(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121851
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】免震構造の施工方法および免震構造
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240902BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240902BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
E04H9/02 331A
F16F15/02 L
F16F15/04 E
F16F15/04 P
E04H9/02 331E
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029046
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】波多野 貴壽
(72)【発明者】
【氏名】坂井 利光
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139AD03
2E139CA02
2E139CA24
3J048AA02
3J048AD16
3J048BA08
3J048BB02
3J048BG04
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】下部構造に対する上部構造の傾きに起因した免震装置の上部板材の傾きを修正することのできる免震構造の施工方法および免震構造を提供する。
【解決手段】免震構造10は、上部構造11と、下部構造12と、上部構造11と下部構造12との間に設けられる免震装置20と、を有する。また、免震構造10は、免震装置20の上部板材22が傾いているときに設置されるフィラー70を有する。免震構造10の施工方法は、上部構造11をジャッキアップするジャッキアップ工程と、上部構造11の下面と免震装置20の上面との間に傾き修正用のフィラー70を設置するフィラー設置工程と、上部構造11をジャッキダウンするジャッキダウン工程と、を有する。
【選択図】
図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造と、下部構造と、前記上部構造と前記下部構造との間に設けられる免震装置と、を有する免震構造の施工方法であって、
前記免震装置を挟んで水平方向の一方側の前記上部構造と前記下部構造の一方側上下間隔は、前記免震装置を挟んで水平方向の他方側の前記上部構造と前記下部構造の他方側上下間隔よりも大きくなっており、
前記上部構造をジャッキアップするジャッキアップ工程と、
前記上部構造の下面と前記免震装置の上面との間に傾き修正用のフィラーを設置するフィラー設置工程と、
前記上部構造をジャッキダウンするジャッキダウン工程と、を有する
免震構造の施工方法。
【請求項2】
前記フィラーは、前記免震装置の上面の前記一方側の一部に挟まれる挟み材と、前記免震装置の上面の前記他方側の一部に充填されるグラウト材と、で形成されている
請求項1に記載の免震構造の施工方法。
【請求項3】
前記グラウト材は、前記上部構造の鉛直荷重を伝達している
請求項2に記載の免震構造の施工方法。
【請求項4】
前記グラウト材は、前記上部構造の下面と前記挟み材の上面の前記一方側の端部との間に形成された隙間にも充填されている
請求項2に記載の免震構造の施工方法。
【請求項5】
前記免震装置は、積層ゴムと、前記積層ゴムを挟んで前記積層ゴムより広い上部板材および下部板材と、を有し、
前記挟み材の一部が前記積層ゴムの上部に掛かっている
請求項2に記載の免震構造の施工方法。
【請求項6】
前記上部板材は、前記上部板材と前記上部構造とをボルト接合する上部板材ボルト接合孔を有し、
前記挟み材は、前記上部板材ボルト接合孔に対応する位置に挟み材ボルト接合孔を有し、
前記グラウト材を充填する前に、前記上部板材ボルト接合孔と前記挟み材ボルト接合孔とを利用したボルト締めにより前記挟み材を仮止めする
請求項5に記載の免震構造の施工方法。
【請求項7】
前記ジャッキダウン工程は、
前記グラウト材の充填前に行われ、前記上部構造の軸力の一部を前記挟み材を介して前記免震装置に負担させる調整ジャッキダウン工程と、
前記グラウト材の充填後に行われ、前記上部構造の軸力の全てを前記挟み材および前記グラウト材を介して前記免震装置に負担させる最終ジャッキダウン工程と、を有する
請求項2に記載の免震構造の施工方法。
【請求項8】
