(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121915
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】近接アラートセンサ
(51)【国際特許分類】
G01S 17/08 20060101AFI20240902BHJP
B66F 11/04 20060101ALI20240902BHJP
B66F 9/24 20060101ALI20240902BHJP
A42B 3/04 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
G01S17/08
B66F11/04
B66F9/24 H
A42B3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029150
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】391007460
【氏名又は名称】中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤橋 哲也
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 愛弓
(72)【発明者】
【氏名】中野 湧大
【テーマコード(参考)】
3B107
3F333
5J084
【Fターム(参考)】
3B107CA02
3B107EA19
3F333AA08
3F333AC01
3F333FA11
3F333FA36
5J084AA05
5J084AB16
5J084AD01
5J084BA04
5J084EA22
(57)【要約】
【課題】作業用ヘルメットに装着できるサイズであって、構造を簡素化することにより低コストで製造可能な近接アラートセンサを提供する。
【解決手段】樹脂製の筐体10の内部に、赤外線レーザ光の発射部及び受光部を備えたセンサモジュール11と、電子回路基板12と、電池13と、ブザー14とを収納した近接アラートセンサである。筐体10の天井面16の一部を内側から窪ませてハイパスフィルタとして機能する薄肉部19を形成し、この薄肉部19の内側にセンサモジュール11を密着配置した。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の筐体の内部に、赤外線レーザ光の発射部及び受光部を備えたセンサモジュールと、電子回路基板と、電池と、ブザーとを収納した近接アラートセンサであって、
前記筐体の天井面の一部を内側から窪ませてハイパスフィルタとして機能する薄肉部を形成し、この薄肉部の内側に前記センサモジュールを密着配置したことを特徴とする近接アラートセンサ。
【請求項2】
前記センサモジュールは、赤外線レーザ光を間欠的に発射するタイムオブフライトセンサである請求項1に記載の近接アラートセンサ。
【請求項3】
前記センサモジュールからの赤外線レーザ光の発射角度を、30°以下の狭角度とした請求項1に記載の近接アラートセンサ。
【請求項4】
前記赤外線レーザ光の波長が940nmであり、前記薄肉部は760nm以下の波長をカットするハイパスフィルタである請求項1に記載の近接アラートセンサ。
【請求項5】
前記筐体は平滑な天井面を備える本体部と底板部とからなり、底板部の下面を作業用ヘルメットへの取付面とした請求項1に記載の近接アラートセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は作業者の安全を確保するに適した近接アラートセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば高速道路に設置された構造物の点検作業等においては、作業者は高所作業車のバケットに搭乗し、高所作業を行うことが多い。バケットは起伏・伸縮・旋回が可能なブームの先端に水平支持されており、作業者はバケット上に配置された操作装置を操作してバケットを作業に適した位置に移動させ、点検作業等を行っている。
【0003】
作業者はいうまでもなく作業用ヘルメットを装着して頭部を保護している。しかし作業者の死角となる直上位置に障害物があるにも拘わらず、気付かずにバケットを上昇させてしまい、上方の障害物により頭部を強打したり、障害物とバケットとの間に作業者が挟まれたりする事故が発生することがある。バケットは強力な油圧により動かされるので、作業用ヘルメットを装着していても十分に作業者の安全を確保することができないことがある。
【0004】
