(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121923
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】連続式熱処理装置
(51)【国際特許分類】
C21D 1/00 20060101AFI20240902BHJP
F27B 9/39 20060101ALI20240902BHJP
F27D 9/00 20060101ALI20240902BHJP
F27D 15/00 20060101ALI20240902BHJP
F27B 9/04 20060101ALI20240902BHJP
C21D 1/63 20060101ALI20240902BHJP
F27B 9/24 20060101ALN20240902BHJP
F27B 9/36 20060101ALN20240902BHJP
C21D 1/58 20060101ALN20240902BHJP
C21D 1/607 20060101ALN20240902BHJP
C21D 1/20 20060101ALN20240902BHJP
C21D 1/22 20060101ALN20240902BHJP
【FI】
C21D1/00 B
F27B9/39
F27D9/00
F27D15/00 Z
F27B9/04
C21D1/00 121
C21D1/63
F27B9/24 E
F27B9/36
C21D1/58
C21D1/607
C21D1/20
C21D1/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029165
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000111845
【氏名又は名称】パーカー熱処理工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100107537
【弁理士】
【氏名又は名称】磯貝 克臣
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】久田 英夫
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 靖大
【テーマコード(参考)】
4K034
4K050
4K063
【Fターム(参考)】
4K034AA16
4K034DB02
4K034DB03
4K034DB04
4K034EA11
4K034FA04
4K034FA06
4K034FB11
4K050AA02
4K050BA01
4K050CC07
4K050CG09
4K050CG27
4K063AA05
4K063AA15
4K063BA02
4K063BA03
4K063CA03
4K063EA06
(57)【要約】
【課題】連続式熱処理装置において、シュート空間を覆うような焼入れ液によるカーテン状の液膜を確実に形成する。
【解決手段】金属部材に対して連続的に熱処理を行う連続式熱処理装置1は、金属部材を加熱処理する加熱炉3と、加熱炉で加熱処理された金属部材を鉛直方向下方に投下する投下シュート4と、投下シュートの下方に配置され、硝酸塩を収容し、投下シュートにより金属部材が投入される硝酸塩浴槽6と、投下シュート内に形成されるシュート空間41x内に硝酸塩によるカーテン状の液膜を形成するように、シュート空間内に硝酸塩を噴出する硝酸塩噴出部45と、を有し、焼入れ液噴出部は、水平方向に延びると共に、シュート空間内に連通して、焼入れ液をシュート空間内に噴出する2つ以上のスリット部454a、454bを有し、2つ以上のスリット部は、鉛直方向に整列するように配置されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材に対して連続的に熱処理を行う連続式熱処理装置であって、
前記金属部材を加熱処理する加熱炉と、
前記加熱炉で加熱処理された前記金属部材を鉛直方向下方に投下する投下シュートと、
前記投下シュートの下方に配置され、焼入れ液を収容し、前記投下シュートにより前記金属部材が投入される焼入れ液槽と、
前記投下シュート内に形成されるシュート空間内に前記焼入れ液によるカーテン状の液膜を形成するように、前記シュート空間内に前記焼入れ液を噴出する焼入れ液噴出部と、
を有し、
前記焼入れ液噴出部は、水平方向に延びると共に、前記シュート空間内に連通して、前記焼入れ液を前記シュート空間内に噴出する2つ以上のスリット部を有し、
前記2つ以上のスリット部は、鉛直方向に整列するように配置されている、
