(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121659
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】単結晶ウエハー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/08 20060101AFI20240830BHJP
C30B 11/00 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
C30B29/08
C30B11/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028876
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】591054864
【氏名又は名称】ユニオンマテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100195877
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻木 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】櫻木 史郎
(72)【発明者】
【氏名】櫻木 五大
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB10
4G077BA05
4G077CD04
4G077EG01
4G077HA12
4G077MB08
4G077MB22
4G077MB33
(57)【要約】
【課題】 超高品質原材料、時間、エネルギー等の膨大なロスや後工程を排し、超高品質原材料の利用率を上げ、コストを大幅に削減することができる単結晶ウエハーを提供すること。
【解決手段】 単結晶ウエハーは、第1の主面と、第2の主面と、第1の主面と第2の主面とを結ぶ側面とを有する薄板状体であり、薄板状体の厚さが1mm以下であり、第1の主面、第2の主面及び側面の少なくとも一部が整形治具からの転写面を有する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の主面と、第2の主面と、前記第1の主面と前記第2の主面とを結ぶ側面とを有する薄板状体であり、
前記薄板状体の厚さが1mm以下であり、
前記第1の主面、前記第2の主面及び前記側面の少なくとも一部が整形治具からの転写面を有することを特徴とする単結晶ウエハー。
【請求項2】
請求項1に記載の単結晶ウエハーにおいて、
前記第1の主面の少なくとも一部が前記整形治具からの転写面を有することを特徴とする単結晶ウエハー。
【請求項3】
請求項1に記載の単結晶ウエハーにおいて、
前記第1の主面が前記整形治具からの転写面からなることを特徴とする単結晶ウエハー。
【請求項4】
請求項1に記載の単結晶ウエハーにおいて、
前記第1の主面と前記第2の主面が前記整形治具からの転写面からなることを特徴とする単結晶ウエハー。
【請求項5】
請求項1に記載の単結晶ウエハーにおいて、
前記転写面の少なくとも一部がテクスチャー構造であることを特徴とする単結晶ウエハー。
【請求項6】
請求項1に記載の単結晶ウエハーにおいて、
前記薄板状体が長方形又は正方形であることを特徴とする単結晶ウエハー。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の単結晶ウエハーが無機物からなることを特徴とする単結晶ウエハー。
【請求項8】
請求項7に記載の単結晶ウエハーが半導体からなることを特徴とする単結晶ウエハー。
【請求項9】
請求項8に記載の単結晶ウエハーがゲルマニウムからなることを特徴とする単結晶ウエハー。
【請求項10】
整形容器内に下から順にバルクの種結晶と、結晶の原材料と、整形治具とを配置する第1の工程と、
所定の雰囲気と所定の温度勾配に設定された前記整形容器を昇温して、前記原材料を融液にし、前記種結晶の少なくとも一部は溶けずに固体として残し、前記融液を固体として残っている前記種結晶に接触させる第2の工程と、
