(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122010
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】複合成型体、複合成型体を用いてなる電極シートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240902BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240902BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240902BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/139
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029307
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】水田 悠生
(72)【発明者】
【氏名】赤松 哲也
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA14
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050DA11
5H050EA23
5H050EA24
5H050FA16
5H050GA02
5H050GA08
5H050GA22
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】好適な力学特性及び他素材のバインダー機能を確保し、全バインダー成分におけるパーフルオロ樹脂の比率を高め、さらに圧縮成型及び切削加工プロセスを経ることなく成型可能な複合成型体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】第1成分として平均繊維径が100nm以下のアラミドナノファイバーと、第2成分としてパーフルオロ樹脂を含み、第1成分の含有量が、第2成分の100重量部に対して、1重量部~20重量部であり、引張弾性率が8.0MPa以上であることを特徴とする複合成型体。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1成分として平均繊維径が100nm以下のアラミドナノファイバーと、第2成分としてパーフルオロ樹脂を含み、第1成分の含有量が、第2成分の100重量部に対して、1重量部~20重量部であり、引張弾性率が8.0MPa以上であることを特徴とする複合成型体。
【請求項2】
粒子径が1mm以下である無機粒子を80重量部以上含有する請求項1に記載の複合成型体。
【請求項3】
前記アラミドナノファイバーがパラ型全芳香族ポリアミドからなる請求項1に記載の複合成型体。
【請求項4】
前記パーフルオロ樹脂がPTFEである請求項1に記載の複合成型体。
【請求項5】
湿式抄紙および/または塗工乾燥によって成型される、請求項1に記載の複合成型体の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4に記載の複合成型体と電極活物質とを含む2次電池用の電極シートであって、電極シート100重量部に対して電極活物質を90重量部以上含む2次電池用の電極シート。
【請求項7】
平均繊維径が100nm以下のアラミドナノファイバー、パーフルオロ樹脂、電極活物質を混錬することで得られる、請求項6に記載の電極シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合成型体、複合成型体を用いてなる電極シートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)に代表されるパーフルオロ樹脂は高い耐熱性や耐薬品性、高い電気絶縁性、滑り特性などの優れた特徴を併せ持ち、配管やタンク類などのコーティング、シール材、低誘電材料、低摩擦材、電極向けバインダー材など多様な用途において活用されている。
【0003】
パーフルオロ樹脂の成型方法としては、例えば、特許文献1のように圧縮成型を行う方法が知られている。しかし、本手法では形状付与のための金型が必要であり、塊状の成型体を対象とした長時間にわたる加温・冷却制御が必要である。さらに、圧縮成型で得られる形状は円柱状などに限定される。そのため、シート形状を得るためには機械的な切削加工をする必要がある。切削加工はその加工難度上の課題だけではなく、切削に伴う粉塵による作業環境の悪化や、歩留まりといった課題にもなり得る。
【0004】
上述した方法に依存しない成型方法としては、例えば、パーフルオロ樹脂粒子の懸濁液を塗工し乾燥する方法も考えられるが、本手法で得られる成膜体は粒子間の相互作用が弱く、自立性のない脆弱な(脆い)ものである。この解決策として、パーフルオロ樹脂にせん断力を加え、フィブリル化を進行させる手法が提案されている。例えば特許文献2では、PTFEをフィブリル化させることでフィブリル同士の交絡構造を形成し、力学的な自立性を獲得している。また、当該フィブリルが持つ高い比表面積により他の無機粒子を把持する機能も発現させることで、溶媒を使用しない二次電池用の電極シートが提案されている。しかし、この手法ではフィブリル化を適切に進行させる必要がある。フィブリル化が不十分であると、力学的な自立性や他の粒子の把持機能などが十分発現しない。一方で、フィブリル化が過度に進行すると、パーフルオロ樹脂同士で固着してしまい、他素材との均質な複合や良好な成型状態を得ることが困難である。このように、特許文献2で例示した技術はフィブリル化の制御が極めて重要である一方で、本制御は付与するせん断力で制御しなければならず、再現性を確保することが難しい。
【0005】
フィブリル化以外の解決策として、他素材によりパーフルオロ樹脂を把持する手法も提案されている。例えば特許文献3では、芳香族ポリアミドパルプにてパーフルオロ樹脂粒子を把持し、シートを形成する方法が提案されている。これは、芳香族ポリアミドーパーフルオロ樹脂間に働く静電的な相互作用を活用している例である。しかし、本手法では、把持可能なパーフルオロ樹脂量がアラミドパルプの比表面積に依存する。パーフルオロ樹脂を定着するために必要なアラミドパルプは、パーフルオロ樹脂と概ね同程度の量を必要とする。従って、得られた複合体は、パーフルオロ樹脂由来の各種機能発現度合いが低くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-320588号公報
