(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121952
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】シングルシード方式用貝類養殖かご及びこれを用いた貝類養殖方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/55 20170101AFI20240902BHJP
【FI】
A01K61/55
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029213
(22)【出願日】2023-02-28
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(71)【出願人】
【識別番号】520029837
【氏名又は名称】株式会社リブル
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 和彦
(72)【発明者】
【氏名】辻 明典
(72)【発明者】
【氏名】岩本 健輔
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104AA25
2B104AA26
2B104CA01
2B104DB01
2B104DB04
2B104DB17
2B104DB24
(57)【要約】
【課題】シングルシード方式用貝類養殖かごを用いた牡蠣等の貝類の養殖において、揺動を効果的に起こさせることのできるシングルシード方式用養殖かご及びそれを用いた養殖方法を提供する。
【解決手段】シングルシード方式用貝類養殖かごの内部に、浮力により移動可能な浮遊体を備えたことを特徴とするシングルシード方式用貝類養殖かご及び貝類を入れた前記貝類養殖かごを、海面及び/または海水中に設置し、潮位の変化により貝類養殖かごを揺動させることを特徴とする貝類養殖方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シングルシード方式用貝類養殖かごの内部に、浮力により移動可能な浮遊体を備えたことを特徴とするシングルシード方式用貝類養殖かご。
【請求項2】
浮遊体が、円筒構造及び/または中空構造である請求項1記載のシングルシード方式用貝類養殖かご。
【請求項3】
シングルシード方式用貝類養殖かごが、筒状であり、断面が多角形または略多角形である請求項1記載のシングルシード方式用貝類養殖かご。
【請求項4】
シングルシード方式用貝類養殖かごが、筒状であり、断面が三角形または略三角形である請求項1記載のシングルシード方式用貝類養殖かご。
【請求項5】
更に、シングルシード方式用貝類養殖かごの揺れを検知するセンサーを備えたものである請求項1記載のシングルシード方式用貝類養殖かご。
【請求項6】
貝類を入れた請求項1~5の何れかに記載のシングルシード方式用貝類養殖かごを、海面及び/または海水中に設置し、潮位の変化により貝類養殖かごを揺動させることを特徴とする貝類養殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シングルシード方式用養殖かご及びこれを用いた養殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、持続可能な水産業を目指す取り組みとして、機械学習による海水温予測(非特許文献1)や5Gと水中ドローンを用いた牡蠣モニタリング(非特許文献2)などの研究がある。
【0003】
徳島県海陽町の牡蠣養殖場では、牡蠣が入った網目状の養殖カゴをケーブルに吊るし、潮位の変化により牡蠣を海中から露出させることで、牡蠣本来の生息環境に近い環境を構築するシングルシード方式による養殖を行っている(非特許文献3)。
【0004】
この方式では従来の垂下方式による養殖と比較して、揺れによりカゴ全体に栄養が行き渡ることと、中の牡蠣がぶつかり合い付着する生物やゴミ、余分な殻を減らすことで品質を向上できると考えられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】大塚考信、北沢裕司、伊藤孝行、“持続可能な海産養殖のための海水温予測アルゴリズムの提案,”情報処理学会論文誌,Vol.59,No.2,pp.442-49,2018.
