(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121813
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】センサー素子及びガスセンサー
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20240830BHJP
C01B 32/168 20170101ALI20240830BHJP
【FI】
G01N27/12 C
C01B32/168
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024026196
(22)【出願日】2024-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2023028011
(32)【優先日】2023-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平井 孝佳
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 伸博
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 清一郎
【テーマコード(参考)】
2G046
4G146
【Fターム(参考)】
2G046AA10
2G046BA01
2G046BA07
2G046BA08
2G046BA09
2G046BB02
2G046BB04
2G046BE03
2G046FA01
2G046FB02
2G046FB05
2G046FB08
2G046FE02
2G046FE03
2G046FE07
2G046FE09
2G046FE11
2G046FE12
2G046FE15
2G046FE17
2G046FE19
2G046FE20
2G046FE22
2G046FE23
2G046FE25
2G046FE31
2G046FE38
2G046FE39
2G046FE48
4G146AA12
4G146AB06
4G146AD21
4G146BA04
4G146CB10
4G146CB19
4G146CB35
(57)【要約】
【課題】物質を選択的に識別可能なセンサー素子、センシング材料、センサーを提供する。中でもガスセンサーを提供する。
【解決手段】基板と、第1電極と、第2電極と、前記第1電極および前記第2電極に接するナノカーボン材料を含有する抵抗体と、抵抗体と接した絶縁性の下地層を有し、下地層はp型半導体を含有することを特徴とするセンサー素子
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、第1電極と、第2電極と、前記第1電極および前記第2電極に接するナノカーボン材料を含有する抵抗体と、前記抵抗体と接した下地層を有し、前記下地層が前記抵抗体と接したp型半導体を含有するセンサー素子。
【請求項2】
前記p型半導体の仕事関数が4.5eV以上である請求項1に記載のセンサー素子。
【請求項3】
前記抵抗体の平均厚みが、0.6nm以上、12nm以下の範囲である請求項1に記載のセンサー素子。
【請求項4】
前記ナノカーボン材料を含有する抵抗体がカーボンナノチューブであって、1μm2あたりの前記カーボンナノチューブ総長さ(L)を前記第1電極と前記第2電極の間の距離である電極間距離(Lc)で割った値(L/Lc)が0.2≦L/Lc≦50である請求項1に記載のセンサー素子。
【請求項5】
前記L/Lcが0.2≦L/Lc≦5である、請求項4に記載のセンサー素子。
【請求項6】
前記ナノカーボン材料が半導体純度80wt%以上のカーボンナノチューブであり、共役系重合体を含有する、請求項1に記載のセンサー素子。
【請求項7】
前記p型半導体が酸化モリブデンである請求項1に記載のセンサー素子。
【請求項8】
前記p型半導体がp型の有機半導体である請求項1に記載のセンサー素子。
【請求項9】
前記基板にヒーターが備え付けられた請求項1に記載のセンサー素子。
【請求項10】
前記下地層の体積抵抗率が1E6Ω・cm以上である請求項1記載のセンサー素子
【請求項11】
前記第1電極および前記第2電極がソース電極およびドレイン電極であって、さらにゲート電極を備えるセンサー素子である請求項1に記載のセンサー素子。
【請求項12】
前記ナノカーボン材料を含有する抵抗体がガスを検知する感ガス体である請求項1に記載のセンサー素子。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載のセンサー素子を用いてなるガスセンサー。
【請求項14】
請求項1~12のいずれかに記載のセンサー素子を複数備え、それぞれがガス応答性の異なる素子であって、混合ガスから任意のガスを特定できるガスセンサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサー素子及びガスセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学物質の微量検知技術は、地球温暖化に代表される環境問題や食の安全性、健康志向の高まりから、大気中のVOC(揮発性有機化合物)検出、食品流通時の鮮度管理、人体から発せられる皮膚ガス等の検知による体調管理・診断、飛行機・列車・自動車等の複数のユーザーが利用する空間の臭い検知による快適性向上、排泄物由来ガス検知による介護者の負担軽減や被介護者のQOL向上、有害ガス検知によるセキュリティー向上など、様々な展開が期待されている。
【0003】
特に需要増加が顕著な分野であるヘルスケア分野の中でも、呼気に含まれているガスの分析は、比較的単純な物質が多く、分析し易いため、簡便な検査による病気発見、体調管理に利用しやすくなるため近年注目されている。
【0004】
ガスをリアルタイムで高感度かつ選択的に検出する必要のあるガスセンサーの技術は、特に需要が増加している。また、ヘルスケア分野に限らず、需要増加傾向にある分野の多くが、ppbオーダーの高い検出感度と多種のガスからの選択的検知能がセンサーに求められている。
【0005】
しかしながら、市販されている主なガスセンサーは、検出感度がppmオーダーで感度が不十分であり、高い作動温度(200~500℃)により消費電力が高くなるとともに、劣化も早く、ガス種の識別能もほとんど無いなどの問題で、需要に応えられていない。そのため、現実には、研究所などで使用される一つの分野に特化した特殊な分析装置を組み込んだり、組み合わせたりした装置をセンサー代わりに使用することで対応する事が多く、非常に高額で汎用性がないことから、一部のごく限られた需要にしか対応出来ていない。
【0006】
ガスセンサーの検出感度不足に対しては、センサーに使用する材料をナノサイズ化することによって表面積を大きくする効果で微量分子を検出しやすくし、感度を向上する方法(特許文献1)や、複数の材料を組み合わせたハイブリッド化による信号強度増幅による感度向上が検討されている(非特許文献1)。
【0007】
また、高い作動温度(200~500℃)による高消費電力や劣化に対しては、ナノ炭素材料を用いることによって、低温駆動と高感度化を両立させる開発検討が行われている(特許文献1)。ナノカーボン材料を用いたガスセンサーは、検出対象物質がナノカーボン材料表面に付着することによる接触抵抗変化やキャリア注入によって起こる抵抗値変化に基づいて検出対象物質を検出する。そのため室温でも使用可能であり、検出に高温を必要とする既存の金属酸化物を用いたガスセンサーよりも優れている。
【0008】
更には、半導体純度の高いナノ炭素材料を使用することによってより感度が向上するとの報告もある(非特許文献2)。
【0009】
一方、現在汎用的に使用されている多くのガスセンサーは、いずれも、金属酸化物表面の酸素とガス分子が高温(200~500℃)で反応した際の、表面の電気的変化を検出する仕組みを利用しているため、燃焼しやすいガス分子は全て検出してしまい、二酸化炭素の様な一部のガスを除いて、ガス選択性を有していない。
【0010】
そのため、現状は、加熱器の温度をコントロールして検出部表面の反応性を制御したり、フィルターによって検出対象外のガスを排除したり、異なるセンシング材料を組み合わせて、異なる検出波形を読み取る外部装置によってガス選別を行っているが、組み合わせに限りがあり、多種多様なガスに対する選択性を持たせることが困難である。このため、需要が最も多くなると予想されるヘルスケア分野などの夾雑ガスが多い用途に適用することが困難な状態である。また、フィルターを複数種組み合わせる等の工夫も技術的に可能ではあるが、検出感度の低下と高コスト化につながり現実的ではない。
【0011】
検出選択性を付与する技術としては、検出対象物質と相互作用する感ガス体としてカチオン性ポリマーを含む層と酸化グラフェン層とを積層させることによって検出選択性を付与する技術が提案されている(特許文献2)。また、ナノ炭素材料と酸化物半導体を組み合わせることによって、個々の材料単独では不可能であった選択的ガスセンシングを発現させる試みも進められている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008-185495号公報
【特許文献2】特開2020-134498号公報
【特許文献3】国際公開第2021-256384号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Sens.Actuat.B170,p.67-74(2012)
【非特許文献2】ASC Sens.3,p.79-86(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
需要が増加しているセンシングデバイスの分野のセンシング材料には、物質を選択的に識別する材料が少ない。材質自体に物質(分子)選択性機能のある材料も種類が多くないため、応答性の異なる複数のセンシング材料を組み合わせても、最も望まれている複雑な夾雑物が存在する医療分野では、有効なセンシング材料の組み合わせ数が少なすぎるため、ほとんど有効に対応できていないのが現状である。
【0015】
また、特許文献1~3、及び非特許文献1~2のいずれの方法も、市販センサーの課題である識別能に乏しい問題点を解決するには至っていない。
【0016】
特許文献2と、特許文献3では、ガス選択性のある感ガス体の例が示されているが、現状必要とされている無数の選択性の全てをカバーするには十分とは言えない。
【0017】
本発明は、化学物質を選択的に識別可能な、新たなセンサー素子を提供することにある。特にガスセンサーの分野では、低温駆動、高感度、ガス分子に対する選択的検知能のある感ガス体として使用可能なセンサー素子、およびガスセンサーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
すなわち、本発明は、
(1)基板と、第1電極と、第2電極と、前記第1電極および前記第2電極に接するナノカーボン材料を含有する抵抗体と、抵抗体と接した下地層を有し、下地層が抵抗体と接したp型半導体を含有することを特徴とするセンサー素子
(2)前記p型半導体の仕事関数が4.5eV以上であることを特徴とする(1)に記載のセンサー素子
(3)前記抵抗体の厚みが、0.6nm以上、12nm以下の範囲である(1)~(2)いずれかに記載のセンサー素子
(4)前記第1電極および前記第2電極に接し、ナノカーボン材料を含有する抵抗体がカーボンナノチューブであって、1μm2あたりの前記カーボンナノチューブ総長さ(L)を前記対向電極の間の距離である電極間距離(Lc)で割った値(L/Lc)が0.2≦L/Lc≦50である(1)~(3)いずれかに記載のセンサー素子
(5)前記L/Lcが0.2≦L/Lc≦5である、(1)~(4)いずれかに記載のセンサー素子。
(6)ナノカーボン材料が半導体純度80wt%以上のカーボンナノチューブであり、共役系重合体を含有する、(1)~(5)いずれかに記載のセンサー素子
(7)p型半導体が酸化モリブデンであることを特徴とする(1)~(6)いずれかに記載のセンサー素子
(8)前記p型半導体がp型の有機半導体である(1)~(6)のいずれかに記載のセンサー素子。
(9)前記基板にヒーターが備え付けられた(1)~(8)いずれかに記載のセンサー素子
(10)前記下地層の体積低効率が1E6Ω・cm以上であることを特徴とする(1)~(9)いずれかに記載のセンサー素子
(11)前記センサー素子の第1電極および第2電極がソース電極およびドレイン電極であって、さらにゲート電極を備えるセンサー素子であることを特徴とする(1)~(10)いずれかに記載のセンサー素子