前記融液を前記整形治具に収容する第3の工程と、
前記整形容器を降温して前記融液を単結晶化する第4の工程とを有し、
前記種結晶と前記原材料は同一物質であり、
前記所定の温度勾配は、前記第1の工程で前記種結晶が配置される第1の領域の温度の方が前記原材料と前記整形治具が配置される第2の領域の温度よりも低く設定され、
前記整形治具は2以上の板状トレイで構成され、
前記板状トレイは一方の面に凹部と、前記凹部から前記第1の領域への第1の連通部とを有し、
2以上の前記板状トレイは、前記一方の面の向きが同一、かつ、水平の状態で重ねられ、前記第1の連通部による前記凹部と前記第1の領域との連通を保持して配置され、
前記凹部の深さは1mm以下であり、
前記整形治具は鉛直下向きへ移動可能に構成され、
前記第3の工程では外力で前記整形治具を鉛直下向きに移動させることにより前記融液を前記第1の連通部を介して前記凹部に収容することを特徴とする単結晶ウエハーの製造方法。
【請求項11】
整形容器内に下から順にバルクの種結晶と、整形治具と、結晶の原材料と、前記原材料の押し込み治具とを配置する第1の工程と、
所定の雰囲気と所定の温度勾配に設定された前記整形容器を昇温して、前記原材料を融液にし、前記種結晶の少なくとも一部は溶けずに固体として残す第2の工程と、
前記融液を前記整形治具に収容し、前記融液を固体として残っている前記種結晶に接触させる第3の工程と、
前記整形容器を降温して前記融液を単結晶化する第4の工程とを有し、
前記種結晶と前記原材料は同一物質であり、
前記所定の温度勾配は、前記第1の工程で前記種結晶が配置される第1の領域の温度の方が前記原材料と前記整形治具が配置される第2の領域の温度よりも低く設定され、
前記整形治具は2以上の板状トレイで構成され、
前記板状トレイは一方の面に凹部と、前記凹部から前記第1の領域への第1の連通部と、前記凹部から前記原材料の側への第2の連通部とを有し、
2以上の前記板状トレイは、前記一方の面の向きを同一、かつ、水平の状態で重ねられ、前記第1の連通部による前記凹部と前記第1の領域との連通を保持して配置され、
前記凹部の深さは1mm以下であり、
前記押し込み治具は鉛直下向きへ移動可能に構成され、
前記第3の工程では前記押し込み治具を鉛直下向きに移動させることにより前記融液を前記第2の連通部を介して前記凹部に収容し、前記第1の連通部を介して前記種結晶に接触させることを特徴とする単結晶ウエハーの製造方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の単結晶ウエハーの製造方法において、
前記板状トレイの他方の面と、前記凹部の底面は平坦であり、
前記底面の形状が長方形又は正方形であることを特徴とする単結晶ウエハーの製造方法。
【請求項13】
請求項10又は11に記載の単結晶ウエハーの製造方法において、
前記板状トレイの他方の面と、前記凹部の底面の少なくとも一部がテクスチャー構造であることを特徴とする単結晶ウエハーの製造方法。
【請求項14】
請求項10又は11に記載の単結晶ウエハーの製造方法において、
前記同一物質が無機物であることを特徴とする単結晶ウエハーの製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の単結晶ウエハーの製造方法において、
前記無機物が半導体であることを特徴とする単結晶ウエハーの製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載の単結晶ウエハーの製造方法において、
前記半導体がゲルマニウムであることを特徴とする単結晶ウエハーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、単結晶ウエハー及びその製造方法に関する。なお、「ウエハー」は、半導体の単結晶を薄板状に切断したもの(広辞苑)、半導体結晶で、厚さ数百μmの板状に加工したもの(理化学事典)のように、一般には半導体の単結晶インゴットから切り出した薄板状体をいう。しかし、本開示の「ウエハー」は、厚さが1mm以下の薄板状体であれば、単結晶インゴットから切り出したものでなくてもよく、また、材料は半導体に限定されない。
