(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012169
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】色彩パラメータを使用した繊維体製造の評価
(51)【国際特許分類】
G01N 21/89 20060101AFI20240118BHJP
G01N 33/36 20060101ALI20240118BHJP
D06H 3/08 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
G01N21/89 Z
G01N33/36 B
D06H3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023114917
(22)【出願日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】22184633.0
(32)【優先日】2022-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】595137491
【氏名又は名称】ゲブリューダー レプフェ アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ メニケ
(72)【発明者】
【氏名】マヌエル ブルーノ フリック
(72)【発明者】
【氏名】マルティン バーセ
(72)【発明者】
【氏名】ロジャー ヒルツィンガー
【テーマコード(参考)】
2G051
3B154
【Fターム(参考)】
2G051AA44
2G051BA08
2G051CB01
2G051DA06
2G051DA13
2G051EA17
2G051EC03
2G051EC10
3B154AB03
3B154BA53
3B154BB18
3B154BB47
3B154BC42
3B154CA13
3B154CA16
3B154DA13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】糸の前駆物質又は糸のような長尺繊維体の品質を評価するために、方法、及び装置に関する。
【解決手段】繊維体はセンサヘッド(44)の付近を通過するように移動せしめられる。第1の複数の時点において、繊維体(52)の物体パラメータが計測される。該パラメータには、色成分及び/又は他のパラメータ、例えば該繊維体の厚みが含まれうる。品質評価をより頑健にするために、パラメータ空間における偏差をスケーリングするため主成分分析が使用されてもよい。霜降糸を評価する場合にはパラメータの最小限の変化が必要とされる可能性がある、及び/又は、製造される糸に対して適用される染料の色彩が考慮される可能性がある。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺繊維体の品質を評価するための方法であって、
少なくとも1つのセンサヘッド(12,18,24,30;44)の付近を通過するように長尺繊維体(52)を移動させるステップと、
センサヘッド(12,18,24,30;44)を使用して、オンライン計測を繰り返し実行することにより繊維体(52)の物体パラメータのサンプルセットBm=(B1m・・・BKm)(K>1)を測定するステップであって、前記物体パラメータは繊維体(52)の少なくとも1つの色成分、特にいくつかの色成分を表す色彩パラメータ(Cp)を含み、m=1・・・M(M>1)であるステップと、
長尺繊維体の一部分の品質を、
A)前記一部分における色彩パラメータ(Cp)の変動性を評価し、かつ該変動性が所望の第1の変動性レベルよりも小さい場合に、警報の発出及び/又は前記一部分の少なくとも一部の除去を行うこと、及び/又は
B)前記一部分における色彩パラメータ(Cp)を、長尺繊維体(52)を染色する予定の染料の色彩を示すか又は長尺繊維体(52)が飾り糸である場合の二次的色彩を示す、二次的色彩(Cd)に対して比較すること
のうち少なくとも1つによって評価するために、サンプルBmを使用するステップと
を含む方法。
【請求項2】
色彩パラメータ(Cp)は、色空間における少なくとも1つの色成分、特にいくつかの色成分を表している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一部分における色彩パラメータ(Cp)の変動性を評価するステップと、
変動性が所望の第1の変動性レベルよりも小さい場合に、警報の発出、及び/又はその一部分のうち少なくとも一部の切り取りを行うステップと
を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
変動性は、色成分のうち1又は複数の分散、標準偏差、又は百分位数範囲の単調増加関数である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
変動性は、繊維体の長さ1cm~100cm、特に3cm~50cmについて導き出される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
時間及び/又は繊維体沿いの位置の関数として色彩パラメータ(Cp)を記録するステップと、
色彩パラメータ(Cp)の周波数分布を示す少なくとも1つのスペクトル値を測定するステップと、
スペクトル値を使用して変動性を測定するステップと
を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
制御ユニット(31)に、二次的色彩(Cd)を入力するステップと、
制御ユニット(31)を使用して、前記一部分における色彩パラメータ(Cp)を、入力された二次的色彩(Cd)に対して比較するステップと
