(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121885
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】垂直共振器型発光素子及び垂直共振器型発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/183 20060101AFI20240902BHJP
H01S 5/20 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H01S5/183
H01S5/20 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029100
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉本 大
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AC03
5F173AC35
5F173AC46
5F173AC53
5F173AH22
5F173AP33
5F173AP63
5F173AR24
(57)【要約】
【課題】共振器内における光損失を防ぎ、安定した強度の光を出射させることが可能な垂直共振器型発光素子を提供する。
【解決手段】
基板と、基板上に形成された第1の多層膜反射鏡と、第1の多層膜反射鏡上に形成された第1の導電型を有する第1の半導体層、第1の半導体層上に形成された発光層、及び発光層上に形成されており、上面の中央の1の領域が上面の1の領域の周縁の領域よりも上方に突出しておりかつ第1の導電型と反対の第2の導電型を有する第2の半導体層を含む半導体構造層と、半導体構造層上に形成され、第1の多層膜反射鏡との間で共振器を構成する第2の多層膜反射鏡と、を有し、第2の半導体層において、上面の前記1の領域に沿った第1の部分よりも周縁の領域に沿った第2の部分の方が、水素濃度が高い。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された第1の多層膜反射鏡と、
前記第1の多層膜反射鏡上に形成された第1の導電型を有する第1の半導体層、前記第1の半導体層上に形成された発光層、及び前記発光層上に形成されており、上面の中央の1の領域が前記上面の前記1の領域の周縁の領域よりも上方に突出しておりかつ前記第1の導電型と反対の第2の導電型を有する第2の半導体層を含む半導体構造層と、
前記半導体構造層上に形成され、前記第1の多層膜反射鏡との間で共振器を構成する第2の多層膜反射鏡と、を有し、
前記第2の半導体層において、前記上面の前記1の領域に沿った第1の部分よりも前記周縁の領域に沿った第2の部分の方が、水素濃度が高いことを特徴とする垂直共振器型発光素子。
【請求項2】
前記第2の部分は、前記第1の部分よりも水素濃度が2倍以上高いことを特徴とする請求項1に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項3】
前記第2の半導体層の上面に亘って形成された透光性を有する導電膜を有し、
前記第2の部分における水素濃度は、前記1の領域上の前記導電膜における水素濃度よりも10倍以上高いことを特徴とする請求項2に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項4】
前記第2の半導体層の上面に亘って形成された透光性を有する導電膜を有し、
前記第1の部分における水素濃度は、前記周縁の領域上の前記導電膜における水素濃度よりも10倍以上低いことを特徴とする請求項2に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項5】
前記周縁の領域上に設けられた電気絶縁性を有する絶縁層と、
前記絶縁層及び前記第1の部分を覆って形成された透光性を有する導電膜と、を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項6】
前記1の領域上に形成され、前記第1の導電型を有する半導体層及び前記第2の導電型を有する半導体層からなるトンネル接合層と、
前記トンネル接合層上に形成された前記第1の導電型を有する第3の半導体層と、
前記周縁の領域上に形成された前記第1の導電型を有する第4の半導体層と、を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の垂直共振器型発光素子の製造方法であって、
前記第2の半導体層の前記第2の部分にイオン注入法によって水素イオンを注入する水素イオン注入工程を含むことを特徴とする垂直共振器型発光素子の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の垂直共振器型発光素子の製造方法であって、
