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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121664
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】コイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/36 20060101AFI20240830BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20240830BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20240830BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20240830BHJP
   H01F 27/24 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
H01F27/36 101
H01F17/04 F
H01F27/28 185
H01F27/36 154
H01F27/255
H01F27/24 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028882
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】小柳 佑市
(72)【発明者】
【氏名】外海 透
(72)【発明者】
【氏名】石原 知弥
【テーマコード(参考)】
5E044
5E058
5E070
【Fターム(参考)】
5E044DA04
5E058BB19
5E058CC15
5E070AA01
5E070AB01
5E070BA12
5E070DA13
5E070DA17
5E070EA01
5E070EB04
(57)【要約】
【課題】素体と磁性シートとの間の界面剥離が抑制されたコイル部品を提供する。
【解決手段】 コイル部品1においては、磁性シート30の表面に設けられた窪み30aが素体10と磁性シート30との間の接合面積の拡大に寄与し、それにより、素体10と磁性シート30との間の界面剥離が抑制されている。特に、コイル20の軸線Zの方向から見て、磁性シート30が素体10の全面に亘ることで接合面積の最大化が図られ、界面剥離がより抑制され得る。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉および樹脂を含む材料で構成された素体と、
前記素体内に設けられたコイルと、
前記素体内において前記コイルの軸線に対して交差して延在し、表面の一部に窪みを有する磁性シートと
を備える、コイル部品。
【請求項2】
前記磁性シートが金属板で構成されている、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記金属粉の硬度が前記磁性シートの硬度より高い、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記磁性シートが前記素体内に複数層設けられている、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項5】
隣り合う前記磁性シートの層間に、前記素体の材料が介在している、請求項4に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記素体の材料が、平均粒径が異なる複数種類の金属粉を含み、
前記磁性シートの窪みに、平均粒径がより小さい種類の金属粉と樹脂とが入り込んでいる、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項7】
前記コイルの軸線方向から見て、前記磁性シートは前記素体の全面に亘っている、請求項1に記載のコイル部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、コイルを含む絶縁性素体と、素体上に配置されたシート状の磁性体とを備えるコイル部品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-203813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、ノイズの原因となるコイル部品の漏れ磁束について研究を重ねた末に、コイルを含む磁性素体の内部に磁性シートを設けることで、漏れ磁束を低減できるとの知見を得た。この場合、磁性素体と磁性シートとの間の接合が十分でないと、磁性素体と磁性シートとの界面剥離が生じることが考えられる。
