(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122088
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】電気化学デバイス用の触媒層、膜電極接合体及び電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20240902BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20240902BHJP
C25B 1/02 20060101ALI20240902BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240902BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20240902BHJP
C25B 11/054 20210101ALI20240902BHJP
C25B 11/065 20210101ALI20240902BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240902BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/96 B
C25B1/02
C25B9/23
C25B11/032
C25B11/054
C25B11/065
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029423
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【弁理士】
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 功彬
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 拓也
(72)【発明者】
【氏名】古賀 功一
(72)【発明者】
【氏名】引地 巧
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011AA23
4K011AA31
4K011BA07
4K011DA11
4K021AA01
4K021DB18
4K021DB43
4K021DB53
5H018AA06
5H018EE05
5H018HH03
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】電気化学反応の効率を向上させることに適した触媒層を提供する。
【解決手段】本開示の触媒層は、導電性を有するメソポーラス材料12と、メソポーラス材料12の細孔12hの内部に配置された触媒粒子13と、メソポーラス材料12に付着したアイオノマー15と、を備え、メソポーラス材料12が短軸及び長軸を有し、短軸に平行な方向におけるメソポーラス材料12の長さL1が2μm以下であり、長軸に平行な方向におけるメソポーラス材料12の長さL2、及び、短軸と長軸との両方に垂直な方向におけるメソポーラス材料12の長さL3が、それぞれ、短軸に平行な方向におけるメソポーラス材料12の長さL1の2倍以上である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有するメソポーラス材料と、
前記メソポーラス材料の細孔の内部に配置された触媒粒子と、
前記メソポーラス材料に付着したアイオノマーと、
を備え、
前記メソポーラス材料が互いに直交する短軸及び長軸を有し、
前記短軸に平行な方向における前記メソポーラス材料の長さが2μm以下であり、
前記長軸に平行な方向における前記メソポーラス材料の長さ、及び、前記短軸と前記長軸との両方に垂直な方向における前記メソポーラス材料の長さが、それぞれ、前記短軸に平行な方向における前記メソポーラス材料の長さの2倍以上である、
電気化学デバイス用の触媒層。
【請求項2】
前記短軸に平行な方向における前記メソポーラス材料の長さが80nm以上である、
請求項1に記載の電気化学デバイス用の触媒層。
【請求項3】
前記メソポーラス材料がメソポーラスカーボン材料である、
請求項1に記載の電気化学デバイス用の触媒層。
【請求項4】
アノードと、
カソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に配置された電解質膜と、
を備え、
前記カソードが請求項1に記載の触媒層を有する、
膜電極接合体。
【請求項5】
請求項4に記載の膜電極接合体を備えた、
電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気化学デバイス用の触媒層、膜電極接合体及び電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池などの電気化学デバイスには、アノード、電解質膜及びカソードを有する膜電極接合体が用いられる。膜電極接合体のアノード及びカソードは、それぞれ、触媒層を有する。触媒層には、電極触媒として、触媒粒子を担持したカーボン粒子が用いられる。触媒層において、電極触媒は、イオン伝導性を有するアイオノマーで覆われている。
