(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121888
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】電気化学触媒、電気化学セル、および、電気化学セルのメンテナンス方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/091 20210101AFI20240902BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20240902BHJP
C25B 11/067 20210101ALI20240902BHJP
C25B 11/093 20210101ALI20240902BHJP
C25B 11/031 20210101ALI20240902BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240902BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240902BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240902BHJP
C25B 15/00 20060101ALI20240902BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240902BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240902BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20240902BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20240902BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20240902BHJP
【FI】
C25B11/091
C25B11/052
C25B11/067
C25B11/093
C25B11/031
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B15/00 302A
H01M4/90 M
H01M4/86 M
H01M4/92
H01M4/88 Z
H01M8/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029104
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日高 重和
(72)【発明者】
【氏名】疋田 育之
(72)【発明者】
【氏名】東 相吾
(72)【発明者】
【氏名】前川 佳史
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011AA20
4K011AA29
4K011AA31
4K011AA35
4K011AA48
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC09
4K021DB11
4K021DB18
4K021DB36
4K021DB43
4K021DB53
5H018AA06
5H018AS02
5H018EE02
5H018EE03
5H018EE12
5H018HH01
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】触媒活性の低下抑制による電気化学セルの性能向上を図ることが可能な電気化学触媒、これを用いた電気化学セル、電気化学セルのメンテナンス方法を提供する。
【解決手段】電気化学触媒1は、固体電解質2の表面に形成されており、ネットワーク構造11を有する。ネットワーク構造11は、nmオーダーの多数の金属粒子が連結している金属連結体110が、固体電解質2の表面の面内方向に網目状に発達した第1の領域111を含む。金属連結体110は、隣り合う金属粒子間に金属粒子を構成する金属とは異なる組成物からなる相を有する。電気化学セル3は、電気化学触媒1を有する。電気化学セルのメンテナンス方法は、電気化学セル3が使用に供されてなる使用済み電気化学セルを準備し、使用済み電気化学セルにおける電気化学触媒1に対して、一定時間、正負交互に電圧を印加し、使用によって生じた電気化学触媒1の熱劣化を回復させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質(2)の表面に形成された電気化学触媒(1)であって、
ナノメートルオーダーの多数の金属粒子が連結している金属連結体(110)が、上記固体電解質の表面の面内方向に網目状に発達した第1の領域(111)を含むネットワーク構造(11)を有しており、
上記金属連結体は、
隣り合う上記金属粒子間に、上記金属粒子を構成する金属とは異なる組成物からなる相を有している、
電気化学触媒(1)。
【請求項2】
上記ネットワーク構造は、
網目状に発達した上記第1の領域の上記金属連結体から上記固体電解質の表面の面外方向に上記金属連結体が立体的に発達した第2の領域(112)をさらに含む、
請求項1に記載の電気化学触媒。
【請求項3】
上記ネットワーク構造は、さらに、固体電解質粒子を含む、
請求項1または請求項2に記載の電気化学触媒。
【請求項4】
上記金属粒子の平均粒径が1nm以上500nm以下である、
請求項1または請求項2に記載の電気化学触媒。
【請求項5】
上記固体電解質粒子の平均粒径が1nm以上500nm以下である、
請求項3に記載の電気化学触媒。
【請求項6】
上記金属粒子を構成する金属は、Pt、Ni、Cu、Ru、Rh、Ir、Fe、および、これらの合金からなる群より選択される少なくとも1種である、
請求項1または請求項2に記載の電気化学触媒。
【請求項7】
上記組成物は、Zr、Ce、O、Ti、Ta、Al、Si、Mg、N、H、および、Arからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む、
請求項1または請求項2に記載の電気化学触媒。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載の電気化学触媒を有する、電気化学セル(3)。
【請求項9】
請求項8に記載の電気化学セルが使用に供されてなる使用済み電気化学セルを準備し、