を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
- 色彩パラメータ(Cp)と繊維体の典型的な色彩(Ct)との間の偏差(ΔC)を測定するステップと、
- 偏差(ΔC)を、二次的色彩(Cd)と典型的な色彩(Ct)との間の差に対して比較するステップと
を含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項9】
偏差(ΔC)を典型的な色彩(Ct)に対して比較するステップは、
- 二次的色彩(Cd)と典型的な色彩(Ct)との間の差に沿って、かつ二次的色彩(Cd)と典型的な色彩(Ct)との間の差に垂直に、偏差(ΔC)の成分ΔC1及びΔC2を計算するステップと、
- 成分ΔC1及びΔC2から、ΔC2ほどはΔC1に左右されない不具合スコアQ(ΔC1,ΔC2)を計算するステップと
を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
変動性が第2の変動性レベルよりも大きい場合に、警報の発出及び/又は前記一部分の少なくとも一部の除去を行うステップを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
色空間における所定方向に沿って変動性を計算するステップを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項12】
所定方向は、該繊維体についての複数の計測された色彩パラメータ(Cp)を含むデータセットの1つの主成分(wn)である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
サンプルセットBmの主成分wnを測定するステップを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項14】
センサヘッド(12,18,24,30;44)を使用して、複数の計測値(Xkm)を計測するステップと、
計測値(Xkm)から、非線形変換(Fk)を使用してサンプルBmを計算するステップであって、非線形変換(Fk)はサンプルBmの分布を対称にするように、特に前記分布を正規分布にするようになされているステップと
を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項15】
ユーザに対して警報を自動的に表示するために品質評価結果を使用するステップを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項16】
請求項1又は2に記載の方法を含む、糸を製造するための方法。
【請求項17】
前記一部分における色彩パラメータ(Cp)を、長尺繊維体(52)が染色される予定の染料の色彩を示す染め色(Cd)に対して比較するステップと、
染め色(Cd)を有する染料を用いて糸を染色するステップと
を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
糸の一部分を、前記一部分の品質評価結果に応じて除去するステップを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも1つのセンサヘッド(12,18,24,30;44)と、
請求項1又は2に記載の方法を実行するように適合及び構造化された制御ユニット(31)と
を具備する糸製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺繊維体、特に糸(ヤーン)の品質を評価する方法、及びそのような方法を実現する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的には、糸又はその他の種類の長尺繊維体、例えば糸の前駆物質などの、色成分及びその他の物体パラメータは、センサヘッドを使用して計測される。糸の品質を評価するために、該パラメータは所定範囲に入るようにモニタリングされる。この条件を満たさないという事象が検出された場合、そのサンプルは欠陥を有するものと判定される。
【0003】
糸の欠陥部分は、例えば、ヤーンクリアラにおいて巻き返し工程の間に除去することができる。そのような糸の除去作業は全体的な糸の品質を改善する一方で、時間と材料の損失をもたらす。
【発明の概要】
【0004】
[発明の開示]
よって、本発明の全般的な目的は、繊維体の品質のより優れた評価を可能にする、上記種類の方法及び装置を提供することである。
【0005】
この目的は独立請求項に記載の方法及び装置によって達成される。
【0006】
従って、本発明は、長尺繊維体、特に糸の、品質を評価する方法であって、少なくとも以下のステップを含む方法に関する。
- 長尺繊維体を、少なくとも1つのセンサヘッドの付近を通過するように移動させるステップ:該繊維体は、例えば糸の前駆物質、糸、又は糸から製造された織物であってよい。
- センサヘッドを使用して、繊維体の物体パラメータのサンプルセットBm=(B1m・・・BKm)を測定するステップ。K>1は異なる物体パラメータの数、例えば異なる色成分の数などである。サンプルは、オンライン計測、すなわち例えば製造されている糸の一続きの製造工程に沿った1以上の位置での計測によって、繰り返し測定される。物体パラメータには、繊維体の少なくとも1つの色成分を表す色彩パラメータが含まれる。有利には、色彩パラメータは、色空間における少なくとも2つの色成分、及び/又は色彩のうち少なくとも色相を表す。例えば、物体パラメータは、センサヘッドにより計測された物体色のRGB成分を含むことができる。mは、所与のBmが関係している時間及び/又は物体位置を示す添字であり、m=1・・・M(M>1、有利にはM>100)である。サンプルは実際に計測された値に相当してもよいが、典型的には実際に計測された値の関数である。例えば、計測された値は、範囲、線形性、及び/又は片寄り(offset)について補正されてもよい。
