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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012173
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】衣料
(51)【国際特許分類】
   A41B 9/06 20060101AFI20240118BHJP
   A61B 5/256 20210101ALI20240118BHJP
   A61B 5/27 20210101ALI20240118BHJP
   A61B 5/271 20210101ALI20240118BHJP
   A41B 17/00 20060101ALI20240118BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20240118BHJP
【FI】
A41B9/06 E
A61B5/256 210
A61B5/27
A61B5/271
A41B17/00 Z
A41D31/00 502C
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115258
(22)【出願日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2022113604
(32)【優先日】2022-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】大野 悠椰
(72)【発明者】
【氏名】大家 美穂子
(72)【発明者】
【氏名】小梶 太士
【テーマコード(参考)】
3B128
4C127
【Fターム(参考)】
3B128FB01
3B128FB08
3B128FC04
3B128FC05
4C127AA02
4C127AA04
4C127LL13
4C127LL19
4C127LL21
(57)【要約】
【課題】本発明は、生体信号を検出可能な衣料であって、過剰な押し付け圧をかけずに着用者の体型差を吸収しつつ、電極部を着用者の適切な部位に接触させて安定した生体信号、特に心電信号の検出に優れ、さらに、電極部の損傷及び導線部の断線が抑制された衣料を提供することを課題とする。
【解決手段】生体信号を検出可能な衣料であって、着用者の上半身に装着されるものであり、着用者に密着するように構成された身生地と、前記身生地よりも高い伸縮性を有する高伸縮性構造布帛とを備え、着用者に接触されるシート状の電極部と、前記電極部に接続された導線部とを含み、前記電極部が、前記身生地に接合されている、衣料。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体信号を検出可能な衣料であって、
着用者の上半身に装着されるものであり、
着用者に密着するように構成された身生地と、前記身生地よりも高い伸縮性を有する高伸縮性構造布帛とを備え、
着用者に接触されるシート状の電極部と、前記電極部に接続された導線部とを含み、
前記電極部が、前記身生地に接合されている、衣料。
【請求項2】
前記高伸縮性構造布帛が前記身生地より15%以上高い伸び率を示す、請求項1に記載の衣料。
【請求項3】
前記高伸縮性構造布帛は、蛇腹状の経編地である、請求項1又は2に記載の衣料。
【請求項4】
前記高伸縮性構造布帛は、前記蛇腹による伸縮方向が前記衣料の巾方向に沿うように配されている、請求項3に記載の衣料。
【請求項5】
後身頃を備え、
前記高伸縮性構造布帛は、前記後身頃の巾方向における中央線上に配されている、請求項1又は2に記載の衣料。
【請求項6】
前記電極部は、導電繊維と、非導電繊維とで構成され、
前記非導電繊維は、単繊維径が1μm以下である、請求項1又は2に記載の衣料。
【請求項7】
前記非導電繊維は、ポリエステル繊維を含む、請求項6に記載の衣料。
【請求項8】
前記導線部は、導電部と、前記導電部を被覆する絶縁体部とを含む、請求項1又は2に記載の衣料。
【請求項9】
前記絶縁体部は、ポリエステル繊維を含む、請求項8に記載の衣料。
【請求項10】
前記電極部と前記導線部との接続部が絶縁シートで被覆されている、請求項1又は2に記載の衣料。
【請求項11】
前記電極部と前記身生地との間にクッション材が介在している、請求項1又は2に記載の衣料。
【請求項12】
前身頃と、前記前身頃に接合された第1の電極部と、前記前身頃に接合された第2の電極部とを備え、
前記第1の電極部及び前記第2の電極部のそれぞれは、前記衣料の袖ぐりの下端と前記前身頃の下端との中間を通る第1の中央線よりも上方に位置するように、且つ、前記前身頃を左右均等に分割する第2の中央線と前記前身頃の側端縁との中間を通る第3の中央線よりも前記側端縁側に位置するように配されている、請求項1に記載の衣料。
【請求項13】
前記前身頃を左右に分割するファスナを備えている、請求項12に記載の衣料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体信号を検出可能な衣料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体信号を検出可能な衣料は、着用者の心電図や筋電図等を測定するために使用されている。かかる衣料は、通常、着用者の生体信号を検出するための電極部と、前記電極部に接続された導線部とを備えている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