ことを特徴とする連続式熱処理装置。
【請求項2】
前記焼入れ液噴出部は、
前記焼入れ液が供給される供給口を含み、前記2つ以上のスリット部を覆うように水平方向に延びる水平通路と、
前記供給口を部分的に覆うように前記水平通路内に設けられ、前記供給口から流出する前記焼入れ液を受け流すための焼入れ液受け部と、
を更に有し、
前記焼入れ液受け部は、前記供給口に対向して配置された前壁と、前記前壁から前記供給口が設けられた前記水平通路の内壁面まで延びている一対の側壁と、を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の連続式熱処理装置。
【請求項3】
前記焼入れ液受け部の前記一対の側壁の各々は、その一部分が開放している、
ことを特徴とする請求項2に記載の連続式熱処理装置。
【請求項4】
前記焼入れ液受け部の前記一対の側壁の各々は、その上部が開放している、
ことを特徴とする請求項3に記載の連続式熱処理装置。
【請求項5】
前記焼入れ液受け部は、その下部の全体又は一部分が開放している、
ことを特徴とする請求項2に記載の連続式熱処理装置。
【請求項6】
前記2つ以上のスリット部の各々は、鉛直方向の幅が前記焼入れ液の流れ方向に沿って狭まるように形成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の連続式熱処理装置。
【請求項7】
前記連続式熱処理装置は、前記シュート空間を挟んで対向して設けられた一対の前記焼入れ液噴出部を有する、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の連続式熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材に対して連続的に熱処理を行う連続式熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属部材を加熱処理する加熱炉と、加熱炉で加熱処理された金属部材を鉛直方向(上下方向)下方に投下する投下シュートと、投下シュートの下方に配置され、焼入れ液を収容し、投下シュートにより金属部材が投入される焼入れ液槽と、を有する連続式熱処理装置が知られている。焼入れ液槽では、加熱炉で加熱処理された金属部材が、例えば硝酸塩や焼入れ油などの焼入れ液により冷却される。
【0003】
また、上記のような連続式熱処理装置において、従来から、投下シュート内に形成されるシュート空間内に焼入れ液を噴出することで、焼入れ液によるカーテン状の液膜をシュート空間内に形成する技術が知られている(例えば非特許文献1)。このように焼入れ液によるカーテン状の液膜を形成する理由は、以下の通りである。
【0004】
加熱炉で加熱処理された金属部材が投下シュート内を自由落下して焼入れ液槽内に投入されると、焼入れ液槽内の焼入れ液が上方へと跳ね上がる。その結果、焼入れ液が加熱炉内に浸入し、加熱炉内の構成部品を汚損させたり、加熱炉内を無酸化雰囲気に保てなくなったりする場合がある。また、上方へと跳ね上がった焼入れ液が、投下シュートの内壁面(以下単に「シュート内壁面」とも呼ぶ。)へと飛散することで、シュート内壁面に焼入れ液が付着する場合がある。例えば、焼入れ液槽として、溶融した硝酸塩を含む硝酸塩浴(ソルトバス)を用いた場合、シュート内壁面に付着した硝酸塩が固着し、この固着した硝酸塩が肥大化することで、金属部材の落下が阻害される場合がある。この場合、落下できずに投下シュート内に残存した金属部材は、焼入れ液槽での冷却工程に移行できないため不良品となり、また、このような金属部材が何らかの原因で硝酸塩浴へと落下したとしても、異物混入等の問題が発生する。
【0005】
以上のような問題を解決するために、従来から、シュート空間内に焼入れ液を噴出して、シュート空間を覆うようなカーテン状の液膜を形成することで、このようなカーテン状の液膜によって、焼入れ液槽内への金属部材の投入により焼入れ液槽から跳ね上がる焼入れ液をブロック(吸収)するようにしている。これにより、加熱炉への焼入れ液の侵入、及び、シュート内壁面への焼入れ液の付着を防止している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】鉄鋼熱処理の現場指針(岸本 浩 著 遮断法人・新日本鋳鍛造協会)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本件発明者の知見によれば、従来の連続式熱処理装置では、水平方向に延び、シュート空間内に連通する1つのスリット部のみから、焼入れ液をシュート空間内に噴出している。