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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122079
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】高流動低発熱性モルタル
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20240902BHJP
   C04B 14/10 20060101ALI20240902BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20240902BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20240902BHJP
   C04B 20/00 20060101ALI20240902BHJP
   C04B 22/04 20060101ALI20240902BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B14/10 B
C04B18/08 Z
C04B18/14 A
C04B18/14 Z
C04B20/00 B
C04B22/04
C04B22/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029406
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】柴垣 昌範
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MA00
4G112PA02
4G112PA06
4G112PA27
4G112PA28
4G112PA29
4G112PB02
4G112PB03
(57)【要約】
【課題】プレミックスモルタル中のセメント量を少なくしてCO削減効果を向上させ、混練したモルタルが高流動性且つ低発熱性であり、高い強度発現性を示すモルタルを提供する。
【解決手段】セメント及び少なくとも高炉スラグ微粉末を含む2種以上のポゾラン物質からなる結合材と、膨張材と、細骨材と、水とを含み、セメントの単位量が50~245kg/mであり、膨張材の単位量が3~40kg/mであり、且つ水の単位量が150~270kg/mである、高流動低発熱性モルタル。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント及び少なくとも高炉スラグ微粉末を含む2種以上のポゾラン物質からなる結合材と、膨張材と、細骨材と、水とを含み、
前記セメントの単位量が50~245kg/mであり、
前記膨張材の単位量が3~40kg/mであり、且つ
前記水の単位量が150~270kg/mである、高流動低発熱性モルタル。
【請求項2】
JIS A 1108:2018「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準じて、20℃環境下における材齢28日の圧縮強度が50N/mm以上である、請求項1に記載の高流動低発熱性モルタル。
【請求項3】
粒径が3mm超10mm以下であり且つ実積率が50~80%である第二の骨材を更に含む、請求項1又は2に記載の高流動低発熱性モルタル。
【請求項4】
発泡剤を更に含む、請求項1又は2に記載の高流動低発熱性モルタル。
【請求項5】
前記高炉スラグ微粉末の含有量が、前記結合材100質量部に対し、5~65質量部である、請求項1又は2に記載の高流動低発熱性モルタル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高流動低発熱性モルタルに関する。
【背景技術】
【0002】
企業活動における循環型社会の形成において、カーボンニュートラルへの取り組みが世界的にも重要性を増している。また、地球温暖化を全世界的に抑制するため、京都議定書等の国際協定を通じ、多くの国々がCOを含む種々のグリーンハウスガスの放出の削減に誓約している。このような背景の中、プレミックスモルタルに使用されるセメントは、石灰石を主要原料として1400℃の高温で焼成して製造されるため、地球温暖化に起因するとされている二酸化炭素(CO)排出量が多い。
【0003】
セメント系材料であるプレミックスモルタルにおいてCO削減効果を向上させるには、セメント使用量を減らすことが極めて有効である。プレミックスモルタルの単位セメント量は、富配合に設計される高強度タイプのモルタルでは単位セメント量が1000~1400kg/m程度、汎用1:1モルタル(セメント:細骨材=1:1)では単位セメント量が800~1000kg/m程度、低発熱や低収縮、低強度タイプのモルタルでは単位セメント量が500~800kg/m程度であり、コンクリートに比べて単位セメント量が顕著に大きくなることが一般的である。
