IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フヂイエンヂニアリング株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-車輪懸架装置および車両 図1
  • 特開-車輪懸架装置および車両 図2
  • 特開-車輪懸架装置および車両 図3
  • 特開-車輪懸架装置および車両 図4
  • 特開-車輪懸架装置および車両 図5
  • 特開-車輪懸架装置および車両 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121707
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】車輪懸架装置および車両
(51)【国際特許分類】
   B62K 5/10 20130101AFI20240830BHJP
   B62D 9/02 20060101ALI20240830BHJP
   B62K 5/01 20130101ALI20240830BHJP
   B62K 5/08 20060101ALI20240830BHJP
   B62K 25/08 20060101ALI20240830BHJP
   B62K 25/10 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
B62K5/10
B62D9/02
B62K5/01
B62K5/08
B62K25/08
B62K25/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028956
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】518328807
【氏名又は名称】フヂイエンヂニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100224661
【弁理士】
【氏名又は名称】牧内 直征
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】藤井 充
(72)【発明者】
【氏名】一尾 圭吾
【テーマコード(参考)】
3D011
3D014
【Fターム(参考)】
3D011AA07
3D011AD01
3D011AD03
3D011AD04
3D014DD03
3D014DE02
3D014DF02
(57)【要約】
【課題】高速旋回性、走行安定性、および衝撃吸収性に優れる車輪懸架装置、および該車輪懸架装置を備えた車両を提供する。
【解決手段】車輪懸架装置4は、車両1の車台2に設けられ左右一対の車輪3、3を懸架し、車輪3、3を左右同じ角度で傾斜させる傾斜機構7と、車輪3、3を左右独立して揺動可能に傾斜機構7へ支持する2つの車輪支持機構とを有し、車輪支持機構は、揺動中心となるピボット軸の周りに車輪3を回転可能に支持するスイングアームと、該スイングアームの基端部に一端部が連結される緩衝器と、該緩衝器およびスイングアームがそれぞれ回転可能に支持されるブラケットとを有し、傾斜機構7のサイド部材において上部連結部材が連結される上部連結軸と、下部連結部材が連結される下部連結軸との間に設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車台に設けられ左右一対の車輪を懸架する車輪懸架装置であって、
前記車輪懸架装置は、前記車輪を左右同じ角度で傾斜させる傾斜機構と、前記車輪を左右独立して揺動可能に前記傾斜機構へ支持する2つの車輪支持機構とを有し、
前記傾斜機構は、上下方向に延在するセンター部材と、該センター部材よりも左側の前記車輪が支持される左サイド部材と、右側の前記車輪が支持される右サイド部材と、前記センター部材、前記左サイド部材、および前記右サイド部材に対して、前記センター部材の前後方向に延びる軸回りに回転可能に連結される連結部材とを有し、前記車両の傾斜に応じて前記センター部材の長軸方向における左右の前記車輪の相対位置を変化させる機構であり、
