(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122033
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】溶着装置及び溶着方法
(51)【国際特許分類】
B29C 65/08 20060101AFI20240902BHJP
【FI】
B29C65/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029340
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000164553
【氏名又は名称】空研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】高津 友樹
(72)【発明者】
【氏名】安井 洋
(72)【発明者】
【氏名】有満 正男
(72)【発明者】
【氏名】猪口 義巳
(72)【発明者】
【氏名】岡本 勲
(72)【発明者】
【氏名】江藤 昌平
(72)【発明者】
【氏名】藏屋 眸
【テーマコード(参考)】
4F211
【Fターム(参考)】
4F211AA15
4F211AF01
4F211AG03
4F211AR07
4F211TA01
4F211TC08
4F211TD20
4F211TN16
4F211TN22
(57)【要約】
【課題】複数に重ねた合成樹脂製の充填材シートを加熱により溶融し、溶けた溶融液を充填材シートの層間に十分量で保持した状態で固化させることで充填材シートを強固に接着すると共に、高い強度の充填材を作成することを可能とする溶着装置及び溶着方法を提供する。
【解決手段】合成樹脂製の複数の充填材シート11を重ねて溶着して一体化する溶着装置60において、重ねられた複数の前記充填材シート11の一方の表面に先端部64を接触した状態で、加熱により前記充填材シート11に貫通孔を開けて充填材シート11同士を溶着する溶着部61を備え、前記溶着部61は、前記充填材シート11に対して押入する方向を長手方向とする棒状体であり、当該棒状体は、末端部63から先端部64に向かって次第に先細状に形成され、前記先端部64が前記棒状体の長手方向中心軸Dから偏心した位置になっている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の複数の充填材シートを重ねて溶着して一体化する溶着装置において、
重ねられた複数の前記充填材シートの一方の表面に先端部を接触した状態で、加熱により前記充填材シートに貫通孔を開けて充填材シート同士を溶着する溶着部を備え、
前記溶着部は、前記充填材シートに対して押入する方向を長手方向とする棒状体であり、当該棒状体は、末端部から先端部に向かって次第に先細状に形成され、前記先端部が前記棒状体の長手方向中心軸から偏心した位置になっていることを特徴とする溶着装置。
【請求項2】
請求項1に記載の溶着装置において、
前記溶着部は、前記棒状体の長手方向中心軸から前記先端部が偏心して位置する方向に向かって湾曲又は屈曲していることを特徴とする溶着装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の溶着装置において、
前記溶着部による前記充填材シートへの加熱が超音波振動による加熱であることを特徴とする溶着装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の溶着装置において、
前記溶着部の棒状体は、先端部が偏心して位置する方向の側面側に前記押入方向に沿った面領域を有することを特徴とする溶着装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の溶着装置において、
前記溶着部の棒状体が、末端部から先端部に向かって1又は複数の段差を形成していることを特徴とする溶着装置。
【請求項6】
請求項5に記載の溶着装置において、
前記段差が、前記棒状体の先端部側から末端部側に向かって窪んだ凹溝状に形成されていることを特徴とする溶着装置。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の溶着装置において、
前記溶着部の末端側に連結して前記溶着部を支持する支持部を備え、
前記支持部と前記溶着部との間に段差が形成されており、前記支持部の段差部分が前記溶着部の末端側に向かって窪んだ凹溝状に形成されていることを特徴とする溶着装置。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の溶着装置を用いた溶着方法であって、
