(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121892
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】圧延用クラッドスラブ、圧延用クラッドスラブの製造方法、及びクラッド材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/04 20060101AFI20240902BHJP
C22F 1/04 20060101ALI20240902BHJP
B21B 1/38 20060101ALN20240902BHJP
C22C 21/00 20060101ALN20240902BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240902BHJP
【FI】
B23K20/04 E
B23K20/04 D
B23K20/04 A
C22F1/04 Z
B21B1/38 L
C22C21/00 E
C22F1/00 623
C22F1/00 627
C22F1/00 630A
C22F1/00 640A
C22F1/00 650F
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029109
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(71)【出願人】
【識別番号】515214693
【氏名又は名称】株式会社UACJ鋳鍛
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】當山 守人
(72)【発明者】
【氏名】船戸 寧
(72)【発明者】
【氏名】岡田 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】福地 昭
【テーマコード(参考)】
4E002
4E167
【Fターム(参考)】
4E002AA08
4E002AB03
4E002AD01
4E002AD05
4E002AD12
4E002BD08
4E167AA06
4E167AA29
4E167BC06
4E167BC12
4E167CA04
4E167CA17
4E167DB11
(57)【要約】
【課題】異材接合体の接合強度を増大し、安定化する。
【解決手段】圧延によってクラッド材100に加工される圧延用クラッドスラブ30であって、異なる材料からなる複数の金属板10、20が重ね合わされて接合された構成をなし、前記接合された金属板10、20の界面30Aは拡散接合され、前記接合された金属板10、20の端面30Bはシングルバルジ形状をなす。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延によってクラッド材に加工される圧延用クラッドスラブであって、
異なる材料からなる複数の金属板が重ね合わされて接合された構成をなし、
前記接合された金属板の界面は拡散接合され、
前記接合された金属板の端面はシングルバルジ形状をなす圧延用クラッドスラブ。
【請求項2】
前記複数の金属板のうち少なくとも一つは、アルミニウムを主成分とする金属材料からなる請求項1に記載の圧延用クラッドスラブ。
【請求項3】
異なる材料からなる複数の金属板を板面同士が接触するように重ね合わせ、
重ね合わされた前記複数の金属板を、全ての前記複数の金属板の融点より低い温度に加熱し、板厚方向に沿って加圧する熱間圧接を行って接合し、
前記熱間圧接を行う際、重ね合わされた前記複数の金属板の端面は、板面方向に沿って加圧されない圧延用クラッドスラブの製造方法。
【請求項4】
前記複数の金属板のうち少なくとも一つは、アルミニウムを主成分とする金属材料からなる請求項3に記載の圧延用クラッドスラブの製造方法。
【請求項5】
前記熱間圧接前の前記各金属板の板厚は、実質的に同一である請求項3又は請求項4に記載の圧延用クラッドスラブの製造方法。
【請求項6】
請求項3又は請求項4に記載の製造方法によって圧延用クラッドスラブを製造し、
製造された前記圧延用クラッドスラブを前記複数の金属板の板面方向に沿って延びるように圧延するクラッド材の製造方法。
【請求項7】
