(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121853
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】電力供給システム、および方法
(51)【国際特許分類】
H02J 9/06 20060101AFI20240902BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H02J9/06 110
H02J7/00 B
H02J7/00 Q
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029054
(22)【出願日】2023-02-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】508055618
【氏名又は名称】株式会社日本エコソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】100210804
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 一
(74)【代理人】
【識別番号】100198498
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 靖
(72)【発明者】
【氏名】坂本 明
(72)【発明者】
【氏名】赤羽根 岩夫
【テーマコード(参考)】
5G015
5G503
【Fターム(参考)】
5G015FA18
5G015GA01
5G015JA52
5G015KA08
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB01
5G503EA09
(57)【要約】
【課題】模擬負荷を別途使用せずに負荷試験を実施する電力供給関連の技術を提供する。
【解決手段】
設備の予備電源である電池部の制御を行う電力供給システムであって、停電時に前記電池部の電力を前記設備に供給する停電時給電部と、平時に前記電池部の電力を前記設備とは別の電力系統(以下「別系統」という)に供給する平時給電部と、前記停電時に備えて前記別系統を模擬負荷とする前記電池部の負荷試験を実施して、前記設備の保証運転時間の駆動を模擬する負荷試験部とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
設備の予備電源である電池部の制御を行う電力供給システムであって、
停電時に前記電池部の電力を前記設備に供給する停電時給電部と、
平時に前記電池部の電力を前記設備とは別の電力系統(以下「別系統」という)に供給する平時給電部と、
前記停電時に備えて前記別系統を模擬負荷とする前記電池部の負荷試験を実施して、前記設備の保証運転時間の駆動を模擬する負荷試験部と、
を備えたことを特徴とする電力供給システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電力供給システムであって、
前記負荷試験部は、前記停電時に備えて前記別系統を模擬負荷とする前記電池部の前記負荷試験として、前記電池部から前記別系統への電力供給量を情報取得して、前記別系統の負荷と前記設備の負荷との違いに基づく前記電力供給量の換算を行うことによって、前記設備の前記保証運転時間の駆動を模擬的に実証する
ことを特徴とする電力供給システム。
【請求項3】
請求項1に記載の電力供給システムであって、
前記負荷試験部は、
前記負荷試験の期間にわたって前記電池部の電力回復の動作を停止して模擬的な停電状態を起こす模擬停電部と、
模擬的な前記停電状態において前記電池部から前記別系統への放電電流または電荷量の値を経時的に情報取得する放電計算部と、
前記放電計算部が経時的に情報取得した前記値を、前記設備の運転に必要な放電電流パターンに換算することによって、前記設備の前記保証運転時間に達するか否かを動作確認する放電パターン換算部とを有する
ことを特徴とする電力供給システム。
【請求項4】
請求項3に記載の電力供給システムであって、
前記負荷試験部は、前記負荷試験において前記電池部の正常/異常を判定する異常判定部を有し、
前記異常判定部は、前記電池部の電気特性、液漏れ、膨らみ(変形)、異臭、不規則音(異常音)、異常振動、および異常発熱からなる群の少なくとも一つ以上の正常/異常の判定を行う
ことを特徴とする電力供給システム。
【請求項5】
請求項1に記載の電力供給システムであって、
前記負荷試験部は、前記負荷試験を経て前記電池部に余る余剰電力を求める余剰検出部を有し、
前記平時給電部は、前記余剰検出部が求める前記余剰電力によって規定される範囲に制限して、前記電池部から前記別系統への電力供給を実施する
ことを特徴とする電力供給システム。
【請求項6】
請求項5に記載の電力供給システムであって、
前記設備の始動の電流を抑制する始動電流抑制部を備え、
前記始動電流抑制部は、前記設備の始動に必要な電力を削減することによって、前記余剰電力を増加させる
ことを特徴とする電力供給システム。
【請求項7】
請求項5に記載の電力供給システムであって、
前記電池部の端子に脈流を与えて前記電池部の内部インピーダンスを求める脈流計測部を備え、
前記負荷試験部は、前記脈流計測部が求めた前記内部インピーダンスに基づいて、前記電池部の劣化診断を行う
ことを特徴とする電力供給システム。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか一項に記載の電力供給システムであって、
少なくとも一箇所以上の前記電池部について、前記余剰検出部が求める前記余剰電力に関する情報を収集して、分散型エネルギーリソースの情報としてリソースアグリゲータに提供する情報部を備え、
前記平時給電部は、前記リソースアグリゲータからの電力供給に関する指令に応じて、前記余剰電力によって規定される範囲に制限して、前記電池部から前記別系統への電力供給を制御し、
前記停電時給電部は、前記停電時になると、前記電池部から前記設備への電力供給を優先して実施する、
ことを特徴とする電力供給システム。
【請求項9】
請求項8に記載の電力供給システムであって、
前記情報部は、前記電池部について所在地域を情報管理する機能と、災害情報を取得する機能とを備え、前記災害情報により被災地域を情報取得すると、前記被災地域とは別の前記所在地域(以下「安全地域」という)にある前記電池部を選定し、前記安全地域の前記電池部の前記余剰電力に関する情報を、前記安全地域の前記分散型エネルギーリソースの情報として前記リソースアグリゲータに提供する
ことを特徴とする電力供給システム。
【請求項10】
請求項8に記載の電力供給システムであって、
