(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122101
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】フィルムロール
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240902BHJP
B65H 18/28 20060101ALI20240902BHJP
G02B 5/30 20060101ALN20240902BHJP
【FI】
C08J5/18
B65H18/28
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029450
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】木村 淳一
(72)【発明者】
【氏名】大場 朗生
【テーマコード(参考)】
2H149
3F055
4F071
【Fターム(参考)】
2H149AA13
2H149AB11
2H149BA02
2H149BA12
2H149DA02
2H149DA12
2H149EA02
2H149FA12Z
2H149FB01
2H149FB05
2H149FD32
2H149FD37
2H149FD44
2H149FD47
3F055AA05
3F055FA17
4F071AA46
4F071AA86
4F071AF25Y
4F071AF38Y
4F071AG12
4F071AG28
4F071AH12
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC12
(57)【要約】
【課題】 本発明は、例えば反射防止フィルムや位相差層などを積層するための剥離フィルムなどを製造する際に用いられる、光学機能層の表面外観が悪化し難く、配向層や位相差層の光学ムラが発生し難い、フィルムロールを提供することにある。
【解決手段】 幅方向に連続測定したフィルムロールの硬度の平均Haveが150以上300以下であり、幅方向と平行に100mm間隔で測定した、フィルムロールの各領域における硬度の最大値と最小値をそれぞれHmax、Hminとしたときに、ΔH(Hmax-Hmin)が100以上150以下であり、かつ、硬度がHminである箇所の帯電量の絶対値が0kV以上5kV以下である領域を領域αとしたときに、少なくとも1箇所の前記領域αを有することを特徴とする、フィルムロール。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向に連続測定したフィルムロールの硬度の平均Haveが150以上300以下であり、幅方向と平行に100mm間隔で測定した、フィルムロールの各領域における硬度の最大値と最小値をそれぞれHmax、Hminとしたときに、ΔH(Hmax-Hmin)が100以上150以下であり、かつ、硬度がHminである箇所の帯電量の絶対値が0kV以上5kV以下である領域を領域αとしたときに、少なくとも1箇所の前記領域αを有することを特徴とする、フィルムロール。
【請求項2】
帯電量の絶対値の最大値が0kV以上10kV以下である、請求項1に記載のフィルムロール。
【請求項3】
前記領域αにおけるHminがいずれも30以上150以下である、請求項1または2に記載のフィルムロール。
【請求項4】
前記フィルムロールを構成するフィルムにおいて、両面の表面粗さSRzがいずれも200nm以下である、請求項1または2に記載のフィルムロール。
【請求項5】
前記フィルムロールを構成するフィルムの両側の最表層の組成が異なる、請求項1または2に記載のフィルムロール。
【請求項6】
前記フィルムロールを構成するフィルムの厚みが20μm以上250μm以下である、請求項1または2に記載のフィルムロール。
【請求項7】
請求項1または2に記載のフィルムロールを製造するフィルムロールの製造方法であって、フィルムの厚みが20μm以上250μm以下であるフィルムが巻き取られてなる中間フィルムロールよりフィルムを巻き出して再度フィルムロールを巻き取る巻き取り工程を有し、幅方向と平行に100mm間隔で測定した、前記中間フィルムロールの各領域における硬度の最大値と最小値をそれぞれMHmax、MHminとし、ΔMH(MHmax-MHmin)が100以上150以下となる領域を領域Mαとしたときに、前記中間フィルムロールが少なくとも1箇所の前記領域Mαを有し、前記領域Mα中の、硬度がMHminである領域における帯電量の絶対値が0kV以上6kV以下となるようにフィルムを除電することを特徴とする、フィルムロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、反射防止フィルムや位相差層などを積層するための剥離フィルムなど、主に光学用途のフィルムを製造する際に用いられる、フィルムロールに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、透明性、寸法安定性、機械的特性、耐熱性、及び電気的特性などに優れ、さまざまな分野で使用されている。特に近年では、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ(FPD)に使用される機能フィルム等の光学用フィルムとして使用されている。これらの機能フィルムの具体例としては、例えば、ディスプレイの表面反射や映り込みを抑えるための反射防止フィルム、位相差層などを積層するための剥離フィルム、偏光板の表面を守るための保護フィルム、光源の光を効率的に導光板に入射させるためのバックライト用高反射フィルム、側面から光源を照射させるエッジライトの光を拡散させる拡散フィルム、電磁波防止フィルム、近赤外防止フィルムなどが挙げられる。
