(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121847
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】油井用金属管及びその油井用金属管の潤滑被膜層を形成するための組成物
(51)【国際特許分類】
F16L 15/04 20060101AFI20240902BHJP
【FI】
F16L15/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029041
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】595099867
【氏名又は名称】バローレック・オイル・アンド・ガス・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】安倍 知花
(72)【発明者】
【氏名】秋岡 幸司
(72)【発明者】
【氏名】倉西 崇夫
(72)【発明者】
【氏名】後藤 邦夫
【テーマコード(参考)】
3H013
【Fターム(参考)】
3H013JA01
3H013JA04
(57)【要約】
【課題】優れた耐焼付き性と優れたハイトルク性能とを有する油井用金属管を提供する。
【解決手段】本開示による油井用金属管(1)は、第1端部(10A)と第2端部(10B)とを含む管本体(10)を備える。管本体(10)は、第1端部(10A)に形成されているピン(40)と、第2端部(10B)に形成されているボックス(50)とを含む。ピン(40)は、雄ねじ部(41)を含むピン接触表面(400)を含み、ボックス(50)は、雌ねじ部(51)を含むボックス接触表面(500)を含む。油井用金属管(1)はさらに、ピン接触表面(400)及びボックス接触表面(500)の少なくとも一方の上又は上方に潤滑被膜層(100)を備える。潤滑被膜層(100)は、ZrO
2と、金属石鹸と、ワックスと、塩基性芳香族有機酸金属塩と、を含有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油井用金属管であって、
第1端部と第2端部とを含む管本体を備え、
前記管本体は、
前記第1端部に形成されているピンと、
前記第2端部に形成されているボックスと、を含み、
前記ピンは、
雄ねじ部を含むピン接触表面を含み、
前記ボックスは、
雌ねじ部を含むボックス接触表面を含み、
前記油井用金属管はさらに、
前記ピン接触表面及び前記ボックス接触表面の少なくとも一方の上又は上方に潤滑被膜層を備え、
前記潤滑被膜層は、
ZrO2と、
金属石鹸と、
ワックスと、
塩基性芳香族有機酸金属塩と、を含有する、
油井用金属管。
【請求項2】
請求項1に記載の油井用金属管であって、
前記潤滑被膜層は、
前記ZrO2と、前記金属石鹸と、前記ワックスと、前記塩基性芳香族有機酸金属塩と、潤滑性粉末との含有量の合計を100質量%とした場合、
ZrO2:0.2~8.0%、
金属石鹸:2~30%、
ワックス:2~30%、
塩基性芳香族有機酸金属塩:12.0~80.0%、及び、
潤滑性粉末:0~20.0%、を含有する、
油井用金属管。
【請求項3】
請求項2に記載の油井用金属管であって、
前記潤滑被膜層は、
潤滑性粉末:0.1~20.0%、を含有する、
油井用金属管。
【請求項4】
請求項1に記載の油井用金属管であって、
前記油井用金属管はさらに、
前記ピン接触表面及び前記ボックス接触表面の少なくとも一方と、前記潤滑被膜層との間に配置される、金属めっき層を備える、
油井用金属管。
【請求項5】
請求項4に記載の油井用金属管であって、
前記油井用金属管のうち、前記金属めっき層が上又は上方に配置される前記ピン接触表面及び前記ボックス接触表面の少なくとも一方は、
ブラスト処理された面又は酸洗された面である、
油井用金属管。
【請求項6】
請求項1に記載の油井用金属管であって、
前記油井用金属管はさらに、
前記ピン接触表面及び前記ボックス接触表面の少なくとも一方と、前記潤滑被膜層との間に配置され、前記潤滑被膜層と接触する面を有する化成処理層を備える、
油井用金属管。
【請求項7】
請求項1に記載の油井用金属管であって、
前記ピン接触表面はさらに、
ピンシール面及びピンショルダー面を含み、
前記ボックス接触表面はさらに、
ボックスシール面及びボックスショルダー面を含む、
油井用金属管。
【請求項8】
請求項1~請求項7に記載の油井用金属管が備える前記潤滑被膜層を形成するための組成物であって、
ZrO2と、
金属石鹸と、
ワックスと、
塩基性芳香族有機酸金属塩と、を含有する、
組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の組成物であって、
前記組成物はさらに、
潤滑性粉末を含有する、
組成物。
【請求項10】
請求項8に記載の組成物であって、
前記組成物はさらに、
揮発性有機溶剤を含有する、
組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、油井用金属管及びその油井用金属管の潤滑被膜層を形成するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
油井やガス井(以下、油井及びガス井を総称して、単に「油井」という)には、油井用金属管が使用される。油井採掘地において、油井の深さに応じて、複数の油井用金属管を連結して、ケーシングやチュービングに代表される油井管連結体を形成する。そのため、油井用金属管の管本体には、ねじ継手(ピン及びボックス)が形成されている。本明細書において管本体とは、機械加工等により、端部にピン及びボックスを形成した管体(中空管)を意味する。すなわち、油井管連結体は、油井用金属管の管本体の端部に形成されたピンと、他の油井用金属管の管本体の端部に形成されたボックスとをねじ締めして、連結することにより形成される。
【0003】
ここで、ピンは、管本体の一方の端部の外周面に、雄ねじ部を含むピン接触表面を有する。ボックスは、油井用金属管の管本体のうち、ピンが形成されていない端部の内周面に、雌ねじ部を含むボックス接触表面を有する。本明細書において、雄ねじ部と雌ねじ部とを総称して、「ねじ部」ともいう。本明細書において、ピン接触表面とボックス接触表面とを総称して、「接触表面」ともいう。なお、ピン接触表面はさらに、ピンシール面とピンショルダー面とを含む、ピンねじ無し金属接触部を含む場合がある。同様に、ボックス接触表面はさらに、ボックスシール面とボックスショルダー面とを含む、ボックスねじ無し金属接触部を含む場合がある。以下、ピンねじ無し金属接触部とボックスねじ無し金属接触部とを総称して、「ねじ無し金属接触部」ともいう。つまり、管本体のうち接触表面は、ねじ部のみを含んでいてもよく、ねじ部とねじ無し金属接触部とを含んでいてもよい。
【0004】
ところで、形成された油井管連結体に対して、検査を実施する場合がある。検査を実施する場合、油井管連結体が引き上げられ、ピンとボックスとがねじ戻しされる。そして、ねじ戻しにより油井管連結体から油井用金属管が取り外され、検査される。検査後、ピンとボックスとが再びねじ締めされ、油井用金属管が油井管連結体の一部として再度利用される。このように、油井用金属管を油井管連結体として使用する際、ピンとボックスとのねじ締め及びねじ戻しが繰り返される場合がある。
【0005】
一方、ピンとボックスとがねじ締めやねじ戻しされる際、接触表面(ピン接触表面及びボックス接触表面)は、強い摩擦を繰り返し受ける。そのため、ピン及びボックスのねじ締め及びねじ戻しを繰り返した場合、接触表面にはゴーリング(修復不可能な焼付き)が発生しやすい。したがって、油井用金属管には、摩擦に対する十分な耐久性、すなわち、優れた耐焼付き性が求められる。
【0006】
従来、油井用金属管の耐焼付き性を向上するために、ドープと呼ばれる重金属粉入りのコンパウンドグリスが使用されてきた。接触表面にコンパウンドグリスを塗布することで、油井用金属管の耐焼付き性を改善できる。しかしながら、コンパウンドグリスに含まれるPb、Zn及びCu等の重金属粉は、環境に悪影響を与える懸念がある。このため、コンパウンドグリスを使用せずに、優れた耐焼付き性を有する油井用金属管の開発が望まれている。
【0007】
油井用金属管の耐焼付き性を高める技術が、たとえば、特開2002-348587号公報(特許文献1)、及び、国際公開第2006/104251号(特許文献2)に提案されている。
【0008】
特許文献1に開示される油井用金属管は、ピン及びボックスのうち少なくとも一方の接触表面に、潤滑性粉末とバインダーとからなる固体潤滑被膜が形成されている。潤滑性粉末は、二硫化モリブデン粉末及び二硫化タングステン粉末から選んだ1種又は2種と黒鉛粉末とからなる。黒鉛粉末は潤滑性粉末の2~20質量%を占める。この油井用金属管は、優れた耐焼付き性を得られる、と特許文献1に開示されている。
【0009】
特許文献2に開示される油井用金属管は、ピン及びボックスのうち少なくとも一方の接触表面に、粘稠液体又は半固体の潤滑被膜と、その上に形成された乾燥固体被膜とが形成されている。この油井用金属管は、コンパウンドグリスを使用せずに、優れた耐焼付き性を得られる、と特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002-348587号公報
【特許文献2】国際公開第2006/104251号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、油井用金属管の管本体に形成されたピン及びボックスをねじ締めする際、締結完了時のトルク(以下、締結トルクという)は、ねじ干渉量の大小に関わらず、十分なシール面圧が得られるように設定されている。ねじ締めの最終段階においては、接触表面同士の面圧が高くなる。そのため、面圧が高くなった場合でも、焼付くことなくトルクが安定的に増加すれば、締結トルクの調整が容易になる。したがって、油井用金属管には、接触表面同士の面圧が高まっても、トルクを安定的に高められることが好ましい。以下、本明細書において、接触表面同士の面圧が高まっても、トルクを安定的に高められることを、ハイトルク性能という。
【0012】
要するに、油井用金属管には、優れた耐焼付き性だけでなく、優れたハイトルク性能も有していることが好ましい。一方、上記特許文献1及び2では、油井用金属管のハイトルク性能について、検討されていない。
【0013】
本開示の目的は、優れた耐焼付き性と優れたハイトルク性能とを有する油井用金属管を提供すること、及び、優れた耐焼付き性と優れたハイトルク性能とを有する油井用金属管に形成された潤滑被膜層を形成するための組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示による油井用金属管は、
第1端部と第2端部とを含む管本体を備え、
前記管本体は、
前記第1端部に形成されているピンと、
前記第2端部に形成されているボックスと、を含み、
前記ピンは、
雄ねじ部を含むピン接触表面を含み、
前記ボックスは、
雌ねじ部を含むボックス接触表面を含み、
前記油井用金属管はさらに、
前記ピン接触表面及び前記ボックス接触表面の少なくとも一方の上又は上方に潤滑被膜層を備え、
前記潤滑被膜層は、
ZrO2と、
金属石鹸と、
ワックスと、
塩基性芳香族有機酸金属塩と、を含有する。
【0015】
本開示による組成物は、
前記油井用金属管が備える前記潤滑被膜層を形成するための組成物であって、
ZrO2と、
金属石鹸と、
ワックスと、
塩基性芳香族有機酸金属塩と、を含有する。
【発明の効果】
【0016】
本開示による油井用金属管は、優れた耐焼付き性と優れたハイトルク性能とを有する。本開示による組成物は、優れた耐焼付き性と優れたハイトルク性能とを有する油井用金属管に形成された潤滑被膜層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本実施形態における、トルクオンショルダー抵抗ΔT′を説明するための図である。