前記圧延する際、前記圧延用クラッドスラブは、全ての前記金属板の融点より低い温度に加熱される請求項6に記載のクラッド材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、圧延用クラッドスラブ、圧延用クラッドスラブの製造方法、及びクラッド材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2つ以上の異種金属材を重ね合わせ、界面を拡散接合させたクラッド材が知られている。クラッド材は、母材(芯材)に合わせ材(皮材)を接合することで、機能向上が図られた金属材であり、その製造方法の一例が特許文献1に記載されている。特許文献1には、鉄及び不可避不純物からなる母材と、ステンレス鋼又はニッケル合金からなる合わせ材と、を重ね合わせて溶接することでクラッドスラブを組み立てた後、クラッドスラブを熱間圧延してクラッド鋼板を製造する方法が開示されている。また特許文献1には、母材と合わせ材の線膨脹係数の差によって発生する反りを抑制するために、2組のクラッドスラブをそれぞれの合わせ材が対向するように重ね合わせ、これらの外周を溶接してサンドイッチ状クラッドスラブを組み立てることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法によれば、2組のクラッドスラブが多層で溶接されるため、後工程で行われる圧延工程において割れ(剥離)が発生しやすく、界面の接合性が低下しやすい。また、仮に1組のクラッドスラブだけを溶接した場合であっても、母材と合わせ材の厚さが均等な場合、圧延工程において剥離が発生しやすく、接合性が低下しやすいのが実情である。特許文献1には、圧延工程における剥離を防止するために、母材と同成分のスペーサを設置し、母材とスペーサとを溶接する方法が提案されているが、その場合にはクラッドスラブの組み立て工程が複雑になってしまう。
【0005】
本技術は上記のような実情に基づいて完成されたものであって、クラッド材の接合性を簡便に向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本技術に関わる圧延用クラッドスラブは、圧延によってクラッド材に加工される圧延用クラッドスラブであって、異なる材料からなる複数の金属板が重ね合わされて接合された構成をなし、前記接合された金属板の界面は拡散接合され、前記接合された金属板の端面はシングルバルジ形状をなす。
【0007】
また、上記構成の圧延用クラッドスラブにおいて、前記複数の金属板のうち少なくとも一つは、アルミニウムを主成分とする金属材料からなっていてもよい。
【0008】
本技術に関わる圧延用クラッドスラブの製造方法は、異なる材料からなる複数の金属板を板面同士が接触するように重ね合わせ、重ね合わされた前記複数の金属板を、全ての前記複数の金属板の融点より低い温度に加熱し、板厚方向に沿って加圧する熱間圧接を行って接合し、前記熱間圧接を行う際、重ね合わされた前記複数の金属板の端面は、板面方向に沿って加圧されない。
【0009】
また、上記特徴の圧延用クラッドスラブの製造方法において、前記複数の金属板のうち少なくとも一つは、アルミニウムを主成分とする金属材料からなっていてもよい。
【0010】
また、上記特徴の圧延用クラッドスラブの製造方法において、前記熱間圧接前の前記各金属板の板厚は、実質的に同一であってもよい。
【0011】
本技術に関わるクラッド材の製造方法は、上記した圧延用クラッドスラブの製造方法によって圧延用クラッドスラブを製造し、製造された前記圧延用クラッドスラブを前記複数の金属板の板面方向に沿って延びるように圧延する。
【0012】
また、上記特徴のクラッド材の製造方法において、前記圧延する際、前記圧延用クラッドスラブは、全ての前記金属板の融点より低い温度に加熱されてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本技術によれば、クラッド材の接合性を簡便に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態1に係る圧延用クラッドスラブの製造方法における準備工程を示す斜視図
【
図5】比較実験1における第1金属板及び第2金属板の材質を示す表
【
図6】比較実験1における第1金属板及び第2金属板の寸法、及び評価結果を示す表
【
図7】実施例1に係る圧延用クラッドスラブの斜視図
【
図9】比較例1に係る圧延用クラッドスラブの斜視図
【
図11】2000、3000、4000系のアルミニウム合金の化学成分を示す表
【
図12】5000系のアルミニウム合金の化学成分を示す表