(12)前記第1電極および前記第2電極に接したナノカーボン材料を含有する抵抗体がガスを検知する感ガス体であることを特徴とする(1)~(11)いずれかに記載のセンサー素子
(13)(1)~(12)のいずれかに記載のセンサー素子を用いてなるガスセンサー。
(14)(1)~(12)のいずれかに記載のセンサー素子を複数備え、それぞれがガス応答性の異なる素子であって、混合ガスから任意のガスを特定できるガスセンサー。
【発明の効果】
【0019】
本発明のセンサー素子は、低温駆動、高感度、識別能のあるガスセンサーとして使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るガスセンサーを示した模式断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係るガスセンサーを示した模式断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例においてガスの検出に用いた測定セットの構成を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施の形態に係るガスセンサーの構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施の形態に係るセンサー素子でのアンモニアの検知結果を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施の形態に係るセンサー素子での一酸化窒素の検知結果を示す図である。
【
図7】
図7は、比較例に係るセンサー素子でのアンモニアの検知結果を示す図である。
【
図8】
図8は、比較例に係るセンサー素子での一酸化窒素の検知結果を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施の形態に係るガスセンサーデバイスの一例を示す概略断面図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施形態に係るガスセンサーを示した模式断面図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施形態に係るガスセンサーを示した模式断面図である。
【
図12】
図12は、本発明の実施形態に係るガスセンサーを示した模式断面図である。
【
図13】
図13は、本発明の実施形態に係るガスセンサーを示した模式断面図である。
【
図14】
図14は、本発明の実施の形態に係るヒーターを備えたガスセンサーの一例を示す概略断面図である。
【
図15】
図15は、本発明の実施の形態に係るヒーターを備えたガスセンサーの一例を示す背面概略図である。
【0021】
以下、本発明に係るセンサー素子の好適な実施の形態を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0022】
本発明の実施の形態に係るセンサー素子は、基板と、第1電極と、第2電極と、前記第1電極および前記第2電極に接するナノカーボン材料を含有する抵抗体と、p型半導体を下地層としていることを特徴とするセンサー素子である。
【0023】
ここで、素子とは、一般に、ある作用が効果を及ぼす事を期待して新しい装置を作ろうとした場合、その作用を実現しうる機能・特性を有した物体を、特性を発揮し得る形に加工された物体を「素子」と言い、素子を外周器に格納して保持器に保持させ、量産に利用できる状態にしたものは部品(コンポーネント)や装置(デバイス)、組み付け(アセンブリ)と呼んで区別される。 また、多数の素子をひとつの物体の中に作成することも可能で、このような素子は「集積素子」と呼ばれ、集積回路が代表的な例となる。
【0024】
また、センサー素子とは、一般に、光、温度、音、形など種々のものを検知し測定する素子のことを示す。被検体が気体であれば、特にガスセンサー素子と表現する場合も多い。
【0025】
ガスセンサーとは、装置に相当し、特定の化学物質の存在を検出する一種の化学センサーであり、被検体が気体のもののことを指す。常温・常圧においてその最安定な相が気相でないような物質であっても、通常は一定の蒸気圧を有しており、気体試料中に含まれている。この場合、気体試料中の当該物質の量は微量であることがある。本発明の実施の形態に係るセンサー素子は、そのような微量の物質も検出対象とすることができる。
【0026】
検出対象物質の検出は、第1電極と第2電極の間に一定の電圧を印加し、そこへ検出対象物質を暴露した時に両電極間に流れる電流値の変化によって行っても良いし、第1電極と第2電極の間に一定の電流を流し続け、そこへ検出対象物質を暴露した時の印加電圧の変化によって行っても良い。また、これらの電圧-電流の値から抵抗値を算出し、その変化によって対象物質の検出を行っても良いし、時間当たりの電気的信号の変化率を算出することにより行っても良い。電気的信号を読み取るための測定装置や、用途に応じて選択することが可能である。
【0027】
<下地層>
下地層はp型半導体を含んでおり、これと接する抵抗体の特性を改質する。p型半導体が抵抗体の特性を改質するメカニズムについては、まだ不明な点も存在するが、ナノカーボンの仕事関数よりも大きな仕事関数を有するp型半導体とカーボンナノチューブ(以下「CNT」と呼ぶ)が接触した際に、ナノカーボン中の価電子帯の電子の一部がp型半導体へ移動してナノカーボン中のホールが増加する。ナノカーボン中のホールが増加していると、元々ホールを増加させる応答性を示す一酸化窒素、二酸化窒素のようなガスへナノカーボンを曝しても、それ以上ガスによってホールを増加させるのが難しくなり、ナノカーボン中のホール量の変化が起こりにくくなるため、一酸化窒素、二酸化窒素へは応答を示さなくなる。一方、ナノカーボン中のホールが減少する形で応答性を示す、アンモニアガスの様なガスにホールが増加しているナノカーボンが曝された際は、ナノカーボン中に十分に存在するホールが減少する形でアンモニアに応答性を示すと考えられる。
【0028】
下地層は、p型半導体を含んでいる必要があり、p型半導体がナノ―ボンと接することができる状態で含んでいることが必要となる。p型半導体がナノカーボンと接することができる状態で下地層を形成する方法として、例えば、アクリル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、アミド系ポリマー、ビニル系ポリマー、シロキサンポリマーなどは、溶液として加工、または熱溶融して加工などによって、基板上に容易に下地層として形成できる。これらポリマーにp型半導体のナノ粒子、マイクロ粒子を分散させた状態で下地層として形成しても良いし、p型半導体をそのまま下地層としても良い。p型半導体としては、酸化物半導体、及び有機半導体を好適に使用できる。
【0029】
本発明では、これらの材料のなかでも、ナノカーボンに対して下地層がアクセプターとして機能する酸化物半導体、及び有機半導体であることが好ましい。
【0030】
酸化物半導体の具体的な例としては、酸化鉄(II)(FeO)、酸化ニッケル(II)(NiO)、酸化コバルト(CoO)、酸素過剰酸化物の二酸化ウラン(UO2)、酸化モリブデン(IV)(MoO3)などを用いることができ、安定性の点で酸化モリブデン(IV)(MoO3)を用いることが好ましい。
【0031】
p型の有機半導体としては、例えば、国際公開第2009/139339号、国際公開第2020/066741号、特開2011-126727号公報の中でカーボンナノチューブの分散剤として使用可能な共役系重合体として説明されている中から選ぶことも好適である。入手し易さの観点では、溶液として塗布可能なポリマー系の有機半導体としては、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体、ポリ(2,5-ビス(3-アルキルチオフェン-2-イル)チエノ[3,2-b]チオフェン(略称:PBTTT-R)及びその誘導体、ポリ[2,6-(4,4-ビス-アルキル-4H-シクロペンタ [2,1-b;3,4-b‘]ジチオフェン)-alt-4,7-(2,1,3-ベンゾチアジアゾール)](略称:CDT-BTZ)及びその誘導体、インダセノジチオフェン-ベンゾチアジアゾール共重合体(略称:IDTBT)及びその誘導体、ポリ[(9,9-ジ-n-オクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-alt-(ベンゾ[2,1,3]チアジアゾール-4,8-ジイル)](略称:F8BT)及びその誘導体、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-ビチオフェン](略称:F8T2)及びその誘導体、ポリ[2-メトキシ-5-(2-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン](略称:MEH-PPV)及びその誘導体、ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン] (略称:PTAA)及びその誘導体、ポリ({4,8-ビス[(2-エチルヘキシル)オキシ]ベンゾ[1,2-b:4,5-b’]ジチオフェン-2,6-ジイル}{3-フルオロ-2-[(2-エチルヘキシル)カルボニル]チエノ[3,4-b]チオフェンジイル})(略称:PTB7)及びその誘導体などのポリマーが好適に使用できる。また、蒸着、エッジキャスト、ドロップキャストそれぞれの方法を用途に応じて選択的に成膜できる単分子系の有機半導体として、チエノ[3,2-F:4,5-F]ビス[1]ベンゾチオフェン(略称:TBBT)及びその誘導体、ベンゾチエノベンゾチオフェン(略称:BTBT)及びその誘導体,ジナフトチエノチオフェン(略称:DNTT)及びその誘導体などが挙げられる。
【0032】
下地層がp型の有機半導体であれば、本発明の効果は得られるが、より明確な選択性の効果を得たい場合は、使用するナノカーボンの仕事関数よりも大きな仕事関数を有する有機半導体を選択するのが好ましい。
【0033】
p型半導体をバインダー等と混合した状態で下地層とする場合のp型半導体の比率は、p型半導体がナノカーボン接することができる様に、好ましい形態は50体積パーセント以上であり、より好ましくは60体積%以上、更に好ましくは70体積%以上、更に好ましくは80%以上で、加工できる限り多い方が好ましく、100%であることが最も好ましい。
【0034】
また、一般にp型半導体は、仕事関数がナノカーボンより大きいことが多いため、p型半導体であれば、殆どの場合は効果を発揮するが、プロセス上の都合などで、一般的に入手しにくい特殊なp型半導体を利用する場合は、仕事関数がナノカーボンより大きいp型半導体を選択すると良い。目安として、仕事関数が4.5eV以上のp型半導体を用いれば、効果的にナノカーボンからp型半導体へキャリアの移動が起こる。仕事関数の上限は特に制限があるわけでは無いが、p型半導体として通常一般的に利用できる材料の仕事関数は、大きくてもせいぜい12eV程度である。
【0035】
p型半導体だけで下地層を形成する方法としては、p型半導体の蒸着や、スパッタリングで下地層を形成しても良いし、ナノスケールまたはマイクロスケールの粒子や結晶を溶液中に分散させて塗布乾燥して成膜しても良いし、基板上に結晶成長させたナノ結晶膜を利用するのも良いし、金属酸化物表面を還元する方法、金属表面を酸化させて下地層として利用するのも良い。スパッタリングの中でも、酸化物半導体を本発明のp型半導体として用いる場合は、マグネトロンスパッタリングで行うと、スパッタリング後の組成が原料組成と比較して変化しにくいことから特に好ましい。粒子状のp型半導体を樹脂に埋包して成膜する形で下地層としても良いし、p型半導体としての物性を失わなければ、形状を問わず樹脂と混合して下地層に形成しても良い。p型半導体とカーボンとを接触できる構造であれば、特に手法について制限はなく、p型半導体として機能する組成を維持できる方法を、目的とするセンサー形状に合わせて選択すると良い。
【0036】
ナノカーボンを含む抵抗体の特性を効果的に改質するために、下地層とナノカーボンは接触する様に使用するのが好ましい。p型半導体によって、抵抗体に含まれるナノカーボン材料の特性が改質されたことは、抵抗体の仕事関数の変化として観測することができる。改質の程度は、ナノカーボンとp型半導体の接する量が多いほど、使用しているナノカーボン全体としては改質の度合いが強まり、仕事関数が大きくなる方向へ改質される。
【0037】