【非特許文献2】“ 5G ×水中ドローンで沖合の養殖牡蠣をリアルタイム監視” 2019年11月27日発表(https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1911/29/news057.html)
【非特許文献3】“IoT でカキ養殖、徳島県海陽町で「あまべ牡蠣スマート養殖事業」開始”,2020年3月30日発表(https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2020/03/30/4349.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、シングルシード方式用の貝類養殖カゴを用いた牡蠣の養殖では、潮位の変化により牡蠣本来の生息環境に近い環境を構築できるものの、揺動が少ないと品質のよい牡蠣が得られないという問題があり、船、水上バイク、フリップ等で人為的に揺動させることが必要であった。
【0007】
従って、本発明は、シングルシード方式用貝類養殖カゴを用いた牡蠣等の貝類の養殖において、揺動を効果的に起こさせることのできるシングルシード方式用養殖かご及びそれを用いた養殖方法を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、シングルシード方式用貝類養殖かごの内部に、浮力により移動可能な浮遊体を備えることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、シングルシード方式用貝類養殖かごの内部に、浮力により移動可能な浮遊体を備えたことを特徴とする貝類養殖かごである。
【0010】
また、本発明は、貝類を入れた上記シングルシード方式用貝類養殖かごを、海面及び/または海水中に設置し、潮位の変化により貝類養殖かごを揺動させることを特徴とする貝類養殖方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシングルシード方式用貝類養殖かごは、潮位の変化により揺動が大きくなるため、内部で貝類どうしがぶつかり合い、フジツボ等の有害な生物や付着物が除去されるとともに、貝類の余分な殻が削られて品質が向上し、貝類の成長も促進されるため実入りもよく、更には、餌となるプランクトンが少ない海域においても養殖が可能となる。
【0012】
そのため、本発明のシングルシード方式用貝類養殖かごを用いて貝類の養殖をした場合には、揺動を人為的に行う必要が無く、作業が軽減できる上、品質の良い貝類が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明のシングルシード方式用貝類養殖かごの構成を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明のシングルシード方式用貝類養殖かごの海面からの位置を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明のシングルシード方式用貝類養殖かごの海面からの位置を示す図である。
【
図4】
図4は、かごの揺れを検知するセンサーの測定結果を示す図である。
【
図5】
図5は、養殖中の牡蠣1個あたりの平均重量の推移を示す図である。
【
図6】
図6は、養殖後の牡蠣の外観を示す写真である(左から、比較例1(PETボトル0本)、実施例1(PETボトル1本)、実施例2(PETボトル2本))
【
図7】
図7は、本発明のシングルシード方式用貝類養殖かごの揺動の仕組みを示す図である。
【
図8】
図8は、本発明のシングルシード方式用貝類養殖かごの別の態様を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明のシングルシード方式用貝類養殖かごの別の態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のシングルシード方式用貝類養殖かごは、シングルシード方式用貝類養殖かごの内部に、浮力により移動可能な浮遊体を備えたものである。
【0015】
ここでシングルシード方式用貝類養殖かごとは、シングルシード方式で貝類を養殖するためのかごをいう(以下、シングルシード方式用貝類養殖かごを単に「貝類養殖かご」ということもある)。このような貝類養殖かごとしては、樹脂、金属、繊維等で貝類が通過せず、海水が通過する穴が開いているインターロックメッシュ、網、パンチングメタル等で筒状に形成され、海水中でも筒状の形状を維持できるものが挙げられる。貝類養殖かごの断面は、特に限定されないが、例えば、三角形、四角形、五角形等の多角形、円形、楕円形等が挙げられる。また、これらの断面には、多角形の角や辺が丸まっていたり湾曲している略多角形のものも含まれる。断面は、多角形または略多角形が好ましく、浮遊体の移動のしやすさ等の点から三角形または略三角形がより好ましい。貝類養殖かごの両端は、養殖の際に閉じていればよく、例えば、貝類が通過せず、海水が通過する穴が開いているエンドキャップ等で閉じることが好ましく、断面と同形状のエンドキャップで閉じることが好ましい。
