(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121823
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤、植物栽培方法及び種苗生長剤
(51)【国際特許分類】
A01N 37/36 20060101AFI20240830BHJP
A01C 1/00 20060101ALI20240830BHJP
A01G 22/22 20180101ALI20240830BHJP
A01G 22/20 20180101ALI20240830BHJP
A01G 22/40 20180101ALI20240830BHJP
A01N 37/42 20060101ALI20240830BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20240830BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
A01N37/36
A01C1/00 B
A01G22/22 Z
A01G22/20
A01G22/40
A01N37/42
A01N25/00 102
A01P21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024026969
(22)【出願日】2024-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2023028808
(32)【優先日】2023-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391009877
【氏名又は名称】雪印種苗株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小鑓 亮介
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 太
(72)【発明者】
【氏名】副島 洋
(72)【発明者】
【氏名】大谷 祐矢
(72)【発明者】
【氏名】眞木 祐子
【テーマコード(参考)】
2B022
2B051
4H011
【Fターム(参考)】
2B022AB20
2B051AA01
2B051AB01
2B051BA02
2B051BB01
4H011AB03
4H011BB06
4H011DA13
4H011DC05
4H011DD03
4H011DG06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】多湿な条件下において作物を生長させることができる栽培技術を開発すること。
【解決手段】下記式で表される化合物及びクエン酸からなる群から選択される1以上の化合物を有効成分として含有することを特徴とする多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤。
CH
3-C(=O)-C(=O)-R(式中、RはOH、OCH
3、OC
2H
5、NH
2のいずれかを表す)CH
3-CH(OH)-C(=O)-R(式中、RはOH、OCH
3、OC
2H
5、NH
2のいずれかを表す)R1-C(=O)-CH
2-CH(R3)-C(=O)-R2(式中、R1はOH又はOCH
3、R2はOH又はOCH
3、R3はH、OH、NH
2のいずれかを表す)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式1~3で表される化合物及びクエン酸からなる群から選択される1以上の化合物を有効成分として含有することを特徴とする多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤。
CH3-C(=O)-C(=O)-R
・・・(化学式1)
(但し化学式1のRはOH、OCH3、OC2H5、NH2のいずれかを表す)
CH3-CH(OH)-C(=O)-R
・・・(化学式2)
(但し化学式2のRはOH、OCH3、OC2H5、NH2のいずれかを表す)
R1-C(=O)-CH2-CH(R3)-C(=O)-R2
・・・(化学式3)
(但し化学式3のR1はOH又はOCH3、R2はOH又はOCH3、R3はH、OH、NH2のいずれかを表す)
【請求項2】
植物の生長が、出芽を含むことを特徴とする請求項1記載の多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤。
【請求項3】
化学式1~3で表される化合物及びクエン酸からなる群から選択される1以上の化合物の施用が種子重量に対して0.001~10.0質量%である、請求項1又は2記載の多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤。
【請求項4】
化学式1~3で表される化合物及びクエン酸からなる群から選択される化合物を含む乳酸菌の培養液又は乳酸菌の培養液の希釈物又は濃縮物からなる請求項1又は2記載の多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤。
【請求項5】
ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、乳酸、クエン酸からなる群から選択される1以上の化合物又はその誘導体を有効成分とする請求項1又は2記載の多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤。
【請求項6】
植物が、稲、麦、イネ科牧草、大豆、小豆、ソラマメ、エンドウマメ、及びトウモロコシのいずれかであることを特徴とする請求項1又は2記載の多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤。
【請求項7】