【0005】
本発明の一側面は、素体と磁性シートとの間の界面剥離が抑制されたコイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係るコイル部品は、金属粉および樹脂を含む材料で構成された素体と、素体内に設けられたコイルと、素体内においてコイルの軸線に対して交差して延在し、表面の一部に窪みを有する磁性シートとを備える。
【0007】
上記コイル部品においては、磁性シートの窪みによって素体と磁性シートとの間の界面剥離が抑制されている。
【0008】
他の側面に係るコイル部品では、磁性シートが金属板で構成されている。
【0009】
他の側面に係るコイル部品では、金属粉の硬度が磁性シートの硬度より高い。
【0010】
他の側面に係るコイル部品では、磁性シートが素体内に複数層設けられている。
【0011】
他の側面に係るコイル部品では、隣り合う磁性シートの層間に、素体の材料が介在している。
【0012】
他の側面に係るコイル部品では、素体の材料が、平均粒径が異なる複数種類の金属粉を含み、磁性シートの窪みに、平均粒径がより小さい種類の金属粉と樹脂とが入り込んでいる。
【0013】
他の側面に係るコイル部品では、コイルの軸線方向から見て、磁性シートは素体の全面に亘っている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の種々の側面によれば、素体と磁性シートとの間の界面剥離が抑制されたコイル部品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係るコイル部品を示す概略斜視図である。
図2図1に示したコイル部品のII-II線断面図である。
図3図2に示したコイルの構成を示した概略斜視図である。
図4】素体と磁性シートとの界面の様子を示した要部拡大断面図である。
図5図2とは異なる態様のコイル部品を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しつつ本発明を実施するための形態を説明する。図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0017】
一実施形態に係るコイル部品1は、図1、2に示すように、素体10と、素体10内に埋設されたコイル20と、素体10の表面に設けられた一対の外部端子14A、14Bとを備えて構成されている。
【0018】
素体10は、略直方体状の外形を有し、6つの面10a~10fを有する。素体10は、一例として、長辺2.5mm、短辺2.0mm、高さ1.2mmの寸法で設計される。素体10の面10a~10fのうち、端面10aと端面10bとが互いに平行であり、上面10cと下面10dとが互いに平行であり、側面10eと側面10fとが互いに平行である。素体10の下面10dは、コイル部品1が実装される実装基板の実装面と平行に対向する面である。
【0019】
素体10は、磁性材料の一種である金属磁性粉含有樹脂で構成されている。金属磁性粉含有樹脂は、金属磁性粉体がバインダ樹脂により結着された結着粉体である。金属磁性粉含有樹脂の金属磁性粉は、たとえば鉄を含有し、合金系であるパーマロイ、センダスト、FeSiCr、FeSiや、カルボニル鉄、または、アモルファス合金、ナノ結晶等で構成されている。このような金属磁性粉は、後述する磁性シート30の硬度より高い硬度を有する材料から選択することができる。バインダ樹脂は、たとえば熱硬化性のエポキシ樹脂である。本実施形態では、結着粉体における金属磁性粉体の含有量は、体積パーセントでは75~92vol%であり、質量パーセントでは95~99wt%である。磁気特性の観点から、結着粉体における金属磁性粉体の含有量は、体積パーセントで80~92vol%、質量パーセントで97~99wt%であってもよい。
【0020】
素体10を構成する金属磁性粉含有樹脂の磁性粉は、1種類の平均粒径を有する粉体であってもよく、複数種類の平均粒径を有する混合粉体であってもよい。素体10を構成する金属磁性粉含有樹脂の磁性粉が混合粉体の場合、平均粒径が異なる磁性粉の種類やFe組成比は、同一であってもよく、異なっていてもよい。本実施形態では、素体10を構成する金属磁性粉含有樹脂は、3種類の平均粒径を有する混合粉体を含んでいる。一例として、最大の平均粒径を有する磁性粉(図4に示した大径粉13)の粒径は15~30μm、最小の平均粒径を有する磁性粉(図4に示した小径粉11)の粒径は0.3~1.5μm、大径粉と小径粉との間の平均粒径を有する磁性粉(図4に示した中径粉12)は3~10μmである。混合粉体100重量部に対して、大径粉13は60~80重量部の範囲、中径粉12は10~20重量部の範囲、小径粉11は10~20重量部の範囲で含まれていてもよい。
