(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122031
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】タイヤの減圧検出装置
(51)【国際特許分類】
B60C 23/06 20060101AFI20240902BHJP
【FI】
B60C23/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029334
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100210251
【弁理士】
【氏名又は名称】大古場 ゆう子
(72)【発明者】
【氏名】瀬古口 和規
(72)【発明者】
【氏名】益田 英尚
(57)【要約】
【課題】外気温の影響を補正し、タイヤの減圧を適切に検出することができる装置を提供する。
【解決手段】タイヤの減圧検出装置は、速度取得部と、外気温取得部と、減圧指標算出部と、補正部と、減圧判定部とを備える。速度取得部は、車両に装着された複数のタイヤの回転速度を取得する。外気温取得部は、車両の外部温度を取得する。減圧指標算出部は、回転速度に基づいて、複数のタイヤの回転速度を比較する指標である、少なくとも1つの減圧指標を算出する。補正部は、外部温度及び減圧指標に基づいて、外部温度の影響が補正された補正後減圧指標を算出する、または外部温度及び減圧を検出するために減圧指標に対して予め定められた減圧閾値に基づいて、外部温度の影響が補正された補正後減圧閾値を算出する。減圧判定部は、補正後減圧指標または補正後減圧閾値に基づいて、複数のタイヤのうち少なくとも1つが減圧しているか否かを判定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に装着された複数のタイヤの回転速度を取得する速度取得部と、
前記車両の外部温度を取得する外気温取得部と、
前記回転速度に基づいて、前記複数のタイヤの回転速度を比較する指標である、少なくとも1つの減圧指標を算出する減圧指標算出部と、
前記取得された外部温度及び前記算出された減圧指標に基づいて、前記外部温度の影響が補正された補正後減圧指標を算出する、または前記取得された外部温度及び減圧を検出するために前記減圧指標に対して予め定められた減圧閾値に基づいて、前記外部温度の影響が補正された補正後減圧閾値を算出する補正部と、
前記補正後減圧指標及び前記予め定められた減圧閾値に基づいて、前記複数のタイヤのうち少なくとも1つが減圧しているか否かを判定する、または前記算出された減圧指標及び前記補正後減圧閾値に基づいて、前記複数のタイヤのうち少なくとも1つが減圧しているか否かを判定する減圧判定部と
を備える、
タイヤの減圧検出装置。
【請求項2】
前記補正部は、基準となる基準外部温度の条件下における前記タイヤの減圧率と前記減圧指標との関係を表す係数に基づき、前記取得された外部温度の条件下における前記関係を表す係数を特定する、
請求項1に記載のタイヤの減圧検出装置。
【請求項3】
前記タイヤの減圧率と前記減圧指標との関係を表す前記係数は、前記減圧指標を目的変数とし、前記タイヤの減圧率を説明変数とする直線の傾きである、
請求項2に記載のタイヤの減圧検出装置。
【請求項4】
前記補正部は、前記基準外部温度の条件下における前記傾きと、前記取得された外部温度の条件下における前記傾きとの比に基づいて、前記補正後減圧指標を算出する、
請求項3に記載のタイヤの減圧検出装置。
【請求項5】
前記減圧判定部が、前記少なくとも1つのタイヤが減圧していると判定した場合に、減圧警報を生成する減圧警報部
をさらに備える、
請求項1または2に記載のタイヤの減圧検出装置。
【請求項6】
1または複数のコンピュータにより実行されるタイヤの減圧検出方法であって、
車両に装着された複数のタイヤの回転速度を取得することと、
前記車両の外部温度を取得することと、
前記回転速度に基づいて、前記複数のタイヤの回転速度を比較する指標である、少なくとも1つの減圧指標を算出することと、
前記取得された外部温度及び前記算出された減圧指標に基づいて、前記外部温度の影響が補正された補正後減圧指標を算出する、または前記取得された外部温度及び減圧を検出するために前記減圧指標に対して予め定められた減圧閾値に基づいて、前記外部温度の影響が補正された補正後減圧閾値を算出することと、
前記補正後減圧指標及び前記予め定められた減圧閾値に基づいて、前記複数のタイヤのうち少なくとも1つが減圧しているか否かを判定する、または前記算出された減圧指標及び前記補正後減圧閾値に基づいて、前記複数のタイヤのうち少なくとも1つが減圧しているか否かを判定することと
を含む、
タイヤの減圧検出方法。
【請求項7】
車両に装着された複数のタイヤの回転速度を取得することと、
前記車両の外部温度を取得することと、
前記回転速度に基づいて、前記複数のタイヤの回転速度を比較する指標である、少なくとも1つの減圧指標を算出することと、
前記取得された外部温度及び前記算出された減圧指標に基づいて、前記外部温度の影響が補正された補正後減圧指標を算出する、または前記取得された外部温度及び減圧を検出するために前記減圧指標に対して予め定められた減圧閾値に基づいて、前記外部温度の影響が補正された補正後減圧閾値を算出することと、
前記補正後減圧指標及び前記予め定められた減圧閾値に基づいて、前記複数のタイヤのうち少なくとも1つが減圧しているか否かを判定する、または前記算出された減圧指標及び前記補正後減圧閾値に基づいて、前記複数のタイヤのうち少なくとも1つが減圧しているか否かを判定することと