【背景技術】
【0002】
シリコンやヒ化ガリウム、ゲルマニウム等の単結晶ウエハーは、一般に、超高品質原材料を用いてCZ法等により単結晶インゴットを製造し、単結晶インゴットをマルチ・ワイヤーソー等を用いて薄板状に切断して得られる。ワイヤーソー1本の幅は単結晶ウエハーの厚さと同程度であるため、単結晶インゴットの約半分が切断スラッジ(カーフロス)になる。また、単結晶インゴットは添加物を入れられたり、混晶にして作られるため、その先端部と後端部は添加物や組成の偏析が存在し、再利用が難しい。結果として、インゴット総量の7割程度を廃棄せざるを得ない。また、太陽電池用ウエハーの製造では、単結晶インゴットから先端部と後端部を切り落とした円柱単結晶から4辺を切断除去して角形加工するため、切断除去される4辺のロスも生じる。さらに、これらの製造過程では多大な時間や電力等のエネルギーも投入されており、それらのロスも生じる。つまり、従来の単結晶ウエハーの製造方法では、超高品質原材料や時間、エネルギーの膨大なロスが避けられない。さらに、切断後はスラッジの廃棄が問題になると共に、スラッジの洗浄工程や、切断時に生じる歪みやうねり等の加工歪み除去工程といった後工程も必要である。これらの膨大なロスや後工程のためにコストが大幅に上昇する。
【0003】
これらの膨大なロスや後工程を排し、超高品質原材料の利用率を上げ、コストを大幅に削減するため、本発明者は単結晶ウエハーの直接製造に長年取り組んできた。特許文献1では、カーボンや石英ガラスで形成される整形容器及び整形治具(モールドともいう)を用いた高品質シリコン結晶リボン(ウエハー)の製造方法を提案した。この製造方法は、(a)所定の雰囲気に設定された整形容器内で結晶の原材料を加熱して融液にする工程と、(b)該融液を前記整形容器内に配置された整形治具に収容する工程と、(c)該整形治具の一端より前記融液を冷却して結晶化する工程とからなり(請求項1)、(a)複数枚の板状トレイを互いに間隙を設けて水平方向又は垂直方向に重ねて配置することにより凹部を形成した整形治具を、前記整形容器内の一端から他端へ水平面内で移動可能に構成し、(b)前記整形容器内の一端に前記原材料を配置し、(c)前記整形治具を前記整形容器内の他端から移動させることにより前記融液を前記凹部に収容する(請求項3)。これは多結晶ウエハーの製造を目的としているが、さらに、板状トレイの一端に板状トレイ間の隙間の厚さを有する板状の種結晶をセットすること(種結晶横配置)で板状の単結晶シリコンを製造すること(提案1)を提案した(0017)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、提案1は着想であり、実際には単結晶シリコンウエハーを製造することはできなかった。その理由は、種結晶横配置では融液の対流により、融液と種結晶との固液界面を直線状に保持できなかったこと等が考えられる。つまり、提案1は種結晶横配置のため、構造的に実現困難だったと考えられる。さらに、提案1で用いられる板状の種結晶は、従来の単結晶ウエハーと同様に薄板状に切断して得られるため、ロスやコスト上昇を伴う。
【0006】
本開示は上記実状を鑑みてなされたものであり、超高品質原材料、時間、エネルギー等の膨大なロスや後工程を排し、超高品質原材料の利用率を上げ、コストを大幅に削減することができる単結晶ウエハー及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一の態様は、
第1の主面と、第2の主面と、前記第1の主面と前記第2の主面とを結ぶ側面とを有する薄板状体であり、
前記薄板状体の厚さが1mm以下であり、
前記第1の主面、前記第2の主面及び前記側面の少なくとも一部が整形治具からの転写面を有することを特徴とする単結晶ウエハーに関する。
【0008】
本開示の一の態様の単結晶ウエハーは、インゴットを介さず、直接製造されたものであるため、超高品質原材料、時間、エネルギー等の膨大なロスや後工程を排し、超高品質原材料の利用率を上げ、コストを大幅に削減することができる。
【0009】
本開示の一の態様では、
前記第1の主面の少なくとも一部が前記整形治具からの転写面を有すること、
