(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121787
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】出没式筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 25/02 20060101AFI20240830BHJP
B43K 24/04 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
B43K25/02 190
B43K24/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024007952
(22)【出願日】2024-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2023028045
(32)【優先日】2023-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005511
【氏名又は名称】ぺんてる株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野村 恭平
(72)【発明者】
【氏名】的場 春佳
【テーマコード(参考)】
2C041
2C353
【Fターム(参考)】
2C041AA06
2C041AB01
2C041CC02
2C353HA01
2C353HC10
2C353HC17
(57)【要約】 (修正有)
【課題】出没式筆記具においてクリップを操作部とすると、クリップ本来の機能のための操作に加えて出没機構のための操作を可能にする構造を採用する必要があるため、クリップがより外れにくい方法で取り付けることが好ましい。本発明は、クリップが外れにくい出没式筆記具を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、クリップの取付部には、少なくとも2片の突起及び当該突起の各片に他方の片側に向かって突出した爪部、又は、爪部の端部間の距離より大きい幅の突出部、の一方が形成され、筆記具本体の被取付部には、前記突起及び前記爪部、又は、前記突出部、のうち取付部に形成された一方とは異なる方が形成され、爪部が突出部を乗り越えることで取付部又は被取付部の一方が他方に挟まれて結合し、前記突起は、軸筒内壁面に形成された少なくとも2条のリブに挟まれる出没式筆記具を要旨とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒と、クリップと、筆記具本体と、で少なくとも構成される出没式筆記具であって、
軸筒には、内外に貫通し軸方向に延びる孔部が形成され、
筆記具本体は、孔部に沿ったクリップの前後動に伴い軸筒内部を前後動可能に配置され、
クリップは、クリップ本体と、取付部と、で少なくとも構成され、
筆記具本体には、孔部を介して軸筒外部から挿入される取付部と結合することでクリップが取り付けられる被取付部が形成され、
取付部は、
少なくとも2片の突起及び当該突起の各片に他方の片側に向かって突出した爪部、又は、爪部の端部間の距離より大きい幅の突出部、の一方で構成され、
被取付部は、前記突起及び前記爪部、又は、前記突出部、のうち取付部を構成する一方とは異なる方で構成され、
爪部が突出部を乗り越えることで取付部又は被取付部の一方が他方に挟まれて結合し、
前記突起は、軸筒内壁面に形成された少なくとも2条のリブに挟まれる、
出没式筆記具。
【請求項2】
前記孔部を形成する縁部の前端と前記リブの前端との間の軸方向距離が、前記取付部の軸方向距離より大きい、
請求項1に記載の出没式筆記具。
【請求項3】
前記クリップが少なくとも前方に付勢されていない状態において、前記取付部の少なくとも一部が、前記リブの軸方向範囲内に位置する、
請求項2に記載の出没式筆記具。
【請求項4】
前記クリップが前方に付勢され前記孔部に対して最も前進した状態において、前記取付部が、前記リブの軸方向範囲外に位置する、
請求項3に記載の出没式筆記具。
【請求項5】
前記軸筒が、前軸と後軸とで構成され、
前記クリップが前方に付勢され前記孔部に対して最も前進した状態において、
前軸と後軸とが結合した状態では、前記取付部の少なくとも一部が前記リブの軸方向範囲内に位置し、
前軸と後軸とが分離した状態では、前記取付部が前記リブの軸方向範囲外に位置する、
