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特開2024-1217542,6-ジヒドロキシナフタレンの合成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121754
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】2,6-ジヒドロキシナフタレンの合成方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 37/56 20060101AFI20240830BHJP
   C07C 39/14 20060101ALI20240830BHJP
   C07C 37/82 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
C07C37/56
C07C39/14
C07C37/82
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078581
(22)【出願日】2023-05-11
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-08-29
(31)【優先権主張番号】202310133468.7
(32)【優先日】2023-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】523174882
【氏名又は名称】ナンジン ジョイイン ファーマテック カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】NANJING JOYIN PHARMATECH CO.,LTD
【住所又は居所原語表記】FLOOR 13th, Building F, No. 22 Tiansheng Road, Jiangbei New District, Nanjing,Jiangsu 210000 China
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】ウー シァオドン
(72)【発明者】
【氏名】ソン シンチャン
(72)【発明者】
【氏名】ジォン シュウイェン
(72)【発明者】
【氏名】タオ ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ホア ヤン
(72)【発明者】
【氏名】千葉 彬史
(72)【発明者】
【氏名】志々見 亨
(72)【発明者】
【氏名】越後 雅敏
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC42
4H006BD70
4H006BN30
(57)【要約】      (修正有)
【課題】2,6-ジヒドロキシナフタレンの合成方法を提供する。
【解決手段】2-アセチル-6-メトキシナフタレンからBV酸化反応により、中間体Iを生成するステップS1と、得られた中間体Iを酸性水溶液と反応させて、目的生成物の2,6-ジヒドロキシナフタレンステップを生成するステップS2と、を含む。ステップS1で使用されたBV酸化反応は常温反応であり、反応が穏やかであるため、高温でのアルカリ融解反応の設備問題や攪拌困難などの問題を解決したとともに、酸と塩基の中和反応により大量にスラグ、排水を生成する問題も解決した。ステップS1で使用されたBV酸化反応は常圧反応であるため、高圧での酸素による酸化反応の危険性問題を解決した。ステップS2において、酸による加水分解反応は、母液をそのまま循環利用することが可能であるため、排ガス、排水、スラグの制御に非常に有利である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,6-ジヒドロキシナフタレンの合成方法であって、
2-アセチル-6-メトキシナフタレンからバイヤー・ビリガー酸化反応により、中間体Iを生成するステップS1と、
得られた中間体Iを酸性水溶液と反応させて、目的生成物の2,6-ジヒドロキシナフタレンを生成するステップS2と、を含むことを特徴とする2,6-ジヒドロキシナフタレンの合成方法。
【請求項2】
前記ステップS1は、具体的に、反応容器に2-アセチル-6-メトキシナフタレンと有機溶媒を入れ、攪拌しながら酸化剤を複数回に分けて添加し、その後、一定温度で16~24時間反応し、反応終了後、後処理により中間体Iを得ることを含むことを特徴とする請求項1に記載の2,6-ジヒドロキシナフタレンの合成方法。
【請求項3】
前記ステップS1における有機溶媒は、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、氷酢酸から選択された1つであることを特徴とする請求項2に記載の2,6-ジヒドロキシナフタレンの合成方法。
【請求項4】
前記ステップS1における酸化剤は、過ホウ酸ナトリウム、m-クロロ過安息香酸(mCPBA)、オキソンから選択された1つであることを特徴とする請求項2に記載の2,6-ジヒドロキシナフタレンの合成方法。
【請求項5】
前記ステップS1における後処理は、具体的に、反応終了後、反応液を氷水に入れ、攪拌して固体を析出させ、ろ過してろ過ケーキを乾燥し、中間体Iを得ることを含むことを特徴とする請求項2に記載の2,6-ジヒドロキシナフタレンの合成方法。
【請求項6】
前記ステップS1における温度は、15~25℃であることを特徴とする請求項2に記載の2,6-ジヒドロキシナフタレンの合成方法。
【請求項7】
