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  • 特開-抗成長ホルモン抗体を含有する医薬 図1
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  • 特開-抗成長ホルモン抗体を含有する医薬 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121816
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】抗成長ホルモン抗体を含有する医薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240830BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240830BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240830BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240830BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240830BHJP
   A61P 5/08 20060101ALI20240830BHJP
   C07K 16/26 20060101ALN20240830BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P13/12
A61P19/02
A61P11/00
A61P5/08
C07K16/26 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024026241
(22)【出願日】2024-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2023028286
(32)【優先日】2023-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100196966
【弁理士】
【氏名又は名称】植田 渉
(72)【発明者】
【氏名】黒川 智文
(72)【発明者】
【氏名】植松 良勝
(72)【発明者】
【氏名】畑 智幸
(72)【発明者】
【氏名】足立 久
(72)【発明者】
【氏名】杉田 あゆみ
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB41
4C085BB43
4C085BB50
4C085CC05
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG04
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA71
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】      (修正有)
【課題】成長ホルモン(GH)の分泌過多や分泌不全に関連する疾患を治療、予防するための、血液中のインスリン様成長因子1(IGF-1)のレベルを低減する医薬組成物を提供する。
【解決手段】ヒトGHに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を提供する。一実施形態において、本発明は、ヒトGHに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片であって、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、VHが、それぞれ特定のアミノ酸配列を有するVH相補性決定領域(CDR)1(VHCDR1)、VHCDR2、及びVHCDR3を含み、VLが、それぞれ特定のアミノ酸配列を有するVL相補性決定領域(CDR)1(VLCDR1)、VLCDR2、及びVLCDR3を含む、前記抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト成長ホルモンに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片であって、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、
VHがVH相補性決定領域(CDR)1(VHCDR1)として配列番号5のアミノ酸配列、VHCDR2として配列番号6のアミノ酸配列、及びVHCDR3として配列番号7のアミノ酸配列を含み、
VLがVL相補性決定領域(CDR)1(VLCDR1)として配列番号8のアミノ酸配列、VLCDR2として配列番号9のアミノ酸配列、VLCDR3として配列番号10のアミノ酸配列を含む、抗体又はその抗原結合断片を含有する、注射用組成物である医薬。
【請求項2】
抗体又は抗原結合断片が、表面プラズモン共鳴法によって測定した場合に、1.0×10-8mol/L以下の平衡解離定数(KD)でヒト成長ホルモンに結合する、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
抗体又は抗原結合断片が、成長ホルモン作用を中和する、請求項1に記載の医薬。
【請求項4】
抗体又は抗原結合断片が、配列番号3、11、12、又は19のアミノ酸配列を有するVH、及び/又は配列番号4、13、14、又は20のアミノ酸配列を有するVLを含む、請求項1に記載の医薬。
【請求項5】
抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体、ベニア化抗体又は完全ヒト抗体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項6】
抗体が、配列番号17のアミノ酸配列を有する重鎖定常領域、及び/又は配列番号18のアミノ酸配列を有する軽鎖定常領域を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項7】
抗原結合断片が、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、又はscFvである、請求項1~4のいずれか一項に記載医薬。
【請求項8】
血液中のインスリン様成長因子1(IGF-1)のレベルを低減させるための、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項9】
先端巨大症、巨人症、がん、糖尿病性腎症、関節炎、及び肺炎症からなる群から選択される疾患を治療及び/又は予防するための、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項10】
抗体又はその抗原結合断片の投与量が1日当たり0.0001~100 mg/kgである、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一実施形態において、本発明は、ヒト成長ホルモンに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片、それらをコードする核酸、前記核酸を含むベクター、前記核酸又はベクターを含む細胞、前記抗体又はその抗原結合断片を含む医薬、又は治療有効量の前記抗体又はその抗原結合断片を投与するステップを含む血液中のインスリン様成長因子1(IGF-1)のレベルを低減させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成長ホルモン(Growth Hormone、以下「GH」とも言う)は、脳下垂体から合成及び分泌されるタンパク性のホルモンである。GHには分子量22kDaと20kDaのアイソフォーム(GH-22K、GH-20K)が知られており、ヒト血清における主要分子種はGH-22Kであるが、これ以外にも20kDa(GH-20K)等の複数のアイソフォームの存在が知られている(非特許文献1)。また、妊婦では胎盤から分子量22kDa及び20kDaのGHアイソフォーム(GH-V-22K、GH-V-20K)が分泌される(非特許文献2)。GHは組織への直接作用と、肝臓及び他の組織に発現する成長ホルモン受容体(成長ホルモンレセプター、以下「GHR」とも言う)への作用を介したインスリン様成長因子1(Insulin-like growth factor-1、以下「IGF-1」とも言う)の放出刺激の両方により、骨の伸長や筋肉の成長等、成長に関わる作用や代謝促進、血糖値上昇、恒常性の維持等、代謝に関わる作用を示す(非特許文献3)。
【0003】
GHの分泌過多や分泌不全は多くの疾患に関連している。GH分泌過多は良性の下垂体腺腫により生じ、その典型的な症状としては、先端巨大症と巨人症が知られている。先端巨大症は、「末端肥大症」とも呼ばれ、額、鼻やあご、手足、舌など体の先端が肥大し、体毛の剛毛化、皮膚の肥厚、皮脂腺や汗腺の肥大による大量発汗と不快な体臭、口頭軟骨の増殖による声の低音化などを伴う疾患である。GH分泌過多が思春期までに発症すると巨人症になる。
【0004】
先端巨大症の有病率は人口10万人あたり4-24人という報告があり、その数は多くはなく希少疾患とされているが、長期にわたってGHの過剰分泌が続くと、上記症状の他に糖尿病、高血圧、高脂血症などの代謝異常、睡眠時無呼吸症候群、心肥大などの症状を伴い、さらに狭心症、心筋梗塞 、脳血管障害などを起こす危険性もあり、GH分泌過多を見逃し、治療しないと死亡率が高くなることが分っている。また、先端巨大症は大腸がん、甲状腺がんなどを合併する可能性も高くなることが知られており、早期に発見し治療することが重要である。
【0005】
GH過剰分泌による疾患として、先端巨大症、巨人症の他、がん、糖尿病性腎症、関節炎、肺炎症等が知られている。非特許文献4には、がん細胞のGH発現が子宮内膜がん、乳がん等の進行に関与していること、非特許文献5には、GH受容体拮抗薬であるペグビソマントの腫瘍モデルマウスにおける腫瘍抑制作用が記載されている。非特許文献6にはGHと糖尿病性腎症との関連性、非特許文献7にはGHと関節痛や関節炎との関連性が記載されており、また、非特許文献8には、IGF-1と肺炎症との関連性が記載されている。
先端巨大症や巨人症の治療法としては、GHを過剰分泌する下垂体腺腫の摘出手術や放射線療法による退縮、そして薬物治療が施されている。下垂体腺腫摘出手術はその他の外科的手術と同様に死亡を含む合併症のリスクを伴い、高度な技術を要する。また放射線療法にも同様なリスクが伴い、効力を発揮するには数年を要することがある。現在、市場で使用できる治療薬としてはソマトスタチン類似体(オクトレオチド酢酸塩徐放性製剤、ランレオチド酢酸塩徐放性製剤など)、ドーパミン作動薬(メシル酸ブロモクリプチン)、GH受容体拮抗薬(ペグビソマント)があるが、有効性、安全性、利便性を同時に満たす薬剤はいまだ存在しない。
【0006】
特許文献1には、GH-22Kに結合するが、GH-20Kには実質的には結合しない抗ヒトGHマウスモノクローナル抗体(mAb)(hGH-25、hGH-26)、GH-20Kに結合するが、GH-22Kには実質的には結合しない抗ヒトGHマウスmAb(hGH-33)、並びにGH-22K、GH-20Kのいずれにも結合する抗ヒトGHマウスmAb(hGH-12)が開示されている。これらの抗体はヒトGHR/G-CSFRを強制発現させたBa/F3細胞株のGH依存的増殖試験において、hGH-25、hGH-26はGH-22K依存的な細胞増殖のみを、hGH-33はGH-20K依存的な細胞増殖のみを、hGH-12はGH-22K及びGH-20K依存的な細胞増殖を阻害したことが示されているが、阻害の強さ(IC50:50%阻害濃度)は明示されていない。
【0007】
非特許文献9には、8種類の抗ヒトGHマウスmAbを取得し、これらのうち、ヒト胎盤性乳腺刺激ホルモン(hCS)(ヒト胎盤性ラクトゲン(hPL))に交差反応するクローンEB1、EB2、NA71がヒトGHやhCS依存的なNb2ラットリンパ腫細胞株の増殖を抑制したことが記載されているが、阻害活性の強さ(IC50)は明示されていない。
【0008】
非特許文献10には、非特許文献1に記載の抗ヒトGHマウスmAb EB1、EB2がヒトGHやhCSの矮小マウスにおける軟骨細胞増殖作用及びハトにおける乳腺刺激作用を逆に促進したことが示されている。
【0009】
非特許文献11には、複数の抗ヒトGHマウスmAbが記載され、非特許文献9、10に記載のクローンEB1とEB2がヒトGHのヒトGHRへの結合を阻害し、また3T3-F422A脂肪細胞株へのグルコース取り込みに対するヒトGHの阻害活性を阻害したことが示されているが、阻害の強さ(IC50)は明示されていない。
【0010】
非特許文献12は、特許文献1に関連したものである。非特許文献12では、ヒトGHR/G-CSFRを強制発現させたBa/F3細胞株のGH依存的増殖試験において、hGH-25、hGH-26はGH-22K依存的な細胞増殖のみを、hGH-33はGH-20K依存的な細胞増殖のみを、hGH-12はGH-22K及びGH-20K依存的な細胞増殖を阻害したことが示されているが、阻害の強さ(IC50)は明示されていない。
【0011】
非特許文献13には、3種類の抗ヒトGHマウスmAbが記載され、うち、ヒトGHのNb2ラットリンパ腫細胞株に対する結合を強く阻害する2クローン(AC8, F11)がヒトGH依存的Nb2細胞増殖を阻害したことが示されているが、阻害の強さ(IC50)は明示されていない。
【0012】
非特許文献14には、10種類のヒトGH特異的なマウスmAbが記載され、マイトジェン刺激(PHA)によるT細胞の増殖を抑制したことが記載されているが、ヒトGHに対する阻害活性は示されていない。
【0013】
非特許文献15には、3種類の抗ヒトGHマウスmAbが記載されており、hPLに高濃度で交差反応するクローン(B-2)のみがヒトGH-ヒトGHR結合を阻害したことが示されているが、阻害の強さ(IC50)は明示されていない。
【0014】
非特許文献16には、ヒトGHRを強制発現させたBa/F3細胞株(Ba/F3-hGHR)を用いた、新規な血清中ヒトGH活性測定法が記載され、Ba/F3-hGHRの増殖がGH依存的であることを示すための陽性コントロール抗体として、抗ヒトGHマウスmAb(clone 5801)が用いられている。ヒトGHに対し、50倍又は100倍モル量の5801抗体はBa/F3-hGHRのGH依存的増殖を完全に阻害したが、阻害の強さ(IC50)は明示されていない。
【0015】
非特許文献17には、中和活性を有する抗ヒトGHマウスmAb(6J33)が記載されている。6J33抗体は中和活性を有することが示されているが、阻害の強さ(IC50)は明示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開第1997/36929号
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Growth hormone isoforms and segments/fragments: Molecular structure and laboratory measurement(Palo E.F.D.ら、Clinica Chimica Acta 2006, 364, 67-76)
【非特許文献2】Cloning of two novel growth hormone transcripts expressed in human placenta(Boguszewski C.L.ら、J Clin Endocrinol Metab 1998, 83,2878-2885)
【非特許文献3】Targeting growth hormone function: strategies and therapeutic applications(Lu M.ら、Signal Transduction and Targeted Therapy 2019, 4:3)
【非特許文献4】Tumour-Derived Human Growth Hormone As a Therapeutic Target in Oncology(Jo K Perryら、Trends Endocrinol Metab. 2017;28(8):587-596.)
