(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000122
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】回転機械
(51)【国際特許分類】
F04D 29/10 20060101AFI20231225BHJP
F04D 29/16 20060101ALI20231225BHJP
F04D 29/053 20060101ALI20231225BHJP
F04D 25/08 20060101ALI20231225BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20231225BHJP
F01D 11/02 20060101ALI20231225BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
F04D29/10 Z
F04D29/16
F04D29/053 Z
F04D25/08 302E
F01D25/00 M
F01D11/02
F16J15/447
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098695
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100224546
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 龍
(72)【発明者】
【氏名】安室 敦史
(72)【発明者】
【氏名】田畠 一二三
【テーマコード(参考)】
3G202
3H130
3J042
【Fターム(参考)】
3G202KK06
3G202KK17
3H130AA13
3H130AB07
3H130AB12
3H130AB27
3H130AB47
3H130AC14
3H130BA53D
3H130CA06
3H130DA02X
3H130DC12X
3H130DD01Z
3H130EA07D
3H130EB01D
3H130EB02D
3J042AA04
3J042BA01
3J042CA12
(57)【要約】
【課題】回転時の漏れ流れを効果的に抑制する。
【解決手段】本開示の回転機械は、シャフトと、シャフトに取り付けられたインペラと、シャフト及びインペラを収容するハウジングと、ハウジングの内壁面とシャフトの外周面との間に形成され、インペラの背面側においてシャフトに沿って延びる流路と、流路に形成されたラビリンスシール部と、を備え、ラビリンスシール部は、外周面又は内壁面から突出する第1突起及び第2突起を有し、第2突起は、シャフトの軸方向において第1突起よりもインペラから遠い位置に配置され、シャフトには、第2突起に対して径方向の内側に形成された空隙を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸線の周りに回転可能なシャフトと、
前記シャフトに取り付けられたインペラと、
前記シャフト及び前記インペラを収容するハウジングと、
前記ハウジングの内壁面と前記シャフトの外周面との間に形成され、前記インペラの背面側において前記シャフトに沿って延びる流路と、
前記流路に形成されたラビリンスシール部と、を備え、
前記ラビリンスシール部は、前記外周面又は前記内壁面から突出する第1突起及び第2突起を有し、
前記第2突起は、前記シャフトの軸方向において前記第1突起よりも前記インペラから遠い位置に配置され、
前記シャフトは、前記第2突起に対して径方向の内側に形成された空隙を有する、回転機械。
【請求項2】
前記シャフトは、
前記第1突起に対して前記径方向の内側に位置する第1内部領域を含む第1領域と、
前記第2突起に対して前記径方向の内側に位置する第2内部領域を含み且つ前記第1領域に対して前記インペラとは反対側に位置する第2領域と、を有し、
前記空隙は、前記第1領域及び前記第2領域のうちの前記第2領域のみに形成されており、前記第2領域において少なくとも前記第2内部領域に形成されている、請求項1に記載の回転機械。
【請求項3】
前記第2領域は、前記軸方向において前記第1領域とは反対側に開口する開口部を有し、
前記空隙は、前記軸方向において前記開口部から少なくとも前記第2内部領域に達する位置まで連続的に形成されている、請求項2に記載の回転機械。
【請求項4】
前記シャフトの静止状態において、前記第1突起と前記内壁面又は前記外周面との前記径方向の隙間は、前記第2突起と前記内壁面又は前記外周面との前記径方向の隙間と同一である、請求項1又は2に記載の回転機械。
【請求項5】
前記空隙は、前記第2突起と前記回転軸線との前記径方向の間において、前記回転軸線を中心とする周方向の全周にわたって連続的に形成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の回転機械。
【請求項6】
前記空隙は、前記第2突起と前記回転軸線との前記径方向の間において、前記回転軸線よりも前記第2突起の近くに位置している、請求項5に記載の回転機械。
【請求項7】
前記シャフトは、前記回転軸線を中心とする円柱部と、前記回転軸線を中心とし且つ前記円柱部を収容する円筒部と、を有し、
前記空隙は、前記円柱部と前記円筒部との前記径方向の隙間によって構成されている、請求項5に記載の回転機械。
【請求項8】
前記シャフトは、前記回転軸線を中心とする円筒部を有し、
前記空隙は、前記円筒部の全ての内部空間によって構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の回転機械。
【請求項9】
前記軸方向において前記第2突起よりも前記インペラから遠い第3突起を更に備え、
前記シャフトは、
前記第1突起に対して前記径方向の内側に位置する第1内部領域を含む第1領域と、
前記第2突起に対して前記径方向の内側に位置する第2内部領域、及び前記第3突起に対して前記径方向の内側に位置する第3内部領域を含み、前記第1領域に対して前記インペラとは反対側に位置する第2領域と、を有し、
前記空隙は、前記第1領域及び前記第2領域のうちの前記第2領域のみに形成されており、前記第2領域において少なくとも前記第2内部領域及び前記第3内部領域に形成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の回転機械。
【請求項10】
前記空隙は、前記第2内部領域の前記軸方向の一部のみに形成され、前記第3内部領域の前記軸方向の全体にわたって形成されている、請求項9に記載の回転機械。
【請求項11】
回転軸線の周りに回転可能なシャフトと、
前記シャフトに取り付けられるインペラと、
前記シャフト及び前記インペラを収容するハウジングと、
前記ハウジングの内壁面と前記シャフトの外周面との間に形成され、前記インペラの背面側において前記シャフトに沿って延びる流路と、
前記流路に形成されたラビリンスシール部と、を備え、
前記ラビリンスシール部は、前記シャフトの前記外周面を取り囲むように配置された円筒部材と、前記円筒部材の外周面又は前記内壁面から突出する第1突起及び第2突起を有し、
前記第2突起は、前記シャフトの軸方向において前記第1突起よりも前記インペラから遠い位置に配置され、
前記円筒部材は、前記第2突起に対して径方向の内側に、他の部分よりも厚さの薄い薄肉部を有する、回転機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転機械において、シャフトとハウジングとの隙間からの流体の漏れ流れを抑制するために、非接触型のラビリンスシール部(例えば特許文献1~4参照)が用いられることがある。一般的に、ラビリンスシール部は、複数のフィンを有する。複数のフィンは、シャフトとハウジングとの隙間における流体の流路を複雑にし、当該流体のエネルギー損失を生じさせる。これにより、シャフトとハウジングとの隙間からの流体の漏れ流れの抑制が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-357103号公報
【特許文献2】特開2018-021574号公報
【特許文献3】特開平11-343996号公報
【特許文献4】実開平3-118362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなラビリンスシール部において、流体の漏れ流れを抑制するために、複数のフィンの先端と当該先端に対向するハウジングの内壁面との隙間を十分に小さく設計することが考えられる。しかしながら、加工の際の公差等の影響を考慮すると、上記の隙間を小さく加工することには限界がある。従って、このような方法によって流体の漏れ流れ抑制を図ることは限界がある。
【0005】