【特許文献2】国際公開第2019/191397号
【特許文献3】特開平10-298310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の問題を解決すべくなされたものであり、その目的は、アラミドナノファイバーとパーフルオロ樹脂とを含む複合成型体であって、好適な力学特性及び他素材のバインダー機能を確保し、全バインダー成分におけるパーフルオロ樹脂の比率を高め、さらに圧縮成型及び切削加工プロセスを経ることなく成型可能な複合成型体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、特定の繊維系を有するアラミドナノファイバーと、パーフルオロ樹脂を、特定量使用することにより、上述した課題が解決されることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下の(1)~(7)が提供される。
(1)第1成分として平均繊維径が100nm以下のアラミドナノファイバーと、第2成分としてパーフルオロ樹脂を含み、第1成分の含有量が、第2成分の100重量部に対して、1重量部~20重量部であり、引張弾性率が8.0MPa以上である複合成型体。
(2)粒子径が1mm以下である無機粒子を80重量部以上含有する前記1に記載の複合成型体。
(3)前記アラミドナノファイバーがパラ型全芳香族ポリアミドからなる前記1に記載の複合成型体。
(4)前記パーフルオロ樹脂がPTFEである前記1に記載の複合成型体。
(5)湿式抄紙および/または塗工乾燥によって成型される前記1に記載の複合成型体の製造方法。
(6)前記(1)~(4)に記載の複合成型体と電極活物質とを含む2次電池用の電極シートであって、電極シート100重量部に対して電極活物質を90重量部以上含む2次電池用の電極シート。
(7)平均繊維径が100nm以下のアラミドナノファイバー、パーフルオロ樹脂、電極活物質を混錬することで得られる、前記(6)に記載の電極シートの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明で構成された複合成型体により、アラミドナノファイバーとパーフルオロ樹脂とを含む複合成型体であって、好適な力学特性及び他素材のバインダー機能を確保できる。また、高比表面積のアラミドナノファイバーを用いることで、全バインダー成分におけるパーフルオロ樹脂の比率を高められ、パーフルオロ樹脂由来の特性を効率的に発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のアラミドナノファイバーの構造観察画像を示した一例である。
【
図2】平均繊維径算出用に、
図1を拡大した構造観察画像を示した一例である。
【
図3】平均繊維径の算出方法に関する説明図である。
【
図4】本発明のアラミドナノファイバーとポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子を複合化したスラリーの外観である。
【
図5】
図4のスラリーを軽く脱水した外観図である。
【
図6】
図5のスラリーを脱水しプレス成型シート乾燥後の外観である。
【
図7】
図6のスラリーを脱水しプレス成型シート乾燥後の表面のSEM写真である。
【
図8】
図7のスラリーを脱水しプレス成型シート乾燥後の断面のSEM写真である。
【
図9】
図8の成型シートを400℃1時間(空気中)で焼結処理後の外観である。
【
図10】
図6の成型シートを400℃1時間(空気中)で焼結処理後の表面のSEM写真である。
【
図11】
図6の成型シートを400℃1時間(空気中)で焼結処理後の断面のSEM写真である。
【
図12】ポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子(10μm)にアラミドナノファイバーを添加した外観である(左からポリテトラフルオロエチレン樹脂粒子に対してアラミドナノファイバーを10.0重量%、4.0重量%、2.0重量%および1.0重量%それぞれ添加したものである)。
【
図13】本発明の複合成型体を半円状に成形した外観である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0013】
<複合成型体>
本発明の複合成型体は、第1成分として平均繊維径が100nm以下のアラミドナノファイバー、第2成分としてパーフルオロ樹脂をそれぞれ含み、第1成分の含有量が、第2成分の100重量部に対して、1重量部~20重量部であり、当該複合成型体の引張弾性率が8.0MPa以上である。
【0014】
また、本発明の複合成型体は、アラミドナノファイバーの含有率がパーフルオロ樹脂100重量部に対して、好ましくは1重量部~15重量部であり、より好ましくは1.5重量部~12重量部、さらに好ましくは2~10重量部である。このような範囲であれば、優れた物性を得ることができる。アラミドナノファイバーの含有割合が15重量部を超える場合、吸水率が高くなるため好ましくない。1重量部未満の場合、パーフルオロ樹脂の把持不良に起因する脱落が生じるため好ましくない。
【0015】
また、本発明の複合成型体は、本発明の目的に反しない範囲で、必要に応じて他の繊維をさらに含んでいてもよい。他の繊維は、目的に応じて適切に選択され得る。例えば、強度や靭性の強化を目的とする場合にはパラ型全芳香族ポリアミドパルプや、リファイナー処理をされたパラ型全芳香族ポリアミドパルプを含んでも良い。パラ型全芳香族ポリアミドパルプを含む場合は平均粒子径が1μm以上(好ましくは10μm以上)のパーフルオロ樹脂粒子を含んでいても良い。
【0016】
なお、本発明の複合成型体は、目的に応じて任意の適切な形状を有し得る。例えば、一般的なシート状であってもよく、
図13に示すようなドーム形状であってもよく、その他の形状であってもよい。
また本発明の複合成型体は、湿式抄紙および/または塗工乾燥によって成型することが可能である。すなわち、圧縮成型及び切削加工プロセスを経ることなく製造することが可能である。