【非特許文献5】Antitumor activity of the growth hormone receptor antagonist pegvisomant against human meningiomas in nude mice(I E McCutcheonら、J Neurosurg. 2001;94:487-492.)
【非特許文献6】The glomerular podocyte as a target of growth hormone action: implications for the pathogenesis of diabetic nephropathy(P Anil Kumarら、Curr Diabetes Rev. 2011;7(1):50-55.)
【非特許文献7】Medical progress: Acromegaly(Shlomo Melmed、N Engl J Med 2006; 355:2558-2573)
【非特許文献8】Adenovirus-mediated gene transfer of hIGF-IB in mouse lungs induced prolonged inflammation but no fibroproliferation(Caroline Legerら、Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol. 2010;298(4):L492-500.)
【非特許文献9】Study of antigenic structure and inhibition of activity of human growth hormone and chorionic somatomammotropin by monoclonal antibodies. (Ivanyi J.、Mol. Immunol. 19: 1611-1618、1982.
【非特許文献10】Potentiation of the somatogenic and lactogenic activity of human growth hormone with monoclonal antibodies. (Aston R.ら、J. Endocrinol. 110: 381-388、1986)
【非特許文献11】Actions of monoclonal antibodies on the activity of human growth hormone (GH) in an in vitro bioassay. (Burbridge D.ら、Mol. Cell. Endocrinol. 174: 11-19、2001)
【非特許文献12】Characterization of monoclonal antibodies specific for the human growth hormone 22K and 20K isoforms. (Mellado M.ら、J. Clin. Endocrinol. Metab. 81:1613-1618、1996)
【非特許文献13】Monoclonal antibodies to human growth hormone modulate its biological properties. (Roguin L.P.ら、Mol. Immunol. 32: 399-405、1995)
【非特許文献14】Monoclonal antibodies against recombinant human growth hormone as probes to study immune function.(Lattuada D.ら、Hybridoma 15: 211-217、1996
【非特許文献15】Characterization of monoclonal antibodies to human growth hormone (hGH)(Sato Y.、Tokyo Joshi Ika Daigaku Zasshi 54: 493-506、1984)
【非特許文献16】Novel Specific Bioassay for Serum Human Growth Hormone. (Ishikawa M.ら、J. Clin. Endocrinol. & Metab. 85: 4274-4279、2000)
【非特許文献17】GeneTex社試薬:Catalog Number: GTX52773、https://www.genetex.com/Product/Detail/Growth-Hormone-antibody-6J33/GTX52773
【発明の概要】
【0018】
一実施形態において、本発明は、ヒトGHに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0019】
本発明は、以下の実施形態を包含する。
(1)ヒト成長ホルモンに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片であって、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、
VHが、VH相補性決定領域(CDR)1(VHCDR1)、VHCDR2、及びVHCDR3を含み、
VHCDR1が、配列番号5のアミノ酸配列、又は配列番号5のアミノ酸配列において1若しくは2個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含み、
VHCDR2が、配列番号6のアミノ酸配列、又は配列番号6のアミノ酸配列において1若しくは2個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含み、
VHCDR3が、配列番号7のアミノ酸配列、又は配列番号7のアミノ酸配列において1若しくは2個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含み、
VLがVL相補性決定領域(CDR)1(VLCDR1)、VLCDR2、及びVLCDR3を含み、
VLCDR1が、配列番号8のアミノ酸配列、又は配列番号8のアミノ酸配列において1若しくは2個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含み、
VLCDR2が、配列番号9のアミノ酸配列、又は配列番号9のアミノ酸配列において1若しくは2個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含み、
VLCDR3が、配列番号10のアミノ酸配列、又は配列番号10のアミノ酸配列において1若しくは2個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む、前記抗体又はその抗原結合断片。
(2)ヒト成長ホルモンに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片であって、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、
VHがVH相補性決定領域(CDR)1(VHCDR1)として配列番号5のアミノ酸配列、VHCDR2として配列番号6のアミノ酸配列、及びVHCDR3として配列番号7のアミノ酸配列を含み、
VLがVL相補性決定領域(CDR)1(VLCDR1)として配列番号8のアミノ酸配列、VLCDR2として配列番号9のアミノ酸配列、VLCDR3として配列番号10のアミノ酸配列を含む、前記抗体又はその抗原結合断片。
(3)表面プラズモン共鳴法によって測定した場合に、1.0×10-8mol/L以下の平衡解離定数(KD)でヒト成長ホルモンに結合する、(1)又は(2)に記載の抗体又はその抗原結合断片。
(4)成長ホルモン作用を中和する、(1)~(3)のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
(5)配列番号3、11、12、又は19のアミノ酸配列において、CDR1~CDR3以外の領域において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は、配列番号3、11、12、又は19のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むVH、及び/又は
配列番号4、13、14、又は20のアミノ酸配列において、CDR1~CDR3以外の領域において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は、配列番号4、13、14、又は20のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むVL、
を含む、(1)~(4)のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
(6)配列番号3、11、12、又は19のアミノ酸配列を有するVH、及び/又は配列番号4、13、14、又は20のアミノ酸配列を有するVLを含む、(5)に記載の抗体又はその抗原結合断片。
(7)抗体がモノクローナル抗体である、(1)~(6)のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
(8)抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体、ベニア化抗体又は完全ヒト抗体である、(1)~(7)のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
(9)抗体が、配列番号17のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む重鎖定常領域、又は配列番号17のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖定常領域、及び/又は
配列番号18のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域、又は配列番号18のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域、
を含む、(1)~(8)のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
(10)抗体が、配列番号17のアミノ酸配列を有する重鎖定常領域、及び/又は配列番号18のアミノ酸配列を有する軽鎖定常領域を含む、(1)~(9)のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
(11)抗原結合断片が、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、又はscFvである、(1)~(10)のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片。
(12)(1)~(11)のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸。
(13)(12)に記載の核酸を含むベクター。
(14)(12)に記載の核酸若しくは請求項(13)に記載のベクターを含む細胞。
(15)(1)~(11)のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片を含む医薬。
(16)血液中のインスリン様成長因子1(IGF-1)のレベルを低減させるための、(15)に記載の医薬。
(17)先端巨大症、巨人症、がん、糖尿病性腎症、関節炎、及び肺炎症からなる群から選択される疾患を治療及び/又は予防するための、(15)又は(16)に記載の医薬。
(18)血液中のインスリン様成長因子1(IGF-1)のレベルを低減させるための方法であって、治療有効量の(1)~(11)のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片を投与するステップを含む方法。
(19)ヒト成長ホルモンに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片であって、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、
VHがVH相補性決定領域(CDR)1(VHCDR1)として配列番号5のアミノ酸配列、VHCDR2として配列番号6のアミノ酸配列、及びVHCDR3として配列番号7のアミノ酸配列を含み、
VLがVL相補性決定領域(CDR)1(VLCDR1)として配列番号8のアミノ酸配列、VLCDR2として配列番号9のアミノ酸配列、VLCDR3として配列番号10のアミノ酸配列を含む、抗体又はその抗原結合断片を含有する、注射用組成物である医薬。
(20)抗体又は抗原結合断片が、表面プラズモン共鳴法によって測定した場合に、1.0×10-8mol/L以下の平衡解離定数(KD)でヒト成長ホルモンに結合する、(19)に記載医薬。
(21)抗体又は抗原結合断片が、成長ホルモン作用を中和する、(19)に記載の医薬。
(22)抗体又は抗原結合断片が、配列番号3、11、12、又は19のアミノ酸配列を有するVH、及び/又は配列番号4、13、14、又は20のアミノ酸配列を有するVLを含む、(19)に記載の医薬。
(23)抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体、ベニア化抗体又は完全ヒト抗体である、(19)~(22)のいずれかに記載の医薬。
(24)抗体が、配列番号17のアミノ酸配列を有する重鎖定常領域、及び/又は配列番号18のアミノ酸配列を有する軽鎖定常領域を含む、(19)~(22)のいずれかに記載の医薬。
