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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122068
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20240902BHJP
   B60T 8/26 20060101ALI20240902BHJP
   B60T 8/00 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
B60T8/17 C
B60T8/26 Z
B60T8/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029389
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山本 勇作
(72)【発明者】
【氏名】藤田 好隆
(72)【発明者】
【氏名】松村 拓樹
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246AA08
3D246AA09
3D246BA02
3D246DA01
3D246EA05
3D246FA04
3D246GA08
3D246GA10
3D246GA19
3D246GB12
3D246GB39
3D246GC14
3D246HA03A
3D246HA04A
3D246HA64A
3D246HA91C
3D246HA93A
3D246HB07B
3D246JA12
(57)【要約】
【課題】車両のエネルギー効率が悪化することを抑制しつつ、車両が停止した際に当該車両の姿勢が大きく変化することを抑制すること。
【解決手段】制動制御装置50の処理回路51は、走行中の車両10の停車距離を取得する停車距離取得部M11と、車両10に回生制動力が付与されている状態で停車距離が第1停車距離判定値未満になった場合に、摩擦制動力を停止維持制動力にする一方で、車両10への制動要求に応じて回生制動力を調整するすり替え制御部M15と、停車距離が第2停車距離判定値未満になった場合に、停車距離が0(零)になるまでに回生制動力が0(零)となるように、当該回生制動力を減少させる回生制動減少制御部M17として機能させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制動時に回生制動力と摩擦制動力とを制御する制動制御装置であって、
走行中の前記車両が停止するまでに当該車両が走行する距離又は前記車両が停止するまでの車速を、停車関連値として取得する停車関連値取得部と、
前記車両に前記回生制動力が付与されている状態で前記停車関連値が第1停車判定値未満になった場合に、前記摩擦制動力を、前記車両が走行する路面で当該車両の停止を維持するための制動力である停止維持制動力にする一方で、前記車両への制動要求に応じて前記回生制動力を調整するすり替え制御部と、
前記停車関連値が、前記第1停車判定値よりも小さい第2停車判定値未満になった場合に、前記停車関連値が0(零)になるまでに前記回生制動力が0(零)となるように、当該回生制動力を減少させる回生制動減少制御部と、を備える
制動制御装置。
【請求項2】
前記車両が停止した場合に、前記摩擦制動力を増大させる摩擦制動増大制御部を備える
請求項1に記載の制動制御装置。
【請求項3】
前記車両は、前輪及び後輪を備えるとともに、前記前輪に付与する摩擦制動力である前輪摩擦制動力と前記後輪に付与する摩擦制動力である後輪摩擦制動力とを個別に調整できるように構成された制動装置を備えるものであり、
前記すり替え制御部は、前記車両に前記回生制動力が付与されている状態で前記停車関連値が前記第1停車判定値未満になった場合に、前記前輪摩擦制動力及び前記後輪摩擦制動力のうちの何れか一方の摩擦制動力である対象摩擦制動力のみを前記停止維持制動力まで増大させる一方で、前記車両への要求制動に応じて前記回生制動力を調整する
請求項1又は請求項2に記載の制動制御装置。
【請求項4】
前記すり替え制御部は、
前記車両に前記回生制動力が付与されている状態で前記停車関連値が前記第1停車判定値未満になった場合において、
前記停止維持制動力が判定制動力以上である際には、前記前輪摩擦制動力及び前記後輪摩擦制動力の双方を増大させることによって前記前輪摩擦制動力と前記後輪摩擦制動力との和である合計摩擦制動力を前記停止維持制動力にする一方で、前記車両への要求制動に応じて前記回生制動力を調整し、
前記停止維持制動力が前記判定制動力未満である際には、前記対象摩擦制動力のみを前記停止維持制動力まで増大させる一方で、前記車両への要求制動に応じて前記回生制動力を調整する
請求項3に記載の制動制御装置。
【請求項5】
前記すり替え制御部は、前記停車関連値が前記第1停車判定値未満になった時点で前記摩擦制動力が前記停止維持制動力以上である場合には、前記停車関連値が前記第2停車判定値未満になるまで前記摩擦制動力及び前記回生制動力の調整を規制する
請求項1又は請求項2に記載の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に付与する制動力を制御する制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、モータジェネレータが発生させる回生制動力と、油圧アクチュエータが発生させる摩擦制動力とを用いて、車両停止時における車両姿勢の変化を抑制する制動制御を実行する制御装置を開示している。当該制御装置は、車速が所定速度以下になると、回生制動力が0(零)に向けて減少するようにモータジェネレータを制御する。そして、当該制御装置は、車速が0(零)となると、油圧アクチュエータを作動させることによって摩擦制動力を増大させる。これにより、当該制御装置は、車両停止時における車両の姿勢の急な変化を抑制しつつ、車両が停止する状態を維持できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-28913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両が停止する直前では、車速の導出精度が低下してしまう。