前記情報部は、前記電池部について所在地域および送電地域を情報管理する機能と、災害情報を取得する機能とを備え、前記災害情報により被災地域を情報取得すると、前記被災地域を前記送電地域に含み、かつ前記被災地域とは別の前記所在地域(以下「補助地域」という)にある前記電池部を選別し、前記補助地域の前記電池部の前記余剰電力に関する情報を、前記被災地域への電力供給が可能な前記分散型エネルギーリソースの情報として前記リソースアグリゲータに提供する
ことを特徴とする電力供給システム。
【請求項11】
請求項1に記載の電力供給システムであって、
前記設備は、前記停電時に優先的に駆動するものであって、スプリンクラー、消火ポンプ、消火設備、エレベータ、上水道ポンプ、下水道ポンプ、情報通信設備、電話交換機、病院の設備、介護施設の設備、避難所の設備、及び災害時供給所の設備からなる群の少なくとも一つである
ことを特徴とする電力供給システム。
【請求項12】
設備の予備電源である電池部の制御を行う電力供給方法であって、
停電時に前記電池部の電力を前記設備に供給する停電時給電ステップと、
平時に前記電池部の電力を前記設備とは別の電力系統(以下「別系統」という)に供給する平時給電ステップと、
前記停電時に備えて前記別系統を模擬負荷とする前記電池部の負荷試験を実施して、前記設備の保証運転時間の駆動を模擬する負荷試験ステップと、
を備えたことを特徴とする電力供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力供給システム、および電力供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、消火設備を停電時も駆動できるように、ディーゼル発電などの非常用発電機を予備電源として設けることがよく知られている。
【0003】
この種の非常用発電機は、法令の定めに従って年1回程度の負荷試験を実施することが義務付けられる。この負荷試験では、法定運転時間(保証運転時間の1つであって法令で定められた時間)にわたって消火設備を異常なく駆動できることの動作確認が行なわれる。
【0004】
なお、実負荷試験として消火設備(スプリンクラーなど)を駆動した場合、建物が浸水するなどの実害が生じてしまう。そこで、消火設備の代わりに模擬負荷を非常用発電機に接続することで、負荷試験が行なわれる。
【0005】
なお、特許文献1には『消火設備を停電時も駆動できるように予備の蓄電池を設け、その蓄電池の余剰分を放電して電力平準化に寄与する』旨の技術について開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、負荷試験に使用する模擬負荷(一例として巨大な熱抵抗器)は、大きくかつ重くなる。そのため、消火設備が配置される遠方の現場まで、模擬負荷を逐一持ち運んで負荷試験を行う必要があった。そのため、大変な作業になるという課題があった。
【0008】
さらに、非常用発電機の配置場所は狭く奥まった場所であることも多く、大きな模擬負荷の配置スペースを確保するための工事が別途必要になるなどの課題もあった。
【0009】
また、特許文献1のように、消火設備の予備電源を蓄電池にした場合も、消火設備の停電時駆動を動作保証するために、負荷試験が必要になる。
【0010】
その場合、蓄電池に対して模擬負荷を接続する必要があるため、上述した模擬負荷に起因する課題が同様に生じる。
【0011】
なお、特許文献1には、蓄電池などの電池部に対して負荷試験を行う想定はなく、電池部の負荷試験(模擬負荷)の課題やその対策についての開示は見当たらない。
【0012】
そこで、本発明は、上述した課題の少なくとも一つを解決するために、模擬負荷を別途使用せずに負荷試験を実施する電力供給関連の技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、設備の予備電源である電池部の制御を行う電力供給システムであって、次の構成を備える。
【0014】
停電時給電部は、停電時に前記電池部の電力を前記設備に供給する。
平時給電部は、平時に前記電池部の電力を前記設備とは別の電力系統(以下「別系統」という)に供給する。
【0015】
負荷試験部は、前記停電時に備えて前記別系統を模擬負荷とする前記電池部の負荷試験を実施して、前記設備の保証運転時間の駆動を模擬する。
【発明の効果】
【0016】
上述した解決手段によって、本発明では、模擬負荷を別途使用せずに、平時に電力供給する別系統を模擬負荷として負荷試験を実施することが可能になる。
【0017】
なお、上述した以外の課題、構成および効果の詳しい内容については、後述する実施形態において説明される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施例1の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、負荷試験モードの動作を例示する流れ図(前半)である。
【
図3】
図3は、負荷試験モードの動作を例示する流れ図(後半)である。
【
図4】
図4は、三相誘導電動機の各相の放電電流パターン(始動電流抑制なし)による換算処理を例示する図である。
【
図5】
図5は、三相誘導電動機の各相の放電電流パターン(始動電流抑制あり)による換算処理を例示する図である。
【
図6】
図6は、電池部110の出力端子の放電電流パターンによる換算処理を例示する図である。
【
図7】
図7は、電池部110の内部インピーダンスの等価回路と劣化診断を例示する図である。
【
図8】
図8は、自律運用モードの動作を例示する流れ図(前半)である。
【
図9】
図9は、自律運用モードの動作を例示する流れ図(後半)である。
【
図10】
図10は、電池部110の電力配分の一例を説明する図である。
【
図11】
図11は、実施例2の構成を例示するブロック図である。
【
図12】
図12は、仮想発電所モードの動作を例示する流れ図(前半)である。
【
図13】
図13は、仮想発電所モードの動作を例示する流れ図(後半)である。
【
図14】
図14は、安全地域SS/補助地域SA/被災地域Dの区分をマップ状に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施例を説明する。
【実施例0020】
《実施例1の全体構成》
まず、実施例1の構成について順に説明する。
図1は、実施例1の構成を示すブロック図である。
図1において、蓄電所Xおよび設備Zは、所在地域Pに配置される。
ここでの設備Zは、停電時(ライフラインの停止時)において優先的に駆動する非常用負荷と言われるものであって、例えば、次のような施設設備を指す。
・スプリンクラー
・消火ポンプ
・消火設備
・エレベータ
・上水道ポンプ
・下水道ポンプ
・情報通信設備