(25)抗原結合断片が、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、又はscFvである、(19)~(22)のいずれかに記載の医薬。
(26)血液中のインスリン様成長因子1(IGF-1)のレベルを低減させるための、(19)~(22)のいずれかに記載の医薬。
(27)先端巨大症、巨人症、がん、糖尿病性腎症、関節炎、及び肺炎症からなる群から選択される疾患を治療及び/又は予防するための、(19)~(22)のいずれかに記載の医薬。
(28)抗体又はその抗原結合断片の投与量が1日当たり0.0001~100 mg/kgである、(19)~(22)のいずれかに記載の医薬。
【0020】
一実施形態において、本発明によりヒトGHに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、下垂体摘除/GH補充ラットに対し、抗GHマウスmAb(13H02)を投与した2日後の血清IGF-1値を示す。正常対照群(Normal)は下垂体摘除/GH非補充ラットであり、陰性対照群は下垂体摘除/GH補充ラットにcontrol mouse IgG1を投与したものである。
図2図2は、下垂体摘除/GH補充ラットに対し、抗GH マウス-ヒトキメラmAb(Ch-13H02)を投与した2日後の血清IGF-1値を示す。正常対照群(Normal)は下垂体摘除/GH非補充ラットとし、陰性対照群は下垂体摘除/GH補充ラットにcontrol human IgG1を投与したものである。
図3図3は、下垂体摘除/GH補充ラットに対し、抗GHヒト化抗体Fc改変体(Hu-13H02m)を投与した2日後の血清IGF-1値を示す。正常対照群(Normal)は下垂体摘除/GH非補充ラットとし、陰性対照群は下垂体摘除/GH補充ラットにcontrol human IgG1を投与したものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.成長ホルモンに結合する抗体
一実施形態において、本発明は、ヒト成長ホルモン(growth hormone、GH)に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片(以下、「抗GH抗体」とも言う)を提供する。
【0023】
「成長ホルモン」とは脳下垂体前葉における細胞から分泌されるホルモンであり、個体の成長や代謝に関わる。GHは組織への直接作用と、肝臓及び他の組織に発現するGH受容体(GHR)への作用を介したインスリン様成長因子1(IGF-1)の放出刺激との両方により、骨の伸長や筋肉の成長等、成長に関わる作用や代謝促進、血糖値上昇、恒常性の維持等、代謝に関わる作用を示す。IGF-1は、インスリンと類似した構造を持つペプチドホルモンで、肝臓をはじめとする様々な組織で分泌される。IGF-1は多種の臓器に作用し、細胞の増殖分化タンパク質合成などを促進し、また細胞死を抑制する活性をもつなど、その生理機能は多岐に渡る。
【0024】
ヒトGHのアミノ酸配列及びmRNA配列等の情報は、GenBank等の公にアクセス可能なデータベースから入手することができる。また、マウス、サル等他の哺乳動物のGHに関しても同様に、公にアクセス可能なデータベースからこれら配列情報を入手できる。
【0025】
本明細書中、単に「GH」という場合、GHタンパク質のことを指すものとする。場合によっては、GHタンパク質をコードする遺伝子を単にGHと呼ぶ場合もありうる。「GH」がGHタンパク質をコードする遺伝子を指す場合は当業者にとっては文脈から明らかであろう。本明細書中、GHは、典型的には、ヒトGHであるが、ヒト以外の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、サル等)のGHであってもよい。
【0026】
本明細書において、「抗体」とは、ジスルフィド結合により相互結合された少なくとも2つの重鎖(Heavy chain)と2つの軽鎖(Light chain)を含み、IgMの場合はさらにJ鎖を含む糖タンパク質である。重鎖は、重鎖可変領域(VH)及び重鎖定常領域を含む。重鎖の定常領域にはγ鎖、μ鎖、α鎖、δ鎖及びε鎖が存在し、その違いによって、IgG、IgM、IgA、IgD及びIgEというアイソタイプが存在する。重鎖定常領域は、3つのドメイン、すなわちCH1、CH2及びCH3を含み、IgE及びIgMの場合はさらにCH4を含む。軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域を含み、軽鎖定常領域は、1つのドメイン、すなわちCLを含む。軽鎖の定常領域にはλ鎖及びκ鎖と呼ばれる2種類が存在する。VH及びVL領域は、さらにフレームワーク領域(FR)と称される、可変領域の中では比較的保存されている4つの領域(FR1、FR2、FR3、FR4)と、相補性決定領域(CDR)と称され抗原結合に寄与する3つの超可変領域(CDR1、CDR2、CDR3)に細分される。VHは、アミノ末端からカルボキシ末端へ、FR1、CDR1(CDRH1)、FR2、CDR2(CDRH2)、FR3、CDR3(CDRH3)、FR4の順番で配列された3つのCDR及び4つのFRを含む。VLはアミノ末端からカルボキシ末端へ、FR1、CDR1(CDRL1)、FR2、CDR2(CDRL2)、FR3、CDR3(CDRL3)、FR4の順番で配列された3つのCDR及び4つのFRを含む。CDRは、例えばKabatらの方法に従って決定することができる(Kabat E.A.ら、1992、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、NIH、Washington D.C.)。
【0027】
本明細書における「抗体」には、インタクトな免疫グロブリンの全てのクラス及びサブクラスを含む。本明細書に記載の抗体は、例えば、IgGであり、より具体的には、その定常領域がヒトIgG1、IgG1のエフェクター機能を消失させた改変体、IgG2、IgG4、又はIgG4(S228P)であり、さらに具体的にはIgG1、又はIgG1のエフェクター機能を消失させた改変体であってよい。一般的に、機能発揮にエフェクター機能を必要としない抗体は、安全性の観点からエフェクター機能の弱いアイソタイプやエフェクター機能を消失させた改変体を用いることが好ましいが、本明細書に記載の抗体は可溶性のGHを標的とする為、その必要性は少ない。
【0028】
本明細書において、抗体の「抗原結合断片」としては、分離した重鎖、軽鎖、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFv等が挙げられる。
【0029】
本明細書において、抗体又はその抗原結合断片には、それらの誘導体が含まれる。抗体又はその抗原結合断片の誘導体としては、定常領域に人工的にアミノ酸変異を導入した抗体、定常領域のドメインの構成を改変した抗体、1分子あたり2つ以上のFcを持つ抗体、糖鎖改変抗体、二重特異性抗体、抗体又はその抗原結合断片と他の成分を連結させた抗体コンジュゲート、抗体酵素、タンデムscFv、二重特異性タンデムscFv、三重特異性タンデムscFv、ダイアボディ(Diabody)等が挙げられる。
【0030】
本明細書に記載される抗体は、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体のいずれであってもよいが、特に、モノクローナル抗体が好ましい。
【0031】
「モノクローナル抗体」(「mAb」とも記載する)とは、典型的には単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られた抗体である。すなわち、mAbは、均一な又は実質的に均一な集団を構成する個々の抗体のアミノ酸配列が、少量存在しうる自然に生じる可能な突然変異を除いて同一である。mAbは、抗原上の単一の抗原決定基(エピトープ)に結合し高い特異性を有する。一方、ポリクローナル抗体は、アミノ酸配列が1か所以上異なる複数のmAbからなる混合物である。
【0032】
本明細書において、mAbには、完全ヒト抗体、及び非ヒト抗体が含まれる。
【0033】
非ヒト抗体とは、完全ヒト抗体以外のものであり、例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット等の動物の抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体及びベニア化抗体が挙げられる。
【0034】
「キメラ抗体」とは、可変領域配列が1種に由来し、定常領域配列が別の種に由来する抗体、例えば、可変領域配列がヒト以外の動物抗体に由来し、定常領域配列がヒト抗体に由来する抗体などを言う。
【0035】
「ヒト化抗体」とは、可変領域のうちCDR配列及び一部のフレームワークのアミノ酸残基のみがヒト以外の動物抗体に由来し、それ以外の配列、すなわちほとんどのフレームワーク配列及び全ての定常領域配列がヒト抗体に由来する抗体などを言う。
【0036】
「ベニア化抗体」とは、ヒト以外の動物抗体のCDRの一部及び通常は全てとヒト以外の動物可変領域フレームワーク残基の一部とを保持するが、B又はT細胞エピトープに寄与し得る他の可変領域フレームワーク残基、例えば、露出されている残基(Padlan、Mol. Immunol. 28:489、1991)をヒト抗体配列の対応する位置の残基で置き換える、ヒト化抗体の1つの型である。
【0037】
「完全ヒト抗体」とは、CDR配列も含め、すべてヒト抗体に由来する抗体を言う。
【0038】
本明細書において「特異的に結合する」とは、抗体がある抗原に対して非抗原物質に対する親和性(非特異的相互作用)よりも、有意に高い親和性で結合することをいう。親和性は、常法により測定できる。そのような方法は、特に限定されないが、例えば、酵素結合免疫吸着法(enzyme-linked immunosorbent assay:ELISA)、表面プラズモン共鳴法(SPR)等が挙げられる。そのような親和性測定の際に、抗体及び/又は抗原を酵素、蛍光物質等で標識し、標識物質を測定し、親和性を決定することもできる。
【0039】
親和性を示すパラメータとして、通常、KD(平衡解離定数)、kon(結合速度定数)、koff(解離速度定数)を用いることができる。
【0040】
本明細書において使用される場合、konは抗体の抗原との結合についての速度定数、koffは抗体の抗原-抗体複合体からの解離についての速度定数を指す。また、本明細書において使用される場合、KDは、抗原-抗体相互作用の平衡解離定数を指し、koff/konとして算出される。
【0041】
一実施形態において、本明細書に記載の抗体は、KDが、本明細書の実施例12に記載の方法に従って測定した場合に、例えば1×10-8mol/L以下、1×10-9mol/L以下、1×10-10mol/L以下、5×10-11mol/L以下、2×10-11mol/L以下及び/又は1.0×10-13以上、1.0×10-12以上、若しくは1.0×10-11以上で、ヒトGHに結合する。
【0042】
一実施形態において、本明細書に記載の抗体は、ヒトGHのアイソフォーム(GH-22K、GH-20K)において、GH-22Kへの親和性が高い。
【0043】
本明細書において「交差反応性」とは、本明細書に記載の実施例で抗原として用いたヒトGH(GH-22K)に対する反応性を100%とした際の他のタンパク質、例えばヒト以外の哺乳動物に由来するGH、ヒトGHと構造類似性を示すタンパク質(例えば、ヒトplacental lactogen (PL)、ヒトprolactin (PRL))、及び/又はヒトGHの他アイソフォーム(GH-20K)に対する反応性をいう。
【0044】
抗GH抗体の交差反応性は、例えば、in vitroにおいて、実施例3、4及び14に記載される競合的ELISAや実施例13に記載されるSPRにより測定することができる。
【0045】
一実施形態において、本明細書に記載の抗体又はその抗原結合断片は、VH及びVLを含み、VHが、VH相補性決定領域(CDR)1(VHCDR1)、VHCDR2、及びVHCDR3を含み、VLがVL相補性決定領域(CDR)1(VLCDR1)、VLCDR2、及びVLCDR3を含む。一実施形態において、VHCDR1は、配列番号5のアミノ酸配列、又は配列番号5のアミノ酸配列において1若しくは2個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含むか、又はからなる。一実施形態において、VHCDR2は、配列番号6のアミノ酸配列、又は配列番号6のアミノ酸配列において1若しくは2個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含むか、又はからなる。一実施形態において、VHCDR3は、配列番号7のアミノ酸配列、又は配列番号7のアミノ酸配列において1若しくは2個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含むか、又はからなる。一実施形態において、VLCDR1は、配列番号8のアミノ酸配列、又は配列番号8のアミノ酸配列において1若しくは2個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含むか、又はからなる。一実施形態において、VLCDR2は、配列番号9のアミノ酸配列、又は配列番号9のアミノ酸配列において1若しくは2個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含むか、又はからなる。一実施形態において、VLCDR3は、配列番号10のアミノ酸配列、又は配列番号10のアミノ酸配列において1若しくは2個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含むか、又はからなる。一実施形態において、VHCDR1は、配列番号5のアミノ酸配列において1個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含むか、又はからなり、VHCDR2は、配列番号6のアミノ酸配列において1個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含むか、又はからなり、VHCDR3は、配列番号7のアミノ酸配列において1個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含むか、又はからなり、VLCDR1は、配列番号8のアミノ酸配列において1個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含むか、又はからなり、VLCDR2は、配列番号9のアミノ酸配列において1個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含むか、又はからなり、VLCDR3は、配列番号10のアミノ酸配列において1個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含むか、又はからなる。