しかしながら、このような従来の連続式熱処理装置では、1つのスリット部しか用いていないため(1つのスリット部がシュート空間を挟んで対向するように設けられる場合、つまり一対のスリット部が用いられる場合もある)、このスリット部に固形物が詰まったときに、固形物が詰まったスリット部の一部分から焼入れ液が噴出されなくなり、シュート空間内に形成されるカーテン状の液膜が部分的に裂けてしまう。つまり、シュート空間を覆うようなカーテン状の液膜が形成されなくなる。その結果、焼入れ液によるカーテン状の液膜が裂けた部分から、加熱炉へと焼入れ液が侵入したり、シュート内壁面に焼入れ液が付着したりする場合がある。なお、上記のようにスリット部に詰まる物質としては、スラッジ等の固形物の他、硝酸塩浴を扱う恒温熱処理炉の場合は、硝酸塩浴中で生成される炭酸塩等が挙げられる。
【0008】
本発明は、以上のような知見に基づいてなされたものである。本発明の目的は、加熱炉で加熱処理された金属部材を投下シュートから焼入れ液槽に投入する連続式熱処理装置において、投下シュートのシュート空間を覆うような焼入れ液によるカーテン状の液膜を確実に形成することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、金属部材に対して連続的に熱処理を行う連続式熱処理装置であって、金属部材を加熱処理する加熱炉と、加熱炉で加熱処理された金属部材を鉛直方向下方に投下する投下シュートと、投下シュートの下方に配置され、焼入れ液を収容し、投下シュートにより金属部材が投入される焼入れ液槽と、投下シュート内に形成されるシュート空間内に焼入れ液によるカーテン状の液膜を形成するように、シュート空間内に焼入れ液を噴出する焼入れ液噴出部を有し、焼入れ液噴出部は、水平方向に延びると共に、シュート空間内に連通して、焼入れ液をシュート空間内に噴出する2つ以上のスリット部を有し、2つ以上のスリット部は、鉛直方向に整列するように配置されている、ことを特徴とする。
【0010】
このような本発明によれば、焼入れ液噴出部により、鉛直方向に整列するように配置された2つ以上のスリット部から焼入れ液を投下シュートのシュート空間内に噴出するので、鉛直方向において2段以上の焼入れ液によるカーテン状の液膜をシュート空間内に形成することができる。したがって、たとえ2つ以上のスリット部のいずれかに固形物などが詰まり、スリット部により形成されるカーテン状の液膜が部分的に裂けてしまったとしても、こうして部分的に裂けた液膜の部分を、他のスリット部から噴出される焼入れ液で形成される液膜によりカバーすることができる。よって、本発明によれば、投下シュートのシュート空間を覆うような焼入れ液によるカーテン状の液膜を確実に形成することができる。その結果、焼入れ液槽内への金属部材の投入により焼入れ液槽から跳ね上がる焼入れ液を確実にブロック(吸収)することができ、投下シュートの上流側の加熱炉への焼入れ液の侵入、及び、シュート内壁面への焼入れ液の付着を効果的に防止することが可能となる。
【0011】
本発明において、好ましくは、焼入れ液噴出部は、焼入れ液が供給される供給口を含み、2つ以上のスリット部を覆うように水平方向に延びる水平通路と、供給口を部分的に覆うように水平通路内に設けられ、供給口から流出する焼入れ液を受け流すための焼入れ液受け部と、 を更に有し、焼入れ液受け部は、供給口に対向して配置された前壁と、前壁から供給口が設けられた水平通路の内壁面まで延びている一対の側壁と、を有する。
このように構成された本発明によれば、焼入れ液噴出部において供給口から水平通路内に流入する焼入れ液を、当該供給口を部分的に覆うように設けられた焼入れ液受け部によって受け流すことで、焼入れ液を水平通路内の全体に行き渡らせることができる。その結果、スリット部全体から均一に焼入れ液を噴出させることができ、シュート空間全体を覆うような焼入れ液によるカーテン状の液膜を効果的に形成することが可能となる。
【0012】
本発明において、好ましくは、焼入れ液受け部の一対の側壁の各々は、その一部分が開放している。
このように構成された本発明によれば、焼入れ液噴出部において供給口から水平通路内に流入する焼入れ液を、焼入れ液受け部の一対の側壁の各々において開放している部分から水平方向の両側に流すことができ、焼入れ液を水平通路内の全体に効果的に行き渡らせることができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、焼入れ液受け部の一対の側壁の各々は、その上部が開放している。
