(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121933
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】処理装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/497 20060101AFI20240902BHJP
G01C 3/06 20060101ALI20240902BHJP
G01S 7/481 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
G01S7/497
G01C3/06 120Q
G01C3/06 140
G01S7/481 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029184
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智成
【テーマコード(参考)】
2F112
5J084
【Fターム(参考)】
2F112AD01
2F112BA06
2F112BA12
2F112CA05
2F112CA12
2F112DA04
2F112DA09
2F112DA15
2F112DA25
2F112DA28
2F112DA32
2F112EA05
2F112FA03
2F112FA21
2F112FA23
2F112FA45
2F112GA01
5J084AB01
5J084AD01
5J084BA04
5J084BA06
5J084BA07
5J084BA36
5J084BA40
5J084BA50
5J084BB01
5J084BB28
(57)【要約】
【課題】視差による距離誤差の影響が抑制された距離情報を安定的に提供可能な処理装置を提供する。
【解決手段】処理装置3は、光ビームを測定領域MAへ向けて投光する投光ユニット10と、投光ユニット10とはずれた位置に配置され、物体OBJによって反射された光ビームを受光する受光ユニット30と、を備えるLiDAR2のセンシングデータを処理する。処理装置3は、投光レンズ系12の焦点位置Ptfと、受光レンズ系31の焦点位置Prfとを、記憶する少なくとも1つのメモリ3aと、プロセッサ3bと、を備える。プロセッサ3bは、光ビームの光路について、焦点位置Ptfを起点とし、焦点位置Prfを終点とする近似に基づき、投光ユニット10と受光ユニット31との位置のずれに起因した物体OBJの距離誤差が補正された補正距離情報を、LiDAR2から物体OBJまでの距離情報として出力可能に構成される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源(11)から投光レンズ系(12)を通じて光ビームを測定領域(MA)へ向けて投光する投光ユニット(10)と、前記投光ユニットとはずれた位置に配置され、前記測定領域の測定対象物(OBJ)によって反射された前記光ビームを、受光レンズ系(31)を通じて受光素子(32)で受光する受光ユニット(30)と、を備える光学センサ(2)のセンシングデータを処理する処理装置であって、
前記投光レンズ系の焦点位置(Ptf)と、前記受光レンズ系の焦点位置(Prf)とを、記憶する少なくとも1つの記憶媒体(3a)と、
前記センシングデータ、前記投光レンズ系の焦点位置及び前記受光レンズ系の焦点位置を取得して処理を実行可能に構成される少なくとも1つのプロセッサ(3b)と、を備え、
前記少なくとも1つのプロセッサは、
前記光ビームの光路について、前記投光レンズ系の焦点位置を起点とし、前記受光レンズ系の焦点位置を終点とする近似に基づき、前記投光ユニットと前記受光ユニットとの位置のずれに起因した前記測定対象物の距離誤差が補正された補正距離情報を、前記光学センサから前記測定対象物までの距離情報として出力可能に構成される処理装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つのプロセッサは、
前記光ビームの飛行時間に基づく測定光路長を取得することと、
前記測定光路長に応じた大きさを備え、前記投光レンズ系の焦点位置及び前記受光レンズ系の焦点位置を焦点とした仮想楕円(VE)を、前記測定対象物の候補位置として特定することと、
前記センシングデータに含まれる受光画素位置に基づき、前記候補位置から前記測定対象物の推定位置(Pd)を算出することと、
前記投光レンズ系の焦点位置から前記推定位置までの距離と、前記推定位置から前記受光レンズ系の焦点位置までの距離の和に基づいた距離情報を、前記補正距離情報として出力することと、を実行するように構成される請求項1に記載の処理装置。
【請求項3】
前記投光レンズ系の光軸(OAt)と前記受光レンズ系の光軸(OAr)とは、平行に配置されており、
前記光ビームの飛行時間に基づく測定光路長をLm、前記投光レンズ系の焦点位置から前記測定対象物までの距離をLt2、前記測定対象物から前記受光レンズ系の焦点位置までの距離をLr2、前記センシングデータに含まれる受光画素位置で受光される光線が前記受光レンズ系の光軸に対してなす角度をθr、前記光線が前記測定対象物に反射される前において前記投光レンズ系の光軸に対してなす角度をθt、前記投光レンズ系の焦点位置と前記受光レンズ系の焦点位置との距離をLbと、それぞれ定義すると、
前記少なくとも1つのプロセッサは、
Lm=Lt2+Lr2
Lt2・cosθt=Lr2・cosθr
Lt2・sinθt+Lr2・sinθr=Lb
の3つの連立方程式から、未知数であるLt2,Lr2,θtを算出することにより、前記補正距離情報を出力することを、実行するように構成される請求項1に記載の処理装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つの記憶媒体は、前記光源の発光位置に個別に対応した前記受光素子上の検出結果分布波形(WF)を示す受光プロファイルを、さらに記憶し、