【0004】
プレミックスモルタルにおいて、セメントと各種ポゾラン物質を併用してセメント量を減らしたものが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6521607号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プレミックスモルタルにおいてセメント量を減らし、ポゾラン物質等で置換した場合、強度発現性が十分に確保できない、硬化時の収縮が増大する等のおそれがある。また、プレミックスモルタルに上記欠点を解消するために粗骨材を配合すると、十分な流動性が得られず、材料分離等も起こしやすくなる。また、無収縮性のモルタルは高い機能性から施工現場では使用されているが、配合上、水和による発熱が大きいという課題がある。
【0007】
したがって、本発明は、プレミックスモルタル中のセメント量を少なくしてCO削減効果を向上させ、混練したモルタルが高流動性且つ低発熱性であり、高い強度発現性を示すモルタルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題について鋭意検討した結果、セメント、膨張材及び水の単位量を調整することで、プレミックスモルタル中のセメント量を少なくしてCO削減効果を向上させ、混練したモルタルが高流動性且つ低発熱性であり、高い強度発現性を示すモルタルが得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]である。
[1]
セメント及び少なくとも高炉スラグ微粉末を含む2種以上のポゾラン物質からなる結合材と、膨張材と、細骨材と、水とを含み、
前記セメントの単位量が50~245kg/mであり、
前記膨張材の単位量が3~40kg/mであり、且つ
前記水の単位量が150~270kg/mである、高流動低発熱性モルタル。
[2]
JIS A 1108:2018「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準じて、20℃環境下における材齢28日の圧縮強度が50N/mm以上である、[1]に記載の高流動低発熱性モルタル。
[3]
粒径が3mm超10mm以下であり且つ実積率が50~80%である第二の骨材を更に含む、[1]又は[2]に記載の高流動低発熱性モルタル。
[4]
発泡剤を更に含む、[1]又は[2]に記載の高流動低発熱性モルタル。
[5]
前記高炉スラグ微粉末の含有量が、前記結合材100質量部に対し、5~65質量部である、[1]又は[2]に記載の高流動低発熱性モルタル。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プレミックスモルタル中のセメント量を少なくしてCO削減効果を向上させ、混練したモルタルが高流動性且つ低発熱性であり、高い強度発現性を示すモルタルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な一実施形態について説明する。
【0012】
本実施形態の高流動低発熱性モルタルは、セメント及び少なくとも高炉スラグ微粉末を含む2種以上のポゾラン物質からなる結合材と、膨張材と、細骨材と、水とを含む。
【0013】
セメントは種々のものを使用することができ、例えば、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、エコセメント、超速硬セメント、フライアッシュセメント等が挙げられる。セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメントが好ましい。セメントは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0014】
セメントの単位量は、50~245kg/mである。セメントの単位量が上記範囲外であると、材料分離抵抗性の低下、ブリーディングの発生、発熱性の増加等が生じる。セメント使用量を更に低減しつつ、材料分離抵抗性及びブリーディング抑制が一層向上するという観点から、セメントの単位量は、70~242kg/mであることが好ましく、80~240kg/mであることがより好ましく、100~235kg/mであることが更に好ましい。
【0015】