を1または複数のコンピュータに実行させる、
タイヤの減圧検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪に装着されるタイヤの減圧検出装置、減圧検出方法及び減圧検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両を快適に走行させるためには、タイヤの空気圧が調整されていることが重要である。空気圧が適正値を下回ると、乗り心地や燃費が悪くなるという問題が生じ得るからである。このため、従来、タイヤの減圧を自動的に検出するシステム(Tire Pressure Monitoring System;TPMS)が研究されている。タイヤが減圧しているという情報は、例えば、運転者への警報に用いることができる。
【0003】
タイヤの減圧を検出する方式には、タイヤに圧力センサを取り付ける等して、タイヤの空気圧を直接的に計測する方式の他、他の指標を用いてタイヤの減圧を間接的に評価する方式がある。このような方式では動荷重半径(Dynamic Loaded Radius;DLR)方式等が知られている。DLR方式は、減圧タイヤは走行時につぶれることで動荷重半径が小さくなり、より高速に回転するようになるという現象を利用するものであり、タイヤの回転速度からタイヤの減圧を推定する(特許文献1等)。
【0004】
特許文献1は、DLR方式を用いた補正装置を開示しており、DLR方式において減圧を評価するための減圧指標として、DEL1~DEL3と呼ばれる3つの指標について言及している。特許文献1では、DEL1~DEL3は、以下のように定義されている。ただし、V1~V4は、それぞれ左前輪、右前輪、左後輪、右後輪タイヤの回転速度である。
DEL1=[(V1+V4)/(V2+V3)-1]×100(%)
DEL2=[(V1+V2)/(V3+V4)-1]×100(%)
DEL3=[(V1+V3)/(V2+V4)-1]×100(%)
【0005】
タイヤが減圧すると、回転速度が増加するため、DEL1~DEL3のような減圧指標も変化する。従って、検出目標となる減圧率だけ減圧したときの減圧指標値を閾値(減圧閾値)として設定しておくことで、減圧の検出が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記減圧閾値は、車両の試験走行により取得されたデータに基づいて定められることが多い。しかしながら、本発明者らの検討によれば、タイヤの減圧率(%)と、そのときに上記減圧指標が取る減圧指標値との対応関係は、外気温(つまり、車両の外部温度)の影響を受けて変化する。すなわち、上記減圧閾値は、ある外部温度の条件下で算出された減圧指標値により定められるが、タイヤの減圧検出を行う際の外部温度は様々であり得る。このため、減圧検出を行う際の外部温度によっては、予め定められた減圧閾値が必ずしも所定の減圧率と対応せず、減圧を適切に検出できないおそれがある。特許文献1では、この点が考慮されていない。
【0008】
本発明は、外気温の影響を補正し、タイヤの減圧を適切に検出することができるタイヤの減圧検出装置、減圧検出方法及び減圧検出プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1観点に係るタイヤの減圧検出装置は、速度取得部と、外気温取得部と、減圧指標算出部と、補正部と、減圧判定部とを備える。速度取得部は、車両に装着された複数のタイヤの回転速度を取得する。外気温取得部は、前記車両の外部温度を取得する。減圧指標算出部は、前記回転速度に基づいて、前記複数のタイヤの回転速度を比較する指標である、少なくとも1つの減圧指標を算出する。補正部は、前記取得された外部温度及び前記算出された減圧指標に基づいて、前記外部温度の影響が補正された補正後減圧指標を算出する、または前記取得された外部温度及び減圧を検出するために前記減圧指標に対して予め定められた減圧閾値に基づいて、前記外部温度の影響が補正された補正後減圧閾値を算出する。減圧判定部は、前記補正後減圧指標及び前記予め定められた減圧閾値に基づいて、前記複数のタイヤのうち少なくとも1つが減圧しているか否かを判定する、または前記算出された減圧指標及び前記補正後減圧閾値に基づいて、前記複数のタイヤのうち少なくとも1つが減圧しているか否かを判定する。
【0010】
第2観点に係るタイヤの減圧検出装置は、第1観点に係る減圧検出装置であって、前記補正部は、基準となる基準外部温度の条件下における前記タイヤの減圧率と前記減圧指標との関係を表す係数に基づき、前記取得された外部温度の条件下における前記関係を表す係数を特定する。
【0011】
第3観点に係るタイヤの減圧検出装置は、第1観点または第2観点に係る減圧検出装置であって、前記タイヤの減圧率と前記減圧指標との関係を表す前記係数は、前記減圧指標を目的変数とし、前記タイヤの減圧率を説明変数とする直線の傾きである。
【0012】
第4観点に係るタイヤの減圧検出装置は、第3観点に係る減圧検出装置であって、前記補正部は、前記基準外部温度の条件下における前記傾きと、前記取得された外部温度の条件下における前記傾きとの比に基づいて、前記補正後減圧指標または前記補正後減圧閾値を算出する。
【0013】
第5観点に係るタイヤの減圧検出装置は、第1観点から第4観点のいずれかに係る減圧検出装置であって、前記減圧判定部が、前記少なくとも1つのタイヤが減圧していると判定した場合に、減圧警報を生成する減圧警報部をさらに備える。
【0014】
