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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121822
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
H01L29/80 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024026884
(22)【出願日】2024-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2023027999
(32)【優先日】2023-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー産業技術総合開発機構「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/ポスト5G情報通信システムの開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】向井 章
(72)【発明者】
【氏名】岡田 政也
(72)【発明者】
【氏名】眞壁 勇夫
(72)【発明者】
【氏名】早坂 明泰
【テーマコード(参考)】
5F102
【Fターム(参考)】
5F102GB01
5F102GC01
5F102GD01
5F102GD10
5F102GJ02
5F102GJ04
5F102GK04
5F102GL04
5F102GM04
5F102GQ01
5F102GS04
5F102GV06
5F102GV08
(57)【要約】
【課題】電気的特性を向上できる半導体装置を提供する。
【解決手段】半導体装置は、上面が窒素極性を有するバリア層と、上面が窒素極性を有し、前記バリア層の上のチャネル層と、前記チャネル層の上の窒化珪素膜と、前記窒化珪素膜の上の誘電体膜と、前記誘電体膜の上のゲート電極と、を有し、前記誘電体膜の比誘電率は、前記窒化珪素膜の比誘電率よりも高い。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面が窒素極性を有するバリア層と、
上面が窒素極性を有し、前記バリア層の上のチャネル層と、
前記チャネル層の上の窒化珪素膜と、
前記窒化珪素膜の上の誘電体膜と、
前記誘電体膜の上のゲート電極と、
を有し、
前記誘電体膜の比誘電率は、前記窒化珪素膜の比誘電率よりも高い、半導体装置。
【請求項2】
前記窒化珪素膜の厚さは1nm以上である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
厚さ方向において、前記誘電体膜の第1容量は、前記窒化珪素膜の第2容量以下である、請求項1または請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
厚さ方向において、前記バリア層の上面と前記窒化珪素膜の下面との間の第3容量は、前記窒化珪素膜の第2容量以下である、請求項1または請求項2に記載の半導体装置。
【請求項5】
厚さ方向において、前記バリア層の上面と前記窒化珪素膜の下面との間の第3容量は、前記誘電体膜の第1容量以下である、請求項1または請求項2に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記チャネル層と前記窒化珪素膜との間の第3窒化物半導体を含むキャップ層を有する、請求項1または請求項2に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記誘電体膜は、ハフニウム、ランタンおよびジルコニウムからなる群から選択された少なくとも1種を含む、請求項1または請求項2に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記窒化珪素膜の厚さは10nm以下である、請求項1または請求項2に記載の半導体装置。
【請求項9】
少なくとも前記チャネル層に第1凹部および第2凹部が形成され、
前記チャネル層よりも電気抵抗が低い前記第1凹部内の第1窒化物半導体層と、
前記チャネル層よりも電気抵抗が低い前記第2凹部内の第2窒化物半導体層と、