前記連結部材は、前記左サイド部材および前記右サイド部材に連結される上部連結部材と、該上部連結部材の下方で前記左サイド部材および前記右サイド部材に連結される下部連結部材とを有し、前記連結部材の中間部が、前記センター部材に設けられた回動軸に回動可能に支持され、
前記車輪支持機構は、揺動中心となるピボット軸の周りに前記車輪を回転可能に支持するスイングアームと、該スイングアームの基端部に一端部が連結される緩衝器と、該緩衝器および前記スイングアームがそれぞれ回転可能に支持されるブラケットとを有し、前記サイド部材において前記上部連結部材が連結される上部連結軸と、前記下部連結部材が連結される下部連結軸との間に設けられていることを特徴とする車輪懸架装置。
【請求項2】
前記ブラケットは、前記スイングアームの基端部および前記緩衝器を間に挟むように前記サイド部材の短軸方向の両側に設けられる一対の板状部材を有し、
前記板状部材は、前記緩衝器の他端部を支持するために設けられた貫通孔である緩衝器支持部と、前記スイングアームの基端部よりも前記車輪側に位置する前記ピボット軸を支持するために設けられた貫通孔であるアーム支持部とを有し、
前記緩衝器支持部は、前記アーム支持部よりも下方に設けられていることを特徴とする請求項1記載の車輪懸架装置。
【請求項3】
前記スイングアームは、車幅方向の内側から前記車輪を支持する片持ち式であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の車輪懸架装置。
【請求項4】
左右一対の車輪を懸架する車輪懸架装置を、前輪および後輪の少なくともいずれかの側に備えた車両であって、
前記車輪懸架装置は、前記車輪を左右同じ角度で傾斜させる傾斜機構と、前記車輪を左右独立して揺動可能に前記傾斜機構へ支持する2つの車輪支持機構とを有し、
前記傾斜機構は、上下方向に延在するセンター部材と、該センター部材よりも左側の前記車輪が支持される左サイド部材と、右側の前記車輪が支持される右サイド部材と、前記センター部材、前記左サイド部材、および前記右サイド部材に対して、前記センター部材の前後方向に延びる軸回りに回転可能に連結される連結部材とを有し、前記車両の傾斜に応じて前記センター部材の長軸方向における左右の前記車輪の相対位置を変化させる機構であり、
前記連結部材は、前記左サイド部材および前記右サイド部材に連結される上部連結部材と、該上部連結部材の下方で前記左サイド部材および前記右サイド部材に連結される下部連結部材とを有し、前記連結部材の中間部が、前記センター部材に設けられた回動軸に回動可能に支持され、
前記車輪支持機構は、揺動中心となるピボット軸の周りに前記車輪を回転可能に支持するスイングアームと、該スイングアームの基端部に一端部が連結される緩衝器と、該緩衝器および前記スイングアームがそれぞれ回転可能に支持されるブラケットとを有し、前記サイド部材において前記上部連結部材が連結される上部連結軸と、前記下部連結部材が連結される下部連結軸との間に設けられていることを特徴とする車両。
【請求項5】
前記車両は、前記車輪懸架装置を前輪側と後輪側にそれぞれ有する四輪の車両であり、車体が、車長方向の前後に設けられる2つの前記傾斜機構と、これらの前記下部連結部材同士を接続する車台と、前記センター部材同士を接続するアッパーフレームとから構成されることを特徴とする請求項4記載の車両。
【請求項6】
前輪側の前記スイングアームが、車幅方向の内側から前記前輪を支持する片持ち式であり、
後輪側の前記スイングアームが、車幅方向の両側から前記後輪を支持する両持ち式であることを特徴とする請求項5記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三輪または四輪の車両に用いられる車輪懸架装置および車両に関する。特に、電動式四輪車両に用いられるリーン式車輪懸架装置および電動式四輪車両に関する。
【背景技術】
【0002】
オートバイのような二輪車は、車輪の角度を左右に回転させる操舵(転舵)とともに、車体を左右に傾斜できるので、四輪の自動車に比べて小さい半径で旋回でき、機動性に優れる。また、自動車よりも軽量であるため、加速性能にも優れる。