前記第1の主面が前記整形治具からの転写面からなること、
前記第1の主面と前記第2の主面が前記整形治具からの転写面からなること、
前記転写面の少なくとも一部がテクスチャー構造であること、又は、
前記薄板状体が長方形又は正方形であることが好ましい。
【0010】
これにより、加工や洗浄等の工程が減ると共に、原材料の利用率が向上し、コストをさらに削減することができる。また、テクスチャー構造とすることにより、単結晶ウエハーを太陽光発電等といった受光デバイスに用いる場合、反射ロスを低減させ、光の利用率を向上させることができる。
【0011】
本開示の一の態様では、
単結晶ウエハーが無機物からなること、半導体からなること、又は、ゲルマニウムからなることが好ましい。
【0012】
これにより、高価な原材料の利用率が向上し、コストをさらに削減することができる。
【0013】
本開示の他の態様は、
整形容器内に下から順にバルクの種結晶と、結晶の原材料と、整形治具とを配置する第1の工程と、
所定の雰囲気と所定の温度勾配に設定された前記整形容器を昇温して、前記原材料を融液にし、前記種結晶の少なくとも一部は溶けずに固体として残し、前記融液を固体として残っている前記種結晶に接触させる第2の工程と、
前記融液を前記整形治具に収容する第3の工程と、
前記整形容器を降温して前記融液を単結晶化する第4の工程とを有し、
前記種結晶と前記原材料は同一物質であり、
前記所定の温度勾配は、前記第1の工程で前記種結晶が配置される第1の領域の温度の方が前記原材料と前記整形治具が配置される第2の領域の温度よりも低く設定され、
前記整形治具は2以上の板状トレイで構成され、
前記板状トレイは一方の面に凹部と、前記凹部から前記第1の領域への第1の連通部とを有し、
2以上の前記板状トレイは、前記一方の面の向きが同一、かつ、水平の状態で重ねられ、前記第1の連通部による前記凹部と前記第1の領域との連通を保持して配置され、
前記凹部の深さは1mm以下であり、
前記整形治具は鉛直下向きへ移動可能に構成され、
前記第3の工程では外力で前記整形治具を鉛直下向きに移動させることにより前記融液を前記第1の連通部を介して前記凹部に収容することを特徴とする単結晶ウエハーの製造方法に関する。
【0014】
本開示の他の態様は、
整形容器内に下から順にバルクの種結晶と、整形治具と、結晶の原材料と、前記原材料の押し込み治具とを配置する第1の工程と、
所定の雰囲気と所定の温度勾配に設定された前記整形容器を昇温して、前記原材料を融液にし、前記種結晶の少なくとも一部は溶けずに固体として残す第2の工程と、
前記融液を前記整形治具に収容し、前記融液を固体として残っている前記種結晶に接触させる第3の工程と、
前記整形容器を降温して前記融液を単結晶化する第4の工程とを有し、
前記種結晶と前記原材料は同一物質であり、
前記所定の温度勾配は、前記第1の工程で前記種結晶が配置される第1の領域の温度の方が前記原材料と前記整形治具が配置される第2の領域の温度よりも低く設定され、
前記整形治具は2以上の板状トレイで構成され、
前記板状トレイは一方の面に凹部と、前記凹部から前記第1の領域への第1の連通部と、前記凹部から前記原材料の側への第2の連通部とを有し、
2以上の前記板状トレイは、前記一方の面の向きを同一、かつ、水平の状態で重ねられ、前記第1の連通部による前記凹部と前記第1の領域との連通を保持して配置され、
前記凹部の深さは1mm以下であり、
前記押し込み治具は鉛直下向きへ移動可能に構成され、
前記第3の工程では前記押し込み治具を鉛直下向きに移動させることにより前記融液を前記第2の連通部を介して前記凹部に収容し、前記第1の連通部を介して前記種結晶に接触させることを特徴とする単結晶ウエハーの製造方法に関する。
【0015】
本開示の他の態様の単結晶ウエハーの製造方法により、インゴットを介さず、直接単結晶ウエハーを製造することができるため、超高品質原材料、時間、エネルギー等の膨大なロスや後工程を排し、超高品質原材料の利用率を上げ、コストを大幅に削減することができる。
【0016】
本開示の他の態様では、
前記板状トレイの他方の面と、前記凹部の底面は平坦であり、
前記底面の形状が長方形又は正方形であることが好ましい。
【0017】