生体信号を安定して取得するためには、電極部を着用者の適切な位置に保持させることが重要となる。そこで、従来のこの種の衣料は、生地による締め付けを利用して、電極部を着用者に密着させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-158709号公報
【特許文献2】特開2017-082361号公報
【特許文献3】特開2020-146336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、生地による押し付け圧が強いと、着用者の呼吸の妨げや、血中酸素濃度の低下等の要因となり、長時間での使用には適さないものとなる。さらに、着用者の体型差によって、押し付け圧がさらに強くなる場合がある。
【0006】
また、着用者の動作等に起因する生地の伸び縮みによって、電極部の損傷や電極部に接続された導線部の断線が生じるおそれがある。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、生体信号を検出可能な衣料であって、過剰な押し付け圧をかけずに着用者の体型差を吸収しつつ、電極部を着用者の適切な部位に接触させて安定した生体信号、特に心電信号の検出に優れ、さらに、電極部の損傷及び導線部の断線が抑制された衣料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る衣料は、
生体信号を検出可能な衣料であって、
着用者の上半身に装着されるものであり、
着用者に密着するように構成された身生地と、前記身生地よりも高い伸縮性を有する高伸縮性構造布帛とを備え、
着用者に接触されるシート状の電極部と、前記電極部に接続された導線部とを含み、
前記電極部が、前記身生地に接合されている。
【0009】
かかる構成によれば、着用時に高伸縮性構造布帛が伸縮することによって過剰な押し付け圧をかけずに着用者の体型差を吸収することができる。また、電極部が身生地に接合されていることによって、伸縮性の高い高伸縮性構造布帛に接合されている場合と比べて、電極部を着用者の適切な部位に接触させることができ、延いては、安定した生体信号を検出することができる。さらに、高伸縮性構造布帛が着用者の動作に起因して生じ得る伸び縮みを吸収するため、身生地における伸び縮みが少なくなり、電極部及び導線部が接合された身生地の伸び縮みが抑えられることから、導線部の損傷及び電極部の断線を抑制することができる。
【0010】
また、前記高伸縮性構造布帛は、前記身生地より15%以上高い伸び率を示すものであることが好ましい。また、前記高伸縮性構造布帛は、蛇腹状の経編地であることが好ましく、前記蛇腹による伸縮方向が前記衣料の巾方向に沿うように配されていることがより好ましい。かかる構成の衣料は、上記効果にさらに優れたものとなる。
【0011】
また、本発明に係る衣料は、好ましくは、後身頃を備え、
前記高伸縮性構造布帛は、前記後身頃の巾方向における中央線上に配されている。
【0012】
着用者の動作のなかで、後ろに沿った体勢よりも前傾姿勢の方が、衣料を構成する生地の変化量が多くなる。このため、着用時の衣料は、後身頃の中央線近傍の伸長の量が他の生地(特に前身頃)よりも大きくなる。上記構成の衣料は、かかる着用者の動作が考慮されたものであり、後身頃における高伸縮性構造布帛が着用者の動作による伸長を吸収し易くなるため、上記効果により一層優れるものとなる。
【0013】
また、本発明に係る衣料は、好ましくは、
前記電極部は、導電繊維と、非導電繊維とで構成され、
前記非導電繊維は、単繊維径が1μm以下である。
【0014】
かかる構成によれば、非導線繊維の単繊維径が1μm以下であることによって、シート状の電極部が柔軟性に優れるものとなり、着用者の体型に沿い易くなる。
【0015】
また、本発明に係る衣料は、好ましくは、前記非導電繊維は、ポリエステル繊維を含む。
【0016】
かかる構成によれば、ポリエステル繊維は各種繊維のなかでも強度及び伸縮性に比較的優れるため、電極部が耐久性に優れるものとなる。
【0017】
また、本発明に係る衣料は、好ましくは、前記導線部は、導電部と、前記導線部を被覆する絶縁体部とを含む。
【0018】
かかる構成によれば、絶縁体部の被覆によって、導電部の損傷が抑制される。
【0019】
また、本発明に係る衣料は、好ましくは、前記絶縁体部は、ポリエステル繊維を含む。
【0020】
かかる構成によれば、導電部が耐久性に優れるものとなる。
【0021】
また、本発明に係る衣料は、好ましくは、前記電極部と前記導線部との接続部が絶縁シートで被覆されている。
【0022】
かかる構成によれば、電極部と導線部との接続部が絶縁シートで被覆されていることによって、導線部による信号情報の伝達が正確なものとなる。
【0023】
また、本発明に係る衣料は、好ましくは、前記電極部と前記身生地との間にクッション材が介在している。
【0024】
かかる構成によれば、電極部と身生地との間にクッション材が介在していることによって、過剰な押し付け圧をかけずに電極部を着用者の適切な部位に接触、保持させることができる。
【0025】
