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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122057
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】車両の速度超過抑制方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20240902BHJP
   B60K 35/23 20240101ALI20240902BHJP
   G05D 1/43 20240101ALI20240902BHJP
   B60R 11/02 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
G08G1/16 C
B60K35/00 A
G05D1/02 H
B60R11/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029375
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】荻巣 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 博司
【テーマコード(参考)】
3D020
3D344
5H181
5H301
【Fターム(参考)】
3D020BA20
3D020BC01
3D344AA20
3D344AB01
3D344AC25
3D344AD13
5H181AA01
5H181CC04
5H181DD07
5H181EE02
5H181LL01
5H181LL04
5H181LL07
5H181LL09
5H301AA01
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301FF06
5H301FF23
5H301GG09
5H301GG14
5H301QQ06
(57)【要約】
【課題】視覚および聴覚の双方で運転者に直感的に速度超過であることを認識させ、速度抑制を促す。
【解決手段】実速度が制限速度を超過している場合、車両のAR-HUDを介して、ウインドシールドを通して見える前方の路面上に、仮想情報として、左右に延びた線状をなす互いに色の異なる第1のマークM11,M12と第2のマークM21.M22とを表示する。第1のマークおよび第2のマークは、比較的遠く離れた仮想位置で同時に出現し、運転者に近付いてくるように移動する。第1のマークは、実速度に対応した速度で移動し、第2のマークは制限速度に対応した速度で移動する。速度超過状態では、第1のマークと第2のマークが離れていく。第1のマークの消失に同期して曲が出力され、速度超過時は、曲調が変化する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行中の道路の制限速度の情報を取得し、
車両の実速度を検出し、
車両のAR-HUDを介して、ウインドシールドを通して見える前方の路面上に、仮想情報として、それぞれ車両進行方向を横切る方向に延びた線状をなす互いに色ないし線種の異なる第1のマークおよび第2のマークを表示し、
ここで、第1のマークは、車両前方に第1の仮想距離離れた地点として視認される仮想の出現ポイントにおいて間隔をおいて順次出現し、かつ路面上の現実情報の移動と整合するように実速度に対応した速度で移動して、相対的に短い第2の仮想距離離れた地点として視認される仮想の消失ポイントにおいて順次消失するように表示され、第2のマークは、上記出現ポイントにおいて第1のマークと同時に順次出現し、かつ制限速度に対応した速度で移動して、上記消失ポイントにおいて順次消失するように表示され、
実速度が制限速度を越えている場合に、車両のスピーカを介して、少なくとも第1のマークが上記消失ポイントに達するたびに音を出力する、
車両の速度超過抑制方法。
【請求項2】
上記消失ポイントに複数の第1のマークが順次に達することで所定の曲が奏せられるように音程の異なる音を含む複数個の音を順次出力する、
請求項1に記載の車両の速度超過抑制方法。
【請求項3】
出現ポイントにおける第1のマークの出現間隔を、実速度が制限速度に等しい場合に曲が正しい曲調で聴取されるように、曲のテンポと制限速度とに応じて設定する、