第6観点に係るタイヤの減圧検出方法は、1または複数のコンピュータにより実行されるタイヤの減圧検出方法であって、以下のことを含む。また、第7観点に係るタイヤの減圧検出プログラムは、以下のことを1または複数のコンピュータに実行させる。
(1)車両に装着された複数のタイヤの回転速度を取得すること
(2)前記車両の外部温度を取得すること
(3)前記回転速度に基づいて、前記複数のタイヤの回転速度を比較する指標である、少なくとも1つの減圧指標を算出すること
(4)前記取得された外部温度及び前記算出された減圧指標に基づいて、前記外部温度の影響が補正された補正後減圧指標を算出する、または前記取得された外部温度及び減圧を検出するために前記減圧指標に対して予め定められた減圧閾値に基づいて、前記外部温度の影響が補正された補正後減圧閾値を算出すること
(5)前記補正後減圧指標及び前記予め定められた減圧閾値に基づいて、前記複数のタイヤのうち少なくとも1つが減圧しているか否かを判定する、または前記算出された減圧指標及び前記補正後減圧閾値に基づいて、前記複数のタイヤのうち少なくとも1つが減圧しているか否かを判定すること
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、外気温が減圧指標に与える影響を補正することで、タイヤの減圧を適切に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る減圧検出装置が車両に搭載された様子を示す模式図。
【
図2】減圧検出装置の電気的構成を示すブロック図。
【
図4】減圧指標のプロット平面における領域と減圧位置との対応を説明する図。
【
図5】減圧指標のプロット平面における領域と減圧位置との対応を説明する図。
【
図7】減圧率と減圧指標との関係の温度依存性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る減圧検出装置、減圧検出方法及び減圧検出プログラムについて説明する。
【0018】
<1.減圧検出装置の構成>
図1は、本実施形態に係る減圧検出装置2が車両1に搭載された様子を示す模式図である。車両1は、四輪車両であり、左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL及び右後輪RRを備えている。減圧検出装置2は、これらの車輪に取り付けられたタイヤT
FL,T
FR,T
RL,T
RRのうち少なくとも1輪の減圧を検出する機能を備えており、タイヤT
FL,T
FR,T
RL,T
RRの減圧が検出されると、車両1に搭載されている警報表示器3を介してその旨の警報を行う。このような減圧検出処理の流れの詳細については、後述する。
【0019】
タイヤTFL,TFR,TRL,TRRの減圧状態は、左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL及び右後輪RRの車輪速(タイヤTFL,TFR,TRL,TRRの回転速度)に基づいて検出される。左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL及び右後輪RRには、各々、車輪速センサ6が取り付けられており、車輪速センサ6は、各々、自身の取り付けられた車輪の車輪速を表す信号(タイヤTFL,TFR,TRL,TRRの回転速度を表すため、以下、回転速度信号ということがある)を検出する。車輪速センサ6は、減圧検出装置2に通信線5を介して接続されている。車輪速センサ6で検出された回転速度信号は、通信線5を介してリアルタイムに減圧検出装置2に送信される。
【0020】
車輪速センサ6としては、走行中の車輪FL,FR,RL,RRの車輪速を検出できるものであれば、どのようなものでも用いることができる。例えば、電磁ピックアップの出力信号から車輪速を測定するタイプのセンサを用いることもできるし、ダイナモのように回転を利用して発電を行い、このときの電圧から車輪速を測定するタイプのセンサを用いることもできる。車輪速センサ6の取り付け位置も、特に限定されず、車輪速の検出が可能である限り、センサの種類に応じて、適宜、選択することができる。
【0021】
また、本実施形態に係る車両1には、外気温センサ7も取り付けられている。外気温センサ7は、車両1の外部環境の気温(外部温度)を検出する温度センサであり、減圧検出装置2に通信線5を介して接続されている。外気温センサ7で検出された外部温度は、通信線5を介してリアルタイムに減圧検出装置2に送信される。
【0022】
外気温センサ7としては、走行中の車両1の外部温度を検出できるものであれば、どのようなものでも用いることができる。外気温センサ7の取り付け位置は、車両1において、エンジンやモーター等の発熱の影響を受けない場所であれば、特に限定されない。
【0023】
図2は、減圧検出装置2の電気的構成を示すブロック図である。減圧検出装置2は、ハードウェアとしては、車両1に搭載されている制御ユニット(車載コンピュータ)であり、
図2に示されるとおり、I/Oインタフェース11、CPU12、ROM13、RAM14、及び不揮発性で書き換え可能な記憶装置15を備えている。I/Oインタフェース11は、車輪速センサ6、外気温センサ7及び警報表示器3等の外部装置との通信を実現する通信装置である。ROM13には、車両1の各部の動作を制御するためのプログラム9が格納されている。プログラム9は、CD-ROM等の記憶媒体8からROM13へと書き込まれる。CPU12は、ROM13からプログラム9を読み出して実行することにより、仮想的に速度取得部20、外気温取得部21、減圧指標算出部22、補正部23、減圧判定部24及び減圧警報部25として動作する。各部20~25の動作の詳細は、後述する。記憶装置15は、ハードディスクやフラッシュメモリ等で構成される。なお、プログラム9の格納場所は、ROM13ではなく、記憶装置15であってもよい。RAM14及び記憶装置15は、CPU12の演算に適宜使用される。