【0003】
一方で、従来の自動車は、車輪を傾斜できないため旋回半径は比較的大きくなりやすいものの、オートバイよりも多くの車輪を有することで接地性に優れ、安定して走行することができる。
【0004】
自動車よりも小型で機動性に優れるとともに走行安定性にも優れる車両として、前輪および後輪の少なくともいずれかに左右一対の車輪を備えた車両が検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、軸受メンバに左右一対の車輪からなる後車輪の車軸を貫通横架せしめて後車輪を支持し、後車輪への路面からの反力が軸受メンバに伝達され、クッションユニットで吸収、緩衝される前一輪、後二輪の三輪車が記載されている。この場合、転倒のリスクは低いものの、左右一対の後輪が一本の車軸に接続されているため、車体を傾斜することができず、旋回性能としては不十分と考えられる。
【0006】
これに対し、特許文献2には、右後輪および左後輪と、右後輪および左後輪をそれぞれピボット軸周りに回転可能に支持する後輪支持機構と、を備え、後輪支持機構は、右後輪をピボット軸周りに回転可能に支持する右スイングアームと、左後輪をピボット軸周りに回転可能に支持する左スイングアームと、右スイングアームと左スイングアームとを連動させるギヤ機構と、を備えた車体を傾斜させて旋回可能な鞍乗型車両が記載されている。この車両の場合、右スイングアームおよび左スイングアームが互いに反対方向に揺動し、右後輪および左後輪が互いに反対方向に上下動することにより、水平な路面に対して車体を傾斜させることができる旨が記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、車体フレーム、左サイド部材、および右サイド部材に対し、車体フレームの前後方向に延びるリンク軸線周りに回転可能に連結され、車体フレームの傾斜に応じて車体フレームの上下方向における左前輪および右前輪の相対位置を変化させるように構成されたリンク機構(パラレルリンク機構)と、テレスコピック式緩衝器とを備えた傾斜車両が記載されている。この車両の場合、運転者が重心移動で旋回しようとすると前左右輪は平行を維持しつつ互いに上下に動くので、車体を傾斜させても、両輪で路面を捉えながら走ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭56-128283号公報
【特許文献2】特開2013-112297号公報
【特許文献3】特開2017-88067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2に記載の車両のように、左右のスイングアームの上下運動を車体の傾斜に変換するスイングアーム方式の車輪懸架装置を備える場合、左右の車輪はスイングアームのピボット軸周りに回転するため、傾斜角度(リーン角)が大きくなるほどに車軸間の距離が大きくなりやすい。その結果、走行時に左右の車輪間距離(トレッド幅)が車幅方向(横方向)に拡がる動きをしやすく、高速旋回時に滑りなどの問題が発生するおそれがある。
【0010】
また、特許文献3に記載の車両のようにパラレルリンク方式の車輪懸架装置を備える場合、トレッド幅を狭くするとリンク機構周囲の部材間の干渉が起こりやすくなり深い傾斜角度を取りにくくなる。さらに、テレスコピック式緩衝器では、リーン中の緩衝器(サスペンション)に対して、斜め方向の荷重が掛かりやすく、応答性が悪くなりやすいと考えられる。