【0046】
一実施形態において、本明細書に記載の抗体又はその抗原結合断片は、VHがVH相補性決定領域(CDR)1として配列番号5のアミノ酸配列、VHCDR2として配列番号6のアミノ酸配列、及びVHCDR3として配列番号7のアミノ酸配列を含み、VLがVL相補性決定領域(CDR)1として配列番号8のアミノ酸配列、VLCDR2として配列番号9のアミノ酸配列、VLCDR3として配列番号10のアミノ酸配列を含む。VHCDR1~CDR3はそれぞれ配列番号5~7のアミノ酸配列からなってもよく、VLCDR1~CDR3はそれぞれ配列番号8~10のアミノ酸配列からなってもよい。
【0047】
本明細書に記載の抗体又はその抗原結合断片のフレームワーク領域の配列は、抗体又はその抗原結合断片がGHに特異的に結合可能である限り限定しない。一実施形態において、本明細書に記載の抗体又はその抗原結合断片は、
配列番号3、11、12、又は19のアミノ酸配列において、CDR1~CDR3以外の領域において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は、配列番号3、11、12、又は19のアミノ酸配列に対して90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、CDR1~CDR3の領域は配列番号5~7からそれぞれなるVH、及び/又は
配列番号4、13、14、又は20のアミノ酸配列において、CDR1~CDR3以外の領域において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は、配列番号4、13、14、又は20のアミノ酸配列に対して90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、CDR1~CDR3の領域は配列番号8~10からそれぞれなるVLを含む。
【0048】
一実施形態において、本明細書に記載の抗体又はその抗原結合断片は、 配列番号3、11、12、又は19のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は、配列番号3、11、12、又は19のアミノ酸配列に対して90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むVH、及び/又は
配列番号4、13、14、又は20のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は、配列番号4、13、14、又は20のアミノ酸配列に対して90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むVLを含む。
【0049】
本明細書において、「数個」は、例えば2~10個、2~8個、2~5個、例えば2個又は3個であってよい。
【0050】
本明細書においてアミノ酸配列の「同一性」(identity)とは、一致するアミノ酸残基の割合を意味する。アミノ酸配列の同一性は、例えばBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)解析法により決定することができる。
【0051】
一実施形態において、本明細書に記載の抗体又はその抗原結合断片は、配列番号3、11、12、又は19のアミノ酸配列を有するVH、及び/又は配列番号4、13、14、又は20のアミノ酸配列を有するVLを含む。
【0052】
一実施形態において、本明細書に記載の抗体又はその抗原結合断片は、
配列番号17のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む重鎖定常領域、又は配列番号17のアミノ酸配列に対して90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖定常領域、及び/又は
配列番号18のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域、又は配列番号18のアミノ酸配列に対して90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域を含む。ここで、配列番号17のアミノ酸配列においては、C末端のリジン残基が存在しても存在しなくてもよい。
【0053】
一実施形態において、本明細書に記載の抗体又はその抗原結合断片は、配列番号17のアミノ酸配列を有する重鎖定常領域、及び/又は配列番号18のアミノ酸配列を有する軽鎖定常領域を含む。ここで、配列番号17のアミノ酸配列においては、C末端のリジン残基が存在しても存在しなくてもよい。
【0054】
定常領域のアミノ酸配列は、血中半減期を延長させる置換(例えば、Hinton P.R.ら、J. Biol. Chem. 279:6213-6216, 2004を参照)を含んでもよい。
【0055】
抗体の血中半減期を延長させることを目的とした、重鎖定常領域内での1又は複数アミノ酸の改変として、例えば、米国特許第7,083,784号、米国特許第7,217,797号、米国特許第8,088,376号を参照に記載の方法がある。前記文献に記載の例としては、例えば、Kabatの通りのEUナンバリングで重鎖250番目のスレオニンがグルタミンに置換されたもの、重鎖428番目のメチオニンがロイシンに置換されたもの、重鎖434番目のアスパラギンがセリンに置換されたもの等が挙げられ、前記アミノ酸置換は複数組み合わせることもできる。
【0056】
本明細書において、元のアミノ酸配列に対して1若しくは数個のアミノ酸が置換、付加、若しくは欠失したアミノ酸配列、又は、元のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むVH及び/又はVLを含む抗体又はその抗原結合断片は、元のアミノ酸配列を有する抗体又はその抗原結合断片と同等の生物学的活性を有してもよい。ここで、「同等の生物学的活性」としては、(i)GHに対する特異的結合活性、(ii)GHの中和活性、(iii)GHに結合した場合のIGF-1産生抑制活性、又は(iv)これらのいずれか2つ以上もしくは全てが挙げられる。
【0057】
一実施形態において、本明細書に記載の抗体は、GH作用を中和する。本明細書において「中和」とは、目的とするタンパクに結合し、その作用を無力化又は減弱化することを言い、「中和活性」とは、無力化又は減弱化する作用の程度をいう。本明細書に記載の抗体は、特に、GHに結合することから、断りがない限り、又は文脈上他のタンパクに対することが明らかでない限り、中和活性はGHに対する無力化又は減弱化の程度をいう。一実施形態において、本明細書に記載の抗体は、GHに特異的に結合してGHRとの相互作用を遮断することによって、血漿及び/又は組織中のIGF-1レベルを低下させる。
【0058】
本明細書に記載の抗体の中和活性は、例えば、in vitroにおいて、(例えば本願明細書の実施例2に記載されたGH-GHR結合阻害アッセイ又はGH依存的Nb2細胞増殖阻害アッセイで)測定することができる。一実施形態において、本明細書に記載の抗体は、実施例2に記載のGH-GHR結合阻害アッセイにおいて、10,000pmol/L以下、1,000pmol/L以下、若しくは100pmol/L以下、及び/又は1pmol/L以上、0.1pmol/L以上、若しくは0.01pmol/L以上のIC50を有する。一実施形態において、本明細書に記載の抗体は、実施例2に記載のGH依存的Nb2細胞増殖阻害アッセイにおいて、1,000pmol/L以下、100pmol/L以下、若しくは10pmol/L以下、及び/又は1pmol/L以上、0.1pmol/L以上、若しくは0.01pmol/L以上のIC50を有する。
【0059】
本明細書に記載の抗体は血清IGF-1濃度を低減し、GH分泌過多による諸症状を緩和、治療するために使用してもよく、GH過剰により将来的に何らかの症状を呈するであろうヒトに対する予防剤として使用してもよい。本明細書に記載の抗体は、GH分泌過多症に対して、従来の治療薬に奏功しない患者に用いてもよい。一実施形態において、本明細書に記載の抗体は、例えば、先端巨大症、巨人症、ある特定のがん、糖尿病性腎症、関節炎、及び肺炎症を含む、GH分泌過多に伴う障害の治療及び/又は予防において使用することができる。
【0060】
一実施形態において、本明細書に記載の抗体は、優れた(例えばペグビソマントと同等以上の)薬効、安全性、及び/又は良好な血中動態を有し得る。
【0061】
一実施形態において、本明細書に記載の抗体は、in vivoにおいて、血清IGF-1値を低下させる。例えば、本明細書に記載の抗体は、下垂体摘除により内因性GHが欠如したラットに外因性ヒトGHの持続投与により生じる血清IGF-1値上昇を用量依存的に低下させる。また、一実施形態において、本明細書に記載の抗体は、哺乳動物、例えばサルに投与することにより内因性GHを中和し、血清IGF-1値を持続的に低下させる。
【0062】
一実施形態において、本明細書に記載の抗体は、哺乳動物に対する毒性をほとんど又は全く有さない。
【0063】
一実施形態において、本明細書に記載の抗体は、良好な物性(例えば、水溶性、酸安定性、熱安定性、疎水性相互作用の少なくとも一つ)を示す。
2.本明細書に記載の抗体の作製
本明細書に記載の抗体は、例えば、動物への抗原免疫によって得られたB細胞からハイブリドーマ法、各種ディスプレー法、1細胞スクリーニング法等の当該技術分野で公知の多種多様な方法により選択取得することができる。また抗原免疫動物にヒト抗体遺伝子を組み込んだ遺伝子改変動物を用いたり、ヒト抗体遺伝子プールから構築された抗体ディスプレーライブラリーを用いたりすることにより、完全ヒトモノクローナル抗体を作製することができる。
【0064】
ハイブリドーマ技術は、抗原をマウスやラット等の動物に免疫して得られた抗体産生B細胞とミエローマ細胞を融合させることにより不死化させたモノクローナルなハイブリドーマ細胞株の中から目的抗体産生株を選択取得し、モノクローナル抗体を得る手法である。その手法については限定されるものではないが、例えば以下のように実施することができる。
【0065】
本明細書に記載の抗体を作製するための抗原としては、ヒトGH又はその断片等を用いることができる。これらの抗原を各種アジュバントと共にマウス又はラット等の動物に複数回免疫し、血清抗体価が上昇した動物に対し、抗原の最終免疫を行った後、脾臓やリンパ節を摘出し、抗体産生B細胞を含むリンパ球を回収する。前記リンパ球(B細胞)を、ポリエチレングリコール又は電気細胞融合装置を用いて、ミエローマ細胞株と融合させ、両者の融合細胞のみが生存できる選択培地(例えば、HAT(ヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン)を含有する選択培地)で培養し、ハイブリドーマを樹立する。こうして得られたモノクローナルなハイブリドーマを適宜培養し、その培養上清のヒトGH結合活性及びヒトGH中和活性を測定し、ヒトGH特異的な中和抗体産生ハイブリドーマを選択取得することができる。ハイブリドーマ作製技術の詳細は公知であり、例えば、Koehler,G.ら、Nature 256: 495-497、1975、Hnasko R.M.ら、Methods Mol. Biol. 1318: 15-28、2015を参照することができる。
【0066】
ディスプレー技術による抗体作製方法としては、例えばファージディスプレー、酵母ディスプレー、cDNAディスプレー、リボソームディスプレー、動物細胞ディスプレー等が挙げられる。具体的には、上記ハイブリドーマ技術に記載の免疫動物や非免疫動物、疾患患者あるいは健常人から単離したB細胞プールから単離した遺伝子がコードする抗体フラグメント(scFvやFab等)を各種ディスプレーシステムに提示させライブラリーを構築する。このライブラリーから、バイオパニングと呼ばれる選別操作により、抗原に親和性のある抗体及びその遺伝子を濃縮、増幅、単離することにより、目的抗体を得ることができる。ディスプレー技術の詳細は公知であり、例えば、米国特許第5,223,409号、米国特許第5,885793号、米国特許第6,582,915号、米国特許第5,969,108号及び米国特許第6,172,197号、米国特許第5,821,047号、米国特許第6,706,484号、米国特許第6,753,136号、並びにWinter G.P.ら、Annu. Rev. Immunol. 12:433-455、1994、Rothe C.ら、J. Mol. Biol. 376: 1182-1200、2008、Scholler N.、Methods Mol. Biol. 1827: 211-233、2018、Yamaguchi J.ら、Nucleic Acids Res. 37: e108、2009、Dreier B.ら、Methods Mol. Biol. 1827: 235-268、2018、Zhou C.ら、Methods Mol. Biol. 907: 293-302、2012を参照することができる。