【
図2】
図2は、潤滑被膜層100中のZrO
2の含有量(質量%)と、ハイトルク性能の指標であるトルクオンショルダー抵抗ΔT′(相対値)との関係を示す図である。
【
図3】
図3は、潤滑被膜層100中のZrO
2の含有量(質量%)と、耐焼付き性の指標であるねじ締め及びねじ戻し回数との関係を示す図である。
【
図4】
図4は、本実施形態による油井用金属管1の一例を示す構成図である。
【
図5】
図5は、
図4に示す油井用金属管1の第2端部10Bの管軸方向に平行な断面図(縦断面図)である。
【
図6】
図6は、ピン40の一部の、管軸方向に平行な断面図(縦断面図)である。
【
図7】
図7は、ボックス50の一部の、管軸方向に平行な断面図(縦断面図)である。
【
図8】
図8は、油井用金属管1の第2端部10Bの管軸方向に平行な断面図(縦断面図)のうち、
図5と異なる一例の縦断面図である。
【
図9】
図9は、油井用金属管1の第2端部10Bの管軸方向に平行な断面図(縦断面図)のうち、
図5及び
図8と異なる一例の縦断面図である。
【
図10】
図10は、ピン40の近傍の一部の管軸方向に平行な断面図(縦断面図)である。
【
図11】
図11は、ボックス50の近傍の一部の管軸方向に平行な断面図(縦断面図)である。
【
図12】
図12は、ピン40の近傍の一部の管軸方向に平行な断面図(縦断面図)のうち、
図10と異なる一例の縦断面図である。
【
図13】
図13は、ボックス50の近傍の一部の管軸方向に平行な断面図(縦断面図)のうち、
図11と異なる一例の縦断面図である。
【
図14】
図14は、ピン40の近傍の一部の管軸方向に平行な断面図(縦断面図)のうち、
図10及び
図12と異なる一例の縦断面図である。
【
図15】
図15は、本実施例における、トルクオンショルダー抵抗ΔT′を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本実施形態による油井用金属管及び組成物を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0019】
本発明者は、油井用金属管及び油井用金属管の潤滑被膜層を形成するための組成物と、油井用金属管の耐焼付き性及びハイトルク性能との関係について種々検討を行った。その結果、以下の知見を得た。
【0020】
上述のとおり、本明細書において、接触表面同士の面圧が高まっても、トルクを安定的に高められることを、ハイトルク性能という。ここで、油井用金属管のハイトルク性能について、接触表面がねじ無し金属接触部を有する場合を一例に、具体的に説明する。なお、上述のとおり、ピンねじ無し金属接触部には、ピンシール面及びピンショルダー面を含み、ボックスねじ無し金属接触部には、ボックスシール面及びボックスショルダー面を含む。
【0021】
上述のとおり、油井用金属管のピンとボックスとをねじ締めして、油井管連結体を形成する。接触表面がねじ無し金属接触部を有する場合、ピンとボックスとのねじ締めをしていくと、ピンショルダー面とボックスショルダー面とが接触する。その後さらにねじ締めをすることで、ピンシール面とボックスシール面とが干渉し、ピン接触表面とボックス接触表面との気密性が高まる。ここで、ピンショルダー面とボックスショルダー面とが接触するときに生じるトルクを、ショルダリングトルクという。また、上述のとおり、ピンとボックスとのねじ締めが完了するときのトルクを、締結トルクという。なお、締結トルクに到達した後、さらにねじ締めをすると、管本体のうちピンとボックスとの少なくとも一方が塑性変形を起こす懸念がある。ピン及び/又はボックスが塑性変形を起こすときに生じるトルクを、イールドトルクという。
【0022】
上述のとおり、締結トルクは、ねじ干渉量の大小に関わらず、十分なシール面圧が得られるように設定される。すなわち、ねじ無し金属接触部を有する油井用金属管では、ピンショルダー面とボックスショルダー面とが接触した後、つまりねじ締めの最終段階において、ピン接触表面とボックス接触表面とが、高い摩擦力を受けながら摺動する。ここで、ピン接触表面とボックス接触表面とが、高摩擦力下でも焼付くことなく摺動を維持できれば、ショルダリングトルクとイールドトルクとの差を大きくできる。以下、ショルダリングトルクとイールドトルクとの差を、トルクオンショルダー抵抗ΔT′という。
【0023】
トルクオンショルダー抵抗ΔT′について、図面を用いてさらに具体的に説明する。
図1は、本実施形態における、トルクオンショルダー抵抗ΔT′を説明するための図である。
図1を参照して、油井用金属管をねじ締めすると、まず、回転数に比例してトルクが上昇する(
図1中左下実線部)。このとき、回転数に応じたトルクの上昇率は低い。さらにねじ締めをすると、ピンショルダー面とボックスショルダー面とが接触する。このとき、油井用金属管に生じるトルクが、ショルダリングトルクである(
図1中「Ts」と表記)。
【0024】
トルクがショルダリングトルク(Ts)に到達した後、さらにねじ締めをすると、回転数に応じてさらにトルクが上昇する(
図1中中央実線部)。このとき、回転数に応じたトルクの上昇率は高い。さらにねじ締めをすると、トルクが所定の締結トルクに到達する(
図1中「To」と表記)。さらにねじ締めをすると、ピン及び/又はボックスに塑性変形が生じる(
図1中右上実線部)。このとき、油井用金属管に生じるトルクが、イールドトルクである(
図1中「Ty」と表記)。
【0025】
図1を参照して、イールドトルクTyとショルダリングトルクTsとの差(トルクオンショルダー抵抗ΔT′)が大きいほど、締結トルクToとして設定できる範囲が広がる。すなわち、トルクオンショルダー抵抗ΔT′を大きくできれば、締結トルクを高く設定することができる。すなわち、油井用金属管がねじ無し金属接触部を有する場合、トルクオンショルダー抵抗ΔT′が大きければ、接触表面同士の面圧が高まっても、トルクを安定的に高められる。言い換えると、油井用金属管がねじ無し金属接触部を有する場合、トルクオンショルダー抵抗ΔT′は、油井用金属管のハイトルク性能の指標となる。
【0026】
以上の知見に基づいて、本発明者らは、油井用金属管のハイトルク性能を高める手法を種々検討した。まず、本発明者らは、油井用金属管の管本体のうち、接触表面の上又は上方に潤滑被膜層を形成することを検討した。本発明者らの詳細な検討の結果、金属石鹸と、ワックスと、塩基性芳香族有機酸金属塩とを含有する潤滑被膜層であれば、油井用金属管のハイトルク性能を高められる可能性があると考えた。本発明者らのさらなる詳細な検討の結果、金属石鹸と、ワックスと、塩基性芳香族有機酸金属塩とを含有する潤滑被膜層に、さらにZrO2が含有されれば、油井用金属管のハイトルク性能の指標であるトルクオンショルダー抵抗ΔT′を高められることが明らかになった。この点について、図面を用いて具体的に説明する。
【0027】
図2は、潤滑被膜層中のZrO
2の含有量(質量%)と、ハイトルク性能の指標であるトルクオンショルダー抵抗ΔT′(相対値)との関係を示す図である。
図2は、後述する実施例のうち、潤滑被膜層中のZrO
2含有量(質量%)と、トルクオンショルダー抵抗ΔT′(相対値)とを用いて作成した。なお、トルクオンショルダー抵抗ΔT′は、後述する実施例の試験番号10において、潤滑被膜層の代わりにAPI(American Petroleum Institute)で規格されたコンパウンドグリスを使用した際のトルクオンショルダー抵抗ΔT′の数値を基準(100)として、相対値で求めた。なお、
図2中の白丸印○は、実施例のうち、潤滑被膜層を形成した試験番号のトルクオンショルダー抵抗ΔT′(相対値)を示す。
図2中の三角印△は、実施例のうち、潤滑被膜層の代わりにコンパウンドグリスを使用した試験番号10のトルクオンショルダー抵抗ΔT′(基準値)を示す(
図2中「APIドープ」と表記)。
【0028】
図2を参照して、潤滑被膜層中にZrO
2を少しでも含有すれば、トルクオンショルダー抵抗ΔT′が100を超える。すなわち、潤滑被膜層中にZrO
2を少しでも含有すれば、少なくともコンパウンドグリスを使用した場合と同等以上にまで、油井用金属管のハイトルク性能を高められることが明らかになった。
【0029】
本発明者らはさらに、潤滑被膜層中のZrO2含有量と油井用金属管の耐焼付き性との関係についても、詳細に検討した。その結果、油井用金属管の管本体のうち、接触表面の上又は上方に潤滑被膜層を形成し、その潤滑被膜層にZrO2を含有させれば、油井用金属管の耐焼付き性を高められることを明らかにした。この点について、図面を用いて具体的に説明する。
【0030】
図3は、潤滑被膜層中のZrO
2の含有量(質量%)と、耐焼付き性の指標であるねじ締め及びねじ戻し回数との関係を示す図である。
図3は、後述する実施例のうち、潤滑被膜層中のZrO
2含有量(質量%)と、ねじ部での回復不可能な焼付きや、シール面(ピンシール面及び/又はボックスシール面)での焼付きが発生せずに、ねじ締め及びねじ戻しができた回数とを用いて作成した。なお、
図2と同様に、
図3中の白丸印○は、実施例のうち、潤滑被膜層を形成した試験番号のねじ締め及びねじ戻し回数を示す。
図3中の三角印△は、実施例のうち、潤滑被膜層の代わりにコンパウンドグリスを使用した試験番号10のねじ締め及びねじ戻し回数を示す(
図3中「APIドープ」と表記)。
【0031】
図3を参照して、潤滑被膜層中にZrO
2を少しでも含有すれば、ねじ締め及びねじ戻し回数が、APIドープの回数(5回)を超える。すなわち、潤滑被膜層中にZrO
2を少しでも含有すれば、少なくともコンパウンドグリスを使用した場合と同等以上にまで、油井用金属管の耐焼付き性を高められることが明らかになった。
【0032】
したがって、本実施形態による油井用金属管は、ピン接触表面とボックス接触表面との少なくとも一方の上又は上方に、ZrO2と、金属石鹸と、ワックスと、塩基性芳香族有機酸金属塩とを含有する潤滑被膜層を形成する。その結果、本実施形態による油井用金属管は、優れた耐焼付き性と、優れたハイトルク性能とを有する。さらに、本実施形態による組成物は、ZrO2と、金属石鹸と、ワックスと、塩基性芳香族有機酸金属塩とを含有する。その結果、本実施形態による組成物は、優れた耐焼付き性と、優れたハイトルク性能とを有する油井用金属管の潤滑被膜層を形成することができる。
【0033】
以上の知見に基づいて完成した本実施形態による油井用金属管及び組成物の要旨は、次のとおりである。
【0034】
[1]
油井用金属管であって、
第1端部と第2端部とを含む管本体を備え、
前記管本体は、
前記第1端部に形成されているピンと、
前記第2端部に形成されているボックスと、を含み、
前記ピンは、
雄ねじ部を含むピン接触表面を含み、
前記ボックスは、
雌ねじ部を含むボックス接触表面を含み、
前記油井用金属管はさらに、
前記ピン接触表面及び前記ボックス接触表面の少なくとも一方の上又は上方に潤滑被膜層を備え、
前記潤滑被膜層は、
ZrO2と、
金属石鹸と、
ワックスと、
塩基性芳香族有機酸金属塩と、を含有する、
油井用金属管。
【0035】
[2]
[1]に記載の油井用金属管であって、
前記潤滑被膜層は、
前記ZrO2と、前記金属石鹸と、前記ワックスと、前記塩基性芳香族有機酸金属塩と、潤滑性粉末との含有量の合計を100質量%とした場合、
ZrO2:0.2~8.0%、
金属石鹸:2~30%、
ワックス:2~30%、
塩基性芳香族有機酸金属塩:12.0~80.0%、及び、
潤滑性粉末:0~20.0%、を含有する、
油井用金属管。
【0036】
[3]
[2]に記載の油井用金属管であって、
前記潤滑被膜層は、
潤滑性粉末:0.1~20.0%、を含有する、
油井用金属管。
