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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122051
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】金属母材の表面改質装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20240902BHJP
   C21D 1/06 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
B23K20/12 320
C21D1/06 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029367
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】509311643
【氏名又は名称】株式会社山本金属製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100115200
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修之
(72)【発明者】
【氏名】山本 憲吾
(72)【発明者】
【氏名】酒井 重治
(72)【発明者】
【氏名】村上 浩二
(72)【発明者】
【氏名】松田 亮
(72)【発明者】
【氏名】鹽津 陵雅
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA02
4E167BG05
4E167BG06
4E167BG16
(57)【要約】
【課題】本発明は、金属母材表面上に軸回転する回転ツールを押し下げて摩擦熱を付与することで焼入れや焼き戻し等の表面改質を実行する金属母材の表面改質装置を提供する。
【解決手段】本金属母材の表面改質装置は、回転装置本体に保持され、金属母材表面上で当接移動させながら軸回転させて金属母材表面の所望位置に摩擦熱を付与して該金属母材の表面改質を行う回転ツールと、該回転ツール内で下端側に延びる1つ以上のチャンネルに配設する熱電対と、該熱電対で計測した回転ツールの温度情報を取得し、送信する情報処理伝達装置とを備えている。この回転ツールは、下端面が略平面の円筒形状であり、前記金属母材上で該下端面を当接させて表面改質を行う際に、表面改質の目的に応じて予め設定された深さ方向変位を固定することで金属母材の塑性流動を抑制する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転装置本体に保持され、金属母材表面上で当接移動させながら軸回転させて金属母材表面の所望位置に摩擦熱を付与して該金属母材の表面改質を行う回転ツールと、
該回転ツール内で下端側に延びる1つ以上のチャンネルに配設する熱電対と、
該熱電対で計測した回転ツールの温度情報を取得し、送信する情報処理伝達装置とを備え、
前記回転ツールは、下端面が略平面の円筒形状であり、前記金属母材上で該下端面を当接させて表面改質を行う際に、表面改質の目的に応じて予め設定された深さ方向変位を固定することで金属母材の塑性流動を抑制する、ことを特徴とする金属母材の表面改質装置。
【請求項2】
前記回転装置本体は、前記回転ツールを保持した状態で該回転ツールの軸回転速度と金属母材上の所望する領域内での平面移動速度と予め設定した深さ方向の位置と深さ方向の押し下げ力とをCNC情報に基づいて制御する制御装置を備える、請求項1に記載の金属母材の表面改質装置。
【請求項3】
前記情報処理伝達装置から送信された前記回転ツールの下端側の温度情報と、前記制御装置から取得したCNC制御情報と、から前記回転ツールの平面方向位置における前記金属母材表面の時系列の温度情報を取得する温度/位置モニタリング装置を備える、請求項2に記載の金属母材の表面改質装置。
【請求項4】
前記位置/温度モニタリング装置は、取得した前記回転ツールの平面方向位置における前記金属母材表面の時系列の温度情報に基づいて、前記CNC制御装置を制御するCNC情報のうち前記回転ツールの軸回転速度、又は金属母材上の所望する領域内での平面移動速度、又は深さ方向の押し下げ力、を制御するCNC情報を所望のCNC情報に変更する割り込み制御手段を有する、請求項3に記載の金属母材の表面改質装置。
【請求項5】
前記回転ツールは、アルミナ、窒化ケイ素を含むセラミック素材で形成され、下端を底面が平坦な筒状部材とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の金属母材の表面改質装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属母材表面上に軸回転する回転ツールを押し下げて摩擦熱を付与することで焼入れ等の表面改質を実行する金属母材の表面改質装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
.