前記第2の半導体層上において、内部に所定濃度以上の水素を含むように所定の成膜レートで導電膜を形成する導電膜形成工程と、
前記導電膜形成工程において形成した前記導電膜に含まれる水素をアニール処理によって前記第2の半導体層内へと移動させるアニール処理工程と、
通電によって前記第2の半導体層の前記第1の部分に含まれている水素を前記第1の半導体層側に移動させる通電工程と、
を含むことを特徴とする垂直共振器型発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直共振器型発光素子及び垂直共振器型発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザの1つとして、発光層を含む半導体層と当該半導体層を挟んで互いに対向する2つの多層膜反射鏡とを有する垂直共振器型発光素子が知られている。例えば、特許文献1には、対向する2つの多層膜反射鏡によって光共振器を構成し、n型半導体層及びp型半導体層にそれぞれ接続されたn電極及びp電極を有する垂直共振器型面発光レーザ(Vertical Cavity Surface Emitting Laser:VCSEL)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている垂直共振器型面発光レーザにおいては、n電極及びp電極を介して発光層に電流が流れることで、発光層から放出された光が光共振器内で共振してレーザ光が生成される。例えば、上記のような垂直共振器型面発光レーザに長期間に亘って通電がなされた場合、光共振器内における光閉じ込め領域と電流閉じ込め領域との間にずれが生じることで光損失が増大し、レーザ発振を開始する電流値である閾値電流が増加し得る。
【0005】
例えば、このような垂直共振器型面発光レーザを電流一定駆動条件にて使用されるディスプレイやヘッドランプなどのデバイスに適用した際においては、出射される光の強度が低下してしまうという問題点が挙げられる。
【0006】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、共振器内における光損失を防ぎ、安定した強度の光を出射させることが可能な垂直共振器型発光素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による垂直共振器型発光素子は、基板と、前記基板上に形成された第1の多層膜反射鏡と、前記第1の多層膜反射鏡上に形成された第1の導電型を有する第1の半導体層、前記第1の半導体層上に形成された発光層、及び前記発光層上に形成されており、上面の中央の1の領域が前記上面の前記1の領域の周縁の領域よりも上方に突出しておりかつ前記第1の導電型と反対の第2の導電型を有する第2の半導体層を含む半導体構造層と、前記半導体構造層上に形成され、前記第1の多層膜反射鏡との間で共振器を構成する第2の多層膜反射鏡と、を有し、前記第2の半導体層において、前記上面の前記1の領域に沿った第1の部分よりも前記周縁の領域に沿った第2の部分の方が、水素濃度が高いことを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1に係る垂直共振器型面発光レーザの上面図である。
【
図2】実施例1に係る垂直共振器型面発光レーザの断面図である。
【
図3】実施例1に係る垂直共振器型面発光レーザの第1の製造方法における製造工程を示す断面図である。
【
図4】実施例1に係る垂直共振器型面発光レーザの第1の製造方法における製造工程を示す断面図である。
【
図5】実施例1に係る垂直共振器型面発光レーザの第1の製造方法における製造工程を示す断面図である。
【
図6】実施例1に係る垂直共振器型面発光レーザの第1の製造方法における製造工程を示す断面図である。
【
図7】実施例1に係る垂直共振器型面発光レーザの第2の製造方法における製造工程を示す断面図である。
【
図8】実施例1の変形例に係る垂直共振器型面発光レーザの断面図である。
【
図9】実施例1の変形例に係る垂直共振器型面発光レーザの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例について図面を参照して具体的に説明する。なお、図面において同一の構成要素については同一の符号を付け、重複する構成要素の説明は省略する。
【実施例0010】
図1及び
図2を用いて、実施例1に係る垂直共振器型面発光レーザ100(以下、面発光レーザ100と称する)の構成について説明する。
図1は、面発光レーザ100の上面図である。また、
