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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121796
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用負極組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20240830BHJP
   C08F 212/08 20060101ALI20240830BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20240830BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240830BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
C08F212/08
C08F220/18
H01M4/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024016845
(22)【出願日】2024-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2023028456
(32)【優先日】2023-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川岸 萌
(72)【発明者】
【氏名】草野 亮介
【テーマコード(参考)】
4J100
5H050
【Fターム(参考)】
4J100AB02P
4J100AB02Q
4J100AB02R
4J100AJ09Q
4J100AJ09R
4J100AJ10R
4J100AK19Q
4J100AK19R
4J100AK20P
4J100AK20Q
4J100AK20S
4J100AL08P
4J100BA04R
4J100BA05P
4J100BA08P
4J100BA08R
4J100CA04
4J100CA05
4J100CA06
4J100DA01
4J100FA03
4J100FA19
4J100FA28
4J100JA43
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA03
5H050DA11
5H050DA18
5H050EA28
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】セル性能(電気抵抗値、クーロン効率、容量維持率)の優れたリチウムイオン電池用負極を得られるリチウムイオン電池用負極組成物を提供すること。
【解決手段】負極活物質、バインダー樹脂、導電助剤及び分散剤を含むリチウムイオン電池用負極組成物であって、前記分散剤が、ビニル基含有芳香族炭化水素(a1)及びエチレン性不飽和カルボン酸(塩)(a2)を構成単量体とする共重合体であり、前記分散剤の重量割合が、前記導電助剤の重量を基準として1~10重量%であることを特徴とするリチウムイオン電池用負極組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質、バインダー樹脂、導電助剤及び分散剤を含むリチウムイオン電池用負極組成物であって、
前記分散剤が、ビニル基含有芳香族炭化水素(a1)及びエチレン性不飽和カルボン酸(塩)(a2)を構成単量体とする共重合体であり、前記(a1)単位及び前記(a2)単位の合計モル数に基づいて、前記(a1)単位の含有量が25~70モル%、前記(a2)単位の含有量が30~75モル%であり、
前記負極活物質の重量割合が、前記リチウムイオン電池用負極組成物の固形分重量を基準として90~96重量%であり、前記バインダー樹脂の重量割合が、前記リチウムイオン電池用負極組成物の固形分重量を基準として3~6重量%であり、前記導電助剤の重量割合が、前記リチウムイオン電池用負極組成物の固形分重量を基準として0.5~5重量%であり、
前記分散剤の重量割合が、前記導電助剤の重量を基準として1~10重量%であることを特徴とするリチウムイオン電池用負極組成物。
【請求項2】
前記エチレン性不飽和カルボン酸(塩)(a2)が、マレイン酸カリウム塩、マレイン酸ナトリウム塩、マレイン酸アンモニウム塩及びフマル酸ナトリウム塩からなる群より選ばれる1種以上である請求項1に記載のリチウムイオン電池用負極組成物。
【請求項3】
前記分散剤が、さらにエチレン性不飽和カルボン酸エステル(a3)を構成単量体とする共重合体である請求項1に記載のリチウムイオン電池用負極組成物。
【請求項4】
前記分散剤の重量平均分子量が6,000~30,000である請求項1に記載のリチウムイオン電池用負極組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用負極組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、高電圧、高エネルギー密度という特長を持つことから、携帯情報機器分野などにおいて広く利用され、携帯電話、ノート型パソコンを始めとする携帯端末用標準電池としての地位が確立されている。その用途は拡大する一方で、従来用途に加えてハイブリッド自動車や電気自動車などへの適用も検討されており一部では既に実用化されている。これらの更なる普及のためにも二次電池の高容量化、高出力化が求められており様々な技術の適用が試みられている。
【0003】
リチウムイオン電池を高容量化するには、電極における活物質の割合を増やす必要があり、その他の構成要素であるバインダー樹脂や導電助剤等の使用量は少ない方が好ましい。しかし、単純にこれらの使用量を減らすと、得られる電極の強度や電子伝導性が担保されず電池性能が悪化することから、電池性能を維持しつつバインダー樹脂や導電助剤等の使用量を減らすことができる添加剤(主に分散剤)の検討がなされてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、ポリマー系分散剤としてメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどが使用されている。しかし、これらの分散剤、特にポリビニルピロリドンは、正極電位域(3~5V)においてそれ自身が分解反応を起こし、電池性能を低下させてしまう懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-63854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みて為されたものであり、セル性能(電気抵抗値、クーロン効率、容量維持率)の優れたリチウムイオン電池用負極を得られるリチウムイオン電池用負極組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、本発明に到達した。