- 長尺繊維体の一部分の品質を評価するためにサンプルBmを使用するステップ:このステップは、下記ステップA及びBのうち少なくとも一方を含む:
A)前記一部分における色彩パラメータの「変動性」を評価するステップ。変動性が所望の第1の変動性レベルよりも小さい場合、警報の発出、及び/又は前記一部分のうち少なくとも一部の除去が行われる。この文脈では、「変動性」とは色彩パラメータがどの程度大きく変化するかを表す値として理解されることになり、変動性は色彩パラメータの変化が増大するにつれてより大きくなる。例えば、https://en.wikipedia.org/wiki/Statistical_dispersionを参照のこと。変動性は色彩パラメータの「統計的ばらつき」とも呼ばれる。
B)前記一部分における色彩パラメータを二次的色彩に対して比較するステップ。
二次的色彩は、下記のうちの1つであってよい:
- 長尺繊維体が染色される予定である場合、二次的色彩は染料の色彩を示す染め色であることが可能である:換言すれば、不具合スコアは、色彩パラメータ及びその後のステップで長尺繊維体を染色するための予定の色彩の、関数として計算される。
- 長尺繊維体が基本の色彩と少なくとも1つの二次的色彩とを有する飾り糸である場合、「二次的色彩」と呼ばれるのは飾り糸の二次的色彩に相当することが可能である。
【0007】
この文脈では、「飾り糸」とは、基本の糸色と、少なくとも1つの「二次的」糸色を有する意図的な異常部とを有する糸である。
【0008】
後述のように、上記の手段A及びBはいずれも色彩パラメータを予め定めた最大範囲に対して単純に比較するという従来の計画から逸脱しており、これにより、繊維体の将来的な適用を考慮の上でより差別化された品質評価を達成している。
【0009】
特に、ステップAは、ある意味では従来の方法とは逆のことを行う。従来の方法では、変動性が高い場合に欠陥の注意喚起がなされる。ステップAはむしろ、ある一定の最小限の変動性が繊維体に存在することを要求する。これは、製造工程から得られる糸が、いくつかの異なる色彩の繊維によって意図的に生産された糸でありその結果糸の長さに沿って色彩が変化する「霜降糸」、又は「飾り糸」であるように意図される場合に特に有用である。最小限の変動性が糸に存在することを確認することにより、そのような霜降糸の品質を評価することができる。変動性が小さくなりすぎた場合、欠陥に対する注意喚起、及び/又は、欠陥部分のうち少なくとも一部の、例えばヤーンクリアラにおける自動的除去を、行うことができる。これにより、従来の糸監視技法では不可能なことである、霜降りタイプの糸のモニタリング又は自動的除去が可能となる。
【0010】
ステップBに関しては、同ステップにより、例えば予定された糸染色に基づいて、色彩の偏差をその色相に応じて様々に比較検討することが可能となる。例えば、糸が青色に染色される予定である場合、青みを帯びた異常部は、異なる色相を有する異常部、例えば赤色又は緑色の異常部ほどは問題ではない場合がある。同様に、飾り糸における意図された色彩の偏差は無視することができる。よって、有利には、該方法は少なくとも以下のステップを含む:
- 装置の制御ユニットに、二次的色彩を入力するステップ:例えば、二次的色彩は、手動で制御ユニットに入力されてもよいし、デジタルデータインタフェースを使用して他の演算装置又はソフトウェアユニットに入力されてもよい。デジタルデータインタフェースにより、例えば二次的色彩を自動的に指定することが可能となる。
- 前記一部分の色彩パラメータを、入力された二次的色彩に対して比較するステップ:制御ユニットはその後、色彩パラメータを二次的色彩に対して自動的に比較することができる、すなわち制御ユニットは、計測された色彩パラメータ及び二次的色彩の関数として不具合スコアを計算することができる。
1つの実施形態では、色彩パラメータの二次的色彩に対する比較は以下のステップを含みうる:
- 色彩パラメータと繊維体の「典型的色彩」との間の偏差を測定するステップ:この文脈では、「典型的色彩」は、例えば繊維体の平均的又は中間的な色彩であってよい。実際に計測された色彩パラメータと典型的色彩との間の偏差を算出することにより、使用した色空間における色彩の偏差の「方向」を、例えば「糸は黄色を帯びた白色でなければならないが、この計測値は青色の方へと逸脱する小部分が存在することを示す」のように判断することが可能である。
- 偏差を二次的色彩と典型的色彩との間の差に対して比較するステップ。
【0011】
計測された色彩パラメータと二次的色彩との直接的比較では、最初に偏差を計算して次にその偏差を前記の差と比較することによる間接的比較ほどは意義のある結果は得られないであろう。上記の例で、かつ直径が一定であると仮定すれば、白色の繊維が青色の繊維に置き換えられたように見える。いずれにせよ糸が青色に染色される予定なのであれば、そのような青色の繊維は、例えば赤色の繊維ほどは問題とならない。
【0012】
本発明はさらに、本明細書中に記載されるような長尺繊維体の品質を評価する方法を含む、糸を製造するための方法に関する。長尺繊維体は、例えば糸そのもの、又は糸の前駆物質であってよい。
糸を製造するための方法は、特に、
- 前記一部分の色彩パラメータを、長尺繊維体が染色される予定の染料の色彩を示す染め色に対して比較するステップ(この比較は、上述のようにその後の繊維体の染色を考慮に入れながら繊維体の品質を評価するために使用される)と、
- 該染め色を有する染料を用いて糸を染色するステップと
を含むことができる。
【0013】
この組み合わせにより、糸又は糸の前駆物質の品質を評価する時に染色を考慮に入れることが可能となる。