仕事関数は、センサー素子中の抵抗体と下地層が存在する領域の大気中光電子分光測定を実施することにより測定することができる。本発明の効果を得るためには、ナノカーボンの仕事関数が元々の仕事関数よりも、0.1eV以上大きくなるように調整するのが好ましく、0.2eV以上大きくなるように改質すると更に好ましく、0.3eV以上であると更に良い。改質しすぎると、ナノカーボンの状態が比較的不安定になり、例えば前記記載の改質後に応答性を示すアンモニアガスが吸着したてもナノカーボンとアンモニアが吸着した状態の方が安定となり、吸着したガスが脱離しにくくなって電気信号の変化が分かりにくくなりセンサーとしての性能が悪化することがあるため、上限としては、改質の幅が1.0eV以下程度に収めるのが好ましい。通常大気下で扱える材料を本発明の形態で組み合わせている分には、センサとして支障が生じるレベルで改質されることは起こりにくいため、上限を気にして調整する必要は特にない。
【0038】
p型半導体と抵抗体との接触を安定的かつ効率的に形成させるために、下地層はナノカーボンと接しやすい構造で使用するのが好ましい。
【0039】
十分な選択性および応答速度向上の効果を得る観点から、下地層中におけるp型半導体の量は多い方が好ましい。一方で、p型半導体がナノカーボンと接している状態で下地層の層構造を維持できなければ量を増やすことに限界が生じる。
【0040】
抵抗体に含まれるナノカーボンは、p型半導体に接触していることによって状態が改質され、p型の半導体の性質が強まる。接している量が多いほど抵抗体はp型としての半導体特性が強くなる。これは、p型半導体とナノカーボンが接触することによって、ナノカーボン中の価電子帯の電子がp型半導体へ移動することによると考えられる。このため、p型半導体と接している抵抗体中のナノカーボンの数が多いほど、抵抗体全体としてはp型の特性が強まる。
【0041】
通常、ナノカーボンは空気中の酸素や水の影響で、弱いp型となっていることが多く、キャリアの担い手であるホールを減少させる影響を与えるアンモニアなどに応答性を示すが、ホールをより増加させて、更にp型の特性が強くなるような影響を与えるNOxにも応答性を示す。しかしながら、初めから強いp型となっているナノカーボンは、それ以上ホールが増加しなくなっているため、p型の特性が強くなるような影響を与えるNOxに曝されてもホール量が変化せず、応答性を示さなくなる。
【0042】
センサーの素子に使用する下地層は、電極間をつなぐナノカーボンを含有する抵抗体よりも高抵抗であることが好ましい。ナノカーボンを含有する抵抗体よりも低抵抗であると、下地層へ優先的に電流が流れ、ナノカーボンを含む抵抗体がセンサー感応膜として機能しにくくなる。素子の構成にもよるが、p型半導体の下地層に優先的に電流が流れると、下地層がターゲットと接触できる状態の素子は、下地層がナノカーボンを含む抵抗体よりも強くターゲットに応答する感応膜として機能してしまい、結果としてナノカーボンを含有する抵抗体が機能していない様にみえてしまうようになる場合もある。したがって、下地層は、ナノカーボンを含む抵抗体よりも電流が流れない様に高抵抗であることが好ましく、絶縁性であると、ナノカーボンを含有する抵抗体に優先的に電流が流れるようになり、ナノカーボンが感応膜として有効に機能する点で更に好ましい。
【0043】
下地層の体積抵抗率がナノカーボンを含有する抵抗体よりも大きければ、センサーとしては十分に機能するが、体積抵抗率の値が近い場合は、一部の電流が下地層にリーク電流として流れてしまうため、センサーとしての性能が低下する。そのため、下地層の体積抵抗率は高い方が好ましく、感応膜として使用するナノカーボンを含有する抵抗体よりも2桁以上大き方が好ましく、より好ましくは5桁以上、更に好ましくは10桁以上であり、ppbオーダーの物質検知に使用する場合は12桁以上差があるのが好ましい。上限については、通常の絶縁物質を使用する分には限界が存在するため、特に調整を考えずとも問題はなく、体積抵抗率の差を目安に調整するのが重要である。
【0044】
また、体積抵抗率の大きな下地層を準備できないときは、ナノカーボンを含有する抵抗体の、ナノカーボンの含有量を増やす、ナノカーボンの結晶性を高くするなどの方法によって抵抗体としての体積抵抗率を下げることによって差を大きくする調整も可能である。通常、結晶性を持つナノカーボンはある程度の導電性を持つため、体積抵抗率が1E5Ω・cm以上の材料をもちいれば、十分な抵抗差があるため、下地層として問題なく班発明の効果を得ることが可能であるが、ガスセンサーとして検出下限濃度を低濃度まで検知できるように性能を向上させたい場合は、電極間の抵抗体と下地層の体積抵抗の差を大きくして漏洩電流を小さくするほど精度が高くなるため、下地層の体積抵抗率は1E6Ω・cm以上であると更に好ましく、一般的に絶縁体と呼ばれる1E8Ω・cm以上であると更に好ましく、セラミックに代表されるような1E10Ω・cm以上の材料を用いるのが、精度の点で最も好ましい。
【0045】
次に、電極とナノカーボン材料を含有する抵抗体と、下地層との配置について説明する。本発明の実施の形態に係るセンサー素子と、センサー素子をセンサーとして機能させる際の基本構造例について、その模式断面図を
図1~
図2に示す。
【0046】
図1に示すセンサー10では、基板1の上にp型半導体を含んでなる下地層4を有し、その上にナノカーボンを含有する抵抗体3が存在し、第1電極2aおよび第2電極2bの間に抵抗体が形成される状態で上部に電極が設置されている。Vは電圧計を表し、第1電極と第2電極との間の電圧を測定する。Aは電流計を表し、第1電極と第2電極との間を流れる電流を測定する。また、第1電極、第2電極を含む回路には電圧を調整可能な電源も接続されている。本発明の実施の形態に係るセンサーを用いて検出対象物質を検出する方法としては、抵抗体を検出対象物質に暴露した際の、抵抗体の電圧値や電流値の変化によって検出してもよいし、それらの値から抵抗体の抵抗値やインピーダンスを算出し、その変化によって検出してもよい。
【0047】
図2に示すセンサー20では、基板1の上にp型半導体を含んでなる下地層4が設置され、下地層の上に第1電極2aおよび第2電極2bを有する。そして、第1電極2aと第2電極2bの間の領域に、両電極に接するようにナノカーボンを含む抵抗体3が電極に接する形で存在する。すなわち、
図1に示すセンサー10と比べると、ナノカーボンを含有する抵抗体と電極の存在する場所が異なっている。その他の構成は
図1に示すセンサー10と同様である。
【0048】
本発明の実施の形態に係るセンサーはいずれの構造をとっても良いが、構造のばらつき要因を減らす観点から、
図1に示したような、p型半導体を含有する下地層上にナノカーボンを含有する抵抗体が接した状態で抵抗体が均一にコートされているセンサーがより好ましい。
図2に示した構成は、製造の容易さの点で好ましい。
【0049】
下地層と抵抗体との界面は平滑であってもよいし、どちらかの層に凹凸が存在することでどちらか一方の層がもう一方の層へ貫入したような形態や、相互に貫入した形態であってもよい。界面構造自体は特に制限はないが、下地層とナノカーボンの接触面積が大きくなる構造であることが好ましい。
【0050】
下地層の厚さは、10nm以上、1000nm以下であることが好ましく、25nm以上、750nm以下がより好ましく、50nm以上、500nm以下が特に好ましい。この範囲の厚さにすることにより、均一な薄膜形成が容易になり、製造時に下地層に接するナノカーボンの数のばらつき、すなわち抵抗特性のばらつきが低減する。一般に、厚みが大きくなると、表面の均質性が損なわれる可能性が高くなるが、表面の均質性を保てる材料を用いるのであれば、この限りではない。また、薄すぎる場合は、下地層自体が基板の凹凸や物性の不均性の影響を受けやすくなる点で、50nm以上の厚みが好ましいが、材料の組み合わせ次第による部分もあるため、50nm以上、500nm以下を外れる際は、適宜材料の組み合わせと影響の程度を勘案して組み合わせることが好ましい。下地層の厚さは、光干渉式膜厚測定装置により、基板上の面内10点以上を測定し、その算術平均から求めることができる。
【0051】
下地層は、単層でも複数層でもよい。また、1つの層を複数の材料から形成してもよいし、複数の絶縁性材料を積層して複数からなる下地層を形成しても構わないが、p型半導体がナノカーボン材料を含有する抵抗体を改質できる程度に、p型半導体とナノカーボン材料が接していることが重要である。
【0052】
<ナノカーボン材料>
ナノカーボン材料としては、フラーレン、CNT、グラフェン、カーボンナノホーンなどがあり、それぞれについて以下に述べる。本発明においては、ナノカーボン材料どうしを組み合わせて用いてもよい。組み合わせの例として、CNTの内側にフラーレンが内包された、ピーポッドが挙げられる。
【0053】
フラーレンは、炭素原子どうしがsp2混成軌道間相互作用によって結合している、多面体構造をした化合物である。多面体は、五員環と六員環とから構成される。多面体を構成する炭素数としては、60、70、74、76、78などがある。フラーレンは1分子で用いても良いし、複数のフラーレン分子が集合したフラーレンナノウィスカーや、フラーレンナノウィスカーが中空構造を形成したフラーレンナノファイバーの形態で用いても良い。
【0054】
グラフェンは、グラファイトシートとも呼ばれ、理想的には全ての炭素原子どうしがsp2混成軌道間相互作用で結合し、六角形格子構造をとった1枚のシート状化合物となる。グラフェンが多数積層されると、グラファイトとなる。グラフェンは、バンドギャップが存在しない特殊な半導体である。広義には、グラファイトシートを数層まで重ねたものも含めてグラフェンと呼ばれる。本発明で用いられるグラフェンは、炭素の層が10原子層以下であることが好ましく、3原子層以下であることがより好ましく、単原子層であることが特に好ましい。
【0055】
グラフェンの合成方法は、特に限定されないが、例えば機械剥離法、化学剥離法、炭化ケイ素加熱法、または熱化学気相成長法などが挙げられる。
【0056】
グラフェンが基板上に存在することは、簡易的に光学顕微鏡によって確認することができる。光学顕微鏡による観察は簡便な方法ではあるが、注意深く観察することで、単層、2層、3層のグラフェンを見分けることも可能である。より詳細な分析にはラマン分光法が用いられる。
【0057】
カーボンナノホーンは、グラフェンを円錐形に丸めた構造をしている。カーボンナノホーンは、室温下、アルゴンガス雰囲気中で、グラファイトに二酸化炭素レーザーを照射することで合成することができる。カーボンナノホーンの直径は、2nm以上5nm以下程度のものが好ましい。カーボンナノホーンは、分離工程を施さない場合は集合体を形成している。本発明では、集合体のまま用いてもよいし、一つ一つを分離して用いてもよい。
【0058】
CNTとしては、1枚の炭素膜(グラファイトシート)が円筒状に巻かれた単層CNT、2枚のグラファイトシートが同心円状に巻かれた2層CNT、複数のグラファイトシートが同心円状に巻かれた多層CNTなどが挙げられる。CNTは、アーク放電法、化学気相成長法(CVD法)、レーザー・アブレーション法等により得ることができる。
【0059】
本発明の実施形態によるセンサー素子の抵抗体に含まれるナノカーボン材料としては、上記の例が挙げられるが、生産タクトの観点、および物質吸着によって大きな抵抗変化を引き起こす電子構造を有することから、CNTが特に好ましい。CNTの中でも、検出対象物質の吸着による抵抗変化によって検出する原理のため、すべてのCNTに検出対象物質が接近できる形態が好ましい。すなわち、対象物質に接することができない内層が存在する多層CNTよりも、単層CNTを用いることが好ましい。
【0060】
単層CNTの中でも、炭素膜の巻き方により、金属的性質を示す金属型CNTと半導体的電気特性を示す半導体型CNTが存在する。本発明に係るセンサー素子の一形態として、検出対象物質の吸着による抵抗体の抵抗変化で検出するものが考えられる。この場合、CNTは、より半導体型CNTの比率が高い方が、検出シグナル強度が大きくなり好ましい。金属型でも検出対象物質の吸着によって抵抗変化は生じるが、バンドギャップの存在する半導体型の方が、対象物質の吸着による抵抗変化が大きく、検出シグナルが強くなる。
【0061】
一般的に入手できるCNTは66.7%が半導体型、33.3%が金属型の混合物であることが、通常である。金属型と半導体型では応答性に差があるため、半導体型と金属型が混合状態となっている場合は、異なる応答性を示すCNTが混在していることになるため、異なるシグナルが混ざり合って、結果として抵抗変化率などのシグナルの強度変化が小さくなり、応答感度の低いセンサー素子となってしまう。そのため、感度の観点でも半導体純度は高い方が好ましく、検出したい対象物が微量であるほど、半導体純度は高い方が好ましくなる。