本開示は、回転時の漏れ流れを効果的に抑制できる回転機械を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一形態に係る回転機械は、回転軸線の周りに回転可能なシャフトと、シャフトに取り付けられたインペラと、シャフト及びインペラを収容するハウジングと、ハウジングの内壁面とシャフトの外周面との間に形成され、インペラの背面側においてシャフトに沿って延びる流路と、流路に形成されたラビリンスシール部と、を備え、ラビリンスシール部は、外周面又は内壁面から突出する第1突起及び第2突起を有し、第2突起は、シャフトの軸方向において第1突起よりもインペラから遠い位置に配置され、シャフトは、第2突起に対して径方向の内側に形成された空隙を有する。
【0007】
この回転機械では、シャフトの回転時において、シャフトと共に回転するインペラの付近は高圧となり、インペラから遠くなるほど低圧となる。そのため、シャフトの外周面とハウジングの内壁面との間の流路を流れる流体は、高圧側の第1突起から低圧側の第2突起に向かう方向に流れる。ここで、本発明者らは、これらの突起と内壁面又は外周面との隙間と、当該隙間を流れる流体の漏れ量との関係について鋭意検討を重ねた結果、低圧側の第2突起と内壁面又は外周面との隙間を小さくすることが、流体の漏れ量を抑制する上で効果的であることを見出した。そこで、上記の回転機械では、第2突起と内壁面又は外周面との隙間を小さくするために、シャフトが、第2突起に対して径方向の内側に形成された空隙を有する。このような空隙がシャフトに存在する場合、シャフトの回転時に生じる遠心力によって、空隙の外側のシャフトの部位が径方向の外側に変位し易くなる。その結果、シャフトの回転時に低圧側の第2突起と内壁面又は外周面との隙間を小さくでき、ラビリンスシール部における流体の漏れ量を効果的に抑制できる。更に、このようにシャフトの回転時の遠心力を利用すれば、組み立て時において当該隙間を小さくするための高度な組み立て技術などが不要となり、回転時において第2突起と内壁面又は外周面との隙間を小さくする構成を容易に実現できる。
【0008】
いくつかの態様において、シャフトは、第1突起に対して径方向の内側に位置する第1内部領域を含む第1領域と、第2突起に対して径方向の内側に位置する第2内部領域を含み且つ第1領域に対してインペラとは反対側に位置する第2領域と、を有し、空隙は、第1領域及び第2領域のうちの第2領域のみに形成されており、第2領域において少なくとも第2内部領域に形成されていてもよい。この場合、低圧側の第2突起と内壁面又は外周面との隙間を小さくする一方で、高圧側の第1突起と内壁面又は外周面との隙間を維持することができる。
【0009】
いくつかの態様において、第2領域は、軸方向において第1領域とは反対側に開口する開口部を有し、空隙は、軸方向において開口部から少なくとも第2内部領域に達する位置まで連続的に形成されていてもよい。この場合、開口部から第2領域を削る簡易な作業によって、空隙を容易に形成できる。
【0010】
いくつかの態様において、シャフトの静止状態において、第1突起と内壁面又は外周面との径方向の隙間は、第2突起と内壁面又は外周面との径方向の隙間と同一であってもよい。この場合、シャフトの回転時に第2突起と内壁面又は外周面との隙間を小さくする構成を好適に実現できる。
【0011】
いくつかの態様において、空隙は、第2突起と回転軸線との径方向の間において、回転軸線を中心とする周方向の全周にわたって連続的に形成されていてもよい。この場合、シャフトの回転時の遠心力を利用して、第2突起と内壁面又は外周面との隙間を周方向に沿った各位置において均等に小さくできる。その結果、ラビリンスシール部における流体の漏れ流れをより効果的に抑制できる。
【0012】
いくつかの態様において、空隙は、第2突起と回転軸線との径方向の間において、回転軸線よりも第2突起の近くに位置していてもよい。この場合、シャフトの回転時の遠心力を利用して、第2突起と内壁面又は外周面との隙間をより小さくできる。その結果、ラビリンスシール部における流体の漏れ流れをより効果的に抑制できる。
【0013】
いくつかの態様において、シャフトは、回転軸線を中心とする円柱部と、回転軸線を中心とし且つ円柱部を収容する円筒部と、を有し、空隙は、円柱部と円筒部との径方向の隙間によって構成されていてもよい。この場合、シャフトの回転時の遠心力を利用して、径方向の外側への円筒部の変形に応じて第2突起と内壁面又は外周面との隙間を周方向に沿った各位置において均等に小さくできる。その結果、ラビリンスシール部における流体の漏れ流れをより効果的に抑制できる。
【0014】
いくつかの態様において、シャフトは、回転軸線を中心とする円筒部を有し、空隙は、円筒部の全ての内部空間によって構成されていてもよい。この場合、空隙が円筒状である場合と比べて、シャフトの回転時の遠心力を利用して、第2突起と内壁面又は外周面との隙間をより小さくできる。その結果、ラビリンスシール部における流体の漏れ流れをより効果的に抑制できる。
【0015】
いくつかの態様において、回転機械は、軸方向において第2突起よりもインペラから遠い第3突起を更に備え、シャフトは、第1突起に対して径方向の内側に位置する第1内部領域を含む第1領域と、第2突起に対して径方向の内側に位置する第2内部領域、及び第3突起に対して径方向の内側に位置する第3内部領域を含み、第1領域に対してインペラとは反対側に位置する第2領域と、を有し、空隙は、第1領域及び第2領域のうちの第2領域のみに形成されており、第2領域において少なくとも第2内部領域及び第3内部領域に形成されていてもよい。この場合、シャフトの回転時の遠心力を利用して、低圧側の第2突起と内壁面又は外周面との隙間、及び第3突起と内壁面又は外周面との隙間を小さくできる。その結果、ラビリンスシール部における流体の漏れ流れを効果的に抑制できる。
【0016】
いくつかの態様において、空隙は、第2内部領域の軸方向の一部のみに形成され、第3内部領域の軸方向の全体にわたって形成されていてもよい。この場合、シャフトの回転時の遠心力を利用して、より低圧側に位置する第3突起と内壁面又は外周面との隙間を、第2突起と内壁面又は外周面との隙間よりも更に小さくできる。つまり、低圧側に突起が位置するほど、当該突起と内壁面又は外周面との隙間を段階的に小さくできる。その結果、ラビリンスシール部における流体の漏れ流れをより効果的に抑制できる。
【0017】
本開示の他の形態に係る回転機械は、回転軸線の周りに回転可能なシャフトと、シャフトに取り付けられるインペラと、シャフト及びインペラを収容するハウジングと、ハウジングの内壁面とシャフトの外周面との間に形成され、インペラの背面側においてシャフトに沿って延びる流路と、流路に形成されたラビリンスシール部と、を備え、ラビリンスシール部は、シャフトの外周面を取り囲むように配置された円筒部材と、円筒部材の外周面又は内壁面から突出する第1突起及び第2突起を有し、第2突起は、シャフトの軸方向において第1突起よりもインペラから遠い位置に配置され、円筒部材は、第2突起に対して径方向の内側に対向する位置に、他の部分よりも厚さの薄い薄肉部を有する。
【0018】
この回転機械では、シャフトの回転時において、シャフトと共に回転するインペラの付近は高圧となり、インペラから遠くなるほど低圧となる。そのため、シャフトの外周面とハウジングの内壁面との間の流路を流れる流体は、高圧側の第1突起から低圧側の第2突起に向かう方向に流れる。ここで、本発明者らは、これらの突起と内壁面又は外周面との隙間と、当該隙間を流れる流体の漏れ量との関係について鋭意検討を重ねた結果、低圧側の第2突起と内壁面との隙間を小さくすることが、流体の漏れ量を抑制する上で効果的であることを見出した。そこで、上記の回転機械では、第2突起と内壁面又は外周面との隙間を小さくするために、円筒部材が、第2突起に対して径方向の内側に薄肉部を有する。このような薄肉部が円筒部材に存在する場合、シャフトの回転時に生じる遠心力によって、薄肉部の外側の円筒部材の部位が径方向の外側に変位し易くなる。その結果、シャフトの回転時に低圧側の第2突起と内壁面又は外周面との隙間を小さくでき、ラビリンスシール部における流体の漏れ量を効果的に抑制できる。更に、このようにシャフトの回転時の遠心力を利用すれば、組み立て時において当該隙間を小さくするための高度な組み立て技術などが不要となり、回転時において第2突起と内壁面又は外周面との隙間を小さくする構成を容易に実現できる。
【発明の効果】
【0019】
本開示のいくつかの態様によれば、回転時の漏れ流れを効果的に抑制できる回転機械が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る回転機械を示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の回転機械が備えるラビリンスシール部の周辺構造を拡大して示す側面図である。
【
図3】
図3は、
図2のラビリンスシール部が設けられるシャフトの大径部を示す正面図である。
【
図4】
図4は、
図2のラビリンスシール部の周辺構造を示す断面図である。
【
図5】
図5は、
図4のラビリンスシール部の周辺構造を拡大して示す断面図である。