【
図13】6000、7000系のアルミニウム合金の化学成分を示す表
【
図14】他の実施形態に係る圧延用クラッドスラブを示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態1>
実施形態1に係る圧延用クラッドスラブ30の製造方法、及び圧延用クラッドスラブ30を用いたクラッド材100の製造方法を
図1から
図13を参照して説明する。一部の図には、X軸、Y軸、及びZ軸を示しており、各軸方向が各図で共通した方向となるように描かれている。また、Z軸方向を上下方向とするが、上記方向は便宜的に定めたものに過ぎず、限定的に解釈すべきものではない。
【0016】
圧延用クラッドスラブ30は、圧延によってクラッド材100に加工されるスラブ(鋳塊)である。本実施形態では、2つの金属材(第1金属板10と第2金属板20)からなる圧延用クラッドスラブ30、及びこれを圧延することで形成されるクラッド材100について例示するが、金属材の数は複数あればよく、2つに限られない。
【0017】
クラッド材100は、異なる材料からなる2つ以上の金属材が重ね合わされ、界面が拡散接合された金属材である。クラッド材100は、母材(芯材)に合わせ材(皮材)を組み合わせることで、耐食性、強度、熱伝導性等の機能が向上された高機能金属材であり、種々様々な用途に用いられる。
【0018】
圧延用クラッドスラブ30の製造方法は、第1金属板10と第2金属板20とを重ね合わせる準備工程S10と、重ね合わされた第1金属板10と第2金属板20とを熱間圧接によって接合する接合工程(鍛接工程)S20と、を含む。クラッド材100の製造方法は、圧延用クラッドスラブ30を圧延して薄い板状にする圧延工程S30を少なくとも含む。圧延工程S30の後には、運搬を容易にしたり、使用用途に適応させるために、圧延されたクラッド材100を分割したり、コイル状に巻き取ったりする工程を含んでいてもよい。以下、準備工程S10、接合工程S20、及び圧延工程S30について詳述する。
【0019】
準備工程S10では、
図1に示すように、第1金属板10と第2金属板20の板面同士を接触するように重ね合わせる。より詳しくは、第1金属板10の一方の板面(上板面)10Aの上に、第2金属板20を載置することで、第1金属板10の上板面10Aと、第2金属板20の一方の板面(下板面)20Bとが接触するように重ね合わせる。
【0020】
第1金属板10、及び第2金属板20はそれぞれ、Z軸方向を板厚方向とし、Y軸方向を長辺方向としX軸方向を短辺方向とする矩形の板状をなす。第1金属板10、及び第2金属板20の平面形状は、矩形以外であっても構わないが、両者の平面形状及び大きさは実質的に同一であることが好ましい。これにより、重ね合わされた第1金属板10及び第2金属板20の端面(側面)は、平面に視て重なり、実質的に面一となる。第1金属板10、及び第2金属板20の板厚は、異なっていても、実質的に同一であっても構わない。
【0021】
第1金属板10、及び第2金属板20の材質は、化学成分が異なる金属材料であれば限定されない。例えば、第1金属板10、及び第2金属板20の材料としてアルミニウム純度が異なる2種類のアルミニウム合金を用いることができる。第1金属板10の材料として高純度のアルミニウムを採用し、第2金属板20の材料としてアルミニウム以外の元素を比較的多く含んだ低純度のアルミニウムを採用すると、第2金属板20の特性を発揮させつつ、第1金属板10によって低コスト化されたクラッド材100を実現できる。
【0022】
また例えば、第1金属板10、及び第2金属板20の材料として添加元素の含有量が異なる2種類のアルミニウム合金を用いると、第1金属板10に対して、第2金属板20に含まれる添加元素の含有量に基づく機能性(機械特性、耐食性、導電性等)を付与したクラッド材100を実現できる。
【0023】
より詳しくは、第2金属板20は、第1金属板10に対し、添加元素(アルミニウム以外の元素)の含有量が異なっていてもよい。例えば、第2金属板20は、第1金属板10に対し、Ag,Au,Co,Cr,Cu,Fe,Mg,Mn,Mo,Sc,Si,Sn,Zn,Ti,Ni,Zr,Li,Be,Bi,Pb,及びBからなる元素群のうち、1種又は2種以上の元素の含有量が異なっていてもよい。第2金属板20は、第1金属板10に対し、添加元素の含有量が多くてもよく、少なくてもよい。
【0024】