請求項1又は2記載の多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤に種子を浸漬、又は、種子に該多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤を塗布した後、多湿土壌に播種することを特徴とする植物の栽培方法。
【請求項8】
植物が、稲、麦、イネ科牧草、大豆、小豆、ソラマメ、エンドウマメ、及びトウモロコシのいずれかであることを特徴とする請求項7記載の植物の栽培方法。
【請求項9】
稲の種子を全面あるいは部分的に湛水した水田に播種する直播栽培を行うことを特徴とする請求項8記載の植物の栽培方法。
【請求項10】
請求項1又は2記載の多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤に種子を浸漬、又は、該多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤を種子に塗布してなる多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤処理種子。
【請求項11】
植物が、稲、麦、イネ科牧草、大豆、小豆、ソラマメ、エンドウマメ、及びトウモロコシのいずれかであることを特徴とする請求項10記載の播種用種子処理用植物生長剤処理種子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物栽培技術に関する。特に、多湿状態の土壌における植物栽培技術である。
【背景技術】
【0002】
稲は苗を育成するために播種前に、充実した種子を選別する塩水選種処理、殺菌剤による種子消毒、10~15℃で5~6日間水に浸漬する浸種処理、32℃程度のぬるま湯に1昼夜程度の浸漬処理する催芽処理等の出芽処理が行われる。
また、非特許文献1に記載されるように経営面積の拡大のために、田植えを行わない直播栽培法が検討されている。苗の育成はビニールハウス等の加温施設が用いられる。直播では稲の生長期を十分に確保するためには、播種を早期に行うことが求められるが、桜が咲くころの気温の変化では、露地での出芽、出芽後の低温の影響を受けて、直播の幼苗の成長は進まないので、手数のかかる苗生産、田植えという稲栽培法が続けられている。
直播栽培に際し、圃場に高低差がある場合苗立ちの本数にブレが生じて、安定感が劣るとされている。また、代かきの程度や代かき後から播種までの日数により、圃場が柔らかくなって播種深度が深くなる場合があり、この場合は種子が酸欠を起こすとされている(非特許文献2)。
【0003】
特許文献1には、稲の種子を電気伝導率50μS/cm以下の水に接触させて成長を促進させる出芽方法及び植物の栽培方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、浸種工程を行っていない水稲乾籾の表面に、酸化鉄の紛体と樹脂とを含む被覆層を形成し、被覆水稲種籾とするコーティング工程と、浸種工程を行わずに被覆水稲種籾を圃場に播種する播種工程とを有し、播種した被覆水稲種籾における出芽タイミングの個体差が小さく、出芽タイミングの個体差に起因する生長の個体差を抑制できる栽培方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、水稲乾籾の表面に、酸化鉄の紛体と樹脂とを含む被覆層を形成し、被覆水稲種籾とするコーティング工程と、前記被覆水稲種籾を出芽させて芽の長さを0.1~1.0mmとする芽出し工程と、出芽した被覆水稲種籾を圃場に播種する播種工程とを有する育苗方法を採用することによって、水温が15℃未満である湛水状態の圃場に播種した場合であっても、生長を促進できるとともに生長の個体差が小さい水稲種籾の育苗方法が開示されている。
【0006】
特許文献4には、受託番号:NITE P-02511並びに同:NITE P-02512で寄託されている乳酸菌あるいはこの乳酸菌の希釈液に水稲の種籾を浸漬し、30~32℃を維持して20~24時間浸漬状態を保ち催芽を行い、この催芽処置を行った種籾を使用して常法通りの水田栽培を行った結果、増収が得られた旨の開示がある。この技術では特定菌株の乳酸菌を生菌で施用することを特徴としており、菌体の維持を必要とする。
【0007】
水田転作や畑地化が進められている。一方、転換畑には低地や排水不良地が多く、また隣接水田からの浸透水や漏水等によって作物は湿害を受けやすい(非特許文献3)。飼料作物栽培においても、梅雨期の降雨、台風来襲時の集中豪雨等によって浸水、冠水状態となりやすく、発芽、生育を阻害すると言及されている(非特許文献4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2019/225606号
【特許文献2】特開2019-88262号公報
【特許文献3】特開2019-88261号公報
【特許文献4】特開2019-129793号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】農業機械学会誌第64巻第4号(2002)4~8ページ 北海道における乾田播種早期湛水栽培の作業技術
【非特許文献2】イネの直かまき栽培の手引き(株)北海道協同組合通信社発行 57~63ページ
【非特許文献3】日作紀 第57巻(1):71-76ページ(1988)
【非特許文献4】日草九支報(1988.1)第18巻第1,2号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、水稲の湛水直播栽培や水田転換作物栽培、播種時期の豪雨等の関係で土壌水分が最適に保たれない多湿な条件下において作物を生長させることができる栽培技術を開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、乳酸、クエン酸等の特定の化合物を含有する多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤で種子を処理することにより、多湿土壌でも生長させることができることを見出したことに基いて完成した発明である。