本実施形態の高流動低発熱性モルタルは、少なくとも高炉スラグ微粉末を含む2種以上のポゾラン物質を含む。高炉スラグ微粉末以外のポゾラン物質としては、例えば、フライアッシュ、シリカフューム、非晶質アルミノシリケート、火山灰、酸性白土や活性白土が挙げられる。高炉スラグ微粉末以外のポゾラン物質としては、フライアッシュ、シリカフューム、非晶質アルミノシリケートが好ましい。
【0016】
高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積は、2000~8000cm/gであることが好ましく、3000~7000cm/gであることがより好ましく、3500~6000cm/gであることが更に好ましい。高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積が上記範囲内であれば、良好な流動性が得られやすい。
高炉スラグ微粉末の含有量は、結合材100質量部に対し、5~65質量部であることが好ましく、15~60質量部であることがより好ましく、20~58質量部であることが更に好ましく、35~55質量部であることが特に好ましい。高炉スラグ微粉末の含有量が上記範囲内であれば、セメント使用量を十分に減らしつつ、高い強度発現性が得られる傾向にある。
【0017】
ポゾラン物質としてフライアッシュを含む場合、フライアッシュの含有量は、結合材100質量部に対し、1~40質量部であることが好ましく、5~35質量部であることがより好ましく、10~30質量部であることが更に好ましい。フライアッシュの含有量が上記範囲内であれば、良好な流動性が得られやすい。
【0018】
ポゾラン物質としてシリカフュームを含む場合、シリカフュームの含有量は、結合材100質量部に対し、5~40質量部であることが好ましく、7~35質量部であることがより好ましく、10~30質量部であることが更に好ましい。シリカヒュームの含有量が上記範囲内であれば、材料分離抵抗性が更に向上し、且つ良好な流動性が得られやすい。
【0019】
ポゾラン物質として非晶質アルミノシリケートを含む場合、非晶質アルミノシリケートの含有量は、結合材100質量部に対し、0.1~20質量部であることが好ましく、0.5~15質量部であることがより好ましく、1~12質量部であることが更に好ましい。非晶質アルミノシリケートの含有量が上記範囲内であれば、高い強度発現性が得られる傾向にある。
【0020】
ポゾラン物質中の高炉スラグ微粉末の質量割合は、ポゾラン物質の質量に対し、30~85質量%であることが好ましく、40~80質量%であることがより好ましく、50~75質量%であることが更により好ましい。高炉スラグ微粉末の質量割合が上記範囲内であれば、CO削減効果をより一層向上でき、低発熱性で安定した強度発現性が得られやすい。
【0021】
ポゾラン物質の含有量は、結合材100質量部に対し、35~90質量部であることが好ましく、37~85質量部であることがより好ましく、40~80質量部であることが更に好ましい。ポゾラン物質の含有量が上記範囲内であれば、セメント使用量を十分に減らしつつ、高い強度発現性が得られる傾向にある。
【0022】
膨張材は、コンクリート用膨張材として一般に使用されているJIS適合の膨張材(JIS A 6202:2008)であれば、何れの膨張材でもかまわない。膨張材としては、例えば、遊離生石灰を主成分とする膨張材(生石灰系膨張材)、アーウィンを主成分とする膨張材(エトリンガイト系膨張材)、遊離生石灰とエトリンガイト生成物質の複合系膨張材が挙げられる。膨張材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。膨張材はブレーン比表面積が2000~6000cm/gのものを使用することが好ましい。
【0023】
膨張材の単位量は3~40kg/mである。膨張材の単位量が3kg/m未満ではモルタルの乾燥収縮が大きくなり、40kg/m超では強度低下の恐れがある。強度発現性、寸法変化率等がより一層優れたものとなるという観点から、膨張材の単位量は、4~35kg/mであることが好ましく、5~25kg/mであることがより好ましく、7~20kg/mであることが更に好ましい。
【0024】
細骨材としては、例えば、珪砂、砕砂、寒水石、石灰石砂、スラグ骨材等が挙げられる。細骨材は、これらの中から、粗い骨材を含まない粒度に調整した珪砂、石灰石等の骨材を用いることが好ましい。細骨材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。本明細書において、細骨材は、粒径が3mm以下の骨材を指す。また、粒径が3mm以下の骨材とは、骨材をふるい分けした際に3mmふるいを通過するものを指す。
【0025】