前記少なくとも1つのプロセッサは、
前記光ビームの飛行時間に基づく測定光路長を取得することと、
前記測定光路長に応じた大きさを備え、前記投光レンズ系の焦点位置及び前記受光レンズ系の焦点位置を焦点とした仮想楕円(VE)を、想定することと、
前記仮想楕円と、前記センシングデータに含まれる画素レベルの受光画素位置とに基づき、前記光ビームが前記投光レンズ系の光軸(OAt)に対してなす角度を特定することと、
前記角度に基づき、前記測定対象物によって反射された前記光ビームの前記発光位置を特定することと、
前記発光位置に個別に対応した分布波形を示す前記受光プロファイルと前記センシングデータとをマッチングし、前記受光素子上の受光強度が最大となる高精度受光位置を前記受光画素位置よりも高い精度で特定することと、
前記仮想楕円を、前記発光位置と前記高精度受光位置を焦点とした置換仮想楕円に置換した形態により、前記置換仮想楕円の候補位置から前記測定対象物の推定位置を算出することと、
前記発光位置から前記推定位置までの距離と、前記推定位置から前記高精度受光位置までの距離の和に基づいた距離情報を、前記測定対象物の距離情報として出力することと、を実行するように構成される請求項1に記載の処理装置。
【請求項5】
前記少なくとも1つの記憶媒体は、前記光源の発光位置に個別に対応した前記受光素子上の検出結果分布波形(WF)を示す受光プロファイルを、さらに記憶し、
前記投光レンズ系の光軸(OAt)と前記受光レンズ系の光軸(OAr)とは、平行に配置されており、
前記光ビームの飛行時間に基づく測定光路長をLm、前記投光レンズ系の焦点位置から前記測定対象物までの距離をLt2、前記測定対象物から前記受光レンズ系の焦点位置までの距離をLr2、前記センシングデータに含まれる受光画素位置で受光される光線が前記受光レンズ系の光軸に対してなす角度をθr、前記光線が前記測定対象物に反射される前において前記投光レンズ系の光軸に対してなす角度をθt、前記投光レンズ系の焦点位置と前記受光レンズ系の焦点位置との距離をLbと、それぞれ定義すると、
前記少なくとも1つのプロセッサは、
Lm=Lt2+Lr2
Lt2・cosθt=Lr2・cosθr
Lt2・sinθt+Lr2・sinθr=Lb
の3つの連立方程式から、未知数であるLt2,Lr2,θtを算出することと、
θtを用いて前記測定対象物によって反射された前記光ビームの前記発光位置を特定することと、
前記発光位置に個別に対応した分布波形を示す前記受光プロファイルと前記センシングデータとをマッチングし、前記受光素子上の受光強度が最大となる高精度受光位置を前記受光画素位置よりも高い精度で特定することと、
前記3つの連立方程式におけるLbを、前記発光位置と前記高精度受光位置との距離Lbdに置換した上で、未知数であるLt2,Lr2,θtを再度算出することにより、前記補正距離情報を出力することを、実行するように構成される請求項1に記載の処理装置。
【請求項6】
光源(11)から投光レンズ系(12)を通じて光ビームを測定領域(MA)へ向けて投光する投光ユニット(10)と、前記投光ユニットとはずれた位置に配置され、前記測定領域の測定対象物(OBJ)によって反射された前記光ビームを、受光レンズ系(31)を通じて受光素子(32)で受光する受光ユニット(30)と、を備える光学センサ(2)のセンシングデータを処理する、少なくとも1つのプロセッサにより実行される方法であって、
前記センシングデータを取得することと、
前記投光レンズ系の焦点位置(Ptf)と、前記受光レンズ系の焦点位置(Prf)とを、記憶媒体(3a)から取得することと、
前記光ビームの光路について、前記投光レンズ系の焦点位置を起点とし、前記受光レンズ系の焦点位置を終点とする近似を実行することと、
前記近似に基づいて、前記投光ユニットと前記受光ユニットとの位置のずれに起因した前記測定対象物の距離誤差を補正し、補正距離情報を、前記光学センサから前記測定対象物までの距離情報として出力することと、を含む方法。
【請求項7】
光源(11)から投光レンズ系(12)を通じて光ビームを測定領域(MA)へ向けて投光する投光ユニット(10)と、前記投光ユニットとはずれた位置に配置され、前記測定領域の測定対象物(OBJ)によって反射された前記光ビームを、受光レンズ系(31)を通じて受光素子(32)で受光する受光ユニット(30)と、を備える光学センサ(2)のセンシングデータを処理するプログラムであって、
少なくとも1つのプロセッサに、
前記センシングデータを取得することと、
前記投光レンズ系の焦点位置(Ptf)と、前記受光レンズ系の焦点位置(Prf)とを、記憶媒体(3a)から取得することと、
前記光ビームの光路について、前記投光レンズ系の焦点位置を起点とし、前記受光レンズ系の焦点位置を終点とする近似を実行することと、
前記近似に基づいて、前記投光ユニットと前記受光ユニットとの位置のずれに起因した前記測定対象物の距離誤差を補正し、補正距離情報を、前記光学センサから前記測定対象物までの距離情報として出力することと、を実行させるように構成されるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書による開示は、光学センサを用いた測距技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学センサを用いた測距技術が知られている。投光ユニットと受光ユニットとが互いにずれた位置に配置された非同軸型の光学センサでは、両ユニットの視差による距離誤差が発生する。そこで特許文献1では、投光ユニット及び受光ユニットの配置情報を用いて、当該距離誤差を補正している。具体的に、遠距離では同軸系であると仮定し、近距離では反復処理で補正を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、近距離において数値が条件を満たすまで反復処理が用いられるため、当該反復処理に時間や負荷がかかってしまうことがある。このため、距離情報を安定的に提供することにおいて、課題があった。
