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特開2024-121718低温タンク、低温タンクにおける断熱層の形成方法、及び、低温タンクにおける断熱層の除去方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121718
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】低温タンク、低温タンクにおける断熱層の形成方法、及び、低温タンクにおける断熱層の除去方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 3/04 20060101AFI20240830BHJP
   B65D 90/02 20190101ALI20240830BHJP
【FI】
F17C3/04 D
B65D90/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028969
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000113517
【氏名又は名称】BASF INOACポリウレタン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(74)【代理人】
【識別番号】100173680
【弁理士】
【氏名又は名称】納口 慶太
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 龍樹
(72)【発明者】
【氏名】伊熊 健二
【テーマコード(参考)】
3E170
3E172
【Fターム(参考)】
3E170AA03
3E170AA08
3E170AB29
3E170DA09
3E170NA01
3E170VA20
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB04
3E172AB05
3E172AB11
3E172AB20
3E172BA06
3E172BB04
3E172CA10
3E172DA13
3E172DA15
(57)【要約】
【課題】断熱層の除去が容易な低温タンクを提供する。
【解決手段】低温液体16を収容可能な低温タンク10であって、内殻18と外殻20とからなる二重殻構造を有し、内殻18と外殻20の間に形成された断熱層32を備え、断熱層の少なくとも一部にはウレタンフォームが用いられ、ウレタンフォームは、圧縮強度が100kPa以下である。ウレタンフォームの熱伝導率が0.04[W/(m・K)]以下である。ウレタンフォームの少なくとも一部が、特定の吸引掘削方式又はほぐし掘削方式により除去可能であり、ウレタンフォームが、一旦除去されて再形成された再生ウレタンフォームである。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容可能な低温タンクであって、
内殻と外殻とからなる二重殻構造を有し、
前記内殻と前記外殻の間に形成された断熱層を備え、
前記断熱層の少なくとも一部にはウレタンフォームが用いられ、
前記ウレタンフォームは、
圧縮強度が100kPa以下である、低温タンク。
【請求項2】
液体を収容可能な低温タンクにおける断熱層の形成方法であって、
前記低温タンクは、
内殻と外殻とからなる二重殻構造を有し、
前記内殻と前記外殻の間に形成された断熱層とを備え、
前記断熱層の少なくとも一部にはウレタンフォームが用いられ、
前記ウレタンフォームは、
圧縮強度が100kPa以下であり、
前記ウレタンフォームの少なくとも一部を除去した後に再形成する、低温タンクにおける断熱層の形成方法。
【請求項3】
前記ウレタンフォームの圧縮強度が100kPa以下である、請求項2に記載の低温タンクにおける断熱層の形成方法。
【請求項4】
液体を収容可能な低温タンクにおける断熱層の除去方法であって、
前記低温タンクは、
内殻と外殻とからなる二重殻構造を有し、
前記内殻と前記外殻の間に形成された断熱層とを備え、
前記断熱層の少なくとも一部にはウレタンフォームが用いられ、
前記ウレタンフォームの少なくとも一部を、掘削により除去する、低温タンクにおける断熱層の除去方法。
【請求項5】
前記ウレタンフォームの圧縮強度が100kPa以下である、請求項4に記載の低温タンクにおける断熱層の除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温液体を貯蔵可能な低温タンク、低温タンクにおける断熱層の形成方法、及び、低温タンクにおける断熱層の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、液化窒素や液化天然ガス(LNG)等を貯蔵可能な低温タンクが知られている。低温タンクとは「低温液体」を貯蔵するタンクで、「低温液体」は0℃以下の液化ガスを指す。液化ガスとしては、液化窒素(約-192℃)、液化天然ガス(LNG、約-161℃)、液化石油ガス(LPG/プロパン、約-42℃)、及び、液化アンモニア(約-33℃)等を例示できる。
【0003】
低温タンクとして、二重核構造のものが知られている。低温タンクにおいては、二重殻を構成する内核と外殻との間の空間に、断熱材(保冷材)として粒状パーライトを充填し、熱伝導率を上げる要因である水分を除去するため窒素ガス等で封入することが多い。また、後掲の特許文献1~4には、低温タンクの解体時等に、パーライトを減容して除去することが開示されている。また、後掲の特許文献5には、パーライトを部分的に抜き出して低温タンクの点検を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-084428号公報