前記棒状体の長手方向中心軸から見て前記棒状体の先端部が偏心した位置の反対側の領域が、前記充填材シートを起立して使用する場合に上方となるように前記貫通孔を開けて充填材シート同士を溶着することを特徴とする溶着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製の複数の充填材シートを重ねて溶着して一体化する溶着装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
工場や空気調和設備などで循環使用する水などの液相の熱媒体の冷却を目的として野外に設置される冷却塔のうち、冷却塔内部の熱交換部として充填材を用いる開放式冷却塔では、充填材を流下する循環水と空気とを直接接触させて熱交換させる仕組みとなっている。こうした開放式冷却塔に用いられる充填材は、一般に真空成形により循環水の流下状態を制御するための凹凸パターンを形成したポリ塩化ビニル等の合成樹脂製の充填材シートを接着剤で貼り合わせつつ、複数重ねて一体のブロック状として形成される。しかしながら、接着剤で充填材シートの貼り合わせを行う場合、例えば海外などで現地組み立てを行うことを想定すると、接着剤が危険物の扱いとなるため充填材シートと接着剤とを現地に別々に輸送する必要があり、輸送コストの上昇や日程調整等の手間が掛かってしまうという問題がある。また、接着剤は中毒性がある物質であるため、製造に関わる作業員の健康リスクと共に、作業員の確保も困難となる。併せて、接着後は乾燥のために多くの時間、場所及び設備が必要になってしまう。そのため、接着材を使用せずに充填材シートを貼り合わせる技術が望まれる。
【0003】
接着剤を用いずに充填材シートを貼り合わせる技術として、例えば特許文献1ないし3に示す技術が開示されている。特許文献1に示す技術は、多数の突設部を有するプラスチック製充填材シートの該突設部を、他のプラスチック製充填材シートに当接し、該当接箇所を超音波発振機によりスポット溶着するものである。
【0004】
特許文献2に示す技術は、先に供給された単板を下桟で持ち上げて待機させ、その下にコンベヤによって新たな単板を供給し、直前に供給された単板を上桟によって支え、新たに供給した単板を上昇させて先の単板と当接状態に保持し、下から溶着ピンなどの溶着手段(超音波発振器)を上昇させて両者を溶着し、これにより、押圧力は溶着しようとする単板間にのみ作用し、全体の撓み、歪みを生じることなく溶着され、これを所定回数繰り返すことにより、所望の積層材を能率的に製造するものである。
【0005】
特許文献3に示す技術は、超音波振動用工具ホーンに、少なくとも尖端部とくびれ部を形成し、重ねた二以上の熱可塑性樹脂材に押圧し、超音波振動する工具ホーンの尖端部で重ねた二以上の熱可塑性樹脂材に貫通孔を開けるとともに溶融し、工具ホーンのくびれ部に溶融した熱可塑性樹脂材を取り込んだ後、工具ホーンを押圧方向と逆方向に引き抜くことによって、工具ホーンのくびれ部に取り込んだ溶融した熱可塑性樹脂材を貫通孔から持ち上げ、リング状部に成形して、冷却・固化して熱可塑性樹脂材を一体化するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平04-223136号公報
【特許文献2】特開平08-159117号公報
【特許文献3】特開2012-240376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に示す技術は、突起部や溶着手段を充填材シートなどの溶着対象に当接させ、この当接箇所を表面から超音波等で接合するものであり、重ねられた溶着対象の層間が十分に溶着されず接着強度が弱くなってしまうという課題を有する。
【0008】
また、特許文献3に示す技術は、溶融棒に尖端部とくびれ部とを形成することで、重ねた熱可塑性樹脂材に貫通孔を開けると共に、くびれ部に溶融した熱可塑性樹脂材を取り込んで固化させることで熱可塑性樹脂材を一体化するが、先端部の径がくびれ部の径よりも大きくなっているため、貫通孔から引き抜く際にくびれ部に取り込んだ熱可塑性樹脂材が表面側に引き出されてしまい、重ねられた熱可塑性樹脂材の間を十分に固着することができない場合があるという課題を有する。
