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特開2024-121790人工皮革およびその製造方法ならびに衣料、靴、鞄
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121790
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】人工皮革およびその製造方法ならびに衣料、靴、鞄
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/14 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
D06N3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024012635
(22)【出願日】2024-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2023028021
(32)【優先日】2023-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】萩原 達也
(72)【発明者】
【氏名】上野 勝
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 智
【テーマコード(参考)】
4F055
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055AA02
4F055AA27
4F055BA02
4F055DA07
4F055EA11
4F055EA12
4F055EA24
4F055EA34
4F055FA15
4F055GA02
4F055HA03
4F055HA22
(57)【要約】
【課題】 天然皮革調、特に豚革調の微細な小柄模様と立毛が不均一で粗い表面外観を有しながら、長期間の使用に耐えうる耐摩耗性を両立する人工皮革を提供すること。
【解決手段】 平均単繊維直径が0.01μm以上10.00μm以下の極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、ポリウレタンと、からなる、少なくとも一方の表面が立毛を有する立毛面である人工皮革であって、前記立毛面のうち少なくとも1つの立毛面が以下の要件を満たす、人工皮革。
要件1:前記立毛面に露出しているポリウレタンの面積割合が1.0%以上5.0%未満である
要件2:前記立毛面に0.2mm以上1.0mm以下のポリウレタンの集合体が露出している
要件3:前記立毛面における単位面積当たりの前記ポリウレタンの集合体の個数が0.25個/cm以上5.00個/cm以下である
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均単繊維直径が0.01μm以上10.00μm以下の極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、ポリウレタンと、で構成されてなる、少なくとも一方の表面が立毛を有する立毛面である人工皮革であって、前記立毛面のうち少なくとも1つの立毛面が以下の要件を満たす、人工皮革。
要件1:前記立毛面に露出しているポリウレタンの面積割合が1.0%以上5.0%未満である
要件2:前記立毛面に0.2mm以上1.0mm以下のポリウレタンの集合体が露出している
要件3:前記立毛面における単位面積当たりの前記ポリウレタンの集合体の個数が0.25個/cm以上5.00個/cm以下である
【請求項2】
前記立毛の平均長さが200μm以上600μm以下である、請求項1に記載の人工皮革。
【請求項3】
前記立毛の長さの変動係数が30%以上100%以下である、請求項1または2に記載の人工皮革。
【請求項4】
平均単繊維直径が0.01μm以上10.00μm以下の極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、ポリウレタンと、で構成されてなるシート状物の、少なくとも一方の表面を研削手段で複数回研削し、該表面を立毛面とする工程を含み、前記立毛面のうち少なくとも1つの立毛面が以下の要件1~3を満たす人工皮革の製造方法であって、
前記研削する工程において、研削速度v(m/分)に対するシート状物の搬送速度v(m/分)の比v/vを常に0.020以上0.050以下とし、かつ、シート状物の搬送方向を研削方向の逆方向とする、人工皮革の製造方法。
要件1:前記立毛面に露出しているポリウレタンの面積割合が1.0%以上5.0%未満である
要件2:前記立毛面に0.2mm以上1.0mm以下のポリウレタンの集合体が露出している
要件3:前記立毛面における単位面積当たりの前記ポリウレタンの集合体の個数が0.25個/cm以上5.00個/cm以下である
【請求項5】
前記研削する工程の後に、研削されたシート状物を液流染色機で染色する工程を有する、人工皮革の製造方法であって、研削されたシート状物の立毛の方向と液流染色機のノズル通過方向とが逆方向である、請求項4に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の人工皮革を含む、衣料。
【請求項7】
請求項1または2に記載の人工皮革を含む、靴。
【請求項8】
請求項1または2に記載の人工皮革を含む、鞄。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人工皮革に関し、特に衣料、靴、鞄などの身の回り品に好適な豚革調の表面外観を有する人工皮革に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主として極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体とポリウレタンとからなる人工皮革は、耐久性の高さや品質の均一性などの天然皮革対比で優れた特徴を有しており、車両内装材、インテリア、衣料や靴および鞄など様々な分野で使用されている。しかしながら、衣料、靴、鞄などの分野においては、天然皮革ならではの微細な小柄模様や立毛が不均一で粗い表面外観が評価され、依然として豚革などの天然皮革が好適に使用されている。
【0003】
これまでに、人工皮革においても、豚革調の微細な小柄模様と高級感のある立毛を有する表面外観を達成することが試みられている。例えば、特許文献1では、凸部銀面層は極細立毛繊維が弾性重合体により固定された複合層であり、該シートの全表面積の特定の範囲、かつ、凸部銀面の大部分が一定の面積の非連続層となるような銀面層を形成し、一方凹部には特定の極細繊維立毛が存在する、銀付ヌバック調皮革様シート物が提案されている。そして、このシート状物によれば、きめ細かいヌバックライクなライティング効果が得られ、通気、透湿性に優れることなどが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09-67779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されるような技術においては、人工皮革の表面に均一に立毛を形成した後、エンボス加工を施し、凸部に弾性重合体を塗布している。このようにすることで、天然皮革にある程度近似した、ある程度、微細な小柄模様と高級感のある立毛とを有する人工皮革を得ることは可能である。しかしながら、そのような人工皮革においては、天然皮革ならではの立毛が不均一で粗い表面外観までを表現させることはできず、さらには、長期間の使用において、凸部に塗布した弾性重合体からなる微細な小柄模様を表面に保持することはできない。
【0006】
そこで本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、天然皮革調、特に豚革調の微細な小柄模様と立毛が不均一で粗い表面外観を有しながら、長期間の使用に耐えうる耐摩耗性を両立する人工皮革を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成すべく本発明者らが検討を重ねた結果、繊維絡合体にポリウレタンが付与されてなるシートの表面を研削する工程において、シート搬送速度に対して研削速度を所定の速度比としつつ、シート搬送方向に対して研削方向を所定の方向として、多段階にわたって研削し立毛を形成した後、染色処理を施すことで、豚革調の微細な小柄模様と立毛が不均一で粗い表面外観を有しながら、滑らかな触感と長期間の使用に耐えうる耐摩耗性を両立した人工皮革とすることができるようになった。本発明は、これら知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0008】
[1] 平均単繊維直径が0.01μm以上10.00μm以下の極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、ポリウレタンと、で構成されてなる、少なくとも一方の表面が立毛を有する立毛面である人工皮革であって、前記立毛面のうち少なくとも1つの立毛面が以下の要件を満たす、人工皮革
要件1:前記立毛面に露出しているポリウレタンの面積割合が1.0%以上5.0%未満である
要件2:前記立毛面に0.2mm以上1.0mm以下のポリウレタンの集合体が露出している
要件3:前記立毛面における単位面積当たりの前記ポリウレタンの集合体の個数が0.25個/cm以上5.00個/cm以下である。
【0009】
[2] 前記立毛の平均長さが200μm以上600μm以下である、前記[1]に記載の人工皮革。
【0010】
[3] 前記立毛の長さの変動係数が30%以上100%以下である、前記[1]または[2]に記載の人工皮革。
【0011】
[4] 平均単繊維直径が0.01μm以上10.00μm以下の極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、ポリウレタンと、で構成されてなるシート状物の、少なくとも一方の表面を研削手段で複数回研削し、該表面を立毛面とする工程を含み、前記立毛面のうち少なくとも1つの立毛面が以下の要件1~3を満たす人工皮革の製造方法であって、
前記研削する工程において、研削速度v(m/分)に対するシート状物の搬送速度v(m/分)の比v/vを常に0.020以上0.050以下とし、かつ、シート状物の搬送方向を研削方向の逆方向とする、人工皮革の製造方法
要件1:前記立毛面に露出しているポリウレタンの面積割合が1.0%以上5.0%未満である
要件2:前記立毛面に0.2mm以上1.0mm以下のポリウレタンの集合体が露出している
要件3:前記立毛面における単位面積当たりの前記ポリウレタンの集合体の個数が0.25個/cm以上5.00個/cm以下である。

[5] 前記研削する工程の後に、研削されたシート状物を液流染色機で染色する工程を有する、人工皮革の製造方法であって、研削されたシート状物の立毛の方向と液流染色機のノズル通過方向とが逆方向である、前記[4]に記載の人工皮革の製造方法。
【0012】
[6] 前記[1]~[3]のいずれかに記載の人工皮革を含む、衣料。
【0013】
[7] 前記[1]~[3]のいずれかに記載の人工皮革を含む、靴。
【0014】
[8] 前記[1]~[3]のいずれかに記載の人工皮革を含む、鞄。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、豚革調の微細な小柄模様と立毛が不均一で粗い表面外観を有しながら、滑らかな触感と長期間の使用に耐えうる耐摩耗性を両立した人工皮革を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の人工皮革にかかる立毛の平均長さおよびその変動係数の測定方法を説明するための断面概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の人工皮革は、平均単繊維直径が0.01μm以上10.00μm以下の極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、ポリウレタンと、で構成されてなる、少なくとも一方の表面が立毛を有する立毛面である人工皮革であって、前記立毛面のうち少なくとも1つの立毛面が以下の要件を満たす
要件1:前記立毛面に露出しているポリウレタンの面積割合が1.0%以上5.0%未満である
要件2:前記立毛面に0.2mm以上1.0mm以下のポリウレタンの集合体が露出している
要件3:前記立毛面における単位面積当たりの前記ポリウレタンの集合体の個数が0.25個/cm以上5.00個/cm以下である。
【0018】
以下に、これらの構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではない。
【0019】
[繊維絡合体]
