IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱マテリアル株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-刃先交換式切削工具 図1
  • 特開-刃先交換式切削工具 図2
  • 特開-刃先交換式切削工具 図3
  • 特開-刃先交換式切削工具 図4
  • 特開-刃先交換式切削工具 図5
  • 特開-刃先交換式切削工具 図6
  • 特開-刃先交換式切削工具 図7
  • 特開-刃先交換式切削工具 図8
  • 特開-刃先交換式切削工具 図9
  • 特開-刃先交換式切削工具 図10
  • 特開-刃先交換式切削工具 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122046
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】刃先交換式切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/16 20060101AFI20240902BHJP
【FI】
B23B27/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029355
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】菅原 健治
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046AA06
3C046EE09
3C046EE16
3C046PP01
(57)【要約】
【課題】インサート取付座に対する切削インサートの傾斜角度の変更を容易に行い、生産効率を向上させることができる刃先交換式切削工具を提供する。
【解決手段】刃先交換式切削工具は、表面および裏面、外周面、及び切刃を有する、板状の切削インサートと、取付面を有するインサート取付座を備える工具本体と、切削インサートの裏面とインサート取付座との間に挟み込まれる、板状のシート部材と、インサート取付座に切削インサート及びシート部材を固定するインサート固定部材と、取付面に対するシート部材の傾斜角度を調整する角度調整部材と、シート部材を、角度調整部材によって調整された傾斜角度に固定するシート固定部材と、を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インサート中心軸が延びるインサート軸方向を向く表面および裏面、前記インサート中心軸と直交するインサート径方向の外側を向く外周面、及び前記表面と前記外周面とが接続される稜線部に配置される切刃を有する、板状の切削インサートと、
前記インサート中心軸に交差する取付面を有するインサート取付座を備える工具本体と、
前記切削インサートの前記裏面と前記インサート取付座の前記取付面との間に挟み込まれる、板状のシート部材と、
前記インサート取付座に前記シート部材を固定するインサート固定部材と、
前記取付面に対する前記シート部材の傾斜角度を調整する角度調整部材と、
前記シート部材を、前記角度調整部材によって調整された前記傾斜角度に固定するシート固定部材と、を備える刃先交換式切削工具。
【請求項2】
前記シート部材は、前記角度調整部材側に延びる係合爪を有し、
前記角度調整部材は、
前記取付面に交差する交差軸方向に延び、前記工具本体に形成された第一雌ネジ孔に噛みあう第一ネジ軸部と、
前記第一ネジ軸部の一端部に形成され、前記切削インサートにおいて前記インサート中心軸を挟んで前記切刃と反対側の係合爪に係合するシート係合部と、を一体に有する、
請求項1に記載の刃先交換式切削工具。
【請求項3】
前記シート係合部は、前記係合爪を、前記交差軸方向の一方側と他方側との双方から挟み込む一対の係合突起を有する、
請求項2に記載の刃先交換式切削工具。
【請求項4】
一対の前記係合突起は、前記第一ネジ軸部の径方向外側に向かって、前記交差軸方向の間隔が漸次拡大する傾斜面を有している、
請求項3に記載の刃先交換式切削工具。
【請求項5】
前記シート係合部は、一対の前記係合突起の間に、前記第一ネジ軸部を中心として周方向に延びる円弧状の外周湾曲面を有し、
前記係合爪は、前記外周湾曲面に対して前記径方向外側から突き当たり、前記外周湾曲面よりも曲率半径が小さい先端湾曲面を有する、
請求項3に記載の刃先交換式切削工具。
【請求項6】
前記工具本体に設けられ、前記角度調整部材の前記インサート軸方向の一方側への移動を規制する規制部材をさらに備える、
請求項1又は2項に記載の刃先交換式切削工具。
【請求項7】
前記シート部材は、
前記インサート軸方向の一方側を向く第一板面と、
前記インサート軸方向の他方側を向く第二板面と、を有し、
前記第一板面と前記第二板面とが互いに非平行であり、前記第一板面が前記切削インサートの前記裏面と接触する、
請求項1又は2項に記載の刃先交換式切削工具。
【請求項8】
前記シート部材は、前記第二板面が前記取付面に突き当たることで、前記インサート軸方向の他方側への移動が規制される、
請求項7に記載の刃先交換式切削工具。
【請求項9】
前記シート固定部材は、前記インサート中心軸を挟んだ前記角度調整部材の反対側から、前記シート部材を前記角度調整部材側に押圧可能とされている、
請求項1又は2に記載の刃先交換式切削工具。
【請求項10】
前記シート固定部材は、
前記インサート中心軸に交差する方向に延び、前記工具本体に形成された第二雌ネジ孔に噛みあう第二ネジ軸部と、
前記第二ネジ軸部に対して前記角度調整部材から離間する方向に形成され、前記第二ネジ軸部の径方向外側に拡がる座面を有したネジ頭部と、を有し、
前記シート部材は、前記座面の一部が突き当たるネジ受け面を有し、
前記シート固定部材の前記座面は、前記ネジ受け面に対し、前記インサート軸方向の他方側に向かって前記ネジ受け面から漸次離間するよう傾斜して突き当たる、
請求項9に記載の刃先交換式切削工具。
【請求項11】
前記切刃は、V字状のネジ切り刃を含み、前記切削インサートは、被削材をネジ加工するネジ切りインサートである、