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、高速旋回性、走行安定性、および衝撃吸収性に優れる車輪懸架装置、および該車輪懸架装置を備えた車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の車輪懸架装置は、車両の車台に設けられ左右一対の車輪を懸架する車輪懸架装置であって、上記車輪懸架装置は、上記車輪を左右同じ角度で傾斜させる傾斜機構と、上記車輪を左右独立して揺動可能に上記傾斜機構へ支持する2つの車輪支持機構とを有し、上記傾斜機構は、上下方向に延在するセンター部材と、該センター部材よりも左側の上記車輪が支持される左サイド部材と、右側の上記車輪が支持される右サイド部材と、上記センター部材、上記左サイド部材、および上記右サイド部材に対して、上記センター部材の前後方向に延びる軸回りに回転可能に連結される連結部材とを有し、上記車両の傾斜に応じて上記センター部材の長軸方向における左右の上記車輪の相対位置を変化させる機構であり、上記連結部材は、上記左サイド部材および上記右サイド部材に連結される上部連結部材と、該上部連結部材の下方で上記左サイド部材および上記右サイド部材に連結される下部連結部材とを有し、上記連結部材の中間部が、上記センター部材に設けられた回動軸に回動可能に支持され、上記車輪支持機構は、揺動中心となるピボット軸の周りに上記車輪を回転可能に支持するスイングアームと、該スイングアームの基端部に一端部が連結される緩衝器と、該緩衝器および上記スイングアームがそれぞれ回転可能に支持されるブラケットとを有し、上記サイド部材において上記上部連結部材が連結される上部連結軸と、上記下部連結部材が連結される下部連結軸との間に設けられていることを特徴とする。
【0013】
上記ブラケットは、上記スイングアームの基端部および上記緩衝器を間に挟むように上記サイド部材の短軸方向の両側に設けられる一対の板状部材を有し、上記板状部材は、上記緩衝器の他端部を支持するために設けられた貫通孔である緩衝器支持部と、上記スイングアームの基端部よりも上記車輪側に位置する上記ピボット軸を支持するために設けられた貫通孔であるアーム支持部とを有し、上記緩衝器支持部は、上記アーム支持部よりも下方に設けられていることを特徴とする。
【0014】
上記スイングアームは、車幅方向の内側から上記車輪を支持する片持ち式であることを特徴とする。
【0015】
本発明の車両は、左右一対の車輪を懸架する車輪懸架装置を、前輪および後輪の少なくともいずれかの側に備えた車両であって、上記車輪懸架装置は、上記車輪を左右同じ角度で傾斜させる傾斜機構と、上記車輪を左右独立して揺動可能に上記傾斜機構へ支持する2つの車輪支持機構とを有し、上記傾斜機構は、上下方向に延在するセンター部材と、該センター部材よりも左側の上記車輪が支持される左サイド部材と、右側の上記車輪が支持される右サイド部材と、上記センター部材、上記左サイド部材、および上記右サイド部材に対して、上記センター部材の前後方向に延びる軸回りに回転可能に連結される連結部材とを有し、上記車両の傾斜に応じて上記センター部材の長軸方向における左右の上記車輪の相対位置を変化させる機構であり、上記連結部材は、上記左サイド部材および上記右サイド部材に連結される上部連結部材と、該上部連結部材の下方で上記左サイド部材および上記右サイド部材に連結される下部連結部材とを有し、上記連結部材の中間部が、上記センター部材に設けられた回動軸に回動可能に支持され、上記車輪支持機構は、揺動中心となるピボット軸の周りに上記車輪を回転可能に支持するスイングアームと、該スイングアームの基端部に一端部が連結される緩衝器と、該緩衝器および上記スイングアームがそれぞれ回転可能に支持されるブラケットとを有し、上記サイド部材において上記上部連結部材が連結される上部連結軸と、上記下部連結部材が連結される下部連結軸との間に設けられていることを特徴とする。
【0016】
上記車両は、上記車輪懸架装置を前輪側と後輪側にそれぞれ有する四輪の車両であり、車体が、車長方向の前後に設けられる2つの上記傾斜機構と、これらの上記下部連結部材同士を接続する車台と、上記センター部材同士を接続するアッパーフレームとから構成されることを特徴とする。
【0017】
