(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121646
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】インクジェットインク組成物、記録方法、及びインクジェットインク組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/326 20140101AFI20240830BHJP
C09D 11/38 20140101ALI20240830BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240830BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240830BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20240830BHJP
【FI】
C09D11/326
C09D11/38
B41M5/00 120
B41J2/01 501
C09D11/322
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028858
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100080953
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 克郎
(72)【発明者】
【氏名】菊池 健太
(72)【発明者】
【氏名】粂田 宏明
(72)【発明者】
【氏名】青山 哲也
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FA10
2C056FA13
2C056FC01
2H186BA08
2H186DA14
2H186FB11
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB31
2H186FB50
2H186FB53
2H186FB54
2H186FB57
4J039AB07
4J039BA30
4J039BA32
4J039BA37
4J039BA39
4J039BC75
4J039BC79
4J039EA21
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】水不溶性色材の再分散性に優れる水系インクジェットインク組成物を提供する。
【解決手段】水系のインクジェットインク組成物であって、水不溶性色材と、リグニンスルホン酸塩と、Ca、Mg、Mn、Fe、Al、及びSiからなる群より選ばれる1種以上の元素Aと、を含有し、元素Aの合計含有量が、5質量ppm~120質量ppmである、インクジェットインク組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系のインクジェットインク組成物であって、
水不溶性色材と、リグニンスルホン酸塩と、Ca、Mg、Mn、Fe、Al、及びSiからなる群より選ばれる1種以上の元素Aと、を含有し、
前記元素Aの合計含有量が、5質量ppm~120質量ppmである、
インクジェットインク組成物。
【請求項2】
前記Ca及び前記Mgの合計含有量が、4質量ppm~100質量ppmである、
請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項3】
前記Mn及び前記Feの合計含有量が、1質量ppm~50質量ppmである、
請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項4】
前記Al及び前記Siの合計含有量が、25質量ppm以下である、
請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項5】
前記水不溶性色材が、天然物由来の色材を含む、
請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項6】
前記リグニンスルホン酸塩が、キレート剤で精製された精製リグニンスルホン酸塩を含む、
請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項7】
前記キレート剤が、アミノカルボン酸系キレート剤を含む、
請求項6に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のインクジェットインク組成物を、インクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させる工程を含む、
記録方法。
【請求項9】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のインクジェットインク組成物の製造方法であって、
リグニンスルホン酸塩とキレート剤とを混合し、得られた錯体物を除去する工程を含む、