第2金属板20は、第1金属板10に対し、アルマイト性に影響がある添加元素の含有量が異なっていてもよい。アルマイト性に影響がある添加元素としては、Ag,Au,Co,Cu,Fe,Mo,及びSnからなる群のうち、1種又は2種以上の元素を例示することができる。「アルマイト性に影響がある」とは、アルミニウム合金に対しアルマイト処理を行った場合に、酸化被膜の形成の態様が異なる、としてもよく、アルミニウム合金に対しアルマイト処理を行った場合に、例えば、耐食性、硬度、絶縁性、又は着色等の変化が異なる、としてもよい。着色の変化について、例えば、任意のアルミニウム合金に対し、シュウ酸浴により酸化被膜の厚さを25μm形成するアルマイト処理を行う場合、Mgを5.0質量%、Mnを0.5質量%含んだアルミニウム合金は、当該アルマイト処理により褐色がかった黄色を呈するのに対し、Cuを4.0質量%、Mgを0.6質量%、Mnを0.5質量%含んだアルミニウム合金は、当該アルマイト処理により青白色を呈する。アルマイト性に影響がある別の添加元素として、Mg,Cr,Tiを例示することができる。
【0025】
第2金属板20は、第1金属板10に対し、機械特性に影響がある添加元素の含有量が異なっていてもよい。機械特性に影響がある添加元素としては、Cu,Mg,Mn,Si,Cr,Fe,Ni,Zr,及びZnからなる群のうち、1種又は2種以上の元素を例示することができる。機械特性(比較的高温な状態での機械特性も含む)とは、展延性、強度、切削性、成形性(曲げ性含む)、耐摩耗性、耐疲労性、破壊靭性、耐衝撃性、硬さ、ヤング率、引張強さ等からなる群のうち、1つまたは2つ以上の特性のことをいう。例えば、アルミニウム合金にCuが添加されると、強度、切削性等が向上し、Mnが添加されると、強度、耐食性、成形性等が向上し、Siが添加されると、耐摩耗性、耐熱性等が向上し、Mgが添加されると、成形性、溶接性、耐塩性等が向上し、Mg及びSiが添加されると、強度、耐食性等が向上し、Zn及びMgが添加されると、強度等が向上する。例えば、アルミニウム合金にCu,Pb,Sn,Biが添加されると、切削性等が向上する。機械特性に影響がある元素とは、マトリクスの改質(平均粒子径や形状)に寄与する元素であってもよいし、第二相粒子を分布させるための元素であってもよい。
【0026】
第2金属板20は、第1金属板10に対し、引張強さに影響がある添加元素の含有量が異なっていてもよい。引張強さに影響がある添加元素としては、Cu,Mg,Mn,Si,Zn,Sc,及びFeからなる群のうち、1種又は2種以上の元素を例示することができる。アルミニウム合金にMn,Mg,Feのうち少なくとも1つが含まれる場合、固溶強化や析出強化によって引張強さが向上する。また、アルミニウム合金にCu,Si,Zn,Scのうち少なくとも1つが含まれる場合、析出強化によって引張強さが向上する。
【0027】
第2金属板20は、第1金属板10に対し、融点に影響がある添加元素の含有量が異なっていてもよい。融点に影響がある添加元素としては、Siを例示することができる。例えば、第2金属板20は、Siを含むことにより融点が調整された4000系のアルミニウム合金とし、第1金属板10は、4000系以外の系統のアルミニウム合金としてもよい。
【0028】
第2金属板20は、第1金属板10に対し、結晶の形態に影響がある添加元素の含有量が異なっていてもよい。結晶の形態に影響がある添加元素としては、Cr,Mn,Sc,及びZrのうち1種又は2種以上の元素を例示することができる。アルミニウム合金は多結晶であるため、結晶の形態とは、例えば、一つ一つの結晶の平均粒径やその形状等を指す。アルミニウム合金の多結晶は、後述する圧延工程において引き延ばされ、繊維状となるが、中間焼鈍等により加熱されると、その繊維状の形が元の結晶の形に戻ろうとする(再結晶しようとする)。このとき、アルミニウム合金の多結晶が繊維状の形に留まろうとする効果を、ピン止め効果と呼ぶ。例えば、アルミニウム合金のCuの含有量が多いと、ピン止め効果が促進されることにより、再結晶が抑制され(繊維状の形に留まり易くなる)、アルミニウム合金のCuの含有量が少ないと、ピン止め効果が抑制されることにより、再結晶が促進される(繊維状の形に留まり難くなる)。よって、結晶の形態に影響がある添加元素とは、ピン止め効果の促進又は再結晶の抑制に影響のある元素、と呼ぶことができる。また、添加元素とは、アルミニウム合金の母材の結晶の形態に影響がある元素、と呼ぶことができる。
【0029】