【0017】
<アラミド(全芳香族ポリアミド)>
本発明におけるアラミドは、全芳香族ポリアミドである。全芳香族ポリアミドとしては、パラ型全芳香族ポリアミド(ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド、ポリ-p-ベンズアミド、ポリ-p-アミドヒドラジド、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド-3,4-ジフェニルエーテルテレフタルアミドなど)、メタ型全芳香族ポリアミド(ポリ-m-フェニレンイソフタルアミドなど)が挙げられ、高弾性かつ高強度であることからパラ型全芳香族ポリアミドであることが好ましい。例えば、パラ型全芳香族ポリアミドを用いた繊維としては、ポリーp-フェニレンテレフタルアミド繊維(市販品では、帝人株式会社製「トワロン」(商標名)、東レ・デュポン株式会社製「ケブラー」(商標名)など)や、コパラフェニレン・3、4’オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(市販品では、帝人株式会社製「テクノーラ」(商標名)など)が挙げられ、メタ型全芳香族ポリアミドを用いた繊維としては、ポリ-m-フェニレンイソフタルアミド繊維(市販品では、帝人株式会社製「テイジンコーネックス」(商標名)、デュポン社製「ノーメックス」(商標名)など)が挙げられる。
【0018】
<アラミドナノファイバー>
本発明におけるアラミドナノファイバーとはその平均繊維径が100nm以下であり、好ましくは50nm以下、より好ましくは25nm以下である。平均繊維径の下限は1nm以上、好ましくは3nm以上であることが好ましい。また、アラミドナノファイバーは500nm以上の繊維径のものを有さないことが好ましい。
【0019】
本発明におけるアラミドナノファイバーは、繊維長/繊維径で表されるアスペクト比が好ましくは10以上1、000以下であり、より好ましくは10以上500以下であり、さらに好ましくは10以上100以下である。アスペクト比が10未満であると、繊維の交絡構造が発現しにくく、微細な編み目構造を形成しにくくなる。それゆえに期待される特性発現が困難になる場合がある。
【0020】
本発明におけるアラミドナノファイバーの比表面積は、50m2/g以上であることが好ましく、より好ましくは80m2/g以上である。比表面積の上限は、200m2/g以下であることが好ましく、より好ましくは150m2/g以下である。上記範囲よりも低い比表面積では、活物質やフッ素系樹脂との十分な接着面積が確保されず、少量での良好なバインダー特性発現に至らない。また、上記範囲よりも高い比表面積では、分散状態維持が困難になり望ましくない。
【0021】
本発明におけるアラミドナノファイバーは、全芳香族ポリアミドであり、パラ型全芳香族ポリアミドであることが好ましい 。パラ型全芳香族ポリアミドとしては、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド、ポリ-p-ベンズアミド、ポリ-p-アミドヒドラジド、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド-3,4-ジフェニルエーテルテレフタルアミドなどが好ましく、配向結晶性(紡糸溶液中で液晶構造のドメインを形成)を有するポリ-p-フェニレンテレフタルアミド繊維であることが好ましい。
【0022】
<アラミドナノファイバーの製造>
本発明で使用されるアラミドナノファイバーの製造は、例えば、パラ型全芳香族ポリアミド繊維またはパラ型全芳香族ポリアミドパルプを原料とし、当該繊維を親和性の高い溶媒中にて浸漬・膨潤し、さらに強塩基性物質を添加することで水素結合部を切断し、その結果生成することが好ましい。本発明で好ましく用いることのできるパラ型全芳香族ポリアミドは、1種または2種以上の2価の芳香族基がアミド結合により連結されたポリマーであって、芳香族基には2個以上の芳香環が存在してもよく、その芳香環は直接結合していても、酸素や硫黄を介して結合していてもよい。また、2価の芳香族基の水素原子は、ハロゲン化物、低級アルキル基、フェニル基で置換されていてもよい。また、アラミドナノファイバー生成時に使用する溶媒としては、非プロトン性極性溶媒が好ましく、具体的には、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N-メチル―2-ピロリドンなどが挙げられる。アラミドナノファイバー生成時に使用する強塩基性物質としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウムなどが挙げられる。
【0023】
本発明におけるアラミドナノファイバーの製造は、具体的には、パラ型全芳香族ポリアミド(例えば、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド)繊維またはパルプをアルカリ性に調整したジメチルスルホキシド中に浸漬することで製造することができる。
【0024】
パラ型全芳香族ポリアミド(例えば、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド)は紡糸溶液中で液晶構造のドメインを形成し、キャピラリーより吐出した後、紡糸溶媒を水洗することにより得られる。得られた繊維を前記手法により繊維を構成する液晶ドメイン間の弱い結合をアルカリ条件により切断した後、得られた繊維を相溶性の高い溶媒中に遊離させることで、高弾性かつ高強度の切断された繊維を得ることができる。次いで、得られた切断された繊維を分散溶媒である貧溶媒(水、アルコール、アセトンなど)に投入することでアラミドナノファイバーを単離することが可能である。
【0025】
なお、直径10~20μmのパラ型全芳香族ポリアミド(例えば、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド)繊維を数mmにカットし、水中で相互にせん断付与するリファイナー処理を行うことで得られるパラ型全芳香族ポリアミド(例えば、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド)パルプを得ることができる。このようなリファイナー処理では、液晶界面のせん断破壊により繊維表面より微細化した繊維は完全に分離せず分岐した状態となり、該該微細化繊維の直径は100~1000nmとなり、原料繊維の中心部の直径は数μmとなる。リファイナー処理されたパルプを上記の処理により、アラミドナノファイバー化させることもできる。