このように構成された本発明によれば、焼入れ液噴出部において供給口から水平通路内に流入する焼入れ液を、焼入れ液受け部の一対の側壁の各々において開放している上部から水平方向に流すことで、2つ以上のスリット部の中で上側に位置するスリット部に対しても、焼入れ液を確実に供給することができる。その結果、2つ以上のスリット部のそれぞれから噴出される焼入れ液の量を均一にすることが可能となる。
【0014】
本発明において、好ましくは、焼入れ液受け部は、その下部の全体又は一部分が開放している。
このように構成された本発明によれば、焼入れ液噴出部において供給口から水平通路内に流入する焼入れ液を、焼入れ液受け部の下部において開放している部分から下方向に流し、こうして下方向に流れた焼入れ液を、前方のスリット部に向けて流すと共に、水平方向の両側に流すことができる。よって、焼入れ液を水平通路内の全体に効果的に行き渡らせることができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、2つ以上のスリット部の各々は、鉛直方向の幅が焼入れ液の流れ方向に沿って狭まるように形成されている。
このように構成された本発明によれば、スリット部から焼入れ液を勢いよく噴出させることができ、つまりスリット部から所望の流速で焼入れ液を噴出させることができ、シュート空間全体を覆うような焼入れ液によるカーテン状の液膜を効果的に形成することができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、連続式熱処理装置は、シュート空間を挟んで対向して設けられた一対の焼入れ液噴出部を有する。
このように構成された本発明によれば、一対の焼入れ液噴出部のそれぞれから焼入れ液をシュート空間に噴出させることで、シュート空間全体を覆うような焼入れ液によるカーテン状の液膜を効果的に形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、加熱炉で加熱処理された金属部材を投下シュートから焼入れ液槽に投入する連続式熱処理装置において、投下シュートのシュート空間を覆うような焼入れ液によるカーテン状の液膜を確実に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る連続式熱処理装置の全体構成を示す概略構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る投下シュート等の側面図である。
【
図3】
図2中のX1-X1線に沿って見た、本発明の実施形態に係る投下シュート及び硝酸塩噴出部の断面図である。
【
図4】
図4(A)は、本発明の実施形態に係る硝酸塩噴出部の金属板の正面図であり、
図4(B)は、本発明の実施形態に係る硝酸塩噴出部の金属板の横断面図である。
【
図5】
図3中のX2-X2線に沿って見た、本発明の実施形態に係る硝酸塩噴出部の部分断面図である。
【
図6】
図3中のX2-X2線に沿って見た、本発明の実施形態に係る硝酸塩噴出部の部分断面斜視図である。
【
図7】
図3中のX3-X3線に沿って見た、本発明の実施形態に係る硝酸塩噴出部の部分断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による連続式熱処理装置について説明する。
【0020】
[連続式熱処理装置の全体構成]
まず、
図1を参照して、本発明の実施形態に係る連続式熱処理装置の全体構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る連続式熱処理装置の全体構成を示す概略構成図である。
【0021】
図1に示すように、連続式熱処理装置1は、主に、処理対象となっている金属部材(鉄鋼部材など)を搬送する搬送装置2と、搬送装置2で搬送された金属部材を加熱処理する加熱炉3と、加熱炉3で加熱処理された金属部材を投下する投下シュート4と、投下シュート4により投下された金属部材を恒温熱処理する硝酸塩浴槽6と、硝酸塩浴槽6で恒温熱処理された金属部材を洗浄する水洗槽7と、水洗槽7で洗浄された金属部材を乾燥する乾燥装置8と、を有する。なお、硝酸塩浴槽6は、本発明における「焼入れ液槽」の一例に相当し、この硝酸塩浴槽6に収容される硝酸塩は、本発明における「焼入れ液」の一例に相当する。
【0022】
まず、搬送装置2は、電磁石を備えたコンベアで金属部材を搬送する。加熱炉3は、金属部材を搬送するメッシュベルト32と、金属部材を加熱するヒータ31と、を有する。ヒータ31は、金属部材がメッシュベルト32の搬送端まで移動する間に、無酸化雰囲気中において、金属部材を800~900℃に加熱すると共に、この金属部材の加熱状態を5~60分程度保持する。その結果、金属部材がオーステナイト組織へと変態する。