【0067】
B細胞の1細胞スクリーニング技術による抗体作製方法としては、上記の免疫動物あるいは疾患患者から単離したB細胞を、例えば極小セルに1細胞/セルで播種し、各細胞の分泌する抗体活性を蛍光反応により検出することにより目的抗体産生B細胞を選別する方法、あるいは、B細胞を蛍光標識抗原と反応させ、蛍光染色される目的抗体産生B細胞を蛍光活性化セルソーティング(FACS)により1細胞/ウェルで選別する方法などが挙げられ、こうして回収したB細胞から抗体遺伝子を単離することにより、目的抗体を得ることができる。B細胞の1細胞スクリーニング技術の詳細は公知であり、例えば、Love J.C.ら、Nat. Biotechnol. 24:703-707、2006、Tiller T.ら、J. Immunol. Methods 29:112-124、2008、Jin A.ら、Nat. Med. 15:1088-1092、2009、Starkie D.O.ら、PLoS ONE 11: 20152282、2016、Winters A.ら、mAbs 11:1025-1035、2019、Josephides D.ら、SLAS Technol. 25:177-189、2020を参照することができる。
【0068】
キメラ抗体は、例えば、非ヒト抗体可変領域配列とヒト抗体定常領域配列とを遺伝子工学的に連結させ、後述の方法により製造することにより、作製できる。キメラ抗体作製技術の詳細は公知であり、例えば、米国特許第5,482,856号、Morrison S.L.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81: 6851-6855、1984を参照することができる。
【0069】
ヒト化抗体は、例えば、非ヒト抗体のCDRの一部及び通常は全てと、非ヒト可変領域フレームワーク残基の一部を、非ヒト抗体可変領域配列に相同性の高いヒト抗体可変領域に移植することにより作製できる。ヒト化抗体作製技術の詳細は公知であり、例えば、米国特許第5,530,101号、米国特許第5,585,089号、米国特許第5,225,539号、米国特許第6,407,213号、米国特許第5,859,205号、米国特許第6,881,557号、Queen C.L.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86: 10029-10033、1989、Tsurushita N.ら、Methods 36: 69-83、2005、Choi Y.ら、MAbs 7: 1045-1057、2015を参照することができる。
【0070】
ベニア化抗体は、例えば、非ヒト抗体のCDRの一部及び通常は全てと、非ヒト可変領域フレームワーク残基の一部を保持し、B細胞又はT細胞エピトープ(例えば露出した残基)(Padlan, Mol. Immunol. 28:489, 1991)に関与できる他の可変領域フレームワーク残基をヒト抗体配列の対応する位置由来の残基に置換することにより作製できる。ベニア化抗体作製技術の詳細は公知であり、例えば、米国特許第5,585,089号、Riechmann L.ら、Nature 322: 323-327、1988を参照することができる。
【0071】
完全ヒト抗体は、例えば、ヒト抗体遺伝子の遺伝子導入動物に対して抗原免疫を行うことにより得たB細胞から、前述のモノクローナル抗体作製技術を用いて作製することができる。また、疾患患者あるいは健常人から単離したB細胞プールから作製した各種の抗体ディスプレーライブラリーから作製することができる。完全ヒト抗体作製技術の詳細は公知であり、例えば、Green L.L.ら、Nat. Genet. 7: 13-21、1994、Lonberg N.ら、Nature 368: 856-859、1994、Mendez M.J. ら、Nat. Genet. 15: 146-156、1997、Ishida I.ら、Cloning Stem Cells 4: 91-102、2002、Osborn M.J.ら、J. Immunol. 190: 1481-1490、2013、Lee E.C.ら、Nat. Biotechnol. 32: 356-363、2014、Murphy A.J.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 111: 5153-5158、2014、Winter G.P.ら、Annu. Rev. Immunol. 12:433-455、1994、Rothe C.ら、J. Mol. Biol. 376: 1182-1200、2008、米国特許第5,223,409号、米国特許第5,885793号、米国特許第6,582,915号、米国特許第5,969,108号及び米国特許第6,172,197号、米国特許第5,821,047号、米国特許第6,706,484号、米国特許第6,753,136号を参照することができる。
【0072】
キメラ抗体、ヒト化抗体、ベニア化抗体又は完全ヒト抗体の重鎖及び軽鎖可変領域は、例えば任意のヒト重鎖及びヒト軽鎖の定常領域にそれぞれ連結することができる。重鎖定常領域アイソタイプの選択は、標的や抗体の作用メカニズムとして補体依存性細胞傷害や抗体依存性細胞傷害を望むかどうかに依存する。例えば、一般にヒトIgG1及びIgG3は強い補体依存性細胞傷害や抗体依存性細胞傷害を有し、ヒトIgG2及びIgG4はこれらのエフェクター機能が弱い。また軽鎖定常領域は、ラムダ又はカッパのいずれかを選択することができる。ヒト定常領域は、種々の個体間にアロタイプバリエーションを示すが、任意の天然アロタイプをもつ定常領域又は天然アロタイプの多型性位置を占有している残基の任意の置換を含む。抗体の軽鎖及び/又は重鎖のアミノ又はカルボキシ末端の1又は複数のアミノ酸(例えば重鎖のC末端リジン)は、ある割合の分子又は全ての分子が欠失するか、誘導体化されてもよい。
【0073】
本明細書に記載の抗体は、重鎖定常領域のアミノ酸残基を置換することにより、血中半減期を延長させることができる。血中半減期延長の為の典型的な置換としては、例えば、Kabatの通りのEUナンバリングで、重鎖250番目のスレオニンをグルタミンに置換する方法、重鎖428番目のメチオニンをロイシンに置換する方法、重鎖434番目のアスパラギンをセリンに置換する方法があり、前記アミノ酸置換は複数組み合わせることもできる(米国特許第7,083,784号、米国特許第7,217,797号、米国特許第8,088,376号を参照)。
3.本明細書に記載の抗体の製造
一実施形態において、本発明は、本明細書に記載の抗体又は抗原結合断片を製造する方法を提供する。
【0074】
一実施形態において、本発明は、本明細書に記載の抗体又は抗原結合断片をコードする単離された核酸を提供する。核酸分子は、RNA又はDNAであってよい。本明細書に記載の核酸は、本明細書に記載の抗体又は抗原結合断片を製造するために使用することができる。本明細書に記載の抗体又は抗原結合断片をコードする核酸は、例えば本明細書に記載の抗体を産生するB細胞、ハイブリドーマ、各種抗体ディスプレーの単離クローン(ファージ、酵母、動物細胞、cDNA等)から単離し、配列決定することができる。例えば、抗体の重鎖及び又は軽鎖の可変領域アミノ酸配列をコードしている遺伝子はこれらの定常領域配列に特異的に結合するオリゴヌクレオチドプローブを用いて、単離及び配列決定できる。
【0075】
また、アミノ酸配列が明らかな抗体(キメラ化、ヒト化、ベニア化した抗体、及び完全ヒト抗体並びに可変領域や定常領域にアミノ酸改変を加えた抗体等を含む)は、そのアミノ酸配列をコードする核酸を公知の遺伝子組み換え手法を用いて、又は化学的合成により製造することができる。遺伝子組み換え手法によって、作製された抗体又は抗原結合断片を組換え抗体又は組換え抗原結合断片とも言う。
【0076】
一実施形態において、本発明は、本明細書に記載の抗体又は抗原結合断片をコードする核酸を含むベクターを提供する。本明細書に記載の抗体又は抗原結合断片をコードする核酸を含むベクターは、例えば、該抗体又は抗体結合断片をコードする核酸配列に実施可能な状態で連結させた、真核生物宿主細胞に形質転換又はトランスフェクションできる発現制御配列(例えば、複製開始点、プロモーター、エンハンサー(Queen C.ら、Immunol.Rev. 89:49-68、1986)、そして、必要なプロセシング情報サイト(例:リボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位及び転写ターミネーター配列を含む))を典型的には含み、公知の遺伝子組み換え技術により容易に構築することができる。
【0077】
一実施形態において、本発明は、本明細書に記載の抗体又は抗原結合断片をコードする核酸、又は当該核酸を含むベクターを含む細胞を提供する。例えば、本明細書に記載の抗体又は抗原結合断片をコードする核酸を含有するハイブリドーマ細胞の作製法については、上記のとおりである。
【0078】
例えば、組換え抗体又は組換え抗原結合断片を発現する細胞(以下、「組換え細胞」とも言う)は、該抗体又は抗原結合断片をコードする核酸を含むベクターを宿主細胞に導入して一過的もしくは安定的に発現させることにより得ることができる。宿主細胞としては、大腸菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞、哺乳動物細胞などが挙げられ、中でも好ましい宿主としては哺乳動物細胞が挙げられ、例えばヒトHEK293胎児腎由来細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、マウス骨髄腫細胞(Sp2/0、NS0)等が挙げられる。組換え抗体又は組換え抗原結合断片を発現する細胞の作製技術の詳細は公知である。
【0079】
組換え抗体又は組換え抗原結合断片は、前述の組換え細胞を培養し、細胞の抽出液又は培養上清から各種のカラムクロマトグラフィー、限外濃縮を含む、標準的なタンパク精製技術に従い精製することにより、製造することができる。組換え抗体又は組換え抗原結合断片を精製する技術の詳細は公知である。
【0080】
上述の、アミノ酸配列が明らかな抗体の製造方法、抗体又は抗原結合断片をコードする核酸を含むベクター構築方法、組換え細胞作製技術、組換え抗体又は組換え抗原結合断片の精製技術については、例えば、Ossipow V.ら、Monoclonal Antibodies, Methods Mol. Biol. 1131(第2版)、2014を参照することができる。
【0081】
さらに、組換え抗体又は組換え抗原結合断片は、これらのタンパクをコードする核酸を含むベクターを染色体に組み込んだ、遺伝子組換え植物(例えば、タバコ、ウキクサ)や遺伝子組換え動物(例えば、ウシ、ヤギ)の乳に発現させ、前述と同様の方法に従って精製し、製造することもできる。抗体遺伝子組み換え植物及び抗体遺伝子組み換え動物の作製方法については、例えば、Perdigones A.S.ら、Cell Engineering 7: 143-164、2011、Pollock D.P.ら、J. Immunol.Methods 231: 147-157、1999を参照されたい。
【0082】
抗原結合断片は上記抗体の製造方法に加えて、抗体の酵素消化又は(例えば約50アミノ酸以下の短いポリペプチドの場合)化学合成によって製造することもできる。抗体の酵素消化及び化学合成の方法は公知である。酵素消化については、例えば、IgGのパパイン等による部分消化によりFabを調製する技術の詳細は公知であり、例えば、Zao Y.ら、Protein Expression and Purification 67: 182-189、2009を参照することができる。また化学合成については、例えば、固相方法を用いて自動ポリペプチド合成機によって製造することができ、例えば、米国特許第5,807,715号;米国特許第4,816,567号;及び米国特許第6,331,415号を参照することができる。
4.医薬及び方法
一実施形態において、本発明は、本明細書に記載の抗体又は抗原結合断片を含む医薬に関する。
【0083】
一実施形態において、本明細書に記載の抗体若しくは抗原結合断片又は医薬は、血液中のIGF-1のレベルを低減させるために用いることができる。一実施形態において、本明細書に記載の抗体若しくは抗原結合断片又は医薬は、個体において過剰なGH、及び/又は過剰なIGF-1に関連する症状を予防及び/又は治療するために用いることができる。
【0084】
過剰なGH及び/又は過剰なIGF-1に関連する症状とは、先端巨大症、巨人症、下垂体性巨人症、耐糖能異常、糖尿病性腎症、睡眠時無呼吸症候群、精力減退、月経不順、がん、腫瘍発症率向上、咬合不全、発汗過多、手足のしびれ、関節炎、変形性関節症による関節痛、肺炎症等が挙げられる。過剰なGH及び/又は過剰なIGF-1に関連する症状は好ましくは、先端巨大症、巨人症、耐糖能異常、糖尿病性腎症、睡眠時無呼吸症候群、より好ましくは先端巨大症、巨人症である。
【0085】
一実施形態において、本明細書に記載の抗体若しくは抗原結合断片又は医薬は、血中IGF-1値を低下させる。血中IGF-1値は、例えば投与前の90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、又は10%以下であってよい。
【0086】