【0021】
コイル20は、素体10に埋設されている。図3に示すように、コイル20は、Cuなどからなる芯材21を絶縁被覆22(絶縁体)で覆ったワイヤ状の被覆導線で構成されている。コイル20は、上下方向(すなわち、上面10cと下面10dとの対面方向)に延びる軸線Zを有する。本実施形態においては、1本のコイル導線が上下方向に沿って螺旋状に多重に巻回されており、より具体的には、螺旋状に3重に巻回されている。コイル20の一端20aおよび他端20bは、素体10の下面10dに露出している。本実施形態では、コイル20の端部20a、20bは、素体10の下面10dにおいて端面10a、10bに平行な方向に延びている。コイル20の端部20a、20bはいずれも、研磨等によって絶縁被覆22が除去されており、下面10dに芯材21が露出している。コイル20の一端20aおよび他端20bは、素体10の下面10dを覆う部分の外部端子14A、14Bにそれぞれ接続されている。コイル20は、断面が円形である丸線ワイヤであってもよく、断面が四角形である平角ワイヤであってもよい。
【0022】
外部端子14A、14Bはいずれも、L字状に屈曲しており、端面10a、10bと下面10dとを連続的に覆っている。外部端子14Aは、端面10aの全域および下面10dの一部領域(具体的には、端面10a側の縁に沿って延びる矩形領域)を覆っている。外部端子14Bは、端面10bの全域および下面10dの一部領域(具体的には、端面10b側の縁に沿って延びる矩形領域)を覆っている。外部端子14A、14Bのうちの下面10dを覆う部分が、下面10dに露出したコイル20の端部20a、20bを覆っている。
【0023】
本実施形態では、外部端子14A、14Bは、樹脂電極で構成されており、たとえばAg粉を含有する樹脂で構成されている。外部端子14A、14Bは、金属メッキにより構成することができる。外部端子14A、14Bは、単層構造であってもよく、複数層構造であってもよい。外部端子14A、14Bは、素体10の表面を直接覆っていてもよく、所定の絶縁層を介して素体10の表面を間接的に覆っていてもよい。絶縁層は、たとえば、コイル20の端部20a、20bと外部端子14A、14Bとの接続領域を除く外部端子14A、14Bの形成領域の全域に亘って設けられていてもよい。このような絶縁層は、たとえばエポキシ系樹脂等の樹脂によって構成され得る。
【0024】
素体10の内部には、さらに磁性シート30が設けられている。磁性シート30は、コイル20の軸線Zに対して交差するように延在している。本実施形態では、磁性シート30は、コイル20の軸線Zに対して直交するように延在している。また、磁性シート30は、コイル20の軸線Zの方向から見て、素体10の全面に亘っている。すなわち、コイル20の軸線Zの方向から見て、素体10は矩形状を呈し、磁性シート30も素体10と実質的に同一寸法の矩形状を呈する。磁性シート30は、コイル20の軸線Zの方向から見て、素体10の全面に亘っている限りにおいて、完全なシート状であってもよく、局所的に分断されたシート状であってもよい。
【0025】
本実施形態では、磁性シート30はコイル20の上側に位置している。すなわち、磁性シート30は、素体10の上下方向(コイル20の軸線Zの方向)に関し、コイル20と素体10の上面10cとの間に位置している。本実施形態において、磁性シート30は素体10の上面10cから露出しておらず、かつ、コイル20には接していない。
【0026】
磁性シート30は、たとえば金属板(または金属リボン)で構成することができる。磁性シート30は、アモルファスリボンやナノ結晶リボンで構成することもできる。磁性シート30は、金属磁性粉と樹脂とを含む複合材料で構成することもできる。磁性シート30は、単一種類の材料で構成された単層構造であってもよく、単一種類または複数種類の材料で構成された複数層構造であってもよい。磁性シート30が複数層構造である場合、磁性シート30は、磁性材料で構成された層(磁性層)に加えて、非磁性材料で構成された層(たとえば樹脂層)を含んでいてもよい。
【0027】
図4に示されているとおり、磁性シート30は、その表面の一部に窪み30aを有する。窪み30aは、磁性シート30の一方の表面のみにあってもよく、両面にあってもよい。また、窪み30aの数は、一つでもよく、複数であってもよい。磁性シート30の窪み30aには素体10を構成する金属磁性粉含有樹脂が入り込んでおり、窪み30aは金属磁性粉含有樹脂で充たされている。図4に示すとおり、窪み30aには、金属磁性粉含有樹脂に含まれる3種類の平均粒径を有する磁性粉11、12、13のうちの小径粉11が入り込んでおり、かつ、金属磁性粉含有樹脂を構成するバインダ樹脂が入り込んでいる。