そのため、車両が停止する直前まで回生制動力を車両に付与しようとした場合、制御装置は、実際には、車両の停止間際ではモータジェネレータに回生と力行とを繰り返させる必要が生じる。その結果、車両のエネルギー効率が悪化するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための制動制御装置は、車両の制動時に回生制動力と摩擦制動力とを制御する装置である。当該制動制御装置は、走行中の前記車両が停止するまでに当該車両が走行する距離又は前記車両が停止するまでの車速を、停車関連値として取得する停車関連値取得部と、前記車両に前記回生制動力が付与されている状態で前記停車関連値が第1停車判定値未満になった場合に、前記摩擦制動力を、前記車両が走行する路面で当該車両の停止を維持するための制動力である停止維持制動力にする一方で、前記車両への制動要求に応じて前記回生制動力を調整するすり替え制御部と、前記停車関連値が、前記第1停車判定値よりも小さい第2停車判定値未満になった場合に、前記停車関連値が0(零)になるまでに前記回生制動力が0(零)となるように、当該回生制動力を減少させる回生制動減少制御部と、を備えている。
【発明の効果】
【0006】
上記制動制御装置は、車両のエネルギー効率が悪化することを抑制しつつ、車両が停止した際に当該車両の姿勢が大きく変化することを抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、第1実施形態の制動制御装置を備えた車両の概略を示す構成図である。
図2図2は、第1実施形態の制動制御装置の処理回路が実行する一連の処理の前半部分を示すフローチャートである。
図3図3は、第1実施形態の制動制御装置の処理回路が実行する一連の処理の後半部分を示すフローチャートである。
図4図4は、第1実施形態の制動制御装置の作用を説明するためのタイミングチャートである。
図5図5は、第2実施形態の制動制御装置の処理回路が実行する処理を示すフローチャートである。
図6図6は、第2実施形態の制動制御装置の作用を説明するためのタイミングチャートである。
図7図7は、変更例の制動制御装置の作用を説明するためのタイミングチャートである。
図8図8は、変更例の制動制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
以下、制動制御装置の第1実施形態を図1から図4に従って説明する。
図1は、制動制御装置50を備える車両10を図示している。車両10は、制動操作部材11と、複数の車輪と、複数の摩擦ブレーキ20と、制動装置30と、回生装置40とを備えている。複数の車輪は、前輪12と後輪13とを含んでいる。制動操作部材11は、車両10に制動力を付与する際に運転者が操作する部材である。例えば、制動操作部材11は、ブレーキペダルやブレーキレバーである。
【0009】
<回生装置>
回生装置40は、後輪13用のモータジェネレータ41と、モータジェネレータ41を制御する回生制御装置45とを備えている。モータジェネレータ41は、電動機として機能することにより、後輪13に駆動力を伝達する。一方、モータジェネレータ41は、発電機として機能することにより、モータジェネレータ41の発電量に応じた回生制動力を後輪13に付与する。
【0010】
回生制御装置45は、モータジェネレータ41を制御する処理回路46を有している。例えば、処理回路46は電子制御装置である。この場合、処理回路46はCPU及びメモリを有している。メモリは、CPUによって実行される制御プログラムを記憶している。CPUが当該制御プログラムを実行することにより、処理回路46はモータジェネレータ41を制御する。なお、回生制御装置45は、制動制御装置50と各種の情報の送受信が可能である。そのため、処理回路46は、車両制動時には、制動制御装置50と協調して回生制動力を調整する。
【0011】
<摩擦ブレーキ>
複数の摩擦ブレーキ20は、対応する車輪に摩擦制動力を付与する。摩擦ブレーキ20は、ホイールシリンダ21と回転体22と摩擦部23とを有している。回転体22は車輪と一体に回転するため、摩擦部23を回転体22に押し付けることにより、車輪に摩擦制動力が付与される。回転体22に摩擦部23を押し付ける力は、ホイールシリンダ21内の液圧であるホイール液圧が高いほど大きくなる。そのため、摩擦ブレーキ20は、ホイール液圧が高いほど大きい摩擦制動力を車輪に付与できる。
【0012】
<制動装置>
制動装置30は、複数のホイールシリンダ21のホイール液圧を制御することによって、車輪12,13に付与する摩擦制動力を調整する。例えば、制動装置30は、複数のホイールシリンダ21にブレーキ液を供給する加圧源を有している。加圧源は、例えば、電動ポンプ及び電動シリンダである。制動装置30は、前輪12用のホイールシリンダ21のホイール液圧と後輪13用のホイールシリンダ21のホイール液圧とを個別に制御できる。
【0013】
<検出系>
図1に示すように、制動制御装置50には検出系から検出信号が入力される。検出系は複数のセンサを有している。複数のセンサは、ブレーキセンサ101と、前後加速度センサ102と、複数の車輪速センサ103とを含んでいる。ブレーキセンサ101は、運転者による制動操作部材11の操作に関連する情報を検出する。ブレーキセンサ101としては、例えば、運転者の制動操作部材11の操作量を検出するセンサ、及び、運転者の制動操作部材11の操作力を検出するセンサを挙げることができる。前後加速度センサ102は、車両10の前後加速度を検出する。車輪速センサ103は、複数の車輪の各々に対して設けられている。車輪速センサ103は、対応する車輪の回転速度を検出する。なお、前後加速度センサ102の検出信号に基づいた前後加速度を「前後加速度Gx」という。車輪速センサ103の検出信号に基づいた車輪の回転速度を「車輪速度VW」という。
【0014】
<制動制御装置>
図1に示すように、制動制御装置50は制動装置30を制御する。制動制御装置50は回生装置40の回生制御装置45と通信を行う。
【0015】