【0014】
糸を製造するための方法はさらに、糸の一部分を前記一部分の品質評価結果に応じて除去するステップを含むことができる。換言すれば、品質評価結果は、糸の所与の一部分を除去すべきかどうかを試験するためにヤーンクリアラにおいて使用することができる。
【0015】
既述のように、本発明はさらに糸製造装置に関する。この装置は、本発明の方法を実行するために適合及び構造化された、複数のセンサヘッド及び制御ユニットを具備している。
【0016】
以降の本発明の詳細な説明を考慮すれば、本発明は一層よく理解され、かつ上記に述べた以外の目的が明白になるであろう。詳細な説明においては添付図面が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】センサヘッドにより計測される色成分の感度を正規化した例を示す図。
【
図4】計測値(A)及びそこから導き出された物体パラメータ(B)の分布を示す図。
【
図5】色彩の分散を糸の部位の関数として示すグラフ。
【
図7】繊維体について計測された色彩パラメータの値の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<定義>
物体パラメータは、長尺の物体についての計測値から導き出された少なくとも2つのパラメータを含む。物体パラメータには例えば、色彩パラメータに由来する成分(以下を参照)及び/又は本明細書中で言及されるような非光学的パラメータが挙げられる。
【0019】
色彩パラメータは、少なくとも1つ、特に数個の、色空間の色成分を含む。有利には、色彩パラメータは、色空間の少なくとも3個の色成分を含む。色空間は、センサヘッドにより検出された色彩について表現するために使用される。この場合、色空間は、有利には少なくとも可視スペクトル範囲、例えば波長380~750nmにわたる。しかしながら、色空間はさらに紫外域、例えば少なくとも250nmの低域へ、及び/又は近赤外域、例えば少なくとも1.8μmの高域へと及んでもよい。有利には、色彩パラメータは、例えばHSV色空間における、繊維体の色彩のうち少なくとも色相を表現する。
【0020】
例えば、色成分は、繊維体の光反射又は光透過を少なくとも2つの異なるスペクトル範囲において表現することができる。有利には、その間にあるスペクトルの少なくとも3つの異なるスペクトル範囲において繊維体の光反射又は光透過を示す少なくとも3つの色成分であって、特に、少なくとも3つの異なる色の各々が、少なくとも部分的に250nm~1.8μmのスペクトル範囲に、特に少なくとも部分的に380~750nmの可視スペクトル範囲に入る、色成分があるとよい。
【0021】
色空間は、RGB色空間、又は3以上の異なるスペクトル範囲の色を示す別の色空間であってもよいし、CMY又はHSV色空間であって成分がこれらの色空間における座標のうち少なくとも1つ又は2つである、例えばH座標であるものであってもよい。
【0022】
繊維体は、糸の前駆物質、特にブロールーム内のフロック流、又はカード処理及び練条によって得られるようなスライバ若しくは粗紡糸であってもよいし、紡糸工程で得られるような糸又はそのような糸から製造された織物であってもよい。いくつかの実施形態では、繊維体はさらに糸から製造された生成物であってもよい。しかし、有利には、少なくとも特許請求の範囲に記載のセンサヘッドにおいてサンプリング対象となる繊維体は、糸である。
【0023】
糸製造装置は、ブロールーム、カード機、練条機、紡績機、巻取機、及びヤーンクリアラのうち1つを少なくとも具備することができる。有利には、該装置は少なくともヤーンクリアラを具備している。
【0024】
<概観>
図1は、綿紡績工場のいくつかの要素を糸製造装置の例として概略的に示している。
【0025】
当業者には周知のように、そのような紡績工場は、綿俵を開繊してフロックとし、次にフロックに予備除塵及び微細除塵を行うことができる、ブロールーム(混打綿室)10を具備している。この工程では、1以上のフロック流が生成される。
【0026】
該フロック流を、例えばブロールーム10の微細除塵機14の中のセンサヘッド12の付近を通過するように移動させることができる。これらのセンサヘッド12の機能については下記に述べる。
【0027】
工場はさらにカード処理・練条部16を具備し、ここでフロック中の繊維は分離され、真っすぐに整えられ、成形されてスライバ及び粗紡糸となる。スライバ又は粗紡糸を、ここで再びセンサヘッド18の付近を通過させることができる。
【0028】
次のステップでは、カード処理・整列(rowing)部16からの生成物が紡糸部20へと供給され、ここで該生成物は複数の紡糸ユニット22において紡がれて糸となる。糸を、ここで再びセンサヘッド24の付近を通過させることができる。
【0029】
最後に、糸(例えばコップに巻かれたもの)は複数のヤーンクリアラ28を有する巻取部26に供給される。各ヤーンクリアラ28において、糸は、例えばコップからボビンへと巻き取られる間、センサヘッド30の付近を通過するように移動せしめられる。
【0030】
装置はさらに、個々の構成要素の作動を制御する制御ユニット31を具備する。
図1では制御ユニットは単一の要素として示されているが、分散型であること、及び/又は装置の異なる部分に属する小部分を有することも可能である。
【0031】
典型的には、制御ユニット31は、少なくとも1つのCPU32、メモリ34、例えば様々なセンサヘッド由来及び装置の他のセンサ由来のセンサ信号を受け取るための入力インタフェース36、装置のアクチュエータを制御するための出力インタフェース38、ユーザ入力を受け取るための少なくとも1つの入力制御部40、並びに操作者に情報を表示するための少なくとも1つの表示部42を具備する。
【0032】
