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特開2024-121811スラリー組成物、負極および二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121811
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】スラリー組成物、負極および二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1395 20100101AFI20240830BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240830BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240830BHJP
【FI】
H01M4/1395
H01M4/48
H01M4/134
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024026109
(22)【出願日】2024-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2023028494
(32)【優先日】2023-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391059399
【氏名又は名称】株式会社アイ.エス.テイ
(72)【発明者】
【氏名】吉川 直人
(72)【発明者】
【氏名】武田 泰昭
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CB02
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA03
5H050DA09
5H050DA10
5H050DA18
5H050EA10
5H050FA17
5H050GA10
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA10
5H050HA13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アルカリ金属などが含有された塩基性活物質を用いた場合においても、問題なく負極を形成し、高容量且つ不可逆容量を抑えることができるスラリー組成物、負極及び二次電池を提供する。
【解決手段】本発明に係るスラリー組成物は、リチウムイオン二次電池の負極に使用される活物質にアルカリ金属またはアルカリ土類金属またはアルミニウムから選択される少なくとも1つを含有させてなる塩基性活物質と、粒子状導電材と少なくとも1種のテトラカルボン酸エステル化合物と少なくとも1種のジアミン化合物と有機溶媒を含有してなるスラリー組成物であって、前記スラリー組成物1重量部に対して10重量部の水に分散させた分散液のpHが2以上4以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池の負極に使用される活物質にアルカリ金属またはアルカリ土類金属またはアルミニウムから選択される少なくとも1つを含有させてなる塩基性活物質と、粒子状導電材と少なくとも1種のテトラカルボン酸エステル化合物と少なくとも1種のジアミン化合物と有機溶媒を含有してなるスラリー組成物であって、前記スラリー組成物1重量部に対して10重量部の水に分散させた分散液のpHが2以上4以下であることを特徴とするスラリー組成物。
【請求項2】
前記活物質は、波長1.5418nmのCuKα特性X線を用いたX線回折測定において2θ=28.4°付近のピーク強度を2θ=27°付近のピーク強度で除した値が0.7以上1.1以下である請求項1に記載のスラリー組成物。
【請求項3】
前記活物質は珪素酸化物又は錫酸化物から選択される活物質であることを特徴とする請求項2に記載のスラリー組成物。
【請求項4】
前記アルカリ金属がリチウムであることを特徴とする請求項2又は3に記載のスラリー組成物。
【請求項5】
前記粒子状導電材が平均一次粒子径20nm以上50nm以下であることを特徴とする請求項2又は3に記載のスラリー組成物。
【請求項6】
前記粒子状導電材のDBP吸収量が95cm/100g以上500cm/100g以下であることを特徴とする請求項5に記載のスラリー組成物。
【請求項7】
前記粒子状導電材は塩基性活物質の重量100に対して10から30の割合で含有されていることを特徴とする請求項6に記載のスラリー組成物。
【請求項8】
前記粒子状導電材がカーボンブラックである請求項7に記載のスラリー組成物。
【請求項9】
前記請求項8に記載のスラリー組成物を用いて形成される負極。
【請求項10】
前記請求項9に記載の負極0.1重量部に対して10重量部の水に分散させた分散液のpHが10から12であることを特徴とする負極。
【請求項11】