本発明は、負極活物質、バインダー樹脂、導電助剤及び分散剤を含むリチウムイオン電池用負極組成物であって、前記分散剤が、ビニル基含有芳香族炭化水素(a1)及びエチレン性不飽和カルボン酸(塩)(a2)を構成単量体とする共重合体であり、前記(a1)単位及び前記(a2)単位の合計モル数に基づいて、前記(a1)単位の含有量が25~70モル%、前記(a2)単位の含有量が30~75モル%であり、前記負極活物質の重量割合が、前記リチウムイオン電池用負極組成物の固形分重量を基準として90~96重量%であり、前記バインダー樹脂の重量割合が、前記リチウムイオン電池用負極組成物の固形分重量を基準として3~6重量%であり、前記導電助剤の重量割合が、前記リチウムイオン電池用負極組成物の固形分重量を基準として0.5~5重量%であり、前記分散剤の重量割合が、前記導電助剤の重量を基準として1~10重量%であることを特徴とするリチウムイオン電池用負極組成物、に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、セル性能(電気抵抗値、クーロン効率、容量維持率)の優れたリチウムイオン電池用負極を得られるリチウムイオン電池用負極組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のリチウムイオン電池用負極組成物は、負極活物質、バインダー樹脂、導電助剤及び分散剤を含むリチウムイオン電池用負極組成物である。
本発明のリチウムイオン電池用負極組成物は、負極活物質を含む。
本発明において、負極活物質は、リチウムイオン電池の負極活物質として用いることができるものであれば特に制限されない。負極活物質を構成する材料としては、例えば、炭素系材料、珪素系材料等が挙げられる。なかでも、負極活物質は、炭素系材料からなることが好ましい。
【0010】
炭素系材料としては、例えば、黒鉛、難黒鉛化性炭素、アモルファス炭素、樹脂焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)等が挙げられる。導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール等)、金属酸化物(チタン酸化物及びリチウム・チタン酸化物)及び金属合金(リチウム-スズ合金、リチウム-アルミニウム合金、アルミニウム-マンガン合金等)等と炭素系材料との混合物であってもよい。内部にリチウム又はリチウムイオンを含まない材料については、内部の一部又は全部に、リチウム又はリチウムイオンを含ませるプレドープ処理を施していてもよい。
【0011】
珪素系材料としては、例えば、酸化珪素(SiO)、Si-C複合体、Si-Al合金、Si-Li合金、Si-Ni合金、Si-Fe合金、Si-Ti合金、Si-Mn合金、Si-Cu合金及びSi-Sn合金からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
Si-C複合体としては、炭化珪素、炭素粒子の表面を珪素及び/又は炭化珪素で被覆したもの、並びに、珪素粒子、酸化珪素粒子の表面を炭素及び/又は炭化珪素で被覆したもの等が含まれる。
珪素系材料からなる粒子は、単一の粒子(一次粒子ともいう)であっても、一次粒子が凝集して得られる複合粒子(すなわち、珪素系材料からなる一次粒子が凝集して得られた二次粒子)を形成していてもよい。複合粒子は、珪素系材料からなる粒子の一次粒子がその吸着力によって凝集している場合と、一次粒子が他の材料を介して吸着することで凝集している場合がある。一次粒子が他の材料を介して結着することで複合粒子を形成する方法としては、例えば、珪素系材料からなる粒子の一次粒子と、被覆膜を構成する高分子化合物とを混合する方法が挙げられる。
【0012】
負極活物質の体積平均粒子径は、電池の電気特性の観点から、0.1~100μmであることが好ましく、1~50μmであることがより好ましく、2~20μmであることがさらに好ましい。
負極活物質の体積平均粒子径は、レーザー回折・散乱法(マイクロトラック法ともいう)によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(Dv50)を意味する。レーザー回折・散乱法とは、レーザー光を粒子に照射することによって得られる散乱光を利用して粒度分布を求める方法であり、体積平均粒子径の測定には、日機装株式会社製のマイクロトラック等を用いることができる。
【0013】
本発明のリチウムイオン電池用負極組成物はバインダー樹脂を含む。
バインダー樹脂は、バインダー機能(粘着力)を有する樹脂であれば特に制限されない。
バインダー樹脂としては、デンプン、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレン及びポリプロピレン等が挙げられる。
バインダー樹脂は広義に増粘剤を含み、増粘剤としてはカルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。
【0014】
本発明のリチウムイオン電池用負極組成物は、導電助剤を含む。導電助剤としては、導電性を有する材料であれば特に制限はない。
導電助剤としては、金属[アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト(薄片状黒鉛(UP))、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック及びサーマルランプブラック等)及びカーボンナノファイバー(CNF)、カーボンナノチューブ(CNT)等]、及びこれらの混合物等が挙げられる。
これらの導電助剤は1種単独で用いられてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物が用いられてもよい。電気的安定性の観点から、好ましくはアセチレンブラックが好ましい。
【0015】
なお、炭素系材料は負極活物質としても導電助剤としても使用されるが、本願においては、体積平均粒子径が15μm以上のものを負極活物質として、体積平均粒子径が15μm未満のものを導電助剤としてみなすこととする。