第2金属板20は、第1金属板10に対し、耐食性に影響がある添加元素の含有量が異なっていてもよい。耐食性に影響がある添加元素としては、Cu,Mn,Si,及びZnからなる群のうち、1種又は2種以上の元素を例示することができる。これらの添加元素の添加量を調整することにより、第1金属板10と第2金属板20との間に電位差を生じさせることができ、第1金属板10と第2金属板20の一方を犠牲防食することができる。
【0030】
第2金属板20は、第1金属板10に対し、導電率に影響がある添加元素の含有量が異なっていてもよい。導電率に影響がある添加元素としては、Cu,Mg,Mn,Fe,Si,及びZnからなる群のうち、1種又は2種以上の元素を例示することができる。このような添加元素は、その含有量が多いほど、アルミニウム合金の導電率が低下する。そのなかでも、Mn,Mg,Siは、Cu,Zn,Feよりも導電率の低下の程度が著しい。例えば、第2金属板20は、Mnの含有量が、第1金属板10よりも多い場合、第2金属板20は、第1金属板10よりも導電率が低いといえる。
【0031】
第1金属板10、及び第2金属板20としてアルミニウム合金が使用される場合、具体的な材料としては、
図11から
図13に示すように、JIS2014,2017,2117,2024,2030等の2000系のアルミニウム合金、JIS3004,3104,3005,3105等の3000系のアルミニウム合金、JIS4004,4104,4032,4047等の4000系のアルミニウム合金、JIS5005,5021,5041,5042,5050,5052,5154,5454,5754,5056,5456,5082,5182,5083,5086等の5000系のアルミニウム合金、JIS6101,6005,6111,6013,6151,6061,6262,6063,6181,6082等の6000系のアルミニウム合金、及びJIS7003,7005,7020,7075,7178等の7000系のアルミニウム合金からなる群のうち、いずれかを採用することができる。さらに、第1金属板10と第2金属板20の材料として、JIS1050,JIS1070,JIS1085,JIS1100,JIS1230,JIS1200,JIS8021,JIS8079などの1000系,8000系のアルミニウム合金も採用し得る。
【0032】
第1金属板10、及び第2金属板20は、例えば任意の化学成分のアルミニウム合金材料を連続鋳造により造塊し、必要に応じて均質化熱処理を行い、熱間圧延することで形成される。互いに接触する第1金属板10の上板面10A、又は第2金属20の下板面20Bの少なくとも一方は、微細な凹凸形状を有するように面削されていることが好ましい。ただし、第1金属板10、及び第2金属板20の製造工程そのものは、圧延用クラッドスラブ30の製造方法の一工程として必須とされない。製造済みの第1金属板10、及び第2金属板20を入手し、これを用いて準備工程S10を実行しても構わない。
【0033】
接合工程S20では、
図2に示すように、準備工程S10によって重ね合わされた第1金属板10と第2金属板20とを熱間圧接によって接合し、
図3に示す圧延用クラッドスラブ30を形成する。熱間圧接の際の加熱温度は、第1金属板10及び第2金属板20を構成する材料の融点よりも低い温度とされる。例えば第1金属板10及び第2金属板20にアルミニウム合金を用いる場合、250度以上500度以下でもよく、300度以上450度以下でもよく、350度以上420度以下でもよい。
【0034】
融点より低い温度で熱間圧接を行うことで、接触する第1金属板10の上板面10A及び第2金属板20の下板面20Bを溶融させることなく、拡散接合(金属接合)できる。これにより、圧延用クラッドスラブ30の界面30Aの構造が不均一になったり、溶融によって界面30Aに第3の別層が形成されたりする事態を抑制できる。
【0035】
また接合工程S20では、熱間圧接の加圧(圧下)方向は、第1金属板10及び第2金属板20の板厚方向(Z軸方向)とされ、板面方向(X-Y面方向)に沿っては加圧されない。より詳しくは、
図2に白抜き矢印で示すように、プレス機等によって、第1金属板10の他方の板面(下板面)10Bは板厚方向に沿って上向きに(第2金属板20側に向かって)加圧され、第2金属板20の他方の板面(上板面)20Aは板厚方向に沿って下向きに(第1金属板10側に向かって)加圧される。このように加圧することで、圧延用クラッドスラブ30の端面(側面)30Bは、
