(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121791
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】オレフィン製造方法およびオレフィン製造装置
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20240830BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20240830BHJP
C07C 7/144 20060101ALI20240830BHJP
C07C 7/12 20060101ALI20240830BHJP
C07C 11/06 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
B01D71/02 500
B01D53/22
C07C7/144
C07C7/12
C07C11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024012638
(22)【出願日】2024-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2023028024
(32)【優先日】2023-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三原 崇晃
【テーマコード(参考)】
4D006
4H006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA28
4D006KA02
4D006KB04
4D006KB30
4D006KE16R
4D006MA02
4D006MA09
4D006MB04
4D006MC05X
4D006MC39X
4D006MC40X
4D006MC58X
4D006NA39
4D006NA46
4D006PB68
4D006PC80
4H006AA02
4H006AB46
4H006AB84
4H006AD17
4H006AD19
4H006BD84
(57)【要約】
【課題】
本発明のオレフィン製造方法によれば、従来の蒸留法と対比して省エネルギーな分離方法を、長期間安定して提供することを可能とする。
【解決手段】
オレフィン、パラフィン混合流体を90℃以上に加熱する工程と、オレフィン、パラフィンの分離係数が5以上のガス分離膜を介してオレフィンを高濃度化する工程とをそれぞれ有し、ガス分離膜が炭素原子を90%以上含有する無機膜であるオレフィン製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィンとパラフィンの混合流体を90℃以上に加熱する工程と、オレフィンとパラフィンの分離係数が5以上のガス分離膜を介して該オレフィンを高濃度化する工程とをそれぞれ有し、該ガス分離膜を構成する分離機能層が炭素原子を90原子%以上含有する無機膜からなるオレフィン製造方法。
【請求項2】
該オレフィンとパラフィンの分離係数が5以上のガス分離膜において、該分離機能層が炭素原子を95原子%以上含む請求項1に記載のオレフィン製造方法。
【請求項3】
該オレフィンとパラフィンの分離係数が5以上のガス分離膜において、ガス分離膜全体が炭素原子を90原子%以上含む請求項1または2に記載のオレフィン製造方法。
【請求項4】
該オレフィンがプロピレンを主体とする請求項1記載のオレフィン製造方法。
【請求項5】
該オレフィンとパラフィンの混合流体に対して、担体と複合化された金属化合物を接触させる工程を有する請求項1記載のオレフィン製造方法。
【請求項6】
該担体と複合化された金属化合物を該混合流体と接触させる工程が、該加熱する工程後、該オレフィンを高濃度化する工程よりも前に実施される請求項5記載のオレフィン製造方法。
【請求項7】
該担体と複合化された金属化合物を該混合流体と接触させる工程が、該オレフィンを高濃度化する工程よりも後に実施される請求項5記載のオレフィン製造方法。
【請求項8】
該担体が炭素を90原子%以上含有するものである請求項5~7のいずれかに記載のオレフィン製造方法。
【請求項9】
オレフィンとパラフィンの混合流体を加熱する装置と、オレフィンとパラフィンの分離係数が5以上のガス分離膜を介して該オレフィンを高濃度化する装置とをそれぞれ有し、該ガス分離膜を構成する分離機能層が炭素原子を90原子%以上含有する無機膜からなるオレフィン製造装置。