制御ユニット31は、プログラムコード及びメモリ34に保存されたパラメータを使用して、様々な機能を実行することができる。特に、制御ユニットは、本明細書中に記載されるような方法を実行するようにプログラムされる。
【0033】
<センサヘッド>
上述のように、装置は少なくとも1つ又は複数のセンサヘッド12、18、24、30を具備する。これらのセンサヘッドは各々、繊維体の物体パラメータのうち1以上のサンプルBkmを計測するようになされており、ここで添字k=1・・・Kはパラメータを示し、かつ添字mは、サンプルが得られた際の、時間及び/又は糸の部位を示している。
【0034】
物体パラメータの数Kは有利には1よりも多い。単一のセンサヘッドがK個の物体パラメータ全部を計測するようになされてもよいし、異なるセンサヘッドが物体パラメータの異なるサブセットを計測するために提供されてもよい。
【0035】
物体パラメータのサンプルは、ベクトルBm=(B1m・・・BKm)として表すことができる。該サンプルは繰り返しかつオンラインで測定される、すなわちサンプルは繊維体が製造工程において装置で処理されている間に該繊維体について測定される。
【0036】
有利には、物体パラメータは、繊維体の色彩パラメータC=(C1・・・CN)の色成分C1・・・CN(Nは少なくとも2、特に少なくとも3である)を含む。そのような色成分Cnはそれぞれ、繊維体と所与のスペクトル範囲Wnの光との相互作用を表すことができる(すなわち相互作用によって決まる)が、このとき異なる色成分のスペクトル範囲は互いに異なっている。
【0037】
1つの実施形態では、色空間は、上記に指定されるようなスペクトル範囲の様々なスペクトル成分を基にすることができる。
【0038】
有利には、色成分Cnはそれぞれ、所与のスペクトル範囲における繊維体の光反射率について表す。しかしながら、別の実施形態では、色成分Cnはそれぞれ、所与のスペクトル範囲における繊維体の光透過について表してもよい。
【0039】
スペクトル範囲は、重なり合わないこと、及び/又は可視スペクトルのかなりの部分にわたることが有利である。これは
図2に例証されており、同図は、n=1・・・N(この場合はN=3)の色成分C
nの感度を正規化して波長λの関数として示している。各々の色成分について、W
nは半値におけるスペクトル範囲すなわち半値幅、及びM
nは最大感度波長を表わす。
【0040】
重なり合わないために、有利には、少なくとも2つ、特に少なくとも3つの色成分であって、そのスペクトル範囲Wnの相互重複(2つのスペクトル範囲Wi及びWjの相互重複Oijは
Oij=2*Wij/(Wi+Wj)
(式中のWijはWi及びWjが重複する範囲である)によって定義される)が0.25未満である色成分が存在すべきである。
【0041】
有利には、少なくとも1つのスペクトル範囲、特に少なくとも2つのスペクトル範囲は、良好な色選択性のために幅Wnが50nm未満であるべきである。
【0042】
可視スペクトルのかなりの部分に及ぶためには、有利には、最大感度Mnが互いに少なくとも50nm離れている少なくとも2つ、特に少なくとも3つの色成分が存在すべきである。
【0043】
有利には、少なくとも1つの最大感度Mnは、紫色、青色、又は緑色のスペクトル範囲、すなわち550nm未満にあり、かつ少なくとも1つの最大感度Mnは赤色のスペクトル範囲、すなわち600nmより上にある。特に、有利には、500nm未満の青色又は紫色のスペクトル範囲に1つの最大感度、500nm~600nmの緑色又は黄色/橙色のスペクトル範囲に少なくとも1つの最大感度、及び600nmより上の赤色のスペクトル範囲に少なくとも1つの最大感度がある。
【0044】
図3は、1つのセンサヘッド44について考えられる実施形態の模式図を示し、本実施形態において該センサヘッドは、繊維体の色成分及び非光学的パラメータを計測するようになされている。
【0045】
図中の実施形態では、センサヘッドは3つの光源46a、46b、46c及び光検知器48を具備している。光源46a、46b、46cは、例えば
図2のスペクトル範囲に対応する異なるスペクトル範囲の光を放射する。光センサ48はこれらの全てのスペクトル範囲について感知できる。制御回路50は、例えば光パルスを連続して放射するように光源46a、46b、46cを作動させるために、かつそのような光パルス各々について光センサ48で応答を検出するために、提供されている。
【0046】
光源46a、46b、46cからの光は検査対象の繊維体52に当たり、繊維体と相互作用し、かつ、この相互作用の後に、光センサ48によって検出される。この相互作用は有利には反射である、すなわち光センサ48は繊維体52から反射された光源46a、46b、46c由来の光を検出する。
【0047】
計測された光パルスを個々の光源46a、46b、46cに帰属させることにより、制御回路50は色成分Cnをそれぞれのスペクトル範囲Wnについて計測することができる。
【0048】
さらに別の実施形態(図示せず)では、異なるスペクトル範囲Wnにのみ感度を有する3つの別個の光検知器が、例えば広帯域の光源と組み合わせて使用されてもよい。
【0049】
色成分に適したセンサヘッドの例は、例えば、欧州特許出願公開第3748343A1号明細書に記載されている。
【0050】
図3のセンサヘッドは、繊維体52を含む計測空間(measurement volume)の静電容量を計測するようになされた静電容量センサ54をさらに具備することができる。そのようなセンサは、例えば欧州特許出願公開第3751282A1号明細書に記載されている。このセンサは繊維体の静電容量を測定するために使用される。
【0051】
図3のセンサヘッドは、例えば欧州特許出願公開第3748342A1号明細書に記載されるようなシャドウイング(shadowing)技法を使用して繊維体の直径を推定するために光源56及び光検知器58を使用する厚みセンサをさらに具備してもよい。