【0024】
警報表示器3は、タイヤの減圧が起きている旨をユーザに伝えることができる限り、例えば、液晶表示素子や液晶モニター等、任意の態様で実現することができる。警報表示器3の取り付け位置も、適宜選択することができるが、例えば、インストルメントパネル上等、ドライバーに分かりやすい位置に設けることが好ましい。制御ユニット(減圧検出装置2)がカーナビゲーションシステムに接続される場合には、カーナビゲーション用のモニターを警報表示器3として使用することも可能である。警報表示器3としてモニターが使用される場合、警報はモニター上に表示されるアイコンや文字情報とすることができる。
【0025】
<2.減圧検出処理>
以下、
図3を参照しつつ、タイヤT
FL,T
FR,T
RL,T
RRの少なくとも1つの減圧を検出するための減圧検出処理について説明する。
図3に示す減圧検出処理は、動荷重半径(DLR)方式を利用するものであり、少なくとも1つの減圧指標と、この減圧指標に対し、予め定められた減圧閾値とを用いて少なくとも1つのタイヤの減圧を検出する。
図3に示す減圧検出処理は、例えば、車両1の走行が開始したときに開始し、走行が停止したときに終了する。
【0026】
まず、速度取得部20が、車輪FL,FR,RL,RRに取り付けられた各車輪速センサ6から回転速度信号を取得する。速度取得部20は、取得した回転速度信号を、それぞれタイヤTFL,TFR,TRL,TRRの回転速度V1~V4に換算する(ステップS1)。速度取得部20は、換算された回転速度V1~V4をRAM14または記憶装置15に保存する。
【0027】
続いて、外気温取得部21が、外気温センサ7からの信号を受信し、車両1の外部温度Tを取得する(ステップS2)。外気温取得部21は、取得した外部温度Tを、同時刻または概ね同時刻に取得された回転速度信号から換算された回転速度V1~V4と関連付けて、RAM14または記憶装置15に保存する。
【0028】
続いて、減圧指標算出部22が、回転速度V1~V4に基づき、減圧指標を算出する(ステップS3)。本実施形態の減圧指標は、以下の式(1)~(3)で定義されるように、各タイヤの回転速度を比較する指標DEL1~DEL3である。
DEL1=[(V1+V4)/(V2+V3)-1]×100(%) (1)
DEL2=[(V1+V2)/(V3+V4)-1]×100(%) (2)
DEL3=[(V1+V3)/(V2+V4)-1]×100(%) (3)
【0029】
上式の通り、本実施形態の減圧指標DEL1は、タイヤTFLとタイヤTRRとのペア及びタイヤTFRとタイヤTRLとのペアで回転速度の平均を比較する指標であり、DEL2は、タイヤTFLとタイヤTFRとのペア及びタイヤTRLとタイヤTRRとのペアで回転速度の平均を比較する指標であり、DEL3は、タイヤTFLとタイヤTRLとのペア及びタイヤTFRとタイヤTRRとのペアで回転速度の平均を比較する指標である。つまり、DEL1は車両1の対角に位置するタイヤのペア同士で回転速度の平均を比較する指標であり、DEL2は車両の前後に位置するタイヤのペア同士で回転速度の平均を比較する指標であり、DEL3は車両の左右に位置するタイヤのペア同士で回転速度の平均を比較する指標である。
【0030】
減圧指標DEL1~DEL3は、全ての車輪のタイヤに減圧が生じていない場合でも、0ではない、固有の値を取り得る。これは、タイヤTFL,TFR,TRL,TRRの個体差や、車両1に固有の荷重分布等に由来する。従って、本実施形態では、減圧指標DEL1~DEL3の絶対値が、それぞれ基準とする基準指標DEL1(R)~DEL3(R)からどれだけ乖離したかを表す指標DEL1(J)~DEL3(J)に基づいて、タイヤの減圧が検出される。基準指標DEL1(R)~DEL3(R)は、例えばタイヤTFL,TFR,TRL,TRRがいずれも正規内圧であり、車両1に標準的な体重のドライバー1名が乗車している条件下における減圧指標DEL1~DEL3の値とすることができる。基準指標DEL1(R)~DEL3(R)は、それぞれ予め特定され、ROM13または記憶装置15に予め保存される。
【0031】
減圧指標算出部22は、基準指標DEL1(R)~DEL3(R)に基づき、以下の式に従って、指標DEL1(J)~DEL3(J)をそれぞれ算出する(ステップS4)。以下、指標DEL1(J)~DEL3(J)も「減圧指標」と称する。
DEL1(J)=DEL1-DEL1(R)
DEL2(J)=DEL2-DEL2(R)
DEL3(J)=DEL3-DEL3(R)
【0032】
続いて、減圧指標算出部22が、DEL1(J)~DEL3(J)の値に基づき、可能性がある減圧パターンを特定する(ステップS5)。この処理は、減圧している可能性があるタイヤの数及び車輪位置の組み合わせパターンを特定するものであり、減圧が発生しているか否かの判定とは異なる。減圧指標算出部22は、DEL1(J)~DEL3(J)の値について、それぞれ、正の閾値よりも大きい値であるか(+)、0付近の値であるか(0)、負の閾値よりも小さい値であるか(-)、を判定し、これら判定の組み合わせにより、可能性があるタイヤの減圧パターンを特定する。表1に示すように、DEL1(J)~DEL3(J)に対する判定の組み合わせは、14通りの減圧パターンに対応する。なお、ここでの閾値は、DEL1(J)~DEL3(J)の符号を判定するための便宜的な閾値であり、後述する減圧閾値とは関係なく定められる。また、DEL1(J)~DEL3(J)がいずれも0付近の値であると減圧指標算出部22により判定される場合、減圧が生じている可能性は低いと推定されるため、表1に示す減圧パターンには該当せず、再度ステップS1からの処理が実行される。