前記第1窒化物半導体層にオーミック接触するソース電極と、
前記第2窒化物半導体層にオーミック接触するドレイン電極と、
を有する、請求項1または請求項2に記載の半導体装置。
【請求項10】
上面が窒素極性を有するバリア層と、
上面が窒素極性を有し、前記バリア層の上のチャネル層と、
前記チャネル層の上の窒化珪素膜と、
前記窒化珪素膜の上の誘電体膜と、
前記誘電体膜の上のゲート電極と、
を有し、
前記チャネル層および前記バリア層に、第1凹部および第2凹部が形成され、
前記チャネル層よりも電気抵抗が低い前記第1凹部内の第1窒化物半導体層と、
前記チャネル層よりも電気抵抗が低い前記第2凹部内の第2窒化物半導体層と、
前記第1窒化物半導体層にオーミック接触するソース電極と、
前記第2窒化物半導体層にオーミック接触するドレイン電極と、
を有し、
前記誘電体膜の比誘電率は、前記窒化珪素膜の比誘電率よりも高く、
前記誘電体膜は、ハフニウム、ランタンおよびジルコニウムからなる群から選択された少なくとも1種を含み、
前記窒化珪素膜の厚さは1nm以上であり、
厚さ方向において、
前記誘電体膜の第1容量は、前記窒化珪素膜の第2容量以下であり、
前記バリア層の上面と前記窒化珪素膜の下面との間の第3容量は、前記第2容量以下であり、
前記第3容量は、前記第1容量以下である、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バリア層の上にチャネル層が形成された構造を有する高電子移動度トランジスタ(high electron mobility transistor:HEMT)が提案されている。また、ドレイン電流の向上のために、ゲート絶縁膜に、窒化珪素(SiN)よりも比誘電率が高い誘電率膜(以下、高誘電率膜ということがある。)が用いられたトランジスタも提案されている。高誘電率膜は、堆積と堆積後の熱処理により形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-329483号公報
【特許文献2】特表2010-510680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バリア層の上にチャネル層が形成された構造を有するHEMTのゲート絶縁膜に高誘電率膜が用いられても、更なる電気的特性の向上が困難である。
【0005】
本開示は、電気的特性を向上できる半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の半導体装置は、上面が窒素極性を有するバリア層と、上面が窒素極性を有し、前記バリア層の上のチャネル層と、前記チャネル層の上の窒化珪素膜と、前記窒化珪素膜の上の誘電体膜と、前記誘電体膜の上のゲート電極と、を有し、前記誘電体膜の比誘電率は、前記窒化珪素膜の比誘電率よりも高い。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、電気的特性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。
図2図2は、SiN膜および誘電体膜の厚さの好ましい範囲の一例を示す図である。
図3図3は、SiN膜の厚さと総容量への寄与率との関係を示す図である。
図4図4は、誘電体膜の厚さと総容量への寄与率との関係を示す図である。
図5図5は、Ga原子の信号強度の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0010】
〔1〕 本開示の一態様に係る半導体装置は、上面が窒素極性を有するバリア層と、上面が窒素極性を有し、前記バリア層の上のチャネル層と、前記チャネル層の上の窒化珪素膜と、前記窒化珪素膜の上の誘電体膜と、前記誘電体膜の上のゲート電極と、を有し、前記誘電体膜の比誘電率は、前記窒化珪素膜の比誘電率よりも高い。
【0011】
本願発明者は、従来のバリア層の上にチャネル層が形成された構造を有するHEMTのゲート絶縁膜に高誘電率膜が用いられた場合に電気的特性の向上が困難である原因を究明すべく鋭意検討を行った。この結果、高誘電率膜の形成の際の熱処理中にチャネル層を構成する原子が高誘電率膜に拡散していることが判明した。また、高誘電率膜とチャネル層との間に窒化珪素膜がある場合には、チャネル層を構成する原子の拡散が抑制されることも判明した。