本発明で用いられる繊維絡合体を構成する極細繊維は、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレートおよびポリ乳酸などのポリエステル、ポリアミド6やポリアミド66、ポリアミド12などのポリアミド、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)および熱可塑性セルロースなどの溶融紡糸可能な熱可塑性樹脂を主たる成分(当該樹脂の含有量が50質量%以上)とすることが好ましい。中でも、強度、寸法安定性および耐光性の観点から、ポリエステル系樹脂が好ましく用いられる。
【0020】
前記のポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレートに加え、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレ-ト、およびポリエチレン-1,2-ビス(2-クロロフェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボキシレート等が挙げられる。中でも最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレート、または主としてエチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体が好適に使用される。
【0021】
また、前記のポリエステル系樹脂として、単一のポリエステルを用いても、異なる2種以上のポリエステルを用いてもよいが、異なる2種以上のポリエステルを用いる場合には、2種以上の成分の相溶性の観点から、用いるポリエステルの固有粘度(IV値)差は0.50以下であることが好ましく、0.30以下であることがより好ましい。
【0022】
本発明において、固有粘度は以下の方法により算出されるものとする。
(1) オルソクロロフェノール10mL中に試料ポリマーを0.8g溶かす。
(2) 25℃の温度においてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηを下式1、2により算出し、小数点以下第三位で四捨五入する
η=η/η=(t×d)/(t×d) ・・・(式1)
固有粘度(IV値)=0.0242η+0.2634 ・・・(式2)
(ここで、ηはポリマー溶液の粘度、ηはオルソクロロフェノールの粘度、tは溶液の落下時間(秒)、dは溶液の密度(g/cm)、tはオルソクロロフェノールの落下時間(秒)、dはオルソクロロフェノールの密度(g/cm)を、それぞれ表す。)。
【0023】
極細繊維の断面形状としては、加工操業性の観点からは、丸断面にすることが好ましいが、所望する特性に合わせて楕円、扁平および三角などの多角形、扇形および十字型、中空型、Y型、T型、およびU型などの異形断面の断面形状を採用することもできる。
【0024】
極細繊維の平均単繊維直径は、0.01μm以上10.00μm以下である。極細繊維の平均単繊維直径を、0.01μm以上、好ましくは1.00μm以上とすることにより、染色後の発色性や耐光および摩擦堅牢性、紡糸時の安定性に優れた効果を奏する。一方、極細繊維の平均単繊維直径を10.00μm以下、好ましくは5.00μm以下とすることにより、滑らかな触感を有する人工皮革が得られる。
【0025】
本発明において、極細繊維の平均単繊維直径とは、人工皮革断面の走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510」型など)を用い、SEM画像を撮影し、円形または円形に近い楕円形の極細繊維をランダムに10本選び、単繊維直径を測定して10本の算術平均値を計算して、小数点以下第二位で四捨五入することにより算出されるものとする。ただし、異型断面の極細繊維を採用した場合には、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面を円形と見立てた場合の直径を算出することによって単繊維の直径を求めるものとする。
【0026】
極細繊維を形成する樹脂には、種々の目的に応じ、本発明の目的を阻害しない範囲で、黒色顔料や有彩色微粒子酸化物顔料、酸化チタン粒子等の無機粒子、潤滑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤および抗菌剤等を添加することができる。
【0027】
本発明において、濃色で均一な発色性を両立するためには、前記の極細繊維は黒色顔料を含むことが好ましく、前記黒色顔料の平均粒子径が0.05μm以上0.20μm以下であることが好ましい。
【0028】
ここでいう黒色顔料の平均粒子径とは、黒色顔料が極細繊維中に存在している状態での平均粒子径のことであり、一般に二次粒子径とよばれるもののことをいう。
【0029】
黒色顔料の平均粒子径を0.05μm以上、好ましくは0.07μm以上とすることにより、黒色顔料が極細繊維の内部に把持されるため、顔料の極細繊維からの脱落が抑制される。また、黒色顔料の平均粒子径を0.20μm以下、好ましくは0.18μm以下、より好ましくは0.16μm以下とすることにより、極細繊維表面への顔料の露出を抑制でき、かつ紡糸時の安定性と糸強度に優れたものとなる。
【0030】
また、前記黒色顔料の粒子径の変動係数(CV、Coefficient of Variation)が75%以下であることが好ましい。
【0031】
黒色顔料の粒子径の変動係数(CV)は75%以下、好ましくは65%以下、より好ましくは60%以下、さらに好ましくは55%以下、最も好ましくは50%以下であると粒子径の分布が小さくなり、極細繊維表面への顔料の露出や小さい粒子の表面からの脱落、著しく凝集した粒子による紡糸不良、糸強度の著しい低下等が抑制される。なお、本発明における粒子径の変動係数の下限は特に制限されないが、紡糸の操業性や製造コストの観点から0.1%以上が好ましい。
【0032】
本発明において、黒色顔料の平均粒子径および変動係数(CV)は以下の方法により算出されるものとする。
(1) 極細繊維の長手方向に垂直な面の断面方向に厚さ5~10μmの超薄切片を作製する。なお、この超薄切片の作製には、例えば、Sorvall社製ウルトラミクロトーム「MT6000型」などを用いることができる。
(2) 透過型電子顕微鏡(TEM、例えば、株式会社日立ハイテクノロジーズ製「H7700型」など)にて超薄切片中の繊維断面を10000倍で観察する。
(3) 画像解析ソフトウェア(例えば、三谷商事株式会社製「WinROOF」など)を使用して、観察像の2.3μm×2.3μmの視野の中に含まれる黒色顔料の粒子径の円相当径を20点測定する。2.3μm×2.3μmの視野の中に含まれる黒色顔料の粒子が20点未満しか存在しない場合には、存在する黒色顔料の粒子径の円相当径をすべて測定する。
(4) 測定した20点の粒子径について、平均値(算術平均)と変動係数(CV)を算出する。なお、本発明において、変動係数は以下の式3により算出されるものとする
粒子径の変動係数(%)=(粒子径の標準偏差)/(粒子径の算術平均)×100 ・・・(式3)。
【0033】
極細繊維を形成する樹脂に含まれる黒色顔料の含有量は、極細繊維の質量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下とすることが好ましく、さらには、2.0質量%以上5.0質量%以下とすることが好ましい。顔料の割合を0.1質量%以上、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、さらに好ましくは2.5質量%以上、最も好ましくは3.0質量%以上とすることにより、濃色の発色性に優れる人工皮革となる。顔料の割合を5.0質量%以下、好ましくは4.5質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下とすることにより、強度や伸度などの物理特性の高い人工皮革とすることができる。
【0034】
なお、本発明において、極細繊維を形成する樹脂に含まれる黒色顔料の含有量は以下の方法により算出されるものとする。
(1) ジメチルホルムアミド等を含む溶液に人工皮革を浸漬させポリウレタンを取り除き、極細繊維を採取する。
(2) 採取した極細繊維について、フェノールとテトラクロロエタンの混合液を用いて樹脂を溶解させ、黒色顔料のみを抽出する。
(3)抽出した黒色顔料について発生ガス分析を実施し、黒色顔料由来の発生ガスについての検量線を作成する。
(4) 人工皮革を脱染料処理後、ジメチルホルムアミド等を用いてポリウレタンを抽出し極細繊維のみにしたのち、極細繊維を採取する。
(5) 採取した極細繊維について発生ガス分析を実施し、黒色顔料由来の発生ガス検出強度と(3)で作成した検量線から、極細繊維に含まれる黒色顔料の割合を算出する。
【0035】
本発明における黒色顔料としては、カーボンブラックや黒鉛などの炭素系黒色顔料や四酸化三鉄、銅およびクロムの複合酸化物などの酸化物系黒色顔料を用いることができる。細かい粒子径の黒色顔料が得られやすく、またポリマーへの分散性に優れる観点から、黒色顔料がカーボンブラックであることが好ましい。
【0036】
本発明の人工皮革は、その中において、前記の極細繊維から構成された不織布を構成要素として含む繊維絡合体が構成要素の1つである。
【0037】
本発明において、「不織布を構成要素として含む繊維絡合体」であるとは、繊維絡合体が不織布である態様、後述するような、繊維絡合体が不織布と織物とが絡合一体化されてなるものである態様、さらには、繊維絡合体が不織布と織物以外の基材と絡合一体化されてなるものである態様等のことを示す。
【0038】
不織布を構成要素として含む繊維絡合体とすることにより、表面を起毛した際に均一で優美な外観や風合いを得ることができる。
【0039】
不織布の形態としては、主としてフィラメントから構成される長繊維不織布と、主として100mm以下の繊維から構成される短繊維不織布がある。短繊維不織布を使用する場合は、長繊維不織布を使用する場合に比べて人工皮革の厚さ方向に配向する繊維を多くすることができ、起毛させた際の人工皮革の表面に高い緻密感と良好なタッチ感を有させることができる。
【0040】
短繊維不織布を用いる場合の極細繊維の繊維長は、好ましくは25mm以上95mm以下である。繊維長を95mm以下、より好ましくは85mm以下、さらに好ましくは75mm以下とすることにより、風合いに優れた人工皮革とすることができる。他方、繊維長を25mm以上、より好ましくは35mm以上、さらに好ましくは40mm以上とすることにより、耐摩耗性に優れた人工皮革とすることができる。
【0041】
本発明に係る人工皮革を構成する不織布の目付は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.2 単位面積当たりの質量(ISO法)」で測定され、100g/m以上350g/m以下の範囲であることが好ましい。前記の不織布の目付を、100g/m以上、より好ましくは150g/m以上とすることで、衣料、靴、鞄などの縫製時の破れを抑制しつつ、強度および耐摩耗性に優れる人工皮革とすることができる。一方、前記の不織布の目付を、350g/m以下、より好ましくは300g/m以下とすることで風合いに優れた人工皮革とすることができる。
【0042】
本発明の人工皮革においては、その強度や形態安定性を向上させる目的で、前記の不織布の内部もしくは片側に織物を積層し絡合一体化させることができる。
【0043】
前記の織物を絡合一体化させる場合に使用する、織物を構成する繊維の種類としては、フィラメントヤーン、紡績糸、フィラメントヤーンと紡績糸の混合複合糸などを用いることが好ましく、耐久性、特には機械的強度等の観点から、ポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂を主成分とするマルチフィラメントを用いることがより好ましい。
【0044】
前記の織物を構成する繊維の平均単繊維直径を好ましくは50.0μm以下、より好ましくは15.0μm以下、さらに好ましくは13.0μm以下とすることにより、柔軟性に優れた人工皮革が得られるだけでなく、人工皮革の表面に織物の繊維が露出した場合でも、染色後に顔料を含有する極細繊維との色相差が小さくなるため、表面の色相の均一性を損なうことがない。一方、平均単繊維直径を好ましくは1.0μm以上、より好ましくは8.0μm以上、さらに好ましくは9.0μm以上とすることにより、人工皮革としての製品の形態安定性が向上する。
【0045】
本発明において織物を構成する繊維の平均単繊維直径は、人工皮革断面の走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510」型など)を用い、SEM画像を撮影し、織物を構成する繊維をランダムに10本選び、その繊維の単繊維直径を測定して10本の算術平均値を計算して、小数点以下第二位で四捨五入することにより算出されるものとする。