上記使用済み電気化学セルにおける上記電気化学触媒に対して、一定時間、正負交互に電圧を印加する、電気化学セルのメンテナンス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学触媒、電気化学セル、および、電気化学セルのメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体酸化物形電解セル(Solid Oxide Electrochemical Cell:以下、SOECということがある。)や固体酸化物形燃料電池セル(Solid Oxide Fuel Cell:以下、SOFCということがある。)、酸素センサなどの電気化学セルが知られている。これら電気化学セルでは、酸化物イオン伝導性を示す固体電解質の表面に形成された電気化学触媒が電極として使用されている。
【0003】
先行する特許文献1には、固体電解質板の表面に形成された酸素センサ素子の電極として、貴金属領域と、固体電解質領域と、貴金属と固体電解質とが分布する混在領域と、空隙と、を有する電極に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固体電解質の表面に形成された電気化学触媒は、一般に、電子伝導や触媒活性を担う物質として金属粒子を含んでいる。この種の電気化学触媒は、例えば、製造工程において1000℃以上の高温で処理されることがある。このような高温処理がなされると、熱拡散による金属粒子の凝集などの熱劣化により、電気化学触媒の微細構造が壊れ、その結果、電気化学触媒の触媒活性が低下し、電気化学セルの性能が低下する。
【0006】
また、電気化学触媒の微細構造を初期状態で構築することができたとしても、電気化学セルや酸素センサの作動温度は、通常、800℃付近の温度である。そのため、長時間の使用により凝集などの熱劣化が進み、電気化学触媒の触媒活性が低下し、電気化学セルの性能が低下する。
【0007】
なお、従来技術は、通電処理により巨大な貴金属粒子の表面のみを微細化するものであり、電気化学セルの性能向上については改良の余地がある。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、触媒活性の低下抑制による電気化学セルの性能向上を図ることが可能な電気化学触媒、これを用いた電気化学セル、また、これを用いた電気化学セルのメンテナンス方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、
固体電解質(2)の表面に形成された電気化学触媒(1)であって、
ナノメートルオーダーの多数の金属粒子が連結している金属連結体(110)が、上記固体電解質の表面の面内方向に網目状に発達した第1の領域(111)を含むネットワーク構造(11)を有しており、
上記金属連結体は、
隣り合う上記金属粒子間に、上記金属粒子を構成する金属とは異なる組成物からなる相を有している、
電気化学触媒(1)にある。
【0010】
本発明の他の態様は、
上記電気化学触媒を有する、電気化学セル(3)にある。
【0011】
本発明のさらに他の態様は、
上記電気化学セルが使用に供されてなる使用済み電気化学セルを準備し、
上記使用済み電気化学セルにおける上記電気化学触媒に対して、一定時間、正負交互に電圧を印加する、電気化学セルのメンテナンス方法にある。
【発明の効果】
【0012】
上記電気化学触媒は、上記構成を有している。そのため、上記電気化学触媒は、高活性を示すナノメートルオーダーの金属粒子の凝集などの熱劣化を抑制することができ、電気化学触媒の微細構造が維持されやすい。それ故、上記電気化学触媒は、触媒活性の低下を抑制することができ、これを用いた電気化学セルの性能向上を図ることができる。
【0013】
上記電気化学セルは、上記構成を有している。そのため、上記電気化学セルは、上記電気化学触媒の作用効果により、性能向上を図ることができる。
【0014】
上記電気化学触媒は、金属粒子の凝集などの熱劣化を抑制することができるが、熱劣化による耐性を高めても、長期的な視点で見れば、熱劣化を完全に防止することは難しい。これに対し、上記電気化学セルのメンテナンス方法は、上記構成を有している。そのため、上記電気化学セルのメンテナンス方法によれば、使用によって生じた上記電気化学触媒の熱劣化による微細構造の変化を復活させることができ、電気化学セルを再生することができる。
【0015】
なお、特許請求の範囲および課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施形態1の電気化学触媒、実施形態2の電気化学セルを模式的に示した説明図である。
【
図2】
図2は、実施形態1の電気化学触媒におけるネットワーク構造の第1の領域を、固体電解質表面に垂直な方向から見て模式的に示した説明図である。
【
図3】
図3は、
図1に示した実施形態1の電気化学触媒の変形例であり、第1の領域および第2の領域を含むネットワーク構造の断面を模式的に示した説明図である。
【
図4】
図4は、実施形態2の電気化学セルおよびその周辺構成の一例を模式的に示した説明図である。
【
図5】
図5は、実施形態2の電気化学セルを拡大して模式的に示した図である。
【
図6】
図6は、実験例1にて得られたPt不織布の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図7】
図7は、実験例1にて得られたPt不織布におけるある1本のPt繊維(熱処理前のPt繊維)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真高倍像である。
【
図8】
図8は、実験例1にて得られたPt不織布を500℃で熱処理した後におけるある1本のPt繊維(500℃熱処理後のPt繊維)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真高倍像である。
【
図9】
図9は、実験例1にて得られたPt不織布を1000℃で熱処理した後におけるある1本のPt繊維(1000℃熱処理後のPt繊維)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真高倍像である。
【
図10】
図10は、実験例1にて得られたPt不織布をイットリア安定化ジルコニア(YSZ)の表面に1000℃で焼き付けた後における焼き付け品の断面についての走査型透過電子顕微鏡(STEM)写真である。
【
図11】
図11は、実験例2にて得られた試料1の電気化学触媒からなるカソード電極の外表面を固体電解質板表面に垂直な方向から見た走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図12】
図12は、
図11のカソード電極の外表面を高倍率で観察した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図13】
図13は、実験例2にて得られた試料3の電気化学触媒からなるカソード電極の外表面を固体電解質板表面に垂直な方向から見た走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図14】
