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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121667
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】電力変換装置および駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240830BHJP
   H02P 21/14 20160101ALI20240830BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02P21/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028886
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲田 遼一
(72)【発明者】
【氏名】重田 哲
(72)【発明者】
【氏名】中野 洋
(72)【発明者】
【氏名】金川 信康
【テーマコード(参考)】
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL28
5H505LL41
5H505LL45
5H505LL55
5H505MM12
5H770BA02
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770HA02Y
5H770HA03W
5H770HA06Z
5H770HA07Z
5H770LB05
5H770LB07
(57)【要約】
【課題】電力変換回路が故障した状態においても正しい直流電流値を計算することができる電力変換装置の提供。
【解決手段】電力変換装置は、直流電力をPWM制御により交流電力に変換して、三相交流電流をモータに出力する電力変換回路と、三相交流電流Iu,Iv,Iwをdq軸電流Id,Iqに変換する3相-2相変換部805と、直流電力の直流電圧値Vdcを検出する直流電圧センサと、モータのモータパラメータおよびdq軸電流Id,Iqに基づいてdq軸電圧Vd,Vqを計算すると共に、dq軸電圧Vd,Vq、dq軸電流Id,Iqおよび直流電圧値Vdcに基づいて直流電力の直流電流計算値Idc1を計算する直流電流計算部807と、を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力をPWM制御により交流電力に変換して、三相交流電流をモータに出力する電力変換回路と、
前記三相交流電流をdq軸電流に変換する3相-2相変換部と、
前記直流電力の直流電圧値を検出する直流電圧検出部と、
前記モータのモータパラメータおよび前記dq軸電流に基づいてdq軸電圧を計算すると共に、該dq軸電圧、前記dq軸電流および前記直流電圧値に基づいて前記直流電力の第1の直流電流値を計算する第1の演算部と、
を備える電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記第1の演算部は、少なくとも前記電力変換回路に設けられたスイッチング素子が故障の場合に、前記第1の直流電流値の計算を実施する、電力変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記三相交流電流の交流電流値を検出する交流電流検出部と、
前記PWM制御における3相分のデューティと前記交流電流値とに基づいて、前記直流電力の第2の直流電流値を計算する第2の演算部と、をさらに備え、
前記電力変換装置の動作状態および/または故障状態に応じて、前記第1の直流電流値および前記第2の直流電流値のいずれか一方を選択して使用する、電力変換装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電力変換装置において、
前記動作状態が3相短絡または3相開放である場合には、前記第1の演算部による第1の直流電流値を選択して使用する、電力変換装置。
【請求項5】
請求項3に記載の電力変換装置において、
前記電力変換回路が故障している場合には、前記第1の演算部による前記第1の直流電流値を選択して使用する、電力変換装置。
【請求項6】
請求項3に記載の電力変換装置において、
前記モータは、モータ回転角度を測定するモータ角度センサと、モータ温度を測定するモータ温度センサとを有し、
前記直流電圧検出部、前記モータ角度センサおよび前記モータ温度センサのいずれかが故障している場合には、前記第2の演算部による前記第2の直流電流値を選択して使用する、電力変換装置。
【請求項7】
請求項3に記載の電力変換装置において、
前記交流電流検出部が故障した場合には、前記第1および第2の直流電流値の代わりに、前記第1および第2の直流電流値に信頼性が無いことを報知する代替情報を使用する、電力変換装置。
【請求項8】
請求項3に記載の電力変換装置において、
前記電力変換装置の動作状態および/または故障状態に応じて、使用する直流電流値を前記第1の直流電流値から前記第2の直流電流値へ、または、前記第2の直流電流値から前記第1の直流電流値へ切り替える際には、
前記使用する直流電流値を、前記第1の直流電流値と前記第2の直流電流値との間の第3の直流電流値に遷移させた後に、切り替え後の直流電流値へと遷移させる、電力変換装置。