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
なお、本発明では、「多湿土壌」は、植物の栽培に適する程度以上に水分を含有している土壌を指す。本明細書において、多湿土壌を「水分高含有土壌」という場合もある。
例えば、(1)それぞれの植物の出芽及び生長のための適正水分含有土壌条件よりも高い含水状態の土壌の状態、(2)湛水状態、(3)圃場に水溜りがある状態、(4)部分的に水分を高含有する圃場も含まれる。
また、本明細書においては、「播種用種子処理用植物生長剤」を単に「生長剤」という場合がある。
【0012】
1.化学式1~3で表される化合物及びクエン酸からなる群から選択される1以上の化合物を有効成分として含有することを特徴とする多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤。
CH3-C(=O)-C(=O)-R
・・・(化学式1)
(但し化学式1のRはOH、OCH3、OC2H5、NH2のいずれかを表す)
CH3-CH(OH)-C(=O)-R
・・・(化学式2)
(但し化学式2のRはOH、OCH3、OC2H5、NH2のいずれかを表す)
R1-C(=O)-CH2-CH(R3)-C(=O)-R2
・・・(化学式3)
(但し化学式3のR1はOH又はOCH3、R2はOH又はOCH3、R3はH、OH、NH2のいずれかを表す)
2.植物の生長が、出芽を含むことを特徴とする1記載の多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤。
3.化学式1~3で表される化合物及びクエン酸からなる群から選択される1以上の化合物の施用が種子重量に対して0.001~10.0質量%である、1又は2記載の多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤。
4.化学式1~3で表される化合物及びクエン酸からなる群から選択される化合物を含む乳酸菌の培養液又は乳酸菌の培養液の希釈物又は濃縮物からなる1又は2記載の多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤。
5.ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、乳酸、クエン酸からなる群から選択される1以上の化合物又はその誘導体を有効成分とする1又は2記載の多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤。
6.植物が、稲、麦、イネ科牧草、大豆、小豆、ソラマメ、エンドウマメ、及びトウモロコシのいずれかであることを特徴とする1又は2記載の多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤。
7.1又は2記載の多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤に種子を浸漬、又は、種子に該多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤を塗布した後、多湿土壌に播種することを特徴とする植物の栽培方法。
8.植物が、稲、麦、イネ科牧草、大豆、小豆、ソラマメ、エンドウマメ、及びトウモロコシのいずれかであることを特徴とする7記載の植物の栽培方法。
9.稲の種子を全面あるいは部分的に湛水した水田に播種する直播栽培を行うことを特徴とする8記載の植物の栽培方法。
10.1又は2記載の多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤に種子を浸漬、又は、該多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤を種子に塗布してなる多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤処理種子。
11.植物が、稲、麦、イネ科牧草、大豆、小豆、ソラマメ、エンドウマメ、及びトウモロコシのいずれかであることを特徴とする10記載の播種用種子処理用植物生長剤処理種子。
【発明の効果】
【0013】
1.本発明の多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤を種子に適用して、播種用種子処理用植物生長剤処理種子にすることにより、多湿土壌(植物に適した含水率よりも過剰に水分を含む水分高含有土壌)に播種しても、種子を出芽させて、苗を十分に生長させて栽培できる。特に、種子を出芽させて苗の生長を十分に確保できる。ひいては安定した大面積栽培が可能になる。
2.本発明の生長剤の有効成分には、特に、乳酸、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸が適している。
3.稲の湛水直播栽培、水が溜まりやすい水田を転作して栽培する麦、イネ科牧草、大豆、小豆、ソラマメ、エンドウマメ、トウモロコシ等に適している。あるいは、水田を裏作として利用する、麦、イネ科牧草、大豆、小豆、ソラマメ、エンドウマメ等の栽培に適用することができる。
4.本発明の生長剤は、種子を溶液に浸漬処理、塗布等の手段により付着させることができる。
5.稲の湛水播種栽培をすることにより、乾田播種に伴う鳥の採餌被害や雑草の出芽等を抑制でき、直播栽培を振興することができる。
6.稲の乾田直播栽培においても、水田や大雨による冠水が生じる圃場における初期の生長を確保できる。
6.水田の転作や大雨による冠水等が生じる圃場でも、大豆、小豆、トウモロコシの初期の生長を確保できる。
7.本発明は、水田転作、水田の裏作をして水田利用の効率化、畑地の大規模耕作に寄与することができる。国内食料の安定供給並びに競争力のある農業の産業化に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】稲について、乳酸、ピルビン酸、クエン酸について、1mM、10mM、100mMを試験溶液として子葉の鞘長を測定した結果を示す図。