請求項3に記載の出没式筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸筒内部に、前端に筆記部を有する筆記具本体が前後動可能に配置され、筆記具本体を軸筒内部で前後に異なる位置で係止させることで、筆記部の、軸筒前端開口部からの突出及び没入を可能とした、所謂出没式筆記具と、その出没式筆記具におけるクリップの取付構造に関するものである。筆記部が軸筒前端開口部から突出して筆記可能になった状態を突出状態、筆記部が軸筒内部に没入した状態を没入状態とする。
【背景技術】
【0002】
出没式筆記具に限らず、筆記具にはクリップが配置されることがある。筆記具用のクリップは、軸筒外壁面とクリップ本体との間で挟持部を構成するものである。
【0003】
クリップを筆記具へ取り付ける構造としては、例えば特許文献1(特開2019-10859)には、軸筒外壁面に形成された被取付部の突出部に、クリップの取付部が嵌合する構造の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、出没式筆記具における筆記部の出没操作を行うためには軸筒外部に位置する部材を操作する必要があるが、取り付けたクリップ自体を、出没操作を行うための操作部として機能させたい場合もある。クリップを操作部とすると、クリップ本来の機能のための操作に加えて出没機構のための操作を可能にする構造を採用する必要があるため、クリップがより外れにくく組み立てやすい方法で取り付けることが好ましい。
【0006】
本発明は、操作部としてのクリップの前後動に伴い軸筒内部の筆記具本体が前後動する構造においても、クリップが外れにくい出没式筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、軸筒と、クリップと、筆記具本体と、で少なくとも構成される出没式筆記具であって、軸筒には、内外に貫通し軸方向に延びる孔部が形成され、筆記具本体は、孔部に沿ったクリップの前後動に伴い軸筒内部を前後動可能に配置され、クリップは、クリップ本体と、取付部と、で少なくとも構成され、筆記具本体には、孔部を介して軸筒外部から挿入される取付部と結合することでクリップが取り付けられる被取付部が形成され、取付部には、少なくとも2片の突起及び当該突起の各片に他方の片側に向かって突出した爪部、又は、爪部の端部間の距離より大きい幅の突出部、の一方が形成され、被取付部には、前記突起及び前記爪部、又は、前記突出部、のうち取付部に形成された一方とは異なる方が形成され、爪部が突出部を乗り越えることで取付部又は被取付部の一方が他方に挟まれて結合し、前記突起は、軸筒内壁面に形成された少なくとも2条のリブに挟まれる、出没式筆記具を要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の出没式筆記具は、取付部と被取付部とが結合した状態で突起がリブに挟まれているため、爪部が突出部を再度乗り越えるために取付部の各片が開きにくくなり、クリップの外れにくい出没式筆記具とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図14】ボールペンリフィル6及び摺動子7の結合部分近傍拡大断面図
【
図15】筆記具本体5が軸筒2内部において最も後退した状態を示した図
【
図22】筆記具本体5が軸筒2内部において最も前進した状態時における
図10相当図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、ボールペン、シャープペンシル、筆ペン、フェルトペン、マーキングペンなどの筆記具であって、ボールペンチップなどの筆記部を軸筒前端開口部から出没可能な出没式筆記具として実施することができる。以降、図面を適宜参照しつつ、本発明に係る実施形態について説明する。本発明の技術的範囲は実施形態の記載に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0011】
図1(a)(b)は、本発明の実施形態に係る出没式筆記具であるボールペン1の外観図、
図2は
図1(a)のA‐A’ 線断面矢視図である。ボールペン1は、中空筒状の軸筒2内部に、筆記具本体5を構成するボールペンリフィル6及び摺動子7や、カム筒9等が配置され、軸筒2外部に、クリップ10が配置され、構成されている。
【0012】
軸筒2は、前軸3と後軸4とが着脱自在に結合して構成されている。前軸3の後方が後軸4の前端開口部から挿入される。前軸3の後端部付近の外壁面と後軸4の前端部付近の内壁面とには、それぞれ螺子部が設けられており、前軸3と後軸4とが螺子螺合により結合可能となっている。