請求項1又は2に記載の刃先交換式切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刃先交換式切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、切削インサートを備える刃先交換式バイトにより、被削材にネジ加工を行う場合、ネジのリード角に応じてインサート取付座のシート部材を適宜選択し、このシート部材上に切削インサートを載置することで、切削インサートをインサート取付座に傾けて装着する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-64144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された構成では、リード角が異なるネジを製造する場合、インサート取付座に対する切削インサートの傾斜角度を変更する必要がある。これには、製造するネジのリード角に応じたインサート取付座のシート部材に交換する。このため、ネジの製造工程において、製造するネジのリード角を変更するには、シート部材を交換しなければならず、その作業に時間が掛かり、生産効率の低下に繋がってしまう。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、インサート取付座に対する切削インサートの傾斜角度の変更を容易に行い、生産効率を向上させることができる刃先交換式切削工具を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の刃先交換式切削工具の一つの態様は、インサート中心軸が延びるインサート軸方向を向く表面および裏面、前記インサート中心軸と直交するインサート径方向の外側を向く外周面、及び前記表面と前記外周面とが接続される稜線部に配置される切刃を有する、板状の切削インサートと、前記インサート中心軸に交差する取付面を有するインサート取付座を備える工具本体と、前記切削インサートの前記裏面と前記インサート取付座の前記取付面との間に挟み込まれる、板状のシート部材と、前記インサート取付座に前記シート部材を固定するインサート固定部材と、前記取付面に対する前記シート部材の傾斜角度を調整する角度調整部材と、前記シート部材を、前記角度調整部材によって調整された前記傾斜角度に固定するシート固定部材と、を備える。
【0007】
本発明の刃先交換式切削工具の一つの態様によれば、角度調整部材が、取付面に対するシート部材の傾斜角度を調整する。シート部材は、切削インサートの裏面とインサート取付座との間に挟み込まれるので、シート部材の取付面に対する傾斜角度が変わると、シート部材とともに切削インサートの取付面に対する傾斜角度が変わる。このように、角度調整部材でインサート取付座に対するシート部材の傾斜角度を調整することによって、被削物に対する、切削インサートの切刃の傾斜角度を容易に調整することができる。その結果、インサート取付座に対する切削インサートの傾斜角度の変更を容易に行い、生産効率を向上させることが可能となる。
【0008】
上記刃先交換式切削工具において、前記シート部材は、前記角度調整部材側に延びる係合爪を有し、前記角度調整部材は、前記取付面に交差する交差軸方向に延び、前記工具本体に形成された第一雌ネジ孔に噛みあう第一ネジ軸部と、前記第一ネジ軸部の一端部に形成され、前記係合爪に係合するシート係合部と、を一体に有していてもよい。
【0009】
この場合、角度調整部材を第一ネジ軸部の軸回りに回転させると、第一ネジ軸部とともに、第一ネジ軸部の一端部に形成されたシート係合部が交差軸方向に進退する。これにより、シート係合部が係合する係合爪が、交差軸方向に変位し、シート部材のインサート取付座に対する傾斜角度が変わる。このようにして、シート部材の傾斜角度を変えることで、切削インサートのインサート取付座に対する傾斜角度を変更することができる。
また、このような角度調整部材によれば、第一ネジ軸部の軸回りにおける第一ネジ軸部の回転角度と、第一ネジ軸部およびシート係合部の交差軸方向への進退寸法、つまり切削インサートのインサート取付座に対する傾斜角度と、が相関する。これにより、軸回りの第一ネジ軸部の回転角度から、切削インサートのインサート取付座に対する傾斜角度の変化量を容易に把握できる。また、角度調整部材を軸回りに回転させることによって、切削インサートの傾斜角度を無段階に調整することもできる。
【0010】
上記刃先交換式切削工具において、前記シート係合部は、前記係合爪を、前記交差軸方向の一方側と他方側との双方から挟み込む一対の係合突起を有するようにしてもよい。
【0011】
この場合、角度調整部材を軸回りに回転させ、シート係合部を交差軸方向の一方側、交差軸方向の他方側のいずれに変位させても、一対の係合突起によって係合爪を交差軸方向に変位させることができる。
【0012】
上記刃先交換式切削工具において、一対の前記係合突起は、前記第一ネジ軸部の径方向外側に向かって、前記交差軸方向の間隔が漸次拡大する傾斜面を有しているようにしてもよい。
【0013】
この場合、一対の係合突起が、第一ネジ軸部の径方向外側に向かって、交差軸方向の間隔が漸次拡大する傾斜面を有しているので、シート部材のインサート取付座に対する傾斜角度が変わる際に、交差軸方向に変位する係合爪が、一対の係合突起に接触した状態を維持することができる。
【0014】
上記刃先交換式切削工具において、前記シート係合部は、一対の前記係合突起の間に、前記第一ネジ軸部を中心として周方向に延びる円弧状の外周湾曲面を有し、前記係合爪は、前記外周湾曲面に対して前記径方向外側から突き当たり、前記外周湾曲面よりも曲率半径が小さい先端湾曲面を有するようにしてもよい。
【0015】
この場合、シート係合部の一対の係合突起の間に形成された外周湾曲面に、係合爪が径方向外側から突き当たることで、シート係合部の径方向内側へのシート部材の変位が拘束される。先端湾曲面の曲率半径が外周湾曲面の曲率半径よりも小さいので、先端湾曲面は、その両端部で外周湾曲面に接触する。これにより、係合爪がシート係合部に対して安定的に接触する。
【0016】
上記刃先交換式切削工具において、前記工具本体に設けられ、前記角度調整部材の前記インサート軸方向の一方側への移動を規制する規制部材をさらに備えるようにしてもよい。
【0017】
この場合、規制部材により、角度調整部材のインサート軸方向の一方側への移動が規制される。これにより、シート部材のインサート取付座に対する傾斜角度が、一定以上変化するのを抑えることができる。
【0018】
上記刃先交換式切削工具において、前記シート部材は、前記インサート軸方向の一方側を向く第一板面と、前記インサート軸方向の他方側を向く第二板面と、を有し、前記第一板面と前記第二板面とが互いに非平行であり、前記第一板面が前記切削インサートの前記裏面と接触するようにしてもよい。
【0019】
この場合、シート部材の第一板面と第二板面とが非平行であるので、第一板面が切削インサートの裏面に接触し、第二板面が取付面に接触した状態であっても、切削インサートがインサート取付座に対して傾斜する。このようなシート部材の角度を、角度調整部材によって調整することで、切削インサートのインサート取付座に対する傾斜角度を調整することができる。