インクジェットインク組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク組成物、記録方法、及びインクジェットインク組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、比較的単純な装置で、高精細な画像の記録が可能であり、各方面で急速な発展を遂げている。その中でも、近年は、環境問題が懸念されており、天然物由来の材料を用いることで環境問題に配慮したインクの開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、水と、植物由来の炭化色材と、リグニン樹脂と、を含む、インクジェットインク組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インク組成物には水不溶性色材が用いられる場合がある。水不溶性色材として天然物由来の材料が用いられる場合があり、例えば、竹炭、木炭などの植物炭が挙げられる。
これらの水不溶性色材をインクに用いる場合には、再分散性が不足する場合がある。上記の点において、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のインクジェットインク組成物は、水系のインクジェットインク組成物であって、水不溶性色材と、リグニンスルホン酸塩と、Ca、Mg、Mn、Fe、Al、及びSiからなる群より選ばれる1種以上の元素Aと、を含有し、前記元素Aの合計含有量が、5質量ppm~120質量ppmである。
【0007】
本発明の記録方法は、上記のインクジェットインク組成物を、インクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させる工程を含む。
【0008】
本発明のインクジェットインク組成物の製造方法は、本発明のインクジェットインク組成物の製造方法であって、リグニンスルホン酸塩とキレート剤とを混合し、得られた錯体物を除去する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態の記録方法で用いる記録装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0011】
1.インクジェットインク組成物
本実施形態に係るインクジェットインク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう。)は、水系のインクジェットインク組成物であって、水不溶性色材と、リグニンスルホン酸塩と、Ca、Mg、Mn、Fe、Al、及びSiからなる群より選ばれる1種以上の元素Aと、を含有し、元素Aの合計含有量が、5質量ppm~120質量ppmである。
【0012】
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、水不溶性色材(例えば顔料)の分散剤としてリグニンスルホン酸塩を用いる。リグニンスルホン酸塩は植物由来であり、不純物として金属元素を含み得る。金属元素が、リグニンスルホン酸塩の色材への吸着を阻害することがあり、これによって顔料の分散安定性が低下して顔料凝集物が発生し、異物化することがある。特に、インクの乾燥が進んだ際、異物が固化して再分散性が低下し、クリーニングしても吐出性が回復しない傾向がある。
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、金属元素の含有量が所定量以下に調整されているため、水不溶性色材の再分散性に優れる。
上記の調整は金属精製によって行ってもよい。具体的には、キレート剤(特にEDTA)を用いた金属精製によって行ってもよい。
以上のことから、本実施形態に係るインク組成物は、上記構成を含むことで、水不溶性色材の再分散性に優れる。
【0013】
また、本実施形態に係るインク組成物は、上記構成を含むことで、水不溶性色材の優れた目止め効果も示し得る。
少量の金属元素は、記録媒体上での水不溶性色材の目止め効果に寄与すると考えられる。そのため、本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、所定量以上の金属元素を含むことで、記録媒体上で水不溶性色材の過度な浸透を抑制することができ、その結果発色性に優れる。
この理由は定かではないが、以下のように推測される。
少量の金属(又は金属イオン)はインク中では水不溶性色材の凝集化に寄与し難いと考えられる。しかし、インクの記録媒体への付着後は、溶媒成分が浸透、乾燥して、固形分が濃縮された状態となるため、少量の金属は水不溶性色材の凝集化に寄与する。そのため、記録媒体上で水不溶性色材の過度な浸透を抑制することができる。
【0014】
以下、本実施形態に係るインク組成物において、含まれ得る成分、物性及び製造方法について説明する。
【0015】
1.1.水不溶性色材
インク組成物は、水不溶性色材を含有する。水不溶性色材としては、天然物由来の色材を含むことが好ましい。インク組成物は、水不溶性色材以外の色材を含んでいてもよい。
水不溶性色材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0016】
天然物由来の色材としては、特に限定されず、例えば、備長炭、竹炭、活性炭、白炭、黒炭、成形木炭、オガ炭、梅炭、活性炭、樫炭、米松炭、海藻炭、マングローブ炭、ヤシガラ炭、植物油ベースカーボンブラック等を用いることができる。
【0017】
また、水不溶性色材は、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンなどの無機顔料;キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料、及びアゾ系顔料などの有機顔料;C.I.ディスパースイエロー、C.I.ディスパースレッド、C.I.ディスパースブルー、C.I.ディスパースオレンジ、C.I.ディスパースバイオレット、C.I.ディスパースブラック等の分散染料を含んでいてもよい。