【0003】
例えば、反射防止フィルムは、ポリエステルフィルム上に直線偏光板、1/4波長板を積層することで構成され、画像表示パネルのパネル面に向かう外来光を直線偏光板により直線偏光に変換し、続く1/4波長板により円偏光に変換する。ここでこの円偏光による外来光は、画像表示パネルの表面等で反射するものの、この反射の際に偏光面の回転方向が逆転する。その結果、この反射光は到来時とは逆に、1/4波長板により直線偏光板で遮光される方向の直線偏光に変換された後、続く直線偏光板により遮光されて外部への出射が著しく抑制される。
【0004】
この種の反射防止フィルム等の光学フィルムは、いわゆる転写法により作製することで、全体の厚みを薄くすることができる。より具体的には、例えば円偏光板による反射防止フィルムに転写法を適用する場合、支持体基材としてポリエステルフィルムを用いて、支持体基材の上に配向層と位相差層とを順次積層されてなる転写フィルムを用意し、位相差層が直線偏光板側となるようにしてこの転写フィルムを直線偏光板に貼り付けた後、支持体基材を剥離することで支持体基材の厚みを低減して円偏光板による反射防止フィルムを作製することにより、全体の厚みを薄くすることができる(特許文献1~5)。
【0005】
一方、ポリエステルフィルムとしては、その製造安定性やハンドリング性、フィルムロールからの繰り出し時の剥離帯電防止の観点から、ポリエステルフィルム表面に粒子等を配置するなどして表面粗さを制御する方法が知られている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-309290号公報
【特許文献2】特開2006-323349号公報
【特許文献3】特開2005-309290号公報
【特許文献4】特開2006-323349号公報
【特許文献5】特開2016-122158号公報
【特許文献6】特開2016-98291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~5が開示するような、支持体基材としてポリエステルフィルムを用いた転写法による光学フィルムを製造する場合においては、光学フィルムの表面粗さが小さいためフィルムロールにエアーが残留しやすく巻きずれの原因となる。そのため、フィルムロールの硬度を高くすることが巻き姿の安定に必須であるが、硬度を高くするとフィルムロール内のエアーがロール外へ出にくいためエアーが残存しやすい。また、残存エアーは硬度が低い箇所に局在化し、当該箇所においてはフィルムが動きやすくなるため、フィルム同士がこすれることにより局所的な帯電が生じて配向層や位相差層の光学ムラが発生しやすい。このため、従来のフィルムロールは、反射防止フィルム用途や位相差層などを積層するための剥離フィルム用途として用いるには十分に満足のいくものとはいえず、硬度と帯電防止性の両立が求められている。
【0008】
そこで本発明は、上記従来技術の課題に鑑み、例えば反射防止フィルムや位相差層などを積層するための剥離フィルムなどを製造する際に用いられる、光学機能層の表面外観が悪化し難く、配向層や位相差層の光学ムラが発生し難い、フィルムロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の構成を有するフィルムロールによれば、上記課題を容易に解決できることを見い出し、本発明を完成するに至った。上記目的を達成する本発明は以下である。また、本発明のフィルムロールは以下のフィルムロールの製造方法により得ることができる。
(1) 幅方向に連続測定したフィルムロールの硬度の平均Haveが150以上300以下であり、幅方向と平行に100mm間隔で測定した、フィルムロールの各領域における硬度の最大値と最小値をそれぞれHmax、Hminとしたときに、ΔH(Hmax-Hmin)が100以上150以下であり、かつ、硬度がHminである箇所の帯電量の絶対値が0kV以上5kV以下である領域を領域αとしたときに、少なくとも1箇所の前記領域αを有することを特徴とする、フィルムロール。
(2) 帯電量の絶対値の最大値が0kV以上10kV以下である、(1)に記載のフィルムロール。
(3) 前記領域αにおけるHminがいずれも30以上150以下である、(1)または(2)に記載のフィルムロール。
(4) 前記フィルムロールを構成するフィルムにおいて、両面の表面粗さSRzがいずれも200nm以下である、(1)~(3)のいずれかに記載のフィルムロール。
(5) 前記フィルムロールを構成するフィルムの両側の最表層の組成が異なる、(1)~(4)のいずれかに記載のフィルムロール。
(6) 前記フィルムロールを構成するフィルムの厚みが20μm以上250μm以下である、(1)~(5)のいずれかに記載のフィルムロール。