また、本発明に係る衣料は、好ましくは、
前身頃と、前記前身頃に接合された第1の電極部と、前記前身頃に接合された第2の電極部とを備え、
前記第1の電極部及び前記第2の電極部のそれぞれは、前記衣料の袖ぐりの下端と前記前身頃の下端との中間を通る第1の中央線よりも上方に位置するように、且つ、前記前身頃を左右均等に分割する第2の中央線と前記前身頃の側端縁との中間を通る第3の中央線よりも前記側端縁側に位置するように配されている。
【0026】
かかる電極部の配置によれば、着用者の筋肉の少ない部位に電極部が接触し得るため、心臓からの電気信号を検出し易くなる。すなわち、心電信号を検出し易くなる。
【0027】
また、本発明に係る衣料は、好ましくは、前身頃と、前記前身頃を左右に分割するファスナとを備えている。
【0028】
かかる構成によれば、ファスナによって前身頃を分割することができるため、身生地が着用者に密着するように構成されている割には着脱が容易なものとなり、電極部の破損や導線部の断線を抑制することができる。
【発明の効果】
【0029】
以上のとおり、本発明によれば、生体信号を検出可能な衣料であって、過剰な押し付け圧をかけずに着用者の体型差を吸収しつつ、電極部を着用者の適切な部位に接触させて安定した生体信号、特に心電信号の検出に優れ、さらに、電極部の損傷及び導線部の断線が抑制された衣料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】一実施形態に係る衣料の正面図である。
図2図1の衣料の背面図である。
図3図1の衣料の裏側を示し、電極部及び導線部を主に示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の一実施形態に係る衣料について説明する。
【0032】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る衣料1は、Tシャツ型の上衣であり、着用者の胴体を正面側から覆う前身頃10と、着用者の胴体を背面側から覆う後身頃20とを備えている。また、本実施形態に係る衣料1は、生体信号としての心電信号を検出するシート状の電極部30と、電極部30に一端部が接続され且つ他端部が処理装置に接続された導線部40とを備えている。前記処理装置は、電極部30が検出した信号データを取得して心電図を生成するものである。
【0033】
本実施形態の衣料1は、前身頃10を左右に分割するファスナ50を備えている。ファスナ50は、前身頃10の上下方向にわたって延びており、前身頃10を右前身頃10Rと左前身頃10Lとに分割し得るように構成されている。
【0034】
本実施形態の後身頃20は、前記処理装置を収容するポケット60を有する。さらに、後身頃20には、ポケット60の上方に、前記処理装置と電極部30とを電気的に接続するための少なくとも2つ(具体的には3つ)の端子70が接合されている。端子70は、衣料1の襟ぐりとポケット60の間に接合されている。ポケット60は、端子70の下方に形成されている。
【0035】
本実施形態の前身頃10及び後身頃20のそれぞれは、主たる生地としての身生地と、身生地よりも高い伸縮性を有する生地である高伸縮性構造布帛とで構成されている。
【0036】
本実施形態の身生地は、ポリトリメチレンテレフタレート、又はポリトリメチレンテレフタレートを一成分として含むポリエステル系の複合繊維で構成され且つ仮撚及び捲縮が施された加工糸と、ポリウレタン弾性繊維等の弾性繊維で構成された弾性糸とで構成されるストレッチ性の編物である。かかる身生地を有する前身頃10及び後身頃20は、着用者の皮膚に密着し得るものとなる。なお、本発明の身生地は、前述のものに限定されず、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、木綿等で構成された編物又は織物であってもよい。
【0037】
本実施形態の高伸縮性構造布帛は、身生地よりもさらに高い伸縮性を有する。具体的に、本実施形態の高伸縮性構造布帛は、JIS L 1096:2010(織物及び編物の生地試験方法)の「8.14 引張強さ及び伸び率」のA法(ストリップ法)に準拠して伸び率を測定したときに、横方向及び縦方向の両方において、前記身生地より15%以上高い伸び率を示す。なお、試験片の寸法については幅50mm×長さ300mm又は幅25mm×長さ200mmを採用する。衣料1における高伸縮性構造布帛の巾方向(生地の横方向に対応する方向)の伸び率を測定する際には、幅50mm×長さ60mmの5つの断片(2mmの縫い代が別途設けられ、縫合後の長さを300mmとする5つの断片)、又は幅25mm×長さ50mmの4つの断片(2mmの縫い代が別途設けられ、縫合後の長さを200mmとする4つの断片)を縫い代において重ね合わせ、これらを伸縮性のない糸を用いて縫合し、上記の試験片を作製する。縫合用の糸は、ポリエステル糸又はナイロン糸であればよい。縫合方法は、本縫いを採用する。一方、衣料1における高伸縮性構造布帛の上下方向(生地の縦方向に対応)の伸び率を測定する際には、幅50mm×長さ300mm又は幅25mm×長さ200mmの試験片を作成する。
【0038】