一実施形態において、本明細書に記載の抗体若しくは抗原結合断片又は医薬の治療的投与により、先端巨大症の1つ又は2つ以上の症状の軽減や改善、及び/又は発生の低減がもたらされる。先端巨大症の症状としては、特に限定されないが、例えば、過剰なIGF-1、大量の発汗、不快な体臭、皮膚の肥厚、皮膚の黒ずみ、脂性肌、皮膚の小突起(スキンタグ)、疲労、筋力低下、声帯の肥大及び副鼻腔の拡大並びに/又は咽頭の軟骨増殖による声の低音化、重度のいびき、睡眠時無呼吸、視覚障害、頭痛、舌の肥大、背部痛、関節の痛み、関節の可動域制限、月経周期不順、性欲低下、勃起機能不全、手の肥大、足の肥大、大きく広がった顔貌、下顎の突出のため下歯列が上歯列より出ている(反対咬合)、肝臓肥大、心臓肥大、腎臓肥大、脾臓肥大、胸囲の増大(樽状胸)、粗い体毛の増加、食物中の糖の不適当なプロセシング、糖尿病、高血圧、尿中のカルシウムの増加、腎結石、胆石、甲状腺の腫脹(甲状腺腫)、心臓疾患、関節炎、結腸における前がん性の成長(ポリープ)、手根管症候群、下垂体機能低下症、子宮筋腫、神経内線維性増殖を結果として生じる末梢性ニューロパチー、増殖した関節軟骨の壊死及び/又はびらん、高リン酸血症、並びに脊髄圧迫等が挙げられる。
【0087】
なお、先端巨大症の臨床基準や予後指標は当技術分野においてよく知られており、先端巨大症の診断又は評価は確立されている。本明細書に記載の抗体若しくは抗原結合断片又は医薬による治療及び/又は予防に適した個体は、前記臨床基準や評価等により選択されうる。先端巨大症重症度の評価は、例えば、血中IGF-1レベルの測定、経口ブドウ糖試験の前後のGHの測定、及び下垂体腫瘍を検出するための頭部の磁気共鳴イメージング(MRI)等、公知の試験に基づいて実施され得る。また、先端巨大症の症状の軽減、改善、調節、発生の低減、又は発症もしくは進行の遅延は、血中IGF-1レベルを試験することによって測定され得る。
【0088】
一実施形態において、本明細書に記載の抗体若しくは抗原結合断片又は医薬の治療的投与により、巨人症の1つ又は2つ以上の症状の軽減や改善、及び/又は発生の低減がもたらされる。巨人症の症状としては、特に限定されないが、例えば、過剰なIGF-1、過剰な身長成長、過剰な筋肉成長、過剰な臓器の成長、思春期の遅延、複視、周辺視困難、前頭隆起、突出した顎、頭痛、発汗増加、月経不順、大きい手、大きい足、太い指、太い足指、母乳の放出、顔貌の肥厚、衰弱、副腎不全、尿崩症、性腺機能低下症、及び甲状腺機能性低下症等が挙げられる。
【0089】
なお、巨人症の臨床基準や予後指標は当技術分野においてよく知られており、巨人症の診断又は評価は確立されている。本明細書に記載の抗体若しくは抗原結合断片又は医薬による治療及び/又は予防に適した個体は、前記臨床基準や評価等により選択されうる。巨人症重症度の評価は、例えば、下垂体腫瘍を検出するための頭部のコンピュータ断層撮影法(CT)又はMRI、経口ブドウ糖試験の前後のGHの測定、血中プロラクチンの測定、血中IGF-1の測定、血中コルチゾールの測定、血中エストラジオールの測定、血中テストステロンの測定、及び甲状腺ホルモンの測定等、公知の試験に基づいて実施され得る。また、巨人症の症状の軽減、改善、調節、発生の低減、又は発症もしくは進行の遅延は、血中IGF-1レベルを測定することによって測定されうる。
【0090】
本明細書において「治療」とは、過剰なGHに関連する症状が改善されることのほか、改善された症状が続くこと、再発抑制、他の治療の低減等、GH過剰に関連する医学的治療全てを含み、GH過剰による症状を有する者の生活の質の向上も含む。本明細書において「予防」とは、過剰なGHに関連する症状が生じるのを防ぐこと又はそのリスクを低減することを含む。
【0091】
一実施形態において、本明細書に記載の医薬は、さらに薬学的に許容し得る担体(賦形剤、増量剤、結合剤、滑沢剤等)及び/又は公知の添加剤(緩衝剤、等張化剤、キレート剤、着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等)を含有する。
上記担体及び/又は公知の添加剤としては、例えば、水、デキストロース、マルトース、フラクトース、ショ糖、ソルビトール、マンニトール、トレハロース、乳糖、デンプン、結晶セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ケイ酸カルシウム、リン酸カルシウム、軽質無水ケイ酸、炭酸カルシウム、ポリビニルピロリドン、タルク、硬化油、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、寒天、ペクチン、ゼラチン、アルギネート、アラビアゴム、グリセリン、ゴマ油やオリーブ油や大豆油等の植物油、ヒドロキシプロピルセルロース、低粘度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ポリエチレングリコールやプロピレングリコール等のポリアルコール、ポリソルベート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール、エチレンジアミン、パラオキシ安息香酸エステル、フェノール、クレゾール、クロロブタノール、カルメロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、モノステアリン酸アルミニウム、脂肪乳剤、レシチン、クエン酸塩、酢酸塩、リン酸塩等が挙げられる。
【0092】
本明細書に記載の医薬組成物は、1種又は2種以上の他の薬剤を含むこともできる。本明細書において、医薬組成物とは、通常、疾患の治療もしくは予防、あるいは検査・診断のための薬剤を言う。
【0093】
本明細書に記載の医薬は、通常、全身的又は局所的に、経口又は非経口の形で投与される。本明細書に記載の医薬は、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、坐剤、又は外用剤等により生体に投与することができる。本明細書に記載の医薬の投与量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なり、種々の条件により変動する。例えば、個体に対して、医薬として、又は有効成分として、1日当たり0.0001~100 mg/kg、好ましくは0.01~100 mg/kgというように投与することができる。
【0094】
本明細書に記載の医薬は、薬学的に許容可能な製剤とすることができる。前記製剤は、通常行われる手段に従って、無菌性溶液剤、懸濁液、凍結乾燥製剤などの注射剤(注射用組成物)、あるいは錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、乳剤、懸濁剤、シロップ剤等にすることができる。
【0095】
本発明の医薬を注射剤(注射用組成物)とした場合、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射等により投与できるが、静脈内注射には、ワンショット静脈内注射や点滴静脈内注射を含む。
【0096】
上記、薬学的に許容可能な製剤は、例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液の無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤であってよい。例えば、本明細書に記載の抗体又は抗原結合断片を、薬学的に許容し得る担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。これら製剤において、有効成分は、所望の量となるよう他の成分と混合することができる。
【0097】
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水、注射用の水溶液、又は油性液のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0098】
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム)を含む等張液が挙げられる。本明細書に記載の注射剤は、注射用の水溶液に加えて、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80(TM)、HCO-50等)を含んでもよい。
【0099】
油性液としてはゴマ油、大豆油等が挙げられる。本明細書に記載の注射剤は、油性液に加えて、溶解補助剤として安息香酸ベンジル及び/またはベンジルアルコールを含んでもよい。
【0100】
本明細書に記載の注射剤は、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液及び酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩酸プロカイン)、安定剤(例えば、ベンジルアルコール及びフェノール)、酸化防止剤をさらに含んでもよい。本明細書に記載の注射剤は、適当なアンプルに充填することができる。
【0101】
本明細書に記載の医薬は、単独で又は他の従来の処置方法と組み合わせて使用することができる。この際、本明細書に記載の医薬と他の薬剤の投与時期と治療時期は限定されず、これらを投与対象に対し、同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。
【0102】
一実施形態において、本発明は、血液中のIGF-1のレベルを低減させるための方法であって、治療有効量の本明細書に記載の抗体又はその抗原結合断片を投与するステップを含む方法に関する。本方法は、上記の過剰なGH及び/又は過剰なIGF-1に関連する症状を治療及び/又は予防するためのものであってよい。本方法は、過剰なGH及び/又は過剰なIGF-1に関連した疾患のリスクがある個体を特定するステップ、リスク因子について個体を評価するステップ、及び/又は症状について個体を評価又は診断するステップをさらに含んでもよい。
【実施例0103】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態を更に詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではなく、また本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させてもよい。
【0104】
<実施例1:GH結合活性測定法>
96ウェルハーフエリアイムノプレート(Corning)にダルベッコリン酸緩衝液(PBS)で5μg/mLに希釈した組換えヒトGH(医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団)を50μL/ウェルで固相化し、1 %ウシ血清アルブミン(BSA)含有PBSでブロッキングした。その後、アッセイバッファー(0.2% BSA、0.05% Tween 20含有PBS)で希釈した陽性コントロール(抗GHマウスmAb(MAB1067、R&D Systems))又は抗GHマウスmAb含有サンプルを50μL/ウェルずつ添加し、室温で2時間静置した。このプレートを洗浄バッファー(0.05% Tween 20含有PBS)で洗浄後、アッセイバッファーで0.1μg/mLに希釈したHRP(Horseradish peroxidase(ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ))標識抗マウスIgGヤギ抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc.)を50μL/wellずつ添加し、室温で2時間静置した。さらにプレートを洗浄バッファーで洗浄した後、HRPの基質として3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)溶液を50μL/wellずつ添加し、室温で10分間反応させた。0.5 mol/L H2SO4水溶液を加えて反応を停止させた後、プレートリーダーを用いて450nmの吸光度を測定した。
【0105】
<実施例2:GH中和活性測定法>
抗GH抗体のGH中和活性評価を目的として、(a)GH-GH受容体(GHR)結合阻害アッセイ及び(b)GH依存的Nb2細胞増殖阻害アッセイを確立した。
【0106】
(a)GH-GHR結合阻害アッセイ
GH-GHR結合阻害活性は、ELISAプレートに抗ヒトFcγマウス抗体を介して固定化したGHR細胞外領域タンパク-ヒトFc融合体(GHR-hFc)に対するビオチン標識GHの結合シグナルの阻害率を算出することにより測定した。ビオチン標識GHは、組換えGHをEZ-Link Micro NHS-PEG4-Biotinylation kit(Thermo Fisher Scientific)を用いて標識して調製した。具体的な方法は以下の通りである。96ウェルハーフエリアイムノプレートに1μg/mL PBS に希釈した抗ヒトFcγマウス抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc.)を50μL/ウェルで固相化し、1 % BSA含有PBSでブロッキングした。その後、アッセイバッファー(0.2% BSA、0.05% Tween 20含有PBS)で0.1μg/mLに希釈したGHR-hFc(R&D Systems)を50μL/ウェルずつ加えてプレートに捕捉した。このプレートを洗浄バッファー(0.05% Tween 20含有PBS)で洗浄後、アッセイバッファーで終濃度5.5 ng/mLに希釈したビオチン標識GHと、アッセイバッファーで希釈した検体(抗GHマウスmAb含有サンプル)とを等容量混合したものを50μL/ウェルずつ添加し、室温2時間静置した。なお、陽性コントロールとして、検体の代わりに非標識GH、又は抗GHマウスmAb(MAB1067)を用いた。このプレートを洗浄バッファーで4回洗浄後、アッセイバッファーで0.1μg/mLに希釈したHRP標識ストレプトアビジン(Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc.)を50μL/ウェルずつ添加し、室温2時間静置した。さらにプレートを6回洗浄後、HRPの基質としてTMB溶液を50μL/ウェルずつ添加し、室温10分間反応させた。0.5 mol/L H2SO4水溶液を加えて反応を停止させた後、プレートリーダーを用いて450nmの吸光度を測定した。ビオチン標識GHのみ添加時の吸光度を0 %阻害、ビオチン標識GH非添加時の吸光度を100 %阻害として各サンプルのGH-GHR結合阻害率を換算し、IC50を算出した。上記条件における陽性コントロール抗体MAB1067のIC50は6,860 pmol/Lであった。