前記請求項10に記載の負極を有する二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の負極に使用される活物質にアルカリ金属またはアルカリ土類金属またはアルミニウムから選択される少なくとも1つを含有させてなる塩基性活物質と、粒子状導電材と少なくとも1種のテトラカルボン酸エステル化合物と少なくとも1種のジアミン化合物と有機溶媒を含有してなるスラリー組成物並びにこれらを用いた負極及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノートパソコンなどの精密機器の小型化及び軽量化が求められ、二次電池の開発が活発に行われている。また、環境問題などに対応した電気自動車の開発についても積極的に行われるようになり、より高容量な二次電池の開発が求められている。
【0003】
その中の二次電池の一つとして、高容量等の観点からリチウムイオン二次電池が注目されており、負極に使用される活物質や導電材、バインダーなどの選定により高容量化やリチウムイオンの消費を要因とする不可逆容量を減少させる研究が行われている。
【0004】
このような電池の不可逆容量を小さくするために、活物質、導電材、バインダーから形成される負極にアルカリ金属又はアルカリ土類金属などを含有させ、電池の充放電時に正極と負極との間を行き来するリチウムイオンの消費を抑制する技術も検討されている。
【0005】
また、リチウムイオン二次電池などにおいては、充放電による活物質の膨張・収縮による亀裂の発生や脱落を抑えることで電池としてのサイクル特性を維持する目的でポリイミドバインダーなどが検討されている。
【0006】
ただし、上述したようにアルカリ金属又はアルカリ土類金属などを活物質中に含有させる場合、活物質が塩基性を示し、ポリイミドバインダーにおいては負極形成時に塩基性によりイミド化が阻害され、負極バインダーとしての効果を発揮できない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-259697号公報
【特許文献2】特開2013-155342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述した背景技術における問題点に鑑みなされたもので、本発明の課題は、アルカリ金属などが含有された塩基性活物質を用いた場合においても、問題なく負極を形成し、高容量且つ不可逆容量を抑えることができるスラリー組成物、負極及び二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスラリーは、リチウムイオン二次電池の負極に使用される活物質にアルカリ金属またはアルカリ土類金属またはアルミニウムから選択される少なくとも1つを含有させてなる塩基性活物質と、粒子状導電材と少なくとも1種のテトラカルボン酸エステル化合物と少なくとも1種のジアミン化合物と有機溶媒を含有してなるスラリー組成物であって、前記スラリー組成物1重量部に対して10重量部の水に分散させた分散液のpHが2以上4以下である。
【0010】
活物質は珪素酸化物又は錫酸化物から選択される活物質である。更にアルカリ金属又はアルカリ土類金属は、リチウム又はナトリウムから選択される。
【0011】
また、本発明のスラリー組成物に用いられる粒子状導電材が塩基性活物質の重量100に対して10から30の割合で含有されており、平均一次粒子径20nm以上50nm以下である。また、粒子状導電材は更にDBP吸収量が95cm/100g以上500cm/100g以下である。また、上記粒子状導電材としてはカーボンブラックである。
【0012】
また、本発明の負極は上述したスラリー組成物を用いて形成された負極である。更に前述した負極を用いて形成された二次電池である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果は、リチウムイオン二次電池の負極に使用される活物質にアルカリ金属またはアルカリ土類金属またはアルミニウムから選択される少なくとも1つを含有させてなる塩基性活物質と、粒子状導電材と少なくとも1種のテトラカルボン酸エステル化合物と少なくとも1種のジアミン化合物と有機溶媒を含有してなるスラリー組成物であって、前記スラリー組成物1重量部に対して10重量部の水に分散させた分散液のpHが2以上4以下であり、塩基性活物質によるテトラカルボン酸エステル化合物とジアミン化合物のイミド化の阻害を抑制することができる。更に好ましくはpHが2以上3.5以下である。スラリー組成物のpHが低いほどテトラカルボン酸エステル化合物とジアミン化合物が安定して反応することができる。また、粒子状導電材の平均一次粒子径が20nm以上50nm以下であり、DBP吸収量が95cm/100g以上500cm/100g以下であることにより、従来塩基性に弱いポリイミド系バインダーを好適に使用することができ、負極や二次電池を形成することができる。これらで得られた二次電池等は携帯電話やノートパソコン、電気自動車などに有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のスラリー組成物は、リチウムイオン二次電池の負極に使用される活物質にアルカリ金属またはアルカリ土類金属またはアルミニウムから選択される少なくとも1つを含有させてなる塩基性活物質と、粒子状導電材と少なくとも1種のテトラカルボン酸エステル化合物と少なくとも1種のジアミン化合物と有機溶媒を含有してなる。また、前記活物質は珪素酸化物又は錫酸化物から選択される活物質が使用でき、更にアルカリ金属またはアルカリ土類金属またはアルミニウムから選択される少なくとも1つを含有させてなる塩基性活物質であり、前記アルカリ金属またはアルカリ土類金属としては、リチウム、ナトリウムなどが用いることができる。前述した塩基性活物質としては、高容量化の観点などからリチウムと珪素酸化物からなる塩基性活物質であることがより好ましい。