【表1】
【0033】
次に、補正部23が、ステップS5で特定された減圧パターンに応じ、減圧指標DEL1(J)~DEL3(J)のうち、補正すべき減圧指標を特定する(ステップS6)。ステップS5のような減圧パターンが予め特定されていれば、当該パターンの減圧が生じているか否かの判定は、外部温度の影響が補正された補正後減圧指標DEL1´(J)~DEL3´(J)のいずれかと、予め定められた減圧閾値とを比較することにより実行することができる。具体的には、ステップS5で特定された1~14のパターンに応じて、同パターンの減圧が生じているか否かを判定する補正後減圧指標と、補正後減圧指標に対する減圧閾値との組み合わせが、以下の表2に示すように予め定められる。後述する減圧判定では、表2に従って特定された補正後減圧指標が算出され、これと、補正後減圧指標に対応する減圧閾値とに基づいて、1~14のパターンに応じた減圧が生じているか否かが判定される。
【表2】
【0034】
以下、減圧パターンに応じて補正後減圧指標と減圧閾値との組み合わせが定められる理由、及び補正後減圧指標の算出方法について説明する。まず、DEL1(J)を第1軸、DEL3(J)を第2軸とするプロット平面を定義すると、{DEL1(J),DEL3(J)}のプロット点は、減圧したタイヤの位置に対応して、同プロット平面の第1象限~第4象限に分布する。第1象限は、タイヤT
FLの減圧を含む減圧パターンに対応し、第2象限は、タイヤT
RLの減圧を含む減圧パターンに対応し、第3象限は、タイヤT
FRの減圧を含む減圧パターンに対応し、第4象限は、タイヤT
RRの減圧を含む減圧パターンに対応する(
図4参照)。より詳細には、上記プロット平面は、一輪減圧のパターン(表1の1~4)及び二輪減圧のパターン(表1の6~8)にそれぞれ対応する、
図5の領域R1~R8に分割される。領域R1~R8は、それぞれ原点を通る直線L1~L4によって区画される領域である。
【0035】
ただし、タイヤTFL及びタイヤTFRが同程度減圧したパターン(表1の5)、ならびにタイヤTRL及びタイヤTRRが同程度減圧したパターン(表1の10)のプロット点は、上記プロット平面の原点付近に分布し、減圧がない場合との区別ができない。このため、さらにDEL2(J)を第3軸とするプロット空間を定義すると、第3軸の+側がタイヤTFL及びタイヤTFRの二輪減圧に対応し、第3軸の-側がタイヤTRL及びタイヤTRRの二輪減圧に対応する。つまり、DEL2(J)の値により、前輪タイヤの減圧、後輪タイヤの減圧、及び減圧がない場合がさらに区別される。また、三輪のタイヤが同程度に減圧したパターン(表1の11~14)は、上記プロット平面上では、それぞれ領域R3、R1、R7、R5に対応する。これらの領域は、一輪減圧(表1の3,1,4,2)に対応する領域でもあるが、DEL2(J)の符号の相違により、プロット空間内では一輪減圧と三輪減圧とを区別することができる。
【0036】
そして、所定の減圧率R0(%)を検出目標とすれば、タイヤ一輪がR0(%)減圧した時のDEL1(J)の絶対値であるabs{DEL1(J)}に基づき、abs{DEL1(J)}に対する一輪減圧検出用の減圧閾値Th10を定めることができる。同様に、タイヤTFL及びタイヤTRRの二輪、またはタイヤTFR及びタイヤTRLの二輪がともにR0(%)減圧した時のDEL1(J)のabs{DEL1(J)}に基づき、abs{DEL1(J)}に対する二輪減圧検出用(表1の7,8)の減圧閾値Th11を定めることができる。タイヤTFL及びタイヤTRRの二輪の減圧率がともにRであるとき、またはタイヤTFR及びタイヤTRLの二輪の減圧率がともにRであるときのDEL1(J)の絶対値であるabs{DEL1(J)}は、タイヤ一輪の減圧率(%)がRであるときのabs{DEL1(J)}の約2倍となる。なお、タイヤTRLまたはタイヤTFRがR(%)減圧したときのabs{DEL1(J)}は、タイヤTFLまたはタイヤTRRがR(%)減圧したときのabs{DEL1(J)}とは、厳密には異なる値となり得る。しかしながら、これらの値の差は極めて微小であり、実用上、減圧検出に及ぼす影響を無視できる程度であるため、一輪減圧の検出には、一律に減圧閾値Th10を適用することができる。二輪減圧検出用の減圧閾値Th11についても、同様のことが言える。
【0037】
さらに、タイヤ三輪の減圧率が全てRであるときのabs{DEL1(J)}は、タイヤ一輪の減圧率がRであるときのabs{DEL1(J)}と近い値になる。このため、減圧閾値Th10は、三輪減圧検出用の減圧閾値を兼ねるように定めることができる。
【0038】
同様に、タイヤTFL及びタイヤTFRの二輪がともにR0(%)減圧した時、またはタイヤTRL及びタイヤTRRの二輪がともにR0(%)減圧した時のDEL2(J)の絶対値(abs{DEL2(J)})に基づき、abs{DEL2(J)}に対する二輪減圧検出用(表1の5,10)の減圧閾値Th21を定めることができる。なお、タイヤTFL及びタイヤTFRがともにR(%)減圧したときのabs{DEL2(J)}は、タイヤTRL及びタイヤTRRがR(%)減圧したときのabs{DEL2(J)}とは、厳密には異なる値となり得る。しかし、これらの値の差は無視できる程度に極めて微小であるため、表1の5,10の減圧パターンの双方に対し、一律に減圧閾値Th21を適用することができる。