【0003】
触媒粒子は、アイオノマーによって被毒されることがある。触媒粒子が被毒されると触媒粒子の活性が低下し、電気化学反応の効率が低下する。特許文献1に記載されているように、メソポーラスカーボン粒子の細孔の内部に触媒粒子を配置することによって、アイオノマーによる触媒粒子の被毒を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-181838号公報
【特許文献2】Journal of Power Sources 487 (2021) 229414
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術においては、電気化学反応の効率を向上させることに適した触媒層が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
導電性を有するメソポーラス材料と、
前記メソポーラス材料の細孔の内部に配置された触媒粒子と、
前記メソポーラス材料に付着したアイオノマーと、
を備え、
前記メソポーラス材料が互いに直交する短軸及び長軸を有し、
前記短軸に平行な方向における前記メソポーラス材料の長さが2μm以下であり、
前記長軸に平行な方向における前記メソポーラス材料の長さ、及び、前記短軸と前記長軸との両方に垂直な方向における前記メソポーラス材料の長さが、それぞれ、前記短軸に平行な方向における前記メソポーラス材料の長さの2倍以上である、
電気化学デバイス用の触媒層を提供する。
【0007】
別の側面において、本開示は、
アノードと、
カソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に配置された電解質膜と、
を備え、
前記カソードが上記本開示の触媒層を有する、
膜電極接合体を提供する。
【0008】
さらに別の側面において、本開示は、
上記本開示の膜電極接合体を備えた、
電気化学デバイスを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本開示の技術によれば、電気化学反応の効率を向上させることに適した触媒層を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1における固体高分子形燃料電池の概略断面図
【
図4】メソポーラス材料の粒子直径と燃料電池の電圧との関係を示すグラフ
【
図5】メソポーラス材料の粒子のアスペクト比と粒子間の接点の数との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本開示の基礎となった知見)
触媒層における電気化学反応の効率を向上させるためには、触媒層のプロトン伝導性を向上させることが重要である。
【0012】
メソポーラスカーボン粒子のようなメソポーラス材料は、中実のカーボン粒子に比べて大きい寸法を有する傾向にある。メソポーラス材料の粒子直径が大きい場合、粒子間の接点の数が減少することによる触媒層のプロトン伝導性の向上を期待できる。しかし、メソポーラス材料の粒子直径が大きくなるにつれて、細孔(メソ孔)の長さが増加する。細孔の長さが増加すると、細孔の内部に配置された触媒粒子へのプロトンの到達が困難となる。
【0013】
そうした状況下において、本発明者らは、メソポーラス材料の構造の改良によってそのような課題を解決できるのではないかと考え、本開示の技術を想到するに至った。本開示は、電気化学反応の効率を向上させることに適した触媒層を提供する。
【0014】
以下、図面を参照しながら実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、又は、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0015】
添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0016】
(実施の形態1)
以下、
図1から
図5を用いて、実施の形態1を説明する。
【0017】
[1-1.構成]
図1は、実施の形態1における固体高分子形燃料電池101の概略断面図である。固体高分子形燃料電池101は、膜電極接合体113、アノードセパレータ106及びカソードセパレータ111を備えている。アノードセパレータ106とカソードセパレータ111との間に膜電極接合体113が配置されている。
【0018】
膜電極接合体113は、水素の精製を行う水素精製デバイスなどの他の電気化学デバイスにも使用されうる。
【0019】
膜電極接合体113は、アノード103、電解質膜102及びカソード108を有する。電解質膜102の一方の面にアノード103が接合されている。電解質膜102の他方の面にカソード108が接合されている。