・電話交換機
・病院の設備
・介護施設の設備
・避難所の設備
・災害時供給所の設備
・その他
【0021】
蓄電所Xには、設備Zへの電力供給を制御するための電力供給システム100が配置される。
【0022】
電力供給システム100は、
図1に示すように、電池部110、停電時給電部120、平時給電部130、平時検出部140A~B、負荷試験部150、始動電流抑制部160A~B、充放電制御部170、三相/直流コンバータ180、三相インバータ190、および脈流計測部110aなどを備える。
【0023】
続いて、電力供給システム100の構成一つ一つについて説明する。
まず、電池部110は、繰り返し利用可能な蓄電池などであって、設備Zの予備電源として設けられる。例えば、リチウムイオン組み蓄電池などから構成される。
【0024】
停電時給電部120は、外部からの送電を受ける受電系統210を監視して停電発生を検出すると、電池部110の電力を設備Zに優先的に供給するパワー制御回路である。
【0025】
なお、平時には受電系統210を設備Zに電源接続し、停電時には電池部110の電源系統に電源接続を切り替えるパワースイッチ回路を停電時給電部120に設けることで、設備Zへの電力系統を一元化してもよい。
【0026】
平時給電部130は、平時に電池部110の電力を設備Zとは別の電力系統(別系統220)に供給するパワー制御回路である。なお、平時給電部130は、電池部110からの電力と、受電系統210からの電力とを所定の比率(0~100%)で合わせて、別系統220に供給するバルブやスイッチングコンバータを備えてもよい。
【0027】
ここでの別系統220は、例えば、同一施設内や近隣や遠方などの電力消費先に向けて電力供給する電力系統でもよいし、リソースアグリゲータ(電力小売市場なども含む)によって電力需給調整や電力売買がなされる電力系統でもよい。
【0028】
平時検出部140A~Bは、別系統220への電力供給量を検出する検出回路である。
図1では、直流系統側に平時検出部140Aを備え、交流系統側に平時検出部140Bを備える。これら平時検出部140A~Bは、パワー制御の回路形式に応じて、どちらか片方のみとすることもできる。
【0029】
負荷試験部150は、不測の停電時に備えて、別系統220を模擬負荷とする電池部110の負荷試験を実施する。ここでの負荷試験は、別系統220に対する平時の電力供給量をもって、設備Zの法定運転時間の駆動を模擬する負荷試験になる。ここでの法定運転時間は、停電時に設備Zの駆動を保証する保証運転時間の一例であって、特に法令によって定められた時間を指す。負荷試験部150は、有線または無線の通信網(インターネットなど)を介して、負荷試験の結果などを外部の管理センターなどへリモート出力する。
【0030】
なお好ましくは、負荷試験部150は、平時検出部140A~Bが検出する電力供給量を情報取得して、別系統220の負荷と設備Zの負荷との違いに基づく換算を行う。この換算によって、負荷試験部150は、設備Zの法定運転時間の駆動を模擬的に実証する。
【0031】
さらに好ましくは、負荷試験部150は、模擬停電部151、放電計算部152、放電パターン換算部153、異常判定部154、余剰検出部155などの機能を備える。
【0032】
これらの内、模擬停電部151は、充放電制御部170に指令して、負荷試験の期間にわたって電池部110の電力回復(充電)を停止する。この動作によって、停電状態(ライフラインの停止状態)の模擬が行なわれる。
【0033】
放電計算部152は、模擬的な停電状態において、平時検出部140A~Bが検出する別系統220への放電電流または電荷量の値を経時的にサンプリングして情報取得する。
【0034】
放電パターン換算部153は、放電計算部152が経時的に情報取得した値を、設備Zの運転に必要な放電電流パターンに換算する。放電パターン換算部153は、この換算において、放電電流パターンの時間軸上で、設備Zの法定運転時間に達するか否かを動作確認する。
【0035】
異常判定部154は、負荷試験において、電力供給システム100(電池部110など)の正常/異常を判定する。
【0036】
ここでの正常/異常の判定試験は、法定の負荷試験であれば、法令などで定められる試験項目に従って行う。また、自主的な負荷試験であれば、電力供給システム100の内で低耐久や高故障率の部分について正常/異常を判定してもよい。
【0037】
例えば、異常判定部154が行う試験項目は次のようになる。
・電池部110の電気特性を測定して正常/異常を判定
・電池部110の液漏れの有無を撮像センサや化学センサや触媒センサや重量センサなどで判定
・電池部110の膨らみ(変形)の有無を撮像センサや歪センサなどで判定
・電池部110の異臭を臭気センサや化学センサなどで判定
・電池部110の不規則音(異常音)を音センサなどで判定
・電池部110の異常振動を振動センサや撮像センサなどで判定
・電池部110の異常発熱を温度センサや赤外線センサなどで判定
・その他
【0038】
余剰検出部155は、負荷試験を経て、電池部110に残る余剰電力を検出(推定を含む)する。余剰検出部155は、負荷試験を経た後に残存する余剰電力を検出することで、電池部110の余剰電力をより現実に則して検出する。平時給電部130は、この余剰検出部155が求める余剰電力によって規定される範囲に制限して、電池部110から別系統220への電力供給を実施する。
【0039】
始動電流抑制部160A~Bは、設備Zを始動する際に発生する過大な突入電流を抑制する電気回路または制御回路などである。始動電流抑制部160A~Bが設備Zの始動に必要な電力を削減することによって、余剰電力を増加させることが可能になる。なお、これらの始動電流抑制部160A~Bは、始動電流の抑制の効果や形式などに応じて、どちらか片方のみとすることもできる。
【0040】
例えば、直流系統側の始動電流抑制部160Aは、次のような回路などである。
・直流の突入電流を瞬間的に供給可能な回路(コンデンサや電気二重層など)
・過大な突入電流を瞬間的に抑止する回路(リミッタ回路や、定電流回路や、リアクタンス回路や、負荷の切替挿入回路など)
【0041】
また例えば、三相交流系統側の始動電流抑制部160Bは、始動電流抑制部160Aと同じ抑制原理の回路に加え、次のような回路などである。
・Y-Δスイッチ回路による始動制御
・インバータ出力の周波数および/または電圧を始動時に低く始める回路
【0042】
充放電制御部170は、電力供給システム100の制御指令などに応じて電池部110の放電および充電を制御する回路である。例えば、充放電制御部170は、タイマー制御によって夜間電力を電池部110に充電する。また例えば、充放電制御部170は、電池部110の端子電圧の低下を監視して電池部110を随時に充電する。充放電制御部170には、充電用の電力入力として、三相/直流コンバータ180の直流電力や、発電電力(太陽電池や風力発電・・)などが与えられる。