前記ステップS1において、2-アセチル-6-メトキシナフタレンと酸化剤の使用量のモル比は1:(1.0~4.0)であることを特徴とする請求項2に記載の2,6-ジヒドロキシナフタレンの合成方法。
【請求項8】
前記ステップS2は、具体的に、前記ステップS1で得られた中間体Iを酸性水溶液に入れ、一定温度で12~16時間反応し、反応終了後、反応系を室温まで冷却し、ろ過して中性までろ過ケーキを洗浄し、乾燥して目的生成物の2,6-ジヒドロキシナフタレンを得ることを含むことを特徴とする請求項1に記載の2,6-ジヒドロキシナフタレンの合成方法。
【請求項9】
前記ステップS2における酸性水溶液は、25%硫酸水溶液、36%塩酸、48%臭化水素酸水溶液から選択された1つであり、前記ステップS2における反応温度は100~110℃であることを特徴とする請求項8に記載の2,6-ジヒドロキシナフタレンの合成方法。
【請求項10】
前記ステップS2において、中間体Iの1gあたりに使用される酸性水溶液の体積は5~10mlであることを特徴とする請求項9に記載の2,6-ジヒドロキシナフタレンの合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学合成の技術分野に関し、特に2,6-ジヒドロキシナフタレンの合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2,6-ジヒドロキシナフタレンは、包装容器、繊維、フィルム、電子部品、染料、医薬品などの分野で幅広く使用される非常に有用な化学原料であり、さまざまなポリエステル材料や液晶ポリエステル樹脂の調製に重要なモノマーである。CN112299956、CN108299162、CN104844425では、いずれも2,6-ナフタレンジスルホン酸二ナトリウムを原料として、200~300℃で水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを融解させる条件で反応することが記載されたが、上記方法による純度が80%程度しかなく、純度が低く、色が濃く、設備に対する要求も高い。また、後処理には酸と塩基の中和反応が必要であるため、排ガス、排水、スラグが大量に生成し、操作が極めて不便である。Advanced Synthesisand Catalysisにより、2004年には、2,6-ジイソプロピルナフタレンを原料として、酸素による酸化反応で2,6-ジヒドロキシナフタレンを得ることが報告された。この方法は、高温でのアルカリ融解反応における設備の問題や、排ガス、排水、スラグの量が過大となる問題を解決したが、高圧での酸素による酸化反応は反応過程の制御が容易でなく、爆発性がある過酸化物が生成しやすく、危険性が高いため、工業生産は困難である。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、従来技術の欠陥を克服し、操作が簡単で、安全性が高い工業生産に適する2,6-ジヒドロキシナフタレンの合成方法を提供することを目的とする。
【0004】
上記の目的を実現するために、本発明は、以下の技術案を用いる。
【0005】
2,6-ジヒドロキシナフタレンの合成方法は、2-アセチル-6-メトキシナフタレンからバイヤー・ビリガー酸化反応により、中間体Iを生成するステップS1と、得られた中間体Iを酸性水溶液と反応させて、目的生成物の2,6-ジヒドロキシナフタレンステップを生成するステップS2と、を含む。
【0006】
さらに、前記ステップS1は、具体的に、反応容器に2-アセチル-6-メトキシナフタレンと有機溶媒を入れ、攪拌しながら酸化剤を複数回に分けて添加し、その後、一定温度で16~24時間反応し、反応終了後、後処理により中間体Iを得ることを含む。
【0007】
さらに、前記ステップS1における有機溶媒は、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、氷酢酸から選択された1つである。
【0008】
さらに、前記ステップS1における酸化剤は、過ホウ酸ナトリウム、m-クロロ過安息香酸(mCPBA)、オキソンから選択された1つである。
【0009】
さらに、前記ステップS1における後処理は、具体的に、反応終了後、反応液を氷水に入れ、攪拌して固体を析出させ、ろ過してケーキを乾燥し、中間体Iを得ることを含む。
【0010】
さらに、前記ステップS1における温度は、15~25℃である。
【0011】
さらに、前記ステップS1において、2-アセチル-6-メトキシナフタレンと酸化剤の使用量のモル比は1:(1.0~4.0)である。
【0012】
さらに、前記ステップS2は、具体的に、前記ステップS1で得られた中間体Iを酸性水溶液に入れ、一定温度で12~16時間反応し、反応終了後、反応系を室温まで冷却し、ろ過して中性までケーキ洗浄し、乾燥して目的生成物の2,6-ジヒドロキシナフタレンを得ることを含む。
【0013】
さらに、前記ステップS2における酸性水溶液は、25%硫酸水溶液、36%塩酸、48%臭化水素酸水溶液から選択された1つであり、前記ステップS2における反応温度は100~110℃である。
【0014】
さらに、前記ステップS2において、中間体Iの1gあたりに使用される酸性水溶液の体積は5~10mlである。
【0015】
本発明に係る技術案を用いることで、以下の有益な効果を有する。
【0016】
本発明に係るステップS1で使用されたバイヤー・ビリガー酸化反応(BV酸化反応)は常温反応であり、反応が穏やかであるため、高温でのアルカリ融解反応の設備問題や攪拌困難などの問題を解決したとともに、酸と塩基の中和反応により大量にスラグ、排水を生成する問題も解決した。