これにより、加工や洗浄等の工程が減ると共に、原材料の利用率が向上し、コストをさらに削減することができる。
【0018】
本開示の他の態様では、
前記板状トレイの他方の面と、前記凹部の底面の少なくとも一部がテクスチャー構造であることが好ましい。
【0019】
これにより、加工や洗浄等の工程が減ると共に、原材料の利用率が向上し、コストをさらに削減することができる。
【0020】
本開示の他の態様では、
前記同一物質が無機物であること、前記無機物が半導体であること、又は、前記半導体がゲルマニウムであることが好ましい。
【0021】
これにより、高価な原材料の利用率が向上し、コストをさらに削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態の製造方法に用いられる製造装置を示す。
【
図3】本実施形態の製造方法に用いられる製造装置を示す。
【
図5】本実施形態の製造方法に用いられる製造装置を示す。
【
図7】左にゲルマニウム単結晶ウエハー、右にゲルマニウム多結晶ウエハーを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本開示の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成のすべてが本開示の解決手段として必須であるとは限らない。
【0024】
[単結晶ウエハー]
本実施形態の単結晶ウエハーは、第1の主面と、第2の主面と、第1の主面と第2の主面とを結ぶ側面とを有する薄板状体であり、薄板状体の厚さが1mm以下であり、第1の主面、第2の主面及び側面の少なくとも一部が整形治具からの転写面を有する。
【0025】
インゴットを介さず、直接製造した単結晶ウエハーであるため、超高品質原材料、時間、エネルギー等の膨大なロスや後工程を排し、超高品質原材料の利用率を上げ、コストを大幅に削減することができる。
【0026】
本実施形態の単結晶ウエハーは、第1の主面の少なくとも一部が整形治具からの転写面を有すること、第1の主面が整形治具からの転写面からなること、第1の主面と第2の主面が整形治具からの転写面からなること、転写面の少なくとも一部がテクスチャー構造であること、又は、薄板状体が長方形又は正方形であることが好ましい。また、第1の主面がテクスチャー構造であってもよい。加工や洗浄等の工程が減ると共に、原材料の利用率が向上し、コストをさらに削減することができる。また、テクスチャー構造とすることにより、単結晶ウエハーを太陽光発電等といった受光デバイスに用いる場合、反射ロスを低減させ、光の利用率を向上させることができる。さらに、第1の主面の面方位は(100)、(110)、(111)等であってもよい。
【0027】
本実施形態の単結晶ウエハーは、製造することができれば材質は特に限定されないが、無機物からなることが好ましい。無機物としては、例えば、半導体、酸化物、金属、合金、ハロゲン化物等が挙げられる。半導体としては、例えば、ゲルマニウムが挙げられる。本実施形態により、高価な原材料の利用率が向上し、コストをさらに削減することができる。
【0028】
本実施形態の単結晶ウエハーの薄板状体の厚さは0.5mm以下が好ましく、0.3mm以下がより好ましい。これにより、原材料に対して得られる単結晶ウエハーの数を増やすことができる。単結晶ウエハーの薄板状体の厚さの下限は、製造することができれば特に限定されないが、強度的に0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましい。
【0029】
[単結晶ウエハーの製造方法]
本実施形態の単結晶ウエハーの製造方法を
図1、
図2を用いて説明する。
【0030】
本実施形態の単結晶ウエハーの製造方法は、整形容器11内に下から順にバルクの種結晶12と、結晶の原材料13と、整形治具14とを配置する第1の工程(
図1)と、所定の雰囲気と所定の温度勾配に設定された整形容器11を昇温して、原材料13を融液15にし、種結晶12の少なくとも一部は溶けずに固体として残し、融液15を固体として残っている種結晶12に接触させる第2の工程と、融液15を整形治具14に収容する第3の工程(