【0018】
水不溶性色材の含有量は、特に限定されず、例えば、インク組成物の総量に対し、1.0質量%以上30質量%以下であってもよい。インク組成物の保存安定性を一層向上させる観点から、水不溶性色材の含有量は、インク組成物の総量に対し、2.0質量%以上20質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、4.0質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0019】
水不溶性色材としては精製された水不溶性色材を用いてもよい。非天然物由来の色材の場合には、その製造過程において不可避的に微量の金属元素などが混入する可能性がある。また、天然物由来の色材の場合には、例えば、植物の生育に必要な金属(ミネラル)成分が含まれているため、植物炭由来の色材にも多様な金属元素が含まれ得る。これら金属元素を精製等によって除去した水不溶性色材を使用することで、後述する元素Aを所定の範囲内に調整することが可能になる。
【0020】
水不溶性色材を精製する方法としては、水不溶性色材における金属成分の量を調整できる方法であれば特に限定されない。例えば、キレート剤により金属錯体物を形成してその錯体物を除去したり、酸により金属塩を溶解除去したりする方法が挙げられる。
【0021】
例えば、一態様として、水不溶性色材である植物炭100gに対し、水酸化ナトリウムを約0.6g、キレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸2ナトリウム等)を約3.0g、純水を残量として入れ、全体で約700gになるようにする。得られた溶液を撹拌しながら90℃付近で約4時間加熱する。常温に戻し、遠心分離を行い、植物炭を回収する。純粋に入れて撹拌し、さらに遠心分離を行うことを繰り返す。最終的な回収物を乾燥機で乾燥させ、精製植物炭を得る。
【0022】
なお、上述した試薬の種類、質量比、加熱温度、加熱時間等を調整することで、精製後の植物炭由来の色材における金属成分の量を適宜調整することが可能である。
【0023】
1.2.リグニンスルホン酸塩
本実施形態のインク組成物は、リグニンスルホン酸塩を含有する。リグニンスルホン酸塩は、分散剤として含有され得る。
インク組成物がリグニンスルホン酸塩を含むことにより、水不溶性色材がインク組成物中に安定に分散し、インク組成物の吐出安定性の向上に寄与する。その要因は明らかではないが、リグニンスルホン酸塩は、多価の金属イオンを捕捉し錯体を形成しやすい。そのため、インク組成物中の金属成分と複数のリグニンスルホン酸塩とが結合した上で、植物炭表面にリグニンスルホン酸塩が安定的に被覆することにより、分散安定性をより向上することができ、保存安定性が向上すると推察される。よって、インク組成物中においてリグニンスルホン酸塩は、金属成分と錯体を形成していると考えられる。
【0024】
リグニンスルホン酸塩は、従来のカーボンブラック、分散染料等の分散に用いてもよく、例えば分散が難しい植物炭顔料に用いたとしても優れた分散安定性が得られる。これらの場合も、金属濃度を低減することで、優れた分散安定性、異物化抑止、及び再分散性が得られる。
【0025】
リグニンスルホン酸塩としては、リグニン又はリグニン分解物であって、少なくとも1つのスルホン基を有するものであれば特に限定されず、リグニンスルホン酸塩及びその誘導体を含む。リグニンスルホン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、リグニンスルホン酸ナトリウム塩、リチウム、カリウム等のリグニンスルホン酸アルカリ金属塩、リグニンスルホン酸アンモニウム塩が挙げられる。また、リグニンスルホン酸塩は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0026】
リグニンスルホン酸塩の重量平均分子量は、例えば、1000以上80000以下であってもよい。インク組成物の水不溶性色材の再分散性及び/又は吐出安定性を一層向上させる観点から、リグニンスルホン酸塩の重量平均分子量は、2000以上50000以下であることが好ましく、3000以上40000以下であることがより好ましく、4000以上35000以下であることがさらに好ましく、5000以上30000以下であることがより一層好ましい。
【0027】
リグニンスルホン酸塩は植物由来であり、不純物として金属元素を含み得る。
リグニンスルホン酸塩としては、金属元素を除去した精製リグニンスルホン酸塩を含むことが好ましく、キレート剤で精製された精製リグニンスルホン酸塩を含むことがより好ましい。キレート剤を用いた精製方法は、特に限定されないが、例えば、リグニンスルホン酸塩とキレート剤とを混合し、得られた錯体物を除去する方法が挙げられる。精製済みの高純度リグニンスルホン酸塩を用いることにより、インク組成物中における元素Aを後述の範囲内に調整することがより容易になる。
【0028】
リグニンスルホン酸塩とキレート剤との混合は、水系溶液中で行ってもよい。また、錯体分離処理において用いる水系溶液は、水を主溶剤とした溶液であり、必要に応じて水溶性有機溶剤が添加されてもよいし、塩基や酸などの他の成分が添加されていてもよい。例えば、水系溶液には、キレート剤の種類に応じて、pHを調製するための塩基や酸が添加されてもよい。一例として、上記処理は、処理効率向上の観点から塩基性状況下で行ってもよく、例えば、NaOH水溶液を使用してもよい。