【0023】
続いて、投下シュート4は、加熱炉3と硝酸塩浴槽6とに連通するように鉛直方向(上下方向)に延びるシュート空間を含み、加熱炉3で加熱処理された金属部材をシュート空間内に投下する、換言すると金属部材を自由落下させる。投下シュート4は、加熱炉3から硝酸塩浴槽6への金属部材の自由落下の工程において、無酸化雰囲気の維持や、金属部材の温度低下防止の目的で設けられている。
【0024】
続いて、硝酸塩浴槽6は、溶融された硝酸塩を含み、投下シュート4から投入された金属部材を恒温熱処理(オーステンパ処理やマルテンパ処理)する硝酸塩浴61と、硝酸塩浴61を加熱するヒータ62と、硝酸塩浴61内の硝酸塩を汲み上げるソルトポンプ63と、硝酸塩浴61で恒温熱処理された金属部材を搬送するコンベア64と、コンベア64を加熱するヒータ65と、を有する。硝酸塩浴槽6は、投下シュート4から投入された金属部材を、硝酸塩浴61で冷却して、5~60分程度、等温保持する。その結果、上記のように加熱炉3でオーステナイト組織へと変態された金属部材は、硝酸塩浴61の温度が300~430℃である場合にはベイナイト組織へと変態する一方で、硝酸塩浴61の温度が160~250℃である場合にはマルテンサイト組織へと変態される。なお、処理対象となっている金属部材の鋼種に応じて、その組織が変態する温度が異なるため、生産現場では、硝酸塩浴61の温度がヒータ62等により適宜調節される。
【0025】
また、硝酸塩浴槽6のコンベア64は、硝酸塩浴61で恒温熱処理された金属部材を硝酸塩浴61から引き上げて搬送し、水洗槽7へと投下する。また、硝酸塩浴槽6のヒータ65は、こうしてコンベア64により金属部材が搬送されている間に、金属部材に付着した硝酸塩が冷えて固体化することによる金属部材とコンベア64との固着などを防止するために、200~300℃程度にコンベア64を加熱する。
【0026】
続いて、水洗槽7は、上記のように硝酸塩浴槽6のコンベア64より金属部材が投入されて、この金属部材の表面に付着した硝酸塩を槽内の水により除去する。また、水洗槽7は、金属部材を搬送するコンベア71と、コンベア71で搬送される金属部材に洗浄水を散布するシャワー72を有する。乾燥装置8は、こうしてシャワー72により洗浄された後の金属部材に対して熱風を供給することで、金属部材を乾燥させる。
【0027】
[投下シュートの構成]
次に、
図2を参照して、本実施形態に係る投下シュート4の全体構成について説明する。
図2は、本実施形態に係る投下シュート4等の側面図である。なお、
図2では、内部の構成等を部分的に破線や一点鎖線で示している。
【0028】
図2に示すように、投下シュート4は、鉛直方向に延び、金属部材が通過するシュート空間41xを形成する周壁41を主に有する。また、投下シュート4には、周壁41の外側面に沿って硝酸塩を水平方向に流す硝酸塩流通部43と、この硝酸塩流通部43の下方に設けられ、周壁41を通してシュート空間41x内に硝酸塩を噴出する一対の硝酸塩噴出部45と、が設けられている。この一対の硝酸塩噴出部45は、シュート空間41xを挟んで対向するように、周壁41に配置されている。硝酸塩噴出部45は、本発明における「焼入れ液噴出部」の一例に相当する。
なお、一対の硝酸塩噴出部45の構成は同一であるため、それぞれが有する構成部に対して同一の符号を付すものとする。
【0029】
硝酸塩流通部43は、硝酸塩浴槽6のソルトポンプ63によって汲み上げられた硝酸塩を供給するための供給通路431と、周壁41の外側面を取り囲むように当該周壁41に取り付けられ、供給通路431から供給される硝酸塩が水平方向に流れる水平通路432と、水平通路432から硝酸塩を排出するための排出通路433と、を有する。このような硝酸塩流通部43により、周壁41の外側に硝酸塩を常時流すことで、シュート空間41xを加温している。これにより、シュート空間41xを自由落下中の金属部材の温度低下を防止することができる。
【0030】
また、一対の硝酸塩噴出部45のそれぞれは、硝酸塩浴槽6のソルトポンプ63によって汲み上げられた硝酸塩を供給するための供給通路451と、供給通路451から供給される硝酸塩が水平方向に流れる水平通路452と、水平通路452の内側(つまりシュート空間41x側)に設けられ、周壁41に取り付けられた金属板453と、を有する。具体的には、金属板453には、水平方向に延びると共に、シュート空間41x内に連通し、鉛直方向に整列するように配置された2つのスリット部454a、454bが形成されている。
【0031】