本実施形態の高伸縮性構造布帛は、面方向における所定方向に沿って並ぶ凹凸の交互の繰り返し構造を有する。そして、本実施形態の高伸縮性構造布帛は、前記所定方向に沿う引っ張り力によって平坦な状態に近づき、且つ、前記引っ張り力の解除によって元の凹凸の状態に戻るように構成されている。これによって、本実施形態の高伸縮性構造布帛は、前記所定方向に沿って伸縮し易いものとなる。かかる高伸縮性構造布帛としては、例えば、プリーツ加工が施された編物又は織物、揚柳織物、蛇腹状に形成された編物又は織物等が挙げられる。
【0039】
特に、比較的小さい引っ張り力であっても伸び易い蛇腹状の経編地が好ましい。なお、「蛇腹」とは山折りと谷折り(すなわち凹凸)が連続する構造であり、「アコーディオン生地」とも称される。詳しくは、蛇腹状の経編地は、生地の面方向に直交し且つ前記所定方向に平行する断面において、生地の表側凸部と、裏側凸部(すなわち凹部)とが交互に形成されている。また、前記蛇腹状の経編地の表面を見たときに、前記表側凸部は、これと隣り合う前記裏側凸部の一部を覆うように前記所定方向に湾曲しつつ突き出している。そして、かかる構造を有する蛇腹状の経編地は、前記所定方向に沿う引っ張り力が加えられると、湾曲した部分が直線状に近づくことによって前記所定方向に大きく伸びることとなる。
【0040】
前記蛇腹状の経編地は、例えば、特許第5451193号公報などに記載の方法によって製造することができる。すなわち、例えば、ダブルラッシェル編み機の表側の針で所定幅のデンビ編み部(表側主編成部)を緯方向に所定間隔で編成する一方、裏側の針でも同様に、所定幅のデンビ編み部(裏側主編成部)を緯方向に所定間隔で編成し、さらに、並列する裏側主編成部の位相が前記表側主編成部のそれに対して緯方向にシフトさせ、各裏側主編成部が、表側主編成部間の中間位置に位置するように編成するとよい。その際、近接する表側主編成部の側縁と裏側主編成部の側縁とをダブル鎖編み又はダブルデンビ編みによって経方向に繋ぎ編みし(繋ぎ編み部)、編地の両側部に、繋ぎ編み部と同じ編組織で、それぞれ耳部を編成することが好ましい。市販品としては井上リボン工業株式会社のアコーディオ(商品名)などが例示される。
【0041】
本実施形態の高伸縮性構造布帛は、ポリエステル系の加工糸であって仮撚及び捲縮が施された加工糸と、ポリウレタン弾性繊維等の弾性繊維で構成された弾性糸とで構成されている。本実施形態の高伸縮性構造布帛を構成する弾性糸は、身生地を構成する弾性糸よりも繊度が大きく、具体的には、身生地用の弾性糸の2倍以上であり、3倍以上が好ましく、4倍以上がより好ましく、5倍以上がさらに好ましい。本実施形態の高伸縮性構造布帛は、上記のような構造的特徴によって伸縮性が高められているとともに、前記加工糸や前記弾性糸によっても伸縮性が高められている。これによって、本実施形態の高伸縮性構造布帛は、身生地と比較して、衣料1の巾方向において高い伸縮性を示すとともに、衣料1の上下方向においても高い伸縮性を示す。
【0042】
前記身生地と前記高伸縮性布帛とは、糸による縫合により接合されていることが好ましい。
【0043】
次に、本実施形態の電極部30について説明する。図3に示すように、本実施形態の電極部30は、長方形状であり、着用者の表皮と接触する表面部31を有する。表面部31は、該表面部31を二等分する中央線上に延在する検出部311と、検出部311の両側に形成された一対の非検出部312とを有する。検出部311及び非検出部312のそれぞれは、電極部30における平行する端縁の間にわたって形成されている。なお、前記電極部の形状は、正方形、円形、三角形等であってもよい。
【0044】
本実施形態の電極部30は、導電繊維が交編又は交織されることによって形成された検出部311と、非導電繊維が交編又は交織されることによって形成された非検出部312とを有する。なお、本発明の前記検出部と前記非検出部とを形成する方法としては、非導電繊維からなる編物又は織物に導電剤を部分的に含浸又はプリントにより塗布する方法、非導電性のフィルムに導電材を部分的にプリントする方法を採用することもできる。
【0045】
前記導電繊維は、導電性を備える公知の繊維を用いることができる。例えば、特許6185638号公報に記載されたものであってもよい。すなわち、導電繊維の具体例としては、金属めっき繊維、導電性高分子繊維、金属繊維、炭素繊維、スリット繊維、導電材含有繊維等が挙げられる。導電繊維は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。金属めっき繊維としては、例えば、銀、銅、金、ステンレス等の金属、又はこれらのうちの少なくとも1種を含む合金等により、合成繊維の表面が被覆された繊維が挙げられる。金属めっきが施される合成繊維としては、好ましくはナイロン繊維、ポリエステル繊維等が挙げられる。市販品では、ミツフジ社製「AGposs」(商品名)等の銀メッキナイロン繊維であってもよい。
【0046】
本実施形態の非検出部312は、非導電繊維として、単繊維径が1μm以下(好ましくは10~800nm)のナノ繊維(超極細繊維)を含む。これによって、シート状の電極部30の表面がフラットになり、着用者の表皮との接触面積が高まり、表皮との密着性が高くなり好ましい。非検出部312は、前記ナノ繊維を30質量%以上(好ましくは50質量%以上)含むことが好ましい。さらに、前記ナノ繊維としては、単繊維径が700nmの帝人フロンティア社製ナノフロント(登録商標)が好ましい。なお、単繊維径は、SEM等の顕微鏡観察において正面を向いている20本の単繊維を選択し、選択した単繊維の外接円の直径を測定し、それらを平均することにより求めることができる。