この問題を解決するために、特許文献1に示されるように、バケットの四隅に傾斜センサを備えたポールを立て、ポールの先端が上部の障害物に当たったことを傾斜センサにより検出してバケットの上昇を停止させる高所作業車用安全具が開発され、実用化されている。この高所作業車用安全具により大部分の事故は防止することができる。しかしポールの直上位置の高さを検出するものであるため、バケットの中央に立っている作業者の直上位置に障害物が突出しているような場合にはポールにより検出することができず、安全を確保できないおそれがある。
【0005】
また特許文献2には、障害物の近接を検知すると警報を発する超音波センサを取り付けた作業用ヘルメットが提案されている。この作業用ヘルメットを装着すれば、作業者の直上位置の障害物を検出することができる。しかし超音波センサは対象物の表面が吸音性であると検出精度が低下する。このためトンネルの内部や防音壁などのように内面に吸音材が配置された場所での使用に適しないという問題がある。また超音波センサは光電式センサよりも応答性が悪く、作業者の急速な瞬間的な動きに追随できないという問題もある。
【0006】
なお光電式近接センサ自体は従来から知られているが、サイズが大きいものが多く、作業用ヘルメットの表面に装着できるほど小型で薄型のものは見当たらない。また従来の光電式近接センサは光線の投受光用窓の構造が複雑で製造コストが高くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6654995号公報
【特許文献2】特開昭10-203799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は上記した従来の問題点を解決して、作業用ヘルメットに装着できるサイズであって、構造を簡素化することにより低コストで製造可能な近接アラートセンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、樹脂製の筐体の内部に、赤外線レーザ光の発射部及び受光部を備えたセンサモジュールと、電子回路基板と、電池と、ブザーとを収納した近接アラートセンサであって、前記筐体の天井面の一部を内側から窪ませてハイパスフィルタとして機能する薄肉部を形成し、この薄肉部の内側に前記センサモジュールを密着配置したことを特徴とするものである。
【0010】
なお、前記センサモジュールは、赤外線レーザ光を間欠的に発射するタイムオブフライトセンサであることが好ましい。また前記センサモジュールからの赤外線レーザ光の発射角度を、30°以下の狭角度とすることが好ましい。また好ましい実施形態においては、前記赤外線レーザ光の波長が940nmであり、前記薄肉部は760nm以下の波長をカットするハイパスフィルタである。さらに前記筐体は平滑な天井面を備える本体部と底板部とからなり、底板部の下面を作業用ヘルメットへの取付面とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の近接アラートセンサは、赤外線レーザ光のセンサモジュール、電子回路基板、電池、ブザーなどを収納する筐体を樹脂製とし、その筐体の天井面の一部を内側から窪ませてハイパスフィルタとして機能する薄肉部を形成し、この薄肉部の内側にセンサモジュールを密着配置した構造である。このように筐体の一部をハイパスフィルタとして太陽光に代表される外乱の影響を抑制したので、構造が簡素化され、低コストで製造可能となる。また薄肉部以外の筐体には強度を持たせることができるので、収納物を保護することができる。
【0012】
また、上記の構造により筐体の高さを低くすることができ、作業用ヘルメットに取付けた時のヘルメット表面からの突出量を低くすることができる。また、薄肉部の内側にセンサモジュールを密着配置したことにより、筐体からの反射を防止し、検出精度を高めることができる。さらに本発明の近接アラートセンサは、トンネルの内部など吸音材が配置された場所においても近接の障害物を確実に検知してブザーで警報を出すことができるので、作業者の安全を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態の近接アラートセンサの外観斜視図である。
【
図2】実施形態の近接アラートセンサの中央縦断面図である。
【
図4】天井面を外側から窪ませた場合を示す断面図である。
【
図5】近接アラートセンサを頂部に取付けた作業用ヘルメットの外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施形態を説明する。
図1は実施形態の近接アラートセンサの外観斜視図、
図2はその中央縦断面図である。