【請求項9】
請求項8に記載の電力変換装置において、
大きさの異なる前記第3の直流電流値を複数設定し、切り替え前の直流電流値から切り替え後の直流電流値へと段階的に近づくように、前記使用する直流電流値を遷移させる、電力変換装置。
【請求項10】
モータと、
直流電力をPWM制御により交流電力に変換して、三相交流電流を前記モータに供給する請求項1に記載の電力変換装置と、
を備える駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置および駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車のようにモータを車両走行に用いる車両では、直流電源から供給される直流電力を車載用の電力変換装置により交流電力に変換してモータ等を駆動している。このような電力変換装置において、直流電源の状態監視や電力変換装置内部の診断を実施するために、直流電源から電力変換装置に供給される直流電流を計算する技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、dq軸電圧指令とdq軸電流指令とから交流電力を計算し、その交流電力をもとに直流電流を計算する技術が開示されている。また、特許文献2には、交流電流値とデューティ値を用いて直流電流を計算する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-33970号公報
【特許文献2】特開2017-208893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電力変換回路が故障して指令通りの電圧出力ができない場合には、指令と実際の出力電圧が乖離してしまう。そのため、特許文献1,2に記載の技術のように電圧指令値やデューティ値といった指令に相当する値を使用して直流電流を計算する方法では、正しい直流電流値を計算することができないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様による電力変換装置は、直流電力をPWM制御により交流電力に変換して、三相交流電流をモータに出力する電力変換回路と、前記三相交流電流をdq軸電流に変換する3相-2相変換部と、前記直流電力の直流電圧値を検出する直流電圧検出部と、前記モータのモータパラメータおよび前記dq軸電流に基づいてdq軸電圧を計算すると共に、該dq軸電圧、前記dq軸電流および前記直流電圧値に基づいて前記直流電力の第1の直流電流値を計算する第1の演算部と、を備える。
本発明の態様による駆動装置は、モータと、直流電力をPWM制御により交流電力に変換して、三相交流電流を前記モータに供給する上記電力変換装置と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電力変換回路が故障した状態においても正しい直流電流値を計算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、車両の模式図である。
図2図2は、駆動装置の概略構成を示す図である。
図3図3は、電力変換回路の構成例を示す図である。
図4図4は、制御回路の機能の詳細を示す制御ブロック図である。
図5図5は、本発明の第2の実施形態を説明する図である。
図6図6は、動作状態と選択される直流電流計算値との対応を示す図である。
図7図7は、選択部の動作の一例を示す図である。
図8図8は、切り替え動作を多段階で行う場合の一例を示す図である。
図9図9は、本発明の第3の実施形態を説明する図である。
図10図10は、第3の実施形態における選択部の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。また、以下の説明では、同一または類似の要素および処理には同一の符号を付し、重複説明を省略する場合がある。なお、以下に記載する内容はあくまでも本発明の実施の形態の一例を示すものであって、本発明は下記の実施の形態に限定されるものではなく、他の種々の形態でも実施する事が可能である。
【0010】
(第1の実施形態)
図1~4を参照して本発明の第1の実施形態を説明する。図1は、モータ(不図示)で走行する車両の模式図である。車両1は直流電源5から電力が供給される駆動装置2を備える。図示は省略するが、駆動装置2は電力変換装置とモータと減速器を有する。モータの駆動力は、減速器を介して車輪3aが設けられた車軸4へと伝えられる。
【0011】
なお、図1に示す例では、前輪(車輪3a)の車軸4に駆動装置2を設置しているが、後輪(車輪3b)の車軸に設置してもよい。また、前後輪の車軸4に駆動装置2をそれぞれ設置してもよいし、車軸ではなく左右の各車輪3a,3bにそれぞれ独立した駆動装置2を設置してもよい。また、車軸4に対して図1で記載した駆動装置2とは別に、内燃機関を用いた駆動装置を駆動装置2と並列に設置してもよい。
【0012】
図2は、駆動装置2の概略構成を示す図である。駆動装置2の周辺には、直流電源5、制御装置6、故障通知装置7が設けられている。制御装置6は、駆動装置2に対して目標トルクτsや動作モード情報Smなどを送信する。また、制御装置6は、駆動装置2から出力される出力トルク計算値τや直流電流計算値Idcを受け取る。本実施形態では、制御装置6を1つのみ記載しているが、情報の送受信を複数の制御装置が実施してもよい。また、この制御装置6は、上述した内燃機関を用いた駆動装置の制御機能も備えている。