従来、金属表面の熱処理として、ガスバーナーによる燃焼炎や高周波による誘導加熱によって金属母材の極表面を急速加熱し、内部温度が上昇する前に急冷して表面だけ硬化させる方法や、レーザー光で金属母材の局部表面を加熱し、自己冷却する焼き入れ等の表面改質方法が存在する。
【0003】
このような表面改質を行う場合、金属母材の内部の無用な温度上昇を抑制する必要があり、熱処理後の品質を考慮すると加熱層(硬化層)の厚さをコントロールする必要がある(特許文献1参照)。一方、金属母材の表面を加熱させる手段として、マシニングセンタの加工ツールによる金属母材の表面での摩擦熱の発生を利用することが知られており、この摩擦熱を表面改質の熱処理に活用することが考えられる(特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、通常の表面焼き入れ等の表面改質での熱処理においては熱処理炉のようなヒートチャートを発行することができず、加熱層の厚さを経験則に頼るしかなく、品質保証がし難いという問題があった。また、マシニングセンタによる摩擦熱を活用しようと企図しても、入熱状態をリアルタイムに計測できないため入熱制御の重要因子であるマシニングセンタの送り速度や回転数に基づく入熱及び金属母材表面の硬化度の管理(熱処理条件の選定)ができなかった。
【0005】
今後、金属加工現場で汎用されているマシニングセンタを活用した高品質な焼き入れが保証される熱処理方法が開発され、拡大されることは、金属表面の熱処理を施している業者において社会的意義が大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-330186号公報
【特許文献2】特開2001-347360号公報
【特許文献3】特開平10-280032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みて創作されたものであり、金属母材表面上に軸回転する回転ツールを押し下げて摩擦熱を付与することで焼入れや焼き戻し等の表面改質を実行すると同時に、熱処理中の温度等を検出・分析しながら軸回転速度や、移動速度、押し込み量を設定又は制御することで好適な入熱・徐熱を行う金属母材の表面改質装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
回転装置本体に保持され、金属母材表面上で当接移動させながら軸回転させて金属母材表面の所望位置に摩擦熱を付与して該金属母材の表面改質を行う回転ツールと、
該回転ツール内で下端側に延びる1つ以上のチャンネルに配設する熱電対と、
該熱電対で計測した回転ツールの温度情報を取得し、送信する情報処理伝達装置とを備え、
前記回転ツールは、下端面が略平面の円筒形状であり、前記金属母材上で該下端面を当接させて表面改質を行う際に、表面改質の目的に応じて予め設定された深さ方向変位を固定することで金属母材の塑性流動を抑制する、ことを特徴とする金属母材の表面改質装置を提供する。
【0009】
また、前記回転装置本体は、前記回転ツールを保持した状態で該回転ツールの軸回転速度と金属母材上の所望する領域内での平面移動速度と予め設定した深さ方向の位置と深さ方向の押し下げ力とをCNC情報に基づいて制御する制御装置を備える、ことが好ましい。
【0010】
本発明の金属母材の表面改質装置では、マシニングセンタ等の金属母材(ワーク)上で平面方向に移動、深さ方向に押し込ませながら(本発明では「押し下げながら」)回転ツールを軸回転させる装置を活用して、金属表面上に生じた摩擦熱により熱処理することで金属母材の表面改質を行う装置を提供している。本表面改質装置では、特許文献@@@で開示されるような出願人が提供してきた回転ツール内の温度をリアルタイム計測する技術を活用して金属母材表面に摩擦熱によるヒートチャートをリアルタイムに取得しながら所望の硬化層を形成することができる。
【0011】
ここで参考として金属母材表面に対して軸回転させて金属母材を接合・熱処理する技術として摩擦攪拌接合(以下、「FSW」とも称する。)や摩擦攪拌プロセッシング(以下、「FSP」とも称する。)が存在する。これらFSW,FSPは金属母材表面で回転ツールを軸回転させて摩擦熱を発生させるという点では本表面改質装置と共通する。しかしながら、本出願人及び発明者は、後述する種々の実験や知見から焼き入れ等の表面改質処理とFSW,FSPとでは、その物性変化が本質的に全く異なるものであり、所望の表面改質処理を行うことが可能な装置開発が要求されることがわかってきた。
【0012】
具体的には、FSW,FSPでは回転ツールを金属母材表面で軸回転させて単に摩擦熱を発生させるだけでは足りず、金属母材の厚み方向(深さ方向)全域にわたって良好な塑性流動が生じさせることが要求されることがわかっており、回転ツールに対して金属母材表面への押込み力を付与することが必須あった。さらに、FSW、FSP用の回転ツールでは、その底面中央で下方に突出するピンが設けられることが多く、このピンが金属母材内での塑性流動を促進する役割を有していることもわかっている。