【0046】
前記の織物を構成する繊維がマルチフィラメントである場合、そのマルチフィラメントの総繊度は、JIS L1013:2010「化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.3 繊度」の「8.3.1 正量繊度 b) B法(簡便法)」で測定され、30dtex以上170dtex以下とすることが好ましい。
【0047】
織物を構成する糸条の総繊度を170dtex以下とすることにより、柔軟性に優れた人工皮革が得られる。一方、総繊度を30dtex以上とすることにより、人工皮革としての製品の形態安定性が向上するだけでなく、不織布と織物をニードルパンチ等で絡合一体化させる際に、織物を構成する繊維が人工皮革の表面に露出しにくくなるため好ましい。このとき、経糸と緯糸のマルチフィラメントの総繊度は同じ総繊度とすることが好ましい。
【0048】
さらに、前記の織物を構成する糸条の撚数は、1000T/m以上4000T/m以下とすることが好ましい。撚数を4000T/m以下、より好ましくは3500T/m以下、さらに好ましくは3000T/m以下とすることにより、柔軟性に優れた人工皮革が得られ、撚数を1000T/m以上、より好ましくは1500T/m以上、さらに好ましくは2000T/m以上とすることにより、不織布と織物をニードルパンチ等で絡合一体化させる際に、織物を構成する繊維の損傷を防ぐことができ、人工皮革の機械的強度が優れたものとなるため好ましい。
【0049】
[ポリウレタン]
本発明の人工皮革は、人工皮革を構成する極細繊維を把持するバインダーとしてポリウレタンを含む。
【0050】
本発明で用いられるポリウレタンは、有機溶剤に溶解した状態で使用する有機溶剤系ポリウレタンと、水に分散した状態で使用する水分散型ポリウレタンのどちらも採用することができる。また、本発明で用いられるポリウレタンとしては、ポリマージオールと有機ジイソシアネートと鎖伸長剤との反応により得られるポリウレタンが好ましく用いられる。
【0051】
上記のポリマージオールとしては、例えば、ポリカーボネート系ジオール、ポリエステル系ジオール、ポリエーテル系ジオール、シリコーン系ジオールおよびフッ素系ジオールを採用することができ、これらを組み合わせた共重合体を用いることもできる。中でも、耐加水分解性、耐摩耗性の観点からは、ポリカーボネート系ジオールを用いることが好ましい態様である。
【0052】
上記のポリカーボネート系ジオールは、アルキレングリコールと炭酸エステルのエステル交換反応、あるいはホスゲンまたはクロル蟻酸エステルとアルキレングリコールとの反応などによって製造することができる。
【0053】
また、アルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオールなどの直鎖アルキレングリコールや、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールおよび2-メチル-1,8-オクタンジオールなどの分岐アルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオールなどの脂環族ジオール、ビスフェノールAなどの芳香族ジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、およびペンタエリスリトールなどが挙げられる。本発明では、それぞれ単独のアルキレングリコールから得られるポリカーボネート系ジオールでも、2種類以上のアルキレングリコールから得られる共重合ポリカーボネート系ジオールのいずれも採用することができる。
【0054】
また、ポリエステル系ジオールとしては、各種低分子量ポリオールと多塩基酸とを縮合させて得られるポリエステルジオールを挙げることができる。
【0055】
低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、およびシクロヘキサン-1,4-ジメタノールからなる群より選ばれる一種または二種以上を使用することができる。
【0056】
また、ビスフェノールAに各種アルキレンオキサイドを付加させた付加物も使用可能である。
【0057】
また、多塩基酸としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、およびヘキサヒドロイソフタル酸からなる群より選ばれる一種または二種以上が挙げられる。
【0058】
本発明で用いられるポリエーテル系ジオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、およびそれらを組み合わせた共重合ジオールを挙げることができる。
【0059】
ポリマージオールの数平均分子量は、ポリウレタン系エラストマーの分子量が一定の場合、500以上4000以下の範囲であることが好ましい。数平均分子量を好ましくは500以上、より好ましくは1500以上とすることにより、人工皮革が硬くなることを防ぐことができる。また、数平均分子量を好ましくは4000以下、より好ましくは3000以下とすることにより、ポリウレタンとしての強度を維持することができる。
【0060】
本発明で用いられる有機ジイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネートや、ジフェニルメタンジイソシアネート、およびトリレンジイソシアネート等の芳香族系ジイソシアネートが挙げられ、またこれらを組み合わせて用いることもできる。
【0061】
鎖伸長剤としては、好ましくはエチレンジアミンやメチレンビスアニリン等のアミン系の鎖伸長剤、およびエチレングリコール等のジオール系の鎖伸長剤を用いることができる。また、ポリイソシアネートと水を反応させて得られるポリアミンを鎖伸長剤として用いることもできる。
【0062】
本発明で用いられるポリウレタンは、耐水性、耐摩耗性および耐加水分解性等を向上させる目的で架橋剤を併用することができる。架橋剤は、ポリウレタンに対し、第3成分として添加する外部架橋剤でもよく、またポリウレタン分子構造内に予め架橋構造となる反応点を導入する内部架橋剤も用いることができる。ポリウレタン分子構造内により均一に架橋点を形成することができ、柔軟性の減少を軽減できるという観点から、内部架橋剤を用いることが好ましい。
【0063】
架橋剤としては、イソシアネート基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、エポキシ基、メラミン樹脂、およびシラノール基などを有する化合物を用いることができる。
【0064】
一般に、人工皮革におけるポリウレタンの含有量は、使用するポリウレタンの種類、ポリウレタンの製造方法および風合や物性を考慮して、適宜調整することができるが、本発明においては、ポリウレタンの含有量は、繊維絡合体の質量に対して10質量%以上60質量%以下とすることが好ましい。前記のポリウレタンの含有量を10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上とすることで、繊維間のポリウレタンによる結合を強めることができ、人工皮革の耐摩耗性を向上させることができる。一方、前記のポリウレタンの含有量を60質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下とすることで、人工皮革をより柔軟性の高いものとすることができる。
【0065】
また、ポリウレタンには、目的に応じて各種の添加剤、例えば、「無機系や酸化物系」などの顔料、「リン系、ハロゲン系および無機系」などの難燃剤、「フェノール系、イオウ系およびリン系」などの酸化防止剤、「ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系およびオキザリックアシッドアニリド系」などの紫外線吸収剤、「ヒンダードアミン系やベンゾエート系」などの光安定剤、ポリカルボジイミドなどの耐加水分解安定剤、可塑剤、耐電防止剤、界面活性剤、凝固調整剤および染料などを含有させることができる。
【0066】
本発明の人工皮革において、例えば、濃色で均一な発色性を両立するために、前記のポリウレタンは、黒色顔料を含有させることができる。中でも、前記黒色顔料の平均粒子径が0.05μm以上0.20μm以下であることがより好ましい。
【0067】
ここでいう黒色顔料の平均粒子径とは、黒色顔料がポリウレタン中に存在している状態での平均粒子径のことであり、一般に二次粒子径とよばれるもののことをいう。
【0068】
黒色顔料の平均粒子径を0.05μm以上、好ましくは0.07μm以上とすることにより、黒色顔料がポリウレタンの内部に把持されるため顔料のポリウレタンからの脱落が抑制される。また、平均粒子径を0.20μm以下、好ましくは0.18μm以下、より好ましくは0.16μm以下とすることにより、ポリウレタンを含浸付与する際に分散性に優れたものとなる。
【0069】
また、黒色顔料の粒子径の変動係数(CV)が75%以下であることが好ましい。
【0070】
黒色顔料の粒子径の変動係数(CV)は75%以下、好ましくは65%以下、より好ましくは60%以下、さらに好ましくは55%以下、最も好ましくは50%以下であると粒子径の分布が小さくなり、小さい粒子のポリウレタン表面からの脱落や著しく凝集した粒子の含浸槽への沈殿等が抑制される。なお、本発明における粒子径の変動係数の下限は特に制限されないが、ポリウレタンを含浸付与する際の操業性の観点から0.1%以上が好ましい。
【0071】
本発明において、ポリウレタンに含まれる黒色顔料の平均粒子径および変動係数(CV)は以下の方法により算出されるものとする。
(1) 人工皮革の長手方向に垂直な面の断面方向に厚さ5~10μmの超薄切片を作製する。
(2) 透過型電子顕微鏡(TEM、例えば、株式会社日立ハイテクノロジーズ製「H7700型」など)にて超薄切片中のポリウレタンの断面を10000倍で観察する。
(3) 画像解析ソフトウェア(例えば、三谷商事株式会社製「WinROOF」など)を使用して、観察像の2.3μm×2.3μmの視野の中に含まれる黒色顔料の粒子径の円相当径を20点測定する。2.3μm×2.3μmの視野の中に含まれる黒色顔料の粒子が20点未満しか存在しない場合には、存在する黒色顔料の粒子径の円相当径をすべて測定する。
(4) 測定した20点の粒子径について、平均値(算術平均)と変動係数(CV)を算出する。なお、本発明において、変動係数は以下の式4により算出されるものとする
粒子径の変動係数(%)=(粒子径の標準偏差)/(粒子径の算術平均)×100 ・・・(式4)。
【0072】
また、ポリウレタンに含まれる黒色顔料の含有量は、ポリウレタンの質量に対して0.01質量%以上5.0質量%以下とすることが好ましい。顔料の割合を0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上とすることにより、濃色の発色性に優れる人工皮革となる。顔料の割合を5.0質量%以下、好ましくは4.5質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下とすることにより、強度などの物理特性の高い人工皮革とすることができる。
【0073】
なお、本発明において、ポリウレタンに含まれる黒色顔料の含有量は以下の方法により算出されるものとする。
(1) フェノールとテトラクロロエタンの混合液に人工皮革を浸漬させ極細繊維を溶解し、ポリウレタンを採取する。
(2) 採取したポリウレタンを、ジメチルホルムアミド等を用いて溶液化させ、黒色顔料(b)のみを抽出する。
(3) 抽出した黒色顔料について発生ガス分析を実施し、黒色顔料由来の発生ガスについての検量線を作成する。
(4) 人工皮革に含まれるポリウレタンを、ジメチルホルムアミド等を用いて溶液化したのち、ジメチルホルムアミド等を取り除くことで、再度、ポリウレタンを固化させる。
(5) (4)で得られたポリウレタンについて発生ガス分析を実施し、黒色顔料由来の発生ガス検出強度と(3)で作成した検量線から、人工皮革を構成するポリウレタンに含まれる黒色顔料の含有量を算出する。
【0074】
本発明における黒色顔料としては、カーボンブラックや黒鉛などの炭素系黒色顔料や四酸化三鉄、銅およびクロムの複合酸化物などの酸化物系黒色顔料を用いることができる。細かい粒子径の黒色顔料が得られやすく、またポリマーへの分散性に優れる観点から、黒色顔料がカーボンブラックであることが好ましい。
【0075】
[人工皮革]
本発明の人工皮革は、前記の繊維絡合体と、前記のポリウレタンと、で構成されてなる、少なくとも一方の表面が立毛を有する立毛面である人工皮革であって、前記立毛面のうち少なくとも1つの立毛面が以下の要件を満たす