【0029】
リグニンスルホン酸塩とキレート剤との混合温度は、好ましくは、20℃以上100℃以下であり、40℃以上95℃以下であり、60℃以上95℃以下である。また、混合時間は、好ましくは、1時間以上12時間以下であり、2時間以上10時間以下であり、3時間以上8時間以下である。
【0030】
リグニンスルホン酸塩とキレート剤との混合液からの錯体物の除去方法は、特に限定されないが、例えば、濾別や遠心分離などの公知の固液分離方法を用いることができる。このとき、錯体分離処理されたリグニンスルホン酸塩は固体として分取され、錯体物は液体に溶解した状態で分離されてもよい。また、錯体分離処理されたリグニンスルホン酸塩は分離後に、純水などによって一又は複数回洗浄されてもよい。また、塩基や酸を添加した場合には、洗浄の際に中和処理を行ってもよい。
【0031】
錯体分離処理においては、リグニンスルホン酸塩とキレート剤との混合と、得られた錯体物の除去を一サイクルとして、一又は複数サイクルの処理を実行してもよい。
【0032】
なお、精製における試薬の種類、質量比、加熱温度、加熱時間、サイクル数等を調整することで、精製後のリグニンスルホン酸塩における金属成分の量を適宜調整することが可能である。
例えば、精製の回数により金属濃度を調整することができる。また、キレート剤の種類、限外濾過膜のフィルタの孔径等を適宜変更することで、金属種ごとの濃度を調整できる。例えば、2価金属のキレート剤を用いる場合、鉄は得られる錯体が大きくなるため、限外濾過膜で除去されて濃度を小さくできるが、孔径の大きな濾過膜を用いることで除去され難くすることもできる。
【0033】
キレート剤としては、特に限定されず、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エデト酸二塩、ニトリロ三酢酸(NTA)、メチルグリシン二酢酸(MGDA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、グルタミン酸二酢酸(GLDA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、1,3-プロパンジアミン四酢酸(PDTA)、1,3-ジアミノ-2-ヒドロキシプロパン六酢酸(DPTA-OH)、アスパラギン酸二酢酸(ASDA)、エチレンジアミンコハク酸(EDDS)等のアミノカルボン酸系キレート剤;ピロリン酸塩、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)、ニトリロトリメチレンホスホン酸(NTMP)、ホスホノブタントリカルボン酸(PBTC)、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTMP)等のホスホン酸系キレート剤;ヘキサメタリン酸塩、トリポリリン酸等のリン酸系キレート剤;クエン酸、酒石酸、グルコン酸等のヒドロキシカーボネート系キレート剤が挙げられる。なお、キレート剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
このなかでも、アミノカルボン酸系キレート剤が好ましく、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)がより好ましい。このようなキレート剤を用いることにより、リグニンスルホン酸塩が含む水溶性塩やイオンの除去性、並びに、異物抑制性及び吐出安定性がより向上する傾向にある。
【0035】
リグニンスルホン酸塩又はその誘導体としては、特に限定されず、例えば、製品名として、パールレックスNP(日本製紙株式会社製)、パールレックスDP(日本製紙株式会社製)、バニレックスN(日本製紙株式会社製)、471038-100G(シグマアルドリッチ社製)、ニューカルゲンWG-4(竹本油脂株式会社製)、サンエキスP252(日本製紙株式会社製)等が挙げられる。本発明のインク組成物による効果を一層向上させる観点から、リグニンスルホン酸塩としては、パールレックスNP、バニレックスN、パールレックスDP、471038-100G、ニューカルゲンWG-4、及びサンエキスP252が好ましく、パールレックスNP、バニレックスN、パールレックスDP、471038-100G、及びニューカルゲンWG-4がより好ましい。
【0036】
水不溶性色材の含有量(B)に対する、リグニンスルホン酸塩の含有量(C)の比(C/B)は、特に限定されず、例えば、0.2以上4.2以下であってもよい。インク組成物の吐出安定性を向上させる観点から、上記含有量の比(C/B)は、0.3以上3.5以下であることが好ましく、0.5以上3.0以下であることがより好ましく、0.7以上2.5以下であることがさらに好ましく1.0以上2.0以下あることがよりさらに好ましい。
【0037】
リグニン化合物の含有量は、特に限定されず、例えば、インク組成物の総量に対し、0.1質量%以上40質量%以下であってもよい。本発明による効果を一層有効かつ確実に奏する観点から、リグニン化合物の含有量は、インク組成物の総量に対し、0.3質量%以上35質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上25質量%以下であることがさらに好ましく、3.0質量%以上18質量%以下であることがより一層好ましい。
【0038】
1.3.元素A