前輪側の上記スイングアームが、車幅方向の内側から上記前輪を支持する片持ち式であり、後輪側の上記スイングアームが、車幅方向の両側から上記後輪を支持する両持ち式であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の車輪懸架装置は、車輪を左右同じ角度で傾斜させる傾斜機構と、車輪を左右独立して揺動可能に傾斜機構へ支持する2つの車輪支持機構とを有し、傾斜機構は、上下方向に延在するセンター部材と、該センター部材よりも左側の車輪が支持される左サイド部材と、右側の車輪が支持される右サイド部材と、センター部材、左サイド部材、および右サイド部材に対して、センター部材の前後方向に延びる軸回りに回転可能に連結される連結部材とを有し、車両の傾斜に応じてセンター部材の長軸方向における左右の車輪の相対位置を変化させる機構であり、連結部材は、左サイド部材および右サイド部材に連結される上部連結部材と、該上部連結部材の下方で左サイド部材および右サイド部材に連結される下部連結部材とを有し、連結部材の中間部が、センター部材に設けられた回動軸に回動可能に支持され、車輪支持機構は、揺動中心となるピボット軸の周りに車輪を回転可能に支持するスイングアームと、該スイングアームの基端部に一端部が連結される緩衝器と、該緩衝器およびスイングアームがそれぞれ回転可能に支持されるブラケットとを有し、サイド部材において上部連結部材が連結される上部連結軸と、下部連結部材が連結される下部連結軸との間に設けられているので、車両の傾斜角度が大きい場合でも車軸間距離が維持されやすいとともに、緩衝器の応答性が低下しにくい。その結果、本発明の車輪懸架装置は、高速旋回性、走行安定性、および衝撃吸収性に優れる。
【0019】
ブラケットは、スイングアームの基端部および緩衝器を間に挟むようにサイド部材の短軸方向の両側に設けられる一対の板状部材を有し、板状部材は、緩衝器の他端部を支持するために設けられた貫通孔である緩衝器支持部と、スイングアームの基端部よりも車輪側に位置するピボット軸を支持するために設けられた貫通孔であるアーム支持部とを有し、緩衝器支持部は、アーム支持部よりも下方に設けられているので、車輪支持機構がコンパクトでありつつ、スイングアームがサイド部材の長軸方向に沿って動くようにできる。これにより、緩衝器に対して斜め方向からの力が掛かりにくいため、車両の傾斜角度が大きい場合でも緩衝器の応答性に優れる。
【0020】
スイングアームは、車幅方向の内側から車輪を支持する片持ち式であるので、車輪の交換が容易であるとともに、車両重量の低減に寄与する。
【0021】
本発明の車両は、左右一対の車輪を懸架する上述の車輪懸架装置を、前輪および後輪の少なくともいずれかの側に備えるので、高速旋回性、走行安定性、および衝撃吸収性に優れ、高速走行時でも直感的に運転することができる。
【0022】
車両は、車輪懸架装置を前輪側と後輪側にそれぞれ有する四輪の車両であり、車体が、車長方向の前後に設けられる2つの傾斜機構と、これらの下部連結部材同士を接続する車台と、センター部材同士を接続するアッパーフレームとから構成されるので、低重心であるとともに、車両傾斜時の接地性に特に優れ、サーキットなどでハイパフォーマンスを発揮できる四輪オートバイとして好適である。
【0023】
前輪側のスイングアームが、車幅方向の内側から前輪を支持する片持ち式であり、後輪側のスイングアームが、車幅方向の両側から後輪を支持する両持ち式であるので、前輪側の車幅が後輪側の車幅よりも小さくなり、空気抵抗を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】車輪懸架装置を備えた車両の斜視図である。
図2】車輪懸架装置の拡大斜視図である。
図3】正立状態と傾斜状態での車軸間距離を示す正面図である。
図4】車輪支持機構を斜め前方から見た透過図である。
図5】車両の側面図である。
図6】車両を上方から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の車輪懸架装置の一例について、図1に基づいて説明する。図1は、本発明の車輪懸架装置を備えた電動式の四輪車両を斜め前方から見た斜視図である。図1は、車両全体の図である。なお、「前」、「後」、「左」、「右」、「上」、「下」は、車両進行方向を向いて車両に乗った運転者から見た方向を示す。
【0026】