要件1:前記立毛面に露出しているポリウレタンの面積割合が1.0%以上5.0%未満である
要件2:前記立毛面に0.2mm以上1.0mm以下のポリウレタンの集合体が露出している
要件3:前記立毛面における単位面積当たりの前記ポリウレタンの集合体の個数が0.25個/cm以上5.00個/cm以下である。
【0076】
まず、本発明において、前記の立毛面に露出しているポリウレタンの面積割合が1.0%以上5.0%未満である。前記の立毛面に露出しているポリウレタンの面積割合(以下、「ポリウレタンの面積割合」と略記することがある。)が、1.0%以上、より好ましくは2.0%以上であることで、人工皮革の立毛面に、後述するポリウレタンの集合体が発現されやすくなるため、豚革調の微細な小柄模様を有する人工皮革となる。一方、前記のポリウレタンの面積割合が、5.0%未満、より好ましくは4.4%以下であることで、良好なタッチ感を有する人工皮革となる。
【0077】
この立毛面に露出しているポリウレタンの面積割合を所定の範囲内とするには、研削速度vBに対するシート状物の搬送速度vの比v/v、人工皮革の立毛の平均長さ、立毛の長さの変動係数を、後述するように調整することで達成することができる。
【0078】
また、前記の立毛面に露出しているポリウレタンの面積割合の変動係数(CV)が100%以上1000%以下であることが好ましい。ポリウレタンの面積割合の変動係数(以下、「ポリウレタンの面積割合CV値」と略記することがある。)は好ましくは100%以上、より好ましくは200%以上、さらに好ましくは300%以上であると、より豚革調の不均一な表面外観となる。他方、ポリウレタンの面積割合CV値が好ましくは1000%以下、より好ましくは900%以下、さらに好ましくは800%以下であると、人工皮革の表面に露出しているポリウレタン微粒子が複数個集合して形成されるポリウレタン集合体が、単位面積当たりで特定の個数発現されることとなり、豚革調の微細な小柄模様を有する人工皮革となる。
【0079】
本発明において、人工皮革の表面に露出しているポリウレタンの面積割合およびポリウレタンの面積割合CV値は以下の方法により算出されるものとする。
(1) 人工皮革から、ランダムに長さ0.5cm×幅0.5cmの試験片を採取し、四酸化ルテニウムの飽和蒸気中に4時間静置する。これによって、人工皮革の表面に露出しているポリウレタンが電子染色される。
(2) 人工皮革の表面にオスミウム原子を1nmコーティング加工し、導電処理する。
(3) 走査型電子顕微鏡(SEM)にて人工皮革の表面を100倍で観察する。
(4) 得られたSEM画像について、例えば、画像分析ソフト「ImageJ」などを用いて、以下の方法で画像を二値化し、人工皮革の表面に露出しているポリウレタンの面積割合を算出する
(i)SEM画像をフィルター処理する。処理条件は以下の通りである
Bilateral Filter FijeプラグインのBilateral Filter
spacial radius:3
range radius:50
フィルター処理回数:5回
(ii)MaxEntropy法で二値化を実施し、二値化後のSEM画像内の黒色部
分をポリウレタンとする
(iii)得られた二値化画像(2560×1920pixel)を、32×32pixelに区画分割し(この場合、4800分割)、ImageJのAnalyze Particle機能(条件:Size=0-infinity、Circularity=0.00-1.00)を用い、各区画の表面に露出しているポリウレタンの面積割合(%)として、各区画内に分布するそれぞれのポリウレタンの面積の合計を、各区画の面積で除した値を算出する
(iv)対象画像のx、y軸のピクセル数を読み取り、区画サイズをピクセルサイズで指定し、x、y軸の分割数を求め、各分割領域内のポリウレタンの面積割合を計算する。ポリウレタンの面積割合(%)は、全区画についてポリウレタンの面積割合(%)を平均したものであり、したがって、ポリウレタンの面積割合CV値は、以下の式5により算出されるものとする
ポリウレタンの面積割合CV値(%)=(全区画を対象としたポリウレタンの面積割合の標準偏差)/(全区画を対象としたポリウレタンの面積割合の算術平均)×100 ・・・(式5)
但し、標準偏差は1つの画像を区画分割した全区画を対象として計算しているが、画像を100枚用意する場合、ポリウレタンの面積割合(%)の平均値および標準偏差は、画像1枚当たりの全区画に100を乗じた区画に対して求める。
【0080】
画像分析ソフトウェアとしては、前記の画像分析ソフトウェア「ImageJ」が例示されるが、画像分析ソフトウェアは、規定の画素の面積比率を計算する機能を有する画像処理ソフトウェアからなるものであれば、画像分析ソフトウェア「ImageJ」に限らない。なお、画像分析ソフトウェア「「ImageJ」は通用のソフトウェアであり、アメリカ国立衛生研究所により開発されたものである。そして、該画像処理ソフトウェア「ImageJ」は、取り込んだ画像に対し、必要な領域を特定し、画素分析を行う機能を有している。
【0081】
次に、本発明においては、前記の人工皮革の表面に0.2mm以上1.0mm以下のポリウレタンの集合体が露出している。
【0082】
前記のポリウレタンの集合体の面積が、0.2mm以上、好ましくは0.25mm以上であることにより、豚革調の微細な小柄模様を有する人工皮革となる。一方、前記のポリウレタンの集合体の面積が1.0mm以下、好ましくは0.8mm以下であることにより、タッチ感と耐摩耗性に優れる人工皮革となる。
【0083】
そして、本発明においては、前記の立毛面における単位面積当たりの前記ポリウレタンの集合体の個数が0.25個/cm以上5.00個/cm以下である。単位面積当たりの前記のポリウレタンの集合体の個数が0.25個/cm以上、好ましくは0.50個/cm以上であることにより、豚革調の微細な小柄模様を有する人工皮革となる。一方、単位面積当たりの前記のポリウレタンの集合体の個数が5.00個/cm以下、好ましくは4.00個/cmであることにより、タッチ感と耐摩耗性に優れる人工皮革となる。
【0084】
本発明における、ポリウレタンの集合体の面積および単位面積当たりの個数は以下の方法により算出されるものとする。
(1) 人工皮革を長さ0.5cm×幅0.5cmの試験片を採取し、四酸化ルテニウムの飽和蒸気中に4時間静置する。これによって、人工皮革の表面に露出しているポリウレタンが電子染色される。
(2) 人工皮革の表面にオスミウム原子を1nmコーティング加工し、導電処理する。
(3) 走査型電子顕微鏡(SEM)にて人工皮革の表面を100倍で観察する。
(4) 得られたSEM画像について、例えば、画像分析ソフト「ImageJ」などを用いて、以下の方法で画像を二値化し、ポリウレタン微粒子の面積を算出する。
【0085】
(i)SEM画像をフィルター処理する。処理条件は以下の通りである。
【0086】
Bilateral Filter FijeプラグインのBilateral Filter
spacial radius:3
range radius:50
フィルター処理回数:5回
(ii)MaxEntropy法で二値化を実施し、二値化後のSEM画像内の黒色部
分をポリウレタンとする。
【0087】
(iii)ImageJのAnalyze Particle機能(条件:Size=0-infinity、Circularity=0.00-1.00)を用い、各ポリウレタン微粒子の面積を解析し、円相当径を算出する。
(5)あるポリウレタン微粒子(ここでは、ポリウレタン微粒子Aとする)の円周上の任意の1点から、最も近接しているポリウレタン微粒子(ここでは、ポリウレタン微粒子Bとする)の円周上の任意の1点までの距離が、ポリウレタン微粒子Aの円相当径の半径もしくはポリウレタン微粒子Bの円相当径の半径より小さい場合、ポリウレタン微粒子Aとポリウレタン微粒子Bとは1つのポリウレタンの集合体を形成しているとみなす。さらに、ポリウレタン微粒子A、Bの集合体の周上の任意の1点から、最も近接しているポリウレタン微粒子(ここでは、ポリウレタン微粒子Cとする)の円周上の任意の1点までの距離が、ポリウレタン微粒子A、B、Cのいずれかの円相当径の半径より小さい場合、ポリウレタン微粒子A~Cが1つのポリウレタンの集合体を形成しているとみなす。この方法を繰り返して、それぞれのポリウレタン微粒子について、ポリウレタン集合体を形成しているか確認する。
(6)ポリウレタン集合体の面積として、ポリウレタン集合体を形成している複数個のポリウレタン微粒子の面積の合計を算出する。また、0.20mm以上1.00mm以下のポリウレタン集合体の個数(個)を、二値化画像の全体面積(cm)で除した値(個/cm)を小数点以下第3位で四捨五入した値を、前記の単位面積当たりのポリウレタン集合体の個数(個/cm)とする。
【0088】
この立毛面における単位面積当たりの前記ポリウレタンの集合体の個数を所定の範囲内とするには、研削速度vBに対するシート状物の搬送速度vの比v/v、人工皮革の立毛の平均長さ、立毛の長さの変動係数を後述するように調整することで達成することができる。
【0089】
さらには、前記の少なくとも一方の表面を研削したシート状物を染色する工程において、研削されたシート状物の立毛の方向と液流染色機のノズル通過方向を逆向きとすることも効果的である。
【0090】
本発明の人工皮革は、少なくとも一方の表面が立毛を有する立毛面である。両面が立毛面であってもよい。前記の立毛面における立毛の形態は、豚革調の表面外観を達成するため、また、意匠性の観点から、指でなぞったときに立毛の方向が変わることで跡が残る、いわゆるフィンガーマークを発する程度の立毛の長さと方向柔軟性とを備えていることが好ましい。
【0091】
より具体的には、立毛の平均長さ(立毛の長さの平均値)は200μm以上600μm以下であることが好ましく、300μm以上500μm以下であることがより好ましい。立毛の平均長さが好ましくは200μm以上、より好ましくは300μm以上であることにより、人工皮革のタッチ感を滑らかなものとしながら、立毛面に露出しているポリウレタンの面積割合を減少することができる。一方、立毛の平均長さが好ましくは600μm以下、より好ましくは500μm以下とすることで、立毛面に露出しているポリウレタンの面積割合を増加しながら、耐摩耗性に優れる人工皮革となる。
【0092】
また、前記の立毛の長さの変動係数(以降、単に「立毛長CV」と略記することがある。)が30%以上100%以下であることが好ましい。立毛長CVが好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上であると、表面の立毛の長さに適当なバラツキが生じ、立毛間の摩擦が低減され、耐摩耗性が良好な人工皮革となる。他方、立毛長CVが好ましくは100%以下、より好ましくは90%以下、さらに好ましくは80%以下であると、前記の立毛面に露出しているポリウレタンの面積割合を前記の範囲としやすくなり、豚革調の微細な小柄模様と滑らかなタッチ感とを両立する人工皮革となる。
【0093】
この立毛の長さの変動係数を所定の範囲内とするには、研削速度vBに対するシート状物の搬送速度vの比v/vを、後述するように調整することで達成することができる。
【0094】
本発明において、前記の立毛の平均長さと、立毛長CVとは以下の方法により測定、算出されるものとする。
(1) リントブラシ等を用いて人工皮革の立毛を逆立てた状態で人工皮革の長手方向に垂直な面の断面方向に厚さ1mmの薄切片を作製する。
(2) 走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510」など)にて人工皮革の断面を90倍で撮影する。
(3) 撮影したSEM画像において、図1に示す人工皮革の断面の模式図に従って、人工皮革の底面(図1中L)に対して平行な線(図1中L)上に200μm間隔で垂線を引く。
(4)立毛部(図1中2)と基体部(図1中3)の境界線(L)上に点P~P10をマークする。
(5)点P~P10からそれぞれ立毛部方向に垂線を引き、立毛層の先端と交わる点Q~Q10をマークする。
(6)点PとQの距離Rとし、同様にR10まで求め、その平均値(算術平均値)(μm)を小数点以下第1位で四捨五入した値を立毛の平均長さ(μm)とする。そして、以下の式によって変動係数(立毛長CV)(%)を算出する
立毛の長さの変動係数(立毛長CV)(%)=(立毛の長さ(距離R~距離R10)の標準偏差(μm))/(立毛の長さ(距離R~距離R10)の算術平均値(μm))×100 ・・・(式6)。
【0095】
本発明において、人工皮革の目付は、150g/m以上450g/m以下であることが好ましい。前記の人工皮革の目付が好ましくは150g/m以上、より好ましくは200g/m以上であることで、衣料、靴、鞄などの縫製時の破れを抑制しつつ、強度および耐摩耗性に優れる人工皮革となる。一方、前記の人工皮革の目付が好ましくは450g/m以下、より好ましくは400g/m以下であることで、柔軟で風合いに優れた人工皮革となる。