【0020】
電解質膜102は、アノード103とカソード108との間に配置されている。電解質膜102は、プロトン伝導性を有する高分子材料で作られている。電解質膜102は、例えば、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボンスルホン酸系の高分子材料、又は、炭化水素系の高分子材料でできた膜である。
【0021】
アノード103は、アノード触媒層104及びアノードガス拡散層105を有する。電解質膜102とアノードガス拡散層105との間にアノード触媒層104が配置されている。カソード108は、カソード触媒層109及びカソードガス拡散層110を有する。電解質膜102とカソードガス拡散層110との間にカソード触媒層109が配置されている。
【0022】
アノード触媒層104は、水素をプロトンに解離する電気化学反応を促進する機能を有する。アノード触媒層104は、電極触媒及びアイオノマーを有する。アノード触媒層104は、触媒粒子を担持したカーボン粒子及びアイオノマーを有していてもよい。
【0023】
アノードガス拡散層105は、アノード触媒層104に水素含有ガスを供給する機能、及び、アノード触媒層104から電子を受け取る機能を有する。アノードガス拡散層105は、ガス透過性及び導電性を有する材料によって構成されている。アノードガス拡散層105は、主たる材料として、例えば、導電性を有する多孔質体を有する。多孔質体としては、カーボンペーパーなどの炭素繊維集合体が挙げられる。
【0024】
カソード触媒層109は、プロトンと酸素とから水を生成する電気化学反応を促進する機能を有する。カソード触媒層109は、電極触媒及びアイオノマーを有する。カソード触媒層109は、触媒粒子を担持したカーボン粒子及びアイオノマーを有していてもよい。
【0025】
カソードガス拡散層110は、カソード触媒層109に酸化剤ガスを供給する機能、及び、カソード触媒層109に電子を受け渡す機能を有する。カソードガス拡散層110は、ガス透過性及び導電性を有する材料によって構成されている。カソードガス拡散層110は、主たる材料として、例えば、導電性を有する多孔質体を有する。多孔質体としては、カーボンペーパーなどの炭素繊維集合体が挙げられる。
【0026】
アノードセパレータ106には、アノードガスの流路であるアノードガス流路107が設けられている。カソードセパレータ111には、カソードガスの流路であるカソードガス流路112が設けられている。アノードセパレータ106及びカソードセパレータ111は、それぞれ、カーボン、金属などの導電性材料で作られている。腐食を防止するために、樹脂、めっきなどの耐食性を有する被膜が設けられていてもよい。
【0027】
図2は、カソード触媒層109の部分拡大断面図である。カソード触媒層109は、電極触媒14及びアイオノマー15を有する。
図3は、電極触媒14の拡大図である。電極触媒14は、メソポーラス材料12及び触媒粒子13を有する。
【0028】
アイオノマー15は、プロトン伝導性を有する電解質であり、電極触媒14を互いにプロトン伝導可能な状態に連結している。アイオノマー15は、メソポーラス材料12に付着している。メソポーラス材料12の表面の一部のみがアイオノマー15によって被覆されていてもよく、メソポーラス材料12の表面の全部がアイオノマー15によって被覆されていてもよい。
【0029】
アイオノマー15としては、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボンスルホン酸系の高分子材料、炭化水素系の高分子材料などが挙げられる。スルホン酸基を有するパーフルオロカーボンスルホン酸系の高分子材料は、優れたプロトン伝導性を有するので、アイオノマー15に適している。
【0030】
触媒粒子13は、白金、白金合金などの貴金属を含む粒子でありうる。白金合金としては、白金と、コバルト、ニッケル、ルテニウム及びパラジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種との合金が挙げられる。触媒粒子13は、ナノ粒子であってもよい。
【0031】
メソポーラス材料12は、触媒粒子13を担持する担体の役割を担う。メソポーラス材料12は、多数の細孔12h(メソ孔)を有する導電性材料である。細孔12hは、独立孔であってもよく、連続孔であってもよい。メソポーラス材料12の細孔12hの内部に触媒粒子13が配置されている。これにより、アイオノマー15と触媒粒子13との直接的な接触が抑制されるので、アイオノマー15による触媒粒子13の被毒が抑制される。メソポーラス材料12の細孔12hの内部は、電気化学反応によって生成した水で満たされる。そのため、触媒粒子13がアイオノマー15に接していなかったとしても、細孔12hの内部に満たされた水を介して触媒粒子13にプロトンがスムーズに到達できる。ただし、細孔12hの外部に配置された触媒粒子13が存在していてもよい。