【0013】
軸筒2は、本実施形態のように軸方向中腹で前軸3と後軸4の結合を解除可能なもの以外の構成も採用することができる。例えば、軸方向の略全域を1部品で構成し、内部に各部材を配置可能にするための開口部を一端に設け、当該開口部を閉塞する栓部材を着脱自在に取り付ける構成とすることもできる。
【0014】
前軸3は、軸方向に貫通した円筒状の部材であり、ポリプロピレン樹脂製の成形品である。後軸4は、軸方向前端が開口した円筒状の部材であり、ポリカーボネート樹脂製の成形品である。軸筒2は、前軸3及び/又は後軸4の内部が外部から視認可能な程度に透明又は半透明にしてもよい。軸筒2の一部を構成する後軸4の側壁には、内外に貫通し軸方向に延びる孔部4aが形成されている。
【0015】
筆記具本体5は、後述する孔部4aに沿ったクリップ10の前後動に伴い、軸筒2内部を前後動可能に配置されている。筆記具本体5は、ボールペンリフィル6と摺動子7とで構成されている。ボールペンリフィル6は、筆記部としてのボールペンチップ6aと、内部にボールペンインキが収納されるパイプ6bとで構成されている。摺動子7は軸方向前端が開口した有底筒状の部材であり、ポリアセタール樹脂製の成形品である。ボールペンリフィル6の後方が摺動子7の前端開口部から挿入されるが固定はされておらず、ボールペンリフィル6と摺動子7とが互いに逆方向に軸回転可能な程度に遊嵌されている。前軸3の内壁面前方には周方向に連なった環状の突起である段部3aが設けられている。パイプ6bの前端面が段部3aに接触することで、ボールペン1の出没機構における筆記具本体5の前進が止まる。パイプ6bの外壁面には、コイルスプリング8の後端と接触する2本のコイルスプリング後端用突起6baが周方向等間隔に設けられている。また、前軸3の内壁面には、コイルスプリング8の前端と接触する6条のコイルスプリング前端用リブ3bが、周方向等間隔に設けられている。コイルスプリング8は自然状態から縮んだ状態でコイルスプリング後端用突起6baとコイルスプリング前端用リブ3bとにより挟持され、筆記具本体5を常時後方に付勢している。
【0016】
図3(a)(b)は摺動子7の外観図である。摺動子7の外壁面には、作動突起7aと係止突起7dとが設けられている。作動突起7aは摺動子7の外壁面において周方向に対向する位置に2か所、係止突起7dは摺動子7の外壁面において周方向等間隔に4か所、設けられている。本実施形態においては、作動突起7aは、作動突起基部7bと、作動突起基部7bの側壁から後方に延び、作動突起基部7bより摺動子7の外壁面からの径方向外側への高さが低い作動突起後方端部7cと、で少なくとも構成されている。作動突起7a及び係止突起7dはパイプ6bの外壁に設けてもよく、係止突起7dのみをパイプ6bに設けてもよい。摺動子7の外壁面には、軸方向に延びる摺動溝7eが設けられている。摺動溝7eは、周方向等間隔に2本設けられている。摺動子7の外壁面前方には環状突起7fが設けられている。環状突起7fの後方は係止突起7dの前方と連なっている。環状突起7fは径方向外側に向かって鍔状に突出している。
【0017】
図4(a)(b)はクリップ10の外観図、
図5は
図4のC‐C’ 線断面矢視図である。
図4(b)は、クリップ10は、クリップ本体10aと取付部10bとで構成されている。クリップ本体10aは軸筒2の軸方向に沿って延びる板状の部材であり、軸筒2外壁面との間で挟持部を構成するものである。取付部10bは、クリップ本体10aの軸筒2側の壁面から突出した部位である。取付部10bは、少なくともその一部が孔部4aを介して軸筒2内部へ挿入される。
【0018】
本実施形態において、取付部10bは、突起10baで少なくとも構成されている。突起10baは軸方向に直交する方向に2片並んで形成され、各片は軸方向に沿った方向に延びる板状に形成されている。突起10baの各片には、他方の1片側に向かって突出した爪部10baaが形成されている。
【0019】
図6は
図3(b)のD部分拡大図、
図7は摺動子7の外観斜視図、
図8は
図3(a)のE‐E’線断面矢視図である。筆記具本体5を構成する摺動子7の軸方向後方には、被取付部7gが形成されている。被取付部7gは、孔部4aを介して軸筒2外部から挿入される取付部10bと結合することでクリップ10が取り付けられる部位である。後軸4の前端開口部から摺動子7の後方を、少なくとも孔部4aの軸方向範囲内に、被取付部7gが位置する程度まで挿入した状態で、取付部10bが孔部4aに挿入されて被取付部7gと結合する想定である。