【0052】
図3のセンサヘッドは、例えばスイス国特許出願公開第532526号明細書又は米国特許第6650959号明細書に記載されるような、繊維体の摩擦電気特性を計測するための摩擦電気センサ60をさらに具備してもよい。
【0053】
<作動>
作動時、繊維体52はセンサヘッド44の付近を通過せしめられ、センサヘッド44は添字mで示す時間又は物体位置において計測値Xkmを生成する。計測値Xkmは、例えばフィルタリング、ダウンサンプリング、反転処理(inverting)、オフセット処理(offsetting)及び/又は平均化などの技法を使用する前処理に供されていてもよい。
【0054】
サンプルセットBm=(B1m・・・BKm)は、計測値から例えば
Bkm=Fk(Xkm) (1)
を使用して測定される。
【0055】
関数F
kは、恒等関数すなわちB
km=X
kmであってよいが、有利には、関数F
kは、下記条件のうち少なくとも1つを満たすように選択されるとよい:
A)関数F
kは、後続のステップにおける数値的安定性のより高い処理のために、計測値X
kmを等しい数値範囲へと射影するため計測値X
kmをオフセット処理及び/又はスケーリングすること。
B)関数F
kは、同じく後続のステップをより実施し易くするために、計測値X
kmを0に対して対称な範囲へと射影するようにオフセット処理すること。
C)関数F
kは非線形であってよい、すなわち物体パラメータのサンプルB
kmは計測値X
kmの非線形変換であること。特に、これにより、第1の物体パラメータセットB
kの統計的分布を中央点(例えば0)に関して対称に、かつ有利にはガウス分布にすることが可能となる。これは
図4に例証されており、同図においてグラフ(a)は所与の計測値Xの非対称な確率分布を示し、グラフ(b)は対称な確率分布を有する物体パラメータBへのXの非線形変換を示す。
【0056】
条件C)はさらに、分布を主成分(以下を参照)に沿って対称にすることもできる。
【0057】
条件C)は、例えば:
- ステップ1)
Fk(Xkm)=Xkm
a (2)
(式中、aは以降のステップにより測定される冪指数である)で表記するステップと、
- ステップ2a)複数の計測値Xkmについて、Fk(Xkm)の値を計算し、次いでFk(Xkm)の分布の非対称性、特に歪度の統計的尺度を計算し、かつ非対称性が最も小さい指数aの値を見出すステップ、又は
- ステップ2b)複数の計測値Xkmについて、Fk(Xkm)の値を計算し、Fk(Xkm)について統計的な正規性検定を実施し、かつFk(Xkm)の分布が正規分布に最も近い指数aの値を見出すステップと
によって満たすことができる。
【0058】
ステップ2a)及び/又は2b)は、等式(2)に加えて、又は等式(2)の代わりに、他の種類の関数Fk(Xkm)、例えば
Fk(Xkm)=log(Xkm) (2’)
にも適用可能である。
【0059】
別の実施形態では、セットXkm(m=1~M>>1)について、いくつかの異なる分位数が計算され、かつスケール(X軸)が、そのセットのヒストグラムを正規分布にするために非線形的に射影されてもよい。
【0060】
従って、より一般的には、本方法は、
- センサヘッドを使用して、複数の計測値Xkmを計測するステップと、
- 計測値Xkmから、非線形変換FkによりサンプルBmを計算するステップであって、非線形変換FkはサンプルBmの分布を対称にするように、特に前記分布を正規分布にするようになされているステップと
を含むことができる。
【0061】
注意すべきなのは、等式(1)が、各々の計測値Xkmが物体パラメータの対応するサンプルBkmへと射影されると仮定しているということである。しかしながら、計測値の前処理は、例えば、2以上の異なる計測値Xk’m、Xk”mを組み合わせて単一のサンプルBkmとする、すなわち
Bkm=Fk(Xk’m,Xk”m) (1’)
であるステップをさらに含むこともできる。
【0062】
このようにして測定されたサンプルセットはその後、以降の節に述べる複数の適用に使用することができる。
【0063】
<霜降糸>
上述のように、霜降糸はいくつかの異なる色彩の繊維を意図的に組み合わせることにより生産された糸であり、糸の長さに沿って様々な変化のある色彩が形成されている。
【0064】
霜降糸は、異なる繊維材料から成る混紡の霜降糸であってもよいし、同一であるが色彩の異なる繊維材料から成る非混紡の霜降糸であってもよい。本明細書の説明及び特許請求の範囲の観点では、用語「霜降糸」は、有利には「飾り糸」、特に「スラブヤーン」を包含するものと了解される。
【0065】
そのような霜降糸は、典型的には物体パラメータ、特に色彩パラメータを有し、該パラメータはその物体の長さに沿って変動するはずである。
【0066】
従って、糸の品質を評価するために、繊維体、特に加工糸の一部分における色彩パラメータの変動性を評価すること、かつ例えば、変動性が所望の第1の変動性レベルよりも小さい場合に警報の発出及び/又は前記一部分のうち少なくとも一部の除去を行うことが提案される。
【0067】
上述のように、「変動性」は、色彩パラメータがどの程度大きく変化するかを表す値として理解されるべきであり、変動性は色彩パラメータの変化が増大するにつれて大きくなる。例えば、変動性は、色成分のうち1又は複数についての分散、標準偏差、又は百分位数範囲の単調増加関数、特に狭義単調増加関数である。
【0068】
これは
図5に例証されており、同図は、長さが例えば10cmの糸について測定された、色彩と平均色との間の偏差の統計的分散に相当する縦軸を有するグラフを示している。横軸は糸上の部位である。
【0069】
この実施例では、色彩と平均色との間の変動性が、所与の色成分に関する10cmの計測区間についての分散として算出されている。