【請求項10】
該オレフィンとパラフィンの混合流体に対して、担体と複合化された金属化合物を接触させる装置を有する請求項9記載のオレフィン製造装置。
【請求項11】
該オレフィンとパラフィンの混合流体を加熱する装置、該オレフィンとパラフィンの混合流体に対して、担体と複合化された金属化合物を接触させる装置、該オレフィンを高濃度化する装置が、この順に配置された請求項10記載のオレフィン製造装置。
【請求項12】
該オレフィンとパラフィンの混合流体を加熱する装置、該オレフィンを高濃度化する装置、該オレフィンとパラフィンの混合流体に対して、担体と複合化された金属化合物を接触させる装置が、この順に配置された請求項10記載のオレフィン製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高効率なオレフィン製造方法およびオレフィン製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
さまざまな基礎化学品を安定的に供給する石油化学工業は、産業の発展に寄与してきた。なかでもオレフィンは、分子内に不飽和結合を持つ炭化水素として、様々な化学品の原料のほか、近年ではプラスチックの原料として欠かすことができない素材となっている。一方で従来の蒸留法では、オレフィンとパラフィンの物理化学的性状の差がわずかであることから、混合物からオレフィンだけを分離して、プラスチックの重合に必要な濃度を得るためには、非常に巨大な蒸留塔が必要である他、加熱や冷却といったエネルギーコストが非常にかかってしまうことが課題であった。
【0003】
これを解決する手段の一つとして膜分離法が挙げられる。膜分離法は、特にオレフィン、パラフィンの物理化学的性状ではなく、その最小断面積に由来すると考えられる気体状態での分子サイズによって小さな分子、特にオレフィン側を優先的に透過させて分離する分子ふるい膜が有望とされ、高分子やゼオライトを素材とした気体分離膜が近年検討されてきた(特許文献1および特許文献2)。オレフィン、パラフィンを気体のままで分離するためには、圧力条件により加熱する必要があるが、加熱されたオレフィン、パラフィンは、単位膜面積当たりの透過量を拡大する効果があるため、膜分離法として有利な条件である。しかしながら従来の高分子膜は、熱による可塑化効果によってオレフィンとパラフィンを十分に分離できる能力が低下してしまう課題があった。またゼオライト膜は、高温での安定性に優れるものの、オレフィン、パラフィンの混合物中に含まれる微量のジエン類が、ゼオライト膜の化学構造内に存在する酸点によって膜表面で重合してしまうことから、細孔を閉塞して長期間安定して運転することが難しい課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2004/050590号
【特許文献2】特開2017-213488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には特定構造を持つポリイミドからなる高分子膜によって、パラフィンとの混合物からオレフィンを分離する方法が開示されている。しかしながら実際のパラフィンとオレフィンの混合物を気体状で高効率に分離するためには、高圧、高温の環境が必要である。鎖状の分子鎖を基本骨格とする高分子は、その分子間が熱振動によって間隔が広がる特性を持つことから、特に高温環境では、いわゆる可塑化の問題が発生してガスの分離特性を安定的に発揮することが困難な場合があった。
【0006】
また、特許文献2にはFAU型ゼオライトを主体としてAgを含有したゼオライト膜によるオレフィン高純度化に関する開示がある。Agを含有するゼオライト膜は、高圧、高温環境でも良好なガス分離特性を示すが、実際のオレフィン製造方法中で混入する場合がある化学的な反応性の高いジエン類が、ゼオライトの構造内に持つ酸点の作用によって重合してしまい、長期間の運転ではゼオライト膜の細孔が閉塞していくことから、安定した運転を達成することが難しい課題があった。
【0007】
そこで本発明では、長期間安定して効率よくオレフィン、パラフィンの分離を達成するオレフィン製造方法およびオレフィン製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