【0015】
本発明に使用される活物質は平均粒子径が0.5μm以上20μm未満であるのが好ましく、0.5μm以上10μm未満であるのがより好ましい。活物質粒子の平均粒子径が小さいほど、良好なサイクル特性が得られる傾向がある。なお、ここにいう平均粒子径は、粒度分布測定装置マイクロトラック・ベル製SYNCを用いてレーザ回折・散乱法により測定される。また、前記活物質はリチウムをプレドープされたものが好適に使用できる。またはアルミニウムを含むこともできる。例えば、酸化リチウム(LiO)、過酸化リチウム(Li)、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)、硝酸リチウム(LiNO)、水素化リチウム(LiH)、水素化リチウムアルミニウム(LiAlH)等を一酸化ケイ素(SiO)等のケイ素酸化物と不活性雰囲気下、真空化等で熱処理することで合成される様々な種のリチウムを含有するケイ素の酸化物、また電気化学的反応によってケイ素の酸化物にリチウムを導入させたリチウムを含有するケイ素の酸化物、また酸化珪素等のSiOガスを発生する原料粉末と金属リチウム又はリチウム化合物との混合物を不活性ガス雰囲気又は減圧下、800~1,300℃の温度で加熱して生成したガスを凝集させて合成されるリチウム含有ケイ素酸化物もしくはケイ酸塩などが挙げられる。
【0016】
また、本発明のスラリー組成物には、テトラカルボン酸エステル化合物、ジアミン化合物および溶媒を含有する。溶媒には、テトラカルボン酸エステル化合物およびジアミン化合物が溶解される。
【0017】
テトラカルボン酸エステル化合物は、対応するテトラカルボン酸二無水物をアルコールでエステル化することにより簡単に得られ、テトラカルボン酸エステル化合物を誘導形成するためのテトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、1,2,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、2,2-ビス[3,4-(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、オキシジフタル酸無水物(ODPA)、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホキシド二無水物、チオジフタル酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物、9,9-ビス[4-(3,4’-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5-テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,4-ジカルボキシ-1-シクロヘキシルコハク酸二無水物、3,4-ジカルボキシ-1,2,3,4-テトラヒドロ-1-ナフタレンコハク酸二無水物等の脂環式テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。なお、これらのテトラカルボン酸二無水物は、単独で用いられてもよいし、混合されて用いられてもよい。
【0018】
また、テトラカルボン酸エステル化合物を誘導形成するためのアルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール、1-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-エチル-1-ブタノール、シクロヘキサノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-(メトキシメトキシ)エタノール、2-イソプロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、フェノール、1-ヒドロキシ-2-プロパノン、4-ヒドロキシ-2-ブタノン、3-ヒドロキシ-2-ブタノン、1-ヒドロキシ-2-ブタノン、2-フェニルエタノール、1-フェニル-1-ヒドロキシエタン、2-フェノキシエタノールなどが挙げられ、さらに1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、グリセロール、2-エチル-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、2,2’-ジヒドロキシジエチルエーテル、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール、3,6-ジオキサオクタン-1,8-ジオール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジプロピレングリコールなどの多価アルコールも挙げられる。なお、これらのアルコールは、単独で用いられてもよいし、混合されて用いられてもよい。
【0019】