【0013】
一方、焼き入れ等の表面改質処理は、表面に入熱することで母材表面のみ改質し、硬化層を形成させるものであり、むしろFSWやFSPのような金属母材の厚み方向全域にわたる塑性流動の促進で表面のみ硬化させることが難しくなり、むしろ回避しなければならない。したがって、金属母材表面上に回転ツールを軸回転させることで表面改質を達成する場合、母材表面上で回転ツールをあまり押し込まず、塑性流動を抑制しながら必要な摩擦熱を与える処理を行う必要がある。
【0014】
このような知見から本発明の金属母材の表面改質装置では、まず回転ツールの「底面が平坦な形状(下端面が平面形状)」にし、FSW,FSPで多用されている下方突出したピンがないことを構造上の必須要件とした。また、軸回転状態で回転ツールの底面位置が変化しないように深さ方向の変位を金属母材に応じて「予め設定した深さ方向変位を固定」することとしている。これにより、回転ツールに大きな押込み力を発生させず塑性流動を抑制した状態で金属母材表面上の当接軸回転位置で摩擦熱のみ付与することができる。実際にこの構造の回転ツールを使用して好適な焼き入れ等の表面改質が達成できることも検証されている。
【0015】
なお、金属母材表面上の位置座標で固定することも考えられるが、回転装置本体の位置制御は装置基準の座標系でCNC等制御されており、また回転ツールはその下端が熱処理の経過により変形すること等も生じるため後述するヒートチャートのリアルタイム取得及びこれを活用した回転ツールの位置設定や、CNC制御とも相まって回転ツール基準の座標系で固定させておく方が望ましい。
【0016】
さらに、本発明の金属母材の表面改質装置では、回転ツール内の下端側に熱電対を設置し、そのデータを送信できることとしている。これにより表面改質実行時の金属表面のヒートチャートをリアルタイムに取得することができ、表面改質状態をモニタリングすることができる。このモニタリング結果は、単に現在の位置での表面改質の様子を判定できるだけでなく、その金属母材及び回転ツールにおける好ましい表面改質が実行できる深さ方向の位置(押込み量)・平面移動速度、軸回転速度を取得して次の表面改質処理に反映可能なデータとして蓄積することや、リアルタイムに平面移動速度等をCNC制御して現状の表面改質処理条件を修正することも可能となる。
【0017】
また、本金属母材の表面改質装置は、前記情報処理伝達装置から送信された前記回転ツールの下端側の温度情報と、前記制御装置から取得したCNC制御情報と、から前記回転ツールの平面方向位置における前記金属母材表面の時系列の温度情報を取得する温度/位置モニタリング装置を備える、ことが好ましい。
【0018】
上記本表面改質装置では、回転ツールの下端側の温度情報と、回転ツールの回転速度(軸回転速度)や平面移動速度、押し込み量(予め固定された深さ方向の位置及び押し下げ力に基づく)と、から所定の位置における金属母材表面の温度情報をリアルタイムに取得できる。良好な金属母材表面の改質を行うには金属母材を所定温度範囲内で均一に熱処理する必要があり、目的金属母材の素材と回転ツールの軸回転速度、平面移動速度及び深さ方向の押し込み量を好適に維持する必要があることがわかってきた。本表面改質装置では、表面改質処理中の温度/位置をモニタリングすることで焼き入れ等の熱処理中の位置で好適な表面改質が実行されているか否かを読み取ることができる。
【0019】
また、金属母材表面の改質は、その改質中の金属母材表面の温度に依存するので直接的には金属母材表面の温度を計測することが好ましいが、回転ツールによる摩擦熱を用いる場合には、加熱範囲が金属表面上の薄い部分であり、また回転ツール内の下端側の固定位置で温度計測する方が、放熱の影響や計測位置の変動等の不確実要因を排除する観点からも好ましく、少なくとも平面移動中に金属母材表面を一定の温度に維持し易いことがわかってきた。これを踏まえて本表面改質装置では、回転ツール内の下端側で温度計測し、その温度情報に基づいて算出される金属母材表面の温度を用いて位置/温度モニタリングすることとしている。また、金属母材に対してどのような回転ツールを選択すべきかを比較することもできる。
【0020】
また、前記位置/温度モニタリング装置は、取得した前記回転ツールの平面方向位置における前記金属母材表面の時系列の温度情報に基づいて、前記CNC装置を制御するCNC情報のうち前記回転ツールの軸回転速度、又は金属母材上の所望する領域内での平面移動速度、又は深さ方向の押し下げ力、を制御するCNC情報を所望のCNC情報に変更する割り込み制御手段を有する、ことが好ましい。
【0021】
従来、上述したように本金属母材の表面改質装置に一見近似する技術として回転ツールを用いて金属母材表面を摩擦攪拌するFSWやFSPが存在するが、このFSWやFSPでは回転速度Vr、移動速度Vr、押込み量Dを材質ごとに最適化して好適な加工を実行していた。しかしながら、加工する金属母材の体積が異なる場合、熱放散量(熱伝達係数λ)が変化してしまい加工域の温度Tが一定にならないという問題があった。具体的には、