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、複数に重ねた合成樹脂製の充填材シートを加熱することで溶融し、溶けた溶融液を充填材シートの層間に十分量で保持した状態で固化させることで充填材シートを強固に接着すると共に、高い強度の充填材を作成することを可能とする溶着装置及び溶着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る溶着装置は、合成樹脂製の複数の充填材シートを重ねて溶着して一体化する溶着装置において、重ねられた複数の前記充填材シートの一方の表面に先端部を接触した状態で、加熱により前記充填材シートに貫通孔を開けて充填材シート同士を溶着する溶着部を備え、前記溶着部は、前記充填材シートに対して押入する方向を長手方向とする棒状体であり、当該棒状体は、末端部から先端部に向かって次第に先細状に形成され、前記先端部が前記棒状体の長手方向中心軸から偏心した位置になっているものである。
【0011】
このように、本発明に係る溶着装置においては、重ねられた複数の前記充填材シートの一方の表面に先端部を接触した状態で、加熱により前記充填材シートに貫通孔を開けて充填材シート同士を溶着する溶着部を備え、当該溶着部が、前記充填材シートに対して押入する方向を長手方向とする棒状体であり、当該棒状体は、末端部から先端部に向かって次第に先細状に形成されるため、溶着部を貫通孔から引き抜いた際に貫通時に融解した液体のシート材を表面側(溶着部を引き抜く側)に引き出すことなく充填材シートの層間に留めることができ、複数の充填材シートを強固に接着することが可能になるという効果を奏する。
【0012】
また、溶着部の棒状体の先端部が、当該棒状体の長手方向中心軸から偏心した位置になっているため、貫通時に融解した液体のシート材が棒状体の偏心状態に対応して偏った量で偏心方向の反対側に溜まり、それが固化することで充填材シートの層間を強固に接着することが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の実施形態に係る溶着装置を用いて形成される充填材を適用した冷却塔の一部切欠正面図である。
【
図2】第1の実施形態に係る充填材の充填材シート重ね合わせ(積層)状態説明図である。
【
図3】第1の実施形態に係る溶着装置の構成を示す図である。
【
図4】第1の実施形態に係る溶着装置を用いて積層された充填材シートを溶着する様子を示す図である。
【
図5】第1の実施形態に係る溶着装置における溶着部の他の形状を示す図である。
【
図6】
図5に示す形状を有する溶着部で充填材シートを溶着した状態を示す図である。
【
図7】第2の実施形態に係る溶着装置における溶着部の形状を示す図である。
【
図8】
図7に示す溶着部の変形例を示す断面図である。
【
図9】第2の実施形態に係る溶着装置における支持部の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る溶着装置及び溶着方法について、
図1ないし
図5を用いて説明する。本実施形態においては、直交流型(クロスフロータイプ)として通風用のファンのある中央部を挟んで二つの熱交換部を対向配置される開放式冷却塔に用いられる充填材の溶着装置の例を説明する。
【0015】
図1は、本実施形態に係る溶着装置を用いて形成される充填材を適用した冷却塔の一部切欠正面図である。冷却塔1は、充填材10と、充填材10の上側に配設されて循環水を供給され、この循環水を充填材10各部へ分配滴下させる上部水槽20と、充填材10下側に固定設置される支持枠31上配設されて充填材10を通過した循環水を回収する下部水槽30と、この下部水槽30から取出されて所定の循環経路を経た循環水をあらためて前記上部水槽20に送込む配水管路40と、下部水槽30中央上方に配設されて充填材10の各充填材シート11間に誘引通風で外部の空気を通すファン50とを備える。この冷却塔1における各部構成については、公知の直交流型の開放式冷却塔と同様のものであり、詳細な説明を省略する。
【0016】
図2は、本実施形態に係る充填材の充填材シート重ね合わせ(積層)状態説明図である。充填材10は、複数の充填材シート11が積層されて形成されており、この充填材シート11には、第1シート12と第2シート13の二種類が用いられる。第1シート12は、所定の第1の配置で複数設けられる突起部12a、及びこの突起部12aの突出する側とは反対側となる面側において前記突起部12aと重ならない位置に所定の第2の配置で複数設けられる凹状の受け部12bをそれぞれ有する構成である。
【0017】
第2シート13は、前記第2の配置で複数設けられる突起部13a、及びこの突起部13aの突出する側とは反対側となる面側において突起部13aと重ならない位置に前記第1の配置で複数設けられる凹状の受け部13bをそれぞれ有する構成である。
【0018】