図14は、実験例2にて得られた試料5の電気化学触媒からなるカソード電極の断面についての走査型透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置(STEM-EDS)による分析結果を示した図である。
【
図15】
図15は、実験例2にて得られた試料6の電気化学触媒からなるカソード電極の外表面を固体電解質板表面に垂直な方向から見た走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図16】
図16は、
図15中に示した白線部分の断面についてのSTEM-EDSによる分析結果を示した図である。
【
図17】
図17は、実験例2にて得られた各試料の電気化学セルについて測定した電解電流密度をまとめて示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施形態1)
実施形態1の電気化学触媒について、
図1~
図3を用いて説明する。
図1~
図3に例示されるように、本実施形態の電気化学触媒1は、固体電解質2の表面に形成されている。
図1では、層状に形成された固体電解質2の一方表面に電気化学触媒1が形成されている例が示されている。固体電解質2の形状にもよるが、電気化学触媒1は、固体電解質2の表面全体に形成されていてもよいし、固体電解質2の表面の一部に形成されていてもよい。また、層状の固体電解質2のように、固体電解質2が一方表面およびこれと反対側の表面である他方表面を有する場合、電気化学触媒1は、固体電解質2の一方表面または他方表面のいずれか一方あるいは両方に形成されることができる。
図1では、本開示による電気化学触媒1が固体電解質2の一方表面に形成されている例が示されている。
【0018】
固体電解質2としては、電気化学触媒1の用途などの観点から、酸化物イオン伝導性を有する固体酸化物などが好適である。固体電解質2としては、具体的には、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)などのジルコニウム系酸化物、セリア(CeO2)、セリアにGd、Sm、Y、La、Nd、Yb、Ca、および、Hoから選択される1種または2種以上の元素などがドープされたセリウム系酸化物、ランタンシリコン系酸化物(例えば、La9.33Si6O26など)、ランタンシリコン系酸化物にSr、Ba、B、Mg、Al、および、Geから選択される1種または2種以上の元素などがドープされたランタンシリケートアパタイト系酸化物などを例示することができる。
【0019】
電気化学触媒1は、
図2および
図3に例示されるように、第1の領域111を含むネットワーク構造11を有している。
図2に例示されるように、第1の領域111は、固体電解質2の表面の面内方向に金属連結体110が網目状に発達した組織より構成されている。固体電解質2の表面の面内方向とは、固体電解質2の表面に沿う方向を意味する。
図2に例示されるように、金属連結体110によって囲まれた部分(濃いドットで示した部分)には、固体電解質2の表面が露出している。つまり、金属連結体110によって囲まれた部分は、空間(隙間、気孔、穴などということもできる)であることができる。このような空間は、ガスの拡散を担う場所として有用である。また、第1の領域111は、金属連結体110が分岐する分岐部を複数含んでいる。なお、第1の領域111は、固体電解質2の表面から突出している。第1の領域111の形態は、例えば、マスクメロンにおける網目模様などを想像すると理解しやすい。
【0020】
金属連結体110は、ナノメートルオーダー(ナノサイズ)の多数の金属粒子(不図示)が連結して形成されている。金属粒子がナノメートルオーダーであるとは、金属粒子の平均粒径が0nm超1000nm未満の大きさであることをいう。金属粒子の平均粒径は、走査型透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置(STEM-EDS)にて観察される金属連結体110を構成する任意の金属粒子100個の粒径測定値の算術平均値をいう。
【0021】
金属粒子の平均粒径は、長期間使用するうえでの構造安定性などの観点から、1nm以上500nm以下とすることができる。金属粒子の平均粒径は、好ましくは、5nm以上、より好ましくは、10nm以上、さらに好ましくは、20nm以上とすることができる。金属粒子の平均粒径は、反応サイトを限られた電気化学触媒容積内に高密度に形成するなどの観点から、好ましくは、450nm以下、より好ましくは、300nm以下、さらに好ましくは、200nm以下とすることができる。
【0022】
金属粒子は、電子伝導および触媒活性を担うものである。金属連結体110は、同一の金属粒子から構成されていてもよいし、異なる金属粒子を含んで構成されていてもよい。金属粒子を構成する金属としては、電子伝導性、電気化学反応の触媒活性等の観点から、例えば、Pt、Ni、Cu、Ru、Rh、Ir、Fe、これらの合金などを好適に用いることでき、好ましくは、Pt、Ir、Ni、Fe、これらの合金などであるとよい。これらは1種または2種以上併用することができる。
【0023】
ここで、金属連結体110は、隣り合う金属粒子間に、金属粒子を構成する金属とは異なる組成物からなる相(不図示)を有している(以下、組成物相ということがある。)。つまり、電気化学触媒1では、隣り合う金属粒子間に存在する組成物相が積極的に導入されている。電気化学触媒1は、このような組成物相を有することにより、ナノメートルオーダーの金属粒子の熱拡散による凝集などの熱劣化が抑制され、微細構造を維持することができる。つまり、電気化学触媒1において、組成物相は、金属粒子の熱拡散を抑制する拡散抑制層として機能することができる。組成物相は、穴などの構造欠陥を含むことができる。このような構造欠陥も、金属粒子の熱拡散による凝集抑制の効果を奏することができるからである。
【0024】
組成物相に含まれる元素としては、例えば、Zr、Ce、O、Ti、Ta、Al、Si、Mg、N、H、および、Arなどが挙げられる。これら元素は1種または2種以上含まれていてもよい。この構成によれば、金属粒子の熱拡散による凝集などの熱劣化の抑制を確実なものとすることができる。
【0025】
上記元素のうち、Zr、Oは、例えば、固体電解質2としてジルコニウム系酸化物を用い、電気化学触媒1の製造時にジルコニウム系酸化物から拡散させることなどによって導入することができる。Ce、Oは、例えば、固体電解質2としてセリアやセリウム系酸化物を用い、電気化学触媒1の製造時にセリアやセリウム系酸化物から拡散させることなどによって導入することができる。N、Hは、例えば、大気雰囲気中や水素雰囲気中において固体電解質2に電気化学触媒1を焼き付け形成することなどによって導入することができる。Ti、Ta、Al、Si、Mgは、電気化学触媒1の製造時に電気化学触媒1の原料中に酸化物などの形で添加することなどによって導入することができる。