【特許文献2】特開2001-070919号公報
【特許文献3】特開2018-103099号公報
【特許文献4】特開2019-048281号公報
【特許文献5】特開平7-317996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1~4には、パーライトを減容して除去することは開示されているものの、断熱材の除去を容易に行えるようにする点については開示されていない。また、特許文献5に開示された発明では、縦横のスリットに堰板が差し込まれてパーライトが堰き止められるが、例えば、低温タンクの周囲を防液提が接近して囲っている場合などには、作業スペースが小さく、堰板をスリットに差し込む作業が容易ではないと考えられる。
【0006】
本発明は、断熱層の除去が容易な低温タンク、低温タンクにおける断熱層の形成方法、及び、低温タンクにおける断熱層の除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様による低温タンクの特徴は、
液体を収容可能な低温タンクであって、
内殻と外殻とからなる二重殻構造を有し、
前記内殻と前記外殻の間に形成された断熱層を備え、
前記断熱層の少なくとも一部にはウレタンフォームが用いられ、
前記ウレタンフォームは、
圧縮強度が100kPa以下であることである。
また、本発明のある態様による低温タンクにおける断熱層の形成方法の特徴は、
液体を収容可能な低温タンクにおける断熱層の形成方法であって、
前記低温タンクは、
内殻と外殻とからなる二重殻構造を有し、
前記内殻と前記外殻の間に形成された断熱層とを備え、
前記断熱層の少なくとも一部にはウレタンフォームが用いられ、
前記ウレタンフォームは、
圧縮強度が100kPa以下であり、
前記ウレタンフォームの少なくとも一部を除去した後に再形成することである。
上記態様の断熱層の形成方法において、
前記ウレタンフォームの圧縮強度が100kPa以下であってもよい。
また、本発明のある態様による低温タンクにおける断熱層の除去方法の特徴は、
液体を収容可能な低温タンクにおける断熱層の除去方法であって、
前記低温タンクは、
内殻と外殻とからなる二重殻構造を有し、
前記内殻と前記外殻の間に形成された断熱層とを備え、
前記断熱層の少なくとも一部にはウレタンフォームが用いられ、
前記ウレタンフォームの少なくとも一部を、掘削により除去することである。
上記態様の断熱層の形成方法において、
前記ウレタンフォームの圧縮強度が100kPa以下であってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、断熱層の除去が容易な低温タンク、低温タンクにおける断熱層の形成方法、及び、低温タンクにおける断熱層の除去方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る低温タンクを概略的に示す断面図である。
図2】側壁部の断熱層に穴を掘り始めた状態を概略的に示す説明図である。
図3】(a)は図2の穴を上方に掘り進めた状態を概略的に示す説明図、(b)は(a)の穴を異なる方向から示す説明図である。
図4】吸引掘削方式に使用される吸引ホースと吸引装置を概略的に示す説明図である。
図5】吸引掘削方式に使用されるほぐし機を概略的に示す説明図である。
図6】(A1)はバージンフォームを示す写真画像、(A2)はバージンフォームの30倍の組織を示す写真画像、(A3)はバージンフォームの200倍の組織を示す写真画像、(B1)は再構成材の一例を示す写真画像、(B2)は再構成材の一例に係る30倍の組織を示す写真画像、(B3)は再構成材の一例に係る200倍の組織を示す写真画像である。
図7】(a)は物性用試料を概略的に示す平面図、(b)は物性用試料の断面を概略的に示す説明図である。
図8】傾斜テストに用いられる機器を一部縦断して概略的に示す説明図である。
図9】屋根部の断熱層に穴を掘り始めた状態を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本実施形態、及び、本実施形態に係る図面において、同一の符号が付された構成要素は、同様の構造又は機能を有するものとする。また、同様の構造又は機能を有する構成が、作図上の事情等により、互いに異なる図において異なる縮尺や形状で記載されている場合があるものとする。
【0011】
<低温タンク10の基本構造>
図1は、本実施形態に係る低温タンク10の構造を概略的に示している。低温タンク10は、ドームルーフ構造のタイプであり、二重殻構造を有している。低温タンク10は、例えば、液化窒素、液化天然ガス(LNG)、又は、液化プロパンガス(LPG)、液化アンモニア等といった低温液体16を内部に備蓄する。
【0012】
低温タンク10は、屋根部12と、屋根部12を支持する側壁部14とを有している。なお、図1では、低温液体16の出入り口となる側ノズル等は、図示が煩雑になるのを防ぐため不図示である。また、低温タンク10は、ドームルーフ構造のタイプに限らず、他のタイプ(サスペンデッド・デッキ構造など)であってもよい。
【0013】
低温タンク10は、内側に配置された内殻18と、外側に配置された外殻20とを備えている。内殻18は、内側屋根部22と、内側屋根部22を支持する内側側壁部24とを有している。内側屋根部22は、上方に突出した屋根型の形状(「ドーム状」や「曲面状」などともいう)に形成されており、傾斜する曲面を有している。内側側壁部24は、円形容器状に形成されており、内側屋根部22に連続している。