インク組成物は、Ca、Mg、Mn、Fe、Al、及びSiからなる群より選ばれる1種以上の元素Aを含有する。
【0039】
元素Aは、金属化合物の状態で存在していても、金属イオンの状態で存在していても、金属単体の状態で存在していてもよい。このなかでも、水溶性金属塩や金属イオンなどの状態で存在することが好ましい。なお、インク組成物に含まれる元素Aは、水不溶性色材やリグニンスルホン酸塩に由来するものであってもよく、インク組成物の調製する工程において添加したものであってもよい。
【0040】
上記元素Aの合計含有量は、インク組成物の総量に対して、5質量ppm~120質量ppmである。上記元素Aの合計含有量が120質量ppm以下であることで、水不溶性色材の再分散性に優れ、目詰まり回復性がより向上する。上記同様の観点から、上記元素Aの合計含有量が、120質量ppm以下であることが好ましく、110質量ppm以下であることがより好ましく、100質量ppm以下であることがさらに好ましい。
上記元素Aの合計含有量が5質量ppm以上であることで、水不溶性色材の目止め効果に優れ、得られる記録物の発色性がより向上する。上記同様の観点から、上記元素Aの合計含有量が、10質量ppm以上であることが好ましく、15質量ppm以上であることがより好ましい。
【0041】
インク組成物における金属元素の質量を調べる方法としては、特に限定されず、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)等が挙げられる。本実施形態のインク組成物においては、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)が好ましい。
【0042】
本発明者の知見によれば、金属の価数としては、1価金属は比較的水不溶性色材の凝集及び異物化の原因になりにくく、2価以上の金属は比較的水不溶性色材の凝集及び異物化の原因になやすい傾向にある。そのため、例えば、3価以上の金属の含有量は少なくすることが好ましい。
2価の金属は目止め効果に優れ、発色及び粒状性とも優れ、凝集及び異物化の傾向も小さい。そのため、2価の金属を所定量含むことが好ましい。
【0043】
インク組成物は、水不溶性色材の再分散性及び目止め効果の観点から、Ca及びMgの合計含有量が、4質量ppm~100質量ppmであることが好ましく、10質量ppm~95質量ppmであることがより好ましく、40質量ppm~90質量ppmであることがさらに好ましい。
【0044】
インク組成物は、水不溶性色材の再分散性及び目止め効果の観点から、Mn及びFeの合計含有量が、1質量ppm~50質量ppmであることが好ましく、3質量ppm~40質量ppmであることがより好ましく、5質量ppm~30質量ppmであることがさらに好ましい。
【0045】
インク組成物は、水不溶性色材の再分散性及び目止め効果の観点から、Al及びSiの合計含有量が、25質量ppm以下であることが好ましく、15質量ppm以下であることがより好ましく、5質量ppm以下であることがさらに好ましい。
Al及びSiの合計含有量は、0質量ppm以上であってもよく、0質量ppm超であってもよく、0.1質量ppm以上であってもよい。
【0046】
インク組成物は、元素A以外の他の金属元素を含んでもよい。
他の金属元素としては、例えば、P、S、Cl、K、Na、Cr、Ti、Ni、Cu等が挙げられる。
【0047】
1.4.水
本実施形態のインク組成物は、水を含む水系インク組成物である。水系インク組成物は、インクの主要な溶媒成分として少なくとも水を含むインク組成物である。
【0048】
水の含有量は、インクの総量に対して、好ましくは、30質量%以上90質量%以下であり、40質量%以上85質量%以下であり、50質量%以上80質量%以下である。
水の含有量が上記の値以上であることにより、水の一部が蒸発した際でもインクの粘度上昇が抑制され、沈降性が抑制される傾向にある。また、水の含有量が上記の値以下であることにより、カールがより抑制される傾向にある。
【0049】
1.5.水溶性有機溶剤
本実施形態のインク組成物は、水溶性有機溶剤を含有する。インク組成物が水溶性有機溶剤を含有することにより、保存安定性が一層向上する傾向にある。なお、水溶性有機溶剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0050】
水溶性有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、グリセリン、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキシレングリコール等が挙げられる。このなかでも、保湿効果という観点から、グリセリンが好ましい。なお、水溶性有機溶剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0051】
水溶性有機溶剤の含有量は、特に限定されず、例えば、インク組成物の総量に対し、1.0質量%以上50質量%以下である。本発明による効果を一層有効かつ確実にする観点から、水溶性有機溶剤の含有量は、インク組成物の総量に対し、3.0質量%以上40質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、8.0質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0052】
1.6.表面張力調整剤