【0020】
上記刃先交換式切削工具において、前記シート部材は、前記第二板面が前記取付面に突き当たることで、前記インサート軸方向の他方側への移動が規制されるようにしてもよい。
【0021】
この場合、第二板面が取付面に突き当たることで、シート部材のインサート軸方向の他方側への移動が規制される。これにより、シート部材のインサート取付座に対する傾斜角度が、一定以上変化するのを抑えることができる。
【0022】
上記刃先交換式切削工具において、前記シート固定部材は、前記インサート中心軸を挟んだ前記角度調整部材の反対側から、前記シート部材を前記角度調整部材側に押圧可能とされているようにしてもよい。
【0023】
この場合、シート固定部材で、インサート中心軸を挟んだ角度調整部材の反対側から、シート部材を角度調整部材側に押圧することで、シート部材をシート固定部材と角度調整部材とで挟み込み、シート部材を、角度調整部材によって調整された傾斜角度に固定することができる。
【0024】
上記刃先交換式切削工具において、前記シート固定部材は、前記インサート中心軸に交差する方向に延び、前記工具本体に形成された第二雌ネジ孔に噛みあう第二ネジ軸部と、前記第二ネジ軸部に対して前記角度調整部材から離間する方向に形成され、前記第二ネジ軸部の径方向外側に拡がる座面を有したネジ頭部と、を有し、前記シート部材は、前記座面の一部が突き当たるネジ受け面を有し、前記シート固定部材の前記座面は、前記ネジ受け面に対し、前記インサート軸方向の他方側に向かって前記ネジ受け面から漸次離間するよう傾斜して突き当たるようにしてもよい。
【0025】
この場合、第二ネジ軸部を、工具本体に形成された第二雌ネジ孔にネジ込んでいくと、シート固定部材のネジ頭部に形成された座面の一部が、ネジ受け面を押圧する。これにより、インサート中心軸を挟んだ角度調整部材の反対側から、シート部材が角度調整部材側に押圧される。シート固定部材のネジ頭部に形成された座面が、ネジ受け面に対し、インサート軸方向の他方側に向かってネジ受け面から漸次離間するよう傾斜して突き当たるので、第二ネジ軸部を第二雌ネジ孔にネジ込んでいくと、座面の一部がネジ受け面に食い込むように、ネジ受け面を押圧する。したがって、第二ネジ軸部を第二雌ネジ孔にネジ込んでいく際に、座面がネジ受け面から脱落してしまうことが抑えられる。これにより、シート固定部材により、シート部材を確実に固定することができる。
【0026】
上記刃先交換式切削工具において、前記切刃は、V字状のネジ切り刃を含み、前記切削インサートは、被削材をネジ加工するネジ切りインサートであるようにしてもよい。
【0027】
この場合、ネジ切りインサートを用いたネジ加工では、被削材に加工するネジのリード角に応じて、ネジ切りインサートをインサート取付座に傾ける。本発明によれば、インサート取付座へのネジ切りインサートの取り付け姿勢(傾き)を容易に変更することができる。したがって、インサート取付座に対する切削インサートの傾斜角度の変更を容易に行い、ネジの生産効率を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の一つの態様の刃先交換式切削工具によれば、インサート取付座に対する切削インサートの傾斜角度の変更を容易に行い、生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施形態の刃先交換式切削工具を示す斜視図である。
図2】本発明の一実施形態の刃先交換式切削工具の斜視展開図である。
図3】本発明の一実施形態の刃先交換式切削工具を平面図である。
図4】本発明の一実施形態の刃先交換式切削工具の斜視断面図である。
図5図3のI-I矢視断面図である。
図6】本発明の一実施形態の刃先交換式切削工具のシート固定部材の軸線に沿った面における断面図である。
図7】本発明の一実施形態の刃先交換式切削工具のシート部材を斜め下方から視た図である。
図8】本発明の一実施形態の刃先交換式切削工具において、角度調整部材の外周湾曲面とシート部材の接合爪を示す平断面図である。
図9】本発明の一実施形態の刃先交換式切削工具における、シート固定部材の座面とシート部材のネジ受け面との接触状態を示す拡大断面図である。
図10】本発明の一実施形態の刃先交換式切削工具における角度調整部材を示す図である。
図11】本発明の一実施形態の刃先交換式切削工具において、角度調整部材によりシート部材の傾斜角度を調整した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の一実施形態の刃先交換式切削工具1について、図面を参照して説明する。本実施形態の刃先交換式切削工具1は、旋削加工(ターニング)に用いられる刃先交換式バイトであり、図示しない旋盤などの工作機械の刃物台等に着脱可能に装着される。具体的にこの刃先交換式切削工具1は、被削材にネジ加工を施す刃先交換式ネジ切り工具である。
【0031】
図1から図4に示すように、刃先交換式切削工具1は、板状の切削インサート2と、インサート取付座32を有する工具本体3と、シート部材4と、インサート固定部材5と、角度調整部材6(図2図4参照)と、規制部材7と、シート固定部材8と、を備える。
【0032】
工具本体3は、略角柱状であり、図示しない工具中心軸に沿って延びる。インサート取付座32は、工具本体3の両端部(第1端部3aおよび図示しない第2端部)のうち、第1端部3aに配置される。工具本体3は、互いに反対方向を向く頂面31aおよび底面、互いに反対方向を向く一対の横面31b,31c、ならびに、第1端部3aの端面に位置する先端面31dを有する。
【0033】
〔方向の定義〕
本実施形態では、工具本体3の工具中心軸が延びる方向を、工具軸方向と呼ぶ。工具軸方向のうち、工具本体3の第2端部から第1端部3aへ向かう方向を先端側と呼び、第1端部3aから第2端部へ向かう方向を後端側と呼ぶ。
工具中心軸と直交する方向のうち、工具本体3の一対の横面31b,31cが向く方向を、工具幅方向(左右方向)と呼ぶ。工具幅方向は、切削加工時に被削材に対して刃先交換式切削工具1が送られる方向、つまり工具送り方向に相当する。工具幅方向のうち、一方の横面31bから他方の横面31cへ向かう方向を左側と呼び、他方の横面31cから一方の横面31bへ向かう方向を右側と呼ぶ。
工具中心軸と直交し、かつ工具幅方向と直交する方向を上下方向(高さ方向)と呼ぶ。
上下方向は、工具本体3の頂面31aおよび底面が向く方向である。上下方向のうち、切削インサート2の後述するすくい面26が向く方向を上側と呼び、すくい面26が向く方向とは反対方向を下側と呼ぶ。
なお本実施形態において、左側、右側、上側および下側とは、単に各部の相対位置関係を説明するための名称であり、実際の配置関係等は、これらの名称で示される配置関係以外の配置関係等であってもよい。