【0062】
すなわち、抵抗体が複数の単層CNTを含有する場合は、本発明の効果を得るためには、該複数の単層CNTのうち、80wt%以上が半導体型であること、すなわち、半導体純度が80wt%以上であることが好ましく、より高感度で明確な選択性のある抵抗体を得るには、90%以上であることが好ましく、金属型の影響を実質的に受けないレベルの感度という意味においては95%以上のものが半導体型単層CNTであることが好ましい。
【0063】
半導体型CNTの含有比率を測定する方法としては、可視-近赤外吸収スペクトルの吸収面積比から算出する方法や、ラマンスペクトルの強度比から算出する方法、可視-近赤外吸収スペクトルの吸収面積比から半導体型CNTの含有比率を算出する方法等を利用可能であるが、単一のスペクトル情報だけで判断すると、扱っているCNTの直径部分布によっては、2種以上の異なるカイラリティのスペクトルのピークが同一領域(または近い領域)に重なる場合もあるため、透過型電子顕微鏡などで、どの様な直径分布のCNTのスペクトルであるかを確認する必要がある。
【0064】
本発明における半導体型CNTの含有率は、ラマンスペクトルにおいて、金属型CNTのピーク面積と半導体型CNTのピーク面積との比から算出される値である。 p型半導体と接触することによるCNTのキャリア密度および価電子帯/伝導帯の構造変調の度合いは、金属型CNTよりも半導体型CNTの方が物性変化度合いが大きいため、半導体型CNTの方が本発明における効果が明確に生じる。一方、金属型CNTは、元々バンドギャップの大きさが0であり、p型半導体と接触させた際の物性変化の度合いが小さく、本発明の効果が生じるほどの変化につながりにくい。
【0065】
複数のセンサー素子を同時に用いて対象物質の吸着による検出を行った場合、半導体型CNTを用いた素子ごとの応答挙動の差が明確にことなるため、種類の異なる複数の対象物質が混合されていた場合でも、選択的に一つの対象物質の検知を判断することが可能となる。この場合にも、金属型の応答影響は小さい方が、複数素子の違いが明確になるため、半導体型の比率は高い方が好ましい。
【0066】
一方、半導体型CNTの比率が高いということは、同一性質を有するCNT比率を高めることになり、CNT同士の相互作用も強くなり、CNTを一本一本にほぐして均一な分散体を作製することが難しくなるため、加工性に難が生じることが多い。半導体性CNTの含有比率を高める工程でアモルファスカーボン等の不純物を低減することによっても、かかる課題が生じることが多い。
【0067】
この課題に対して、CNTの表面の少なくとも一部に共役系重合体を付着させたCNT複合体(以下、単に「CNT複合体」という)を用いることによって、半導体性CNT含有比率の高いCNTの均一分散液を得ることができ、好ましい。これによって高い感度を有する感ガス体を得ることができ、その結果、高感度ガスセンサー素子を得ることが可能である。
【0068】
<共役系重合体>
共役系重合体とは、モノマーユニット内において、またはモノマーユニット内および隣接するモノマーユニット間において、原子間の多重結合の共役系が連なっている重合体のことである。繰り返し単位が共役構造をとり、重合度が2以上の化合物を指す。
【0069】
共役系重合体としては、ポリチオフェン系重合体、ポリピロール系重合体、ポリアニリン系重合体、ポリアセチレン系重合体、ポリ-p-フェニレン系重合体、ポリ-p-フェニレンビニレン系重合体などが挙げられるが、特に限定されない。上述した重合体は単一のモノマーユニットが並んだものが好ましく用いられるが、異なるモノマーユニットをブロック共重合したもの、ランダム共重合したもの、グラフト共重合したものも用いられる。
【0070】
本発明において、CNTの表面の少なくとも一部に共役系重合体が付着した状態とは、CNTの表面の一部、あるいは全部を共役系重合体が被覆した状態を意味する。
【0071】
上述した重合体の中でも、共役系の電子軌道が大きく、半導体成分との相互作用が大きくなる観点から、繰り返し単位中に硫黄原子を含む複素環が存在する共役系重合体が好ましい。その中でも、半導体成分への付着が強固であり、電子伝導補助効果が高いため、繰り返し単位中にチオフェン環構造を有する共役系重合体が特に好ましい。共役系重合体がCNTを被覆できるのは、それぞれの共役系構造に由来するπ電子雲が重なることによって相互作用が生じるためと推測される。定量的にはX線光電子分光(XPS)などの元素分析によって、付着物の存在とCNTに対する付着物の重量比を同定することができる。
【0072】
共役系重合体の好ましい分子量は、数平均分子量で800以上100000以下である。また、上述した重合体は必ずしも高分子量である必要はなく、直鎖状共役系からなるオリゴマーであってもよい。
【0073】
本発明で用いられる共役系重合体は、公知の方法により合成することができる。モノマーを合成するには、例えば、チオフェンと、カルボキシ基を末端に有するアルキル基を導入したチオフェン誘導体とをカップリングする方法が挙げられる。その具体例として、ハロゲン化したチオフェン誘導体と、チオフェンボロン酸またはチオフェンボロン酸エステルとを、パラジウム触媒下でカップリングする方法、ハロゲン化したチオフェン誘導体と、チオフェングリニャール試薬とを、ニッケルまたはパラジウム触媒下でカップリングする方法などが挙げられる。このようなモノマーを用いて重合反応を行うことによって、側鎖としてカルボキシ基を末端に有するアルキル鎖を導入したポリチオフェン系重合体が得られる。また、チオフェン以外の共役系ユニットとチオフェンとを同様の方法でカップリングさせたものをモノマーユニットとすることもできる。そのようにして得られたモノマーユニットの末端に重合性置換基を導入し、パラジウム触媒やニッケル触媒下で重合を進行させることで、チオフェン以外の共役系ユニットを含む共役系重合体を得ることができる。
【0074】
本発明で用いられる共役系重合体からは、合成過程で使用した原料や副生成物などの不純物を除去することが好ましい。その方法として、例えば、シリカゲルカラムグラフィー法、ソックスレー抽出法、濾過法、イオン交換法、キレート法などを用いることができる。これらの方法を2種以上組み合わせてもよい。
【0075】
電荷キャリアの受け渡しを補助する目的から、共役系重合体はナノカーボン材料の少なくとも一部に付着していることが好ましく、ナノカーボン材料がCNTやカーボンナノホーンの場合、それらの側壁に付着していることがより好ましい。共役系重合体がナノカーボン材料に付着していることを確認する手段としては、反射スペクトルを測定し、ナノカーボン単独のスペクトルから変化していることを確認する方法がある。フラーレン、CNT、カーボンナノホーンといった、細い形状のナノカーボン材料ならば、原子間力顕微鏡(AFM)によって、ナノカーボン材料に共役系重合体が付着している様子を直接観測することもできる。
【0076】
ここで言う「付着」とは、異種の物質が互いに接触し、分子間相互作用によって容易に離れなくなることを指す。このような分子間相互作用としては、疎水性相互作用、π-π電子相互作用、カチオン-π相互作用、複数の静電相互作用、または複数の水素結合などが挙げられる。
【0077】
CNTの表面の少なくとも一部に共役系重合体を付着させることにより、CNTの保有する高い電気的特性を損なうことなくCNTを溶液中に均一に分散することが可能になる。
【0078】
CNTの表面の少なくとも一部に共役系重合体を付着させる方法としては、(I)溶融した共役系重合体中にCNTを添加して混合する方法、(II)共役系重合体を溶媒中に溶解させ、この中にCNTを添加して混合する方法、(III)CNTをあらかじめ超音波等で予備分散させておき、そこへ共役系重合体を添加し混合する方法、(IV)溶媒中に共役系重合体とCNTをいれ、この混合系へ超音波を照射して混合する方法などが挙げられる。本発明では、いずれの方法を用いてもよく、いずれかの方法を組み合わせてもよい。
【0079】
本発明に用いられる共役系重合体としては、例えば国際公開第2009/139339号、国際公開第2020/066741号、特開2011-126727号公報に記載されているものも好ましい。
【0080】
これら共役系重合体は、前記一般的に考えられているメカニズムによって半導体CNTを効果的且つ安定に単一分散した溶液とすることが可能となり、本発明の効果を効果的に発揮するのにも好適である。
【0081】
<素子の構成>
CNTの長さは、電極間の距離よりも短いことが好ましい、CNTは導電性が高いため、電極間を半導体型CNT1本で接続された状態の抵抗体は、電流が流れ過ぎて対象物質が付着した際の電気的変化が相対的に小さくなり、感度が低下することがある。そのため、電極間は2本以上のCNTを介した状態で接続されていることが好ましい。
【0082】
ただし、CNTは、直径によっても異なるが、長さ1.0μm以上では、長くなるほど長さに応じて曲線状の形態をとり易くなり、長さ1.0μm未満では直線状の形態と成りやすい。そのため、電極間隔が1.0μm以上である素子を用いる場合は、電極間隔距離と同じ長さのCNTでも、1本で電極間を接続する状態にはなりにくいため、電極間隔が1.0μm以上である素子では、電極間隔と同じ長さのCNTを使用することも可能である。より具体的な長さの制限については、CNTの直径と塗布方法、成膜方法によっても曲がり方が変わるため、AFMなどを用いて、CNT1本で電極間を接続していないことを確認すると良い。
【0083】
本発明の効果を得やすいと言う観点での、CNTの長さの目安としては、0.4nm以上10μm以下であることが好ましい。CNTの長さの下限は0.5nm以上がより好ましい。また、CNTの長さの上限は5μm以下がより好ましく、2μm以下がさらに好ましく、1.5μm以下が特に好ましい。長すぎるとリング状になる可能性が高まり、リング状のCNTが多くなるほど電極間の抵抗が高くなり、ノイズの影響が大きくなるので、感応膜としての性能が実質的に低下する。短すぎると、CNT同士の接点が多くなりすぎて電極間の抵抗が高くなり、ノイズの影響が大きくなるので、感応膜としての性能が実質的に低下する。
【0084】
CNTの長さ調整の方法としては、CNTを溶媒中に均一分散させ、分散液をフィルターによってろ過する事によってフィルター孔径よりも小さいCNTを濾液として得ることができ、フィルター孔径よりも長いCNTを濾取物として取り出せる。この場合、フィルターとしてはメンブレンフィルターが好ましく用いられる。また、その他CNTを短小化する方法として、酸化剤による酸化、凍結粉砕処理などが挙げられる。
【0085】
一般に、CNTは、太さ、及び、長さにばらつきがある状態で使用されることが多いが、太さ、長さは揃っているほど、感応膜(感ガス体など)として使用した際に感応膜の均一性が増すので、電流が均一に流れるようになり、感度が向上する。ネットワーク全体の電流が均一であれば、電極間でネットワーク構造である感応膜であるCNTが全体で同様の応答性を示すため、素子全体での変化が同時に積算され高感度となる。電流が不均一に流れていると、場所によって応答性が変わるため感度が低下しがちとなる。
【0086】
CNTがバンドル状態でも、1本の状態でも、電極間をつなぐネットワーク構造としては、同様の電流経路として働くが、バンドル部分は抵抗が高くなることが多く、電流がネットワーク全体を均一に流れる妨げとなることが多い。そのため、CNTを抵抗体として使用する場合、抵抗体を形成しているCNTのバンドルは少ないほど好ましく、最も好ましい形態は、電極間のネットワーク構造を形成しているCNTが単分散している状態である。また、バンドルがネットワーク構造の一部に混ざっている場合は、バンドルの直径は、小さいほど、ネットワーク構造全体の電流ばらつきが小さくなるため好ましい。
【0087】
CNT複合体を利用することによって良好な応答性を示すセンシング材料となる明確なメカニズムの全て明らかになっているわけではないが、非共役系重合体をCNT表面に付着させたものを用いる場合、CNTを通常の界面活性剤により分散させたものを用いる場合と比較して、CNT同士の接点における電流の流れ等の、電気的特性を阻害しないことが特長としてあげられる。従って、CNT複合体を抵抗体として電極間にネットワーク構造を形成した場合、CNT間の電気的特性を阻害する分散剤(ヒドロキシプロピルセルロース)を高温焼成によって取り除く工程を経ずとも、CNT複合体のまま高感度な抵抗体として使用することができる。
【0088】