【0012】
本開示の一態様に係る半導体装置は、上記のように、チャネル層の上の窒化珪素膜と、窒化珪素膜の上の誘電体膜と、誘電体膜の上のゲート電極とを有する。また、誘電体膜の比誘電率は窒化珪素膜の比誘電率よりも高い。このため、大きなドレイン電流が得られるとともに、チャネル層を構成する原子の拡散に伴う電気的特性の低下を抑制できる。従って、電気的特性を向上できる。
【0013】
〔2〕 〔1〕において、前記窒化珪素膜の厚さは1nm以上であってもよい。この場合、窒化珪素膜を良好な被覆性で形成しやすい。
【0014】
〔3〕 〔1〕または〔2〕において、厚さ方向において、前記誘電体膜の第1容量は、前記窒化珪素膜の第2容量以下であってもよい。この場合、窒化珪素膜および誘電体膜の積層体に高い容量を得やすい。
【0015】
〔4〕 〔1〕から〔3〕のいずれかにおいて、厚さ方向において、前記バリア層の上面と前記窒化珪素膜の下面との間の第3容量は、前記窒化珪素膜の第2容量以下であってもよい。この場合、ゲート電極とバリア層との間の容量を、チャネル層の容量を含む第3容量により調整しやすい。
【0016】
〔5〕 〔1〕から〔4〕のいずれかにおいて、厚さ方向において、前記バリア層の上面と前記窒化珪素膜の下面との間の第3容量は、前記誘電体膜の第1容量以下であってもよい。この場合、ゲート電極とバリア層との間の容量を、チャネル層の容量を含む第3容量により調整しやすい。
【0017】
〔6〕 〔1〕から〔5〕のいずれかにおいて、前記チャネル層と前記窒化珪素膜との間の第3窒化物半導体を含むキャップ層を有してもよい。この場合、二次元電子ガスの濃度を安定させやすい。
【0018】
〔7〕 〔1〕から〔6〕のいずれかにおいて、前記誘電体膜は、ハフニウム、ランタンおよびジルコニウムからなる群から選択された少なくとも1種を含んでもよい。この場合、誘電体膜に高い比誘電率を得やすい。
【0019】
〔8〕 〔1〕から〔7〕のいずれかにおいて、前記窒化珪素膜の厚さは10nm以下であってもよい。この場合、ゲート電極とバリア層との間の容量を、チャネル層の容量を含む第3容量により調整しやすい。
【0020】
〔9〕 〔1〕から〔8〕のいずれかにおいて、少なくとも前記チャネル層に第1凹部および第2凹部が形成され、前記チャネル層よりも電気抵抗が低い前記第1凹部内の第1窒化物半導体層と、前記チャネル層よりも電気抵抗が低い前記第2凹部内の第2窒化物半導体層と、前記第1窒化物半導体層にオーミック接触するソース電極と、前記第2窒化物半導体層にオーミック接触するドレイン電極と、を有してもよい。この場合、ソース電極およびドレイン電極と二次元電子ガスとの間の電気抵抗を低くできる。第1凹部および第2凹部はチャネル層およびバリア層に形成されていてもよい。
【0021】
〔10〕 本開示の他の一態様に係る半導体装置は、上面が窒素極性を有するバリア層と、上面が窒素極性を有し、前記バリア層の上のチャネル層と、前記チャネル層の上の窒化珪素膜と、前記窒化珪素膜の上の誘電体膜と、前記誘電体膜の上のゲート電極と、を有し、前記チャネル層および前記バリア層に、第1凹部および第2凹部が形成され、前記チャネル層よりも電気抵抗が低い前記第1凹部内の第1窒化物半導体層と、前記チャネル層よりも電気抵抗が低い前記第2凹部内の第2窒化物半導体層と、前記第1窒化物半導体層にオーミック接触するソース電極と、前記第2窒化物半導体層にオーミック接触するドレイン電極と、を有し、前記誘電体膜の比誘電率は、前記窒化珪素膜の比誘電率よりも高く、前記誘電体膜は、ハフニウム、ランタンおよびジルコニウムからなる群から選択された少なくとも1種を含み、前記窒化珪素膜の厚さは1nm以上であり、厚さ方向において、前記誘電体膜の第1容量は、前記窒化珪素膜の第2容量以下であり、前記バリア層の上面と前記窒化珪素膜の下面との間の第3容量は、前記第2容量以下であり、前記第3容量は、前記第1容量以下である。
【0022】
この場合も、大きなドレイン電流が得られるとともに、チャネル層を構成する原子の拡散に伴う電気的特性の低下を抑制できる。従って、電気的特性を向上できる。