(7) (1)~(6)のいずれかに記載のフィルムロールを製造するフィルムロールの製造方法であって、フィルムの厚みが20μm以上250μm以下であるフィルムが巻き取られてなる中間フィルムロールよりフィルムを巻き出して再度フィルムロールを巻き取る巻き取り工程を有し、幅方向と平行に100mm間隔で測定した、前記中間フィルムロールの各領域における硬度の最大値と最小値をそれぞれMHmax、MHminとし、ΔMH(MHmax-MHmin)が100以上150以下となる領域を領域Mαとしたときに、前記中間フィルムロールが少なくとも1箇所の前記領域Mαを有し、前記領域Mα中の、硬度がMHminである領域における帯電量の絶対値が0kV以上6kV以下となるようにフィルムを除電することを特徴とする、フィルムロールの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、例えば反射防止フィルムや位相差層などを積層するための剥離フィルムなどを製造する際に用いられる、光学機能層の表面外観が悪化し難く、配向層や位相差層の光学ムラが発生し難い、フィルムロールを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のフィルムロールは、幅方向に連続測定したフィルムロールの硬度の平均Haveが150以上300以下であり、幅方向と平行に100mm間隔で測定した、フィルムロールの各領域における硬度の最大値と最小値をそれぞれHmax、Hminとしたときに、ΔH(Hmax-Hmin)が100以上150以下であり、かつ、硬度がHminである箇所の帯電量の絶対値が0kV以上5kV以下である領域を領域αとしたときに、少なくとも1箇所の前記領域αを有することを特徴とする。以下、本発明のフィルムロールについて、詳細に説明する。
【0012】
なお、本発明における「フィルム」とは、熱可塑性樹脂を主成分とする2次元的な構造物、例えば、シート、プレート、及び膜などを含む意味に用いられ、フィルムロールとは、フィルムをロール状に巻き取ったものをいう。なお、主成分とはフィルムを構成する全成分を100質量%としたときに、50質量%より多く100質量%以下含まれる成分をいう。
【0013】
本発明のフィルムロールにおけるフィルムとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4-メチルペンテン-1、ポリブテン-1などのポリオレフィン系樹脂;脂環式構造を有する重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;ポリフェニレンサルファイド系樹脂;ポリエーテルスルホン系樹脂;ポリエチレンサルファイド系樹脂;ポリフェニレンエーテル系樹脂;スチレン系樹脂;アクリル系樹脂;ポリアミド系樹脂;セルロースアセテートなどのセルロース系樹脂;等を主成分とする単層フィルム、又はこれらの各樹脂を主成分とする層を複数有する積層フィルム等が挙げられる。
【0014】
本発明のフィルムロールのフィルムは、ポリエステル樹脂を主成分とするポリエステルフィルムであることが好ましい。ポリエステル樹脂は、透明性、寸法安定性、機械的特性、耐熱性、及び電気的特性などに優れる。そのため、ポリエステルフィルムは、例えば、反射防止フィルムや位相差層などの機能層を積層するための剥離フィルム等として好ましく用いることができる。
【0015】
本発明のフィルムロールは、光学機能層の外観不良の悪化や光学特性のムラを軽減する観点から、幅方向に連続測定したフィルムロールの硬度の平均Haveが150以上300以下であることが重要である。Haveが150未満であると巻きずれなどの外観不良が発生しやすくなる。また、Haveが300より大きいとフィルム剥離時の剥離帯電による配向層や位相差層の光学ムラが発生しやすい。上記観点から、Haveは180以上270以下であることが好ましく、200以上260以下であることがより好ましい。Haveはフィルムロール表層からTAPIO社製RQPにて幅方向と平行に5mm間隔でフィルムロールの各点の表面硬度を測定し、その平均を求めることにより測定することができる(詳細な測定手順は後述する。)。なお、このとき硬度の測定は、フィルムロールの全幅にわたって行うものとする。
【0016】
フィルムロールの硬度の平均Haveを150以上300以下又は上記の好ましい範囲とする方法としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、フィルムロールを巻き取る際に巻取速度やスリット面圧を適切に制御することにより、フィルム層間の随伴エアーを適切に排除しつつ巻き取り、フィルムロールの硬度を好ましい範囲に調整する方法が挙げられる。より具体的には、巻取速度は40m/minを超え500m/min以下が好ましいが、生産性との両立の観点から50m/min以上300m/min以下とすることがより好ましい。また、スリット面圧は、100N/m以上400N/m未満が好ましく、より好ましくは150N/m以上360N/m以下である。さらに、製膜工程において、口金のダイリップの調整ボルト間隔と、幅方向の延伸倍率に応じて、幅方向にオシレーションすることにより、フィルムロールの状態(すなわち、フィルムが積層した状態)での厚みムラを分散させることにより、フィルム層間に局所的なエアー溜まりが起きるのを軽減することによっても、フィルムロールの硬度を好ましい範囲に達成することが容易になる。上記観点から、オシレーション量は後述する除電器の印加電圧にもよるが、80mm以上200mm以下が好ましく、除電器の電圧が8kV以下である場合は90mm以上200mm以下がより好ましい。なお、上記手段はいずれもΔHを好適な範囲にする手段としても効果的である。
【0017】