【0026】
なお、上述した組成物相における穴内には、例えば、大気雰囲気中のN2やO2、水素雰囲気中のH2、Arなどの電気触媒の製造時に用いられた雰囲気ガスなどの気体が取り込まれていてもよい。これらも上記拡散抑制層として機能することができるためである。
【0027】
第1の領域111の厚みは、長期間使用するうえでの構造安定性などの観点から、好ましくは、5nm以上、より好ましくは、10nm以上、さらに好ましくは、20nm以上とすることができる。第1の領域111の厚さは、反応サイトを限られた電気化学触媒容積内に高密度に形成するなどの観点から、好ましくは、450nm以下、より好ましくは、300nm以下、さらに好ましくは、200nm以下とすることができる。
【0028】
ネットワーク構造11は、
図3に例示されるように、第1の領域111に加え、さらに第2の領域112を含むことができる。第2の領域112は、網目状に発達した第1の領域111の金属連結体110から固体電解質2の表面の面外方向に金属連結体110が立体的に発達した組織より構成されている。固体電解質2の表面の面外方向とは、固体電解質2の表面に沿う方向に垂直な方向のうち、外側を向く方向を意味する。第2の領域112は、第1の領域111の上に第1の領域111が積層された領域ということもできる。
【0029】
第2の領域112では、第1の領域111における金属連結体110からさらに金属連結体110が立体的に発達している。金属粒子もしくは組成物相の粒子が、固体電解質2の表面の面外方向に連結体を形成している場合、金属連結体110が立体的に発達しているという。
【0030】
第2の領域112の厚みは、長期間使用するうえでの構造安定性などの観点から、好ましくは、5nm以上、より好ましくは、10nm以上、さらに好ましくは、20nm以上とすることができる。第2の領域112の厚さは、反応サイトを限られた電気化学触媒容積内に高密度に形成するなどの観点から、好ましくは、900nm以下、より好ましくは、600nm以下、さらに好ましくは、400nm以下とすることができる。なお、第2の領域112は、1層または複数層から構成されていてもよい。
【0031】
上述した第1の領域111の厚み、第2の領域112の厚みは、ネットワーク構造11の厚み方向に沿う断面をSTEM-EDSにて観察し、各領域それぞれ任意の10個所の厚み測定値の算術平均値をいう。
【0032】
ネットワーク構造11は、固体電解質粒子(不図示)を含むことができる。固体電解質粒子はネットワーク構造11中においてイオン伝導を担うことができる。固体電解質粒子を構成する固体電解質材料としては、酸化物イオン伝導性を有する固体酸化物などが好適である。固体電解質材料としては、具体的には、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)などのジルコニウム系酸化物、セリア(CeO2)、セリアにGd、Sm、Y、La、Nd、Yb、Ca、および、Hoから選択される1種または2種以上の元素などがドープされたセリウム系酸化物、ランタンシリコン系酸化物(例えば、La9.33Si6O26など)、ランタンシリコン系酸化物にSr、Ba、B、Mg、Al、および、Geから選択される1種または2種以上の元素などがドープされたランタンシリケートアパタイト系酸化物などを例示することができる。
【0033】
固体電解質粒子を構成する固体電解質材料は、電気化学触媒1が表面に形成される固体電解質2の材料と同じ(同等含む、以下省略)であってもよいし、異なっていてもよい。また、固体電解質粒子は、電気化学触媒1の製造時に原料中に混合したものであってもよいし、電気化学触媒1を形成する固体電解質2から拡散したものなどであってもよい。この場合、固体電解質粒子を構成する固体電解質材料は、電気化学触媒1が表面に形成される固体電解質2に由来するものであるということができる。
【0034】
固体電解質粒子の平均粒径は、長期間使用するうえでの構造安定性などの観点から、1nm以上500nm以下とすることができる。固体電解質粒子の平均粒径は、好ましくは、5nm以上、より好ましくは、10nm以上、さらに好ましくは、20nm以上とすることができる。固体電解質粒子の平均粒径は、反応サイトを限られた電気化学触媒容積内に高密度に形成するなどの観点から、好ましくは、450nm以下、より好ましくは、300nm以下、さらに好ましくは、200nm以下とすることができる。固体電解質粒子の平均粒径は、STEM-EDSにて観察される任意の固体電解質粒子100個の粒径測定値の算術平均値をいう。
【0035】
固体電解質粒子は、第1の領域111、第2の領域112のいずれか一方に存在していてもよいし、両方に存在していてもよい。
【0036】
ネットワーク構造11は、金属連結体110による金属粒子と、固体電解質粒子と、気孔とを含み、これらが混在した多孔質構造を有していることが好ましい。金属粒子は、電子伝導性と触媒活性とを担う。固体電解質粒子は、酸化物イオン伝導などのイオン伝導を担う。気孔は、ガスの拡散を担う。そのため、この構成によれば、金属連結体110が網目状に二次元的に発達している、また、さらに金属連結体110が三次元的に発達していることと相まって、ネットワーク構造11を、金属粒子と気孔と固体電解質粒子とによる三相界面が高い密度で形成された組織構造とすることができる。上記多孔質構造の部分は、金属粒子と固体電解質粒子と気孔とがナノコンポジット化された領域ということもできる。上記多孔質構造は、第1の領域111、第2の領域のいずれか一方が有していてもよいし、両方が有していてもよい。上記多孔質構造は、ネットワーク構造11の全体にわたっていてもよし、金属連結体110を覆うように存在することもできる。
【0037】
本実施形態の電気化学触媒1は、高活性を示すナノメートルオーダーの金属粒子の凝集などの熱劣化を抑制することができ、電気化学触媒1の微細構造が維持されやすい。それ故、本実施形態の電気化学触媒1は、触媒活性の低下を抑制することができ、これを用いた電気化学セルの性能向上を図ることができる。熱劣化には、金属粒子の熱凝集以外にも、例えば、金属粒子の酸化数変化、反応場となる三相界面へのコンタミ成分の堆積などが含まれることができる。
【0038】
電気化学触媒1の製造方法は、例えば、以下のようにして製造することができるが、これに限定されるものではない。
【0039】