【0037】
[4]
[1]に記載の油井用金属管であって、
前記油井用金属管はさらに、
前記ピン接触表面及び前記ボックス接触表面の少なくとも一方と、前記潤滑被膜層との間に配置される、金属めっき層を備える、
油井用金属管。
【0038】
[5]
[4]に記載の油井用金属管であって、
前記油井用金属管のうち、前記金属めっき層が上又は上方に配置される前記ピン接触表面及び前記ボックス接触表面の少なくとも一方は、
ブラスト処理された面又は酸洗された面である、
油井用金属管。
【0039】
[6]
[1]に記載の油井用金属管であって、
前記油井用金属管はさらに、
前記ピン接触表面及び前記ボックス接触表面の少なくとも一方と、前記潤滑被膜層との間に配置され、前記潤滑被膜層と接触する面を有する化成処理層を備える、
油井用金属管。
【0040】
[7]
[1]に記載の油井用金属管であって、
前記ピン接触表面はさらに、
ピンシール面及びピンショルダー面を含み、
前記ボックス接触表面はさらに、
ボックスシール面及びボックスショルダー面を含む、
油井用金属管。
【0041】
[8]
[1]~[7]に記載の油井用金属管が備える前記潤滑被膜層を形成するための組成物であって、
ZrO2と、
金属石鹸と、
ワックスと、
塩基性芳香族有機酸金属塩と、を含有する、
組成物。
【0042】
[9]
[8]に記載の組成物であって、
前記組成物はさらに、
潤滑性粉末を含有する、
組成物。
【0043】
[10]
[8]に記載の組成物であって、
前記組成物はさらに、
揮発性有機溶剤を含有する、
組成物。
【0044】
以下、本実施形態による油井用金属管について詳述する。
【0045】
[油井用金属管の構成]
初めに、本実施形態の油井用金属管の構成について説明する。油井用金属管は、周知の構成を有する。油井用金属管は、T&C型の油井用金属管と、インテグラル型の油井用金属管とがある。以下、各型の油井用金属管について詳述する。
【0046】
[油井用金属管がT&C型である場合]
図4は、本実施形態による油井用金属管1の一例を示す構成図である。
図4は、いわゆるT&C型(Threaded and Coupled)の油井用金属管1の構成図である。
図4を参照して、油井用金属管1は、管本体10を備える。
【0047】
管本体10は、管軸方向に延びている。管本体10の管軸方向に垂直な断面は円形状である。管本体10は、第1端部10Aと、第2端部10Bとを含む。第1端部10Aは、第2端部10Bの反対側の端部である。
図4に示すT&C型の油井用金属管1では、管本体10は、ピン管体11と、カップリング12とを備える。カップリング12は、ピン管体11の一端に取り付けられている。より具体的には、カップリング12は、ピン管体11の一端にねじにより締結されている。
【0048】
図5は、
図4に示す油井用金属管1の第2端部10Bの管軸方向に平行な断面図(縦断面図)である。
図4及び
図5を参照して、管本体10は、ピン40と、ボックス50とを含む。ピン40は、管本体10の第1端部10Aに形成されている。ボックス50は、管本体10の第2端部10Bに形成されている。ピン40は、締結時において、他の油井用金属管1(図示せず)のボックス50に挿入されて、他の油井用金属管1のボックス50とねじにより締結される。締結時において、ボックス50には、他の油井用金属管1のピン40が挿入されて、他の油井用金属管1のピン40とねじにより締結される。
【0049】
[ピン40の構成について]
図6は、ピン40の一部の、管軸方向に平行な断面図(縦断面図)である。
図6中の破線部分は、他の油井用金属管1と締結する場合の、他の油井用金属管1のボックス50の構成を示す。
図6を参照して、ピン40は、管本体10の第1端部10Aの外周面に、ピン接触表面400を備える。ピン接触表面400は、他の油井用金属管1との締結時において、他の油井用金属管1のボックス50にねじ込まれ、ボックス50のボックス接触表面500(後述)と接触する。
【0050】
ピン接触表面400は、第1端部10Aの外周面に形成された雄ねじ部41を少なくとも含む。ピン接触表面400はさらに、ピンシール面42と、ピンショルダー面43とを含んでもよい。
図6では、ピンショルダー面43は第1端部10Aの先端面に配置され、ピンシール面42は、第1端部10Aの外周面のうち、雄ねじ部41よりも第1端部10Aの先端側に配置されている。つまり、ピンシール面42は、雄ねじ部41とピンショルダー面43との間に配置されている。ピンシール面42はテーパ状に設けられている。具体的には、ピンシール面42では、第1端部10Aの長手方向(管軸方向)において、雄ねじ部41からピンショルダー面43に向かうにしたがって、外径が徐々に小さくなっている。
【0051】
他の油井用金属管1との締結時において、ピンシール面42は、他の油井用金属管1のボックス50のボックスシール面52(後述)と接触する。より具体的には、締結時において、ピン40が他の油井用金属管1のボックス50に挿入されることにより、ピンシール面42がボックスシール面52と接触する。そして、ピン40が他の油井用金属管1のボックス50にさらにねじ込まれることにより、ピンシール面42は、ボックスシール面52と密着する。これにより、締結時において、ピンシール面42は、ボックスシール面52と密着してメタル-メタル接触に基づくシールを形成する。そのため、互いに締結された油井用金属管1において、気密性を高めることができる。
【0052】
図6では、ピンショルダー面43は、第1端部10Aの先端面に配置されている。つまり、
図6に示されるピン40は、管本体10の中央から第1端部10Aに向かって順に、雄ねじ部41、ピンシール面42、ピンショルダー面43の順に配置されている。他の油井用金属管1との締結時において、ピンショルダー面43は、他の油井用金属管1のボックス50のボックスショルダー面53(後述)と対向し、接触する。より具体的には、締結時において、ピン40が他の油井用金属管1のボックス50に挿入されることにより、ピンショルダー面43がボックスショルダー面53と接触する。これにより、締結時において、高いトルクを得ることができる。また、ピン40とボックス50との締結状態での位置関係を安定させることができる。
【0053】
なお、ピン40のピン接触表面400は、少なくとも雄ねじ部41を含んでいる。つまり、ピン接触表面400は、雄ねじ部41を含み、ピンシール面42及びピンショルダー面43を含んでいなくてもよい。ピン接触表面400は、雄ねじ部41とピンショルダー面43とを含み、ピンシール面42を含んでいなくてもよい。ピン接触表面400は、雄ねじ部41とピンシール面42とを含み、ピンショルダー面43を含んでいなくてもよい。
【0054】
[ボックス50の構成について]
図7は、ボックス50の一部の、管軸方向に平行な断面図(縦断面図)である。
図7中の破線部分は、他の油井用金属管1と締結する場合の、他の油井用金属管1のピン40の構成を示す。
図7を参照して、ボックス50は、管本体10の第2端部10Bの内周面に、ボックス接触表面500を備える。ボックス接触表面500は、他の油井用金属管1との締結時において、他の油井用金属管1のピン40がねじ込まれ、ピン40のピン接触表面400と接触する。
【0055】
ボックス接触表面500は、第2端部10Bの内周面に形成された雌ねじ部51を少なくとも含む。締結時において、雌ねじ部51は、他の油井用金属管1のピン40の雄ねじ部41と噛み合う。
【0056】
ボックス接触表面500はさらに、ボックスシール面52と、ボックスショルダー面53とを含んでもよい。
図7では、ボックスシール面52は、第2端部10Bの内周面のうち、雌ねじ部51よりも管本体10側に配置されている。つまり、ボックスシール面52は、雌ねじ部51とボックスショルダー面53との間に配置されている。ボックスシール面52はテーパ状に設けられている。具体的には、ボックスシール面52では、第2端部10Bの長手方向(管軸方向)において、雌ねじ部51からボックスショルダー面53に向かうにしたがって、内径が徐々に小さくなっている。
【0057】
他の油井用金属管1との締結時において、ボックスシール面52は、他の油井用金属管1のピン40のピンシール面42と接触する。より具体的には、締結時において、ボックス50に他の油井用金属管1のピン40がねじ込まれることにより、ボックスシール面52がピンシール面42と接触し、さらにねじ込まれることにより、ボックスシール面52がピンシール面42と密着する。これにより、締結時において、ボックスシール面52は、ピンシール面42と密着してメタル-メタル接触に基づくシールを形成する。そのため、互いに締結された油井用金属管1において、気密性を高めることができる。
【0058】
ボックスショルダー面53は、ボックスシール面52よりも管本体10側に配置されている。つまり、ボックス50では、管本体10の中央から第2端部10Bの先端に向かって順に、ボックスショルダー面53、ボックスシール面52、雌ねじ部51、の順に配置されている。他の油井用金属管1との締結時において、ボックスショルダー面53は、他の油井用金属管1のピン40のピンショルダー面43と対向し、接触する。より具体的には、締結時において、ボックス50に他の油井用金属管1のピン40が挿入されることにより、ボックスショルダー面53がピンショルダー面43と接触する。これにより、締結時において、高いトルクを得ることができる。また、ピン40とボックス50との締結状態での位置関係を安定させることができる。
【0059】
ボックス接触表面500は、少なくとも雌ねじ部51を含む。締結時において、ボックス50のボックス接触表面500の雌ねじ部51は、ピン40のピン接触表面400の雄ねじ部41に対応し、雄ねじ部41と接触する。ボックスシール面52は、ピンシール面42と対応し、ピンシール面42と接触する。ボックスショルダー面53は、ピンショルダー面43と対応し、ピンショルダー面43と接触する。
【0060】
ピン接触表面400が雄ねじ部41を含み、ピンシール面42及びピンショルダー面43を含まない場合、ボックス接触表面500は雌ねじ部51を含み、ボックスシール面52及びボックスショルダー面53を含まない。ピン接触表面400が雄ねじ部41とピンショルダー面43とを含み、ピンシール面42を含まない場合、ボックス接触表面500は、雌ねじ部51とボックスショルダー面53とを含み、ボックスシール面52を含まない。ピン接触表面400が雄ねじ部41とピンシール面42とを含み、ピンショルダー面43を含まない場合、ボックス接触表面500は、雌ねじ部51とボックスシール面52とを含み、ボックスショルダー面53を含まない。
【0061】
ピン接触表面400は、複数の雄ねじ部41を含んでもよく、複数のピンシール面42を含んでもよく、複数のピンショルダー面43を含んでもよい。たとえば、ピン40のピン接触表面400において、第1端部10Aの先端から管本体10の中央に向かって、ピンショルダー面43、ピンシール面42、雄ねじ部41、ピンシール面42、ピンショルダー面43、ピンシール面42、雄ねじ部41の順で配置されてもよい。この場合、ボックス50のボックス接触表面500において、第2端部10Bの先端から管本体10の中央に向かって、雌ねじ部51、ボックスシール面52、ボックスショルダー面53、ボックスシール面52、雌ねじ部51、ボックスシール面52、ボックスショルダー面53の順に配置される。
【0062】
図6及び
図7では、ピン40が、雄ねじ部41、ピンシール面42、及び、ピンショルダー面43を含み、ボックス50が、雌ねじ部51、ボックスシール面52、及び、ボックスショルダー面53を含む、いわゆる、プレミアムジョイントを図示している。しかしながら、上述のとおり、ピン40は、雄ねじ部41を含み、ピンシール面42及びピンショルダー面43を含んでいなくてもよい。この場合、ボックス50は、雌ねじ部51を含み、ボックスシール面52及びボックスショルダー面53を含んでいない。