制動制御装置50は処理回路51を備えている。例えば、処理回路51は電子制御装置である。この場合、処理回路51はCPU52及びメモリ53を有している。メモリ53は、CPU52によって実行される制御プログラムを記憶している。CPU52が当該制御プログラムを実行することにより、処理回路51は、制動装置30を制御することによって車両10に摩擦制動力を付与する。また、処理回路51は、回生制動力に関する指示を回生制御装置45に送信して車両10に回生制動力を付与させる。
【0016】
<回生協調制御>
処理回路51が実行する回生協調制御について説明する。処理回路51は、車両10に対する制動力の要求値である要求制動力BPRqを導出する。処理回路51は、制動操作部材11が操作されている場合、ブレーキセンサ101の検出信号に応じた値を要求制動力BPRqとして導出する。また、処理回路51は、他の制御装置から車両10の減速が要求された場合、車両10の減速度の要求値に応じた値を要求制動力BPRqとして導出する。処理回路51は、回生制御装置45に要求制動力BPRqを送信する。すると、処理回路51は、回生装置40が実際に車両10に付与させる回生制動力BPEを回生制御装置45から受信する。
【0017】
処理回路51は、回生制動力BPEと要求制動力BPRqとに基づいて、車両10に対する摩擦制動力の目標である目標摩擦制動力BPFtrを導出する。処理回路51は、回生制動力BPEが要求制動力BPRqと等しい場合、0(零)を目標摩擦制動力BPFtrとして導出する。一方、処理回路51は、回生制動力BPEが要求制動力BPRq未満である場合、要求制動力BPRqと回生制動力BPEとの差分を目標摩擦制動力BPFtrとして導出する。そして、処理回路51は、目標摩擦制動力BPFtrに基づいて制動装置30を作動させる。
【0018】
<機能部>
処理回路51は、メモリ53の制御プログラムをCPU52が実行することにより、停車距離取得部M11と、停止維持制動力導出部M13と、すり替え制御部M15と、回生制動減少制御部M17と、摩擦制動増大制御部M19として機能する。本実施形態では、停車距離取得部M11が、停車関連値を取得する「停車関連値取得部」に対応する。停車関連値とは、車両10が停止位置に近づくにつれて値が小さくなるパラメータである。
【0019】
停車距離取得部M11は、走行中の車両10に制動要求がある場合に、車両10が停止するまでに車両10が走行する距離を停車距離DSとして取得する。すなわち、停車距離取得部M11は、停車距離DSを停車関連値として取得する。例えば、停車距離取得部M11は、車体速度VS0及び減速度DVSに基づいて停車距離DSを導出する。例えば、停車距離取得部M11は、複数の車輪12,13の車輪速度VWに基づいた車両10の車体速度である車体速度VS0を取得する。停車距離取得部M11は、車体速度VS0を時間微分した値を車両10の減速度DVSとして取得する。そして、停車距離取得部M11は、車体速度VS0と減速度DVSとに基づいて、車両10が停止する位置である停止位置を推定する。停車距離取得部M11は、車両10の現在位置から当該停止位置までの距離を停車距離DSとして取得する。
【0020】
停止維持制動力導出部M13は、車両10が走行する路面で車両10の停止を維持するための制動力である停止維持制動力BPSTを導出する。例えば、停止維持制動力導出部M13は、路面での車両10の停止を維持できる制動力の最小値、若しくは最小値よりも僅かに大きい制動力を停止維持制動力BPSTとして導出する。そのため、停車距離取得部M11は、路面の勾配の絶対値が大きいほど大きい値を停止維持制動力BPSTとして導出する。例えば、停車距離取得部M11は、前後加速度GXと車両10の減速度DVSとの差分の大きさが大きいほど大きい値を停止維持制動力BPSTとして導出する。
【0021】
すり替え制御部M15は、摩擦制動力BPRを停止維持制動力BPSTとする一方で、車両10への制動要求に応じて回生制動力BPEを調整するすり替え制御を実行する。具体的には、すり替え制御において、すり替え制御部M15は、摩擦制動力BPFを停止維持制動力BPSTまで増大させることによって、摩擦制動力BPRを停止維持制動力BPSTとする。また、すり替え制御部M15は、摩擦制動力BPFの増大量が大きいほど回生制動力BPEの減少量が大きくなるように回生制動力BPEを減少させることによって、車両10への制動要求に応じて回生制動力BPEを調整する。すり替え制御部M15は、車両10に回生制動力BPEが付与されている状態で停車距離DSが第1停車距離判定値DSth1未満になった場合にすり替え制御の実行を開始する。上記停止位置に車両10が近づいたか否かの判断基準となる距離が、第1停車距離判定値DSth1として設定されている。第1停車距離判定値DSth1が、「第1停車判定値」に対応する。すり替え制御部M15は、車両10が上記停止位置に近づいたと判定できる場合にすり替え制御を実行する。
【0022】
具体的には、すり替え制御において、すり替え制御部M15は、摩擦制動力BPFが停止維持制動力BPST未満である場合、所定の制御サイクル毎に目標摩擦制動力BPFtrを停止維持制動力BPSTに向けて増大させる。すり替え制御部M15は、目標摩擦制動力BPFtrの最新値に基づいて制動装置30を作動させる。また、すり替え制御部M15は、上記制御サイクル毎に、目標摩擦制動力BPFtrの最新値から前回値を引いた値を制動力減少量ΔBPとして導出する。目標摩擦制動力BPFtrの前回値とは、前回の制御サイクルで導出された目標摩擦制動力BPFtrである。すり替え制御部M15は、上記制御サイクル毎に、現在の回生制動力BPEから制動力減少量ΔBPを引いた値を目標回生制動力BPEtrとして導出し、当該目標回生制動力BPEtrを回生制御装置45に送信する。すると、回生制御装置45が目標回生制動力BPEtrに基づいてモータジェネレータ41を作動させることにより、回生制動力BPEが目標回生制動力BPEtrまで減少する。
【0023】
そして、摩擦制動力BPFが停止維持制動力BPST以上になると、すり替え制御部M15はすり替え制御を終了する。
一方、すり替え制御部M15は、停車距離DSが第1停車距離判定値DSth1未満になった時点で摩擦制動力BPFが停止維持制動力BPST以上である場合、摩擦制動力BPF及び回生制動力BPEの調整を規制する。すなわち、すり替え制御部M15は摩擦制動力BPFの増大及び回生制動力BPEの減少を規制する。本実施形態では、すり替え制御部M15は、すり替え制御を実行しないことにより、摩擦制動力BPF及び回生制動力BPEを保持する。