出発原料として、ナノメートルオーダーの多数の金属粒子が粒子間の隙間を介して集積した繊維からなる繊維層を準備する。繊維層は、具体的には、ナノメートルオーダーの多数の金属粒子が粒子間の隙間を介して集積した繊維からなる不織布などから構成することができる。次いで、固体電解質の表面に繊維層を積層し、これを固体電解質に焼き付ける。焼き付け雰囲気は、大気雰囲気、水素雰囲気中などとすることができる。焼き付け温度は、600℃以上1200℃以下とすることができる。これにより、電気化学触媒1を製造することができる。
【0040】
固体電解質の表面に繊維層を積層して焼き付ける処理は、1回または複数行うことができる。焼き付け回数を1回とした場合には、第1の領域111より構成されるネットワーク構造11を好適に形成することができる。焼き付け回数を2回以上とした場合には、第1の領域111および第2の領域より構成されるネットワーク構造11を好適に形成することができる。また、上記焼き付け後には、電気処理を施すことができる。電気処理は、焼き付けにより形成した電気化学触媒1に通電処理を行うことによって実施することができる。電気処理を施した場合には、電気化学触媒1と接する固体電解質2から生じたナノメートルオーダーの固体電解質粒子を金属連結体110中に混合させることができる。電気処理によって金属粒子と固体電解質粒子とが混ざり合う現象は、通常、金属連結体110の表面から生じる。そのため、電気処理の時間が相対的に短い場合には、電気処理後に芯(コア)のように残った金属連結体110の表面が、金属粒子と固体電解質粒子と気孔とが混在する多孔質構造によって覆われた微細構造を形成することができる。また、電気処理の時間が相対的長い場合には、金属連結体110の全体を、金属粒子と固体電解質粒子と気孔とが混在する多孔質構造とすることができる。
【0041】
なお、電気化学触媒1の製造に用いる出発原料の繊維層の製造については、国際公開番号WO2019/049996A1、特開2021-143442号公報などを参照することができ、これら各公報の技術は、必要に応じて本開示に組み込まれることができる。
【0042】
(実施形態2)
実施形態2の電気化学セルについて、
図1、
図4および
図5を用いて説明する。なお、実施形態2以降において用いられる符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0043】
図1、
図4および
図5に例示されるように、本実施形態の電気化学セル3は、実施形態1の電気化学触媒1を有している。
【0044】
具体的には、電気化学セル3は、固体電解質層30と、第1の電極31と、第1の電極31と対になる第2の電極32とを有している。第1の電極31は、固体電解質層30の一方面側に配置されている。第2の電極32は、固体電解質層30の一方面側の反対の他方面側に配置されている。固体電解質層30、第1の電極31、および、第2の電極32は、いずれも層状に形成されることができる。第1の電極31は、具体的には、カソード電極として機能させることができ、第2の電極32は、具体的には、アノード電極として機能させることができる。
図1、
図4および
図5に例示される電気化学セル3は、第1の電極31、固体電解質層30、および、第2の電極32がこの順に積層され、互いに接合されている。また、
図1、
図4および
図5では、固体電解質層30を挟んで対向する第1の電極31および第2の電極32の外形よりも固体電解質層30の外形の方が大きく形成されている例が示されている。
【0045】
なお、電気化学セル3は、固体電解質層30と第1の電極31、または、固体電解質層30と第2の電極32との間に中間層(不図示)をさらに備えることができる。また、電気化学セル3は、
図1、
図4および
図5に例示されるように、平板形のセル構造を有していてもよいし、図示はしないが、円筒型のセル構造を有していてもよい。また、電気化学セル3は、第1の電極31が支持体としての機能を兼ねるように構成されていてもよいし、固体電解質層30が支持体としての機能を兼ねるように構成されていてもよいし、第2の電極32が支持体としての機能を兼ねるように構成されていてもよいし、金属部材等の他の支持体(不図示)によって第1の電極31または第2の電極32が支持される構成とされていてもよい。なお、
図1、
図4および
図5では、固体電解質層30が支持体としての機能を兼ねた電気化学セル3が例示されている。
【0046】
固体電解質層30は、酸化物イオン伝導性(酸素イオン伝導性)を有している。固体電解質層30は、具体的には、酸化物イオン伝導性を有する固体電解質より層状に構成されることができる。固体電解質層30は、ガス密性を確保するため、通常、緻密質に形成される。固体電解質層30を構成する固体電解質材料としては、例えば、強度、熱的安定性に優れるなどの観点から、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)などのジルコニウム系酸化物を好適に用いることができる。固体電解質層30を構成する固体電解質材料としては、酸化物イオン伝導性、機械的安定性、他の材料との両立、酸化雰囲気から還元雰囲気まで化学的に安定であるなどの観点から、イットリア安定化ジルコニアなどが好適である。固体電解質層30の厚みは、数μm以上数百μm以下、例えば、1μm以上500μm以下などとすることができる。
【0047】
第1の電極31は、実施形態1にて上述した電気化学触媒1より構成されている。また、第1の電極31の厚みは、例えば、0.1μm以上10μm以下などとすることができる。
【0048】
第2の電極32は、第1の電極31と同じ材料より構成されていてもよいし、他の電極材料より構成されていてもよい。第1の電極31を第1の電極31と異なる電極材料より構成する場合、その電極材料としては、例えば、ランタン-ストロンチウム-コバルト系酸化物、ランタン-ストロンチウム-コバルト-鉄系酸化物、ランタン-ストロンチウム-マンガン-鉄系酸化物、ランタン-ストロンチウム-マンガン系複合酸化物などの遷移金属ペロブスカイト型酸化物などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。
【0049】
電気化学セル3は、
図4および
図5に例示されるように、第1の電極31に、例えば、入力ガスG1としてH
2Oを供給するとともに、電気化学セル3に電力を供給することにより、電気化学反応を発生させ、第1の電極31にてH
2Oを電解し、出力ガスG2としてH
2を得ることができる。この際、電気化学セル3の作動温度は、反応速度を十分に高めるなどの観点から、例えば、400℃以上とすることができる。また、電気化学セル3の作動温度は、特性劣化の速度を低く抑えるなどの観点から、例えば、1000℃以下とすることができる。電気化学セル3は、例えば、電気炉331や加熱ヒータ(不図示)などのセル加熱源33により最適な温度に加熱することができる。