【0043】
三相/直流コンバータ180は、受電系統210の三相交流を直流に変換して、充電電力として充放電制御部170に供給する回路である。
【0044】
三相インバータ190は、電池部110の放電電力(直流)を三相交流に変換して、停電時給電部120および平時給電部130に与える回路である。
【0045】
なお、三相/直流コンバータ180および三相インバータ190は、一括りにして双方向インバータと呼ばれる場合がある。
【0046】
脈流計測部110aは、電池部110の端子に脈流を与えて電池部110の内部インピーダンスを求める測定回路である。負荷試験部150は、脈流計測部110aが求めた内部インピーダンスに基づいて、電池部110の劣化診断や電力損失の計算を行う。
【0047】
なお、上述した電力供給システム100の情報処理に関する部分は、ハードウェアとしてCPU(Central Processing Unit)やメモリなどを備えたコンピュータシステムによって構成してもよい。このハードウェアがコンピュータ可読媒体に記憶された「電力供給システム100用の情報処理プログラム」を実行することによって、電力供給システム100(電力供給方法)の情報処理が実現する。
【0048】
このようなハードウェアの一部または全部については、専用の装置、機械学習マシン、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、PLD(programmable logic device)などで代替してもよい。
【0049】
また、ハードウェアやプログラムの一部または全部をクラウド上のサーバに集中または分散してクラウドシステムを構成することによって、複数の蓄電所Xに対して「電力供給システム100」の情報サービスを提供してもよい。
【0050】
《実施例1の動作の流れ》
続いて、実施例1の全体動作について順に説明する。ここでの説明では、個々の動作の主体を明確化するため、請求項中の『〇△ステップ』に相当する動作を、『〇△部』を主体にした動作として記述する。
【0051】
《動作その1:負荷試験モードの動作》
図2および
図3は、負荷試験モードの動作を例示する流れ図である。
ここで説明する負荷試験モードは、負荷試験の法定時期に合わせて実行される以外に、自律的または外部指令に応じて随時にも実行される。
【0052】
以下、
図2および
図3に示すステップ番号に沿って、負荷試験の動作内容について説明する。
【0053】
ステップS01: 停電時給電部120は、受電系統210の電力供給の状態を監視し、負荷試験部150にその状態を情報伝達する。負荷試験部150では、受電系統210の電力供給が一定期間にわたって安定していること(つまり平時)を確認した場合のみ、以降の負荷試験を起動する。例えば、受電系統210の瞬断や電圧変動などの不安定事象が検出された場合、負荷試験部150は、停電の前兆事象と判断して、念のため負荷試験は起動しない。さらに、負荷試験部150は、天候情報や災害情報をネットワークなどを介して取得し、停電の可能性があると判断した場合も、念のために負荷試験は起動しない。
【0054】
ステップS02: 模擬停電部151は、充放電制御部170に指令して、電池部110の端子電圧(解放電圧または接続電圧)が定格電圧になるまで充電(または放電)を実行する。このときの定格電圧は、負荷試験をスタートする際の電池電圧であって、例えば次の電圧のいずれかを選択できる。
・電池部110の放電開始電圧(サイクル運用の放電開始時の電圧)
・電池部110の満充電時の電圧
・電池部110の充電時の上限電圧(電池の劣化抑制のために満充電時より低い電圧)
・別系統220へ電力供給中の最大電圧、平均電圧、高頻度電圧、または最低電圧
・法定の負荷試験で定格電圧が規定される場合は、その電圧
・その他
【0055】
模擬停電部151は、電池部110の端子電圧が定格電圧になったことを確認した後、充放電制御部170に指令して、負荷試験の期間にわたって電池部110の充電を停止する。この動作によって、負荷試験の期間は、模擬的な停電状態になる。
【0056】
ステップS03: 平時給電部130は、別系統220を模擬負荷とみなして放電を開始する。
【0057】
ステップS04: 平時検出部140A~B(電流センサなど)は、電池部110から別系統220まで流れる放電電流(または電荷量、以下略)を経時的に計測する。
【0058】
ステップS05: 放電計算部152は、平時検出部140A~Bが計測する放電電流の測定値を経時的にサンプリングして、電池部110から別系統220に放出される電荷量の値を経時的に情報取得する。例えば、放電計算部152は、平時検出部140Aが計測する直流電流については、直流電流のサンプリング値を時間軸上で積算することによって経時的に電荷量を求める。一方、平時検出部140Bが計測する交流電流の場合は、交流電流の「サンプリング値の絶対値(実効値でもよい)」を時間軸上で積算することによって経時的に電荷量を求める。さらに、三相交流の場合は、三相分の積算値を加算(または一相分を3倍)することによって経時的に電荷量を求める。
【0059】
ステップS06: 放電パターン換算部153は、設備Zを停電時駆動する際に必要になる放電電流パターン(放電電流の時間波形や、放電電流の積算値の時間波形など)を実測やシミュレーションによって予め求めて情報保持する。この放電電流パターンには設備Zの始動時の電流パターンや、設備Zの動作制御(プログラム制御やタイマー制御など)に応じて経時的に増減変化する電流パターンも含まれる。さらに、この放電電流パターンには、三相インバータ190などの放電経路上の電流損失分(効率)も電流パターンとして含めることが好ましい。
【0060】
放電パターン換算部153は、経時的に求める電荷量を設備Zの運転に必要な放電電流パターンと比較することによって、設備Zの模擬運転時間への換算処理を実施する。以下、具体的な放電電流パターンについて換算処理の例を説明する。
【0061】
図4は、設備Zの動力部である三相誘導電動機の各相の放電電流パターン(始動電流抑制部160A~B無し)を示す図である。
図4の[A]に示す放電電流パターンでは、始動に際して、定常時の5~6倍程度の始動電流が瞬間的に流れる。放電パターン換算部153は、
図4の[B]~[D]に示すように、ステップS05で経時的に算出される電荷量の面積相当分を各相の波形内側(斜線域)に内挿する換算処理を行う。この換算処理によって放電電流パターンを時間方向に順次に進めることによって、設備Zの模擬運転時間を求める。
【0062】