【0016】
本発明のリチウムイオン電池用負極組成物は、分散剤を含む。
前記分散剤は、ビニル基含有芳香族炭化水素(a1)及びエチレン性不飽和カルボン酸(塩)(a2)を構成単量体とする共重合体である。
ビニル基含有芳香族炭化水素(a1)としては、炭素数8~12のビニル基含有芳香族炭化水素等が含まれ、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、エチルスチレン、ビニルキシレン、ブロモスチレン、ビニルベンジルクロリド、p-t-ブチルスチレン、クロロスチレン、アルキルスチレン、ジビニルベンゼン及びトリビニルベンゼン等が挙げられる。
【0017】
これらのビニル基含有芳香族炭化水素のうち、導電助剤の分散性の観点から、スチレン、α-メチルスチレン及びp-メチルスチレンが好ましく、さらに好ましくはスチレンである。
【0018】
エチレン性不飽和カルボン酸(塩)(a2)としては、炭素数3~17のエチレン性不飽和モノカルボン酸、炭素数4~18のエチレン性不飽和ジカルボン酸及びこれらの塩等が含まれる。なお、エチレン性不飽和カルボン酸(塩)は、エチレン性不飽和カルボン酸及び/又はエチレン性不飽和カルボン酸の塩を意味する。
【0019】
エチレン性不飽和モノカルボン酸としては、脂肪族エチレン性不飽和モノカルボン酸、脂環式エチレン性不飽和モノカルボン酸及び芳香族エチレン性不飽和モノカルボン酸等が使用できる。
【0020】
脂肪族エチレン性不飽和モノカルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、3-ブテン酸、2-ペンテン酸、3-ペンテン酸、4-ペンテン酸、3-メチル-2-ブテン酸、3-メチル-3-ブテン酸、2-メチル-3-ブテン酸、2-メチル-2-ブテン酸、2-エチル-2-プロペン酸、2-ヘキセン酸、4-メチル-2-ペンテン酸、2-メチル-2-ペンテン酸、2-ヘプテン酸、4,4-ジメチル-2-ペンテン酸、2-オクテン酸、3-メチル-2-ヘプテン酸、2-ノネン酸、3-メチル-2-オクテン酸、2-デセン酸及び2-ヒドロキシプロペン酸等が挙げられる。
なお、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味する。
【0021】
脂環式エチレン性不飽和モノカルボン酸としては、1-シクロペンテンカルボン酸、3-シクロペンテンカルボン酸、4-シクロペンテンカルボン酸、1-シクロヘキセンカルボン酸、3-シクロヘキセンカルボン酸、4-シクロヘキセンカルボン酸、1-シクロヘプテンカルボン酸、3-シクロヘプテンカルボン酸、4-シクロヘプテンカルボン酸、5-シクロヘプテンカルボン酸、1-シクロオクテンカルボン酸、3-シクロオクテンカルボン酸、4-シクロオクテンカルボン酸、5-シクロオクテンカルボン酸、1-シクロノネンカルボン酸、3-シクロノネンカルボン酸、4-シクロノネンカルボン酸、5-シクロノネンカルボン酸、1-シクロデセンカルボン酸、3-シクロデセンカルボン酸、4-シクロデセンカルボン酸及び5-シクロデセンカルボン酸等が挙げられる。
【0022】
エチレン性不飽和芳香族カルボン酸としては、o-スチレンカルボン酸、p-スチレンカルボン酸、桂皮酸、アトロパ酸、5-ビニル-1-ナフタレンカルボン酸、4-ビニル-1-ナフタレンカルボン酸及び4-ビニル-1-アントラキノンカルボン酸等が挙げられる。
【0023】
エチレン性不飽和ジカルボン酸としては、脂肪族エチレン性不飽和ジカルボン酸、脂環式エチレン性不飽和ジカルボン酸、芳香族エチレン性不飽和ジカルボン酸及びこれらの酸無水物(分子内で縮合したもの)等が含まれる。
【0024】
脂肪族エチレン性不飽和ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、ブテン二酸、2-ペンテン二酸、2-メチル-2-ブテン二酸、2-ヘキセン二酸、2-ヘプテン二酸、3-メチル-2-ヘプテン二酸、2-ノネン二酸及び2-デセン二酸等が挙げられる。
【0025】
脂環式エチレン性不飽和ジカルボン酸としては、1,2-シクロペンテンジカルボン酸、1,3-シクロペンテンジカルボン酸、1,4-シクロペンテンジカルボン酸、1,2-シクロヘキセンジカルボン酸、1,3-シクロヘキセンジカルボン酸、1,4-シクロヘキセンジカルボン酸、1,2-シクロヘプテンジカルボン酸、1,3-シクロヘプテンジカルボン酸、1,4-シクロヘプテンジカルボン酸、1,5-シクロヘプテンジカルボン酸、1,2-シクロオクテンジカルボン酸、1,3-シクロオクテンジカルボン酸、1,4-シクロオクテンジカルボン酸、1,5-シクロオクテンジカルボン酸、1,2-シクロノネンジカルボン酸、1,3-シクロノネンジカルボン酸、1,4-シクロノネンジカルボン酸、1,5-シクロノネンジカルボン酸、1,2-シクロデセンジカルボン酸、1,3-シクロデセンジカルボン酸、1,4-シクロデセンジカルボン酸及び1,5-シクロデセンジカルボン酸等が挙げられる。
【0026】
芳香族エチレン性不飽和ジカルボン酸としては、o,p-スチレンジカルボン酸、o,m-スチレンジカルボン酸、4-ビニル-1,2-ナフタレンジカルボン酸及び4-ビニル-1,3-アントラキノンジカルボン酸等が挙げられる。
【0027】
エチレン性不飽和ジカルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸及び無水シトラコン酸等が挙げられる。
【0028】
これらのエチレン性不飽和カルボン酸のうち、導電助剤の分散性の観点から、脂肪族エチレン性不飽和モノカルボン酸、脂肪族エチレン性不飽和ジカルボン酸及び脂肪族エチレン性不飽和ジカルボン酸の酸無水物が好ましく、さらに好ましくは(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸及び無水マレイン酸、特に好ましくはマレイン酸及び無水マレイン酸である。
【0029】
エチレン性不飽和カルボン酸の塩としては、エチレン性不飽和カルボン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩(第一、第二又は第三級有機アンモニウム塩)、アンモニウム(NH )塩及び第四級有機アンモニウム塩等が含まれる。
【0030】
アルカリ金属塩としては、リチウム、カリウム又はナトリウム等の塩が挙げられる。アルカリ土類金属塩としては、カルシウム又はマグネシウム等の塩が挙げられる。アミン塩としては、炭素数2~6の脂肪族アミン、炭素数3~6の脂環式アミン又は炭素数6~8の芳香族アミン等の塩が使用できる。