請求項2に記載の車両の速度超過抑制方法。
【請求項4】
所定の曲の休符に対応する順番の第1のマークは、出現させない、
請求項2に記載の車両の速度超過抑制方法。
【請求項5】
実速度が制限速度を越えている場合に、第1,第2のマークの表示を行う、
請求項1に記載の車両の速度超過抑制方法。
【請求項6】
実速度が制限速度を所定の許容範囲以上越えている場合に、第1,第2のマークの表示および音の出力を行う、
請求項1に記載の車両の速度超過抑制方法。
【請求項7】
実速度と制限速度との差が大きいほど、曲を構成する個々の音の周波数を高くする、
請求項2に記載の車両の速度超過抑制方法。
【請求項8】
実速度と制限速度との差が大きいほど、曲を構成する個々の音の振幅を大きくする、
請求項2に記載の車両の速度超過抑制方法。
【請求項9】
実速度と制限速度との差が大きいほど、曲を構成する個々の音の周波数および振幅をより大幅に不規則に変化させる、
請求項2に記載の車両の速度超過抑制方法。
【請求項10】
実速度と制限速度との差が大きいほど、より大きなノイズを所期の曲の音に重畳する、
請求項2に記載の車両の速度超過抑制方法。
【請求項11】
さらに、第2のマークが上記消失ポイントに達するたびに音を出力し、第1のマークに基づく曲と同じ曲が第2のマークに基づいて奏せられるようにした、
請求項2に記載の車両の速度超過抑制方法。
【請求項12】
走行中の道路の制限速度の情報を取得する情報取得部と、
車両の実速度を検出する車速検出部と、
ウインドシールドを通して見える現実情報に、仮想情報を重ねて表示するAR-HUDと、
スピーカを含む車両音響装置と、
上記AR-HUDと上記車両音響装置とを制御するコントローラと
を備え、
上記コントローラは、
車両のAR-HUDを介して、ウインドシールドを通して見える前方の路面上に、仮想情報として、それぞれ車両進行方向を横切る方向に延びた線状をなす互いに色ないし線種の異なる第1のマークおよび第2のマークを表示し、
ここで、第1のマークは、車両前方に第1の仮想距離離れた地点として視認される仮想の出現ポイントにおいて間隔をおいて順次出現し、かつ路面上の現実情報の移動と整合するように実速度に対応した速度で移動して、相対的に短い第2の仮想距離離れた地点として視認される仮想の消失ポイントにおいて順次消失するように表示され、第2のマークは、上記出現ポイントにおいて第1のマークと同時に順次出現し、かつ制限速度に対応した速度で移動して、上記消失ポイントにおいて順次消失するように表示され、
実速度が制限速度を越えている場合に、上記スピーカを介して、少なくとも第1のマークが上記消失ポイントに達するたびに音を出力する、
車両の速度超過抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の運転者が制限速度を越えないように速度調節することを容易とする車両の速度超過抑制方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の運転中に必要な種々の情報を運転席前方のウインドシールドに投影して表示するHUD(ヘッドアップディスプレイ)が普及しつつあり、走行中の道路の制限速度および現在の実速度がHUDの表示項目に含まれている場合もある。
【0003】
またHUDをより進化させた技術としてAR-HUD(拡張現実ヘッドアップディスプレイ)が知られている。このAR-HUDでは、ウインドシールドを通して見える現実情報に、虚像からなる仮想情報を重ねて表示することができ、ウインドシールドのガラス面上に情報が表示される一般的なHUDに比較して運転者の視点ないし焦点の移動が少なくなる。
【0004】
特許文献1は、車両の音響装置を介して制限速度超過の抑制を図った技術を開示している。この技術は、例えばアップテンポな曲が音響装置において再生されているときに運転者が制限速度を超過した場合に、再生中の曲の曲調をスローテンポにテンポダウンし、運転者に速度超過していることを気付かせるとともに、運転者の気分の高揚に伴う速度の出し過ぎを抑制しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-115567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