図2に示されるように、本発明の近接アラートセンサは、樹脂製の筐体10の内部に、赤外線レーザ光のセンサモジュール11、電子回路基板12、電池13、ブザー14等を収納した構造である。また
図1に示されるように、筐体10の側面付近にオンオフ用のスイッチ15が収納されている。
【0015】
筐体10は平滑な天井面16を備える本体部17と、本体部17の底面に嵌め込まれる底板部18とからなる。本体部17が全体を覆う構造としたことにより、雨水の浸入を防止することができる。筐体10の天井面16の一部を内側から窪ませて、薄肉部19が形成されている。
図2に示すように、この薄肉部19の内面にセンサモジュール11の上面が密着配置されている。
【0016】
センサモジュール11は上面に赤外線レーザ光の発射部及び受光部を備え、発射部から発射された赤外線レーザ光が対象で反射して受光部に戻ってくるまでの時間に基づいて、対象物までの距離を検出するタイムオブフライトセンサである。本実施形態では、JIS-C6802に規定されるレーザ光の安全基準のクラス1である波長が940nmの赤外線レーザ光が用いられている。センサモジュール11は薄肉部19の内面に密着配置され、保護されている。
【0017】
センサモジュール11は作業者の瞬間的な動きがあっても障害物を確実に感知することができる必要があり、本実施形態ではレーザ発射間隔を300msecとしている。また作業者が頭上に手を挙げて作業した場合に自分の手に反応することがないよう、発射部からの赤外線レーザ光の発射角度を30°以下の狭角度とすることが好ましく、本実施形態では27°に絞ったものが用いられている。
【0018】
筐体10は可視光領域の波長を遮断し、近赤外線領域の波長を透過させる特性を備えた樹脂からなり、本実施形態では透過限界波長を760nmに調整したメタクリル樹脂が用いられている。透過限界波長とは、透過率が5%の波長と72%の波長との中点の波長を意味する。メタクリル樹脂は機械的強度に優れるうえ、加工し易く、耐候性に優れ劣化しにくいので、近接アラートセンサの筐体10に適している。ただし本発明においては樹脂の種類をメタクリル樹脂に限定するものではない。
【0019】
本実施形態では筐体10の天井面16の一部を内側から窪ませて薄肉部19を形成し、この薄肉部19を通じて赤外線レーザ光の発射及び受光が行われる。薄肉部19は可視光領域の波長を遮断し、近赤外線領域の波長を透過させるハイパスフィルタとして機能する。本実施形態では薄肉部19の厚みを1mmに設定し、薄肉部19を透過することによる赤外線レーザ光の減衰を抑制して検出感度を高めている。なおセンサモジュール11を薄肉部19の内面に密着配置したのは、薄肉部19の裏面からの反射光による誤動作をなくすためである。
【0020】
このようにセンサモジュール11にハイパスフィルタを掛けたのは、屋外での使用を考慮し、特に太陽光による外乱を抑制するためである。太陽光のスペクトル強度は
図3に示すように400~700nmの波長領域において最も大きいため、透過限界波長が760nmのハイパスフィルタによってこの波長領域をカットすれば、太陽光による外乱を大幅に抑制することができる。なおハイパスフィルタによってカットする透過限界波長をあまり小さくすると外乱の影響を受け易くなり、逆にハイパスフィルタによってカットする透過限界波長を赤外線レーザ光の波長に近付け過ぎるとやはり検出感度が低下する。発明者のテストによれば、本実施形態のように赤外線レーザ光の波長が940nmの場合にはハイパスフィルタの透過限界波長を760nmとした場合に最も優れた検出感度を得ることができた。しかし赤外線レーザ光の波長が変化すれば、ハイパスフィルタの透過限界波長も変化させるべきであることはいうまでもない。
【0021】
上記したように筐体10の天井面16の一部を内側から窪ませてハイパスフィルタとして機能する薄肉部19を形成し、その内側にセンサモジュール11を配置することにより、従来のように赤外線レーザ光の透過窓を別に形成する必要がなくなり、製造コストを引き下げることができる。本実施形態では筐体10のその他の部分の厚みは2mmとして強度を高め、薄肉部19の厚みは1mmとした。また、筐体10の天井面16を内側から窪ませた部分にセンサモジュール11を配置したので、筐体10の内部へのセンサモジュール11の突出量を減らすことができる。その結果、少なくとも1mm分だけは筐体10の高さを低くすることができる。またこの構造により、雨水の浸入を防止することができる。
【0022】
なお、
図4に示すように筐体10の天井面16の一部を外側から窪ませて薄肉部19を形成することも考えられる。しかしこの場合には、筐体10の内部へのセンサモジュール11の突出量が、