ジアミン化合物は芳香族ジアミン化合物であることが好ましい。ジアミン化合物としては、例えば、パラフェニレンジアミン(PPD)、メタフェニレンジアミン(MPDA)、2,5-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MDA)、2,2-ビス-(4-アミノフェニル)プロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(33DDS)、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(44DDS)、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(34ODA)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、1,5-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(133APB)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(134APB)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPSM)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、2,2-ビス(3-アミノフェニル)1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2,3-ジアミノフェノール、2,5-ジアミノフェノール、2,6-ジアミノフェノール、3,4-ジアミノフェノール、3,5-ジアミノフェノール、2,3-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,6-ジアミノピリジン、3,4-ジアミノピリジン、3,5-ジアミノピリジンが挙げられる。これらのジアミン化合物は、単独で用いられてもよいし、混合されて用いられてもよい。
【0020】
なお、本局面に係るバインダー組成物には、本発明の趣旨を損なわない範囲で、アニオン性基を有するジアミン化合物が含有されてもかまわず、アニオン性官能基としては、例えば、カルボキシル基、硫酸エステル基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基等が挙げられる。なお、これらのアニオン性官能基の中でもカルボキシル基が特に好ましい。このようなジアミン化合物としては、例えば、3,4-ジアミノ安息香酸、3,5-ジアミノ安息香酸、メタフェニレンジアミン4-スルホン酸等が挙げられる。
【0021】
また、本発明の実施の形態に係るスラリー組成物の溶媒としては、テトラカルボン酸エステル化合物を誘導形成するために用いるアルコールを用いても良いし、例えばN,N-ジメチルホルムアミド、N、N-ジメチルアセトアミド、3-メトキシ-N、N-ジメチルプロパンアミド、ジメチルイソ酪酸アミド、N-メチル-2-ピロリドン、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等のアミド系溶媒、ガンマブチロラクトン等のエステル系溶媒、1,2-ジメトキシエタン、ジグライム、トリグライム、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン等のエーテル系溶媒、シクロペンタノン等のケトン系溶媒、テトラメチル尿素、N,N-ジメチルエチルウレア、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等の尿素系溶媒が挙げられ、特にテトラカルボン酸エステル化合物とジアミン化合物の溶解性の点からエタノール、N、N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)が特に好ましい。なお、これらの有機極性溶媒は、単独で用いられてもよいし、組み合わせて用いられてもよい。また、この有機極性溶媒にトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が混合されてもよい。
【0022】
本発明に使用される粒子状導電材としては、カーボンブラックが挙げられる。塩基性活物質によるテトラカルボン酸エステル化合物とジアミン化合物のイミド化の阻害防止効果において前記粒子状導電材の平均一次粒子径20nm以上50nm以下であることで、塩基性活物質表面と集電体間に良好な導電パスを形成し、電流を効率良く取り出すことができるため好ましく、更に好ましくは平均一次粒子径24nm以上50nm以下であることが好ましく、より好ましくは平均一次粒子径30nm以上50nm以下である。また、粒子状導電材は更にDBP吸収量が95cm/100g以上500cm/100g以下であることが好ましく、より好ましくはDBP吸収量が140cm/100g以上500cm/100g以下でも良好な導電パス形成のため好ましい。
【0023】
本発明に使用できるカーボンブラックの種類としては、オイルファーネスブラック、ガスブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等が挙げられ、初期容量や不可逆容量への影響などからオイルファーネスブラック、ガスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラックが好ましく、サイクル特性などを踏まえると更にケッチェンブラック、アセチレンブラックであることが好ましい。また、本発明の効果を損なわない程度にカーボンナノチューブ等の繊維状炭素を含んでも良い。