前記ジャッキダウン工程は、
前記グラウト材の充填を一時的に中断して、前記上部構造の位置を調整する中間ジャッキダウン工程と、
前記グラウト材の充填後に行われ、前記上部構造の軸力の全てを前記挟み材および前記グラウト材を介して前記免震装置に負担させる最終ジャッキダウン工程と、を有する
請求項2に記載の免震構造の施工方法。
【請求項9】
前記フィラーは、前記一方側が前記他方側より厚いテーパー付きプレートである
請求項1に記載の免震構造の施工方法。
【請求項10】
前記免震装置は、弾性すべり支承である
請求項1~9のいずれか一項に記載の免震構造の施工方法。
【請求項11】
上部構造と、下部構造と、前記上部構造と前記下部構造との間に設けられる免震装置と、を有する免震構造あって、
前記免震装置を挟んで水平方向の一方側の前記上部構造と前記下部構造の一方側上下間隔は、前記免震装置を挟んで水平方向の他方側の前記上部構造と前記下部構造の他方側上下間隔より大きくなっており、
前記上部構造の下面と前記免震装置の上面の間に傾き修正用のフィラーが設置されている
免震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造の施工方法および免震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建築物の免震構造においては、梁などの上部構造と基礎などの下部構造との間に免震装置が設けられている。こうした免震装置としては、上部構造に接合される上部板材と下部構造に接合される下部板材との間に積層ゴムを有する装置が知られている。こうした積層ゴムを用いた免震装置として、例えば特許文献1には、躯体工事後に上部構造と下部構造との相対位置が水平方向にずれたとしても、そのずれに応じて修正可能な構造を有する免震装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、免震構造においては、躯体工事後に下部構造に対して上部構造が傾くと免震装置の上部板材も傾いてしまう。こうした上部構造の傾きは建築物全体が傾くことのない僅かなものであるが、上部板材の傾きは免震性能の低下を招くおそれがある。そのため、上部板材の傾きの修正が求められるが、特許文献1に記載の構造では上部板材の傾きを修正することは困難である。また、免震装置が弾性すべり支承である場合に上部板材が傾くと、すべり材とすべり面との間に形成される隙間が免震性能の低下を招くおそれがある。すなわち、躯体工事後における上部板材の傾き修正は、免震構造に共通するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する免震構造の施工方法は、上部構造と、下部構造と、前記上部構造と前記下部構造との間に設けられる免震装置と、を有する免震構造の施工方法であって、前記免震装置を挟んで水平方向の一方側の前記上部構造と前記下部構造の一方側上下間隔は、前記免震装置を挟んで水平方向の他方側の前記上部構造と前記下部構造の他方側上下間隔よりも大きくなっており、前記上部構造をジャッキアップするジャッキアップ工程と、前記上部構造の下面と前記免震装置の上面との間に傾き修正用のフィラーを設置するフィラー設置工程と、前記上部構造をジャッキダウンするジャッキダウン工程と、を有する。
【0006】
上記課題を解決する免震構造は、上部構造と、下部構造と、前記上部構造と前記下部構造との間に設けられる免震装置と、を有する免震構造あって、前記免震装置を挟んで水平方向の一方側の前記上部構造と前記下部構造の一方側上下間隔は、前記免震装置を挟んで水平方向の他方側の前記上部構造と前記下部構造の他方側上下間隔よりも大きくなっており、前記上部構造の下面と前記免震装置の上面との間に傾き修正用のフィラーが設置されている。
【0007】
上述した構成によれば、上部構造の下面と免震装置の上面との間に傾き修正用のフィラーが設置されることで、上部構造が傾いていたとしても上部板材の傾きを修正することができる。
【0008】
上述した構成において、前記フィラーは、前記免震装置の上面の前記一方側の一部に挟まれる挟み材と、前記免震装置の上面の前記他方側の一部に充填されるグラウト材と、で形成されていることが好ましい。これにより、修正前の上部板材の傾きに応じたフィラーを容易に形成することができる。また、前記グラウト材は、前記上部構造の鉛直荷重を伝達することができる。
【0009】
上述した構成において、前記グラウト材は、前記上部構造の下面と前記挟み材の上面の前記一方側の端部との間に形成された隙間にも充填されていることが好ましい。これにより、上部構造の鉛直荷重を積層ゴム全体に伝達することができる。