【0024】
回生制動減少制御部M17は、停車距離DSが0(零)になるまでに回生制動力BPEが0(零)となるように、回生制動力BPEを減少させる回生制動減少制御を実行する。回生制動減少制御部M17は、停車距離DSが第2停車距離判定値DSth2未満になった場合に回生制動減少制御を開始する。第2停車距離判定値DSth2として、第1停車距離判定値DSth1よりも短い距離が設定されている。例えば、車両10が上記停止位置の直前に達しているか否かの判断基準が、第2停車距離判定値DSth2として設定されている。第2停車距離判定値DSth2が「第2停車判定値」に対応する。
【0025】
回生制動減少制御において、回生制動減少制御部M17は、所定の減少速度で目標回生制動力BPEtrを減少させる。そして、回生制動減少制御部M17は、目標回生制動力BPEtrの最新値を回生制御装置45に送信する。すると、回生制御装置45が目標回生制動力BPEtrに基づいてモータジェネレータ41を作動させることにより、回生制動力BPEが減少する。そして、回生制動力BPEが0(零)になると、回生制動減少制御部M17は回生制動減少制御を終了する。
【0026】
摩擦制動増大制御部M19は、車両10が停止した場合に、摩擦制動力BPFを増大させる摩擦制動増大制御を実行する。例えば、摩擦制動増大制御部M19は、以下に示す複数の条件(A1)、(A2)及び(A3)の何れもが成立した場合に車両10が停止したと判定する。
【0027】
(A1)停車距離DSが0(零)であること。
(A2)回生制動力BPEが0(零)であること。
(A3)車輪12,13が回転していないこと。
【0028】
摩擦制動増大制御において、摩擦制動増大制御部M19は、目標摩擦制動力BPFtrを所定の増大速度で要求制動力BPRqまで増大させる。そして、摩擦制動増大制御部M19は、目標摩擦制動力BPFtrの最新値を基に制動装置30を作動させる。本実施形態では、摩擦制動増大制御部M19は、前輪ホイール液圧と後輪ホイール液圧とが同圧となるように、前輪摩擦制動力及び後輪摩擦制動力の双方を増大させる。この際、摩擦制動増大制御部M19は、前輪摩擦制動力と後輪摩擦制動力との和である合計摩擦制動力が目標摩擦制動力BPFtrと等しくなるように、前輪ホイール液圧及び後輪ホイール液圧を増大させる。なお、前輪ホイール液圧は前輪12用のホイールシリンダ21のホイール液圧であり、後輪ホイール液圧は後輪13用のホイールシリンダ21のホイール液圧である。前輪摩擦制動力は前輪12に付与される摩擦制動力であり、後輪摩擦制動力は後輪13に付与される摩擦制動力である。
【0029】
<スムースストップ処理>
図2及び図3を参照し、処理回路51が実行するスムースストップ処理を説明する。スムースストップ処理は、車両10の制動力を調整することによって、車両10が停止した際の車体の揺り返しを抑制するための一連の処理である。CPU52がメモリ53の制御プログラムを実行することにより、処理回路51はスムースストップ処理を繰り返し実行する。
【0030】
ステップS11において、処理回路51は、制動要求があるか否かを判定する。例えば、制動操作部材11が操作されている場合は、制動要求があると見なす。また例えば、他の制御装置から車両10の減速が要求されている場合は、制動要求があると見なす。処理回路51は、制動要求があると判定した場合(S11:YES)、処理をステップS15に移行する。一方、処理回路51は、制動要求がないと判定した場合(S11:NO)、処理をステップS13に移行する。
【0031】
ステップS13において、処理回路51は、すり替え完了フラグFLG1にオフをセットする。そして、処理回路51はスムースストップ処理を一旦終了する。
ステップS15において、処理回路51は要求制動力BPRqを導出する。そして、処理回路51は処理をステップS17に移行する。
【0032】
ステップS17において、処理回路51は、停止維持制動力導出部M13として機能することにより、停止維持制動力BPSTを取得する。そして、処理回路51は処理をステップS19に移行する。
【0033】
ステップS19において、処理回路51は、停車関連値取得部として機能することにより、停車関連値を取得する。本実施形態では、処理回路51は、停車距離取得部M11として機能することにより、停車距離DSを停車関連値として取得する。そして、処理回路51は処理をステップS21に移行する。
【0034】
ステップS21において、処理回路51は、ステップS19で取得した停車距離DSが第1停車距離判定値DSth1未満であるか否かを判定する。処理回路51は、停車距離DSが第1停車距離判定値DSth1未満である場合(S21:YES)、処理をステップS31に移行する。一方、処理回路51は、停車距離DSが第1停車距離判定値DSth1以上である場合(S21:NO)、処理をステップS23に移行する。
【0035】
ステップS23において、処理回路51は、通常の制動制御を実行する。すなわち、処理回路51は、上記の回生協調制御を通常の制動制御として実行する。そして、処理回路51はスムースストップ処理を一旦終了する。
【0036】
ステップS31において、処理回路51は、すり替え完了フラグFLG1にオンがセットされているか否かを判定する。処理回路51は、すり替え完了フラグFLG1にオンがセットされている場合(S31:YES)、処理をステップS43に移行する。一方、処理回路51は、すり替え完了フラグFLG1にオフがセットされている場合(S31:NO)、処理をステップS33に移行する。
【0037】
ステップS33において、処理回路51は、目標摩擦制動力BPFtrが停止維持制動力BPST以上であるか否かを判定する。処理回路51は、目標摩擦制動力BPFtrが停止維持制動力BPST以上である場合(S33:YES)、処理をステップS41に移行する。一方、処理回路51は、目標摩擦制動力BPFtrが停止維持制動力BPST未満である場合(S33:NO)、処理をステップS35に移行する。
【0038】