【0034】
図1図5に示すように、切削インサート2は、インサート中心軸Aを中心とする板状であり、互いに反対方向を向く一対の板面21,22を有する。一対の板面21,22のうち一方の板面21は、表面(おもてめん)21であり、他方の板面22は、裏面22である。
本実施形態では、切削インサート2のインサート中心軸Aが延びる方向を、インサート軸方向と呼ぶ。インサート軸方向のうち、表面21から裏面22へ向かう方向をインサート軸方向の表面21から裏面22側、または単にインサート軸方向の裏面22側と呼ぶ。インサート軸方向のうち、裏面22から表面21へ向かう方向をインサート軸方向の裏面22から表面21側、または単にインサート軸方向の表面21側と呼ぶ。
インサート中心軸Aと直交する方向をインサート径方向と呼ぶ。インサート径方向のうち、インサート中心軸Aに近づく方向をインサート径方向の内側と呼び、インサート中心軸Aから離れる方向をインサート径方向の外側と呼ぶ。
インサート中心軸A回りに周回する方向をインサート周方向と呼ぶ。
【0035】
〔切削インサート〕
切削インサート2は、例えば超硬合金製である。本実施形態では切削インサート2が、多角形板状であり、具体的には三角形板状である。切削インサート2は、インサート中心軸Aを中心として60°回転対称形状である。切削インサート2は、略正三角形板状である。切削インサート2は、3つのコーナ部を有する。切削インサート2は、片面タイプであり、つまり表裏反転対称形状ではない。本実施形態の切削インサート2は、被削材をネジ加工するネジ切りインサートである。
【0036】
切削インサート2は、インサート軸方向を向く表面21および裏面22と、インサート径方向の外側を向く外周面23と、表面21と外周面23とが接続される稜線部に配置される切刃24と、少なくとも表面21に開口する取付孔25と、を有する。
【0037】
表面21は、三角形状であり、具体的には略正三角形状である。表面21は、すくい面26を有する。すくい面26は、切刃24と接続される。すくい面26は、切刃24のインサート径方向の内側に配置される。すくい面26は、各コーナ部にそれぞれ配置される。つまりすくい面26は、表面21にコーナ部の数と同数設けられ、本実施形態では、インサート周方向に互いに間隔をあけて3つ設けられる。
【0038】
裏面22は、三角形状であり、具体的には略正三角形状である。図4図5に示すように、裏面22は、着座面27を有する。着座面27は、インサート中心軸Aと垂直な方向に拡がる平面状である。
【0039】
外周面23は、インサート中心軸Aを中心とする環状である。外周面23は、インサート周方向に延びる。外周面23は、逃げ面28を有する。逃げ面28は、切刃24と接続される。逃げ面28は、切刃24のインサート軸方向の裏面22側に配置される。逃げ面28は、各コーナ部にそれぞれ配置される。つまり逃げ面28は、外周面23にコーナ部の数と同数設けられ、本実施形態では、インサート周方向に互いに間隔をあけて3つ設けられる。
【0040】
切刃24は、各コーナ部にそれぞれ配置される。つまり切刃24は、表面21と外周面23とが接続される稜線部に、コーナ部の数と同数設けられ、本実施形態では、インサート周方向に互いに間隔をあけて3つ設けられる。すなわち切刃24は、切削インサート2に複数設けられる。複数の切刃24は、互いに同一の構成を有する。切刃24は、すくい面26と逃げ面28とが接続される稜線部に配置される。
【0041】
すくい面26のうち切刃24と隣接する部分は、インサート径方向の内側へ向かうに従い、インサート軸方向の表面21側に位置する傾斜面状である。すなわち、切刃24のすくい角は、ネガティブ角である。
切刃24は、V字状のネジ切り刃を含む。ネジ切り刃は、被削材の周面にネジ加工を施す刃である。特に図示しないが、切刃24は、ネジ切り刃と隣り合うさらい刃を含んでいてもよい。さらい刃は、ネジ加工されたネジ山の頂部のバリを除去する刃である。
【0042】
図1図3に示すように、本実施形態では取付孔25が、表面21および裏面22に開口する。つまり取付孔25は、切削インサート2をインサート軸方向に貫通する孔である。取付孔25は、インサート中心軸Aを中心とする略円孔状である。
【0043】
取付孔25は、インサート軸方向の表面21から裏面22側へ向かうに従いインサート径方向の内側に位置する傾斜面部25aと、傾斜面部25aのインサート軸方向の裏面22側に配置される円孔部25bと、を有する。傾斜面部25aは、取付孔25のうち少なくともインサート軸方向の表面21側部分に位置する。本実施形態では傾斜面部25aが、取付孔25のうちインサート軸方向の裏面22側の端部以外の部分に配置される。円孔部25bは、インサート中心軸Aを中心とする円孔状であり、インサート軸方向に延びる。円孔部25bは、取付孔25のうちインサート軸方向の裏面22側の端部に配置される。
【0044】
〔工具本体〕
工具本体3は、例えば鋼材等の金属製である。
工具本体3の外面のうち、頂面31aは、上側を向く。頂面31aのうち工具本体3の第1端部3aつまり先端部に位置する部分は、第1端部3a以外の部分よりも、上側に突出する。工具本体3の外面のうち、一方の横面31bは、右側を向く。一方の横面31bのうち工具本体3の第1端部3aに位置する部分は、第1端部3a以外の部分よりも、右側に突出する。工具本体3の外面のうち、先端面31dは、工具軸方向の先端側を向く。先端面31dは、工具中心軸と垂直な平面状の部分を有する。
【0045】
図2に示すように、工具本体3は、切削インサート2が着脱可能に装着されるインサート取付座32と、クランプ挿入穴34と、クランプ雌ネジ穴35と、規制部材固定座36と、規制部材ネジ穴37と、角度調整部材挿入孔38と、固定部材ネジ穴39と、を有する。
【0046】
インサート取付座32は、工具本体3の第1端部3aに配置される。インサート取付座32は、工具本体3の第1端部3aつまり先端部において、頂面31a、一方の横面31bおよび先端面31dに開口する。インサート取付座32は、工具本体3の頂面31a、一方の横面31bおよび先端面31dから窪む凹状である。インサート取付座32の形状は、切削インサート2の形状と対応しており、本実施形態では略三角形凹状である。インサート取付座32は、上側を向く取付面32aと、一対の側壁32b,32cと、を有する。
取付面32aは、頂面31aに対して下方に形成される。取付面32aは、上下方向と垂直な方向に拡がる平面状である。取付面32aには、後述するシート部材4の第二板面41bが接触する。
【0047】