【0023】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態について詳細に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省くことがある。本開示において、「平面視」とは、対象物を上方から見ることをいう。
【0024】
実施形態はGaN系高電子移動度トランジスタ(high electron mobility transistor:HEMT)を含む半導体装置に関する。図1は、実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。
【0025】
図1に示すように、実施形態に係る半導体装置1は、主として、基板10と、エピタキシャル層20と、窒化珪素(SiN)膜31と、誘電体膜32と、再成長層41Sと、再成長層41Dと、パッシベーション膜50と、ゲート電極52と、ソース電極42Sと、ドレイン電極42Dとを有する。
【0026】
基板10は、例えば窒化ガリウム(GaN)系半導体層の成長用基板であり、例えば、半絶縁性のSiC基板である。基板10がSiC基板である場合、基板10の上面は炭素(C)極性面である。基板10の表面がC極性面である場合、エピタキシャル層20は、窒素(N)極性面を成長面として結晶成長することができる。
【0027】
エピタキシャル層20は、バッファ層21と、バリア層22と、スペーサ層23と、チャネル層24と、キャップ層25とを有する。
【0028】
バッファ層21は基板10の上にある。バッファ層21は、例えば窒化アルミニウム(AlN)層である。AlN層の厚さは、例えば5nm以上100nm以下である。バッファ層21が、AlN層と、AlN層の上のGaN層または窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)層とを有してもよい。
【0029】
バリア層22はバッファ層21の上にある。バリア層22は、例えばAlGaN層である。バリア層22のバンドギャップはチャネル層24のバンドギャップよりも大きい。バリア層22の厚さは、例えば5nm以上50nm以下である。バリア層22の組成は、例えばAlGa1-YN(0.15≦Y≦0.55)である。バリア層22の導電型は、例えばn型またはアンドープ(i型)である。AlGaN層に代えて、窒化インジウムアルミニウム(InAlN)層または窒化インジウムアルミニウムガリウム(InAlGaN)層が用いられてもよい。
【0030】
スペーサ層23はバリア層22の上にある。スペーサ層23は、例えばAlN層である。スペーサ層23の厚さは、例えば0.5nm以上3.0nm以下の範囲内である。
【0031】
チャネル層24はスペーサ層23の上にある。チャネル層24は、例えばGaN層である。チャネル層24のバンドギャップはバリア層22のバンドギャップよりも小さい。チャネル層24の厚さは、例えば5nm以上30nm以下である。チャネル層24とバリア層22およびスペーサ層23との間にはそれらの格子定数の相違から歪が生じ、この歪が両者の界面にピエゾ電荷を誘起する。これにより、チャネル層24内におけるバリア層22側の領域(チャネル領域26)において2次元電子ガス(two dimensional electron gas:2DEG)の密度が向上する。チャネル層24の導電型は、例えばn型またはアンドープ(i型)である。
【0032】
キャップ層25はチャネル層24の上にある。キャップ層25は、例えばAlGaN層である。キャップ層25の厚さは、例えば1nm以上5nm以下である。AlGaN層は第3窒化物半導体層の一例である。
【0033】
SiC基板のC極性面上において、バッファ層21、バリア層22、スペーサ層23、チャネル層24およびキャップ層25は、N極性面を成長面として結晶成長する。従って、バッファ層21、バリア層22、スペーサ層23、チャネル層24およびキャップ層25の基板10の各々の上面はN極性を有し、各々の下面はガリウム(Ga)極性を有する。
【0034】
エピタキシャル層20に、ソース用の第1凹部40Sと、ドレイン用の第2凹部40Dとが形成されている。第1凹部40Sの底および第2凹部40Dの底は、チャネル層24の上面24Aよりもエピタキシャル層20の下面に近い。つまり、第1凹部40Sおよび第2凹部40Dは、チャネル層24の上面24Aよりも深く形成されている。第1凹部40Sの底および第2凹部40Dの底は、チャネル層24にあってもよく、スペーサ層23にあってもよく、バリア層22にあってもよい。