【0005】
この明細書の開示による目的のひとつは、視差による距離誤差の影響が抑制された距離情報を安定的に提供可能な処理装置、方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示された態様のひとつは、光源(11)から投光レンズ系(12)を通じて光ビームを測定領域(MA)へ向けて投光する投光ユニット(10)と、投光ユニットとはずれた位置に配置され、測定領域の測定対象物(OBJ)によって反射された光ビームを、受光レンズ系(31)を通じて受光素子(32)で受光する受光ユニット(30)と、を備える光学センサ(2)のセンシングデータを処理する処理装置であって、
投光レンズ系の焦点位置(Ptf)と、受光レンズ系の焦点位置(Prf)とを、記憶する少なくとも1つの記憶媒体(3a)と、
センシングデータ、投光レンズ系の焦点位置及び受光レンズ系の焦点位置を取得して処理を実行可能に構成される少なくとも1つのプロセッサ(3b)と、を備え、
少なくとも1つのプロセッサは、
光ビームの光路について、投光レンズ系の焦点位置を起点とし、受光レンズ系の焦点位置を終点とする近似に基づき、投光ユニットと受光ユニットとの位置のずれに起因した測定対象物の距離誤差が補正された補正距離情報を、光学センサから測定対象物までの距離情報として出力可能に構成される。
【0007】
また、開示された態様の他のひとつは、光源(11)から投光レンズ系(12)を通じて光ビームを測定領域(MA)へ向けて投光する投光ユニット(10)と、投光ユニットとはずれた位置に配置され、測定領域の測定対象物(OBJ)によって反射された光ビームを、受光レンズ系(31)を通じて受光素子(32)で受光する受光ユニット(30)と、を備える光学センサ(2)のセンシングデータを処理する、少なくとも1つのプロセッサにより実行される方法であって、
センシングデータを取得することと、
投光レンズ系の焦点位置(Ptf)と、受光レンズ系の焦点位置(Prf)とを、記憶媒体(3a)から取得することと、
光ビームの光路について、投光レンズ系の焦点位置を起点とし、受光レンズ系の焦点位置を終点とする近似を実行することと、
近似に基づいて、投光ユニットと受光ユニットとの位置のずれに起因した測定対象物の距離誤差を補正し、補正距離情報を、光学センサから測定対象物までの距離情報として出力することと、を含む。
【0008】
また、開示された態様の他のひとつは、光源(11)から投光レンズ系(12)を通じて光ビームを測定領域(MA)へ向けて投光する投光ユニット(10)と、投光ユニットとはずれた位置に配置され、測定領域の測定対象物(OBJ)によって反射された光ビームを、受光レンズ系(31)を通じて受光素子(32)で受光する受光ユニット(30)と、を備える光学センサ(2)のセンシングデータを処理するプログラムであって、
少なくとも1つのプロセッサに、
センシングデータを取得することと、
投光レンズ系の焦点位置(Ptf)と、受光レンズ系の焦点位置(Prf)とを、記憶媒体(3a)から取得することと、
光ビームの光路について、投光レンズ系の焦点位置を起点とし、受光レンズ系の焦点位置を終点とする近似を実行することと、
近似に基づいて、投光ユニットと受光ユニットとの位置のずれに起因した測定対象物の距離誤差を補正し、補正距離情報を、光学センサから測定対象物までの距離情報として出力することと、を実行させるように構成される。
【0009】
これらの態様によると、光学センサから測定対象物までの距離情報を出力するにあたって、投光ユニットと受光ユニットとの位置のずれに起因した測定対象物の距離誤差が補正される。この補正は、光ビームの光路について、投光レンズ系の焦点位置を起点とし、受光レンズ系の焦点位置を終点とする近似に基づいて実行される。この近似の採用により、補正演算における数値が収束ないし条件を満たすまでの反復処理により時間や負荷がかかってしまうことが抑制される。距離情報を出力するための時間や負荷が大幅に軽減される結果、距離情報を安定的に提供することができるようになる。
【0010】
なお、特許請求の範囲等に含まれる括弧内の符号は、後述する実施形態の部分との対応関係を例示的に示すものであって、技術的範囲を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図8】処理装置による処理方法の例を示すフローチャート。
【
図9】補正演算がない場合の距離誤差を示すグラフ。
【
図10】補正演算がない場合の距離誤差を示すグラフ。
【
図12】発光位置及び受光位置の特定を説明する図。
【
図13】処理装置による処理方法の例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、複数の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合せることができる。
【0013】
(第1実施形態)
図1,2に示すように、本開示の第1実施形態による物体検知システム1は、移動体としての車両EVに搭載されている。物体検知システム1は、車両EVの周辺の物体OBJを検知する。物体検知システム1が検知した物体OBJの情報は、車両EVのHMIシステムを通じて例えばドライバ等の乗員へ情報提供されてもよい。また、物体検知システム1が検知した物体OBJの情報は、車両EVの自動運転システム又は運転支援システムによる自動運転又は運転支援に用いられる。