【0013】
直流電源5は駆動装置2内のモータ9を駆動させるための電源であり、例えばバッテリなどが該当する。故障通知装置7は、駆動装置2からの故障検知信号Sfを受け付け、搭乗者に対して故障の発生を通知する。故障の通知方法としては、例えば、ランプを点灯させる、警告音を発生させる、音声で通知するなどの方法が挙げられる。
【0014】
駆動装置2は、電力変換装置8、モータ9および不図示の減速機を備えている。減速器はモータ9の駆動力を増幅し、車軸4(もしくは車輪3a,3b)へ伝える役割を持つ。モータ9は内部に3個の巻き線を有した3相電動機であり、例えば永久磁石を用いた同期モータや永久磁石を用いない誘導モータが該当する。
【0015】
モータ9は、モータ角度センサ91およびモータ温度センサ92を備えている。モータ角度センサ91は、モータロータの回転角度を測定し、測定した角度をモータ角度センサ値θmとして電力変換装置8に出力する。モータ温度センサ92は、モータ9の温度を測定し、測定した温度をモータ温度センサ値Tmとして電力変換装置8に出力する。
【0016】
電力変換装置8は、制御装置6から入力される目標トルク等に基づいて、直流電源5から供給される直流電力を交流電力に変換しモータ9に供給する。また、電力変換装置8は、モータ9の動力を直流電力に変換して直流電源5を充電する機能も有する。
【0017】
電力変換装置8は、制御回路80、ドライバ回路81、電力変換回路82、直流電圧センサ83および交流電流センサ84を備えている。制御回路80は、制御装置6からの目標トルクτsおよび動作モード情報Smに基づいて、電力変換装置8から出力されるU,V,W相の各相の電流を所定の値に制御するためのPWM(Pulse Width Modulation)信号pwmを生成する。なお、制御回路80の詳細は後述する。ドライバ回路81は、制御回路80が出力するPWM信号pwmに基づいて、電力変換回路30に設けられた複数のパワー半導体のオン/オフを切り替えるための駆動信号を出力する。
【0018】
直流電圧センサ83は、直流電源5の出力電圧を測定するセンサであり、測定した電圧値を直流電圧センサ値Vdcとして制御回路80に出力する。交流電流センサ84は、モータ9の各相(U相、V相、W相)に流れる交流電流を測定するセンサである。交流電流センサ84が測定した各相の交流電流値は、交流電流センサ値Iu,Iv,Iwとして制御回路80に入力される。なお、図2に示す例では、交流電流センサ84は各相に1つずつセンサを備えているが、2相分のみに設けても良い。「U相電流+V相電流+W相電流=0」の関係が成り立つので、2相にセンサを設ける構成の場合には、制御回路80において残り1相分の交流電流センサ値を計算によって算出する。
【0019】
電力変換回路82は、ドライバ回路81からの駆動信号を受けて内部のパワー半導体を駆動し、モータ9に流れる電流を制御する。図3は、電力変換回路82の構成の一例を示す図である。電力変換回路82は、内部に平滑コンデンサ821と6つのパワー半導体822を有する。相(U相、V相、W相)ごとに、上アームおよび下アームを構成する2つのパワー半導体822がそれぞれ設けられている。各相の上下アームの出力端子は、モータ9の対応する相の巻き線に接続される。
【0020】
パワー半導体822はドライバ回路81から入力される駆動信号に応じてオン/オフを切り替え、直流電力と交流電力の変換を行う。このパワー半導体822には、例えばパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などが該当する。図3に示す例では、パワー半導体822としてIGBTを用いている。
【0021】
平滑コンデンサ821は、パワー半導体822のオン/オフによって生じる電流を平滑化し、直流電源5から電力変換回路82へ供給される直流電流のリップルを抑制するためのコンデンサである。平滑コンデンサ821には、例えば電解コンデンサやフィルムコンデンサが使用される。
【0022】
なお、本実施形態では、モータ中性点は浮遊状態であるが、グラウンド(図示せず)と接続しても良い。モータ中性点をグラウンドと接続する際の方法には、直接接地方式、抵抗接地方式、補償リアクトル接地方式、消弧リアクトル接地方式がある。
【0023】
図4は、制御回路80の機能の詳細を示す制御ブロック図である。制御回路80は内部に不図示のCPU、RAM、ROM、通信回路等を備えている。CPUは、ROMに格納されているプログラムをRAMに展開して実行することにより後述する各部の機能を実現する。ROMは、電気的に書き換え可能なEEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)やフラッシュROMでも良い。
【0024】
制御回路80は、状態制御部801、目標電流計算部802、電流制御部803、PWM信号生成部804、3相-2相変換部805、モータ速度計算部806、直流電流計算部807、出力トルク計算部808および診断部809を有する。
【0025】
モータ速度計算部806は、モータ角度センサ値θmの変化からモータ角速度ω0を計算する。計算したモータ角速度ω0は、目標電流計算部802、直流電流計算部807および出力トルク計算部808に入力される。
【0026】