本実施形態のインク組成物は、好ましくは、表面張力調整剤(以下、「界面活性剤」と同義として扱う。)を含む。表面張力調整剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤が挙げられる。このなかでも、インク組成物の保存安定性の観点からは、アセチレングリコール系界面活性剤が好ましい。なお、表面張力調整剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0053】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物から選択される一種以上が好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、オルフィン104シリーズやオルフィンE1010等のEシリーズ(エアープロダクツ社製商品名)、サーフィノール61、104、465(日信化学工業社製商品名)などが挙げられる。このなかでも、本発明の効果を一層有効かつ確実に奏する観点から、表面張力調整剤としてオルフィンE1010を含むことが好ましい。
【0054】
表面張力調整剤の含有量は、特に限定されず、例えば、インク組成物の総量に対し、0.01質量%以上5.0質量%以下である。表面張力調整剤の含有量は、好ましくは、インク組成物の総量に対し、0.05質量%以上3.0質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上1.0質量%以下である。
【0055】
1.7.インクジェットインク組成物の製造方法
本実施形態のインクジェットインク組成物の製造方法は、特に限定されず、水不溶性色材と、リグニンスルホン酸塩と、Ca、Mg、Mn、Fe、Al、及びSiからなる群より選ばれる1種以上の元素Aと、を混合する方法が挙げられる。
本実施形態のインクジェットインク組成物の製造方法は、本実施形態のインクジェットインク組成物の製造方法であって、リグニンスルホン酸塩とキレート剤とを混合し、得られた錯体物を除去する工程を含むことが好ましい。これによって、キレート剤で精製された精製リグニンスルホン酸塩を得ることができる。
【0056】
2.記録方法
本実施形態の記録方法は、本実施形態のインクジェットインク組成物を、インクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させる吐出工程を含む。
本実施形態に係るインクジェット方法は、さらに、記録媒体を搬送する搬送工程を含んでもよい。なお、吐出工程と搬送工程は同時に行ってもよいし、交互に行ってもよい。
【0057】
2.1.吐出工程
吐出工程では、インクジェットヘッドからインクを吐出して記録媒体に付着させる。より具体的には、インクジェットヘッド内に設けられた圧力発生手段を駆動させて、インクジェットヘッドの圧力発生室内に充填されたインクをノズルから吐出させる。このような吐出方法をインクジェット法ともいう。
【0058】
吐出工程において用いるインクジェットヘッドとしては、ライン方式により記録を行うラインヘッドと、シリアル方式により記録を行うシリアルヘッドが挙げられる。
【0059】
ラインヘッドを用いたライン方式では、例えば、記録媒体の記録幅以上の幅を有するインクジェットヘッドを記録装置に固定する。そして、記録媒体を副走査方向(記録媒体の搬送方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録する。
【0060】
シリアルヘッドを用いたシリアル方式では、例えば、記録媒体の幅方向に移動可能なキャリッジにインクジェットヘッドを搭載する。そして、キャリッジを主走査方向(記録媒体の幅方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録する。
【0061】
2.2.搬送工程
搬送工程では、記録装置内で所定の方向に記録媒体を搬送する。より具体的には、記録装置内に設けられた搬送ローラーや搬送ベルトを用いて、記録装置の給紙部から排紙部へと記録媒体を搬送する。その搬送過程において、インクジェットヘッドから吐出されたインクが記録媒体に付着し、記録物が形成される。搬送は、連続的に行ってもよいし断続的に行ってもよい。
【0062】
2.3.記録媒体
本実施形態で用いる記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、吸収性又は非吸収性の記録媒体が挙げられる。
【0063】
吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、インクの浸透性が高い電子写真用紙などの普通紙、インクジェット用紙(シリカ粒子やアルミナ粒子から構成されたインク吸収層、あるいは、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドン(PVP)等の親水性ポリマーから構成されたインク吸収層を備えたインクジェット専用紙)から、インクの浸透性が比較的低い一般のオフセット印刷に用いられるアート紙、コート紙、キャスト紙等が挙げられる。
【0064】
非吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン等のプラスチック類のフィルムやプレート;鉄、銀、銅、アルミニウム等の金属類のプレート;又はそれら各種金属を蒸着により製造した金属プレートやプラスチック製のフィルム、ステンレスや真鋳等の合金のプレート;紙製の基材にポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン等のプラスチック類のフィルムを接着(コーティング)した記録媒体等が挙げられる。