一対の側壁32b,32cは、切削インサート2の外周面23、及びシート部材4の外周面41sと接触する。一対の側壁32b,32cのうち、一方の側壁32bは、工具軸方向の先端側かつ右側を向く壁面である。一方の側壁32bの上部は、切削インサート2の外周面23と接触する。一方の側壁32bの下部は、シート部材4の外周面41sと接触する。
一対の側壁32b,32cのうち、他方の側壁32cは、工具軸方向の後端側かつ右側を向く壁面である。他方の側壁32cは、上下方向の寸法よりもインサート周方向の寸法が大きい長方形状である。他方の側壁32cの上部は、切削インサート2の外周面23と接触する。他方の側壁32cの下部は、シート部材4の外周面41sと接触する。
【0048】
クランプ挿入穴34は、工具本体3の第1端部3aつまり先端部に配置される。クランプ挿入穴34は、インサート取付座32と隣り合って配置される。クランプ挿入穴34は、インサート取付座32の後端側に位置する。クランプ挿入穴34は、工具本体3の頂面31aに開口し、上下方向に延びる。クランプ挿入穴34には、後述するクランプ部材50の下端部が挿入される。
【0049】
クランプ挿入穴34は、円穴部34aと、溝部34bと、を有する。円穴部34aは、頂面31aに開口する円穴状である。円穴部34aは、上下方向に延びる。溝部34bは、円穴部34aの内周面の一部から円穴部34aの径方向外側に窪み、上下方向に延びる溝状である。溝部34bは、頂面31aに開口する。溝部34bは、円穴部34aの内周面のうち、円穴部34aの中心軸を間に挟んでインサート取付座32とは反対側に位置する部分に配置される。
【0050】
クランプ雌ネジ穴35は、クランプ挿入穴34の円穴部34aの底面に開口し、上下方向に延びる。クランプ雌ネジ穴35は、その内周面に雌ネジ部を有する。クランプ雌ネジ穴35は、後述するクランプネジ58が螺着される。
【0051】
図2図5図6に示すように、規制部材固定座36は、後述する規制部材7を固定する。規制部材固定座36は、工具本体3の第1端部3aつまり先端部に配置される。規制部材固定座36は、インサート取付座32と隣り合って配置される。規制部材固定座36は、インサート取付座32に対し、他方の横面31c側に位置する。規制部材固定座36は、固定面36aと、側壁36b、36c(図2参照)と、を有する。
固定面36aは、頂面31aに対して下方に形成される。固定面36aは、上下方向と垂直な方向に拡がる平面状である。固定面36aには、後述する規制部材7の規制プレート71の下面が接触する。
側壁36b、36cは、規制プレート71の外側面と接触する。側壁36bは、工具軸方向の先端側を向く壁面である。側壁36bは、固定面36aの後端部から上方に立ち上がる。側壁36cは、右側を向く壁面である。側壁36cは、固定面36aの左端部から上方に立ち上がる。
【0052】
規制部材ネジ穴37は、固定面36aに開口し、上下方向に延びる。規制部材ネジ穴37は、その内周面に雌ネジ部を有する。規制部材ネジ穴37は、後述するプレート固定ネジ72が螺着される。
【0053】
図2図4図5に示すように、角度調整部材挿入孔38は、後述する角度調整部材6が挿入される。角度調整部材挿入孔38は、工具本体3の第1端部3aつまり先端部に配置される。角度調整部材挿入孔38は、左右方向において、インサート取付座32と規制部材固定座36との間に配置される。角度調整部材挿入孔38は、側壁32b,32cどうしが交差するインサート取付座32の左端部の頂部に対応する位置に配置される。角度調整部材挿入孔38は、大径孔部38aと、第一雌ネジ孔38bと、を有する。
【0054】
大径孔部38aは、角度調整部材挿入孔38の上部で、上下方向に延びる。大径孔部38aは、第一雌ネジ孔38bよりも内径が大きい。大径孔部38aの下端には、第一雌ネジ孔38bは、大径孔部38aの下側に連続して形成される。第一雌ネジ孔38bは、大径孔部38aに連続して上下方向に延びる。第一雌ネジ孔38bは、その内周面に雌ネジ部を有する。第一雌ネジ孔38bは、後述する角度調整部材6が螺着される。
【0055】
図2図6に示すように、固定部材ネジ穴39は、後述するシート固定部材8が挿入される。固定部材ネジ穴39は、工具本体3の第1端部3aつまり先端部に配置される。固定部材ネジ穴39は、インサート取付座32の下側に配置される。固定部材ネジ穴39は、工具本体3の一方の横面31bに開口し、左右方向に延びる。固定部材ネジ穴39は、左方に向かって斜め下方に延びるように傾斜する。固定部材ネジ穴39は、頭部収容部39aと、第二雌メジ孔39bと、を有する。
【0056】
頭部収容部39aは、一方の横面31bから左方に窪むように形成される。頭部収容部39aは、取付面32aから下方に窪むように形成される。頭部収容部39aは、第二雌メジ孔39bよりも内径が大きい。第二雌メジ孔39bは、その内周面に雌ネジ部を有する。第二雌メジ孔39bは、後述するシート固定部材8の第二ネジ軸部81が螺着される。シート固定部材8のネジ頭部82の一部は、第二ネジ軸部81を第二雌メジ孔39bに螺着させた状態で、取付面32aよりも上方に突出する。
【0057】
〔シート部材〕
図1図2図4図5に示すように、シート部材4は、工具本体3の凹状のインサート取付座32に配置される。シート部材4は、インサート取付座32の取付面32aと切削インサート2との間に配置される。シート部材4は、例えば合金製である。図2図4図5に示すように、シート部材4は、シート部材本体41と、係合爪42と、を一体に有する。
【0058】
本実施形態ではシート部材本体41が、多角形板状であり、具体的には三角形板状である。シート部材本体41は、略正三角形板状である。シート部材4は、3つのコーナ部を有する。
シート部材本体41は、上下方向を向く第一板面41aおよび第二板面41bと、開口41c(図2参照)と、インサート径方向の外側を向く外周面41sと、を有する。第一板面41aは、上側を向く。第一板面41aは、略三角形の平面状である。第二板面41bは、下側を向く。第二板面41bは、略三角形の平面状である。開口41cは、第一板面41a、第二板面41bに開口する。すなわち、開口41cは、シート部材本体41を上下方向に貫通する。
【0059】
本実施形態では、シート部材本体41の第一板面41a、第二板面41b同士は、非平行、つまり互いに平行ではなく、第一板面41a、第二板面41b同士の間に傾斜角が付与される。第一板面41aと第二板面41bとは、右方から左方に向かって上下方向の間隔が漸次小さくなるように傾斜して配置される。なお、シート部材本体41の第一板面41a、第二板面41b同士が互いに平行であってもよい。