【0031】
脂肪族アミンとしては、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2-アミノ-2-メチルプロパノール、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン及びエチレンジアミン等が挙げられる。
【0032】
脂環式アミンとしては、シクロプロピルアミン、シクロブチルアミン、シクロペンチル
アミン及びシクロへキシルアミン等が挙げられる。
【0033】
芳香族アミンとしては、アニリン、ピリジン、ピペリジン、ベンジルアミン及びフェニレンジアミン等が挙げられる。
【0034】
第4級有機アンモニウム塩としては、炭素数4~8の有機アンモニウム塩等が使用でき、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩及びトリメチルエチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0035】
これらの塩のうち、アルカリ金属塩、アミン塩及びアンモニウム塩が好ましく、さらに好ましくはリチウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩及びアンモニウム塩、特に好ましくはナトリウム塩及びカリウム塩である。
【0036】
導電助剤の分散性の観点から、エチレン性不飽和カルボン酸(塩)(a2)として好ましいのは、マレイン酸カリウム塩、マレイン酸ナトリウム塩、マレイン酸アンモニウム塩及びフマル酸ナトリウム塩である。
【0037】
エチレン性不飽和カルボン酸(塩)(a2)としてエチレン性不飽和カルボン酸とエチレン性不飽和カルボン酸塩とを含む場合、これらの単量体の含有比率は任意でよいが、エチレン性不飽和カルボン酸単位の含有量(モル%)はエチレン性不飽和カルボン酸単位及びエチレン性不飽和カルボン酸塩単位の合計モル数に基づいて、0.1~80モル%が好ましく、さらに好ましくは1~65モル%、特に好ましくは2~50モル%である。また、この場合、エチレン性不飽和カルボン酸塩単位の含有量(モル%)はエチレン性不飽和カルボン酸単位及びエチレン性不飽和カルボン酸塩単位の合計モル数に基づいて、20~99.9モル%が好ましく、さらに好ましくは35~99モル%、特に好ましくは50~98モル%である。
【0038】
前記分散剤において、ビニル基含有芳香族炭化水素(a1)単位の含有量(モル%)は、ビニル基含有芳香族炭化水素(a1)単位及びエチレン性不飽和カルボン酸(塩)(a2)単位の合計モル数に基づいて、25~70モル%であり、導電助剤の分散性の観点から、好ましくは40~70モル%である。
【0039】
前記分散剤において、エチレン性不飽和カルボン酸(塩)(a2)単位の含有量(モル%)は、ビニル基含有芳香族炭化水素(a1)単位及びエチレン性不飽和カルボン酸(塩)(a2)単位の合計モル数に基づいて、30~75モル%であり、導電助剤の分散性の観点から、好ましくは30~60モル%である。
【0040】
前記分散剤は、ビニル基含有芳香族炭化水素(a1)及びエチレン性不飽和カルボン酸(塩)(a2)以外に、エチレン性不飽和カルボン酸エステル(a3)を構成単量体として含むことができる。
【0041】
エチレン性不飽和カルボン酸エステル(a3)としては、エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族炭化水素エステル、エチレン性不飽和カルボン酸の芳香族炭化水素エステル及び下記一般式(1)で表される(ポリ)オキシアルキレン鎖含有エチレン性不飽和カルボン酸エステルが含まれる。
なお、(ポリ)オキシアルキレン鎖含有エチレン性不飽和カルボン酸エステルとは、オキシアルキレン鎖含有エチレン性不飽和カルボン酸エステル及び/又はポリオキシアルキレン鎖含有エチレン性不飽和カルボン酸エステルを意味する。
【0042】
Q-{(OA)-O-R} (1)
【0043】
式中、OAは炭素数2~4のオキシアルキレン基、nは1~90の整数、Qはエチレン性不飽和カルボン酸のカルボキシル基からヒドロキシル基(OH基)を除いた残基、Rは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基、mは1又は2の整数を表す。
【0044】
エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族炭化水素エステル及び一般式(1)で表される(ポリ)オキシアルキレン鎖含有エチレン性不飽和カルボン酸において、脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~30の脂肪族炭化水素基が含まれ、炭素数1~30の直鎖アルキル基、炭素数5~10の環状アルキル基及び炭素数3~30の分岐鎖アルキル基等が含まれる。
【0045】
炭素数1~30の直鎖アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘニコシル基、ドコシル基、トリコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基及びトリアコンシル基等が挙げられる。
【0046】
炭素数5~10の環状アルキル基としては、シクロペンチル基、シクロへキシル基及びシクロデセニル基等が挙げられる。
【0047】
炭素数3~30の分岐鎖アルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、イソへキシル基、2-エチルヘキシル基、イソトリデシル基、イソオクタデシル基及びイソトリアコンシル基等が挙げられる。
【0048】
エチレン性不飽和カルボン酸の芳香族炭化水素エステル及び一般式(1)で表される(ポリ)オキシアルキレン鎖含有エチレン性不飽和カルボン酸において、芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環を1個もつ炭化水素基、独立したベンゼン環を2個以上もつ炭化水素基及び縮合環をもつ炭化水素基等が含まれる。
【0049】