【0047】
上記のような導電繊維及び非導電繊維で形成された電極部30の厚みは、1.0mm以下(より好ましくは0.1~0.5mm)になり得る。そして、厚みが薄いほど、着用者の表皮の凹凸や湾曲に追従して密着し易くなる。なお、電極部30の厚みは、JIS L1096:2020(織物及び編物の生地試験方法)に記載の8.4 A法によって測定するものとする。
【0048】
そして、図1に示すように、本実施形態の衣料1は、前身頃10に接合された2つの電極部30を備えている。各電極部30は、衣料1の各袖ぐりの下端に沿って配されている。より具体的には、1つ目の電極部30は右前身頃10Rに備えられ、2つ目の電極部30は左前身頃10Lに備えられている。これらの上下方向の配置に関し、衣料1の袖ぐりの下端と前身頃10の下端との中間を通る線を第1の中央線C1としたときに、各電極部30は、第1の中央線C1よりも上方に位置する領域に配されている。さらに詳しくは、各電極部30は、衣料1の袖ぐりの下端と第1の中央線C1との中間を通る中央線上に延在するように配置されている。
【0049】
次に、電極部30の左右方向の配置に関し、前身頃10を左右均等に分割する中央線を第2の中央線C2とし、第2の中央線C2と前身頃10の一対の側端縁(右前頃11の側端縁11R及び左前身頃10Lの側端縁11L)との中間を通る2つの線をそれぞれ第3の中央線C3及び第4の中央線C4としたときに、1つ目の電極部30は第3の中央線C3と右前身頃10Rの側端縁11Rとの間の領域に配されており、2つの目の電極部30は第4の中央線C4と左前身頃10Lの側端縁11Lとの間の領域に配されている。これらの領域は、前記身生地で構成された領域である。かかる配置によれば、着用者の筋肉の少ない部位に電極部30が接触し得るため、心臓からの電気信号を検出し易くなる。また、着用者の心臓を左右両側から挟み込むように各電極部30が配されるため、心電信号の明瞭な検出に優れるものとなる。なお、本実施形態のように前身頃10の各側端縁が上下方向に対して若干湾曲している態様があることを考慮し、第3の中央線C3及び第4の中央線C4は、前身頃10の各側端縁のうち最も巾方向の内側に位置する点を通り且つ上下方向に平行する直線を基準に画定するものとする。
【0050】
さらに、本実施形態では、各電極部30の表面(着用者に接触する面)とは反対側の裏面と、前身頃10を構成する生地の裏面との間には、厚みが5mm以上(好ましくは5~20mm)のクッション材が配されている。このクッション材により、シート状の電極部30が表皮側へ押し付けられる効果があり、且つ表皮の凹凸や湾曲に対して電極部30の表面形状が追従して変形し易くなる効果がある。さらに、このクッション材は、シート状の電極部30及び身生地の何れにも接着又は縫合されずにこれらに挟持されていることが上記の追従性の観点から好ましい。前記クッション材は、例えば、ポリウレタンフォームによって構成される。
【0051】
本実施形態では、シート状の電極部30と前身頃10を構成する生地とは、片面タイプの絶縁シートたる熱転写シート80を電極部30の外周部に外枠状に貼り付けられることによって固定されている。この他、枠形状に切り抜いた両面タイプの熱転写シートをシート状の電極部30と前記生地との間に挟み込んで接着する方法、シート状の電極部30の外周部と前記生地とを縫合する方法等も採用することができる。特に、アイロンシート等の熱転写シートで固定する方法が好ましい。
【0052】
そして、本実施形態では、前身頃10及び後身頃20のそれぞれに部分的に高伸縮性構造布帛が配されている。一方、その他の領域(高伸縮性構造布帛で構成される領域以外の領域)は、前記身生地で構成されている。
【0053】
図1に示すように、本実施形態の前身頃10においては、高伸縮性構造布帛が右前身頃10R及び左前身頃10Lのそれぞれに対をなすように配されて左右に一対の第1の高伸縮領域H1を形成している。第1の高伸縮領域H1は、上下方向に沿って延在しており、その上端が電極部30よりも下方に且つ第1の中央線C1よりも上方に配され、その下端が前身頃10の下端に対応するように配されている。一方、巾方向の配置に関し、第1の高伸縮領域H1は、電極部30よりも巾方向中央側(ファスナ50側)に形成されている。また、第1の高伸縮領域H1は、概ね、第2の中央線C2と第3の中央線C3との間の領域及び第2の中央線C2と第4の中央線C4との間の領域のそれぞれに配されている。より具体的には、右前身頃10Rにおける第1の高伸縮領域H1の総面積のうち、80%以上が第2の中央線C2と第3の中央線C3との間の領域に形成されており、左前身頃10Lにおける第1の高伸縮領域H1の総面積のうち80%以上が第2の中央線C2と第4の中央線C4との間の領域に形成されている。
【0054】