【0026】
アラミド素材のその他微細化手法としては、上述したような化学処理ではなく、機械的なせん断力を付与する手法も考えられるが、当該手法ではナノオーダーの繊維径を有するフィブリル構造が部分的に得られるにとどまる。従って、フィブリル化していないマイクロオーダーの構造体も含むことになるため、ナノオーダーでの均質な交絡構造が得られずに期待されるような物性が発現しない。本発明においては、部分的なナノ化ではなく、均質にナノ化した繊維による交絡構造の形成が好ましい。
【0027】
<パーフルオロ樹脂>
本発明におけるパーフルオロ樹脂としては、単位面積当たりの摩擦帯電電荷量(μC/m2)の絶対値が87以上120未満であることが好ましく、かつ、電荷の符号がマイナスであることが望ましい。このような摩擦帯電特性を有することで、アラミド材料と静電的な相互作用が働き、パーフルオロ樹脂が効果的に定着される。本発明におけるパーフルオロ樹脂として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリビニリデンフルオライドなどが挙げられ、特にポリテトラフルオロエチレンであることが好ましい。
【0028】
なお、本発明のパーフルオロ樹脂は繊維形状や粒子形状で混合されていても良い。本発明においてパーフルオロ樹脂由来の特性発発現をさせつつ、得られたシートの力学物性が十分確保されていることが望ましく、そのためには、パーフルオロ樹脂と他材料との相互作用が生じる箇所を多くすることが望ましい。相互作用が生じる箇所を多くするために、パーフルオロ樹脂は繊維形状でもよいが、粒子形状であることがより好ましい。パーフルオロ樹脂はせん断を付与してフィブリル化させても良い。
【0029】
パーフルオロ樹脂が粒子形状で混合される場合は、粒子径が、1μm未満であることが好ましく、0.5μm未満であることがより好ましく、0.3μm未満であることがさらに好ましい。なお、フィブリル化されたパーフルオロ樹脂の場合、せん断が付与される前の時点で粒子径が上記の範囲にあることが望ましい。粒子径が上記数値以下であるとアラミドナノファイバーへの表面定着の時間が短く、且つ定着量も十分であり好ましい。粒子径の下限は0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、さらに好ましくは0.1μmである。粒子径が微細すぎると表面定着に時間がかかる恐れや定着量が減少しすぎる可能性がある。
【0030】
なお、パーフルオロ樹脂粒子の製造方法は特に限定されないが、パーフルオロ樹脂粒子を乳化重合により作成した直径0.25μm程度の粒子を、分散剤を併用して濃縮した水分散液と懸濁重合により作成した直径数~10μm程度の粒子を分離・乾燥して得られた粉末であることが好ましい。
【0031】
なお、パーフルオロ樹脂粒子のアラミドナノファイバーへの定着はアミド結合とフッ素の電気的な吸着によるものであり、粒子径によらず定着が可能であるが、3次元に均一に分散した定着を得るという観点から、パーフルオロ樹脂粒子は前述した乳化重合によって得られたものであることが好ましい。
【0032】
なお、繊維形状で混合される場合は、他材料との相互作用が生じる箇所を多くするためにアスペクト比が50以上であり、かつ、繊維径が1μm未満にフィブリル化された繊維であることがより好ましい。上記した範囲であると、アラミドナノファイバーへの表面定着の時間が短く、且つ定着量も十分であり好ましい。
【0033】
<バインダー>
前述したように、本発明において、バインダーとしてアラミドナノファイバーとパーフルオロ樹脂と併用することが重要である。本発明は、第1成分として平均繊維径が100nm以下のアラミドナノファイバー、第2成分としてパーフルオロ樹脂をそれぞれ含み、第1成分の含有量が、第2成分の100重量部に対して、1重量部~20重量部を含有する。また、アラミドナノファイバー及びパーフルオロ樹脂は摩擦帯電特性上、両間で静電的な相互作用が働くため、力学的に強固なネットワークを形成することができる。さらに、アラミド由来の耐熱性も期待され、例えば、電池用途に使用する場合、電池の高温作動時においても、安定的に駆動することが可能となる。
【0034】
なお、バインダーとしてパーフルオロ樹脂のみを使用する場合、活物質の把持に必要な比表面積を十分確保することが困難であり好ましくない。また、パーフルオロ樹脂を繊維状にしたとしても、パーフルオロ樹脂繊維のみを使用する場合は、繊維のフィブリル進行具合によってその把持能力が変動するため、フィブリル化工程を厳密に管理する必要が生じてしまう。加えて、その構造サイズ上、導電助剤などのナノオーダーの粒径を有する粒子の把持は困難である。さらに、パーフルオロ樹脂のみを用いたバインダーでは、得られる成型体、特にシート状成形体の剛性を確保することが難しい。その結果、取り扱い性上の困難が生じる。また、シート状成型体を例えば、電極シートとして使用した場合、繰り返し充放電に伴う膨張収縮への耐久性の低さなどの課題が生じる。
【0035】
なお、バインダーとしてアラミドナノファイバーのみを使用する場合、粒径が数十μmオーダーである活物質の把持が困難であり、結果として活物質の脱落抑制が困難である。これは、アラミドナノファイバーの構造サイズが活物質対比小さいため、活物質間を結ぶ長距離ネットワークを形成しにくいからであると推察される。
【0036】
なお、本発明の複合成型体の力学剛性をさらに高める手段として、フィブリル構造を有するアラミドパルプを添加しても良い。フィブリル構造を有するアラミドパルプは、例えば、特表2014-501859号公報に記載の公知の方法によって得ることができる。具体的には、例えば、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミドの繊維を数ミリにカットし、水中に分散し、リファイナーを用いて相互にこすり合わせることでフィブリルを形成するなどの方法を用いてよい。あるいは、パラ型芳香族ポリアミド溶液を水などの貧溶媒中に噴射凝固した構造体を使用することも可能である。