T=f(Vr, Vt, D, λ)
T:金属母材表面の温度
Vr:回転速度(軸回転速度)
Vt:移動速度
D:押込み量
λ:熱伝達係数
となり、加工する金属母材の体積が異なる場合、Tが変数となって温度制御ができていなかった。
【0022】
これに対して本金属母材の表面改質装置の好適な例では、金属母材が異なり熱伝達係数λが変化するような場合であっても、例えば移動速度Vtを調整することで温度Tが一定になるような加工が可能になる。特に焼き入れや焼き戻しのような表面改質を行う場合、金属母材の材質に応じて熱処理中に温度Tを規定範囲内で一定に維持することが表面改質の良否の最重要課題となる。その一方、表面改質では塑性流動を抑制しつつ入熱する必要があるため、上述したように本表面改質装置では、押込み量Dが固定であり、加えて回転速度Vrも固定にすれば、移動速度Vtを制御することで温度Tの制御も可能である。したがって、
Vt=g(T, Vt, D, λ)
としてTを制御変数にして、上述した温度/位置モニタリング装置で検出された温度情報及び位置情報とCNC情報とに基づいてCNC情報を割り込み変更するフィードバック制御を行うことで、表面改質部の機械的物性を一定に制御できる。これにより焼入れ後に焼き戻すような表面改質処理や種々の素材・体積の金属母材の表面改質が容易となり、金属母材に対してどのような回転ツールを選択すべきかを指差することもできる。
【0023】
さらに好適な一例として前記回転ツールは、アルミナ、窒化ケイ素を含むセラミック素材で形成され、下端を底面が平坦な筒状部材がある。
【0024】
回転ツールを用いて金属母材表面上を摩擦攪拌する従来のFSWやFSPでは、衝撃に弱いセラミック材は、採用することは困難であったが、本金属母材の表面改質装置では、回転ツールの素材例として耐熱性及び高摩耗性を有するセラミック材も好適であることがわかった。表面改質を実行する場合、FSWやFSPのような金属母材の厚み方向にわたった塑性流動を生じさせる必要がなく、金属母材表面の薄い部分のみに摩擦熱を与え、むしろ塑性流動を抑制する必要がある。このため回転ツールの下端面にFSW,FSPのような突起(ピン)はなく平坦であり、押し込み力も小さく過大な衝撃が加えられないためセラミック材も選択できる。むしろ、サラミック材の場合、耐熱性及び高耐摩耗性を有しており、プローブの早期摩耗や摩耗による折損等を回避するためのコーティング処理を行う必要がなく、後述の実験でもセラミック材を用いることにより好適な表面改質が実行されることが検証された。
【発明の効果】
【0025】
以上、本発明の金属母材の表面改質装置によれば、金属母材表面上に軸回転する回転ツールを押し下げて摩擦熱を付与することで焼入れや焼き戻し等の表面改質を実行することができる。また、本表面改質装置では、熱処理中の温度等をリアルタイムに検出・分析することができ、回転ツールの軸回転速度や、移動速度、押し込み量を予め設定する、又は検出された温度等に基づいて回転ツールの軸回転速度や、移動速度、押し込み量をリアルタイムに制御することで好適な入熱・徐熱を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の表面改質装置により金属母材を焼き入れしている様子を示す写真図が示されている。
図2】本発明の表面改質装置の回転ツールの一例を示す略断面図である。
図3】(a)に実験例1における金属母材表面の熱処理部の写真図、(b)にこの金属母材(HMD5)における焼入温度と硬さ(HRC硬さ)との関係のグラフ図が示されている。
図4図3(a)に示す金属母材表面の熱処理部での焼入れ工程における回転ツール下端に設置された熱電対の時系列の計測温度を示すグラフ図が示されている。
図5】(a)は、図3(a)に示す金属母材表面の熱処理部での焼入れ工程における回転装置本体主軸のZ軸サーボモータ負荷の時系列の計測値を示すグラフ図、(b)は、熱処理部の複数の焼き入れ工程終了後の回転ツールを撮影した写真図が示されている。
図6】実験例2における金属母材表面に焼き入れ等熱処理を行った様子を示す写真図が示され、(a)には使用した回転ツールとしてコバルト基合金丸棒MAST-2を使用した場合の写真図、(b)には使用した回転ツールとしてセラミック棒材CE-4SRB 8を使用した場合の写真図が示されている。
図7図6(a)の摩擦部及び図6(b)の摩擦部それぞれにおける回転ツールの回転数[rpm]、押込速度[mm/min]、保持時間[s]、押込み量[mm]が上4段に示され、このうちセラミック棒材CE-4SRB 8を素材とする図6(b)の摩擦部の拡大写真図が下段に示されている。
図8図6(b)の熱処理部26の拡大写真図である
図9図6(b)及び図7に示す摩擦部の金属母材表面に対する各深さを計測したグラフ図を示している。
図10図8に示す金属母材表面をセラミック棒材CE-4SRB 8を素材の回転ツールによる好適な焼入れ処理を複数回実行した後の回転ツールの長さの変化を示すものである。