【0024】
次に、本発明のスラリー組成物を用いて負極が形成される。本発明で形成される負極は、集電体上にスラリー組成物を乾燥・硬化してなる層が形成されている。本発明の負極に使用される集電体としては、導電性金属箔であるのが好ましい。このような導電性金属箔は、例えば、銅、ニッケル、鉄、チタン、コバルト等の金属、または、これらの金属を組み合わせて得られるステンレス等の合金から形成される。
【0025】
また、本発明の負極0.1重量部に対して10重量部の水に分散させた分散液のpHが10から12であり、pHが高いほど十分な塩基性活物質が維持されることで不可逆容量を低くすることができるため、好ましい。
【0026】
上述スラリー組成物から本発明の負極を形成するには、上述のスラリー組成物を集電体上または集電体上に形成されたアンダーコート層上に塗布した後、乾燥・熱処理すればよい。アンダーコート層は、テトラカルボン酸エステル化合物とジアミン化合物の反応物が良好に接着することができる樹脂と、アンダーコート層に導電性を付与する導電材とから形成されるのが好ましい。乾燥はスラリー組成物から溶媒を除去する為に適切な温度と排気条件で行い、熱処理はテトラカルボン酸エステル化合物とジアミン化合物が重縮合しポリイミドに転化するのに必要な温度と時間で処理を行い、200℃から500℃の温度で1分から100時間行うことが好ましく、真空下又は不活性ガス雰囲気下で処理を行うことが好ましい。
【0027】
また、本発明の負極を用いて二次電池を形成することができる。
【0028】
<実施例および比較例>
以下、具体的に実施例および比較例について説明するが、本発明は、これら実施例によって限定されるものではない。
【実施例0029】
(リチウム含有塩基性活物質の作製)
一酸化ケイ素粉末と水素化リチウム粉末を混合しアルゴンガス中で熱処理し、リチウム含有塩基性活物質を得た。
得られたリチウム含有塩基性活物質1gを10gの水に分散させ、pHを測定したところpH11.4であった。また粉末X線回折測定(BRUKER AXS D8 DISCOVER、波長1.5418nm(CuKα))で得られたX線回折結果において、2θ=23°の強度と32°の強度を直線で結んだラインをベースラインとして測定値から差し引いたチャートを用いて、2θ=27°付近のLiSiOのピーク強度(IB)と2θ=28.4°付近のSiのピーク強度(IA)の比(IA/IB)を求めた値が0.86であることがわかった。
【0030】
(バインダー組成物の作製)
500mLの3つ口フラスコに、ポリテトラフルオロエチレン製の攪拌羽を取り付けた攪拌棒を取り付けて合成容器とした。そして、その合成容器に3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)115.71g、エタノール49.63gおよびN-メチル-2-ピロリドン(NMP)95.83gを投入し、その混合物を80℃に加熱して2時間攪拌してエステル化反応を行った。次いで、この溶液を40℃以下に冷却した後メタフェニレンジアミン(MPDA)38.83gを加え、再び80℃に加熱して3時間攪拌して固形分47.2重量%のバインダー組成物を調製した。なお反応は全てアルゴンガス置換下で行った。
【0031】
(スラリー組成物の作製)
容量24mlのプラスチック容器に作製したバインダー組成物0.6gと粒子状導電材のカーボンブラックとしてデンカ株式会社から入手した平均一次粒子径48nm、DBP吸収量140cm3/100gのアセチレンブラックHS-100を0.28g投入し、株式会社シンキー製遊星自転・公転方式ミキサーあわとり練太郎ARE-310を用いて2000rpm、5分間混合した。次いで作製したリチウム含有塩基性活物質2.27gと希釈溶剤としてNMP3.93gを追加し更に2000rpm、5分間混合し、スラリー組成物を得た。このスラリー組成物はバインダー組成物と粒子状導電材と塩基性活物質の固形分重量比が10:10:80となり、粒子状導電材は塩基性活物質の重量100に対して12.5含まれる。
このスラリー組成物1gを10gの精製水に投入しよくかき混ぜたところ黒色の懸濁液となった。1分間静置した後pHメーターでpHを測定したところpH3.9であった。
【0032】
(電極の作製)
作製したスラリー組成物を福田金属箔粉製の厚み18μmの電解銅箔の片面にコーターで塗布し80℃で30分間乾燥させた。次いで真空炉で200℃10時間の熱処理を行った後アルゴン雰囲気中350℃1時間の熱処理を行い銅箔に強固に密着した電極を得た。電解銅箔を除いた電極の厚みは18μmであり、面積1cmあたりの重量は1.34mgであった。
この電極の一部を電解銅箔から削り取り0.1gを、10gの精製水に投入しよくかき混ぜ1分間静置させた後pHを測定したところpH10.6であった。
【0033】
(電池の作製)
露点温度-50℃以下のアルゴンガス雰囲気中で、CR2032型SUS製コインセル用ケースに、φ16mmの円形状に打ち抜いて作製した電極、φ19mmの円形状に打ち抜いた株式会社ATRより入手した厚み16μmのポリプロピレン製セパレーター、対極としてφ16mmの円形状に打ち抜いた本城金属株式会社より入手した厚み0.5mmのリチウム金属箔を順に積層し、電解液としてキシダ化学より入手した1mol/LのLiPFが溶解したエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=1:1volとシグマアルドリッチより入手した炭酸フルオロエチレンを9:1の重量比で混合した溶液を注入した後組み立てて封止してコインセルを作製した。