【0037】
本発明におけるアラミドパルプのフィブリル構造は、部分的に繊維径が100nmを超えることが好ましく、300nm以上であることがより好ましい。なお、フィブリル構造は幹部と枝部(フィブリル部)のように構成されており、幹部または枝部のいずれかが上記した範囲を超える繊維径を有していればよい。また、平均繊維長が1000μm以下であることが好ましい。平均繊維長の下限は100μm以上、好ましくは500μm以上であることが好ましい。アラミドナノファイバーよりも大きなストラクチャーを有するアラミドパルプを添加することで、電極内の応力伝達が長距離に渡り、電極の力学特性を効果的に向上することができる。しかし、一方で、当該アラミドパルプの比表面積は、10m2/g以上40m2/gであり、アラミドナノファイバーよりも小さい値である。従って、パーフルオロ樹脂や活物質などとの接着面積は確保されにくくなる点は考慮する必要がある。
【0038】
以上を踏まえ、バインダーとしてアラミドパルプとアラミドナノファイバーとを併用してもよい。前記の組み合わせによって、活物質間を結ぶ長距離かつ強固なネットワークをパーフルオロ樹脂から発達させたフィブリルで形成しつつ、アラミドナノファイバー由来の高比表面積によるバインダー性能発現が期待される。
【0039】
<成形品>
本発明の複合成型体を用いて、シートなどの成形品や、かかる成形品を焼成した焼成成形品を得ることができる。
【0040】
<成形品の製造>
本発明の複合成型体から成形品を製造する方法について、成形シートおよび焼成シートを製造する方法の好適な一例について説明する。
【0041】
成形シートおよび焼成シートの製造方法は、例えば、
(1)アラミドナノファイバーの水分散溶液と、ポリテトラフルオロエチレン粒子の水分散溶液(ディスパーション)とを混合・撹拌し、ポリテトラフルオロエチレン粒子が、アラミドナノファイバーに定着し溶媒より分離させ、PTFE-ANF含侵複合材を得る工程と、
(2)上記含侵複合材料成形し、成形シートを得る工程と、
(3)上記成形シートを焼成し、焼成シートを得る工程とを備えている。
【0042】
成形シートを成形する際、例えば、プレス機、押出成形機、カレンダーロール等が挙げられるが、中でもカレンダーロールによる成形が生産性の点から好ましい。
また、焼成シートを焼成する際、公知の方法から適宜選択された方法にしたがって、実施することができるが、メタル-メタルであることが好ましい。なお、ポリテトラフルオロエチレンの焼成温度範囲内の温度(例えば、300~500℃)で焼結することが好ましい。
【0043】
上記した方法によって、
図6に示す成形シート、
図9に示す焼成シートを得ることができる。焼成シートは
図10、11に示すように、ポリテトラフルオロエチレン粒子(PTFE粒子)はアラミドナノファイバー(ANF)に沿って融着・一体化した繊維状集合体に形態変化し、ANFがPTFEで被覆された状態となる。
【0044】
<絶縁樹脂材料>
上記した成型体は、ANFの表面露出面積が減少し、パラアラミドの物性に起因する吸水性と比誘電率の影響が抑制され、アラミドナノファイバーによる多方向に配向した微細編み目構造を維持しつつ、低誘電率と低線膨張を両立することができるため、絶縁樹脂材料として使用することができる。
【0045】
成型体(絶縁樹脂材料)は、JISC6481:1996に規定の測定方法で測定した比誘電率が、常体およびD-48/50において、2.5以下であることが好ましく、2.3以下であることがより好ましい。下限は特に制限されず1.0以上が好ましい。
【0046】
また、成型体(絶縁樹脂材料)は、JISC6481:1996に規定の測定方法で測定した誘電正接が、常体およびD-48/50において、0.0050以下であることが好ましく、0.0030以下がより好ましい。下限は特に制限されず0.0001以上が好ましい。
【0047】
さらに、成型体(絶縁樹脂材料)は、線膨張係数が、65ppm以下が好ましく、60ppm以下がより好ましい。また、焼成成形品(焼成絶縁樹脂材料)の線膨張係数は、50ppm以下が好ましく、45ppm以下がより好ましい。下限は特に制限されず1ppm以上が好ましい。
また、成形品の水接触角は、50度以上が好ましく、60度以上がより好ましく、70度以上がさらに好ましい。
【0048】
<電極活物質>
本発明における電極活物質は、充放電によりLiなどのイオンを放出・充填することが可能である物質であり、Li金属酸化物であることが好ましく、具体的には、コバルトリチウム酸化物、マンガンリチウム酸化物、NMC(ニッケル・マンガン・コバルト)Li酸化物などが挙げられる。
【0049】
<導電性助剤>
本発明における導電性助剤は、活物質表面及び活物質粒子間に配置する導電性の物質であり、電気化学的安定性から炭素材料であることが好ましい。具体的には、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラックなど)であることが好ましく、カーボンナノチューブ(CNT)や導電性高分子(ポリアセンなど)が併用されていても良い。
【0050】
本発明における溶解性バインダーは、非水系極性溶媒に溶解可能且つ活物質で生じる電位差で分解されない物質であり、高温でも変化の少ない耐熱性ポリマーが好ましく、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリイミド、メタアラミド等が挙げられ、その中でも特にポリフッ化ビニリデン(PVdF)が好ましい。
【0051】
<電極シートおよびその製造>
本発明の複合成型体を二次電池用の電極シートとして用いる場合、電極シート100重量部に対して電極活物質を90重量部以上含むことが好ましい。
【0052】
また、アラミドナノファイバーの含有量は、電極シートを基準として0.075~0.3重量%、より望ましくは、0.1~0.2重量%であることが望ましい。前述した量よりも少ない含有量の場合は、アラミドナノファイバーによる剛性向上効果が不十分であり、かつ、他の物質を強固に把持することが困難となる。一方で、前述した量よりも多い含有量の場合は、バインダー成分のみで構成される、高伸長なサイトが多く生じるため、膨張・収縮に対する力学的な抵抗力が発現するまでに一定の変形を許容してしまう。これは、導電パスの断絶となり得るため望ましくない。