【0017】
本発明に係るステップS1で使用されたBV酸化反応は常圧反応であるため、高圧での酸素による酸化反応の危険性問題を解決した。
【0018】
本発明のステップS2において、酸による加水分解反応は、母液をそのまま循環利用することが可能であるため、排ガス、排水、スラグの制御に非常に有利である。
【0019】
本発明により得られる製品は、純度が99%以上で、全体の収率が80%以上である。また、原料や試薬は安価で、工業生産に適する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施例を参照しながら本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。下記の実施例において、具体的な条件が明記されていない実験方法は、通常の方法及び条件、又は取扱説明書に従って行われる。
【0021】
実施例1
2,6-ジヒドロキシナフタレンの合成方法は、以下の2つのステップを含む。
【0022】
(一)化合物(I)の合成
【化1】
500mlの四つ口フラスコに、氷酢酸300mlと2-アセチル-6-メトキシナフタレン20g(0.1mol)を入れ、攪拌して溶解させ、清澄となった。15~25℃で過ホウ酸ナトリウム61.5g(0.4mol)を複数回に分けて添加した。その後、25℃で24時間反応し、高速液体クロマトグラフ(HPLC)で反応終了を検出した後、反応液を氷水に入れた。攪拌しながら2時間晶析させ、ろ過して固体を得、水で中性まで洗浄し、乾燥して類白色の固体18.73gを得た。収率は86.7%であり、純度は98.7%であった。
【0023】
(二)化合物(II)の合成
【化2】
500Lの四つ口フラスコに、濃塩酸216mlと中間体I 21.6g(0.1mol)を
入れ、100~110℃まで加熱し、16時間還流し反応させた。HPLCで原料残量が0.3%となったことを検出した後、室温まで冷却し、さらに氷浴で0~5℃まで冷却し、ろ過して固体を得た。母液を回収して次の反応に用いた。固体を水で中性まで洗浄し、80℃で12時間乾燥し、薄いピンク色の固体14.66gを得た。収率は91.5%であり、HPLCで測定したところ、純度は99.1%であった。
【0024】
実施例2
2,6-ジヒドロキシナフタレンの合成方法は、以下の2つのステップを含む。
【0025】
(一)化合物(I)の合成
【化3】
500mlの四つ口フラスコに、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)180mlと2-アセチル-6-メトキシナフタレン40g(0.2mol)を入れ、攪拌して溶解させ、清澄となった。15~25℃でm-クロロ過安息香酸(mCPBA)69.2g(0.4mol)を複数回に分けて添加した。その後、25℃で21時間反応し、HPLCで反応終了を検出した後、反応液を氷水に入れた。攪拌しながら2時間晶析させ、ろ過して固体を得、水で中性まで洗浄し、乾燥して類白色の固体35.16gを得た。収率は81.3%であり、純度は99.4%であった。
【0026】
(二)化合物(II)の合成
【化4】
2000Lの四つ口フラスコに、48%臭化水素酸水溶液1000mlと中間体I 200g
(0.925mol)を入れ、100~110℃まで加熱し、12時間還流し反応させた。HPLCで原料残量が0.1%となったことを検出した後、室温まで冷却し、さらに氷浴で0~5℃まで冷却し、ろ過して固体を得た。母液を回収して次の反応に用いた。固体を水で中性まで洗浄し、80℃で12時間乾燥し、薄いピンク色の固体138.81gを得た。収率は93.7%であり、HPLCで測定したところ、純度は99.7%であった。
【0027】
実施例3
2,6-ジヒドロキシナフタレンの合成方法は、以下の2つのステップを含む。
【0028】
(一)化合物(I)の合成
【化5】
500mlの四つ口フラスコに、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)250mlと2-アセチル-6-メトキシナフタレン50g(0.25mol)を入れ、攪拌して溶解させ、清澄となった。15~25℃でオキソン(Oxone)155g(0.25mol)を複数回に分けて添加した。その後、25℃で24時間反応し、HPLCで反応終了を検出した後、反応液を氷水に入れた。攪拌しながら2時間晶析させ、ろ過して固体を得、水で中性まで洗浄し、乾燥して類白色の固体46.22gを得た。収率は85.5%であり、純度は99.2%であった。
【0029】
(二)化合物(II)の合成
【化6】
1000Lの四つ口フラスコに、25%硫酸水溶液500mlと中間体I80g(0.37m
ol)を入れ、100~110℃まで加熱し、14時間還流し反応させた。HPLCで原料が完全に反応したことを検出した後、室温まで冷却し、さらに氷浴で0~5℃まで冷却し、ろ過して固体を得た。母液を回収して次の反応に用いた。固体を水で中性まで洗浄し、80℃で12時間乾燥し、薄いピンク色の固体56.53gを得た。収率は95.4%であり、HPLCで測定したところ、純度は99.6%であった。
【0030】
上記の具体的かつ詳細に説明した実施例は、本発明のいくつかの実施形態にすぎず、本発明の保護範囲を限定するものではないと理解すべきである。なお、当業者にとって、本発明の主旨から逸脱しない限り、変形と改良を若干行うことが可能であり、これらの変形と改良はいずれも本発明の保護範囲内に属する。このため、本発明の保護範囲は特許請求の範囲に準ずるべきである。