本発明のフィルムロールは、光学特性のムラを軽減する観点から、幅方向と平行に100mm間隔で測定した、フィルムロールの各領域における硬度の最大値と最小値をそれぞれHmax、Hminとしたときに、ΔH(Hmax-Hmin)が100以上150以下であることが重要である。ΔHが100未満であると幅方向の硬度のムラが小さいため、フィルムロール中でフィルムが動きにくく、局所的な帯電自体が生じにくい。そのため、本発明の課題である光学特性ムラに直結する帯電自体が生じにくい、すなわち本発明が解決する課題そのものが生じにくい。一方、ΔHが150より大きいと硬度が低い箇所のフィルムが伸びる又は縮むことでシワや弛みなどが生じて平面性が悪化し、当該箇所において配向層や位相差層の光学ムラが発生しやすい。Hmax、Hminはフィルムロール表層からTAPIO社製RQPにて幅方向と平行に5mm間隔でフィルムロールの各点の表面硬度を測定し、その最大値と最小値から算出される(詳細な測定方法は後述する。)。上記観点から、フィルムロールのΔHは100以上135以下が好ましい。
【0018】
本発明のフィルムロールは、光学特性のムラを軽減する観点から、硬度がHminである箇所の帯電量の絶対値が0kV以上5kV以下である領域を領域αとしたときに、少なくとも1箇所の前記領域αを有することが重要である。領域αにおいては特に放電が生じやすいため、帯電量の絶対値が5kVを超えるとフィルム剥離時に剥離放電が発生し、配向層や位相差層の光学ムラが発生しやすい。上記観点から硬度がHminである箇所の帯電量の絶対値は、3kV以下であることが好ましく、1kV以下であることが特に好ましい。硬度がHminである箇所の帯電量の絶対値は小さければ小さいほど好ましく、下限は実質0kV(帯電が生じていない状態を意味する。)である。なお、フィルムロールに硬度がHminである箇所が複数存在する場合は、領域αを少なくとも一つ有していればよいが、すべての箇所が領域αであることが好ましい。
【0019】
硬度がHminである箇所の帯電量の絶対値を0kV以上5kV以下にする手段は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、例えばフィルムロール巻き取り時に公知の除電器により除電を行う方法が挙げられる。なお、このとき除電器の電圧(印加電圧)は5kV以上16kV以下が好ましく、後述する帯電量の絶対値の最大値を適切な範囲にコントロールすることも考慮すれば、5kV以上15kV以下がより好ましい。
【0020】
本発明のフィルムロールは、光学特性のムラを軽減する観点から、帯電量の絶対値の最大値が0kV以上10kV以下であることが好ましい。なお、本発明において、フィルムロールの帯電量の絶対値は、フィルムロール表面からフィルムを3周巻き出した後に、電位計(例えば、キーエンス製SK-H050)を用いてフィルムロールの幅方向3点(幅方向の両端部からそれぞれ5cm内側の位置、および幅方向中心の位置)の位置の電位を測定することで得ることができ、詳細な測定方法は後述する。
【0021】
フィルムロールにおいては硬度がHminである箇所(領域α)は他の領域に比べて帯電すると放電が生じやすく、また、厚みムラの影響で配向層や光学位相差層の外観不良や光学ムラになりやすい一方、当該箇所以外の帯電量は許容幅が大きいが、帯電量の絶対値の最大値が過度に大きくなれば配向層や位相差層等の光学ムラが発生する場合がある。ここで帯電量の絶対値の最大値を10kV以下とすることにより、配向層や位相差層等の光学ムラの発生を軽減することができる。一方、帯電量の絶対値の最大値は小さければ小さいほど好ましく、下限は実質0kV(帯電が生じていない状態を意味する。)である。上記観点から、0kV以上5kV以下であることが好ましく、0kV以上3kV以下であることが特に好ましい。
【0022】
フィルムロールの帯電量の絶対値の最大値を0kV以上10kV以下又は上記の好ましい範囲とする方法としては、例えばフィルムロール巻き取り時に公知の除電器により除電を行う方法が挙げられる。具体的には、フィルム搬送工程および巻取工程に除電ブラシや除電器(イオナイザ)等の除電装置を設置し、搬送工程のロールとの摩擦帯電や剥離帯電によって生じるフィルム表面の帯電量を低減することにより、フィルムを巻き取ったフィルムロールの帯電量を好ましい範囲に調整することができる。特に、フィルム搬送工程および巻取工程においては、高電圧印加によるコロナ放電で中和イオンを発生させ除電するバータイプの静電除去装置を用いることができ、この印加電圧を適切に調整することでフィルムロールの帯電量を好ましい範囲にすることができる。
【0023】
本発明のフィルムロールにおいては、領域αにおけるHminがいずれも30以上150以下であることが好ましい。Hminが30以上であることにより、硬度が低い箇所のフィルムが伸びる又は縮むことによるシワやタルミ、弛みの発生が抑えられる。その結果、フィルムロールを構成するフィルムの平面性の悪化は軽減され、それに伴う配向層や位相差層の光学ムラの発生が抑えられる。Hminが150以下であることにより、フィルム剥離時の剥離帯電による配向層や位相差層の光学ムラの発生が軽減される。上記観点から、Hminは50以上150以下であることがより好ましく、85以上150以下であることがさらに好ましい。Hminは、先に記載の方法と同様、フィルムロール表層からTAPIO社製RQPにて幅方向と平行に5mm間隔でフィルムロールの各点の表面硬度を測定し、その最小値から算出される(詳細な測定方法は後述する。)。
【0024】
本発明のフィルムロールを構成するフィルムにおいて、両面の十点平均面粗さSRzがいずれも200nm以下であることが好ましい。SRzが200nm以下であることにより、表面での光散乱に伴う透明性の悪化が軽減され、光学用フィルムロールとしてより好適なものとなる。上記観点からSRzが150nm以下であることがより好ましい。また、上記観点から両面の十点平均面粗さSRzは小さければ小さいほど好ましいが、実現可能性の観点から下限は10nmとなる。