【0034】
(充放電サイクル試験)
上述のようにして得られたリチウムイオン二次電池の充放電サイクル試験を行った。充放電サイクル試験はScribner Associates製580型充放電測定システムを用い、環境温度を25℃と、充放電速度を0.1Cと、カットオフ電圧を充電時0.0V、放電時1.0Vとし、1サイクル毎に充電容量と放電容量を計測した。なお1Cを一酸化珪素の容量を1500mAh/gとしたとき計算される電池容量理論値に対して1時間で充電又は放電が完了する電流値での充放電速度とする。充放電容量は充放電に要した電荷量を活物質の重量で除して求めmAh/gで記した。1サイクル目の充電容量は1710mAh/g、放電容量は1356mAh/gであり初回効率は79%であった。10サイクル目の放電容量は1265mAh/gであり1サイクル目から10サイクル目までの容量維持率が93%であり、リチウムイオン電池用負極として十分な性能を有することが分かった。
【実施例0035】
(リチウムおよびアルミニウム含有塩基性活物質の作製)
活物質材料の珪素酸化物に対してリチウムおよびアルミニウムを含有させる操作を行った。水素化リチウムの替わりに水素化リチウムアルミニウム粉末をリチウムおよびアルミニウム源として用いた以外実施例1同様にリチウムおよびアルミニウム含有塩基性活物質を作製した。
【0036】
得られたリチウムおよびアルミニウム含有塩基性活物質1gを10gの水に分散させ測定したpHはpH11.3であった。また粉末X線回折測定での結果得られた(IA/IB)が1.05であり、アルミン酸リチウムに帰属される複数の小さなピークが確認された。
このリチウムおよびアルミニウム含有塩基性活物質を用いて実施例1同様にスラリー組成物を作製し、電極、電池を作製し充放電サイクル試験を行った。
【0037】
スラリー組成物を精製水に懸濁させたときのpHはpH3.5であり、電極はpH10.5であった。充放電試験の結果1サイクル目の充電容量は1543mAh/g、放電容量は1195mAh/gであり初回効率は77%であった。10サイクル目の放電容量は1090mAh/gであり1サイクル目から10サイクル目までの容量維持率が91%であり、リチウムイオン電池用負極として十分な性能を有することが分かった。
【実施例0038】
バインダー組成物として株式会社アイ・エス・テイより入手可能なテトラカルボン酸エステル化合物とジアミン化合物とを有機溶媒に溶解させたポリイミドワニスDREAMBOND100(固形分47.2重量%)を用いた以外は実施例1と同様にスラリー組成物、電極、電池を作製し充放電サイクル試験を行った。
【0039】
スラリー組成物を精製水に懸濁させたときのpHはpH3.6であり、電極はpH10.5であった。充放電試験の結果1サイクル目の充電容量は1670mAh/g、放電容量は1336mAh/gであり初回効率は80%であった。10サイクル目の放電容量は1222mAh/gであり1サイクル目から10サイクル目までの容量維持率が92%であり、リチウムイオン電池用負極として十分な性能を有することが分かった。
【実施例0040】
バインダー組成物と粒子状導電材と塩基性活物質の固形分重量比が30:10:60となるよう配合した以外は実施例3と同様にスラリー組成物、電極、電池を作製し充放電サイクル試験を行った。
【0041】
このとき粒子状導電材は塩基性活物質の重量100に対して16.7含まれる。スラリー組成物を精製水に懸濁させたときのpHはpH3.4であり、電極はpH10.5であった。充放電試験の結果1サイクル目の充電容量は2525mAh/g、放電容量は1640mAh/gであり初回効率は65%であった。10サイクル目の放電容量は1572mAh/gであり1サイクル目から10サイクル目までの容量維持率が96%であり、リチウムイオン電池用負極として十分な性能を有することが分かった。
【実施例0042】
粒子状導電材のカーボンブラックとしてライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社より入手した平均一次粒子径41nm、DBP吸収量280cm3/100gのケッチェンブラックECP200Lを用いた以外は実施例4と同様にスラリー組成物、電極、電池を作製し充放電サイクル試験を行った。
【0043】
スラリー組成物を精製水に懸濁させたときのpHはpH3.5であり、電極はpH10.6であった。充放電試験の結果1サイクル目の充電容量は2082mAh/g、放電容量は1305mAh/gであり初回効率は63%であった。10サイクル目の放電容量は1286mAh/gであり1サイクル目から10サイクル目までの容量維持率が99%であり、リチウムイオン電池用負極として十分な性能を有することが分かった。
【実施例0044】
粒子状導電材のカーボンブラックとしてライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社より入手した平均一次粒子径34nm、DBP吸収量495cm3/100gのケッチェンブラックECP600JDを用いた以外は実施例4と同様にスラリー組成物、電極、電池を作製し充放電サイクル試験を行った。
【0045】