細骨材の粒度は特に限定されるものではなく、適宜調整することができる。細骨材は、JIS A 1102:2014「骨材のふるい分け試験方法」により規定される粗粒率からその粒度を考慮することができる。モルタル時において、より良好な流動性が得られやすく、ブリーディングを抑制しやすいという観点から、細骨材の粗粒率は、1~4であることが好ましく、1.5~3.8であることがより好ましく、2~3.5であることが更に好ましい。
【0026】
細骨材の含有量は、結合材100質量部に対し、60~270質量部であることが好ましく、70~260質量部であることがより好ましく、80~250質量部であることが更に好ましい。細骨材の含有量が上記範囲内であれば、モルタル時において、より良好な流動性が得られやすく、材料分離を抑制しやすい。
【0027】
水の単位量は、150~270kg/mである。水の単位量が上記範囲外であると、良好な流動性が得られず、材料分離抵抗性の低下、ブリーディングの発生の恐れもある。より流動性を確保しやすく、材料分離の発生、硬化体の収縮の増加及び初期強度発現性の低下を抑制しやすいという観点から、水の単位量は、160~260kg/mであることが好ましく、170~250kg/mであることがより好ましく、185~240kg/mであることが更に好ましい。
【0028】
本実施形態の高流動低発熱性モルタルは、上記細骨材とは異なる第二の骨材を含んでもよい。第二の骨材は、粒径が3mm超10mm以下であり且つ実積率が50~80%である。第二の骨材としては、モルタル時の良好な流動性を維持しやすく、分離を抑制したまま収縮量や発熱量を更に低減でき、強度発現性も一層向上するという観点から、例えば、川砂、川砂利、豆砂利、玉砂利が好ましい。第二の骨材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
本明細書において、粒径が3mm超10mm以下の骨材とは、骨材をふるい分けした際に10mmふるいを通過し、3mmふるいに残留するものを指す。
【0029】
第二の骨材の粒度は特に限定されるものではなく、適宜調整することができる。第二の骨材は、JIS A 1102:2014「骨材のふるい分け試験方法」により規定される粗粒率からその粒度を考慮することができる。モルタル時において、より良好な流動性及び材料分離抵抗性が得られやすいという観点から、第二の骨材の粗粒率は、3.5~8であることが好ましく、4~6であることがより好ましく、4.5~5.5であることが更に好ましい。
【0030】
第二の骨材の実積率は、50~80%である。第二の骨材の実積率が上記範囲外であると、流動性の低下や材料分離が生じやすくなる。モルタル時において、より良好な流動性及び材料分離抵抗性が得られやすいという観点から、第二の骨材の実積率は、62~75%であることが好ましく、64~70%であることがより好ましい。第二の骨材の実積率は、JIS A 1104:2019「骨材の単位容積質量及び実積率試験方法」により規定される方法から算出することができる。
【0031】
第二の骨材の含有量は、結合材100質量部に対し、15~150質量部であることが好ましく、25~140質量部であることがより好ましく、50~130質量部であることが更に好ましく、70~120質量部であることが特に好ましい。第二の骨材の含有量が上記範囲内であれば、モルタル時において、より良好な流動性及び材料分離抵抗性が得られやすい。
【0032】
細骨材及び第二の骨材の合計質量に対する第二の骨材の質量割合({[第二の骨材の質量]/[(細骨材の質量)+(第二の骨材の質量)]}×100)は、20~60質量%であることが好ましく、30~55質量%であることがより好ましく、35~52質量%であることが更に好ましい。細骨材及び第二の骨材の合計質量に対する第二の骨材の質量割合が上記範囲内であれば、モルタルにおいて、より良好な流動性及び材料分離抵抗性が得られやすい。
【0033】
細骨材及び第二の骨材の合計含有量は、結合材100質量部に対し、100~350質量部であることが好ましく、130~320質量部であることがより好ましく、160~290質量部であることが更に好ましい。細骨材及び第二の骨材の合計含有量が上記範囲内であると、モルタル時の良好な流動性を維持しやすく、分離を抑制したまま収縮量や発熱量を更に低減でき、強度発現性も一層向上する。
【0034】
本実施形態の高流動低発熱性モルタルは、発泡剤を含んでもよい。発泡剤は特に限定されず、例えば水と混練後に気体を発生する物質であればよい。発泡剤としては、アルミニウムや亜鉛等の両性金属の粉末、過酸化物質等が挙げられる。発泡剤としては、効果的に発泡し、膨張作用をより一層安定して発揮することができるという観点から、アルミニウム粉末が好ましい。