図5は、設備Zの動力部である三相誘導電動機の各相の放電電流パターン(始動電流抑制部160A~B有り)を示す図である。
図5の[A]に示す放電電流パターンでは、始動電流抑制部160B(Y-Δスイッチ回路)によって、定常時の1.7~2倍程度の始動電流に抑制される。放電パターン換算部153は、
図5の[B]~[D]に示すように、ステップS05で経時的に算出される電荷量の面積相当分を各相の波形内側(斜線域)に内挿する換算処理を行う。この換算処理によって放電電流パターンを時間方向に順次に進めることによって、設備Zの模擬運転時間を求める。
【0063】
図6の[A]は、設備Zの動力部である三相誘導電動機の放電電流パターン(始動電流抑制部160A~B無し)を電池部110の出力端子の放電電流に置き換えた図である。
図6の[A]に示す放電電流パターンでは、始動に際して、定常時の5~6倍程度の始動電流が瞬間的に流れる。放電パターン換算部153は、
図6の[A]に示すように、ステップS05で経時的に算出される電荷量の面積相当分を波形内側(斜線域)に内挿する換算処理を行う。この換算処理によって放電電流パターンを時間方向に順次に進めることによって、設備Zの模擬運転時間を求める。
【0064】
図6の[B]は、設備Zの動力部である三相誘導電動機の放電電流パターン(始動電流抑制部160A~B有り)を電池部110の出力端子の放電電流に置き換えた図である。
図6の[B]に示す放電電流パターンでは、始動電流抑制部160B(Y-Δスイッチ回路)によって、定常時の1.7~2倍程度の始動電流に抑制される。放電パターン換算部153は、
図6の[B]に示すように、ステップS05で経時的に算出される電荷量の面積相当分を波形内側(斜線域)に内挿する換算処理を行う。この換算処理によって放電電流パターンを時間方向に順次に進めることによって、設備Zの模擬運転時間を求める。
【0065】
ステップS07: 異常判定部154は、電池部110の正常/異常を判定する。ここでの判定動作の詳細については先に説明したため省略する。
【0066】
ステップS11: 電池部110が正常と判定された場合、異常判定部154はステップS12に動作を進める。一方、電池部110が異常と判定された場合、異常判定部154はステップS13に動作を移行する。
【0067】
ステップS12: 負荷試験部150は、模擬運転時間が設備Zの法定運転時間に達する前に、電池部110の端子電圧が放電終止電圧まで下がるか否かを判定する。放電終止電圧まで下がった場合、負荷試験部150は、設備Zの法定運転時間をクリアできないと判断して、ステップS13に動作を移行する。一方、放電終止電圧まで下がっていない場合、負荷試験部150は、ステップS14に動作を進める。
【0068】
ステップS13: ここでは、負荷試験に失敗したため、負荷試験部150は「負荷試験の結果(失敗)」と「電池部110の状態(正常/異常)」に関する情報リポートを生成して、管理センターなどにリモート出力する。以上の報告動作の後、負荷試験部150は負荷試験モードの動作を中止する。
【0069】
ステップS14: ここでは、放電パターン換算部153は、負荷試験において模擬運転時間が設備Zの法定運転時間に達したか否かを判定する。法定運転時間を達成(クリア)した場合、放電パターン換算部153は「負荷試験:完了」としてステップS15に動作を進める。一方、法定運転時間にまだ達していない場合、放電パターン換算部153は負荷試験を継続するためステップS04に動作を戻す。
【0070】
ステップS15: 余剰検出部155は、負荷試験の放電完了の直後に電池部110の余剰電力を求める。例えば、この時点の電池部110の残容量(SOC)を電気特性(端子電圧など)から推定することで余剰電力を求めてもよい。また例えば、この時点の電池部110から別系統220への放電を再び開始し、放電終止電圧に達するまでに放電された電力量(電流の積算値など)から、余剰電力を求めてもよい。
【0071】
ステップS16: 脈流計測部110aは、適当なタイミングで電池部110の端子に脈流を与えて電池部110の内部インピーダンスを求める。
【0072】
図7の[A]は、電池部110の内部インピーダンスの等価回路を示す図である。
図7の[B]は、電池部110の内部インピーダンスの高次数の等価回路を示す図である。
【0073】
脈流計測部110aは、脈流に対する電池部110のゲイン応答および位相応答に基づいて内部インピーダンス(複素数)を求めて、負荷試験部150に情報出力する。
【0074】
図7の[C]は、電池部110をサイクル運用した場合の内部インピーダンスの経時変化を示すグラフである。
【0075】
負荷試験部150は、脈流計測部110aが求めた内部インピーダンスをこのグラフに照合することによって、電池部110の劣化診断を行う。また、負荷試験部150は、内部インピーダンスに基づいて、電池内部の電力損失を求める。
【0076】
ステップS17: 負荷試験部150は、「負荷試験:成功」と「電池部110の状態(余剰電力、劣化診断、電池内部の電力損失など)」をまとめて情報リポートを作成する。負荷試験部150は、作成した情報リポートを管理センターなどにリモート出力する。
【0077】
ステップS18: 模擬停電部151は、充放電制御部170に指令して電池部110の充電を再開し、電池部110を負荷試験前の充電電圧まで回復させる。
【0078】
ステップS19: 負荷試験部150は、「負荷試験:無事完了」を管理センターなどにリモート出力して、負荷試験モードの動作を終了する。
【0079】
上述した一連の動作手順によって、電池部110(電力供給システム100)に対する負荷試験が完了する。
【0080】
《動作その2:自律運用モードの動作》
続いて、電力供給システム100における平時および停電時の自律運用の動作について説明する。
【0081】
図8および
図9は、自律運用モードの動作を例示する流れ図である。
以下、
図8および
図9に示すステップ番号に沿って、この動作を説明する。
【0082】
ステップS101: 充放電制御部170は、サイクル運用(充電←→放電)の充電タイミングか否かを判定する。一般に充電タイミングには、夜間などの定期のタイミングや、電池消耗などによる臨時のタイミングがある。充電タイミングであれば、充放電制御部170はステップS102に動作を進める。一方、充電タイミングでない場合、充放電制御部170はステップS106に動作を移行する。
【0083】
ステップS102: 充放電制御部170は、充電タイミングにおいて、電池部110をサイクル運用の放電開始電圧まで充電する。
【0084】
ステップS103: 余剰検出部155は、負荷試験時に求めた電池部110の余剰電力をサイクル運用の放電開始電圧に基づいて修正することによって、現時点の余剰電力を求める。
【0085】