図8は、油井用金属管1の第2端部10Bの管軸方向に平行な断面図(縦断面図)のうち、
図5と異なる一例の縦断面図である。
図8は、ピン40が雄ねじ部41を含み、ピンシール面42及びピンショルダー面43を含んでおらず、かつ、ボックス50が雌ねじ部51を含み、ボックスシール面52及びボックスショルダー面53を含んでいない油井用金属管1の一例を示す。
【0063】
[油井用金属管1がインテグラル型である場合]
図4、
図5及び
図8に示す油井用金属管1は、管本体10が、ピン管体11とカップリング12とを含む、いわゆる、T&C型の油井用金属管1である。しかしながら、本実施形態の油井用金属管1は、T&C型ではなく、インテグラル型であってもよい。
【0064】
図9は、油井用金属管1の第2端部10Bの管軸方向に平行な断面図(縦断面図)のうち、
図5及び
図8と異なる一例の縦断面図である。
図9は、インテグラル型の油井用金属管1の縦断面図である。
図9を参照して、インテグラル型の油井用金属管1において、管本体10は、第1端部10Aと、第2端部10Bとを含む。第1端部10Aは、第2端部10Bと反対側に配置されている。上述のとおり、T&C型の油井用金属管1では、管本体10は、ピン管体11と、カップリング12とを備える。つまり、T&C型の油井用金属管1では、管本体10は、2つの別個の部材(ピン管体11及びカップリング12)を締結して構成されている。これに対して、インテグラル型の油井用金属管1では、管本体10は一体的に形成されている。
【0065】
ピン40は、管本体10の第1端部10Aに形成されている。締結時において、ピン40は、他のインテグラル型の油井用金属管1のボックス50に挿入されてねじ込まれ、他のインテグラル型の油井用金属管1のボックス50と締結される。ボックス50は、管本体10の第2端部10Bに形成されている。締結時において、ボックス50には、他のインテグラル型の油井用金属管1のピン40が挿入されてねじ込まれ、他のインテグラル型の油井用金属管1のピン40と締結される。
【0066】
インテグラル型の油井用金属管1のピン40の構成は、
図6に示すT&C型の油井用金属管1のピン40の構成と同じである。同様に、インテグラル型の油井用金属管1のボックス50の構成は、
図7に示すT&C型の油井用金属管1のボックス50の構成と同じである。なお、
図6では、ピン40において、第1端部10Aの先端から管本体10の中央に向かって、ピンショルダー面43、ピンシール面42、雄ねじ部41の順で配置されている。そのため、ボックス50において、第2端部10Bの先端から管本体10の中央に向かって、雌ねじ部51、ボックスシール面52、ボックスショルダー面53の順に配置されている。しかしながら、T&C型の油井用金属管1のピン40のピン接触表面400と同様に、インテグラル型の油井用金属管1のピン40のピン接触表面400は、少なくとも雄ねじ部41を含んでいればよい。また、T&C型の油井用金属管1のボックス50のボックス接触表面500と同様に、インテグラル型の油井用金属管1のボックス50のボックス接触表面500は、少なくとも雌ねじ部51を含んでいればよい。
【0067】
要するに、本実施形態の油井用金属管1は、T&C型であってもよく、インテグラル型であってもよい。
【0068】
[管本体の化学組成]
本実施形態による油井用金属管1の管本体10の化学組成は、特に限定されない。すなわち、本実施形態において、油井用金属管1の管本体10の鋼種は特に限定されない。管本体10はたとえば、炭素鋼、ステンレス鋼及び合金等によって形成されていてもよい。つまり、管本体10とは、Fe基合金からなる鋼管であってもよく、Ni基合金管に代表される合金管であってもよい。ここで、鋼管はたとえば、低合金鋼管、マルテンサイト系ステンレス鋼管、フェライト系ステンレス鋼管、オーステナイト系ステンレス鋼管、及び、二相ステンレス鋼管等である。合金管はたとえば、Ni基合金管、及び、NiCrFe合金管等である。
【0069】
合金の中でも、Ni基合金及びCr、Ni及びMo等の合金元素を含んだ二相ステンレス鋼等のいわゆる高合金は、耐食性が高い。そのため、これらの高合金を管本体10として使用すれば、硫化水素や二酸化炭素等を含有する腐食環境において、優れた耐食性が得られる。なお、管本体10がステンレス鋼管である場合、管本体10が低合金鋼管である場合と比較して、耐焼付き性が低下しやすい。しかしながら、本実施形態による油井用金属管1は、接触表面400,500の少なくとも一方の上又は上方に、後述の潤滑被膜層が形成される。その結果、本実施形態による油井用金属管1は、管本体10がステンレス鋼管であっても、優れた耐焼付き性を示す。
【0070】
[潤滑被膜層100]
本実施形態による油井用金属管1は、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の少なくとも一方の上又は上方に潤滑被膜層を備える。ここで、接触表面400,500の少なくとも一方の上に潤滑被膜層を備えるとは、接触表面400,500の少なくとも一方の上に、直接潤滑被膜層が形成されていることを意味する。接触表面400,500の少なくとも一方の上方に潤滑被膜層を備えるとは、接触表面400,500の少なくとも一方の上に、何らかの層が形成され、その上に潤滑被膜層が形成されていることを意味する。すなわち、潤滑被膜層と接触表面400,500との間には、その他の層が形成されていてもよく、その他の層が形成されなくてもよい。
【0071】
具体的に、
図10、
図12、及び、
図14は、ピン40の近傍の一部の管軸方向に平行な断面図(縦断面図)である。さらに、
図11及び
図13は、ボックス50の近傍の一部の管軸方向に平行な断面図(縦断面図)である。
図10を参照して、潤滑被膜層100は、ピン接触表面400の上に形成されていてもよい。
図11を参照して、潤滑被膜層100は、ボックス接触表面500の上に形成されていてもよい。
図12及び
図14を参照して、潤滑被膜層100は、ピン接触表面400の上方に形成されていてもよい。さらに、
図13を参照して、潤滑被膜層100は、ボックス接触表面500の上方に形成されていてもよい。
【0072】
潤滑被膜層100は、ZrO2と、金属石鹸と、ワックスと、塩基性芳香族有機酸金属塩とを含有する。潤滑被膜層100はさらに、潤滑性粉末を含有してもよい。すなわち、潤滑被膜層100中において、潤滑性粉末は任意の成分である。以下、各成分について説明する。なお、各成分に関する「%」は、特に断りがない限り、潤滑被膜層100中のZrO2と、金属石鹸と、ワックスと、塩基性芳香族有機酸金属塩と、潤滑性粉末との含有量の合計を100質量%とした場合の、各成分の含有量(質量%)を意味する。
【0073】
[ZrO2]
ZrO2は、常温で白色の固体粒子であり、融点が2700℃程度である。ZrO2は一般的に、耐熱性セラミックス材料として用いられる。上述のとおり、潤滑被膜層100にZrO2が少しでも含有されれば、油井用金属管1の耐焼付き性と、ハイトルク性能とを、コンパウンドグリスと同程度以上に高めることができる。
【0074】
すなわち、潤滑被膜層100中のZrO2含有量は0%超である。上記ZrO2の効果を安定して得るための、潤滑被膜層100中のZrO2含有量の好ましい下限は0.2%である。潤滑被膜層100中のZrO2含有量のさらに好ましい下限は0.5%であり、さらに好ましくは1.0%であり、さらに好ましくは2.0%であり、さらに好ましくは3.0%である。ZrO2の含有量が0.5%以上であれば、油井用金属管1のハイトルク性能が顕著に高まる。なお、潤滑被膜層100中のZrO2含有量の上限は、特に限定されない。しかしながら、潤滑被膜層100中のZrO2含有量が高すぎれば、潤滑被膜層100が形成されにくくなる。したがって、潤滑被膜層100を安定して形成するための、ZrO2含有量の上限は10.0%未満である。潤滑被膜層100中のZrO2含有量のさらに好ましい上限は8.0%であり、さらに好ましくは7.0%であり、さらに好ましくは6.5%である。
【0075】
本実施形態において、ZrO2のモース硬度は6~9程度である。モース硬度が高すぎれば、油井用金属管1の耐焼付き性が十分に高められない可能性がある。一方、モース硬度が低すぎれば、油井用金属管1のハイトルク性能が十分に高められない可能性がある。すなわち、ZrO2は適度なモース硬度を有しているため、油井用金属管1の耐焼付き性及びハイトルク性能を高められる可能性がある。一方、たとえば、金属酸化物のうちTiO2は、ZrO2よりもモース硬度が低い。そのため、金属酸化物のうちTiO2は、ZrO2よりもハイトルク性能を高める効果が得られにくいと予想される。このように、金属酸化物は、その種類によって性質が大きく異なるため、容易に置き換えることはできない。
【0076】
ZrO2の好ましいモース硬度は6~8.5であり、さらに好ましくは6~7であり、さらに好ましくは6.5~7である。本実施形態において、ZrO2のモース硬度は、次の方法で測定する。試料物質(ZrO2)で標準物質をこすり、ひっかき傷の有無を確認する。標準物質は、一般的にモース硬度測定の標準物質として使用されている鉱物を用いる。モース硬度1の滑石(Mg3(Si4O10)(OH)2)から、モース硬度10のダイヤモンド(金剛石)を用いて10段階評価でモース硬度を測定する。ZrO2は、モース硬度6の正長石(KAlSi3O8)と、モース硬度9のコランダム(Al2O3)との間の硬度を有する。好ましくは、ZrO2は、モース硬度6の正長石と、モース硬度7の石英(SiO2)との間の硬度を有する。
【0077】
なお、上述のZrO2のモース硬度の測定方法は、粉末状態に加工される前のZrO2に対して、ひっかき傷を形成する。一方、ZrO2粉末にひっかき傷を形成するのは困難であるため、ZrO2粉末のモース硬度を直接測定するのは困難である。そこで、本実施形態では、ZrO2粉末からモース硬度を求める場合、ビッカース硬度から推算して求める。具体的に、まず、ZrO2粉末を樹脂に埋込み固定して、表面を研磨したサンプルを作製する。作製されたサンプル表面に対して、ダイヤモンド製三角すい状の圧子を押し込み、試験力と負荷速度を制御しながら、負荷-除荷試験を実施する。負荷-除荷試験から得られた試験力と押込み深さ曲線を用いて、ビッカース硬度を求めることができる。負荷-除荷試験に用いるビッカース試験機として、たとえば、株式会社島津製作所製のダイナミック超微小硬度計(DUH-211S)を用いることができる。
【0078】
以上の方法で得られた、ZrO2粉末のビッカースが600~780Hvの場合、モース硬度は6~7であり、ビッカース硬度が780~1250Hvの場合、モース硬度は7~8であり、ビッカース硬度が1250~1900Hvの場合、モース硬度は8~9であると推算できる。
【0079】
本実施形態において、ZrO2の好ましい粒子径は20~2000nmである。ZrO2の粒子径が20~2000nmであれば、潤滑被膜層100中のZrO2の分散状態が向上し、安定して油井用金属管1の耐焼付き性及びハイトルク性能を高めることができる。ZrO2の粒子径のさらに好ましい下限は100nmであり、さらに好ましくは300nmであり、さらに好ましくは500nmであり、さらに好ましくは1000nmである。ZrO2の粒子径のさらに好ましい上限は1800nmであり、さらに好ましくは1600nmであり、さらに好ましくは1500nmである。
【0080】
本実施形態において、ZrO2の粒子径は、次の方法で測定する。試料物質(ZrO2)に対するレーザー回折・散乱法による粒度分布測定を実施する。粒度分布測定は、周知の方法で実施することができる。粒度分布測定装置として、たとえば、SHIMADZU製SALDシリーズを用いて得られる、有効径分布の算術平均値を、本実施形態におけるZrO2の粒子径とする。