【0035】
発泡剤の含有量は、結合材100質量部に対し、0.001~0.1質量部であることが好ましく、0.003~0.07質量部であることがより好ましく、0.006~0.05質量部であることが更に好ましい。発泡剤の含有量が上記範囲内であれば、無収縮性を確保でき、モルタル充填後の沈下減少を防止しやすく、過度な膨張による強度低下を起こしにくい。
【0036】
本実施形態の高流動低発熱性モルタルは、減水剤を含んでもよい。減水剤は、高性能減水剤、高性能AE減水剤、AE減水剤及び流動化剤を含む。このような減水剤としては、JIS A 6204:2011「コンクリート用化学混和剤」に規定される減水剤が挙げられる。減水剤としては、例えば、ポリカルボン酸系減水剤、ナフタレンスルホン酸系減水剤、リグニンスルホン酸系減水剤、メラミン系減水剤が挙げられる。これらの中では、ナフタレンスルホン酸系減水剤が好ましい。減水剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0037】
減水剤の含有量は、結合材100質量部に対し、固形分換算で0.1~5質量部であることが好ましく、0.3~3質量部であることがより好ましく、0.5~1.5質量部であることが最も好ましい。減水剤の含有量が上記範囲内であれば、モルタルとした際により良好な流動性が得られやすく、圧縮強度も向上しやすい。
【0038】
本実施形態の高流動低発熱性モルタルには、本発明の効果が損なわれない範囲で各種混和剤(材)を配合してもよい。混和剤(材)としては、例えば、石膏、消泡剤、防水剤、防錆剤、収縮低減剤、増粘剤、保水剤、顔料、撥水剤、白華防止剤、繊維が挙げられる。
【0039】
本実施形態の高流動低発熱性モルタルは、通常用いられる混練器具により上記した各成分を混合することで調製でき、その器具は特に限定されるものではない。混練器具としては、例えば、モルタルミキサ、ホバートミキサ、ハンドミキサ、傾胴ミキサ、2軸ミキサ等が挙げられる。
【0040】
本明細書において、「高流動」とは、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」12.フロー試験に準じて、20℃環境下で測定したフロー値(0打)が200mm以上のものを指す。本実施形態の高流動低発熱性モルタルのフロー値(0打)は、200~260mmであることが好ましく、205~250mmであることがより好ましく、210~245mmであることが更に好ましい。本実施形態の高流動低発熱性モルタルのフロー値(0打)が上記範囲内であれば、モルタルの施工性が一層優れたものとなる。
【0041】
本明細書において、「低発熱性」とは、モルタル組成物を水で混練したときに下記式で求められる終局温度上昇率が40℃以下であるものを指す。終局温度上昇率は、25℃以下であることが好ましい。
Δt=Tmax-T
式中、Tは、練上り温度であり、Tmaxは、最高温度であり、Δtは、終局温度上昇量である。
及びTmaxは、密封容器に練混ぜ直後のモルタルを充填し、熱電対等により内部モルタルの中央部位の温度履歴を測定し、簡易断熱温度上昇を測定することで測定できる。
【0042】
本実施形態の高流動低発熱性モルタルの硬化体は、JIS A 1108:2018「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準じて、材齢28日における圧縮強度が50N/mm以上であることが好ましく、50~100N/mmであることがより好ましく、60~95N/mmであることが更に好ましく、70~90N/mmであることが特に好ましい。硬化体の圧縮強度が上記範囲内であればより強い耐久性を得ることができる。
【0043】
本実施形態の高流動低発熱性モルタルは、高流動性且つ低発熱性であり、セメント使用量を抑えながら高い強度発現性を示すものである。そのため、このようなモルタルは、環境への負荷も少なく、且つ水和に伴う温度上昇が少なく温度応力を低減できるため、部材厚さが比較的厚い箇所や施工容量が大きな箇所にも使用できる。本実施形態の高流動低発熱性モルタルは、より具体的には、狭小箇所の施工における代替コンクリート打設や比較的大断面となるコンクリート構造物間や鋼製構造物との接合部、隙間への間詰充填等に使用可能である。
【実施例0044】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例は全て20℃環境下にて行った。
【0045】
[使用材料]
高炉スラグ微粉末〔略号P0〕:ブレーン比表面積:4105cm/g、市販品
ポゾラン物質1〔略号Pl〕:シリカフューム、市販品