【0028】
上述したコイル部品1においては、磁性シート30の表面に設けられた窪み30aが素体10と磁性シート30との間の接合面積の拡大に寄与し、それにより、素体10と磁性シート30との間の界面剥離が抑制されている。特に、コイル20の軸線Zの方向から見て、磁性シート30が素体10の全面に亘ることで接合面積の最大化が図られ、界面剥離がより抑制され得る。
【0029】
なお、磁性シート30は、素体10内に一つだけ設けられていてもよく、素体10内に複数設けられていてもよい。図5には、3つの磁性シート30(磁性シート30A、30B、30C)が設けられた態様が示されている。3つの磁性シート30A、30B、30Cはいずれも、コイル20の軸線Zに対して交差(図5に示した態様では直交)するように延在している。磁性シート30A、30B、30Cはいずれも、コイル20の軸線Zの方向から見て、素体10の全面に亘っている。磁性シート30A、30B、30Cの全部または一部は、コイル20の軸線Zの方向から見て、素体10の全面に亘っている限りにおいて、完全なシート状であってもよく、局所的に分断されたシート状であってもよい。
【0030】
磁性シート30A、30B、30Cはいずれも、コイル20の上側に位置している。すなわち、磁性シート30A、30B、30Cはいずれも、素体10の上下方向に関し、コイル20と素体10の上面10cとの間に位置している。本実施形態において、磁性シート30A、30B、30Cはいずれも、素体10の上面10cから露出しておらず、かつ、コイル20には接していない。
【0031】
磁性シート30A、30B、30Cの層間には、素体10を構成する金属磁性粉含有樹脂が介在している。磁性シート30A、30B、30Cの層間距離は、均等であってもよく異なっていてもよい。
【0032】
磁性シート30A、30B、30Cの構成材料は、上述した磁性シート30と同様、単一種類の材料で構成された単層構造であってもよく、単一種類または複数種類の材料で構成された複数層構造であってもよい。各磁性シート30A、30B、30Cが複数層構造である場合、各磁性シート30A、30B、30Cは、磁性材料で構成された層(磁性層)に加えて、非磁性材料で構成された層(たとえば樹脂層)を含んでいてもよい。
【0033】
図5に示した形態においても、磁性シート30A、30B、30Cの全部または一部の表面に設けられた窪み30aが素体10と磁性シート30A、30B、30Cとの間の接合面積の拡大に寄与し、それにより、素体10と磁性シート30A、30B、30Cとの間の界面剥離が抑制されている。特に、コイル20の軸線Zの方向から見て、磁性シート30A、30B、30Cが素体10の全面に亘ることで接合面積の最大化が図られ、界面剥離がより抑制され得る。
【0034】
本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。たとえば、コイルの平面形状は、楕円環状や矩形環状に限らず、円環状や多角形環状であってもよい。
【0035】
上述の記載から把握されるとおり、本明細書は下記を開示している。
[付記1]
金属粉および樹脂を含む材料で構成された素体と、
前記素体内に設けられたコイルと、
前記素体内において前記コイルの軸線に対して交差して延在し、表面の一部に窪みを有する磁性シートと
を備える、コイル部品。
[付記2]
前記磁性シートが金属板で構成されている、付記1に記載のコイル部品。
[付記3]
前記金属粉の硬度が前記磁性シートの硬度より高い、付記1または2に記載のコイル部品。
[付記4]
前記磁性シートが前記素体内に複数層設けられている、付記1~3のいずれか一つに記載のコイル部品。
[付記5]
隣り合う前記磁性シートの層間に、前記素体の材料が介在している、付記4に記載のコイル部品。
[付記6]
前記素体の材料が、平均粒径が異なる複数種類の金属粉を含み、
前記磁性シートの窪みに、平均粒径がより小さい種類の金属粉と樹脂とが入り込んでいる、付記1~5のいずれか一つに記載のコイル部品。
[付記7]
前記コイルの軸線方向から見て、前記磁性シートは前記素体の全面に亘っている、付記1~6のいずれか一つに記載のコイル部品。
【符号の説明】
【0036】
1…コイル部品、10…素体、11~13…磁性粉、20…コイル、30、30A~30C…磁性シート。

図1
図2
図3
図4
図5