HUDないしAR-HUDにおいて仮に実速度と制限速度との双方が表示されている場合でも、運転者は、一般に数字で表示されている実速度を制限速度に合わせるようにアクセルペダルの踏込量を調節することになるので、直感的な速度の調節が困難である。
【0007】
特許文献1の技術は、基本的に、激しい音楽を聞きながら運転する場合の運転者の高揚感に起因した速度超過を抑制しようとするものであり、そもそも音楽の再生中でなければ適用することができない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る車両の速度超過抑制方法は、
走行中の道路の制限速度の情報を取得し、
車両の実速度を検出し、
車両のAR-HUDを介して、ウインドシールドを通して見える前方の路面上に、仮想情報として、それぞれ車両進行方向を横切る方向に延びた線状をなす互いに色ないし線種の異なる第1のマークおよび第2のマークを表示し、
ここで、第1のマークは、車両前方に第1の仮想距離離れた地点として視認される仮想の出現ポイントにおいて間隔をおいて順次出現し、かつ路面上の現実情報の移動と整合するように実速度に対応した速度で移動して、相対的に短い第2の仮想距離離れた地点として視認される仮想の消失ポイントにおいて順次消失するように表示され、第2のマークは、上記出現ポイントにおいて第1のマークと同時に順次出現し、かつ制限速度に対応した速度で移動して、上記消失ポイントにおいて順次消失するように表示され、
実速度が制限速度を越えている場合に、車両のスピーカを介して、少なくとも第1のマークが上記消失ポイントに達するたびに音を出力する。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、路面上に現れる2つのマークの乖離状態および第1のマークの消失に対応して発せられる音の双方によって、運転者が直感的にどの程度の速度超過であるかを認識することができ、アクセルペダルを介して第1のマークを第2のマークに近付けるという直感的な操作によって適切な速度での運転を促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施例の速度超過抑制装置の構成説明図。
図2】仮想情報として表示されるマークの(a)車両側方から見た説明図、(b)上方から見た説明図。
図3】運転者が見る第1のマークおよび第2のマークの説明図。
図4】実速度に対応した視点の実前進距離と制限速度に対応した視点の理想前進距離との説明図。
図5】制限速度の下でのN個の音の音出力位置を示した説明図。
図6】N個の音の音出力位置と前進距離との関係をまとめた表を示す説明図。
図7】実速度に応じた音の出力タイミングを示す説明図。
図8】一実施例の処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1は、一実施例の車両の速度超過抑制装置の構成を示した説明図である。一実施例の車両は一般的な自動車であり、運転席に対してAR-HUD(拡張現実ヘッドアップディスプレイ)1を備えている。このAR-HUD1は、ウインドシールドを通して見える現実情報に、仮想情報を重ねて表示するものである。本発明においては、その形式はどのようなものであってもよいが、例えばウインドシールドの下部にプロジェクタを備え、ウインドシールドの表面で反射して運転者の目に届く光により運転者前方の適当な距離(例えば数メートル)離れた仮想の焦点面に仮想情報の虚像が生成される。仮想情報としては、本発明に係る後述する第1,第2のマークのほか、車速情報やカーナビゲーションシステムの経路案内情報等他の適当な情報が含まれ得る。
【0013】
速度超過抑制装置は、さらに、走行中の道路の制限速度の情報を取得する情報取得部2と、車両の実速度を検出する車速検出部3と、車両内のスピーカを含む車両音響装置4と、コントローラ5と、を備えて構成される。情報取得部2は、カメラを通して取得する道路標識の情報やカーナビゲーションシステムの地図情報等から走行中の道路の制限速度の情報を取得する。なお、本発明において、「制限速度」とは必ずしも法令上の制限速度のみを意味するものではなく、例えば車両管理者が設定した制限速度や運転者自らが予め設定した制限速度が含まれ得る。
【0014】
上記コントローラ5は、車速検出部3が検出した実速度および情報取得部2が取得した制限速度に基づき、速度超過を抑制するように、AR-HUD1を介して第1,第2のマークを表示するとともに、車両音響装置4を介して速度超過を運転者に認識させるための音を出力する。一例では、実速度が制限速度をある閾値以上に超過し、かつこの状態が所定時間以上続いたときに、下記の速度超過抑制制御を行う。