【0081】
なお、上述のとおり、ZrO2が潤滑被膜層100に少しでも含有されれば、油井用金属管1のハイトルク性能が高まる。上述のとおり、ハイトルク性能とは、接触表面同士の面圧が高まっても、トルクを安定的に高められることを意味する。すなわち、ZrO2は、高面圧時に摩擦を高める効果を有する可能性がある。したがって、ZrO2は、その表面が被膜(たとえば、Fを含有する被膜等)で覆われていないことが好ましい。
【0082】
[金属石鹸]
金属石鹸は、脂肪酸(aliphatic acid)と金属との塩である。ここで、脂肪酸とは、脂肪族の有機酸を意味する。すなわち、芳香族の有機酸は、定義上脂肪酸には含まれない。
【0083】
本実施形態において、金属石鹸の脂肪酸は、脂肪酸の混合物であってもよく、単一化合物であってもよい。脂肪酸の混合物はたとえば、牛脂、ラード、羊毛脂、パーム油、菜種油、及び、椰子油等である。単一化合物の脂肪酸はたとえば、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ラノパルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、アラキン酸、ベヘン酸、エルカ酸、リグノセリン酸、ラノセリン酸、リシノール酸、モンタン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレン酸、オクチル酸、及び、セバシン酸である。本実施形態による脂肪酸は、上述の脂肪酸の例からなる群から選択される1種以上を用いることができる。好ましくは、本実施形態による脂肪酸の炭素数は12~30である。炭素数12~30の脂肪酸はたとえば、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ラノパルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、アラキン酸、ベヘン酸、エルカ酸、リグノセリン酸、ラノセリン酸、リシノール酸、モンタン酸、リノール酸、リノレン酸、及び、リシノレン酸である。
【0084】
本実施形態において、金属石鹸の金属は、脂肪酸と塩を形成できれば、特に限定されない。金属石鹸の金属はたとえば、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛、バリウムである。本実施形態において、金属石鹸は、中性塩であってもよく、塩基性塩であってもよい。すなわち、本実施形態による金属石鹸は、上述の脂肪酸と、上述の金属との塩であれば、特に限定されない。
【0085】
本実施形態による潤滑被膜層100において、金属石鹸の含有量は特に限定されない。好ましくは、潤滑被膜層100中の金属石鹸の含有量は2~30%である。金属石鹸の含有量が2%以上であれば、油井用金属管1の耐焼付き性と防錆性とを安定して高めることができる。金属石鹸の含有量が30%以下であれば、潤滑被膜層100の密着性と強度とを安定して高めることができる。したがって、潤滑被膜層100中の金属石鹸の含有量は2~30%とするのが好ましい。潤滑被膜層100中の金属石鹸の含有量のさらに好ましい下限は5%であり、さらに好ましくは7%であり、さらに好ましくは10%である。潤滑被膜層100中の金属石鹸の含有量のさらに好ましい上限は28%であり、さらに好ましくは25%であり、さらに好ましくは20%である。
【0086】
[ワックス]
ワックスとは、常温では固体であり、加熱すると液体となる有機物の総称である。本実施形態において、ワックスは、動物性、植物性、鉱物性及び合成ワックスからなる群から選択される1種以上である。動物性のワックスはたとえば、蜜蝋、及び、鯨蝋である。植物性のワックスはたとえば、木蝋、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、及び、ライスワックスである。鉱物性のワックスはたとえば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、モンタンワックス、オゾケライト、及び、セレシンである。合成ワックスはたとえば、酸化ワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャー・トロプッシュワックス、アミドワックス、及び、硬化ひまし油(カスターワックス)である。一例として、ワックスの分子量は1000以下である。好ましくは、ワックスは、分子量150~500のパラフィンワックスである。
【0087】
すなわち、ワックスはたとえば、蜜蝋、鯨蝋、木蝋、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、酸化ワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャー・トロプッシュワックス、アミドワックス及び硬化ひまし油(カスターワックス)からなる群から選択される1種以上である。ワックスは、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス及び酸化ワックスからなる群から選択される1種以上であるのが好ましい。
【0088】
本実施形態による潤滑被膜層100において、ワックスの含有量は特に限定されない。好ましくは、潤滑被膜層100中のワックスの含有量は2~30%である。ワックスの含有量が2%以上であれば、潤滑被膜層100の摩擦を低減して、油井用金属管1の耐焼付き性を安定して高めることができる。ワックスの含有量が30%以下であれば、潤滑被膜層100の密着性と強度とを安定して高めることができる。したがって、潤滑被膜層100中のワックスの含有量は2~30%とするのが好ましい。潤滑被膜層100中のワックスの含有量のさらに好ましい下限は5%であり、さらに好ましくは7%であり、さらに好ましくは10%である。潤滑被膜層100中のワックスの含有量のさらに好ましい上限は28%であり、さらに好ましくは25%であり、さらに好ましくは20%である。
【0089】
[塩基性芳香族有機酸金属塩]
塩基性芳香族有機酸金属塩は、芳香族有機酸と金属との塩基性塩である。塩基性芳香族有機酸金属塩は、たとえば、常温でグリース状又は半固体の物質である。
【0090】
本実施形態において、芳香族有機酸はたとえば、スルホネート、フェネート、及び、サリシレートである。本実施形態において塩基性芳香族有機酸金属塩の金属は、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、及び、フランシウム)、又は、アルカリ土類金属(ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、及び、ラジウム)である。好ましくは、塩基性芳香族有機酸金属塩の金属は、ナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウム、及び、マグネシウムからなる群から選択される1種以上である。さらに好ましくは、塩基性芳香族有機酸金属塩の金属は、カルシウム、バリウム、及び、マグネシウムからなる群から選択される1種以上である。
【0091】
すなわち、塩基性芳香族有機酸金属塩はたとえば、塩基性ナトリウムスルホネート、塩基性カリウムスルホネート、塩基性マグネシウムスルホネート、塩基性カルシウムスルホネート、塩基性バリウムスルホネート、塩基性ナトリウムフェネート、塩基性カリウムフェネート、塩基性マグネシウムフェネート、塩基性カルシウムフェネート、塩基性バリウムフェネート、塩基性ナトリウムサリシレート、塩基性カリウムサリシレート、塩基性マグネシウムサリシレート、塩基性カルシウムサリシレート、及び、塩基性バリウムサリシレートからなる群から選択される1種以上である。
【0092】
塩基性芳香族有機酸金属塩は、その塩基価が高いほど、固形潤滑剤として機能する微粒子金属塩の量が高まる。そのため、塩基価が高い塩基性芳香族有機酸金属塩を用いることで、油井用金属管1の耐焼付き性がさらに高まる。また、塩基価をある程度以上に高めれば、酸成分を中和する効果が得られる。そのため、塩基価が高い塩基性芳香族有機酸金属塩を用いることでさらに、油井用金属管1の防錆力も高まる。したがって、塩基性芳香族有機酸金属塩は、塩基価(JIS K2501)(2種以上使用する場合は、量を加味した塩基価の加重平均値)が、50~500mgKOH/gであるのが好ましい。
【0093】
塩基性芳香族有機酸金属塩の塩基価が50mgKOH/g以上であれば、上記効果を十分に得られる。塩基価が500mgKOH/g以下であれば、親水性を低下でき、十分な防錆性が得られる。塩基性芳香族有機酸金属塩の塩基価のさらに好ましい下限は100mgKOH/gであり、さらに好ましくは200mgKOH/gであり、さらに好ましくは250mgKOH/gである。塩基性芳香族有機酸金属塩の塩基価のさらに好ましい上限は450mgKOH/gである。
【0094】
本実施形態による潤滑被膜層100において、塩基性芳香族有機酸金属塩の含有量は特に限定されない。上述のとおり、塩基性芳香族有機酸金属塩はグリース状又は半固体の物質であり、潤滑被膜層100の基剤としても機能する。そのため、潤滑被膜層100中の塩基性芳香族有機酸金属塩の含有量は、80.0%まで高めることができる。すなわち、本実施形態において、潤滑被膜層100中の塩基性芳香族有機酸金属塩の含有量は、12.0~80.0%である。
【0095】
本実施形態において、潤滑被膜層100中の塩基性芳香族有機酸金属塩の含有量のさらに好ましい下限は20.0%であり、さらに好ましくは30.0%であり、さらに好ましくは40.0%である。潤滑被膜層100中の塩基性芳香族有機酸金属塩の含有量のさらに好ましい上限は75.0%であり、さらに好ましくは71.0%であり、さらに好ましくは70.0%である。
【0096】
[潤滑性粉末]
本実施形態による潤滑被膜層100は、ZrO2と、金属石鹸と、ワックスと、塩基性芳香族有機酸金属塩と、に加えてさらに、潤滑性粉末を含有してもよい。すなわち、潤滑性粉末は任意の成分であり、潤滑被膜層100に含有されなくてもよい。本明細書において潤滑性粉末とは、潤滑性を有する固体粉末の総称である。本実施形態では、潤滑性粉末として、潤滑性を有する周知の固体粉末を用いることができる。
【0097】
具体的に、一例として潤滑性粉末は、以下の4種類に大別される。
(1)滑り易い特定の結晶構造、たとえば、六方晶層状結晶構造を有することにより潤滑性を示すもの(たとえば、黒鉛、土状黒鉛、酸化亜鉛、窒化硼素及びタルク)、
(2)結晶構造に加えて反応性元素を有することにより潤滑性を示すもの(たとえば、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、フッ化黒鉛、硫化スズ、硫化ビスマス及び有機モリブデン)、
(3)化学反応性により潤滑性を示すもの(たとえば、チオ硫酸塩化合物)、
(4)摩擦応力下での塑性又は粘塑性挙動により潤滑性を示すもの(たとえば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアミド、銅(Cu)、及びメラミンシアヌレート(MCA))
【0098】
好ましくは、潤滑性粉末は上記(1)~(4)からなる群から選ばれる1種以上を含有する。つまり、好ましくは、潤滑性粉末は、黒鉛、土状黒鉛、酸化亜鉛、窒化硼素、タルク、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、フッ化黒鉛、硫化スズ、硫化ビスマス、有機モリブデン、チオ硫酸塩化合物、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアミド、銅(Cu)及びメラミンシアヌレート(MCA)からなる群から選択される1種又は2種以上である。より好ましくは、潤滑性粉末は、二硫化モリブデン、黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びフッ化黒鉛からなる群から選ばれる1種以上である。さらに好ましくは、潤滑性粉末は、黒鉛及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる群から選択される1種又は2種である。