右前身頃10Rの巾方向における高伸縮性構造布帛の巾の割合は、25%以上50%以下が好ましく、30%以上40%以下がより好ましい。同様に、左前身頃10Lの巾方向における高伸縮性構造布帛の巾の割合は、25%以上50%以下が好ましく、30%以上40%以下がより好ましい。より具体的には、右前身頃10R及び左前身頃10Lのそれぞれの高伸縮性構造布帛の寸法は、長さ50~60cm、巾3~20cm(好ましくは巾3~6cm)の範囲内であることが好ましい。なお、ここでの巾の割合は、前身頃10の各側端縁を基準に求めるものとするが、本実施形態のように前身頃10の各側端縁が上下方向に対して若干湾曲している態様があることを考慮し、前身頃10の各側端縁のうち最も巾方向の内側に位置する点を通り且つ上下方向に平行する直線を算出の基準線とする。そして、巾の割合の算出では、まず、前記基準線から第2の中央線C2の間に上下方向に等間隔となるように巾方向に平行する5つの線分を描き、これらの線分の長さを平均した値(全巾)を決定する。次に、高伸縮構造布帛の上端から下端の間に上下方向に等間隔となるように巾方向に平行する5つの線分を描き、これらの線分の長さを平均した値(平均巾)を決定する。そして、巾の割合は、前記全巾に対する前記平均巾の割合を意味するものとする。また、高伸縮性構造布帛の巾は、前記平均巾とする。
【0055】
第1の高伸縮領域H1では、高伸縮性構造布帛の凹凸は衣料1の巾方向に沿って並んでおり(言い換えれば該布帛の前記所定方向が巾方向に対応しており)、巾方向への伸縮が上下方向よりも大きくなっている。
【0056】
次に、図2に示すように、本実施形態の後身頃20においては、高伸縮性構造布帛が後身頃20を左右均等に分割する第5の中央線C5上に延在するように且つ前身頃10に接合された電極部30と対向しないように配されて、後身頃20の巾方向中央部に第2の高伸縮領域H2を形成している。また、第2の高伸縮領域H2は、その上端が電極部30よりも上方に且つ袖ぐりの下端に対応するように配され、その下端が後身頃20の下端に対応するように配されている。このように、本実施形態の後身頃20は、丈方向にできるだけ長い第2の高伸縮領域H2を有しており、この第2の高伸縮領域H2によって着用者の動作等による伸び縮みを吸収するようになっている。
【0057】
後身頃20の巾方向における高伸縮性構造布帛の巾の割合は、10%以上30%以下が好ましく、10%以上20%以下がより好ましい。より具体的には、後身頃20における高伸縮性構造布帛の寸法としては、長さ10~80cm(好ましくは35~50cm)、巾5~20cm(好ましくは巾3~6cm)の範囲内であることが好ましい。なお、ここでの巾の割合は、後身頃20の側端縁を基準に求めるものとするが、本実施形態のように後身頃20の各側端縁が上下方向に対して若干湾曲している態様があることを考慮し、後身頃20の各側端縁のうち最も巾方向の内側に位置する点を通り且つ上下方向に平行する直線を算出の基準線とする。そして、巾の割合の算出では、まず、前記基準線から第5の中央線C5の間に上下方向に等間隔となるように巾方向に平行する5つの線分を描き、これらの線分の長さを平均した値(全巾)を決定する。次に、高伸縮構造布帛の上端から下端の間に上下方向に等間隔となるように巾方向に平行する5つの線分を描き、これらの線分の長さを平均した値(平均巾)を決定する。そして、巾の割合は、前記全巾に対する前記平均巾の割合を意味するものとする。また、高伸縮性構造布帛の巾は、前記平均巾とする。
【0058】
さらに、第2の高伸縮領域H2では、高伸縮性構造布帛の凹凸は衣料1の巾方向に沿って並んでおり、巾方向への伸縮が上下方向よりも大きくなっている。
【0059】
第2の高伸縮領域H2の上方に端子70が接合され、端子70の上方にポケット60が形成されている。すなわち、ポケット60及び端子70は、後身頃20における巾方向中央部において第2の高伸縮領域H2の上方に配されている。
【0060】
図3に示すように、本実施形態の衣料1は、一端(下端)が電極部30に接続され且つ他端(上端)が端子70に接続された2つの導線部40を備えている。各導線部40は、電極部30と端子70とを結ぶ直線に沿って延びるように後身頃20に接合されている。各導線部40は、ファスナ50を閉じたときに、第1の高伸縮領域H1に重ならないように配されることとなる。また、各導線部40は、第2の高伸縮領域H2とは交差することなく、後身頃20を構成する身生地に接合されている。言い換えれば、各導線部40は、第2の高伸縮領域H2の外縁の外側を通るように後身頃20を構成する身生地に接合されている。
【0061】
本実施形態の導線部40は、前記導電繊維(電極部30における検出部311を形成する導電繊維)で構成される導電部41と、合繊繊維製のバインダーテープで構成される絶縁体部42とを含む。具体的には、本実施形態の導線部40では、テープ幅方向の中央を通る折り曲げ線を介してバインダーテープが折り曲げられた状態とされ、前記折り曲げ線を介した一方の領域に前記導電繊維が前記折り曲げ線に沿って縫合されている。これによって、折曲状態のバインダーテープは、前記折り曲げ線を介した一方側の領域であって前記導電繊維が縫合された第1の領域と、前記折り曲げ線を介した他方側の領域であって前記導電繊維が縫合されていない第2の領域とを有するものとなっている。また、前記折曲状態のバインダーテープは、折り曲げられた側の側端縁である第1の側端縁421と、第1の側端縁421とは反対側の第2の側端縁422とを有する。そして、本実施形態の導線部40は、前記第1の領域が後身頃20の裏面と対向した状態で第2の側端縁422が後身頃20に縫合されている。これによって、導電部41は、絶縁体部42における前記第2の領域によって被覆された状態となっている。第1の側端縁421は、自由端とされており、これによって、バインダーテープの伸縮が阻害されにくくなっている。第1の側端縁421は、第2の側端縁422よりも下方に配されている。