図2)と、整形容器11を降温して融液15を単結晶化する第4の工程とを有し、種結晶12と原材料13は同一物質であり、所定の温度勾配は、第1の工程で種結晶12が配置される第1の領域16の温度の方が原材料13と整形治具14が配置される第2の領域17の温度よりも低く設定され、整形治具14は2以上の板状トレイ18で構成され、板状トレイ18は一方の面に凹部19と、凹部19から第1の領域16への第1の連通部20とを有し、2以上の板状トレイ18は、一方の面の向きが同一、かつ、水平の状態で重ねられ 、第1の連通部20による凹部19と第1の領域16との連通を保持して配置され、凹部19の深さは1mm以下であり、整形治具14は鉛直下向きへ移動可能に構成され、第3の工程では外力で整形治具14を鉛直下向きに移動させることにより融液15を第1の連通部20を介して凹部19に収容する。
【0031】
インゴットを介さず、直接単結晶ウエハーを製造することができるため、超高品質原材料、時間、エネルギー等の膨大なロスや後工程を排し、超高品質原材料の利用率を上げ、コストを大幅に削減することができる。
【0032】
本実施形態の単結晶ウエハーの製造方法では、種結晶12はバルクの単結晶から加工して得られる。板状トレイ18の他方の面と、凹部19の底面は平坦であり、凹部19の底面の形状が平行四辺形、長方形、菱形又は正方形であることが好ましい。また、板状トレイ18の他方の面と、凹部19の底面の少なくとも一部、又は、いずれか一方がテクスチャー構造であってもよい。加工や洗浄等の工程が減ると共に、原材料13の利用率が向上し、コストをさらに削減することができる。
【0033】
本実施形態の単結晶ウエハーの製造方法では、種結晶12の、板状トレイ18の一方の面と同じ向きの面方位は(100)、(110)、(111)、さらには、それらの基準面から必要角度の傾斜を付けた面方位等、任意であってよい。第1の主面の面方位が(100)、(110)、(111)等に制御された単結晶ウエハーを簡単に製造することができる。さらに、本実施形態の単結晶ウエハーの製造方法では、凹部19の底面の形状は任意であってもよく、例えば、円盤状単結晶ウエハーが必要な場合は凹部19の底面の形状を円形にすればよい。これにより、任意形状の単結晶ウエハーを簡単に複数製造することができる。
【0034】
本実施形態の単結晶ウエハーの製造方法では、凹部19の深さは0.5mm以下が好ましく、0.3mm以下がより好ましい。凹部19の深さの下限は、単結晶ウエハーを製造することができれば特に限定されないが、強度的に0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましい。
【0035】
本実施形態の単結晶ウエハーの製造方法では、単結晶ウエハーを製造することができれば種結晶12と原材料13の材質は特に限定されないが、同一物質が好ましく、無機物がより好ましい。なお、同一物質は種結晶12と原材料13の純度が異なっていてもよく、例えば、種結晶12が6N、原材料13が4Nでもよい。無機物としては、例えば、半導体、酸化物、金属、合金、ハロゲン化物等が挙げられる。半導体としては、例えば、ゲルマニウムが挙げられる。これにより、高価な原材料の利用率が向上し、コストをさらに削減することができる。
【0036】
本実施形態の単結晶ウエハーの製造方法では、所定の雰囲気は種結晶12、原材料13、融液15や整形容器11、整形治具14に対して不活性であれば特に限定されないが、例えば、アルゴン、窒素、真空等が挙げられる。
【0037】
本実施形態の単結晶ウエハーの製造方法では、第1の連通部20の形状は、凹部19と第1の領域16との間で融液15や雰囲気の流通が確保されれば特に限定されない。
【0038】
本実施形態の単結晶ウエハーの製造方法では、板状トレイ18は、凹部19から上方への第2の連通部(図示しない)を有してもよい。第3の工程において、凹部19内の気体が第2の連通部を介して上方に抜けるため、融液15が凹部19内を満たしやすく、単結晶ウエハーの歩留まりを高めることができる。第2の連通部の形状は、凹部19と上方との間で融液15や雰囲気の流通が確保されれば特に限定されない。
【0039】