【0096】
なお、本発明の人工皮革の目付は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.2 単位面積当たりの質量(ISO法)」に準じて測定されるものであり、以下のようにして測定・算出されるものである。
(1) 人工皮革から長さ30cm×幅30cmの試験片を3枚採取する。
(2) (1)の試験片の質量を測定する。
(3) 以下の式により、各試験片の単位面積当たりの質量を算出する
単位面積当たりの質量(g/m)=試験片の質量(g)/試験片の面積(m)。
(4) (3)で得られた単位面積当たりの質量の算術平均値(g/m)を小数点以下切り捨てして得られる値を、人工皮革の目付とする。
【0097】
本発明の人工皮革においては、前記の立毛面において、前記の立毛が立毛面を被覆する割合(以下、立毛被覆率と略記することがある。)が50%以上95%以下であることが好ましく、60%以上90%以下であることがより好ましい。立毛被覆率が好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上であることで、表面平滑性、タッチ感に優れた人工皮革となる。
【0098】
なお、前記の立毛被覆率は、立毛面について、SEM(例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510」型など)により立毛の存在がわかるように観察倍率30倍~90倍に拡大し、画像分析ソフトウェアを用いて合計面積9mmあたりの立毛部分の総面積の比率を算出し、立毛被覆率とする。総面積の比率は、撮影したSEM画像について、画像分析ソフトウェア(例えば、「ImageJ」)を用い、立毛部分と非立毛部分を閾値100に設定して2値化処理することで算出できる。また、立毛被覆率の算出において、立毛ではない物質が立毛として算出され立毛被覆率に大きく影響している場合、手動で画像を編集しその部分を非立毛部分として算出する。
【0099】
本発明の人工皮革は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.1 厚さ(ISO法)」の「6.1.1 A法」で測定される厚みが、0.5mm以上1.5mm以下であることが好ましい。人工皮革の厚みが好ましくは0.5mm以上、より好ましくは0.7mm以上であることで、衣料、靴、鞄などの縫製時の破れを抑制しつつ、強度および耐摩耗性に優れる人工皮革となる。一方、人工皮革の厚みが好ましくは1.5mm以下、より好ましくは1.3mm以下であることで、風合いやタッチ感に優れた人工皮革となる。
【0100】
そして、本発明の人工皮革は、JIS L0849:2013「摩擦に対する染色堅ろう度試験方法」の「9.1 摩擦試験機I型(クロックメータ)法」で測定される摩擦堅牢度およびJIS L0843:2006「キセノンアーク灯光に対する染色堅ろう度試験方法」の「7.2 露光方法 a) 第1露光法」で測定される耐光堅牢度がそれぞれ3級以上であることが好ましい。摩擦堅牢度および耐光堅牢度が3級以上であることで、実使用時に色落ちや衣服等への汚染が発生しにくい人工皮革となる。なお、それぞれの級数の判定には、人工皮革の摩擦堅牢度については、JIS L0805:2005「汚染用グレースケール」に規定の汚染用グレースケールを用いることとし、人工皮革の耐光堅牢度については、JIS L0804:2004「変退色用グレースケール」に規定の変退色用グレースケールを用いることとする。
【0101】
この人工皮革の摩擦堅牢度は、前記の立毛面に露出しているポリウレタンの面積割合、人工皮革の表面の立毛の長さの変動係数を特定の範囲に調整し、表面の立毛の長さに適当なバラツキを発生させることで、立毛間の摩擦が低減され、立毛の脱落を抑制でき、摩擦堅牢度が良好となるものと考えられる。
【0102】
また、本発明の人工皮革はJIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の「8.19 摩耗強さ及び摩擦変色性」の「8.19.5 E法(マーチンデール法)」で測定される耐摩耗試験において、押圧荷重を12.0kPaとし、50000回の回数を摩耗した後の人工皮革の質量減が10mg以下であることが好ましく、8mg以下であることがより好ましく、6mg以下であることがさらに好ましい。質量減が10mg以下であることで、実使用時の毛羽落ちによる汚染を防ぐことができる。
【0103】
この人工皮革の摩耗強さに関し、押圧荷重を12.0kPaとし、50000回の回数を摩耗した後の人工皮革の質量減を所定の範囲内とするためには、前記の立毛面に露出しているポリウレタンの面積割合、人工皮革の表面の立毛の長さの変動係数を特定の範囲内とし、表面の立毛の長さに適当なバラツキを発生させることで、立毛間の摩擦が低減され、前記の質量減を抑制できると考えられる。
【0104】
そして、本発明の人工皮革は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.3.1 引張強さ及び伸び率(ISO法)」で測定される引張強さが任意の測定方向について50N/cm以上400N/cm以下であることが好ましい。
【0105】
引張強さが好ましくは50N/cm以上、より好ましくは100N/cm以上であると、形態安定性や耐久性に優れた人工皮革となる。また、引張強さが好ましくは400N/cm以下、より好ましくは350N/cm以下であると衣料、靴、鞄などの身の回り品として縫製しやすく、良好な風合いを有する人工皮革となる。
【0106】
[人工皮革の製造方法]
本発明の人工皮革は、好ましくは、平均単繊維直径が0.01μm以上10.00μm以下の極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、ポリウレタンと、で構成されてなるシート状物の、少なくとも一方の表面を研削手段で複数回研削する工程を含むものであって、前記の研削する工程において、研削速度v(m/分)に対するシート状物の搬送速度v(m/分)の比v/vが0.020以上0.050以下であり、かつ、シート状物の搬送方向と研削方向とが逆方向である。より好ましくは、前記の研削する工程の後に、研削されたシート状物を液流染色機で染色する工程を有するものであって、研削されたシート状物の立毛の方向と液流染色機のノズル通過方向とが逆方向である。以下に、各工程の詳細について説明する。
【0107】
(1)シート状物を得る工程
まず、平均単繊維直径が0.01μm以上10.00μm以下の極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、ポリウレタンと、で構成されてなるシート状物を得る。例えば、以下のような工程を経ることによって、好適なシート状物を得ることができる。
【0108】
<(a)極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維絡合体を得る工程>
本工程においては、まず、溶融紡糸可能な熱可塑性樹脂からなる島部を形成し、易溶解性ポリマーが海部を形成する海島型複合構造を有する極細繊維発現型繊維を得る。
【0109】
極細繊維発現型繊維としては、溶剤溶解性の異なる熱可塑性樹脂を海部(易溶解性ポリマー)と島部(難溶解性ポリマー)とし、前記の海部を、溶剤などを用いて溶解除去することによって島部を極細繊維とする海島型複合繊維を用いる。海島型複合繊維を用いることによって、海部を除去する際に島部間、すなわち、繊維束内部の極細繊維間に適度な空隙を付与することができるため、人工皮革の風合いや表面品位の観点から好ましい。
【0110】
海島型複合構造を有する極細繊維発現型繊維を紡糸する方法としては、海島型複合繊維用口金を用い、海部と島部を相互配列して紡糸する高分子相互配列体を用いる方式が、均一な単繊維繊度の極細繊維が得られるという観点から好ましい。
【0111】
上記のシート状物を得るにあたって、さらに濃色で均一な発色性を両立することを目的として、島部に黒色顔料を含有させることもできる。その方法としては、予め黒色顔料をポリエステル系樹脂の質量対比で、例えば0.1質量%以上5.0質量%以下混練した、ポリエステル系樹脂のチップを用いて紡糸しても、ポリエステル系樹脂に黒色顔料をポリエステル系樹脂の質量対比で、例えば10.0質量%以上40.0質量%以下の範囲で混練したマスターバッチとポリエステル系樹脂のチップを混合して紡糸する方法のいずれも採用することができる。その中でも、マスターバッチを用いてポリエステル系樹脂のチップと混合する手法は極細繊維に含まれる顔料の量を適宜調整可能であるため好ましい。
【0112】
マスターバッチを用いてポリエステル系樹脂のチップと混合する場合、使用するマスターバッチに含まれる黒色顔料の一次粒子径の数平均が0.01μm以上0.05μm以下であり、変動係数(CV)が0.1%以上30.0%以下のマスターバッチを使用することが好ましい。一次粒子径が上記の範囲内のマスターバッチを使用することで極細繊維中の粒子径(二次粒子径)と変動係数(CV)とを適切な範囲とすることができる。
【0113】
海島型複合繊維の海部としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステル、およびポリ乳酸などを用いることができるが、製糸性や易溶出性等の観点から、ポリスチレンや共重合ポリエステルが好ましく用いられる。
【0114】
上記のシート状物を得るにあたって、海島型複合繊維を用いる場合には、その島部の引張強度(極細繊維の引張強度)が、2.2cN/dtex以上である海島型複合繊維を用いることが好ましい。島部の引張強度が好ましくは2.2cN/dtex以上、より好ましくは3.0cN/dtex以上、さらに好ましくは4.0cN/dtex以上であることによって、人工皮革の耐摩耗性が向上するとともに繊維の脱落に伴う摩擦堅牢度の低下を抑制することができる。
【0115】
本発明において、海島型複合繊維の島部の引張強度(極細繊維の引張強度)は以下の方法により算出されるものとする。
(1) 長さ20cmの海島型複合繊維を10本束ねる。
(2) (1)の試料から海部を溶解除去したのちに、風乾する。
(3) JIS L1013:2010「化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.5 引張強さ及び伸び率」の「8.5.1 標準時試験」にて、つかみ長さ5cm、引張速度5cm/分、荷重2Nの条件にて10回試験する(N=10)。
(4) (3)で得られた試験結果の算術平均値(cN/dtex)を小数点以下第二位で四捨五入して得られる値を、海島型複合繊維の島部の引張強度、そして、極細繊維の引張強度とする。
【0116】
そして、本工程では、紡出された前記の極細繊維発現型繊維を開繊したのちにクロスラッパー等により繊維ウェブとし、絡合させることにより不織布を得る。繊維ウェブを絡合させ不織布を得る方法としては、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等を用いることができる。
【0117】
不織布の形態としては、前述のように短繊維不織布でも長繊維不織布でも用いることができるが、短繊維不織布であると、人工皮革の厚さ方向を向く繊維が長繊維不織布に比べて多くなり、起毛した際の人工皮革の表面に高い緻密感を得ることができる。
【0118】
不織布として短繊維不織布とする場合には、得られた極細繊維発現型繊維に、好ましくは捲縮加工を施し、所定長にカット加工して原綿を得たのちに、開繊、積層、絡合させることで短繊維不織布を得る。捲縮加工やカット加工は、公知の方法を用いることができる。
【0119】
さらに、人工皮革が織物を含む場合には、得られた不織布と織物を積層し、そして絡合一体化させる。不織布と織物の絡合一体化には、不織布の片面もしくは両面に織物を積層するか、あるいは複数枚の不織布ウェブの間に織物を挟んだ後に、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等によって不織布と織物の繊維同士を絡ませることができる。
【0120】
ニードルパンチ処理あるいはウォータージェットパンチ処理後の極細繊維発現型繊維からなる不織布の見掛け密度は、0.10g/cm以上0.45g/cm以下であることが好ましい。見掛け密度を好ましくは0.10g/cm以上、より好ましくは0.15g/cm以上とすることにより、人工皮革が十分な形態安定性と寸法安定性が得られる。一方、見掛け密度を好ましくは0.45g/cm以下、より好ましくは0.40g/cm以下とすることにより、ポリウレタンを付与するための十分な空間を維持することができる。
【0121】
前記の不織布には、繊維の緻密感向上のために、温水やスチームによる熱収縮処理を施すことも好ましい態様である。