【0062】
図3に示すように、導線部40と電極部30との接続部は、絶縁シートたる熱転写シート80で被覆されている。また、導線部40と端子70との接続部は、絶縁シートたる熱転写シート80で被覆されている。絶縁シート80としては、例えば、アイロンシート等の熱転写シートが挙げられる。
【0063】
本実施形態の衣料1によれば、着用者に体型差があっても、衣料1に部分的に配された高伸縮性構造布帛によって吸収され、安定的に所望とする生体の電気信号、特に心電信号が明瞭に得られる。
【0064】
具体的には、本実施形態の衣料1では、各電極部30が第3の中央線C3と右前身頃10Rの側端縁11Rとの間の領域及び第4の中央線C4と左前身頃10Lの側端縁11Lとの間の領域に配された上で、前身頃10における第2の中央線C2と第3の中央線C3との間の領域及び第2の中央線C2と第4の中央線C4との間の領域に第1の高伸縮領域H1が形成され、前身頃10のその他の領域が身生地で構成されていることによって、着用者の腹部や肋骨部への圧迫を緩和し着用快適性を維持しつつ(高伸縮性構造布帛が寄与)、心臓の左右両側の適切な位置に電極部を保持することができ(身生地が寄与)、電極部30が明瞭な生体信号を取得することができる。
【0065】
また、通常の衣料は、標準体型に合わせて設計されるため、胸部や肩幅の肥大等の身体的特徴を有する着用者、すなわち、標準体型からの体型差が大きい着用者が着用時の息苦しさ等の不快感や可動域が制限されることを感じることがある。これに対して、本実施形態の衣料1によれば、ファスナ50が前身頃10の上下方向にわたって延びているため、比較的押し付け圧が強くなり得る身生地で構成される領域の密着の加減についてはファスナ50の上げ幅で調節することができる。すなわち、本実施形態の衣料1は、ファスナ50と第1の高伸縮領域H1とによって、上半身の上部が大きい着用者及び上半身の下部が大きい着用者の両方に、適切に使用され得るものである。
【0066】
ファスナ50と第1の高伸縮領域H1との組み合わせに関しては、着用者がファスナ50を開閉しようとする際、ファスナ50の上止めに接合された把持部(着用者の開閉操作部)を着用者の正面から離れる方向に引っ張りやすく、それによって把持部を目視し易くなるため、衣料1の着脱の容易性を高められるという効果もある。
【0067】
また、本実施形態の衣料1は、後身頃20の巾方向中央部の第2の高伸縮領域H2によって、着用者の前傾姿勢による伸長が前身頃10に伝搬されずに吸収されやすく、電極部30の適切な接触位置からのずれを抑制することができる。
【0068】
また、本実施形態の衣料1は、各導線部40が第2の高伸縮領域H2の外縁の外側を通るように後身頃20を構成する身生地に接合されているため、比較的変形が抑制されており、延いては、変形による抵抗値の変化に起因するノイズを少なくでき、生体信号を検出し易いものである。
【0069】
以上のように、例示として一実施形態を示したが、本発明に係る衣料は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係る衣料は、上記作用効果により限定されるものでもない。本発明に係る衣料は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0070】
例えば、上記実施形態の衣料1は、心電信号を検出するためのものであるが、本発明の衣料は、これに限定されず、生体信号として筋肉の電気信号等を検出可能なものであってもよい。
【実施例0071】
以下、実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0072】
(1)心拍計測性
帝人フロンティアセンシング社製のDSPワイヤレスECG/HRロガー(加速度/角速度)SS-ECGHRAGを衣料に取り付けたスナップボタンを介して衣料に接続し、安静時、運動時の心電波形、及び心拍数を計測し、以下の基準にて心拍計測性を評価した。計測の周波数は1kHzに設定した。
◎ ⇒ 運動時すべてのデータで正確に心拍数を算出できた。
○ ⇒ 運動時80%以上のデータで正確に心拍数が算出できた。
△ ⇒ 運動時50%以上80%未満のデータで正確に心拍数が算出できた。
× ⇒ 運動時50%未満のデータで正確に心拍数が算出できた。
計測の一連の工程は、安静1分間⇒体をねじる運動1分⇒全速力腕振り1分、の3分間で実施した。
【0073】
(2)厚み
JIS L1096:2010 8.4 A法で規定される方法で測定した。
(3)繊度
JIS L1013:2021 8.3.1.正量繊度により測定した。
(4)押し付け圧
着用者の着用感により、「良好」「不良」の2段階評価した。
【0074】
[実施例1]
(高伸縮性構造布帛の作製)