【0035】
SiN膜31はエピタキシャル層20の上にある。SiN膜31はエピタキシャル層20の上面に接する。SiN膜31の厚さは、例えば1nm以上10nm以下である。SiN膜31に、ソース用の第1開口31Sと、ドレイン用の第2開口31Dとが形成されている。第1開口31Sは第1凹部40Sにつながり、第2開口31Dは第2凹部40Dにつながる。
【0036】
誘電体膜32はSiN膜31の上にある。誘電体膜32はSiN膜31の上面に接する。エピタキシャル層20と誘電体膜32との間にSiN膜31があり、誘電体膜32はSiN膜31によりエピタキシャル層20から隔てられている。誘電体膜32の比誘電率はSiN膜31の比誘電率よりも高い。誘電体膜32の比誘電率は、例えば7.8よりも高い。誘電体膜32は、ハフニウム、ランタンおよびジルコニウムからなる群から選択された少なくとも1種を含んでもよい。例えば、誘電体膜32はハフニウムシリケート(HfSiO)膜であり、誘電体膜32の比誘電率は13.5程度である。誘電体膜32の厚さは、例えば3nm以上15nm以下である。誘電体膜32に、ソース用の第3開口32Sと、ドレイン用の第4開口32Dとが形成されている。第3開口32Sは第1開口31Sにつながり、第4開口32Dは第2開口31Dにつながる。
【0037】
再成長層41Sは第1凹部40S内でチャネル層24、スペーサ層23またはバリア層22の上にある。再成長層41Dは第2凹部40D内でチャネル層24、スペーサ層23またはバリア層22の上にある。再成長層41Sおよび再成長層41Dは、例えばn型GaN層である。再成長層41Sおよび再成長層41Dはn型不純物としてGeまたはSiを含有する。再成長層41Sおよび再成長層41Dの電気抵抗はチャネル層24の電気抵抗よりも低い。例えば、再成長層41Sおよび再成長層41Dは、エピタキシャル層20への第1凹部40Sおよび第2凹部40Dの形成の後のn型GaN層の再成長により形成されている。再成長層41Sは第1窒化物半導体層の一例であり、再成長層41Dは第2窒化物半導体層の一例である。
【0038】
ソース電極42Sは再成長層41Sの上にあり、ドレイン電極42Dは再成長層41Dの上にある。平面視で、ソース電極42Sは第1凹部40S、第1開口31Sおよび第3開口32Sの内側にあり、ドレイン電極42Dは第2凹部40D、第2開口31Dおよび第4開口32Dの内側にある。ソース電極42Sは再成長層41Sに接し、ドレイン電極42Dは再成長層41Dに接する。ソース電極42Sは再成長層41Sにオーミック接触し、ドレイン電極42Dは再成長層41Dにオーミック接触する。
【0039】
パッシベーション膜50は誘電体膜32、再成長層41S、再成長層41D、ソース電極42Sおよびドレイン電極42Dを覆う。パッシベーション膜50は、例えばSiN膜である。パッシベーション膜50の厚さは、例えば誘電体膜32の上の厚さが均一な部分において5nm以上50nm以下である。パッシベーション膜50に、ソース用の第5開口50Sと、ドレイン用の第6開口50Dと、ゲート用の第7開口50Gとが形成されている。第5開口50Sからソース電極42Sの一部が露出し、第6開口50Dからドレイン電極42Dの一部が露出する。平面視で、第7開口50Gは第5開口50Sと第6開口50Dとの間にある。第7開口50Gから誘電体膜32の一部が露出する。
【0040】
平面視で、ゲート電極52はソース電極42Sとドレイン電極42Dとの間にある。ゲート電極52はパッシベーション膜50の上にあり、第7開口50Gを通じて誘電体膜32に接する。
【0041】
実施形態に係る半導体装置1においては、エピタキシャル層20とゲート電極52との間に誘電体膜32があるため、チャネル領域26とゲート電極52との間で漏れ電流を抑制でき、ゲート電圧を変調できる範囲が拡大する。従って、大きなドレイン電流が得られる。また、エピタキシャル層20と誘電体膜32との間にSiN膜31があるため、エピタキシャル層20を構成する原子、ここではGa原子の誘電体膜32への拡散を抑制できる。従って、半導体装置1によれば、電気的特性を向上できる。
【0042】