【0020】
本実施形態において、被取付部7gは、被取付基部7gaと、孔部側突出部7gbと、奥側突出部7gcと、前端部7gdと、後端板部7geとで構成されている。孔部側突出部7gb及び奥側突出部7gcは、被取付基部7gaから、軸方向及びクリップ本体10aから取付部10bが延びる方向のいずれにも直交する方向に突出し幅のある部位である。孔部側突出部7gbは孔部4a側に、奥側突出部7gcは孔部4a側から見て孔部側突出部7gbより径方向奥側に位置している。少なくとも孔部側突出部7gbの幅Fは、爪部10baaの端部間の距離Gより大きく設計されている。
【0021】
取付部10bと被取付部7gとを結合させようとすると、爪部10baaと孔部側突出部7gbとが接触する。さらに結合を進めると、各突起10baが互いに離れる方向に弾性変形する。爪部10baaが孔部側突出部7gbを乗り越えると、突起10baの弾性変形が解除され、孔部側突出部7gbが突起10baに挟まれ、取付部10bと被取付部7gとが結合する。
【0022】
図9は
図1(a)のB‐B’ 線断面矢視図である。軸筒2の内壁面である後軸4の内壁面には、リブ4bが形成されている。リブ4bは、軸方向に沿って延びる突起であり、本実施形態においては4条形成されている。4条のリブ4bのうち、孔部4aに対して周方向奥側に位置する2条が挟持リブ4baである。挟持リブ4baは、ボールペン1が組み立てられた状態において、突起10baを挟んだ状態となる位置に形成される。具体的には、各突起10baを、被取付部7gと挟持リブ4baとで挟んだ状態となる。後軸4内壁面に斯様な挟持リブ4baを形成することで、クリップ10の使用時に、クリップ本体10aが軸筒2外壁面から離れる方向であって取付部10bと被取付部7gとの結合が解除される方向に力が加わり、爪部10baaが孔部側突出部7gbを再度乗り越えるために各突起10baが互いに離れる方向に弾性変形しようとしても、突起10baと挟持リブ4baとが接触して当該弾性変形が阻害されることとなり、クリップ10の外れにくい出没式筆記具とすることができる。
【0023】
各突起10baの、他方の突起10ba側の壁面であって、孔部4a側から見て爪部10baaより径方向奥側に位置する壁面は、奥側突出部7gcの端部に接触しており、突起10ba間がそれ以上狭まることがなく、クリップ10のガタつきを抑制できる。
【0024】
爪部10baaと孔部側突出部7gbとの接触している面の幅が、突起10ba外壁面と挟持リブ4ba端部との隙間より大きく設計されていると、爪部10baaが孔部側突出部7gbを再度乗り越えることが可能な程度に各突起10baが互いに離れる方向に弾性変形が不可能となるため、クリップ10がより外れにくくなる。爪部10baaと孔部側突出部7gbとの接触している面の幅と、突起10ba外壁面と挟持リブ4ba端部との隙間とは、2片の突起10baの片方側のみでなく、両方の合計で上記関係になっていてもよいが、片方側のみで上記関係であると、例えば片方側の突起10ba外壁面と挟持リブ4ba端部との隙間が大きくなるような状態がなく、クリップ10のガタつきを抑制できる。突起10ba外壁面と挟持リブ4ba端部とが常に接触していると、よりクリップ10が外れにくくなり、隙間があると、後述するクリップ10が取り付けをしやすくなる。
【0025】
突起10baと、前端部7gd及び後端板部7geとの軸方向間には隙間がないものとすることができる。そのため、クリップ10のガタつきを抑制できる。更に、取付部10bと被取付部7gとの結合が解除される方向に力が加わってもクリップ10を軸方向に対して傾けることができないため、爪部10baaが孔部側突出部7gbを再度乗り越えるために各突起10baを互いに離れる方向に弾性変形させずにクリップ10を取り外すことが極めて困難になるため、よりクリップ10が外れにくくなる。
【0026】
被取付部7gには、突起10ba及び爪部10baa、又は、突出部としての孔部側突出部7gbのうち、取付部10bに形成された一方とは異なる一方が形成されていればよい。つまり、本実施形態とは逆に、取付部10bに孔部側突出部7gbに相当する突出部を、被取付部7gに突起10ba及び爪部10baaに相当する突起及び爪部を形成することもできる。
【0027】
図10は、他の実施形態に係る