【0014】
外殻20も、内殻18の外側において、外側屋根部26と、外側屋根部26を支持する外側側壁部28とを有している。外側屋根部26は、上方に突出した屋根型の形状(「ドーム状」や「曲面状」などともいう)に形成されており、傾斜する曲面を有している。外側側壁部28は、円形容器状に形成されており、外側屋根部26に連続している。
【0015】
内殻18の内側屋根部22と、外殻20の外側屋根部26は、低温タンク10の屋根部12を構成している。内殻18の内側側壁部24と、外殻20の外側側壁部28は、低温タンク10の側壁部14を構成している。
【0016】
本明細書において、内殻18と外殻20の間に介在する領域(空間)を保冷部30とする。保冷部30は、屋根部12の保冷部30aと、側壁部14の保冷部30bを含んで構成されている。低温タンク10の屋根部12において、保冷部30aは、内側屋根部22と外側屋根部26によりドーム状に形成されている。側壁部14においては、保冷部30bは、内側側壁部24と外側側壁部28により円筒状に形成されている。
【0017】
保冷部30を構成する内殻18と外殻20との間隔(保冷部30の幅)は、例えば、500mm~1500mmとすることができる。保冷部30には、断熱層32が形成されている。断熱層32については後述する。
【0018】
屋根部12の天頂部(外殻20の天頂部)には、円形容器状の外側頂部マンホール31が設けられている。外側頂部マンホール31は、外殻20に形成されており、外側頂部マンホール31の内側の空間は、保冷部30と繋がっている。図示は省略するが、外側頂部マンホール31は、施工を行う作業者Aが、蓋を開放し、断熱層32に接近することを可能としている。
【0019】
低温タンク10の底部34にも、保冷構造が採用されている。底部34の保冷構造としては、低温タンク10の底部34に係る従来の種々の保冷構造を採用できる。図1の例では、底部34は、パーライトブロック・クッションや、パーライトコンクリート等を用いて形成されている。
【0020】
なお、低温タンク10の底部34が地面から浮くように支持されていてもよい。
【0021】
<断熱層32>
保冷部30には断熱層32が充填されている。断熱層32は、低温タンク10における保冷構造を構成する。本実施形態において断熱層32には、硬質ウレタンフォーム(以下では「ウレタンフォーム」と称する)が用いられている。ウレタンフォームは、保冷部30でウレタン樹脂組成物(「ウレタンフォーム原料」ともいう)の吹付け作業を行い、膨張したウレタン樹脂組成物が硬化することにより形成されている。ウレタン樹脂組成物には、2液系であってもよいし、1液系であってもよい。ウレタン樹脂組成物は、公知の添加剤(難燃剤等)を含んでいてもよい。
【0022】
断熱層32を構成するウレタンフォームは、熱伝導率が0.04[W/(m・K)]以下である。また、このウレタンフォームは、圧縮強度が100kPa以下であることが好適であり、50kPa以下であればより好適であり、30kPa以下であればさらに好適である。また、このウレタンフォームは、引張強度が100kPa以下である。
【0023】
つまり、断熱層32を構成するウレタンフォームは、一般的なパーライトと同程度以上の熱伝導率を有するとともに、適度に設定された機械的強度を有している。このような物性のウレタンフォームを用いることにより、断熱層32としての機能を十分に発揮させつつ、一時的な除去作業を容易に行うことが可能となる。
【0024】
例えば、低温タンク10の建造後に、内殻18の限定的な部位に対して、密閉性の確認等のための検査を行おうとする場合を想定する。特に近年は、構築後20年を経過した低温タンクを継続して使用することが考えられており、要所での点検や、部品の取り換えを行う開放検査の必要性が高まっている。開放検査を行う箇所としては、図示は省略されているが、前述した側ノズルの外周部や溶接部、内殻18を支えるアンカーストラップ等を挙げることができる。アンカーストラップは、通常、内殻18の外側下部に、等間隔(例えば2m間隔)で放射状に多数設置され、端部が内殻18と底部34とに接続されて、内殻18を支える。このような開放検査を行う場合、内殻18の、限定的な部位に在る検査対象箇所(例えば、図3(a)、(b)に二点鎖線36で囲って示す箇所)を露出させるために、断熱層32を除去することが必要となる。
【0025】
図示は省略するが、断熱層32に粒状のパーライトを用い、且つ、断熱層32を除去する場合、積み上がっているパーライトを吸い上げる必要がある。さらに、低温タンク10の外部に導出し、断熱層32に係る最上部の高さを徐々に下げる必要がある。
【0026】
つまり、粒状のパーライトには形態安定性がないことから、パーライトを部分的に除去しようとしても、周囲のパーライトが、除去により生じた空洞に順次流れ込む。そして、低温タンク10の周方向の全体に亘る分のパーライトを除去し続け、検査対象箇所が現れるまで、断熱層32の全体としての高さを低下させる必要がある。このため、検査対象箇所に最短距離で到達するように穴(図3(a)、(b)に一例の穴33を示す)を掘り進めるような場合に比べて、多量のパーライトを除去しなければならず、検査作業が大掛かりなものとなる。
【0027】