(1) オレフィン、パラフィン混合流体を90℃以上に加熱する工程と、オレフィン、パラフィンの分離係数が5以上のガス分離膜を介して該オレフィンを高濃度化する工程とをそれぞれ有し、該ガス分離膜を構成する分離機能層が炭素原子を90%以上含有する無機膜であることを特徴とするオレフィン製造方法。
(2) オレフィンとパラフィンの混合流体を加熱する装置と、オレフィンとパラフィンの分離係数が5以上のガス分離膜を介して該オレフィンを高濃度化する装置とをそれぞれ有し、該ガス分離膜を構成する分離機能層が炭素原子を90原子%以上含有する無機膜からなるオレフィン製造装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明のオレフィン製造方法およびオレフィン製造装置によれば、長期間安定して効率よくオレフィン、パラフィンの分離を達成する手段を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、オレフィンとパラフィンの混合流体を90℃以上に加熱する工程と、オレフィンとパラフィンの分離係数が5以上のガス分離膜を介して該オレフィンを高濃度化する工程とをそれぞれ有し、該ガス分離膜を構成する分離機能層が炭素原子を90原子%以上含有する無機膜からなるオレフィン製造方法である。
【0011】
ガス分離膜は、その構成要素として分離機能層を有する。構成としては、例えば支持体と分離機能層とからなり、支持体としては、多孔質炭素繊維や、多孔質アルミナチューブ等が用いられる。
【0012】
本発明のオレフィン、パラフィン混合流体を90℃以上に加熱する工程においては、混合流体の工程での出口側の温度が90℃以上に加熱されていることが必要である。混合流体を90℃以上に加熱する工程(装置)は、少なくとも混合流体を輸送する機能を持つ部分と、混合流体を加熱する部分によって構成される。混合流体を輸送するための部分を構成する部材は、配管、容器などについて、耐熱性、耐薬品性や防錆などを考慮した上で、公知の材質、部品を活用して部材を構成することができる。混合流体を加熱する部分を構成する部材は、例えば混合流体が流れる流路と加熱源との直接の接触を避けるための配管や容器と、加熱源から構成される。配管や容器は、混合流体の加熱を効率よく行うため、混合流体の流れに伴って発生する圧力損失を可能な限り低減しつつ、混合流体と加熱源との伝熱面積を大きくするように設計されることが好ましい。加熱源は、例えば、混合流体が流れる配管、容器と、混合流体を外部から直接的に加熱する部分とで構成される。混合流体を加熱する方法は、従来公知の方法等が採用できるが、混合流体が流れる配管や容器を直接外部から加熱する方法や、熱交換器を用いて伝熱面積を増やして加熱する方法などを例示することができる。また加熱源としての熱の供給方法は従来公知の手法等を用いることができ、水素や炭化水素といった燃料を燃焼させて加熱する方法や、電力によって発熱体を発熱させて加熱する方法などを例示することができる。これら手法のうち、熱媒を用いて加熱源からの熱量を熱交換器で混合流体に与えて加熱する方法が、効率的な混合流体の加熱を実現しやすく好ましい。
【0013】
熱交換器は、従来公知のもの等を適宜選択することが好ましいが、シェル・アンド・チューブ熱交換器、プレート熱交換器、らせん状熱交換器やフィン・アンド・チューブ熱交換器などが例示される。これら熱交換器は、混合流体の流量や加熱、メンテナンスのしやすさなどを総合的に判断して選択されることが好ましいが、流量が10t/hr以上の大型設備においては、シェル・アンド・チューブ熱交換器を選択することが好ましい。また、運転圧力が1MPa以上となる場合は、シェル・アンド・チューブ熱交換器またはらせん状熱交換器を選択することが、効率や高温、高圧への対応が容易となるため好ましい。
【0014】
混合流体の温度は90℃以上であれば十分にオレフィンとパラフィンを気体として取り扱うことができるため好ましいが、より高温であるほど、単位膜面積当たりのオレフィンの透過量を増大させ、装置をコンパクトに設計できることから好ましい。一方で低温ほど加熱に要するエネルギーを小さくできるため、混合流体の単位流量当たりで加熱に必要なエネルギー量を削減でき、経済的であること、混合流体に随伴する場合があるジエン類などの不純物による反応性を低減させ、長期的に安定した運転を達成できることから好ましい。これらの観点から混合流体の温度は、90~300℃の範囲であることが好ましく、前記の観点から120~200℃の範囲であると、より好ましい。