【0010】
上述した構成において、前記免震装置は、積層ゴムと、前記積層ゴムを挟んで前記積層ゴムより広い上部板材および下部板材と、を有し、前記挟み材の一部が前記積層ゴムの上部に掛かっていることが好ましい。これにより、グラウト材の充填前において、積層ゴムに対する上部構造の軸力の伝達経路を上下方向に沿うようにすることができる。
【0011】
上述した構成において、前記上部板材は、前記上部板材と前記上部構造とをボルト接合する上部板材ボルト接合孔を有し、前記挟み材は、前記上部板材ボルト接合孔に対応する位置に挟み材ボルト接合孔を有し、前記グラウト材を充填する前に、前記上部板材ボルト接合孔と前記挟み材ボルト接合孔とを利用したボルト締めにより前記挟み材を仮止めすることが好ましい。これにより、グラウト材の充填による挟み材の位置ずれを防止することができる。
【0012】
上述した構成において、前記ジャッキダウン工程は、前記グラウト材の充填前に行われ、前記上部構造の軸力の一部を前記挟み材を介して前記免震装置に負担させる調整ジャッキダウン工程と、前記グラウト材の充填後に行われ、前記上部構造の軸力の全てを前記挟み材および前記グラウト材を介して前記免震装置に負担させる最終ジャッキダウン工程と、を有していてもよい。
【0013】
調整ジャッキダウン工程においては、上部板材が挟み材側で押し下げられることで上部板材の傾きが修正される。これにより、上部板材の傾きを修正した状態でグラウト材を充填することができる。
【0014】
上述した構成において、前記ジャッキダウン工程は、前記グラウト材の充填を一時的に中断して、前記上部構造の位置を調整する中間ジャッキダウン工程と、前記グラウト材の充填後に行われ、前記上部構造の軸力の全てを前記挟み材および前記グラウト材を介して前記免震装置に負担させる最終ジャッキダウン工程と、を有していてもよい。これにより、グラウト材の充填状況に応じた適切な位置に上部構造を配置することができる。
【0015】
上述した構成において、前記フィラーは、前記一方側が前記他方側より厚いテーパー付きプレートである。これにより、少ない部品点数および工数で上部板材の傾きを修正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】免震構造の基本的な構造の概略構成を示す側面図である。
【
図3】免震構造の施工方法の一実施形態についての手順を示す図である。
【
図4】計測工程において計測される間隔を模式的に示す側面図である。
【
図5】上部板材の下面における計測位置の一例を示す下面図である。
【
図6】上部構造がジャッキアップされた状態を模式的に示す側面図である。
【
図7】挟み材が設置された状態を模式的に示す側面図である。
【
図8】挟み材を形成するプレートを示す上面図である。
【
図9】調整ジャッキダウン工程が完了した状態を模式的に示す側面図である。
【
図11】(a)上部板材にゴム板が巻き付けられた状態を挟み材とともに模式的に示す図であり、(b)ゴム板によって隙間が外側から覆われた状態を模式的に示す断面図である。
【
図12】(a)ゴム板を外側から覆う鋼製型枠を上部板材および挟み材とともに模式的に示す図であり、(b)鋼製型枠によってゴム板が締め付けられた状態を模式的に示す断面図である。
【
図13】各接続部にホースが接続された状態を模式的に示す図である。
【
図14】空気抜きおよび充填確認に用いられるホースにグラウト材が流出した状態を模式的に示す断面図である。
【
図15】最終ジャッキダウン工程完了時における免震構造の概略構成を模式的に示す図である。
【
図16】変形例において、挟み材を構成するプレートの一例を示す図である。
【
図17】(a)フィラーの変形例を用いた免震構造の基本的な構造の概略構成を示す側面図であり、(b)フィラーの変形例の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1~
図15を参照して、免震構造の施工方法および免震構造の一実施形態について説明する。
まず、
図1および
図2を参照して、免震構造の基本的な構造について説明する。
【0018】
図1に示すように、免震構造10は、上部構造11、下部構造12、免震装置20を有する。上部構造11は、例えば、建築物を構成する梁である。下部構造12は、例えば、建築物の基礎である。免震装置20は、上部構造11と下部構造12との間に設けられている。
【0019】
免震装置20は、すべり板21、上部板材22、積層ゴム23を有する。本実施形態において、免震装置20は、弾性すべり支承である。