図2は、
図1に示した面発光レーザ100の2-2線に沿った断面図である。なお、
図2において、図中上下方向が面発光レーザ100の高さ方向である。
【0011】
基板11は、上面形状が矩形を有する平板状の透明な基板である。基板11は、その上面において半導体結晶を成長させることが可能な成長用基板である。本実施例において、基板11は、例えばアンドープの窒化ガリウム(GaN)などの、青色の波長を有する光に対して透光性を有する材料からなる。以下の説明においては、基板11の上面の中心を通りかつ当該上面に垂直な軸を中心軸AXとして説明する。
【0012】
第1の多層膜反射鏡12は、基板11の上に成長させられた半導体層からなる半導体多層膜反射鏡である。第1の多層膜反射鏡12は、基板11の上面において高屈折率半導体膜と当該高屈折率半導体膜よりも屈折率が低い低屈折率半導体膜とが交互に積層された、いわゆる分布ブラッグ反射器(Distributed Bragg Reflector:DBR)である。
【0013】
第1の多層膜反射鏡12は、例えば、基板11の上面においてGaNからなる高屈折率半導体膜と窒化インジウムアルミニウム(AlInN)からなる低屈折率半導体膜とが44ペア積層されてなる。第1の多層膜反射鏡12は、このような構成を有することにより、青色の波長域の光に対して反射性を有する。なお、基板11と第1の多層膜反射鏡12との間にはGaNからなるバッファ層(図示せず)が設けられている。
【0014】
半導体構造層EMは、第1の多層膜反射鏡12上に形成された複数の半導体層からなる積層構造体である。半導体構造層EMは、第1の多層膜反射鏡12上に形成されたn型半導体層13と、n型半導体層13上に形成された発光層14と、発光層14上に形成されたp型半導体層15とを有する。
【0015】
以下、半導体構造層EMを構成するn型半導体層13、発光層14及びp型半導体層15の各々の構造について説明する。
【0016】
第1の導電型を有する第1の半導体層としてのn型半導体層13は、第1の多層膜反射鏡12の上面に亘って形成された半導体層である。n型半導体層13は、GaNからなり、n型不純物としてシリコン(Si)がドーピングされている。
【0017】
n型半導体層13は、平板状の下部13Aと下部13Aの中央から中心軸AXに沿って上方に突出している円柱状の上部13Bとから構成される、いわゆるメサ形状の構造を有する。
【0018】
発光層14は、n型半導体層13の上部13Bに亘って形成され、InGaNからなる井戸層及びGaNからなる障壁層が互いに積層された量子井戸構造を有する半導体層である。発光層14は、その発光中心が中心軸AX上に持ちこされるように形成されている。発光層14は、例えば450nmをピーク波長とする青色光を放出する。
【0019】
第2の導電型を有する第2の半導体層としてのp型半導体層15は、発光層14の上面に亘って形成されている半導体層である。p型半導体層15は、GaNからなり、p型不純物としてマグネシウム(Mg)がドーピングされている。
【0020】
p型半導体層15は、上面において、円形状を有しかつ中心軸AXを通る領域である第1の領域15R1と、第1の領域15R1の周縁の領域でありかつ第1の領域15R1よりも下方に窪んでいる円環状の第2の領域15R2とを有する。言い換えれば、p型半導体層15の上面において、第1の領域15R1は第2の領域15R2よりも上方に突出している。
【0021】
p型半導体層15において、第2の領域15R2は、p型半導体層15にドーピングされたp型不純物(Mg)が電気的に不活性化された領域である。第2の領域15R2は、例えば、平板状のp型半導体層の上面に円形状の領域(第1の領域15R1)を残してドライエッチングを行うことで形成される。第2の領域15R2においては、ドライエッチングによってその表面が粗面化されることにより、p型不純物の不活性化がなされている。
【0022】
具体的には、p型不純物は、p型半導体層の形成時にはp型半導体層15の結晶の格子位置に配されることで電気的に活性化された状態となっている。これが第2の領域15R2においては、p型不純物は、ドライエッチングを経てp型半導体層15の結晶の格子位置から外れた状態、すなわち電気的に不活性な状態となっている。言い換えれば、第2の領域15R2は、p型不純物がキャリアを生成しにくい領域となっている。
【0023】
従って、p型半導体層15の上面において、第2の領域15R2は第1の領域15R1よりも高い電気抵抗を有する高抵抗領域として機能する。一方、ドライエッチングが行われていない領域、すなわちp型不純物が電気的に活性化されている領域である第1の領域15R1は、第2の領域15R2よりも低い電気抵抗を有する低抵抗領域として機能する。