これら2つのスリット部454a、454bのそれぞれから、水平通路452内の硝酸塩がシュート空間41x内に噴出される。本実施形態では、一対の硝酸塩噴出部45のそれぞれの2つのスリット部454a、454bから噴出される硝酸塩により、鉛直方向において2段のカーテン状の液膜がシュート空間41x内に形成され(矢印A11、A12参照)、これら2段のカーテン状の液膜によりシュート空間41xが覆われることとなる。
【0032】
以上述べたような硝酸塩噴出部45によれば、シュート空間41xを覆うような硝酸塩によるカーテン状の液膜を形成することで、金属部材が硝酸塩浴61に投入されるときに跳ね上がる硝酸塩をブロック(吸収)することができる。その結果、投下シュート4の上流側の加熱炉3への硝酸塩の侵入、及び、投下シュート4の周壁41の内壁面(シュート内壁面)への硝酸塩の付着を防止することが可能となる。
【0033】
[硝酸塩噴出部の構成]
次に、
図3及び
図4を参照して、本実施形態に係る硝酸塩噴出部45について具体的に説明する。
図3は、
図2中のX1-X1線に沿って見た、本実施形態に係る投下シュート4及び硝酸塩噴出部45の断面図である。
図4(A)は、本実施形態に係る硝酸塩噴出部45の金属板453の正面図であり、
図4(B)は、本実施形態に係る硝酸塩噴出部45の金属板453の横断面図である。
【0034】
図3に示すように、投下シュート4の周壁41は、水平方向に沿った断面が矩形状であり、4つの側面を含む四角柱状に形成されている。一対の硝酸塩噴出部45は、このような周壁41における4つの側面のうちで対向する一対の側面41a、41bのそれぞれに取り付けられている。
【0035】
上述したように、一対の硝酸塩噴出部45のそれぞれは、硝酸塩を供給するための供給通路451と、供給通路451と連通し、この供給通路451から硝酸塩が供給される供給口452aを含み、水平方向に延びる水平通路452と、水平通路452の内側(シュート空間41x側)に設けられ、水平方向に延びる金属板453と、を有する。具体的には、供給通路451は、水平通路452の長手方向における中央部において連結されている。よって、供給口452aは、水平通路452の長手方向における中央に位置する。また、水平通路452及び金属板453は、周壁41の側面41a、41bにおける幅方向のほぼ全体に亘って水平方向に延びている。
【0036】
金属板453は、
図4(A)に示すように、当該金属板453の幅方向(水平方向)のほぼ全体に亘って延び、鉛直方向に整列するように形成された2つのスリット部454a、454bを有する。これらスリット部454a、454bのそれぞれは、
図4(B)に示すように、鉛直方向の幅(高さ)がシュート空間41x側に向かって(つまり硝酸塩の流れ方向に沿って)狭まるように形成されている。
【0037】
また、硝酸塩噴出部45は、
図3に示すように、供給口452aを覆うように水平通路452内に設けられ、供給口452aから水平通路452内に流入する硝酸塩を受け流すための硝酸塩受け部455を更に有する。硝酸塩受け部455は、上面視でコの字状に形成されている。なお、硝酸塩受け部455は、本発明における「焼入れ液受け部」の一例に相当する。
【0038】
次に、
図5乃至
図7を参照して、本実施形態に係る硝酸塩噴出部45の硝酸塩受け部455について具体的に説明する。
図5は、
図3中のX2-X2線に沿って見た、本実施形態に係る硝酸塩噴出部45の部分断面図である。
図6は、
図3中のX2-X2線に沿って見た、本実施形態に係る硝酸塩噴出部45の部分断面斜視図である。
図7は、
図3中のX3-X3線に沿って見た、本実施形態に係る硝酸塩噴出部45の部分断面斜視図である。
【0039】
図5乃至
図7に示すように、硝酸塩噴出部45の硝酸塩受け部455は、供給口452aに対向するように配置された前壁455aと、この前壁455aから供給口452aが設けられた水平通路452の内壁面まで延びる一対の側壁455bと、を有する。硝酸塩受け部455では、前壁455aの上端が水平通路452の内壁面に接合されると共に、一対の側壁455bのそれぞれの後端が水平通路452の内壁面に接合されることで、硝酸塩受け部455の上部及び後背部が閉塞している。
【0040】
また、硝酸塩受け部455の一対の側壁455bのそれぞれには、その上部が開放するように矩形状の開口部455cが形成されている。更に、硝酸塩受け部455の下部には、この下部全体が開放するように、矩形状の開口部455dが形成されている。なお、硝酸塩受け部455の下部の全体を開放することに限定はされず、側壁455bのように一部分のみを開放してもよい。この場合、硝酸塩受け部455に底壁を設け、この底壁の一部分に開口部を形成すればよい。