【0032】
メソポーラス材料12は、典型的には、メソポーラスカーボン粒子である。メソポーラスカーボン粒子は、優れた導電性を有し、かつ、電気化学デバイスの動作環境における安定性に優れている。そのため、メソポーラス材料12としてメソポーラスカーボン粒子を使用すると、カソード触媒層109の耐久性を向上させることができる。
【0033】
図3に示すように、メソポーラス材料12は、非球形の粒子の形状を有する。本実施の形態において、メソポーラス材料12は、互いに直交する短軸及び長軸を有する。メソポーラス材料12の短軸に平行な方向を第1方向D1、メソポーラス材料12の長軸に平行な方向を第2方向D2、短軸と長軸との両方に垂直な方向を第3方向D3と定義する。
【0034】
第1方向D1におけるメソポーラス材料12の長さL1は2μm以下である。このような構成によれば、メソポーラス材料12の外表面から細孔12hの内部に配置された触媒粒子13までの距離は、大部分の触媒粒子13に関して1μm以下に収まる。1μmの長さは、水で満たされた細孔12hの内部をプロトンが効率よく伝導できる長さである。したがって、本実施の形態によれば、メソポーラス材料12の外表面から触媒粒子13へのプロトン伝導性が向上する。
【0035】
図4は、メソポーラス材料の粒子直径と燃料電池の電圧との関係を示すグラフである。
図4に示すように、メソポーラス材料の粒子直径が増加するにつれて、細孔の内部に担持される触媒粒子の数が増えて被毒を抑制する効果が高まる。これにより、電気化学反応の効率が向上して燃料電池の電圧が上がる。一方、メソポーラス材料の粒子直径が特定の粒子直径Dsを超えると、メソポーラス材料における物質の輸送抵抗の増加による電気化学反応の効率の低下が顕在化する。その結果、燃料電池の電圧が低下し始める。特定の粒子直径Dsが約2μmであることが経験的に知られている(特許文献2)。
【0036】
また、第2方向D2におけるメソポーラス材料12の長さL2は、第1方向D1におけるメソポーラス材料12の長さL1の2倍以上である。第3方向D3におけるメソポーラス材料の長さL3は、第1方向D1におけるメソポーラス材料の長さL1の2倍以上である。このような構成によれば、メソポーラス材料12の粒子間の接点の数が減少してアイオノマー15の断絶機会が減少する。これにより、カソード触媒層109のプロトン伝導性が向上する。
【0037】
図5は、メソポーラス材料の粒子のアスペクト比と粒子間の接点の数との関係を示す図である。
図5中の三角印は、粒子間の接点の位置を表す。
図5の右側図及び左側図は、同じ体積を占める粒子群を表す。
図5の左側図に示すように、粒子のアスペクト比が低い場合、粒子間の接点の数が多い。粒子間の接点の数が多い場合、アイオノマーによるプロトンの伝導経路が途切れる確率が上がる。このことは、触媒層のプロトン伝導性の向上にとって不利である。これに対し、
図5の右側図に示すように、粒子のアスペクト比が高い場合、粒子間の接点の数が少ない。粒子間の接点の数が少ない場合、アイオノマーによるプロトンの伝導経路が途切れる確率は下がる。このことは、触媒層のプロトン伝導性の向上にとって有利である。
【0038】
上記の通り、本実施の形態によれば、メソポーラス材料12の外表面から細孔12hの内部に配置された触媒粒子13までの距離が短いことに加え、粒子間の接点の数が少なくアイオノマー15によるプロトンの伝導経路が途切れにくい。これらの有利な構造に基づいて、カソード触媒層109のプロトン伝導性が向上する。
【0039】
本実施の形態のメソポーラス材料12は、球形の材料だけでなく、繊維状の材料に対しても有利である。その理由は、以下の通りである。粒子間の接点の数は、触媒層に含まれる粒子の数と比例関係にある。本実施の形態のメソポーラス材料12は、長軸に平行な第2方向D2だけでなく、長軸及び短軸に垂直な第3方向D3においても十分な長さL3を有する。そのため、メソポーラス材料12の1つの粒子あたりの体積が大きく、メソポーラス材料12の1つの粒子に内包される触媒粒子13の数も多い。つまり、触媒層に含まれる電極触媒14の粒子の数は少ない。粒子の数が減少すると、粒子間の接点の数も減少するので、アイオノマーによるプロトンの伝導経路が途切れる確率も下がる。これにより、触媒層のプロトン伝導性が向上する。
【0040】
第1方向D1におけるメソポーラス材料12の長さL1は、80nm以上であってもよい。この場合、細孔12hの内部に配置された触媒粒子13とメソポーラス材料12の外表面との距離が40nm以上に達する触媒粒子13の割合が増える。このような距離は、触媒粒子13へのアイオノマー15の影響が十分に弱まる距離である(特許文献2)。触媒粒子13とアイオノマー15との間の適切な距離を確保することによって、アイオノマー15と触媒粒子13との接触による触媒粒子13の活性の低下を抑制することができる。長さL1の上限は特に限定されず、例えば、2μmである。
【0041】