図1に、本発明の車輪懸架装置を備えた車両の一例として、四輪車両の斜視図を示す。図1に示すように、車両1は、車台2と、その前側に配置される左右一対の前輪31、31と、その後側に配置される左右一対の後輪32、32と、車台2の前輪側と後輪側に1つずつに設けられて車輪を懸架する車輪懸架装置4、4とを備えている。車両1は、さらに、車輪懸架装置4、4の上部を接続するアッパーフレーム5と、その上に設けられた座席6と、運転者が車両1の運転操作を行う際に把持する把持部Hとを備えている。把持部Hは、車輪を転舵させる転舵機構へ接続されるとともに、ブレーキレバーなどが設けられている。(図示省略)。なお、車両1は、転舵機構を有していなくてもよい。
【0027】
車両1の車体Bは、車輪懸架装置4の構成要素であり車長方向の前後に設けられる2つの傾斜機構7、7と、これらの下部を接続する車台2と、車台の上方に設けられるアッパーフレーム5と、から構成されている。車台2は、車両1の低重心化の観点から、2つの傾斜機構7、7の下端部同士を接続していることが好ましい。アッパーフレーム5は、後述するセンター部材同士を接続するセンターフレーム(図示省略)と、前方へ延びるヘッドパイプ51と、センターフレームおよびヘッドパイプ51の上部に設けられ車両幅方向での断面視コ字状の補強部材52とを有しており、該補強部材に座席6が固定されている。
【0028】
車台2の上には、動力源であるバッテリーや、制御装置などが設けられている(図示省略)。また、駆動装置であるモータは、いわゆるインホイールモータとして、前輪31や後輪32の内部に設けることが好ましい。この場合、各車輪の回転制御が行いやすくなるとともに、モータを車体Bに設ける場合に比べ各車輪の重量が増し、グリップ力が向上しやすい。なお、モータは、車台2の上に設けてチェンにより車輪へ動力伝達してもよい。車両1を低重心化させる観点から、バッテリーなどの重量物は、車台2上のより低い位置に設けることが好ましい。なお、本発明において、動力源としては電動式の他、ガソリン燃料などを用いる内燃機関式のエンジンであってもよい。
【0029】
車台2には、両足を載せる板状の足台Sが左右に1つずつ設けられている。なお、足台Sは、運転者の足を載せることができれば板状の部材に限らず、棒状やカップ状であってもよい。
【0030】
車両1の車幅方向の幅(最大幅)は、例えば、約60cmであり、車台2の接地面からの高さは、例えば、約20cmである。車両1の車幅方向の幅は、走行安定性と旋回性の観点から、30~150cmの範囲内であることが好ましい。また、車台2の接地面からの高さは、低重心化の観点から、5~40cmの範囲内であることが好ましい。
【0031】
一対の前輪31、31および後輪32、32は、車輪懸架装置4、4の左右にそれぞれ設けられている。各車輪3には、1つずつディスクブレーキが設けられており、前輪31と後輪32のブレーキはそれぞれ独立している。車輪3の直径は、例えば、約50cmである。車輪の直径は、走行安定性と摩擦力低減の観点から、20~80cmであることが好ましい。また、トレッド幅は、20~80cmであることが好ましい。
【0032】
本発明の車輪懸架装置の一例の詳細について、図2~4に基づいて説明する。図2は、車両前輪側の車輪懸架装置の拡大斜視図である。なお、説明のため、手前側の車輪(左前輪)が取り外された状態を示している。車輪懸架装置4は、車輪を左右同じ角度で傾斜させる傾斜機構7と、車輪を左右独立して揺動可能に傾斜機構7へ支持する2つの車輪支持機構8、8とを有している。車輪支持機構8からは、前輪を支持するスイングアーム81が前方へ伸びている。
【0033】
傾斜機構7は、上下方向に延在するセンター部材7Cと、センター部材7Cよりも左側の車輪が支持される左サイド部材7Lと、右側の車輪3が支持される右サイド部材7Rと、センター部材7C、左サイド部材7L、および右サイド部材7Rに対して、センター部材7Cの前後方向に延びる軸回りに回転可能に連結される2つの連結部材とを有している。
【0034】