図3に示すように、板厚方向の略中央部が膨出し、シングルバルジ形状に変形するものとなる。シングルバルジ形状とは、端面30Bに1つの膨出部が含まれる形状をいう。これに対してダブルバルジ形状とは、端面30Bに2つの膨出部が含まれる形状をいう。
【0036】
圧延用クラッドスラブ30の端面30Bをシングルバルジ形状にすることで、後に続く圧延工程S30において圧延用クラッドスラブ30を圧延してクラッド材100を形成する際、接合された金属板10、20が剥離してしまう事態を抑制でき、接合性を向上できる。また圧延用クラッドスラブ30の端面30Bがダブルバルジ形状に変形し、いわゆる、まくれ込みが生じる事態を抑制でき、不良品となることを抑制できる。さらに、端面30Bをシングルバルジ形状にするにあたって、特許文献1のようなスペーサ等の補助部材や溶接工程は必要とされないため、簡便にクラッド材100の接合性を向上できる。
【0037】
接合工程S20における熱間圧接の際の圧力の大きさは、第1金属板10又は第2金属板20の少なくとも一方が塑性変形を起こすことが可能な程度(熱間変形抵抗以上)とされる。これにより、互いに接触する第1金属板10の上板面10A、又は第2金属板20の下板面20Bの少なくとも一方は、塑性変形によって酸化被膜が破壊(分断)され、新生面が露出するようになる。この新生面が相手側の板面(第1金属板10の上板面10A、又は第2金属板20の下板面20B)に接触することで、第1金属板10の上板面10Aと第2金属板20の下板面20Bとを拡散接合できる。既述したように、第1金属板10の上板面10A、又は第2金属20の下板面20Bの少なくとも一方は微細な凹凸形状を有することが好ましく、微細な凹凸面が相手側の板面に圧接されることで、酸化被膜の破壊、ひいては新生面の露出が促進される。その結果、接合性をより向上できる。
【0038】
また接合工程S20において熱間圧接を行うことで、冷間圧接(常温圧接)に比べて、第1金属板10、及び第2金属板20を塑性変形しやすくできる。これにより、酸化被膜の破壊、ひいては新生面の露出が促進され、接合性を向上しやすくなる。特に第1金属板10、及び第2金属板20の板厚が比較的大きい場合や、両者の板厚が実質的に同一である場合、冷間圧接を用いると、第1金属板10、及び第2金属板20の塑性変形が不十分となり、接合性が低下しやすい。本実施形態における接合工程S20によれば、熱間圧接を用いることで、接合性が低下しやすい板厚条件の場合であっても接合性を容易に向上できる。
【0039】
圧延工程S30では、圧延用クラッドスラブ30を圧延して板状の圧延板にすることで、クラッド材100を形成する。圧延工程S30の具体的内容は、使用材料等によって適宜選択可能であり、熱間圧延、冷間圧延、及びこれらの組み合わせを用いることができる。熱間圧延や冷間圧延では、
図4に示すように、一対の圧延ローラ50,50を回転させつつ、圧延用クラッドスラブ30の上面及び下面に対し板厚方向(Z軸方向)に加圧する。これにより、圧延用クラッドスラブ30は板面方向のうち長手方向(Y軸方向)に延び、薄い板状のクラッド材100となる。
【0040】
第1金属板10、及び第2金属板20としてアルミニウム合金が使用される場合、圧延工程S30では、その種類ごとに、従来の方法と同様の方法を採用してもよい。例えば、JIS1000系のアルミニウム合金を用いる場合、特開2017-172034号に記載の方法を採用してもよい。JIS2000系のアルミニウム合金を用いる場合、特開2013-116474号,又は特開2010-159488号に記載の方法を採用してもよい。JIS3000系のアルミニウム合金を用いる場合、特許第6912886号,特開2020-33632号,特許第6667189号,国際公開第2019/058935号,国際公開第2019/066049号,又は特開2018-3074号等の公報に記載の方法を採用してもよい。JIS4000系のアルミニウム合金を用いる場合、特許第6649889号,特許第5698416号,特許第5602747号,特開2013-116473号,特許第5261214号,特許第4636520号,又は特許第3982849号等の公報に記載の方法を採用してもよい。JIS5000系のアルミニウム合金を用いる場合、特許第6961395号,特許第5944862号,特開2013-12362号,特開2009-148823号,特開2009-209426号,又は特開平8-85880号等の公報に記載の方法を採用してもよい。