これに対し、断熱層32に、ウレタンフォームを用いることにより、断熱層32の除去作業時に、断熱層32の形態安定性を発揮できる。そして、断熱層32を部分的に除去した場合に、断熱層32を構成する素材が流れ込むのを防止できる。したがって、例えば、図2図3(a)、(b)の右下の部分や、図9の上の部分に示すように、断熱層32に穴33を形成することが可能となる。
【0028】
そして、図3(a)、(b)や図9に示すように、検査対象箇所(二点鎖線36により囲って示す)に向かって穴33を掘り進めることで、内殻18の検査対象箇所を露出させることができるようになる。
【0029】
ここで、図2及び図9は、穴33に係る掘り始めの状態の一例を示している。また、図3(a)は、穴33が、上方に掘り進められて検査対象箇所(二点鎖線36)に到達した状態の一例を概略的に示しており、(b)は、図3(a)の穴33を異なる方向(90℃向きを変えた方向)から見た状態を概略的に示している。図9は、外側頂部マンホール31から穴33を掘り始める状態の一例を示している。
【0030】
このように、断熱層32を構成するウレタンフォームに穴33を形成して検査対象箇所を露出させる作業によれば、断熱層32の除去量は、簡易的には、例えば、(検査対象箇所の大きさ(面積))×(穴33の長さ(高さ、深さ))の式により算出できる。このため、粒状のパーライトを全周に亘り高さ方向に除去する場合に比べて、断熱層32の除去量が少ない。そして。これらのことから、本実施形態の低温タンク10によれば、断熱層32の除去が容易である。ここで、穴33を掘る作業は、低温液体16を低温タンク10から抜いた状態で行われている。
【0031】
<断熱層32の除去方法>
上述のようにウレタンフォームを、圧縮強度が100kPa以下のものとしたり、引張強度が100kPa以下のものとしたりすることで、断熱層32を、十分な強度を有しつつも、容易に粉砕できるものとすることが可能である。以下に、断熱層32の具体的な除去方法について、例を挙げて説明する。
【0032】
<<除去方法1:吸引掘削方式>>
先ず、除去方法1として、吸引掘削方式による除去方法を採用することが可能である。吸引掘削方式による除去方法では、図2に示すように、低温タンク10の外にバキューム車40が配置され、バキューム車40には吸引ホース42が接続される。低温タンク10には、作業者Aが保冷部30に進入することを可能とする工事口35が設けられる。工事口35は、開放検査のため、一時的に外殻20の一部を切り取って形成される。工事口35は、開放検査後には塞がれて、外殻20が復元される。
【0033】
図示は省略するが、工事口35が開放されて断熱層32が露出し、露出した断熱層32に、吸引ホース42の先端部43が押し当てられる。吸引ホース42には、図4に概略的に示すように、吸引装置44が備えられている。吸引装置44は、作業者Aにより把持されるハンドル部45を有している。吸引ホース42の先端部43には、凹凸のある引っ掻き部46が形成されている。引っ掻き部46は、金属又は合成樹脂により形成されている。
【0034】
作業者A(図2)が、吸引ホース42の先端部43を、断熱層32に押し付けながら移動させることで、断熱層32が引っ掻かれ、部分的に粉砕される。粉砕されて断熱層32から分離したウレタンフォーム(以下では「粉砕ウレタンフォーム」と称する)が、吸引ホース42を通って、バキューム車40(図2)のタンクに回収される。粉砕により、断熱層32に空洞が生じ、図2に示すような穴33が形成される。
【0035】
図2及び図3(a)、(b)の例では、穴33が上方に掘り進められている。図3(a)、(b)に示すように、穴33が検査対象箇所(二点鎖線36)に達すると、検査対象箇所が露出する。そして、露出した検査対象箇所に対して、所定の検査が可能となる。
【0036】
図9の例では、穴33が屋根部12における径方向(外周側)に向かって掘り進められている。図9に示すように、穴33が検査対象箇所(二点鎖線36)に達すると、検査対象箇所が露出する。そして、露出した検査対象箇所に対して、所定の検査が可能となる。
【0037】
<<除去方法2:ほぐし掘削方式>>
また、除去方法1とは異なる除去方法2として、ほぐし機(「エアースコップ」などともいう)50(図5)を用いた方式(ほぐし掘削方式)を採用することが可能である。ほぐし機50は、図5に模式的に示すように、エアホース52、笠54、エアノズル56等を有している。
【0038】
作業者Aは、エアホース52を持ち、エアノズル56を断熱層32に対向させる。エアホース52の先端からは圧縮空気が噴射され、ウレタンフォームがほぐされる。ほぐされたウレタンフォームは、粉砕ウレタンフォームとなり、例えば下方に落下して、手作業や吸引により回収される。
【0039】
<除去方法1や除去方法2によるメリット>
除去方法1や除去方法2のような方法により断熱層32の除去を行うことによって、比較的簡便な掘削機器により、断熱層32の除去を行うことができる。また、上述した各種の除去方法により、部分的に(局所的に)、断熱層32を除去できる。そして、可能な限り内殻18や、周囲の付属物を傷つけることなく、断熱層32の除去を行うことが可能となる。
【0040】
また、除去方法1や除去方法2(吸引を行った場合)によれば、粉砕ウレタンフォームが吸引されて自動的に回収される。したがって、粉砕ウレタンフォームを掻き出す手間が不要であり、除去作業を容易に行うことが可能である。
【0041】
さらに、先鋭なスコップを用いて粉砕ウレタンフォームを除去する場合に比べて、内殻18や外殻20の表面を傷付け難い(特に除去方法2の場合)。なお、除去方法1や除去方法2のような方法により粉砕ウレタンフォームの除去を行う際に、樹脂製掘削用品(上述のスコップや熊手等)を補助的に用いて、断熱層32を粉砕してもよい。