図2に示すように、物体検知システム1は、LiDAR(Light Detection and Ranging/Laser imaging Detection and Ranging)2及び処理装置3を含む構成である。
【0014】
図3に示すLiDAR2は、光ビームを測定領域MAへ向けて投光し、測定対象物である物体OBJからの反射光を検出する光学センサである。LiDAR2は、物体OBJの距離を測定する光測距装置にも相当する。
図1に示すように、LiDAR2は、例えば
図1に示すように車両EVのフロントウインドシールド上端部に設置され、車両EVの前方の測定領域MAへ光を走査して物体OBJを検出することが可能である。測定対象物として検出される物体OBJは、例えば他車両、歩行者等である。
図2に示すように、LiDAR2は、投光ユニット10、走査ユニット20、受光ユニット30及びコントローラ40を含む構成である。
【0015】
投光ユニット10は、光源11から投光レンズ系12を通じて光ビームを測定領域MAへ向けて投光する。投光ユニット10は、光源11及び投光レンズ系12を含む構成である。
【0016】
光源11は、例えばレーザダイオード(LD,Laser Diode)等のレーザ発振素子であってよい。光源11は、LEDであってもよい。光源11は、コントローラ40からの電気信号に応じた発光タイミングにて、発光可能である。発光される光の波長は、近赤外光等の可視光以外の波長であってよい。
【0017】
光源11は、
図4に示すように、複数の発光素子11a(発光画素ともいう)を1次元又は2次元に配列した構成であってよい。本実施形態における光源11は、発光素子11aとしてのLDを互いに間隔を空けて(離散的に)1次元に配列した発光素子アレイである。
【0018】
投光レンズ系12は、光源11から発光された光を集光し、測定領域MAへ向けてビーム状の光ビームを投光する。投光レンズ系12は、1つ又は複数のレンズを含む構成である。投光レンズ系12は、ミラーレンズ等の反射素子を含む構成であってもよい。
【0019】
走査ユニット20は、投光ユニット10からの投光ビームを測定領域MAの範囲で走査する。走査ユニット20は、例えば走査ミラー21を含む構成である。走査ミラー21は、駆動モータ及び反射体を含む構成である。駆動モータは、コントローラ40からの電気信号に応じた回転量及び回転速度にて、反射体の回転軸を駆動する。反射体は、投光ビームを測定領域MAへ向けて反射する反射面を有するミラーである。反射面は、例えば平面状に形成されている。
【0020】
受光ユニット30は、測定領域MAの物体OBJに反射されて戻ってくる光ビームを、受光レンズ系31を通じて受光素子32で受光する。受光ユニット30は、受光レンズ系31、受光素子32及びデコーダ33を含む構成である。
【0021】
受光レンズ系31は、測定領域MAの物体OBJに反射され、さらに走査ミラー21に反射された光ビームを集光し、受光素子32に入射させる。受光レンズ系31は、1つ又は複数のレンズを含む構成である。受光レンズ系31は、ミラーレンズ等の反射素子を含む構成であってもよい。
【0022】
受光素子32は、受光レンズ系31によって集光された反射光を受光して検出する。受光素子32は、例えば単一光子アバランシェフォトダイオード(SPAD,Single Photon Avalanche Diode)センサであってよい。
図5に示すように受光素子32は、複数のSPADを検出面32b上に高度に集積化した状態で、受光画素32aを2次元配列して形成されている。
【0023】
SPADは、1つの光子を受光すると、アバランシェ倍増による電子倍増動作(いわゆるガイガーモード)により、1つの電気パルスを生成する。すなわち、SPADは、アナログ信号からデジタル信号へのAD変換回路を介さずに、換言すると直接的に、デジタル信号としての電気パルスを発生させることができる。したがって、受光結果は高速に読み出し可能である。
【0024】
デコーダ33は、SPADが生成した電気パルスを出力するために設けられ、選択回路及びクロック発振器を含む構成である。選択回路は、電気パルスを取り出す対象となるSPADを、順次選択していく。選択されたSPADは、電気パルスをコントローラ40へ出力する。選択回路がSPADを1回ずつ選択し終えると、1回のサンプリングが終了する。このサンプリング周期は、クロック回路から出力されるクロック周波数に応じたものとなる。
【0025】
コントローラ40は、LiDAR2の動作を制御する。コントローラ40は、メモリ及びプロセッサを少なくとも1つずつ有したコンピュータにより実現されていてもよい。コントローラ40は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等によって実現されていてもよい。
【0026】
具体的に、コントローラ40は、投光ユニット10における光源11の発光と、走査ユニット20における走査ミラー21の向きとを、連動するように制御する。さらにコントローラ40は、デコーダ33によるサンプリング動作を制御してもよい。コントローラ40は、投光ユニット10、走査ユニット20及び受光ユニット30の制御データ、及び受光ユニット30のサンプリング結果ないしこれを処理したデータを、センシングデータとして処理装置3へ出力可能に構成されている。
【0027】
ここで
図3に示すように、投光ユニット10と受光ユニット30とは、共通のハウジング2aに収容され、互いにずれた位置に配置されている。投光ユニット10と受光ユニット30とは、光軸OAt,OAr(