【0039】
同様に、タイヤTFL及びタイヤTRLの二輪がともにR0(%)減圧した時、またはタイヤTFR及びタイヤTRRの二輪がともにR0(%)減圧した時のDEL3(J)の絶対値(abs{DEL3(J)})に基づき、abs{DEL3(J)}に対する二輪減圧検出用(表1の6,9)の減圧閾値Th31を定めることができる。なお、タイヤTFL及びタイヤTRLがともにR(%)減圧したときのabs{DEL3(J)}は、タイヤTFR及びタイヤTRRがR(%)減圧したときのabs{DEL3(J)}とは、厳密には異なる値となり得る。しかし、これらの値の差は無視できる程度に極めて微小であるため、表1の6,9の減圧パターンの双方に対し、一律に減圧閾値Th31を適用することができる。
【0040】
以下、abs{DEL1(J)}~abs{DEL3(J)}も「減圧指標」と称する。
図6は、タイヤ一輪または三輪の減圧率R(%)と、減圧指標abs{DEL1(J)}の値との関係を示すグラフである。本発明者らの検討によると、
図6に示すように、外部温度が一定である条件下においては、タイヤの減圧率R(%)とabs{DEL1(J)}とは比例関係にあると言ってよい。このため、abs{DEL1(J)}は、abs{DEL1(J)}を目的変数とし、減圧率Rを説明変数とする以下の直線の式(4)で表すことができる。
abs{DEL1(J)}=a
0×R (4)
【0041】
以上のことから、abs{DEL1(J)}が減圧閾値Th10を超えている場合、一輪減圧または三輪減圧が発生していると判定することができる。しかし、本発明者らの検討によれば、上記比例関係は、外部温度の影響を受けて変化する。より具体的には、外部温度がT
0(℃)の条件下で減圧指標abs{DEL1(J)}と減圧率Rとの比例関係を表す係数(傾き)がa
0であったとすると、外部温度がT
1(℃)のときの上記比例関係を表す係数(傾き)は、a
0よりも大きな値であるa
1となる(ただし、T
1>T
0とする)。このとき、
図7に示すように、減圧指標abs{DEL1(J)}の値は、タイヤの減圧率Rが、検出目標R
0に達する以前に減圧閾値Th10に到達してしまう。つまり、実際はタイヤが検出目標まで減圧していないにも関わらず、減圧警報を出力してしまう。一方、外部温度がT
2(℃)のときの上記比例関係を表す係数(傾き)は、a
0よりも小さな値であるa
2となる(ただし、T
0>T
2とする)。このとき、
図7に示すように、減圧指標abs{DEL1(J)}の値は、タイヤの減圧率Rが、検出目標R
0を超えた後に減圧閾値Th10に到達する。つまり、タイヤ警報すべき水準まで減圧したにも関わらず減圧警報が出力されず、同タイヤの減圧がより進むまでは、減圧警報を出力することができない。
【0042】
上記傾きa0~a2は、それぞれの外部温度における、減圧指標abs{DEL1(J)}の減圧感度とも言うことができる。本発明者らは、さらなる検討により、外部温度T0を基準外部温度とし、傾きa0を基準減圧感度とするとき、外部温度がTであるときの減圧指標abs{DEL1(J)}の傾き(減圧感度)aは、温度補正係数d及び基準減圧感度a0を用いて、以下の式(5)で近似できることを見出した。
a=a0+d×(T-T0) (5)
【0043】
つまり、基準外部温度T
0の条件下における基準減圧感度a
0と、外部温度Tの条件下における減圧感度aとの比は、外部温度の差(T-T
0)に比例する。
図8は、このことを説明するグラフである。
図8に示すように、基準外部温度T
0を定めるとともに、T
0に対する基準減圧感度a
0を予め特定しておけば、実車実験や模擬実験等により取得される様々な外部温度Tと減圧感度aとの多数のデータセットに基づいて回帰分析を行うことにより、温度補正係数dを特定することができる。ここで、基準外部温度T
0は、減圧閾値Th10を定めるための試験走行を行ったときに外気温センサ7により取得された外部温度とすることができる。また、基準減圧感度a
0は、上記試験走行において、タイヤの減圧率Rが検出目標R
0となるときのabs{DEL1(J)}の値に基づいて特定することができる。
【0044】
式(5)に従って減圧感度aを算出することにより、以下の式(6)に従って、外部温度Tの条件下で算出された減圧指標abs{DEL1(J)}の値を、基準外部温度T0の条件下で算出される減圧指標abs{DEL1(J)}の値に換算することができる。換算後のabs{DEL1(J)}は、外部温度Tの影響が補正された補正後減圧指標DEL1´(J)ということもできる。補正後減圧指標DEL1´(J)を上記減圧閾値Th1と比較することにより、タイヤが減圧しているか否かをより適切に判定することができる。
DEL1´(J)=abs{DEL1(J)}×a0/a (6)
【0045】
以上の説明は、補正後減圧指標DEL1´(J)と減圧閾値Th1とを比較することにより、タイヤの一輪減圧及び三輪減圧を検出する場合の例である。しかし、本発明者らの検討によれば、タイヤの二輪減圧(表1の7,8)を検出する場合でも、タイヤTFL及びタイヤTRR、あるいはタイヤTRL及びタイヤTFRの二輪の減圧率をRとすれば、減圧感度をh、温度補正係数をgとして、式(4)及び式(5)と等価な関係が成り立つ。よって、基準外部温度T0の条件下において定められた減圧閾値Th11と、式(6)に従って算出された補正後減圧指標DEL1´(J)とを比較することで、二輪減圧(表1の7,8)が発生しているか否かをより適切に判定することができる。
【0046】