【0070】
図のように、算出された分散は通常は最小限の分散v1を上回っている。しかしながら、領域70においては、分散が低下して最小限の分散v1を下回っていることが分かる。
【0071】
したがって、例えば、算出された分散と最小限の分散v1との間の差を、霜降糸のための品質尺度として使用することができる。分散が最小限の分散v1より大きい限りは、品質は十分である。しかしながら、分散が最小限の分散v1を下回った場合は、繊維体の該当部分について、欠陥を有する可能性があるとして注意喚起を行うこと、及び/又は除去することが可能である。
【0072】
別の実施例では、最小限の分散v1は1つだけではなく、不具合の長さに応じて最小限の分散がいくつか使用されてもよい。換言すれば、分散が小さい短い糸部分に対しては不具合としての注意喚起を行わなくてもよい一方で、分散が同じ小ささの長い糸部分に対しては不具合としての注意喚起が行われる。
【0073】
同様に、変動性の高い部分に対して欠陥を有するものとして注意喚起を行うために、分散の上限が同様に提供されてもよい。やはりこの上限も、所与の部分の長さに応じたものであってよい。
【0074】
図6は、分散の様々な最小値及び(場合により)最大値を、不具合の長さに応じてどのようにして指定することができるかを例証している。領域A2及びA3は不具合について注意喚起又は除去が行われるエリアである一方、領域A1は許容可能な変化のエリアである。潜在的な欠陥部の長さが短い場合は、長い欠陥部よりも、分散の上下限を離して設定することができる。
【0075】
有利には、繊維体、特に糸の、長さが10cm~500m、特に20cm~250mである一部分について分散が計算される。
【0076】
よって、有利には、変動性は、10cm~500m、特に20cm~250mの長さの糸について導き出される。
【0077】
別の実施形態では、変動性は、色彩パラメータ(又はその色成分のうち少なくとも1つ)の「分光分析」から時間又は物体位置の関数として得ることができる。特に、該方法は以下のステップを含むことができる:
- 色彩パラメータを時間又は繊維体沿いの位置の関数として記録するステップ。
- 色彩パラメータの周波数分布を示す少なくとも1つのスペクトル値を測定するステップ。この状況では、「周波数」は、色彩パラメータの周波数をヘルツで(例えば単位1/sで)、又は色彩パラメータの空間周波数を(例えば単位1/mで)示す。スペクトル値は、例えば、所与の周波数範囲にわたる1以上の色成分のスペクトルの積分、中央値、又は最大値であってよい。このスペクトルは、例えば、所与の周波数範囲にわたるパワースペクトル密度として表現されることも可能である(https://en.wikipedia.org/wiki/Spectral_densityを参照されたい)。
- スペクトル値を使用して変動性を測定するステップ。換言すれば、変動性は、このスペクトル値の(及び場合によりさらなるパラメータの)数学関数として測定される。例えば、変動性はスペクトル値に等しくてもよいし、スペクトル値の単調関数として計算されてもよい。
【0078】
上述のように、変動性が所望の第1の変動性レベルより小さい場合に警報が発出されると有利である。これに加えて、警報はさらに、変動性が第2の変動性レベルより大きい場合にも発出されてよい。これにより、糸の色彩に変化がありすぎるのでその糸には不具合があるかもしれないということも、示すことができる。
【0079】
さらに別の実施形態では、色彩パラメータの変動性は、色空間における所定方向のみに沿って、例えば、色彩パラメータCpの各々の値をその方向に沿って伸びる線に投影し、例えばスカラー積
p=Cp・e
(式中のeは色空間における所定方向に沿った単位ベクトルである)を計算して投影値pを計算することにより、計算することが可能である。変動性はその後、投影値pの変動性として計算することができる。この場合も、変動性は、例えば、投影値pの分散、標準偏差、又は百分位数範囲の単調増加関数であってよい。
【0080】
色空間における所定方向は、例えば、事前に定義された糸の色彩変化の方向であってよい。しかし有利には、所定方向は、繊維体の複数の計測された色彩パラメータCpを含むデータセットの主成分wnのうちの1つである。有利には、所定方向は最も大きい分散が観察される主成分wnである。主成分を計算する方法については、以下の「主成分分析」節において議論される。
【0081】
<染め色又は二次的色彩>
上述のように、糸の品質の評価はさらに、二次的色彩、特に糸(又は他の繊維製品)がその製造工程の後でどのように染色される予定かを示す色彩を、考慮することができる。
【0082】
例えば、既述のように、綿糸が青色に染色される予定である場合、青みを帯びた異質な繊維は、赤色のものよりも許容される度合いが大きくてよい。
【0083】
よって、有利には、検査対象となっている繊維体の一部分の色彩パラメータが、染色に使用される色彩を示す染め色である二次的色彩Cdに対して、比較される。この文脈では、「~に対して比較される」とは、色彩パラメータ及び染色用に予定された色彩の関数である不具合スコアを計算することとして理解されることになる。
【0084】
1つの実施形態では、上記には繊維体の典型的な色彩Ctを測定することが含まれ、これは例えば、繊維体の所与の長さに沿って計測された繊維体の平均的又は中間的な色彩であってよい。
【0085】
次のステップにおいて、調査対象の部分から測定された色彩パラメータCpと典型的な色彩との間の偏差ΔCが計算される、すなわち
ΔC=Cp-Ct (3)
である(ΔC、Ct、及びCpはRGBのような色空間におけるベクトルである)。
【0086】