図7参照)を互いに実質平行に構成する非同軸系をなし、並ぶように配置されている。両ユニット10,30の並び方向は、光源11における発光素子11aの配列方向及び受光素子32の長手方向と、実質的に一致している。ハウジング2aは、光ビームを透過させる窓部を有している。なお、走査ミラー21は、ハウジング2aに収容され、投光レンズ系12、及び受光レンズ系31及びハウジング2aの窓部と相対するように配置されるが、
図3等では図示が省略されている。
【0028】
このような非同軸系をなす配置においては、光源11の発光時刻から受光時刻までの時間を距離の2倍に単純換算すると、実際の物体OBJとの距離誤差が生じ得る。ここでいう単純換算とは、距離の2倍=光の速さ×時間の式による換算である。この距離誤差は、投光ユニット10と受光ユニット30の視差に起因する誤差である。測定領域MAの物体OBJが近距離に存在する程、距離誤差の影響は大きくなる。
【0029】
処理装置3は、LiDAR2から取得したセンシングデータを処理し、測定領域MAの物体OBJの距離に関する演算を行う電子制御装置である。この演算は、物体OBJの距離を、上述の投光ユニット10及び受光ユニット30の配置を考慮して補正する補正演算を含む。処理装置3は、このような補正演算に基づき、距離情報を車両EVの自動運転システム又は運転支援システム、ドライバ等への報知システム、イベントデータレコーダ等の記録装置、さらには車両EVの外部に存在する管理センタ、クラウドサーバ等へ出力して提供可能に構成されている。距離情報は、例えば物体OBJの距離の値そのものであってもよく、例えば物体OBJのLiDAR2に対する相対座標等、距離を容易に算出可能なデータであってもよい。なお、処理装置3は、さらにセンシングデータに基づき検出される物体OBJを画像処理し、反射強度画像、背景光画像等の画像を生成する機能を備えていてよい。
【0030】
処理装置3は、メモリ3a及びプロセッサ3bを少なくとも1つずつ有したコンピュータを含む構成であってよい。メモリ3aは、プロセッサ3bにより読み取り可能なプログラム及びデータ等を非一時的に記憶する、例えば半導体メモリ、磁気媒体、及び光学媒体等のうち、少なくとも1種類の非遷移的実態的記憶媒体であってよい。さらにメモリ3aとして、例えばRAM(Random Access Memory)等の書き換え可能な揮発性の記憶媒体が設けられていてもよい。プロセッサ3bは、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、及びRISC(Reduced Instruction Set Computer)-CPU等のうち、少なくとも1種類をコアとして含む。
【0031】
図6は、処理装置3による測距機能の機能的アーキテクチャを示す図である。処理装置3は、データ取得部51、測定光路長近似部52、物体位置算出部53及び座標変換部54を、プログラムを実行する少なくとも1つのプロセッサ3bにより実現される機能部として含む構成である。
【0032】
データ取得部51は、LiDAR2から最新のセンシングデータを逐次取得する。このセンシングデータは、投光ユニット10及び受光ユニット30の配置を考慮していない、補正前のデータである。
【0033】
処理装置3が物体OBJの測定光路長を算出することを機能に含む場合、上述のサンプリング結果がセンシングデータとして取得される。すなわち、データ取得部51は、サンプリング結果に基づき、ToF(Time of Flight)方式により物体の距離を測定する。詳細に、データ取得部51は、電気パルスが検出された回数を時刻毎にヒストグラム化し、光源の発光時刻から当該ヒストグラムがピークを示す時刻までの時間を測定光路長(距離の2倍に対応)に単純換算する。すなわちデータ取得部51が補正演算適用前の測定光路長自体を算出する。
【0034】
一方でLiDAR2が物体OBJの補正演算適用前の測定光路長を算出することを機能に含んでいる場合、データ取得部51は、LiDAR2にて算出された測定光路長をセンシングデータとして取得する。データ取得部51は、さらに当該測定光路長を測定したときの受光画素32aの情報を、センシングデータとして取得する。受光画素32aの情報は、受光画素32a毎の検出回数である。受光画素32aの情報は、通常、ノイズを低減するため、互いに隣接する複数のSPADからなる領域を1つの受光画素32aとみなし、当該受光画素32aを構成する各SPADの検出回数を合計ないし平均したデータであってよい。1つのSPADないし受光画素32aよりも小さな単位をなす複数のSPADは、サブ画素と称されてもよい。
【0035】
測定光路長近似部52は、メモリ3aに記憶された焦点位置データ61に基づき、測定光路長の近似を実施する。焦点位置データ61は、投光レンズ系12の焦点位置Ptf及び受光レンズ系31の焦点位置Prfの情報を含む。焦点位置データ61は、メモリ3aにプログラムと同様に非一時的に記憶されていてもよい。焦点位置データ61は、使用される段階で、車両EV内部の他の装置又は車両外部から取得され、メモリ3aに一時的に記憶されてもよい。
【0036】
以下に測定光路長の近似方法を、
図7を用いて詳細に説明する。実際の測定光路長Lmは、以下の数式1で表される。
【0037】
Lm=Lt1+Lt2+Lr2+Lr1 (数式1)
ここで、Lt1は、発光画素の位置Pt1からまでの投光レンズ系12の焦点位置Ptfまでの距離である。すなわち、Lt1=|Pt1―Ptf|である。Lt2は、焦点位置Ptfから物体OBJの位置Pdまでの距離である。すなわち、Lt2=|Ptf-Pd|である。Lr2は、物体OBJの位置Pdから受光レンズ系31の焦点位置Prfまでの距離である。すなわち、Lr2=|Prf-Pd|である。Lr1は、焦点位置Prfから受光画素32aの位置Pr1までの距離である。すなわち、Lr1=|Prf-Pd|である。より厳密には、測定光路長は、投光レンズ系12内及び受光レンズ系31内でのレンズ媒質及び屈折の影響を受けるが、この数式1では当該影響が十分小さいとして省略されている。