すべり板21は、下部板材である。すべり板21は、補強板25とステンレス鋼板26とを有する。補強板25は、下部構造12にボルト接合される。ステンレス鋼板26は、その外縁部が補強板25にボルト接合されている。上部板材22は、上部構造11のベースプレート11aにボルト接合される。ベースプレート11aの下面は、上部構造11の下面である。上部板材22は、上面視においてベースプレート11aと同じ形状であることが好ましい。すべり板21および上部板材22は、上下方向において積層ゴム23を挟んでいる。
【0020】
積層ゴム23は、本体ゴムと中間鋼板とが交互に積層された積層部分を被覆ゴムが被覆する構造に形成されている。
積層ゴム23の上端部には、連結鋼板28が一体的に形成されている。連結鋼板28は、上部板材22にボルト接合される(
図2参照。)。積層ゴム23は、下端部に設けられた平板状のすべり材29がすべり板21のステンレス鋼板26に支持される。なお、積層ゴム23に上部板材22が一体的に成形されていてもよい。
【0021】
図2に示すように、免震装置20の上面視において、すべり板21の補強板25は、積層ゴム23よりも広い矩形状に形成されている。補強板25の各隅部には、下部構造12とすべり板21とをボルト接合する下部板材ボルト接合孔30が形成されている。すべり板21のステンレス鋼板26は、補強板25の各隅部を露出させる多角形状に形成されている。
【0022】
免震装置20の上面視において、上部板材22は、積層ゴム23よりも広く、かつ、ステンレス鋼板26よりも狭い円形状に形成されている。上部板材22は、積層ゴム23よりも外側に位置する外周部に、周方向に所定間隔で形成された上部板材ボルト接合孔31を有している。上部板材ボルト接合孔31は、上部構造11と上部板材22とをボルト接合するボルトが貫通する孔である。本実施形態の上部板材22には、45°間隔で上部板材ボルト接合孔31が形成されている。上部板材22には、積層ゴム23に重なる領域の各所に、ボルト32が配設される貫通孔33が形成されている。貫通孔33は、ボルト32の頭部を収容可能なざぐりを有している。ボルト32は、貫通孔33を貫通して連結鋼板28に螺合することにより、上部板材22と連結鋼板28とを接合する。
【0023】
また、すべり板21の補強板25の各隅部には、雌ねじ部34が形成されている。雌ねじ部34は、補強板25を貫通している。また、上部板材22の外周部には、補強板25の雌ねじ部34に1対1で対応するように、雌ねじ部35が形成されている。雌ねじ部35は、上部板材22を貫通している。雌ねじ部35は、周方向に90°間隔で形成されており、周方向で隣り合う上部板材ボルト接合孔31の中央に位置している。また、これらの雌ねじ部34,35は、免震装置20に輸送金具を取り付ける際に利用される。輸送金具は、すべり板21と上部板材22とを連結することにより、輸送時などにすべり板21に対する積層ゴム23のすべりを防止する。
【0024】
上述した免震構造10においては、上部構造11の躯体工事後に、下部構造12に対して上部構造11が傾くことがある(
図4参照。)。このとき、免震装置20の周辺では、免震装置20を挟んだ上部構造11と下部構造12との距離である上下間隔について、水平方向における一方側の上下間隔(一方側上下間隔)が他方側の上下間隔(他方側上下間隔)よりも大きくなっている。また、免震装置20では、上部構造11の傾きに応じて上部板材22が傾くことで積層ゴム23が回転し、上記上下間隔が大きい側において、すべり板21のステンレス鋼板26と積層ゴム23のすべり材29との間に隙間が形成されることもある。免震構造10においては、そうした上部板材22の傾きが、上部構造11の下面と上部板材22の上面との間に設置されるフィラーにより修正される。
【0025】
上部板材22の傾きを修正する免震構造10の施工方法について説明する。
図3に示すように、免震構造10の施工方法は、計測工程(ステップS101)、ジャッキアップ工程(ステップS102)、挟み材設置工程(ステップS103)、調整ジャッキダウン工程(ステップS104)、グラウト充填工程(ステップS105)、最終ジャッキダウン工程(ステップS106)、復帰工程(ステップS107)を有する。挟み材設置工程(ステップS103)とグラウト充填工程(ステップS105)は、フィラーを設置するフィラー設置工程である。
【0026】
図4に示すように、計測工程(ステップS101)では、上部板材22の傾きを把握するための計測が行われる。本実施形態においては、例えばインサイドマイクロメータを用いて、ステンレス鋼板26の上面と上部板材22の下面との間の間隔Lが複数箇所において計測される。なお、実際の上部板材の傾きは1/100程度であるが、