さらに、abs{DEL2(J)}とタイヤTFL及びタイヤTFR、あるいはタイヤTRL及びタイヤTRRの二輪の減圧率Rとの関係についても式(4)及び式(5)と等価な関係が成り立つ。同様に、abs{DEL3(J)}とタイヤTFL及びタイヤTRL、あるいはタイヤTFR及びタイヤTRRの二輪の減圧率Rとの関係についても式(4)及び式(5)と等価な関係が成り立つ。より具体的には、基準外部温度T0の条件下において、二輪のタイヤの減圧率Rと、abs{DEL2(J)}またはabs{DEL3(J)}との間には、それぞれ以下の式(7)及び(8)の比例関係が成り立つ。式中のb0及びc0は、それぞれ、abs{DEL2(J)}及びabs{DEL3(J)}についての基準減圧感度である。
abs{DEL2(J)}=b0×R (7)
abs{DEL3(J)}=c0×R (8)
【0047】
そして、外部温度がTであるときの減圧指標abs{DEL2(J)}の傾き(減圧感度)b及び減圧指標abs{DEL3(J)}の傾き(減圧感度)cは、それぞれ、以下の式(9)及び(10)に従って算出することができる。式中のe及びfは、温度補正係数であり、多数のデータセットに基づいて回帰分析を行うことにより、予め特定することができる。
b=b0+e×(T-T0) (9)
c=c0+f×(T-T0) (10)
【0048】
そして、以下の式(11)及び(12)に従い、外部温度Tの影響が補正された補正後減圧指標DEL2´(J)及びDEL3´(J)をそれぞれ算出することができる。
DEL2´(J)=abs{DEL2(J)}×b0/b (11)
DEL3´(J)=abs{DEL3(J)}×c0/c (12)
【0049】
補正後減圧指標DEL2´(J)を減圧閾値Th21と比較することにより、タイヤTFL及びタイヤTFR、あるいはタイヤTRL及びタイヤTRRの二輪減圧が生じているか否かをより適切に判定することができる。また、補正後減圧指標DEL3´(J)を減圧閾値Th31と比較することにより、タイヤTFL及びタイヤTRL、あるいはタイヤTFR及びタイヤTRRの二輪減圧が生じているか否かをより適切に判定することができる。
【0050】
再び
図3を参照して、補正部23は、ステップS6で特定された、補正すべき減圧指標に応じて、補正後減圧指標DEL1´(J)~DEL3´(J)のいずれかを算出する(ステップS7)。補正後減圧指標DEL1´(J)~DEL3´(J)のいずれかは、ステップS2で取得された外部温度Tと、ステップS4で算出された減圧指標DEL1(J)~DEL3(J)のいずれかとに基づき、上述の式(6)、(11)または(12)を適用して、算出することができる。なお、基準外部温度T
0、基準減圧感度a
0~c
0及びh
0、ならびに温度補正係数d~gは、車両1の実走行前の試験走行等により予め特定され、記憶装置15またはROM13に予め保存されているものとする。
【0051】
続いて、減圧判定部24が、ステップS7で算出した補正後減圧指標と、これに対応する減圧閾値とを比較することにより、ステップS5で特定されたパターンの減圧が生じているか否かを判定する(ステップS8)。これにより、タイヤTFL,TFR,TRL,TRRのうち少なくとも1つが減圧しているか否かが判定される。詳細には、ステップS5で特定された減圧パターンが1~4または11~14である場合、減圧判定部24は、補正後減圧指標DEL1´(J)と減圧閾値Th10とを比較し、Th10<DEL1´(J)であれば、減圧が生じている(YES)と判定し、DEL1´(J)≦Th10であれば、減圧が生じていない(NO)と判定する。ステップS5で特定された減圧パターンが7または8である場合、減圧判定部24は、補正後減圧指標DEL1´(J)と減圧閾値Th11とを比較し、Th11<DEL1´(J)であれば、減圧が生じている(YES)と判定し、DEL1´(J)≦Th11であれば、減圧が生じていない(NO)と判定する。ステップS5で特定された減圧パターンが5または10である場合、減圧判定部24は、補正後減圧指標DEL2´(J)と減圧閾値Th21とを比較し、Th21<DEL2´(J)であれば、減圧が生じている(YES)と判定し、DEL2´(J)≦Th21であれば、減圧が生じていない(NO)と判定する。ステップS5で特定された減圧パターンが6または9である場合、減圧判定部24は、補正後減圧指標DEL3´(J)と減圧閾値Th31とを比較し、Th31<DEL3´(J)であれば、減圧が生じている(YES)と判定し、DEL3´(J)≦Th31であれば、減圧が生じていない(NO)と判定する。
【0052】
ステップS8でタイヤTFL,TFR,TRL,TRRのうち少なくとも1つが減圧している(YES)と判定される場合、ステップS9が実行される。ステップS9では、減圧警報部25がタイヤが減圧していることをドライバーに報知する減圧警報を生成し、警報表示器3等を介してこれを出力する。警報は、タイヤの減圧を示す文字であってもよいし、予め定められたアイコンやグラフィックであってもよい。また、減圧警報は、減圧していると考えられるタイヤの車輪または車軸を報知する表示を含んでもよい。これに加えてまたは代えて、減圧警報部25は、減圧警報を音声やブザー音等の態様で生成し、車両1のスピーカー等から出力するように構成されてもよい。一方、ステップS8で減圧が生じていない(NO)と判定される場合、ステップS9は実行されず、ステップS1~S8が再度実行される。
【0053】
<3.特徴>