【0024】
また、p型半導体層15においては、第1の領域15R1に沿ったp型半導体層15の表層部分である第1の部分15P1よりも、第2の領域15R2に沿ったp型半導体層15の表層部分である第2の部分15P2の方が、水素濃度が高くなっている。第1の部分15P1及び第2の部分15P2は、例えばp型半導体層15の上面から40nmの範囲である。
【0025】
具体的には、p型半導体層15において、第2の部分15P2における水素濃度は、第1の部分15P1における水素濃度よりも2倍以上高くなっている。例えば、第1の部分15P1における水素濃度は1×1018/cm3であり、第2の部分15P2における水素濃度は5×1018/cm3である。
【0026】
n電極NEは、n型半導体層13の下部13Aの上面に設けられており、n型半導体層13と電気的に接続されている上面形状が環状の金属電極である。n電極NEは、面発光レーザ100を上から見た平面視において、n型半導体層13の上部13Bを囲繞しつつ上部13Bと離隔して形成されている。n電極NEは、例えば下部13Aの上面にチタン(Ti)及びアルミニウム(Al)がこの順で積層されてなる。
【0027】
透明導電膜16は、p型半導体層15の第1の領域15R1に電気的に接続され、p型半導体層15の上面に亘ってかつp型半導体層15の上面形状に沿って形成されている透明な金属酸化膜である。透明導電膜16は、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)や酸化インジウム亜鉛(IZO)などの、発光層14から放出された青色光に対して透光性を有する金属酸化物からなる。
【0028】
p電極PEは、透明導電膜16の上面の外縁に沿って形成されており、透明導電膜16と電気的に接続されている上面形状が環状の金属電極である。p電極PEは、例えば金(Au)からなる。
【0029】
絶縁層17は、透明導電膜16の上面においてp電極PEよりも内側にかつp電極PEと離隔して形成されており、上面形状が円形の絶縁性を有する透明な層である。絶縁層17は、面発光レーザ100を上から見た平面視において、上述したp型半導体層15の第1の領域15R1を覆って形成されている。なお、p電極PEが絶縁層17と離隔されるのではなく、一部が絶縁層17の下にあってもよい。
【0030】
絶縁層17は、例えば、五酸化タンタル(Ta2O5)、五酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化亜鉛(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化ハフニウム(HfO2)などの、発光層14から放出された青色光に対して透光性を有する金属酸化物からなる。
【0031】
第2の多層膜反射鏡18は、絶縁層17の上面に成長させられた半導体層からなる円柱状の半導体多層膜反射鏡である。第2の多層膜反射鏡18は、絶縁層17の上面において高屈折率半導体膜と当該高屈折率半導体膜よりも屈折率が低い低屈折率半導体膜とが交互に積層された、いわゆる分布ブラッグ反射器(DBR)である。
【0032】
第2の多層膜反射鏡18は、例えば、絶縁層17の上面においてTa2O5からなる高屈折率半導体膜と酸化アルミニウム(Al2O3)からなる低屈折率半導体膜とが10ペア積層されてなる。第2の多層膜反射鏡18は、このような構成を有することにより、発光層14から放出される青色光に対して反射性を有する。
【0033】
面発光レーザ100において、第2の多層膜反射鏡18の下面は、絶縁層17、透明導電膜16及び半導体構造層EMを挟んで第1の多層膜反射鏡12の上面と対向している。これにより、第1の多層膜反射鏡12及び第2の多層膜反射鏡18は、第1の多層膜反射鏡12と第2の多層膜反射鏡18との間において半導体構造層EMに垂直な方向(基板11に垂直な方向)を共振器長方向とする共振器OCを構成する。
【0034】
面発光レーザ100において、第1の多層膜反射鏡12の上述した青色光に対する反射率は、第2の多層膜反射鏡18の青色光に対する反射率よりもわずかに低くなっている。従って、共振器OCにおいて共振した青色光は、その一部が第1の多層膜反射鏡12及び基板11を透過して外部に取り出される。すなわち、第1の多層膜反射鏡12と第2の多層膜反射鏡18との間で共振した光は、
図2中下方に向けて出射される。
【0035】
なお、基板11の下面には、Nb
2O
5と二酸化ケイ素(SiO
2)とを積層させた反射防止膜(図示せず)が形成されている。当該反射防止膜は、基板11から出射される青色光が基板11によって
図2中上方に反射されることを抑制する、いわゆるARコートである。
【0036】