図4では、左側における間隔Lが最も大きく、かつ、右側における間隔Lが最も小さい場合を誇張して示している。また、以下では、
図4の左側における間隔Lが最も大きいものとしている。
【0027】
図5に示すように、間隔Lは、周方向で隣り合う上部板材ボルト接合孔31の中央付近に対応する各計測位置Pで計測される。このように複数箇所で間隔Lが計測されることにより、上部板材22の傾きについて、その方向および大きさが高い精度のもとで把握される。
【0028】
図6に示すように、ジャッキアップ工程(ステップS102)では、上部板材22の周囲にジャッキ40が設置される。そして、上部構造11と上部板材22とを接合しているボルトを緩めたのち、ジャッキ40を操作して上部構造11をジャッキアップし、上部板材22の上面と上部構造11の下面との間に隙間42を形成する。ジャッキ40は、後述する挟み材44が隙間42に設置可能となる配置で上部板材22の周囲に設置される。
【0029】
図7に示すように、挟み材設置工程(ステップS103)では、上部板材22の傾きに応じた位置に挟み材44が設置される。具体的には、挟み材44は、計測工程において計測された間隔Lが最も大きかった場所に設置される。挟み材44は、上部構造11と上部板材22とを接合していたボルトのうちで挟み材44の設置位置に対応するボルトが取り外されたのちに隙間42に設置される。挟み材44は、1枚の鋼製のプレートで形成されてもよいし、複数の鋼製のプレートを重ねることにより形成されてもよい。
【0030】
図8に示すように、挟み材44を形成するプレート45は、仮想線46によって区画可能な弓形部47と台形部48とを有する櫛型形状に形成されている。弓形部47は、上部板材22の外縁部に倣う円弧状の外縁部を有する。台形部48は、弓形部47の外縁部の各端部から上部板材22の中心に向かって延びる一対の側縁部と、側縁部の先端部を直線状に繋ぐ内縁部と、を有する。プレート45は、挟み材44が隙間42に設置されると、内縁部側の一部が積層ゴム23の上部に重なる形状に形成されている。
【0031】
プレート45には、挟み材ボルト接合孔49が形成されている。本実施形態のプレート45には、3つの挟み材ボルト接合孔49が形成されている。両端に位置する挟み材ボルト接合孔49は、隣り合う上部板材ボルト接合孔31に対応する位置に形成されている。中央に位置する挟み材ボルト接合孔49は、隣り合う上部板材ボルト接合孔31の中央に対応する位置に形成されている。挟み材44は、上部構造11のベースプレート11aと免震装置20の上部板材22とを仮止めするボルトが、挟み材ボルト接合孔49を貫通するように配設されることで隙間42に設置される。このとき、挟み材44は、その設置位置に応じて、両端に位置する挟み材ボルト接合孔49、あるいは、中央に位置する挟み材ボルト接合孔49を貫通するようにボルトが配設される。また、ベースプレート11aと上部板材22との仮止めに用いられるボルトは、後述する仮設ボルトである。
【0032】
図9に示すように、調整ジャッキダウン工程(ステップS104)では、ジャッキ40を操作し、免震装置20およびジャッキ40の双方によって上部構造11の軸力が負担される位置まで上部構造11をジャッキダウンする。より具体的には、上部板材22やベースプレート11aに大きな曲げ変形が生じないように、上部構造11の軸力の10%程度が免震装置20に負担される位置まで上部構造11をジャッキダウンする。このとき、上部構造11が挟み材44の内縁部付近を押し下げることで上部板材22が水平となる。
【0033】
グラウト充填工程(ステップS105)では、隙間42にグラウト材が充填される。グラウト材は、例えば無収縮モルタルなどのセメント組成物である。
図10に示すように、グラウト充填工程は、準備工程(ステップS105-1)、ゴム板設置工程(ステップS105-2)、鋼製型枠設置工程(ステップS105-3)、注入工程(ステップS105-4)、撤去工程(ステップS105-5)を有する。
【0034】
準備工程(ステップS105-1)においては、上部構造11のベースプレート11aと免震装置20の上部板材22とを仮止めしているボルトの全てを仮設ボルトに変更する。仮設ボルトは、その軸部にシールテープが巻き付けられているボルトである。シールテープは、仮設ボルトの周辺からのグラウト材の漏れを抑制する。仮設ボルトは、ある程度の締め付けトルク、例えば30N・mの締め付けトルクで締め付けられる。
【0035】
図11(a)および
図11(b)に示すように、ゴム板設置工程(ステップS105-2)では、上部構造11のベースプレート11aおよび免震装置20の上部板材22に対して、隙間42を外側から覆うように帯状のゴム板55が巻き付けられる。ゴム板55は、隙間42からのグラウト材の漏れを抑制する。