【
図2】稲について、乳酸、ピルビン酸、クエン酸について、それぞれ1mM、10mM、100mMを試験溶液として根長を測定した結果を示す図。
【
図3】稲について、コハク酸、リンゴ酸について、1mM、10mM、100mMを試験溶液として子葉の鞘長を測定した結果を示す図。
【
図4】稲について、コハク酸、リンゴ酸について、それぞれ1mM、10mM、100mMを試験溶液として根長を測定した結果を示す図。
【
図5】大豆について、ピルビン酸、乳酸の出芽試験結果を示す図。
【
図6】大豆について、クエン酸0.0025%、クエン酸0.125%、乳酸0.005%、乳酸0.25%の出芽試験結果を示す図。
【
図7】大豆について、クエン酸0.5%、乳酸2.5%の出芽試験結果を示す図。
【
図8】トウモロコシについて、乳酸0.005~0.025%、クエン酸0.0025~0.125%の出芽試験結果を示す図。
【
図9】トウモロコシについて、トウモロコシへの乳酸菌培養上清の出芽試験結果を示す図。
【
図10】コムギについて、無処理区、乳酸0.0001%、クエン酸0.0001%の出芽試験結果を示す図。
【
図11】トウモロコシについて、無処理区、クルーザーFS30、乳酸0.005%、クエン酸0.0025%の出芽試験結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは課題を解決するために鋭意研究したところ、特定の構造の低分子有機酸等の溶液に種子を浸漬処理することが、多湿土壌において良好な出芽と苗の生長をさせる作用を示すことを見出した。
【0016】
本明細書でいう多湿土壌とは、植物(作物)の種子により異なり、それぞれの植物にとって最適な土壌水分の量より水分が多く含有されている土壌である。本発明の栽培方法は多湿土壌においても、播種させ、良好に成長させることができる。
最適な土壌水分は作物ごとに異なり、トウモロコシでは30重量%、コムギでは40重量%、大豆では50重量%とする例もある。
水田転換畑や水田裏作、播種時期の豪雨等の関係で土壌水分が最適に保たれない圃場条件が発生している。圃場の大面積化に伴って、均一な土壌条件は難しく、部分的に多湿化する圃場も増えている。これらの、気象条件下や圃場条件に変化、栽培方法の変化によって、多湿条件を含む圃場に対応する栽培技術の提供は重要性を増している。
本発明でいう多湿土壌は、下記の計算式により求められる土壌水分により規定される。下記の計算式により求めるのに必要な乾燥土壌の重量は、土壌水分を求める対象の湿土(多湿土壌)を、105℃で24時間乾燥して得る。
土壌水分(%)=水分重量/湿土重量×100=(湿土重量-乾燥土壌重量)/湿土土壌重量×100
本発明でいう多湿土壌は、上記計算式により求めた土壌水分が55重量%以上であることである。(土壌表面の少なくとも一部分や全面に水層が形成されている(少なくとも一部分が水没した状態)を含む)このため、土壌の最大容水量を超過した水分が存在する状態であり、pF値は0となっている状態である。
またこの土壌水分が60重量%以上の場合、更に65重量%以上の場合でも良い。
【0017】
水稲では、水没した状態で出芽し子葉が生長することができるので、湛水直播栽培、不陸で部分的に湛水しているような圃場での直播栽培に有効である。湛水状態で直播すると、鳥の採餌被害を防止でき、また、雑草の出芽も抑制できるので、揃った稲の成長が期待できる。
麦、大豆、小豆、ソラマメ、エンドウマメ、トウモロコシ等は、畑作物であるが、水田の転作や裏作では、水はけが悪く高含水となることがある。また、豪雨等による水害によって、土壌が高含水となることがある。これらの水分を高含有する土壌においても、本発明を適用することにより、良好な出芽、生長を確保できる。
【0018】
生長剤
本発明の生長剤は、有効成分として、次の化学式1~3で表される化合物及びクエン酸からなる群から選択される1種以上の化合物を含有する。
CH3-C(=O)-C(=O)-R
・・・(化学式1)
(但し化学式1のRはOH、OCH3、OC2H5、NH2のいずれかを表す)
CH3-CH(OH)-C(=O)-R
・・・(化学式2)
(但し化学式2のRはOH、OCH3、OC2H5、NH2のいずれかを表す)
【0019】
R1-C(=O)-CH2CH(R3)-C(=O)-R2
・・・(化学式3)
(但し化学式3のR1はOH又はOCH3、R2はOH又はOCH3、R3はH、OH、NH2のいずれかを表す)
【0020】
本発明の生長剤は、上記の化学式1~3で表される化合物及びクエン酸から選ばれる1種以上の化合物を含有し、種子の重量に対する施用量として、0.001~10.0質量%、好ましくは0.005~2.0質量%含有する。
本発明の生長剤は、特に、乳酸、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸が適している。
【0021】
水稲には、本発明中の化合物の中でも、特にピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、乳酸、クエン酸について、有効性が確認できたので、稲や麦、イネ科牧草類の生長促進に有効である。
大豆では、本発明中の化合物の中でも、特に乳酸、ピルビン酸、クエン酸について、有効性が確認できたので、マメ科の大豆、小豆、ソラマメ、エンドウマメ、レンゲ等の生長促進に有効である。また、トウモロコシでも、本発明中の化合物の中でも、乳酸、クエン酸について、有効性が確認された。
【0022】
化学式1及び式2の化合物として下記の表1、化学式3の化合物として下記の表2にそれぞれ記載する化合物を例示できる。
【0023】
【0024】
【0025】
表1、表2に記載したこれらの化合物及びクエン酸は、極めて安全性の高い化合物であることが知られている。
これらの化合物は、合成された化合物であってもよい。あるいは乳酸菌の培養液を精製あるいは培養液(希釈物、濃縮物を含む)を使用することができる。