【
図6】
図6は、シャフトの回転時における従来のラビリンスシール部の周辺の流体の流れを示すシミュレーション結果を示す図である。
【
図7】
図7は、シャフトの回転時における
図2のラビリンスシール部の変形の様子を示すシミュレーション結果を示す図である。
【
図8】
図8は、シャフトに形成される空隙の変形例を示す断面図である。
【
図9】
図9は、シャフトに形成される空隙の別の変形例を示す断面図である。
【
図10】
図10は、ラビリンスシール部の変形例を示す断面図である。
【
図11】
図11は、第2実施形態に係る回転機械を示す断面図である。
【
図12】
図12は、
図11の回転機械が備えるラビリンスシール部の周辺構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0022】
[第1実施形態]
図1を参照して、第1実施形態に係る回転機械1について説明する。回転機械1は、例えば電動過給機である。回転機械1は、例えば、車両又は船舶などの内燃機関に適用される。
図1に示されるように、回転機械1は、回転軸線Lの周りに回転するコンプレッサインペラ3(以下、単に「インペラ3」と呼ぶ)と、インペラ3の回転の動力源であるモータ5と、インペラ3及びモータ5を収容するハウジング7と、を備える。ハウジング7は、インペラ3を収容するインペラハウジング11と、モータ5を収容するモータハウジング13と、を有する。インペラハウジング11及びモータハウジング13は、各々が複数の部品で構成されていてもよく、各ハウジングを構成する部品や組み合わせ方は自由に設計可能である。
【0023】
回転機械1は、ハウジング7の内部において回転軸線Lの周りに回転可能に配置されるシャフト12を更に備える。シャフト12は、回転軸線Lが延在する軸方向D1に延在する円柱状の部材である。シャフト12は、例えばクロムモリブデン鋼(SCM)などの金属材料によって構成されている。シャフト12の外周面12aは、回転軸線Lを中心とする円周面である。インペラハウジング11とモータハウジング13とは、回転軸線Lが延在する軸方向D1において互いに連結されており、シャフト12は、インペラハウジング11の内部からモータハウジング13の内部にわたって設けられている。シャフト12の軸方向D1の一端部12bには、インペラ3が取り付けられている。インペラ3は、例えば、ボルト締結等によってシャフト12の一端部12bに固定されている。従って、インペラ3は、シャフト12と一体となって回転軸線Lの周りに回転する。
【0024】
モータ5は、モータハウジング13に設けられたステータ5aと、シャフト12に設けられたロータ5bと、を含む。インペラハウジング11は、吸入口11aと、スクロール部11bと、吐出口11cとを含む。ステータ5aに交流電流が流されると、ロータ5bとステータ5aとの相互作用によって、インペラ3とシャフト12とが一体となって回転軸線Lの周りに回転する。インペラ3が回転すると、インペラ3は、吸入口11aを通じて外部の空気を吸入し、スクロール部11bを通じて吸入空気を圧縮し、吐出口11cから圧縮空気を吐出する。吐出口11cから吐出された圧縮空気は、前述の内燃機関に供給される。モータ5の形式は、
図1に示す例に限られず、要求仕様に応じて適宜変更可能である。
【0025】
ハウジング7内に設けられたシャフト12は、例えば、2個の軸受20a,20bによって回転軸線Lの周りに回転可能に支持されている。軸受20a,20bのそれぞれは、たとえば、グリース潤滑式のラジアル玉軸受である。軸受20a,20bのそれぞれは、深溝玉軸受であってもよいし、アンギュラ玉軸受であってもよい。軸受20aは、シャフト12の一端部12bに設けられており、軸受20bは、シャフト12の反対側の他端部12cに設けられている。軸受20aは、シャフト12の一端部12bにおけるインペラ3の背面側に設けられている。
【0026】
モータハウジング13は、インペラ3の背面側において軸受20aを包囲する壁部13aを含む。軸受20aは、壁部13aの内側に嵌合している。軸受20aと壁部13aとの嵌合関係は、すきま嵌めでも中間嵌めでも締り嵌めでもよく、任意でよい。壁部13aは、軸受20aよりもインペラ3に向かって軸方向D1に突出する環状の突出部13bを含む。突出部13bは、シャフト12の一端部12bに設けられる大径部12dを包囲する。大径部12dは、シャフト12の他の部分よりも大きな外径を有する部分であり、インペラ3と軸受20aとの間に位置している。ここでの「他の部分」とは、大径部12dに対して軸方向D1の前後に位置する部分、すなわち、軸方向D1において大径部12dを挟んで両側に位置する部分としてよい。
【0027】
大径部12dは、軸受20aに対して軸方向D1に対面する端面S1と、インペラ3の背面に対して軸方向D1に対面する端面S2と、を含む。突出部13bは、回転軸線Lの径方向D2において大径部12dの外周面12aと隙間を空けて対面する内周面13c(内壁面)を含む。内周面13cは、例えば、回転軸線Lを中心とする円周面である。内周面13cと外周面12aとの径方向D2の間隔は、回転軸線Lを中心とする周方向D3(
図3参照)に沿った各位置において一定である。外周面12a及び内周面13cは、例えば、回転軸線Lを中心とする円柱面(円柱の側面)である。なお、本実施形態の外周面12a及び内周面13cは、円柱面であるが、必ずしもそれに限定され無い。例えば、後述する
図4に示す断面において、外周面12a及び内周面13cは、軸方向D1に対し傾斜した直線や、曲線を含む線によって表されてもよい。
【0028】
回転機械1は、壁部13aの内周面13cとシャフト12の外周面12aとの間の流路G(
図2参照)をシールするラビリンスシール部30を更に備える。ラビリンスシール部30は、シャフト12の外周面12a上において、インペラ3の背面と軸方向D1に対面する位置に配置されている。インペラの背面とは、軸方向D1において吸入口11aとは反対側を向くインペラ3の外面である。インペラ3の背面と軸方向D1に対面する位置とは、シャフト12の一端部12bにおいてインペラ3の背面に対して軸方向D1に向かい合う位置、例えば、インペラ3の背面と軸受20aとの軸方向D1の間の位置としてよい。本実施形態では、ラビリンスシール部30は、インペラ3の背面と軸受20aとの間の大径部12dの外周面12aに設けられている。流路Gは、壁部13aの内周面13cとシャフト12の外周面12aとの隙間を構成する流路である。流路Gは、インペラ3の背面側においてシャフト12が延在する軸方向D1に沿って延在している。
【0029】
シャフト12の回転時において、シャフト12と共に回転するインペラ3が圧縮空気を発生させるため、インペラ3の背面付近の空間は、大気圧よりも高圧となり、インペラ3の背面から遠くなるにつれて低圧となる。そのため、シャフト12の回転時においては、インペラ3からモータ5に向かう方向(すなわち、
図1において左から右に向かう方向)に流体が流れる。その結果、インペラハウジング11の内部の流体が内周面13cと外周面12aとの間の流路Gを通過してモータハウジング13の内部に流動する漏れ流れが発生し得る。このような漏れ流れを抑制するために、内周面13cと外周面12aとの間の流路Gをシールするラビリンスシール部30が設けられている。
【0030】
以下、ラビリンスシール部30及びその周辺構造について詳細に説明する。
図2に示されるように、ラビリンスシール部30は、複数のフィン31(複数の突起)を有する。各フィン31は、シャフト12と一体に構成されている。つまり、各フィン31は、シャフト12の一部によって構成されている。各フィン31は、大径部12dの外周面12aから内周面13cに向かって径方向D2の外側に円環状に突出し、軸方向D1に沿って間隔を空けて並んでいる。複数のフィン31が径方向D2の外側に円環状に突出するとは、軸方向D1から見たときの各フィン31の形状が、回転軸線Lを中心とし且つ径方向D2の外側に延在する円環状となることを意味する。各フィン31は、例えば、互いに同一の寸法及び形状を有する。従って、各フィン31の径方向D2の高さ(すなわち、外周面12aから各フィン31の径方向D2の先端までの径方向D2の距離)は、互いに同一である。
【0031】
複数のフィン31は、例えば、軸方向D1におけるインペラ3(
図1参照)側から順に、第1フィン31A(第1突起)と、第2フィン31B(第2突起)と、第3フィン31C(第3突起)と、を有する。第1フィン31Aは、複数のフィン31の中でインペラ3に最も近い位置に配置されている。第2フィン31Bは、軸方向D1において第1フィン31Aよりもインペラ3から遠い位置に配置されている。第3フィン31Cは、軸方向D1において第2フィン31Bよりもインペラ3から更に遠い位置に配置されている。従って、第3フィン31Cは、複数のフィン31の中でインペラ3に最も遠い位置に配置されている。第1フィン31Aと、第2フィン31Bと、第3フィン31Cとは、例えば、軸方向D1に沿って等間隔に配置されている。従って、第1フィン31Aと第2フィン31Bとの軸方向D1の間隔は、第2フィン31Bと第3フィン31Cとの軸方向D1の間隔と同一である。