【0042】
<帯電防止策>
上述のような各種の除去方法を採用するにあたり、断熱層32の掘削時の摩擦により、ウレタンフォームが帯電することが考えられる。このようなウレタンフォームの帯電を防止するため、ウレタンフォームの吹付け時に、ウレタンフォーム原料に、帯電防止剤を添加し、帯電防止策を施すことが可能である。このようにすることで、事前に、ウレタンフォーム帯電防止効果を持たせることができる。そして、断熱層32の除去時に、ウレタンフォームが帯電するのを防止できる。
【0043】
また、その他の帯電防止方法として、掘削時に帯電防止策を施すことも可能である。この場合、例えば、掘削時に湿度調整を行い、ウレタンフォームに、帯電防止できる程度の湿度を与える。より具体的には、水の噴霧により、ウレタンフォームに加湿することなどが考えられる。
【0044】
また、その他の帯電防止方法として、イオナイザーを用いて除電を行ってもよい。イオナイザーは、静電気をイオンにより中和する。イオナイザーとしては一般的な種々のものを採用できる。
【0045】
<ウレタンフォームの再利用>
<<ウレタンフォームの粉砕と充填>>
検査後には、断熱層32の除去により生じた空洞(穴33など)を埋めて、断熱層32を修復する必要がある。断熱層32の修復の際には、掘削により発生した粉砕ウレタンフォームを、再利用することが可能である。
【0046】
粉砕ウレタンフォームの再利用にあたっては、例えば、粉砕ウレタンフォームを集約(集積)する。さらに、集約された粉砕ウレタンフォームをより細かく粉砕し、微細化されたウレタンフォーム(以下では「微細化ウレタンフォーム」と称する)を作製する。この微細化ウレタンフォームを溜めておき、検査後における断熱層32の修復時に、微細化ウレタンフォームを空洞に充填する。
【0047】
このように、粉砕ウレタンフォームを微細化する工程を行うのは、粉砕して集約したままだと、個々の粉砕ウレタンフォームに係る大きさのばらつきが大きく、再利用し難い場合があるためである。
【0048】
微細化ウレタンフォームを空洞に充填するにあたっては、バインダーを混ぜることはせず、そのまま、空洞に充填することが可能である。微細化ウレタンフォームの充填は、微細化ウレタンフォームをエアーとともに噴出ノズルから噴射させることにより行える。以下では、空洞に充填されたウレタンフォームを「再生ウレタンフォーム」と称する。
【0049】
このような再生ウレタンフォームについても、十分な保冷性能が得られる。ただし、保冷性能の安定性をより高めるためには、粉砕サイズ(粉砕ウレタンフォームや微細化ウレタンフォームの大きさを)が重要である。また、再生ウレタンフォームの密度も重要である。再生ウレタンフォームの粉砕サイズや密度の関係については、図6に基づいて後述する。
【0050】
<<バインダーの混合>>
微細化ウレタンフォームにバインダーを混ぜることにより、再生ウレタンフォームを形成する際の作業性を向上できる。この場合、バインダーを含有した微細化ウレタンフォーム(以下では「バインダー含有ウレタンフォーム」と称する)を空洞に充填し、充填後に硬化させる。バインダー含有ウレタンフォームを空洞に充填する際には、バインダー含有ウレタンフォームをエアーとともに噴出ノズルから噴射させる。
【0051】
このように、バインダー含有ウレタンフォームを用いることにより、微細化ウレタンフォームを再結合(リボンディング)することができる。そして、断熱層32の経時変化を抑制でき、再生ウレタンフォームの形態を安定的に保つことが可能となる。さらに、傾斜した部位に再生ウレタンフォームを形成する際に、再生ウレタンフォームが滑り落ちたり、崩れたりするのを防止でき、作業性を向上できる。
【0052】
なお、バインダーの利用は必須ではなく、再生ウレタンフォームの形態が安定しているような箇所であれば、バインダーを用いなくてもよい。
【0053】
<<再生ウレタンフォームの特徴>>
微細化ウレタンフォームについても、バインダー含有ウレタンフォームについても、熱伝導率は、0.04[W/(m・K)]以下とする。このようにすることで、粉砕ウレタンフォームを再利用して再生ウレタンフォームとした場合に、断熱層32の保冷効果を保つことが可能となる。
【0054】
また、例えば、ウレタンフォームの見かけ密度を高めるため、微細化ウレタンフォームやバインダー含有ウレタンフォームを、圧縮して作製してもよい。さらに、バインダー含有ウレタンフォームの作成の際には、バインダーが硬化するまで圧縮し続けるようにしてもよい。
【0055】
<仕切り板の作製>
なお、バインダー含有ウレタンフォームを用いて、仕切り板を作製して利用することが可能である。仕切り板は、例えば、微細化ウレタンフォームやバインダー含有ウレタンフォームを、矩形な板状に成型して形成される。仕切り板は、例えば、1人の作業者Aが、両手で、或いは、片手で、把持できる程度の大きさとすることが可能である。
【0056】
仕切り板を使用する状況としては、以下のような状況を想定できる。例えば、微細化ウレタンフォームやバインダー含有ウレタンフォームの、空洞に対する充填を、1回の噴射で完了してしまうのではなく、複数回の噴射に分けて段階的に行う場合に、各回毎に、崩れ落ちたり、流れ落ちたりするのを防ぐための堰として使用できる。仕切り板についてのこのような使用方法は、例えば、型枠を用いた場合のように、微細化ウレタンフォームやバインダー含有ウレタンフォームの形態を安定させることができる使用方法であるということもできる。