【0015】
また、本発明のオレフィン、パラフィンの分離係数が5以上のガス分離膜を介してオレフィンを高濃度化する工程は、気体状態のオレフィン、パラフィンを分離係数が5以上のガス分離膜を介して、所望のオレフィン濃度まで高濃度化する工程である。所望のオレフィン濃度まで高濃度化するとは、本発明のオレフィン製造方法への混合流体の供給と取り出しの際に、そのオレフィン濃度が供給時のそれよりも高濃度化していることを示す。高濃度化されたオレフィン濃度は90%以上であれば、さまざまな化学原料として十分な純度となることから好ましい。オレフィン濃度は前記観点から高いほど良く、99%以上が好ましく、99.5%以上であると特に重合時に不純物による分子量低下や分岐構造導入の影響が少なくなるため更に好ましい。このとき、オレフィンとしては、炭素間にπ結合を1つだけ含む脂肪族炭化水素、すなわちアルケンであるものを指す。アルケンは、炭素原子の数で分子量が異なることが知られており、特段の限定は無いが、エチレン、プロピレン、ブチレンなどを例示することができる。また、パラフィンとしては、いわゆる炭素間にσ結合のみを有する脂肪族炭化水素、すなわちアルカンであるものを指す。こちらもオレフィンと同様に炭素原子の数で分子量が異なることが知られており、特段の限定は無いが、エタン、プロパン、ブタンなどを例示することができる。オレフィン、パラフィンの混合流体は、少なくとも1種のオレフィンと、少なくとも1種のパラフィンとが混合されたものである。オレフィンとパラフィンの組み合わせには特段の限定がなく、エチレン/メタン、エチレン/ エタン、エチレン/ プロパン、エチレン/ ブタン、プロピレン/ メタン、プロピレン/ エタン、プロピレン/ プロパン、プロピレン/ ブタン、ブテン/ メタン、ブテン/ エタン、ブテン/ プロパン、ブテン/ ブタンなど、さまざまな組み合わせを例示することができ、複数の種類のオレフィンおよび/またはパラフィンを混合されている態様も例示される。これらの組み合わせの中でも、物理化学的な性状が近いプロピレン/プロパンが、膜分離法の特徴であるエネルギー消費量を抑制できる効果を発揮しやすく、好ましい。
【0016】
本発明では、オレフィン、パラフィンの分離係数が5以上のガス分離膜を用いる必要がある。分離係数は、高いほどオレフィンの純度を効率よく高めることができるため好ましい。所望のオレフィン純度に到達させるために、分離係数によってガス分離膜と混合流体との接触の態様は適宜調整することができる。具体的には、オレフィン純度を90%以上に高める必要がある場合には、分離係数5以上のガス分離膜を有する分離工程を複数回組み合わせることで、高い純度を達成することが可能になるため、好ましい。分離係数は高いほど好ましいが、一方で透過度とのバランスが重要となる。これら観点から10以上であると効率よくオレフィン純度を高められる観点から好ましく、20以上であるとより好ましい。また分離係数の上限は特段に設定されるものではないが、ガス分離膜におけるオレフィンの単位面積、圧力、時間当たりの物質透過量とのバランスから、10,000以下であることが好ましい。
【0017】
また、本発明のガス分離膜を構成する分離機能層は炭素原子を90原子%以上含有する無機膜からなる。分離機能層とは、気体状態のオレフィンとパラフィンとが接触した際に、いずれかの成分が選択的に透過する機能をもつ1nm未満の非常にミクロな細孔を持つ層であることを指す。不飽和結合を有するオレフィンとの反応性が低いほど、分離機能層がもつミクロな細孔がオレフィンの化学反応によって変質、閉塞といった作用で気体の透過性を損なうことなく、安定したオレフィン製造方法を実現することができるため好ましい。オレフィンとの反応性は、電子状態、特に電荷の偏りやラジカルの発生源によって左右され、これらが少ないことが望ましい。前記観点から分離機能層が炭素原子を90原子%以上含有する無機膜であると、炭素原子による共有結合によって分離機能層が構成され、電荷の偏りやラジカルの発生源になる元素を含まないことから好ましい。炭素原子は、95原子%以上であると前記効果から好ましく、98原子%以上であることがより好ましい。また前記観点から、電荷の偏りを避けるため、アルカリ金属、アルカリ土類金属の含有量は1原子%以下であることが好ましく、0.1原子%以下であることがより好ましい。