【0015】
初めに、視覚的に速度超過の抑制を促すAR-HUD1を用いた第1のマークおよび第2のマークの表示について説明する。
【0016】
図2は、仮想情報として与えられる第1のマークM1および第2のマークM2を走行中の道路11(これは現実情報である)の上に仮想的に示した説明図であり、(a)は車両側方から見た場合の説明図、(b)は上方から見た場合の説明図である。この図2に示すように、車両のAR-HUD1を介して、ウインドシールドを通して見える前方の路面上に、仮想情報として、それぞれ車両進行方向を横切る方向に延びた線状をなす第1のマークM1および第2のマークM2が表示される。図2では、説明のために、第1のマークM1と第2のマークM2とが重なって位置している。これら2つのマークM1,M2は、運転者が識別可能なように、互いに異なる色を有している。例えば、第1のマークM1は赤色の線であり、第2のマークM2は緑色の線である。色を異ならせるほか、破線と実線などのように互いに異なる線種として区別できるようにしてもよい。なお、図2(a)において符号13を付した面は、AR-HUD1によって虚像が生成される仮想の焦点面を示しており、この焦点面13は、ウインドシールドの外側つまりウインドシールドの車両前方に位置する。また符号14を付した三角形は、運転者12がAR-HUD1の表示領域を見る視角を示している。運転者12は一般に道路11の路面を見下ろすように見ており、このときの見下ろし角によって運転者12は対象物までの距離を認識する。従って、仮想の距離に対応した見下ろし角が得られるように焦点面13上に仮想情報つまり第1のマークM1および第2のマークM2の虚像を生成することで、運転者12は、仮想距離の位置に第1のマークM1および第2のマークM2が存在するように認識する。左右方向の角度についても同様であり、目つまり視点に近い対象物ほど左右に拡がって見えるので、仮想距離が遠い場合の各マークM1,M2の左右方向の長さは相対的に短く、仮想距離が近い場合の各マークM1,M2の左右方向の長さは相対的に長く、それぞれ焦点面13上に生成される。なお、AR-HUD1は、好ましくは、カメラ画像等によって運転者12の目の位置を検出する手段を有しており、個々人の目の位置に対応した位置に虚像が生成される。
【0017】
ここで、線状をなす第1のマークM1は、車両前方に第1の仮想距離離れた地点として視認される仮想の出現ポイントP1において、時間的な間隔をおいて順次出現する。そして、出現した第1のマークM1は、路面上の現実情報の移動と整合するように実速度に対応した速度で移動するように表示される。つまり、見下ろし角が徐々に手前側に近付くように表示位置を変化させるとともに左右方向の長さを大きくいていくことで、実速度に対応した速度で運転者12に近付いてくるように見える。このように流れて見える第1のマークM1は、相対的に短い第2の仮想距離離れた地点として視認される仮想の消失ポイントP2において順次消失するように表示される。図2における矢印は、第1のマークM1の移動方向を表している。なお、出現ポイントP1における第1のマークM1の出現間隔は、出現ポイントP1と消失ポイントP2との間にいくつかの第1のマークM1が現れている程度に設定することが好ましい。後述するように、第1のマークM1の消失に合わせて適当な曲となる一連の音を出力する場合には、出現間隔が曲のテンポに相関したものとなる。
【0018】
なお、出現ポイントP1までの仮想距離および消失ポイントP2までの仮想距離は、それぞれ固定値であってもよく、実速度等に応じて可変的に設定される値であってもよい。具体的な例を挙げると、例えば、100m程度の仮想距離を有する出現ポイントP1において第1のマークM1が順次出現し、10~20m程度の仮想距離を有する消失ポイントP2において順次消失するように設定し得る。
【0019】
第2のマークM2は、基本的には第1のマークM1と同様の挙動を示す。第2のマークM2は、第1のマークM1と同じ出現ポイントP1において第1のマークと同時に出現する。つまり、時間的な間隔をおいて順次出現する。そして、第1のマークM1と同じく、図2の矢印で示したように、車両の走行(前方への移動)に伴って運転者12に近付いてくるように表示され、かつ第1のマークM1と同じ消失ポイントP2において消失する。ここで、第2のマークM2は、出現ポイントP1から消失ポイントP2までの間、制限速度に対応した速度で移動してくるように表示される。