これらの化合物の中でも、乳酸、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸からなる群から選択される1以上の化合物がより好ましい。また、これらの誘導体も使用することができる。なお、乳酸、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、及びクエン酸の誘導体よりも、遊離の酸が好ましい。
【0026】
本発明における多湿土壌用各化合物の適切な使用量は、以下のように、作物の種類や剤型、使用方法によっても異なる。
多湿土壌への播種用種子処理用植物生長剤処理種子にするには、種子を生長剤により処理し、付着させることが必要である。
例えば、水稲では、種子重量に対する本発明中の各化合物の付着量の好ましい割合は、0.001~2.0重量%である。特に、1mM(乳酸0.009重量%)~100mM(クエン酸1.8重量%)が適している。
大豆では、種子重量に対する本発明中の各化合物の付着量の好ましい割合は、乳酸0.005~0.25重量%、ピルビン酸0.01重量%以上である。
トウモロコシでは、種子重量に対する本発明中の各化合物の付着量の好ましい割合は、乳酸0.001~0.2重量%、クエン酸0.01~2.0重量%である。
【0027】
乳酸菌の培養液を本発明の生長剤として使用する場合は、あらかじめ、培養液中の本発明中の化合物の含有量を確認したうえで、種子の浸漬処理、粉衣処理するための製剤とする。
【0028】
本発明の生長剤は、有効成分以外のその他の任意成分を常法に従い、混合、撹拌等することにより製剤として製造することができる。
本発明の生長剤は、水和剤、乳剤、液剤、粒剤、粉剤等、通常の植物成長調整剤で用いられる担体を用いて製剤化することができる。
製剤の形態に制限はなく、粉剤、顆粒剤、粒剤、水和剤、フロアブル剤、乳剤及びペースト剤、コーティング剤等のあらゆる製剤形態にすることができる。
【0029】
例えば、固体担体としては鉱物質粉末(カオリン、ベントナイト、クレー、モンモリロナイト、タルク、ケイソウ土、雲母、バーミキュライト、セッコウ、炭酸カルシウム、リン石灰等)、植物質粉末(大豆粉、小麦粉、木粉、タバコ粉、デンプン、結晶セルロース等)、高分子化合物(石油樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニル酢酸樹脂、ポリ塩化ビニル、ケトン樹脂等)、更に、アルミナ、ワックス類等を使用することができる。また、液体としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ベンジルアルコール等)、芳香族炭化水素類(トルエン、ベンゼン、キシレン等)、塩素化炭化水素類(クロロホルム、四塩化炭素、モノクロルベンゼン等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、酸アミド類(N,N-ジメチルアセトアミド等)、エーテルアルコール類(エチレングリコールエチルエーテル等)、又は水等を使用することができる。また、ポリビニルアルコールと任意のグラフト共重合体を使用しても良く、使用しなくても良い。
【0030】
固体担体を乳化、分散、拡散等の目的で使用しても良い界面活性剤としては、非イオン性、陰イオン性、陽イオン性及び両イオン性のいずれも使用することができる。本発明において使用することができる界面活性剤の例を挙げると、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンポリマー、オキシプロピレンポリマー、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル、第四級アンモニウム塩、オキシアルキルアミン、レシチン、サポニン等である。また、必要に応じてゼラチン、カゼイン、アルギン酸ソーダ、デンプン、寒天、ポリビニルアルコール等を補助剤として用いることができる。
【0031】
本発明の生長剤は、水溶液又は懸濁液とした場合のpH(25℃)は、2~8となるのが好ましく、当該pHを調整するために、必要に応じて、酢酸、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、乳酸、酒石酸等の有機酸塩、リン酸、塩酸、硫酸等の無機塩、水酸化ナトリウム等の水酸化物、アンモニア又はアンモニア水等を使用でき、これらを単独又は2種以上組み合わせて用いてもよく、さらに他のpH調整剤と適宜組み合わせてもよい。
【0032】
播種前の種子処理用として用いる場合は、水、アルコール類(メタノール、エタノール等)、ケトン類(アセトン等)、エーテル類(ジエチルエーテル等)、エステル類(酢酸エチル等)等の液体に0.01~100000ppm、より好ましくは1~10000ppm、特に好ましくは5~1000ppmとなるように希釈又は懸濁し、乾燥種子に噴霧するか、乾燥種子を生長剤に浸漬して種子に吸収させることができる。
なお、各有機酸の1mM濃度は乳酸90ppm(0.009%)、ピルビン酸88ppm、クエン酸192ppm、リンゴ酸134ppm、コハク酸118ppmを示す。
浸漬時間としては特に制限されない。好ましくは10分~120時間、より好ましくは10分~100時間、特に好ましくは10分~60時間である。種子を浸漬し、次いで浸漬した種子をそのまま土壌に播種するか、浸漬後水分又は溶剤を除去し、軽度風乾、あるいは完全に乾燥させる。浸漬工程は1回でよく、種子を有機酸含有の温水と冷水に交互に浸漬させても良く、させなくてもよい。
乾燥方法は、風乾、減圧乾燥、加熱乾燥、真空乾燥等が例示できる。また乾燥方法によって液体を適宜選択できる。なお、生長剤により処理された種子は少なくとも40℃に加温しても、しなくても良い。
さらにまた、クレー等の鉱物質粉末の固体担体を用いて製剤化したものを種子表面に付着させ使用することもできる。また、通常用いられている種子コーティング剤、種子コーティングフィルムに混合して種子に被覆することもできる。
【0033】