【0041】
このような硝酸塩受け部455により作り出される、水平通路452内での硝酸塩の流れについて説明する。
図6及び
図7に示すように、まず、供給口452aから水平通路452内に流入する硝酸塩は、供給口452aの前方が前壁455aにより塞がれているため、前壁455aの側方にある一対の側壁455bの開口部455cから水平方向の両側へと流れると共に(矢印A31、A32)、前壁455aの下部にある開口部455dから下方向へと流れる(矢印A41)。また、こうして下部の開口部455dから下方向へと流れた硝酸塩は、更に、前方のスリット部454a、454bに向けて流れると共に(矢印A42)、水平方向の両側に流れる(矢印A43、A44)。
【0042】
以上のように、水平通路452内に設けた硝酸塩受け部455によれば、供給口452aから水平通路452内に流入する硝酸塩を、水平通路452内の全体に行き渡らせることができる(
図3の矢印A21参照)。その結果、2つのスリット部454a、454bのそれぞれの全体から均一に硝酸塩を噴出させることができ(
図3の矢印A22参照)、シュート空間41x全体を覆うような硝酸塩による2段のカーテン状の液膜を効果的に形成することが可能となる(
図2の矢印A11、A12参照)。
【0043】
ここで、投下シュート4及び硝酸塩噴出部45のサイズの一例について示す。投下シュート4の周壁41は、例えば、側面41a、41bの長さが900mm程度で、側面41a、41bに挟まれた側面の長さが400mm程度で、高さが1400mm程度である。また、硝酸塩噴出部45の水平通路452は、例えば、水平方向において長手方向の長さが900mm程度で、水平方向において短手方向の長さが70mm程度で、高さが160mm程度である。また、硝酸塩噴出部45の硝酸塩受け部455は、水平方向において長手方向の長さが100mm程度で、水平方向において短手方向の長さが30mm程度で、高さが250mm程度である。また、硝酸塩受け部455の側壁455bの開口部455cは、高さが100mm程度である。
【0044】
[作用及び効果]
次に、本実施形態に係る連続式熱処理装置1の作用及び効果について説明する。本実施形態に係る連続式熱処理装置1は、金属部材を加熱処理する加熱炉3と、加熱炉3で加熱処理された金属部材を鉛直方向下方に投下する投下シュート4と、投下シュート4の下方に配置され、硝酸塩を収容し、投下シュート4により金属部材が投入される硝酸塩浴槽6と、シュート空間41x内に硝酸塩によるカーテン状の液膜を形成するように、シュート空間41x内に硝酸塩を噴出する硝酸塩噴出部45と、を有し、硝酸塩噴出部45は、水平方向に延びると共に、シュート空間41x内に連通して、硝酸塩をシュート空間41x内に噴出する2つのスリット部454a、454bを有し、これら2つのスリット部454a、454bは、鉛直方向に整列するように配置されている。
【0045】
このような本実施形態によれば、鉛直方向に整列するように配置された2つのスリット部454a、454bから硝酸塩をシュート空間41x内に噴出するので、鉛直方向において2段のカーテン状の液膜をシュート空間41x内に形成することができる。したがって、たとえ2つのスリット部454a、454bのうちの一方に固形物などが詰まり、このスリット部により形成されるカーテン状の液膜が部分的に裂けてしまったとしても、こうして部分的に裂けた液膜の部分を、2つのスリット部454a、454bのうちの他方から噴出される硝酸塩によりカバーすることができる。よって、本実施形態によれば、シュート空間41xを覆うような硝酸塩によるカーテン状の液膜を確実に形成することができる。
【0046】
その結果、硝酸塩浴槽6内への金属部材の投入により硝酸塩浴槽6から跳ね上がる硝酸塩を確実にブロック(吸収)することができ、投下シュート4の上流側の加熱炉3への硝酸塩の侵入、及び、投下シュート4の周壁41の内壁面(シュート内壁面)への硝酸塩の付着を効果的に防止することが可能となる。したがって、加熱炉3の雰囲気の維持、加熱炉3の構成部品の寿命延長、熱処理される金属部材の品質不良のリスク低減、及び、硝酸塩浴槽6への異品混入のリスク低減などを実現することができる。例えば、本実施形態によれば、1段のカーテン状の液膜を用いる従来の構成と比較して、加熱炉3のメッシュベルト32の交換周期が1年から2年程度に延び、加熱炉3内の投下シュート4の交換周期が3~5年から10年程度に延び、加熱炉3内の内壁(レンガ)の寿命が6~7年から10年以上に延びる。
【0047】