【0032】
第1フィン31A、第2フィン31B、及び第3フィン31Cは、径方向D2において内周面13cに対して隙間を空けて近接している。シャフト12の静止状態(すなわち非回転状態)において、第1フィン31Aと内周面13cとの径方向D2の隙間GAと、第2フィン31Bと内周面13cとの径方向D2の隙間GBと、第3フィン31Cと内周面13cとの径方向D2の隙間GCとは、例えば、静止時において互いに同一に設定されている。隙間GA,GB,及びGCが互いに同一に設定されるとは、製造公差を考慮した隙間GA,GB,及びGCのそれぞれの設計値が互いに同一であることを意味する。従って、製造誤差等によって隙間GA,GB,及びGCが互いに僅かにずれたとしても、そのずれ量が製造公差内であれば、隙間GA,GB,及びGCが互いに同一に設定された状態とみなしてよい。隙間GA,GB,及びGCのそれぞれは、例えば、100μm以上に設定されている。隙間GA,GB,及びGCのそれぞれは、周方向D3(
図3参照)に沿った各位置において一定である。
【0033】
図4に示されるように、シャフト12は、第1フィン31Aが配置される第1領域R1と、第2フィン31B及び第3フィン31Cが配置される第2領域R2と、を有する。第1領域R1は、例えば、軸方向D1における第1フィン31A(具体的には、第2フィン31Bに対向する側の第1フィン31Aの基端)から端面S2までの領域としてよい。第2領域R2は、軸方向D1において第1領域R1に対してインペラ3とは反対側に位置する領域である。第2領域R2は、例えば、軸方向D1における第1フィン31Aの基端から端面S1までの領域としてよい。
【0034】
第2領域R2には、空隙40が形成されている。一方、第1領域R1には、空隙40が形成されていない。つまり、空隙40は、第1領域R1及び第2領域R2のうち第2領域R2のみに形成されている。空隙40は、例えば、第2領域R2の一部が肉抜きされた肉抜き部である。空隙40は、例えば、回転軸線Lを中心とする円筒状を呈しており、第2領域R2において軸方向D1に延在している。
図3に示されるように、第2領域R2の端面S1には、空隙40が開口する開口部Saが形成されている。空隙40は、軸方向D1から見て回転軸線Lを中心とする円環状を呈しており、周方向D3の全周にわたって連続的に形成されている。
【0035】
従って、空隙40は、径方向D2において、回転軸線Lと第2フィン31Bとの間に位置すると共に、回転軸線Lと第3フィン31Cとの間にも位置している。すなわち、空隙40は、第2フィン31B及び第3フィン31Cに対して径方向D2の内側に離間した位置であって、回転軸線Lに対して径方向D2の外側に離間した位置にある。空隙40は、径方向D2において回転軸線Lよりも第2フィン31B及び第3フィン31Cの近くに位置している。つまり、径方向D2における空隙40と第2フィン31Bとの距離(或いは、径方向D2における空隙40と第3フィン31Cとの距離)は、径方向D2における空隙40と回転軸線Lとの距離よりも短い。従って、後述する円筒部52の壁部の径方向D2の厚さが、円柱部51の径方向D2の幅よりも薄くなっている。空隙40の径方向D2の幅は、例えば、周方向D3に沿った各位置において一定である。
【0036】
空隙40は、軸方向D1において開口部Saから第1領域R1に達しない位置まで軸方向D1に沿って連続的に形成されている。空隙40は、例えば、エンドミルを用いて開口部Saから軸方向D1に第2領域R2が削られることによって形成される。第2領域R2は、空隙40の径方向D2の内側に位置する円柱部51と、空隙40の径方向D2の外側に位置する円筒部52と、を有する。円柱部51は、回転軸線Lを中心とする円柱状を呈しており、空隙40に取り囲まれている。円筒部52は、回転軸線Lを中心とする円筒状を呈しており、空隙40を取り囲んでいる。従って、円柱部51は、円筒部52に収容され、円筒部52に対して空隙40を介して径方向D2の内側に配置されている。径方向D2において、円筒部52の壁部の厚さは、円柱部51の厚さ(すなわち、円柱部51の直径)よりも薄い。空隙40は、円柱部51と円筒部52との径方向D2の間の隙間によって構成されているともいえる。空隙40は、円柱部51の外周面と円筒部52の内周面とによって囲まれる隙間領域(空間領域)と定義できる。
【0037】
図5を更に参照して、空隙40の周辺構造についてより詳細に説明する。
図5に示されるように、第1領域R1は、少なくとも第1内部領域R11を含む。第1内部領域R11は、第1フィン31Aに囲まれた(すなわち、第1フィン31Aに対して径方向D2の内側に位置する)大径部12dの内部領域である。第1内部領域R11は、径方向D2において第1フィン31Aと重なる内部領域ともいえる。
【0038】
第2領域R2は、少なくとも第2内部領域R21及び第3内部領域R31を含む。第2内部領域R21は、第2フィン31Bに囲まれた(すなわち、第2フィン31Bに対して径方向D2の内側に位置する)大径部12dの内部領域である。第2内部領域R21は、径方向D2において第2フィン31Bと重なる内部領域ともいえる。第3内部領域R31は、第3フィン31Cに囲まれた(すなわち、第3フィン31Cに対して径方向D2の内側に位置する)大径部12dの内部領域である。第3内部領域R31は、径方向D2において第3フィン31Cと重なる内部領域ともいえる。
【0039】
第2領域R2は、内部領域R22、内部領域R32、及び内部領域R33を更に含む。内部領域R22は、第1内部領域R11と第2内部領域R21との軸方向D1の間に位置する。内部領域R22は、第1フィン31Aと第2フィン31Bとの間の外周面12aに囲まれており、当該外周面12aに対して径方向D2の内側に位置する。内部領域R32は、第2内部領域R21と第3内部領域R31との軸方向D1の間に位置する。内部領域R32は、第2フィン31Bと第3フィン31Cとの間の外周面12aに囲まれており、当該外周面12aに対して径方向D2の内側に位置する。内部領域R33は、第3内部領域R31と端面S1(
図1参照)との間に位置する。内部領域R33は、第3フィン31Cに対して第2フィン31Bとは反対側の外周面12aに囲まれており、当該外周面12aに対して径方向D2の内側に位置する。
【0040】
図5に示されるように、空隙40は、第2領域R2において、開口部Sa(
図3参照)から内部領域R33、第3内部領域R31、及び内部領域R32を通って、第2内部領域R21に到達する位置まで軸方向D1に連続的に形成されている。従って、空隙40は、径方向D2において、第2フィン31B及び第3フィン31Cと対向する。空隙40の底部40aは、第1内部領域R11の内部領域R22には達しておらず、第2内部領域R21に位置している。底部40aは、第2フィン31Bと径方向D2に重なる位置にある。なお、底部40aは、空隙40における軸方向D1の開口部Saとは反対側の端部を意味する。一方、空隙40は、第1内部領域R11には形成されておらず、第1フィン31Aには径方向D2に対向しない。このように、第2フィン31B及び第3フィン31Cと径方向D2に対向する位置のみに空隙40が形成されることによって、第2フィン31B及び第3フィン31Cが位置する円筒部52の部分は、シャフト12の回転時の遠心力を受けたときに、第1フィン31Aが位置する円筒部52の部分よりも、径方向D2の外側に変形する。つまり、第2フィン31B及び第3フィン31Cは、シャフト12の回転時に第1フィン31Aよりも径方向D2の外側に変位する。
【0041】
第2内部領域R21においては、開口部Saとは反対側の空隙40の先端が位置している。従って、空隙40の先端は、径方向D2において第2フィン31Bと対向する位置にある。空隙40は、第2内部領域R21においては、軸方向D1の全体にわたって形成されておらず、軸方向D1の一部のみに形成されている。例えば、空隙40は、軸方向D1において、第2内部領域R21の中央と、第2内部領域R21及び内部領域R32の境界との間の部分のみに形成されている。このように、空隙40は、第2フィン31Bの軸方向D1の一部に対して径方向D2に対向する。なお、空隙40は、第2領域R2において、第2内部領域R21の中央よりも内部領域R32寄りの領域に形成されてもよいし、第2内部領域R21の中央よりも内部領域R22寄りの領域に形成されてもよい。
【0042】