【0018】
また本発明のオレフィン製造方法を安定して運転させるため、プロピレンを主体とするオレフィン、パラフィン混合流体に対して担体と複合化された金属化合物を接触させる工程を有することもジエン類などの不純物を除去する効果を奏するため好ましい。このとき接触させるとは、混合流体の流れの中で担体と複合化された金属化合物を留置し、流体の拡散効果によって、少なくとも混合流体の一部が、金属化合物の表面と接触する状態を示す。混合流体は、ジエン類などの不純物を除去する効果を十分に発揮させられる観点から、混合流体の流路断面積に対して高い比率で金属化合物が存在することが好ましい。一方で混合流体の流路断面積に対して低い比率で金属化合物が存在することで、混合流体の流路を十分に確保でき、圧力損失による輸送効率の低下を回避することができるため好ましい。これらの観点から担体と複合化された金属化合物は、流路断面積に対して1~80%の範囲で留置されていることが好ましく、2~70%の範囲であると更に好ましい。金属化合物は、混合流体中に存在する微量のジエン類を、オレフィンよりも優先的に重合反応させる機能を持つものであれば特に限定されず、従来公知のものを使用することができる。金属化合物は、金属を含有する化合物であり、有機金属錯体、金属酸化物、金属ハロゲン化物あるいはこれらの混合物であっても良い。金属は、前記機能を持つものであれば特に限定されないが、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、ニッケル、コバルト、バナジウム、ウランなどを例示することができる。有機金属錯体は、前記金属を中心とした有機物による錯体であり、アルキル錯体、アルケン錯体、芳香族の錯体や、これらの混合物を例示することができる。金属酸化物は、前記金属を主体とした酸化物であり、その構造は特段制限されない。金属酸化物の例としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウムや酸化鉄やこれら混合物が挙げられる。また、金属ハロゲン化物は、前記金属を主体としたハロゲン化物であり、ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素などを例示することができる。
【0019】
これら金属化合物のうち、特にジエン類とオレフィンとの反応性の差があるものを少なくとも1種選択することが好ましい。また本発明のオレフィン製造方法において、担体と複合化された金属化合物を混合流体と接触させる工程がオレフィンを高濃度化する工程よりも前に実施されることが好ましい。金属化合物と混合流体の接触によって、ジエン類の除去が効率的に行われることで、ガス分離膜の特に分離機能層が持つミクロな細孔を閉塞せず、安定したオレフィン製造方法の運転を可能にできる。
【0020】
また担体と複合化された金属化合物を混合流体と接触させる工程がオレフィンを高濃度化する工程よりも後に実施されることも好ましい。ガス分離膜によるオレフィンを高濃度化する工程よりも後に金属化合物と高濃度化された混合流体とを接触させることで、金属化合物と高濃度化されたジエン類との反応機会を高めることができるため、効率的にジエン類を除去できることから好ましい。
【0021】
オレフィン製造方法として、上流/中流/下流として、オレフィンとパラフィンの混合流体を過熱する工程/ガス分離膜を介してオレフィンを高濃度化する工程/担体と複合化された金属化合物を接触させる工程をこの順序で有する場合、または、オレフィンとパラフィンの混合流体を過熱する工程/担体と複合化された金属化合物を接触させる工程/ガス分離膜を介してオレフィンを高濃度化する工程をこの順序で有する場合が好ましく、それぞれの工程をステンレス製等の配管、継手を用いて接続することができる。
【0022】