【0057】
また、仕切り板は、バインダーを使わない場合に、空洞に充填された微細化ウレタンフォームの形態を安定させるための仕切りとして、使用することが可能である。さらに、仕切り板は、バインダーを使った場合に、バインダー含有ウレタンフォームが固着(「凝固」などともいう)するまでの間に、バインダー含有ウレタンフォームを堰き止めるために使用することが可能である。
【0058】
また、図2及び図3(a)、(b)には、側壁部14内で下方から上方へ断熱層32を掘り進める例が示されているが、これに限定されず、例えば、側壁部14の中段の部位に工事口(図示略)を設け、側壁部14の中段から、上方、下方、或いは、側方へ、断熱層32を掘り進めてもよい。
【0059】
この場合、外殻20の外側に、例えば、鉄パイプを組んで足場を作製し、作業者Aが工事口に接近することが可能である。そして、作業者Aが工事口を開けて、断熱層32の掘削を開始する。
【0060】
また、図9に基づき前述したように、低温タンク10の天頂部に設けられた外側頂部マンホール31から、作業者Aが、保冷部30に残されている空間に入り込み、屋根部12の径方向に向かって断熱層32の掘削を開始する、といったことも可能である。
【0061】
ここで、空洞に充填されるバインダー含有ウレタンフォームについても、堰等となる仕切り板についても、バインダーは、有機溶剤中毒予防規則の対象となる成分を、5%を超えて含まないものとする。また、仕切り板は、バインダー含有ウレタンフォームを用いたものに限らず、例えば、一般的な発泡プラスチック断熱ボード等を用いたものであってもよい。
【0062】
さらに、空洞への充填のための粉砕ウレタンフォームが不足した場合には、空洞の充填のために新規なウレタンフォーム原料の吹付けを行ってもよい。また、仕切り板を作製する場合にも、新規なウレタンフォーム原料によるウレタンフォーム(バージンフォーム)を用いてもよい。さらに、例えば、別の現場で発生した同種の廃棄フォーム(不要となったウレタンフォーム)を粉砕して得られたもの(粉砕物)も、粉砕ウレタンフォームとして使用することが可能である。
【0063】
<再生されたウレタンフォームの外観や組織>
図6は、粉砕前のウレタンフォーム(バージンフォーム)と、粉砕後にリボンデッドされたウレタンフォーム(ここでは「再構成材」と称する)とを示している。図6(A1)は、バージンフォームに係る外観の写真画像を示している。図6(A2)は、バージンフォームに係るスライスカット面を30倍に拡大した場合の組織の写真画像を示しており、図6(A3)は、同じくスライスカット面を200倍に拡大した組織の写真画像を示している。
【0064】
図6(B1)は、再構成材に係る外観の写真画像を示している。図6(B2)は、再構成材に係るスライスカット面を30倍に拡大した場合の組織の写真画像を示しており、図6(B3)は、同じくスライスカット面を200倍に拡大した組織の写真画像を示している。図6(B1)~(B3)に示す再構成材は、微細化ウレタンフォームをバインダー含有ウレタンフォームとし、さらに圧縮して作製されたものである。
【0065】
図6(B1)~(B3)に示すように、再構成材は、バージンフォーム(図6(A1)~(A3))の外観や骨格構造をある程度再現したものとなっているが、外観や組織に、僅かな違いが見られる。
【0066】
<本実施形態に係る低温タンク10の保冷構造及び施工方法のメリット>
以上説明したような本実施形態の低温タンク10、及び、低温タンク10における断熱層32の形成方法、低温タンク10における断熱層32の除去方法によれば、断熱層32にはウレタンフォームが用いられ、ウレタンフォームは、圧縮強度が100kPa以下である。このため、断熱層32を、適度な脆弱性を与え、過度に硬質化することなく形成することができる。
【0067】
そして、低温タンク10の製造後、所定期間(例えば、数年~数十年)の経過後に行われる安全性検査において、断熱層32の除去を容易に行うことができる。さらに、安全性検査のための準備の工数(準備工数)を低減できる。また、検査完了後に断熱層32を復旧する際には、ウレタンフォームの粉砕物(フォーム粉砕物)を再利用でき、廃棄物を無くしたり削減したりすることが可能となる。
【0068】
また、ウレタンフォームは、熱伝導率が0.04[W/(m・K)]以下である。このため、パーライトと同程度以上の保冷性能を発揮できる。
【0069】
また、ウレタンフォームは、引張強度が100kPa以下である。このことによっても、断熱層32を、適度な脆弱性を与え、過度に硬質化することなく形成することができる。
【0070】
<実施形態から抽出可能な発明>
以上説明した実施形態から、例えば以下のような発明を抽出することが可能である。
(1)液体(低温液体16など)を収容可能な低温タンク(低温タンク10など)であって、
内殻(内殻18など)と外殻(外殻20など)とからなる二重殻構造を有し、
前記内殻と前記外殻の間に形成された断熱層(断熱層32など)を備え、
前記断熱層の少なくとも一部にはウレタンフォームが用いられ、
前記ウレタンフォームは、
圧縮強度が100kPa以下である、低温タンク。
(2)液体(低温液体16など)を収容可能な低温タンク(低温タンク10など)における断熱層(断熱層32など)の形成方法であって、
前記低温タンクは、
内殻(内殻18など)と外殻(外殻20など)とからなる二重殻構造を有し、
前記内殻と前記外殻の間に形成された断熱層(断熱層32など)とを備え、
前記断熱層の少なくとも一部にはウレタンフォームが用いられ、