図9相当図である。当該実施形態においては、クリップ本体13aから突出した取付部13bが、後軸11の孔部11aを介して軸筒内部へ挿入される。筆記具本体を構成する摺動子12の軸方向後方には被取付部12aが形成されており、取付部13bと被取付部12aとが結合することでクリップ13が取り付けられる。取付部13bは、取付基部13baと、奥側突出部13bbと、孔部側突出部13bcと、で少なくとも構成されている。被取付部12aは、2片の突起12aaで少なくとも構成されている。突起12aaの各片には、他方の1片側に向かって突出した爪部12aaaが形成されている。少なくとも奥側突出部13bbの幅Hは、爪部12aaaの端部間の距離Iより大きく設計されている。取付部13bと被取付部12aとを結合させようとすると、爪部12aaaと奥側突出部13bbとが接触する。さらに結合を進めると、各突起12aaが互いに離れる方向に弾性変形する。爪部12aaaが奥側突出部13bbを乗り越えると、突起12aaの弾性変形が解除され、奥側突出部13bbが突起12aaに挟まれ、取付部13bと被取付部12aとが結合する。後軸11の内壁面には、リブ11bが形成されている。リブ11bは、軸方向に沿って延びる4条の突起である。4条のリブ11bのうち、孔部11aに対して周方向手前側に位置する2条が挟持リブ11ba、周方向奥側に位置する2条が摺動リブ11bbである。挟持リブ11baは、本実施形態に係る出没式筆記具が組み立てられた状態において、突起12aaを挟んだ状態となる位置に形成される。具体的には、各突起12aaを、取付部13bと挟持リブ11baとで挟んだ状態となる。よって、取付部13bと被取付部12aとの結合が解除される方向に力が加わり、爪部12aaaが奥側突出部13bbを再度乗り越えるために各突起12aaが互いに離れる方向に弾性変形しようとしても、突起12aaと挟持リブ11baとが接触して当該弾性変形が阻害されることとなり、クリップ13の外れにくい出没式筆記具とすることができる。
【0028】
図11は、
図2のJ部分拡大図である。摺動子7に対して図面奥側に位置する挟持リブ4ba及び摺動リブ4bbの一部を隠れ線として破線で示している。孔部4aを形成する縁部の前端と、挟持リブ4baとの間の軸方向距離Kは、取付部10bの軸方向距離Lより大きく設計されている。そのため、クリップ10を取り付ける際に、孔部4aのうち挟持リブ4baが形成されていない範囲から取付部10bを挿入できるため、クリップ10を取り付けやすく、組み立てやすい出没式筆記具とすることができる。
【0029】
図12(a)(b)はカム筒9の外観斜視図である。
図12(b)はカム筒9の外壁を透明にして、カム筒9の内壁面に設けられたカム突起9bの一部を点線で図示している。カム筒9はポリアセタール樹脂製の成形品であり、円筒状の部材である。カム筒9には、軸方向に貫通し、摺動子7が挿通される貫通孔9aが形成されている。カム筒9の内壁面にはカム突起9bが設けられている。カム突起9bは係止突起7bの係止先であり、係止突起7bの側壁後方は、カム突起9bの側壁前方に係止可能である。カム突起9bは、カム筒9の内壁面において周方向等間隔に4か所設けられている。ボールペン1の出没機構において、筆記具本体5の前進に伴い、作動突起7aの側壁前方と、カム突起9bの側壁後方とが接触し、カム筒9は摺動子7外周を周方向に回動可能である。また、筆記具本体5の後退に伴い、係止突起7bの側壁後方と、カム突起9bの側壁前方とが接触し、カム筒9は摺動子7外周を周方向に回動可能である。つまり摺動子7が挿通されたカム筒9が軸回転することで摺動子7の外周をカム突起9bが公転するものであり、カム筒9自体が摺動子7から離脱した状態で摺動子7の外周を公転するものではない。また、突起の側壁前方及び側壁後方とは、その突起の側壁の前端面及び後端面のみではなく、その突起を軸方向前半と後半とで分けた範囲の側壁も含まれる。
【0030】
図13はカム筒9の縦断面斜視図である。
図13はカム筒9後方を図面奥側、カム筒9前方を図面手前側に傾斜した構図で示している。カム突起9bは、カム突起基部9cと、カム突起基部9cの側壁から前方に延び、カム突起基部9cよりカム筒9内壁面からの径方向内側への高さが低いカム突起前方端部9dと、で少なくとも構成されている。カム突起基部9cの側壁前方には突出係止面9ca及び後方作動突起案内面9cbが形成されており、カム突起前方端部9dの側壁前方には没入案内面9daが形成されている。
【0031】