3相-2相変換部805は、モータ角度センサ値θmに基づいて3相の交流電流センサ値Iu,Iv,Iwに対して次式(1)のようなdq変換を行い、d軸電流値Idおよびq軸電流値Iqを算出する。算出したd軸電流値Idおよびq軸電流値Iqは、電流制御部803および直流電流計算部807に出力される。
【数1】
【0027】
式(1)において、Iu、Iv、Iwは、それぞれ交流電流センサ84により測定されたU相、V相、W相の交流電流センサ値である。θはモータ9の電気角である。電気角θは、モータ角度センサ91で測定したモータ角度センサ値θmにモータ9の極対数をかけることで計算できる。なお、式(1)では、絶対変換の係数を用いてdq変換の計算を実施しているが、相対変換の係数を用いて計算してもよい。
【0028】
状態制御部801は、動作モード情報Smと診断部809が出力する故障検知信号Sfを用いて電力変換装置8の動作状態を遷移させ、現在の動作状態をPWM信号生成部804に出力する。動作状態の例としては、例えばPWM状態、3相短絡状態、3相開放状態などが挙げられる。
【0029】
目標電流計算部802は、目標トルクτs、直流電圧センサ値Vdcおよびモータ角速度ω0を用いて、モータ9が目標トルクτsと同じトルクを出力するために必要な目標電流値を計算する。目標電流値は電流制御部803に出力される。目標電流値は、例えば、d軸目標電流値とq軸目標電流値の形で表される。
【0030】
電流制御部803は、目標電流値、d軸電流値Id、q軸電流値Iq、直流電圧センサ値Vdcを用いて、d軸電流値Idおよびq軸電流値Iqが目標電流値に追従するようにフィードバック制御を行い、PWM制御における3相分のデューティDu,Dv,Dwを計算する。デューティDu,Dv,Dwは、PWM信号生成部804に入力される。
【0031】
PWM信号生成部804は、状態制御部801から出力される動作状態に応じて、ドライバ回路81に出力する信号を切り替える。PWM信号生成部804は内部にタイマ(図示せず)を有しており、動作状態がPWM状態である場合には、このタイマ値と電流制御部803が出力する各相のデューティDu,Dv,Dwを用いてPWM信号pwmを生成する。そして、PWM信号生成部804は、生成したPWM信号pwmをドライバ回路81へ出力する。
【0032】
一方、動作状態が3相開放状態である場合は、電力変換回路82内の6個のパワー半導体822(図3参照)をすべてオフにするPWM信号pwmを生成する。また、動作状態が3相短絡状態である場合は、電力変換回路82内の6個のパワー半導体822の内、上アームのパワー半導体822をすべてオフにし、下アームのパワー半導体822をすべてオンにするPWM信号pwm、あるいは、上アームのパワー半導体822をすべてオンにし下アームのパワー半導体822をすべてオフにするPWM信号pwmを生成する。
【0033】
直流電流計算部807は、d軸電流値Id、q軸電流値Iq、モータ角速度ω0およびモータパラメータR,Ld,Lq,Φに基づき、次式(2)によりd軸電圧値Vdおよびq軸電圧値Vqを計算する。
【数2】
【0034】
式(2)において、Rはモータ9の巻き線抵抗値を、Ldはモータ9のd軸インダクタンス値を、Lqはモータ9のq軸インダクタンス値を、ωはモータ9の電気角速度を、Φはモータ9の磁束をそれぞれ表す。電気角速度ωは、モータ角速度ω0にモータ極対数をかけることで計算できる。なお、Pは微分計算を表す記号である。
【0035】
モータパラメータR,Ld,Lq,Φは、事前にモータ9の特性を測定しておき、その測定結果に基づいて設定する。また、巻き線抵抗値Rおよび磁束Φはモータ9の温度によっても変化するので、本実施形態では計算精度向上のために、モータ温度センサ値Tmを用いて巻き線抵抗値Rおよび磁束Φを補正している。なお、d軸電流値Idおよびq軸電流値Iqがほぼ一定である条件下では、微分項が計算結果に与える影響は小さくなるので、計算処理低減のために微分項の計算を省略してもよい。
【0036】
次いで、直流電流計算部807は、算出したd軸電圧値Vdおよびq軸電圧値Vqと、d軸電流値Id、q軸電流値Iqおよび直流電圧センサ値Vdcとに基づいて、次式(3)により直流電流計算値Idcを計算する。式(3)は、電力変換回路82に入力される直流電力と電力変換回路82が出力する交流電力とがほぼ等しいという関係から導出した式である。式(3)において、右辺の分子=VdId+VqIqは電力変換回路82が出力する交流電力を表している。直流電流計算部807は、計算した直流電流計算値Idcを出力トルク計算部808および外部の制御装置6へ出力する。
【数3】
【0037】
直流電流計算部807の計算では、実際に測定した交流電流センサ値Iu,Iv,Iwを変換したd軸電流値Idおよびq軸電流値Iqと、d軸電流値Idおよびq軸電流値Iqと式(2)から計算されるd軸電圧値Vdおよびq軸電圧値Vqとを用いて交流電力を計算している。そのため、仮に電力変換回路82が故障して、電流制御部803が出力したデューティDu,Dv,Dw通りの交流電圧や交流電流を出力できない状態であっても、実際に出力している交流電力と実際に流れる直流電流とを正しく計算することができる。
【0038】
出力トルク計算部808は、直流電圧センサ値Vdc、直流電流計算値Idcおよびモータ角速度ω0に基づいて、モータ9が出力する出力トルクτを計算する。算出された出力トルクτは、診断部809と外部の制御装置6に出力される。