ここで、面発光レーザ100の動作について説明する。上述したn電極NE及びp電極PEに電圧が印加されてn電極NEとp電極PEとの間に電流が流れると、
図2中太線一点鎖線矢印にて示すように半導体構造層EMの発光層14に電流が流れ、所定の電流値である閾値電流に達すると発光層14から放出される青色光の強度が急激に増加する。
【0037】
閾値電流に達して発光層14から放出された青色光は、第1の多層膜反射鏡12と第2の多層膜反射鏡18との間において、すなわち共振器OCにおいて反射を繰り返し、共振状態に至る(すなわちレーザ発振を行う)。
【0038】
このとき、p型半導体層15においては、上述したようにp型不純物が不活性化された領域である第2の領域15R2が高抵抗領域として機能し、第2の領域15R2よりも電気抵抗が小さい第1の領域15R1が低抵抗領域として機能する。従って、p電極PEから透明導電膜16を介してn電極NEに流れる電流は、大部分が第1の部分15P1を介して流れていき、第2の部分15P2にはほとんど流れない。
【0039】
よって、面発光レーザ100においては、第2の領域15R2が高抵抗領域として機能する故に、第1の部分15P1にのみ電流が供給されて、第1の部分15P1からのみ青色光が放出される。すなわち、面発光レーザ100においては、p型半導体層15が発光層14における電流の供給範囲を制限する電流狭窄構造を有している。言い換えれば、面発光レーザ100においては、p型半導体層15によって電流がそれ以上広がらないよう電流の閉じ込めがなされている。
【0040】
上述したように、発光層14から放出されて共振器OC内において共振した青色光は、第1の多層膜反射鏡12の光反射率が第2の多層膜反射鏡18の光反射率よりも低いために、その光の一部が第1の多層膜反射鏡12及び基板11を透過して外部に取り出される。言い換えれば、基板11の下面が、面発光レーザ100の光出射面となっている。
【0041】
以下、面発光レーザ100の内部の光学的な特性について説明する。以下の説明においては、発光層14における発光領域の中心である発光中心を通る発光中心軸と中心軸AXとが同一であるものとして説明する。なお、発光中心軸は面発光レーザ100から出射されるレーザ光の光軸に対応する。
【0042】
面発光レーザ100の共振器OC内において、p型半導体層15の下面からp型半導体層15の第1の領域15R1までの厚みは、p型半導体層15の下面から第2の領域15R2までの厚みよりも第1の部分15P1分だけ厚くなっている。また、共振器OC内において、第1の多層膜反射鏡12と第2の多層膜反射鏡18の間の他の半導体層、透明導電膜16及び絶縁層17の層厚は一定となっている。
【0043】
従って、面発光レーザ100の共振器OC内における等価屈折率は、p型半導体層15の第1の部分15P1を含む円柱状の中央領域CAとその周りの筒状の周辺領域PAとで異なっている。具体的には、中央領域CAにおける等価屈折率は、周辺領域PAにおける等価屈折率よりも大きくなっている。
【0044】
面発光レーザ100においては、共振器OCがこのように構成されていることにより、中央領域CA内の定在波が周辺領域PAに発散(放射)することによる光損失が抑制される。すなわち、中央領域CAに多くの光が留まり、またその状態でレーザ光が外部に取り出される。
【0045】
つまり、面発光レーザ100においては、電流狭窄構造を形成するp型半導体層15によって、発光層14から放出された光を中央領域CA内に留める、すなわち閉じ込める光閉じ込め構造も形成されている。
【0046】
従って、発光層14から放出された多くの光が共振器OCの中心軸AXの周辺の中央領域CAに集中することで、高出力かつ高密度なレーザ光を生成及び出射することができる。すなわち、面発光レーザ100が上述した構成を有することにより、面発光レーザ100から出射されるレーザ光の横モード(レーザ光束の横断面における強度分布)を安定させることができる。
【0047】
[p型半導体層における水素の拡散による閾値電流増加の抑制]
ここで、p型半導体層15における水素の拡散による閾値電流増加の抑制について説明する。
【0048】
例えば、面発光レーザ100の製造が完了した初期状態においては、p型半導体層15内にて電流を閉じ込めている領域(第2の領域15R2によって囲まれている領域)と発光層14から放出される光を閉じ込めている領域(第1の領域15R1)の大きさは一致している。
【0049】
ここで、面発光レーザ100に長期に亘って通電がなされた場合には、例えば、p型不純物が不活性化されている領域である第2の領域15R2とp型不純物が活性化されている部分である第1の部分15P1との界面に電流が流れ続けることにより、第2の領域15R2において電気的に不活性化されたはずのp型不純物が電気的に活性な状態へと遷移していく。すなわち、第2の領域15R2における電気抵抗が小さくなり、第2の部分15P2に電流が流れやすくなる。