ベンゼン環を1個もつ炭化水素基としては、フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、テトラメチルフェニル基、ペンタメチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、ドデシルフェニル基、ジオクチルフェニル基、ベンジル基、フェネチル(2-フェニルエチル)基、ヒドロシンナミル(3-フェニルプロピル)基、α-クミル(2-フェニルプロパン-2-イル)基、スチリル(2-フェニルビニル)基、シンナミル(3-フェニルアリル)基、チミル(2-イソプロピル-5-メチルフェニル)基、カルバクリル(5-イソプロピル-2-メチルフェニル)基、クミニル(4-イソプロピルベンジル)基及びネオフィル(2-メチル-2-フェニルプロピル)基等が挙げられる。
【0050】
独立したベンゼン環を2個以上もつ炭化水素基としては、キセニル(ビフェニル-4-イル)基、ベンジルフェニル基、ジベンジルフェニル基、トリベンジルフェニル基、フェネチルフェニル基、スチリルフェニル基、クメニルフェニル基、ヒドロシンナミルフェニル基、シンナミルフェニル基、チミルフェニル基、カルバクリルフェニル基、クミニルフェニル基、ネオフィルフェニル基、クミルフェニル基、モノスチレン化フェニル{1-フェニルエチルフェニル}基、ジスチレン化フェニル{ビス(1-フェニルエチル)フェニル}基、トリスチレン化フェニル{トリス(1-フェニルエチル)フェニル}基、ベンズヒドリル(ジフェニルメチル)基及びトリチル(トリフェニルメチル)基等が挙げられる。
【0051】
縮合環をもつ炭化水素基としては、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基及びピレニル基等が挙げられる。
【0052】
これらの脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基のうち、導電助剤の分散性の観点から、脂肪族炭化水素基が好ましく、さらに好ましくは炭素数1~30の直鎖アルキル基、特に好ましくは炭素数1~18の直鎖アルキル基、最も好ましくは炭素数1~4の直鎖アルキル基である。
【0053】
一般式(1)において、エチレン性不飽和カルボン酸のカルボキシル基からヒドロキシル基(OH基)を除いた残基(Q)を構成できるエチレン性不飽和カルボン酸としては、前記のエチレン性不飽和モノカルボン酸及びエチレン性不飽和ジカルボン酸が好ましく、さらに好ましくは(メタ)アクリル酸及びマレイン酸である。
【0054】
オキシアルキレン基としては、炭素数2~4のオキシアルキレン(オキシエチレン、オキシプロピレン及びオキシブチレン)が含まれる。これらのうち、オキシエチレン基及びオキシプロピレン基が好ましい。
【0055】
ポリオキシアルキレンは、1種のオキシアルキレンから構成されてもよく、又は2種以上のオキシアルキレンから構成されてもよい。2種以上のオキシアルキレンから構成される場合、結合様式はブロック、ランダム及びこれの混合のいずれでもよい。
【0056】
nは、1~90の整数であり、好ましくは2~60の整数、特に好ましくは4~40の整数である。
【0057】
mは、1~2の整数であり、好ましくは1である。
【0058】
(ポリ)オキシアルキレン鎖含有エチレン性不飽和カルボン酸としては、脂肪族エチレン性不飽和カルボン酸とポリオキシアルキレンアルコールとのエステルが含まれる。
【0059】
ポリオキシアルキレンアルコールとしては、オキシアルキレン(炭素数2~4)グリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール及びブチレングリコール等)、ポリ(n=2~90)オキシアルキレン(炭素数2~4)グリコール及びポリ(n=2~90)オキシアルキレン(炭素数2~4)グリコールのモノアルキル(炭素数1~30)エーテル等が含まれる。これらのうち、ポリ(n=2~90)オキシアルキレン(炭素数2~4)グリコールのモノアルキル(炭素数1~30)エーテルが好ましく、さらに好ましくはポリ(n=4~60)オキシアルキレングリコールモノアルキル(炭素数1~18)エーテルである。
【0060】
これらのエチレン性不飽和カルボン酸エステル(a3)のうち、導電助剤の分散性の観点から、エチレン性不飽和カルボン酸と脂肪族炭化水素とのエステル及び一般式(1)で表されるポリオキシアルキレン鎖含有エチレン性不飽和カルボン酸が好ましく、さらに好ましくはエチレン性不飽和カルボン酸の炭素数1~30直鎖アルキルエステル、エチレン性不飽和カルボン酸とポリオキシアルキレングリコールとのエステル及びエチレン性不飽和カルボン酸とポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルとのエステル、特に好ましくはエチレン性不飽和カルボン酸の炭素数1~18直鎖アルキルエステル及びエチレン性不飽和カルボン酸とポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルとのエステル、最も好ましくはエチレン性不飽和カルボン酸とポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルとのエステルである。
【0061】
エチレン性不飽和カルボン酸エステル(a3)は、公知の方法で得ることができる。例えば、エチレン性不飽和モノカルボン酸を公知の酸触媒にてエステル化反応させて得る方法、エチレン性不飽和ジカルボン酸を公知の酸触媒にて部分又は完全エステル化反応させて得る方法、エチレン性不飽和ジカルボン酸無水物を開環部分又は完全エステル化反応させて得る方法が挙げられる。
【0062】
エチレン性不飽和カルボン酸エステル(a3)は、市場からも容易に入手できる。商品名としては、「ブレンマーLMA、SMA、LA、PMEシリーズ、PSEシリーズ、PPシリーズ、AEシリーズ等」(日油株式会社製、「ブレンマー」は日油株式会社の登録商標である。)、「ライトアクリレートBO-A、EC-A、MTG-A、EHDG-A、130A、DMP-A」(共栄社化学株式会社製)、「ライトエステルBO、BC、MTG、130MA、041MA」(共栄社化学株式会社製)、「NKエステル M-20G、M-40G、M-90G、M-230G、AMP-10G、AMP-20G、AMP-60G、AM-90G、LA等」(新中村化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0063】
前記分散剤がエチレン性不飽和カルボン酸エステル(a3)単位を含む場合、エチレン性不飽和カルボン酸エステル(a3)単位の含有量(モル%)は、ビニル基含有芳香族炭化水素(a1)単位及びエチレン性不飽和カルボン酸(塩)(a2)単位の合計モル数に基づいて、0.1~233モル%が好ましく、さらに好ましくは1~100モル%、特に好ましくは5~50モル%である。この範囲内であると、導電助剤の分散性がさらに良好となる。