【0020】
従って、実速度が制限速度に一致していれば、同時に出現した第1のマークM1および第2のマークM2は、出現ポイントP1から消失ポイントP2までの間、互いに離れることなく重なりあったまま移動する。
【0021】
これに対し、実速度と制限速度とが異なると、第1のマークM1と第2のマークM2とが離れて見えることとなる。図3および図4は、実速度が制限速度を超過している場合の例を示している。図3は、運転者12がウインドシールドを通して見た第1のマークM1および第2のマークM2を示している。左右両側の点線21,22は、車線を仕切っている車線境界線であり、これらは道路11に実際に存在する現実情報である。第1のマークM1および第2のマークM2は、左右一対の車線境界線21,22の間に拡がる長さを有するように表示される。ここで、相対的に遠い位置に示されている第1のマークM11および第2のマークM21は、互いに同時に出現したマークであり、実速度が制限速度を超過していることで、実速度に対応して移動する第1のマークM11の方が制限速度に対応して移動する第2のマークM21よりも手前側に見える。相対的に近い位置に示されている第1のマークM12および第2のマークM22は、やはり互いに同時に出現したマークであり、実速度が制限速度を超過していることで、実速度に対応して移動する第1のマークM12の方が制限速度に対応して移動する第2のマークM22よりも手前側に見える。すなわち、同時に出現した第1のマークM11,M12および第2のマークM21,M22は、速度差に応じて徐々に離れていき、第2のマークM2の方が緩やかに移動し、第1のマークM1の方が速く移動する。
【0022】
図4は、このような実速度と制限速度とに基づく見下ろし角の変化を説明するもので、ある同じ微小時間の間に実速度に応じて移動する視点の移動距離を実前進距離とし、制限速度に対応した視点の移動距離を理想前進距離として、示している。なお、図中に付記したように、時間Tr後の理想前進距離は、制限速度viが一定であることから、両者の積(Tr×vi)で表され、実前進距離は、実速度(vr(t))が時々刻々変化することから時間Trまでの積分値として表される。図示するように、路面上の仮想のポイントに視点が相対的に近付く結果、仮想のポイントに対する見下ろし角が前進距離に応じて変化する。図4に示すように、実速度が制限速度よりも高い場合、水平面を基準とした見下ろし角が相対的に大きくなる。このような見下ろし角となるように焦点面13上での第1のマークM1および第2のマークM2の表示を行うことで、運転者12が図3に示すような路面上のマークM1,M2を見ることができる。
【0023】
このように、前方を見ながら運転している運転者12にとっては、道路11の路面を左右に横切るように2つのマークM1,M2が前方で出現し、制限速度を示す第2のマークM2に比較して実速度を示す第1のマークM1が速く後方へ流れていくように見える。これにより、速度超過であることを直感的に認識することができる。そして、運転者12がアクセルペダルの踏込を緩めれば第1のマークM1の移動が遅くなり、第2のマークM2に近付くようになるので、2つのマークM1,M2が離れないように運転を行うことで、速度超過の抑制が図れる。
【0024】
すなわち、AR-HUD1によって前方の路面上のある出現ポイントP1においてそれぞれ線状をなす第1のマークM1と第2のマークM2が同時に出現する。車両の進行に応じて、各々のマークM1,M2は運転者に近付いてくるように、換言すれば車両後方へ向かって流れるように、表示される。このとき、第1のマークM1は、実速度に対応した速度で移動し、路面上の現実情報(例えば路面標識等)の移動(自車との相対的な移動)と整合したものとして見える。これに対し、第2のマークM2は、制限速度に対応した速度で移動する。つまり、自車が制限速度で走行した場合の路面上の現実情報の移動と整合する速度でもって流れるように表示される。
【0025】