フロント(表)側とバック(裏)側の2列の針床を有する公知のダブルラッセル編機(24ゲージ)を用い、表側の針で市販のポリエステル先染仮撚捲縮加工糸167dtex/48本を用いてダブルデンビ編みし、同時にポリウレタン(ロイカ)235dtex/1本を2針振りで挿入編した表側主編成部を緯方向にそれぞれの糸入れが4IN4OUTの間隔で編成した。一方、裏側の針でも同様に、市販のポリエステル先染仮撚糸167T48を用いてダブルデンビ編みし、同時にポリウレタン弾性糸(ロイカ)235dtex/1本を2針振りで挿入編した裏側主編成部を緯方向にそれぞれの糸入れが4IN4OUTの間隔で編成し、更に、並列する裏側主編成部の位相が表側主編成部のそれに対して緯方向にシフトさせ、各裏側主編成部が、表側主編成部間の中間位置に位置するように編成するとともに、近接する表側主編成部の側縁と裏側主編成部の側縁とを市販のポリエステル先染仮撚糸167dtex/48本を用いダブル鎖編によって経方向に繋ぎ編みし、編地の両側部に市販の先染仮撚糸167dtex/48本の双糸を用い繋ぎ編部と同じダブル鎖編をフルセットで8針分編み、同時に市販の先染仮撚糸167dtex/48本を3針振りで挿入編した耳部を編成した生機を得た。得られた生機を乾熱セット(温度:150℃、時間:35秒)し、巾(屈曲波の進行方向)10cm×長さ48cmのサイズにカットし、蛇腹状の経編地(高伸縮構造布帛)とした。かかる高伸縮性構造布帛は、上記の測定方法で測定して、縦方向及び横方向の両方において、後記の身生地より15%以上少ない切断時の強さ(N)で、15%以上高い伸び率を示す布帛であった。
【0075】
(電極部の作製)
次に、28Gのラッセル編機(細幅編機)にて、中央部(巾0.5cm)に78dtex/34本の銀メッキした導電性ナイロン糸を配し、それ以外の部分には単繊維の直径が約700nmである78dtex/16720本の超極細ポリエステル繊維(帝人フロンティア社製ナノフロント(登録商標))と33dtex/12本の通常のポリエステル繊維とのインターレース混繊糸を用いて、バック筬の組織を10/01、フロント筬の組織を12/10にて編地(全巾4cm)を作製した後、長さ6cmにカットしてシート状の電極部とした。
【0076】
(衣料の作製)
28Gのシングル丸編み機にて、84dtex/72本のポリエステル加工糸と44dtex/1本のポリウレタン弾性糸をポリウレタン弾性糸のドラフト率2.5倍にてベア天竺組織の編地を編成し、この編地を身生地(衣料生地)とし、図1及び図2に示すように前身頃及び後身頃のそれぞれに高伸縮構造布帛を巾(伸縮)方向が身体の横方向になるよう配した。より具体的には、前身頃における高伸縮構造布帛の上端を電極部よりも下方に且つ第1の中央線よりも上方に配し、下端を前身頃の下端と対応させるように配した。また、前身頃における高伸縮構造布帛の巾を片側につき約5cm(片側の全巾:約15.5cm、巾の割合:約32%)とした。後身頃における高伸縮構造布帛の上端を袖ぐりの下端に対応するように配し、上端を後身頃の下端と対応させるように配した。また、後身頃の高伸縮構造布帛の巾を約4.5cm(全巾:約30.5cm、巾の割合:約15%)とした。次いで、ファスナを、前身頃を左右均等に分割する中央線上に配して、Mサイズの衣料を作製した。
【0077】
次いで、図1に示すウェアの位置の内側(人体側)にシート状の電極部と後記の導線部を熱転写シートで取り付け、衣料生地とシート状の電極部との間にはクッション材として、厚み10mmの低反発ウレタンスポンジを挿入した。なお、熱転写シートは接着剤が塗布されたウレタンシートであり、160℃の熱プレスにより衣料生地とシート状の電極部とを熱接着させた。かかるシート状の電極部において、シート状の電極部の露出部は4.5cm×3cmのサイズであった。
【0078】
導線部としては、ポリエステル繊維製バインダーテープの片面に前記と同じ銀メッキナイロン糸(導電繊維)を縫い付けたものを用意し、図2のようにシート状電極部から背中上部のスナップボタンを内側(人体側)で連結し、スナップボタンを介して心電計測機に接続した。なお、シート状の電極部と導線部との接続部は、絶縁シートである熱転写シートにより被覆された状態であった。この衣料をシート状電極部が直接肌に触れるように着用し、安静時と運動時の心電図を計測し、結果は「○」であった。また、着用者に過剰な押し付け圧がかかることもなく着用感も良好であった。
【0079】
[比較例1]
実施例1において、前身頃及び後見頃に高伸縮構造の経編地を配していないこと以外は実施例1と同様にした。結果は「×」であった。
【0080】
[実施例2]
実施例1において、前見頃にファスナを配していないこと以外は実施例1と同様にして衣料を作製した。結果は「〇」であった。しかし、着脱がやや困難であり、また、ファスナによる締め付け具合の調整ができない分、身体的負荷を感じる着用者が認められた。
【符号の説明】
【0081】
1:衣料、10:前身頃、10R:右前身頃、10L:左前身頃、11R:側端縁、11L:側端縁、H1:第1の高伸縮領域、20:後身頃、H2:第2の高伸縮領域、30:電極部、31:表面部、311:検出部、312:非検出部、40:導線部、41:導電部、42:絶縁体部、421:第1の側端縁、422:第2の側端縁、50:ファスナ、60:ポケット、70:端子、80:絶縁シート、C1:第1の中央線、C2:第2の中央線、C3:第3の中央線、C4:第4の中央線、C5:第5の中央線
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、着用者の体型差を吸収することで過剰な押し付け圧をかけずに安定的に所望とする生体の電気信号、特に心電信号が明瞭に得られる衣料が提供され、その工業的価値は極めて大である。
図1
図2
図3