【0099】
本実施形態において、潤滑被膜層100中の潤滑性粉末の含有量は0~20.0%である。潤滑被膜層100中の潤滑性粉末の含有量のさらに好ましい下限は0.5%であり、さらに好ましくは3.0%であり、さらに好ましくは5.0%である。潤滑被膜層100中の潤滑性粉末の含有量のさらに好ましい上限は18.0%であり、さらに好ましくは15.0%であり、さらに好ましくは12.0%である。
【0100】
[その他の成分]
潤滑被膜層100は、ZrO2と、金属石鹸と、ワックスと、塩基性芳香族有機酸金属塩と、潤滑性粉末との他に、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分とは、たとえば、周知の防錆添加剤、防腐剤、着色顔料、及び、不純物である。
【0101】
潤滑被膜層100に防錆添加剤が含有されれば、油井用金属管1の防錆性が高まる。油井用金属管1の防錆性が高まれば、長期間の保管による油井用金属管1の発錆を抑制できる。防錆添加剤はたとえば、トリポリリン酸アルミニウム、亜リン酸アルミニウム、及び、カルシウムイオン交換シリカである。防錆添加剤として、他に市販の反応撥水剤を用いることもできる。
【0102】
潤滑被膜層100に防腐剤が含有されれば、油井用金属管1の耐食性が高まる。油井用金属管1の耐食性が高まれば、長期間の保管による油井用金属管1の腐食を抑制できる。また、不純物として、潤滑被膜層100には、後述の組成物に含有される揮発性有機溶剤を微量に含有する場合がある。本実施形態では、潤滑被膜層100中において、その他の成分の合計含有量は0~10%である。
【0103】
[潤滑被膜層100を形成するための組成物]
本実施形態において、潤滑被膜層100を形成するための組成物は、ZrO2と、金属石鹸と、ワックスと、塩基性芳香族有機酸金属塩を含有する。本実施形態による組成物はさらに、潤滑性粉末を含有してもよい。好ましくは、ZrO2と、金属石鹸と、ワックスと、塩基性芳香族有機酸金属塩と、潤滑性粉末との含有量の合計を100質量%とした場合、組成物は、ZrO2:0.2~8.0%、金属石鹸:2~30%、ワックス:2~30%、塩基性芳香族有機酸金属塩:12.0~80.0%、及び、潤滑性粉末:0~20.0%、を含有する。要するに、組成物のうちZrO2と、金属石鹸と、ワックスと、塩基性芳香族有機酸金属塩と、潤滑性粉末との含有量は、潤滑被膜層100と同じである。
【0104】
本実施形態による組成物はさらに、揮発性有機溶剤を含有してもよい。常温で塗布を行う場合、潤滑被膜層100の成分の混合物に揮発性有機溶剤を添加して、組成物を調製する。揮発性有機溶剤は、組成物に含有される物質とは異なり、潤滑被膜層100を形成する過程で、そのほとんどが蒸発する。しかしながら、本実施形態による潤滑被膜層100には、揮発性有機溶剤が不純物として残存する場合もある。なお、本明細書において「揮発性」とは、室温~150℃までの温度において、蒸発傾向を示すことを意味する。
【0105】
本実施形態において、揮発性有機溶剤の種類は特に制限されない。揮発性有機溶剤はたとえば、石油系溶剤である。石油系溶剤とはたとえば、JIS K2201(2006)に規定されている工業用ガソリンに相当するソルベント、ミネラルスピリット、芳香族石油ナフタ、キシレン、及び、セロソルブからなる群から選択される1種以上である。揮発性有機溶剤は、引火点が30℃以上で、初留温度が150℃以上、終点が210℃以下であるものが好ましい。この場合、揮発性有機溶剤の取り扱いが比較的容易で、しかも蒸発が速く、乾燥時間が短くてすむ。
【0106】
本実施形態において、揮発性有機溶剤の含有量は、組成物の塗布方法に応じて組成物を適正な粘度に調整できるよう適宜調整すればよい。揮発性有機溶剤の含有量はたとえば、不揮発性成分の合計量を100gとした場合、20~50gである。
【0107】
[潤滑被膜層100の膜厚]
本実施形態において、潤滑被膜層100の膜厚は特に限定されない。好ましくは、潤滑被膜層100の膜厚は20~80μmである。潤滑被膜層100の膜厚が20μm以上であれば、潤滑被膜層100の潤滑性が安定して高まる。一方、潤滑被膜層100の膜厚が80μm以下であれば、潤滑被膜層100の密着性が安定して高まる。したがって、本実施形態において、潤滑被膜層100の膜厚は20~80μmとするのが好ましい。
【0108】
本実施形態では、潤滑被膜層100の膜厚は、次の方法で測定する。潤滑被膜層100を形成したピン接触表面400又はボックス接触表面500上に、ウェットゲージを接触させる。ウェットゲージは、厚さに対応する複数の端面を含む。ウェットゲージと潤滑被膜層100とを接触させ、ウェットゲージのいずれの端面に潤滑被膜層100が付着するか確認する。このようにして、潤滑被膜層100の膜厚を求める。測定箇所は、油井用金属管1の管周方向の12箇所(0°、30°、60°、90°、120°、150°、180°、210°、240°、270°、300°、及び、330°の12箇所)である。12箇所の測定結果の算術平均値を、潤滑被膜層100の膜厚とする。
【0109】
[潤滑被膜層100の配置]
本実施形態において潤滑被膜層100は、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の少なくとも一方の上又は上方に配置される。すなわち、本実施形態において潤滑被膜層100は、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の少なくとも一方の最表層として配置される。
【0110】
また、潤滑被膜層100は、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の少なくとも一方の上又は上方の全体に配置されてもよく、一部にのみ配置されてもよい。管本体10がピンシール面42、ボックスシール面52、ピンショルダー面43、及び、ボックスショルダー面53を有する場合、シール面42,52及びショルダー面43,53の面圧が、ねじ締め最終段階で特に高まる。したがって、潤滑被膜層100を、シール面42,52及びショルダー面43,53を有する接触表面400,500の少なくとも一方の上又は上方に部分的に配置する場合、シール面42,52及びショルダー面43,53のうち、少なくとも1か所の上又は上方に、潤滑被膜層100が配置されてもよい。一方、潤滑被膜層100を接触表面400,500の少なくとも一方の全体の上又は上方に配置すれば、油井用金属管1の生産効率が高まる。
【0111】
潤滑被膜層100は、単層でもよく、複層でもよい。複層とは、潤滑被膜層100が接触表面400又は500の上又は上方に、2層以上積層している状態をいう。具体的に、組成物の塗布と乾燥とを繰り返せば、潤滑被膜層100を2層以上形成できる。潤滑被膜層100はさらに、接触表面400,500の少なくとも一方の上に直接配置されてもよく、接触表面400,500の少なくとも一方の上方に配置されてもよい。潤滑被膜層100が接触表面400,500の少なくとも一方の上方に配置される場合、接触表面400,500の少なくとも一方の上に、後述するその他の層(金属めっき層及び/又は化成処理層)が形成され、その上に潤滑被膜層100が配置されてもよい。
【0112】
[その他の層]
本実施形態による油井用金属管1は、接触表面400,500の上又は上方に、潤滑被膜層100以外の層を形成されてもよい。その他の層は、たとえば、金属めっき層及び化成処理層である。
【0113】
[金属めっき層110]
本実施形態による油井用金属管1はさらに、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の少なくとも一方と潤滑被膜層100との間に、金属めっき層を備えてもよい。具体的に、
図12を参照して、金属めっき層110は、ピン接触表面400の上であって、潤滑被膜層100の下層として形成されていてもよい。同様に、
図13を参照して、金属めっき層110は、ボックス接触表面500の上であって、潤滑被膜層100の下層として形成されていてもよい。このように、潤滑被膜層100と金属めっき層110とが両方形成される場合、金属めっき層110は、接触表面400,500の少なくとも一方と、潤滑被膜層100との間に形成される。
【0114】
本実施形態において、金属めっき層110の種類は特に限定されない。また、金属めっき層110は、単層めっき層で構成されていてもよく、多層めっき層(2層めっき層や3層めっき層)で構成されていてもよい。金属めっき層110が単層めっき層の場合、金属めっき層110はたとえば、Cu、Sn、又は、Ni金属による単層めっき層、Zn-Ni合金、Cu-Sn合金、又は、Cu-Sn-Zn合金の単層めっき層である。金属めっき層110が多層めっき層の場合、金属めっき層110はたとえば、Cu層とSn層との2層めっき層、Ni層、Cu層及びSn層による3層めっき層、上記単層めっき層を組み合わせた多層めっき層である。
【0115】
好ましくは、金属めっき層の硬度は、マイクロビッカースで200以上である。金属めっき層の硬度が200以上であれば、油井用金属管1の耐食性がさらに安定して高まる。本実施形態において、金属めっき層の硬度は、次のとおりに測定する。油井用金属管1の接触表面400,500に形成された金属めっき層110において、任意の領域を5箇所特定する。特定された各領域について、JIS Z2244(2009)に準拠してビッカース硬さ(HV)を測定する。試験条件はたとえば、試験温度を常温(25℃)とし、試験力を2.94N(300gf)とする。得られた値の算術平均値を、金属めっき層110の硬度と定義する。
【0116】
本実施形態において、金属めっき層110の厚さは特に限定されない。ただし、金属めっき層110として多層めっき層を形成する場合、最下層のめっき層は、膜厚1μm未満とすることが好ましい。また、金属めっき層110の厚さ(多層めっき層の場合は合計の厚さ)は、5~15μmとすることが好ましい。
【0117】
本実施形態による金属めっき層110の厚さは、次のとおりに測定する。金属めっき層110を形成した接触表面400,500上に、ISO(International Organization for Standardization)21968(2005)に準拠する渦電流位相式の膜厚測定器のプローブを接触させる。プローブの入力側の高周波磁界と、それにより励起された金属めっき層上の渦電流との位相差を測定する。この位相差を金属めっき層110の厚さに変換する。
【0118】
[化成処理層120]
本実施形態による油井用金属管1はさらに、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の少なくとも一方と潤滑被膜層100との間に配置され、潤滑被膜層100と接触する面を有する化成処理層を備えてもよい。具体的に、
図14を参照して、化成処理層120は、ピン接触表面400の上に形成された金属めっき層110の上であって、潤滑被膜層100の下層として形成されていてもよい。また、図示されないが、化成処理層120は、ボックス接触表面500の上に形成された金属めっき層110の上であって、潤滑被膜層100の下層として形成されていてもよい。同様に、図示されないが、化成処理層120は、ピン接触表面400の上であって、潤滑被膜層100の下層として形成されていてもよい。同様に、図示されないが、化成処理層120は、ボックス接触表面500の上であって、潤滑被膜層100の下層として形成されていてもよい。