突起部12a及び受け部13bの第1の配置、並びに、突起部13a及び受け部12bの第2の配置は、それぞれの突起部が受け部に正確に嵌合できるようになっており、例えば所定間隔の碁盤目状配置又は千鳥状配置として規則正しく配置してもよい。また、第1シート12と第2シート13とを重ね合わせた際に突起部同士及び受け部同士が重ならないように互いにずらした配置となっている。
【0019】
なお、第1シート12と第2シート13とは独立した別形状のシートとしているが、これに限られるものではなく、第2シート13が、第1シート12のいずれの端辺部とも直角となる向きで且つ第1シート12の中心を通る軸周りに、第1シート12を180°回転させたもの、すなわち、第1シート12と第2シート13とを同じシートとし、第2シート13として使用する際に向きのみを変える構成とすることもでき、この場合、同じ形状の充填材シートで充填材10を形成できコストを抑えることができる。
【0020】
第1シート12の受け部12bは、開口部分の大きさを第2シート13の突起部13aの太さより小さく形成され、受け部12b及び突起部13aの少なくとも一方を弾性変形させつつ第2シート13の突起部13aを圧入可能とされる。同様に、第2シート13の受け部13bは、開口部分の大きさを第1シート12の突起部12aの太さより小さく形成され、受け部13b及び突起部12aの少なくとも一方を弾性変形させつつ第1シート12の突起部12aを圧入可能とされる。
【0021】
この他、充填材シート11としての第1シート12及び第2シート13が、突起部12a、13aや受け部12b、13bを除いた表面部に、所定の凹凸を繰返しのパターン形状として多数設けられ、シート表面の当該凹凸に沿って循環水を多様な経路で流下させ、この循環水と、シート間の隙間を流れる外部の空気とが接触するようにする基本的構成については、公知の冷却塔用充填材を構成する充填材シートと同様であり、詳細な説明を省略する。
【0022】
図2において、突起部12aと受け部13bが嵌合している箇所、及び、突起部13aと受け部12bとが嵌合している箇所は、本実施形態における溶着装置60を用いて溶着されることで、第1シート12と第2シート13とが一体的な充填材10として形成される。
図3は、本実施形態に係る溶着装置の構成を示す図である。
図3(A)は溶着装置の先端部分の右側面図、
図3(B)は左側面図、
図3(C)は背面図、
図3(D)は正面図である。
【0023】
溶着装置60は、積層された合成樹脂製の第1シート12及び第2シート13の表面に接触した状態で充填材シート11に超音波振動を付加する溶着部61と、当該溶着部61を安定的に支持する支持部62と、溶着部61を超音波振動させるための制御部70(図示しない)とを備える。溶着部61は、充填材シート11に対して押入する方向(すなわち充填材シート11のシート面に対して垂直な方向)を長手方向とする棒状体である。この棒状体は、支持部62に連結する末端部63から先端部64に向かって次第に先細状に形成され、且つ、先端部64が棒状体の長手方向の中心軸Dから偏心した位置となるように形成されている。
【0024】
なお、
図3においては溶着部61の棒状体を円柱状をベースとして先細状、且つ、先端部64の位置を偏心する形状としているが、棒状体の形状はこれに限定されるものではなく、多角柱や多角錐の棒状体をベースとして先細状、且つ、先端部64の位置を偏心する形状としてもよい。
【0025】
また、本実施形態においては充填材シート11に超音波振動を付加することでシート材を加熱する場合について説明するが、超音波振動以外にも抵抗加熱、誘導加熱等のように溶着部61の熱で充填材シート11を溶融できる方法であれば適用可能である。
【0026】
図2に示すように、第1シート12の受け部12bには第2シート13の突起部13aが嵌め込まれており、受け部12bの受け面と突起部13aの先端面とが密着又は極めて近接した状態で積層されている。この状態で受け部12bの凸側表面に溶着部61の先端部64を接触させて超音波振動を付加する。
【0027】
図4は、本実施形態に係る溶着装置を用いて積層された充填材シートを溶着する様子を示す図である。
図4(A)に示すように、受け部12bの凸側表面に溶着部61の先端部64を接触させる。この状態で溶着部61が制御部70の制御信号に応じて超音波振動すると、
図4(B)に示すように、当該超音波振動が第1シート12の受け部12bの凸側表面に付加され、その振動の熱により次第に第1シート12の受け部12bが溶融し始める。そのまま溶着装置60を垂直に押入することで、第2シート13の突起部13aの先端面も含めて溶融し始める。
【0028】
このとき