図4では、電気化学セル3の外周囲に配置した電気炉331により電気化学セル3を加熱する例が示されている。
【0050】
また、電気化学セル3への電力の供給は、具体的には、外部電源34により、第1の電極31および第2の電極32間に電圧を印加することにより実施することができる。この際、外部電源34の負極は、第1の電極側集電体310を介してまたは介さずに第1の電極31に電気的に接続されることができる。また、外部電源34の正極は、第2の電極側集電体320を介してまたは介さずに第2の電極32に電気的に接続されることができる。
図5では、第1の電極31および第2の電極32に均一に電子を流すなどの観点から、第1の電極側集電体310および第2の電極側集電体320を用いて集電を行う構成が例示されている。なお、第1の電極側集電体310および第2の電極側集電体320としては、ガス拡散性を確保するなどの観点から、導電性のメッシュ状体などを用いることができる。導電性のメッシュ状体としては、例えば、銀メッシュなどを例示することができる。
【0051】
第1の電極31への入力ガスG1の供給方法、第1の電極からの出力ガスG2の排出方法は、特に限定されない。
図4および
図5に例示されるように、例えば、二重管351などを用いて、第1の電極31に入力ガスG1を供給し、第1の電極31から出力ガスG2を排出できるように第1の電極側ガス流路35を構成することができる。
【0052】
二重管351は、具体的には、
図4および
図5に例示されるように、管中心部に配置される内側ガス流路351aと、二重管351の一方端部において内側ガス流路351aと連通し、内側ガス流路351aの外周に配置された外側ガス流路351bとを有する構成とすることができる。なお、二重管351は、例えば、内側ガス流路351aの管中心軸方向の長さを外側ガス流路351bの管中心軸方向の長さよりも短く形成することにより、二重管351の一方端部において内側ガス流路351aと外側ガス流路351bとを連通させることができる。
【0053】
二重管351の一方端部を、例えば、固体電解質層30における第1の電極31側の面に当接させ、必要に応じてガスシールすることにより、第1の電極31への入力ガスG1の供給、第1の電極31からの出力ガスG2の排出を行うことができる。
図4および
図5では、ガス供給装置36から供給される入力ガスG1を、二重管351の他方端部側から内側ガス流路351aに供給し、第1の電極31における電気化学反応後の出力ガスG2を、外側ガス流路351bを通じて排出する例が示されている。この他にも、図示はしないが、ガス供給装置36から供給される入力ガスG1を、二重管351の他方端部側から外側ガス流路351bに供給し、第1の電極31における電気化学反応後の出力ガスG2を、内側ガス流路351aを通じて排出するように構成することもできる。
【0054】
また、第1の電極側ガス流路35は、二重管351以外により構成することもできる。図示はしないが、例えば、第1の電極31の電極面方向に沿うように面方向流路を配置し、この面方向流路の一方端部にから入力ガスG1を供給し、面方向流路の他方端部から出力ガスG2を排出するように第1の電極側ガス流路35を構成することもできる。なお、出力ガスG2は、必要に応じて、出力ガス貯留タンク37などに貯留されることができる。
【0055】
その他の構成は、実施形態1の記載を適宜参照することができる。
【0056】
本実施形態の電気化学セル3は、電気化学触媒1を有している。そのため、本実施形態の電気化学セル3は、電気化学触媒1の作用効果により、電解電流密度向上など、性能向上を図ることができる。
【0057】
(実施形態3)
実施形態3の電気化学セルのメンテナンス方法について説明する。本実施形態の電気化学セルのメンテナンス方法は、実施形態2の電気化学セルが使用に供されてなる使用済み電気化学セルを準備し、使用済み電気化学セルにおける電気化学触媒に対して、一定時間、正負交互に電圧を印加するものである。
【0058】
実施形態1にて上述した電気化学触媒は、金属粒子の凝集などの熱劣化を抑制することができるが、熱劣化による耐性を高めても、長期的な視点で見れば、熱劣化を完全に防止することは難しい。これに対し、本実施形態の電気化学セルのメンテナンス方法は、上記構成を有している。そのため、本実施形態の電気化学セルのメンテナンス方法によれば、使用によって生じた電気化学触媒の熱劣化した微細構造(熱凝集などによって変化した微細構造)を復活させることができ、電気化学セルを再生することができる。
【0059】
これは、電気化学触媒に一定時間、正負交互に電圧が印加されることにより、金属連結体が備える金属粒子間にある組成物相が、金属粒子を構成する金属の熱拡散を抑制する拡散抑制層として機能して熱劣化を抑制することに加えて、熱劣化した微細構造の復活の起点としても有効に機能するためであると考えられる。
【0060】
電圧を印加する時間は、例えば、10分以上10時間以下とすることができる。また、電圧は、例えば、-3.0V~+3.0Vの間で変化させることができる。また、電圧の印加回数は、1回であってもよいし、複数回であってもよいが、好ましくは、劣化した微細構造の回復などの観点から、複数回とすることができる。また、電圧印加は、例えば、大気雰囲気中にて実施することができる。また、電圧印加時の温度は、例えば、500℃以上1100℃以下とすることができる。
【0061】
なお、熱劣化した微細構造の復活は、電圧を印加する前後で見て、電圧印加後の電気化学触媒の微細構造が、電圧印加前の電気化学触媒の微細構造に比べて、電気化学セルの性能に有利となるような状態まで変化していれば足りる。
【0062】
(実験例1)
ポリビニルピロリドン(PVP)の8質量%メタノール溶液を1kV/cmで電界紡糸することにより、平均直径が約271nmのPVPポリマーナノワイヤーからなる不織布(以下、PVPナノワイヤー不織布という。)を作製した。
【0063】
次いで、このPVPナノワイヤー不織布の表面に、スパッタ法を用いてPt膜を形成した。得られたPVPナノワイヤー不織布を、スパッタリング装置の真空チャンバ内にセットし、2×10-2Pa以下になるまで真空排気した後、流量30sccmのArを導入した。次いで、チャンバ内の圧力を10.0Paに調整し、出力電力42Wで1575秒間にわたりPtターゲットを放電し、PtをスパッタすることによりPt膜を形成した。スパッタする時間によりPt量を制御することができる。ここではPt量が600μg/cm2であるPt膜を形成した。
【0064】
次いで、表面にPt膜が形成されたPVPナノワイヤー不織布を12mm直径サイズに切り出した後、水中で撹拌することによりPVPを除去し、
図6に示されるようなPt不織布を得た。
【0065】
ここで、熱処理前のPt不織布における各Pt繊維は、