【0119】
本実施形態において、化成処理層120の種類は特に限定されない。化成処理層120はたとえば、リン酸塩化成処理層、シュウ酸塩化成処理層、ホウ酸塩化成処理層である。ここで、化成処理層120は多孔質である。そのため、化成処理層120の上に潤滑被膜層100が形成されれば、いわゆるアンカー効果により、潤滑被膜層100の密着性がさらに高まる。また、本実施形態において、化成処理層120の厚さは特に限定されない。本実施形態による化成処理層120の好ましい厚さは5~40μmである。
【0120】
[ブラスト処理されている表面、又は、酸洗されている表面]
本実施形態による油井用金属管1は、接触表面400,500が、ブラスト処理されている又は酸洗されていてもよい。つまり、油井用金属管1は、潤滑被膜層100が上又は上方に形成される面が、ブラスト処理又は酸洗された面であってもよい。すなわち、油井用金属管1の管本体10のうち、接触表面400,500がブラスト処理又は酸洗処理され、その上に潤滑被膜層100が形成されてもよい。また、油井用金属管1が金属めっき層110を備える場合、油井用金属管1は、接触表面400,500がブラスト処理又は酸洗処理され、その上に金属めっき層110を備え、当該金属めっき層110の上又は上方に潤滑被膜層100を備えてもよい。また、油井用金属管1が金属めっき層110を備える場合さらに、油井用金属管1は、ブラスト処理又は酸洗された金属めっき層110を備え、その上に潤滑被膜層100を備えてもよい。
【0121】
ブラスト処理されている表面、又は、酸洗されている表面は、表面粗さが高まる。具体的に、潤滑被膜層100が接触する表面の好ましい表面粗さは、算術平均粗さRaが1~8μm(基準長さ2.5mm)である。潤滑被膜層100と接触する表面の算術平均粗さRaが1μm以上であれば、潤滑被膜層100の密着性がさらに高まる。潤滑被膜層100と接触する表面の算術平均粗さRaが8μm以下であれば、潤滑被膜層100が剥離しにくくなる。
【0122】
本実施形態において、算術平均粗さRaは、JIS B0601(2001)に基づいて、測定される。たとえば、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製 走査型プローブ顕微鏡 SPI3800Nを用いて測定することができる。測定条件はたとえば、取得データ数の単位としてサンプルの2μm×2μmの領域で、取得データ数1024×1024である。基準長さは2.5mmとする。算術平均粗さRaが大きいほど、潤滑被膜層100との接触面積が高まる。このため、アンカー効果により潤滑被膜層100との密着性が高まる。潤滑被膜層100の密着性が高まれば、油井用金属管1の耐焼付き性がさらに高まる。
【0123】
[製造方法]
以下、本実施形態による油井用金属管1の製造方法を説明する。
【0124】
本実施形態による油井用金属管1の製造方法は、準備工程と、潤滑被膜層形成工程とを備える。
【0125】
[準備工程]
準備工程では、雄ねじ部41を含むピン接触表面400を含むピン40と、雌ねじ部51を含むボックス接触表面500を含むボックス50とを含む管本体10を備える油井用金属管1を準備する。上述のとおり、本実施形態による油井用金属管1は、周知の構成を有する。すなわち準備工程では、周知の構成を有する油井用金属管1を準備すればよい。
【0126】
[潤滑被膜層形成工程]
潤滑被膜層形成工程では、まず、上述の成分を含有する組成物を準備する。潤滑被膜層100を形成するための組成物は、ZrO2と、金属石鹸と、ワックスと、塩基性芳香族有機酸金属塩を含有する。当該組成物を、溶剤添加及び/又は加熱により液状化し、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の少なくとも一方の上又は上方に塗布する。必要に応じて、塗布された組成物を乾燥して、潤滑被膜層100を形成する。
【0127】
具体的に、まず、上述の成分を含有する組成物を準備する。無溶剤型の組成物はたとえば、上述の組成物の構成成分の混合物を加熱して溶融状態として混練することにより製造できる。全ての成分を粉末状として混合した粉末混合物を組成物としてもよい。溶剤型の組成物はたとえば、揮発性有機溶剤中に、ZrO2と、金属石鹸と、ワックスと、塩基性芳香族有機酸金属塩とを溶解又は分散させて混合することにより製造できる。
【0128】
準備された組成物を、接触表面400,500の少なくともいずれか一方の上又は上方に塗布する。具体的に、無溶剤型の組成物の場合、ホットメルト法を用いて組成物を塗布できる。ホットメルト法では、組成物を加熱して溶融させ、低粘度の流動状態にする。さらに、流動状態の組成物を、温度保持機能を有するスプレーガンから噴霧する。この場合、組成物は、適当な撹拌装置を備えたタンク内で加熱して溶融され、コンプレッサにより計量ポンプを経てスプレーガンの噴霧ヘッド(所定温度に保持)に供給されて、噴霧される。加熱温度はたとえば、90~130℃である。タンク内と噴霧ヘッドの保持温度は組成物中の融点に応じて調整される。塗布方法は、スプレー塗布に替えて、刷毛塗り及び浸漬等でもよい。組成物の加熱温度は、組成物の融点より10~50℃高い温度とすることが好ましい。組成物を塗布する際、組成物が塗布される表面(接触表面400,500、金属めっき層110の表面、又は、化成処理層120の表面)は、基剤の融点より高い温度に加熱しておくことが好ましい。
【0129】
溶剤型の組成物の場合、溶剤を添加して溶液状態となった組成物を、スプレー塗布等で接触表面400,500の少なくとも一方の上又は上方に塗布する。この場合、組成物を常温及び常圧の環境下でスプレー塗布できるよう、組成物の粘度を調整する。
【0130】
無溶剤型の組成物の場合、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の少なくとも一方に塗布された組成物を冷却することにより、溶融状態の組成物が乾燥して潤滑被膜層100が形成される。組成物の冷却は、周知の方法で実施できる。冷却方法はたとえば、大気中での放冷及び空冷である。溶剤型の組成物の場合、接触表面400,500の上又は上方に塗布された組成物を乾燥させて、潤滑被膜層100が形成される。組成物の乾燥は、周知の方法で実施できる。乾燥方法はたとえば、自然乾燥、低温送風乾燥及び真空乾燥である。
【0131】
なお、上述の冷却は、窒素ガス及び炭酸ガス冷却システム等の急速冷却によって実施してもよい。急速冷却を実施する場合、接触表面の反対面から、間接的に冷却する。具体的に、ピン接触表面400の上又は上方に潤滑被膜層100を形成する場合、管本体10の内面側から冷却する。同様に、ボックス接触表面500の上又は上方に潤滑被膜層100を形成する場合、管本体10の外面側から間接的に冷却する。
【0132】
なお、潤滑被膜層100は、単層であってもよく、複層であってもよい。複層とは、潤滑被膜層100が接触表面400,500の側から、管本体10の径方向に、2層以上積層している状態を意味する。組成物の塗布と乾燥とを繰り返すことで、潤滑被膜層100を2層以上形成できる。潤滑被膜層100は、接触表面400,500の少なくとも一方の上に直接形成してもよく、後述する下地処理をした後に形成してもよい。
【0133】
以上の工程により、本実施形態による油井用金属管1が製造される。
【0134】
[その他の工程]
本実施形態による油井用金属管1の製造方法はさらに、その他の工程を備えてもよい。その他の工程はたとえば、金属めっき工程、化成処理工程、ブラスト処理工程、及び、酸洗処理工程である。以下、各工程について説明する。
【0135】
[金属めっき工程]
本実施形態による油井用金属管1の製造方法はさらに、潤滑被膜層100形成工程の前に、金属めっき工程を備えてもよい。金属めっき層110はたとえば、電気めっき処理、又は、衝撃めっき処理により形成できる。
【0136】
[電気めっき処理]
本実施形態において、電気めっき処理は、電気めっきにより、金属めっき層110を形成する処理である。上述のとおり、金属めっき層110はたとえば、Cu、Sn、又は、Ni金属による単層めっき層、Zn-Ni合金、Cu-Sn合金、又は、Cu-Sn-Zn合金の単層めっき層、Cu層とSn層との2層めっき層、Ni層、Cu層及びSn層による3層めっき層、及び、上記単層めっき層を組み合わせた多層めっき層である。
【0137】
電気めっき処理は、周知の方法で実施することができる。たとえば、合金めっきに含まれる金属元素のイオンを含むめっき浴を準備する。次に、接触表面400,500の少なくとも一方をめっき浴に浸漬する。さらに、接触表面400,500の少なくとも一方に通電して、接触表面400,500の少なくとも一方の上に金属めっき層110が形成される。めっき浴の温度及びめっき時間等の条件は、適宜設定できる。
【0138】
より具体的に、たとえば、Cu-Sn-Zn合金めっき層を形成する場合、めっき浴は銅イオン、スズイオン及び亜鉛イオンを含有する。この場合、めっき浴の組成は好ましくは、Cu:1~50g/L、Sn:1~50g/L及びZn:1~50g/Lである。電気めっきの条件はたとえば、めっき浴pH:1~10、めっき浴温度:60℃、電流密度:1~100A/dm2及び、処理時間:0.1~30分である。
【0139】
同様に、たとえば、Zn-Ni合金めっき層を形成する場合、めっき浴は亜鉛イオン及びニッケルイオンを含有する。この場合、めっき浴の組成は好ましくは、Zn:1~100g/L及びNi:1~50g/Lである。電気めっきの条件はたとえば、めっき浴pH:1~10、めっき浴温度:60℃、電流密度:1~100A/dm2及び、処理時間:0.1~30分である。
【0140】
[衝撃めっき処理]
衝撃めっき処理は、粒子と被めっき物を回転バレル内で衝突させるメカニカルプレーティングや、ブラスト装置を用いて粒子を被めっき物に衝突させる投射めっきにより実施することができる処理である。
【0141】
[化成処理工程]
本実施形態による油井用金属管1の製造方法は、潤滑被膜層形成工程の前に、化成処理工程を備えてもよい。化成処理工程では、化成処理を実施して、潤滑被膜層100の下層として、潤滑被膜層100と接触する表面を有する化成処理層120を形成する。
【0142】
本実施形態において、化成処理は周知の方法で実施できる。処理液は、一般的な化成処理液が使用できる。たとえば、リン酸イオン1~150g/L、亜鉛イオン3~70g/L、硝酸イオン1~100g/L、ニッケルイオン0~30g/Lを含有するリン酸亜鉛系化成処理液を用いることができる。又は、リン酸マンガン系化成処理液を用いることもできる。その他、形成したい化成処理層120に応じて、化成処理液を用いることができる。処理液の液温はたとえば、常温から100℃である。化成処理の処理時間は、所望の膜厚に応じて適宜設定でき、たとえば15分である。リン酸塩化成処理層を形成する場合、化成処理層の形成を促すため、リン酸塩化成処理前に、表面調整を行ってもよい。表面調整とは、コロイドチタンを含有する表面調整用水溶液に浸漬する処理を意味する。リン酸塩化成処理後、水洗又は湯洗してから、乾燥することが好ましい。
【0143】
[ブラスト処理工程]
本実施形態において、ブラスト処理はたとえば、ブラスト装置を用いて粒子を衝突させる処理である。ブラスト処理はたとえば、サンドブラスト処理である。サンドブラスト処理は、ブラスト材(研磨剤)と圧縮空気とを混合して、投射する処理である。ブラスト材はたとえば、球状のショット材及び角状のグリッド材である。サンドブラスト処理により、接触表面400,500や、金属めっき層110の表面の表面粗さを大きくできる。
【0144】
本実施形態において、サンドブラスト処理は、周知の方法により実施できる。サンドブラスト処理ではたとえば、コンプレッサで空気を圧縮し、圧縮空気とブラスト材を混合する。ブラスト材の材質はたとえば、ステンレス鋼、アルミ、セラミック及びアルミナ等である。また、サンドブラスト処理の投射速度等の条件は、適宜設定できる。