図14はボールペンリフィル6及び摺動子7の結合部分近傍拡大断面図である。組み立てられたカム筒9及び筆記具本体5は、後軸4の前端開口部から挿入され、前軸3と後軸4との結合により、軸筒2内部に配置される。本実施形態において、カム筒9は軸筒2内部において前後動が制限された部材である。4条のリブ4bの前端面と前軸3の後端面とが、カム筒9の軸方向両端面と接触し、カム筒9が挟持される段部として機能する。これにより、カム筒9は軸筒2内部において前後動不可能に配置される。なお、前後動不可能とは、カム筒9が軸筒2内部において軸方向に全く動かない状態のみならず、成形上の公差や使用に伴う僅かな摩耗などによって生じた隙間分だけは前後動してしまう状態も含むものである。
【0032】
後軸4の内壁面に設けられたリブ4bのうち、孔部4aに対して周方向手前側に位置する2条であって、摺動子7の摺動溝7cに対応した位置における2条には、軸方向中腹から後方に向かって、前端面より径方向内側に突出した摺動リブ4bbが延設されている。摺動リブ4bbは摺動溝7eに挿入される。摺動リブ4bbの前端面が、摺動溝7eの前端面に接触することで、ボールペン1の出没機構における筆記具本体5の後退が止まる。また、摺動リブ4bbが摺動溝7eに沿って摺動することで、摺動子7は軸筒2内部において回動不可能に配置される。回動不可能とは、摺動子7が軸筒2内部において周方向に全く動かない状態のみならず、成形上の公差や使用に伴う僅かな摩耗などによって生じた隙間分だけは周方向に回動してしまう状態も含むものである。
【0033】
図15から
図20を参照しつつ、ボールペン1の出没機構について説明する。
図15から
図20は、作動突起7a及び係止突起7dと、カム突起9bとの接触関係を視認しやすくするために、摺動子7とカム筒9とを周方向に展開し、また、本来径方向に向き合う関係である作動突起7a及び係止突起7dと、カム突起9bとを同一平面上で図示している。具体的には、作動突起7a及び係止突起7dが図面奥側から図面手前側に向かって突出する視点で図示し、カム突起9bが図面手前側から図面奥側に向かって突出する視点で図示している。カム突起9bは、カム突起9bの根元であるカム筒9の内壁面から切り取って図示し、断面を表すハッチングは省略している。出没機構においてカム筒9の回動方向である図面右側に向かう方向を回動方向前方、回動方向前方と逆方向であり図面左側に向かう方向を回動方向後方として説明する。例えば、突出係止面9caと没入案内面9daとは、いずれも、回動方向前方に向かうに従って軸方向前方へ、回動方向後方に向かうに従って軸方向後方へ傾斜した平面である。後方作動突起案内面9cbはカム突起基部9cの側壁前方の一部であって、突出係止面9caより回動方向後方に位置し、カム突起前方端部9dより径方向内側の範囲の面である。後方作動突起案内面9cbも、回動方向前方に向かうに従って軸方向前方へ、回動方向後方に向かうに従って軸方向後方へ傾斜した平面である。なお、回動方向は本実施形態と逆方向に構成することもできる。
【0034】
図15は、筆記具本体5が軸筒2内部において最も後退した状態を示した図であり、没入状態における摺動子7及びカム筒9の位置関係を示している。
【0035】
図16は、
図15の状態から筆記具本体5を前進させた図である。カム突起基部9cの側壁後方には、回動方向前方の前方作動面9ccと、回動方向後方の後方作動面9cdとの2つの平面が形成されている。また、作動突起7aの側壁前方である作動突起基部7bの側壁前方には、作動面7baが形成されている。前方作動面9cc及び後方作動面9ccと、作動面7baとは、いずれも回動方向前方に向かうに従って軸方向後方へ、回動方向後方に向かう従って軸方向前方へ傾斜した、互いに向かい合う平面となっている。
図15の状態から筆記具本体5を前進すると、作動面7baと前方作動面9ccとが接触する。カム筒9は、前方作動面9ccを介して作動突起7baから周方向の力を受けて回動方向前方で回動する。
【0036】
図17は、
図16の状態から筆記具本体5を前進させた図である。この状態が、筆記具本体26が軸筒2内部において最も前進した状態である。
図16の状態から、筆記具本体5を前進させると、カム筒9は回動方向前方へ回動する。パイプ6bの前端面が段部3aに接触して筆記具本体5の前進が止まると、カム筒9の回動も止まり、
図17に示す状態となる。
【0037】
図18は、
図17の状態から筆記具本体5を後退させた図である。係止突起7dの側壁後方には、係止面7daが形成されている。
図17の状態から筆記具本体5を後退させると、係止面7daと突出係止面9caとが接触する。
【0038】