図2の場合よりも大きくなる。さらに、天井面16の窪んだ部分に雨水や塵埃が入り込み、感度を低下させるおそれがある。
図2の構造とすれば、これらの問題を解消することができる。
【0023】
筐体10の内部にはセンサモジュール11のほかに、電子回路基板12、電池13、ブザー14が収納されている。電子回路基板12にはセンサモジュール11の出力に応じてブザー14を作動させたり、センサモジュール11の動作を制御するためのマイコンが搭載されている。電池13は小型のボタン電池であり、スイッチ15によりオンオフすること、及びレーザ発射間隔を300msecとしたタイムオブフライトセンサとすることにより電池の消耗を抑えている。
【0024】
この近接アラートセンサはトンネル内で使用されることも想定される。このため、騒音レベルの高いトンネル内においてもアラート音を認識できるように、本実施形態ではブザー14のアラート音の音量を85dB、周波数2731Hzに設定した。
【0025】
このように構成された本発明の近接アラートセンサは、例えば
図5に示すように、作業用ヘルメット30の頂部外面に取付けて使用することができる。また挟まれ事故を防止するために、作業用ヘルメット30の後頭部に取付けることもできる。これらの場合には、筐体10の底板部18の下面を作業用ヘルメットへの取付面20とする。作業用ヘルメット30への取付方法は特に限定されるものではないが、接着剤により強固に固定すると電池交換を容易に行えなくなるため、両面テープ等によって着脱自在としておくことが好ましい。
【0026】
図6に示すように、高所作業車のバケット40に搭乗して高所作業を行う作業者がこの作業用ヘルメット30を装着すれば、トンネルの天井やその他の情報障害物との距離が接近してきたときにブザー14を動作させ、アラートを発することができる。作業者はバケット40の上昇を停止させることにより、衝突の危険を避けることができる。なおアラートを発する距離は電子回路基板12に搭載したマイコンにより自由に設定することができるが、安全を見てこの距離を大きく設定すると頻繁にブザー14が動作して煩わしくなる。逆にこの距離を短く設定すると衝突の直前まで危険を感知することができなくなる。このため例えば20cmと50cmの2段に切替可能としておき、使用状況に応じて作業者が選択できるようにしておくことが好ましい。この切替は、スイッチ15をスライド式スイッチとし、オフの位置から1つスライドすると20cm、もう一つスライドすると50cmと切替えるようにすることができる。更に、スイッチ15をプッシュ式スイッチとすれば、1回押圧すると50cm、2回押圧すると20cm、3階押圧すると電源オフというように設定しておくこともできる。
【0027】
高所作業では
図6に示すように作業者は両手を図上に挙げて作業を行うことが多いが、前記したように赤外線レーザ光の発射角度を30°以下の狭角度としておけば、自分の手を誤って障害物として検出してしまう誤動作を防止することができる。また、本実施形態では筐体10の全高は15mm程度と薄くなっているため、作業用ヘルメット30の外表面に取り付けても筐体10の突出により作業用ヘルメット30の使用に支障を生ずることはない。また、本実施形態の近接アラートセンサはその機能を発揮させるために必要な部品を全て筐体10の内部に収納しているため、外部電源やイヤホンなどは不要となり、作業者の作業の支障となるおそれがない。また、本実施形態の近接アラートセンサはトンネル内部など、吸音材が取り付けられている場所でも使用可能である。
【0028】
さらに本発明の近接アラートセンサは、筐体10の一部にハイパスフィルタとして機能する薄肉部19を形成し、この薄肉部19を介して赤外線レーザ光の発射及び受光を行う構造としたので、従来のように光線の投受光用窓を別部材によって構成する必要がない。このため性能を低下させることなく製作コストを下げることができる。
【0029】
以上に説明したように、本発明の近接アラートセンサは作業用ヘルメット30に取り付けて使用するに適したものである。しかし例えば高所作業車のバケット40の側面に取付ければ、ブームを旋回させたときに側方の障害物に衝突する危険を防止することができる。このように本発明の近接アラートセンサは、作業用ヘルメット30への取付に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0030】
10 筐体
11 センサモジュール
12 電子回路基板
13 電池
14 ブザー
15 スイッチ
16 天井面
17 本体部
18 底板部
19 薄肉部
20 取付面
30 作業用ヘルメット
40 高所作業車のバケット