また、CNT複合体では、共役系重合体がCNTの電気的特性を阻害しにくいため、CNT複合体がバンドルを組んでしまった場合でも、抵抗の上昇が小さい。そのため、電極間で形成されたCNT複合体のネットワーク構造を流れる電流が均一になりやすく、電極間をつなぐCNTのネットワークにバンドルが混入してしまっても比較的簡便に高感度な抵抗体を形成しやすく、素子作製工程での汎用性が高くなる。
【0089】
CNTの太さは、共役系重合体との複合体を形成できる太さであれば制限は無いが、通常、平均直径が0.6nm~2.5nmの範囲であれば、複合体としての種々の効果が得られる。CNTの平均直径は、下限としてはより好ましくは0.8nm以上であり、さらに好ましくは1.0nm以上である。また、上限としてはより好ましくは2.0nm以下であり、さらに好ましくは1.8nm以下である。CNTの直径が太すぎると、CNT形状が円形から楕円形にゆがんだ形になりやすく、抵抗体として使用した際に、対象物質が付着する場所によって応答性が変わるため、膜全体として信号にムラが生じるので、感度が低下するため、2.0nm以下が好ましい。CNTの直径が細いと、CNT1本あたりの比表面積が大きくなることによるセンサーとしての効果が増す反面、チューブ形をしているCNT表面の曲率が大きくなるため、構造上、共役系重合体のπ電子雲とCNTのπ電子雲が重なりにくくなり、複合体としての上記種々の効果が得にくくなる。CNTの直径が太いと、CNT自体のガスセンサーとしての感度は比表面積が低下する影響を受けるが、共役系重合体のπ電子雲とCNTのπ電子雲が重なりやすくなり、複合体としての上記種々の効果を得られるため、総合的には1.2nm~1.7nmがバランスが取れていて抵抗体としては高感度となり好ましい。
【0090】
また、通常、CNTの長さを調整したり、分散強化でバンドル量を減らしたりする処理を行うと、CNTが欠損を生じて劣化する事が多い。一方でそれらの処理条件を弱めると、CNT長さが揃わなかったり、バンドルが多数混入したりする。このようなトレードオフ関係の中では、上記の処理条件を都合の良いあたりに調整するしか無く、中途半端な状態でCNTを使用する事も多いが、直径1.2nm~1.7nmのCNTは、これら処理によっても欠損が入りにくい点でも好ましい。
【0091】
CNTの80重量%以上が半導体型CNTであるCNT複合体を用いることは、前記問題を解決し、センサー素子を形成した際、非常に高感度なセンサー素子となる。均質に半導体型CNTを分散して均質な抵抗体を形成できるだけで無く、抵抗体であるCNT複合体のネットワーク構造の容易な制御が可能となることも、本発明の特長である。
【0092】
CNT領域を形成する方法としては、抵抗加熱蒸着、電子線ビーム、スパッタリング、CVDなど乾式の方法を用いることも可能であるが、製造コストや大面積への適合の観点から塗布法を用いることが好ましく、本発明では、CNT複合体を使用することによって、塗布以外の特別な処理をしなくとも、高感度なセンサーを作製可能であり、検出対象物質がガスである場合、高感度なガスセンサーを作製可能である。具体的には、スピンコート法、ブレードコート法、スリットダイコート法、スクリーン印刷法、バーコーター法、鋳型法、印刷転写法、浸漬引き上げ法、インクジェット法などを好ましく用いることができ、塗膜厚み制御や配向制御など、得ようとする塗膜特性に応じて塗布方法を選択できる。また、形成した塗膜に対して、大気下、減圧下または窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下でアニーリング処理を行ってもよい。
【0093】
電極間の任意のCNT領域の1μm2あたりのCNT総長さ(L)を電極間距離(Lc)で割った値(L/Lc)は0.2≦L/Lc≦50であることが好ましく、0.2≦L/Lc≦10がより好ましく、0.2≦L/Lc≦5がさらに好ましい。これらの式は、電極間距離が長くなるほどCNT総長さが長くなるよう調整することを意味し、電極間距離が長くなっても抵抗体の単位面積当たりのCNTが同じであると、電極間の抵抗値が大きくなってノイズが増加するため、CNT総長さがこれらの範囲で調整すると、外部対象物質が拡散によって抵抗体と触れさせた際の、センサー素子としての感度がより向上し、特にガスセンサーとして使用する際の感度が向上する。
【0094】
ここで、CNT領域の1μm2あたりのCNT総長さとは、原子間力顕微鏡を用いてCNT領域の1μm2の視野角を観察した際の、当該視野角に存在するCNTの長さの合計量をいう。CNT総長さの算出においては、この観察を10箇所の視野角で行い、各視野角で測定されたCNTの総長さを平均した値を採用する。
【0095】
より詳細には、対向電極の電極間距離によってCNT総長さを調整するのが好ましい。調整の方向としては、対向電極の電極間隔が小さくなるほどCNT総長さを小さくし、対向電極の電極間隔が大きくなるほどCNT長く調整するのが好ましい。CNT総長さは、塗布するCNT複合体の量を変えるか、濃度を調整することによって変えることができる。
【0096】
<電極>
本発明に係るセンサー素子の電極材料は、一般的に電極として使用されうる導電性材料であれば、いかなるものでもよい。そのような導電性材料としては、例えば、酸化錫、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)などの導電性金属酸化物が挙げられる。また、白金、金、銀、銅、鉄、錫、亜鉛、アルミニウム、インジウム、クロム、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム、マグネシウム、パラジウム、モリブデン、アモルファスシリコンやポリシリコンなどの金属、これらの中から選択される複数の金属の合金、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質が挙げられる。また、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸との錯体、ヨウ素などのドーピングによって導電率を向上させた導電性ポリマーが挙げられる。さらには、炭素材料、有機成分と導電体とを含有する材料などが挙げられる。
【0097】
有機成分と導電体とを含有する材料は、電極の柔軟性が増し、屈曲時にも密着性が良く電気的接続が良好となる。有機成分としては、特に制限はないが、モノマー、オリゴマーもしくはポリマー、光重合開始剤、可塑剤、レベリング剤、界面活性剤、シランカップリング剤、消泡剤、顔料などが挙げられる。電極の折り曲げ耐性向上の観点からは、オリゴマーもしくはポリマーが好ましい。しかし、電極の導電性材料は、これらに限定されるものではない。これらの導電性材料は、単独で用いてもよいが、複数の材料を積層または混合して用いてもよい。
【0098】
また、電極の幅、厚み、および各電極間の間隔は任意である。具体的には、電極の幅は5μm以上、1mm以下であることが好ましく、電極の厚みは0.01μm以上、100μm以下であることが好ましく、対向電極の電極間距離は1μm以上、500μm以下であることが好ましく、混入している金属型CNTが短絡しにくく、且つ、高感度化を維持しやすいという点で、より好ましくは3μm以上100μm以下、用いるCNTによらず効果を得やすい汎用性の点で好ましい範囲は5μm50μm以下である。
【0099】
これらの寸法は、上記のものに限らないが、電極の構造は(「電極長さ」/「電極間距離」>1)の関係になることが好ましい。微量ガスを検出するためのガスセンサー素子は微量な変化を検出できることが重要であるが、電極の長さが長いということは、電極間がCNTのネットワークでつながっているため、電極間をつなぐ回路が並列で増えていくことに相当し、微量濃度のガスが付着した際の微量な電気的変化が積算されて読み取ることができることから、電極の長さは長い方が好ましい。電極間距離が長くなると、電極間をつなぐ回路が直列で増えていくことに相当するため、微量な電気的変化が伝わりにくくなる。ただし、単に、電極の長さを長くして、電極間隔を狭めれば良いというわけでは無い。電極構造として感度のみを増加しても、電気的ノイズも同時に増幅することになるため、電極構造のみでガスセンサーの感度が向上する訳では無い。CNTの80重量%以上が半導体型CNTであるようなCNT複合体が用いられる場合のバランスとして、電極の構造が(「電極長さ」/「電極間距離」>1)の関係が好ましい。
【0100】
電極をパターン状に形成する方法としては、特に制限されないが、例えば、上記方法で作製した電極薄膜を、公知のフォトリソグラフィー法などで所望の形状にパターン形成する方法が挙げられる。あるいは、電極および配線の導電性材料の蒸着やスパッタリング時に、所望の形状のマスクを介してパターン形成する方法が挙げられる。また、インクジェットや印刷法を用いて直接パターンを形成する方法も挙げられる。
【0101】
本発明に係るセンサー素子は、シグナル(S)とノイズ(N)の比S/N比が、ppbオーダーの微量化学物質検出の場合でもS/N=3~500が可能となる。
【0102】
また、本発明に係るセンサー素子は、対象分子の付着と脱離のみで電気的信号変化が読み取り可能であるため、繰り返し特性も良好である。繰り返し特性が良好となる温度帯は、検出する化学物質によってCNTへの吸着力が異なるため、何を検出するかによって変える必要があるが、主に、0℃~200℃以下の温度帯で良好な繰り返し特性を示す。また、対象分子の付着量に応じた電気的変化が生じるため、特に、対象物質がガスである場合は、酸素0%の環境下でも、ガスセンサーとしてガスの検出が可能であり、0%以上50%以下の範囲でも、酸素濃度によらず使用することが可能である。
【0103】
また、本発明に係るセンサー素子を作製する際の、電極とナノカーボンを含有する抵抗体の好ましい使用方法として、電極間の抵抗が数十Ω~数十MΩに成るように形成して使用するのがこのましく、電流量が10ナノナンペア~500マイクロアンペアの範囲で流れる様に使用するのが好ましい。電流を流しすぎるとナノカーボンの劣化が早まり、センサーとして使用できる寿命が短くなり、電流が流れなさすぎると、信号が微弱すぎて、センサー素子を対象物に暴露した際の変化を検知できない。
【0104】
材料の使用量と組み合わせ、形状を調整する際に、前記使用範囲も考慮してセンサー素子を作製するのが好ましい。
【0105】
<基板>
基板に用いられる材料としては、特に制限はなく、例えば、シリコンウエハ、ガラス、アルミナ焼結体等の無機材料、脂肪族ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリパラキシレン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリシロキサン、ポリビニルフェノール、ポリアラミド等の有機材料、または無機材料粉末と有機材料の混合物等が挙げられる。これらの材料は単独で用いてもよく、これらのうちの複数の材料を積層または混合して用いてもよい。
【0106】
本発明の実施の形態に掛かるセンサー素子において、基板、下地層、ナノカーボンを含む抵抗体の構成は、ナノカーボンが検知対象である外部物質(例えばガス分子など)と接触できるよう、最表面に設置されている構造となっていることが最も良い。センサー素子の構成要素は、それぞれ層構造となっていることが好ましい。製造の容易さの観点で平らであることが好ましいが、湾曲、または屈曲した状態で層構造を形成していても構わない。 電極は、2つの電極の間にナノカーボンを含む抵抗体が存在する領域があるように、ナノカーボンに接する形で配置する。
【0107】
本発明に係るセンサー素子が層構造であることが好ましい理由は、本発明の効果に係る検知対象物質の選択性の効率に影響することが挙げられる。本発明の効果である検知対象物質の選択的検知は、ナノカーボンの状態が下地層に含まれるp型半導体によって改質された結果生じる効果であるため、ナノカーボンが下地層のp型半導体に接していることが重要である。一般的な方法で、基板上に最も単純な構成で素子を形成する場合、土台となる基板上に、ナノカーボンを含む抵抗体とナノカーボンを改質するためのp型半導体が含まれる下地層が接した状態で形成され、抵抗体が第一の電極と第二の電極の間に存在する領域が存在する形で抵抗体の上部、または、下部、または端部に設置されている状態となる。
【0108】
土台上に形成するため、ナノカーボンを含む抵抗体が検知対象物質と接する様に配置すると、最も単純な構造は層構造となるが、層構造にした場合、ナノカーボンを含む抵抗体の厚みは、0.3nm~12nmであることが好ましい。ここでいう、ナノカーボンを含む抵抗体の厚みとは、電極間をつないで電流を流すことのできる、ナノカーボンのネットワークの膜厚みのことで、抵抗体を形成している層(膜)に傷をつけてAFMで高さを測定するか、素子をレーザーなどで切断した断面を電子顕微鏡で測定することによって測定できる。