【0038】
ここで、Lt1はLt2より十分小さく、Lr1はLr2より十分小さいとして、以下の数式2のようにLmはLmaに近似される。
【0039】
Lm≒Lma=Lt2+Lr2 (数式2)
すなわち、数式2のように、光ビームの光路は、投光レンズ系12の焦点位置Ptfを起点とし、受光レンズ系31の焦点位置Prfを終点とするように近似される。これにより、物体OBJの位置Pdの候補は、Lma,Ptf,Prfに基づいて決まる仮想楕円VE上に存在することとなる。仮想楕円VEは、光軸OAt,OArと、光源11と受光素子32とが並ぶ並び方向とがなす平面上に想定されればよい。ここで想定される仮想楕円VEは、投光レンズ系12の焦点位置Ptf及び受光レンズ系31の焦点位置Prfが当該仮想楕円VEの焦点に相当し、近似された測定光路長Lmaが長軸の長さの2倍に相当する仮想楕円であってよい。測定光路長近似部52は、Lmaに、データ取得部51が取得した測定光路長を代入する。
【0040】
物体位置算出部53は、測定光路長近似部52によって実質的に仮想楕円VE上に特定された候補位置を、データ取得部51が取得した受光画素32aの情報を用いて、絞り込む。これにより、物体OBJの位置Pdが算出される。
【0041】
具体的に、物体位置算出部53は、物体OBJの位置Pdで反射され焦点位置Prfを通り、センシングデータとして取得された実際の受光画素32aの位置Pt2で受光される光線が受光レンズ系31の光軸OArに対してなす角度θrを、算出する。角度θrは、物体OBJの位置Pdが特定できていない状態であっても、既知であるPr1とPrfとを結ぶ直線と光軸OArを示す直線との関係から、容易に算出できる。なお、投光レンズ系12及び受光レンズ系31の光軸データ62は、焦点位置データ61と同様に、メモリ3aに非一時的又は一時的に記憶されたデータである。
【0042】
そして、投光ユニット10と受光ユニット30とが互いに光軸OAt,OArを実質平行な状態にして並んでいるので、測定光路長Lmのうち、光軸OAt,OArに沿った方向の成分について、以下の数式3が成立する。ここで、θtは、センシングデータとして取得された実際の発光素子11aの位置Pt1から焦点位置Ptfを通り、物体OBJの位置Pdへ投光される光線が投光レンズ系12の光軸OAtに対してなす角度である。
【0043】
Lt2・cosθt=Lr2・cosθr (数式3)
さらに、測定光路長Lmのうち、光軸OAt,OArと垂直な方向の成分について、以下の数式4が成立する。ここで、数式4では、投光レンズ系12の焦点位置Ptfと受光レンズ系31の焦点位置Prfとの距離がPbとされる。
【0044】
Lt2・sinθt+Lr2・sinθr=Lb (数式4)
そして、数式2、数式3及び数式4の連立方程式(解析式とも称する)により、未知数であるLt2、Lr2、θtを解析的に解くことができる。物体OBJについて、仮想楕円VE上の候補位置は、これらの未知数が特定されることにより、位置Pdに一意に推定されることとなる。
【0045】
座標変換部54は、推定された物体OBJの位置Pdを、距離座標原点Poを基準とした座標系に変換する。距離座標原点Poは、物体検知システム1に求められる仕様に基づき、予め設定される。例えば距離座標原点Poは、ハウジング2a上における、光軸OAtの延長線の交点と、光軸OArの延長線の交点との中点に規定されてよい。
【0046】
そして、物体OBJの座標に代えて物体OBJの距離を出力する場合には、物体OBJの距離の出力値も、物体検知システム1に求められる仕様に基づき、予め設定される。例えば物体OBJの距離の出力値は、距離座標原点Poと物体OBJの位置Pdとの距離であってもよく、当該距離の光軸OAt,OArに沿った方向の成分であってもよい。
【0047】
次に、処理装置3による処理方法の例を、
図8のフローチャートを用いて説明する。ステップS1~5に示される一連の処理は、1回又は複数回のサンプリングが実施され、これに応じて物体OBJの距離を出力するために実施される。この一連の処理は、処理装置3の少なくとも1つのプロセッサ3bがプログラムを実行することにより、実施される。
【0048】
S1では、データ取得部51は、測定光路長Lmを取得する。S1の処理後、S2へ進む。
【0049】
S2では、測定光路長近似部52は、S1にて取得した測定光路長Lmを、上述の数式2のようにLmaに近似する。S2の処理後、S3へ進む。
【0050】
S3では、物体位置算出部53は、解析式より未知数Lt2、Lr2、θtを算出する。S3の処理後、S4へ進む。
【0051】
S4では、物体位置算出部53は、物体OBJの位置Pdを算出する。S4の処理後、S5へ進む。
【0052】
S5では、座標変換部54は、S4で算出された位置Pdを、距離座標原点Poを基準とした座標系に変換する。変換後の座標ないし距離が出力されることとなる。S5を以って一連の処理を終了する。
【0053】
図9,10では、比較例として補正演算をしない場合に、理論上生じ得る距離誤差が示されている。
図9,10では、物体OBJの距離別に線種を分けて距離誤差が区別されている。θrが大きくなる程、距離誤差は漸次大きくなる。また、焦点間距離Lbが大きくなる程、距離誤差は漸次大きくなる。ところが、以上説明した補正方法により、距離誤差を略解消することができる。
【0054】