【0122】
次に、前記の不織布に水溶性樹脂の水溶液を含浸し、乾燥することにより水溶性樹脂を付与することもできる。不織布に水溶性樹脂を付与することにより、繊維が固定されて寸法安定性が向上される。
【0123】
<(b)極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体を得る工程>
本工程では、得られた繊維絡合体を溶剤で処理し、平均単繊維直径が0.01μm以上10.0μm以下の極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体を得る。
【0124】
極細繊維の発現処理は、溶剤中に海島型複合繊維からなる不織布を浸漬させて、海島型複合繊維の海部を溶解除去することなどにより行うことができる。
【0125】
極細繊維発現型繊維が海島型複合繊維の場合、海部を溶解除去する溶剤としては、海部がポリエチレン、ポリプロピレンまたはポリスチレンの場合には、トルエンやトリクロロエチレンなどの有機溶剤を用いることができる。また、海部が共重合ポリエステルやポリ乳酸の場合には、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液を用いることができる。また、海部が水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系樹脂の場合には、熱水(70℃~99℃とした水)を用いることができる。
【0126】
この段階においても、前記の繊維絡合体に水溶性樹脂の水溶液を含浸し、乾燥することにより水溶性樹脂を付与することもできる。この繊維絡合体に水溶性樹脂を付与することにより、繊維が固定されて寸法安定性が向上される。
【0127】
<(c)ポリウレタンを付与する工程>
本工程では、前記の極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体、または、極細繊維発現型繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体にポリウレタンの前駆体の溶液を含浸し、固化して、ポリウレタンと、で構成されてなるシート状物を得る。ここで、ポリウレタンの前駆体とは、後述する凝固や固化などの手段によってポリウレタンとなる前駆体(以下、単に「前駆体」と略記することがある)のことを言う。例えば、ポリウレタンの各反応成分、すなわち、ポリマージオール、有機ジイソシアネート、鎖伸長剤などの混合物がポリウレタンの前駆体である。
【0128】
本発明において、さらに濃色で均一な発色性を両立することを目的として、黒色顔料を含むポリウレタンを不織布に固定することもできる。その方法としては、黒色顔料を含むポリウレタンの前駆体の溶液を不織布(繊維絡合体)に含浸させた後、湿式凝固または乾式凝固する方法があり、使用するポリウレタンの種類により適宜これらの方法を選択することができる。使用する黒色顔料としては、一次粒子径の数平均が0.01μm以上0.05μm以下であり、変動係数(CV)が0.1%以上30.0%以下であることが好ましい。一次粒子径が上記の範囲内の黒色顔料を使用することでポリウレタン中の粒子径(二次粒子径)と変動係数(CV)を適切な範囲とすることができる。
【0129】
ポリウレタンを繊維絡合体に付与させる際に用いられる溶媒としては、N,N’-ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシド等が好ましく用いられる。また、ポリウレタンを水中にエマルジョンとして分散させた水分散型ポリウレタン液を用いてもよい。
【0130】
なお、繊維絡合体へのポリウレタンの付与は、極細繊維発現型繊維から極細繊維を発生させる前に付与してもよいし、極細繊維発現型繊維から極細繊維を発生させる後に付与してもよい。
【0131】
また、前記の極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体を得る工程において、繊維絡合体に水溶性樹脂を付与した場合には、繊維絡合体にポリウレタンを付与した後に、繊維絡合体を熱水に含浸し、水溶性樹脂を除去することができる。
【0132】
(2)シート状物を研削する工程
本工程においては、前工程で得られたシート状物の、少なくとも一方の表面を研削手段で複数回研削する工程を含むことが好ましい。これによって、その表面に立毛を有させ、立毛面を形成するのである。さらに、この研削に先立って、前記のシート状物を、製造効率の観点から、厚み方向に半裁して2枚のシートとすることも好ましい態様である。
これによって、シートの表面に立毛を有させ、その表面に立毛面を形成するのである。
【0133】
なお、この研削は前記のシートの片側表面のみに施しても、両面に施すこともできるが、厚み方向に2枚に半裁したシートを研削する場合は、人工皮革表面として半裁面を研削することが好ましい。非半裁面と比較して、半裁面はポリウレタンの密度が高い傾向にあるため、半裁面に研削を施すことで、人工皮革の表面に露出しているポリウレタン面積率を規定の範囲とし、豚革調の微細な小柄模様と滑らかなタッチ感を有する人工皮革とすることができる。
【0134】
本発明においては、前記のシートの研削手段として、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いて研削する方法などを適用することができる。
【0135】
前記のシートの研削において、豚革調の微細な小柄模様と立毛が不均一で粗い表面外観と滑らかなタッチ感を両立した人工皮革とするためには、研削回数を少なくとも2回以上、好ましくは3回以上の多段階とする。さらに、各段に使用するサンドペーパーやロールサンダーの番手を段階的に細かくするか、または、少なくとも同じにすることが好ましい様態である。
【0136】
前記のシートの表面(人工皮革表面に相当)を研削するサンドペーパーやロールサンダーの粒度は、JIS R6610:2000「研磨布用研磨材の粒度」で規定の100番以上180番以下の範囲とすることが好ましい。サンドペーパーやロールサンダーの粒度が好ましくは100番以上、より好ましくは120番以上であることにより、人工皮革の表面に露出しているポリウレタンの面積割合を規定の範囲とし、豚革調の微細な小柄模様を達成できる。一方、サンドペーパーやロールサンダーの粒度が好ましくは180番以下、より好ましくは150番以下であることにより、後述する研削速度vを低速にした場合も設備負荷を抑制しながら、立毛の平均長さとその変動係数を特定の範囲内とし、立毛が不均一で粗い表面外観を有する人工皮革を得ることができる。
【0137】
前記のシート状物の、少なくとも一方の表面を研削手段で複数回研削するところの研削において、研削速度v(m/分)に対するシート状物の搬送速度v(m/分)の比v/vを常に0.020以上0.050以下とすることが好ましい。ここでいう、シート状物の搬送速度vは、サンドペーパーを高速回転させているロール、もしくはロールサンダーにシートを供給する速度のことである。また、研削速度vは、サンドペーパーもしくはロールサンダーの回転速度と周長から算出される周速のことである。
【0138】
シート状物の搬送速度vと研削速度vの比v/vを好ましくは0.020以上、より好ましくは0.025以上とすることにより、立毛の長さの変動係数が大きくなり、立毛が不均一で粗い表面外観を有する人工皮革となる。一方、シート状物の搬送速度vと研削速度vの比v/vを好ましくは0.050以下、より好ましくは0.045以下であることにより、染色後に人工皮革の表面に発現するポリウレタン集合体の単位面積当たりの個数を規定の範囲とし、豚革調の微細な小柄模様を達成しながら、滑らかなタッチ感を有する人工皮革となる。加えて、複数回研削する場合の、各回のv/vを常に上記範囲とすることにより、人工皮革の表面の立毛の長さの変動係数を特定の範囲内とし、表面の立毛の長さに適当なバラツキが生じ、立毛間の摩擦が低減され、耐摩耗性が良好な人工皮革を得ることができる。
【0139】
シート状物の搬送速度vは、具体的には、上記の関係を満たしつつ、10m/分以上20m/分であることが好ましい。シート状物の搬送速度vが好ましくは10m/分以上、より好ましくは13m/分以上であることにより、良好な生産性を維持しつつ、豚革調の微細な小柄模様と立毛が不均一で粗い表面外観を達成することができる。一方、シート状物の搬送速度vが好ましくは20m/分以下、より好ましくは17m/分以上であることにより、設備負荷を抑制しながら、豚革調の微細な小柄模様と立毛が不均一で粗い表面外観を達成することができる。
【0140】
具体的に、研削速度vは、200m/分以上700m/分以下であることが好ましい。研削速度vが具体的には、上記の関係を満たしつつ、好ましくは200m/分以上、より好ましくは300m/分以上であることにより、設備負荷を抑制しながら、染色後に人工皮革の表面に発現するポリウレタン集合体の単位面積当たりの個数を規定の範囲とし、豚革調の微細な小柄模様を達成しつつ、滑らかなタッチ感を有する人工皮革とすることができる。一方、研削速度vが好ましくは700m/分以下、より好ましくは600m/分以下であることにより、立毛の平均長さおよびその変動係数を規定の範囲内とし、立毛が不均一で粗い表面外観を有する人工皮革とすることができる。
【0141】
さらに、前記のシート状物の表面の研削において、シート状物の搬送方向を研削方向の逆向きとすることが好ましい。これにより、シート状物に形成される立毛方向は、立毛を寝かせた状態で、研削方向に均一に形成されるようになる。ここでいう、研削方向は、サンドペーパーやロールサンダーなどでシート状物の表面を研削する方向のことである。
【0142】
この研削の前には、シリコーンエマルジョンなどの滑剤を前記のシート状物の表面へ付与することができる。また、研削の前に帯電防止剤を付与することで、研削によって人工皮革から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくなる。
【0143】
ここで、前記の研削をした後に得られた、研削されたシート状物の目付が100g/m以上450g/m以下であることが好ましい。研削をした後に得られたシート状物の目付が好ましくは100g/m2以上であることにより、本工程におけるシート状物の破断に加え、衣料、靴、鞄などの縫製時の破れを抑制しつつ、強度および耐摩耗性に優れる人工皮革することができる。一方、このシート状物の目付が好ましくは450g/m以下であることにより、良好な風合いを有する人工皮革とすることができる。
【0144】
(3)研削されたシート状物を染色する工程>
さらに、前記の研削する工程の後に、研削されたシート状物を液流染色機で染色する工程を有することが好ましい。本工程において、液流染色機を用いて染色を行うことで、揉み効果により人工皮革の立毛が解れて、人工皮革の表面にポリウレタン集合体が発現し、豚革調の微細な小柄模様を発現させるとともに、良好な風合いとすることができる。
【0145】
そして、このシート状物を染色する工程において、研削されたシート状物の立毛の方向と液流染色機のノズル通過方向とが逆方向であることが好ましい態様である。これにより、液流染色機のノズルから噴射した処理液によりシート状物の立毛が逆立てながら、シート状物を揉み解すことができるため、染色後の人工皮革の立毛方向が不均一となり、粗い表面外観を有する人工皮革とすることができる。
【0146】
ここでいう、液流染色機のノズル通過方向とは、液流染色機の移送管先端に設けている噴射装置のノズルをシート状物が通過する方向のことである。
【0147】
<後加工工程>
また、上記の工程によって得られたシートをそのまま人工皮革としてもよいが、さらに必要に応じてその表面に各種の加工を行い、意匠性に優れた人工皮革とすることもできる。例えば、パーフォレーション等の穴開け加工、エンボス加工、レーザー加工、ピンソニック加工、およびプリント加工等の後加工処理を施すことができる。加えて、各種の樹脂仕上げ加工も施すことができる。
【0148】
[衣料、靴、鞄]
以上に例示された製造方法によって得られるような本発明の人工皮革は、豚革調の微細な小柄模様と立毛が不均一で粗い表面外観を有しながら、長期間の使用に耐えうる耐摩耗性を両立しており、特に衣料、靴、鞄などの身の回り品に好適な素材である。
【0149】
まず、前記の人工皮革を含む衣料は、豚革調の微細な小柄模様と耐摩耗性に優れているという特性を生かすことができるため好ましい。このような衣料としては、Tシャツ・ポロシャツ・ワイシャツ・ブラウス・カシュクール・カットソー・セーター・ベスト・パーカー・スウェットシャツ・タートルネック・カーディガン・タンクトップ・チューブトップ等のトップス、コート・ブレザー・ジャケット・ウインドブレーカー・クローク・ケープ・エプロン・マント等のアウターウェア、スラックス・ジーンズ・ショートパンツ等のズボン、スカート、カクテルドレス・ワンピース・ガウン等のドレス、祭服、背広服、制服、下着、帽子、ベルト・スカーフ・ネクタイ・財布等の装身具等の衣料、あるいは、ボタン・ポケット等の衣料用資材・付属品、および、上記衣料品の裏地に好適に用いることができる。