一方、内部領域R32、第3内部領域R31、及び内部領域R33においては、軸方向D1の全体にわたって空隙40が形成されている。従って、空隙40は、第3フィン31Cの軸方向D1の全体に対して径方向D2に対向する。空隙40の底部40aは、軸方向D1において、第2フィン31Bと同一の位置にある一方、第3フィン31Cから離間している。従って、第3フィン31Cは、第2フィン31Bよりも、軸方向D1において空隙40の底部40aから遠い。円筒部52は、シャフト12の回転時の遠心力を受けたとき、空隙40の底部40aを起点として変形する。そのため、起点である底部40aから遠い第3フィン31Cが位置する円筒部52の部分は、シャフト12の回転時の遠心力を受けたときに、底部40aに近い第2フィン31Bよりも、径方向D2の外側に大きく変形する。つまり、第3フィン31Cは、シャフト12の回転時に第2フィン31Bよりも径方向D2の外側に大きく変位する。その結果、シャフト12の回転時において、第2フィン31Bと内周面13cとの隙間GBが第1フィン31Aと内周面13cとの隙間GAよりも小さくなり、第3フィン31Cと内周面13cとの隙間GCは隙間GBよりも更に小さくなる。
【0043】
このように、第2内部領域R21及び第3内部領域R31に空隙40が形成されることによって、シャフト12の回転時の遠心力を利用して第2フィン31B及び第3フィン31Cを径方向D2の外側に変位させることが可能となる。シャフト12の回転時の遠心力を受けたときの径方向D2の外側への第2フィン31B及び第3フィン31Cの変位量は、空隙40の底部40a(起点)の位置、及び空隙40よりも径方向D2の外側のシャフト12の厚さ(つまり、円筒部52の壁部の厚さ)によって調整が可能である。上述したように、円筒部52は、シャフト12の回転時の遠心力を受けたとき、空隙40の底部40aを起点として変形する。そのため、第3フィン31Cが、軸方向D1において空隙40の底部40aから遠く離れるほど、第3フィン31Cの径方向D2の外側への変形量が多くなる。また、この変形量は、円筒部52を構成する壁部の厚さによっても調整できる。円筒部52の壁部の厚さが厚くなるほど、円筒部52が変形しやすくなる。そのため、第3フィン31Cが位置する円筒部52の部分の厚さを厚くすることで、第3フィン31Cの径方向D2の外側への変位量がより大きくなる。第2フィン35B及び第3フィン35C変位量は、第2フィン31B及び第3フィン31Cが内周面13cに達しない範囲に調整される。例えば、隙間GB,GCの設計値が100μmに設定される場合、これらの変位量は、0より大きく且つ100μmよりも小さい範囲内に設定される。
【0044】
<作用効果>
以上に説明した回転機械1によって奏される作用効果について、従来の課題と共に説明する。従来から、シャフトとハウジングとの隙間からの流体の漏れ流れを抑制するためのラビリンスシール部を備える回転機械が知られている。このような回転機械において、ラビリンスシール部のシール性を高めるために、ラビリンスシール部が有する複数のフィンとハウジングの内周面との隙間の設計値を十分に小さくすることが考えられる。しかしながら、この隙間を例えば100μm未満といった小さな設計値に設定する場合、回転機械の組み立て時に、当該隙間を実現するための高度な組み立て技術などが求められるため、当該隙間を小さくすることには限界がある。複数のフィンとハウジングの内周面との隙間を100μm未満といった設計値に調整したとしても、そのような調整は、組み立て時における製造公差の範囲に含まれる微差であるため、製造公差を考慮すれば、上記のような小さな隙間を実現するように組み立てること自体が極めて困難である。
【0045】
更に、ラビリンスシール部を流れる流体の流れ場を考慮すれば、フィンとハウジングの内周面との隙間を十分に小さくすることが、流体の漏れ流れの抑制効果を得るために必ずしも有効であるとは限らない。その理由について、
図6に示されるシミュレーション結果を参照しながら説明する。
図6に示されるシミュレーション結果は、シャフト112の回転時におけるラビリンスシール部130の周辺を流れる流体の流線を示している。
図6において、ラビリンスシール部130が備える複数のフィン131A,131B,131Cが、シャフト112の外周面112aにおいて等間隔に並んで配置されている。各フィン131A,131B,131Cの寸法及び形状は互いに同一であり、各フィン131A,131B,131Cと内周面113cとの隙間は互いに同一である。
【0046】
図6の左側には、コンプレッサインペラが配置される。そのため、シャフト112の回転時においては、
図6の左側の空間が高圧となり、
図6の右側の空間が低圧となる。従って、ラビリンスシール部130を流れる流体は、フィン131A,131B,131Cを順に通過する。高圧側のフィン131Aには、高いエネルギーを有する流体が流れ込む。この流体は、フィン131Aと内周面113cとの隙間を通ってフィン131Aとフィン131Bとの間の空間領域に拡散され、流体のエネルギー損失が発生する。その後、エネルギーが低下した流体が、フィン131Bと内周面113cとの隙間を通ってフィン131Bとフィン131Cとの間の空間領域に拡散され、流体のエネルギー損失が発生する。その後、エネルギーが更に低下した流体が、フィン131Cと内周面113cの隙間を通って後流側に拡散される。
【0047】
ここで、本発明者らは、各フィン131A,131B,131Cと内周面113cとの隙間と、当該隙間からの流体の漏れ量との関係について鋭意検討を重ねた結果、低圧側のフィン131B,131Cと内周面113cとの隙間を小さくすることが、流体の漏れ量を抑制する上で効果的であることを見出した。高圧側のフィン131Aには、高いエネルギーを有する流体が流れ込むことから、フィン131Aと内周面113cとの隙間を小さくしてしまうと、当該隙間を通過した流体の拡がり角θが小さくなり、当該隙間を通過した後の流体のエネルギー損失が不十分となる。そのため、高圧側のフィン131Aと内周面113cとの隙間を小さくしても、流体の漏れ量を効果的に抑制できない。一方、低圧側のフィン131B,131Cにはエネルギーが低下した流体が流れるため、流体の拡がり角を確保するよりもフィン131B,131Cと内周面113cとの隙間を小さくすることが、当該隙間を流れる流体の漏れ量の抑制のために効果的となる。但し、上述したように、フィン131B,131Cと内周面113cとの隙間を小さくすることには限界がある。
【0048】
そこで、本発明者らは、低圧側の第2フィン31B及び第3フィン31Cと内周面13cとの隙間を、シャフト12の回転時の遠心力による径方向D2の外側への第2フィン31B及び第3フィン31Cの変位によって小さくすることに着想した。そして、本発明者らは、遠心力を利用して第2フィン31B及び第3フィン31Cを径方向D2の外側に変位させるために、第2フィン31B及び第3フィン31Cに対して径方向D2の内側に空隙40を形成することを想到するに至った。
【0049】
図7に示されるシミュレーション結果は、シャフト12(大径部12d)の回転時におけるラビリンスシール部30の周辺構造の変形量を示している。
図7において、ラビリンスシール部30の周辺構造の変形量がドットの疎密によって表されており、当該変形量が大きいほどドットが密に表されている。
図7に示されるように、シャフト12が回転すると、遠心力によって空隙40の外側の円筒部52が径方向D2の外側に拡がるように変形する。この変形に応じて、円筒部52の外側の第2フィン31B及び第3フィン31Cが径方向D2の外側に変位する。このとき、上述したように、空隙40の底部40aから遠い第3フィン31Cが位置する円筒部52の部分が、径方向D2の外側により大きく変形する。そのため、第3フィン31Cは、第2フィン31Bよりも径方向D2の外側に大きく変位する。その結果、第2フィン31Bと内周面13cとの隙間GBは、第1フィン31Aと内周面13cとの隙間GAよりも小さくなり、第3フィン31Cと内周面13cとの隙間GCは、第2フィン31Bと内周面13cとの隙間GBよりも更に小さくなる。
図7に示される例では、隙間GBは、隙間GAよりも約5μm小さくなり、隙間GCは、隙間GBよりも更に約7μm小さくなっている。
【0050】
このように、本実施形態によれば、第2領域R2に空隙40が形成されることによって、シャフト12の回転時の遠心力を利用して、低圧側の第2フィン31Bと内周面13cとの隙間GBと、更に低圧側の第3フィン31Cと内周面13cとの隙間GCとをそれぞれ小さくできる。これにより、ラビリンスシール部30における流体の漏れ流れの抑制効果を効果的に得ることができる。更に、シャフト12の回転時の遠心力を利用することで、組み立て時において隙間GB,GCを小さくするための高度な組み立て技術が必須ではなくなり、回転時において隙間GB,GCを容易に小さくすることが可能となる。従って、本実施形態によれば、回転時の漏れ流れを効果的に抑制することが可能となる。
【0051】
本実施形態では、シャフト12の静止状態において、第1フィン31Aと内周面13cとの隙間GAは、第2フィン31Bと内周面13cとの隙間GBと同一である。この場合、シャフト12の回転時に第2フィン31Bと内周面13cとの隙間GBを小さくする構成を好適に実現できる。
【0052】
本実施形態では、空隙40は、軸方向D1において開口部Saから少なくとも第2内部領域R21に達する位置まで連続的に形成されている。この場合、開口部Saから第2領域R2を削る簡易な作業によって、空隙40を容易に形成できる。