【0053】
さらに、パーフルオロ樹脂の含有量は、電極シートを基準として、1.35~2.7重量%が好ましく、1.5~2.5重量%であることがより好ましい。前述した量よりも少ない含有量の場合は、活物質を強固に把持することが困難となる。また、前述した量より含有量が多い場合は、活物質の含有量が相対的に低下する。そのため、電極として使用する場合に電池容量を十分確保することができず好ましくない。
【0054】
上記電極活物質としては、Li金属酸化物やグラファイトであることがこと好ましい。これらの電極シートは、Liイオン2次電池の正極あるいは負極に用いる電極シートとして使用することが可能である。この電極シートは、平均繊維径が100nm以下のアラミドナノファイバーと、パーフルオロ樹脂と、電極活物質とを、非水系極性溶剤を使用することなく混錬することで製造することが可能である。
【0055】
混錬方法としては、プラネタリーミキサーによる混錬や、カレンダーロールによる圧延などが挙げられる。特に、カレンダーロールによる圧延は、高強力のせん断力を均質に付与することができるため好ましい。なお、初期混錬時、無機微粒子表面を濡らす目的で、微量のアルコール(例えば、イソプロピルアルコールなど)を系中に添加しても良い。
【0056】
上記の方法により得られたシートは加熱カレンダーロール等を用いてプレス処理を行うことで、空隙を減少し高密度化し、体積当たりの活物質密度をあげ、二次電池容量を増加することは恒常的に実施される。
【0057】
また、本発明の電極シートで使用されるパーフルオロ樹脂の融点付近の温度で熱処理を実施しても良い。本発明のシートを成形する際、例えば、プレス機、押出成形機、カレンダーロール等が挙げられるが、中でもカレンダーロールによる成形が生産性の点から好ましい。
【0058】
本発明のシートをカレンダーロールにて焼成する際、公知の方法から適宜選択された方法にしたがって、実施することができるが、メタル-メタルであることが好ましい。なお、焼成温度は、パーフルオロ樹脂の焼成温度の範囲内であることが好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレンを用いる場合、ポリテトラフルオロエチレンの焼成温度範囲内の温度(例えば、300~500℃)で焼結することが好ましい。
【0059】
この処理により、パーフルオロ樹脂(ポリテトラフルオロエチレンなど)はアラミドナノファイバーに沿って融着・一体化した繊維状集合体に形態変化し、アラミドナノファイバーがパーフルオロ樹脂(ポリテトラフルオロエチレンなど)で被覆された状態となる。これにより、さらに均質なネットワーク構造が形成される。また、アラミドナノファイバーの表面露出面積が減少し、パラアラミドの物性に起因する吸水性の影響が抑制される。
【0060】
上記の製造方法により、アラミドナノファイバーとパーフルオロ樹脂によって形成されるネットワーク構造より脱落しやすい導電性助剤などの粒子の脱落を抑制し、総バインダー量の大幅な低減と耐熱性ナノファイバーによる強固なネットワークにより高温化での変形を抑制し、充放電性能に優れる電極を得ることが可能となる。
【実施例0061】
以下、実施例および比較例により、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例および比較例に制限されるものではない。なお、実施例中の各特性値は下記の方法で測定した。
【0062】
<平均繊維径>
走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、品盤:JSM-6330F)を用い、サンプルの構造を観察した。50,000倍の倍率設定で観察した画像から、横1,800nm~2,000nm、縦1,200nm~1,500nmの画像領域を選択し、当該画像領域をさらに縦に4分割、横に4分割して得られる計16箇所のグリッド領域A1-D4を定義し、各グリッド領域内に存在するサンプルを1点選択し、選択したサンプルの繊維径を画像上で計測した平均値を平均繊維径として採用した(
図2、3参照)。
【0063】
<比表面積測定>
流動式比表面積自動測定装置(株式会社島津製作所製 フローソーブ)を使用し、対象サンプルの比表面積を測定した。サンプル表面に吸着占有面積が既知のヘリウムを液体窒素温度で吸着させ、ヘリウムガスの吸着量からサンプルの比表面積を求めた。
【0064】
<比誘電率、誘電正接の測定>
JISC6481:1996に準拠して測定を行った。
測定装置:LCRメータ(ヒューレットパッカード社製、HP-4284A)
測定条件:A常態(22℃、60%RHで90時間保持)
D-48/50(50℃の水に48時間浸せき)
周波数:1MHz
【0065】
<線膨張係数の測定>
熱機械的分析装置(SIIナノテクノロジー社製、商品名:TMA/SS6100)を用いて、10℃/分にて0℃から400℃に昇温させた後、40℃/分にて10℃まで冷却し、さらに10℃/分にて10℃から200℃に昇温させて測定した。測定荷重は29.4mNとし、測定雰囲気を空気雰囲気とした。
【0066】
<水接触角の測定>
接触角計(協和界面化学社製、品番:DMO-501)を用い、作製したシートサンプル表面に水滴を滴下した際の液滴―シート表面間からなる角度のうち、液の内部側にある角度を水接触角として計測した。
【0067】
<電極シートの評価>
まず、得られた電極シートの無機粒子把持性を評価した。具体的には、作成した電極シート表面をワイピングクロス(キムワイプ)にて静かにこすり、汚れにより判定した。
○:汚れ落ちなし
△:かすかに汚れあり
×:汚れあり
次いで、得られた電極シートを幅10mm、長さ100mmの短冊状に切断し、JISP8113に準拠した試験方法にて引張強度、引張弾性率、破断伸度データを取得した。
加えて、充放電時の膨張収縮時の抵抗力を見積もるため、シートを5%伸長した際の応力も測定した。以下、各特性値の取得方法について記載する。
【0068】
<引張強度>
引張試験において、シート破断時の強力(N)をシート断面積(mm2)で除することで引張強度(MPa)を算出した。
【0069】
<引張弾性率>
引張試験において、荷伸曲線の最大傾きをグラフ上で読み取り、引張弾性率(MPa)とした。
【0070】
<シート5%伸長した際の応力>