【0109】
ナノカーボンの厚みの計算方法としては、下地層の表層面を0とした際の、表層面からのナノカーボンの高さの平均値を厚みとして計算し、ナノカーボンが上に存在せず、下地層のみの部分については、計算に入れない。AFMで平均値を厚みを算出する、より具体的な方法としては、例えばナノカーボンがカーボンナノチューブであった場合、素子上の電極の間を10μm2の面積で測定した後、任意の断面高さプロファイルを表示させ、ベースからのピークの高さをと数の相加平均を算出することによって計算できる。客観性を持たせるため、高さプロファイルに表示されたピークは全てカウントし、カウントしたピークの数が100本以上になるまで、カウントするピークを数えるための任意箇所の高さプロファイルの数を追加していく。この時のピークの高さは、CNT1本の直径、CNTバンドル、CNTの重なり高さを含む値となる。抵抗体がカーボンナノホーンの場合も同様である。抵抗体がグラフェン、もしくは薄層グラファイトの場合は、物質の形状として面積が広い構造をしているため、AFM測定の断面高さプロファイルでピークの形で高さが現れないことから、より複雑な計算が求められることになる。AFMの平面画像と高さプロファイルの両方を利用することによって、グラファイト1枚(もしくはグラフェン1個)の形状を判断し、グラファイト1枚(もしくはグラフェン1個)平均高さを、高さプロファイルの横軸(長さ、もしくは距離に相当する)と縦軸(高さ)の積分値から平均的な高さを算出し、この時の平均高さがCNTやカーボンナノホーンの高さ測定時のピークの値に相当する。また、グラファイト(もしくはグラフェン)の場合は、重なり部分は重なり部分だけでグラファイト1枚(もしくはグラフェン1個)平均高さを求めるのと同様の計算で高さを算出する。
【0110】
ナノカーボンの厚みを前記相加平均によって算出する際は、測定箇所による偏りをなくすため、少なくとも100点以上のピーク値(グラフェン、グラファイトの場合は、平均値)を利用して算出するのが好ましい。
【0111】
好ましい厚みが存在する理由は、前述の通り、ナノカーボンがp型半導体に接していることによって、発明の効果が生じるため、厚みがあまりにも厚いと、積層したナノカーボンの最上部はp型半導体と接していないため、p型半導体の改質効果が及ばなくなる。しかしながら、p型半導体に全てのナノカーボンが接していなくとも、p型半導体と接しているナノカーボンを媒介して、p型半導体と接していないナノカーボンへも改質効果は及ぶ。
【0112】
ナノカーボンは、例えば、カーボンナノチューブであれば、単層であっても色々な太さのチューブ径が存在し、実態としてはバンドルを形成してしまっている場合もある。平均径で太さを表すことが多く、グラフェンの場合は、1枚であっても官能基の存在で、実質的な厚みが変わり、実用的には数枚の薄層グラフェンとして使用する場合も多いため、やはり平均厚みで表現することもある。また、カーボンナノホーンも同様に製造の仕方で大きさがまちまちであるが、構造が異なるだけで、全て、カーボン材料であり、p型半導体による改質のされ方に差はあるが、p型半導体の効果が及ぶ範囲は類似しているため、本発明で用いられるセンサー素子の、ナノカーボンの層の厚みは12nm以下となる。
【0113】
本発明では、感応膜として機能する抵抗体の状態は均質である方がセンサーとしての感度は良くなるため、抵抗体に含まれるナノカーボンは、全て、p型半導体に一様に接している方が好ましい。p型半導体が一様に接している形態として、抵抗体同士が重なり合う部分が少ない方が好ましい点で、抵抗体の厚みは薄い方が好ましく、グラファイトシートであれば、グラファイトシート一枚分の理想的な厚みである0.38nmが最も好ましいが、現実にはナノカーボン同士が重なりあった部分が存在する形で電極間を導通する形態になるため、本発明の効果が得られる範囲で好ましい平均厚みとしては0.6nm以上、12nm以下である。CNTであれば、1本分の厚みとなる0.8nmから12nm以下であることが好ましく、本発明の好ましいCNTの太さの範囲が1.2nm以上という点で、1.2nm~12nmが好ましい。重なり部分が生じたネットワーク構造でも本発明の効果が得られる範囲との点では、1.8nm~12nmが好ましい厚みの範囲である。カーボンナノホーンである場合はカーボンナノホーンの大きさ、形状によって変わるが、カーボンナノホーン1本分の厚み以上12nm以下が好ましい厚みの範囲である。
【0114】
抵抗体は部分的に下地層に埋没していてもかまわなく、部分的に埋没している際の厚みの測り方は、下地層再表面から露出している部分の高さを測定して厚みとする。抵抗体が部分的に埋没しているときの好ましい厚みとして、0.3nm~12nmである。応答強度(抵抗変化)を強くしたり、検知対象物質の選択性(検知時の信号強度の差)を強くしたい場合の好ましい厚みの目安は、0.3nm~6nmとなる。
【0115】
厚みの下限が存在する理由としては、ナノカーボンを層構造になるように使用した際、検知対象物質と接触することができる部分が存在する必要があるため、下地層に埋没せずに下地層界面から表面に露出している必要があるためである。また、ナノカーボンは、ナノ構造物であるため、電極間を1つだけの化合物で接続することは、現実的に難しい。そのため、無数のナノカーボンからなる膜によって電極をつなぐことになるが、ナノカーボン同士が接触して電流を流すことができる状態をつくる必要があり、接触点ではナノカーボン同士の重なりが生じることになる。抵抗体全体としてナノカーボン同士の重なりの数が少なすぎると、抵抗体全体としてはナノカーボン同士の電気的な接続箇所が少ない素子となるため、そのような素子は抵抗が高く、センサーとして使用した際にノイズが多くなり、結果として十分なS/N比(シグナル/ノイズ比)をとることができず、応答感度の悪い素子となりがちである。そのため、感度の良い素子を得るためには、ナノカーボン同士の電気的な接続箇所がある程度必要で、抵抗体の厚みと接続箇所には相関があることから、必要な電気的接続を保つ意味でも厚みの下限が存在する。
【0116】
より好ましい抵抗体の厚みは、カーボンナノチューブであれば、使用するカーボンナノチューブの「(平均直径)×3」以下の平均厚み、グラフェンであれば使用するグラフェンの「(平均1枚厚み)×3」以下の平均厚み、カーボンナノホーンであれば使用するカーボンナノホーンの「(平均粒径)×3」以下の平均厚みになるように調整し、使用材料の構成単位の「膜化した時の厚み寄与する次元の平均値×3」以下に調整するのが好ましい。
【0117】
その理由の一つとして、厚みがある程度厚く、p型半導体から離れているナノカーボンにも、p型半導体と接しているナノカーボンを介してp型半導体の効果は伝わるとはいえ、p型半導体から距離が離れたナノカーボンはp型半導体の効果が弱まり、効果的に改質されたナノカーボンよりも改質の度合いが弱くなる。このことは、抵抗体全体としては、選択性の明確さという観点では、感度が低下するが、p型半導体によって、全てのナノカーボンが改質された抵抗体とは異なる応答信号を得ることができるようになるため、異なる選択応答するセンサー素子として使用することは可能である。しかしながら、選択性をコントロールするほどの膜厚調整を厳密に行うには、材料の特性(ナノ物質の凝集性、構成単位の不均一性)を考慮すると難易度が高いため、平均的な大きさ、厚みを調整の目安とし、より詳細なコントロールは、下地層に含まれるp型半導体の量によってコントロールするのが実用的である。
【0118】
効果的にp型半導体によるナノカーボンの改質を行える抵抗体の厚みの目安が前記厚みになるが、例えばカーボンナノチューブの例の場合、平均直径と平均厚みが同じであれば、理論上は、全てのカーボンナノチューブがp型半導体を含む下地層に接しているため最も効率的ではあるが、実際の電極間をつなぐ膜(ナノカーボンのネットワーク構造体)は、ナノ物質同士の部分的な重なりがあってネットワーク構造の膜を形成するため、重なり部分に直径以上の厚みが生じる(重なりが生じないように、電気的に電極間を電気的につながったナノ物質の単一層膜を作製するのは、技術的にかなりの困難を伴う)。また、前述の様に、実際にはナノカーボンの凝集物が混ざってしまい、平均膜厚を厚くしてしまうこともあるが、素子の抵抗体としての均一性の観点では、平均厚みをできるだけ薄くし、前記厚みを目安にすれば良好なセンサー素子として使用できる。
【0119】
センサー素子の別の形態としては、ナノカーボンを含む抵抗体のナノカーボンが外部物質と接触できる構造であれば、抵抗体の一部は下地層に埋没していても構わなく。その場合は、p型半導体が含まれる下地層の表面から露出している部分の厚みが12nm以下であることが好ましい。ナノカーボンが全て絶縁体に埋没していると、検知対象物質がナノカーボンに直接接触できないので、センサー感度が著しく低下するため、ナノカーボン部分は下地層から露出していることが好ましい。
【0120】
本発明の実施の形態に掛かるセンサーにおいては、繰り返しガス検出をするために、基板にヒーターが備え付けられていることが好ましい。ガス検出後にヒーターによってガスセンサーを加熱することで、吸着したガス分子を脱着することができる。すなわち、センサーを再生(クリーニング)し、繰り返し使用することができる。用いるヒーターは、特に限定されないが、小型で低消費電力なMicro Electro Mechanical Systems(MEMS)ヒーターが好ましい。
【0121】
本発明に係るセンサー素子は、第1電極および第2電極がソース電極およびドレイン電極であって、さらにゲート電極を備えるセンサー素子であることが好ましい。第1電極をソース電極(または、ドレイン電極)、第2電極をドレイン電極(またはソース電極)に見立てて、絶縁性の下地層の更に下(第1、第2電極と反対面側)に、ゲート電極を設け、ドレイン―ゲート電極間、またはソース―ゲート電極間に電圧を印加することによって、電界効果トランジスタと同様の効果で抵抗体のキャリア状態調整を行うことも可能である。ゲート電極の形状は、第1電極、第2電極と短絡してしまわなければ、絶縁性の下地層の下側一面にあっても良いが、低い電圧で効率よくキャリア調整の効果を得たい場合は、ドランジスタ構造のチャネルにあたる部分と同形状のゲート電極を絶縁性の下地層の下に設けるのが好ましい。また、ゲート電極をp型の下地層内、またはソース電極(またはドレイン電極)の反対面に直接形成するのが難しい場合は、p型の下地層の下面に更に別の絶縁層を設けたうえでゲート電極を形成するのも良い。
【0122】
<センサー>
図4は、本発明の実施の形態に係るセンサーの構成を示すブロック図である。本実施の形態に係るセンサーは、検知太陽物質が付着した際に抵抗変化が生じるナノカーボンを含む抵抗体を感応膜として備えたセンサー素子と、センサー素子の対向電極間に一定の電圧をかける電圧調整部と、センサー素子が検知対象物質を検知したときに変化する、抵抗値、電流、電圧等の電気特性の変化を検出する電気特性検出部と、検出された変化を解析する電気特性変化解析部からなる。検出する電気的変化は、抵抗、または電流、または電圧のいずれか一つで構わなく、検出精度を高くする場合は2つ以上組み合わせても構わない。また、センサー素子の対抗電極間に一定の電圧をかける部位は、センサー素子の感度と検出したい検知対象物質の種類、および使用環境によって使用の有無を切り替えることも可能である。高感度で検知対象物質のみを検出する場合(夾雑物質による誤差を減らしたい場合)は、絶縁性の下地層と電極の間に一定の電圧をかけてノイズを小さくすることによってセンサーの精度を上げることも可能である。
【0123】
また、ブロック図に示す様に、本実施の形態に係るセンサーは、加熱のための電力消費部位を組み込まなくともガスセンサーとして作動するため、余分な電力消費を抑えられる構成も可能である。
【0124】
本発明のセンサー、及びセンサー素子は、ppbスケールの低濃度ガスが検知対象物質であっても、効果的に選択的検知性能を発揮する。気体は液体と比べて密度が圧倒的に小さいため、扱いにくく、液中よりも気体中の方が低濃度物質を検知するのが難しい。本発明の効果物は、一般に広く普及している酸化物半導体の苦手とするppbスケールの検知でも効果的に、選択的に検知可能で、ヒーターによる200℃以下での加熱によって選択性の感度を調性可能であるが、酸化物半導体のようにガス検知のために300℃以上の高温にする必要はなく、ヒーター以外でも選択性の調整は可能であるため、p型半導体量の調整、ナノカーボン膜厚の調整などで、室温でも使用可能となり、ガス分子が抵抗体に付着するだけで検知可能であるため、氷点下でも使用可能である。