図4(B)に示すように、溶着部61の先端部64の位置が、溶着部61の棒状体の中心軸Dから偏心しているため、融解した合成樹脂の塊は、先端部64が偏心している側の領域(以下、第1領域R1という)とは反対側の領域(以下、第2領域R2という)に偏って大きめの溶着溜りMを生じ、第1領域R1には小さめの溶着溜りMを生じることとなる。そして、溶着部61をそのまま垂直方向に引き抜き、融解していた溶着溜りMが固化することで、
図4(C)に示すような接着状態が形成される。
【0029】
図4(C)の接着状態においては、第1領域R1の接着強度をM1、第2の領域の接着強度をM2とすると、溶着溜りMの量に応じてM1<M2となる。つまり、接着強度の最大値は接着強度M2となる。一方、仮に溶着部61の先端部64の位置が偏心しておらず、棒状体の中心軸D状にある場合、第1領域R1及び第2領域R2においては、ほぼ均等な接着強度M3となる。これらの接着強度の関係は、溶着溜りMの量に応じてM1<M3<M2となる。すなわち、本実施形態に係る溶着装置60を用いて溶着を行った場合に、充填材シート11間を最も高い強度で接着することが可能となる。
【0030】
溶着部61の棒状体は、末端部63から先端部64に向かって次第に先細状になっているため、溶着部61を引き抜いた際に溶着部61の棒状体が接触するなどして溶着溜りMが剥離したり崩壊するようなことがなく、
図4(C)に示したような状態を維持して固化することが可能となる。
【0031】
なお、ここで、充填材10には上述したように所定の方向から循環水が常時流れる状態で使用されるため、充填材シート11間の接着強度は非常に重要な要素となっている。
図4(C)の場合、第2領域R2においてはM3と比較して接着強度M2が強くなっているが、第1領域R1においてはM3と比較して接着強度M1が弱くなっている。一般的には、充填材10の使用時に循環水が流れてくる方向がより高い接着強度となるように充填材シート11を接着することが望ましい。すなわち、充填材10の使用時に上側(循環水は上から下に流下する)となる領域が第2領域R2となるように溶着装置60を押入することが望ましい。
図4(C)の場合は、左側の第2領域R2が充填材10の使用時に上側となることが望ましい。
【0032】
図5は、本実施形態に係る溶着装置における溶着部の他の形状を示す図、
図6は、
図5に示す形状を有する溶着部で充填材シートを溶着した状態を示す図である。
図5(A)は溶着装置の先端部分の右側面図、
図5(B)は左側面図、
図5(C)は背面図、
図5(D)は正面図である。
図5に示すように、溶着部61の棒状体が末端部63から先端部64に向かって次第に先細状に形成され、且つ、先端部64が棒状体の長手方向の中心軸Dから偏心した位置となるように形成されている点は
図3の場合と共通であるが、棒状体が先端部64の偏心方向に向かって次第に湾曲又は屈曲しており(
図5においては湾曲状態を示す)、且つ、湾曲又は屈曲した先が少なくとも棒状体の側面方向に沿った平面部65を有する形状となっている。
【0033】
溶着部61がこのような形状を有することで、
図6に示すように、
図4の場合に比べて第2領域R2により多くの溶着溜りMを生じさせることが可能となり、それが固化することで強固な接着を行うことが可能となる。一方で、溶着部61が湾曲していることで、第1領域R1において溶着部61と充填材シート11との接触領域(又は接触時間)が減少し、それに伴い第1領域R1における溶着溜りMの量が減少してしまう懸念がある。そこで、
図5に示すように、溶着部61が湾曲した先には平面部65が形成され、溶着部61を押入しながら平面部65の超音波振動により第1領域R1の溶着溜りMを生じさせることで上記懸念を解消することが可能となっている。
【0034】
このように、本実施形態に係る溶着装置においては、重ねられた複数の充填材シート11の一方の表面に先端部64を接触した状態で、超音波振動により充填材シート11に貫通孔を開けて充填材シート11同士を溶着する溶着部61を備え、当該溶着部61が、充填材シート11に対して押入する方向を長手方向とする棒状体であり、当該棒状体は、末端部63から先端部64に向かって次第に先細状に形成されるため、溶着部61を貫通孔から引き抜いた際に貫通時に融解した液体のシート材を表面側(溶着部61を引き抜く側)に引き出すことなく充填材シート11の層間に留めることができ、複数の充填材シート11を強固に接着することが可能になる。
【0035】
また、溶着部61の棒状体の先端部64が、当該棒状体の長手方向中心軸Dから偏心した位置になっているため、貫通時に融解した液体のシート材が棒状体の偏心状態に対応して偏った量で偏心方向の反対側に溜まり、それが固化することで充填材シート11の層間を強固に接着することが可能になる。