【0025】
十点平均面粗さSRzは公知の3次元表面粗さ計(例えば、小坂研究所製、ET4000AK等)を用い、触針法により測定することができる。当該装置を用いた場合の測定条件等の詳細は後述する。
【0026】
両面の十点平均面粗さSRzをいずれも200nm以下にする手段は本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、例えば、表面を構成する層における粒子の粒子径や含有量を調整する方法を用いることが好ましい。通常、粒子を加えると当該層の表面のSRzを大きくすることができ、その粒子径や添加量を増やすことによってさらにSRzを大きくすることができる。
【0027】
本発明のフィルムロールにおいては、本発明のフィルムロールを構成するフィルムの両側の最表層の組成が異なることが好ましい。最表層の組成が異なる場合、同じ場合に比べて摩擦帯電による帯電が起きやすいため、本発明のフィルムロールとする利点が最大限に発揮される。ここで「組成が異なる」とは各層を構成する成分のうち50質量%以上が互いに異なることを意味する。
【0028】
本発明のフィルムロールにおいては、ハンドリング性と光学用途への適性を両立する観点から、フィルムロールを構成するフィルムの厚みが20μm以上250μm以下であることが好ましい。フィルムロールを構成するフィルムの厚みが250μm以下であることにより、その表面に光学機能層を設ける際の措置、例えば紫外線照射による硬化を十分な水準とすることができる。また、フィルムロールを構成するフィルムの厚みを20μm以上とすることにより、フィルムの取り扱い性およびフィルム加工性を良好とすることができる。本発明のフィルムフィルムロールを構成するフィルムの厚みは、上記観点から、38μm以上200μm以下であることがより好ましく、50μm以上188μm以下であることがさらに好ましく、75μm以上188μm以下であることが特に好ましい。
【0029】
フィルムロールを構成するフィルムの厚みは、公知のダイヤルゲージ(例えば、ミツトヨ社製“No2110S-10”)等により測定することができ、その詳細は後述する。また、フィルムロールを構成するフィルムの厚みは、例えば樹脂組成物の溶融押出の際に吐出量を調整する方法や、溶融シートの冷却固化の際にキャスティングドラムの回転速度を調整する方法、溶融シートを吐出する口金のリップ間隙を調整する方法、長手方向の延伸倍率を調整する方法、幅方向の延伸倍率を調整する方法等を用いることができる。より具体的には、吐出量を下げること、キャスティングドラムの回転速度を上げること、口金のリップ間隙を小さくすること、長手方向や幅方向の延伸倍率を上げることで、厚みを小さくすることができる。
【0030】
本発明のフィルムロールの製造方法は、本発明のフィルムロールを製造するフィルムロールの製造方法であって、フィルムの厚みが20μm以上250μm以下であるフィルムが巻き取られてなる中間フィルムロールよりフィルムを巻き出して再度フィルムロールを巻き取る巻き取り工程を有し、幅方向と平行に100mm間隔で測定した、前記中間フィルムロールの各領域における硬度の最大値と最小値をそれぞれMHmax、MHminとし、ΔMH(MHmax-MHmin)が100以上150以下となる領域を領域Mαとしたときに、前記中間フィルムロールが少なくとも1箇所の前記領域Mαを有し、前記領域Mα中の、硬度がMHminである領域における帯電量の絶対値が0kV以上6kV以下となるようにフィルムを除電することを特徴とする。以下、本発明のフィルムロールの製造方法について説明する。
【0031】
本発明のフィルムロールの製造方法は、フィルムの厚みが20μm以上250μm以下であるフィルムが巻き取られてなる中間フィルムロールよりフィルムを巻き出して再度フィルムロールを巻き取る巻き取り工程を有する。フィルムの厚みを20μm以上250μm以下とすることによる効果、上記範囲にフィルムの厚みを調整する方法は先に記載の通りである。本工程において、中間フィルムロールよりフィルムを巻き出し、幅方向両端部をスリットしながらロール状に巻き取ってフィルムロールを得ることにより、最終製品とならない部分を切断除去することができる。さらに、このとき巻き出したフィルムを必要に応じて所望の幅に裁断してもよい。
【0032】
本発明のフィルムロールの製造方法は、幅方向と平行に100mm間隔で測定した、中間フィルムロールの各領域における硬度の最大値と最小値をそれぞれMHmax、MHminとし、ΔMH(MHmax-MHmin)が100以上150以下となる領域を領域Mαとしたときに、中間フィルムロールが少なくとも1箇所の前記領域Mαを有する。少なくとも一つのMαを有する中間フィルムロールは、残存エアー量が多いことや、フィルム積層厚みにムラがあることがある。そのため、帯電量の絶対値を下げる本発明の利点がより大きくなる。なお、中間フィルムロールの硬度の測定方法も、対象がフィルムロールから中間フィルムロールに変わるだけで、前述の方法と同じ方法を使用することができる。
【0033】