【0125】
本発明のセンサー素子は、本発明のセンサー素子とは異なるガス応答性を酸化物半導体からなるガスセンサー素子と組み合わせてセンサーを作製することによって、それぞれの素子が異なるガスを検出することができることから、複数ガスを同時に測定することも可能となり、複数の異なるガス応答性を示す、種々センサー素子を複数組み合わせたセンサーを作製することによって、複雑な組成の混合ガスから、任意ガスを特定できるガスセンサーにも使用することが可能となる。
【0126】
また、p型半導体や抵抗体の膜厚調整によって応答性の異なる抵抗体及びセンサー素子を作製可能であるため、応答性の異なるセンサー素子を複数備えたセンサーを作製可能である。このようなセンサーは、ナノカーボンが検知することのできる複数ガスが混在する混合ガス中で、それぞれのセンサー素子が異なる波形の応答信号を発信することから、信号解析によって任意のガスの存在を特定することが可能となる。
【0127】
図11に示すガスセンサーデバイス40では、センサー素子6に電極配線を兼ねた支持体9が電気的に繋がるよう接続されており、全体をカバー7で覆われたパッケージ構成となっている。支持体9は、計測器と接続できるようにカバー、及び、支持体9の固定台8の外に突き出した構造をとっている。カバーは使い方次第で無くても構わなく、ガスが通るための多孔質の蓋でも良く、細孔や穴が開いた構造でも良い。また、カバー、及び、支持体9の固定台8もカバーが固定台を兼ねる場合など、使い方次第で無くても構わない。また、パッケージにガスの吸引機構を設け、外部ガスが素子と接触し易くする機構を設けることも好ましい。
【0128】
また、ドーパントや抵抗体の膜厚調整によって応答性の異なる感応膜及びセンサー素子を作製可能であるため、応答性の異なるセンサー素子を複数備えたセンサーを作製かのうである。このようなセンサーは、ナノカーボンが検知することのできる複数ガスが混在する混合ガス中で、それぞれのセンサー素子が異なる波形の応答信号を発信することから、信号解析によって任意のガスの存在を特定することが可能となる。
【実施例0129】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0130】
[実施例]
(1)抵抗体に使用するCNTの分散液の調製
ポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT、Sigma-Aldrich社製、レジオレギュラー、数平均分子量(Mn):13000)0.10gをクロロホルム5mLの入ったフラスコの中に加え、超音波洗浄機(井内盛栄堂(株)製US-2、出力120W)中で超音波撹拌することによりP3HTのクロロホルム溶液を得た。次いでこの溶液を、メタノール20mLと0.1規定塩酸10mLの混合溶液の中に0.5mLずつ滴下して、再沈殿を行った。固体になったP3HTを0.1μm孔径のメンブレンフィルター(PTFE社製:4フッ化エチレン)によって濾別捕集し、メタノールでよくすすいだ後、真空乾燥により溶媒を除去した。さらにもう一度溶解と再沈殿を行い、90mgの再沈殿P3HTを得た。
【0131】
次に、NanoIntegris社製のIsoNanotubes-S(半導体純度99.9%)15mgをNMP5mLに入れ、超音波洗浄機で1時間超音波照射して解した。その後、0.1μm孔径のメンブレンフィルター(PTFE社製:4フッ化エチレン)によって濾別捕集し、クロロホルムで良くすすいだ後、真空乾燥によって溶媒を除去した。その後、上記P3HT4.5mgと併せて15mLのクロロホルム中に加え、氷冷しながら超音波ホモジナイザー(東京理化器械(株)製VCX-500)を用いて出力250Wで30分間超音波撹拌した。超音波照射を30分行った時点で一度照射を停止し、P3HTを1.5mg追加し、さらに1分間超音波照射した。さらに、メンブレンフィルター(孔径10μm、直径25mm、ミリポア社製オムニポアメンブレン)を用いてろ過を行い、長さ10μm以上のCNT複合体および凝集塊を除去した。得られたろ液5mLにジクロロベンゼン45mLを加え、P3HTが付着したCNT分散液A(溶媒に対するCNT複合体濃度0.1g/L)とした。
【0132】
また、NanoIntegris社製のIsoNanotubes-S(半導体純度90.0wt%)を用いた以外は、CNT分散液Aと全て同様に調製した溶液を、CNT分散液Bとした。
【0133】
また、NanoIntegris社製のSuper pure tubes(半導体純度66.7wt%)を用いた以外は、CNT分散液Aと全て同様に調製した溶液を、CNT分散液Cとした。
更に、NanoIntegris社製のSuper pure tubes(半導体純度66.7wt%)を特開2012-36041号公報に記載の方法を用いて、半導体純度80.1wt%の半導体CNTとし、濾過、洗浄することによって、界面活性剤を取り除いた後、CNT分散液Aと全て同様に調製した溶液をCNT分散液Dとした。
【0134】
(2)下地層を有する基板の準備
(下地層を有する基板A)
三酸化モリブデン(VI)一級(富士フィルム和光純薬株式会社製)を5cm×5cm(厚み0.4mm)の無アルカリガラス上に真空蒸着によって厚さ100nmになるように蒸着し、空気中150℃で30分加熱することによって、p型半導体を下地層とする基板Aを準備した。この状態でのガラス上の三酸化モリブデンの膜の仕事関数を、(株)日立ハイテク製のAC-2を用いて大気中光電子分光測定によって算出したところ、仕事関数は5.6eVであった。
【0135】
また、この状態でのガラス上の三酸化モリブデンの膜の表面抵抗値を三菱化学(株)製のHiresta-UPによって測定し、体積抵抗率を算出したところ、1E6Ω・cmよりも大きな体積抵抗率を有する下地層となっていることを確認できた。
【0136】
(下地層と第1電極、第2電極とを有する基板B)
基板Aと同様に、三酸化モリブデン(VI)一級(富士フィルム和光純薬株式会社製)を5cm×5cm(厚み0.4mm)の無アルカリガラス上に真空蒸着によって厚さ100nmになるように蒸着し、空気中150℃のホットプレート上で30分間加熱した。この状態でのガラス上の三酸化モリブデンの膜の表面抵抗値を三菱化学(株)製のHiresta-UPによって測定し、体積抵抗率を算出したところ、1E6Ω・cmよりも大きな体積抵抗率(9.6E6Ω・cm)を有する下地層となっていることを確認できた。
【0137】
その後、真空蒸着によって、第1電極と第2電極の電極間距離(Lc)が100μm、各電極の電極幅(W)が1000μmになるように金を厚さ100nmで蒸着した。その後、空気中150℃のホットプレート上で30分間加熱して下地層と第1電極、第2電極とを有する基板Bを準備した。この状態でのガラス上の三酸化モリブデンの膜の仕事関数を、大気中光電子収量分光法によって測定したところ、仕事関数は5.6eVであった。
【0138】
<絶縁層溶液の作成例>
メチルトリメトキシシラン61.29g(0.45モル)、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン12.31g(0.05モル)、およびフェニルトリメトキシシラン99.15g(0.5モル)を、プロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点170℃)203.36gに溶解し、これに、水54.90g、リン酸0.864gを、撹拌しながら加えた。得られた溶液をバス温105℃で2時間加熱し、内温を90℃まで上げて、主として副生するメタノールからなる成分を留出させた。次いで、バス温130℃で2.0時間加熱し、内温を118℃まで上げて、主として水とプロピレングリコールモノブチルエーテルからなる成分を留出させた。その後、室温まで冷却し、固形分濃度26.0重量%のポリシロキサン溶液Aを得た。得られたポリシロキサンの分子量を上記の方法で測定したところ、重量平均分子量は6000であった。
【0139】
得られたポリシロキサン溶液A10gと、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート(以下、PGMEAという)55gとを混合して、室温にて2時間撹拌し、絶縁層溶液Aを得た。
【0140】
(ゲート電極と下地層を有する基板C)
最終的に第1電極と第2電極の電極間距離(Lc)が100μm、各電極の電極幅(W)が1000μmになるように金を厚さ100nmで蒸着する際の電極間隔の形と同じ位置、及び形状になる様に、予め5cm×5cm(厚み0.4mm)の無アルカリガラス上に真空蒸着によって厚さ100nmになるように金電極を真空蒸着し、その後、三酸化モリブデン(VI)一級(富士フィルム和光純薬株式会社製)を真空蒸着によって厚さ300nmになるように蒸着し、空気中150℃のホットプレート上で30分間加熱した。
【0141】
(ゲート電極と絶縁層、下地層を有する基板D)
最終的に第1電極と第2電極の電極間距離(Lc)が100μm、各電極の電極幅(W)が1000μmになるように金を厚さ100nmで蒸着する際の電極間隔の形と同じ位置、及び形状になる様に、予め5cm×5cm(厚み0.4mm)の無アルカリガラス上に真空蒸着によって厚さ100nmになるように金電極を真空蒸着し、絶縁層溶液Aをスピンコート塗布(2000rpm×30秒)して窒素気流下、200℃で1時間熱処理することによって、膜厚300nmの絶縁層を形成した。その後、三酸化モリブデン(VI)一級(富士フィルム和光純薬株式会社製)を真空蒸着によって厚さ100nmになるように蒸着し、空気中150℃のホットプレート上で30分間加熱した。
【0142】
(ゲート電極と下地層、第1電極、第2電極を有する基板E)
最終的に第1電極と第2電極の電極間距離(Lc)が100μm、各電極の電極幅(W)が1000μmになるように金を厚さ100nmで蒸着する際の電極間隔の形と同じ位置、及び形状になる様に、予め5cm×5cm(厚み0.4mm)の無アルカリガラス上に真空蒸着によって厚さ100nmになるように金電極を真空蒸着し、その後、三酸化モリブデン(VI)一級(富士フィルム和光純薬株式会社製)を真空蒸着によって厚さ300nmになるように蒸着し、空気中150℃のホットプレート上で30分間加熱した。その後、真空蒸着によって第1電極と第2電極の電極間距離(Lc)が100μm、各電極の電極幅(W)が1000μmになるように厚さ100nmで金電極を蒸着した。
【0143】
(ゲート電極と絶縁層、下地層、第1電極、第2電極を有する基板F)
最終的に第1電極と第2電極の電極間距離(Lc)が100μm、各電極の電極幅(W)が1000μmになるように金を厚さ100nmで蒸着する際の電極間隔の形と同じ位置、及び形状になる様に、予め5cm×5cm(厚み0.4mm)の無アルカリガラス上に真空蒸着によって厚さ100nmになるように金電極を真空蒸着し、絶縁層溶液Aをスピンコート塗布(2000rpm×30秒)して窒素気流下、200℃で1時間熱処理することによって、膜厚300nmの絶縁層を形成した。その後、三酸化モリブデン(VI)一級(富士フィルム和光純薬株式会社製)を真空蒸着によって厚さ100nmになるように蒸着し、空気中150℃のホットプレート上で30分間加熱した。その後、真空蒸着によって第1電極と第2電極の電極間距離(Lc)が100μm、各電極の電極幅(W)が1000μmになるように厚さ100nmで金電極を蒸着した。
【0144】
(下地層を有する基板G)
下地層を有する基板Aの作製に置いて、三酸化モリブデン(VI)を蒸着する代わりに、ポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)(略称:P3HT)(シグマアルドリッチ製)を4.5wt%のクロロホルム溶液として700μL滴下し、3000rpm、30秒でスピンコートした後に、空気中150℃のホットプレート上で30分間加熱乾燥することによって得られた基板を、下地層を有する基盤Gとした。
【0145】
(ゲート電極と絶縁層、下地層を有する基板H)
最終的に第1電極と第2電極の電極間距離(Lc)が100μm、各電極の電極幅(W)が1000μmになるように金を厚さ100nmで蒸着する際の電極間隔の形と同じ位置、及び形状になる様に、予め5cm×5cm(厚み0.4mm)の無アルカリガラス上に真空蒸着によって厚さ100nmになるように金電極を真空蒸着し、絶縁層溶液Aをスピンコート塗布(2000rpm×30秒)して窒素気流下、200℃で1時間熱処理することによって、膜厚300nmの絶縁層を形成した。その後、ポリ[(9,9-ジ-n-オクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-alt-(ベンゾ[2,1,3]チアジアゾール-4,8-ジイル)](略称:F8BT)(シグマアルドリッチ製)を4.5wt%