引張試験において、荷伸曲線の伸度5%時の応力(MPa)をグラフ上で読み取った。
【0071】
以下、本発明に基づいた実施例を記載するが、この記載内容は本発明範囲を特に限定しない。
【0072】
[実施例1]
<アラミドナノファイバーの作成>
・アラミドパルプ:10g(帝人アラミド社製のトワロン(登録商標)1000を6mmのカットした繊維10gを沸騰水1000gで30分煮沸洗浄し、冷却後水洗、乾燥し得た)。
・東京化成工業株式会社 ジメチルスルホキシド(DMSO)>99% 80g、
・東京応化工業株式会社 水酸化カリウム(KOH) 10g
【0073】
上記3種をプラネタリーミキサーに投入し70℃で2時間撹拌処理を行った。撹拌後、アラミドパルプは形状がなくなり、赤色半透明の高粘度溶液を得た。
得られたナノファイバーを含む赤色半透明の溶液を3倍量のDMSOで希釈し、20リットルの水中に撹拌しながら徐々に投入し、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミドのナノファイバーを析出させた。この時、溶液は黄赤色のスラリーであり、ここに硫酸をKOH中和に必要量投入し、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミドナノファイバーをろ過により採取した。
【0074】
続いて、蒸留水またはイオン交換水を用い3~5回洗浄と延伸脱水を行い溶媒と塩を除去した。得られたポリ-p-フェニレンテレフタルアミドナノファイバー含有の水固形物を、固形分濃度1%となるように蒸留水を添加し、増幸産業株式会社製石臼式粉砕混錬機(スーパーマスコロイダー)を用いて、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミドナノファイバー分散水溶液を得た。得られたポリ-p-フェニレンテレフタルアミドナノファイバー分散液をイソプロピルアルコールで希釈しプレパラートに滴下、乾燥し、平均繊維径が20nmであることを確認した(
図1、
図2参照)。
【0075】
<電極シートの作製>
グラファイト粉(日本黒鉛社製、粒径約10μm)98.5重量部に対し、アラミドナノファイバー0.075重量部、PTFE粒子(AGC社製、品番:AD911E)1.425重量部の比率でそれぞれ添加し、撹拌した。撹拌後しばらくして混合物にまとまりが見られ、アラミドナノファイバー添加時に副次的に添加した水分が滲みでる状態が観察されたことから、アラミドナノファイバーとPTFEとが定着したと判断した。その後、この混合物を常温の金属ロールカレンダーに入れ、圧延しながらシート状に成型した。結果を表1に示す。
【0076】
[実施例2]
グラファイト粉(日本黒鉛社製、粒径約10μm)98.5重量部に対し、アラミドナノファイバー0.15重量部、PTFE粒子(AGC社製、品番:AD911E)1.35重量部の比率でそれぞれ添加した以外は、実施例1と同様の方法で電極シートを作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0077】
[実施例3]
グラファイト粉(日本黒鉛社製、粒径約10μm)97重量部に対し、アラミドナノファイバー0.15重量部、PTFE粒子(AGC社製、品番:AD911E)2.85重量部の比率でそれぞれ添加した以外は、実施例1と同様の方法で電極シートを作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0078】
[実施例4]
グラファイト粉(日本黒鉛社製、粒径約10μm)97重量部に対し、アラミドナノファイバー0.3重量部、PTFE粒子(AGC社製、品番:AD911E)2.7重量部の比率でそれぞれ添加した以外は、実施例1と同様の方法で電極シートを作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0079】
[実施例5]
ニッケル・コバルト・マンガン酸化物であるNCM523(Beijing Easpring Material Technology co.,LTD.製、粒径約11μm)93重量部に対し、アセチレンブラック(デンカ社製、品番:デンカブラックLi-100 一次粒子径約35nm)4重量部、アラミドナノファイバー0.15重量部、PTFE粒子(AGC社製、品番:AD911E)2.85重量部の比率でそれぞれ添加した以外は、実施例1と同様の方法で電極シートを作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0080】
[実施例6]
ニッケル・コバルト・マンガン酸化物であるNCM523(Beijing Easpring Material Technology co.,LTD.製、粒径約11μm)93重量部に対し、アセチレンブラック(デンカ社製、品番:デンカブラックLi-100 一次粒子径約35nm)4重量部、アラミドナノファイバー0.3重量部、PTFE粒子(AGC社製、品番:AD911E)2.7重量部の比率でそれぞれ添加した以外は、実施例1と同様の方法で電極シートを作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0081】
[比較例1]
グラファイト粉(日本黒鉛社製、粒径約10μm)98.5重量部に対し、PTFE粒子(AGC社製、品番:AD911E)1.5重量部の比率で添加し、アラミドナノファイバーは添加しない以外は、実施例1と同様の方法で電極シートを作製した。当該シートの無機粒子把持性はアラミドナノファイバーを使用した実施例1~6と比較してやや劣り、PTFEのみでは十分な把持機能を発現させることが困難だと判断した。また、当該電極の引張試験では、引張弾性率、強度ともにアラミドナノファイバー系と比較して低く、力学特性上も不足があると考えた。結果を表1に示す。
【0082】
[比較例2]
グラファイト粉(日本黒鉛社製、粒径約10μm)97重量部に対し、PTFE粒子(AGC社製、品番:AD911E)3.0重量部の比率で添加し、アラミドナノファイバーは添加しない以外は、実施例1と同様の方法で電極シートを作製した。当該シートの無機粒子把持性はアラミドナノファイバーを使用した実施例1~6と比較してやや劣り、PTFEのみでは十分な把持機能を発現させることが困難だと判断した。また、当該電極の引張試験では、引張弾性率、強度ともにアラミドナノファイバー系と比較して低く、力学特性上も不足があると考えた。結果を表1に示す。