本発明の生長剤の適用対象となる植物種子としては、特に限定されないが、次のものを例示できる。イネ科(トウモロコシ、イネ、コムギ、チモシー、オーチャードグラス、ペレニアルライグラス、メドウフェスク、イタリアンライグラス、ケンタッキーブルーグラス)、マメ科(ダイズ、エダマメ、ソラマメ、インゲン、エンドウマメ、アズキ、アルファルファ、シロクローバ、アカクローバ、レンゲ)、アブラナ科(ダイコン、コマツナ、キャベツ、ブロッコリー、シロカラシ)、セリ科(ニンジン)、キク科(レタス)、ユリ科(タマネギ)に適用すると好ましい効果を発揮し、多湿土壌での出芽を促進する。
【0034】
チモシー、オーチャードグラス、ペレニアルライグラス、メドウフェスク、イタリアンライグラス、ケンタッキーブルーグラスは、イネ科の牧草である。牧草地で栽培されるが、輪作作物や水田の裏作としても栽培することができる。また、稲についても、飼料用米として栽培することができる。
マメ科作物は、豆を収穫する目的で、ダイズ、インゲン、ソラマメ、エンドウマメ、アズキを大面積で栽培することがある、水田転作作物としても注目されている。また、ソラマメ、エンドウマメは、水田の裏作として栽培することができる。アルファルファ、シロクローバ、アカクローバ、レンゲは、牧草や緑肥として利用でき、水田の裏作としても栽培することができる。
アブラナ科のダイコン、コマツナ、キャベツ、ブロッコリー、シロカラシは、水田の裏作作物として利用できる。
【0035】
稲は、水中で出芽し、鞘葉の伸長が促進され、鞘葉の先端が空気中に出ると空気を植物体内に取り込むことができ、更に、生長を促進することができる。
水稲は、栽培費用を軽減し、競争力を高めた経営が求められており、大面積栽培が進められている。現在は、田植え方式が普及しており、水田直播栽培も検討されているが、普及していない。
本発明は、湛水状態で初期の水稲の成長を促進することができ、直播に適している。湛水状態では、雑草が生えにくく、水稲が大きくなると、雑草を圧倒して、雑草の生育を抑制して、収量の確保にも有利である。
特にピルビン酸、乳酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸において、湛水状態での子葉生長と根の生長の促進作用を確認している。
乳酸は、100mMよりも1mMの方が良好な成長を示しており、低濃度の方が生長を刺激していることが分かる。したがって、乳酸が稲の成長を刺激する濃度はごくわずかでも良い。
ピルビン酸は、1~100mMの試験において有効性が示されており、どの濃度においても有効であった。
クエン酸もピルビン酸と同様の傾向を示している。
コハク酸とリンゴ酸は、1~100mMの試験において有効性が示されており、特に、10mM以上において有効性が確認されている。
【0036】
また、本発明の生長剤は、各種殺虫剤、殺菌剤、防虫剤、消毒剤、微生物農薬、肥料等と混用又は併用することも可能であるが、混用又は併用しなくても良い。また、育苗期に使用する殺虫殺菌剤と混用することが有効であるが混用しなくても良い。また、肥料と併用する場合、健苗育成を目的とした育苗用肥料との併用、活着促進を目的とした移植直前施用肥料との併用を行うことも可能である。
但し、本発明の生長剤には、銅化合物、鉄粉、又は複素環化合物を含有させても良く、させなくても良い。
【0037】
本発明の生長剤を得るために、乳酸菌を培養してなる培養液を利用することができる。乳酸菌としては、どのような菌でも良いが、乳酸球菌、乳酸桿菌が好ましく、中でも乳酸桿菌が好ましい。乳酸桿菌のなかでもラクトバチルス属が好ましい。
【0038】
乳酸菌の中でもラクトバチルス・パラカゼイ(L.paracasei)、ラクトバチルス・ラムノサス(L.rhamnosus)、ラクトバチルス・プランタラム(L.plantarum)、ラクトバチルス・ディオリボランス(L.diolivorans)が好ましく、ラクトバチルス・パラカゼイ(L.paracasei)、ラクトバチルス・ラムノサス(L.rhamnosus)から選択される乳酸菌がより好ましい。
この乳酸菌を培養することで得られる生長剤には、乳酸、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸のいずれか1以上が含有されている。
【実施例0039】
次に実施例及び試験例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例・試験例に限定されるものではない。
【0040】
<試験例1:水稲の出芽試験>
1.試験方法
(1)種子塩水洗
水道水100mlに対して塩化ナトリウム20gを入れ溶解した。水稲種子(品種:えみまる)を入れ撹拌し、完全に沈んだ種子を分離し、水道水で塩化ナトリウムを洗い流し試験に供試した。
(2)試験液の調製
乳酸、ピルビン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸について、それぞれ1mM、10mM、100mM溶液を調製して試験液とした。対象区は蒸留水(DW)とした。
(3)種子浸漬
試験液25mlに種子6g(約200粒)を浸漬し、15℃の暗所で4日間インキュベートした。浸漬2日目に試験液の交換を行った。
【0041】
(4)催芽処理
9cmガラスシャーレに濾紙(No.2, ADVANTEC社製)を2枚敷き蒸留水6mlを添加し、種子を重ならないように並べた。30℃暗所で約20時間催芽処理を行った。(土壌水分の量が70%の場合を再現した。)
乳酸、ピルビン酸、クエン酸のバッチ(
図2、3)とコハク酸、リンゴ酸のバッチ(
図4、5)に分けて、催芽処理を行った。各有機酸の1mM濃度は乳酸90ppm、ピルビン酸88ppm、クエン酸192ppm、リンゴ酸134ppm、コハク酸118ppmを示す。
(5)葉鞘身長活性試験
直径40mm試験管に15cmまで蒸留水を入れ、催芽済種子を試験管1本あたり10粒播種した。
10℃暗所で7日間インキュベートし、その後15℃で7日間インキュベートし子葉鞘長及び根長の測定を行った。
【0042】
2.試験結果