【0050】
面発光レーザ100への長期の通電によって第2の領域15R2におけるp型不純物が電気的に活性な状態へと遷移していった場合、共振器OC内において電流を閉じ込めている領域、すなわち第2の領域15R2によって囲まれた領域が徐々に広がり得る。これにより、共振器OC内において電流を閉じ込めている領域と発光層14から放出される光を閉じ込めている領域との大きさが不一致化してしまい、共振器OC内における光損失が増加し、レーザ発振に必要な閾値電流の増加が生じ得る。
【0051】
本実施例における面発光レーザ100においては、上述したように、p型半導体層15の第2の部分15P2における水素濃度が第1の部分15P1における水素濃度よりも高くなっている。面発光レーザ100においては、第1の部分15P1と第2の部分15P2との間に水素濃度差が生じていることにより、濃度勾配に従って水素が濃度の高い領域から低い領域へ、すなわち第2の部分15P2内からp型半導体層15内の中心軸AXの方に向かって水素が拡散していく。
【0052】
このとき、第2の部分15P2における水素濃度が第1の部分15P1における水素濃度よりも2倍以上の高さを有していることにより、上述したp型不純物の活性化の進行を相殺するに足る水素の拡散力を得ることができる。すなわち、p型半導体層15内において電流を閉じ込めている領域が広がることを抑制することができる。
【0053】
従って、面発光レーザ100において、p型半導体層15の第2の部分15P2における水素濃度が第1の部分15P1における水素濃度よりも2倍以上の高さを有していることにより、濃度勾配に従う水素の拡散力によって、共振器OC内において電流を閉じ込めている領域と光を閉じ込めている領域の大きさが不一致化することを防ぎ、共振器OC内に光損失が生じることを抑制することでレーザ発振の閾値電流が増加することを防ぐことができる。
【0054】
よって、例えば、面発光レーザ100を電流一定駆動条件にて使用されるディスプレイやヘッドランプなどのデバイスに長期に亘って適用した際においても、閾値電流の増加により出射される光の強度が低下してしまうことを防ぐことができる。すなわち、本実施例の面発光レーザ100によれば、安定した強度の光を出射することができる。
【0055】
[面発光レーザの第1の製造方法]
ここで、
図2~
図6を用いて、本実施例における面発光レーザ100の製造方法について説明する。以下においては、主にp型半導体層15における第1の部分15P1及び第2の部分15P2の形成に関する工程について説明する。
【0056】
まず、基板11の上面にGaNからなる高屈折率半導体膜とAlInNからなる低屈折率半導体膜とを積層して第1の多層膜反射鏡12を形成し、この上に基材としてのn型半導体層13M、発光層14M、p型半導体層15Mをこの順で成長させて形成する。
【0057】
次に、
図3に示すように、上述したn型半導体層13の上部13Bに相当する大きさの円形状のマスクMSをp型半導体層15Mの上面に形成し、当該マスク領域以外の露出部分をドライエッチングにより除去する。具体的には、
図4に示すように、n電極NEの形成面であるn型半導体層13の下部13Aが露出されるまでドライエッチングを実施する。
【0058】
次に、
図5に示すように、n電極NEの形成面である下部13Aの上面と第1の領域15R1に相当する大きさの円形状のマスクMSをp型半導体層15Mの上面に形成し、当該マスク領域以外の露出部分をドライエッチングにより除去する。具体的には、
図6に示すように、p型半導体層15の第2の領域15R2が露出されるまでドライエッチングを実施する。このドライエッチング工程により、第2の領域15R2において上述したp型不純物の不活性化がなされる。すなわち、第2の領域15R2が高抵抗領域として機能する。
【0059】
次に、イオン注入法により、p型不純物の不活性化がなされている第2の領域15R2に対して、イオン注入装置を用いてイオン化された水素を打ち込んで注入する。これにより、例えば5×1018/cm3程度の水素濃度を有する第2の部分15P2が得られる。
【0060】
なお、上述した工程においては、p型半導体層15Mのドライエッチングと第2の領域15R2への水素イオンの注入の順序を逆にしてもよい。すなわち、イオン注入の深さを調整して先に第2の領域15R2に相当する領域への水素イオンの注入を行い、その後ドライエッチングを行って第2の領域15R2を形成する、すなわちp型不純物を不活性化させるとしてもよい。
【0061】
次に、