図11図6(b)に示すセラミック棒材CE-4SRB 8を素材とする回転ツールで図7に示す加工条件で摩擦攪拌中の赤外線画像(サーモグラフィ像)が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の金属母材の表面改質装置(以下、「本表面改質装置」とも称する。)の実施形態例を説明しつつ、本装置表面改質装置により金属母材表面を焼き入れ処理した実験結果を説明する。図1は本表面改質装置10により金属母材12を焼き入れしている様子を示す写真図が示されている。
【0028】
図1に示すように本表面改質装置10は、ツールホルダタイプであり、マシニングセンタである回転装置本体14の主軸にツールホルダ16が装着されて主軸に協働して軸回転する(矢印ω参照)。また、回転装置本体14は昇降し、ツールホルダ16の下端に把持された回転ツール20が軸回転した状態でその下端を焼き入れ等熱処理を所望する金属母材12の表面12aに当接するまで押し下げて(矢印Z参照)、金属母材表面12aに摩擦熱を付与する。また、金属母材12は、マシンバイス13で固定されてステージ15上を平面方向(矢印x及び矢印y参照)に移動するため、回転ツール20の下端が軸回転しながら金属母材表面12aに当接した状態で金属母材表面12a上で平面移動することで所望の位置に摩擦熱が付与され、焼き入れ等熱処理が行われる。
【0029】
《実験例1》
実験例1では図1に示す本表面改質装置10で焼き入れ処理を行った。具体的な実験条件、加工条件及び評価項目は以下の通りである。
実験条件
使用機械(本回転加工装置本体14):NV5000a1(DMG森精機製)
使用金属母材(金属母材12):HMD5 150mm×100mm×30mmの厚板(日立金属製)
使用ツール(回転ツール20):超硬合金丸棒MG20B 8-50 φ8×50mm(MISUMI製)
加工条件
軸回転速度:6,000 rpm
平面移動速度:100 mm/min
押込み量:0.2 mm
押込み速度:10 mm/min
保持時間:5 s
前進角:0°
評価項目
硬さ(HRC硬さ):ロックウェル硬さ試験機ATK-F3000(Alashi製)により測定
回転ツール内部温度:MULTI INTELLIGENCE ASM(山本金属製作所製(ツールホルダ16))
により測定
Z軸サーボモータ負荷:Advanced Control 2022 bravo(山本金属製作所製)により測定
【0030】
また、回転ツール20には図2に示すようにその中心軸線O-Oに沿って上端20b~下端20a側に向かって内部に半貫通孔20cが穿たられている。半貫通孔20cは、開放側の上端20bから閉鎖されている下端20aの閉鎖部20dまで延びている。この半貫通孔20c内に沿って上端20b側から熱電対等温度センサ(図示せず)が挿入され、熱電対の先端が閉鎖部20dに設置されて、下端20aの温度を近似計測することで当接する金属母材表面12aの温度計測に代替えている。閉鎖部20は、後述するように回転ツール20の変形による熱電対損傷等を考慮しつつ下端20aの温度に近似する計測ができる程度に下端20aに近づけており、ここでは下端20aから深さ方向(後述するz方向)に0.5mm程度の位置に設計している。
【0031】
実験結果(硬さ)
図3には、(a)に実験例1における金属母材表面12aの熱処理部22、23の写真図、(b)にこの金属母材(HMD5)12における焼入温度と硬さ(HRC硬さ)との関係のグラフ図(出典:日立金属 製品カタログ)が示されている。図3(a)の例における熱処理部22、23では、右から左に熱処理が行われたものである。図3(a)中の右上に示す表には熱処理部23の始点(右)23aと中間23bと終端(左)23cとにおける熱処理後のHRC硬さが、それぞれ65.3、64.7、63.5であった。一方、熱処理前の金属母材表面12aの硬さは概ねHRC9~10程度であった。したがって、熱処理により概ね約HRC64~65程度に上昇していることがわかる。図3(b)に示すようにこの金属母材12で使用したHMD 5では油冷による好適な焼入温度は、850~900℃とされており、図3(a)の熱処理部23では好適な焼き入れが実行されており、硬さ条件において本金属改質装置10で金属母材表面の焼入れが可能であることがわかった。
【0032】
図4は、図3(a)に示す金属母材表面12aの熱処理部23での焼入れ工程における回転ツール20下端の閉鎖部20cに設置された熱電対の時系列の計測温度を示すグラフ図が示されている。このグラフ図では、回転ツール20の下端20aが金属母材表面12aの始端23aに当接し、押込みが開始した時点(グラフ中(a)点参照)からその位置での押込みが終了し、始端23aから終端23cに向かっての平行移動が開始する時点(グラフ中(b)点~(c)点参照)までに温度が上昇し、平行移動中(グラフ中(c)点~(d)点参照)には約1,095~1,150℃の範囲内の一定温度を維持し、終端23cに到達して焼入れ工程が終了すると(グラフ中(d)点参照)、温度が下降していることがわかる。
【0033】