図1~4に測定した子葉鞘長及び根長を示す。棒グラフは3反復の平均値を示す。
図1は、乳酸、ピルビン酸、クエン酸について、それぞれ1mM、10mM、100mMを試験溶液として子葉の鞘長を測定した結果である。
図2は、乳酸、ピルビン酸、クエン酸について、それぞれ1mM、10mM、100mMを試験溶液として根長を測定した結果である。
図3は、コハク酸、リンゴ酸について、それぞれ1mM、10mM、100mMを試験溶液として子葉の鞘長を測定した結果である。
図4は、コハク酸、リンゴ酸について、それぞれ1mM、10mM、100mMを試験溶液として根長を測定した結果である。
【0043】
この結果、子葉鞘長、根長とも比較の蒸留水区よりも成長していることが確認された。乳酸、ピルビン酸、クエン酸についてはTukeyHSD検定5%水準で有意差ありと判定された。
イネは低酸素状態に応じて子葉鞘を伸長させ、大気中の酸素の取り込みを可能とすることで光合成能力を獲得する。子葉鞘の水面からの突出(出芽)がより早いほど苗立ち率及びその後の初期生育が良好であることが報告されている(古畑昌巳ら(2007).出芽速度および嫌気条件下における鞘葉の伸長速度が湛水直播水稲の出芽・苗立ちに及ぼす影響. 日作紀. 76巻1号 p10-17)。湛水直播における播種深度の目安は5~10mmとされていることから(島根県:水稲・麦・大豆指導指針(トップ/しごと・産業/農林業/技術情報/農業技術情報/研究情報/指針・マニュアル/水稲・麦・大豆栽培指針)(shimane.lg.jp))特に、この試験で少なくとも子葉鞘長が5mmを超えること、さらに10mmを超えることは、光合成能力を備えた第二葉の展開を早めることによる苗立ちの確立に有利に働くと考えられる。
【0044】
乳酸の試験結果は、低濃度であるほど有効性が高く示されていて特異性を示している。
子葉鞘長、根長とも100mMよりも10mMの方が生長は良好で、更に、10mMよりも1mMの生長が良好という結果を示している。これは、乳酸は湛水状態における稲の生長スイッチを刺激する濃度がごくわずかであることを示唆している。
極低濃度で生長を刺激することは、予め、乳酸浸漬処理や塗布する処理方法のほか、圃場に湛水する水に添加する方法も可能となるので、播種前に種に乳酸処理することを省くことができ、稲栽培の省力化に貢献できる。
【0045】
<試験例2:大豆の出芽試験>
1.試験方法
ダイズ(ユキホマレR)に対して、処理後のピルビン酸又は乳酸(ラセミ体)の付着量が、種子重量の0.25重量%になるように生長剤を塗布したのちに、1時間30分風乾させた。
DW120mlに種子30粒を浸漬し、25℃で48時間冠水処理(水分100%)した。
処理後にベンレートT水和剤50倍に1分浸漬してバーミキュライト(土壌水分の量に相当する水分量は78重量%)に播種し、28℃、光条件5,000lux(明所12hr,暗所12hr(明所で12hr経過後、暗所で12hr経過を繰り返し、以下同じ))で栽培し、播種10日後に出芽率を調査した。
【0046】
2.試験結果
図5に試験結果を示す。
ピルビン酸施用区において43%となった。これは、2粒播種した場合に少なくとも1粒出芽する確率が68%、3粒播種した場合に少なくとも1粒出芽する確率が81%となり、苗立ちの確立が向上することを意味する。
水道水では13%であったが、ピルビン酸では43%、乳酸では30%の出芽率であった。ピルビン酸と乳酸による生長促進が確認できた。
【0047】
<試験例3:ダイズの出芽試験>
ダイズ(ユキホマレR)に対して、処理後の種子重量に対するクエン酸の付着量が、0.0025重量%、及び0.125重量%、乳酸の付着量が0.005重量%、0.25重量%となるように、クエン酸及び乳酸を塗布したのちに、1時間30分風乾させた。
DW120mlに種子30粒を浸漬し、25℃で48時間冠水処理(水分100%)し、処理後にベンレートT水和剤50倍に1分浸漬してバーミキュライト(土壌水分の量に相当する水分量は78重量%)に播種し、28℃、光条件5,000lux(明所12hr,暗所12hr)で栽培し、播種10日後に出芽率を調査した。
【0048】
試験結果
図6に試験結果を示す。
無処理区の出芽率が50%以下であったのに対し、クエン酸0.0025%施用区、乳酸0.005%施用区、乳酸0.25%施用区において出芽率が50%以上となった。
ダイズでは、乳酸の付着量が0.005%と0.25%がほぼ同程度の出芽率であり、より低濃度でも効果を発揮すると思われる。
クエン酸の付着量は、0.0025%の方が0.125%よりも、若干高い出芽率を示しているので、0.0025%よりも低濃度でも効果を発揮すると思われる。
【0049】
<試験例4:乳酸菌培養上清の調製>
-80℃で保管しておいたLactobacillus paracaseiを含水ブドウ糖3.8%、酵母エキス1%、ペプトン1%、硫酸マグネシウム0.02%、硫酸マンガン10ppm、硫酸第一鉄10ppm、塩化カリウム2%を溶解した培地10mlで37℃にて24時間培養した培養液を、同様の培地40mlに対して0.5mlを接種して24時間培養し、さらに培地4Lに対し40mlを接種して24時間培養した。これを8L用意し1600Lの培地に接種し、25%アンモニア水でpH5.5に維持しながら37℃にて19時間培養した。これを遠心分離によって菌体を除去して上清を得た。得た上清をエバポレーターを用いて5倍に濃縮した後、クエン酸を用いてpH4.0に調整した。
本培養上清中の乳酸及びクエン酸量を高速液体クロマトグラフィー(島津製作所;LC20AD-SPD M20A)で測定した。カラムはTSK-A OApak-A φ7.8mm×300mmを用い、条件はカラム温度40℃、流速0.8ml/min、移動相0.75mM硫酸とした。BTBによるポストカラム法により450nmを検出した。その結果、乳酸は保持時間15.4分、クエン酸は保持時間13.7分に検出され、その含有量は乳酸13.08%、クエン酸7.6%であった。
【0050】
<ダイズへの乳酸菌培養上清施用試験>