キャップ層25があることで、エピタキシャル層20とSiN膜31との界面に良好な平坦性を得やすく、2DEGの濃度を安定させやすい。
【0043】
誘電体膜32がハフニウム、ランタンおよびジルコニウムからなる群から選択された少なくとも1種を含んでいることで、誘電体膜32に高い比誘電率を得やすい。
【0044】
また、ソース電極42Sが再成長層41Sにオーミック接触し、ドレイン電極42Dが再成長層41Dにオーミック接触することで、ソース電極およびドレイン電極と2DEGとの間の電気抵抗を低くできる。
【0045】
次に、SiN膜31および誘電体膜32の厚さと、ゲート電極52とチャネル領域26との間の容量とについて説明する。図2は、SiN膜31および誘電体膜32の厚さの好ましい範囲の一例を示す図である。
【0046】
SiN膜31の厚さが1nm未満であると、SiN膜31の形成時の被覆性(カバレッジ)が低くなるおそれがある。このため、Ga原子の誘電体膜32への拡散を抑制するために、SiN膜31の厚さは、好ましくは1nm以上である。図2では、実線の直線L1が、SiN膜31の厚さが1nmとなる点の集合からなる直線である。
【0047】
厚さ方向において、チャネル層24の容量をC24とし、キャップ層25の容量をC25とし、SiN膜31の容量をC31とし、誘電体膜32の容量をC32とし、ゲート電極52とバリア層22との間の容量をCとすると、下記の式(1)が成り立つ。
【0048】
1/C=1/C24+1/C25+1/C31+1/C32 ・・・ (1)
【0049】
式(1)から、容量C24、容量C25、容量C31および容量C32の容量Cへの寄与率が求められる。チャネル層24の組成を特定すればチャネル層24の比誘電率E24を特定でき、チャネル層24の比誘電率E24を特定できれば、チャネル層24の厚さT24および面積S24を用いてチャネル層24の容量C24を特定できる。キャップ層25の組成を特定すればキャップ層25の比誘電率E25を特定でき、キャップ層25の比誘電率E25を特定できれば、キャップ層25の厚さT25および面積S25を用いてキャップ層25の容量C25を特定できる。SiN膜31の組成を特定すればSiN膜31の比誘電率E31を特定でき、SiN膜31の比誘電率E31を特定できれば、SiN膜31の厚さT31および面積S31を用いてSiN膜31の容量C31を特定できる。誘電体膜32の組成を特定すれば誘電体膜32の比誘電率E32を特定でき、誘電体膜32の比誘電率E32を特定できれば、誘電体膜32の厚さT32および面積S32を用いて誘電体膜32の容量C32を特定できる。ここで、寄与率とは、全体の容量に対し各成分の容量が占める割合であり、例えば、チャネル層24の寄与率は下記の式(2)により決定される。他の容量成分に関しても同様である。
【0050】
チャネル層24の寄与率=100×C/C24 ・・・ (2)
【0051】
以下の説明において、各容量は説明の便宜上、単位面積当たりの容量であり、面積S24、S25、S31およびS32は互いに同じであるものとする。SiN膜31の厚さが10nmより大きいと、容量C31が小さくなりすぎ、容量C31の寄与率が高くなりすぎるおそれがある。このため、SiN膜31の厚さT31は、好ましくは10nm以下であり、より好ましくは9nm以下であり、更に好ましくは7nm以下である。また、SiN膜31の厚さT31が10nm以下であると、ゲート電極52とバリア層22との間の容量Cをバリア層22の上面とSiN膜31の下面との間の第3容量C30により調整しやすい。第3容量C30はチャネル層24の容量C24およびキャップ層25の容量C25を含む。例えば、第3容量C30は、数式「1/C30=1/C24+1/C25」を用いて推定できる。
【0052】
誘電体膜32の容量C32は、好ましくはSiN膜31の容量C31以下である。言い換えると、誘電体膜32の厚さT32は、好ましくは、誘電体膜32の容量C32がSiN膜31の容量C31と等しくなる厚さ以上である。誘電体膜32の容量C32がSiN膜31の容量C31と等しい場合、誘電体膜32の厚さT32は厚さT31のE32/E31倍になる。この場合、SiN膜31および誘電体膜32の積層体に高い容量を得やすい。容量C32は第1容量の一例であり、容量C31は第2容量の一例である。図2では、破線の直線L2が、第1容量が第2容量と等しくなる点の集合からなる直線である。