【0065】
3.記録装置
本実施形態の記録装置は、インクジェットインク組成物を記録媒体に対して吐出するノズルを有するインクジェットヘッドと、記録媒体を搬送する搬送手段と、を備える。インクジェットヘッドは、インクが供給される圧力室と、インクを吐出するノズルと、を備える。また、搬送手段は、記録装置内に設けられた搬送ローラーや搬送ベルトから構成される。
【0066】
以下、本実施形態に係る記録装置について、
図1を参照して説明する。なお、
図1において示すX-Y-Z座標系はX方向が記録媒体の長さ方向、Y方向が記録装置内の搬送経路における記録媒体の幅方向、Z方向が装置高さ方向を示している。
【0067】
記録装置10は一例として、高速及び高密度の印刷が可能なライン型インクジェットプリンターである。記録装置10は、用紙等の記録媒体Pを収納する給送部12と、搬送部14と、ベルト搬送部16と、記録部18と、「排出部」としてのFd(フェイスダウン)排出部20と、「載置部」としてのFd(フェイスダウン)載置部22と、「反転搬送機構」としての反転経路部24と、Fu(フェイスアップ)排出部26と、Fu(フェイスアップ)載置部28とを備えている。
【0068】
給送部12は、記録装置10において装置下部に配置されている。給送部12は、記録媒体Pを収納する給送トレイ30と、該給送トレイ30に収納された記録媒体Pを搬送経路11に送り出す給送ローラー32とを備えている。
【0069】
給送トレイ30に収納された記録媒体Pは、給送ローラー32により搬送経路11に沿って搬送部14に給送される。搬送部14は、搬送駆動ローラー34と搬送従動ローラー36とを備えている。搬送駆動ローラー34は、図示しない駆動源により回転駆動される。搬送部14において、記録媒体Pは、搬送駆動ローラー34と搬送従動ローラー36との間に狭持(ニップ)されて搬送経路11の下流側に位置するベルト搬送部16へと搬送される。
【0070】
ベルト搬送部16は、搬送経路11において上流側に位置する第1ローラー38と、下流側に位置する第2ローラー40と、第1ローラー38及び第2ローラー40に回転移動可能に取り付けられた無端ベルト42と、第1ローラー38と第2ローラー40との間において無端ベルト42の上側区間42aを支持する支持体44とを備える。
【0071】
無端ベルト42は、図示しない駆動源により駆動された第1ローラー38または第2ローラー40により上側区間42aにおいて+X方向から-X方向に移動するように駆動される。このため、搬送部14から搬送された記録媒体Pは、ベルト搬送部16においてさらに搬送経路11の下流側に搬送される。
【0072】
記録部18は、ライン型のインクジェットヘッド48と、該インクジェットヘッド48を保持するヘッドホルダー46とを備えている。尚、該記録部18は、Y軸方向に往復移動するキャリッジにインクジェットヘッドが設けられたシリアル型のものであってもよい。インクジェットヘッド48は、支持体44に支持された無端ベルト42の上側区間42aと対向するように配置されている。インクジェットヘッド48は、無端ベルト42の上側区間42aにおいて記録媒体Pが搬送される際、記録媒体Pに向けてインクを吐出し、記録を実行する。記録媒体Pは、記録が行われつつベルト搬送部16により搬送経路11の下流側に搬送される。
【0073】
なお、「ライン型のインクジェットヘッド」とは、記録媒体Pの搬送方向と交差する方向に形成されたノズルの領域が、記録媒体Pの交差方向全体をカバー可能なように設けられ、ヘッド又は記録媒体Pの一方を固定し他方を移動させて画像を形成する記録装置に用いられるヘッドである。なお、ラインヘッドの交差する方向のノズルの領域は、記録装置が対応している全ての記録媒体Pの交差方向全体をカバー可能でなくてもよい。
【0074】
また、ベルト搬送部16の搬送経路11の下流側には、第1分岐部50が設けられている。第1分岐部50は、記録媒体PをFd排出部20またはFu排出部26へ搬送する搬送経路11と、記録媒体Pの記録面を反転させて再度記録媒体Pを記録部18に搬送する反転経路部24の反転経路52とに切り替え可能に構成されている。尚、第1分岐部50により反転経路52に切り替えられて搬送される記録媒体Pは、反転経路52における搬送過程において記録面が反転され、最初の記録面と反対側の面がインクジェットヘッド48と対向するように記録部18に再度搬送される。
【0075】
搬送経路11に沿って第1分岐部50の下流側には、さらに第2分岐部54が設けられている。第2分岐部54は、記録媒体PをFd排出部20へ向けて搬送し、または記録媒体PをFu排出部26へ向けて搬送するように記録媒体Pの搬送方向を切り替え可能に構成されている。
【0076】
第2分岐部54においてFd排出部20へ向けて搬送される記録媒体Pは、Fd排出部20から排出され、Fd載置部22に載置される。このとき、記録媒体Pの記録面は、Fd載置部22に対向するように載置される。また、第2分岐部54においてFu排出部26へ向けて搬送される記録媒体Pは、Fu排出部26から排出され、Fu載置部28に載置される。このとき、記録媒体Pの記録面は、Fu載置部28と反対側に向くように載置される。
【0077】