本実施形態の単結晶ウエハーの製造方法では、凹部19の内周の壁面を面取り形状にしてもよい。これによって改めて面取り装置を用いた面取り工程や洗浄工程を省くことができる。面取り形状とすることでの抗切強度を向上させ、単結晶ウエハーを取り出す際の破損やその後のウエハー取り扱い時の欠け、チッピングを低減することができる。
【0040】
本実施形態の単結晶ウエハーの製造方法では、種結晶12と単結晶ウエハーの界面部分をレーザーにて切断してもよいし、種結晶12の面取り形状の絞り形状部をレーザーにて切断してもよい。ワイヤーソーにて切断しないのでスラッジの洗浄工程や加工歪み除去工程を実施することなく種結晶12を再利用することができる。また、レーザー切断はウエハーのスクライブに使われているように、容易にウエハーの切断が行うことができる。
【0041】
本実施形態の単結晶ウエハーの製造方法では、整形治具14を固定して整形容器11を鉛直上向きに移動させることにより融液15を第1の連通部20を介して凹部19に収容してもよいし、製造装置を天地逆の構成してもよい。
【0042】
本実施形態の他の単結晶ウエハーの製造方法を
図3、
図4を用いて説明する。
【0043】
本実施形態の他の単結晶ウエハーの製造方法は、整形容器11内に下から順にバルクの種結晶12と、整形治具14と、結晶の原材料13と、原材料13の押し込み治具22とを配置する第1の工程(
図5)と、所定の雰囲気と所定の温度勾配に設定された整形容器11を昇温して、原材料13を融液15にし、種結晶12の少なくとも一部は溶けずに固体として残す第2の工程と、融液15を整形治具14に収容し、融液15を固体として残っている種結晶12に接触させる第3の工程(
図6)と、整形容器11を降温して融液15を単結晶化する第4の工程とを有し、種結晶12と原材料13は同一物質であり、所定の温度勾配は、第1の工程で種結晶12が配置される第1の領域16の温度の方が原材料13と整形治具14が配置される第2の領域17の温度よりも低く設定され、整形治具14は2以上の板状トレイ18で構成され、板状トレイ18は一方の面に凹部19と、凹部19から第1の領域16への第1の連通部20と、凹部19から原材料13の側への第2の連通部21とを有し、2以上の板状トレイ18は、一方の面の向きが同一、かつ、水平の状態で重ねられ 、第1の連通部20による凹部19と第1の領域16との連通を保持して配置され、凹部19の深さは1mm以下であり、押し込み治具22は鉛直下向きへ移動可能に構成され、第3の工程では押し込み治具22を鉛直下向きに移動させることにより融液15を第2の連通部21を介して凹部19に収容し、第1の連通部20を介して種結晶12に接触させる。
【0044】
本実施形態の他の単結晶ウエハーの製造方法では、押し込み治具22を固定して整形容器11を鉛直上向きに移動させることにより融液15を第2の連通部21を介して凹部19に収容してもよいし、製造装置を天地逆の構成してもよい。
【0045】
本実施形態の他の単結晶ウエハーの製造方法を
図5、
図6を用いて説明する。
【0046】
本実施形態の他の単結晶ウエハーの製造方法は、整形容器11内に下から順にバルクの種結晶12と、整形治具14と、結晶の原材料13とを配置する第1の工程(
図3)と、所定の雰囲気と所定の温度勾配に設定された整形容器11を昇温して、原材料13を融液15にし、種結晶12の少なくとも一部は溶けずに固体として残す第2の工程と、融液15を整形治具14に収容し、融液15を固体として残っている種結晶12に接触させる第3の工程(
図4)と、整形容器11を降温して融液15を単結晶化する第4の工程とを有し、種結晶12と原材料13は同一物質であり、所定の温度勾配は、第1の工程で種結晶12が配置される第1の領域16の温度の方が原材料13と整形治具14が配置される第2の領域17の温度よりも低く設定され、整形治具14は2以上の板状トレイ18で構成され、板状トレイ18は一方の面に凹部19と、凹部19から第1の領域16への第1の連通部20と、凹部19から原材料13の側への第2の連通部21とを有し、2以上の板状トレイ18は、一方の面の向きが同一、かつ、水平の状態で重ねられ 、第1の連通部20による凹部19と第1の領域16との連通を保持して配置され、凹部19の深さは1mm以下であり、第3の工程では融液15の自重により融液15を第2の連通部21を介して凹部19に収容し、第1の連通部20を介して種結晶12に接触させる。