以上説明した第1実施形態によると、光学センサとしてのLiDAR2から測定対象物としての物体OBJまでの距離情報を出力するにあたって、投光ユニット10と受光ユニット30との位置のずれに起因した物体OBJの距離誤差が補正される。この補正は、光ビームの光路について、投光レンズ系12の焦点位置Ptfを起点とし、受光レンズ系31の焦点位置Prfを終点とする近似に基づいて実行される。この近似の採用により、補正演算における数値が収束ないし条件を満たすまでの反復処理により時間や負荷がかかってしまうことが抑制される。距離情報を出力するための時間や負荷が大幅に軽減される結果、距離情報を安定的に提供することができるようになる。
【0055】
また、第1実施形態によると、光ビームの飛行時間に基づく測定光路長に応じた大きさを備え、焦点位置Ptf,Prfを焦点とした仮想楕円VEが想定される。物体OBJの候補位置は、仮想楕円VE上に特定される。そして、センシングデータに含まれる受光画素位置に基づき、候補位置から物体OBJの位置として推定される位置Pdが算出される。さらに、焦点位置Ptfから位置Pdまでの距離と、位置Pdから焦点位置Prfまでの距離の和に基づいた距離情報が、補正距離情報として出力される。近似により仮想楕円VE上に候補位置が絞られるので、演算時間や演算負荷をさらに低減することができる。
【0056】
また、第1実施形態によると、数式2~4の3つの数式による連立方程式から、未知数であるLt2,Lr2,θtを算出することにより、補正距離情報が出力される。未知数の算出が連立方程式の解析により実行されるので、未知数を得るために複雑な複数のアルゴリズムを実行することが抑制される。故に、演算時間や演算負荷をさらに低減することができる。
【0057】
(第2実施形態)
図11~13に示すように、第2実施形態は第1実施形態の変形例である。第2実施形態について、第1実施形態とは異なる点を中心に説明する。
【0058】
第2実施形態は、光源11が互いに離散的に配置された複数の発光素子11aを備える場合に好適である。
図11に示す第2実施形態の処理装置203において物体位置算出部253は、光源データ63及び波形データ64を参照して、解析式を2回解くことで、物体OBJの位置Pdの精度を高める。
【0059】
光源データ63は、光源11における発光素子11aの配置情報を含んでいる。光源データ63は、発光の空間の広がり形状を示すデータ、すなわち各発光素子11aの放射角度に対する発光強度分布を含んでいてもよい。光源データ63は、焦点位置データ61及び光軸データ62と同様に、メモリ3aに非一時的又は一時的に記憶されたデータである。光源データ63は、光源プロファイルと称されてもよい。
【0060】
波形データ64は、各発光素子11aから投光された光ビームが測定領域MAにて反射されて受光素子32に受光された場合の、当該ビームの受光素子32上の空間的な強度分布波形のデータを含んでいる。すなわち、波形データ64は、各発光素子11aと個別に対応する複数の受光強度分布波形WF(
図12参照)を含む。この情報は、実際のLiDAR2において予め実験的に確認された強度分布波形のデータであってもよく、予めシミュレーションにより得られた強度分布波形のデータであってもよい。強度分布波形WFは、ガウス分布形状をなしていてもよい。なお、受光素子32がSPADにより構成される場合、各受光画素32aの光子の検出回数が受光強度に対応する。このため、強度と検出回数とを総称する概念として、強度分布波形WFは、分布波形を示す受光プロファイルと称されてもよい。
【0061】
物体位置算出部253は、第1実施形態と同様の方法により、1度、解析式を解き、未知数Lt2、Lr2、θtを特定する。そして、物体位置算出部253は、θtの値から、未知数によって示された光線が光源11に離散的に配置された複数の発光素子11aのうちどの発光素子11aから発光された光線であるかを特定する。すなわち、発光画素の位置Pt1が特定される。
【0062】
そして
図12に示すように、物体位置算出部253は、センシングデータとして得られた実際の受光画素32a毎の検出結果を、当該発光素子11aに個別に対応する波形データ64とをマッチングする。波形データ64がガウス分布形状であれば、そのピークの位置Pr1を特定することができる。これにより特定されるピークの位置Pr1は、受光画素レベルよりも高精度である、サブ画素レベルの精度を有する。
【0063】
そして、数式4における投光レンズ系12の焦点位置Ptfと受光レンズ系31の焦点位置Prfとの距離としてのLbは、位置Pt1と位置Pr1との距離Lbdに置き換えられる。置換後の数式は以下の数式5で表される。ただし、数式5のLbdは以下の数式6で表される。
【0064】
Lt2・sinθt+Lr2・sinθr=Lbd (数式5)
Lbd=|Pt1-Pr1| (数式6)
そして、物体位置算出部253は、解析式を再度解く。すなわち、数式2、数式3及び数式5の連立方程式により、未知数であるLt2、Lr2、θtを解析的に解くことができる。解析式の解き直しにより、物体OBJの位置Pdをより高精度に算出することができる。この解析式の置換及び解き直しは、仮想楕円VEを焦点位置Ptf,Prf基準から、位置Pt1,Pr1基準に置換して演算し直すことに相当していてもよい。
【0065】
次に、処理装置3による処理方法の例を、
図13のフローチャートを用いて説明する。S101~103は、第1実施形態のS1~3と同様である。S103の処理後、S104へ進む。
【0066】
S104では、物体位置算出部253は、S103で得られたθtから発光素子11aの位置Pt1を特定する。S104の処理後、S105へ進む。
【0067】
S105では、物体位置算出部253は、S104で得られた発光素子11aに対応した受光プロファイルより、ピークの位置Pr1を特定する。S105の処理後、S106へ進む。
【0068】