【0053】
本実施形態では、空隙は、第2フィン31Bと回転軸線Lとの径方向D2の間において、周方向D3の全周にわたって連続的に形成されている。この場合、シャフト12の回転時の遠心力を利用して、第2フィン31Bを径方向D2の外側に均等に変位させることができ、第2フィン31Bと内周面13cとの隙間GBを均等に小さくできる。その結果、ラビリンスシール部30における流体の漏れ流れをより効果的に抑制できる。
【0054】
本実施形態では、空隙40は、第2フィン31Bと回転軸線Lとの径方向D2の間において、回転軸線Lよりも第2フィン31Bの近くに位置していている。この場合、シャフト12の回転時において、第2フィン31Bを径方向D2の外側により大きく変位させることができ、第2フィン31Bと内周面13cとの隙間GBをより小さくできる。その結果、ラビリンスシール部30における流体の漏れ流れをより効果的に抑制できる。
【0055】
本実施形態では、第2領域R2は、回転軸線Lを中心とする円柱部51と、回転軸線Lを中心とし且つ円柱部51を収容する円筒部52と、を有し、空隙40は、円柱部51と円筒部52との径方向D2の隙間によって構成されている。この場合、シャフト12の回転時の遠心力を利用して、第2フィン31Bを径方向D2の外側に均等に変位させることができ、第2フィン31Bと内周面13cとの隙間GBを均等に小さくできる。その結果、ラビリンスシール部30における流体の漏れ流れをより効果的に抑制できる。
【0056】
本実施形態では、空隙40は、第2領域R2において、少なくとも第2内部領域R21及び第3内部領域R31に形成されている。この場合、シャフト12の回転時の遠心力を利用して、インペラ3から遠い(すなわち低圧側に位置する)第2フィン31Bと内周面13cとの隙間GB、及び第3フィン31Cと内周面13cとの隙間GCを小さくできる。その結果、ラビリンスシール部30における流体の漏れ流れをより効果的に抑制できる。
【0057】
本実施形態では、空隙40は、第2内部領域R21の軸方向D1の一部のみに形成され、第3内部領域R31の軸方向D1の全体にわたって形成されている。この場合、シャフト12の回転時の遠心力を利用して、より低圧側に位置する第3フィン31Cと内周面13cとの隙間GCを、第2フィン31Bと内周面13cとの隙間GBよりも更に小さくできる。つまり、低圧側に位置するフィン31ほど、当該フィン31と内周面13cとの隙間を段階的に小さくできる。その結果、ラビリンスシール部30における流体の漏れ流れをより効果的に抑制できる。
【0058】
以上、本開示の第1実施形態について説明したが、本開示は、上記第1実施形態に限られない。
図8に示されるように、第2領域R2には、回転軸線Lを中心とする円柱状の空隙40Aが形成されてもよい。この場合、第2領域R2は、上記第1実施形態に係る円柱部51を有しておらず、円筒部52のみを有しており、円筒部52の全ての内部空間が空隙40Aとして構成されている。つまり、
図8に示される例では、第2領域R2において空隙40Aが形成される部分が中空となっている。第2領域R2において、空隙40Aは、上記第1実施形態と同様、開口部Sa(
図3参照)から、第2フィン31Bに対向する第2内部領域R21(
図5参照)に至るまで、軸方向D1に連続的に形成されている。
【0059】
図8に示される例では、上記第1実施形態と同様、低圧側の第2フィン31B及び第3フィン31Cに対して径方向D2の内側に空隙40Aが存在するため、シャフト12の回転時の遠心力を利用して、第2フィン31Bと内周面13cとの隙間GB、及び第3フィン31Cと内周面13cとの隙間GCをそれぞれ小さくできる。そして、第3フィン31Cは、軸方向D1において第2フィン31Bよりも空隙40Aの底部40a(起点)から離れているため、遠心力を受けたときに、第3フィン31Cは、第2フィン31Bよりも径方向D2の外側に大きく変位する。その結果、シャフト12の回転時において、隙間GCは、隙間GBよりも小さくなる。従って、
図8に示される例では、シャフト12の回転時に隙間GB,GCを小さくすることが可能となる。その結果、ラビリンスシール部30における流体の漏れ流れを効果的に抑制できる。
【0060】
図9に示されるように、円筒部52Aの壁部52aに厚肉部52bが形成されていてもよい。円筒部52Aは、
図8に示す円筒部52に厚肉部52bが形成された構成を有する。
図9に示す例では、円筒部52Aの全ての内部空間を構成する空隙40Bは、軸方向D1において、第2内部領域R21を超えて内部領域R22まで達する位置まで延びている。つまり、空隙40Bの底部40aは、第2領域R2の内部領域R22に位置している。従って、空隙40Bは、第2フィン31Bの軸方向D1の全体、及び第3フィン31Cの軸方向D1の全体に対して、径方向D2に対向している。
【0061】
厚肉部52bは、例えば、軸方向D1において底部40aから内部領域R32に達する位置まで連続的に形成されている。厚肉部52bは、円筒部52Aの壁部52aのうちの肉厚の厚い部分である。厚肉部52bは、厚肉部52bを除く壁部52aの他の部分よりも径方向D2の内側に突出しており、当該他の部分よりも厚い肉厚を有する。その結果、厚肉部52bの内面S52bは、当該他の部分の内面S52aよりも径方向D2の内側に突出した位置にある。厚肉部52bは、第2フィン31Bに対して径方向D2に対向する位置に形成されている。一方、厚肉部52bは、第3フィン31Cに対して径方向D2に対向する位置には形成されていない。なお、厚肉部52bの厚さは、例えば、軸方向D1に沿った各位置において一定としてよい。
【0062】
図9に示される例においても、第3フィン31Cは、軸方向D1において第2フィン31Bよりも空隙40Bの底部40a(起点)から離れている。そのため、第3フィン31Cは、遠心力を受けたときに、第2フィン31Bよりも径方向D2の外側に大きく変位する。その結果、第2フィン31Bと内周面13cとの隙間GBは、第1フィン31Aと内周面13cとの隙間GAよりも小さくなり、第3フィン31Cと内周面13cとの隙間GCは、第2フィン31Bと内周面13cとの隙間GBよりも更に小さくなる。
【0063】
ここで、
図9に示される例では、第2フィン31Bに対して径方向D2に対向する位置に厚肉部52bが形成されているため、第3フィン31Cの下の円筒部52Aの部分の厚さよりも、第2フィン31Bの下の円筒部52Aの部分の厚さの方が厚い。フィンと内周面13cとの隙間は底部40aから軸方向D1に離れるほど狭くなる。しかしながら、本実施形態では、底部40aから軸方向D1に離れるにつれ、フィンと内周面13cとの隙間が一様に狭くなるわけではない。円筒部52Aの厚みが一定である場合と比較し、円筒部52Aの厚みが変化する場合、底部40aを支点として、第3フィン31Cの遠心力と剛性によって、第3フィン31Cの変形量が変化する。このように、
図9に示される例では、円筒部52Aに厚みの変化する部分(厚肉部52b)が形成されることによって、フィンの軸方向D1の位置におけるギャップ(すなわち、フィンと内周面13cとの隙間)の変化量を調整することができる。これにより、ラビリンスシール部30における流体の漏れ流れをより効果的に抑制できる。
【0064】
図10に示されるように、ラビリンスシール部30Aは、流路Gにおいて、シャフト12の外周面12aに代えて、モータハウジング13の内周面13cに設けられてもよい。この場合、ラビリンスシール部30Aの各フィン31は、内周面13cから外周面12aに向かって径方向D2の内側に突出しており、外周面12aに対して径方向D2に隙間を空けて近接している。シャフト12の静止状態(すなわち非回転状態)において、第1フィン31Aと内周面13cとの径方向D2の隙間GAと、第2フィン31Bと内周面13cとの径方向D2の隙間GBと、第3フィン31Cと内周面13cとの径方向D2の隙間GCとは、例えば、静止状態において互いに同一に設定されている。
【0065】
図10に示される例においても、第3フィン31Cは、第2フィン31Bよりも空隙40の底部40a(起点)から離れているので、遠心力を受けたときに、第3フィン31Cに対向する外周面12aの部分は、第2フィン31Bに対向する外周面12aの部分よりも径方向D2の外側に大きく変形する。その結果、回転時において、第3フィン31Cと外周面12aとの隙間GCが、第2フィン31Bと外周面12aとの隙間GBよりも小さくなる。従って、
図10に示される例であっても、上述した実施形態と同様、回転時に隙間GB,GCを小さくすることができるので、ラビリンスシール部30Aにおける流体の漏れ流れを効果的に抑制することが可能となる。
【0066】
[第2実施形態]
次に、
図11~
図13を参照して、第2実施形態に係る回転機械1Aについて説明する。第2実施形態の説明において、第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と重複する説明は適宜省略する。