ステップS35において、処理回路51は、すり替え制御部M15として機能することにより、目標摩擦制動力BPFtrを増大させ、その上で当該目標摩擦制動力BPFtrに基づいて制動装置30を作動させる。次のステップS37において、処理回路51は、すり替え制御部M15として機能することにより、回生制動力BPEの減少を回生制御装置45に指示する。すなわち、処理回路51は、目標回生制動力BPEtrを減少させ、当該目標回生制動力BPEtrを回生制御装置45に送信する。本実施形態では、ステップS35及びステップS37が、すり替え制御に対応する。その後、処理回路51はスムースストップ処理を一旦終了する。
【0039】
ステップS41において、処理回路51はすり替え完了フラグFLG1にオンをセットする。すなわち、処理回路51はすり替え制御を終了する。そして、処理回路51は処理をステップS43に移行する。
【0040】
ステップS43において、処理回路51は、停車距離DSが第2停車距離判定値DSth2未満であるか否かを判定する。処理回路51は、停車距離DSが第2停車距離判定値DSth2未満である場合(S43:YES)、処理をステップS45に移行する。一方、処理回路51は、停車距離DSが第2停車距離判定値DSth2以上である場合(S43:NO)、スムースストップ処理を一旦終了する。この場合、処理回路51は、摩擦制動力BPF及び回生制動力BPEを保持させる。
【0041】
ステップS45において、処理回路51は、回生制動力BPEが0(零)であるか否かを判定する。例えば、処理回路51は、目標回生制動力BPEtrが0(零)である場合に回生制動力BPEが0(零)であると判定する。処理回路51は、回生制動力BPEが0(零)であると判定した場合(S45:YES)、処理をステップS51に移行する。一方、処理回路51は、回生制動力BPEが0(零)ではないと判定した場合(S45:NO)、処理をステップS47に移行する。
【0042】
ステップS47において、処理回路51は、回生制動減少制御部M17として機能することにより、回生制動力BPEの減少を回生制御装置45に指示する。すなわち、処理回路51は、目標回生制動力BPEtrを0(零)に向けて減少させ、当該目標回生制動力BPEtrを回生制御装置45に送信する。本実施形態では、ステップS47が回生制動減少制御に対応する。その後、処理回路51はスムースストップ処理を一旦終了する。
【0043】
ステップS51において、処理回路51は、摩擦制動増大制御部M19として機能することにより、車両10が停止したか否かを判定する。処理回路51は、車両10が停止したと判定した場合(S51:YES)、処理をステップS53に移行する。処理回路51は、車両10が停止していないと判定した場合(S51:NO)、スムースストップ処理を一旦終了する。この場合、処理回路51は摩擦制動力BPFを保持させる。
【0044】
ステップS53において、処理回路51は、摩擦制動増大制御部M19として機能することにより、摩擦制動力BPFが要求制動力BPRq以上であるか否かを判定する。処理回路51は、摩擦制動力BPFが要求制動力BPRq以上である場合(S53:YES)、スムースストップ処理を終了する。一方、処理回路51は、摩擦制動力BPFが要求制動力BPRq未満である場合(S53:NO)、処理をステップS55に移行する。
【0045】
ステップS55において、処理回路51は、摩擦制動増大制御部M19として機能することにより、摩擦制動力BPFを要求制動力BPRqに向けて増大させる。具体的には、処理回路51は、目標摩擦制動力BPFtrを増大させ、当該目標摩擦制動力BPFtrに基づいて制動装置30を作動させる。本実施形態では、ステップS55が摩擦制動増大制御に対応する。そして、処理回路51はスムースストップ処理を一旦終了する。
【0046】
<第1実施形態の作用及び効果>
図4を参照し、車両制動時の作用及び効果を説明する。
図4の(A)に示すように、車両走行中のタイミングt11で制動操作部材11が操作されるなどしたため、処理回路51が制動要求ありと判定し始める。すると、処理回路51は、要求制動力BPRqの導出及び停車距離DSの取得を所定の制御サイクル毎に行う。タイミングt11からタイミングt13までの期間では、処理回路51は、停車距離DSが第1停車距離判定値DSth1以上であると判定するため、通常の制動制御として回生協調制御を実行する。摩擦制動力BPFと回生制動力BPEとの和を「合計制動力BPA」という。
【0047】
回生協調制御において、処理回路51は、合計制動力BPAが要求制動力BPRqと等しくなるように、制動装置30及び回生装置40を制御する。図4に示す例では、処理回路51は、図4の(C)、(D)及び(E)に示すように、回生制動力BPEが要求制動力BPRqと等しくなるように制動装置30及び回生装置40を制御する。
【0048】
図4の(B)に示す車両10の並進運動とは、車両10のばね上運動を除く前後加速度である。この前後加速度を車体前後加速度GxBという。車両10が減速している場合、車体前後加速度GxBは負となる。さらに、合計制動力BPAが大きいほど車体前後加速度GxBの絶対値が大きくなる。そして、車体前後加速度GxBの絶対値が大きいほど、車両10のピッチ角が大きくなりやすい。
【0049】
図4に示す例では、タイミングt12以降から要求制動力BPRqが実質的に保持される。要求制動力BPRqが保持されている期間のタイミングt13で、処理回路51は、停車距離DSが第1停車距離判定値DSth1未満であると判定するようになる。また、タイミングt13では、処理回路51は、摩擦制動力BPFが停止維持制動力BPST未満であると判定する。そのため、処理回路51は、すり替え制御を実行することにより、摩擦制動力BPFを停止維持制動力BPSTまで増大させ、且つ摩擦制動力BPFの増大に連動して回生制動力BPEを減少させる。このように摩擦制動力BPFが増大しても回生制動力BPEが減少される。そのため、処理回路51は、摩擦制動力BPFを増大させても、合計制動力BPAが要求制動力BPRqと等しい状態を保持できる。
【0050】
処理回路51は、摩擦制動力BPFが停止維持制動力BPSTに達すると、摩擦制動力BPFが停止維持制動力BPSTと等しい状態を維持しつつ、回生制動力BPEを保持させる。
【0051】
