、切断片に軽度の衝撃を与えた際の塗布材のこぼれ具合を観察するなどの試験をして、パネル塗布材の接着性・表面強度を検定しておくことができる。
カットしたパネル(あるいは試験用に作製した短冊状のパネル)を、所定の曲率半径まで曲げるなどの試験をして、パネル塗布材の曲げ性能を検定しておくことができる。
表面にひび割れ、脱落、欠け等の欠陥がないかを検査して、乾式建材パネルの完成品となる。
【0017】
以上の工程を経て、所望水準の接着性・表面強度、不燃性、意匠性並びに曲げ性能を兼ね備えた乾式建材パネルを作製できる。
このようにして製造された乾式建材パネルは、建築物の施工現場に運搬され、現場で湾曲した壁面に容易に施工することが可能である。施工された乾式建材パネルは、製造時の風合いをそのまま保持する。
【0018】
[UV印刷による表面装飾]
上記各実施形態の建材パネルの表面にUV印刷(紫外線硬化性インクを用いた印刷)で石材調の装飾を施すことで、本石を用いた場合に劣らない、凹凸有する素材感ある風合いを有し、かつ、軽量で不燃性ある石材調の建材パネルを簡単な工程で作製できる。手塗りの凹凸感ある表面仕上がりの塗布層にUV印刷するため、凹凸有する素材感を模することができる。
UV印刷に用いるインクは建材パネル全体に比べると微量であり、UV印刷を施したことにより建材パネルの不燃性が損なわれることはない。
【実施例0019】
上記各実施形態の建材パネルの性能を実証すべく、これらの試験体を作製し、その性能評価を行った。性能評価は、塗布材の接着性・表面強度、パネル全体の不燃性、並びに曲げ性能(第2実施形態のみ)を対象とした。
[第1実施形態の試験体]
試験品の材料は以下のとおりである。
1)ケイ酸カルシウム板
ニチアス株式会社の「エコラックス」を使用
厚さ6.0mm
寸法300mm×1800mm
2)セメント材
ポルトランドセメント 太平洋セメント株式会社の普通ポルトランドセメントを使用
3)骨材
寒水石を使用
平均粒径0.3mm未満
4)酢酸ビニル系樹脂(酢酸ビニル共重合体乳化剤)
昭和電工建材株式会社の「ハイモルエマルジョン」を使用。
尚、本製品の原料含有率は45%である。
【0020】
試験体の作製方法
上記のセメント材、骨材、酢酸ビニル系樹脂(バインダー)、水を所定割合で混合、混錬し、モルタル材料を作る。これらの混合割合を
図2に示すように変化させて、4つの試験体を作製するのに用いた。図中、バインダー濃度は、混錬材料中の水に対するバインダーの重量比を示す。
上記のケイ酸カルシウム板を4枚用意し(試験体11~14)、それら表面に上記のモルタル材料を厚さ1.0mmで塗布し、乾燥させて固定した。
モルタル塗布されたパネルについて以下の試験を行った。
【0021】
[1]接着性・表面強度の試験
試験体11~14について、短手方向に切断し、叩いて衝撃を与えた際の切断面の状態を観察した。塗布材のこぼれ・剥がれの程度から、強度小・中・大の3段階で評価した。強度が中以上であれば、実用に耐え得る接着性・表面強度であると判断した。
【0022】
[2]不燃性の試験
試験体11~14について、コーンカロリーメータを用いて、発熱速度及び総発熱量を計測した。不燃性良否の判断基準は以下のとおりである。
・加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2である
・加熱開始後20分間、最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えない
・加熱開始後20分間、パネル裏面まで貫通する亀裂や穴が生じないこと
以上の条件すべてを満たす試験体を不燃性ありと判断した。
【0023】
塗布材の接着性・表面強度、パネル全体の不燃性の試験結果を
図3に示す。
表のとおり、塗布材の接着性・表面強度とパネル全体の不燃性の両方を兼ね備えるのは試験体12,13であることが分かった。
【0024】
[第2実施形態の試験体]
試験品の材料は以下のとおりである。
1)可撓性石膏ボード
図1に示す構造のボードを作成。
厚さ5.0mm
寸法300mm×1800mm
2)セメント材
ポルトランドセメント 太平洋セメント株式会社の普通ポルトランドセメントを使用
3)骨材
寒水石を使用
平均粒径0.3mm未満
4)酢酸ビニル系樹脂(酢酸ビニル共重合体乳化剤)
昭和電工建材株式会社の「ハイモルエマルジョン」を使用。
【0025】
試験体の作製方法
上記のセメント材、骨材、酢酸ビニル系樹脂(バインダー)、水を所定割合で混合、混錬し、モルタル材料を作る。これらの混合割合を
図4に示すように変化させて、4つの試験体を作製するのに用いた。図中、バインダー濃度は、混錬材料中の水に対するバインダーの重量比を示す。
上記の可撓性石膏ボードを4枚用意し(試験体21~24)、それら表面に上記のモルタル材料を厚さ1.0mmで塗布し、乾燥させて固定した。
モルタル塗布されたパネルについて以下の試験を行った。
【0026】
[1]接着性・表面強度の試験
試験体21~24について、短手方向に切断し、叩いて衝撃を与えた際の切断面の状態を観察した。塗布材のこぼれ・剥がれの程度から、強度小・中・大の3段階で評価した。強度が中以上であれば、実用に耐え得る接着性・表面強度であると判断した。
【0027】
[2]不燃性の試験
試験体21~24について、コーンカロリーメータを用いて、発熱速度及び総発熱量を計測した。不燃性良否の判断基準は以下のとおりである。
・加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2である
・加熱開始後20分間、最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えない
・加熱開始後20分間、パネル裏面まで貫通する亀裂や穴が生じないこと
以上の条件すべてを満たす試験体を不燃性ありと判断した。
【0028】
[3]曲げ性能の試験
試験体21~24について、長手方向を円弧状(曲率半径1200mm、600mm)に湾曲させて塗布材の状態を観察した。塗布材表面のひび割れ、脱落、欠けの有無に基づいて、曲げ性能の良否を判断した。
【0029】
塗布材の接着性・表面強度、パネル全体の不燃性、パネルの曲げ性能の試験結果を
図5に示す。
表のとおり、塗布材の接着性・表面強度、パネル全体の不燃性、パネルの曲げ性能のすべてを兼ね備えるのは試験体22,23であることが分かった。
【0030】
以上、本発明の建材パネルについて、具体的な実施の形態を示して説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。当業者であれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、上記各実施形態における建材パネルの材料、製法等に様々な変更・改良を加えることが可能である。