スラリー組成物を精製水に懸濁させたときのpHはpH3.5であり、電極はpH10.6であった。充放電試験の結果1サイクル目の充電容量は2497mAh/g、放電容量は1594mAh/gであり初回効率は64%であった。10サイクル目の放電容量は1493mAh/gであり1サイクル目から10サイクル目までの容量維持率が94%であり、リチウムイオン電池用負極として十分な性能を有することが分かった。
【実施例0046】
粒子状導電材のカーボンブラックとして三菱ケミカル株式会社より入手した平均一次粒子径24nm、DBP吸収量100cm3/100gのオイルファーネスブラックMA100Sを用いた以外は実施例4と同様にスラリー組成物、電極、電池を作製し充放電サイクル試験を行った。
【0047】
スラリー組成物を精製水に懸濁させたときのpHはpH3.6であり、電極はpH10.4であった。充放電試験の結果1サイクル目の充電容量は2017mAh/g、放電容量は1258mAh/gであり初回効率は62%であった。10サイクル目の放電容量は1201mAh/gであり1サイクル目から10サイクル目までの容量維持率が95%であり、リチウムイオン電池用負極として十分な性能を有することが分かった。
【実施例0048】
粒子状導電材のカーボンブラックとしてオリオンカーボン製の平均一次粒子径25nm、DBP吸収量115cm3/100gのガスブラックSPECIAL BLACK 4Aを用いた以外は実施例4と同様にスラリー組成物、電極、電池を作製し充放電サイクル試験を行った。
【0049】
スラリー組成物を精製水に懸濁させたときのpHはpH3.4であり、電極はpH10.2であった。充放電試験の結果1サイクル目の充電容量は1476mAh/g、放電容量は957mAh/gであり初回効率は65%であった。10サイクル目の放電容量は1086mAh/gであり1サイクル目から10サイクル目までの容量維持率が113%であり、リチウムイオン電池用負極として十分な性能を有することが分かった。
【実施例0050】
BTDA41.17g、エタノール35.31g、NMP104.09gとし、MPDAに替えて3,5-ジアミノ安息香酸(東京化成工業株式会社製)19.44gを使用した以外実施例1と同様に固形分28重量%のバインダー組成物を作製した。また、得られたバインダー組成物を用いた以外は実施例4と同様にスラリー組成物、電極、電池を作製し充放電サイクル試験を行った。
【0051】
スラリー組成物を精製水に懸濁させたときのpHはpH3.1であり、電極はpH10.3であった。充放電試験の結果1サイクル目の充電容量は2565mAh/g、放電容量は1569mAh/gであり初回効率は61%であった。10サイクル目の放電容量は1601mAh/gであり1サイクル目から10サイクル目までの容量維持率が102%であり、リチウムイオン電池用負極として十分な性能を有することが分かった。
【実施例0052】
BTDA38.04g、エタノール32.63g、NMP107.12gとし、MPDAに替えて1,3-フェニレンジアミン-4-スルホン酸(ナカライテスク)22.22gを使用した以外実施例4と同様に固形分28重量%のバインダー組成物を作製した。また、得られたバインダー組成物を用いた以外は実施例1と同様にスラリー組成物、電極、電池を作製し充放電サイクル試験を行った。
【0053】
スラリー組成物を精製水に懸濁させたときのpHはpH2.4であり、電極はpH10.1であった。充放電試験の結果1サイクル目の充電容量は2287mAh/g、放電容量は1454mAh/gであり初回効率は64%であった。10サイクル目の放電容量は1321mAh/gであり1サイクル目から10サイクル目までの容量維持率が91%であり、リチウムイオン電池用負極として十分な性能を有することが分かった。
【実施例0054】
1gを10gの水に分散させて測定したpHが11.5であり、粉末X線回折測定での結果得られた(IA/IB)が0.76であるリチウム含有塩基性活物質を用いた以外は実施例3と同様にスラリー組成物、電極、電池を作製し充放電サイクル試験を行った。
【0055】
スラリー組成物を精製水に懸濁させたときのpHはpH3.8であり、電極はpH10.7であった。充放電試験の結果1サイクル目の充電容量は1977mAh/g、放電容量は1336mAh/gであり初回効率は68%であった。10サイクル目の放電容量は1237mAh/gであり1サイクル目から10サイクル目までの容量維持率が93%であり、リチウムイオン電池用負極として十分な性能を有することが分かった。
【0056】
(比較例1)
バインダー組成物として株式会社アイ・エス・テイより入手可能なポリアミド酸のNMP溶液であるポリイミドワニスPyre-ml RC5019を用いた以外は実施例4と同様にスラリー組成物、電極、電池を作製し充放電サイクル試験を行った。
【0057】
スラリー組成物を精製水に懸濁させたときのpHはpH6.0であり、電極はpH10.4であった。充放電試験の結果1サイクル目の充電容量は1613mAh/g、放電容量は1048mAh/gであり初回効率は65%であった。10サイクル目の放電容量は351mAh/gにすぎず1サイクル目から10サイクル目までの容量維持率は僅か34%であった。即ちバインダー組成物としてポリアミド酸の溶液であるポリイミドワニスを用いたためスラリー組成物のpHが高くなりリチウムイオン電池負極用ペーストとして適さないことがわかった。