なお、上記では、ライン型のインクジェットヘッドを用いる場合の例について説明したが、本実施形態に係る記録装置は、シリアル型のインクジェットヘッドを用いるプリンタ(シリアルプリンタ)であってもよい。シリアルプリンタでは、記録媒体を搬送方向に搬送させつつ、インクジェットヘッドを当該搬送方向と交差する方向に移動させることにより、印刷が行われる。
【0078】
4.記録物
本実施形態の記録物は、記録媒体に、上記インク組成物を付着させて得られる。上記インク組成物が再分散性に優れ、吐出安定性に優れるため、繰り返し記録を行う場合にも安定的に記録物を得ることができる。
【実施例0079】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0080】
1.インク組成物の調製
表1~表3に記載の組成となるように、混合物用タンクに各成分を入れ、混合攪拌し、さらにメンブランフィルターでろ過することにより各例のインクジェットインク組成物を得た。
なお、表中の各例に示す各成分の数値は特段記載のない限り質量%を表す。また、表中において、色材の数値は、固形分の質量%を表す。
【0081】
表1~表3で使用した略号や製品成分の詳細は以下のとおりである。なお、高純度精製とは、精製済の化合物を言う。
[水不溶性色材]
・備長炭(キリヤ化学株式会社製)
・カーボンブラック(植物油ベース、Orion Engineered Carbons社製)
・Dispers Red60(Dystar社製)
[水溶性色材]
・Solvent Red135(career henan chemical社製)
[リグニンスルホン酸塩]
・パールレックスNP(日本製紙株式会社製)の高純度精製品
・バニレックスN(日本製紙株式会社製)の高純度精製品
・パールレックスDP(日本製紙株式会社製)の高純度精製品
上記のリグニンスルホン酸Naは、リグニンスルホン酸塩とEDTA(キレート剤)とを混合し、得られた錯体物を除去することで得られた精製された精製リグニンスルホン酸Naである。
[ナフタレンスルホン酸塩]
・ナフタレンスルホン酸Na デモールSSL(花王株式会社製)
[溶剤(水溶性有機溶剤)]
・プロピレングリコール(市販品)
・グリセリン(市販品)
[表面張力調整剤]
・オルフィンE1010(日信化学工業株式会社製)
【0082】
3.測定方法
3.1.金属成分の質量分析
インク中における各金属成分の質量分析は、ICP-OES(G8015AA,アジレント・テクノロジー株式会社製)により測定した。
【0083】
4.評価方法
4.1.目詰まり回復性
インク組成物を、それぞれ、所定のインク収容容器に充填し、当該収容容器を、セイコーエプソン株式会社社製PX-H6000に装着した。全ノズルが正常に吐出することを確認した後、記録装置を正常な状態で電源OFFにし、40℃の環境下で1ヶ月間放置した。その後、吸引による回復動作を行い、正常吐出に至るまでに要した回復動作の回数を求め、以下の基準に従い評価した。B以上を良好なレベルとした。
(評価基準)
AA:電源ON直後より正常吐出できた、または、回復動作1回~3回で正常化した。
A:回復動作4回~6回で正常化した。
B:回復動作7回~9回で正常化した。
C:回復動作9回以内で正常に回復できなかった。
【0084】
4.2.発色性(OD値)
インク組成物をプリンター(セイコーエプソン株式会社製 PX-S840)に装着し、A4で100%Dutyベタ印字を実施した。普通紙に印刷し、印刷物のODを測定し、以下の評価基準に従って評価した。B以上を良好なレベルとした。
(評価基準)
AA:OD値が1.0以上であった。
A:OD値が0.8以上1.0未満であった。
B:OD値が0.6以上0.8未満であった。
C:OD値が0.6未満であった。
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
5.評価結果
表1~表3に示すとおり、水系のインクジェットインク組成物であって、水不溶性色材と、リグニンスルホン酸塩と、Ca、Mg、Mn、Fe、Al、及びSiからなる群より選ばれる1種以上の元素Aと、を含有し、元素Aの合計含有量が、5質量ppm~120質量ppmであるインク組成物を用いた実施例は、目詰まり回復性に優れていた。そのため、実施例のインク組成物が再分散性に優れることが示された。
また、実施例は、発色性の評価に優れていた。実施例のインク組成物が記録媒体上で水不溶性色材の過度な浸透を抑制し、優れた目止め効果を有するためにであると考えられる。
【0089】
これに対して、元素Aの合計含有量が120質量ppm以下でない比較例1は、目詰まり回復性に劣っていた。元素Aの合計含有量が5質量ppm以上でない比較例2は、発色性に劣っていた。水不溶性色材を用いていない比較例3は、目詰まり回復性に劣っていた。リグニンスルホン酸塩を用いていない比較例4は、目詰まり回復性及び発色性の評価に劣っていた。
10…記録装置、11…搬送経路、12…給送部、14…搬送部、16…ベルト搬送部、18…記録部、20…Fd排出部、22…Fd載置部、24…反転経路部、26…Fu排出部、28…Fu載置部、30…給送トレイ、32…給送ローラー、34…搬送駆動ローラー、36…搬送従動ローラー、38…第1ローラー、40…第2ローラー、42…無端ベルト、42a…無端ベルトの上側区間、44…支持体、46…ヘッドホルダー、48…インクジェットヘッド、50…第1分岐部、52…反転経路、54…第2分岐部、56…排出ローラー対、64…排出駆動ローラー、68…駆動軸、76…載置面、78…凸状部、80…第1付勢部材、82…第2付勢部材、84、86…支持軸、P…記録媒体。