図19は、
図18の状態から筆記具本体5を後退させた図であり、突出状態における摺動子7及びカム筒9の位置関係を示している。係止面7daは、回動方向前方に向かうに従って軸方向前方へ、回動方向後方に向かうに従って軸方向後方へ傾斜した平面となっている。
図17の状態から筆記具本体5を後退させると、カム筒9は、突出係止面9caを介して係止面7daから周方向の力を受けて回動方向前方へ回動する。摺動リブ4bbの前端面が、摺動溝7cの前端面に接触して筆記具本体5の後退が止まると、カム筒9の回動も止まり、
図19に示す状態となる。
【0039】
図20は、
図19の状態から筆記具本体5を前進させた図である。
図19の状態から筆記具本体5を前進させると、作動面7baと後方作動面9cdとが接触する。筆記具本体5を更に前進させると、カム筒9は、後方作動面9cdを介して作動面7baから周方向の力を受けて回動方向前方へ回動する。パイプ6bの前端面が段部3aに接触して筆記具本体5の前進が止まると、カム筒9の回動も止まる。
【0040】
図20の状態から筆記具本体5を後退させると、係止面7daと没入案内面9daとが接触する。カム筒9は、没入案内面9daを介して係止面7daから周方向の力を受けて回動方向前方へ回動する。カム筒9が、没入案内面9daと係止面7daとの接触が解除されるまで回動すると、
図15に示す没入状態となる。
【0041】
図21は、
図19に示す突出状態時における
図10相当図である。
図11同様、破線は隠れ線である。なお、
図10は
図15に示す没入状態時を示している。突出状態及び没入状態においては、筆記具本体5は少なくとも前方に付勢されておらず、つまり、クリップ10が前方に付勢されていない状態である。斯様な状態において、取付部bの少なくとも一部が、挟持リブ4baの軸方向範囲内に位置している。そのため、ボールペン1の使用時又は非使用時の、少なくとも使用者がクリップ10を操作していない状態において、挟持リブ4baが取付部10bを挟むことができる。よって、クリップ10を取り付けやすく、組み立てやすい構造でありながらクリップ10の外れにくい出没式筆記具とすることができる。
【0042】
図22は、
図17に示す、筆記具本体5が軸筒2内部において最も前進した状態時における
図10相当図である。
図11同様、破線は隠れ線である。斯様な状態において、取付部10bが、挟持リブ4baの軸方向範囲外に位置している。筆記具本体5が軸筒2内部でおいて最も前進した状態においては、クリップ10が前方に付勢され孔部4aに対して最も前進した状態となり、使用者がクリップ本体10aに触れているため、クリップ本体10aが軸筒2外壁面から離れる方向であって取付部10bと被取付部7gとの結合が解除される方向に力が生じる可能性が極めて低い。よって、孔部4aの軸方向範囲に対して、挟持リブ4baが存在しない軸方向範囲であって取付部10bが挿入されるための軸方向範囲を、より大きく形成することができるため、クリップ10が取り付けやすく、組み立てやすい出没式筆記具とすることができる。
【0043】
図10、
図21、及び、
図22に示す態様は、いずれも前軸3と後軸4とが結合している状態での態様である。クリップ10が前方に付勢され孔部4aに対して最も前進した状態において、前軸3と後軸4とが結合した状態では、取付部10bの少なくとも一部が挟持リブ4baの軸方向範囲内に位置し、前軸3と後軸4とが分離した状態では、取付部10bが挟持リブ4baの軸方向範囲外に位置するよう構成することもできる。前軸3と後軸4とが結合した状態においては、取付部10bが孔部4aに対して前進可能な位置は、筆記具本体5の軸筒2内部での前進可能な位置に依存する。筆記具本体5は、軸筒2内部において、パイプ6bの前端面が段部3aに接触するまで前進することができる。段部3aは前軸3内壁面に形成されており、前軸3と後軸4とが分離した状態においては、パイプ6bは段部3aに接触することができないため、前軸3と後軸4とが結合した状態よりも、クリップ10を孔部4aに対してより前進させる形態とすることもできる。前軸3と後軸4とが分離した状態においてのみ取付部10bが挟持リブ4baの軸方向範囲外に位置することができるものとすることで、前軸3と後軸4とが結合したボールペン1の使用可能時にはクリップ10が意図せず外れないため、クリップ10を取り付けやすく、組み立てやすい出没式筆記具でありながら、クリップ10の外れにくい出没式筆記具とすることができる。
【0044】