【0039】
診断部809は、電力変換装置8内部の故障を診断する。診断部809は診断により故障を検知した場合には、故障箇所の内容を故障検知信号Sfとして状態制御部801や外部の故障通知装置7に出力する。例えば、目標トルクτsと出力トルクτとを比較し、出力トルクτが目標トルクτsから一定以上逸脱していた場合には、診断部809は故障と判定する。もちろん、診断部809が実施する診断はこれのみに限らず、各種センサ値を用いてセンサや電力変換回路82の診断を実施するが、詳細説明は省略する。
【0040】
ところで、電力変換回路82に故障が発生した後でも車両1の運転を継続したい場合には、安全を担保する観点から、さらなる故障が発生した場合にはそれを検知して車両1を安全に停止させる機能が必要となる。上述したように、本実施形態では、電力変換回路82に故障が発生した場合でも正しい直流電流を計算することができ、モータ9の出力トルクτも正しく計算できる。そのため、故障後も、診断部809は目標トルクτsと出力トルクτとの乖離を診断することができる。このように、電力変換回路82の故障後にさらに別の故障が発生した場合に、その故障を診断部809によって検知することができる。その結果、電力変換回路82の故障後も、リンプホームのように一部機能を縮退しつつ車両1の運転を継続することができる。
【0041】
また、ハイブリッド自動車などで、例えばエンジンなどの別の駆動装置が車両1に搭載されている場合には、複数の駆動装置での出力トルクを協調して制御する必要がある。本実施形態では、電力変換回路82に故障が発生した後も、正しい出力トルクτを外部の制御装置6に送信できる。そのため、電力変換回路82の故障発生後も、制御装置6は出力トルクτに基づいて別の駆動装置との協調制御を継続することができる。
【0042】
(第2の実施形態)
図5は本発明の第2の実施形態を説明する図であり、上述した図4の場合と同様に制御回路80の制御ブロック図である。なお、制御回路80以外の構成については第1の実施形態と同一構成である。また、図5において、第1の実施形態と共通する構成については同一の符号を付し、以下では、主に異なる部分について説明する。
【0043】
第2の実施形態においては、制御回路80は、図4に示した構成に加えて直流電流計算部810および選択部811をさらに備える。直流電流計算部807は、第1の実施形態の場合と同様に式(2),(3)により直流電流計算値Idcを計算する。一方、直流電流計算部810は、直流電流計算部807とは異なり、交流電流センサ84により測定された交流電流センサ値Iu,Iv,Iwを用いて次式(4)により直流電流計算値Idcを計算する。
【数4】
【0044】
式(4)において、Du,Dv,Dwは電流制御部803により生成されるU相,V相,W相のデューティである。直流電流計算部810には交流電流センサ値Iu,Iv,IwおよびデューティDu,Dv,Dwが入力され、直流電流計算部810は式(4)に基づいて直流電流計算値Idcを計算する。以下では、直流電流計算部807で計算される直流電流計算値を符号Idc1で表し、直流電流計算部810で計算される直流電流計算値を符号Idc2で表すことにする。
【0045】
選択部811には、直流電流計算値として、直流電流計算部807からIdc1が入力され、直流電流計算部810からIdc2が入力される。また、選択部811には、状態制御部801から電力変換装置8の動作状態(例えば、PWM状態、3相短絡状態、3相開放状態など)が入力される。選択部811は、状態制御部801が出力する動作状態に応じて、直流電流計算値Idc1およびIdc2のいずれか一方を選択し、直流電流計算値Idcとして出力トルク計算部808や外部の制御装置6に出力する。
【0046】
図6は、動作状態と選択部811で選択される直流電流計算値との対応を示す図である。電力変換装置8がPWM動作状態である場合には、直流電流計算値Idc2が選択される。電力変換装置8が3相開放状態もしくは3相短絡状態である場合には、直流電流計算値Idc1が選択される。
【0047】
式(2)に示したように、直流電流計算部807の計算にはモータパラメータR,Ld,Lq,Φを使用している。そのため、実際のモータ9のモータ定数とのパラメータずれの影響を受けやすく、直流電流計算値Idc1は直流電流計算値Idc2と比べて精度が劣る場合がある。そのため、電力変換装置8がPWM動作状態である場合は、より計算精度の高い直流電流計算値Idc2を用いる。
【0048】
電力変換装置8が3相開放状態の場合には、6個のパワー半導体822(図3参照)はすべてオフ状態になる。そのため、式(4)におけるデューティDu,Dv,Dwは全て0になり、直流電流計算値Idc2は0[A]となる。また、3相短絡状態において上アームのパワー半導体822をオフとする場合には、3相開放時と同じくデューティDu,Dv,Dwは全て0となり、直流電流計算値Idc2は0[A]となる。一方、3相短絡状態において上アームのパワー半導体822をオンとする場合には、デューティDu,Dv,Dwは全て1となり、直流電流値は交流電流センサ値Iu,Iv,Iwの総和となる。しかし、キルヒホッフの法則により3相交流電流の和は0[A]であるため、この場合も直流電流計算値Idc2は0[A]となる。
【0049】