ステップS104: 脈流計測部110aは、電池部110の端子に脈流を与え、内部インピーダンスを求めて、負荷試験部150に伝達する。
【0086】
ステップS105: 負荷試験部150は、内部インピーダンスに基づいて、電池部110の劣化診断や電力損失の計算を行う。負荷試験部150は、ここまでの結果を「電池部110の状態(現時点の余剰電力、劣化診断、電池内部の電力損失など)」として、管理センターなどにリモート出力する。
【0087】
ステップS106: 停電時給電部120は、受電系統210を監視して、停電状態の発生を遅滞なく発見する。
【0088】
ステップS111: 停電が発生した場合、停電時給電部120は、ステップS117に動作を移行する。一方、平時(非停電)の場合、停電時給電部120は、ステップS112に動作を進める。
【0089】
ステップS112: 平時給電部130は、電池部110の電力系統を別系統220へ電源接続して電力供給を行う。停電時給電部120内のパワースイッチ回路は、受電系統210を設備Zに電源接続して電力供給を行う。
なお、平時給電部130は、電池部110からの電力供給量と、受電系統210からの電力供給量との比率(バルブやスイッチングコンバータなどによるコントロール)を設定値や調整プログラムで可変して、別系統220へ電力供給を行ってもよい。それによって余剰電力の分の供給持続時間を時間延長することが可能になる。
【0090】
ステップS113: 平時検出部140A~Bは、電池部110から別系統220への電力供給量(電圧供給ラインの電流積算量など)を検出する。
【0091】
ステップS114: 余剰検出部155は、現時点の余剰電力から、ステップS113で検出した電力供給量の分を減算することによって、現時点の余剰電力を最新データに更新する。
【0092】
ステップS115: 余剰検出部155は、現時点の余剰電力の最新データを管理センターなどにリモート出力する。
【0093】
ステップS116: 平時給電部130は、余剰電力によって規定される範囲を超えないように、電力供給量を制限する制御を自律的に行う。このとき万一にも、電池消耗によって余剰電力に余裕がなくなった場合、平時給電部130は、別系統220への給電を一旦停止し、臨時の充電タイミングへの移行を充放電制御部170に指令する。以上の動作の後、平時給電部130は、ステップS101に動作を戻す。
【0094】
ステップS117: このステップでは、受電系統210は停電状態にあるため、受電系統210から設備Zへの電力供給は不可能になる。そこで、停電時給電部120内のパワースイッチ回路は、設備Zから受電系統210を切り離して、電池部110から設備Zへの電力供給を優先的に開始する。このとき、平時給電部130が電池部110から別系統220への電力供給を自律的に停止または抑制することで、停電時における設備Zの駆動可能時間を長くしてもよい。
【0095】
ステップS118: 停電時給電部120は、受電系統210の停電状態が解消したか否かを監視する。停電状態が解消しない場合、停電時給電部120はステップS117に動作を戻す。一方、停電状態が解消して平時と判定された場合、停電時給電部120はステップS101に動作を戻す。
【0096】
上述した一連の動作手順を適宜に繰り返すことによって、電力供給システム100の自律的な動作(平時および停電時の電力供給)が実現する。
【0097】
《実施例1の効果》
以下、実施例1が奏する効果について説明する。
【0098】
(1)先行技術(特許文献1)においては蓄電システムの負荷試験について課題を解決しない。そのため、従来通りに巨大な模擬負荷を逐一持ち込んで負荷試験を行う必要があり、大変な作業になるという問題が予想される。
【0099】
それに対して、本実施例1は、平時に電池部110の電力を供給する別系統220を模擬負荷とみなして負荷試験を実施する。そのため、本実施例1は、巨大な模擬負荷を逐一持ち込む必要がなく、負荷試験の作業を省力化できるという点で優れている。
【0100】
(2)また、従来の熱抵抗器のような模擬負荷では、負荷試験のために出力する電力は放熱によって失われるため電力の無駄が多い。しかしながら、本実施例1では、負荷試験のために出力する電力を、模擬負荷である別系統220側でそのまま有効利用できる。そのため、本実施例1は、負荷試験に際して電力の無駄が少ないという点で優れている。
【0101】
(3)特に、本実施例1において、電池部110の放電可能な電池容量を、負荷試験に必要な電池容量の2倍以上(または余剰電力≧設備Zの法定時間駆動に必要な電力)に大きくした場合、負荷試験の直後であっても、設備Zの法定運転時間の停電時駆動が保証できる。この場合、本実施例1は、電池部110から別系統220へ電力供給する平時の動作中に、負荷試験モードを随時に実施できるという点で優れている。その場合、負荷試験後の余剰電力の実測または推定が随時に可能になる。
【0102】
(4)また、本実施例1は、別系統220の負荷と設備Zの負荷との違いに基づく換算処理を行う。そのため、別系統220の負荷が異なっても、設備Zの法定運転時間の駆動に換算することが可能になる。したがって、本実施例1は、設備Zと別系統220の負荷が違っても、設備Zの法定運転時間の駆動を模擬的に実証できるという点で優れている。
【0103】
(5)特に、本実施例1は、別系統220への放電電流を、設備Zへの放電電流パターンに換算することで、設備Zの法定運転時間に達するか否かを模擬的に動作確認する。この放電電流パターンには、設備Zの始動時に必要な大きな突入電流も含まれる。また、設備Zの動作制御に伴う電流の経時的な増減パターンも含まれる。そのため、本実施例1は、設備Zの始動電流(突入電流)や、設備Zの動作制御に伴う電流の経時的な増減変化まで想定した実証的な負荷試験が可能になるという点で優れている。
【0104】
(6)また、本実施例1は、負荷試験において電池部110の正常/異常を判定する。そのため、本実施例1は、設備Zの駆動能力についての試験だけではなく、電池部110の正常/異常も含めて試験できるという点で優れている。
【0105】
(7)特に、本実施例1は、電池部110の正常/異常の試験を自動化したため、電池部110の正常/異常を目視確認するための立会人が不要になる。したがって、本実施例1では、負荷試験を省力化できるという点で優れている。
【0106】
(8)一般に、電池部110の電池容量(SOC)は、任意の時点における電池部110の電気的特性(端子電圧など)から推定される。しかし、この電池容量の推定では、設備Zの法定運転時間の駆動分に余る残容量(余剰電力)を実証的に求めたとはいえない。
【0107】