上記実施形態に係る減圧検出装置2によれば、減圧判定時の外部温度Tが基準外部温度T0から乖離し、減圧指標abs{DEL1(J)}~abs{DEL3(J)}の減圧感度が変化している場合でも、その影響がキャンセルされた補正後減圧指標DEL1(J)´~DEL3(J)´のいずれかに基づいて減圧を判定することができる。これにより、実際にはタイヤが減圧していない場合にも減圧警報を出力する、またはタイヤの内圧が検出目標に達しても減圧が検出されない等の現象を回避することができ、より適切に減圧を検出することができる。
【0054】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0055】
(1)少なくとも1つの減圧指標は、各タイヤの回転速度を比較する指標であればよく、上記実施形態の式で定義されるものに限定されない。例えば、DEL1~DEL3は、それぞれ、以下の式で定義されてもよい。
DEL1=[(V1+V4)/2-(V2+V3)/2]/[(V1+V2+V3+V4)/4]×100(%)
DEL2=[(V1+V2)/2-(V3+V4)/2]/[(V1+V2+V3+V4)/4]×100(%)
DEL3=[(V1+V3)/2-(V2+V4)/2]/[(V1+V2+V3+V4)/4]×100(%)
また、DEL1~DEL3は、それぞれ、以下の式で定義されてもよい。
DEL1=[(V2+V3)/(V1+V4)-1]×100(%)
DEL2=[(V3+V4)/(V1+V2)-1]×100(%)
DEL3=[(V2+V4)/(V1+V3)-1]×100(%)
【0056】
(2)上記実施形態に係る減圧検出装置は、四輪車両において駆動方式に限られることはなく、FF車両、FR車両、MR車両、4WD車両のいずれにも適用することができる。さらに、四輪車両に限られず、三輪車両又は六輪車両などにも適用することができる。
【0057】
(3)上記実施形態に係る減圧検出処理の各ステップを実行する順序は、適宜変更することができる。例えば、ステップS1の前にステップS2が実行されてもよいし、ステップS2の前にステップS3~S6のうち少なくとも1つが実行されてもよい。また、ステップS5及びS6は省略されてもよい。この場合は、補正すべき減圧指標を特定せずに補正後減圧指標DEL1(J)´~DEL3(J)´を算出し、これら補正後減圧指標を、減圧閾値Th10、Th11、Th21及びTh31とそれぞれ比較することで、少なくとも1つのタイヤが減圧しているか否かを判定することができる。
【0058】
(4)上記実施形態では、補正部23が、減圧指標abs{DEL1(J)}、abs{DEL2(J)}またはabs{DEL3(J)}から、外部温度の影響が補正された補正後減圧指標DEL1(J)´、DEL2(J)´またはDEL3(J)´を算出した。しかしながら、補正部23は、補正後減圧指標に代えて、外部温度の影響が補正された補正後減圧閾値Th10′、Th11′、Th21′またはTh31′を算出してもよい。補正後減圧閾値は、基準温度T0の環境下で予め定められた減圧閾値Th10、Th11、Th21またはTh31、外部温度T及び上記実施形態の温度補正係数d~gを用い、それぞれ以下の式に基づいて算出することができる。
Th10′=Th10+d×(T-T0)
Th11′=Th11+g×(T-T0)
Th21′=Th21+e×(T-T0)
Th31′=Th31+f×(T-T0)
【0059】
減圧判定部24は、補正後減圧閾値と温度補正がなされていない減圧指標abs{DEL1(J)}~abs{DEL3(J)}とを比較することにより、外部温度の影響をキャンセルして減圧を判定することができる。具体的には、減圧判定部24は、Th10′<abs{DEL1(J)}、Th11′<abs{DEL1(J)}、Th21′<abs{DEL2(J)}、及びTh31′<abs{DEL3(J)}のいずれか1つでも成り立つ場合に、少なくとも1つのタイヤが減圧していると判定することができる。
【0060】
(5)温度補正係数d~gは、タイヤの種類やサイズ等により、わずかに異なる可能性がある。このため、温度補正係数d~gは、タイヤの種類やサイズごとに分けて特定されてもよい。しかし、これに限られず、タイヤの種類やサイズ等によらないものとして一律の温度補正係数d~gが特定されてもよい。
【0061】
(6)上記実施形態に係る減圧検出方法の各ステップは、複数のコンピュータで実行されてもよい。すなわち、ステップS1~S9のうち少なくとも一部は、減圧検出装置2に接続される他の外部コンピュータ等によって実行されてもよい。
【0062】
(7)車両1は、外気温センサ7を備えず、他のコンピュータとの情報通信から外部温度を取得してもよい。例えば、減圧検出装置2が、GPS等の衛星測位システムからの測位信号を受信し、車両1の現在位置情報を取得するように構成されている場合がある。この場合、外気温取得部21は、車両1の現在位置における気温データを保持する外部のサーバー装置にアクセスし、当該サーバー装置から外部温度を取得してもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 車両
2 減圧検出装置
20 回転速度取得部
21 外気温取得部
22 減圧指標算出部
23 補正部
24 減圧判定部
25 減圧警報部
V1 左前輪タイヤの回転速度
V2 右前輪タイヤの回転速度
V3 左後輪タイヤの回転速度
V4 右後輪タイヤの回転速度
DEL1~DEL3 減圧指標
DEL1(J)~DEL3(J) 減圧指標
abs{DEL1(J)}~abs{DEL3(J)} 減圧指標
DEL1(J)´~DEL3(J)´ 補正後減圧指標
d,e,f,g 温度補正係数
Th10,Th11,Th21,Th31 減圧閾値