図2に示すように、p型半導体層15の上面に亘って透明導電膜16を形成する。透明導電膜16は、例えば、スパッタリングにより、スパッタ装置を用いて100nm/minの成膜レート及び150℃の温度で成膜することにより形成される。
【0062】
以降、
図2に示すように、透明導電膜16の上面に絶縁層17及び第2の多層膜反射鏡18を形成し、n型半導体層13の下部13Aにn電極NE、透明導電膜16の上面にp電極PEをそれぞれ形成することで、本実施例における面発光レーザ100を得ることができる。
【0063】
なお、本実施例においては、ドライエッチングによってp型不純物が不活性化された領域である第2の領域15R2を得るとしたが、第2の領域15R2の形成方法はドライエッチングに限定されない。例えば、p型半導体層15の第2の領域15R2は、p型半導体層15の表面をわずかに除去した上で、イオン注入を行うことでp型不純物の不活性化を行ってもよく、また、アッシング処理によりp型不純物の不活性化を行ってもよい。
【0064】
[面発光レーザの第2の製造方法]
次に、
図7を用いて、上述した面発光レーザ100の第1の製造方法と異なる第2の製造方法について説明する。
【0065】
本製造方法においては、第2の部分15P2における水素濃度の調整方法が第1の製造方法と異なっており、ドライエッチングによりp型不純物の不活性化がなされた第2の領域15R2を有するp型半導体層15を形成する工程までは第1の製造方法と同様である。以下、主に第1の製造方法と異なる点について説明する。
【0066】
まず、
図6に示したように第2の領域15R2を有するp型半導体層15を形成した後に、p型半導体層15内に含まれている水素を脱離させるためのアニール処理を実施する(水素脱離工程)。水素脱離工程を経た後のp型半導体層15の水素濃度は、例えば、1×10
17/cm
3である。
【0067】
次に、透明導電膜16を、スパッタリングにより、上述した第1の製造方法における成膜レートよりも遅いレートで成膜する(導電膜形成工程)。例えば、透明導電膜16は、2nm/minの成膜レート及び25℃の温度で成膜することにより形成される。この工程により、透明導電膜16は、スパッタリング時に大気中の水素を含みながら緩やかに形成されることで、第1の製造方法において形成された透明導電膜16よりも高い水素濃度を有する。
【0068】
具体的には、第1の製造方法において形成された透明導電膜16の水素濃度は、例えば1×1018/cm3であり、第2の製造方法において形成された透明導電膜16の水素濃度は、例えば1×1021/cm3である。
【0069】
次に、透明電極としての透明導電膜16とp型半導体層15とのコンタクト抵抗を下げるために、電極アニール処理(600℃、5分)を実施する(電極アニール工程)。このとき、透明導電膜16内に含まれている水素は、p型半導体層15の第1の部分15P1と第2の部分15P2とに互いに同程度の濃度で留まるようにp型半導体層15内に移動する。
【0070】
その後、
図7に示すように、n電極NE及びp電極PEを形成して素子の作製が完了した後にn電極NEとp電極PEとの間に電流を流すことで、半導体構造層EM内に電流を流す(通電工程)。このとき、p型半導体層15においては、上述したようにp型不純物が不活性化された領域である第2の領域15R2が高抵抗領域として機能するため、p電極PEから透明導電膜16を介してn電極NEに流れる電流は、大部分が第1の部分15P1を介して流れていき、第2の部分15P2にはほとんど流れない。
【0071】
これにより、第1の部分15P1に留まっていた水素が、電流の流れと共に
図7中一点鎖線矢印にて示すようにn型半導体層13へと移動することで、第1の部分15P1における水素濃度が低下する。
【0072】
一方、第2の部分15P2においては、上述のように電流がほとんど流れないために、第2の部分15P2中の水素の大部分はn型半導体層13へと移動せずに第2の部分15P2内に留まる。
【0073】
従って、第2の部分15P2における水素濃度は、第1の部分15P1における水素濃度よりも高くすることができる。具体的には、例えば第1の部分15P1における水素濃度を1×1018/cm3とし、第2の部分15P2における水素濃度を5×1018/cm3とすることができる。
【0074】
上述のように、通電工程後において、第2の部分15P2における水素濃度は第1の部分15P1における水素濃度よりも2倍以上高くなっている。このように第2の部分15P2と第1の部分15P1とで2倍以上の水素濃度差をつけるためには、例えば第1の部分15P1及び第2の部分15P2と透明導電膜16との間において10倍以上の水素濃度差が生じるように、透明導電膜16に電流を流して水素を移動させるのがよい。