【0058】
(比較例2)
1gを10gの水に分散させて測定したpHが11.6であるリチウム含有塩基性活物質を用いて実施例4と同様にスラリー組成物、電極、電池を作製し充放電サイクル試験を行った。
【0059】
スラリー組成物を精製水に懸濁させたときのpHはpH10.3であり、電極はpH10.6であった。充放電試験の結果1サイクル目の充電容量は664mAh/gにすぎず、放電容量は351mAh/gであり初回効率は53%であった。10サイクル目の放電容量は僅か171mAh/gであり1サイクル目から10サイクル目までの容量維持率は49%であった。即ちスラリー組成物のpHが高いことによりリチウムイオン電池負極用ペーストとして適さないことがわかった。
【0060】
(比較例3)
粒子状導電材のカーボンブラックに替えて、繊維状炭素である昭和電工製VGCF―Hを用いた以外は実施例3と同様にスラリー組成物、電極、電池を作製し充放電サイクル試験を行った。
【0061】
スラリー組成物を精製水に懸濁させたときのpHはpH3.6であり、電極はpH10.2であった。充放電試験の結果1サイクル目の充電容量は1541mAh/g、放電容量は1037mAh/gであり初回効率は67%であった。10サイクル目の放電容量は僅か124mAh/gであり1サイクル目から10サイクル目までの容量維持率が12%にすぎなかった。即ち粒子状導電材を含まないことによりリチウムイオン電池負極用ペーストとして適さないことがわかった。
【0062】
(比較例4)
粒子状導電材のカーボンブラックに替えて、導電材としてシングルウォール・カーボンナノチューブ分散液(NMP溶媒)であるOCSiAl製TUBALLを用い,バインダー組成物とカーボンナノチューブと塩基性活物質の固形分重量比が15:0.5:84.5となるよう配合した以外は実施例3と同様にスラリー組成物、電極、電池を作製し充放電サイクル試験を行った。
【0063】
このときシングルウォール・カーボンナノチューブは塩基性活物質の重量100に対して0.6含まれる。スラリー組成物を精製水に懸濁させたときのpHはpH3.5であり、電極はpH10.5であった。充放電試験の結果1サイクル目の充電容量は2167mAh/g、放電容量は1628mAh/gであり初回効率は75%であった。10サイクル目の放電容量は僅か634mAh/gであり1サイクル目から10サイクル目までの容量維持率が39%にすぎなかった。即ち粒子状導電材を含まないことによりリチウムイオン電池負極用ペーストとして適さないことがわかった。
【0064】
(比較例5)
1gを10gの水に分散させて測定したpHが10.6であり、粉末X線回折測定で得られた2θ=26°付近のLiSiOのピーク強度(IB)と2θ=28°付近のSiのピーク強度(IA)の比(IA/IB)が0.51であるリチウム含有塩基性活物質を用いた以外は実施例3と同様にスラリー組成物、電極、電池を作製し充放電サイクル試験を行った。
【0065】
スラリー組成物を精製水に懸濁させたときのpHはpH3.09であり、電極はpH10.6であった。充放電試験の結果1サイクル目の充電容量は741mAh/g、放電容量は235mAh/gであり初回効率は32%であった。10サイクル目の放電容量は42mAh/gにすぎず1サイクル目から10サイクル目までの容量維持率は僅か6%でありリチウムイオン電池負極用ペーストとして適さないことがわかった。
【0066】
(比較例6)
1gを10gの水に分散させて測定したpHが10.7であり、粉末X線回折測定で得られた2θ=26°付近のLiSiOのピーク強度(IB)と2θ=28°付近のSiのピーク強度(IA)の比(IA/IB)が1.28であるリチウム含有塩基性活物質を用いた以外は実施例3と同様にスラリー組成物、電極、電池を作製し充放電サイクル試験を行った。
【0067】
スラリー組成物を精製水に懸濁させたときのpHはpH9.7であり、電極はpH10.3であった。充放電試験の結果1サイクル目の充電容量は1687mAh/g、放電容量は1108mAh/gであり初回効率は66%であった。10サイクル目の放電容量は543mAh/gにすぎず1サイクル目から10サイクル目までの容量維持率は僅か33%でありリチウムイオン電池負極用ペーストとして適さないことがわかった。
【0068】
(参考例1)
粉末X線回折測定で得られたスペクトルにアルカリ金属またはアルカリ土類金属またはアルミニウムの化合物に帰属されるピークを含まない平均粒子径5μmの一酸化珪素粉末を用い、バインダー組成物と粒子状導電材と一酸化珪素粉末の固形分重量比が30:10:60となるよう配合した以外実施例3と同様にスラリー組成物、電極、電池を作製し充放電サイクル試験を行った。
【0069】
このとき粒子状導電材は一酸化珪素粉末の重量100に対して16.7含まれる。スラリー組成物を精製水に懸濁させたときのpHはpH3.3であり、電極はpH5.7であった。充放電試験の結果1サイクル目の充電容量は3045mAh/g、放電容量は1676mAh/gであり初回効率は55%にすぎなかった。10サイクル目の放電容量は1663mAh/gであり1サイクル目から10サイクル目までの容量維持率が100%であった。即ち活物質にアルカリ金属またはアルカリ土類金属またはアルミニウムから選択される少なくとも1つが含有していないことにより初回効率が悪くリチウムイオン電池負極用ペーストとして適さないことがわかった。