【0047】
本実施形態の他の単結晶ウエハーの製造方法も、インゴットを介さず、直接単結晶ウエハーを製造することができるため、超高品質原材料、時間、エネルギー等の膨大なロスや後工程を排し、超高品質原材料の利用率を上げ、コストを大幅に削減することができる。
【0048】
本実施形態の他の単結晶ウエハーの製造方法では、凹部19の深さは1mmを超えて、例えば、10mm、20mm等、任意であってもよいし、凹部19の底面の形状も任意であってもよい。10mm、20mm等の任意の厚さ、任意形状の単結晶板を簡単に複数製造することができる。例えば、凹部19の底面の形状を円形の凹面又は円形の凸面にすると、凸レンズ又は凹レンズを簡単に複数製造することもできる。
【実施例0049】
以下、本開示の実施例を
図1、
図2を用いて詳細に説明する。
【0050】
第1の工程(
図1)として、グラファイト製の整形容器11内に下から順にバルクのゲルマニウム種結晶(純度6N)12と、ゲルマニウムの原材料(純度6N)13と、整形治具14とを配置した。ここで、種結晶12が配置される領域を第1の領域16、原材料13と整形治具14が配置される領域を第2の領域17とする。整形治具14は2以上のグラファイト製の板状トレイ18で構成される。板状トレイ18は一方の面に凹部19と、凹部19から第1の領域16への第1の連通部20とを有する。2以上の板状トレイ18は、一方の面の向きが同一、かつ、水平の状態で重ねられ 、第1の連通部20による凹部19と第1の領域16との連通を保持して配置される。凹部19の深さは0.5mm、底面は100mm×100mmの正方形であり、整形治具14は鉛直下向きへ移動可能に構成される。
【0051】
第2の工程として、アルゴン又は真空の雰囲気と所定の温度勾配に設定された整形容器11をゲルマニウムの原材料13の融点(938℃)付近まで昇温して、原材料13を融液15にし、種結晶12の少なくとも一部は溶けずに固体として残し、融液15を固体として残っている種結晶12に接触させた。所定の温度勾配は、第1の領域16の温度の方が第2の領域17の温度よりも低く設定される。
【0052】
第3の工程として、外力(
図1の下向き矢印)で整形治具14を鉛直下向きに移動させることにより融液15を第1の連通部20を介して整形治具14を構成する板状トレイ18の凹部19に収容した(
図2)。
【0053】
第4の工程として、所定の温度勾配を保って整形容器11を降温し、融液15の種結晶12側から結晶成長を行い、100mm×100mm×厚さ0.5mmのゲルマニウム単結晶ウエハーを得た。
図7の左にゲルマニウム単結晶ウエハー、右に種結晶無しで作成したゲルマニウム多結晶ウエハーを示す。左のウエハーは面の反射の様子が一様であり、面方位が一様である、即ち、単結晶であることがわかる。一方、右のウエハーは反射の様子が異なる領域が存在し、それぞれの領域内は単結晶であり、面方位の異なる単結晶の集合体であることがわかる。
【0054】
インゴットを介さず、直接単結晶ウエハーを製造することができるため、超高品質原材料、時間、エネルギー等の膨大なロスや後工程を排し、超高品質原材料の利用率を上げ、コストを大幅に削減することができた。
【0055】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本開示の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例はすべて本開示の範囲に含まれる。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、本実施形態の構成も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形が可能である。
11 整形容器、12 種結晶、13 結晶の原材料、14 整形治具、15 融液、16 第1の領域、17 第2の領域、18 板状トレイ、19 凹部、20 第1の連通部、21 第2の連通部