シート部材本体41の第一板面41aは、切削インサート2の裏面22と接触する。シート部材4の第二板面41bは、インサート取付座32の取付面32aの上側に配置される。シート部材本体41は、係合爪42を挟んで両側に位置する2つの外周面41sを、一対の側壁32b,32cに接触させた状態で配置される。
【0060】
図2図7に示すように、係合爪42は、シート部材本体41の3つのコーナ部の内の一つに配置される。係合爪42は、シート部材本体41の左方の端部に配置される。係合爪42は、シート部材本体41から左方に突出するよう配置される。図5図7に示すように、係合爪42の上下方向の厚みは、シート部材本体41の上下方向の厚みよりも小さい。係合爪42は、シート部材本体41の上下方向の中央部から左方に突出するよう配置される。
【0061】
図7に示すように、係合爪42は、上面42aと、下面42bと、一対の側面42c、42dと、先端湾曲面42sと、を有する。図7,図8に示すように、係合爪42は、左方に向かって上下方向の厚みが漸次縮小するよう形成される。すなわち、一対の側面42c、42dは、シート部材本体41から左方に向かって上下方向の間隔が漸次接近するよう傾斜する。一対の側面42c、42dは、上方から見た際に、シート部材本体41において係合爪42を挟んだ両側に位置する2つの外周面41s(図7参照)に連続して延びる。先端湾曲面42sは、係合爪42の左端に配置される。先端湾曲面42sは、上方から見た際に、一対の側面42c、42dどうしを接続するように形成される。先端湾曲面42sは、上方から見た際に、右方に円弧状に窪むように湾曲する。
【0062】
図6図7図9に示すように、シート部材4は、ネジ受け面48を有する。ネジ受け面48は、後述するシート固定部材8のネジ頭部82に形成された座面82fが突き当たる。ネジ受け面48は、第二板面41bから上方に窪む凹部49に形成される。ネジ受け面48は、第二板面41bに交差する面に沿って形成され、左方を向く。ネジ受け面48は、第二板面41bから上方に向かって斜め上方に延びる。
【0063】
〔インサート固定部材〕
図1図5に示すように、インサート固定部材5は、切削インサート2、及びシート部材4を、インサート取付座32に固定する。本実施形態のインサート固定部材5は、クランプ部材50と、クランプネジ58と、を備える。クランプ部材50は、いわゆるクランプ駒である。クランプ部材50は、筒部51と、リブ部52(図3参照)と、延出部53と、押圧部54と、を有する。
筒部51は、上下方向に延びる円筒状である。筒部51の下端部は、クランプ挿入穴34の円穴部34a内に挿入される。図3に示すように、リブ部52は、筒部51の外周面の一部から突出し、上下方向に延びるリブ状である。リブ部52は、筒部51から延出部53が突出する向きとは反対側へ向けて、筒部51から突出する。本実施形態ではリブ部52が、上下方向において、筒部51の上端部以外の部分に位置する。リブ部52は、クランプ挿入穴34の溝部34bに嵌合する。これにより、クランプ挿入穴34に対してクランプ部材50が、筒部51の中心軸回りに回転することが規制される。
【0064】
図1図2図4図5に示すように、延出部53は、筒部51の外周面の一部から突出し、筒部51の中心軸と直交する方向に延びる。延出部53は、筒部51の上端部から、切削インサート2へ向けて突出する。延出部53の一部は、切削インサート2の表面21に対して、上側から隙間をあけて対向する。つまり延出部53は、切削インサート2の上側に位置する。
【0065】
押圧部54は、延出部53の先端部から下側に突出し、切削インサート2の取付孔25内に挿入される。つまり押圧部54は、取付孔25の内部に配置される。押圧部54は、取付孔25の傾斜面部25aに接触する。
【0066】
図2に示すように、クランプネジ58は、ネジ頭部58aと、ネジ軸部58bと、を有する。クランプネジ58は、ネジ軸部58bの外周面に雄ネジ部を有する。クランプネジ58は、クランプ部材50の上側から筒部51内に挿入される。ネジ頭部58aが筒部51の上端部に接触した状態で、クランプネジ58のネジ軸部58bは、筒部51から下方に突出する。ネジ軸部58bの雄ネジ部は、クランプ雌ネジ穴35内で雌ネジ部に螺着される。これにより、ネジ頭部58aが筒部51の上端面を下側へ押圧し、クランプ部材50の押圧部54が切削インサート2の取付孔25を押圧して、切削インサート2、及びシート部材4が工具本体3に固定される。
【0067】
〔角度調整部材〕
図2図4図5に示すように、角度調整部材6は、取付面32aに対するシート部材4の傾斜角度を調整する。角度調整部材6は、工具本体3の上側から角度調整部材挿入孔38内に挿入される。角度調整部材6は、第一ネジ軸部61と、シート係合部62と、を一体に有する。第一ネジ軸部61は、角度調整部材挿入孔38の第一雌ネジ孔38bに噛みあう雄ネジ部を有する。第一ネジ軸部61は、角度調整部材挿入孔38内で、取付面32aに交差する上下方向(交差軸方向)に延びる。
【0068】
シート係合部62は、第一ネジ軸部61の上端部(一端部)に形成される。シート係合部62は、角度調整部材挿入孔38内で大径孔部38aに収容される。シート係合部62は、係合爪42に係合する。図4図5図10に示すように、シート係合部62は、一対の係合突起63、64と、外周湾曲面65と、工具係合部66と、を有する。
【0069】
一対の係合突起63、64は、上下方向に間隔をあけて配置される。一対の係合突起63、64は、第一ネジ軸部61に対して径方向外側に拡径する。一対の係合突起63、64は、第一ネジ軸部61回りの周方向に延びる円形状に形成される。一対の係合突起63、64は、係合爪42を、上下方向の両側(交差軸方向の一方側と他方側との双方)から挟み込む。図5に示すように、一対の係合突起63、64は、傾斜面63s、64sを有する。傾斜面63s、64sは、第一ネジ軸部61の径方向外側に向かって、上下方向の間隔が漸次拡大するよう傾斜する。
【0070】
外周湾曲面65は、一対の係合突起63、64の間に配置される。図8に示すように、外周湾曲面65は、径方向の外側を向き、第一ネジ軸部61を中心として周方向に延びる円弧状に形成される。外周湾曲面65には、係合爪42が径方向外側から突き当たる。ここで、係合爪42の先端湾曲面42sの曲率半径R1は、外周湾曲面65の曲率半径R2よりも小さい。したがって、係合爪42は、先端湾曲面42sの周方向の両端部42eで外周湾曲面65に突き当たる。
【0071】
図2図4に示すように、工具係合部66は、上側の係合突起64の上面に形成される。工具係合部66は、角度調整部材6を第一ネジ軸部61の軸回りに回転させるためのレンチ等の工具(図示無し)が係合される。工具は、工具本体3の頂面31aから、角度調整部材挿入孔38を通して、工具係合部66に係合される。
【0072】