従って、仮に車両が制限速度を超過した速度で走行していると、第2のマークM2は相対的に緩やかな速度で運転者に近付いてくるように見え、同時に出現した第1のマークM1と第2のマークM2とが徐々に乖離していく。つまり、制限速度を示す第2のマークM2の移動に比較して実速度を示す第1のマークM1が速く移動するように見え、これによって、運転者は速度超過であることを容易に認識できる。そして、運転者がアクセルペダルの踏込量を少なくするなどで実速度が低下すると第1のマークM1と第2のマークM2とが互いに近付いていく。そのため、運転者は、2つのマークM1,M2が重なるようにアクセルペダルの踏込量を調整すればよく、制限速度付近での走行が容易となる。
【0026】
次に、第1のマークM1の消失に同期して出力される音について、図5図7を参照して説明する。前述したように、第1のマークM1が消失ポイントP2に達して消失するタイミングにおいて、車両音響装置4によって1つの音が出力される。第1のマークM1は、ある間隔で順次出現し、かつ順次消失するので、ある間隔でもって音が続いて生じることとなる。ここで、好ましい一実施例においては、ある個数の一連の音である曲が奏せされるように、個々のタイミングで生じる音の音階が設定される。例えば、オルゴール曲のように20~50個程度の一連の音で適当にアレンジされた曲(例えば著名な童謡、等)が再現されるように順番に生じる個々の音が設定される。休符に対応する箇所では、第1のマークM1および第2のマークM2は出現しない。また、出現ポイントP1における第1のマークM1の出現間隔(第2のマークM2についても同じである)は、設定される曲のテンポに対応したものとなる。
【0027】
図5は、曲を構成するのに必要な個々の音の音出力位置を道路11上に仮想的に示した説明図である。図6の表の左欄に示すように、この曲は、第1音から第N音までのN個の音で構成され、それぞれの音の出力タイミングが音出力時間(T1,T2,T3・・・TN)として定義される。なお、最も単純化した例では、個々の音出力時間の間隔を一定とし得るが、良好な曲調を得るように間隔が不等であってもよい。図6の「音出力位置」の欄にあるように、道路11上に仮想的に設定される音出力位置は、制限速度を基準として設定される。つまり、音出力時間に制限速度を乗じることで、道路11上の音出力位置が定められる。なお、図5に示す音出力位置は、グローバル座標上に定義される。また、図5における距離Lは、音を出力するポイント、換言すれば第1のマークM1が消失する消失ポイントP2までの距離を示している。
【0028】
図5のようにグローバル座標上に音出力位置を設定しておき、車両(視点)の前進距離を算出して、前進距離が音出力位置に達したとき(厳密には、さらに距離Lが考慮される)に、個々の音が順に出力されることとなる。図6の表には、時間Tr時点での理想前進距離および各音出力位置とこの理想前進距離との相対距離、さらには、時間Tr時点での実前進距離および各音出力位置とこの実前進距離との相対距離、がまとめて記載されている。
【0029】
このように、個々の音の音出力位置が制限速度を基準として設定されるので、基本的に、車両が制限速度で走行していると、所期のテンポおよび曲調で曲が再現される。
【0030】
図7は、実速度に対応した一連の音(曲を構成する個々の音)の出力タイミングを説明する説明図である。前述したように、グローバル座標上に各音(第1音~第N音)の音出力位置が定められており、車両(視点)は時間Tr時点では、実前進距離だけ前方に進む。消失ポイントP2を定める距離Lに実前進距離を加えた値が各音の音出力位置までの距離に等しくなったときに、各音が出力される。
【0031】
つまり、次の式(1)の関係となるときに、n番目の音が出力される。
【0032】
【数1】
【0033】
従って、実速度が制限速度を超過している状態では、曲のテンポが速くなり、曲調が変化する。実速度が制限速度から離れるほど曲のテンポがより速くなる。これにより、運転者12は、速度超過であることに気付くことができ、第1のマークM1および第2のマークM2の視覚的な表示と併せて速度抑制が促されることになる。なお、曲のテンポに対応する第1のマークM1の出現ポイントP1における出現間隔も実速度が高いほど短くなる。
【0034】
好ましい一つの例では、速度超過時に、曲のテンポが速くなることに併せて音の周波数を高く変化させるようにしてもよい。実速度が高いほど高い周波数とし、いわゆる早送りによる再生と同様とする。このようにすると、曲調の変化がより顕著となる。
【0035】