また、本実施形態では、硝酸塩噴出部45は、硝酸塩が供給される供給口452aを含み、2つのスリット部454a、454bを覆うように水平方向に延びる水平通路452と、供給口452aを部分的に覆うように水平通路452内に設けられ、供給口452aから流出する硝酸塩を受け流す硝酸塩受け部455と、を更に有し、硝酸塩受け部455は、供給口452aに対向して配置された前壁455aと、前壁455aから供給口452aが設けられた水平通路452の内壁面まで延びている一対の側壁455bと、を有する。
【0048】
このような本実施形態によれば、硝酸塩噴出部45において供給口452aから水平通路452内に流入する硝酸塩を、当該供給口452aを部分的に覆うように設けられた硝酸塩受け部455によって受け流すことで、硝酸塩を水平通路452内の全体に行き渡らせることができる。その結果、スリット部454a、454b全体から均一に硝酸塩を噴出させることができ、シュート空間41x全体を覆うような硝酸塩によるカーテン状の液膜を効果的に形成することが可能となる。
【0049】
また、本実施形態では、硝酸塩受け部455の一対の側壁455bの各々は、その一部分、具体的には上部が開放している。これにより、硝酸塩噴出部45において供給口452aから水平通路452内に流入する硝酸塩を、一対の側壁455bの各々の開口部455cから水平方向の両側に流すことができ、硝酸塩を水平通路452内の全体に効果的に行き渡らせることができる。
更に、上記の本実施形態によれば、供給口452aから水平通路452内に流入する硝酸塩を、側壁455bの上部(開口部455c)から水平方向に流すことで、2つのスリット部454a、454bにおいて上側に位置するスリット部454aに対しても、硝酸塩を確実に供給することができる。その結果、2つのスリット部454a、454bのそれぞれに硝酸塩を均一に分配することができる。換言すると、2つのスリット部454a、454bのそれぞれから噴出される硝酸塩の量を均一にすることが可能となる。
【0050】
また、本実施形態では、硝酸塩受け部455は、その下部の全体(一部分でもよい)が開放している。これにより、硝酸塩噴出部45において、供給口452aから水平通路452内に流入する硝酸塩を、硝酸塩受け部455の下部の開口部455dから下方向に流し、こうして下部の開口部455dから下方向に流れた硝酸塩を、スリット部454a、454bに向けて流すと共に、水平方向の両側に流すことができる。よって、硝酸塩を水平通路452内の全体に効果的に行き渡らせることができる。
【0051】
また、本実施形態では、2つのスリット部454a、454bのそれぞれは、鉛直方向の幅が硝酸塩の流れ方向に沿って狭まるように形成されている。これにより、スリット部454a、454bから硝酸塩を勢いよく噴出させることができ、つまりスリット部454a、454bから所望の流速で硝酸塩を噴出させることができ、シュート空間41x全体を覆うような硝酸塩によるカーテン状の液膜を効果的に形成することができる。
【0052】
また、本実施形態では、連続式熱処理装置1は、シュート空間41xを挟んで対向して設けられた一対の硝酸塩噴出部45を有する。このような一対の硝酸塩噴出部45のそれぞれから硝酸塩をシュート空間41xに噴出させることで、シュート空間41x全体を覆うような硝酸塩によるカーテン状の液膜を効果的に形成することができる。
【0053】
[変形例]
上述した実施形態では、鉛直方向に整列するように配置された2つのスリット部454a、454bを用いて、硝酸塩による2段のカーテン状の液膜をシュート空間41xに形成していた。他の例では、鉛直方向に整列するように配置された3つ以上のスリット部を用いて、硝酸塩による3段以上のカーテン状の液膜をシュート空間41xに形成してもよい。
【0054】
また、上述した実施形態では、連続式熱処理装置1は、焼入れ液として硝酸塩を用いていたが、他の例では、焼入れ液として、硝酸塩の代わりに、焼入れ油などの種々の冷媒を用いてもよい。
【0055】
このように、上述した実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 連続式熱処理装置
3 加熱炉
4 投下シュート
6 硝酸塩浴槽(焼入れ液槽)
41 周壁
41x シュート空間
43 硝酸塩流通部
45 硝酸塩噴出部(焼入れ液噴出部)
431 供給通路
451 供給通路
452 水平通路
452a 供給口
453 金属板
454a、454b スリット部
455 硝酸塩受け部(焼入れ液受け部)
455a 前壁
455b 側壁
455c 開口部
455d 開口部