連結部材は、左サイド部材7Lおよび右サイド部材7Rの上端部に連結される上部連結部材7Uと、左サイド部材7Lおよび右サイド部材7Rの下端部に連結される下部連結部材7Bとを有している。上部連結部材7Uおよび下部連結部材7Bそれぞれの中間部は、センター部材7Cに設けられた2つの回動軸O、Oに回動可能に支持される。これにより、車両を傾斜させた際に、センター部材7Cの傾斜角度が、車輪の傾斜角度と一致するため、アッパーフレームに設けられる座席および把持部も同じ角度で傾斜する。その結果、運転者は、旋回時に受ける遠心力に対して対抗しやすいため、高速旋回性により優れる。
【0035】
なお、センター部材7Cは、上部連結部材7Uおよび下部連結部材7Bのいずれか一方の中間部のみを回動可能に支持し、他方の連結部材には連結されない構成であってもよい。この場合、左右の足台への体重の掛け方や把持部の左右への移動によって車輪を傾斜させて旋回することができる。センター部材7Cには、外部から力を受けなければ上下方向に正立した状態を維持させ、外部から左右方向に力を受けると力の方向に動いて、力が除荷されると元の正立状態に戻そうとするような復元手段(例えば、ゴム状部材や板バネなどの弾性体)が設けられていることが好ましい。
【0036】
また、センター部材7Cは、上部連結部材7Uまたは下部連結部材7Bのいずれか一方の中間部のみに固定化され、他方の連結部材には連結されない構成であってもよい。この場合も、左右の足台への体重の掛け方や把持部の左右への移動によって車輪を傾斜させて旋回することができる。そして、車両下部の傾斜機構を傾斜させた際でも、センター部材7Cの傾斜角度は正立状態と変わらず、車輪の傾斜角度と異なることとなる。アッパーフレームに設けられる座席および把持部も正立状態と同じ角度のままになるため、運転者は、身体を傾斜させることなく運転することができる。旋回性の観点からは、センター部材7Cは、下部連結部材7Bの中間部のみよりも、上部連結部材7Uの中間部のみに固定化されていることが好ましい。
【0037】
傾斜機構の効果について、図3を用いて説明する。図3は、本発明の車輪懸架装置を備えた車両が正立状態にある場合と、傾斜状態にある場合での車軸間距離を示す正面図である。図3に示すように、正立状態の車両1と、傾斜状態(45°傾斜)の車両1で、車軸間距離は同じである。スイングアーム方式により傾斜する車輪懸架装置を備えた車両の場合、傾斜角度が大きくなるほどに車軸間の距離が大きくなりやすいが、本発明の車輪懸架装置を備えた車両1の場合、傾斜角度が大きくなっても車軸間距離は同じ距離を維持できる。なお、本発明の車輪懸架装置においても、車輪支持機構の衝撃吸収機能により車輪が上下する場合には車軸間距離が変化するが、その変化の程度は小さい。
【0038】
傾斜機構7の正面視での形状は、正立状態の場合は長方形であり、傾斜状態の場合は平行四辺形である。傾斜機構7は、車両1の左右への傾斜に応じて、センター部材7Cおよび左右のサイド部材の傾斜角度と同じ角度で左右の車輪の傾斜角度を変化させることができるとともに、センター部材7Cの長軸方向における左右の車輪の相対位置を変化させることができる。これにより、運転者が重心を移動して旋回する際に、左右一対の車輪同士が車軸間距離と平行を維持しつつ互いに上下に動き、両輪の接地性に優れる。その結果、転倒のリスクが低減され、走行安定性に優れる。
【0039】
車輪支持機構について、図4を用いて説明する。図4は、車輪支持機構を斜め前方から見た透過図である。図4に示すように、車輪支持機構8は、揺動中心となるピボット軸Pの周りに車輪を回転可能に支持するスイングアーム81と、スイングアーム81の基端部81aに一端部82aが連結される緩衝器82と、緩衝器82およびスイングアーム81がそれぞれ回転可能に支持されるブラケット83とを有する。車輪支持機構8、8は、左右のサイド部材7L、7Rそれぞれにおいて上部連結部材7Uが連結される上部連結軸JU、JUと、下部連結部材7Bが連結される下部連結軸JB、JBとの間に設けられている。
【0040】