このように、3相開放状態および3相短絡状態では、直流電流計算値Idc2は常に0[A]となる。そのため、実際には直流電流がわずかに流れているとすると、直流電流計算値Idc1の方が、精度が良い場合がある。そこで、3相開放状態および3相短絡状態では、直流電流計算部807の計算結果である直流電流計算値Idc1を用いる。このように、2つの直流電流計算部807および810を設けて、電力変換装置8の動作状態に応じてより精度が高い直流電流計算値を選択して使用することで、正しい直流電流値を使用することができる。
【0050】
ところで、使用する直流電流計算値を選択部811により切り替える際に、切り替え前後の直流電流計算値の差が大きい場合には、切り替え動作が出力トルク計算に影響を与える場合がある。そこで、選択部811は、切り替え前後の直流電流計算値の差が所定値より大きい場合には、直流電流計算値Idc1と直流電流計算値Idc2との間の値を出力した後に、直流電流計算値Idc1,Idc2に切り替えることで切り替え動作の影響を低減するようにした。
【0051】
図7は、選択部811による切り替え動作の一例を示す図である。図7に示す例では、タイミングt1までは入力される動作状態がPWM動作状態であって、タイミングt2において動作状態が3相短絡状態または3相開放状態となった場合の切り替え動作を示している。タイミングt1までは、PWM動作状態に適した直流電流計算値Idc2が選択されている。
【0052】
次のタイミングt2では動作状態が3相短絡状態または3相開放状態に変化しているが、直ちに直流電流計算値Idc1に切り替えないで、選択部811は、直流電流計算値Idc1と直流電流計算値Idc2との平均値(Idc1+Idc2)/2を直流電流計算値Idcとして出力する。そして、さらに次のタイミングt3に、おいて直流電流計算値Idc1に切り替える。このように、切り替え前後の差が小さくなるように段階的に切り替え動作を行うことで、切り替え動作による影響を低減することができる。
【0053】
なお、図7に示す例では、Idc2→(Idc1+Idc2)/2→Idc1のように切り替えているが、切り替えの態様はこれに限定されるものではない。例えば、より多数の段階を設けて、Idc2からIdc1へ遷移させるようにしても良い。具体的には、図8に示すように、Idc1とIdc2との比率をt1(0:10)→t2(2:8)→t3(5:5)→t4(8:2)→t5(10:0)のように多段階で変化させながら、使用する直流電流値を直流電流計算値Idc2から直流電流計算値Idc1へと切り替えるようにしても良い。その結果、切り替え動作の影響をより小さく抑えることができる。
【0054】
(第3の実施形態)
図9は本発明の第3の実施形態を説明する図であり、制御回路80の制御ブロック図である。なお、制御回路80以外の構成については第2の実施形態と同一構成である。上述した第2の実施形態の図5に示した制御回路80の構成では、選択部811に対して、状態制御部801から電力変換装置8の動作状態(例えば、PWM状態、3相短絡状態、3相開放状態など)が入力された。一方、図9に示す制御回路80では、選択部811に対して、診断部809から電力変換装置8内部の故障状態に関する情報が入力される。その他の構成については、上述した図5に示す制御回路80と同様である。以下では、主に第2の実施の形態と異なる部分について説明する。
【0055】
選択部811には、直流電流計算部807,810から直流電流計算値Idc1,Idc2がそれぞれ入力されると共に、上述したように診断部809から故障状態が入力される。選択部811は、入力された故障状態に応じて、直流電流計算値Idc1、直流電流計算値Idc2および他の代替値のいずれか一つを選択する。そして、選択部811は、選択した値を直流電流計算値Idcとして出力トルク計算部808や外部の制御装置6に出力する。図10は、選択部811の動作を説明する図である。図10には、故障個所に応じて、直流電流計算部807,810における計算の可不可、および、選択する値が記載されている。
【0056】
(電力変換回路82が故障した場合)
まず、電力変換回路82が故障した場合について説明する。電力変換回路82が故障した場合、直流電流計算部810の計算では、式(4)におけるデューティDu,Dv,Dwと実際のパワー半導体822のオンオフ状態が乖離してしまうため、直流電流計算値Idc2は正しい値にならない。一方、直流電流計算部807の計算結果である直流電流計算値Idc1は、実測した交流電流センサ値Iu,Iv,Iwに基づいているので正しい値となる。そのため、電力変換回路82が故障した場合には、選択部811は直流電流計算値Idc1を選択して出力する。
【0057】
(センサ91,92,83の故障およびモータパラメータのずれが生じた場合)
次に、モータ角度センサ91、モータ温度センサ92および直流電圧センサ83が故障した場合や、モータパラメータR,Ld,Lq,Φが実際とずれた場合について説明する。d軸電流値Idおよびq軸電流値Iqを計算する式(1)における電気角θは、モータ角度センサ91で測定したモータ角度センサ値θmから算出される。また、d軸電圧値Vdおよびq軸電圧値Vqを計算する式(2)では、モータパラメータR,Ld,Lq,Φおよびモータ角度センサ値θmに基づく電気角速度ωが用いられている。その際、モータ温度センサ値Tmを用いて巻き線抵抗値Rおよび磁束Φを補正している。直流電流計算値Idcを計算する式(3)では、直流電圧センサ値Vdcが用いられている。