本発明のフィルムロールの製造方法は、領域Mα中の、硬度がMHminである領域における帯電量の絶対値が0kV以上6kV以下、好ましくは0kV以上4kV以下となるようにフィルムを除電する。このような除電を行うことにより、フィルムロールを、領域αを有するものとすることが可能となる。硬度がMHminである領域における帯電量の絶対値を0kV以上6kV以下とする方法としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、例えばフィルムロール巻き取り時に公知の除電器により除電を行う方法が挙げられる。このとき、除電器の印加電圧は4kV以上16kV以下が好ましい。
【0034】
以下、本発明のフィルムロールの製造方法について、溶融製膜による二軸配向ポリエチレンテレフタレート(以下、PETということがある。)フィルムを例に挙げて具体的に説明する。但し、本発明は以下に記載の態様に限定されない。
【0035】
先ず、PETチップを溶融押出機に投入して溶融する。その後、ギヤポンプ等で押出量を均一化して加熱溶融されたPETを押し出し、フィルターで異物やゲル化物を取り除く。このとき、押出機は1台であっても複数台であってもよく、複数台の押出機を用いる場合は、フィルターを通過したPETを積層装置に送り込む。積層装置としては、マルチマニホールドダイやフィードブロックやスタティックミキサー等を用いることができ、これらを任意に組み合わせてもよい。
【0036】
このようにして得られたPETの溶融体を、口金からシート状に押し出し、キャスティングドラム等の冷却体上で冷却固化させて無配向シートを得る。このときの口金は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、連続的に製膜される走行フィルムの厚みのデータからダイリップ温度や間隙の調整ができるものが好ましい。
【0037】
シート状の溶融PETから無配向シートを得る具体的な方法としては、ワイヤー状、テープ状、針状あるいはナイフ状等の電極を用いて、シート状溶融物を静電気力によりキャスティングドラム等の冷却体に密着させ急冷固化させる方法が好ましい。他には、スリット状、スポット状又は面状の装置からエアーを吹き出して、シート状溶融物をキャスティングドラム等の冷却体に密着させて急冷固化させる方法や、ニップロールでシート状溶融物をキャスティングドラム等の冷却体に密着させて急冷固化させる方法も好ましい。
【0038】
次に、このようにして得た無配向シートを、長手方向に延伸(縦延伸)して一軸配向シートを得る。縦延伸は、一本又は周速の等しい複数本の延伸ロールを使用して1段階で行うことも、周速の異なる複数本の延伸ロールを使用して多段階に行うことも可能であり、その温度は65℃~80℃が、最終的な倍率は2.5倍~3.5倍がそれぞれ好ましい。
【0039】
また、縦延伸後、得られた一軸配向シートの両面若しくは片面に、易接着層や易滑性付与等を目的とした機能層を形成させるための塗剤を塗布する工程を設けることも可能である。塗剤を塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、ワイヤーバーコート法、ダイコート法、スプレーコート法などを用いることができる。
【0040】
その後、一軸配向シートの幅方向両端部を複数のクリップで把持してテンター装置に導き、予熱及び塗剤の乾燥を行い、クリップの幅を広げることで幅方向に延伸(横延伸)して二軸配向フィルムを得る。このときの温度は110~140℃が、倍率は3.0~4.5倍がそれぞれ好ましい。また、本発明の効果を損なわない限り、テンター装置内で延伸後の二軸配向フィルムを180~240℃で熱処理や弛緩処理を行い、その後冷却して寸法安定性を付与することもできる。こうして得られた二軸配向フィルムは、その後の搬送工程で冷却されロール状に巻き取られて中間フィルムロールとなる。
【0041】
次いで、中間フィルムロールよりフィルムを巻き出し、スリットしながらロール状に巻き取ってフィルムロールを得る。この工程では、上記の中間フィルムロールよりフィルムを巻き出して、幅方向両端部をスリッターで除去することにより、最終製品とならない部分を切断除去することができる。さらに、このときフィルムを必要に応じて所望の幅に裁断してもよい。こうして不要部分が除去された二軸配向フィルムをコアに巻き取ることで、本発明のフィルムロールを得ることができる。
【0042】
本発明のフィルムロールの製造方法においては、幅方向と平行に100mm間隔で測定した、前記中間フィルムロールの各領域における硬度の最大値と最小値をそれぞれMHmax、MHminとし、ΔMH(MHmax-MHmin)が100以上150以下となる領域を領域Mαとしたときに、前記中間フィルムロールが少なくとも1箇所の前記領域Mαを有する。中間フィルムロールの硬度は、例えば、中間フィルムロール表層からTAPIO社製RQPにて測定することができる。少なくとも一つのMαを有する中間フィルムロールは、残存エアー量が多いことや、フィルム積層厚みにムラがあることがある。そのため、帯電量の絶対値を下げる本発明の利点がより大きくなる。
【0043】
本発明のフィルムロールの製造方法においては、領域Mα中の、硬度がMHminである領域における帯電量の絶対値が0kV以上6kV以下となるようにフィルムを除電してコアに巻き取ることが好ましい。当該領域の帯電量を0kV以上6kV以下とすることで、フィルムロールの巻き取り時の除電条件にもよるが、コアに巻き取った後のフィルムロールが領域αを有することが容易となる。当該帯電量の絶対値を0kV以上6kV以下にする手段は本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、例えばフィルムロール巻き取り時に公知の除電器により除電を行う方法が挙げられる。