S106では、物体位置算出部253は、解析式の解き直しにより未知数Lt2、Lr2、θtを算出する。S106の処理後、S107へ進む。S107~108は、第1実施形態のS4~5と同様である。S108を以って一連の処理を終了する。
【0069】
以上説明した第2実施形態によると、光ビームの飛行時間に基づく測定光路長に応じた大きさを備え、焦点位置Ptf,Prfを焦点とした仮想楕円VEが想定される。仮想楕円VE及びセンシングデータに含まれる受光画素位置に基づき、光ビームが投光レンズ系12の光軸OAtに対してなす角度θtが特定される。角度θtに基づき、物体OBJによって反射された光ビームの発光位置Pt1が特定される。そして、発光位置Pt1に個別に対応した分布波形WFを示す受光プロファイルとセンシングデータとをマッチングし、受光素子32上の受光強度が最大となる高精度な受光位置Pr1がセンシングデータに含まれる受光画素位置よりも高い精度で特定される。さらに、仮想楕円VEを、位置Pt1,Pr1を焦点とした置換仮想楕円に置換した形態により、物体OBJの候補位置は、置換仮想楕円上に特定され、これに基づいて候補位置から物体OBJの位置として推定される位置Pdが算出される。発光素子11aから位置Pdまでの距離と、位置Pdから受光素子32までの距離の和に基づいた距離情報が、測定対象物の距離情報として出力される。
【0070】
すなわち、仮想楕円VEによる近似演算の後、より高精度な発光位置Pt1及び受光位置Pr1を特定し、これらを用いて仮想楕円VEに基づいた演算の精度を高めつつ解き直すことにより、2回限りの反復的な演算によって距離情報の精度を高めることができる。
【0071】
3つの数式による連立方程式から、未知数であるLt2,Lr2,θtが算出される。θtを用いて測定対象物によって反射された光ビームの発光位置Pt1が特定される。そして、発光位置Pt1に個別に対応した分布波形WFを示す受光プロファイルとセンシングデータとをマッチングし、受光素子32上の受光強度が最大となる高精度な受光位置Pr1がセンシングデータに含まれる受光画素位置よりも高い精度で特定される。さらに、3つの連立方程式におけるLbを、位置Pt1,Pr1間の距離Lbdに置換した上で、未知数であるLt2,Lr2,θtが再度算出される。これにより、補正距離情報は出力可能となる。すなわち、2回限りの反復的な連立方程式の解析によって距離情報の精度を高めることができる。
【0072】
また、未知数の算出が同じ連立方程式の解析を2回限り反復するにより実行されるので、未知数を得るための演算を実行するハードウエアは、当該連立方程式の解析が円滑に実行できるように設計すればよい。故に、ハードウエアの性能を容易に最適化して、処理装置203を提供することができる。
【0073】
(他の実施形態)
以上、複数の実施形態について説明したが、本開示は、それらの実施形態に限定して解釈されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
【0074】
例えば、メモリ3aは、測距補正用データをまとめて保持していてもよい。測距補正用データは、投光ユニット10及び受光ユニット30の配置データ、レンズデータ、第2実施形態で説明した光源データ63を含んでいてよい。レンズデータは、第1実施形態で説明した焦点位置データ61、光軸データ62を含んでいてよい。
【0075】
レンズデータは、さらに投光レンズ系12の画角を示す画角データ、受光レンズ系31の画角を示す画角データを含んでいてよい。また、レンズデータは、投光レンズ系12を通過する光の光路長データ、受光レンズ系31を通過する光の光路長データを含んでいてよい。光路長データは、例えば光線追跡法によりレンズ系での光の屈折をシミュレーションし、θt,θr毎に得られた光路長であってよい。光路長データは、数式化されていてもよい。光路長データを用いて、距離Lt2,Lr2が補正されるようにしてもよい。
【0076】
光路長の補正をより容易にするため、メモリ3aは、光路長データとしての投光レンズ系12の補正テーブルと、受光レンズ系31の補正テーブルをそれぞれ保持していてもよい。投光レンズ系12の補正テーブルは、投光レンズ系12におけるθt又は発光素子11aの位置Pt1とこれと対になる光路長補正値を記憶したデータテーブルである。受光レンズ系31の補正テーブルは、受光レンズ系31におけるθr又は発光素子11aの位置Pr1とこれと対になる光路長補正値を記憶したデータテーブルである。
【0077】
また、他の実施形態として、光源11ないし発光素子11aには、垂直共振型面発光レーザ、端面発光レーザ等の各種素子が採用されてよい。
【0078】
また、他の実施形態として、仮想楕円VEは、3次元に拡張された楕円体状に想定されてもよい。この場合、数式3,4が3次元に対応した3つの数式に置き換えられてもよい。
【0079】
また、他の実施形態として、投光レンズ系12の光軸OAtと受光レンズ系31の光軸OArとは、多少の角度をつけて、非平行に配置されていてもよい。この場合、光軸OAt,OArの向きを考慮して、解析式が適宜変更されてよい。
【0080】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウエア論理回路により、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウエア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0081】
2:LiDAR(光学センサ)、3,203:処理装置、3a:メモリ(記憶媒体)、3b:プロセッサ、10:投光ユニット、11:光源、12:投光レンズ系、30:受光ユニット、31:受光レンズ系、32:受光素子、MA:測定領域、OBJ:物体(測定対象物)、Ptf:投光レンズ系の焦点位置、Prf:受光レンズ系の焦点位置