これらの図3及び図4から(c)点までに金属母材表面12a(熱処理部23の始端23a)の温度が焼き入れに十分な温度まで上昇すれば、平行移動中の(c)点から(d)点までは焼き入れに理想的な温度になっており、熱処理部23全域にわたって均一な焼き入れが行われたことがわかる。実際に十分な焼き入れ硬さが形成されていることは上述した図3(a)及びその説明の通りである。すなわち、本表面改質装置10により均一な焼き入れ等熱処理を行うことができ、回転ツール20の平面移動の距離で焼き入れ等熱処理の長さもコントロールすることができることがわかった。
【0034】
なお、図4のグラフ図において平行移動中の(c)点から(d)点までで計測された温度は、約1,095~1,150℃であり、実験に使用した金属母材12であるHMD 5の好適な焼入れ温度は850~900℃であり(上述)、約245~250℃程度の誤差がある。この誤差は、温度計測を行っている熱電対の位置は、回転ツール20の下端20a側から深さ方向に0.5mm離間した閉鎖部12d(図2参照)であること等を原因とすることが推察された。したがって、温度計測誤差を予め想定(較正曲線の設定等)できれば、図3(a)に示すような事後的な硬さ検証を経ることなく、図4のようなヒートチャートを検出するだけでリアルタイムに好適な焼き入れ等熱処理が実行されているか否か検出・評定することが可能となることが本実験例1からわかった。
【0035】
また、本実験例1では、焼き入れ工程中の回転装置本体14の主軸のZ軸サーボモータ負荷についても計測した。図5(a)は、図3(a)に示す金属母材表面12aの熱処理部23での焼入れ工程における回転装置本体14の主軸のZ軸サーボモータ負荷の時系列の計測値を示すグラフ図が示されている。この図5(a)は、図4と同時間軸であり、グラフ図中の時点(a)~(d)は図4の時点(a)~(d)と同一時点を示している。また、図5(b)は、熱処理部22、23等の複数の焼き入れ工程終了後の回転ツール20を撮影した写真図であり、その下端20aが加熱軟化により押しつぶされて変形及びき裂が生じていることがわかる。
【0036】
図5(a)に示すようにZ軸サーボモータ負荷は、回転ツール20の下端20aが金属母材表面12aの始端23aに当接し、押込みが開始した(a)時点から押込みが終了し、そのまま押込み位置の固定状態の保持を開始する(b)時点まで急上昇し、押込み位置の固定状態の保持が終了し、始端23aから終端23cに向かっての平行移動が開始する(c)時点までに急激に低下していることがわかる。これは図3(a)に示すように始端23aで押し込みによるZ軸サーボモータ負荷が増加し、金属母材表面12aの温度が上昇して金属母材表面12a近傍での塑性流動が始まると変形抵抗が低下したためであると推察される。
【0037】
その後、時点(c)~(d)で始端23aから終端23cに向かっての平行移動が進行するとZ軸サーボモータ負荷が緩やかに低下し、終端23cに到達して焼入れ工程が終了する時点(d)以降、温度が急激に下降していることがわかる。時点(c)~(d)では、図4に示すように温度が概ね一定であり、均一な焼き入れ工程が進行している段階であるのでZ軸サーボモータ負荷も概ね一定であることが理想的であるが実際には緩やかに低下している。これは図5(b)に示すように加熱中に回転ツール20の下端20aが変形し、短くなっていることが原因と推察される。このことは図3(a)において熱処理部22、23が始点から終点に熱処理痕が先細りしていることからも推察される。このことから本表面改質装置10においては、焼入れに十分な温度上昇を維持するようにコントロールしながら加熱変形が小さい回転ツール20を選択することにより同一幅の良好な焼入れが達成された熱処理部を形成することができ、熱処理痕の幅を回転ツール20の径の選択によりコントロールすることができるであろう。
【0038】
実験例1の考察まとめ
本発明の表面改質装置10では、予め熱処理条件を設定すれば所望の長さの均一な焼き入れ等熱処理を実行することができ、熱処理中に温度変化をリアルタイムに計測・分析することにより好適な焼き入れ等熱処理が実行されているか検証し、回転速度、平行移動速度及び押し込み量を制御して温度コントロールすればリアルタイムに焼き入れ等熱処理を好適に維持することもできる。但し、以下の(i)~(ii)を満足することが理想的であり、実験例2でこのことについて検証された。
(i)金属母材表面12aの温度計測に近似する温度計測が可能な温度計測、又は誤差についての設定及び較正手段の提供
(ii)目的金属母材に応じた焼き入れ等熱処理に十分な温度上昇が可能でありながら加熱による変形が小さい回転ツールの選定
【0039】
《実験例2》
実験例2では、実験例1と異なる二種類の素材の回転ツール20について図1と同様の本表面改質装置10で焼き入れ処理を行った。具体的な実験条件、加工条件及び評価項目は以下の通りである。
実験条件
使用機械(本回転加工装置本体14):NV5000a1(DMG森精機製)
使用金属母材(金属母材12):
火炎焼入れ鋼(HMD5) 150mm×100mm×50mm の厚板(日立金属製)
使用ツール(回転ツール20):