【0044】
最後に中間製品ロールより巻き出されたフィルムロールを巻き取って、フィルムロールを得る。このとき、フィルムロールを巻き取る際に巻取速度やスリット面圧を適切に制御することにより、フィルム層間の随伴エアーを適切に排除しつつ巻き取り、フィルムロール硬度を好ましい範囲に調整する方法が挙げられる。より具体的には、巻取速度は40m/minを超え500m/min以下が好ましいが、生産性との両立の観点から50m/min以上300m/min以下とすることがより好ましい。また、スリット面圧は、100N/m以上400N/m未満が好ましく、より好ましくは150N/m以上360N/m以下である。さらに、製膜工程において、口金のダイリップの調整ボルト間隔と、幅方向の延伸倍率に応じて、幅方向にオシレーションすることにより、フィルムロールの状態(すなわち、フィルムが積層した状態)での厚みムラを分散させることにより、フィルム層間に局所的なエアー溜まりが起きるのを軽減することによっても、フィルムロールの硬度を好ましい範囲に達成することが容易になる。上記観点から、オシレーション量は後述する除電器の印加電圧にもよるが、80mm以上200mm以下が好ましく、除電器の電圧が8kV以下である場合は90mm以上200mm以下がより好ましい。なお、上記手段はいずれもΔHを好適な範囲にする手段としても効果的である。
【0045】
また、硬度がHminである箇所の帯電量の絶対値を0kV以上5kV以下にするために、フィルムロール巻き取り時に公知の除電器により除電を行うことが好ましい。なお、このとき除電器の電圧(印加電圧)は5kV以上16kV以下が好ましく、5kV以上15kV以下がより好ましい。
【0046】
こうして得られた本発明のフィルムロールは、反射防止フィルムや位相差層などを積層するための剥離フィルムなどを製造する際に用いると、光学機能層の表面外観が悪化し難く、配向層や位相差層の光学ムラが発生し難いため、これらの用途に好適に使用することができる。
【実施例0047】
以下、実施例により本発明の構成、効果をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。各実施例の記述に先立ち、各種物性等の測定方法や評価方法を記載する。
【0048】
(1)フィルム厚み
ダイヤルゲージ(ミツトヨ社製“No2110S-10”)を用い、フィルムの任意の20点を測定し、平均値をフィルム厚みとした。
【0049】
(2)表面粗さSRz
3次元表面粗さ計(小坂研究所製、ET4000AK)を用い、次の条件で触針法により十点平均面粗さSRz値を測定した。
<測定条件>
針径:2(μmR)
針圧:10(mg)
測定長:500(μm)
縦倍率:20000(倍)
CUT OFF:250(μm)
測定速度:100(μm/s)
測定間隔:5(μm)
記録本数:80本
ヒステリシス幅:±6.25(nm)
基準面積:0.1(mm2)。
【0050】
(3)フィルムロールの硬度
TAPIO社製RQPを用い、幅方向と平行に5mm間隔でフィルムロールの硬度を測定し、それらの値の平均値をHaveとした。また、幅方向と平行に100mm間隔で測定した、フィルムロールの各領域における硬度の最大値と最小値をそれぞれHmax、Hminとし、Hmax-HminをΔHとした。なお、中間フィルムロールの硬度やMHmax、MHmin、ΔMH(MHmax-MHmin)も、測定対象が中間フィルムロールに変わる以外は同様に測定した。
【0051】
(4)フィルムロール帯電量
静電気測定器(キーエンス製SK-H050)を用い、フィルムロールの幅方向3点の位置(幅方向の両端部からそれぞれ5cm内側の位置、および幅方向中心の位置)の電位を測定し、電位の絶対値が最大の値をフィルムロール帯電量とした。また、(3)の方法で測定した硬度がHminである領域(測定点)においても電位を同様に測定した。なお、中間フィルムロールの電位測定も同様に行った。
【0052】
(5)転写層の表面外観
(5-1)光学転写フィルムの作製
フィルムロールからフィルムを巻き出してフィルムを搬送し、コーティングを施していないPETフィルム表面側に配向層を得るための塗工液A(下記参照)を塗工し、乾燥装置により塗工液Aを乾燥させた。その後、塗工液Aの塗工側より直線偏光による紫外線を照射することにより塗工液Aを硬化させて、表面A側に配向層を設けた。続いて、配向層の上に位相差層に係る塗工液B(下記参照)を塗工し、乾燥装置により塗工液Bを乾燥させた。その後、塗工液Bの塗工側と未塗工側の両側より直線偏光による紫外線を照射することにより塗工液Bを硬化させて、配向層の上に位相差層を設け、光学転写フィルムを得た。
【0053】
(塗工液A)
三洋化成工業(株)製の“ファインキュアー”(登録商標)PXV-18を用いて、その組成物中に、フッ素含有界面活性剤(DIC社製メガファックF-554)を0.025質量% の割合で添加したものを用いた。
【0054】
(塗工液B)
メルク(株)製RMM28Bを用いた。
【0055】
(5-2)光学転写フィルムの表面外観と光学特性ムラの評価
前記(5-1)の方法で得た光学転写フィルムを用いて、暗室内において、配向層側より三波長蛍光灯による投光を行い、配向層表面に投影された光源像を目視により観察した。得られた観察結果より、下記の基準にて転写層の表面外観と光学特性ムラの評価を行った。
A:配向層表面に投影された光源像の輪郭が明確であり、ムラがなく、転写層の表面外観が良好であった。