ブラケット83は、スイングアーム81の基端部81aおよび緩衝器82を間に挟むようにサイド部材7L、7Rの短軸方向の両側に設けられる一対の板状部材83a、83aを有している。一対の板状部材83a、83aは、同じ形状で、車輪側へ伸びている。板状部材83aは、緩衝器82の他端部82bを支持するために設けられた貫通孔(緩衝器支持部)と、スイングアーム81の基端部81aよりも車輪側に位置するピボット軸Pを支持するために設けられた貫通孔(アーム支持部)とを備えている。緩衝器支持部は、アーム支持部よりも下方に設けられている。これにより、スイングアーム81はサイド部材の長軸方向に沿って動き、例えば、車輪が地面から衝撃を受けるとスイングアーム81の車輪側に位置する先端部が上方向へ動き、基端部81aは下方向へ動く。その結果、地面からの衝撃は、緩衝器82を圧縮する方向に作用し、吸収される。車輪支持機構8は、傾斜機構7よりも車輪側に設けられているため、トレッド幅を狭くしても左右の車輪支持機構8、8同士が干渉しにくく、傾斜角度を大きくすることができる。また、車輪支持機構8は、傾斜機構7と略同じ高さの位置に配置されることで、車両の低重心化にも寄与している。
【0041】
本発明の車輪懸架装置を備えた車両の詳細について、図5および図6に基づいて説明する。図5は、図1に示した車両の側面図であり、図6は、その車両を上方から見た平面図である。図5および図6に示すように、車両1は、車輪懸架装置4を前輪側と後輪側にそれぞれ有している。左右一対の前輪31、31は前輪側の車輪支持機構8、8から前方へ延びる2つの略L字型のスイングアーム81、81によって支持されている。また、左右一対の後輪32、32は後輪側の車輪支持機構8、8から後方へ延びる2つの略U字型のスイングアーム81、81によって支持されている。なお、本発明の車両は、前輪および後輪の少なくともいずれかの側に車輪懸架装置を備えていればよく、三輪車両であってもよい。
【0042】
前輪31側のスイングアーム81は、車幅方向の内側から前輪31を支持する片持ち式であり、後輪32側のスイングアーム81は、車幅方向の両側から後輪を支持する両持ち式である。スイングアーム81は、車輪交換の容易さや軽量化の観点からは、構造が簡易な片持ち式が好ましい。また、スイングアーム81は、強度や走行安定性の観点からは、両持ち式が好ましい。
【0043】
特に、前輪31に転舵機構が設けられる場合、車輪の左右方向一方の側に回転軸を設けるとともに他方の側には車輪の回転軌道を確保する必要があるため、前輪31側のスイングアーム81は、片持ち式であることが好ましい。また、前輪31を内側から支持することで、車体幅を小さく(車両をコンパクトに)できるため、車両1の取り扱い性に優れる。後輪32にインホイールモータが設けられる場合、後輪32側のスイングアーム81は、強度に優れ耐荷重が大きい両持ち式であることが好ましい。なお、スイングアーム81は、前輪31側、後輪32側ともに片持ち式であってもよいし、両持ち式であってもよい。
【0044】
図5に示すように、側面視での車体Bの形状は長方形である。車両1には、加速時または減速時に前後方向の力が負荷されるところ、車体の形状はその場合も長方形のまま維持され、前後方向の力は車輪支持機構8により吸収される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の車輪懸架装置および車両は、高速旋回性、走行安定性、および衝撃吸収性に優れるので、レース用、ツーリング用などの四輪車や三輪車に広く利用できる。
【符号の説明】
【0046】
1 車両
2 車台
3 車輪
31 前輪
32 後輪
4 車輪懸架装置
5 アッパーフレーム
51 ヘッドパイプ
52 補強部材
6 座席
7 傾斜機構
7C センター部材
7R 右サイド部材
7L 左サイド部材
7U 上部連結部材
7B 下部連結部材
8 車輪支持機構
81 スイングアーム
81a 基端部
82 緩衝器
82a 一端部
82b 他端部
83 ブラケット
83a 板状部材
B 車体
H 把持部
JU 上部連結軸
JB 下部連結軸
O 回動軸
P ピボット軸
S 足台
図1
図2
図3
図4
図5
図6