すり替え制御が終了した以降のタイミングt14で、処理回路51は、停車距離DSが第2停車距離判定値DSth2未満であると判定するようになる。すると、処理回路51は、回生制動減少制御を実行することにより、回生制動力BPEを0(零)まで減少させる。処理回路51は、停車距離DSが0(零)になる前までに回生制動力BPEが0(零)となるように、目標回生制動力BPEtrを減少させる。図4に示す例では、タイミングt15で回生制動力BPEが0(零)になると、処理回路51は、回生制動力BPEが0(零)である状態を維持しつつ、摩擦制動力BPFを保持させる。
【0052】
ここで、上記すり替え制御が完了した以降では、摩擦制動力BPFは、停止維持制動力BPSTで保持されている。そのため、このまま車両10が停止しても、制動制御装置50は、車両10が停止した状態を維持できる。
【0053】
制動制御装置50では、回生制動力BPEが0(零)になる前までに、摩擦制動力BPFが停止維持制動力BPSTまで増大されている。そのため、車両10の停止間際で、モータジェネレータ41が回生と力行とを繰り返さなくてもよくなる。さらに、車両10が停止するまでに回生制動力BPEを0(零)まで減少させている分、合計制動力BPAが小さくなっている。そのため、車体前後加速度GxBの大きさがある程度小さくなった状態で、車両10が停止する。その結果、車両10の停止に起因する車体前後加速度GxBの変化量が小さい。したがって、制動制御装置50は、車両10のエネルギー効率が悪化することを抑制しつつ、車両10が停止した際に車両10の姿勢が大きく変化することを抑制できる。
【0054】
図4に示す例では、処理回路51は、タイミングt16で車両10が停止したと判定する。そのため、処理回路51は、摩擦制動増大処理を実行することにより、摩擦制動力BPFを増大させる。タイミングt17で摩擦制動力BPFが要求制動力BPRqに達する。そのため、タイミングt17以降では、処理回路51は、摩擦制動力BPFが要求制動力BPRqと等しい状態を維持する。これにより、制動制御装置50は、要求制動力BPRqと合計制動力BPAとが乖離した状態を解消できる。
【0055】
第1実施形態では、以下に示す効果をさらに得ることができる。
(1-1)図4の(D)及び(E)には、通常のすり替え制御が実行された場合における摩擦制動力BPF及び回生制動力BPEの推移が破線で図示されている。通常のすり替え制御では、タイミングt14よりも以前に回生制動力BPEが0(零)になる。
【0056】
これに対し、制動制御装置50では、タイミングt15までは回生制動力BPEを車両10に付与できる。そのため、制動制御装置50は、通常のすり替え制御が実行される場合と比較し、車両10のエネルギー効率を向上できる。具体的には、制動制御装置50は、図4の(C)において破線で囲まれた領域ERの分、車両10のエネルギー効率を向上できる。
【0057】
(1-2)制動制御装置50では、すり替え制御の実行によって摩擦制動力BPFを停止維持制動力BPSTまで増大させると、車両10が停止したと判定されるまで摩擦制動力BPFが保持される。すなわち、制動制御装置50は、車両10の停止間際において摩擦制動力BPFの増減を繰り返さなくてもよい。そのため、制動制御装置50は、車両10の停止間際において摩擦制動力BPFがばらつくことに起因する車両10の車体振動の発生を抑制できる。さらに、制動制御装置50は、摩擦制動力BPFの増減を繰り返さなくてもよい分、制動装置30でのエネルギー消費を抑えることができる。
【0058】
(1-3)停車距離DSが第1停車距離判定値DSth1未満であると判定された時点では、既に摩擦制動力BPFが停止維持制動力BPST以上であることがある。制動制御装置50では、停車距離DSが第1停車距離判定値DSth1未満であると判定した時点で摩擦制動力BPFが停止維持制動力BPST以上である場合には、処理回路51はすり替え制御を実行しない。すなわち、処理回路51は、停車距離DSが第2停車距離判定値DSth2未満であると判定されるようになるまで、摩擦制動力BPFの増大及び回生制動力BPEの減少を規制する。これにより、制動制御装置50は、回生制動力BPEの減少を抑えることができる分、車両10のエネルギー効率を向上させることができる。
【0059】
(第2実施形態)
制動制御装置の第2実施形態を図5及び図6に従って説明する。なお、第2実施形態では、すり替え制御の内容が第1実施形態と異なる。以下の説明においては、第1実施形態と相違する部分について主に説明するものとし、第1実施形態と同一の部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0060】
図5には、図2に示したステップS35の詳細を示す処理が図示されている。
処理回路51は、スムースストップ処理を実行している状況下で、以下の3つの条件の何れもが成立すると、処理をステップS35に移行する。
【0061】
・停車距離DSが第1停車距離判定値DSth1未満であると判定すること(S21:YES)。
・すり替え完了フラグFLG1がオフであること(S31:NO)。
【0062】
・摩擦制動力BPFが停止維持制動力BPST未満であること(S33:NO)。
図5に示すように、ステップS35の処理は、ステップS351、S353及びS355の処理を含んでいる。処理回路51は、すり替え制御部M15として機能することにより、ステップS351、S353及びS355を実行する。
【0063】
はじめのステップS351において、処理回路51は、停止維持制動力BPSTが判定制動力BPSTth以上であるか否かを判定する。判定制動力BPSTthは、停止維持制動力BPSTが大きいか否かの判断基準である。
【0064】