図5図11に示すように、このような角度調整部材6を軸回りに回転させると、角度調整部材挿入孔38内で、第一ネジ軸部61とともに、シート係合部62が上下方向に進退する。これにより、シート係合部62が係合する切削インサート2の係合爪42が、上下方向に変位し、インサート取付座32に対する、シート部材4及び切削インサート2の傾斜角度θ(図11参照)が調整される。
【0073】
〔規制部材〕
図1図6に示すように、規制部材7は、角度調整部材6の上方(交差軸方向の一方側)への移動を規制する。規制部材7は、工具本体3に設けられる。規制部材7は、規制プレート71と、プレート固定ネジ72と、を備える。
【0074】
規制プレート71は、例えば合金製である。規制プレート71は、板状である。規制プレート71は、規制部材固定座36の固定面36a上に配置される。規制プレート71の外周面は、規制部材固定座36の側壁36b、36cに接触する。図1図4に示すように、規制プレート71は、ネジ挿通孔71h(図2参照)と、逃げ凹部71kと、を有する。
【0075】
図2図6に示すように、ネジ挿通孔71hは、規制プレート71の左側の端部に配置される。ネジ挿通孔71hは、規制プレート71を上下に貫通する。図1図4に示すように、逃げ凹部71kは、規制プレート71の右側の端部に配置される。図3に示すように、逃げ凹部71kは、上方から見た際に、角度調整部材挿入孔38内の角度調整部材6と重なる位置に配置される。逃げ凹部71kは、左方に窪むように形成され、角度調整部材6の工具係合部66に係合させる工具(図示無し)を上方から挿通可能とする。
図4図5図11に示すように、規制プレート71の逃げ凹部71kの周縁部には、下方に突出する規制凸部71tが形成される。規制凸部71tは、上方から見た際に、角度調整部材6のシート係合部62の外周部の一部と重なる。
【0076】
図2図4図6に示すように、プレート固定ネジ72は、ネジ頭部72aと、ネジ軸部72bと、を有する。プレート固定ネジ72は、ネジ軸部72bの外周面に雄ネジ部を有する。プレート固定ネジ72は、規制プレート71の上側からネジ挿通孔71hを通して規制部材ネジ穴37に挿入される。ネジ軸部72bの雄ネジ部は、規制部材ネジ穴37内で雌ネジ部に螺着される。これにより、ネジ頭部72aが規制プレート71を下側へ押圧し、規制プレート71が工具本体3に固定される。
【0077】
図11に示すように、このようにして工具本体3に固定される規制プレート71は、シート係合部62の外周部が逃げ凹部71kの周縁部に下方から突き当たることで、角度調整部材6の上方(交差軸方向の一方側)への移動を規制する。つまり、角度調整部材6によって傾斜角度が調整されるシート部材4、及び切削インサート2は、上方、つまり取付面32aに対する傾斜角度θが増大する方向への変位が、規制プレート71によって規制される。
また、図5に示すように、シート部材4、及び切削インサート2は、シート部材4の第二板面41bが取付面32aに突き当たることで、下方(インサート軸方向の他方側)、つまり取付面32aに対する傾斜角度θが小さくなる方向への変位が規制される。
【0078】
〔シート固定部材〕
図2図6図9に示すように、シート固定部材8は、シート部材4を、角度調整部材6によって調整された任意の傾斜角度に固定する。シート固定部材8は、ボルトであり、第二ネジ軸部81と、ネジ頭部82と、を有する。第二ネジ軸部81は、その外周面に雄ネジ部を有する。図6図9に示すように、シート固定部材8は、左方に向かって斜め下方に延びるように配置された固定部材ネジ穴39内に配置される。第二ネジ軸部81は、工具本体3の右側から固定部材ネジ穴39内に挿入される。第二ネジ軸部81の雄ネジ部は、第二雌メジ孔39b内で雌ネジ部に螺着される。
【0079】
ネジ頭部82は、第二ネジ軸部81の端部に一体に形成される。ネジ頭部82は、第二ネジ軸部81の径方向外側に拡がる座面82fを有している。ネジ頭部82は、固定部材ネジ穴39内で第二ネジ軸部81に対して角度調整部材6から離間する側(右側)に配置される。ネジ頭部82の下部は、頭部収容部39aに収容される。ネジ頭部82の一部(頂部)は、取付面32aよりも上方に突出し、シート部材4の第二板面41bから上方に窪む凹部49内に収容される。
ネジ頭部82の座面82fは、凹部49内で、ネジ受け面48に突き当たる。座面82fは、ネジ受け面48に対し、下方(インサート軸方向の他方側)に向かってネジ受け面48から右側に漸次離間するよう傾斜して突き当たる。これにより、シート固定部材8は、インサート中心軸Aを挟んだ角度調整部材6の反対側(右側)から、シート部材4を角度調整部材6側(左側)に押圧可能とされる。
【0080】
切削加工時には、あらかじめ、角度調整部材6をその中心軸回りに回転させることで、シート部材4、及び切削インサートの傾斜角度を、被削材に成形するネジのリード角に適合する傾斜角度となるように調整する。
【0081】
〔本実施形態による作用効果〕
以上説明した本実施形態の刃先交換式切削工具1では、角度調整部材6が、取付面32aに対するシート部材4の傾斜角度θを調整する。シート部材4は、切削インサート2の裏面22とインサート取付座32との間に挟み込まれている。このため、取付面32aに対するシート部材4の傾斜角度θが変わると、シート部材4とともに切削インサート2の取付面32aに対する傾斜角度θが変わる。これにより、インサート取付座32に対する切削インサート2の傾きを調整して、被削物に対する、切削インサート2の切刃24の傾斜角度を調整することができる。したがって、被削材に加工するネジのリード角に応じて切刃24が傾くよう、ネジ切りインサートである切削インサート2をインサート取付座32に対して傾けることができる。このため、切削加工するネジのリード角に応じて、一対の板面同士の間に形成される角度(傾斜角)が互いに異なる複数のシート部材をあらかじめ用意する必要がなくなる。その結果、インサート取付座32に対する切削インサート2の傾斜角度θの変更を容易に行い、生産効率を向上させることが可能となる。
【0082】
また、本実施形態では、角度調整部材6が、第一ネジ軸部61と、係合爪42に係合するシート係合部62と、を一体に有する。