ダイズ(ユキホマレR)に対して、種子重量に対し2.5%(ml/g)又は0.5%(ml/g)の乳酸菌培養上清を塗布したのちに、1時間30分風乾させた。DW120mlに種子30粒を浸漬し、25℃で48時間冠水処理(水分100%)し、処理後にベンレートT水和剤50倍に1分浸漬してバーミキュライト(土壌水分の量に相当する水分量は78重量%)に播種し、28℃、光条件5,000lux(明所12hr,暗所12hr)で栽培し、播種10日後に出芽率を調査した。
【0051】
試験結果
図7に試験結果を示す。
出芽率について無処理区では50%以下であったのに対し、0.5%乳酸菌培養上清0.5%塗布区では58%、2.5%塗布区では80%と顕著に向上した。
大豆に対する乳酸菌培養上清は、高濃度の方が出芽率が高くなっており、乳酸単独とは異なる傾向を示している。乳酸菌培養上清には多種の化合物が含有されているので、複合効果が発揮されていると考える。
【0052】
<試験例5:トウモロコシへの乳酸及びクエン酸の効果>
トウモロコシ(品種:SH9599)に対して、処理後の種子重量に対する乳酸の付着量が0.005重量%、0.025重量%、及び0.25重量%、クエン酸の付着量が0.0025重量%、0.0125重量%、0.125重量%となるように、乳酸又はクエン酸を水で適当な量に原液又は水で50倍に希釈し塗布したのちに、1時間30分風乾させた。75mmポットに滅菌した培土(すくすく倶楽部60)100gを充填し、1ポットあたり5粒を播種した(各処理区4ポット)。播種深度は2cmとした。播種地点での土壌水分は65%であった。ポットの底面からの水深が3.5cmとなるように管理し、22℃、2,000lux、明所12時間、暗所12時間の条件で栽培し、播種14日後に出芽数を調査した。
【0053】
結果
図8に試験結果を示す。
無処理区では10%であった出芽率が、乳酸0.005%施用区で45%、クエン酸0.0125%、0.125%施用区で40%と、高い結果となった。
トウモロコシでは、乳酸は0.025%では無処理と同程度であり、0.005%では高い出芽率を示しているので、更に低濃度でも効果を発揮すると思われる。
クエン酸は、0.0025%で無処理と同程度の出芽率であるが、0.0125%は高く、0.01%程度も効果を発揮する考えられる。
【0054】
<試験例6:トウモロコシへの乳酸菌培養上清の効果>
試験例4で示した方法で調製した乳酸菌培養上清をトウモロコシ(品種:SH9599)に対し種子重量に2.5%(ml/g)又は0.5%(ml/g)を塗布したのちに、1時間30分風乾させた。75mmポットに滅菌した培土(すくすく倶楽部60)100gを充填し、1ポットあたり5粒を播種した(各処理区4ポット)。播種深度は2cmとした。播種地点での土壌水分は65%であった。ポットの底面からの水深が3.5cmとなるように管理し、22℃、2,000lux、明所12時間、暗所12時間の条件で栽培し、播種14日後に出芽数を調査した。
【0055】
結果
図9に試験結果を示す。
無処理区では10%であった出芽率が、乳酸菌培養上清0.5%施用区で35%と高くなった。
乳酸菌培養上清2.5%では、無処理と同程度あるので、トウモロコシに対して、乳酸菌培養上清は低濃度で生長促進作用を示している。これは、ダイズとは異なる作用機序を示している。
【0056】
<試験例7:コムギの出芽試験>
1.試験方法
コムギ(きたほなみ)を9cmガラスシャーレに濾紙(No.2,ADVANTEC社製)を1枚敷き、種子約40粒を重ならないように並べた。DWを10ml入れた。これに、種子の重量に対して、乳酸を0.0006重量%、クエン酸を0.006重量%となるように、それぞれ加えた。その上に濾紙(No.2,ADVANTEC社製)を1枚敷き、気泡を取り除いた。土壌水分の量に相当する水分量は86重量%となるようにした。シャーレをパラフィルム(BemisFlexible Packaging社製)でシールし、25℃、光条件3000lux(明所12hr,暗所12hr)でインキュベートし、播種4日後に出芽率を調査した。
【0057】
2.試験結果
図10に試験結果を示す。棒グラフは5反復の平均値を示す。無処理区では5.2%であったが、乳酸0.0001%区では36.5%、クエン酸0.0001%区では36.0%の発芽率であった。乳酸0.0001%区、クエン酸0.0001%区どちらもTukeyHSD検定5%水準で有意差ありと判定された。
【0058】
<試験例8:トウモロコシの出芽試験>
1.試験方法
湛水条件において、種子塗布剤を用いる場合があるが、この場合、種子の発芽率がさらに低下することが知られている。トウモロコシ(品種:SH9599)に対して、種子重量に対して、クルーザーFS30(シンジェンタジャパン株式会社)を0.6%(ml/g)となるように処理し、また、クルーザーFS30(シンジェンタジャパン株式会社)を0.6%(ml/g)と乳酸を0.005重量%となるように処理し、また、また、クルーザーFS30を0.6%(ml/g)と及びクエン酸を0.0025重量%となるように塗布処理後、風乾させた。
この際、対照区として、無処理の種(生種区)及びクルーザーFS30のみ処理したクルーザーFS30処理区を設定した。75mmポットに滅菌した培土(すくすく倶楽部60)100gを充填し、1ポットあたり5粒を播種した(各処理区5ポット)。播種深度は2cmとした。播種地点での土壌水分は65%であった。ポットの底面からの水深が2.5cmとなるように管理し、25℃、3000lux、明所12時間、暗所12時間の条件で栽培し、播種10日後に出芽数を調査した。
【0059】
2.試験結果
図11に試験結果を示す。棒グラフは5反復の平均値を示す。
何も処理を施していない生種区では70%近い発芽率を示したが、クルーザーFS30処理区では40%以下となった。これに対し乳酸またはクエン酸をほんの少量併用することで発芽率が70%近くになった。これは、湛水条件下における種子塗布剤による発芽率の低下を回復されることができたことを意味する。