【0053】
バリア層22の上面とSiN膜31の下面との間の第3容量C30は、好ましくはSiN膜31の容量C31以下である。言い換えると、SiN膜31の厚さT31は、好ましくは、SiN膜31の容量C31が第3容量C30と等しくなる厚さ以下である。この場合、ゲート電極52とバリア層22との間の容量Cを第3容量C30により調整しやすい。図2では、二点鎖線の直線L3が、第2容量が第3容量と等しくなる点の集合からなる直線である。
【0054】
バリア層22の上面とSiN膜31の下面との間の第3容量C30は、好ましくは誘電体膜32の容量C32以下である。言い換えると、誘電体膜32の厚さT32は、好ましくは、誘電体膜32の容量C32が第3容量C30と等しくなる厚さ以下である。この場合も、ゲート電極52とバリア層22との間の容量Cを第3容量C30により調整しやすい。図2では、一点鎖線の直線L4が、第1容量が第3容量と等しくなる点の集合からなる直線である。
【0055】
図3に、チャネル層24が、厚さが10nmのGaN層であり、キャップ層25が、厚さが3nmのAl0.2Ga0.8N層であり、誘電体膜32が、比誘電率が13.5で厚さが10nmである場合のSiN膜31の厚さT31と各容量の容量Cへの寄与率との関係を示す。図4に、チャネル層24が、厚さが10nmのGaN層であり、キャップ層25が、厚さが3nmのAl0.2Ga0.8N層であり、SiN膜31の厚さが3nmである場合の誘電体膜32の厚さT32と各容量の容量Cへの寄与率との関係を示す。チャネル層24の容量計算にあたっては量子変位の影響を含む。
【0056】
この例では、図3および図4中の「SiN膜31の寄与率」を示す曲線と「誘電体膜32の寄与率」を示す曲線との交点P1が、図2中の直線L2上の点に相当する。図3中の「SiN膜31の寄与率」を示す曲線と「チャネル層24の寄与率」を示す曲線との交点P2が、図2中の直線L3上の点に相当する。図4中の「誘電体膜32の寄与率」を示す曲線と「チャネル層24の寄与率」を示す曲線との交点P3が、図2中の直線L4上の点に相当する。
【0057】
次に、本願発明者が行ったGa原子の拡散に関する実験について説明する。この実験では、実施形態にならう試料Aと、SiN膜31がないことを除き試料Aと同じ構造を有する試料Bとを作製し、絶縁膜へのGa原子の程度を測定した。なお、誘電体膜32としてはハフニウムシリケート膜を形成し、ハフニウムシリケート膜の形成時には800℃での熱処理を行った。
【0058】
試料Aについては、SiN膜31および誘電体膜32の積層体中のGa原子の信号強度を飛行時間型二次イオン質量分析計(time-of-flight secondary ion mass spectrometry:TOF-SIMS)により測定した。試料Bについては、誘電体膜32の積層体中のGa原子の信号強度をTOF-SIMSにより測定した。これらの結果を図5に示す。図5中の横軸は、絶縁膜の下面を0とし、基板10に向かう方向を正とした位置を示している。また、位置は絶縁膜の厚さで標準化してある。図5中の縦軸は、TOF-SIMSにより測定されたGa原子の信号強度を示す。
【0059】
図5に示すように、SiN膜31を含む試料Aでは、SiN膜31を含まない試料Bよりも絶縁膜中のGa原子の信号強度が低かった。このことは、SiN膜31によりGa原子の拡散が抑制されていることを示している。
【0060】
以上、実施形態について詳述したが、本開示は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0061】
1:半導体装置
10:基板
20:エピタキシャル層
21:バッファ層
22:バリア層
23:スペーサ層
24:チャネル層
24A:上面
25:キャップ層
26:チャネル領域
31:SiN膜
31S:第1開口
31D:第2開口
32:誘電体膜
32S:第3開口
32D:第4開口
40S:第1凹部
40D:第2凹部
41D、41S:再成長層
42D:ドレイン電極
42S:ソース電極
50:パッシベーション膜
50S:第5開口
50D:第6開口
50G:第7開口
52:ゲート電極
図1
図2
図3
図4
図5