【0036】
さらに、溶着部61は、棒状体の長手方向中心軸Dから先端部64が偏心して位置する方向に向かって湾曲又は屈曲しているため、第2領域R2により多くの溶着溜りMを生じさせることが可能になり、充填材シート11を強固に接着することができる。
【0037】
さらにまた、溶着部61の棒状体は、先端部64が偏心して位置する方向の側面側に押入方向に沿った面領域を有するため、第1領域R1において溶着部61と充填材シート11との接触領域(又は接触時間)を増大させることで第1領域R1における溶着溜りMの量を確保することができ、充填材シート11を強固に接着することが可能になる。
【0038】
さらにまた、溶着部61の棒状体の長手方向中心軸から見て当該棒状体の先端部64が偏心した位置の反対側の領域、すなわち第2領域R2が、充填材シート11を起立して使用する場合に上方となるように貫通孔を開けて充填材シート11同士を溶着するため、循環水が流れてくる方向がより高い接着強度となるように充填材シート11を接着することが可能になる。
【0039】
(本発明の第2の実施形態)
本実施形態に係る溶着装置及び溶着方法について、
図7ないし
図9を用いて説明する。本実施形態に係る溶着装置は、前記第1の実施形態に係る溶着装置に基づくものであり、溶着部61に段差や溝を形成することで、より確実に充填材シート11の層間に溶着溜りMを形成してシート間を強固に接着するものである。なお、本実施形態において前記第1の実施系形態と重複する説明は省略する。
【0040】
図7は、本実施形態に係る溶着装置における溶着部の形状を示す図である。
図7(A)は溶着部61の全体形状を示す図であり、
図7(B)は溶着部61の一部拡大図である。
図7において、溶着部61の棒状体は末端部63から先端部64に向かって1又は複数の段差66を形成している。この段差66は、末端部63から先端部64に向かうに連れて水平方向の断面積が小さくなるように形成されている。すなわち、
図7(B)に示すように、溶着部61を超音波振動しながら充填材シート11に押入することで、溶融した液体状のシート材が段差66に引っ掛かり、充填材シート11の層間に溶着溜りMを形成しやすくなる。
【0041】
図8は、
図7に示す溶着部の変形例を示す断面図であり、段差66において棒状体の先端部64側から末端部63側に向かって窪んだ凹溝67が形成されている。このような凹溝67を有することで、溶着部61を充填材シート11に押入しながら凹溝67に溶融したシート材を確実に引掛けて溶着溜りMを形成することができる。また、形成される凹溝67が先端部64側から末端部63側に向かって窪んだ形状であることから、溶着部61を充填材シート11から引き抜く際に、溶融した液体のシート材料を表面側(溶着部61を引き抜く側)に引き出すことなく充填材シート11の層間に留めることができる。なお、第1領域R1の溝径に対して第2領域R2の溝径を大きくすることで、第2領域R2における凹溝67に引っ掛かる溶着溜りMをより多くして、強固な接着を可能にしてもよい。
【0042】
図9は、本実施形態に係る溶着装置における支持部の形状を示す図である。
図9において、溶着部61と支持部62との連結部分(溶着部61の末端部63)の形状を示している。
図9において、溶着部61と支持部62との間には段差が形成されており、当該段差を介して連結している。支持部62の段差部分には溶着部61から支持部62に向かう方向(溶着部61の先端部64側から末端部63側に向かう方向に窪んだ凹溝68が形成されている。このような形状の場合に溶着部61を末端部63まで押入して貫通孔を開けると、
図9に示すように、凹溝68内に溶融した液体のシート材を引き込むことができ、このシート材が固化することで、充填材シート11間を強固に接着することが可能となる。なお、凹溝68について、第1領域R1側の溝径に対して第2領域R2側の溝径を大きくすることで、第2領域R2側における凹溝68に引き込まれる溶着溜りMをより多くして、強固な接着を可能にしてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 冷却塔
10 充填材
11 充填材シート
12 第1シート
12a 突起部
12b 受け部
13 第2シート
13a 突起部
13b 受け部
20 上部水槽
30 下部水槽
40 排水管路
50 ファン
60 溶着装置
61 溶着部
62 支持部
63 末端部
64 先端部
65 平面部
66 段差
67,68 凹溝
70 制御部