【0107】
(b)GH依存的Nb2細胞増殖阻害アッセイ
セルベースのGH中和活性測定法としては、標準的なGH活性測定法として知られているNb2ラットリンパ腫細胞株増殖アッセイを用いた(Omae Y. et al., Endocrinol Japon 36, 9-13, 1989)。具体的な方法は以下の通りである。10% 牛胎児血清及び10% ウマ血清(HS)含有Fischer’s Mediumに馴化させたNb2-11細胞株(EC90741101、ECACC)を、1% HS含有Fischer’s Medium中、CO2インキュベーター(37℃、5% CO2)で約24時間培養し、血清飢餓状態に置いた。この細胞を2×104 細胞/ウェルで96 ウェル培養プレートに播種し、0.1 % BSA含有PBSで終濃度9.1 pmol/L(EC80:80%効果濃度)となるよう希釈したヒトGH(医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団)、及び抗GH mAb検体(5 nmol/L)を同bufferで507倍希釈したものをそれぞれ10μL/ウェルずつ添加した。なお、陽性コントロールとして、検体の代わりに抗GHマウスmAb(MAB1067)を用いた。これらの細胞をCO2インキュベーター中で約72時間培養後、WST-8 (Cell counting kit-8、株式会社同仁化学研究所)を10μL/ウェルずつ添加し37℃で約3時間反応させた後、プレートリーダーを用いて450nmの吸光度を測定し、生細胞数の指標とした。GH非添加かつ抗GH抗体非添加時の吸光度を100%阻害、GH添加かつ抗GH抗体非添加時の吸光度を0%阻害とし、IC50を算出した。上記条件における陽性コントロール抗体MAB1067のIC50は21,500 pmol/Lであった。
【0108】
<実施例3:抗GHマウスmAbの実験動物由来GHに対する交差反応性>
抗GHマウスmAbのサル、マウス、ラット由来GHに対する交差反応性を競合的ELISAにより測定した。具体的な方法を以下に記す。
【0109】
(a)組換えカニクイザルGHの調製
カニクイザル脳下垂体cDNAよりクローニングしたサルGHのDNA配列(NM_001290284.1)をpIEx-4昆虫細胞発現ベクター(Merck Millipore)に挿入した。当該ベクターをHighFive細胞株(Invitrogen)に遺伝子導入し、28℃で72時間旋回培養後、遠心分離により培養上清を回収した。この培養上清を150 mmol/L NaCl含有20 mmol/L Tris-塩酸緩衝液(pH 8.0)で平衡化したCaptureSelect hGH Affinity Matrix(Thermo Fisher Scientific)に供し、500 mmol/L NaClを含む同緩衝液で洗浄した後、150 mmol/L NaCl含有20 mmol/L クエン酸緩衝液(pH 3.0)で担体に吸着したサルGHを溶出した。溶出液を、150 mmol/L NaCl、10% グリセロール含有20 mmol/L Tris-塩酸緩衝液(pH 8.0)に対し透析したものを最終標品(サルGH)とした。サルGHのSDS-PAGE及びSuperdex 75 Increase 10/300 GL(GE Healthcare)を用いたサイズ排除クロマトグラフィーによる純度は>85%であり、実施例2(b)に記載のNb2細胞株増殖アッセイにおいてEC50 = 9.8 pmol/Lの活性を示した。
【0110】
(b)交差反応性試験
96ウェルハーフエリアイムノプレート(Corning)にPBSで5 μg/mLに希釈した組換えヒトGH(医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団)を50 μL/ウェルで固相化し、1 % BSA含有PBSでブロッキングした。その後、アッセイバッファー(0.2% BSA, 0.05% Tween20含有PBS)で段階希釈したヒトGH、上記で調製したカニクイザルGH、マウスGH(LifeSpan BioSciences)、ラットGH(Protein Laboratories Rehovot)と同バッファーで終濃度30 ng/mLに希釈した抗GHマウスmAbを混合したものを50μL/ウェルずつ添加し、室温で2時間静置した。このプレートを洗浄バッファー(0.05% Tween20含有PBS)で洗浄後、アッセイバッファーで0.1μg/mLに希釈したHRP標識抗マウスIgGヤギ抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc)を50μL/ウェルずつ添加し、室温で2時間静置した。さらにプレートを洗浄バッファーで洗浄後、HRP基質としてTMB溶液を50μL/ウェルずつ添加し、室温で酵素反応させた。10分後、0.5 mol/L H2SO4を加えて反応を停止させ、プレートリーダーを用いて450nmの吸光度を測定した。抗GHマウスmAbについてヒトGH及び実験動物由来GHの濃度依存曲線よりIC20 (nmol/L)を求め、各実験動物由来GHに対する交差反応性を下記の式1により算出した。
【0111】
実験動物由来GHへの交差反応性(%) = IC20(ヒトGH)/IC20(実験動物由来GH)×100 ・・・(式1)
【0112】
<実施例4:抗GHマウスmAbのGH類似タンパク(GHと構造類似性を有するタンパク)に対する交差反応性試験>
抗GHマウスmAbの、GHと構造類似性を有するタンパク質(placental lactogen (PL)、prolactin (PRL))に対する交差反応性を競合的ELISAにより測定した。具体的な方法を以下に記す。
【0113】
96ウェルハーフエリアイムノプレート(Corning)にPBSで5 μg/mLに希釈した組換えヒトGH(医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団)を50 μL/ウェルで固相化し、1 % BSA含有PBSでブロッキングした。その後、アッセイバッファー(0.2% BSA, 0.05% Tween20含有PBS)で段階希釈したヒトGH、PL(Protein Laboratories Rehovot)、PRL(BBT Boster Immunoleader)と同バッファーで終濃度30 ng/mLに希釈した抗GHマウスmAbを混合したものを50μL/ウェルずつ添加し、室温で2時間静置した。このプレートを洗浄バッファー(0.05% Tween20含有PBS)で洗浄後、アッセイバッファーで0.1μg/mLに希釈したHRP標識抗マウスIgGヤギ抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc)を50μL/ウェルずつ添加し、室温で2時間静置した。さらにプレートを洗浄バッファーで洗浄後、HRP基質としてTMB溶液を50μL/ウェルずつ添加し、室温で酵素反応させた。10分後、0.5 mol/L H2SO4を加えて反応を停止させ、プレートリーダーを用いて450nmの吸光度を測定した。抗GHマウスmAbについてヒトGH及びGH類似タンパクの濃度依存曲線よりIC20 (nmol/L)を求め、GH類似タンパクに対する交差反応性を下記の式2により算出した。
GH類似タンパクへの交差反応性(%) = IC20(ヒトGH)/IC20(GH類似タンパク)×100 ・・・(式2)
【0114】
<実施例5:抗GHマウスmAbの作製>
(1)抗GHマウスmAbの作製
雌性マウス(7週齢)に、各種アジュバントと共に5μg又は10μgの組換えヒトGH(富士フイルム和光純薬株式会社、医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団)を週2回、7~13回繰り返し皮下免疫した。これらのマウスから経時的に採血を行い、実施例1に記載のELISAを用いて血漿抗体価を測定した。血漿抗体価が十分に上昇したマウスの尾静脈内又は腹腔内に10μgの組換えヒトGHを最終免疫し、3~4日後に安楽死させて、リンパ節及び脾臓を摘出した。単離したリンパ球とマウスミエローマ細胞株P3U1(JCRB0708、国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)とを電気融合し、ヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン(HAT)を含有するセミソリッド選択培地(STEMCELL Technologies)中、CO2インキュベーターで8~12日間培養した。増殖したモノクローナルなハイブリドーマをコロニーピッカーによりピッキングし、ヒポキサンチン-チミジン(HT)を含有する液体培地(STEMCELL Technologies)の入った96ウェル培養プレートに移植してCO2インキュベーターで3~4日間培養した。
【0115】
こうして得たハイブリドーマ培養上清の10倍希釈液を実施例1に記載のELISAに供し、GH結合活性を測定した。また培養上清の2倍希釈液を実施例2(a)で記載の方法に準じたGH-GHR結合阻害アッセイに供し、GH中和活性を測定した。GH-GHR結合阻害アッセイで70%以上の阻害活性を示した抗GHマウスmAb産生ハイブリドーマを24ウェルプレートで拡大培養し、その培養上清でGH結合活性、GH-GHR結合阻害活性が再現し、単一のIgGサブタイプを産生していたものを中和mAb産生ハイブリドーマとして選択取得し、凍結保存した。
前記で選択取得した抗GHマウスmAb産生ハイブリドーマを10 % Ultra Law IgG含有DMEM培地で拡大培養し、培養上清からrProtein A Sepharose FF(GE Healthcare)を用いてmAbを精製し、抗GHマウスmAbを得た。また、SDS-PAGEにより純度を確認し、280 nmの吸光度より分子吸光係数(1 mg/mL)=1.38として抗体濃度を定量した。
【0116】
このようにして調製したマウスmAb標品を、実施例2に記載のGH-GHR結合阻害アッセイ、GH依存的Nb2細胞増殖阻害アッセイ、実施例3に記載の実験動物由来GHに対する交差反応性、実施例4に記載のGH類似タンパクに対する交差反応性を精査し、GH結合特性及びGH中和活性の点で総合的に優れた抗GHマウスmAb、13H02(IgG2a/κ)を選択取得した。
【0117】
(2)抗GHマウスmAb、13H02のプロファイル
抗GHマウスmAb(13H02)について、実施例2の方法で測定したGH-GHR結合阻害活性(IC50)及びGH依存的Nb2細胞増殖阻害活性(IC50)を表1に、実施例3の方法で測定した実験動物由来GHに対する交差反応性を表2に、実施例4の方法で測定したGH類似タンパクに対する交差反応性を表3に示す。なお、陽性コントロールとして市販の抗GHマウスmAb(MAB1067)を用いた場合は、その結果も示す。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
【表3】
【0121】
13H02はGH-GHR結合アッセイでIC50= 65.3 pmol/L、またGH依存的Nb2細胞増殖アッセイでIC50 = 3.36 pmol/LでGH活性を強く阻害した。13H02はマウスGH、ラットGHに対する交差反応性が<1%と実質的に結合しなかったが、サルGHに対しては交差反応性41%で有意に結合した。また13H02はGH類似タンパク(PL、PRL)に対する交差反応性が<1%と実質的に結合しなかった。
【0122】
<実施例6:抗GHマウスmAb(13H02)の下垂体摘除/GH補充ラットにおける薬効>
実施例5で選抜取得した抗GHマウスmAb(13H02)の薬効を、先端巨大症を模した下垂体摘除/GH補充ラットにおいて評価した。
【0123】
4週齢で下垂体を摘除し、内在性のGH不全により血清IGF-I低下を呈する下垂体摘除SDラット(日本エスエルシー、6週齢)(以下、「下垂体摘除ラット」とも言う)の皮下に、組換えヒトGH(サンド株式会社、30μg/day)を封入した2週間型アルゼット浸透圧ポンプ(室町機械株式会社)を埋め込んだ。この下垂体摘除/GH補充ラットに対し、GH徐放開始1日後に13H02を0.01、0.1、1、5、及び10 mg/kgで単回皮下投与した(n=5又は6)。尚、正常対照群(Normal)は下垂体摘除/GH非補充ラット(組換えヒトGH非投与下垂体摘除ラット)とし、陰性対照群には下垂体摘除/GH補充ラットにcontrol mouse IgG1(Leinco Technologies, Inc.、M1411)を投与した。13H02投与2日後の血清IGF-1値を図1に示す(平均値及び標準誤差)。13H02は1、5及び10 mg/kg投与群において、血清IGF-I値を有意に低下させた(###: p<0.001対 正常対照群/Aspin-Welchのt検定、*: p<0.05対 陰性対照群/Steelの多重比較検定)。