【0083】
[比較例3]
ニッケル・コバルト・マンガン酸化物であるNCM523(Beijing Easpring Material Technology co.,LTD.製、粒径約11μm)93重量部に対し、アセチレンブラック(デンカ社製、品番:デンカブラックLi-100 一次粒子径約35nm)4重量部、PTFE粒子(AGC社製、品番:AD911E)3重量部の比率でそれぞれ添加した以外は、実施例1と同様の方法で電極シートを作製した。当該シートの無機粒子把持性はアラミドナノファイバーを使用した実施例1―6と比較して劣り、PTFEのみでは十分な把持機能を発現させることが困難だと判断した。結果を表1に示す。
【0084】
[比較例4]
グラファイト粉(日本黒鉛社製、粒径約10μm)98.5重量部に対し、アラミドパルプ(帝人製、タイプ1094)0.15重量部、PTFE粒子(AGC社製、品番:AD911E)1.35重量部の比率で添加し、アラミドナノファイバーは添加しない以外は、実施例1と同様の方法で電極シートを作製した。この組成では、PTFE粒子の浮遊が見られた。これは、アラミドパルプの比表面積がアラミドナノファイバー対比で小さく、PTFE粒子の定着が不十分だったと考えられる。結果を表1に示す。
【0085】
[比較例5]
グラファイト粉(日本黒鉛社製、粒径約10μm)97重量部に対し、アラミドパルプ(帝人製、タイプ1094)0.3重量部、PTFE粒子(AGC社製、品番:AD911E)、2.7重量部の比率で添加し、アラミドナノファイバーは添加しない以外は、実施例1と同様の方法で電極シートを作製した。この組成では、PTFE粒子の浮遊が見られた。これは、アラミドパルプの比表面積がアラミドナノファイバー対比で小さく、PTFE粒子の定着が不十分だったと考えられる。結果を表1に示す。
【0086】
[比較例6]
グラファイト粉(日本黒鉛社製、粒径約10μm)98.5重量部に対し、セルロースナノファイバー(中越パルプ社製)0.15重量部、PTFE粒子(AGC社製、品番:AD911E)1.35重量部の比率で添加し、アラミドナノファイバーは添加しない以外は、実施例1と同様の方法で電極シートを作製した。この組成では、PTFE粒子の浮遊が見られた。これは、セルロースとPTFEとの間に作用する静電的な相互作用が小さいため、PTFEの遅着が十分進行しなかったためと考えられる。結果を表1に示す。
【0087】
[比較例7]
グラファイト粉(日本黒鉛社製、粒径約10μm)97重量部に対し、セルロースナノファイバー(中越パルプ社製)0.3重量部、PTFE粒子(AGC社製、品番:AD911E)2.7重量部の比率で添加し、アラミドナノファイバーは添加しない以外は、実施例1と同様の方法で電極シートを作製した。この組成では、PTFE粒子の浮遊が見られた。これは、セルロースとPTFEとの間に作用する静電的な相互作用が小さいため、PTFEの定着が十分進行しなかったためと考えられる。結果を表1に示す。
【0088】
【0089】
[実施例7]
<アラミドナノファイバーの作成>
実施例1と同様にしてアラミドナノファイバーを作成した。
【0090】
<成形シートの作成>
ポリテトラフルオロエチレン粒子ディスパーション(直径0.25μm AGC製AD911)に混合が容易な、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミドナノファイバー水分散溶液(濃度1w%)をPTFE:ANFを100:10(重量部)の比率で混合・撹拌すると、
図4に示す通り、PTFEとANFが定着し溶媒より分離する。この固形分を取り出した後、水で数回洗浄した後、ポリプロピレン不織布シートで挟み軽く水を絞り、PTFE-ANFの含水複合材を得た。(
図5)
【0091】
得られたPTFE-ANF含水複合材を濾紙で挟んで抄紙用などに使用されるプレス脱水機(熊谷理機工業社製)でさらにプレス脱水し、次いでメタル-メタルカレンダーを用い、線圧100kg/cm、温度100℃、速度1m/分でシート化を行い
図6に示すような成形シートを作製し評価した。結果を表2に示す。
【0092】
得られた成形シートは、PTFEディスパーションに含まれる界面活性剤が、ほぼ洗浄除去されているが、アラミドナノファイバーの親水性と微量の界面活性剤残差の影響があるため接触角は約70°であった。
図7、8に示すように、表面および断面のSEM観察ではPTFE粒子がANFによって定着・捕集され凝集していることが確認された。
【0093】
[実施例8]
<成形シートの作成>
PTFE:ANFを100:2(重量部)の比率とした以外は実施例7同様の手順で成形シートを作製し評価した。結果を表2に示す。
【0094】
[実施例9]
<焼結シートの作成>
実施例7で得られた成形シートを空気雰囲気化で400℃、1時間処理を行い
図9に示す焼結シートを作製し評価した。結果を表2に示す。
熱処理によって
図10に示すようにPTFE粒子はANFに沿って融着・一体化した繊維状集合体に形態変化をした。
その結果、表面へのANFは減少(PTFEディスパーションに含まれる界面活性剤の失活)により撥水性が向上し、水の接触角は約110°となった。このことから、ANFへの水の影響は極めて限定的であることが確認された。
【0095】
[実施例10]
<焼結シートの作成>
実施例9と同様にして実施例8の成形シートを空気雰囲気化で400℃、1時間処理し焼結シートを作製し評価した。結果を表2に示す。
【0096】
[比較例8]
<成形シートの作成>
ポリテトラフルオロエチレン粒子ディスパーション(直径0.25μm AGC製AD911)単独のキャスト膜を作製し評価した。結果を表2に示す。
【0097】
[比較例9]
<成形シートの作成>
比較例8で得られたシートを空気雰囲気化で400℃、1時間処理し焼結シートを作製し評価した。結果を表2に示す。
【0098】
本発明の複合成型体は、好適な力学特性及び他素材のバインダー機能を確保でき、また、高比表面積のアラミドナノファイバーを用いることで、全バインダー成分におけるパーフルオロ樹脂の比率を高められ、パーフルオロ樹脂由来の特性を効率的に発現させることができるため、二次電池用の電極シートとして有効に機能すると期待される。