あるいは、他の例では、速度超過時に、曲のテンポが速くなることに併せて個々の音の振幅を大きくするようにしてもよい。実速度が高いほど大きな振幅とする。実速度が速いほど速いテンポでかつ大きな音となるので、運転者12が気付きやすくなる。
【0036】
さらに、他の例では、曲を構成する個々の音の周波数および振幅をより不規則に変化させるようにしてもよい。実速度と制限速度との差が大きいほど、大幅に変化させるようにすれば、運転者12が気付きやすくなる。
【0037】
さらに他の例では、実速度と制限速度との差が大きいほど、より大きなノイズを所期の曲の音に重畳するようにしてもよい。曲を不快に感じることで、運転者12が速度超過に気付きやすい。
【0038】
また、上記実施例では第1のマークM1の消失のタイミングに合わせて一連の音を出力するようにしているが、同様に第2のマークM2の消失のタイミングに合わせて同じ一連の音を出力するようにしてもよい。つまり、第1のマークM1の移動に連動する形で1つの曲が出力され、第2のマークM2の移動に連動する形で同じ曲が出力される。従って、仮に制限速度で走行していれば、両者は重なって同じテンポで再現される。一方、実速度が制限速度を超過すると、両者がずれて聞こえるため、運転者12に強い違和感を与えることができる。
【0039】
なお、最も単純化した例では、第1のマークM1の消失のたびに同じ1つの音を出力するようにしてもよい。この場合、音は一種の連続した騒音のように聞き取られるが、タイヤの接地面で生じるいわゆるロードノイズが実速度に応じて変化するのと同様に、実速度に応じて異なる音となる。
【0040】
上述した種々の音は、車両音響装置4のスピーカを介して車室内に提供されることになるが、基本的には、運転者12が聞き取ることができればよいので、例えばヘッドレストスピーカを備える車両にあっては、運転席のヘッドレストスピーカのみから音の出力を行うようにしてもよい。
【0041】
このように上記実施例によれば、運転者は、音によってもどの程度の速度超過であるかを容易に認識できる。
【0042】
次に、図8は、コントローラ5が実行する速度超過抑制制御の処理の流れを示したフローチャートである。初めにステップ1において制限速度の情報を取得し、ステップ2において実速度の検出を行う。ステップ3において、実速度が制限速度を所定の許容範囲Aよりも大きく超過しているか否かを判定する。ステップ3の判定がNOであれば、ステップ1に戻る。
【0043】
許容範囲Aよりも大きな速度超過であれば、ステップ3からステップ4へ進み、図6に示した一連の音(第1音~第N音)の音出力時間の情報を取得する。そして、ステップ5において、制限速度を基準としたグローバル座標上での各音の音出力位置を算出する。
【0044】
次に、ステップ6において、各音について、音出力位置と理想前進距離(理想自車位置)との相対距離(図6参照)を算出する。そして、ステップ7において、第2のマークM2についてのイメージ表示位置を更新する。また、ステップ6の処理と平行してステップ8において、各音について、音出力位置と実前進距離(実自車位置)との相対距離(図6参照)を算出する。そして、ステップ9において、第1のマークM1についてのイメージ表示位置を更新する。
【0045】
次に、ステップ10に進み、音の出力タイミングとなったか、換言すれば前述した式(1)の関係となったか判定する。ここでNOであれば、時間tを更新(ステップ11)した上でステップ6,8に戻る。なお、ステップ11における「f」は、動画における1秒当たりのフレーム数に相当する一定値である。従って、第1のマークM1および第2のマークM2の表示位置は、「1/f」秒毎に更新される。
【0046】
ステップ10の判定がYESとなったらステップ12へ進み、n番目の音を出力する。そして、時間tの更新(ステップ13)ならびにカウンタ値nのインクリメント(ステップ14)を行う。ステップ15ではカウンタ値nが曲の音数であるNに達したかを判定し、Nに達するまで音の出力の処理を繰り返す。Nに達したら、一曲が終了したので、処理を終了する。なお、以上の処理は、適当な演算サイクルで繰り返し実行される。
【符号の説明】
【0047】
1…AR-HUD
2…情報取得部
3…車速検出部
4…車両音響装置
5…コントローラ
11…道路
12…運転者
M1…第1のマーク
M2…第2のマーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8