ここで、停止維持制動力BPSTが比較的小さい状態で、前輪摩擦制動力BPFF及び後輪摩擦制動力BPFRの何れをも増大させた場合を考える。この場合、前輪摩擦制動力BPFF及び後輪摩擦制動力BPFRの何れもが小さい。そのため、当然、前輪ホイール液圧及び後輪ホイール液圧は何れも低い。その結果、前輪12用の摩擦ブレーキ20及び後輪13用の摩擦ブレーキ20のうちの少なくとも1つでブレーキ鳴きが発生する可能性がある。そこで、上記第1実施形態のように前輪摩擦制動力及び後輪摩擦制動力の何れをも増大させた場合、摩擦ブレーキ20でブレーキ鳴きが発生する可能性があるか否かの判断基準が、判定制動力BPSTthとして設定されている。停止維持制動力BPSTが判定制動力BPSTth未満である場合は、前輪摩擦制動力BPFF及び後輪摩擦制動力BPFRの何れをも増大させると摩擦ブレーキ20でブレーキ鳴きが発生する可能性があると見なす。一方、停止維持制動力BPSTが判定制動力BPSTth以上である場合は、前輪摩擦制動力BPFF及び後輪摩擦制動力BPFRの何れをも増大させても摩擦ブレーキ20でブレーキ鳴きが発生しないと見なす。
【0065】
処理回路51は、停止維持制動力BPSTが判定制動力BPSTth以上である場合(S351:YES)、処理をステップS353に移行する。一方、処理回路51は、停止維持制動力BPSTが判定制動力BPSTth未満である場合(S351:NO)、処理をステップS355に移行する。
【0066】
ステップS353において、処理回路51は、前輪摩擦制動力BPFF及び後輪摩擦制動力BPFRの何れをも増大させる。例えば、処理回路51は、前輪摩擦制動力BPFFの目標である目標前輪摩擦制動力、及び、後輪摩擦制動力BPFRの目標である目標後輪摩擦制動力の何れをも増大させる。この際、処理回路51は、目標前輪摩擦制動力と目標後輪摩擦制動力との和が目標摩擦制動力BPFtrと等しくなるように、目標前輪摩擦制動力及び目標後輪摩擦制動力を増大させる。そして、処理回路51は、前輪ホイール液圧PwcFが目標前輪摩擦制動力に応じた液圧となるように制動装置30を作動させる。処理回路51は、後輪ホイール液圧PwcRが目標後輪摩擦制動力に応じた液圧となるように制動装置30を作動させる。その後、処理回路51は、図5に示した一連の処理を終了する。すなわち、処理回路51は、前輪摩擦制動力及び前記後輪摩擦制動力の和である合計摩擦制動力を停止維持制動力にする一方で、車両10への要求制動に応じて回生制動力BPEを調整できる。
【0067】
ステップS355において、処理回路51は、前輪摩擦制動力BPFF及び後輪摩擦制動力BPFRのうちの何れか一方の摩擦制動力である対象摩擦制動力のみを増大させる。第2実施形態では、後輪摩擦制動力BPFRが対象摩擦制動力に対応する。そのため、処理回路51は、後輪摩擦制動力BPFRを増大させる一方で、前輪摩擦制動力BPFFを保持させる。この場合、処理回路51は、目標前輪摩擦制動力を保持する一方、目標後輪摩擦制動力を増大させる。また、処理回路51は、目標前輪摩擦制動力と目標後輪摩擦制動力との和が目標摩擦制動力BPFtrと等しくなるように目標後輪摩擦制動力を増大させる。そして、処理回路51は、前輪ホイール液圧PwcFを保持させつつ、後輪ホイール液圧PwcRが目標後輪摩擦制動力に応じた液圧となるように制動装置30を作動させる。その後、処理回路51は、図5に示した一連の処理を終了し、処理を図2に示したステップS37に移行する。すなわち、処理回路51は、対象摩擦制動力を停止維持制動力にする一方で、車両10への要求制動に応じて回生制動力BPEを調整できる。
【0068】
<第2実施形態の作用及び効果>
図6を参照し、第2実施形態における車両制動時の作用及び効果のうち、上記第1実施形態と相違する部分を中心に説明する。
【0069】
図6の(A)から(G)に示すように、車両制動中のタイミングt21で、処理回路51は、停車距離DSが第1停車距離判定値DSth1未満であると判定するようになる。図6に示す例では、タイミングt21では、摩擦制動力BPFが停止維持制動力BPST未満である。そのため、処理回路51は、すり替え制御を実行することにより、摩擦制動力BPFを停止維持制動力BPSTまで増大させ、且つ摩擦制動力BPFの増大に連動して回生制動力BPEを減少させる。
【0070】
すなわち、処理回路51は、停止維持制動力BPSTが判定制動力BPSTth以上であるか否かを判定する。図6の(F)及び(G)には、前輪摩擦制動力BPFF及び後輪摩擦制動力BPFRの何れをも増大させる場合の前輪ホイール液圧PwcF及び後輪ホイール液圧PwcRの推移が破線で示されている。
【0071】
図6に示す例では、処理回路51は、停止維持制動力BPSTが判定制動力BPSTth未満であると判定するため、前輪摩擦制動力BPFF及び後輪摩擦制動力BPFRのうち後輪摩擦制動力BPFRのみを増大させる。すなわち、処理回路51は、前輪摩擦制動力BPFF及び後輪摩擦制動力BPFRの双方を増大させると前輪12及び後輪13のうちの少なくとも一方でブレーキ鳴きが発生することを予測できる際には、前輪摩擦制動力BPFF及び後輪摩擦制動力BPFRのうち後輪摩擦制動力BPFRのみを増大させる。その結果、図6の(G)に示すように、後輪ホイール液圧PwcRが、前輪摩擦制動力BPFF及び後輪摩擦制動力BPFRの何れをも増大させる場合よりも高くなる。摩擦ブレーキ20でのブレーキ鳴きは、ホイール液圧が低いほど生じやすい。そのため、制動制御装置50は、すり替え制御の実行によって摩擦制動力BPFを増大させた際に摩擦ブレーキ20でブレーキ鳴きが発生することを抑制できる。
【0072】
すり替え制御の終了後のタイミングt22で、処理回路51は、停車距離DSが第2停車距離判定値DSth2未満であると判定するようになる。そのため、処理回路51は、回生制動減少制御を実行することによって、回生制動力BPEを0(零)まで減少させる。回生制動力BPEが0(零)である状態のタイミングt23で、処理回路51は、車両10が停止したと判定する。すると、処理回路51は、摩擦制動増大制御を実行することによって、摩擦制動力BPFを要求制動力BPRqまで増大させる。この際、処理回路51は、前輪ホイール液圧PwcFと後輪ホイール液圧PwcRとが同圧となるように、前輪摩擦制動力BPFF及び後輪摩擦制動力BPFRの何れをも調整する。
【0073】
(変更例)
上記複数の実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記複数の実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0074】