【0124】
<実施例7:13H02の可変領域アミノ酸配列決定>
実施例5で選抜した抗GHマウスmAb(13H02)の産生ハイブリドーマからDynabeads mRNA DIRECT Kit(ThermoFischer Scientific)を用い、キットに添付のマニュアルに従いmRNAを調製した。前記mRNA溶液5μLを鋳型として、SMARTer RACE 5'/3' Kit(タカラバイオ株式会社)を用いてcDNAを合成し、同キット付属の10× Universal Primer A Mixをフォワードプライマー、既知のマウス抗体遺伝子の定常領域配列から設計した5’-RACE Reverse primerをリバースプライマーとして、KOD-Fx Neo(TOYOBO)をポリメラーゼに用いたPCRにより抗体H鎖、L鎖の可変領域遺伝子(VH、VL)を増幅した。
【0125】
増幅したPCR産物をクローニングベクターpCR4Blunt-TOPO(Thermo Fisher Scientific)に組み込んだ後、Stellar competent cells(タカラバイオ株式会社)に遺伝子導入して形質転換体を得た。SapphireAmp Fast PCR Master Mix(タカラバイオ株式会社)を用いたコロニーPCRによりVH、VLインサートを確認できたクローンからプラスミドを調製し、決定した可変領域DNA配列からアミノ酸配列を推定した。これらH鎖、L鎖の可変領域アミノ酸配列中のCDR1~3はDiscovery Studio(Biovia)を用いKabatらの方法に基づき決定した。13H02のH鎖可変領域(VH)のDNA配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号1及び配列番号19に、L鎖可変領域(VL)のDNA配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号2及び配列番号20に示す。また、配列番号19のポジション20から始まるシグナルペプチドが除去された成熟型13H02_VHのアミノ酸配列を配列番号3に、配列番号20のポジション23から始まるシグナルペプチドが除去された成熟型13H02_VLのアミノ酸配列を配列番号4に示す。13H02 VHの相補性決定領域(CDR)1、2、3はそれぞれ、SSEIS(配列番号5)、WIYPGTGSSKFNQKFTG(配列番号6)、RGFFGGSFDY(配列番号7)であった。また13H02 VLのCDR1、2、3はそれぞれ、TATSSVSSSYLH(配列番号8)、STSNLAS(配列番号9)、HQYHHSPPT(配列番号10)であった。
【0126】
<実施例8 抗GHマウス-ヒトキメラmAbの調製>
ヒトIgG1/κ抗体のH鎖、L鎖定常領域遺伝子をpcDNA3.4(Thermo Fisher Scientific)に導入してマウス-ヒトキメラ抗体H鎖、L鎖発現カセットベクターを作製した(以下、ヒトIgG1/κ抗体の定常領域遺伝子を含むマウス-ヒトキメラ抗体H鎖、及びマウス-ヒトキメラ抗体L鎖発現カセットベクターを「ヒトIgG1/κマウス-ヒトキメラ抗体(H鎖、L鎖)カセットベクター」とも言う)。実施例7で単離した13H02のVH、VL遺伝子を前記ヒトIgG1/κマウス-ヒトキメラ抗体(H鎖、L鎖)カセットベクターに挿入し、組換えマウス-ヒトキメラ抗体(H鎖、L鎖)発現ベクターをそれぞれ構築した。組換えマウス-ヒトキメラ抗体(H鎖、L鎖)発現ベクターをExpiFectamine CHO Transfection Kit(Thermo Fisher Scientific)を用いてExpiCHO-S細胞株にH鎖:L鎖=1:1(重量比)で共発現させ、CO2インキュベーターシェーカー(37℃、8%CO2)中で8日間振盪培養した。培養上清を遠心分離により回収し、rProtein A Sepharose FF(GE Healthcare)を用いて抗体を精製し、組換え抗GHマウス-ヒトキメラmAb(Ch-13H02)を得た。なお、SDS-PAGEによりタンパク純度を確認し、280 nmの吸光度より分子吸光係数(1 mg/mL)=1.38として抗体濃度を定量した。
【0127】
<実施例9:抗GHマウス-ヒトキメラmAb(Ch-13H02)のGH依存的Nb2増殖阻害活性>
実施例8で調製した組換え抗GHマウス-ヒトキメラmAb(Ch-13H02)のGH中和活性を、実施例2(b)に記載のGH依存的Nb2細胞増殖阻害アッセイにおいて測定した。結果を表4に示す。
【0128】
【表4】
【0129】
Ch-13H2はIC50 = 6.27 pmol/Lと、ハイブリドーマ由来の親マウス抗体(13H02)とほぼ同等のGH依存的Nb2細胞増殖阻害活性を有しており、13H02産生ハイブリドーマから活性に寄与するH鎖及びL鎖遺伝子を単離できていることを確認した。
【0130】
<実施例10:抗GHマウスmAb(13H02)のヒト化>
13H02のVH及びVLのヒト化デザインは、Queen C.らの報告(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86, 10029-10033, 1989)及びTsurushita N. らの方法(Methods 36, 69-83, 2005)に従って行った。簡潔に述べると以下の通りである。まず初めに、JN Biosciences社独自のアルゴリズムを用いて13H02のVH、VLの3次元分子モデルを構築し、フレームワーク領域内でCDR構造維持に重要なアミノ酸残基を特定した。また、本抗体のVH、VLと最も相同性の高いヒトVH、VLアミノ酸配列を公共データベースからそれぞれ特定した。そして、13H02のVH、VLそれぞれ3つのCDR配列をフレームワーク領域内でCDR構造維持に重要なアミノ酸残基と一緒に、上記で特定したヒト抗体フレームワーク領域配列に移植し13H02をヒト化デザインした(Hu-13H02)。
ヒト化デザインしたHu-13H02_VHのアミノ酸配列を配列番号11に、配列番号11のポジション20から始まるシグナルペプチドが除去された成熟型Hu-13H02_VHのアミノ酸配列を配列番号12に示す。またHu-13H02_VLのアミノ酸配列を配列番号13に、配列番号13のポジション23から始まるシグナルペプチドが除去された成熟型Hu-13H02_VLのアミノ酸配列を配列番号14に示す。
【0131】
<実施例11:抗GHヒト化抗体の調製>
実施例10でデザインした抗GHヒト化抗体(Hu-13H02)のVHアミノ酸配列(配列番号11)をコードするDNA(配列番号15)及びVLアミノ酸配列(配列番号13)をコードするDNA(配列番号16)を、実施例8で構築したヒトIgG1/κマウス-ヒトキメラ抗体(H鎖、L鎖)カセットベクターに挿入し、組換えヒト抗体(H鎖、L鎖)発現ベクターをそれぞれ構築した(以下、「Hu-13H02用(H鎖、L鎖)発現ベクター」とも言う)。
また、血中動態改善を目的としてHu-13H02のH鎖Met428をLeu残基に置換したFc改変体(Hu-13H02m)を調製した。具体的には、H鎖のMet428をLeu428に置換したヒトIgG1定常領域をコードする遺伝子をpcDNA3.4に導入したH鎖発現カセットベクターに、抗GHヒト化抗体(Hu-13H02)のVHアミノ酸配列をコードするDNAを挿入したものを作製した。Hu-13H02m用のL鎖発現ベクターとして、Hu-13H02用L鎖発現ベクターを用いた(以下、「Hu-13H02m用(H鎖、L鎖)発現ベクター」とも言う)。
【0132】
Hu-13H02又はHu-13H02m用(H鎖、L鎖)発現ベクターをExpiFectamine CHO Transfection Kit(Thermo Fisher Scientific)を用いてExpiCHO-S細胞株にH鎖:L鎖=1:1(重量比)でそれぞれ共発現させ、同発現システムのStandardプロトコールもしくはMax titerプロトコールに従い培養した。培養上清を遠心分離により回収し、HiTrap rProtein A FF Column (GE Healthcare)を用いて抗体を精製し、Hu-13H02又はHu-13H02m標品を得た。なお、SDS-PAGEにより純度を確認し、280 nmの吸光度より分子吸光係数(1 mg/ml)=1.38として抗体濃度を定量した。ラット薬効試験に用いる標品はエンドスペシーES-50M(生化学工業株式会社)を用いてエンドトキシン含量を測定し、<1EU/mgであることを確認した。このようにして調製したHu-13H02又はHu-13H02m標品を以降の試験に用いた。Hu-13H02mの重鎖定常領域のアミノ酸配列を配列番号17に、Hu-13H02mの軽鎖定常領域のアミノ酸配列を配列番号18に示す。
【0133】
<実施例12:抗GHキメラ抗体及び抗GHヒト化抗体のGH依存的Nb2細胞増殖阻害活性>
実施例11で調製した組換え抗GHヒト化抗体(Hu-13H02)、抗GHヒト化抗体のFc改変体(Hu-13H02m)、及び実施例8で調製したキメラ抗体(Ch-13H02)について、実施例2(b)に記載のGH依存的Nb2細胞増殖阻害アッセイを実施し、濃度依存性曲線からヒトGHに対するIC50を求めた。また、実施例2(b)におけるヒトGHの代わりに実施例3で作製したサルGHを用いて、サルGHに対するIC50を求めた。ヒトGHは終濃度として9.1 pmol/L 、サルGHは終濃度として41 pmol/Lを添加した。結果を表5に示す。
【0134】
【表5】
【0135】
Hu-13H02及びHu-13H02mはヒト及びサルGHに対し、Ch-13H02と同様に強いGH依存的Nb2細胞増殖阻害活性を示した。
【0136】
<実施例13:抗GHヒト化抗体のヒトGH及びサルGHに対する結合特性>
実施例11で調製した組換え抗GHヒト化抗体(Hu-13H02)及びそのFc改変体(Hu-13H02m)、実施例8で調製したキメラ抗体(Ch-13H02)のヒトGH(医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団)、サルGH(実施例3)に対する結合特性をBIACORE 8K+(GE Healthcare)を用いたSPRにより測定した。CM5センサーチップに抗ヒトIgG(Fc)抗体を固定化し、これら3種類(Hu-13H02、Hu-13H02m、Ch-13H02)の抗体標品(1μg/mL)を捕捉した。次に0.13~8.0 nmol/LでヒトGHまたは0.50~32 nmol/LでサルGHを流し、結合、解離パラメータを算出した。結果を表6に示す。
【0137】
【表6】
【0138】
Hu-13H02及びHu-13H02mはCh-13H02とほぼ同等のヒトGH結合活性を保持し、サルGHに対しても強い結合活性を示した。
【0139】
<実施例14:抗GHキメラ抗体及び抗GHヒト化抗体のGH類似タンパクに対する交差反応性>
実施例11で調製した組換え抗GHヒト化抗体(Hu-13H02)及びそのFc改変体(Hu-13H02m)と実施例8で調製した親キメラ抗体(Ch-13H02)の、GHと構造類似性を示すタンパク質(placental lactogen (PL)、prolactin (PRL))に対する交差反応性を実施例4に記載の方法と同様な方法で競合的ELISAにより測定した。各抗GH抗体についてヒトGH及びGH類似タンパクの濃度依存曲線よりIC50 (nmol/L)を求め、GH類似タンパクに対する交差反応性を下記の式3により算出した。
GH類似タンパクへの交差反応性(%) = IC50(ヒトGH)/IC50(GH類似タンパク)×100 ・・・(式3)
結果を表7に示す。
【0140】
【表7】
【0141】
Ch-13H02、Hu-13H02、及びHu-13H02mは親マウス抗体13H02と同様、PL、PRLに対する交差反応性がいずれも<1%と、これらのGH類似タンパクには実質的に結合しなかった。
【0142】
<実施例15:抗GH マウス-ヒトキメラmAb(Ch-13H02)及び抗GHヒト化抗体Fc改変体(Hu-13H02m)の下垂体摘除/GH補充ラットにおける薬効>
実施例6に記載の下垂体摘除/GH補充ラットにおいて抗GH マウス-ヒトキメラmAb(Ch-13H02)及び抗GHヒト化抗体Fc改変体(Hu-13H02m)の薬効を評価した。
4週齢で下垂体を摘除し、内在性のGH不全により血清IGF-I低下を呈する下垂体摘除SDラット(日本エスエルシー、6週齢)の皮下に、組換えヒトGH(サンド株式会社、30μg/day)を封入した3日間型アルゼット浸透圧ポンプ (室町機械株式会社)を埋め込んだ。この下垂体摘除/GH補充ラットに対し、GH徐放開始1日後に抗GH抗体(Ch-13H02、Hu-13H02m)を各々1、3、及び10 mg/kgで単回皮下投与した(n=6)。尚、正常対照群(Normal)は下垂体摘除/GH非補充ラット(組換えヒトGH非投与下垂体摘除ラット)とし、陰性対照群には下垂体摘除/GH補充ラットにcontrol humanIgG1(Bio X Cell, Inc.、BE0297)を投与した。Ch-13H02投与2日後の血清IGF-1値を図2、Hu-13H02m投与2日後の血清IGF-1値を図3に示す(平均値及び標準誤差)。Ch-13H02は3及び10 mg/kg投与群において、Hu-13H02mは3及び10 mg/kg投与群において、血清IGF-I値を有意に低下させた(###: p<0.001対 正常対照群/Aspin-Welchのt検定、*: p<0.05対 陰性対照群/Steelの多重比較検定)。」
【0143】
本明細書に記載の配列を以下に示す。
図1
図2
図3
【配列表】
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