【0064】
前記分散剤の重量平均分子量は、導電助剤の分散性の観点から6,000~30,000であることが好ましい。
前記分散剤の重量平均分子量は、以下の条件でGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定により求めることができる。なお、試料となる分散剤(共重合体)をオルトジクロロベンゼン、N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)等の溶媒に溶解して0.25重量%の溶液を調製し、不溶解分を口径1μmのPTFEフィルターで濾過したものを試料溶液とする。
装置:AllianceGPC V2000(Waters社製)
溶媒:オルトジクロロベンゼン、DMF、THF
標準物質:ポリスチレンサンプル
濃度:3mg/ml
カラム固定相:PLgel 10um,MIXED-B 2本直列(ポリマーラボラトリーズ社製)
カラム温度:135℃
【0065】
前記分散剤を製造する方法に制限はなく、公知の方法で製造することができる。重合方法としては懸濁重合、塊状重合及び溶液重合等が適用でき、生産性の観点等から、溶液重合が好ましい。
【0066】
本発明のリチウムイオン電池用負極組成物は、負極活物質、バインダー樹脂、導電助剤及び分散剤を含むリチウムイオン電池用負極組成物であり、前記負極活物質の重量割合は、前記リチウムイオン電池用負極組成物の固形分重量を基準として90~96重量%である。前記負極活物質の重量割合が、前記リチウムイオン電池用負極組成物の固形分重量を基準として90重量%未満であると得られる電池の容量が少なくなり、96重量%を超えると得られる電極の導電性が悪化する。前記負極活物質の重量割合は、前記リチウムイオン電池用負極組成物の固形分重量を基準として93~96重量%であることが好ましい。
なお、「リチウムイオン電池用負極組成物の固形分重量」とは、後述する有機溶媒等の揮発成分を除いた材料の重量(負極活物質、バインダー樹脂、導電助剤、及び、分散剤等の重量の合計値)を意味する。具体的には、リチウムイオン電池用負極組成物を100℃で8時間加熱した時の残分の重量を固形分重量とする。
【0067】
本発明のリチウムイオン電池用負極組成物において、前記バインダー樹脂の重量割合は、前記リチウムイオン電池用負極組成物の固形分重量を基準として3~6重量%である。前記バインダー樹脂の重量割合が、前記リチウムイオン電池用負極組成物の固形分重量を基準として3重量%未満であると得られる電極の強度が不足し、6重量%を超えると得られる電池の容量が少なくなる。
【0068】
本発明のリチウムイオン電池用負極組成物において、前記導電助剤の重量割合は、前記リチウムイオン電池用負極組成物の固形分重量を基準として0.5~5重量%である。前記導電助剤の重量割合が、前記リチウムイオン電池用負極組成物の固形分重量を基準として0.5重量%未満であると得られる電極の導電性が悪化し、5重量%を超えると得られる電池の容量が少なくなる。
【0069】
本発明のリチウムイオン電池用負極組成物において、前記分散剤の重量割合は、前記導電助剤の重量を基準として1~10重量%である。前記分散剤の重量割合が、前記導電助剤の重量を基準として1重量%未満であると得られる電極の導電性が悪化し、10重量%を超えると副反応が生じ電池性能に悪影響を与えることがある。
【0070】
本発明のリチウムイオン電池用負極組成物は、必要に応じて有機溶媒を含んでもよい。
有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等が挙げられる。
【0071】
本明細書には、以下の事項が開示されている。
【0072】
本開示(1)は、負極活物質、バインダー樹脂、導電助剤及び分散剤を含むリチウムイオン電池用負極組成物であって、前記分散剤が、ビニル基含有芳香族炭化水素(a1)及びエチレン性不飽和カルボン酸(塩)(a2)を構成単量体とする共重合体であり、前記(a1)単位及び前記(a2)単位の合計モル数に基づいて、前記(a1)単位の含有量が25~70モル%、前記(a2)単位の含有量が30~75モル%であり、前記負極活物質の重量割合が、前記リチウムイオン電池用負極組成物の固形分重量を基準として90~96重量%であり、前記バインダー樹脂の重量割合が、前記リチウムイオン電池用負極組成物の固形分重量を基準として3~6重量%であり、前記導電助剤の重量割合が、前記リチウムイオン電池用負極組成物の固形分重量を基準として0.5~5重量%であり、前記分散剤の重量割合が、前記導電助剤の重量を基準として1~10重量%であることを特徴とするリチウムイオン電池用負極組成物である。
【0073】
本開示(2)は、前記エチレン性不飽和カルボン酸(塩)(a2)が、マレイン酸カリウム塩、マレイン酸ナトリウム塩、マレイン酸アンモニウム塩及びフマル酸ナトリウム塩からなる群より選ばれる1種以上である本開示(1)に記載のリチウムイオン電池用負極組成物である。
【0074】
本開示(3)は、前記分散剤が、さらにエチレン性不飽和カルボン酸エステル(a3)を構成単量体とする共重合体である本開示(1)又は(2)に記載のリチウムイオン電池用負極組成物である。
【0075】
本開示(4)は、前記分散剤の重量平均分子量が6,000~30,000である本開示(1)~(3)のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用負極組成物である。
【実施例0076】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。
【0077】
<分散剤1の作製>
滴下ライン、撹拌装置及び温度計付きの反応容器に無水マレイン酸56.5重量部及びメチルエチルケトン460重量部を投入し、密閉下で撹拌しながら70~80℃で3時間加熱して無水マレイン酸を溶解させた後、70~80℃の温度を維持したまま、スチレン40重量部と、30重量%2,2’-アゾビスイソブチロニトリルメチルエチルケトン溶液32.2重量部とをそれぞれ別々の滴下ラインから一定速度で2時間かけて滴下した。滴下終了後、密閉下で80~100℃まで加熱し、この温度を8時間維持した。続いて、80~100℃を維持しながら徐々に圧力を抜きながらメチルエチルケトンを留去し、同時にイオン交換水50重量部を滴下ラインから投入した(イオン交換水の滴下速度の制御は行わなかった)。メチルエチルケトンの留去が無くなった後に30℃まで冷却した(留去したメチルエチルケトンの合計重量は460重量部であった。)。続いて撹拌下で28重量%アンモニア水溶液[試薬特級、ナカライテスク(株)製]17.5重量部を40℃以上にならないように徐々に滴下した後、イオン交換水を加えて固形分重量が20重量%となるように濃度を調整して、分散剤1[スチレン(40モル%)-マレイン酸(30モル%)-マレイン酸アンモニウム塩(30モル%)共重合体]を得た。重量平均分子量は、7,500であった。