上記した貝類養殖かごとしては、市販のシングルシード方式用の貝類養殖かごを利用することができる。このような市販品としては、例えば、BSTジャパン、SEAPAジャパン等から販売されているシングルシード方式用の養殖かごが挙げられる。
【0016】
上記した貝類養殖かごには、更に、貝類養殖かごの揺れを検知するセンサーを備えることが好ましい。このようなセンサーとしては、特に限定されないが、例えば、角速度センサー、加速度センサー等が挙げられる。また、これらのセンサーと同時に更に温度センサー、気圧センサー、濁度センサー、クロロフィルセンサー等の環境を検知するセンサーを備えてもよい。更に、これらのセンサーはインターネット、無線等の通信回線等を通じて随時モニターできることが好ましい。これらセンサーの設置位置は特に限定されないが、例えば、貝類養殖かごの底面である。これらのセンサーを備えることにより安定的な養殖が可能となる。
【0017】
(貝類養殖かご設置位置調整方法)
上記センサーの情報を、無線通信回線を通じてモニターすることにより、貝類養殖かごを適切な設置位置とすることができ貝類の養殖を良好に行うことができる。具体的には、以下のようにする。
(1)角速度センサーおよび加速度センサーにより測定される姿勢角が、90度を上回ったら、海面露出と判断し、それまでに蓄積した揺れデータを1時間に1回程度送信する。それ以外の時は送信しない(省電力化のため、随時の通信はしない)。
(2)基地局側で24時間までにデータを受信できれば、貝類養殖かごが海面に出ている時間があると判断できる(=牡蠣の成長に十分な条件である)。
(3)基地局側で24時間以上データを受信できなければ、貝類養殖かごが海面に出ていない(=牡蠣の成長に十分な条件ではない)と判断できる。
(4)(3)の貝類養殖かごの設置位置を24時間以内にデータを受信できる位置に調整する。
【0018】
本発明の貝類養殖かごに用いられる浮力により移動可能な浮遊体は、貝類養殖かごの内部に備えられるものである。そのため、海中にある時に、貝類養殖かごの内部で浮力により自由に移動する。このような浮遊体の形状は、特に限定されないが、円柱状であることが好ましい。浮遊体が円柱状であると貝類養殖かごに均一に浮力を発生させることができる。円柱状の浮遊体としては、空洞を有するものや、中空体で形成されたもの等が挙げられる。空洞を有する円柱状の浮遊体として、例えば、ペットボトル等が挙げられる。また中空体で形成された円柱状の浮遊体としては、例えば、発泡スチロール、発泡ウレタン等で形成されたものが挙げられる。また、前記した浮遊体は、貝類養殖かごの内部、例えば、辺側に沿ってスライド可能なスライド装置等にクランプ等の固定部により固定されたものでもよい。この場合、浮遊体は辺に沿って移動する。更に、浮遊体は、空気、酸素、二酸化炭素等の気体でもよく、その場合、水、油等と共に気体を封入可能な袋、容器等の気体封入装置に入れ、これを貝類養殖かごの内部、例えば、辺側に沿って固定すればよい。この場合、浮遊体(気体)は気体封入装置内を移動する。これら浮遊体は1つまたは複数を用いてもよい。
【0019】
本発明の貝類養殖かごに備える浮遊体の大きさは、特に限定されないが、貝類養殖かごに均一に浮力を与えるためには、例えば、体積19.5L程度の貝類養殖かごに対して、0.5L以上の体積を有することが好ましい。
【0020】
本発明の貝類養殖かごに備える浮遊体の浮力は、特に限定されないが、貝類養殖かごと貝類の重量1に対して0.3以上であることが好ましい。このような浮力であれば、養殖かごの安定的な揺動が得られる。
【0021】
図1に、本発明の貝類養殖かごの例を示す。図中、
1は本発明の貝類養殖かご、2は断面が略三角形の筒状のかご、3はエンドキャップ、4は吊り下げ用フック、5は浮力により移動可能な浮遊体、6はかごの揺れを検知するセンサーである。
【0022】
以上説明した本発明の貝類養殖かごに貝類を入れ、海面及び/または海水中に設置し、潮位の変化により貝類養殖かごを揺動させることによりシングルシード方式で貝類を養殖することができる。
【0023】
本発明の貝類養殖かごは、干潮時にはかごが海面から露出し、満潮時には海面下(海中)となるような位置にワイヤー、支柱等の固定手段を介して海面と平行になるように設置する。なお、本発明の貝類養殖かごはワイヤー、支柱等の固定手段を軸として回転が可能となる。このような位置に設置することにより牡蠣本来の生息環境に近い環境を構築できる。
【0024】
また、このような位置に設置することにより、潮位の変化により貝類養殖かごが揺動するが、それに加えて、養殖かご内に備えた浮遊体がかご内での自由移動と浮力の効果で横倒しの状態を安定的維持する。また、波と連動してかごが振動するため貝類が撹拌され、寄生生物除去に有効に働く。