【0150】
また、前記の人工皮革を含む靴も、豚革調の微細な小柄模様と耐摩耗性に優れているという特性を生かすことができるため、同様に好ましい。このような靴としては、スニーカー、サンダル、スリッポン、エスパドリーユ、デッキシューズ、ブーツ、ビジネスシューズ、ドライビングシューズ、スリッパ、ランニングシューズ、スパイクが挙げられる。そして、そのような靴のアッパー、ライニング、インソール、靴紐などの少なくとも一部が前記の人工皮革であることが好ましい。
【0151】
そして、前記の人工皮革を含む鞄も、豚革調の微細な小柄模様と耐摩耗性に優れているという特性を生かすことができるため、同様に好ましい。このような鞄としては、リュックサック、メッセンジャーバッグ、ハンドバッグ、クラッチバッグ、トートバッグ、ショルダーバッグ、ブリーフケース、ボストンバッグ、キャリーバッグ、アタッシュケース、ランドセルが挙げられる。そして、そのような鞄の表地、裏地、持ち手、かぶせ、マチ、アオリ、ショルダーストラップ、コンパートメントなどの少なくとも一部が前記の人工皮革であることが好ましい。
【実施例0152】
次に、実施例を用いて本発明の人工皮革についてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0153】
[測定方法および評価用加工方法]
次に、実施例で用いた評価法とその測定条件について説明する。ただし、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0154】
(1)極細繊維の平均単繊維直径(μm):
極細繊維の平均単繊維直径の測定においては、走査型電子顕微鏡(SEM)として、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510」型を用いて極細繊維を観察し、平均単繊維直径を算出した。
【0155】
(2)極細繊維の引張強度(cN/dtex):
極細繊維の引張強度の測定においては、株式会社エー・アンド・デイ製テンシロン万能材料試験機「RTC-1350A」を用いて、前記の方法で測定・算出した。
【0156】
(3)人工皮革の目付(g/m):
人工皮革の目付の測定においては、人工皮革の任意の方向について30cm×30cmの試験片を3枚採取し、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.2 単位面積当たりの質量(ISO法)」で規定される単位面積当たりの質量(ISO法)を人工皮革の目付(g/m)として測定した。測定は3枚の算術平均値を人工皮革の目付とした。
【0157】
(4)人工皮革の表面に露出しているポリウレタンの面積割合(%):
四酸化ルテニウムの飽和蒸気中でポリウレタンを電子染色した後、表面にオスミウム原子を1nmコーティングした人工皮革の表面を、電界放射型走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JSM-7800F Prime」)を用いて観察した。次いで人工皮革の表面に露出しているポリウレタン面積率を、画像解析ソフトウェア「ImageJ」を用いて測定した。
【0158】
(5)0.2mm以上1.0mm以下のポリウレタン集合体の有無およびポリウレタン集合体の単位面積当たりの個数(個/cm):
四酸化ルテニウムの飽和蒸気中でポリウレタンを電子染色した後、表面にオスミウム原子を1nmコーティングした人工皮革の表面を、電界放射型走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JSM-7800F Prime」)を用いて観察した。次いで人工皮革の表面に露出している0.20mm以上1.00mm以下のポリウレタン集合体の有無およびポリウレタン集合体の単位面積当たりの個数を、画像解析ソフトウェア「ImageJ」を用いて測定した。
【0159】
(6)人工皮革の立毛の平均長さ(μm)およびその変動係数(%):
人工皮革の立毛の平均長さの測定において、走査型電子顕微鏡(SEM)として、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510」を用いて人工皮革の断面を観察し、人工皮革の立毛の平均長さおよびその変動係数を算出した。
【0160】
(7)人工皮革の引張強さ(N/cm):
人工皮革の任意の方向について2cm×20cmの試験片を2枚採取し、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.3.1 引張強さ及び伸び率(ISO法)」で規定される引張強さ(N/cm)を測定した。測定は2枚の平均を人工皮革の引張強さとした。なお、測定には、インストロン社製シングルコラム卓上型試験機「3343」を用いた。
【0161】
(8)人工皮革の摩擦堅牢度(級):
摩擦試験後のサンプルの汚染度合いをJIS L0805:2005「汚染用グレースケール」に規定の汚染用グレースケールで判定し、4級以上(L表色系による色差ΔE abが4.5±0.3以下)を合格とした。
【0162】
(9)人工皮革の明度(L値、単位なし)
分光測色計を用いて、JIS Z8781-4:2013「測色-第4部:CIE1976L色空間」の「3.3 CIE1976 明度指数」で規定されるL*値を計測した。計測はコニカミノルタ株式会社製「CM-M6」によって、10回測定し、その平均を人工皮革のL値とした。
【0163】
(10)人工皮革の耐摩耗性(mg):
摩耗試験器としてJames H. Heal & Co.Ltd.製「Model 406」を、標準摩擦布として同社の「Abrastive CLOTH SM25」を用いて耐摩耗試験を行い、人工皮革の摩耗減量が10mg以下であった人工皮革を合格とした。
【0164】
(11)人工皮革のタッチ感:
人工皮革のタッチ感は、健康な成人男性と成人女性各10名ずつ、計20名を評価者として、下記の評価を視覚で判別を行い、最も多かった評価を人工皮革のタッチ感とした。評価が同数となった場合は、より高い評価をその人工皮革のタッチ感とすることとした。本発明の良好なレベルは「AまたはB」とした。
・A:非常に滑らかな触感である。
・B:滑らかな触感である。
・C:ざらざらした触感である。
・D:非常にざらざらした触感である。
【0165】
(12)人工皮革の表面外観:
人工皮革の表面外観は、健康な成人男性と成人女性各10名ずつ、計20名を評価者として、下記の評価を視覚で判別を行い、最も多かった評価を人工皮革の表面外観とした。評価が同数となった場合は、より高い評価をその人工皮革の表面外観とすることとした。本発明の良好なレベルは「AまたはB」とした。
・A:豚革調の微細な小柄模様が発現し、立毛が非常に不均一で粗い表面外観である。
・B:豚革調の微細な小柄模様がわずかに発現し、立毛が不均一で粗い表面外観である。
・C:豚革調の微細な小柄模様は発現せず、均一な表面外観である。
・D:豚革調の微細な小柄模様は発現せず、非常に均一な表面外観である。
【0166】
[製造例1]
実施例1~8、比較例1~5で用いたシート状物は、以下の工程を経て製造した。
【0167】
<(a)極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維絡合体を得る工程>
島成分と海成分からなる海島型複合構造を有する極細繊維発現型繊維を、以下の条件で溶融紡糸した。
・島成分: 固有粘度(IV値)が0.72のポリエチレンテレフタレート
・海成分: MFR(メルトフローレート、ISO 1133:1997に規定の試験方法で測定、以下同様)が65g/10分のポリスチレン
・口金: 島数が36島/ホールの海島型複合繊維用口金
・紡糸温度: 285℃
・島部/海部 質量比率: 55/45
・吐出量: 1.2g/(分・ホール)
・紡糸速度: 1280m/分。
【0168】
次いで、90℃とした紡糸用油剤液浴中で極細繊維発現型繊維を3.5倍に延伸した。そして、押し込み型捲縮機を用いて捲縮加工処理した後、51mmの長さにカットし、単繊維繊度が3.1dtexの海島型複合繊維の原綿を得た。この海島型複合繊維から得られる極細繊維の平均単繊維直径は2.1μm、極細繊維の強度は4.5cN/dtexであった。
【0169】
そして、上記のようにして得られた原綿を用いて、カードおよびクロスラッパー工程を経て積層ウェブを形成した。そして、2500本/cmのパンチ本数でニードルパンチ処理して、目付が975g/mで、厚みが4.2mmの、極細繊維発現型繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体を得た。
【0170】
<(b)極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体を得る工程>
上記のようにして得られた繊維絡合体を96℃の熱水で収縮処理させた。その後、濃度が12質量%となるように調製した、鹸化度88%のポリビニルアルコール(以下、PVAと略することがある。)水溶液を熱水で収縮処理させた不織布に含浸させた。さらにこれをロールで絞り、温度120℃の熱風で10分間PVAをマイグレーションさせながら乾燥させ、シート基体の質量に対するPVA質量が49質量%となるようにしたPVA付シートを得た。このようにして得られたPVA付シートをトリクロロエチレンに浸漬させて、マングルによる搾液と圧縮を行う工程を10回行った。これによって、海部の溶解除去とPVA付シートの圧縮処理を行い、PVAが付与された極細繊維束が絡合してなるPVA付シートを得た。
【0171】
<(c)ポリウレタンを付与する工程>
上記のようにして得られたPVA付シートに、ポリウレタンを主成分とする固形分の濃度が10.5%となるように調製した、ポリウレタンのDMF(ジメチルホルムアミド)溶液を浸漬させた。その後、ポリウレタンのDMF溶液に浸漬させた脱海PVA付シートをロールで絞った。次いで、このシートを濃度30質量%のDMF水溶液中に浸漬させ、ポリウレタンを凝固させた。その後、PVAおよびDMFを95℃の熱水で除去し、110℃の温度の熱風で10分間乾燥させた。これによって、厚みが2.3mmで、繊維絡合体の質量に対するポリウレタン質量が26.5質量%となるようにしたシート状物を得た。
【0172】
[製造例2]
実施例9~11で用いたシート状物は、以下の工程を経て製造した。
【0173】
<(a)極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維絡合体を得る工程>
島成分と海成分からなる海島型複合構造を有する極細繊維発現型繊維を、以下の条件で溶融紡糸した。
・島成分: 固有粘度(IV値)が0.73のポリエチレンテレフタレート
・海成分: MFR(メルトフローレート、ISO 1133:1997に規定の試験方法で測定、以下同様)が65g/10分のポリスチレン
・口金: 島数が16島/ホールの海島型複合繊維用口金
・紡糸温度: 285℃
・島部/海部 質量比率: 80/20
・吐出量: 1.2g/(分・ホール)
・紡糸速度: 1100m/分。
【0174】
次いで、90℃とした紡糸用油剤液浴中で極細繊維発現型繊維を2.7倍に延伸した。そして、押し込み型捲縮機を用いて捲縮加工処理した後、51mmの長さにカットし、単繊維繊度が4.2dtexの海島型複合繊維の原綿を得た。この海島型複合繊維から得られる極細繊維の平均単繊維直径は4.4μm、極細繊維の強度は3.7cN/dtexであった。
【0175】
そして、上記のようにして得られた原綿を用いて、カードおよびクロスラッパー工程を経て積層ウェブを形成した。そして、2500本/cmのパンチ本数でニードルパンチ処理して、目付が700g/mで、厚みが2.9mmの、極細繊維発現型繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体を得た。
【0176】
<(b)極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体を得る工程>
上記のようにして得られた繊維絡合体を96℃の熱水で収縮処理させた。その後、濃度が12質量%となるように調製した、鹸化度88%のポリビニルアルコール(以下、PVAと略することがある。)水溶液を熱水で収縮処理させた不織布に含浸させた。さらにこれをロールで絞り、温度120℃の熱風で10分間PVAをマイグレーションさせながら乾燥させ、シート基体の質量に対するPVA質量が22質量%となるようにしたPVA付シートを得た。このようにして得られたPVA付シートをトリクロロエチレンに浸漬させて、マングルによる搾液と圧縮を行う工程を10回行った。これによって、海部の溶解除去とPVA付シートの圧縮処理を行い、PVAが付与された極細繊維束が絡合してなるPVA付シートを得た。