B:配向層表面に投影された光源像の輪郭は不明確であったが、光源像の全体像は十分に認知可能であり、転写層のムラおよび表面外観は十分に実用に耐えるものであった。
C:配向層表面に投影された光源像の輪郭が不明確であったが、Bの水準には満たないものの光源像の全体像は認知可能であり、転写層のムラおよび表面外観は実用上耐えうるものであった
D:Cの水準に満たず、実用上耐えられないものであった。
【0056】
(フィルムの製造に用いた樹脂等)
実施例、比較例で用いた樹脂等の調製法を参考例として以下に示す。
【0057】
[参考例1]ポリエチレンテレフタレート(PET)の調製
酸成分としてテレフタル酸を、グリコール成分としてエチレングリコールを用い、三酸化アンチモン(重合触媒)を、得られるポリエステルペレットに対してアンチモン原子換算で300ppmとなるように添加して重縮合反応を行い、極限粘度0.63dl/g、カルボキシル末端基量40当量/トン、ガラス転移温度(Tg)74℃の、粒子を含有しないPETを得た。
【0058】
[参考例2]アクリル樹脂塗料の調製
窒素ガス雰囲気下、減圧状態で溶媒となる水300質量部中に、乳化剤としてp-ドデシルベンゼンスルホン酸Naを1質量部、モノマーとしてメタクリル酸メチル(MMA)を65質量部、アクリル酸エチル(EMA)を30質量部、N-メチロールアクリルアミド(N-MAM)を3質量部、及びアクリル酸(AA)を2質量部、乳化重合反応器に仕込み、これに過硫酸ナトリウム(開始剤)を全モノマー成分100質量部に対して100質量部添加した。その後、反応器において30℃~80℃で10時間反応を行った後、アンモニア水溶液(アルカリ)でpHを7.0~9.0となるように調整した。その後、70℃の減圧下において未反応モノマーを除去、濃縮し、全成分100質量%中にアクリル樹脂を35質量%含むアクリルエマルション水溶液を得た。アクリルエマルションの平均粒子径は45nm、Tgは55℃であった。さらに、アクリル樹脂100質量部に対して粒径300nmのコロイダルシリカ1質量部を添加した混合水溶液をアクリル樹脂塗料とした。
【0059】
(実施例1)
参考例1のPETチップを、180℃の温度で5時間、3torrの減圧下で乾燥し、溶融押出機に投入して280℃の温度で溶融した後、濾過精度8μmのフィルターで濾過し、T字型口金からシート状に押し出した。その後、押し出されたシート状物を、静電印加キャスト法により表面温度20℃の温度の鏡面キャストドラム上で冷却固化させて無配向シートを得た。この無配向シートを、連続的に配置されたロール群で75℃に予熱した後、95℃のロールで加熱して、さらにラジエーションヒーターでシート面を加熱しつつ、長手方向に3.5倍の延伸を行い、一軸配向シートとした。続いて、得られた一軸配向シートにバーコーターを用いて参考例2のアクリル樹脂塗料を乾燥後の塗布層厚みが100nmとなるように、先の工程でキャストドラム側に位置した面にのみ塗布した。その後、参考例2の塗料を塗布した一軸配向シートをクリップで把持してテンター装置に導き、温度120℃、風速20m/分の熱風にて加熱、乾燥した。引き続き連続的に延伸工程に導き、温度100℃、風速15m/分の熱風にて加熱しながら幅方向に3.7倍延伸した。得られた二軸配向フィルムを引き続き連続的に温度230℃、風速20m/分の熱風にて15秒間熱処理を実施後、230℃から120℃まで冷却しながらフィルム幅方向に5%の弛緩処理を施し、続けて50℃まで冷却した。引き続き、幅方向両端部を除去した後にフィルムを巻き取り、厚み100μmの中間フィルムロールを得た。得られた中間フィルムロールよりフィルムを巻き出して、除電器を電圧7kVにして除電しながら所定の幅にスリットし、スリット面圧:300N/m、巻き取り速度:150m/min、オシレーション幅:100mmにて外径167mmのプラスチックコア(FWPコア、天龍コンポジット株式会社製)に巻き取り、フィルムロールを得た。得られたフィルム及びフィルムロールの評価結果を表1に示す。
【0060】
(実施例2~7、10~12、比較例1、2、3)
フィルムロールの巻き取り条件、フィルム厚みを表1の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法により、フィルムロールを得た。得られたフィルム及びフィルムロールの評価結果を表1に示す。なお、フィルム厚みの調整はT字型口金から吐出するポリマー量の調整により行った。
【0061】
(実施例8)
参考例2のアクリル樹脂塗料中のコロイダルシリカの粒径を140nmにした以外は実施例1と同様の方法により、フィルムロールを得た。得られたフィルム及びフィルムロールの評価結果を表1に示す。
【0062】
(実施例9)
参考例2のアクリル樹脂塗料中のコロイダルシリカの粒径を80nmにし一軸配向シートの先の工程でキャストドラム側と反対に位置した面に、バーコーターを用いて乾燥後の塗布層厚みが100nmとなるようにアクリル樹脂塗料を塗布した以外は実施例1と同様にして、フィルムロールを得た。得られたフィルム及びフィルムロールの評価結果を表1に示す。
【0063】
【0064】
表中、表面Aとは先の製膜工程でのキャストドラム側と反対に位置した面をいい、表面Bとはキャストドラム側に位置した面をいう。
本発明のフィルムロールを構成するフィルムは、その表面に各種光学機能層を積層させたときに、光学機能層の表面外観が悪化し難く、配向層や位相差層の光学ムラが発生し難い。そのため、本発明のフィルムロールは、例えば反射防止フィルムや位相差層などを積層するための剥離フィルムなどを製造する際に好適に用いることができる。