【0145】
[酸洗処理工程]
本実施形態において、酸洗処理工程は、硫酸、塩酸、硝酸又はフッ酸等の強酸液に浸漬して、表面を荒らす処理を意味する。すなわち、接触表面400,500や金属めっき層110の表面を強酸液に浸漬することで、これらの表面の表面粗さを大きくできる。
【実施例0146】
以下、実施例を用いて、本実施形態による油井用金属管及び組成物を、より具体的に説明する。ただし、本実施形態による油井用金属管及び組成物は、以下に説明する実施例によって制限されない。以下、実施例では、ピン接触表面をピン表面、ボックス接触表面をボックス表面という。また、実施例中の%は、特に指定しない限り、質量%を意味する。
【0147】
本実施例において、日本製鉄株式会社製のVAM(登録商標)21HTを用いた。VAM(登録商標)21HTは外径:177.80mm(7インチ)、肉厚11.506mm(0.453インチ)の油井用金属管である。鋼種は、13Crステンレス鋼であった。13Cr鋼の組成は、C:0.19%、Si:0.25%、Mn:0.80%、P:0.02%、S:0.01%、Cu:0.04%、Ni:0.10%、Cr:13.0%、Mo:0.04%、残部:Fe及び不純物であった。
【0148】
各試験番号のピン表面及びボックス表面に対し、まず、研削仕上げを実施した。研削仕上げがされた各試験番号のピン表面のうち、試験番号8及び9についてはさらに、サンドブラスト処理を実施した。サンドブラスト処理は、砥粒Mesh100を用いて、表面粗さを形成した。研削仕上げがされた試験番号11以外の各試験番号のボックス表面に対して、表1に示すとおり、金属めっき層を形成した。表1のボックス表面の「下地処理」欄には、形成した金属めっき層の種類と、その膜厚とを記載した。ボックス表面の「下地処理」欄の「-」は、金属めっき層を形成しなかったことを意味する。なお、金属めっき層の膜厚は、上述の方法で測定した。
【0149】
【0150】
なお、金属めっき層としてZn-Ni合金めっき層を形成した試験番号は、電気めっきによりZn-Ni合金めっきを実施して、Zn-Ni合金めっき層を形成した。Zn-Ni合金めっき浴は、大和化成株式会社製の商品名ダインジンアロイN-PLを使用した。電気めっきの条件は、めっき浴pH:6.5、めっき浴温度:25℃、電流密度:2A/dm2、及び、処理時間:18分であった。Zn-Ni合金めっき層の組成は、Zn:85%及びNi:15%であった。
【0151】
金属めっき層としてCu-Sn-Zn合金めっき層を形成した試験番号7は、まず、電気めっきによりNiストライクめっきを形成した。その後、Cu-Sn-Zn合金めっき層を形成した。Cu-Sn-Zn合金めっき浴は、日本化学産業株式会社製のめっき浴を使用した。
【0152】
各試験番号の下地処理後のピン表面及びボックス表面の算術平均粗さRaは、表1に示すとおりであった。算術平均粗さRaは、JIS B 0601(2013)に基づいて測定した。算術平均粗さRaの測定には、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製 走査型プローブ顕微鏡 SPI3800Nを用いた。測定条件は、取得データ数の単位としてサンプルの2μm×2μmの領域で、取得データ数1024×1024とした。
【0153】
以上のとおりに準備された各試験番号のピン表面及びボックス表面について、表2に記載の組成の潤滑被膜層を形成した。なお、表2中「潤滑被膜層の組成」欄のカッコ内には、ZrO2と、金属石鹸と、ワックスと、塩基性芳香族有機酸金属塩と、潤滑性粉末との含有量の合計を100質量%とした場合における、各組成の含有量を質量%で示す。なお、試験番号7と11とを除く各試験番号の潤滑被膜層を形成するための組成物は、表2に記載の潤滑被膜層の組成に加えて、揮発性有機溶剤を含有した。このとき、揮発性有機溶剤の含有量は、ZrO2と、金属石鹸と、ワックスと、塩基性芳香族有機酸金属塩と、潤滑性粉末との含有量の合計を100質量%として、30%であった。また、試験番号7と11との潤滑被膜層を形成するための組成物は、表2に記載の潤滑被膜層の組成と同じであった。
【0154】
【0155】
本実施例において、用いたZrO2の粒子径は、いずれも1000nmであった。また、各試験番号で用いたZrO2のモース硬度を、表2に示す。また、試験番号10には、ZrO2に代えて、Cr2O3を含有した。Cr2O3の含有量は10.0質量%であった。ここで、Cr2O3の含有量とは、Cr2O3と、金属石鹸と、ワックスと、塩基性芳香族有機酸金属塩との含有量の合計を100質量%とした場合における、Cr2O3の含有量を意味する。
【0156】
なお、本実施例において、ZrO2は、第一稀元素化学工業株式会社製の製品名MIZ酸化ジルコニウムを用いた。Cr2O3は、日本化学工業株式会社製の製品名グリーンF3を用いた。このCr2O3の粒子径は、1500nmであった。本実施例において、ステアリン酸Caは、DIC株式会社製Ca-STEARATEを用いた。ステアリン酸Znは、DIC株式会社製Zn-STEARATEを用いた。ステアリン酸Naは、DIC株式会社製Na-STEARATEを用いた。
【0157】
本実施例ではさらに、カルナウバワックスは、日本精蝋株式会社製の製品名XAQUASOROUT-0013を用いた。パラフィンワックスは、日本精蝋株式会社製のパラフィンワックスを用いた。マイクロクリスタリンワックスは、日本精蝋株式会社製の製品名Hi-Mic-1080を用いた。塩基性Caスルホネートは、LANXESS社製の製品名Calcinate(登録商標) C400CLR(塩基価400mgKOH/g)を用いた。塩基性Caフェネートは、塩基価100mgKOH/g、石鹸濃度40%、金属比10のものを用いた。塩基性Caサリシレートは、日本ルーブリゾール製の製品名MD9A01を用いた。黒鉛は、日本黒鉛工業株式会社製の黒鉛粉末、製品名青P(灰分3.79%、結晶度96.9%、平均粒径7μm)を用いた。PTFEは、ダイキン工業株式会社製の製品名ルブロン(登録商標)L-5Fを用いた。揮発性有機溶剤は、Exxon社製の製品名Exxsol(登録商標)D40を用いた。
【0158】
なお、試験番号11では、潤滑被膜層を形成せずに、BESTОLIFE製API Modified304-ST(以下、APIドープと称する)を刷毛で塗布した。APIドープは、質量%で、鉛:15~40%、亜鉛:7~13%、銅:3~7%を含有する。なお、このAPIドープは、鉛などの重金属を含有し、人体や環境に悪影響を与える懸念があるが、潤滑性は良好であるため、これを後述のハイトルク性能評価の基準とした。
【0159】
以上の方法で、各試験番号のピン表面及びボックス表面を準備した。得られたピン表面及びボックス表面を用いて、以下に説明する耐焼付き性評価試験、及び、ハイトルク性能評価試験を実施した。
【0160】
[耐焼付き性評価試験]
耐焼付き性評価は、繰返し締結試験により行った。具体的に、各試験番号のピン表面及びボックス表面を用いて、室温(20℃)でねじ締め及びねじ戻しを繰り返し、耐焼付き性を評価した。ねじ締めでの締結トルクは、24350N・mとした。ねじ締め及びねじ戻しを1回行うごとに、ピン表面及びボックス表面を目視により観察した。目視観察により、ねじ部及びシール面における焼付きの発生状況を確認した。シール面に焼付きが発生した時点で試験終了とした。ねじ部は焼付きが軽微であり、ヤスリなどの手入れにより回復可能な場合には、焼付き疵を補修して試験を続行した。ねじ部で回復不可能な焼付きが発生した場合も、その時点で試験終了とした。
【0161】
耐焼付き性の評価指標は、ねじ部で回復不可能な焼付き、及び、シール面で焼付きのいずれも発生しない最大の締結回数とした。耐焼付き性評価試験の結果を、表3に示す。なお、試験番号6については、潤滑被膜層を形成するための組成物の塗布がうまく行えなかったため、潤滑被膜層の形成不良が生じた。そのため、試験番号6では、試験を実施できなかった。
【0162】
【0163】
なお、試験番号11においては、ねじ締め及びねじ戻しを1回行うごとに、新しくAPIドープを塗りなおした。通常、APIドープは、ねじ締め及びねじ戻しを1回行うごとに新しく塗りなおして使用されているためである。また、APIドープはそのような使用方法しか想定されていない。一方、試験番号1~10及び12では、試験終了まで潤滑被膜層を形成しなおすことなく、試験を続けた。
【0164】
[ハイトルク性評価試験]
各試験番号のピン表面及びボックス表面を用いて、トルクオンショルダー抵抗ΔT′を測定した。具体的に、締付け速度10rpm、締付けトルク42.8kN・mで、ピンとボックスとをねじ締めした。ねじ締めの際にトルクを測定し、
図15に示されるようなトルクチャートを作成した。
【0165】
図15は、本実施例における、トルクオンショルダー抵抗ΔT′を説明するための図である。
図15中のTsは、ショルダリングトルクを意味する。
図15中のMTVは、線分Lと、トルクチャートとが交わるトルク値を表す。
図15中の線分Lは、ショルダリング後のトルクチャートにおける、線形域の傾きと同じ傾きを有し、同線形域と比べて回転数が0.2%多い直線である。通常、トルクオンショルダー抵抗ΔT′を測定する場合には、Ty(イールドトルク)を使用する。しかしながら、本実施例では、イールドトルク(ショルダリング後におけるトルクチャートにおける、線形域と非線形域との境界)が不明瞭であった。そのため、線分Lを用いて、MTVを規定した。MTVとTsとの差分を、本実施例におけるトルクオンショルダー抵抗ΔT′とした。
【0166】
本実施例では、試験番号11において、潤滑被膜層の代わりにAPIドープを使用した際のトルクオンショルダー抵抗ΔT′の数値を基準(100)として、各試験番号のトルクオンショルダー抵抗ΔT′を相対値として求めた。得られた各試験番号のトルクオンショルダー抵抗ΔT′(相対値)を、表3に示す。なお、上述のとおり、試験番号6については、潤滑被膜層を形成するための組成物の塗布がうまく行えなかったため、潤滑被膜層の形成不良が生じた。そのため、試験番号6では、試験を実施できなかった。
【0167】
[評価結果]
表1~表3を参照して、試験番号1~5及び7~9の油井用金属管の潤滑被膜層、及び、その潤滑被膜層を形成するための組成物は、ZrO2を含有した。そのため、試験番号1~5及び7~9の油井用金属管は、ねじ締め及びねじ戻しを8回繰り返しても、焼付きが発生せず、優れた耐焼付き性を示した。さらに、試験番号1~5及び7~9の油井用金属管は、トルクオンショルダー抵抗ΔT′(相対値)が100を超え、優れたハイトルク性能を示した。
【0168】
試験番号2~5及び7~9の油井用金属管はさらに、潤滑被膜層中、及び、その潤滑被膜層を形成するための組成物中におけるZrO2の含有量が0.5~8.0%であった。そのため、試験番号2~5及び7~9の油井用金属管は、試験番号1の油井用金属管に比べて、さらに優れたハイトルク性能を示した。
【0169】
一方、試験番号10の油井用金属管の潤滑被膜層、及び、その潤滑被膜層を形成するための組成物は、ZrO2に代えて、Cr2O3を含有した。その結果、ねじ締め及びねじ戻しを8回繰り返すと焼付きが発生し、優れた耐焼付き性を示さなかった。
【0170】
試験番号12の油井用金属管の潤滑被膜層、及び、その潤滑被膜層を形成するための組成物は、ZrO2を含有しなかった。その結果、ねじ締め及びねじ戻しを5回繰り返すと焼付きが発生し、優れた耐焼付き性を示さなかった。その結果さらに、トルクオンショルダー抵抗ΔT′が100未満となり、優れたハイトルク性能を示さなかった。
【0171】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。