【0078】
<分散剤2の作製>
「無水マレイン酸56.5重量部、メチルエチルケトン460重量部、スチレン40重量部、30重量%2,2’-アゾビスイソブチロニトリルメチルエチルケトン溶液32.2重量部及び28重量%アンモニア水溶液17.5重量部」を、「フマル酸[試薬特級、和光純薬(株)製]26重量部、メチルエチルケトン450重量部、スチレン70重量部、30重量%2,2’-アゾビスイソブチロニトリルメチルエチルケトン溶液35.2重量部及び48重量%水酸化ナトリウム水溶液37.4重量部」に変更したこと以外、分散剤1と同様にして、分散剤2[スチレン(70モル%)-フマル酸ナトリウム塩(30モル%)共重合体]を得た。重量平均分子量は、6,000であった。
【0079】
<分散剤3の作製>
「無水マレイン酸56.5重量部、メチルエチルケトン460重量部、スチレン40重量部、30重量%2,2’-アゾビスイソブチロニトリルメチルエチルケトン溶液32.2重量部及び28重量%アンモニア水溶液17.5重量部」を、「マレイン酸[試薬特級、和光純薬(株)製]33.5重量部、メチルエチルケトン600重量部、スチレン70重量部、30重量%2,2’-アゾビスイソブチロニトリルメチルエチルケトン溶液151.7重量部及び50重量%水酸化カリウム水溶液[試薬特級、和光純薬(株)製]64.6重量部」に変更したこと以外、分散剤1と同様にして、分散剤3[スチレン(70モル%)-マレイン酸カリウム塩(30モル%)共重合体]を得た。重量平均分子量は、3,000であった。
【0080】
<分散剤4の作製>
滴下ライン、撹拌装置及び温度計付きの反応容器に無水マレイン酸18.9重量部及びメチルエチルケトン600重量部を投入し、密閉下で撹拌しながら70~80℃で3時間加熱して無水マレイン酸を溶解させた後、70~80℃の温度を維持したまま、スチレン10重量部及びメタクリル酸メトキシポリオキシエチレン(オキシエチレン;90モル)[ブレンマーPME-4000、日油(株)製]エステル2400重量部の混合モノマーと、30重量%2,2’-アゾビスイソブチロニトリルメチルエチルケトン溶液20.2重量部とをそれぞれ別々の滴下ラインから一定速度で2時間かけて滴下した。滴下終了後、密閉下で80~100℃まで加熱し、この温度を8時間維持した。続いて、80~100℃を維持しながら徐々に圧力を抜きながらメチルエチルケトンを留去し、同時にイオン交換水50重量部を滴下ラインから投入した(イオン交換水の滴下速度の制御は行わなかった)。メチルエチルケトンの留去が無くなった後に30℃まで冷却した(留去したメチルエチルケトンの合計重量は450重量部であった。)。続いて撹拌下で48重量%水酸化ナトリウム水溶液0.016重量部を40℃以上にならないように徐々に滴下した後、イオン交換水を加えて固形分重量が20重量%となるように濃度を調整して、分散剤4[スチレン(33.3モル%)-マレイン酸(66.63モル%)-マレイン酸ナトリウム塩(0.07モル%)-メタクリル酸メトキシポリオキシエチレン(オキシエチレンの繰り返し数(n):90)エステル共重合体]を得た。重量平均分子量は、40,000であった。
【0081】
<分散剤5の作製>
滴下ライン、撹拌装置及び温度計付きの反応容器に無水マレイン酸70.7重量部及びポリオキシプロピレン(オキシプロピレン;4~5モル)モノブチルエーテル[ニューポールLBー65、三洋化成工業(株)製]32.7重量部を投入し、密閉下で撹拌しながら70~90℃で3時間加熱した後、撹拌下でメチルエチルケトン350部を投入した。続いて、70~80℃の温度を維持したまま、スチレン25重量部及び30重量%2,2’-アゾビスイソブチロニトリルメチルエチルケトン溶液15重量部とをそれぞれ別々の滴下ラインから一定速度で2時間かけて滴下した。滴下終了後、密閉下で80~100℃まで加熱し、この温度を8時間維持した。続いて、80~100℃を維持しながら徐々に圧力を抜きながらメチルエチルケトンを留去し、同時にイオン交換水50重量部を滴下ラインから投入した(イオン交換水の滴下速度の制御は行わなかった)。メチルエチルケトンの留去が無くなった後に30℃まで冷却した(留去したメチルエチルケトンの合計重量は350重量部であった。)。続いて撹拌下で48%水酸化ナトリウム水溶液112.4重量部を40℃以上にならないように徐々に滴下した後、イオン交換水を加えて固形分重量が20重量%となるように濃度を調整して、分散剤5[スチレン(27.8モル%)-マレイン酸ナトリウム塩(72.2モル%)-マレイン酸モノブトキシポリオキシプロピレン(オキシプロピレン;4~5モル)エステルナトリウム塩共重合体]を得た。重量平均分子量は、10,000であった。
【0082】
<分散剤6の作製>
滴下ライン、撹拌装置及び温度計付きの反応容器に無水マレイン酸47.1重量部及びポリオキシプロピレン(オキシプロピレン;40モル)モノブチルエーテル[ニューポールLB-1715、三洋化成工業(株)製]115.4重量部を投入し、密閉下で撹拌しながら70~90℃で3時間加熱した後、撹拌下でメチルエチルケトン600重量部を投入した。続いて、70~80℃の温度を維持したまま、スチレン50重量部及び30重量%2,2’-アゾビスイソブチロニトリルメチルエチルケトン溶液7.1重量部とをそれぞれ別々の滴下ラインから一定速度で2時間かけて滴下した。滴下終了後、密閉下で80~100℃まで加熱し、この温度を8時間維持した。続いて、80~100℃を維持しながら徐々に圧力を抜きながらメチルエチルケトンを留去し、同時にイオン交換水50重量部を滴下ラインから投入した(イオン交換水の滴下速度の制御は行わなかった)。メチルエチルケトンの留去が無くなった後に30℃まで冷却した(留去したメチルエチルケトンの合計重量は350重量部であった。)。続いて撹拌下で48重量%水酸化ナトリウム水溶液76.1重量部を40℃以上にならないように徐々に滴下した後、イオン交換水を加えて固形分重量が20重量%となるように濃度を調整して、分散剤6[スチレン(52.6モル%)-マレイン酸ナトリウム塩(47.4モル%)-マレイン酸モノブトキシポリオキシプロピレン(オキシプロピレン;40モル)エステルナトリウム塩共重合体]を得た。重量平均分子量は、20,000であった。