使用ツール(i)コバルト基合金丸棒MAST-2 MG20B 8-50 φ8×50mm(日立金属製)
使用ツール(ii)セラミック棒材CE-4SRB 8 ×R1 φ8×60mm(MISUMI製)
加工条件
軸回転速度:5,000又は10,000 rpm (図7(a)参照)
平面移動速度:50 mm/min
押込み量:0.01mm,0.02mm,0.03mm,0.04mm,又は0.05mm (図7(a)参照)
押込み速度:5 mm/min
保持時間(ドゥエル):5 s
前進角:0°
評価項目
目視
摩擦部の深さ(z方向mm):タッチセンサ RMP-40(レニショー製)により測定
回転ツール長:ツールプリセッタ(レニショー製)により測定
温度測定(赤外線画像):H2640(日本アビオニクス製)により測定
【0040】
また、回転ツール20には図2と同様にその中心軸線O-Oに沿って上端20b下端20a側に向かって内部に半貫通孔20cが穿けられ、半貫通孔20c内に沿って上端20b側から熱電対等温度センサ(図示せず)が挿入され、下端20a側に接近する深さ方向位置の閉鎖部20d(使用ツール(i),(ii)ともに下端20aから0.5mm位置)に設置される。
【0041】
実験結果(目視)
図6は実験例2における金属母材表面12aに焼き入れ等熱処理を行った様子を示す写真図が示されており、(a)には使用した回転ツール20として(i)コバルト基合金丸棒MAST-2を使用した場合の写真図、(b)には使用した回転ツール20として(ii)セラミック棒材CE-4SRB 8を使用した場合の写真図が示されている。図6(a)及び図6(b)ともに、回転ツール20の回転数と押込み量とを変化させた摩擦攪拌を行った各6つの摩擦部25a~25f及び27a~27fと、好適と目視される摩擦部の加工条件で始点(右)から終端(左)まで平行移動させた熱処理部24、26とが、形成されている。摩擦部25a~25f及び27a~27fは、ともに図7の上4段に示される加工条件で摩擦攪拌している。
【0042】
図6(a)に示すように(i)コバルト基合金丸棒MAST-2を素材とする回転ツール20を始点(右)から終端(左)まで平行移動させた熱処理部24は、目視しただけで明らかに好適な焼き入れが実行されていないことがわかる。したがって、図6(a)の場合、使用金属母材、使用回転ツール(i)及び図7の上4段に示される加工条件が明らかに適正でないことがわかる。また、図6(b)に示すように(ii)セラミック棒材CE-4SRB 8を素材とする回転ツール20を始点(右)から終端(左)まで平行移動させた熱処理部26は、熱処理痕の幅も一定かつ均一であり、目視段階では好適な焼き入れが実行されているように見える。したがって、ここでは回転ツール20として(ii)セラミック棒材CE-4SRB 8を素材とした場合について説明する。
【0043】
図7は、図6(a)の摩擦部25a~25f及び図6(b)の摩擦部27a~27fそれぞれにおける回転ツール20の回転数[rpm]、押込速度[mm/min]、保持時間(ドゥエル)[s]、押込み量[mm]が上4段に示され、このうち(ii)セラミック棒材CE-4SRB 8を素材とする図6(b)の摩擦部27a~27fの拡大写真図が下段に示されている。下段の写真図の通り目視段階では最も好適な焼き入れが実行されているものは太枠で囲んだ摩擦部27cとの判断であり、回転数5,000[rpm]、押込速度5[mm/min]、保持時間(ドゥエル)5[s]、押込み量0.03[mm]の加工条件の場合である。この加工条件で始点(右)26aから終端(左)26cまで平行移動させた熱処理部26の拡大写真図が図8に示されている(図6(b)の熱処理部26の拡大写真図である)。
【0044】
実験結果(摩擦部の深さ)
図9には、図6(b)及び図7に示す摩擦部27a~27fの金属母材表面12aに対する各深さを計測したグラフ図を示している。グラフ図の上段にはそれぞれの摩擦部27a~27f、その深さZ[mm]がその下のグラフ図に示している。具体的に摩擦部27a~27fそれぞれの深さは、-72μm(-0.072mm)、-101μm(-0.101mm)、-115μm(-0.115mm)、-132μm(-0.132mm)、-143μm(-0.143mm)、-148μm(-0.148mm)と計測された。本表面改質装置10を用いた焼入れ等の熱処理を行う場合、FSWやFSPのような金属母材12の厚み方向全体にわたるような塑性流動を抑制する熱処理しているが、回転ツール20を金属母材表面12aに押し下げて当接回転させて入熱する以上、金属母材表面12aのごく薄い領域での塑性流動は生じている。このため熱処理後に熱処理部(摩擦部27a~27fや熱処理部26)の表面が、非熱処理の金属母材表面12aよりも深さ方向(Z方向)に微量凹むこととなる(ここでは「ワークオフセットZ」とも称する)。このワークオフセットZは、各使用回転ツールや使用金属母材、回転ツール20の押し込み量等の加工条件を設定や補正制御等をする際に必要なデータとなるため、予め検証しておく必要がある。また、焼入れ等熱処理後の加工表面の仕上げ処理工程にも影響するため検証しておく必要もある。なお、図9の計測では、回転ツール20のZ方向の長さをプリセッタで計測し、タッチセンサで摩擦部27a~27fの金属母材表面12aに対する深さを計測しているため、センサ間の誤差が発生している点を言及しておく。