本発明のオレフィンとパラフィンの分離係数が5以上のガス分離膜において、分離膜全体が炭素原子を90原子%以上含むことが好ましい。不飽和結合を有するオレフィンとの反応性が低いほど、ガス分離膜がもつ細孔がオレフィンの化学反応によって変質、閉塞といった作用で気体の透過性を損なうことなく、安定したオレフィン製造方法を実現することができるため好ましい。オレフィンとの反応性は、電子状態、特に電荷の偏りやラジカルの発生源によって左右され、これらが少ないことが望ましい。前記観点からガス分離膜が炭素原子を90原子%以上含有する無機膜であると、炭素原子による共有結合によってガス分離膜が構成され、電荷の偏りやラジカルの発生源になる元素を含まないことから好ましい。炭素原子は、95原子%以上であると前記効果から好ましく、98原子%以上であることがより好ましい。また前記観点から、電荷の偏りを避けるため、アルカリ金属、アルカリ土類金属の含有量は1原子%以下であることが好ましく、0.1原子%以下であることがより好ましい。
【0023】
上記担体としては、炭素を90原子%以上含有するものであることが好ましい。金属化合物は、混合流体中に含まれる微量のジエン類を効率よく反応させて除去する目的で添加されるが、担体は混合流体の流れを妨げず、圧力損失を低減させつつ、軽量であり、混合流体中で化学的に安定であることが好ましい。これら観点から担体が炭素を90原子%以上含むものであると、炭素原子による共有結合が電荷の偏りを発生しにくく、ジエン類による担体表面での反応を低く抑えることが可能になる。担体は、混合流体の流れを妨げず、また金属化合物との接触を高効率に行う観点から、混合流体の流線方向に垂直な断面積に対して、50%以下1%以上の断面積を形成していることが好ましい。担体の構造は特に限定されず、平板、棒、円盤や、これらを穿孔したものや繊維状の素材をネット状や織物、編物や不織布および組物といった高次加工したものなどが例示される。また担体の材質は、炭素を90原子%以上含有するものであれば特に限定されず、黒鉛やグラフェン、カーボンナノチューブや非晶性炭素、炭素繊維などを例示することができ、これらを複数組み合わせたものでも良く、また炭素比率の制約範囲内で、他の素材を少量添加されていても良い。なかでも多孔質性の炭素繊維を用いた場合には、前記のように高次加工を含めてさまざまな形状を実現できるため好ましい。
【0024】
また金属化合物の反応性を制御して、ジエン類を特異的に反応させて除去する目的で、金属化合物を表面に有する担体に対して、熱、光や電圧などを印加することもできる。特に、不飽和結合の反応性を高めるうえで、光を当てることが好ましい。光の波長は特段制約されないが、不飽和結合への相互作用の強さから、紫外線領域の波長が含まれる光源を選択することが好ましい。
【実施例0025】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。各実施例および比較例における評価は、以下の方法により行った。
【0026】
なお、各実施例および比較例において、1か月間の運転でプロピレン透過度維持率が90%以上のものを良とし、95%以上のものを優良とした。またブタジエン濃度が供給濃度の50%以下の濃度変化率となったものを優良とした。プロピレン透過度維持率とブタジエン濃度変化率の両者が優良であるものを総合評価で◎とした。またプロピレン透過度維持率が90%未満のものは、不合格として総合評価で×とした。
[実施例1]
Huntsman製ポリイミド(”Matrimid”5218)をN-メチルピロリドンに溶解したコート液を作製し、直径10mm、内径7mmの多孔質アルミナチューブを支持体として塗布した後に、窒素雰囲気で600℃にて1時間焼成し、チューブ状のガス分離膜を得た。
【0027】
得られたガス分離膜を複数本束にした後に、チューブの端部を接着剤で固定して、混合流体がガス分離膜の外側を流れるように流路を形成した形態のガス分離膜モジュールとした。その後、プロピレンとプロパンの混合ガスを25℃、0.5MPaで膜に供給し、透過したガス成分をガスクロマトグラフで定量分析したところ、分離係数は25であった。またエネルギー分散型X線分光法によって分離機能層のみの炭素原子比率を分析したところ、98原子%であった。また同様に支持体部分の炭素原子比率は1原子%であった。炭素原子比率は、X線光電子分光法により測定した。
【0028】
酸化マグネシウムの水スラリーに対して、担体である単繊維直径が8μmの炭素繊維マルチフィラメントを浸漬させ、取り出して風乾し、担体と複合化された金属化合物を得た。酸化マグネシウムと炭素繊維の重量比は、熱重量分析で測定したところ、1:5であった。その後、担体と複合化された金属化合物を複数本束ねて切断し、線径0.25mmの#20ステンレスメッシュで形成した直径10mm、長さ20mmの籠に投入した後に、内径12mmの石英ガラス管内に収めて不純物除去デバイスとした。