・車両10の停止間際に回生制動減少制御が実行されると、合計制動力BPAが小さくなる分、車両10の制動距離が長くなる傾向がある。そこで、図7の(A)から(E)に示すように、処理回路51は、すり替え制御の開始タイミングt32よりも以前のタイミングt31で、停車距離DSが第3停車距離判定値未満になったと判定する。第3停車距離判定値として、第1停車距離判定値DSth1よりも長い距離が設定されている。すると、処理回路51は、タイミングt31から、合計制動力BPAを要求制動力BPRqよりも大きくする制動増大制御を実行してもよい。この場合の合計制動力BPAの増大量は、その後に回生制動減少制御を実行しても制動距離が長くならないように設定することが好ましい。
【0075】
図7に示した例では、処理回路51は、制動増大制御を実行することによって、回生制動力BPEを増大させている。これにより、変更例の制動制御装置は、車両10のエネルギー効率を向上させつつ、制動距離が長くなることを抑制できる。
【0076】
・処理回路51は、停車距離DSが第1停車距離判定値DSth1未満であると判定した時点で、回生制動力BPEを大きくすることが可能である場合には以下のような処理を実行してもよい。すなわち、処理回路51は、摩擦制動力BPFが停止維持制動力BPST以上である場合には、すり替え制御とは異なる別のすり替え制御を実行してもよい。処理回路51は、別のすり替え制御において、摩擦制動力BPFを停止維持制動力BPSTに向けて減少させつつ、摩擦制動力BPFの減少に応じて回生制動力BPEを増大させるようにしてもよい。
【0077】
・第2実施形態において、処理回路51は、停車距離DSが第1停車距離判定値DSth1未満であると判定した時点で停止維持制動力BPSTが判定制動力BPSTth以上である場合、前輪摩擦制動力BPFF及び後輪摩擦制動力BPFRのうち前輪摩擦制動力BPFFのみを増大させるようにしてもよい。この場合、前輪摩擦制動力BPFFが対象摩擦制動力に対応する。
【0078】
・第2実施形態において、処理回路51は、停車距離DSが第1停車距離判定値DSth1未満であると判定した時点で停止維持制動力BPSTが判定制動力BPSTth以上であっても、前輪摩擦制動力BPFF及び後輪摩擦制動力BPFRのうちの一方の摩擦制動力のみを増大させるようにしてもよい。
【0079】
・処理回路51は、摩擦制動増大制御において、摩擦制動力BPFを増大させるのであれば、摩擦制動力BPFを要求制動力BPRqと等しくしなくてもよい。すなわち、処理回路51は、要求制動力BPRqとは大きさの異なる規定制動力を設定し、摩擦制動力BPFを当該規定制動力まで増大させるようにしてもよい。
【0080】
・摩擦制動増大制御が実行されなくても、車両10が停止している状態を維持できる。そのため、処理回路51は、車両10が停止したと判定しても摩擦制動増大制御を実行しなくてもよい。
【0081】
・処理回路51は、停車距離DSの代わりに、車両10の車体速度VS0である車速SPを、停車関連値として取得してもよい。すなわち、図8に示すように、制動制御装置50Aでは、処理回路51を車速取得部M21として機能させてもよい。この場合、車速取得部M21が「停車関連値取得部」として機能する。この場合、処理回路51は、車速SPが第1停車車速判定値未満になった場合に、すり替え制御部M15として機能することによって上記すり替え制御を実行する。第1停車車速判定値が「第1停車判定値」に対応する。そして、処理回路51は、車速SPが第2停車車速判定値未満になった場合に、回生制動減少制御部M17として機能することによって回生制動減少制御を実行する。第1停車車速判定値よりも低い車速が第2停車車速判定値として設定される。第2停車車速判定値が「第2停車判定値」に対応する。
【0082】
・処理回路51は、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェアなどの1つ以上の専用のハードウェア回路又はこれらの組み合わせを含む回路として構成し得る。専用のハードウェアとしては、例えば、特定用途向け集積回路であるASICを挙げることができる。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわち記憶媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0083】
<他の技術的思想>
次に、上記複数の実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(付記1)前記停止維持制動力を導出する停止維持制動力導出部を備えることが好ましい。
【0084】
(付記2)前記すり替え制御部は、
前記車両に前記回生制動力が付与されている状態で前記停車関連値が前記第1停車判定値未満になった場合において、前記前輪摩擦制動力と前記後輪摩擦制動力との双方を増大させると前記前輪及び前記後輪のうちの少なくとも一方でブレーキ鳴きが発生することを予測できる際には、前記前輪摩擦制動力及び前記後輪摩擦制動力のうち前記対象摩擦制動力のみを前記停止維持制動力にする一方で、前記車両への制動要求に応じて前記回生制動力を調整することが好ましい。
【0085】
なお、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、所望の選択肢の「1つ以上」を意味する。一例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が2つであれば「1つの選択肢のみ」又は「2つの選択肢の双方」を意味する。他の例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が3つ以上であれば「1つの選択肢のみ」又は「2つ以上の任意の選択肢の組み合わせ」を意味する。
【符号の説明】
【0086】
10…車両
12…前輪
13…後輪
20…摩擦ブレーキ
30…制動装置
50,50A…制動制御装置
51…処理回路
M11…停車距離取得部(停車関連値取得部の一例)
M13…停止維持制動力導出部
M15…すり替え制御部
M17…回生制動減少制御部
M19…摩擦制動増大制御部
M21…車速取得部(停車関連値取得部の一例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8