【0045】
実験結果(回転ツール長)
図10には、図8に示す金属母材表面12aを(ii)セラミック棒材CE-4SRB 8を素材の回転ツール20による好適な焼入れ処理を複数回(7回)実行した後の回転ツール20の長さの変化を示すものであり、上段には初期状態、1回目、2回目、5回目、及び6~7回目の焼入れ処理後の回転ツール20の下端20a側の拡大斜視写真図が示されており、下段には各焼き入れ回数後の回転ツール20の長さをツールプリセッタで計測した値をプロットしたグラフ図が示されている。このグラフ図から焼入れ処理回数が増加しても回転ツール20の計測長さは5μmの範囲内であり、計測誤差以上の変化がないことがわかる。したがって、 (ii)セラミック棒材CE-4SRB 8を素材の回転ツール20とした場合、焼入れ処理による溶着や摩耗がほとんど生じておらず、(ii)セラミック棒材CE-4SRB 8を素材を選択すれば、実験例1(図5)で見られたような加熱中に回転ツール20の下端20aが変形し短くなることがない耐熱性及び耐摩耗性が高い素材であることが検証された。
【0046】
実験結果(温度測定(赤外線画像))
実験例1において金属母材表面12aの温度計測に近似する温度計測が可能な温度計測方法、又は誤差についての設定及び較正手段の提供が要求されたが、これを踏まえて実験例2では、その他の温度計測方法が検証された。具体的には、実験例1では金属母材表面12aの温度計測方法として図2のように回転ツール20の内部に設けた半貫通孔20cに熱電対等温度センサ(図示せず)を挿入して、下端20a側の所望の深さ方向位置の閉鎖部20dに設置し、熱電対からの温度情報を金属母材表面12aの温度変化を検出し、絶対的な温度情報を検出するまでには至っていなかった。これに対して実験例2では、その他の温度計測として回転ツール20の赤外線画像から焼入れ等熱処理中の温度計測が可能か検証した。
【0047】
図11には、図6(b)に示す(ii)セラミック棒材CE-4SRB 8を素材とする回転ツール20で図7に示す加工条件で摩擦攪拌中の赤外線画像が示されている。図11の上段には、図7に示す摩擦部27a~27fと同様の加工条件で摩擦攪拌させた赤外線画像を図7と同一順に配列している。また、図11の下段には図8と同様に摩擦部27cと同様の加工条件(図7の太枠参照)で平行移動(押込み速度:5 mm/min)させた回転ツール20側面の赤外線画像を示している。この図11に示す各加工条件での回転ツール20側面の赤外線画像に明確な差は見られず、また金属母材表面12aの摩擦部は死角になって観察できていないことがわかる。すなわち、赤外線画像による温度計測では金属母材表面12aの温度計測はおろか、金属母材表面12aに近い回転ツール20の下端20a近傍の温度計測もできないことも検証された。したがって、本発明では図2のように回転ツール20の内部に設けた(穿った)半貫通孔20cに熱電対等温度センサを挿入して計測する方法を採用し、金属母材表面12aの温度との誤差を予め設定する又は較正手段を提供する必要があることがわかった。
【0048】
実験例2の考察まとめ(実験例1の考察を踏まえた考察も含む)
(iii)実験例1の考察(ii)について
セラミック素材は高温耐久性・高耐摩耗性を有しており、目的金属母材に応じて好適な焼入れ等の熱処理を達成し得る加工条件(回転速度、平面移動速度、押込み量(押し下げ力))を予め検証しておけば、加熱による変形が少ない素材として好適である。
(iv)実験例1の考察(i)について
回転ツール20側面及び摩擦部を赤外線画像により温度計測することはできず、回転ツール20内に半貫通孔20cを設けてその内部に熱電対を下端20側に設置して温度計測し、金属母材表面12aの温度との誤差を予め検証して設定する、又は誤差の較正手段を提供する。
【0049】
以上、本金属母材の表面改質装置の一例としての実施形態を説明してきたが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、当業者は特許請求の範囲の記載や思想から他の実施形態が存在することが容易に理解されよう。
【符号の説明】
【0050】
10 金属母材の表面改質装(表面改質装置)
12 金属母材(ワーク)
12a 金属母材表面(表面)
13 マシンバイス
14 回転装置本体(主軸)
15 ステージ
16 ツールホルダ
20 回転ツール
20a 下端(底面)
20b 上端
20c 半貫通孔
20d 閉鎖部
22 熱処理部
23 熱処理部
23a 始端
23b 中間部
23c 終端
24 熱処理部
25、25a~25f 摩擦部
26 熱処理部
26a 始端
26c 終端
27、27a~27f 摩擦部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11