一方、本実施例1では、負荷試験を経て設備Zの法定運転時間の駆動分を模擬的に消費した後に、電池部110に余る余剰電力を求める。したがって、本実施例1は、設備Zの法定運転時間の駆動分に余る残容量(余剰電力)を実証的に求めることができるという点で優れている。
【0108】
(9)このように本実施例1では、負荷試験を経て余剰電力を実証的に求めるため、その時点における余剰電力が正確に得られる。そのため、本実施例1は、余剰電力のぎりぎりまで別系統220に電力供給することで、別系統220への電力供給量を拡大できるという点で優れている。
【0109】
図10は、電池部110の電力配分の一例を説明する図である。
図10において、電池の総容量52.2kwhから、利用不可容量2.5kwhを除いた容量49.7kwhが放電可能な最大の電池容量(定格容量または公称容量)になる。
【0110】
ここで、設備Zの法定運転時間の駆動に必要な容量を15.2kwhとし、電池部110の長期劣化の想定容量を最大9.9kwh(定格容量の20%程度)と見積もると、別系統220への供給可能容量(余剰電力)は24.6kwhが最大限界になる。
【0111】
しかし、負荷試験部150による負荷試験を経て、その劣化時点(最新時点)の正確な余剰電力が得られるので、長期劣化の想定容量9.9kwhの余裕を毎回持たせる必要がなくなる。その結果、別系統220への供給可能容量(余剰電力)は、
図10の時点でぎりぎりの34.5kwhまで使用可能になる。
【0112】
(10)さらに、本実施例1は、余剰電力によって規定される範囲に制限して、別系統220への電力供給を平時に実施する。そのため、いつ停電しても、電池部110から「設備Zの法定運転時間の駆動分」を電源確保することが可能になる。したがって、本実施例1は、不測の停電に備えて、「設備Zの法定運転時間の駆動分」を電源確保できるという点で優れている。
【0113】
(11)本実施例1は、始動電流抑制部160A~Bによって設備Zの始動時の始動電流を抑制する。そのため、
図4~
図6に図示したように、その抑制分だけ余剰電力を増加させることが可能になる。したがって、本実施例1は、過大な始動電流が流れることによる電池部110や回路部分への悪影響を改善すると共に、余剰電力を増加できるという二点において、優れている。
【0114】
(12)本実施例1は、電池部110の端子に脈流を与えて電池部110の内部インピーダンスを求める。この内部インピーダンスに基づいて、電池部110の劣化診断が可能になる。この劣化診断を負荷試験と一緒に行うことにより、負荷試験の結果(失敗)が、電池部110の劣化に起因するものか否かを判別できる。もしも、電池部110の劣化が原因であれば、電池部110の交換が必要と判断される。
【0115】
一方、さほど劣化していないにもかかわらず、負荷試験に失敗した場合には、電池部110以外の故障を検討するなどの対応が可能になる。したがって、本実施例1は、内部インピーダンスの検出によって、負荷試験の結果をより管理責任者が精緻に判断(切り分け)できるという点で優れている。
【0116】
さらに、内部インピーダンスを求めることによって、内部インピーダンスによる電池部110の電力損失を正確に見積もることができるため、余剰電力を正確に修正することが可能になる。
続いて、複数の蓄電所X1~Xnを統合して仮想発電所とする実施例2について説明する。なお、実施例2では、説明を簡明にするため、添字1~nの表記を適宜に省略する場合がある。
分散型エネルギーリソース310は、分散する所在地域P1~Pnそれぞれに配置される蓄電所X1~Xnと、停電時に蓄電所X1~Xnからそれぞれ給電を受ける設備Z1~Znと、蓄電所X1~Xnにそれぞれ敷設される受電系統210と別系統220を備える。
蓄電所X1~Xnごとに敷設される受電系統210や別系統220は、地域ごとの敷設となるため、近隣地域について相互の送電は可能になっても、ある程度離れると相互の送電は不可能になる。
情報部320は、蓄電所X1~Xn内の電池部110について、余剰検出部155が求める余剰電力に関する情報をリモート収集して、分散型エネルギーリソース310の情報としてリソースアグリゲータ500に提供する機能を有する。
また、情報部320は、蓄電所X1~Xn(各々の電池部110)について所在地域P1~Pnを情報管理する機能と、災害情報を取得する機能とを備える。情報部320は、災害情報により被災地域Dを情報取得すると、被災地域Dとは別の所在地域P(以下「安全地域SS」という)にある電池部110を選定する。情報部320は、これら安全地域SSの電池部110の余剰電力に関する情報を、安全地域SSの分散型エネルギーリソース310の情報としてリソースアグリゲータ500に提供する。
さらに、情報部320は、蓄電所X1~Xn(各々の電池部110)について送電地域を情報管理する機能を備える。情報部320は、災害情報により被災地域Dを情報取得すると、被災地域Dの少なくとも一部を送電地域に含み、かつ被災地域Dとは別の所在地域P(以下「補助地域SA」という)にある電池部110を選別する。情報部320は、これら補助地域SAの電池部110の余剰電力に関する情報を、被災地域Dへの電力供給が可能な分散型エネルギーリソース310の情報としてリソースアグリゲータ500に提供する。
ステップS201: 蓄電所X1~Xnは、随時のタイミング(スケジュールなど)で、別系統220を模擬負荷とする負荷試験モード(実施例1参照)をリモートで行う。ここで負荷試験に失敗した蓄電所Xについては、保守メンテナンスが別途必要になるため、分散型エネルギーリソース310から一旦外される。
ステップS203: 情報部320は、蓄電所X1~Xnの余剰電力を、リソースアグリゲータ500が要求するデータ仕様(例えば、所在地域Pの情報や送電地域の情報との組み合わせ)に準拠して、分散型エネルギーリソース310の情報群を生成する。
ステップS205: リソースアグリゲータ500は、分散型エネルギーリソース310の情報群に基づいて所在地域P1~Pn別に電力の需給調整を計画する。リソースアグリゲータ500は、この需給調整に基づいて蓄電所X1~Xn別の電力供給の指令を生成して、情報部320に与える。情報部320は、受け取った電力供給の指令を、対応する蓄電所X1~Xnそれぞれにリモートで出力する。
ステップS206: 蓄電所Xの平時給電部130は、電力供給の指令に応じて、余剰電力によって規定される範囲に制限しつつ、電池部110から別系統220の送電先へ電力供給を実施する。
このとき設備Zで停電が生じると、停電時給電部120は、電池部110から設備Zへの電力供給を優先して自律運用(実施例1と同じ)に切り替わる。情報部320は、その旨をリソースアグリゲータ500に通知する。
ステップS207: 情報部320は、気象庁や警察署などの情報源に通信ネットワークなどを介してアクセスし、蓄電所X1~Xnの所在地域P1~Pnについて、災害関連の情報を取得する。