【0058】
このように、直流電流計算値Idc1の計算には、モータ角度センサ91、モータ温度センサ92、直流電圧センサ83の測定結果およびモータパラメータR,Ld,Lq,Φが用いられる。そのため、モータ角度センサ91、モータ温度センサ92および直流電圧センサ83が故障した場合や、モータパラメータR,Ld,Lq,Φが実際のモータ定数からずれている場合には、直流電流計算部807は正しい計算ができなくなる。そのような場合には、選択部811は、直流電流計算部810から入力された直流電流計算値Idc2を選択して出力する。
【0059】
(交流電流センサ84が故障した場合)
交流電流センサ値Iu,Iv,Iwは、式(1),(4)に示すように直流電流計算部807および直流電流計算部810の両方で使用されている。そのため、交流電流センサ84が故障すると、直流電流計算部807,810はともに直流電流計算値を正しく計算できなくなる。そこで、交流電流センサ84が故障した場合には、選択部811は、予め設定された代替値を選択して出力する。
【0060】
なお、代替値に関しては、直流電流計算部807,810の計算結果が信頼できない場合に、選択部811から代替値が出力されるものと事前に取り決めておく。また、代替値を出力する処理として、直流電流計算値(Idc1またはIdc2)と信頼性情報をセットで出力するようにしても良い。信頼性情報としては、例えば、直流電流計算値が信頼できる場合には1を出力し、信頼できない場合には0を出力する。
【0061】
このように、直流電流値が正しく計算できない場合の代替値を事前に設定しておくことで、出力トルク計算部808や外部の制御装置6は、代替値が出力された際に計算結果が信頼できないことを判定することができる。そして、後段の処理において、直流電流計算値を使用しないなどの対応を取ることが可能となる。
【0062】
以上のように、第3の実施形態では、選択部811は、電力変換装置8の故障状態に応じて、直流電流計算部807,810の計算結果および代替情報のいずれかを選択して出力する。その結果、故障状態に応じて適切に直流電流計算値を使用することができる。さらに、交流電流センサ84が故障した場合のように直流電流計算値Idc1,Idc2が計算できない場合には、代替値を選択部811から出力することで、信頼性の無い直流電流計算値の使用を防止することができる。
【0063】
なお、上述した第1~3の実施の形態において、上記の各構成、機能、処理部等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置やICカードやDVD等の記録媒体に置くことができる。
【0064】
以上説明した本発明の第1~3の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0065】
(C1)図2,4等に示すように、電力変換装置8は、直流電力をPWM制御により交流電力に変換して、三相交流電流をモータ9に出力する電力変換回路82と、三相交流電流Iu,Iv,Iwをdq軸電流(d軸電流Idおよびq軸電流Iq)に変換する3相-2相変換部805と、直流電力の直流電圧値Vdcを検出する直流電圧検出部(直流電圧センサ83)と、モータ9のモータパラメータおよびdq軸電流Id,Iqに基づいてdq軸電圧(d軸電圧Vdおよびq軸電圧Vq)を計算すると共に、dq軸電圧Vd,Vq、dq軸電流Id,Iqおよび直流電圧値Vdcに基づいて直流電力の第1の直流電流値(直流電流計算値Idc1)を計算する第1の演算部(直流電流計算部807)と、を備える。
【0066】
上述のように、モータパラメータと、実測した三相交流電流Iu,Iv,Iwおよび直流電圧値Vdcとに基づいて直流電流計算値Idc1を計算しているので、正常動作時(PWM動作時、3相開放動作時、3相短絡動作時)や電力変換回路82の故障時にも、正しい直流電流値を計算することができる。その結果、直流電流値を用いて行われる処理を、適切に行わせることができる。
【0067】
(C2)上記(C1)において、図4等に示すように、直流電流計算部807は、少なくとも電力変換回路82に設けられたスイッチング素子(パワー半導体822)が故障の場合に、直流電流計算値Idc1の計算を実施する。このように、電力変換回路82に設けられたパワー半導体822が故障した場合に、直流電流計算部807により直流電流計算値Idc1を計算することで、正しい直流電流値を計算することができる。
【0068】
(C3)上記(C1)において、図5,9等に示すように、電力変換装置8は、三相交流電流の交流電流値(交流電流センサ値Iu,Iv,Iw)を検出する交流電流検出部(交流電流センサ84)と、PWM制御における3相分のデューティDu,Dv,Dwと交流電流センサ値Iu,Iv,Iwとに基づいて、直流電力の第2の直流電流値(直流電流計算値Idc2)を計算する第2の演算部(直流電流計算部810)と、をさらに備え、電力変換装置8の動作状態および/または故障状態に応じて、直流電流計算値Idc1およびIdc2のいずれか一方を選択して使用する。
【0069】