【0067】
第2実施形態に係る回転機械1Aは、ラビリンスシール部30に代えて、ラビリンスシール部30Bを備える点で、第1実施形態に係る回転機械1とは相違する。第1実施形態では、ラビリンスシール部30はシャフト12と一体に構成されていたが、第2実施形態では、ラビリンスシール部30Bはシャフト12とは別体に構成されている。
図12に示されるように、ラビリンスシール部30Bは、シャフト12が挿通する円筒部材33と、円筒部材33の外周面33aに形成された複数のフィン35(複数の突起)と、を有する。円筒部材33は、回転軸線Lを中心とする円筒状の部材である。
図11に示されるように、円筒部材33は、軸方向D1においてインペラ3と軸受20aとの間のシャフト12に取り付けられている(
図11参照)。円筒部材33は、軸受20aと軸方向D1に対面する端面S11と、インペラ3の背面と軸方向D1に対面する端面S12と、を含む。
【0068】
図12に示されるように、円筒部材33は、シャフト12を取り囲んでおり、円筒部材33の内周面33bは、シャフト12の外周面12aと径方向D2に対向している。円筒部材33は、シャフト12と共に回転軸線Lの周りに回転する。円筒部材33の外周面33aは、内周面13cに対して隙間を空けて対面している。複数のフィン35は、円筒部材33の外周面33aに形成される点を除いて、複数のフィン31と同一の構成を有する。複数のフィン35は、第1フィン31A、第2フィン31B、及び第3フィン31Cにそれぞれ対応する第1フィン35A(第1突起)、第2フィン35B(第2突起)、及び第3フィン35C(第3突起)を有する。なお、外周面33a及び内周面13cは、例えば、回転軸線Lを中心とする円柱面(円柱の側面)である。なお、本実施形態の外周面33a及び内周面13cは、円柱面であるが、必ずしもそれに限定され無い。例えば、後述する
図12に示す断面において、外周面33a及び内周面13cは、軸方向D1に対し傾斜した直線や、曲線を含む線によって表されてもよい。
【0069】
図12に示されるように、円筒部材33は、第1フィン35Aが配置される第1領域R1Aと、第2フィン35B及び第3フィン35Cが配置される第2領域R2Aと、を有する。第1領域R1Aは、軸方向D1における第1フィン35A(具体的には、第2フィン35Bに対向する側の第1フィン35Aの基端)から端面S12(
図11参照)までの領域としてよい。第2領域R2Aは、軸方向D1における第1フィン35Aの基端から端面S11(
図11参照)までの領域としてよい。
【0070】
本実施形態では、第2領域R2Aには、薄肉部33cが形成されている。一方、第1領域R1Aには、薄肉部33cが形成されていない。つまり、薄肉部33cは、第1領域R1A及び第2領域R2Aのうち第2領域R2Aのみに形成されている。薄肉部33cは、円筒部材33の一部によって構成され、円筒部材33の他の部分33dよりも薄い肉厚(すなわち径方向D2の厚さ)を有する。従って、薄肉部33cの厚さTcは、他の部分33dの厚さTdよりも薄い(
図13参照)。その結果、薄肉部33cの内周面33bとシャフト12の外周面12aとの間に空隙41が形成されている。厚さTc,Tdは、例えば、軸方向D1に沿った各位置において一定としてよい。
【0071】
図13に示されるように、第1領域R1Aは、少なくとも円筒部材33の第1部分R11Aを含む。第1部分R11Aは、円筒部材33のうち第1フィン35Aに囲まれた部分、すなわち第1フィン35Aに対して径方向D2の内側に位置する部分である。第1部分R11Aは、径方向D2から見て第1フィン35Aと重なる部分ともいえる。第2領域R2Aは、少なくとも円筒部材33の第2部分R21A及び第3部分R31Aを含む。第2部分R21Aは、円筒部材33のうち第2フィン35Bに囲まれた部分、すなわち第2フィン35Bに対して径方向D2の内側に位置する部分である。第2部分R21Aは、径方向D2から見て第2フィン35Bと重なる部分ともいえる。第3部分R31Aは、円筒部材33のうち第3フィン35Cに囲まれた部分、すなわち第3フィン35Cに対して径方向D2の内側に位置する部分である。第3部分R31Aは、径方向D2から見て第3フィン35Cと重なる部分ともいえる。
【0072】
第2領域R2Aは、部分R22A、部分R32A、及び部分R33Aを更に含む。部分R22Aは、第1部分R11Aと第2部分R21Aとの軸方向D1の間に位置する部分である。部分R32Aは、第2部分R21Aと第3部分R31Aとの軸方向D1の間に位置する部分である。部分R33Aは、第3部分R31Aと端面S11(
図11参照)との間に位置する部分である。
図13に示されるように、薄肉部33cは、第2領域R2Aにおいて、部分R33A、第3部分R31A、部分R32A、及び第2部分R21Aにわたって連続的に形成されている。従って、薄肉部33cは、径方向D2において、第2フィン35B及び第3フィン35Cと対向する。空隙41の底部41aは、第1部分R11Aの部分R22Aには達しておらず、第2内部領域R21に位置している。底部41aは、第2フィン35Bと径方向D2に重なる位置にある。なお、底部41aは、空隙41における軸方向D1の開口部Saとは反対側の端部を意味する。一方、薄肉部33cは、第1部分R11Aには形成されておらず、第1フィン35Aには径方向D2に対向しない。このように、第2フィン35B及び第3フィン35Cと径方向D2に対向する位置のみに薄肉部33cが形成されることによって、第2フィン35B及び第3フィン35Cが位置する円筒部材33の部分は、シャフト12の回転時の遠心力を受けたときに、第1フィン35Aが位置する円筒部材33の部分よりも、径方向D2の外側に変形する。つまり、第2フィン35B及び第3フィン35Cは、シャフト12の回転時に第1フィン35Aよりも径方向D2の外側に変位する。
【0073】
薄肉部33cは、第2部分R21Aにおいては、軸方向D1の全体にわたって形成されておらず、軸方向D1の一部のみに形成されている。例えば、薄肉部33cは、軸方向D1において、第2部分R21Aの中央と、第2部分R21A及び部分R32Aの境界との間の部分のみに形成されている。なお、薄肉部33cは、第2領域R2Aにおいて、第2部分R21Aの中央よりも部分R32A寄りの領域に形成されてもよいし、第2部分R21Aの中央よりも部分R22A寄りの領域に形成されてもよい。このように、薄肉部33cは、第2フィン35Bの軸方向D1の一部に対して径方向D2に対向する。
【0074】
一方、部分R32A、第3部分R31A、及び部分R33Aにおいては、軸方向D1の全体にわたって薄肉部33cが形成されている。従って、薄肉部33cは、第3フィン35Cの軸方向D1の全体に対して径方向D2に対向する。空隙41の底部41aは、軸方向D1において、第2フィン35Bと同一の位置にある一方、第3フィン35Cから離間している。従って、第3フィン35Cは、第2フィン35Bよりも、軸方向D1において空隙41の底部41aから遠い。円筒部材33は、シャフト12の回転時の遠心力を受けたとき、空隙41の底部41aを起点として変形する。そのため、起点である底部41aから遠い第3フィン35Cが位置する円筒部材33の部分は、シャフト12の回転時の遠心力を受けたときに、底部41aに近い第2フィン35Bよりも、径方向D2の外側に大きく変形する。つまり、第3フィン35Cは、シャフト12の回転時に第2フィン35Bよりも径方向D2の外側に大きく変位する。その結果、シャフト12の回転時において、第2フィン35Bと内周面13cとの隙間GBが第1フィン35Aと内周面13cとの隙間GAよりも小さくなり、第3フィン35Cと内周面13cとの隙間GCは隙間GBよりも更に小さくなる。
【0075】
シャフト12の回転時の遠心力を受けたときの径方向D2の外側への第2フィン35B及び第3フィン35Cの変位量は、空隙41の底部41aの位置、及び空隙41よりも径方向D2の外側の円筒部材33の壁部の厚さTcによって調整が可能である。上述したように、円筒部材33は、シャフト12の回転時の遠心力を受けたとき、空隙41の底部41aを起点として変形する。そのため、第3フィン35Cが、軸方向D1において空隙41の底部41aから遠く離れるほど、第3フィン35Cの径方向D2の外側への変形量が多くなる。また、この変形量は、円筒部材33を構成する壁部の厚さTcによっても調整できる。円筒部材33の壁部の厚さTcが厚くなるほど、円筒部材33が変形しやすくなる。第3フィン35Cが位置する円筒部材33の部分に薄肉部33cが形成されるが、壁部の厚さTcを薄くすることで、第3フィン35Cの径方向D2の外側への変位量をより小さくすることも可能である。なお、空隙41の底部41aの位置は、軸方向D1における薄肉部33cが形成される範囲によって調整可能である。第2フィン35B及び第3フィン35Cの変位量は、第2フィン35B及び第3フィン35Cが内周面13cに達しない範囲に調整される。例えば、隙間GB,GCの設計値が100μmに設定される場合、これらの変位量は、0より大きく且つ100μmよりも小さい範囲内に設定される。