ステップS208: 蓄電所X1~Xnのいずれかの所在地域Pについて災害情報(災害発生に関する情報)を取得すると、情報部320はステップS211に動作を進める。一方、所在地域P1~Pnについて災害情報を取得しない場合、情報部320は、ステップS201に動作を戻す。
ステップS211: 情報部320は、その時点の災害情報の被災地域Dに該当する蓄電所Xを自律運用モード(実施例1と同じ)に切り替え、その旨をリソースアグリゲータ500に通知する。
なお、災害時には通信不可の地域が発生する。そこで、情報部320は、通信不可の蓄電所Xの所在地域Pを被災地域D(つまり災害に起因して通信障害が発生した地域)として扱う。なお、情報部320と通信不可の蓄電所Xは、自律運用モード(実施例1と同じ)に自動的に切り替わる。
ステップS213: 情報部320は、分散型エネルギーリソース310の中から被災地域Dに該当する蓄電所X(電池部110)を除くことで、安全地域SSの蓄電所X(電池部110)を選定する。
ステップS214: 情報部320は、安全地域SSの蓄電所Xの内で、別系統220の送電地域(送電先)が被災地域Dの少なくとも一部に該当するものを探索し、探索された蓄電所Xの所在地域Pを補助地域SAに選定する。このように選定される補助地域SAは、安全地域SSにあって被災地域Dへの送電が可能な地域である。
ステップS217: リソースアグリゲータ500は、分散型エネルギーリソース310の情報群に基づいて安全地域SS/補助地域SA/被災地域Dの区分別に電力の需給調整を計画する。リソースアグリゲータ500は、需給調整に基づいて電力供給の指令を生成し、情報部320に与える。情報部320は、受け取った電力供給の指令を、対応する蓄電所Xそれぞれにリモートで分配する。
ステップS218: 蓄電所Xの平時給電部130は、安全地域SS/補助地域SA/被災地域Dの区分に応じた電力供給の指令に応じて、余剰電力によって規定される範囲に制限しつつ、電池部110から別系統220の送電先へ電力供給を実施する。
このとき設備Zで停電が発生すると、停電時給電部120は、電池部110から設備Zへの電力供給を優先して自律運用モード(実施例1と同じ)に切り替わる。情報部320は、その旨をリソースアグリゲータ500に通知する。
ステップS219: 情報部320は、気象庁や警察署などの情報源に通信ネットワークなどを介してアクセスし、蓄電所X1~Xnの所在地域P1~Pnについて、災害関連の情報を取得する。
ステップS220: 情報部320は、災害関連の情報に基づいて、所在地域P1~Pnについてライフラインが完全回復したか否かを判定する。ライフラインが完全回復した場合、情報部320はステップS201に動作を戻す。一方、ライフラインが完全回復していない場合、情報部320はステップS211に動作を戻す。なお、この動作は人間が判断して行ってもよい。
(1)設備Zの停電時用に従来設置される予備電源(予備発電機を含む)を、蓄電所Xに置き換えた場合、全国20万ヶ所で2300万kW程度の仮想発電所(分散型エネルギーリソース310)を実現することが可能になる。本実施例2は、このような大規模の仮想発電所になっても、停電時には予備電源としての自律動作を蓄電所Xごとに保障できるという点で優れている。
(2)本実施例2では、蓄電所Xごとにスケジュールに合わせて負荷試験モードのリモート動作を実施する。そのため、本実施例2は、大規模の仮想発電所になっても、蓄電所Xそれぞれの負荷試験を漏れなく実施できるという点で優れている。
(3)本実施例2では、災害情報に応じて、被災地域Dを除いた安全地域SSを選定する。これら安全地域SSの蓄電所X(電池部110)の余剰電力に関する情報は、安全地域SSの分散型エネルギーリソース310の情報としてリソースアグリゲータ500に提供される。したがって、本実施例2は、電力需要が逼迫する災害発生時においても、安全地域SSの余剰電力を確実に確保できるという点で優れている。
(4)本実施例2では、災害情報に応じて、安全地域SSの内で被災地域Dに送電可能な補助地域SAを選定する。これら補助地域SAの蓄電所X(電池部110)の余剰電力に関する情報は、補助地域SAの分散型エネルギーリソース310の情報としてリソースアグリゲータ500に提供される。したがって、本実施例2は、被災地域Dに送電可能な補助地域SAの余剰電力を確実に確保できるという点で優れている。
(5)特に本実施例2では、災害情報に応じて、被災地域Dの蓄電所Xを自律運用モードに切り替える。したがって、本実施例2は、情報部320のリモート制御なしに、被災地域Dにおいて蓄電所Xが自律的に動作するという点で優れている。
また、上述した実施形態では、リチウムイオン電池のような放電の時間率を考慮する必要が少ないシステムを前提とした。しかしながら、本発明はこれに限定されない。例えば、鉛蓄電池のような放電の時間率を考慮すべき電池部110については、負荷試験部150(放電計算部152または放電パターン換算部153など)は、放電の時間率を考慮して電力供給量の換算を行ってもよい。
さらに、上述した実施形態では、停電時給電部120と平時給電部130とを独立した機能として説明した。しかしながら、停電時給電部120および平時給電部130を機能統合して一体化してもよい。
また、上述した実施形態では、保証運転時間の一つとして法定運転時間を想定した負荷試験について説明を行った。しかしながら、本発明はこれに限定されない。例えば、法定運転時間に余裕分の時間を加えた保証運転時間について負荷試験を実施してもよい。また例えば、法定運転時間が特に定まっていない場合には、業界または自主的に制定した保証運転時間について負荷試験を実施してもよい。
さらに、上述した実施形態では、電池部110として、リチウムイオン組み蓄電池などの蓄電池を使用する場合について説明した。しかしながら、本発明の電池部110は、設備Zの予備電源として利用可能な電池であればよい。例えば、電池部110として、燃料供給によって電力回復する燃料電池などを採用してもよい。
また、上述した実施形態では、定置型の電池部110を前提として説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されない。電車や自動車や船舶や飛行機やモバイル装置などの可搬型の電池を予備電源として電池部110に採用してもよい。その場合、情報部320は、可搬型の電池部110の位置情報(所在地域Pや送電地域)をGPSシステムなどによって管理することが好ましい。
例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために全体を詳細に説明したものであり、本発明は必ずしも説明した全ての部品や構成や機能やステップやデータ構造を備えるものに限定されない。