【0177】
<(c)ポリウレタンを付与する工程>
上記のようにして得られたPVA付シートに、ポリウレタンを主成分とする固形分の濃度が12.0%となるように調製した、ポリウレタンのDMF(ジメチルホルムアミド)溶液を浸漬させた。その後、ポリウレタンのDMF溶液に浸漬させた脱海PVA付シートをロールで絞った。次いで、このシートを濃度30質量%のDMF水溶液中に浸漬させ、ポリウレタンを凝固させた。その後、PVAおよびDMFを95℃の熱水で除去し、110℃の温度の熱風で10分間乾燥させた。これによって、厚みが2.3mmで、繊維絡合体の質量に対するポリウレタン質量が29.6質量%となるようにしたシート状物を得た。
【0178】
[実施例1]
<シート状物を研削する工程>
製造例1で得られたシート状物を、その厚みがそれぞれ1/2ずつとなるように半裁した。続いて、シート状物の搬送速度vを15m/minとし、研削速度vBを、1段目を600m/min、2段目を600m/min、3段目を300m/minとし、研削手段としてサンドペーパー番手120番(表1、2では「#120」と表記する。他の番手についても同様である)のエンドレスサンドペーパーを用いて、表1の研削方向で、半裁面の表層部を0.20mm研削して起毛処理を行い、極細繊維の平均単繊維直径が2.1μmで、目付が350g/m、厚み0.95mmの、研削されたシート状物を得た。
【0179】
<研削されたシート状物を染色する工程>
前記の研削されたシート状物を液流染色機にて灰色染料を使用し、染色後のシートのL値が60となるように調整したレサイプを用いて、表1のノズル通過方向で、120℃で染色し、還元洗浄して、染色されたシート状物を得た。その後、ピンテンターで、100℃で7分間乾燥処理し、人工皮革を得た。結果を表1に示す。得られた人工皮革は、豚革調の微細な小柄模様を発現し、立毛が非常に不均一で粗い表面外観であり、さらに非常に滑らかな触感を有し、非常に耐摩耗性に優れていた。
【0180】
[実施例2]
<シート状物を研削する工程>において、表1の通り、研削速度vBを、1段目を700m/min、2段目を700m/min、3段目を350m/minに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、人工皮革を得た。結果を表1に示す。得られた人工皮革は、豚革調の微細な小柄模様を発現し、立毛が不均一で粗い表面外観であり、さらに非常に滑らかな触感を有し、耐摩耗性に優れていた。
【0181】
[実施例3]
<シート状物を研削する工程>において、表1の通り、研削速度vBを、1段目を500m/min、2段目を500m/min、3段目を300m/minに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、人工皮革を得た。結果を表1に示す。
得られた人工皮革は、豚革調の微細な小柄模様を発現し、立毛が非常に不均一で粗い表面外観であり、さらに滑らかな触感を有し、非常に耐摩耗性に優れていた。
【0182】
[実施例4]
<シート状物を研削する工程>において、表1の通り、シート状物の搬送速度vAを13m/minに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、人工皮革を得た。結果を表1に示す。
得られた人工皮革は、豚革調の微細な小柄模様を発現し、立毛が不均一で粗い表面外観であり、さらに非常に滑らかな触感を有し、耐摩耗性に優れていた。
【0183】
[実施例5]
<シート状物を研削する工程>において、表1の通り、シート状物の搬送速度vAを13m/min、研削速度vBを、1段目を500m/min、2段目を500m/min、3段目を300m/minに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、人工皮革を得た。結果を表1に示す。
得られた人工皮革は、豚革調の微細な小柄模様を発現し、立毛が非常に不均一で粗い表面外観であり、さらに非常に滑らかな触感を有し、非常に耐摩耗性に優れていた。
【0184】
[実施例6]
<シート状物を研削する工程>において、表1の通り、3段目の研削を実施しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、人工皮革を得た。結果を表1に示す。
得られた人工皮革は、豚革調の微細な小柄模様を発現し、立毛が非常に不均一で粗い表面外観であり、さらに滑らかな触感を有し、非常に耐摩耗性に優れていた。
【0185】
[実施例7]
<シート状物を染色する工程>において、表1の通り、研削されたシート状物の立毛の方向と液流染色機のノズル通過方向を同一にしたこと以外は、実施例1と同様にして、人工皮革を得た。結果を表1に示す。
得られた人工皮革は、豚革調の微細な小柄模様を発現し、立毛が不均一で粗い表面外観であり、さらに非常に滑らかな触感を有し、耐摩耗性に優れていた。
【0186】
[実施例8]
<シート状物を研削する工程>において、表1の通り、サンドペーパー番手150番のエンドレスサンドペーパーを用いた以外は、実施例1と同様にして、人工皮革を得た。結果を表1に示す。
得られた人工皮革は、豚革調の微細な小柄模様を発現し、立毛が不均一で粗い表面外観であり、さらに非常に滑らかな触感を有し、非常に耐摩耗性に優れていた。
【0187】
[実施例9]
製造例1で得られたシート状物を用いていたところを製造例2で得られたシート状物を用いることとし、<シート状物を研削する工程>において、表2の通り、半裁面の表層部を0.30mm研削した以外は実施例1と同様にして、シート状物を半裁、研削して起毛処理を行い、極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmで、目付が350g/m、厚み0.85mmの、研削されたシート状物を得た。
【0188】
さらに、<研削されたシート状物を染色する工程>において、実施例1と同様にして、前記の研削されたシート状物を染色し、還元洗浄して、染色されたシート状物を得た後、乾燥処理し、人工皮革を得た。結果を表2に示す。得られた人工皮革は、豚革調の微細な小柄模様を発現し、立毛が非常に不均一で粗い表面外観であり、さらに滑らかな触感を有し、耐摩耗性に優れていた。
【0189】
[実施例10]
製造例1で得られたシート状物を用いていたところを製造例2で得られたシート状物を用いることとし、<シート状物を研削する工程>において、表2の通り、半裁面の表層部を0.30mm研削した以外は実施例6と同様にして、シート状物を半裁、研削して起毛処理を行い、極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmで、目付が350g/m、厚み0.85mmの、研削されたシート状物を得た。
【0190】
さらに、<研削されたシート状物を染色する工程>において、実施例6と同様にして、前記の研削されたシート状物を染色し、還元洗浄して、染色されたシート状物を得た後、乾燥処理し、人工皮革を得た。結果を表2に示す。得られた人工皮革は、豚革調の微細な小柄模様を発現し、立毛が非常に不均一で粗い表面外観であり、さらに滑らかな触感を有し、耐摩耗性に優れていた。
【0191】
[実施例11]
製造例1で得られたシート状物を用いていたところを製造例2で得られたシート状物を用いることとし、<シート状物を研削する工程>において、表2の通り、半裁面の表層部を0.30mm研削した以外は実施例7と同様にして、シート状物を半裁、研削して起毛処理を行い、極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmで、目付が350g/m、厚み0.85mmの、研削されたシート状物を得た。
【0192】
さらに、<研削されたシート状物を染色する工程>において、実施例7と同様にして、前記の研削されたシート状物を染色し、還元洗浄して、染色されたシート状物を得た後、乾燥処理し、人工皮革を得た。結果を表2に示す。得られた人工皮革は、豚革調の微細な小柄模様を発現し、立毛が不均一で粗い表面外観であり、さらに滑らかな触感を有し、耐摩耗性に優れていた。
【0193】
【表1】
【0194】
【表2】
【0195】
[比較例1]
<シート状物を研削する工程>において、表2の通り、研削速度vBを、1段目を800m/min、2段目を800m/min、3段目を400m/minに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、人工皮革を得た。結果を表2に示す。
得られた人工皮革は、非常に滑らかな触感を有していたものの、表面にポリウレタン集合体が存在しないため、豚革調の微細な小柄模様は発現せず、非常に均一な表面外観であり、耐摩耗性が劣っていた。
【0196】
[比較例2]
<シート状物を研削する工程>において、表2の通り、研削速度vBを、1段目を250m/min、2段目を250m/min、3段目を250m/minに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、人工皮革を得た。結果を表2に示す。
得られた人工皮革は、豚革調の微細な小柄模様を発現し、立毛が非常に不均一で粗い表面外観を有し、非常に耐摩耗性に優れていたものの、ざらざらした触感であった。
【0197】
[比較例3]
<シート状物を研削する工程>において、表2の通り、2段目、3段目の研削を実施しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、人工皮革を得た。結果を表2に示す。
得られた人工皮革は、豚革調の微細な小柄模様を発現し、立毛が非常に不均一で粗い表面外観を有し、非常に耐摩耗性に優れていたものの、非常にざらざらした触感であった。
【0198】
[比較例4]
<シート状物を研削する工程>において、表2の通り、シート状物の搬送方向に対して、3段目の研削方向を同一にしたこと以外は、実施例1と同様にして、人工皮革を得た。結果を表2に示す。
得られた人工皮革は、非常に滑らかな触感を有していたものの、豚革調の微細な小柄模様は発現せず、均一な表面外観であり、耐摩耗性が劣っていた。
【0199】
[比較例5]
<シート状物を研削する工程>において、表2の通り、サンドペーパー番手240番のエンドレスサンドペーパーを用いた以外は、実施例1と同様にして、人工皮革を得た。結果を表2に示す。
得られた人工皮革は、非常に滑らかな触感を有していたものの、表面にポリウレタン集合体が存在しないため、豚革調の微細な小柄模様は発現せず、非常に均一な表面外観であり、耐摩耗性が劣っていた。
【0200】
【表3】
【0201】
表1、表2に示すように、実施例1~11の人工皮革は、シート状物を研削する工程において、シート状物の搬送速度vAと研削速度vBの速度比を特定の範囲内としつつ、シート状物の搬送方向と研削方向を逆向きにして複数回研削した後に、染色処理を施すことによって、豚革調の微細な小柄模様を発現し、立毛が非常に不均一で粗い表面外観を達成しながら、良好な触感、耐摩耗性を両立していた。
【0202】
また、実施例1と実施例7の人工皮革を比較すると、シート状物を染色する工程において、研削されたシート状物の立毛の方向に対して液流染色機のノズル通過方向を逆向きにすることで、より豚革調の微細な小柄模様を発現しやすくなり、かつ立毛が非常に不均一で粗い表面外観を達成することが容易となる。
【0203】
一方、表3に示すように、比較例1、比較例2の人工皮革は、シート状物を研削する工程において、シート状物の搬送速度vAと研削速度vBの速度比を特定の範囲内としなかった場合、豚革調の微細な小柄模様を発現し、立毛が非常に不均一で粗い表面外観と良好な触感、耐摩耗性を両立できなかった。
【0204】
また、比較例3の人工皮革のように、シート状物を研削する工程において、1段のみ研削処理を実施した場合、豚革調の微細な小柄模様を発現し、立毛が非常に不均一で粗い表面外観であったものの、非常にざらざらした触感となった。
【0205】
また、比較例4の人工皮革のように、シート状物を研削する工程において、シート状物の搬送方向に対して、少なくとも1段の研削方向を同一にした場合、シート状物を染色する工程において、液流染色機のノズル通過時に立毛が逆立てられにくくなるため、豚革調の微細な小柄模様は発現せず、均一な表面外観であった。
【0206】
さらに、比較例5の人工皮革のように、シート状物を研削する工程において、特定の範囲外の番手のサンドペーパーを用いた場合、人工皮革の立毛長さの変動係数が小さくなり、豚革調の微細な小柄模様は発現せず、非常に均一な表面外観であった。
【符号の説明】
【0207】
1:人工皮革
2:立毛部
3:基体部
図1