前記ウレタンフォームは、
圧縮強度が100kPa以下であり、
前記ウレタンフォームの少なくとも一部を、特定の除去方法(吸引掘削方式又はほぐし掘削方式など)により除去した後に再形成する、低温タンクにおける断熱層の形成方法。
(3)前記ウレタンフォームの圧縮強度が100kPa以下である、上記(2)に記載の低温タンクにおける断熱層の形成方法。
(4)液体(低温液体16など)を収容可能な低温タンク(低温タンク10など)における断熱層(断熱層32など)の除去方法であって、
前記低温タンクは、
内殻(内殻18など)と外殻(外殻20など)とからなる二重殻構造を有し、
前記内殻と前記外殻の間に形成された断熱層(断熱層32など)とを備え、
前記断熱層の少なくとも一部にはウレタンフォームが用いられ、
前記ウレタンフォームの少なくとも一部を、掘削により除去する、低温タンクにおける断熱層の除去方法。
(5)前記ウレタンフォームの圧縮強度が100kPa以下である、上記(4)に記載の低温タンクにおける断熱層の除去方法。
さらに、例えば以下のような発明も抽出できる。
(a)前記ウレタンフォームの熱伝導率が0.04[W/(m・K)]以下である上記(1)~(5)のいずれか1項に記載の低温タンク。
(b)前記ウレタンフォームの少なくとも一部が、特定の除去方法(吸引掘削方式又はほぐし掘削方式など)により除去可能であり、
前記ウレタンフォームが、一旦除去されて再形成されたもの(再生ウレタンフォームなど)である、上記(1)又は(a)のいずれか1項に記載の低温タンク。
(c)再形成された前記ウレタンフォームが、除去された前記ウレタンフォームを再利用したものである、上記(2)、(3)、又は、(b)に記載の低温タンク。
(d)再形成された前記ウレタンフォームが、新規なウレタンフォーム原料を用いたものである、上記(2)、(3)、又は、(b)に記載の低温タンク。
(e)前記特定の除去方法が掘削である、上記(2)、(3)、又は、(b)のいずれか1項に記載の低温タンク。
(f)前記掘削が、除去された前記ウレタンフォームを吸引しながら掘削する吸引掘削方式、又は、圧縮空気により前記ウレタンフォームを掘削するほぐし掘削方式によるものである、上記(4)、(5)、又は、(e)に記載の低温タンク。
(g)前記ウレタンフォームが、帯電防止策を施されたものである、上記(2)~(5)、及び、(a)~(f)のいずれか1項に記載の低温タンク。
(h)前記帯電防止策が、ウレタンフォーム原料に施されたもの、及び、掘削時に施されたもののうちの少なくともいずれかである、上記(g)に記載の低温タンク。
(i)前記ウレタンフォームの再利用は、粉砕された前記ウレタンフォームにバインダーを混合して行われる、上記(c)に記載の低温タンク。
(j)前記バインダーが混合された前記ウレタンフォームを所定の形状に成形し、仕切り(仕切り板など)として利用する、上記(i)に記載の低温タンク。
【0071】
<その他>
なお、前述した実施形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【実施例0072】
以下、実施例に基づいて本発明に好ましく用いられるウレタンフォームをより詳細に説明するが、本発明は以下により何ら限定されるものではない。
【0073】
先ず、圧縮強度が100kPa以下のバージンフォームとして、以下の表1におけるフォームA~Cのような物性のものを例示できる。表1におけるフォームD、Eは、圧縮強度が100kPaを超える比較例である。
【表1】
【0074】
試験法に関し、圧縮強度はJIS_A7220、熱伝導率はJIS_A1412-2、独泡率はASTM_D2856、他の事項はJIS_A9511に準じている。また、試料の作製方法は、JIS_A9526に準じている。
【0075】
図7は、試料の作製方法を概略的に示している。図7(a)には、物性用試料60を平面視した状態が概略的に示されている。図7(b)の上段には、物性用試料60の断面を側面視した状態が概略的に示されており、図7(b)の下段には、物性用試料60の一部(二点鎖線で矩形状に囲った部分)を拡大した状態が概略的に示されている。図7(b)では、図示が煩雑になるのを避けるため、断面を示すハッチングの記載は省略されている。
【0076】
物性用試料60の作製において発明者らは、900mm角で5mmの厚み(900mm角×5mmの厚み)のアルミ板62上に(図7(a))、約3mmの下吹き層64(図7(b)の上段及び下段の図に示す)を吹き付けた。その後、ウレタンフォーム原料を2段階に分けて吹き付け、図7(b)の上段に示すように、第1層66及び第2層68を有する物性用試料60を作製した。図7(a)、(b)の寸法線に示された数値の単位はmmである。
【0077】
第1層66及び第2層68の吹き付け順は、第1層66が先であり、第1層66の上に第2層68が積層されている。第1層66及び第2層68の厚みはそれぞれ25~30mmであり、物性用試料60の合計の厚みは50~60mmである。
【0078】
第2層68の硬化後、物性用試料60からアルミ板62を取り外した。図7(b)における上段の図では、アルミ板62は二点鎖線により仮想的に示されている。
【0079】
第1層66及び第2層68の形成後、16時間以上48時間以内に、物性用試料60の一部を切り出し、試料片を作製した。物性用試料60のうち、試料片となり得るのは、アルミ板62の端から100mmの部位よりも中央に近い部位である。この限られた部位(ここでは700mm角の部位)から、各種の測定用の試料片が切り出される。図7(b)の下段の図中における二点鎖線の矩形70は、切り出される試料片の一例を仮想的に示している。