【0075】
具体的には、
図7に示すように、第2の部分15P2における水素濃度が第1の領域15R1上の透明導電膜16の第1の部分16P1における水素濃度よりも10倍以上高くなるように透明導電膜16に電流を流して水素を移動させるか、又は第1の部分15P1における水素濃度が第2の領域15R2上の透明導電膜16の第2の部分16P2における水素濃度よりも10倍以上低くなるように透明導電膜16に電流を流して水素を移動させるのがよい。
【0076】
[変形例1]
次に、
図8を用いて、本実施例における面発光レーザ100の変形例1について説明する。
図8は、変形例1に係る面発光レーザ200の断面図である。面発光レーザ200は、透光絶縁層21を有する点が実施例1と異なっており、それ以外の点については実施例1と同様である。
【0077】
透光絶縁層21は、p型半導体層15の上面の第2の領域15R2及び第1の部分15P1の側面に接して設けられている上面形状が環状の絶縁性を有する透明な層である。透光絶縁層21は、例えばSiO2などの、p型半導体層15を形成する材料よりも低い屈折率を有しかつ発光層14から放出される青色光に対して透光性を有する材料からなる。
【0078】
面発光レーザ200において、透光絶縁層21は、第1の部分15P1と同じ厚みを有している。従って、透光絶縁層21に設けられた開口21Oからは、p型半導体層15の第1の領域15R1が透光絶縁層21の上面と同一平面上に位置するように露出している。
【0079】
面発光レーザ200においては、透光絶縁層21をこのように設けた際においても、濃度勾配に従う水素の拡散力によって、共振器OC内において電流を閉じ込めている領域と光を閉じ込めている領域の大きさが不一致化することを防ぎ、共振器OC内に光損失が生じることを抑制することでレーザ発振の閾値電流が増加することを防ぐことができる。
【0080】
[変形例2]
次に、
図9を用いて、本実施例における面発光レーザ100の変形例2について説明する。
図9は、変形例2に係る面発光レーザ300の断面図である。面発光レーザ300は、半導体構造層EMの構成が実施例1と異なっており、それ以外の点については実施例1と同様である。なお、本変形例における面発光レーザ300は、上述した第1の製造方法によって製造されたものとして説明する。
【0081】
面発光レーザ300において、半導体構造層EMは、p型半導体層15の第1の領域15R1上に形成されたトンネル接合層23と、トンネル接合層23上に形成されたn型半導体層24と、第2の領域15R2上に形成されたn型半導体層25とを含んで構成される。
【0082】
トンネル接合層23は、第1の領域15R1に亘って形成された上面形状が円形の半導体層である。トンネル接合層23は、p型半導体層15よりも高い不純物濃度を有するハイドープp型半導体層(図示せず)と、当該ハイドープp型半導体層上に形成され、n型半導体層13よりも高い不純物濃度を有するハイドープn型半導体層(図示せず)とからなる。
【0083】
第1の導電型を有する第3の半導体層としてのn型半導体層24は、トンネル接合層23に亘って形成されている上面形状が円形の半導体層である。面発光レーザ300において、n型半導体層24の上面は、絶縁層17の下面に接している。
【0084】
第1の導電型を有する第4の半導体層としてのn型半導体層25は、第2の領域15R2及びトンネル接合層23及びn型半導体層24の側面に接して形成されている上面形状が環状の半導体層である。
【0085】
n型半導体層25は、第1の部分15P1、トンネル接合層23及びn型半導体層24の合計の厚みと同じ厚みを有している。従って、n型半導体層25に設けられた開口25Oからは、n型半導体層24の上面がn型半導体層25の上面と同一平面上に位置するように露出している。
【0086】
n型半導体層25は、トンネル接合層23及びn型半導体層24よりも低い屈折率を有する。n型半導体層25は、例えば、n型不純物としてゲルマニウム(Ge)がドーピングされている。
【0087】
面発光レーザ300においては、トンネル接合層23が発光層14における電流の供給範囲を制限する電流狭窄層として機能する。半導体構造層EMがこのような構成を有する場合においても、面発光レーザ300は、実施例1における面発光レーザ100と同様の効果を発揮することができる。
【0088】
すなわち、面発光レーザ300においても、透光絶縁層21をこのように設けた際においても、濃度勾配に従う水素の拡散力によって、共振器OC内において電流を閉じ込めている領域と光を閉じ込めている領域の大きさが不一致化することを防ぎ、共振器OC内に光損失が生じることを抑制することでレーザ発振の閾値電流が増加することを防ぐことができる。