【0025】
本発明の貝類養殖方法で養殖できる貝の種類は特に限定されないが、例えば、牡蠣、ムール貝、あこや貝等の貝類が挙げられる。これらの貝類の中でも牡蠣が効果の点から好ましい。
【0026】
また、貝類は稚貝でもよく、その場合には、養殖当初は養殖かごの穴が小さいものを用い、成長と共に穴が大きいものを用いればよい。
【0027】
更に、養殖期間は特に限定されないが、牡蠣を稚貝から養殖するのであれば、150~250日程度である。
【0028】
以上説明した本発明の貝類養殖方法により、養殖の安定化、生産性の向上、斃死の抑制ができる。
【実施例0029】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0030】
実施例1
貝類養殖かごの作製
市販の容積約19.5Lの牡蠣養殖かご(BSTジャパン製:インターロックメッシュで断面が略三角形の筒状のかごをエンドキャップで閉じたもの。吊り下げ用フックを備える)の底面に、かごの揺れを検知するためのセンサー(角速度と加速度)(Bosch社製)を設けた。この牡蠣養殖かごの中に、浮力により移動可能な浮遊体としてペットボトル(500ml)を1本入れて貝類養殖かごを作製した。
【0031】
実施例2
貝類養殖かごの作製
貝類養殖かごの中にペットボトルを2本入れること以外は実施例1と同様にして貝類養殖かごを作製した。
【0032】
比較例1
貝類養殖かごの作製
貝類養殖かごの中にペットボトルを入れないこと以外は実施例1と同様にして貝類養殖かごを作製した。
【0033】
試験例1
揺動試験:
実施例1、2の貝類養殖かご及び比較例1の貝類養殖かごを干潮時にはかごが海面9から露出し(
図2)、満潮時には海面9下(海中)となるような位置(
図3)にワイヤー8を介して海面と平行となるように設置した。貝類養殖かごの設置位置は、上記貝類養殖かご調整方法(1)~(4)に基づいて予め測定を行い、決定した。設置後、かごの揺れを検知するセンサーの測定結果から姿勢角を求めた。その結果を
図4に示した。なお、姿勢角θは、鉛直下向きを0度とし、かごが傾くと重力加速度gがセンサのx軸にかかる加速度Ax、z軸にかかる加速度Azに分散することを利用し、次の式で求めた。
【数1】
【0034】
この姿勢角の測定の結果から、実施例1のペットボトル1本と、実施例2のペットボトル2本の場合には周期的な角度の変化が読み取れた。これはペットボトルの浮力と潮の干満の影響から,海面の高さに合わせてカゴが傾いているものと推測される。なお、この日の干潮時刻は1時8分と13時29分、満潮時刻は7時4分と19時46分であった。一方、ペットボトルを入れていない比較例1の場合の姿勢角はほぼ0となっており、海面が上昇しても常に海中にあり、かごが動いていないと考えられた。
【0035】
試験例2
養殖試験:
実施例2の貝類養殖かご及び比較例1の貝類養殖かごに、牡蠣の稚貝を約200個入れ、これらを試験例1と同様の位置に設置し、200日養殖を行った。養殖中、牡蠣1個あたりの平均重量を測定した。その結果を
図5に示した。
【0036】
この結果から、貝類養殖かごにペットボトルを入れることにより、牡蠣の成長が促進されることが分かった。また、牡蠣の外観も付着物が除去されていて、ポケットの膨らみが大きい物が多かった(
図6)。また、200日後までの斃死個数も貝類養殖かごにペットボトルを入れることにより約1割少なくなっていた。
【0037】
本発明の貝類養殖かごがどのようにして揺動されているかは
図7のように考えられる。すなわち、浮遊体がかご内で自由移動することにより、浮遊体の浮力の効果で横倒しの状態を安定的維持し、また波と連動してかごが振動する。さらに、波による振動で牡蠣が撹拌され、寄生生物除去に有効に働くものと推測される。
【0038】
また、浮遊体が円筒構造であることで撹拌機能が向上することがわかった(エリアで撹拌)。更に、浮遊体の本数増加によっても撹拌機能が向上することも分かった。
【0039】
実施例3
貝類養殖かごの作製
実施例1および2と同様の断面が略三角形の牡蠣養殖かご2の略三角形の辺側に沿って、浮力により移動可能な浮遊体10を固定部11で固定した浮遊体スライド装置12を設けた貝類養殖かごを作製する。
【0040】
この貝類養殖かごは、浮力により移動可能な浮遊体が干満に対応して浮遊体スライド装置に沿って移動する。
【0041】
実施例4
貝類養殖かごの作製
実施例1および2と同様の断面が略三角形の牡蠣養殖かご2の略三角形の辺側に沿って、浮力により移動可能な浮遊体(気体)15と共に海水などの液体を封入した気体封入装置16を設けた貝類養殖かごを作製する。
【0042】
この貝類養殖かごは、浮力により移動可能な浮遊体(気体)が、干満に対応して気体封入装置の内部を移動する。