【0083】
<分散剤7の作製>
「無水マレイン酸56.5重量部、メチルエチルケトン460重量部、スチレン40重量部、30重量%2,2’-アゾビスイソブチロニトリルメチルエチルケトン溶液32.2重量部及び28重量%アンモニア水溶液17.5重量部」を、「マレイン酸[試薬特級、和光純薬(株)製]33.5重量部、メチルエチルケトン600重量部、スチレン70重量部、30重量%2,2’-アゾビスイソブチロニトリルメチルエチルケトン溶液151.7重量部及び28重量%アンモニア水溶液17.5重量部」に変更したこと以外、分散剤1と同様にして、分散剤7[スチレン(70モル%)-マレイン酸アンモニウム塩(30モル%)共重合体]を得た。重量平均分子量は、10,000であった。
【0084】
【表1】
【0085】
<バインダー樹脂の作製>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF150重量部を仕込み、75℃に昇温した。次いで、アクリル酸90重量部、メタクリル酸10重量部及びDMF50重量部を配合した単量体組成物と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.5重量部及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.5重量部をDMF30重量部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、75℃で反応を3時間継続した。次いで、80℃に昇温して反応を3時間継続し、樹脂濃度30重量%のバインダー樹脂溶液を得た。このバインダー樹脂溶液を160℃、0.01MPで3時間減圧乾燥して、DMFを留去してバインダー樹脂(Mw:70,000)を得た。
【0086】
<電解液の作製>
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を体積割合でEC:DEC=1:1で混合した混合溶媒に、電解質としてLiPFを1mol/Lの割合で溶解させて電解液を作製した。
【0087】
<リチウムイオン電池用負極組成物の作製>
分散剤1~7それぞれを表2及び3に記載の配合量に従って秤量し、得られる水溶液が45重量%になるように水を添加し、遊星撹拌型混合混練装置「あわとり練太郎」((株)シンキー製)による撹拌を2000rpmで2分間行った。さらにカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMCNa:富士フィルム和光純薬(株)製)を表2及び3に記載の配合量に従って秤量、添加し、遊星撹拌型混合混練装置「あわとり練太郎」((株)シンキー製)による撹拌を2000rpmで5分間行い、CMCNaを溶解した。ついで、負極活物質(黒鉛粒子「SNG-WXA1」)及び導電助剤(アセチレンブラック(AB:商品名「デンカブラックLi100」デンカ(株)製、又は、カーボンナノチューブ(CNT:商品名「NC7000」Nanocyl社製)を表2及び3に記載の配合量で追加したのちに、あわとり練太郎による撹拌を2000rpmで4分間行った。最後にスチレンブタジエンゴム(SBR、日本ゼオン(株)製)又はバインダー樹脂を表2及び3に記載の配合量に従って秤量し、遊星撹拌型混合混練装置「あわとり練太郎」((株)シンキー製)による撹拌を2000rpmで10秒間行いリチウムイオン電池用負極組成物を作製した。
な お、表2及び表3に記載の各材料の配合量は、リチウムイオン電池用負極組成物の固形分を基準とした重量(重量%)で示した。
【0088】
<分散性評価:リチウムイオン電池用負極組成物>
上記リチウムイオン電池用負極組成物の粘度を、レオメーター「MCR302」(Anton Paar社製)を用いて、コーンプレートCP25、せん断速度0.1~100s-1、25℃の条件で測定し、せん断速度10s-1における粘度を測定した。結果を表2及び3に示した。
【0089】
(充放電試験用電池の作製)
前記リチウムイオン電池用負極組成物を、大気中でワイヤーバーを用いて集電体(銅箔)
の片面に塗布し、一晩予備乾燥させた後、16mmφに打ち抜き、更に減圧下(1.3kPa)、100℃で4時間乾燥して、プレス機で狙いの電極密度(電極厚み)までプレスして評価用負極を作製した。
負極側から、前記負極、セパレータ[商品名「#3501」、セルガード社製]、リチウム箔をこの順に重ね合わせ、前記電解液を注入したのち酸素が入らないように真空ラミネートし、充放電試験用電池を作製した。
【0090】
<充放電試験>
25℃下、充放電測定装置「HJ-SD8」[北斗電工(株)製]を用いて、以下の方法により作製した充放電試験用電池の初回性能の評価を行った。
定電流定電圧充電方式(CCCVモードともいう)で0.05Cの電流で4.2Vまで充電した後4.2Vを維持した状態で電流値が0.0025Cになるまで充電した。10分間の休止後、0.05Cの電流で2.5Vまで放電した。
このとき充電した容量を[初回充電容量(mAh)]、放電した容量を[初回放電容量(mAh)]とした。
以下の式で初回クーロン効率を算出し、結果を表2及び3に示した。
初回クーロン効率(%)=[初回放電容量]/[初回充電容量]×100
【0091】
また、放電開始及び10秒経過時の電圧から、以下の式で電気抵抗値(10sDCR)を算出した。
10sDCR(Ω・cm)=([放電開始前の電圧(V)]-[放電開始後10秒経過時の電圧(V)])/[放電時電流値(A)]×1.77(1.77cm
【0092】
上記充放電を10回繰り返した。この時の初回充電時の電池容量(初期放電容量)と10サイクル目充電時の電池容量(10サイクル後放電容量)を用いて、下記式から放電容量維持率を算出した。結果を表2及び3に示す。なお、数値が大きいほど、電池の劣化が少ないことを示す。
放電容量維持率(%)=[10サイクル目の放電容量]/[1サイクル目の放電容量]×100
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のリチウムイオン電池用負極組成物から得られるリチウムイオン電池は、特に、携帯電話、パーソナルコンピューター及びハイブリッド自動車、電気自動車用に用いられるリチウムイオン電池として有用である。