第2方向D2におけるメソポーラス材料12の長さL2は、第1方向D1におけるメソポーラス材料12の長さL1の1000倍以下であってもよい。第3方向D3におけるメソポーラス材料12の長さL3は、第1方向D1におけるメソポーラス材料12の長さL1の1000倍以下であってもよい。
【0042】
一例において、第2方向D2におけるメソポーラス材料12の長さL2は、160nm以上2000μm以下であり、300nm以上20μm以下であってもよい。一例において、第3方向D3におけるメソポーラス材料12の長さL3は、160nm以上2000μm以下であり、300nm以上20μm以下であってもよい。
【0043】
メソポーラス材料12は、鱗片状の形状を有していてもよい。この場合、メソポーラス材料12が上記した寸法関係を満たしやすい。
【0044】
メソポーラス材料12の形状及び寸法は、集束イオンビーム(FIB)装置と走査型電子顕微鏡(SEM)とを組み合わせた三次元SEM観察法によって特定可能である。すなわち、FIBによるエッチング加工とSEMによる観察とを細かく繰り返し、取得した像を再構築することによって、メソポーラス材料12の立体的な構造情報が得られる。メソポーラス材料12の立体的な構造情報から、メソポーラス材料12に外接する最小体積の直方体を特定する。直方体の最も短い辺がメソポーラス材料12の短軸に相当する。直方体の最も短い辺の長さは、短軸に平行な第1方向D1におけるメソポーラス材料12の長さL1に相当する。直方体の最も長い辺がメソポーラス材料12の長軸に相当する。直方体の最も長い辺の長さは、長軸に平行な第2方向D2におけるメソポーラス材料12の長さL2に相当する。最も短い辺と最も長い辺とに直交する辺がメソポーラス材料12の第3の軸に相当する。最も短い辺と最も長い辺とに直交する辺の長さは、第3の軸に平行な第3方向D3におけるメソポーラス材料12の長さL3に相当する。
【0045】
メソポーラス材料12の寸法は、任意の数(例えば、20個)の粒子に関する平均値であってもよい。
【0046】
メソポーラス材料12の細孔のモード径は、例えば、1nm以上50nm以下である。アイオノマー15は、カソード触媒層109を形成するための触媒インクにおいて凝集体を形成し、その大きさ(直径)は約100nmである。そのため、細孔のモード径が上記の範囲にある場合、細孔へのアイオノマー15の浸入が妨げられる。その結果、細孔の内部に配置された触媒粒子13とアイオノマー15との接触が抑制され、ひいては、触媒粒子13の活性の低下を抑制することができる。
【0047】
メソポーラス材料12の細孔のモード径は、ガス吸着法によって求めることができる。すなわち、細孔分布測定装置を用いてメソポーラス材料12の吸着等温線のデータを得る。吸着ガス種は窒素ガスである。吸着等温線をBJH(Barrett-Joyner-Halenda)法で解析することによって、細孔分布が得られる。細孔分布は、例えば、細孔の直径DとLog微分細孔体積との関係を示すグラフである。細孔分布から、細孔のモード径、すなわち、細孔分布において分布密度が最大値を示す細孔径を求めることができる。
【0048】
カソード触媒層109は、導電性繊維をさらに含んでいてもよい。導電性繊維は、電極触媒14と電極触媒14との間に空隙を作り、カソード触媒層109におけるガスの拡散性を高める。導電性繊維にアイオノマーが付着している場合、導電性繊維に付着したアイオノマーによってカソード触媒層109におけるプロトン伝導が促進される。導電性繊維11は、例えば、気相成長炭素繊維などのカーボン繊維である。気相成長炭素繊維としては、昭和電工社より入手可能なVGCF(登録商標)などが挙げられる。
【0049】
導電性繊維には触媒粒子13が担持されていないことが望ましい。このような構成によれば、アイオノマーによって触媒粒子13が被毒されることを回避できる。ただし、電極触媒14から脱落した触媒粒子13が導電性繊維に付着していてもよい。つまり、「導電性繊維が触媒粒子13を担持していない」とは、導電性繊維に触媒粒子13を担持させるための処理が行われていないことを意味する。
【0050】
次に、メソポーラス材料12の製造方法について説明する。
【0051】
まず、炭素含有材料、無機鋳型及び溶媒を含む溶液を基板に塗布して塗布膜を形成する。塗布膜の厚さは、得るべきメソポーラス材料12の第1方向D1における長さL1に対応する。基板に溶液を塗布する方法としては、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法などが挙げられる。炭素含有材料は、メソフェーズピッチなどの炭素粒子及び/又はポリアクリロニトリルなどの高分子材料を含む。無機鋳型は、金属酸化物のナノ粒子及び/又はその前駆体を含む。金属酸化物の前駆体は、典型的には、金属アルコキシドである。金属酸化物の金属元素としては、ケイ素、マグネシウム、アルミニウムなどが挙げられる。溶媒は、水などの無機溶媒であってもよく、ジメチルホルムアミドなどの有機溶媒であってもよい。溶液は、F127などの界面活性剤を含んでいてもよい。