ここで、偏差ΔCは、染め色Cdと典型的な色彩Ctとの間の差Cd-Ctに対して比較される。これは、例えば、Cd-Ctに沿った、及びCd-Ctに対して垂直な、偏差ΔCの成分ΔC1及びΔC2を計算すること
ΔC1=ΔC・(Cd-Ct)/||Cd-Ct|| (4)
ΔC2=(||ΔC||2-ΔC12)1/2
(式中のドット・は2つのベクトルのスカラー積を示し、鉛直線||…||はベクトルの長さである適切なノルム、例えばユークリッドノルムを示している)により行うことが可能である。
【0087】
次いで、不具合スコアQ(ΔC1,ΔC2)が成分ΔC1及びΔC2の関数として計算されるが、この不具合スコアは繊維体の所与の一部分に欠陥がある尤度を示している。
不具合スコアは、ΔC2ほどはΔC1に左右されない、すなわち
|∂Q/∂ΔC1|<|∂Q/∂ΔC2| (5)
である。
【0088】
不等式(5)は、少なくともΔC1/||ΔC||<1、特に0.9<ΔC1/||ΔC||<1の値について、すなわち色彩パラメータの染め色側への片寄りがさほど大きくないかぎり、維持されるべきである。
1つの有利な実施形態では、
Q(ΔC1,ΔC2)=
ΔC2 (0<ΔC1<||Cd-Ct||について)
((ΔC1-||Cd-Ct||)2+ΔC22)1/2 (||Cd-Ct||<ΔC1について)
(ΔC12+ΔC22)1/2 (その他について)
である。
【0089】
よって、より一般的には、典型的な色彩Ctに対する偏差ΔCの比較は、以下のステップすなわち:
- 染め色Cdと典型的な色彩Ctとの間の差Cd-Ctに沿って、かつCd-Ctに垂直に、偏差ΔCの成分ΔC1及びΔC2を計算するステップと、
- 成分ΔC1及びΔC2から、ΔC2ほどはΔC1に左右されない不具合スコアQ(ΔC1,ΔC2)を計算するステップと
を含むことができる。
【0090】
別例として、調査対象の部分から測定された色彩パラメータCpと典型的な色彩との間の偏差ΔCを使用する代わりに、不具合スコアはさらに、特に繊維体の典型的な色彩Ctが白色に近い場合は、被験部分の色彩パラメータCpと染め色Cdとの間の差、すなわちCp-Cdによってのみ決まってもよい。
【0091】
注記:上述のように、二次的色彩はさらに、その物体が基本的色彩及び二次的色彩を有する飾り糸である場合の二次的色彩を表わすこともある。基本的色彩は糸の大部分に沿った色彩を示す一方、二次的色彩は糸の中の意図的な色彩異常を示す。
【0092】
<主成分分析>
既述のように、糸を評価するために主成分分析が使用されてもよい。
【0093】
この考え方の背景にある概念は
図7に関して例証されており、同図は、稼働中に所与の繊維体について計測された色彩パラメータの成分を示している。この場合3つの色成分が計測されたが、1つは青色のスペクトル範囲、1つは緑色のスペクトル範囲、及び1つは赤色のスペクトル範囲であった。
図7のドット、+印、及びx印の1つ1つが、1つの時点で計測された色成分を表わす。
【0094】
図から分かるように、値の大部分(ドットとして示されているもの)はドットで表示された「主要な」グループにとどまっているが、2つのはっきり異なる「外れ値」のグループもあり、その1つは+印で、もう1つはx印で表示されている。
【0095】
この場合、主要なグループは物体の期待される所望の色彩に近い色彩値に相当する一方、外れ値のグループは物体の中の特定の明らかな欠陥を示している。
【0096】
しかし、図から分かるように、主要なグループは対称に分布していない。むしろ、主要なグループは細長く、色空間の白‐黒の方向(輝度)に沿って伸びている。これは、例えば輝度は様々であるが色相及び彩度に乏しい材料である綿に関しては、典型的な挙動である。この理由で、色相又は彩度の変化は、通常は輝度の変化ほどは許容し難い。
【0097】
同様の問題は、羊毛、絹、又は合成繊維のような他の種類の材料についても生じうる。特に霜降糸は、異なる色彩を有する繊維の混合物であるので、特に糸を構成している繊維の2つの色彩の間の変化を示すことが多い。
【0098】
よって、有利には、本方法は、サンプルセットBmの主成分wnの測定、すなわちサンプル値の変化が生じる主な方向の測定を含む。
【0099】
図7の例では、第1主成分は実質的に輝度方向に沿って(すなわちRGB=(0,0,0)とRGB=(1,1,1)との間を)広がる一方、他の2つの主成分はそれに対して垂直に広がっている。
【0100】
「主成分」という用語の定義は、例えば、https://en.wikipedia.org/wiki/Principal_component_analysisに見出すことができる。従って、実際の座標空間における点の集合の主成分は、有利には一連のp個の単位ベクトルであり、このときi番目のベクトルは、データに最も良く適合すると同時に最初のi-1個のベクトルに対して直角である線の方向である。ここで、最も良く適合する線は、点からその線までの垂直距離の二乗の平均を最小限にするものとして定義される。
【0101】
<注記>
本システムでは、糸の前駆物質又は糸のような長尺繊維体52の品質が評価される。該繊維体は、センサヘッド20,18,24,30;44の付近を通過するように移動せしめられる。第1の複数の時点において、繊維体52の物体パラメータのサンプルが計測される。該パラメータは色成分を含むことができる。
【0102】
霜降糸の品質を評価する場合にはパラメータの最小限の変化が求められる場合がある。
【0103】
注意喚起又は除去の対象となる糸部分の数を低減するために、製造された糸に適用される染料の色彩を考慮することができる。
【0104】
本発明の現時点で好ましい実施形態について提示及び説明がなされているが、本発明はそれらに限定されるものではなく添付の特許請求の範囲の範囲内において他の形で様々に具体化及び実行されうるということは、明確に理解されるべきである。
【外国語明細書】