図7に示されるように、ナノメートルオーダーの多数のPt粒子が隙間を介して集積した繊維構造を有することが確認された。
【0066】
また、上記Pt不織布を、大気雰囲気中、500℃にて熱処理した。その結果、
図8に示されるように、熱処理前に確認されていたPt粒子間の隙間が無くなった。また、上記Pt不織布を、大気雰囲気中、1000℃にて熱処理した。その結果、
図9に示されるように、1000℃にて熱処理した場合には、500℃にて熱処理した場合に比べ、Pt粒子の粒径が大きくなった。なお、1000℃にて熱処理した場合においても、個々のPt粒子の粒径は、ナノメートルオーダーであった。
【0067】
このように、1000℃での熱処理によりPt粒子の粒径は大きくなるが、出発材料においてPt粒子間に隙間があることにより、Pt粒子の熱凝集が抑えられた。この結果から、Pt粒子間にはPtとは異なる何らかの組成物からなる相が形成されているものと考えられる。また、Pt粒子間には構造欠陥なども残存しているものと考えられる。そこで、STEM-EDS分析によりPt粒子間の構造を詳細に調査した。
【0068】
具体的には、上記Pt不織布をイットリア安定化ジルコニア(YSZ)固体電解質の表面に1000℃で焼き付けた後、この焼き付け品の断面についてSTEM-EDSによる分析を行った。その結果、
図10に示されるように、Pt粒子間には、穴からなる構造欠陥も観察された。この穴には、大気(N
2およびO
2)が取り込まれているものと考えられる。Pt粒子間の組成物相だけでなく、上記構造欠陥と構造欠陥内に取り込まれた大気も、Ptの拡散を抑制する拡散抑制層として機能するものと考えられる。
【0069】
(実験例2)
<試料の作製>
-試料1-
イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉体を直径25mm、厚み200μmで圧粉成形し、これを大気雰囲気中、1500℃にて焼成することにより、固体電解質板を形成した。
【0070】
次いで、固体電解質板の片面に、アノード電極として、直径8mmの大きさのLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3-δ(δは0~0.5)の多孔質体を印刷焼き付けにて形成した。この際、焼き付け雰囲気は大気雰囲気とし、焼き付け温度は1100℃とした。
【0071】
次いで、アノード電極の形成側とは反対側の固体電解質板の片面に、実施例1にて作製したPt不織布を1枚積層した後、大気雰囲気中、1000℃で焼き付け、カソード電極を形成した。これにより、試料1の電気化学触媒、電気化学セルを得た。
【0072】
-試料2-
実験例1で示したPt不織布の作製において、スパッタ時に原子量として9:1の成膜速度になるようにスパッタ出力を調整し、PtとNiとを同時に成膜することによりPt/Ni不織布を得た。このPt/Ni不織布を用いた以外は試料1の作製と同様にして、試料2の電気化学触媒、電気化学セルを得た。
【0073】
-試料3-
実験例1で示したPt不織布の作製において、出力電力40W、1000秒間スパッタし、Pt量が300μg/cm2であるPt膜を成膜することによりPt不織布を得た。試料1の作製において、このPt不織布を1枚用いて同様に焼き付けした点、さらに、当該焼き付け後の膜上に上記Pt不織布をもう1枚積層して同様に焼き付けしてカソード電極とした点以外は同様にして、試料3の電気化学触媒、電気化学セルを得た。
【0074】
-試料4-
試料1の作製において、N2ベースのH2が4体積%含まれる水素還元雰囲気中、1000℃でPt不織布を焼き付けした点以外は同様にして、試料4の電気化学触媒、電気化学セルを得た。
【0075】
-試料5-
試料1と同様にして作製した電気化学セルのカソード電極に、大気雰囲気中、900℃で、+2.0Vと-2.0Vの電圧を2分間ずつ交互に各30回印加する電気処理を施した。これにより、試料5の電気化学触媒、電気化学セルを得た。
【0076】
-試料6-
試料1と同様にして作製した電気化学セルのカソード電極に、大気雰囲気中、900℃で、+2.0Vと-2.0Vの電圧を2分間ずつ交互に各100回印加する電気処理を施した。これにより、試料6の電気化学触媒、電気化学セルを得た。
【0077】
-試料7-
試料1の作製において、Pt不織布に代えて、Ir膜を成膜して得たIr不織布を用いた点、N2ベースのH2が4体積%含まれる水素還元雰囲気中、1000℃でIr不織布を焼き付けした点以外は同様にして、試料7の電気化学触媒、電気化学セルを得た。
【0078】
-試料8-
試料1の作製において、Pt不織布に代えて、Ni膜を成膜して得たNi不織布を用いた点、N2ベースのH2が4体積%含まれる水素還元雰囲気中、1000℃でNi不織布を焼き付けした点以外は同様にして、試料8の電気化学触媒、電気化学セルを得た。
【0079】
-試料9-
試料1の作製において、Pt不織布に代えて、Ru膜を成膜して得たRu不織布を用いた点、N2ベースのH2が4体積%含まれる水素還元雰囲気中、1000℃でRu不織布を焼き付けした点以外は同様にして、試料9の電気化学触媒、電気化学セルを得た。
【0080】
-試料10-
試料1の作製において、Pt不織布に代えて、Cu膜を成膜して得たCu不織布を用いた点、N2ベースのH2が4体積%含まれる水素還元雰囲気中、1000℃でCu不織布を焼き付けした点以外は同様にして、試料10の電気化学触媒、電気化学セルを得た。
【0081】
-試料11-
試料1の作製において、Pt不織布に代えて、Rh膜を成膜して得たRh不織布を用いた点、N2ベースのH2が4体積%含まれる水素還元雰囲気中、1000℃でRh不織布を焼き付けした点以外は同様にして、試料11の電気化学触媒、電気化学セルを得た。
【0082】
-試料12-
試料1の作製において、Pt不織布に代えて、Fe膜を成膜して得たFe不織布を用いた点、N2ベースのH2が4体積%含まれる水素還元雰囲気中、1000℃でFe不織布を焼き付けした点以外は同様にして、試料12の電気化学触媒、電気化学セルを得た。
【0083】
-試料C-
試料1の作製と同様にして、片面にアノード電極が形成された固体電解質板を準備した。
【0084】
次いで、アノード電極の形成側とは反対側の固体電解質板の片面に、テルピネオールで希釈した市販のPtペーストを、直径12mmでPt量が600μg/cm2となるようにスピンコートし、これを大気雰囲気中、1000℃で焼き付けた。これにより、試料Cの電気化学触媒、電気化学セルを得た。
【0085】
なお、試料1~試料12、試料Cの電気化学セルは、具体的には、固体酸化物形電解セル(SOEC)である。
【0086】
<SEM観察、STEM-EDS分析>
図11および