各樹脂成形品の材質は、成形性や耐久性などを考慮して、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、塩化ビニル樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル樹脂、フッ素樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、シリコーン樹脂、エラストマー、又は、これらの樹脂を含む複合材などを適宜選択することができる。また、成形方法も様々な方法を適宜選択することができる。
【0045】
図23は
図3のF‐F’線断面矢視図、
図24は摺動子7の外観斜視図、
図25は摺動子7の軸方向視図である。
図24及び
図25は軸方向前方が図面手前になる角度から摺動子7を視認している。摺動子7の内部には、案内面7haと、溝7hbと、リブ7hcとが形成されている。
図24は摺動子7の外壁を透明にして、摺動子7の内部の一部を破線で図示している。
【0046】
案内面7haは、軸方向前方から軸方向後方に向かうにつれて互いに接近する一対の曲面である。案内面7haの軸方向後方には、溝7hbが連なっており、案内面7haがそれぞれ溝7hbの一対の側壁と連なっている。案内面7ha及び溝7hbは、本発明に係る出没式筆記具を組み立てる工程において、摺動子7の周方向の位置決めをするための治具との関係で機能する部位である。棒状の治具の外壁面に突起が形成されており、治具の先端に摺動子7の前端開口部を被せるように乗せると、治具の突起の側壁が案内面7haと接触する。治具への摺動子7への被覆が進むと(摺動子7が鉛直方向下方へ移動すると)、突起の側壁は案内面7haによって溝7hb側へ案内されるよう、摺動子7が軸回転する。さらに被覆が進むと、突起が溝7hb内を摺動するようになり、摺動子7を任意の周方向位置に位置決めすることができる。摺動子7を一定の周方向位置で位置決めできることによって、後軸4を摺動子7へ被覆するよう取り付ける際に、孔部4aを介して取付部10bを被取付部7gへ取り付け可能なよう、後軸4と摺動子7との周方向の位置合わせが容易になり好ましい。
【0047】
リブ7hcは摺動子7の内壁面から径方向内側に向かって突出している。本実施形態においては3か所に形成されている。リブ7hcと治具の先端とが緩く圧入できるように、軸方向に直交する方向の横断面において、3か所のリブ7hcを接点とする摺動子7内部の内接円の面積は、治具の先端の横断面積(太さ)よりわずかに小さくなるよう、リブ7hcの突出量が設計される。治具の突起が溝7hbに案内された後、リブ7hcと治具の先端が緩く圧入することで、治具への摺動子7の被覆が停止し、摺動子7を任意の軸方向位置に位置決めすることができる。リブ7hcの数や形状は適宜変更可能である。当該リブ7hcを接点とする摺動子7内部の内接円の面積は、パイプ6bの外壁面における横断面積より大きいため、パイプ6bの後端面がリブ7hcより軸方向後方の段部と接触可能である。よって、ボールペンリフィル6と摺動子7との軸方向の位置合わせが容易になり好ましい。また、治具の突起と摺動子7内部とは、溝7hbの側壁及び底面に対して圧入されない寸法関係となっている。
【符号の説明】
【0048】
1 ボールペン
2 軸筒
3 前軸
3a 段部
3b コイルスプリング前端用リブ
4 後軸
4a 孔部
4b リブ
4ba 挟持リブ
4bb 摺動リブ
5 筆記具本体
6 ボールペンリフィル
6a ボールペンチップ
6b パイプ
6ba コイルスプリング後端用突起
7 摺動子
7a 作動突起
7b 作動突起基部
7ba 作動面
7c 作動突起後方端部
7d 係止突起
7da 係止面
7e 摺動溝
7f 環状突起
7g 被取付部
7ga 被取付基部
7gb 孔部側突出部
7gc 奥側突出部
7gd 前端部
7ge 後端板部
7ha 案内面
7hb 溝
7hc リブ
8 コイルスプリング
9 カム筒
9a 貫通孔
9b カム突起
9c カム突起基部
9ca 突出係止面
9cb 後方作動突起案内面
9cc 前方作動面
9cd 後方作動面
9d カム突起前方端部
9da 没入案内面
10 クリップ
10a クリップ本体
10b 取付部
10ba 突起
10baa 爪部
11 後軸
11a 孔部
11b リブ
11ba 挟持リブ
11bb 摺動リブ
12 摺動子
12a 被取付部
12aa 突起
12aaa 爪部
13 クリップ
13a クリップ本体
13b 取付部
13ba 取付基部
13bb 奥側突出部
13bc 孔部側突出部