【0036】
図12(a)および
図12(b)に示すように、鋼製型枠設置工程(ステップS105-3)では、ゴム板55を外側から覆うように鋼製型枠56が設置される。鋼製型枠56は、バンド部57とジョイント部58とを有する。バンド部57は、ゴム板55を外側から覆うように配置される。ジョイント部58は、バンド部57の両端部に設けられており、挟み材44の反対側に位置するように配置される。鋼製型枠56は、ジョイント部58が締結部材で締結されることにより、上部構造11のベースプレート11aおよび免震装置20の上部板材22にゴム板55を締め付ける。
【0037】
また、鋼製型枠56は、接続部59と流通口60とを有する。接続部59は、バンド部57に所定間隔で設けられている。より具体的に、接続部59は、挟み材44の両側と挟み材44の中央付近とに配置可能な位置に形成されている。各流通口60は、バンド部57および接続部59を貫通している。流通口60が開口する部分において、ゴム板55には、隙間42と流通口60とを連通させる切れ込み61が設けられる。
【0038】
注入工程(ステップS105-4)では、隙間42にグラウト材が注入される。
図13に示すように、挟み材44の両側に配置される接続部59の一方に、注入ポンプ65から延びる注入ホース66が接続される。挟み材44の両側においては、隙間42が大きいためグラウト材を注入しやすい。残りの接続部59には、空気抜きおよび充填確認に用いられるホース67が接続される。注入ホース66およびホース67は、図示されないバンドにより各接続部59に接続される。ホース67は、接続部59とは反対側の端部が上方に向くように設置される(
図14参照。)。各ホース66,67が接続されると、注入ホース66を通じて注入ポンプ65から隙間42にグラウト材が注入される。このとき、隙間42内の空気は、ホース67を通じて外部へと排出される。
【0039】
図14に示すように、ある接続部59付近に十分なグラウト材69が充填されると、その接続部59からホース67へグラウト材69が流出する。例えば、上部構造11のベースプレート11aと挟み材44の上面との間に十分なグラウト材69が充填されると、挟み材44の中央付近に対応するホース67へグラウト材69が流出する。ホース67へのグラウト材69の流出は、ホース67の開放端付近にまでグラウト材69が到達することで確認することができる。グラウト材69の流出が確認されたホース67は、図中に矢印で指し示す位置で結束バンドなどによって封止される。これにより、他の接続部59付近における隙間42にグラウト材69が充填されやすくなる。そして、隙間42の全体がグラウト材69で充填されるまでグラウト材69が注入される。
【0040】
隙間42の全体へのグラウト材69の充填は、全てのホース67においてグラウト材69が流出することで確認することができる。また、挟み材44の反対側においては、隙間42が極小となることでホース67へのグラウト材69の流出が確認できない場合もある。こうした場合には、グラウト材69の圧力が所定圧力(例えば0.1MPa)である状態が所定時間(例えば15sec)継続することでグラウト材69の充填を確認することができる。
【0041】
撤去工程(ステップS105-5)は、隙間42に充填されたグラウト材69の養生期間を経て行われる。撤去工程では、鋼製型枠56やゴム板55が撤去される。また、上部構造11のベースプレート11aと免震装置20の上部板材22とを仮止めしている仮設ボルトの全てを通常のボルトに変更する。これにより、グラウト材充填工程(ステップS105)が完了する。グラウト材充填工程の完了時、上部板材22の上面と上部構造11の下面との間には、挟み材44とグラウト材69とで構成されるフィラー70(
図15参照。)が形成されている。
【0042】
図15に示すように、最終ジャッキダウン工程(ステップS106)では、ジャッキ40を操作し、免震装置20のみによって上部構造11の軸力が負担されるように上部構造11をジャッキダウンする。
【0043】
次の復帰工程(ステップS107)では、ジャッキ40が撤去される。また、上部構造11のベースプレート11aと免震装置20の上部板材22とを仮止めしているボルトが通常の締め付けトルクで締め付けられる。
【0044】
(作用)
免震構造10においては、挟み材44とグラウト材69とで構成されるフィラー70によって上部板材22の傾きが修正される。また、上部構造11の鉛直荷重がフィラー70を介して免震装置20に伝達される。
【0045】
本実施形態の効果について説明する。