図12に示されるように、固体電解質板(濃い灰色の部分)の表面に形成された試料1の電気化学触媒からなるカソード電極(薄い灰色部分)は、ナノメートルオーダーの多数のPt粒子が連結している金属連結体が、固体電解質板表面の面内方向に網目状に発達した第1の領域を含むネットワーク構造を有していることが確認された。また、実験例1の結果から、金属連結体は、隣り合うPt粒子間に、Ptとは異なる組成物からなる相を有しているといえる。
【0087】
また、
図13に示されるように、Pt不織布を2回焼き付けて形成した試料3の電気化学触媒からなるカソード電極は、網目状に発達した第1の領域の金属連結体から固体電解質板表面の面外方向に金属連結体がさらに立体的に発達した第2の領域を含むネットワーク構造を有していることが確認された。なお、試料3の作製方法から理解されるように、試料3においては、第1の領域および第2の領域における金属は同じものである。
【0088】
また、電気処理を少量施した試料5については、
図14に電極触媒の断面についてのSTEM-EDSによる分析結果として示されるように、ナノメートルオーダーの多数のPt粒子が連結している金属連結体が確認され、この金属連結体における隣り合うPt粒子間には、Ptとは異なる組成物からなる相(組成物相)が形成されていることが確認された。また、上記組成物相には、本実験例では、固体電解質と同一の元素であるZr元素とO元素とが少なくとも存在していることが確認され、これら元素は、カソード電極の形成に用いたPt不織布に含まれるものではないことから固体電解質板から生じたものであるといえる。
【0089】
また、
図15に、電気処理を多量施した試料6の電気化学触媒からなるカソード電極の外表面を固体電解質板表面に垂直な方向から見たSEM写真を示す。
図16に、
図15中に示した白線部分の断面についてのSTEM-EDSによる分析結果を示す。
【0090】
図15において、濃い灰色の部分は、固体電解質板であり、中間灰色の部分は、電気処理後に芯(コア)のように残った金属連結体の部分である。また、
図16に示されるように、
図15において電気処理後に芯(コア)のように残った金属連結体の部分を覆う白っぽい部分は、ナノメートルオーダーの金属粒子とナノメートルオーダーの固体電解質粒子と気孔とが混在する多孔質構造であることが確認された。この多孔質構造の部分における固体電解質粒子は、カソード電極の形成に用いたPt不織布に含まれるものではないことから固体電解質板から生じたものであるといえる。
【0091】
また、
図15および
図16によれば、電気処理を多量施した試料6の電気化学触媒からなるカソード電極は、網目状に発達した第1の領域の金属連結体から固体電解質板表面の面外方向に金属連結体がさらに立体的に発達した第2の領域を含むネットワーク構造を有していることが確認された。また、ネットワーク構造中に固体電解質粒子が含まれており、金属連結体の金属粒子と固体電解質粒子と気孔とが混在する多孔質構造が形成されていることも確認された。
【0092】
なお、図示はしないが、Pt不織布を2回焼き付けて形成した試料3の電気化学触媒からなるカソード電極、および、水素還元雰囲気中でPt不織布を焼き付けて形成した試料4の電気化学触媒からなるカソード電極は、第1の領域および第2の領域を含むネットワーク構造を有していたが、電気処理を施していないため、ネットワーク構造中に固体電解質粒子は実質的に確認されなかった。
【0093】
<セル性能評価>
各試料の電気化学セルについて、電解電流密度を測定することにより、性能評価を行った。セル作動温度は、800℃とした。
【0094】
電解電流密度が1.3A/cm2以上1.5A/cm2以下であった場合を、セル性能の向上が十分に図れているとして「A+」と評価した。電解電流密度が1.0A/cm2以上1.3A/cm2未満であった場合を、セル性能の向上が図れているとして「A」と評価した。電解電流密度が0.8A/cm2以上1.0A/cm2未満であった場合を、評価「A」ほどではないが、セル性能の向上が図れているとして「B」と評価した。電解電流密度が0.8A/cm2未満であった場合を、セル性能の向上が図れていないとして「C」と評価した。
【0095】
表1に、各試料の製造条件、構成、評価結果をまとめて示す。また、
図17に、各試料の電気化学セルの電解電流密度の測定結果をまとめて示す。
【0096】
【0097】
【0098】
試料Cの電気化学セルは、本開示の電気化学触媒を用いていないので、カソード電極においてPt粒子の熱凝集が生じて触媒活性が低下し、セル性能を向上させることができなかった。
【0099】
これに対し、試料1~試料12の電気化学セルは、カソード電極に本開示の電気化学触媒を用いている。かかる電気化学触媒は、高活性を示すナノメートルオーダーの金属粒子の凝集などの熱劣化を抑制することができ、電気化学触媒の微細構造が維持されやすいため、触媒活性の低下を抑制することができる。それ故、試料1~試料12の電気化学セルは、セル性能の向上を図ることができた。
【0100】
また、試料1~試料12の電気化学セル同士の比較から次のことがわかる。すなわち、ネットワーク構造の形態面から見た場合に、ネットワーク構造が第1の領域および第2の領域を含み、かつ、固体電解質粒子を含むことにより、高い電解電流密度が得られ、セル性能の向上効果に優れることがわかる。また、ネットワーク構造の材料面から見た場合に、金属粒子を構成する金属としてIrを含む場合には、高い電解電流密度が得られやすく、セル性能の向上効果に優れることがわかる。
【0101】
(実験例3)
試料1の電気化学セルを、セル作動温度800℃で、100時間作動し続けた。この電気化学セルのカソード電極を確認したところ、長期耐久に供したことにより、金属粒子の熱凝集が確認された。この長期耐久に供した電気化学セルのカソード電極に対して、大気雰囲気中、900℃で、+2.0Vと-2.0Vの電圧を2分間ずつ交互に各10回印加する電気処理を施した。上記電気処理後の電気化学セルのカソード電極を確認したところ、熱劣化した微細構造が復活していた。この結果から、本開示の電気化学セルのメンテナンス方法によれば、使用によって生じた電気化学触媒の熱劣化による微細構造の変化を復活させることができ、電気化学セルを再生することができることが確認された。
【0102】
本発明は、上記各実施形態、各実験例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。また、各実施形態、各実験例に示される各構成は、それぞれ任意に組み合わせることができる。また、出願当初の特許請求の範囲に記載の各請求項同士は、それぞれ任意に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0103】
1 電気化学触媒
2 固体電解質
11 ネットワーク構造
111 第1の領域
110 金属連結体
3 電気化学セル