【0029】
シェル・アンド・チューブ熱交換器とガス分離膜モジュール、不純物除去デバイスの順に上流、中流、下流とし、それぞれをステンレス製の配管および継手を用いて接続して、オレフィン製造方法の試験機とした。
【0030】
シェル・アンド・チューブ熱交換器へ管側ノズルからスチームを供給し、入側の胴側ノズルからプロピレン95mol%とブタジエンを100ppm、プロパンをバランスとなるようにそれぞれ混合した流体を供給し、出側の胴側ノズル位置で混合流体の温度が200℃になるように熱媒温度、流量を適宜調整した。その後、ガス分離膜モジュールへ混合流体を導入して、ガス分離膜モジュールの透過側に設置された不純物除去デバイスにガス分離膜を透過した流体を流した。このとき、不純物除去デバイスには、波長範囲250~400nmの紫外線ランプを用いて、紫外線を継続的に照射した。構成されたオレフィン製造方法は、1週間の運転でもプロピレン透過度は初期の90%を維持しており、安定した運転が可能であった。更には透過されたプロピレンの純度は99.5mol%、ブタジエン濃度は10ppmであった。評価を終了したガス分離膜モジュールを解体したところ、多孔質アルミナチューブの一部でガム状の物質が観測された。
[実施例2]
ポリアクリロニトリル(MW15万)とポリビニルピロリドン(MW4万)、及び、溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)をセパラブルフラスコに投入し、ポリアクリロニトリルとポリビニルピロリドンの比率が1:1、ポリマー濃度が20.5重量%となるよう混合し、攪拌および還流を行いながら均一かつ透明な溶液を調製した。
芯鞘型の二重口金の外管から前記得られたポリマー溶液を吐出し、内管からはDMSO水溶液を同時に吐出した後、水とDMSOの混合浴へ導いた後、巻き取りを行い、中空糸状のPAN系前駆体繊維を得た。得られたPAN系前駆体繊維は水洗した後、乾燥した。
【0031】
その後、空気雰囲気下で不融化処理を行い、不融化繊維を作製し、続いて到達温度700℃、窒素雰囲気で炭化処理により多孔質炭素繊維を作製した。
直径10mmの多孔質アルミナチューブの代わりに、前記多孔質炭素繊維を用いた以外は、実施例1と同様の方法でガス分離膜を得た。得られたガス分離膜の分離係数は26であった。その後、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
[実施例3]
不純物除去デバイスに対して紫外線照射をしなかった以外は実施例2と同様に評価した。結果を表1に示す。
[比較例1]
蒸留水、NaAlO2とNaOHの水溶液を30分攪拌して水ガラスとした後に更に4時間攪拌して、原料モル比H2O/Na2O=45、Na2O/SiO2=0.88、SiO2/Al2O3=25となる水溶液を更に18時間エージングしてY型ゼオライト粉末を得た。直径10mm、内径7mmの多孔質アルミナチューブ状にY型ゼオライト粉末を塗布した後に、前記と同組成の水溶液を準備してこれに浸漬し、100℃、6時間加熱した後に水洗してY型ゼオライトからなるガス分離膜を得た。得られたガス分離膜の分離係数を評価したところ、21であった。Y型ゼオライトからなるガス分離膜を用いた以外は、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0032】
【0033】
[実施例4]
ポリアクリロニトリル(MW15万)とポリビニルピロリドン(MW4万)、及び、溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)をセパラブルフラスコに投入し、ポリアクリロニトリルとポリビニルピロリドンの比率が1:1、ポリマー濃度が20.5重量%となるよう混合し、攪拌および還流を行いながら均一かつ透明な溶液を調製した。
芯鞘型の二重口金の外管から前記得られたポリマー溶液を吐出し、内管からはDMSO水溶液を同時に吐出した後、水とDMSOの混合浴へ導いた後、巻き取りを行い、中空糸状のPAN系前駆体繊維を得た。得られたPAN系前駆体繊維は水洗した後、乾燥した。
【0034】
その後、空気雰囲気下で不融化処理を行い、不融化繊維を作製し、続いて到達温度1,000℃、窒素雰囲気で炭化処理により多孔質炭素繊維を作製した。
【0035】