この場合、角度調整部材6を軸回りに回転させると、第一ネジ軸部61とともに、第一ネジ軸部61の一端部に形成されたシート係合部62が上下方向(取付面32aに交差する交差軸方向)に進退する。これにより、シート係合部62が係合する、切削インサート2の係合爪42が、上下方向に変位し、シート部材4のインサート取付座32に対する傾斜角度θを容易に変更することができる。また、このような角度調整部材6によれば、角度調整部材6の第一ネジ軸部61の軸回りの回転角度と、第一ネジ軸部61およびシート係合部62の上下方向への進退寸法、つまりシート部材4のインサート取付座32に対する傾斜角度θが相関する。例えば、角度調整部材6を90°回転させると、シート部材4の傾斜角度θが0.5°変化するように、第一ネジ軸部61の雄ネジ部、角度調整部材挿入孔38の雌ネジ部のピッチを設定する。これにより、第一ネジ軸部61の回転角度から、シート部材4のインサート取付座32に対する傾斜角度θの変化量を容易に把握できる。また、角度調整部材6を軸回りに回転させることによって、切削インサート2の傾斜角度θを無段階に調整することもできる。
【0083】
また本実施形態では、シート係合部62が、係合爪42を挟み込む一対の係合突起63、64を有する。
この場合、角度調整部材6を軸回りに回転させ、シート係合部62を上方(交差軸方向の一方側)、下方(交差軸方向の他方側)のいずれに変位させても、一対の係合突起63、64によって係合爪42を上下方向に変位させることができる。
【0084】
また本実施形態では、一対の係合突起63、64が、傾斜面63s、64sを有する。
この場合、係合爪42が上下方向に変位することによってシート部材4のインサート取付座32に対する傾斜角度θが変わっても、係合爪42が、一対の係合突起63、64に接触した状態を維持することができる。
【0085】
また本実施形態では、シート係合部62が、一対の係合突起63、64の間に外周湾曲面65を有し、係合爪42が、外周湾曲面65よりも曲率半径が小さい先端湾曲面42sを有する。
この場合、シート係合部62の一対の係合突起63、64の間に形成された外周湾曲面65に、係合爪42が径方向外側から突き当たることで、切削インサート2がシート係合部62(角度調整部材6)の径方向内側への変位が拘束される。先端湾曲面42sの曲率半径が外周湾曲面65の曲率半径よりも小さいので先端湾曲面42sは、その両端部42eで外周湾曲面65に接触する。これにより、係合爪42がシート係合部62に対して安定的に接触する。
【0086】
また本実施形態では、角度調整部材6の上方(インサート軸方向の一方側)への移動を規制する規制部材7をさらに備える。
この場合、規制部材7により、角度調整部材6の上方への移動が規制される。これにより、シート部材4のインサート取付座32に対する傾斜角度θが一定以上大きくなるのを抑えることができる。
【0087】
また本実施形態では、シート部材4の第一板面41aと第二板面41bとが互いに非平行であり、第一板面41aが切削インサート2の裏面22と接触する。
この場合、シート部材4の第一板面41aと第二板面41bとが非平行であるので、第一板面41aが切削インサート2の裏面22に接触し、第二板面41bが取付面32aに接触した状態であっても、切削インサート2をインサート取付座32に対して傾斜させることができる。
【0088】
また本実施形態では、第二板面41bが取付面32aに突き当たることで、シート部材4の下方(インサート軸方向の他方側)への移動が規制される。
この場合、シート部材4のインサート取付座32に対する傾斜角度θが一定以上小さくなるのを抑えることができる。
【0089】
また本実施形態では、シート固定部材8は、シート部材4を角度調整部材6側に押圧する。
この場合、シート部材4をシート固定部材8と角度調整部材6とで挟み込み、シート部材4を、角度調整部材6によって調整された傾斜角度θに固定することができる。
【0090】
また本実施形態では、シート固定部材8の座面82fは、ネジ受け面48に対し、下方(インサート軸方向の他方側)に向かってネジ受け面48から漸次離間するよう傾斜して突き当たる。
この場合、シート固定部材8の第二ネジ軸部81を第二雌メジ孔39bにネジ込んでいくと、ネジ頭部82に形成された座面82fが、ネジ受け面48を押圧し、シート部材4を角度調整部材6側に押圧する。シート固定部材8のネジ頭部82に形成された座面82fが、ネジ受け面48に対して傾斜して突き当たるので、第二ネジ軸部81を第二雌メジ孔39bにネジ込んでいく際に、座面82fがネジ受け面48から脱落してしまうことが抑えられる。これにより、シート固定部材8により、シート部材4を確実に固定することができる。
【0091】
また本実施形態では、切削インサート2が、被削材をネジ加工するネジ切りインサートである。
この場合、ネジ切りインサートを用いたネジ加工では、被削材に加工するネジのリード角に応じて、シート部材4の傾斜角度θを変更することによって、インサート取付座32に対する切削インサート2の取り付け姿勢(傾き)を容易に変更することができる。したがって、切削インサート2の傾斜角度の変更を容易に行い、ネジの生産効率を向上させることが可能となる。
【0092】
〔本発明に含まれるその他の構成〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されず、例えば下記に説明するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の変更等が可能である。
【0093】
前述の実施形態では、切削インサート2を工具本体3に固定するため、インサート固定部材5を備える例を挙げたが、これに限らない。切削インサート2、ボルトや適宜のブラケット等を用いて、工具本体3に固定するようにしてもよい。
また切削インサート2は、前述の実施形態で説明した片面タイプに限らず、表裏反転対称形状の両面タイプであってもよい。
【0094】
本発明は、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態および変形例等で説明した各構成を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態等によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0095】
1…1…刃先交換式切削工具
2…切削インサート
3…工具本体
4…シート部材
5…インサート固定部材
6…角度調整部材
7…規制部材
8…シート固定部材
21…表面
22…裏面
23…外周面
24…切刃
32…インサート取付座
32a…取付面
42…係合爪
42s…先端湾曲面
48…ネジ受け面
38b…第一雌ネジ孔
41a…第一板面
41b…第二板面
42…係合爪
42s…先端湾曲面
61…第一ネジ軸部
62…シート係合部
63、64…係合突起
63s、64s…傾斜面
65…外周湾曲面
81…第二ネジ軸部
82…ネジ頭部
82f…座面
A…インサート中心軸
R1、R2…曲率半径
R2…曲率半径
θ…傾斜角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11