【0052】
塗布膜を乾燥させることによって、炭素含有材料及び無機鋳型のナノ複合体を含む薄膜が得られる。ナノ複合体は、任意に、界面活性剤を含む。炭素含有材料が高分子材料を含む場合、高分子材料の分解温度以上の温度で薄膜を加熱することによって、炭素及び無機鋳型のナノ複合体が形成される。さらに、薄膜をフッ化水素などの酸でエッチングすることによって、ナノ複合体からシリカなどの無機鋳型を選択的に除去する。これにより、ナノポーラスカーボン薄膜が得られる。
【0053】
スクレーパーなどの器具を用いてナノポーラスカーボン薄膜を基板から剥がすとともに、薄膜を所望の寸法に細かく粉砕する。これにより、
図2及び
図3を参照して説明したメソポーラス材料12の粉末が得られる。
【0054】
電極触媒14は、メソポーラス材料12に触媒粒子13を担持させることによって得られる。メソポーラス材料12に触媒粒子13を担持させるための方法としては、含浸-還元熱分解法、化学還元法、気相還元法、表面修飾コロイド-還元熱分解法、ナノカプセル法などが挙げられる。
【0055】
電極触媒14、アイオノマー15及び溶媒を含む触媒インクを基材に塗布し、塗布膜を乾燥させることによって、カソード触媒層109が得られる。基材は、典型的には、電解質膜102である。ただし、PETフィルムなどの転写シートの上にカソード触媒層109を形成し、その後、カソード触媒層109を電解質膜102に転写してもよい。
【0056】
[1-2.動作]
以上のように構成された固体高分子形燃料電池101について、
図1を用いて、以下その動作、作用を説明する。
【0057】
アノードガス流路107に水素含有ガスを供給する。カソードガス流路122に酸化剤ガスを供給する。酸化剤ガスは典型的には空気である。アノード103においては下記式(1)で表される電気化学反応にて、水素(H2)がプロトン(H+)と電子(e-)とに分かれる。プロトンは、電解質膜102を伝導してアノード103からカソード108に向かって移動する。電子は、外部回路を通じてアノード103からカソード108に向かって移動する。カソード108においては下記式(2)で表される電気化学反応にて、プロトン、酸素(O2)及び電子による電気化学反応にて水(H2O)が生成する。水は、メソポーラス材料12の細孔12h及びアイオノマー15に染み込み、プロトンの伝導を助ける。
【0058】
H2→2H++2e- (1)
4H++O2+2e-→2H2O(2)
【0059】
[1-3.効果等]
以上のように、本実施の形態において、短軸に平行な方向におけるメソポーラス材料12の長さL1が2μm以下であり、長軸に平行な方向におけるメソポーラス材料12の長さL2、及び、短軸と長軸との両方に垂直な方向におけるメソポーラス材料12の長さL3が、それぞれ、短軸に平行な方向におけるメソポーラス材料12の長さL1の2倍以上である。このような構成によれば、メソポーラス材料12の外表面から細孔12hの内部に配置された触媒粒子13までの距離が短いことに加え、粒子間の接点の数が少なくアイオノマー15によるプロトンの伝導経路が途切れにくい。これらの有利な構造に基づいて、カソード触媒層109のプロトン伝導性が向上する。
【0060】
また、本実施の形態において、短軸に平行な方向におけるメソポーラス材料12の長さL1が80nm以上であってもよい。このような構成によれば、触媒粒子13とアイオノマー15との間の適切な距離を確保できるので、アイオノマー15と触媒粒子13との接触による触媒粒子13の活性の低下を抑制することができる。
【0061】
また、本実施の形態において、メソポーラス材料12がメソポーラスカーボン材料であってもよい。このような構成によれば、触媒層の耐久性を向上させることができる。
【0062】
本実施の形態において、膜電極接合体113は、アノード103と、カソード108と、アノード103とカソード108との間に配置された電解質膜102と、を備え、カソード108が上記した触媒層を有する。このような構成によれば、カソード触媒層109の触媒活性及びプロトン伝導性に優れた高効率な膜電極接合体を提供できる。
【0063】
本実施の形態において、電気化学デバイスは、上記した膜電極接合体を備える。このような構成によれば、電気化学デバイスの効率の向上を期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本開示は、燃料電池、水素精製デバイスなどの電気化学デバイスに有用である。
【符号の説明】
【0065】
12 メソポーラス材料
12h 細孔
13 触媒粒子
14 電極触媒
15 アイオノマー
101 固体高分子形燃料電池
102 電解質膜
103 アノード
104 アノード触媒層
105 アノードガス拡散層
106 アノードセパレータ
107 アノードガス流路
108 カソード
109 カソード触媒層
110 カソードガス拡散層
111 カソードセパレータ
112 カソードガス流路
113 膜電極接合体