【0080】
試料片としては、密度測定用試料片、熱伝導率測定用試料片、圧縮強度測定用試料、曲げ強度測定用試料片、及び、独立気泡率測定用試料片がある。これらのうち、密度測定用試料については、下吹き層64と第1層66との境界、及び、表層(スキン層)72を含まず、かつ第1層66と第2層68の境界を含むように、100mm角×30mm厚みに1個の試料片を切り出した。
【0081】
熱伝導率測定用試料については、同様に、200mm角×30mm厚みに1個切り出した。
【0082】
圧縮強度測定用試料については、同様に、50mm角×30mm厚みに5個切り出した。圧縮強度測定用試料についての測定結果は、5個の試料片の平均値とした。
【0083】
曲げ強度測定用試料片については、同様に、25mm幅×120mm長さ×20mm厚みに1個切り出した。
【0084】
独立気泡率測定用試料片については、下吹き層64と第1層66との境界、第1層66と第2層68との境界、及び、表層(スキン層)72をいずれも含まないように、第2層68から30mm角×20mm厚みに3個切り出した。独立気泡率測定用試料片についての測定結果は、3個の試料片の平均値とした。
【0085】
フォームA~Cのような圧縮強度が100kPa以下のウレタンフォームは、フォームD、Eのような圧縮強度が100kPa超のウレタンフォームと比べて、粉砕することや細分化が容易である。そして、圧縮強度が100kPa以下のウレタンフォームは、圧縮強度が100kPa超のウレタンフォームと比べて、例えば、前述したような各種の掘削方式(図4図5)における粉砕後の吸引を容易に行うことが可能となる。
【0086】
表2は、粉砕されて再利用されるウレタンフォームの実施例(実施例1~4)を示している。
【表2】
【0087】
<実施例1>
実施例1では、ウレタンフォームの粉砕サイズを30[mm]以下(30≧)とし、見かけ密度を32[kg/m]とし、熱伝導率を0.034[W/(m・k)]とした。さらに、バインダーを用い、傾斜テストの結果は良好であった。バインダーとしては、BASF INOAC ポリウレタン(株)製ウレタン系1液バインダー「EC-1150」を使用した。
【0088】
傾斜テストは、勾配による経時的な偏在傾向を簡易的に見るためのテストである。傾斜テストにおいては、図8に示すように、30°に傾けた傾斜面82を有するアクリル製の箱84の中に、ウレタンフォーム86を入れ、当該箱84を振って行った。箱84を振動機88の上に載せ、箱84に細かな振動(例えば3000~3600回/分程度の振動)を加えた。ここで、図8では、ウレタンフォーム86のみに断面を示すハッチングが記載されており、箱84に対するハッチングの記載は省略されている。
【0089】
バインダーに係る「あり」は、粉砕品(粉砕ウレタンフォーム)にバインダーを混合してリボンデッドフォーム(バインダー含有ウレタンフォーム)としたウレタンフォームを意味している。バインダーに係る「なし」は、バインダーを混合せず、粉砕したままの状態のウレタンフォーム(粉砕ウレタンフォーム)を意味している。
【0090】
振動機88(図8)として、振動機バイブレートリパッカVP-15D(シンフォニアテクノロジー社製)を用いた。振動機88のテーブル90上に箱を置き1時間振動させた後に、粉砕物(粉砕ウレタンフォーム又はバインダー含有ウレタンフォーム)の上面92に変化がない場合を「〇」とし、上面92が、例えば二点鎖線94で示すように下がった場合を「×」とした。
【0091】
ウレタンフォーム86の形態安定性が相対的に低い場合(例えば後述する実施例3、4のような場合)、箱84に細かな振動(例えば3000~3600回/分程度の振動)を加えることにより、ウレタンフォーム86は粒体や粉体に類似した挙動を示す。上面92が傾斜した状態のウレタンフォーム86においては、振動により、粉砕ウレタンフォーム同士や、粉砕ウレタンフォームとバインダーとが、隙間を埋めるようにして混ざり合う。この結果、ウレタンフォーム86の上面92における先鋭な部分が徐々に均され、上面92が、図8に二点鎖線94で示すように下がる。
【0092】
<実施例2>
実施例2では、ウレタンフォームの粉砕サイズを2[mm]以下(2≧)とし、見かけ密度を76[kg/m]とし、熱伝導率を0.034[W/(m・k)]とした。さらに、バインダーを用い、傾斜テストの結果は良好であった。
【0093】
<実施例3>
実施例3では、ウレタンフォームの粉砕サイズを30[mm]以下(30≧)とし、見かけ密度を30[kg/m]とし、熱伝導率を0.033[W/(m・k)]とした。さらに、バインダーを用いず、傾斜テストの結果は良好とまではいえなかった。
【0094】
<実施例4>
実施例4では、2[mm]以上(2≧)とし、見かけ密度を69[kg/m]とし、熱伝導率を0.034[W/(m・k)]とした。さらに、バインダーを用いず、傾斜テストの結果は良好とまではいえなかった。
【符号の説明】
【0095】
10 :低温タンク
12 :屋根部
14 :側壁部
16 :低温液体
18 :内殻
20 :外殻
30 :保冷部
32 :断熱層
33 :穴
35 :工事口
40 :バキューム車
42 :吸引ホース
44 :吸引装置
45 :ハンドル部
46 :引っ掻き部
50 :ほぐし機
52 :エアホース
54 :笠
56 :エアノズル
A :作業者

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9