のクロロホルム溶液として700μL滴下し、3000rpm、30秒でスピンコートした後に、空気中150℃のホットプレート上で30分間加熱乾燥することによって得られた基板を下地層を有する基盤Hとした。
【0146】
(センサー素子の作製)
<センサー素子1>
CNT分散液Aをオルト-ジクロロベンゼンで希釈して0.0175g/Lとした後、700μLを3000rpm、30秒で下地層を有する基板A上にスピンコートして大気下80℃のホットプレート上で乾燥することによって、下地層を有する基板Aのp型半導体層の上にCNT膜を形成した。
【0147】
その後、真空蒸着機の中で、第1電極と第2電極の電極間距離(Lc)が100μm、各電極の電極幅(W)が1000μm(抵抗体の領域がLc/W=100μm/1000μm)、電極厚み100nmとなる様に、金の電極をCNTの上に蒸着によって形成することによってセンサー素子1とした。
【0148】
AFMにて電極間を10μm2で3視野測定し、断面プロファイルから162本のピーク高さの相加平均を算出することによって抵抗体(CNT)の平均厚みを測定したところ、厚みは2.0nmであった。また、1μm2辺りのCNT総長さ(L)が120μmであったことから、電極間距離(Lc)が100μmの素子を使用しているため、L/Lcは、1.2であった。
【0149】
<センサー素子2>
下地層と第1電極、第2電極とを有する基板BにCNT分散液Aをオルト-ジクロロベンゼンで4倍に希釈して0.075g/Lとした後、700μLを3000rpm、30秒で下地層の上部にスピンコートして大気下80℃のホットプレート上で乾燥することによってCNTを形成した。
【0150】
AFMにて抵抗体(CNT)の平均厚みを測定したところ、厚みは2.2nmであった。また、L/Lcは、2.2であった。
【0151】
<センサー素子3>
基材である5cm×5cm(厚み0.5mm)の無アルカリガラスに、CNT分散液Aをオルト-ジクロロベンゼンで4倍に希釈して0.025g/Lとした後、700μLを3000rpm、30秒で基材の上部にスピンコートして大気下80℃のホットプレート上で乾燥することによってCNTを形成した。
【0152】
その後、真空蒸着機の中で、第1電極と第2電極間距離(Lc)が100μm、各電極幅(W)が1000μm(抵抗体の領域がLc/W=100μm/1000μm)、電極厚み100nm、電極自体の幅は1000μmとなる様に、金の電極をCNTの上に蒸着によって形成することによってセンサー素子3とした。
【0153】
<センサー素子4>
センサー素子1の作製において基板Aの代わりに、ゲート電極と下地層を有する基板Cを用いた以外は、センサー素子1と同様に作製した素子をセンサー素子4とした。
【0154】
<センサー素子5>
センサー素子1の作製において基板Aの代わりに、ゲート電極と絶縁層、下地層を有する基板Dを用いた以外は、センサー素子1と同様に作製した素子をセンサー素子5とした。
【0155】
<センサー素子6>
センサー素子2の作製において基板Aの代わりに、ゲート電極と下地層、第1電極、第2電極を有する基板Eを用いた以外は、センサー素子1と同様に作製した素子をセンサー素子4とした。
【0156】
<センサー素子7>
センサー素子2の作製において基板Aの代わりに、ゲート電極と絶縁層、下地層、第1電極、第2電極を有する基板Fを用いた以外は、センサー素子1と同様に作製した素子をセンサー素子4とした。
【0157】
<センサー素子8>
CNT分散液Aの代わりにCNT分散液Bを用いた以外は、センサー素子1と同様に作製した素子をセンサー素子8とした。
【0158】
<センサー素子9>
CNT分散液Aの代わりにCNT分散液Cを用いた以外は、センサー素子1と同様に作製した素子をセンサー素子9とした。
【0159】
<センサー素子10>
CNT分散液Aの代わりにCNT分散液Dを用いた以外は、センサー素子1と同様に作製した素子をセンサー素子10とした。
【0160】
<センサー素子11>
センサー素子1の作製において、CNT分散液Aの濃度を0.085g/Lに調製した以外はセンサー素子1と同様に作製した素子をセンサー素子11とした。
【0161】
<センサー素子12>
センサー素子1の作製において、CNT分散液Aの濃度を0.095g/Lに調製した以外はセンサー素子1と同様に作製した素子をセンサー素子12とした。
【0162】
<センサー素子13>
センサー素子1の作製において、CNT分散液Aの濃度を0.1g/Lのまま使用し、CNT分散液をスピンコートする際の回転数を2000rpmとした以外はセンサー素子1と同様に作製した素子をセンサー素子13とした。
【0163】
<センサー素子14>
センサー素子1の作製において、CNT分散液Aの濃度を0.1g/Lのまま使用し、CNT分散液をスピンコートする際の回転数を1500rpmとした以外はセンサー素子1と同様に作製した素子をセンサー素子14とした。
【0164】
<センサー素子15>
センサー素子1の作製において、CNT分散液Aの濃度を0.1g/Lのまま使用し、CNT分散液をスピンコートする際の回転数を1000rpm、回転時間を20秒とした以外はセンサー素子1と同様に作製した素子をセンサー素子15とした。
【0165】
<センサー素子16>
センサー素子4の作製において、CNT分散液Aの濃度を0.1g/Lのまま使用し、CNT分散液をスピンコートする際の回転数を1000rpm、回転時間を20秒とした以外はセンサー素子1と同様に作製した素子をセンサー素子16とした。
【0166】
<センサー素子17>
ゲート電極と絶縁層、下地層を有する基板Dを作製する際に三酸化モリブデン(VI)一級(富士フィルム和光純薬株式会社製)の真空蒸着を行わない基材(p型下地層が無い基材)を準備し、以降の工程はセンサー素子5と同様に準備した素子をセンサー素子17とした。
【0167】
<センサー素子18>
センサー素子1の背面に、0.1mmφのニクロム線を
図14、
図15に示す形態で張り付けた素子をセンサー素子18とした。
【0168】
<センサー素子19>
センサー素子4の背面に、0.1mmφのニクロム線を
図14、
図15に示す形態で張り付けた素子をセンサー素子18とした。
【0169】
<センサー素子20>
センサー素子1の作製において、基板Aをエタノールに1時間浸した後、100℃のホットプレートで10分乾燥する処理を施してから使用した以外は、同様に作製した素子をセンサー素子20とした。
【0170】
<センサー素子21>
センサー素子1の作製において基板Aの代わりに、下地層を有する基板Gを用いた以外は、センサー素子1と同様に作製した素子をセンサー素子21とした。
【0171】
<センサー素子22>
センサー素子1の作製において基板Aの代わりに、ゲート電極と下地層を有する基板Hを用いた以外は、センサー素子1と同様に作製した素子をセンサー素子22とした。
【0172】
(測定)
作製したセンサー素子1~20および
図3に示す形状の石英管300を用いて、石英管300内に各センサー素子をセット後、酸素濃度が20%、相対湿度<5%の状態で、対象とする検知ガスが下記実施例に記載の濃度に調製されたサンプルガスに曝した際の、電極間の抵抗変化を130℃で測定した(温度については電気環状炉で石英管周りを加熱し、素子周辺が130℃になる様に調整された環境で測定を実施した。)。結果を実施例及び、比較例に示す。
【0173】
(実施例)
センサー素子1を用いて、アンモニア(NH
3)、及び、一酸化窒素(NO)の濃度を徐々に変化させながら、異なる濃度のガス曝した際の抵抗値の変化を130℃で測定し、各種濃度に曝した際の抵抗変化率の変化を測定し、変化率の変化をもってガスを検知したとみなした。結果を
図5、
図6に示す。
【0174】
図5はセンサー素子1を用いた時のアンモニア(NH
3)への応答変化を示す。
【0175】
図6はセンサー素子1を用いた時の一酸化窒素(NO)への応答変化を示す。
【0176】
センサー素子1は
図5に示すようにアンモニアへは応答するが、
図6に示すように一酸化窒素へは応答を示さない。
【0177】
センサー素子1~20の組成、仕様、及び各種物性測定値を表1、2にまとめた。また、400ppb~8ppmのアンモニア(NH3)、及び、一酸化窒素(NO)にそれぞれ曝した際の抵抗値の変化を130℃で測定した結果について、表2にまとめた。
【0178】
各濃度のガスに曝した際の検知結果は、一般的にガスを検知したとみなされるシグナル/ノイズ比(S/N比)が3以上になる濃度を(〇)、S/N比1~2となった場合を(△)、ノイズとの区別がつかない場合(無応答)を(×)と表記した。
【0179】
実施例4~7(それぞれセンサー素子4~7使用)及び、実施例16、17、19(それぞれセンサー素子16、17、19使用)は、ゲート電極がソース電極に対して-5Vになる様に電圧印加した状態でガス応答性を測定している。
【0180】
実施例4~7に示すように、ゲート電極を有し、電圧を印加したセンサー素子4、5、6、7はいずれもNH3は検知するが、NOは検知しないことから、選択性を有するセンサー素子であることが確認できた。
【0181】
実施例8~10に示すように、センサー素子8、9、10は、それぞれCNTの半導体純度を変えたセンサー素子の比較であるが、半導体純度が80%より低いCNTを用いた場合、低濃度領域(4ppm以下)では選択性が明確であるが、高濃度(8ppm)のNOに対して検知したレベルにはいたらないものの、若干の応答性を示すことから、高濃度領域での選択性の低下がみられる。
【0182】
実施例11~14に示すように、センサー素子11、12、13、14は主に抵抗体の厚みの差の影響を比較できるように作製した素子で、素子14の結果から、抵抗体の厚みが厚いと高濃度の濃度帯で選択性の低下が見られるようになる。
【0183】
実施例15のセンサー素子15を使用した結果から、L/Lcが50よりも大きい場合でも、高濃度領域では選択性の低下が見られるようになる。
【0184】
実施例16のセンサー素子16は、センサー素子15にゲート電極がある構成のセンサー素子であるが、ゲート電極に-5Vの電圧を印加することによって、センサー素子15の結果で観られた選択性の低下を改善できることが分かる結果となった。
【0185】
実施例18~19のセンサー素子18と19は、それぞれセンサー素子1、4の基材背面(抵抗体の面とは反対面)に
図14、15の例に示した形式のヒーターを取り付けたセンサー素子を用いた結果であり、気環状炉で石英管周りを加熱する代わりに、背面のヒーターを用いて素子温度が130℃となる様に加熱した状態で測定を実施した。素子18、19いずれも明確なガスセ選択性を示すことが確認でき、ヒーターを用いて加熱した場合でも実施例1、4と同様の結果が得られることが分かった。
【0186】
実施例20は、下地層の体積低効率が1E6Ω・cmより低い場合の結果である。選択性は有するものの、精度の低下がみられた。
【0187】
実施例21は、p型半導体の仕事関数が4.5eVよりも小さい場合の例であり、精度の低下がみられたが、選択性は有することが確認できた。
【0188】
実施例22は、実施例4のp型半導体が酸化モリブデンではなく、F8BTの時の例であり、異なるp型半導体を用いても選択性を有するセンサー素子であることが確認できた。
【0189】
(比較例)
比較例3は、センサー素子3を使用して、実施例と同様のアンモニア(NH
3)、及び、一酸化窒素(NO)の濃度を徐々に変化させながら、異なる濃度のガス曝した際の抵抗値の変化を130℃で測定し、各種濃度に曝した際の抵抗変化率の変化を測定し結果である。結果を
図7、
図8、及び表1、2に示す。
【0190】
図7はセンサー素子3を用いた時のアンモニア(NH
3)への応答変化を示す。
【0191】
図8はセンサー素子3を用いた時の一酸化窒素(NO)への応答変化を示す。
【0192】
下地層を形成していないセンサー素子3では、アンモニアと一酸化窒素の両方に明確な応答性を示すため、本発明実施例と異なり、明確な選択性が現れないことが確認された。
【0193】
比較例17は、ゲート電極に-5Vの電圧を印加した、p型の下地層を有しないセンサー素子17を使用してセンサー素子3と同様に測定した結果である。表1、2に示す通り、アンモニアと一酸化窒素の両方に応答性を示さず、明確な選択性が現れないことが確認された。
【0194】
【0195】