そのため、直流電流計算値Idc1が正しく計算できない状態(モータ角度センサ91、モータ温度センサ92および直流電圧センサ83の故障、モータパラメータの実際からのずれ)や計算精度が劣る状態(PWM動作)の場合には、直流電流計算値Idc2を選択して使用する。一方、直流電流計算値Idc2が正しく計算できない状態(3相開放、3相短絡、電力変換回路82の故障)の場合には、直流電流計算値Idc1を選択して使用する。このように、電力変換装置8の動作状態および/または故障状態に応じて、直流電流計算値Idc1およびIdc2のいずれか一方を選択して使用することで、様々な状態において直流電流値を正しく計算することができる。
【0070】
(C4)上記(C3)において、図5,6等に示すように、例えば、電力変換装置8の動作状態が3相短絡または3相開放である場合には、直流電流計算部810では正しく計算できないので、電力変換装置8は、直流電流計算部807による直流電流計算値Idc1を選択して使用する。
【0071】
(C5)上記(C3)において、図9,10等に示すように、例えば、電力変換回路82が故障している場合には、直流電流計算部810では正しく計算できないので、電力変換装置8は、直流電流計算部807による直流電流計算値Idc1を選択して使用する。
【0072】
(C6)上記(C3)において、図2,9,10等に示すように、モータ9は、モータ回転角度(モータ角度センサ値θm)を測定するモータ角度センサ91と、モータ温度(モータ温度センサ値Tm)を測定するモータ温度センサ92とを有し、電力変換装置8は、直流電圧検出部(直流電圧センサ83)、モータ角度センサ91およびモータ温度センサ92のいずれかが故障している場合には、直流電流計算部807では正しく計算できないので、電力変換装置8は、直流電流計算部810による直流電流計算値Idc2を選択して使用する。
【0073】
(C7)上記(C3)において、図9,10等に示すように、交流電流検出部(交流電流センサ84)が故障した場合には、直流電流計算部807,810では直流電流値を正しく計算できないので、電力変換装置8は、直流電流計算値Idc1,Idc2を使用する代わりに、直流電流計算値Idc1,Idc2に信頼性が無いことを報知する代替情報を使用する。例えば、直流電流計算値Idc1,Idc2に代えて、代替値(信頼性なしと定義された値)を選択部811から出力する。
【0074】
(C8)上記(C3)において、図7等に示すように、前記電力変換装置8の動作状態および/または故障状態に応じて、使用する直流電流値を直流電流計算値Idc1から直流電流計算値Idc2へ、または、直流電流計算値Idc2から直流電流計算値Idc1へ切り替える際には、使用する直流電流値を、直流電流計算値Idc2と直流電流計算値Idc1との間の第3の直流電流値に遷移させた後に、切り替え後の直流電流値へと遷移させる。
【0075】
例えば、図7に示す例のように、第3の直流電流値をそれらの平均値=(Idc1+Idc2)/2に設定する。切り替えの際に、このように使用する直流電流値を遷移させることにより、切り替えの際の直流電流値の時間的な変化を緩やかにすることで、切り替え動作の影響を抑えることができる。
【0076】
(C9)さらに、上記(C8)において、図8に示すように、切替区間のタイミングt2~t4において、大きさの異なる第3の直流電流値を複数設定し、切り替え前の直流電流計算値Idc1から切り替え後の直流電流計算値Idc2へと段階的に近づくように、使用する直流電流値を遷移させるようにしても良い。図8では、t2,t3,t4におけるIdc1とIdc2との比率を(2:8),(5:5),(8:2)のように設定している。このように、使用する直流電流値を多段階で直流電流計算値Idc2から直流電流計算値Idc1へ遷移させることで、各タイミング間の直流電流値の変化をより緩やかにすることができる。その結果、切り替え動作の影響を抑えることができる。
【0077】
(C10)図2,3等に示すように、駆動装置2は、モータ9と、直流電力をPWM制御により交流電力に変換して、三相交流電流をモータ9に供給する上記(C1)に記載の電力変換装置8と、を備える。上記(C1)に記載のように、駆動装置2が備える電力変換装置8は、正常動作時(PWM動作時、3相開放動作時、3相短絡動作時)や電力変換回路82の故障時にも、正しい直流電流値を計算することができる。その結果、駆動装置2において、直流電流値を用いて行われる処理を、適切に行わせることができる。
【0078】
以上説明した各実施形態はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。例えば、図9の選択部811に、診断部809からの故障状態だけでなく図5のように状態制御部801の動作状態も入力させ、故障状態と動作状態との両方に基づいて選択処理を行うような構成としても良い。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0079】
1…車両、2…駆動装置、5…直流電源、6…制御装置、7…故障通知装置、8…電力変換装置、9…モータ、80…制御回路、81…ドライバ回路、82…電力変換回路、83…直流電圧センサ、84…交流電流センサ、91…モータ角度センサ、92…モータ温度センサ、801…状態制御部、802…目標電流計算部、803…電流制御部、804…PWM信号生成部、805…3相-2相変換部、806…モータ速度計算部、807,810…直流電流計算部、808…出力トルク計算部、809…診断部、811…選択部、822…パワー半導体
図1
図2
図3
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