その後、酸化マグネシウムの水スラリーに対して、担体である単繊維直径が245μmの多孔質炭素繊維モノフィラメントを浸漬させ、取り出して風乾し、担体と複合化された金属化合物を得た。酸化マグネシウムと多孔質炭素繊維の重量比は、熱重量分析で測定したところ、1:5であった。その後、担体と複合化された金属化合物を複数本束ねて切断し、線径0.25mmの#20ステンレスメッシュで形成した直径10mm、長さ20mmの籠に投入した後に、内径12mmの石英ガラス管内に収めて不純物除去デバイスとした。
【0036】
金属化合物として上記を用いた以外は実施例1と同様の方法で評価した。結果を表2に示す。
[実施例5]
金属化合物として実施例4記載のものを用いた以外は実施例2と同様の方法で評価した。結果を表2に示す。
[実施例6]
金属化合物として実施例4記載のものを用いた以外は実施例3と同様の方法で評価した。結果を表2に示す。
[比較例2]
金属化合物として実施例4記載のものを用いた以外は比較例1と同様の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0037】
【0038】
[実施例7]
シェル・アンド・チューブ熱交換器へ管側ノズルからスチームを供給し、入側の胴側ノズルからプロピレン95mol%とブタジエンを100ppm、プロパンをバランスとなるようにそれぞれ混合した流体を供給し、出側の胴側ノズル位置で混合流体の温度が100℃になるように熱媒温度、流量を適宜調整した以外は、実施例4と同様の方法で評価した。結果を表3に示す。
[実施例8]
シェル・アンド・チューブ熱交換器へ管側ノズルからスチームを供給し、入側の胴側ノズルからプロピレン95mol%とブタジエンを100ppm、プロパンをバランスとなるようにそれぞれ混合した流体を供給し、出側の胴側ノズル位置で混合流体の温度が100℃になるように熱媒温度、流量を適宜調整した以外は、実施例5と同様の方法で評価した。結果を表3に示す。
[実施例9]
シェル・アンド・チューブ熱交換器へ管側ノズルからスチームを供給し、入側の胴側ノズルからプロピレン95mol%とブタジエンを100ppm、プロパンをバランスとなるようにそれぞれ混合した流体を供給し、出側の胴側ノズル位置で混合流体の温度が100℃になるように熱媒温度、流量を適宜調整した以外は、実施例6と同様の方法で評価した。結果を表3に示す。
[比較例3]
シェル・アンド・チューブ熱交換器へ管側ノズルからスチームを供給し、入側の胴側ノズルからプロピレン95mol%とブタジエンを100ppm、プロパンをバランスとなるようにそれぞれ混合した流体を供給し、出側の胴側ノズル位置で混合流体の温度が100℃になるように熱媒温度、流量を適宜調整した以外は、比較例2と同様の方法で評価した。結果を表3に示す。
【0039】
【0040】
[実施例10]
シェル・アンド・チューブ熱交換器へ管側ノズルからスチームを供給し、入側の胴側ノズルからプロピレン95mol%とブタジエンを100ppm、プロパンをバランスとなるようにそれぞれ混合した流体を供給し、出側の胴側ノズル位置で混合流体の温度が150℃になるように熱媒温度、流量を適宜調整した以外は、実施例4と同様の方法で評価した。結果を表4に示す。
[実施例11]
シェル・アンド・チューブ熱交換器へ管側ノズルからスチームを供給し、入側の胴側ノズルからプロピレン95mol%とブタジエンを100ppm、プロパンをバランスとなるようにそれぞれ混合した流体を供給し、出側の胴側ノズル位置で混合流体の温度が150℃になるように熱媒温度、流量を適宜調整した以外は、実施例5と同様の方法で評価した。結果を表4に示す。
[実施例12]
シェル・アンド・チューブ熱交換器へ管側ノズルからスチームを供給し、入側の胴側ノズルからプロピレン95mol%とブタジエンを100ppm、プロパンをバランスとなるようにそれぞれ混合した流体を供給し、出側の胴側ノズル位置で混合流体の温度が150℃になるように熱媒温度、流量を適宜調整した以外は、実施例6と同様の方法で評価した。結果を表4に示す。
[比較例4]
シェル・アンド・チューブ熱交換器へ管側ノズルからスチームを供給し、入側の胴側ノズルからプロピレン95mol%とブタジエンを100ppm、プロパンをバランスとなるようにそれぞれ混合した流体を供給し、出側の胴側ノズル位置で混合流体の温度が150℃になるように熱媒温度、流量を適宜調整した以外は、比較例2と同様の方法で評価した。結果を表4に示す。
【0041】