(1)免震構造10においては、下部構造12に対して上部構造11が傾いていたとしても、上部構造11のベースプレート11aと免震装置20の上部板材22との間にフィラー70が設置されることで上部板材22の傾きを修正することができる。
【0046】
(2)フィラー70は、上部構造11と下部構造12との間の上下間隔が大きい側において上部板材22に挟まれる挟み材44と、隙間42に充填されたグラウト材69と、で形成されている。これにより、上部構造11の鉛直荷重を免震装置20の上部板材22に伝達することができるとともに、修正前の上部板材22の傾きに応じたフィラー70を容易に形成することができる。こうした効果は、挟み材44を複数のプレート45で形成することにより、顕著なものとなる。
【0047】
(3)グラウト材69は、上部構造11の下面と挟み材44の上面との間にも充填されている。これにより、上部構造11の鉛直荷重を上部板材22の全体に伝達することができる。
【0048】
(4)挟み材44は、上面視において、積層ゴム23の上部に重なる形状に形成されている。これにより、上部構造11が挟み材44の内縁部付近を押し下げたときに、積層ゴム23に対する上部構造11の軸力の伝達経路が上下方向に沿うようになる。その結果、上部板材22が水平になりやすくなるとともに、上部板材22およびベースプレート11aの変形を低減することができる。
【0049】
(5)挟み材44は、上部板材ボルト接合孔31と同じ位置に挟み材ボルト接合孔49を有している。これにより、上部板材ボルト接合孔31と挟み材ボルト接合孔49とを利用したボルト締めにより、グラウト材69の注入時における挟み材44の位置ずれを抑えることができる。
【0050】
(6)グラウト材69は、免震装置20およびジャッキ40の双方で上部構造11の軸力が負担される位置まで上部構造11をジャッキダウンしてから隙間42に注入される。これにより、傾き修正後の上部板材22の水平状態を確認したうえでグラウト材69を注入することができる。
【0051】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・
図16に示すように、挟み材44は、上面視において弓形部のみで形成されていてもよい。
【0052】
・
図17(a)に示すように、フィラー71は、間隔Lが大きい側が小さい側よりも厚く、上部構造11の下面全面と上部板材22の上面全面とに面接触するテーパー付きの鋼製のプレートで形成されてもよい。
図17(b)に示すように、このフィラー71には、上部構造11と上部板材22とをボルト接合するボルトが貫通するフィラーボルト接合孔72が形成されている。こうした構成によれば、グラウト充填工程が不要であるから、少ない部品点数および工数で上部板材22の傾きを修正することができる。
【0053】
・調整ジャッキダウン工程は、隙間42に対するグラウト材の充填途中に行われてもよい。これにより、隙間42に充填されたグラウト材の圧力が高められることから、隙間42の全体にグラウト材が充填されやすくなる。
【0054】
・グラウト充填工程においては、グラウト材の充填を一時的に中断して、上部構造11の位置を調整する中間ジャッキダウン工程を有していてもよい。こうした構成によれば、グラウト材の充填状況に応じた適切な位置に上部構造11を配置することができる。
【0055】
・計測工程(ステップS101)においては、上部板材22の傾きが把握できる計測が行われればよい。そのため、その時々の構造に応じて、上部板材22の近傍において、すべり板21の上面と上部構造11の下面との間の間隔が計測されてもよいし、下部構造12の上面と上部構造11の下面との間隔が計測されてもよい。
【0056】
・免震構造10において、免震装置20は、弾性すべり支承に限らず、積層ゴムアイソレータや剛すべり支承であってもよい。
【符号の説明】
【0057】
10…免震構造、11…上部構造、11a…ベースプレート、12…下部構造、20…免震装置、21…下部板材としてのすべり板、22…上部板材、23…積層ゴム、25…補強板、26…ステンレス鋼板、28…連結鋼板、29…すべり材、30…下部板材ボルト接合孔、31…上部板材ボルト接合孔、32…ボルト、33…貫通孔、34,35…雌ねじ部、40…ジャッキ、42…隙間、44…挟み材、45…プレート、46…仮想線、47…弓形部、48…台形部、49…挟み材ボルト接合孔、55…ゴム板、56…鋼製型枠、57…バンド部、58…ジョイント部、59…接続部、60…流通口、61…切れ込み、65…注入ポンプ、66…注入ホース、67…ホース、69…グラウト材、70,71…フィラー、フィラーボルト接合孔。