【0076】
<作用効果>
以上に説明した第2実施形態に係る回転機械1Aによれば、第1実施形態に係る回転機械1と同様の効果を得ることができる。すなわち、円筒部材33の第2領域R2Aに薄肉部33cが形成されることによって、シャフト12の回転時の遠心力を利用して、低圧側の第2フィン35Bと内周面13cとの隙間GBと、更に低圧側の第3フィン35Cと内周面13cとの隙間GCと、をそれぞれ小さくできる。その結果、上述した理由と同様の理由により、ラビリンスシール部30Bにおける流体の漏れ流れの抑制効果を効果的に得ることができる。更に、シャフト12の回転時の遠心力を利用することで、組み立て時において隙間GB,GCを小さくするための高度な組み立て技術が必須ではなくなり、回転時において隙間GB,GCを容易に小さくすることが可能となる。従って、本実施形態によれば、回転時の漏れ流れを効果的に抑制することが可能となる。
【0077】
本開示による回転機械は、上述した各実施形態及び各変形例に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上述した各実施形態及び各変形例を、必要な目的及び効果に応じて、矛盾のない範囲で互いに組み合わせてもよい。例えば、
図11に示す回転機械1Aに、
図9に示す厚肉部52b、又は
図10に示すラビリンスシール部30Aを適用してもよい。上述した各実施形態では、シャフトの端部にコンプレッサインペラが取り付けられた構成について説明したが、シャフトの両端部にコンプレッサインペラ及びタービンインペラがそれぞれ取り付けられた構成であってもよい。この場合、本開示の「インペラ」は、コンプレッサインペラ及びタービンインペラのいずれであってもよい。シャフトの回転時においては、回転するコンプレッサインペラ及びタービンインペラの付近が高圧となり、コンプレッサインペラ及びタービンインペラから離れるにつれて(すなわち、シャフトの中央部分に近づくにれて)低圧となる。
【0078】
本開示の「インペラ」を、シャフトの一端部に取り付けられたコンプレッサインペラと捉えた場合には、当該一端部においてコンプレッサインペラに近い高圧側のフィンを「第1突起」、コンプレッサインペラから遠い低圧側(すなわち、シャフトの中央寄り)のフィンを「第2突起」と捉えればよい。本開示の「インペラ」を、シャフトの他端部に取り付けられたタービンインペラと捉えた場合には、当該他端部においてタービンインペラに近い高圧側のフィンを「第1突起」、タービンインペラから遠い低圧側(すなわち、シャフトの中央寄り)のフィンを「第2突起」と捉えればよい。従って、本開示の「インペラ」をコンプレッサインペラ及びタービンインペラのいずれと捉えても、「第2突起」が「第1突起」よりも低圧側に位置するため、空隙又は薄肉部の形成によって低圧側の「第2突起」を径方向の外側に変位させることで、ラビリンスシール部における流体の漏れ流れを効果的に抑制することが可能となる。
【0079】
上述した各実施形態では、高圧側の第1フィンを本開示の「第1突起」と捉え、第1フィンに隣り合う低圧側の第2フィンを本開示の「第2突起」と捉えて説明したが、「第1突起」及び「第2突起」は、必ずしも隣り合う必要はなく、「第1突起」及び「第2突起」の間に別の突起が配置されていてもよい。例えば、第1フィンを「第1突起」と捉え、第1フィンに対して第2フィンを介して並ぶ低圧側の第3フィンを「第2突起」と捉えてもよい。また、上述した各実施形態では、「第1突起」、「第2突起」、及び「第3突起」がフィンである場合について説明したが、これらの突起は、フィン形状である必要は無く、他の形状であってもよい。例えば、これらの突起は、径方向の外側に突出する矩形の凸部であってもよい。
【0080】
[付記]
本開示の一形態に係る回転機械は、以下の[1]~[11]に記載する通りであり、上述した各実施形態及び各変形例に基づいてこれらを詳細に説明した。
[1] 回転軸線の周りに回転可能なシャフトと、
前記シャフトに取り付けられたインペラと、
前記シャフト及び前記インペラを収容するハウジングと、
前記ハウジングの内壁面と前記シャフトの外周面との間に形成され、前記インペラの背面側において前記シャフトに沿って延びる流路と、
前記流路に形成されたラビリンスシール部と、を備え、
前記ラビリンスシール部は、前記外周面又は前記内壁面から突出する第1突起及び第2突起を有し、
前記第2突起は、前記シャフトの軸方向において前記第1突起よりも前記インペラから遠い位置に配置され、
前記シャフトは、前記第2突起に対して径方向の内側に形成された空隙を有する、回転機械。
[2] 前記シャフトは、
前記第1突起に対して前記径方向の内側に位置する第1内部領域を含む第1領域と、
前記第2突起に対して前記径方向の内側に位置する第2内部領域を含み且つ前記第1領域に対して前記インペラとは反対側に位置する第2領域と、を有し、
前記空隙は、前記第1領域及び前記第2領域のうちの前記第2領域のみに形成されており、前記第2領域において少なくとも前記第2内部領域に形成されている、[1]に記載の回転機械。
[3] 前記第2領域は、前記軸方向において前記第1領域とは反対側に開口する開口部を有し、
前記空隙は、前記軸方向において前記開口部から少なくとも前記第2内部領域に達する位置まで連続的に形成されている、[2]に記載の回転機械。
[4] 前記シャフトの静止状態において、前記第1突起と前記内壁面又は前記外周面との前記径方向の隙間は、前記第2突起と前記内壁面又は前記外周面との前記径方向の隙間と同一である、[1]又は[2]に記載の回転機械。
[5] 前記空隙は、前記第2突起と前記回転軸線との前記径方向の間において、前記回転軸線を中心とする周方向の全周にわたって連続的に形成されている、[1]~[4]のいずれかに記載の回転機械。
[6] 前記空隙は、前記第2突起と前記回転軸線との前記径方向の間において、前記回転軸線よりも前記第2突起の近くに位置している、[5]に記載の回転機械。
[7] 前記シャフトは、前記回転軸線を中心とする円柱部と、前記回転軸線を中心とし且つ前記円柱部を収容する円筒部と、を有し、
前記空隙は、前記円柱部と前記円筒部との前記径方向の隙間によって構成されている、[5]又は[6]に記載の回転機械。
[8] 前記シャフトは、前記回転軸線を中心とする円筒部を有し、
前記空隙は、前記円筒部の全ての内部空間によって構成されている、[1]~[4]のいずれかに記載の回転機械。
[9] 前記軸方向において前記第2突起よりも前記インペラから遠い第3突起を更に備え、
前記シャフトは、
前記第1突起に対して前記径方向の内側に位置する第1内部領域を含む第1領域と、
前記第2突起に対して前記径方向の内側に位置する第2内部領域、及び前記第3突起に対して前記径方向の内側に位置する第3内部領域を含み、前記第1領域に対して前記インペラとは反対側に位置する第2領域と、を有し、
前記空隙は、前記第1領域及び前記第2領域のうちの前記第2領域のみに形成されており、前記第2領域において少なくとも前記第2内部領域及び前記第3内部領域に形成されている、[1]~[8]のいずれかに記載の回転機械。
[10] 前記空隙は、前記第2内部領域の前記軸方向の一部のみに形成され、前記第3内部領域の前記軸方向の全体にわたって形成されている、[9]に記載の回転機械。
[11] 回転軸線の周りに回転可能なシャフトと、
前記シャフトに取り付けられるインペラと、
前記シャフト及び前記インペラを収容するハウジングと、
前記ハウジングの内壁面と前記シャフトの外周面との間に形成され、前記インペラの背面側において前記シャフトに沿って延びる流路と、
前記流路に形成されたラビリンスシール部と、を備え、
前記ラビリンスシール部は、前記シャフトの前記外周面を取り囲むように配置された円筒部材と、前記円筒部材の外周面又は前記内壁面から突出する第1突起及び第2突起を有し、
前記第2突起は、前記シャフトの軸方向において前記第1突起よりも前記インペラから遠い位置に配置され、
前記円筒部材は、前記第2突起に対して径方向の内側に、他の部分よりも厚さの薄い薄肉部を有する、回転機械。
【符号の説明】
【0081】
1,1A 回転機械
3 コンプレッサインペラ(インペラ)
7 ハウジング
12 シャフト
12a 外周面
12b 一端部
13c 内周面(内壁面)
30,30A,30B ラビリンスシール部
31,35 フィン(突起)
31A,35A 第1フィン(第1突起)
31B,35B 第2フィン(第2突起)
31C,35C 第3フィン(第3突起)
33 円筒部材
33c 薄肉部
40,40A,40B 空隙
51 円柱部
52 円筒部
D1 軸方向
D2 径方向
D3 周方向
G 流路
GA,GB,GC 隙間
L 回転軸線
R1,R1A 第1領域
R2,R2A 第2領域
R11 第1内部領域
R11A 第1部分
R21 第2内部領域
R21A 第2部分
R31 第3内部領域
Sa 開口部