ポゾラン物質2〔略号P2〕:非晶質アルミノシリケート(メタカオリン)、市販品
ポゾラン物質3〔略号P3〕:フライアッシュ、市販品
早強ポルトランドセメント〔略号HC〕
普通ポルトランドセメント〔略号NC〕
膨張材〔略号EX〕:生石灰系膨張材、ブレーン比表面積:3105cm/g
減水剤〔略号AD〕:ナフタレンスルホン酸系減水剤、市販品
発泡剤〔略号BL〕:アルミニウム粉末、市販品
細骨材〔略号S1〕:石灰石砂及び珪砂の混合砂、粒径3mm以下(粗粒率2.9)
第二の骨材〔略号S2〕:川砂利、粒径4超6mm以下、実積率65%(粗粒率5.3)
水〔略号W〕:上水道
【0046】
[モルタル組成物の製造]
表1及び表2に示す配合割合で使用材料を配合しパドルミキサに投入し、混合してモルタル組成物を製造した。
【0047】
[モルタルの製造]
作製したモルタル組成物6kgと水を、高速ハンドミキサで1分間練り混ぜ、モルタルを作製した。水の割合は表1及び表2に示すとおりである。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
[実験例1]
<モルタルのフレッシュ性状の評価>
作製したモルタル(本発明品1~5、参考品1、3、4)の20℃環境下(試験室温及び材温、水温20℃±1℃)におけるフレッシュ性状(流動性、材料分離抵抗性及びブリーディング率)を測定し評価した。各評価試験方法を以下に示す。
〔流動性〕
JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」のセメントペースト容器(フローコーン)にモルタルを充填し、容器引き上げ後のテーブルフロー値(0打)を測定した。
〔材料分離抵抗性〕
作製したモルタルを10リットル容器に入れ、容器の底部分に細骨材が溜まっているか否かを手触りにより確認することで不分離性を判断した。容器の底部分に細骨材が沈降し溜まっているものを「×:材料分離」、骨材が溜まっていないものを「〇:良好」とした。
〔ブリーディング率〕
JIS A 1123:2022「コンクリートのブリーディング試験方法」に準じて測定した。ブリーディング率の指標は、NEXCO構造物施工管理要領.無収縮モルタルの品質基準である、ブリーディング率2%以下を耐ブリーディング性が「良好」と評価した。
【0051】
表3にフレッシュ性状の評価結果を示す。本発明品は、何れも練混ぜ直後のフロー値が210mm以上であり、容易にポンプ圧送も可能な高流動性が確認された。更に、本発明品は、練り混ぜてから15分経過後のフロー値も200mm以上であり、モルタルのシマリ、骨材分離、ブリーディングの発生も認められなかった。一方、参考品では、流動性が低い、骨材分離やブリーディングが発生する等が生じた。
【0052】
【表3】
【0053】
[実験例2]
<モルタルの硬化性状の評価1>
作製したモルタル(本発明品1~5、参考品1~4)の硬化性状における膨張収縮率及び圧縮強度を測定し評価した。各評価試験方法を以下に示す。
〔膨張収縮率〕
土木学会基準JSCE-F542-2013「充填モルタルのブリーディング率および膨張率試験方法」に準じて、材齢7日の初期膨張率を測定した。無収縮性は、材齢7日の膨張収縮率が0.1~1.0%であることを指標とした。
〔圧縮強度〕
JIS A 1108:2018「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準じて、材齢28日における圧縮強度を測定した。供試体の寸法は、直径50mm、高さ100mmとした。
【0054】
表4に20℃環境下における膨張収縮率及び圧縮強度の評価結果を示す。本発明品は、何れも材齢28日の圧縮強度が50N/mm以上の高強度を示し、また、適度な膨張性があり無収縮性を確認した。一方、参考品では、材齢28日の圧縮強度が低く、硬化体にやや収縮が見られた。
【0055】
【表4】
【0056】
[実験例3]
<モルタルの硬化性状の評価2>
本発明品1及び2、並びに参考品5について、発熱性を測定し評価した。各評価試験方法を以下に示す。
〔発熱性〕
20℃環境下で発泡スチロール製簡易断熱容器(容量3.2L)に練混ぜ直後のモルタルを充填し、蓋をして密封状態とし、熱電対により内部モルタルの中央部位の温度履歴を測定し、簡易断熱温度上昇を測定した。発熱性は、次式より算出した終局温度上昇量で評価した。
Δt=Tmax-T
:練上り温度、Tmax:最高温度、Δt:終局温度上昇量
【0057】
表5に発熱性の評価結果を示す。本発明品1及び2ともに終局温度上昇量が25℃以下の温度上昇量で低発熱性が確認された。一方で、参考品の発熱性は高かった。
【0058】
【表5】