JIS6000系のアルミニウム合金を用いる場合、特開2019-026876号,特開2019-056163号,特開2019-173118号,特開2020-503428号,国際公開第2018/003709号,国際公開第2018/012597号,国際公開第2019/021899号,特許第6452384号,特許第6467154号,特許第6512963号,特許第6581347号,又は特許第6585435号等の公報に記載の方法を採用してもよい。JIS7000系のアルミニウム合金を用いる場合、国際公開第2021/070900号,特許第6979991号,特許第5431795号,特許第5276341号,特許第4669903号,特許第4736048号,又は特開2010-159489号等の公報に記載の方法を採用してもよい。JIS8000系のアルミニウム合金を用いる場合、特開2016-41831号に記載の方法を採用してもよい。また、第1金属板10と第2金属板20とで用いられるアルミニウム合金の系統が異なる場合(例えば、第1金属板1010に2000系を採用し、第2金属板20に3000系を採用する場合)、準備工程や圧延工程における温度、圧力等の製造条件は、中間の値となる製造条件(2000系における製造条件と3000系における製造条件との間で、中間の値となる条件)を採用してもよい。
【0041】
<比較実験1>
上記した製造方法によって形成されたクラッド材100を評価するため、
図5及び
図6に示す第1金属板10及び第2金属板20を用いて実施例1及び比較例1に係る評価サンプルを製造し、比較実験1を行った。実施例1に係る評価サンプルは、本実施形態に係る製造方法によって製造された圧延用クラッドスラブ30(
図7)、及びクラッド材100(
図8)である。圧延工程S30では、圧延用クラッドスラブ30を昇温速度50℃/hで加熱し510℃で1時間保持した後、一対の圧延ローラ50,50によって熱間圧延を行った。また圧延ローラ50の位置が、圧延用クラッドスラブ30の長手方向(Y軸方向)の一端部側から他端部側まで変位した場合をパス1回とカウントし、複数回のパスを繰り返した。
【0042】
比較例1に係る評価サンプルは、実施例1と同様に準備工程S10及び圧延工程S30を行う一方、実施例1と異なり接合工程S20(熱間圧接)は行わず、準備工程S10の後に溶接工程を行うことで製造された圧延用クラッドスラブ930(
図9)、及びクラッド材9100(
図10)である。溶接工程では、重ね合わされた第1金属板10及び第2金属板20の接触板面(第1金属板10の上板面10A、又は第2金属板20の下板面20B)の外周部分を溶接した。溶接個所は複数とし、溶接長さは10mm程度から150mm程度の範囲とした。比較例1に係る第2金属板20の平面サイズは、
図6に示すように、溶接の都合上、実施例1に比べて僅かに小さいものが用いられたが、第1金属板10及び第2金属板20のそれ以外の板厚等の条件は、比較例1と実施例1とで一致する。
【0043】
<評価方法>
実施例1に係るクラッド材100、及び比較例1に係るクラッド材9100について、視覚確認によって界面の接合状態を評価した。接合が不十分で剥離していたり、他の不具合(まくれ込み等)が発生している場合をC(不可)と評価し、接合が十分で不具合が確認されない場合をA(良い)と評価した。
【0044】
<評価結果>
実施例1に係る圧延用クラッドスラブ30は、端面30Bがシングルバルジ形状をなすことが確認された(
図7)。また実施例1に係るクラッド材100は、圧延工程S30において8回のパスを行うことで、接合性を良好に保った状態で総板厚30mmまで薄く延ばすことができ(
図8)、A評価となった。一方、比較例1に係るクラッド材9100は、圧延工程S30を行うと接合が剥離してしまい(
図10)、C評価となった。
【0045】
<他の実施形態>
本技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本技術の技術的範囲に含まれる。
【0046】
(1)本実施形態に係る製造方法によれば、圧延用クラッドスラブ30を構成する金属材の数が3つ以上(界面が2つ以上)の場合であっても、その端面30Bを、
図14に示すようにシングルバルジ形状にできる。
【符号の説明】
【0047】
10…第1金属板、20…第2金属板、30…圧延用クラッドスラブ、30A…界面、30B…端面、100…クラッド材